説明

潤滑油及びその添加剤

【課題】 潤滑油に減摩作用を与え、潤滑油による潤滑効果を高める。特にエンジン用の潤滑油に適用して、トルクと馬力を増大させ、排気ガス中の黒鉛量を減少させ、また、燃費を向上させる。
【解決手段】 潤滑油の添加剤は、平均長が0.1mm〜2mm(好ましくは0.2mm〜1.2mm)の例えばナイロンの極短繊維からなる。また、潤滑油は、同平均長の例えばナイロンの極短繊維が添加された潤滑油である。潤滑油への添加剤の添加量は、0.001g/l〜3g/lが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンジン(内燃機関)、軸受、機械摺動部等の潤滑を図る潤滑油及びその潤滑作用を高めるための添加剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、この種の潤滑油には、高性能化のために添加剤が添加されることが一般的である。この添加剤を機能で分けると、減摩剤、酸処理剤、粘性維持剤等があり、減摩剤としては、亜鉛系やモリブデン系の有機金属が知られている。また、シラン化合物やトリメチロールアミノメタン誘導体のような有機化合物を添加剤として使用すると、エンジンの清浄効果とともに減摩効果が得られることが特許文献1及び2に記載されている。
【特許文献1】特開平8−337788号公報
【特許文献2】特開平9−3467号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本願の発明者は、従来の有機金属や有機化合物のような添加剤とは異なる発想により、新たな添加剤を得るために検討を行い、本発明を達成するに至った。
【0004】
本発明の目的は、潤滑油に添加することで減摩効果を与え、潤滑油の潤滑作用を高めることができる添加剤、及び添加剤の添加によって潤滑作用が高められた潤滑油を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は次の(1)(2)のように構成された。
(1)平均長が0.1mm〜2mmの極短繊維からなる潤滑油の添加剤。
(2)平均長が0.1mm〜2mmの極短繊維が添加された潤滑油。
【0006】
これら(1)(2)において、極短繊維の平均長は、短すぎると製作が困難であり、長すぎると潤滑油に均一に分散しにくくなる可能があることから決められており、好ましくは0.2mm〜1.2mm、より好ましくは0.4〜1mmである。極短繊維の平均太さは、特に限定されないが、潤滑油に均一に分散しやすく狭い隙間にも入り込みやすい点で、17.5デニール以下が好ましく、5デニール以下がより好ましい。
【0007】
本発明に使用する繊維の種類は、特に限定されず、例えば合成繊維、天然繊維又は無機繊維のいずれでもよく、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維、ウレタン繊維、ポリ塩化ビニール繊維、ポリ塩化ビニリデン繊維、ポリビニールアルコール繊維、アセテート繊維、綿、羊毛、絹、ヤシ繊維、ガラス繊維等を例示でき、1種又は2種以上を使用できる。
【0008】
極短繊維は、特に限定されないが、帯電防止剤を含んだものを好ましく使用できる。帯電防止剤としては、特に限定されないが、親水性モノマー又は親水性ポリマーを含むもの、界面活性剤(カチオン性、アニオン性、両性及びノニオン性を含む。)、シリコン、金属錯体等を例示でき、1種又は2種以上を使用できる。具体的には、株式会社クラレ製の商品「AS−22」(アルカンスルホネートと水との混合物)を例示できる。帯電防止剤の含み方は、特に限定されず、繊維表面に付着した態様や、繊維に練り込まれた態様を例示できる。付着方法としては浸漬、塗布等を例示できる。また、帯電防止剤の量は、特に限定されない。帯電防止剤を含むと、極短繊維が帯電しにくくなるため、繊維同士の凝集(寄り集まり)を防止でき、潤滑油中で極短繊維を満遍なく分散させ易くなる。
【0009】
極短繊維は、特に限定されないが、サイズ剤が付着したものを好ましく使用できる。サイズ剤は、特に限定されず、例えば経糸糊又は仕上糊のいずれでもよく、澱粉、ポリビニールアルコール(PVA)、アクリル系等を例示でき、1種又は2種以上を使用できる。
