説明

潤滑油供給装置

【課題】回転部材の回転によって鉛直方向上方へ潤滑油を供給する供給能力を向上させることができる潤滑油供給装置を提供すること。
【解決手段】潤滑油を貯留する貯留部と、回転することで貯留部の潤滑油を送り出す回転部材4と、回転部材によって送られる潤滑油を鉛直方向上方へ導くガイド面61を有するガイド部材6と、ガイド面に沿って流下する潤滑油をガイド部材におけるガイド面と反対側に排出する排出路71と、を備える潤滑油供給装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転部材によって鉛直方向上方に潤滑油を供給する技術が提案されている。例えば、特許文献1には、回転部材の回転速度が所定値以下の場合に、回転部材により掻き上げられたオイルをオイル受け部に導く第1のオイル供給路と、回転部材の回転速度が所定値を越える場合に、回転部材の回転により飛ばされたオイルをオイル受け部に導く第2のオイル供給路と、第2のオイル供給路に設けられ、かつ、飛ばされたオイルが第2のオイル供給路を形成する壁面に接触することを抑制するガイド機構とを備えるオイル供給装置の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−336729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
回転部材の回転によって鉛直方向上方に潤滑油を供給する場合の供給能力を向上させることについて、なお改善の余地がある。例えば、オイル受け部等に届かずに流れ落ちる潤滑油が鉛直方向上方への潤滑油の供給の障害となることを抑制できることが望まれている。
【0005】
本発明の目的は、回転部材の回転によって鉛直方向上方へ潤滑油を供給する供給能力を向上させることができる潤滑油供給装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の潤滑油供給装置は、潤滑油を貯留する貯留部と、回転することで前記貯留部の潤滑油を送り出す回転部材と、前記回転部材によって送られる潤滑油を鉛直方向上方へ導くガイド面を有するガイド部材と、前記ガイド面に沿って流下する潤滑油を前記ガイド部材における前記ガイド面と反対側に排出する排出路と、を備えることを特徴とする。
【0007】
上記潤滑油供給装置において、前記排出路は、前記ガイド面によって導かれる潤滑油の流れ方向に沿って延在しており、かつ前記流れ方向の少なくとも一部の区間において前記ガイド部材に対する前記ガイド面側の空間と前記ガイド面と反対側の空間とを連通していることが好ましい。
【0008】
上記潤滑油供給装置において、前記ガイド部材は、更に、前記ガイド面に形成され、かつ前記排出路と交差する方向に延在し、前記ガイド面に沿って流下する潤滑油を前記排出路に導く誘導路を有することが好ましい。
【0009】
上記潤滑油供給装置において、前記誘導路は、前記排出路から前記ガイド面における前記流れ方向と直交する方向の端部まで延在していることが好ましい。
【0010】
上記潤滑油供給装置において、前記ガイド部材は、前記排出路と交差する方向に延在し、かつ前記ガイド面に段差を形成する所定面を有し、前記所定面は、前記ガイド面における前記所定面よりも前記回転部材側と前記所定面よりも前記回転部材と反対側とを接続し、かつ前記所定面よりも前記回転部材と反対側の前記ガイド面に沿って前記回転部材に向けて流れる潤滑油の流れを遮る面であり、前記所定面の端部は、前記排出路に接続されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る潤滑油供給装置は、回転部材によって送られる潤滑油を鉛直方向上方へ導くガイド面を有するガイド部材と、ガイド面に沿って流下する潤滑油をガイド部材におけるガイド面と反対側に排出する排出路と、を備える。よって、本発明に係る潤滑油供給装置によれば、ガイド面において、回転部材によって送られる潤滑油と、流下する潤滑油とが衝突することを抑制し、回転部材の回転によって鉛直方向上方へ潤滑油を供給する供給能力を向上させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、実施形態に係る動力伝達装置を示す正面図である。
【図2】図2は、実施形態に係る潤滑油供給装置の要部を示す斜視図である。
【図3】図3は、実施形態に係る潤滑油供給装置の要部を示す側面図である。
