説明

潤滑油分配のための手段を有するシリンダ

【課題】摺動面として使用されるシリンダの全長一面での潤滑油の均一な分配を達成し、さらに、潤滑油消費量を低下させること。
【解決手段】往復ピストン・エンジン用シリンダ1は、潤滑油を受容し分配するスリット状切抜き穴5を含む。スリット状切抜き穴5はシリンダの摺動面7に配置されており、第1の部分18と第2の部分19とを含み、第1の部分18は第1の端部20と第2の端部21とを含み、第1の端部20は第1の開口部30を有し、第2の端部21は第2の開口部31を有する。第2の部分19は第2の端部21と第3の端部22とを含み、第3の端部22は第3の開口部32を有し、ピストン・リングが第1の開口部30又は第3の開口部32の1つと第2の開口部31との間の位置にある場合、第1の開口部30と第3の開口部32とがピストン・リングの下方に配置され、第2の開口部31がピストン・リングの上方に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油分配のための手段を含む、往復ピストン・エンジン用シリンダに関する。
【背景技術】
【0002】
大型の2サイクル・エンジン、又は同じく大型の4サイクル・エンジンでは、潤滑油の分配は、濡れるべき面が広いことにより重要であることが分かる。潤滑油は、シリンダ内部空間内への、シリンダの表面に配置されている限られた数の供給開口部を通って移動する。液体潤滑油がシリンダの内壁一面に均一に分配されるように、FR1174532に示されているような表面溝が設けられている。しかし、エンジンの長時間の作動の間に、この溝は、とりわけシリンダの非常に高荷重な部分において激しい材料損失に曝されることが分かっている。非常に高荷重な部分は、最上部ピストン・リングの上死点から始まり、ピストンの下死点の方向に最大約15%まで延在している。200バールに達し得るこの領域に広がる高圧による熱膨張により、且つ300℃超に達し得る高温により、ピストン横断面及びピストン・リングの横断面の拡大が起こる。緩く取り付けられたピストン・リングは、圧力によりシリンダ内壁の方向に押圧される。これは、燃焼空間内での圧力の発達のために所望されることであるが、シリンダ内壁におけるせん断力による高荷重が付随する。表面溝により形成されている部分は、長期作動中にこれらのせん断力により除去されるか又は削られる。このことの必然的既決は、潤滑油の均一な分配が、長期作動の間にもはや確保されなくなるということである。潤滑油の均一な分配が欠落している場合、ピストン・リング外面とシリンダ内壁との間の直接接触である固体摩擦が少なくとも局所的に発生し、それにより、摺動特性が損なわれるばかりでなく、前述の材料損失、及びさらにはシリンダ内壁への損傷も起こり得る。この問題を解決するために、WO98/53192又はEP0299174A1において、シリンダの非常に高荷重な部分に凹部を設けることが提案された。該凹部は、シリンダ表面に環形状に配列された溝又は溝部分のいずれかとして設計されている。シリンダ内壁の非常に高荷重な領域における潤滑油のより均一な分配を、これにより確かに達成することができる。しかし、この改善は、最上部ピストン・リングの上死点から始まり、最大20%の指定された縦方向領域に限定される。環状溝はさらに別の欠点を有する。ピストン・リングの縁部に溝の縁部が接触するので、これらの縁部には激しい材料損失があり、該材料損失はあまりに激しく、結果的に縁部に損傷をきたす可能性がある。
【0003】
代替案として、溝を先見し、それによりこれらの溝が凹部でもあることが、EP0943794において提案されている。潤滑油は、これらの溝内に溜まることができる。溝はピストン・リングに対して傾斜しているので、溝の部分が、作動中にピストン・リングの上方に位置しており、溝の別の部分が、ピストン・リングの下方に位置している。ピストン・リングの上方の空間とピストン・リングの下方の空間との間で均圧化が起こり得る。溝は、互いの上方に互いに平行に配置することができるか、又は互いに交差することができる。溝はまた、潤滑油の一時的局所的に最適ではない供給、要するに不十分な潤滑を平均するために、潤滑油の貯蔵所として使用される。したがって、溝は局所的な潤滑油貯蔵所を形成して、潤滑油供給の局所変化を平均することになる。しかし、溝は、第1に均圧化に役立ち、気体通過のためのものである。また、この均圧化は、WO97/42406に開示されている凹部により得られる。したがって、潤滑油分配の改善は、凹部の最も近傍で局所的に得られるだけである。
【0004】
これらすべての理由により、実際の潤滑油消費量は、ピストン及びシリンダの摺動対の潤滑に必要な最小潤滑油量を超える。相当なコストに加えて、特に大型エンジンでは、潤滑油消費量は環境汚染も意味する。ピストン・エンジンにより放出される排ガス粒子の大部分は、潤滑油に由来する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の目的は、摺動面として使用されるシリンダの全長にわたる、即ち上死点区域から下死点区域まで延在する領域における、潤滑油の均一な分配を達成することである。本発明のさらなる目的は、潤滑油消費量を低下させることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ピストン・リングを備えた少なくとも1つのピストンを受容する、ピストン・エンジン用シリンダは、潤滑油を受容し分配するスリット状切抜き穴を含む。シリンダはピストンのための摺動面を含み、摺動面は、上死点区域から、シリンダ上に配置されている一列の掃気スリットまで延在している。スリット状切抜き穴は摺動面に配置されている。
【0007】
上死点区域は、最上部ピストン・リングの死点がある平面として定義される。