【0010】
潤滑油への添加剤の添加量は、特に限定されないが、少なすぎると減摩効果が少なく、多すぎると潤滑油を使用する機器にマイナスの影響を与える可能性もあるので、0.001g/l〜3g/lが好ましく、0.005g/l〜1g/lがより好ましい。添加剤の製造方法は、特に限定されないが、撚糸又は布を極短繊維に切断する方法を例示できる。
【0011】
潤滑油の種類及び組成は、特に限定されず、鉱物油、化学合成油、これらの部分混合油等を例示できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の潤滑油の添加剤は、潤滑油に少量添加するだけで減摩作用を与え、潤滑油による潤滑効果を高めることができ、しかも安価である。また、本発明の潤滑油は、高い減摩作用により、優れた潤滑効果が得られ、特にエンジン用の潤滑油に適用すれば、トルクと馬力を増大させ、排気ガス中の黒鉛量を減少させ、また、燃費を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
潤滑油の添加剤は、平均長が0.1mm〜2mm(好ましくは0.2mm〜1.2mm)のナイロンの極短繊維からなる。また、潤滑油は、平均長が0.1mm〜2mm(好ましくは0.2mm〜1.2mm)のナイロンの極短繊維が添加された潤滑油である。
【実施例】
【0014】
実施例の添加剤は、平均長が約0.6mmのナイロンの極短繊維である。これは、70デニールのナイロン糸(東レ株式会社製の商品「アミラン」で32本のナイロン繊維の撚糸である)を平均長が約0.6mmとなるように切断し、32本のナイロン極短繊維に分離したもので、各1本は約2〜3デニールである。なお、このナイロン極短繊維は格別の付着物を付着させていないものであるが、前記のとおり、帯電防止剤及び/又はサイズ剤を付着させたものでもよい。
【0015】
また、実施例の潤滑油は、自動車エンジン用の市販の潤滑油(住友鉱業株式会社製の商品名「スミコーオイル10W−40」)に上記実施例の添加剤を添加したものである。この実施例の潤滑油を、[a]ガソリンエンジンに注入してトルクと馬力の計測実験を行い、また、[b]ディーゼルエンジンに注入して排気ガス中の黒鉛の計測実験を行うとともに、[c]燃費の計測実験を行った。なお、[a]については、実施例の前に比較例1、比較例2、予備例の各潤滑油についても同様の実験を行い、[b][c]については、実施例の前に比較例の潤滑油についても同様の実験を行い、計測結果を対比した。
【0016】
[a]トルクと馬力の計測実験
1.実験自動車
車名及び型式:トヨタ自動車株式会社の商品名「セリカ」E−ST185
エンジン:四気筒ガソリンエンジン、排気量1.8l、ターボ過給有り
2.測定器(シャーシーダイナモ)
インターナショナル・ダイナモメイターズ株式会社製の商品名「ダイナパック」
3.環境条件
気温24℃、露点温度13℃、相対湿度50%の条件下で実験した。
【0017】
4.比較例1の計測実験
まず、実験自動車のエンジンからそれまで使用されていた潤滑油を抜き、オイル洗浄液(スナップオン・ツールズ株式会社製の商品名「ドクターカーボン」)によりオイルラインを20分間洗浄した後、使用中のオイルエレメント(ボッシュ株式会社製の商品名「ボッシュエレメントT−6」)を新品に交換した。そして、同エンジンに比較例1としての添加剤無添加の潤滑油(前記「スミコーオイル10W−40」)の4lを注入し、同エンジンを運転してその回転数を順次変え、前記測定器によりトルクと馬力を計測した。計測は3回行い、そのうち最も高かった回のトルクと馬力を計測結果として採用した(以下、同じ)。
【0018】
5.比較例2の計測実験
次に、前記比較例1の潤滑油が注入されたままの同エンジンに、市販のモリブデン添加剤(住鉱潤滑剤株式会社製の商品名「オイル添加剤モリブデン」の220mlを追加的に注入して、同エンジン内で比較例2としてのモリブデン添加の潤滑油を循環攪拌して形成し、同エンジンを運転して同様にトルクと馬力を計測した。
【0019】