【図4】図4は、排出される潤滑油を示す図である。
【図5】図5は、ガイド部材の拡大図である。
【図6】図6は、従来のガイド面に関する問題の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態に係る潤滑油供給装置につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0014】
[実施形態]
図1から図5を参照して、実施形態について説明する。本実施形態は、潤滑油供給装置に関する。図1は、本発明の実施形態に係る動力伝達装置を示す正面図、図2は、実施形態に係る潤滑油供給装置の要部を示す斜視図、図3は、実施形態に係る潤滑油供給装置の要部を示す側面図である。
【0015】
手動式(M/T)やハイブリッド(H/V)などのトランスミッション(T/M)では、デフリングギアによるオイル掻き揚げにより各部位の潤滑・冷却を行うものがある。デフ掻き揚げの性能を向上させる手法として、潤滑油を上方へ誘導するリブを追加する手法がある。しかしながら、潤滑油誘導用のリブにおいて、上がりきらなかった潤滑油がリブを伝って落下し、掻き上げの邪魔をするという問題があった。
【0016】
本実施形態の潤滑油供給装置1−1のガイド部材(図2の符号6参照)は、デフリングギア(図2の符号4参照)によって送り出される潤滑油を上方へ誘導しつつ、上がりきらなかった潤滑油をガイド面(図2の符号61参照)からガイド部材6の下方に排出することができる。具体的には、ガイド面61に沿って流下する潤滑油をガイド部材6におけるガイド面61と反対側に排出する排出路(図2の符号71参照)が設けられている。これにより、ガイド面61上において、掻き揚げられる潤滑油と流下する潤滑油との衝突が抑制される。よって、本実施形態の潤滑油供給装置1−1によれば、デフリングギア4の回転によって鉛直方向上方へ潤滑油を供給する供給能力を向上させることができる。
【0017】
図1において、符号1は、ハイブリッド車両(図示せず)の動力伝達装置を示す。動力伝達装置1は、ケース2、貯留部3、デフリングギア4、オイル受け部5、ガイド部材6を備える。本実施形態の潤滑油供給装置1−1は、貯留部3、デフリングギア4、オイル受け部5、ガイド部材6および排出路71(図2および図3参照)を備える。
【0018】
動力伝達装置1は、図示しないエンジンの動力をハイブリッド車両の駆動輪に伝達するものである。ケース2内には、デフリングギア4が配置されている。また、ケース2内には、図示しないモータジェネレータが配置されている。デフリングギア4には、エンジンおよびモータジェネレータの動力が入力される。デフリングギア4に入力された動力は、差動機構8を介して左右の駆動輪に伝達される。つまり、デフリングギア4は、駆動輪と接続されており、駆動輪の回転と連動して回転する回転部材である。矢印Y1は、ハイブリッド車両の前進時におけるデフリングギア4の回転方向を示す。
【0019】
貯留部3は、ケース2内における鉛直方向の下部に形成されている。貯留部3は、潤滑油(例えば、ATF)を貯留するものである。デフリングギア4は、ケース2内における下部でかつ車両後側の位置に配置されており、貯留部3に潤滑油が貯留された場合に、その貯留された潤滑油にデフリングギア4の一部が浸かる。
【0020】
オイル受け部5は、ケース2内におけるデフリングギア4よりも鉛直方向上方に配置されている。オイル受け部5は、潤滑油を貯留可能に構成されている。オイル受け部5内に流入した潤滑油は、動力伝達装置1の被潤滑部に供給される。オイル受け部5は、ケース2の内壁面からデフリングギア4の軸方向に突出するリブ9によってケース2内の下方の空間と仕切られている。
【0021】
なお、本明細書では、特に記載のない限り、「軸方向」とはデフリングギア4の軸方向を示し、「径方向」とはデフリングギア4の中心軸線と直交する径方向を示し、「周方向」とはデフリングギア4の周方向を示すものとする。また、鉛直方向とは、ハイブリッド車両が平坦な箇所に停止している状態における鉛直方向を示すものとする。
【0022】
デフリングギア4は、駆動輪の回転と連動して回転することで貯留部3の潤滑油を送り出す。貯留部3の潤滑油は、デフリングギア4によって鉛直方向の上方に向けて送り出される。ハイブリッド車両の前進時におけるデフリングギア4の回転方向(Y1)は、デフリングギア4における車両後方側の領域が鉛直方向上方に向けて移動する回転方向である。従って、ハイブリッド車両の前進時には、貯留部3の潤滑油は、ケース2における車両後側の内壁面2aとデフリングギア4との隙間を通り、例えば矢印Y2で示すように鉛直方向上方かつ車両前側に向けて送り出される。