【0008】
スリット状切抜き穴は、第1の部分と第2の部分とを含み、第1の部分は、第1の端部と第2の端部とを含み、第1の端部は、シリンダ内部空間への第1の開口部を有し、第2の端部は、シリンダ内部空間への第2の開口部を有し、第2の部分は、第2の端部と第3の端部とを含み、第3の端部は、シリンダ内部空間への第3の開口部を有し、ピストン・リングが第1の開口部又は第3の開口部の1つと第2の開口部との間の位置にある場合、潤滑油路が、ピストン・リングの上方にあるシリンダ内部空間とピストン・リングの下方にあるシリンダ内部空間との間に形成され得るように、第1の開口部と第3の開口部とが、スリット状切抜き穴を通過するピストン・リングの下方に配置され、同時に、第2の開口部が、スリット状切抜き穴を通過するピストン・リングの上方に配置される。
【0009】
潤滑油供給のための潤滑油源は、ピストン・リング及びシリンダの内壁の摺動対のために、シリンダの内部空間内に設けられている。潤滑油は、潤滑油源から、ピストン空間内への、シリンダの内壁に設けられている入り口開口部経由で移動する。或いは又はそれに付加して、潤滑油供給はピストン経由で起こる可能性もある。このため、入り口開口部は、潤滑油をピストン空間内に搬送するために、シリンダの内壁に設けられている。さらに、潤滑油供給のための入り口開口部が貫通路内に配置されている状態で、摺動面に沿って延在する貫通路が形成されるように、端部が互いに連結されている複数のスリット状切抜き穴が設けられている。
【0010】
試験により、スリット状切抜き穴は、摩擦システムにプラス効果をもたらすために潤滑油源を有する必要がないことが分かった。この目的のために、スリット状切抜き穴は、潤滑油源に接続され得る入り口開口部を有する潤滑油溝の形態で設けられている。潤滑油溝は、通常、切削手段によりシリンダの内壁上に作られる。当然、シリンダの内壁は、シリンダ・ライナの内壁を意味する可能性もある。入り口開口部は、周囲方向に潤滑油の分配を可能にするように設計されている。入り口開口部の上流に配置されている潤滑油路は、詳細には、シリンダの内壁に対して接線方向に延在することができる。入り口開口部は、スリット状切抜き穴として作製されている潤滑油溝内へ開くことができる。或いは又はこれに付加して、入り口開口部で始まり、実質的にシリンダ軸に対して垂直に配向されている平面に配設される、追加の潤滑油溝を設けることもできる。この付加的な潤滑油溝は、入り口開口部からの距離が大きくなるにつれて連続的に減少する深さを有し得る。さらに、その幅もまた、入り口開口部からの間隔が大きくなるにつれて縮小し得る。
【0011】
また、ノズル又は逆止め弁を備えた制限点などの搬送要素を、潤滑油源と入り口開口部との間に配置することができる。
【0012】
スリット状切抜き穴は、シリンダの内壁上の潤滑油の分配を改善するために潤滑油源から間隔を空けて配置されている。
【0013】
スリット状切抜き穴は、詳細には、上死点区域から、ピストン行程の最大20%、好ましくはピストン行程の最大10%、特に好ましくはピストン行程の最大5%に相当する距離を置いて配置することができる。
【0014】
意外なことに、スリット状切抜き穴、及び貫通路が形成されるように端部が互いに連結された複数のスリット状切抜き穴を設けられた往復ピストン・エンジンは、先行技術から既知の解決策と比較して、潤滑油消費量が低いことが分かった。したがって、摩擦対の摺動特性に修正が施されず、ピストン・エンジンの作動条件も変更されなかったとしても、潤滑油源から供給される潤滑油搬送量は、従来の解決策と比べて減少し得る。
【0015】
貫通路は、1つ又は複数の入り口開口部経由でシリンダの内部空間に到達した潤滑油の分配に使用される。
【0016】
潤滑油損失が低減し得るであろうことが分かったので、これに起因して、先行技術の解決策から予測されることと比較して、本発明による解決策により、予測に反して潤滑油消費量が低下し得る。
【0017】
ピストンが圧縮行程を実行する場合、ピストン・リングはシリンダの内壁に沿って摺動する。多くの場合、複数のピストン・リングはピストンに取り付けられている。このため、内壁にある潤滑油は、作動空間に最も近接したピストン・リングにより少なくとも部分的に運び上げられる。作動空間は、燃料が中にあるシリンダの内部空間の領域として理解される。シリンダの垂直配置では、これが最上部ピストン・リングである。
【0018】
ピストン・リングにより運び上げられた潤滑油は、ピストン・リング上に集まり、従来の解決策では、作動空間内に移動し、そこで燃料と共に消費されると考えられる。この潤滑油がスリット状切抜き穴に衝突した場合、このスリット状切抜き穴は潤滑油で満たされる。第2の開口部がピストン・リングの上方にあるようになり、第1の開口部と第3の開口部とがピストン・リングの下方にあるようになる位置にピストン・リングが来るとすぐに、均圧化が生じる。
【0019】
この均圧化は、スリット状切抜き穴が上死点区域に近接しているほど速く生じる。即ち、均圧化は上死点区域からの距離に左右される。
【0020】
均圧化は、スリット状切抜き穴経由で第1の開口部と第3の開口部とへ潤滑油を運び戻すことに影響を及ぼす。これは、潤滑油が、作動空間からピストン・リングを通過し、掃気スリットを有する吸気側の方向に側流で流動することを意味する。複数のピストン・リングがピストン上に配置されている場合、側流は、次いで、作動空間を第1のピストン・リングと第2のピストン・リングとにより画定されている中間空間に制限する第1のピストン・リングを通過して導かれる。作動空間と中間空間との間には圧力差があり、潤滑油はそれに基づいて中間空間の方向に搬送される。
【0021】