6.予備例の計測実験
次に、同エンジンから比較例2の潤滑油を抜き、前記オイル洗浄液によりオイルラインを洗浄した後、オイルエレメントを新品に交換した。そして、実施例の潤滑油を使用して実験する前に、極短繊維による不測の問題が起きないことを確認するため、予備例として一旦添加剤を添加した潤滑油をろ過処理してなるろ過済み潤滑油を作成した。具体的には、まず、添加剤無添加の潤滑油(出光興産株式会社製の商品「アポロイル プロメンテ SJ/CF−4 10W−30」)の20lに、実施例の添加剤であるナイロン極短繊維の0.65gを添加して均一に攪拌し、この潤滑油を目の細かいろ紙でろ過処理してナイロン極短繊維のほとんどを濾別除去してろ過済潤滑油原液を得た。このろ過済潤滑油原液には、特に短い極々短繊維のみが僅かに残存していると考えられるが、その残存量は無視しうる程度の微量と考えられる。そして、同エンジンに、添加剤無添加の潤滑油(前記「スミコーオイル10W−40」)の4lを注入するとともに、得られたろ過済潤滑油原液の200mlを追加的に注入し、同エンジン内で予備例としてのろ過済み潤滑油を循環攪拌して作成し、同エンジンを運転して同様にトルクと馬力を計測した。その際、前記不測の問題は起こらなかった。
【0020】
7.実施例の計測実験
そこで、実施例の潤滑油を使用して実験した。具体的には、まず、前記予備例の作成途中でろ過処理したろ過済潤滑油原液の200mlに、実施例の添加剤であるナイロン極短繊維の0.1gを添加して高添加原液を作成した。そして、前記予備例のろ過済み潤滑油が注入されたままの同エンジンに、この高添加原液の200mlを追加的に注入し、同エンジン内で実施例の添加剤添加の潤滑油を循環攪拌して作成し、同エンジンを運転して同様にトルクと馬力を計測した。同潤滑油中の添加剤の割合は0.0227g/lである。
【0021】
【表1】

【0022】
8.トルクの計測結果
図1及び表1に、トルクの計測結果(回転数に対するトルク曲線)を示す。最大トルクは、比較例1(添加剤無添加)で235Nm(3687rpm時)、比較例2(モリブデン添加)で229Nm(4273rpm時)、予備例(ろ過済み)で237Nm(4450rpm時)であってこの三例間に有意差は認められなかったのに対し、実施例(ナイロン極短繊維添加)では243Nm(4282rpm時)と明らかに増大しており、有意差が認められた。また、回転数の全域にわたって、実施例は他の三例と比べてトルクが増大している。この結果は、実施例のナイロン極短繊維が潤滑油に減摩作用を与え、潤滑効果を高めたことによるものと考えられる。
【0023】
9.馬力の計測結果
図2及び表1に、馬力の計測結果(回転数に対する馬力曲線)を示す。最大馬力は、比較例1で128kw(5291rpm時)、比較例2で128kw(5450rpm時)、予備例で128kw(5500rpm時)であってこの三例間に有意差は認められなかったのに対し、実施例では133kw(5491rpm時)と明らかに増大しており、有意差が認められた。また、回転数の全域にわたって、実施例は他の三例と比べて馬力が増大している。この結果は、実施例のナイロン極短繊維が潤滑油に減摩作用を与え、潤滑効果を高めたことによるものと考えられる。
【0024】
[b]排気ガス中の黒鉛の計測実験
1.実験自動車
車名及び型式:表2に記載のとおりの実験例1〜9の計9台(実験例1,4,5,6,7,9の車名はトヨタ自動車株式会社の商品名、実験例2の車名はマツダ株式会社の商品名、実験例3の車名は日野自動車株式会社の商品名、実験例8の車名は日産自動車株式会社の商品名)
ディーゼルエンジン:表2に記載のとおり
2.黒鉛測定器
日本電装株式会社製の商品名「北川式ジーゼル排気黒鉛測定器ST−100型」
使用ろ紙:光明理化学工業株式会社の商品名「ジーゼル排気黒鉛測定器ST−100、100N型用ろ紙」
【0025】
【表2】

【0026】
3.比較例の計測実験