【0023】
ここで、デフリングギア4によって送り出される潤滑油の向きや流速は、ハイブリッド車両の走行状態等に応じて変化する。例えば、デフリングギア4の回転速度や貯留部3に貯留された潤滑油の油量によって、送り出される潤滑油の向きや流速が変化する。このため、走行状態によっては、デフリングギア4によって送られる潤滑油の向きや流速が、オイル受け部5に潤滑油を到達させるために適切なものとならず、デフリングギア4による潤滑油の供給能力が低下する虞がある。
【0024】
本実施形態の潤滑油供給装置1−1は、デフリングギア4によって送られる潤滑油をオイル受け部5に導くガイド面61を有するガイド部材6を備える。ガイド部材6は、板状の部材であり、デフリングギア4の外周の近傍からオイル受け部5の流入口51まで直線状に延在している。ガイド部材6の下端63の位置は、デフリングギア4上部の外周面4aの近傍であって、かつデフリングギア4の中心軸線よりも車両後側の位置である。つまり、ガイド部材6は、ハイブリッド車両の前進時にデフリングギア4によって送り出される潤滑油がデフリングギア4から離れて飛び出す方向に沿って延在している。また、ガイド部材6の上端は、オイル受け部5を形成するリブ9の車両後側の端部と接続されている。ガイド部材6のガイド面61は、車両後側の内壁面2aと車両前後方向において対向しており、当該内壁面2aとの間に貯留部3とオイル受け部5とを連通する潤滑油の油路を形成している。
【0025】
ガイド部材6は、ガイド面61が鉛直方向上側を向くように、鉛直方向に対してわずかに傾斜している。すなわち、ガイド部材6は、鉛直方向の上側に向かうに従って車両前側に向かうように傾斜している。ガイド面61は、デフリングギア4によって送られる潤滑油の油路の底面として機能し、潤滑油をオイル受け部5に導くことができる。デフリングギア4によって送り出され、ガイド面61に到達した潤滑油は、送り出された勢いにより、また下方から送られてくる潤滑油に押されてガイド面61に沿って鉛直方向上方に進み、流入口51を介してオイル受け部5に流入する。
【0026】
ここで、図6を参照して説明するように、ガイド面によって潤滑油をオイル受け部5にガイドする場合、オイル受け部5まで上がりきらなかった潤滑油が邪魔をして潤滑油供給の能力が低下することがあった。図6は、従来のガイド面に関する問題の説明図である。図6に示すように、ガイド部材106のガイド面161に沿って潤滑油を上方に導く場合、オイル受け部5まで上がりきらない潤滑油がガイド面161を伝って落下する。ガイド面161に沿って流れ落ちる潤滑油Y3が、ガイド面161に沿って上昇する潤滑油と衝突すると、潤滑油の上昇を邪魔し、デフリングギア4によるオイル受け部5に対する潤滑油の供給能力を低下させてしまう。デフリングギア4による鉛直方向上方への潤滑油の供給能力を向上できることが望まれている。
【0027】
本実施形態の潤滑油供給装置1−1は、図2および図3に示すように、ガイド面61に沿って流下する潤滑油をガイド部材6におけるガイド面61と反対側に排出する排出路71を備える。これにより、ガイド面61に沿って上昇する潤滑油が、オイル受け部5に上がりきらずに流下する潤滑油によって邪魔されることを抑制することができる。図2および図3に示すように、ガイド部材6は、第一ガイド部材6Aおよび第二ガイド部材6Bを有する。第一ガイド部材6Aおよび第二ガイド部材6Bは、それぞれ板状の部材であり、軸方向において所定の間隔を空けて隣接して配置されている。図3に示すように、第一ガイド部材6Aは、ケース2における車両左側の内壁面2Lに設けられ、車両左側の内壁面2Lから軸方向に突出しているリブである。第二ガイド部材6Bは、ケース2における車両右側の内壁面2Rに設けられ、車両右側の内壁面2Rから軸方向に突出しているリブである。
【0028】
第一ガイド部材6Aの先端面62Aと、第二ガイド部材6Bの先端面62Bとは、軸方向において互いに対向している。第一ガイド部材6Aと第二ガイド部材6Bとの軸方向の隙間は、ガイド部材6のガイド面61側(車両後側)の空間部とガイド面61と反対側(車両前側)の空間部とを連通している。なお、以下の説明において、ガイド部材6におけるガイド面61と反対側の面を「裏面」と記載する。また、ガイド部材6に関してガイド面61側を「表側」、ガイド面61と反対側を「裏側」とも記載する。