改善したオイル分配に加えて、さらなる利点が、特に、ピストン行程の最大約20%の領域内に上死点区域の下方にスリット状切抜き穴を配置することにより生じる。潤滑油の側流はスリット状切抜き穴により発生し、該側流は、往復ピストン・エンジンの作動空間が吸気側の空間に又は2つのピストン・リング間にある中間空間に連結されるようにピストン・リングを通過して流動し、それにより、作動空間内に掛かっているより高い圧力が低下する。このように、潤滑油がスリット状切抜き穴を通って搬送される側流により均圧化が生じる。作動領域に面している第1のピストン・リングの表面上に掛かる圧力は、それに応じて減少する。これに起因して、シリンダの内壁におけるピストン・リングの摩擦が小さくなるので、結果として、ピストン・リング及びシリンダの内壁の磨耗が低減する。したがって、ピストン・リング及びシリンダの耐用年数が増加する。
【0022】
均圧化があまりに速く生じるので、潤滑油は、スリット状切抜き穴を通って吹き飛ばされる。均圧化は、詳細には、複数のピストン・リングが存在する場合は段階的に生じる。これは、均圧化が、作動空間により近接して配設されている各ピストン・リングによって生じ、作動空間からより遠く離れて配設されているピストン・リングに向かうことを意味する。しかしまた、これに起因して、先行技術と比較して流速が段階的に低下する。スリット状切抜き穴が設けられていない場合、圧力補償は、ピストン・リングから吸気空間までしか生じない。即ち、最初に作動空間内に掛かっている圧力は、この段階で吸気空間内の圧力まで下げられなければならない。これにより、高流速は、潤滑油が掃気スリット内に持って来られるようにする。このこともまた、段階的な均圧化と共に起こり得るが、掃気スリットに進入する潤滑油の部分は大幅に減少する。この目的のために、複数のピストン・リングがピストンに取り付けられていることが有利である。スリット状切抜き穴が適用されていない領域で、ピストン・リングが作動空間を気密式に閉鎖することができるように、作動空間に隣接したピストン・リング又は吸気空間に隣接したピストン・リングの少なくとも1つに、開ロック又は気密ロックが備わっているようにすることができる。
【0023】
スリット状切抜き穴の特に好適な実施例によれば、第1の部分と第2の部分とは、平面上への摺動面の突出において経路を形成しており、第1の経路と第2の経路との間に、0°より大きく180°未満の角度が含まれている。このスリット状切抜き穴はV字形状を有し、「V」の先端は、上死点区域から最小の間隔を有する。その角度は、詳細には鈍角として作られており、好ましくは100°と180°の間、特に好ましくは130°と175°の間、具体的には150°と170°の間である。
【0024】
スリット状切抜き穴は、詳細には、スリット状切抜き穴の第1の部分又は第2の部分の1つが、長さと幅と深さとを有するように作製されており、長さは、幅又は深さより長くなっている。
【0025】
この場合のスリット状切抜き穴は、修理又は保守なしでシリンダの全平均作動時間の間使用することができるので、深さは0.4mmより大きくなることが好ましい。ピストン・リングは、シリンダの内壁の表面に接触して材料損失を生じる可能性があり、それによりシリンダの内径が増大することになり、結果として、スリット状切抜き穴の深さが減少する。スリット状切抜き穴に、概ね予想される材料の除去により生じる深さ損失より大きい深さが与えられた場合、スリット状切抜き穴は作動中に修理される必要がない。
【0026】
複数のスリット状切抜き穴は、詳細には、摺動面に沿って延在する貫通路が形成されるように、その端部が互いに連結されて設けられることが可能である。この貫通路は、シリンダの内部空間内への1つ又は複数の入り口開口部経由で移動する潤滑油の分配に役立つ。貫通路は、スリット状切抜き穴よりも、上死点区域から大きい距離を置いて配置されている。貫通路は、シリンダ、特にシリンダ・ライナの摺動面上に円周方向に延在していることが好ましい。
【0027】
入り口開口部は、潤滑油供給のために貫通路内に配置することができる。また、複数の入り口開口部は、特に、内壁が潤滑油で均一に濡れるように、シリンダの内壁一面により均一に潤滑油を分配するために設けることができる。ピストン行程の最後の30%の圧縮行程中、作動空間内の内圧が増大することにより潤滑油の必要量が増すので、入り口開口部又は貫通路は、上死点区域の下方のピストン行程の約30%の距離に相当する位置に配置されることが好ましい。
【0028】
実施例の1つによるスリット状切抜き穴は、その第2の端部に頂点を有し、隣接したスリット状切抜き穴の頂点は、上死点区域から測定して等間隔の所に配設されている。頂点は、上死点区域から最小の空間を有するスリット状切抜き穴の点である。
【0029】
複数のスリット状切抜き穴は、一列に配置することができる。頂点は、上死点区域から同じ間隔を置いて一列に配置されている。一列のスリット状切抜き穴では、複数のスリット状切抜き穴の上を、ピストン・リングが実質的に同時に通り抜ける。
【0030】
一列のスリット状切抜き穴の数は、スリット状切抜き穴の長さ及び2つの隣接したスリット状切抜き穴間の間隔次第で、合計5個から80個になることが好ましい。長さ、及び列内での2つの隣接したスリット状切抜き穴の互いの間隔は、シリンダの内壁がスリット状切抜き穴と潤滑油供給源との間で潤滑油によって濡れるように選択されることが好ましい。
【0031】
特に有利な実施例によれば、間隔の長さは、列を有する平面上へのスリット状切抜き穴の長さの突出より大きい。スリット状切抜き穴の長さは、第1の部分又は第2の部分の長さの1つと定義され、種々の長さがあれば、より大きな長さが決定的長さと定義されるべきである。隣接したスリット状切抜き穴の2つの頂点の間隔は、詳細には、2つの隣接した入り口開口部の間隔と等しくすることができる。スリット状切抜き穴の頂点は、詳細には、入り口開口部の軌道上にあることが可能である。