まず、実験例1〜9の各実験自動車について、各エンジンに以前から入っていて使用中の潤滑油(添加剤無添加)を、引き続き比較例の潤滑油として使用した。同潤滑油の入ったエンジンを運転し、排気ガス中の黒鉛を計測した。具体的には、黒鉛測定器の取扱説明書に記載された方法に準拠して、排気ガスをろ紙に通し黒鉛を付着させ、その黒鉛を光学的に読み取ることにより黒鉛量を計測した。計測は3回行い、その平均値を算出した(以下、同じ)。
【0027】
4.実施例の計測実験
実施例の潤滑油は、市販の潤滑油(前記「アポロイル プロメンテ SJ/CF−4 10W−30」)の200mlに、実施例の添加剤であるナイロン極短繊維の0.03gを添加して高添加原液を作成した。そして、実験例1〜9の各実験自動車について、前記使用中の潤滑油が注入されたままの同エンジンに、この高添加原液の200mlを追加的に注入し、同エンジン内で実施例の添加剤添加の潤滑油を循環攪拌して作成し、同エンジンを運転して同様に排気ガス中の黒鉛を計測した。実験例1〜9の各遠心は潤滑油の容量が異なることから、同潤滑油中の添加剤の割合は実験例1〜9毎に異なる。
【0028】
5.黒鉛の計測結果
表2に、実験例1〜9における排気ガス中の黒鉛を示す。いずれの実験例1〜9においても、比較例に対し、実施例では黒鉛が減少している。その減少量は、平均値どうしの比較で4〜24%である。この結果は、実施例のナイロン極短繊維が潤滑油に減摩作用を与え、潤滑効果を高めたことにより、エンジンの負荷が軽減されたためと考えられる。
【0029】
[c]燃費の計測実験
1.実験自動車
表2における実験例9の実験自動車(車名「カルディナ」)
【0030】
2.比較例の計測実験
まず、表2における実験例9の比較例の黒鉛計測実験を行う前に、そのエンジンに以前から入っていて使用中の潤滑油(添加剤無添加)を、引き続き比較例の潤滑油として使用して、自動車の燃費を計測した。具体的には、燃料タンクを軽油で満タンにしてから自動車を十分に走行させ、その走行距離を、再び燃料タンクを軽油で満タンにしたときの給油量で除して、1l当たりの走行距離を算出した(いわゆる満タン法)。
【0031】
3.実施例の計測実験
次に、表2における実験例9の実施例の黒鉛計測実験を行った後の自動車(ナイロン極短繊維添加の潤滑油が入ったまま)の燃費を、同様に満タン法で計測した。
【0032】
4.燃費の計測結果
比較例の燃費の平均値は12.6km/l(走行距離累計9199km/給油累計727.4l)であったのに対し、実施例の燃費の平均値は13.4km/l(走行距離累計4973km/給油累計371l)と向上しており、その向上率は6.35%である。この結果は、実施例のナイロン極短繊維が潤滑油に減摩作用を与え、潤滑効果を高めたことによるものと考えられる。
【0033】
以上のとおり、実施例の添加剤は、極めて少量の添加で潤滑油に減摩作用を与え、潤滑油による潤滑効果を高めることから、トルクと馬力を増大させ、排気ガス中の黒鉛量を減少させ、また、燃費を向上させることができる。
【0034】
なお、本発明は前記実施例の構成に限定されず、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施例の潤滑油又は比較例等の潤滑油を使用したときのトルク曲線を示すグラフである。
【図2】実施例の潤滑油又は比較例等の潤滑油を使用したときの馬力曲線を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均長が0.1mm〜2mmの極短繊維からなる潤滑油の添加剤。
【請求項2】
平均長が0.1mm〜2mmの極短繊維が添加された潤滑油。
【請求項3】
前記極短繊維がナイロン繊維である請求項1記載の潤滑油の添加剤又は請求項2記載の潤滑油。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−161007(P2006−161007A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−358743(P2004−358743)
【出願日】平成16年12月10日(2004.12.10)
【出願人】(301061333)北日本化学工業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】