【0029】
潤滑油供給装置1−1は、排出路71および誘導路72を有する。排出路71は、第一ガイド部材6Aと第二ガイド部材6Bとの軸方向の隙間である。排出路71は、ガイド面61によって導かれる潤滑油の流れ方向に沿って延在する排出路である。ここで、ガイド面61によって導かれる潤滑油の流れ方向(以下、「第一流れ方向」とも記載する。)とは、ガイド面61に沿ってデフリングギア4とオイル受け部5とを結ぶ方向であり、例えば、ガイド面61と平行でかつデフリングギア4の中心軸線と直交する方向である。なお、第一流れ方向は、デフリングギア4の歯スジの向きによって異なる場合もある。
【0030】
排出路71は、ガイド部材6に対するガイド面61側の空間とガイド面61と反対側の空間とを連通しており、ガイド面61に沿って流下する潤滑油をガイド部材6の裏側に排出することができる。
【0031】
デフリングギア4によって送られてガイド面61に沿って上昇する潤滑油がオイル受け部5に上がりきらなかった場合、その潤滑油は、ガイド面61に沿って流下する途中に排出路71を介してガイド部材6の裏側に排出される。これにより、ガイド面61に沿って上昇する潤滑油に対して、流下する潤滑油が邪魔となることを抑制し、デフリングギア4によって鉛直方向上方へ潤滑油を供給する能力、例えばオイル受け部5に潤滑油を送る供給能力を向上させることができる。
【0032】
また、本実施形態のガイド部材6は、ガイド面61に沿って流下する潤滑油を排出路71に導く誘導路72を有する。この誘導路72は、第一ガイド部材6Aおよび第二ガイド部材6Bのそれぞれのガイド面61A,61Bに形成された溝部である。誘導路72は、直線状であり、排出路71に対して交差する方向に延在している。誘導路72の延在する方向は、水平面に対して傾斜しており、誘導路72の両端部のうち排出路71に接続される端部が相対的に鉛直方向の下側に位置している。言い換えると、誘導路72は、排出路71側へ向かうに従いガイド面61の下端63(63A,63B)へ向かうように傾斜している。
【0033】
誘導路72は、排出路71からケース2の内壁面まで延在している。言い換えると、誘導路72は、排出路71からガイド面61における第一流れ方向と直交する方向の端部まで延在している。例えば、第一ガイド部材6Aに形成された誘導路72は、排出路71から車両左側の内壁面2Lまで延在している。言い換えると、誘導路72は、各ガイド部材6A,6Bに対して軸方向の一端から他端まで形成されている。
【0034】
ガイド部材6A,6Bが誘導路72を有することで、ガイド面61に沿って流下する潤滑油は、誘導路72に流入して排出路71に導かれる。これにより、ガイド面61に沿って流下する潤滑油は、排出路71を介してガイド部材6の裏側に排出される。また、誘導路72は、ガイド部材6A,6Bのそれぞれに対して、複数配置されている。各誘導路72は、第一流れ方向におけるデフリングギア4からオイル受け部5の間の互いに異なる位置に配置されている。つまり、誘導路72は、オイル受け部5からデフリングギア4に向かう方向においてガイド面61を複数の領域に区切っている。各誘導路72は、当該誘導路72よりもオイル受け部5側から流れ落ちてくる潤滑油を集め、潤滑油が当該誘導路72よりもデフリングギア4側に流れることを抑制する。従って、ガイド部材6は、オイル受け部5に向けて上昇する潤滑油がどの領域で上昇の勢いを失ったとしても、その領域に対応する誘導路72によって流下する潤滑油をキャッチして排出路71に導くことができる。
【0035】
図4は、排出される潤滑油を示す図である。オイル受け部5に上がりきらなかった潤滑油は、各誘導路72によって排出路71に導かれ、図4に矢印Y4で示すようにガイド部材6の裏側に排出される。このように、各誘導路72および排出路71によって、鉛直方向上側から流下してくる潤滑油がガイド部材6の裏側に排出されることで、ガイド面61における鉛直方向下向きの潤滑油の流れを低減させることができる。よって、デフリングギア4の回転によるオイル受け部5に対する潤滑油の供給能力を向上させることができる。
【0036】
また、各誘導路72はガイド面61を軸方向の一端から他端まで横断している。よって、誘導路72よりもデフリングギア4側に潤滑油が流下することを効果的に抑制することができる。