【0032】
代替の実施例によれば、隣接したスリット状切抜き穴の頂点は、互いにずらされて配置されている。複数のスリット状切抜き穴は、詳細には、複数の列に配置することができる。
【0033】
列は、好ましくはピストン・リングの高さに相当する傾斜より小さい傾斜を有し得る。したがって、一列のスリット状切抜き穴の傾斜角度は、最大1°になる。この寸法は、ピストン・リングの作動の滑らかさの増大に役に立つ。このため、スリット状切抜き穴の縁部とピストン・リングとの間の接触は、常に一点でのみ起こる。ピストン・リングの縁部とスリット状切抜き穴の縁部との局所接触は、結果として傾斜角度により防止され、それによりスリット状切抜き穴の縁部内にせん断力が導入されないので、縁部において材料の除去がほとんど発生しない。したがって、傾斜の監視により、シリンダの耐用年数が増加する結果となる。
【0034】
スリット状切抜き穴の幅は、0.5mmと3mmの間であることが好ましいが、どの場合においても、最も狭いピストン・リングの幅の80%未満、好ましくは70%未満、特に好ましくは60%未満とすべきである。これにより、ピストン・リングがスリット状切抜き穴内で傾斜するはずはなく、接触せずに切抜き上を摺動することが確実になる。
【0035】
スリット状切抜き穴の長さは、10mmと100mmの間、好ましくは10mmと50mmの間、特に好ましくは10mmと30mmの間になる。
【0036】
スリット状切抜き穴の数及び/又は深さ及び/又は長さ及び/又は幅は、互いに異なる可能性がある。隣接した列のスリット状切抜き穴は、互いにずらされて配置されていることが有利である。潤滑油でのシリンダの内壁の理想的な濡れは、シリンダ・ジャケットの最小限の弱体化を伴うずらしにより達成される。
【0037】
スリット状切抜き穴の数は、摺動面1m当たり10個以上、具体的には50個以上、特に好ましくは100個以上である。摺動面の部分は種々の荷重に耐えなければならないので、摺動面1m当たりのスリット状切抜き穴の数は可変とすることができる。さらに、スリット状切抜き穴はまた、掃気スリットの領域又はそれらの下方に設けることができる。
【0038】
前述の実施例によるシリンダ内での潤滑油分配のための方法は、特に機械加工によりスリット状切抜き穴を製造するステップを含む。
【0039】
このシリンダは、大型エンジン、好ましくは大型ディーゼル・エンジンで使用され、該大型エンジンは、例えば2サイクル・エンジン又は4サイクル・エンジンであり得る。
【0040】
本発明は、添付図面を参照して、以下にさらに詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】シリンダを貫通する断面図である。
【図2】シリンダの展開図である。
【図3】ピストン・リング及びシリンダの内壁の摺動対の図である。
【図4】シリンダの内壁におけるスリット状切抜き穴の配列の第1の変形の図である。
【図5】シリンダの内壁におけるスリット状切抜き穴の配列の第2の変形の図である。
【図6a】スリット状切抜き穴の第1の実施例の図である。
【図6b】スリット状切抜き穴の第2の実施例の図である。
【図6c】スリット状切抜き穴の第3の実施例の図である。
【図6d】スリット状切抜き穴の第4の実施例の図である。
【図6e】スリット状切抜き穴の第5の実施例の図である。
【図6f】スリット状切抜き穴の第6の実施例の図である。
【図6g】スリット状切抜き穴の第7の実施例の図である。
【図6h】スリット状切抜き穴の第8の実施例の図である。
【図7】先行技術による摺動面の図である。
【図8】本発明による摺動面の図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
図1は、ピストン・エンジン内に配置されているシリンダ1を貫通する断面を示す。ピストン・エンジンは、2サイクル・エンジン又は4サイクル・エンジン、特に、ほとんどの場合大型ディーゼル・エンジンである大型エンジンである。そのような大型ディーゼル・エンジンは、現在、内径が通常は190mmより大きいシリンダを備えている。典型的な直径は、250mmと1000mmの間である。ピストンは、シリンダ内部を往復移動し、クランクシャフト経由で回転可能な駆動シャフトに連結されている。ピストンの往復移動は、上死点と下死点との間で起こる。図1は、上死点の位置にあるピストンを示す。断面平面が、シリンダ軸14上で垂直な最上部ピストン・リングの上死点を通って配置された場合、その平面は、今後は上死点区域8と呼ばれるはずの領域を取り囲んで伸びる線に沿ってシリンダの内壁を横断する。上死点区域8は、シリンダの垂直配置では摺動面7の上限を形成する。同様の断面平面が最低部ピストン・リングの下死点を通って配置された場合、下死点区域15は、同じ方法で得られる。長さL(13)は、上死点区域8と下死点区域15との間の間隔を示し、摺動面の長さに相当する。摺動面は、1mから約4mまでの長さを有し得る。摺動面の幅は、上死点区域8における円周により、且つ下死点区域15における円周により形成されている。シリンダ内部空間は、通例、円筒状ではなくむしろ若干円錐状に作製されるので、上死点区域8における摺動面の幅は、下死点区域15における摺動面の幅より大きい。この円錐度は、摺動面の個々の区域に存在する種々の温度において成り立っている。下死点区域の領域では、この領域に、実質的にエンジン空間内の空気の環境温度と異ならない作動温度が存在するように、空気が環境から吸い込まれる。しかし、上死点区域の領域には、300℃より高い温度が存在し得る。これらの相当な温度差により熱膨張が生じ、これは特に、ピストン2上に配置されているピストン・リング3の膨張をもたらし、下死点区域15の領域内で容認できないほどシリンダの内壁を圧迫すると考えられ、結果として、潤滑膜の形成を妨げると考えられる。シリンダの内壁とピストン・リングとの間の望ましくない固体摩擦に対する対策は、摺動面7の領域で潤滑膜としてシリンダ1の内壁33を覆う潤滑油の導入である。
【0043】
潤滑油は、潤滑油供給源4経由でシリンダ空間内に供給される。潤滑油は、適切なピストンの潤滑を確実にするばかりでなく、硫黄燃料の使用により燃焼空間内へ移動する硫酸を中和するはずである。
【0044】
1つ又は複数の入り口開口部16は、シリンダの表面に分散して設けることができる。入り口開口部から始まり、潤滑油の搬送と分配がそれにより起こる通路17が、シリンダの内壁33に沿って延在している。潤滑油は、シリンダの垂直配置での通路の下方で全摺動面7を濡らす。膨張行程においてピストン2が入り口開口部16を通過する場合、潤滑油もまた、シリンダの内壁33において摺動するピストン・リング又はリング3により輸送され、さらなる潤滑にはもはや利用可能でなくなっている。これにより、潤滑油消費量が増大し、それは、そのような大きな表面を潤滑油で濡らすのであれば、少なくない原価要素を意味する。
【0045】
少なくとも1つのピストン・リング3を備えたピストン2を受容する、ピストン・エンジン用シリンダは、潤滑油分配のためのスリット状切抜き穴5を含み、シリンダは、ピストン2のための摺動面7を含み、摺動面7は、上死点区域8から、シリンダ上に配列されている一列の掃気スリット6まで延在しており、スリット状切抜き穴5は、摺動面7に配置されている。
【0046】
スリット状切抜き穴5は、潤滑油ポケットとして機能する。潤滑油が入り口開口部16経由で供給された場合、それはピストン・リング3により運び上げられ、ピストン・リング3に持って来られ、シリンダの内壁33とピストン・リングとの間に潤滑油膜を形成する。潤滑油のいくらかは、ピストン・リング3と内壁33との間の中間空間を通って出現する。しかし、ピストン・リング3はできる限りきつくシリンダの内壁33に接触しなければならないので、この部分はできる限り低いべきである。そうでない場合、作動空間内に存在し得る燃料ガス混合物が出現し、掃気スリット6に移動すると考えられる。作動空間内には、最大140バールの圧力が存在し得る。作動空間内の過剰な潤滑油は、シリンダの内壁33に沿って流出し、潤滑油の貯蔵場所が中に形成されているスリット状切抜き穴5内に移動する。潤滑油のための入り口開口部16の上方に配置されているスリット状切抜き穴5は、ピストン・リングがスリット状切抜き穴を通過すると潤滑油で満たされる。ピストン・リングはまた、その移動中に潤滑油のいくらかを輸送し、該潤滑油はスリット状切抜き穴内に逃げ込み、ピストン・リングがそのようなスリット状切抜き穴を通過した時にそれを満たす。
【0047】
また、スリット状切抜き穴は、特に、掃気スリット6の領域に且つそれらの下方に設けることができる。この領域では、過去に材料損失による損傷が見つかっている。この材料損失は、同じく、不均一な故に不十分な潤滑油の供給による。この点において、潤滑油は必ずしも高圧で搬送される必要はないので、潤滑油供給源4経由で導入された潤滑油は、図1に示されているピストンの位置で周期的に供給される。潤滑油は、シリンダ壁に沿って下方に流れ、次いで、膨張行程においてピストンのピストン・リング3により持って来られる。潤滑油のいくらかは、確かに掃気スリット6まで進むが、スリット状切抜き穴が、同じく、ピストンが下死点にある場合に最下部に配設されているピストン・リングの可能な限り最低部の位置に至る掃気スリットの領域内に設けられている場合は、そこに貯蔵され得るに過ぎない。これらのスリット状切抜き穴が存在しない場合、ピストン・リングは、残留潤滑油量を放出すると考えられ、この潤滑油量は、もはやさらなる潤滑に利用可能ではないと考えられる。この欠点により、さらに、特に掃気スリット6の領域において、ピストンがその圧縮行程を開始する時に潤滑油はもはや存在しなくなっていると考えられる。したがって、ピストン・リング3は、圧縮行程の開始時に、乾いた状態で作動すると考えられる。一方、スリット状切抜き穴5内にある潤滑油は、掃気スリット6の領域内でシリンダの内壁一面に分配されることが可能であり、全圧縮行程の間の十分な潤滑を確実にする。
【0048】
図2は、シリンダ1の内壁12の展開図を示す。摺動面7は、下死点区域15から上死点区域8に至るまで延在している。特に、スリット状切抜き穴5を有する摺動面7の部分が示されている。破線は、スリット状切抜き穴の上を通り抜けるピストン・リング3の位置を示す。
【0049】
図2に示されている通り、第2の開口部31は、作動空間内に存在する圧力でピストン・リングの上方にあるようになり、第1の開口部30と第3の開口部32とは、第1のピストン・リングと第2のピストン・リングとの間にある中間空間又は遥かに低い圧力が存在する吸気空間内で同じピストン・リングの下方にあるようになるので、潤滑油の特に均一な分配が達成され得る。各潤滑油流は、側流としてピストン・リング3の周囲に誘導されるだけでなく、対応する第1の開口部30と第3の開口部32に向かう流動の分割が生じる。この流動の分割により、結果として、内壁12の摺動面7上で予想外に良好な潤滑油の分配がもたらされる。この影響は、図7及び図8に基づく試行結果により、実証することができる。
【0050】
図3は、ピストン・リング3及びシリンダ1の内壁12の摺動対の図を示す。この場合、スリット状切抜き穴5は、例えば図6aから6hによる実施例の1つに基づき作製することができるが、他の幾何学的形態(図示せず)を有することも可能であり、摺動面の最大20%に相当する環状領域に配置されており、上死点区域8の下方に配置されている。図3によれば、ピストン2は、環状領域の下方の位置にある。最大10%、好ましくは5%の環状領域を設けることは、スリット状切抜き穴にとって特に有利であり得る。また、種々の寸法のスリット状切抜き穴を環状領域内に配列することができることが、図3又は図5に示されている。