【0037】
また、図5を参照して説明するように、本実施形態のガイド部材6は、段差部64を有する。ガイド部材6は、ガイド面61に段差を形成する所定面65を有し、この所定面65が誘導路72として機能する。図5は、ガイド部材6の拡大図である。ガイド部材6は、段差部64を備え、段差部64では、ガイド面61におけるデフリングギア側66とオイル受け部側67とが所定面65によって接続されている。所定面65は、排出路71と交差する方向に延在している。
【0038】
所定面65は、第一流れ方向において、所定面65よりもオイル受け部5側(デフリングギア4と反対側)のガイド面67に沿って流下する潤滑油の流れY6と対向する面である。つまり、所定面65は、オイル受け部5側のガイド面67に沿ってデフリングギア4に向けて流れる潤滑油の流れY6を遮る面である。なお、ガイド面61に沿って流下する潤滑油の流れ方向は、重力に従う方向、すなわちオイル受け部5からデフリングギア4に向かう方向であるが、ハイブリッド車両の走行状態等によっては流下する潤滑油の流れ方向が変化する可能性もある。所定面65は、少なくとも停車時や定常走行時においてガイド面61に沿って流下する潤滑油の流れを遮ることができる面である。
【0039】
所定面65は、鉛直方向上側、言い換えると第一流れ方向のオイル受け部5側を向いており、ガイド面61に沿って流れ落ちる潤滑油を受け止めることができる。所定面65の延在方向の両端部のうち相対的に鉛直方向下側に位置する端部は、排出路71に接続されている。つまり、所定面65は、ガイド面61に沿って流下する潤滑油を排出路71に導く誘導路72として機能する。
【0040】
このように、第一流れ方向において誘導路72を挟んで段差が形成されていることで、ガイド面61によってオイル受け部5に向けて誘導される潤滑油は、矢印Y5に示すように、誘導路72を飛び越して進むことができる。つまり、本実施形態のガイド部材6によれば、誘導路72によって導かれる潤滑油の流れと、ガイド面61によってオイル受け部5に向けて誘導される潤滑油の流れとが立体的に交差することで、二つの流れが干渉することが抑制される。
【0041】
なお、本実施形態では、排出路71がその全区間においてガイド部材6のガイド面61側の空間と裏側の空間とを連通しているが、排出路71の形状はこれに限定されるものではない。排出路71は、その延在する方向における少なくとも一部の区間においてガイド部材6に対するガイド面61側の空間とガイド面61と反対側の空間とを連通していればよい。
【0042】
例えば、本実施形態の排出路71は、第一ガイド部材6Aと第二ガイド部材6Bとの隙間であったが、これに代えて、ガイド部材6のガイド面61に形成され、第一流れ方向に延在する溝部とすることができる。この溝部の延在方向の少なくとも一部の区間において、溝部の底面をガイド部材6の裏側まで抜いて連通孔とし、連通孔を介して溝部の潤滑油をガイド部材6の裏側に排出するようにすることもできる。本実施形態ではガイド部材6の第一ガイド部材6Aと第二ガイド部材6Bとは独立していたが、上記のように排出路71を溝部とする場合など、ガイド部材6を分離せずに一体のものとしてもよい。
【0043】
本実施形態では、ガイド面61に沿って流下する潤滑油をガイド部材6におけるガイド面61と反対側に排出する流路のうち、第一流れ方向に延在する潤滑油の流路を「排出路71」と記載し、排出路71と交差する方向に延在する流路を「誘導路72」と記載して両者を区別したが、これらは区別しなくてもよい。これらの流路は、いずれもガイド面61に沿って流下する潤滑油をガイド部材6におけるガイド面61と反対側に排出する排出路の一部であり、その延在する方向や分岐の態様は適宜定めるようにすればよい。
【0044】
本実施形態では、潤滑油供給装置1−1が、ハイブリッド車両の動力伝達装置に設けられる場合を例に説明したが、これには限定されない。潤滑油供給装置1−1は、他の種類、例えばMT(手動変速機)の動力伝達装置に適用されてもよい。
【0045】
本実施形態では、ガイド部材6はオイル受け部5に潤滑油を導くものであったが、これに限定されるものではない。ガイド部材6は、動力伝達装置1内における鉛直方向上方に潤滑油を導くものであればよい。例えば、ガイド部材6によって鉛直方向上方に導かれた潤滑油がオイル受け部5を介さずに直接被潤滑部に供給されるようにしてもよい。
【0046】