【0051】
さらに、潤滑油供給に役立ち得る複数の通路17を設けることができることが分かる。通路は、この図ではピストン2によりほとんど隠されている。通路の一部は、入り口開口部なしで作製することができる。これの代替案として、離散したスリット状切抜き穴を交互に有する貫通路を設けることもできる。これの代替案として、シリンダの内部空間内へ直接開いている入り口開口部16を設けることもできる。
【0052】
図4及び図5は、シリンダ1の内壁12に複数列のスリット状切抜き穴5を設けることができることを示す。図4では、潤滑油供給源4と上死点区域8との間に配置されている二列36、37のスリット状切抜き穴5が示されている。スリット状切抜き穴5が、上死点区域8から、ピストン行程の最大20%、好ましくはピストン行程の最大10%、特に好ましくはピストン行程の最大5%に相当する距離を置いて配列されている場合、潤滑油での十分な供給に有利である。
【0053】
複数のスリット状切抜き穴を、図4に基づき、傾斜を有する列36内に配置することができる。ピストン・リングの幅より小さい寸法になった切抜き穴の幅に関連して述べられている理由で、傾斜は制限されている。スリット状切抜き穴の傾斜18の角度は最大1°になる。一列内のスリット状切抜き穴の数は、図5に示されている隣接した列のスリット状切抜き穴の数とは異なる可能性がある。スリット状切抜き穴の数及び/又は深さt(11)及び/又は長さl(9)及び/又は幅b(10)は、互いに異なる可能性がある。
【0054】
隣接した列36、37、38のスリット状切抜き穴を、少なくとも部分的に互いにずらして配置することができ、それは図5に示されている。できる限り均一な潤滑油の分配が確実になるように、これにより、摺動面1m当たりのスリット状切抜き穴の数を増加することができる。スリット状切抜き穴の数は、摺動面1m当たり10個以上、具体的には50個以上、特に好ましくは100個以上である。動作中に摺動面の領域に潤滑油の必要性の増大又は低減が認められる場合、摺動面1m当たりのスリット状切抜き穴の数は、変数として選択することができる。例えば、図2、図4又は図5に見られる通り、より少ない数のスリット状切抜き穴、又はより広い間隔の隣接した列のスリット状切抜き穴を設けることができる。
【0055】
図6a〜6hはスリット状切抜き穴の種々の実施例を示す。図1から図6g及び図8の実施例のうちの1つによるスリット状切抜き穴は、第1の部分18と第2の部分19とを含み、第1の部分18は、第1の端部20と第2の端部21とを含む。第1の端部20は、シリンダ内部空間への第1の開口部30を有し、第2の端部21は、シリンダ内部空間への第2の開口部31を有する。第2の部分19は、第2の端部21と第3の端部22とを含み、第3の端部22は、シリンダ内部空間への第3の開口部32を有する。ピストン・リングが、第1の開口部30又は第3の開口部32の1つと第2の開口部31との間の位置にある場合、ピストン・リングの上方にあるシリンダ内部空間とピストン・リングの下方にあるシリンダ内部空間との間に潤滑油路を形成することができるように、第1の開口部30と第3の開口部32とは、スリット状切抜き穴を通過するピストン・リング3の下方に配置され、同時に、第2の開口部31は、スリット状切抜き穴を通過するピストン・リングの上方に配置される。
【0056】
図6aは、第1の部分18が第2の部分19と同じ長さl(9)を有するスリット状切抜き穴5を示す。長さlは、この場合、第1の部分18又は第2の部分19の長さを示すはずである。図6aのスリット状切抜き穴は、シリンダ軸14(図1参照)上の垂直平面23に対する法線27に関して鏡面的に対称である。第1の部分18が垂直平面23と含む傾斜24の角度は、第2の部分19が垂直平面23と含む傾斜25の角度に等しい。
【0057】
図6bは、第1の部分18が第2の部分19より長い長さl(9)を有するスリット状切抜き穴5の変形を示す。さらに、シリンダ軸14上の垂直平面23に対する第1の部分18の傾斜24の角度は、シリンダ軸14上の垂直平面23に対する第2の部分19の傾斜25の角度とは異なる可能性がある。
【0058】
図6cは、第1の部分18と第2の部分19とが湾曲を有するスリット状切抜き穴5の変形を示す。第1の長さl(9)は、この点において、第1の端部20から第2の端部21までの湾曲した中心線の長さと定義される。第2の長さl(29)は、第2の端部21から第3の端部22までの湾曲した中心線の長さと定義される。
【0059】
図6dは、第1の部分18と第2の部分19とが湾曲を有する、スリット状切抜き穴5の変形を示す。
【0060】
図面に示されていないが、当然、図6cに示されている凹形湾曲を有する第1の部分18と図6dに示されている凸形湾曲を有する第2の部分19とを組み合わせることもできる。
【0061】
第1の部分18及び第2の部分19の幅b(10)が変化するような、図6dに示されている実施例とは異なるスリット状切抜き穴が、図6eに示されている。図6eによれば、三日月状構造が得られるように、第2の端部21から第1の端部20及び第3の端部22の1つまで、幅が連続的に減少する。
【0062】
第1の部分18の幅が第2の部分19の幅とは異なる変形が、図6fに示されている。
【0063】
図6gは、複数の部分で構成されている第1の部分18及び第2の部分19の変形を示す。
【0064】
このように、スリット状切抜き穴は、展開されたシリンダ表面の断面図に詳細に示されている、第1の部分18の第1の長さl(9)と、第2の部分19の第2の長さl(29)と、幅b(10)と、深さt(11)とを有する。深さ11は、0.4mmより大きくなることが好ましく、それにより、シリンダの内壁に材料損失が生じても、スリット状切抜き穴は、長年の寿命を有して維持される。スリット状切抜き穴のかなりの深さは、ピストン・リングにより押し込められた潤滑油が、さらに進んだ全行程中にシリンダの内壁上に流れ、該内壁を潤滑油膜で濡らすというさらなる利点を有する。複数のスリット状切抜き穴の配置により、全摺動面、又は全摺動面のうちの少なくともそのようなスリット状切抜き穴を備えた部分が濡れることが確実になる。意外なことに、この配置により潤滑油消費量が減少するばかりでなく、シリンダ表面の耐用年数も増加する。潤滑油消費量の減少には、潤滑油がスリット状切抜き穴内に貯蔵されているという主要な根拠がある。したがって、潤滑油は作動サイクル後に流出しないか、又はピストン・リングにより押し出されるが、むしろ、大部分がスリット状切抜き穴内に残留している。その潤滑油は、次に、さらなる作動サイクルに利用可能である。
【0065】
図6aから図6hによるスリット状切抜き穴は、長さl(9)と、幅b(10)と、深さt(11)により決定される。スリット状切抜き穴の幅は、0.5mmと3mmの間であることが有利である。幅bは、ちょうど、該切抜き穴内に十分な量の潤滑油を貯蔵することができるほどの大きさでなければならない。一方、幅bは、ピストン・リングがスリット状切抜き穴の縁部に取られないように、ピストン・リングの幅より小さいことが好ましい。スリット状切抜き穴の長さは、10mmと100mmの間、好ましくは10mmと50mmの間、特に好ましくは10mmと30mmの間になる。
【0066】
図7は、先行技術による摺動面7の図を示す。本実施例によれば、スリット状切抜き穴は設けられていない。潤滑油は、シリンダ1の内壁12上に入り口開口部16経由で移動し、ピストン・リング又はリングによりシリンダの内壁一面に分配される。図7は、5,722作動時間後のシリンダの内壁の状態を示す。内壁に、より大きな材料損失がはっきりと認められる。シリンダの内壁に、内壁の研磨に起因する剥離がある。微細な溝39として作られているこれらの剥離は、2つの異なる方向にシリンダの全内壁上に広がっている。これらの溝は、シリンダの内壁にほとんど見えなくなっている。さらに、入り口開口部の領域と上方にある摺動面との間にはっきりした境界が認められる。この境界は、そこまで潤滑が十分であった入り口開口部からの間隔を示す。十分な潤滑の領域は、視覚的により暗い感じになる。この十分な潤滑のより暗い領域は、例えば腐食により材料損失が増大したより明るい領域よりもはっきりと目立っている。それにより、摺動面の金属表面は、より明るい領域において明瞭に認識できる。より明るい領域は、図7によれば、入り口開口部のすぐ周辺にあるより暗い領域を除いて、全摺動面上に延在している。したがって、不十分な潤滑により、シリンダの内壁に材料損失の増大が認められることを明瞭に認識できる。
【0067】
図8は、本発明による摺動面7の図を示す。図8は図7とは異なり、一列のスリット状切抜き穴5が、入り口開口部16及び通路17の上方に配置されている。図8は、約8000作動時間後のシリンダの内壁の画像の図である。図7との2つの違いを、肉眼ではっきりと認識することができる。一方、十分な潤滑と材料損失が増大した区域との間の境界は、スリット状切抜き穴の上方にある。これは、通路17と一列のスリット状切抜き穴5との間の領域において潤滑が十分であったことを意味する。結果として、材料損失もより少なく、溝39をはっきりと認識することができる。具体的には、該溝が、2つの異なる方向に全内壁上に通っていることをはっきりと認識することができる。溝は交差しているので、ダイヤモンド形の個々の要素で構成されている表面構造を認識することができる。この溝は、図7と同様に、研磨の工程ステップ中にシリンダの内壁を機械加工したバイトに由来する。
【0068】
前述の実施例のうちの1つによるスリット状切抜き穴は、機械加工により製造される。これは、フライス加工などの切削工程を含むが、レーザによる構造化などの熱的影響下で行う工程を含まない。レーザ構造化工程は、とりわけ、マイクロメートル領域の溝の作製に使用され、ミリメートル領域の深さを有する本発明によるスリット状切抜き穴の作製には適さない。
【0069】
既に使用中のシリンダに、次いで、定期保守作業又は修理の枠組み内で、スリット様切抜き穴を設けることができる。大型エンジンで使用されているシリンダにスリット状切抜き穴を後で直接適用することにより、潤滑油の必要性を特に低減することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 シリンダ
2 ピストン
3 ピストン・リング/リング
4 潤滑油供給源
5 スリット状切抜き穴
6 掃気スリット
7 摺動面
8 上死点区域
(9)l 長さ
(10)b 幅
(11)t 深さ
12、33 内壁
(13)L 長さ
14 シリンダ軸
15 下死点区域
16 入り口開口部
17 通路
18 第1の部分
19 第2の部分
20 第1の端部
21 第2の端部
22 第3の端部
23 垂直平面
24、25 傾斜
27 法線
(29)l 第2の長さ
30 第1の開口部
31 第2の開口部
32 第3の開口部
36、37、38 列