[実施形態の変形例]
上記実施形態では、ガイド面61に沿って流下する潤滑油が誘導路72によって排出路71に導かれたが、流下する潤滑油を排出路71に導く手段はこれに限定されるものではない。例えば、ガイド面61を軸方向の一方側に向けて傾斜させることによって、流下する潤滑油を排出路71に導くようにしてもよい。図3を参照して説明すると、ガイド面61Aは、軸方向の車両右側を向くように傾斜させれば、ガイド面61Aに沿って流下する潤滑油を排出路71に導くことができる。一方、ガイド面61Bは、軸方向の車両左側を向くように傾斜させれば、ガイド面61Bに沿って流下する潤滑油を排出路71に導くことができる。
【0047】
上記実施形態では、軸方向における排出路71の配置は、ガイド部材6における軸方向の中央であったが、これに限定されるものではない。排出路71は、例えば、デフリングギア4の歯スジの向きに応じて定められてもよい。一例として、ハイブリッド車両の前進時にデフリングギア4の回転によって潤滑油が車両右側に向けて押し出される場合に、排出路71をこれと反対の車両左側に寄せて配置するようにしてもよい。このようにすれば、デフリングギア4によって押し出される潤滑油はガイド面61における車両右側に寄せられ、ガイド面61に沿って流下する潤滑油は誘導路72によって車両左側に導かれる。つまり、誘導路72によって排出路71に導かれる潤滑油の流れと、デフリングギア4によって送り出され、ガイド面61によってオイル受け部5に導かれる潤滑油の流れとを軸方向において異なる領域に導くことができる。
【0048】
また、ガイド部材6を車両左側の内壁面2Lあるいは車両右側の内壁面2Rのいずれか一方のみに配置するようにして、ガイド部材6の先端部に排出路71を設けるようにしてもよい。例えば、ガイド部材6を車両右側の内壁面2Rのみに配置するようにして、ガイド部材6の先端と車両左側の内壁面2Lとに軸方向の隙間を設け、この隙間を排出路71とするようにしてもよい。
【0049】
上記の実施形態および変形例に開示された内容は、適宜組み合わせて実行することができる。
【符号の説明】
【0050】
1−1 潤滑油供給装置
3 貯留部
4 デフリングギア(回転部材)
5 オイル受け部
6 ガイド部材
61 ガイド面
65 所定面
71 排出路
72 誘導路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油を貯留する貯留部と、
回転することで前記貯留部の潤滑油を送り出す回転部材と、
前記回転部材によって送られる潤滑油を鉛直方向上方へ導くガイド面を有するガイド部材と、
前記ガイド面に沿って流下する潤滑油を前記ガイド部材における前記ガイド面と反対側に排出する排出路と、
を備えることを特徴とする潤滑油供給装置。
【請求項2】
前記排出路は、前記ガイド面によって導かれる潤滑油の流れ方向に沿って延在しており、かつ前記流れ方向の少なくとも一部の区間において前記ガイド部材に対する前記ガイド面側の空間と前記ガイド面と反対側の空間とを連通している
請求項1に記載の潤滑油供給装置。
【請求項3】
前記ガイド部材は、更に、前記ガイド面に形成され、かつ前記排出路と交差する方向に延在し、前記ガイド面に沿って流下する潤滑油を前記排出路に導く誘導路を有する
請求項2に記載の潤滑油供給装置。
【請求項4】
前記誘導路は、前記排出路から前記ガイド面における前記流れ方向と直交する方向の端部まで延在している
請求項3に記載の潤滑油供給装置。
【請求項5】
前記ガイド部材は、前記排出路と交差する方向に延在し、かつ前記ガイド面に段差を形成する所定面を有し、
前記所定面は、前記ガイド面における前記所定面よりも前記回転部材側と前記所定面よりも前記回転部材と反対側とを接続し、かつ前記所定面よりも前記回転部材と反対側の前記ガイド面に沿って前記回転部材に向けて流れる潤滑油の流れを遮る面であり、
前記所定面の端部は、前記排出路に接続されている
請求項2から4のいずれか1項に記載の潤滑油供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−167791(P2012−167791A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31267(P2011−31267)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】