39 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油を受容し分配するスリット状切抜き穴(5)を含む、ピストン・リング(3)を備えた少なくとも1つのピストン(2)を受容する、往復ピストン・エンジン用シリンダ(1)であって、前記シリンダが前記ピストン(2)のための摺動面(7)を含み、前記摺動面(7)が、上死点区域(8)から、前記シリンダ上に配置されている一列の掃気スリット(6)まで延在しており、前記スリット状切抜き穴(5)が前記摺動面(7)に配置されているシリンダにおいて、前記スリット状切抜き穴が、第1の部分(18)を含み、且つ第2の部分(19)を含み、前記第1の部分(18)が、第1の端部(20)と第2の端部(21)とを含み、前記第1の端部(20)が、シリンダ内部空間への第1の開口部(30)を有し、前記第2の端部(21)が、前記シリンダ内部空間への第2の開口部(31)を有し、前記第2の部分(19)が、前記第2の端部(21)と第3の端部(22)とを含み、前記第3の端部(22)が、前記シリンダ内部空間への第3の開口部(32)を有し、前記ピストン・リング(3)が、前記第1の開口部(30)又は前記第3の開口部(32)の1つと前記第2の開口部(31)との間の位置にある場合、前記潤滑油のために、前記ピストン・リング(3)の上方にある前記シリンダ内部空間と前記ピストン・リング(3)の下方にある前記シリンダ内部空間との間に通路が形成され得るように、前記第1の開口部(30)と前記第3の開口部(32)とが、前記スリット状切抜き穴(5)を通過する前記ピストン・リング(3)の下方に配置され、同時に、前記第2の開口部(31)が、前記スリット状切抜き穴(5)を通過する前記ピストン・リング(3)の上方に配置されることを特徴とし、且つ前記摺動面(7)に沿って延在する貫通路が形成されるように、端部が互いに連結されている複数のスリット状切抜き穴が設けられており、潤滑油供給のための前記入り口開口部(16)が前記貫通路内に配置されていることを特徴とする、シリンダ。
【請求項2】
前記貫通路が、前記スリット状切抜き穴(5)よりも、前記上死点区域から大きな距離を置いて配置されている、請求項1に記載のシリンダ(1)。
【請求項3】
前記第1の部分と前記第2の部分とが、平面上への前記摺動面の突出において経路を形成しており、前記第1の経路と前記第2の経路との間に、0°より大きく180°未満の角度(35)が含まれている、請求項1に記載のシリンダ(1)。
【請求項4】
前記スリット状切抜き穴の前記第1の部分(18)及び前記第2の部分(19)のうちの1つが、長さ(9)と、幅(10)と、深さ(11)とを有し、前記長さ(9)が前記幅(10)又は前記深さ(11)より大きい、請求項1又は2に記載のシリンダ(1)。
【請求項5】
前記深さ(11)が0.4mmより大きくなる、請求項1又は2に記載のシリンダ(1)。
【請求項6】
前記シリンダ内部空間内での前記潤滑油供給のために潤滑油源が設けられている、請求項1から5までのいずれか一項に記載のシリンダ(1)。
【請求項7】
前記潤滑油をピストン空間内へ搬送するために、前記入り口開口部(16)が前記シリンダの前記内壁に設けられている、請求項6に記載のシリンダ(1)。
【請求項8】
前記潤滑油源が、前記ピストン(2)における前記潤滑油供給のために設けられている、請求項1から6までのいずれか一項に記載のシリンダ(1)。
【請求項9】
前記スリット状切抜き穴が、前記上死点区域(8)から、ピストン行程の最大20%に相当する距離を置いて配置されている、請求項1から8までのいずれか一項に記載のシリンダ(1)。
【請求項10】
前記スリット状切抜き穴が、その第2の端部に頂点を有し、隣接した複数のスリット状切抜き穴の頂点が、前記上死点区域(8)から同じ間隔を有する、請求項1から9までのいずれか一項に記載のシリンダ(1)。
【請求項11】
前記隣接した複数のスリット状切抜き穴の頂点が、互いにずらされて配置されている、請求項10に記載のシリンダ(1)。
【請求項12】
前記シリンダが、190mmより大きい直径を有する、請求項1から11までのいずれか一項に記載のシリンダ(1)。
【請求項13】
大型エンジンにおける、請求項1から12までのいずれか一項に記載の前記シリンダ(1)の使用。
【請求項14】
請求項1から13までのいずれか一項に記載のシリンダ(1)内での潤滑油分配の方法であって、スリット状切抜き穴を製造するステップを含む、方法。
【請求項15】
前記スリット状切抜き穴を製造する前記ステップが、機械加工により行われる、請求項14に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6a】
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【図6b】
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【図6c】
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【図6d】
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【図6e】
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【図6f】
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【図6g】
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【図6h】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−230002(P2010−230002A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−62317(P2010−62317)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(501082602)ヴェルトジィレ シュヴァイツ アクチェンゲゼルシャフト (46)
【Fターム(参考)】