説明

濃度測定装置、濃度測定システム、及び濃度測定方法

【課題】石綿粒子の検出精度の高さを維持しつつ石綿濃度の迅速な測定が可能な濃度測定装置を提供する。
【解決手段】濃度測定装置10は、薄膜フィルタを用いたろ過により大気中に浮遊する粉塵から所定の大きさ以下の粒子を抽出するろ過部11と、有機物を灰化する灰化部13と、ろ過部11及び灰化部13を通過した後の流路14内を通過する粉塵に含まれる繊維状粒子をカウントするカウント部20とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濃度測定装置、濃度測定システム、及び濃度測定方法に関し、特に、気体中に浮遊する粉塵の濃度を測定する濃度測定装置、濃度測定システム、及び濃度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石綿(アスベスト)は、人体に重度の健康障害(例えば、石綿肺、肺がん、中皮腫)を生ずる有害物と認識されるようになって以来、労働安全衛生法などによりアスベストの製造、使用等が禁止されているが、現在においても、建材として建築物に組み込まれているものがある。
【0003】
そこで、建築物の解体作業等を行う労働者などの石綿による健康障害の発生を予防するために、労働安全衛生法には、有害な石綿等の粉塵(粉じん)の発散を防止又は抑制するための石綿障害予防規則などが規定されている。また、大気汚染防止法では、繊維状(円柱状)粒子である石綿の濃度が空気1リットルあたり10本以下という基準値を満たすように規定されている。
【0004】
また、建築物の解体作業等を行う事業者は、石綿含有建材などの除去作業を行う作業場内部(屋内)から外部(屋外)への石綿含有粉塵の飛散がないか否かを監視するために、屋内や屋外で大気から捕集した石綿含有粉塵の大気中濃度(以下、「石綿濃度」という)を、図7を用いて後述するタイミングで測定している。
【0005】
石綿濃度測定方法としては、大気をろ過した際に捕捉した粒子を位相差顕微鏡(phase-contrast microscope)で直接的に観察して行う方法がある(以下、「PCM法」という)。
【0006】
上記PCM法では、まず、大気を吸引することにより、所定の体積の大気中に含まれる石綿粒子などを含む粉塵を捕集(サンプリング)する。この際、薄膜フィルタ(membrane filter)を用いることにより、捕集される粒子の大きさを数百μm以下にする。次に、測定員は、電子顕微鏡を使用して、薄膜フィルタ上の粒子、即ち捕集した粒子の中から繊維状粒子を探し出す。ここで、繊維状粒子としては、その長さが5μm以上、直径(幅)が3μm未満、及び長さと幅の比の値を示すアスペクト比が3以上であるものが測定員によって探し出される。そして、このようにして探し出された繊維状粒子を石綿粒子として測定員が実際にカウントすることにより、所定体積あたりの石綿粒子の数、即ち大気中の石綿濃度が得られる。
【0007】
図7は、従来のPCM法による石綿濃度測定のタイミングを示すタイミングチャートである。
図7に示すように、従来のPCM法は、例えば建築物等の解体作業の全工程において、作業前、作業中、作業後の3回に亘って実行される。さらに、必要に応じて解体作業中の各工区の終了時にも実行される。このようにして複数回実行されたPCM法による石綿濃度の測定結果は、解体作業の施工記録に記録される。
【0008】
また、上記PCM法とは別の石綿濃度測定方法として、日本工業規格の規格番号JIS A 1481(2006年3月25日)に規定された「建材製品中のアスベスト含有率測定方法(Determination of asbestos in building material products)」(以下、「JIS法」という)がある。
【0009】
このJIS法は、定性分析としての「位相差顕微鏡を使用した分散染色法による分散色の確認」(以下、「分散染色法」という)と、定量分析としてのX線回折分析法とを組み合わせたものである。分散染色法では、試料の形状及び試料の屈折率による色の変化を観察することにより、繊維状粒子の中から石綿粒子を識別する。これにより、石綿の有無を識別することができる。X線回折分析法では、石綿にX線を照射したときに測定されたX線回折強度に基づいて石綿を定量する。
【0010】
また、PCM法や分散染色法とは異なり、流体中の粒子から石綿などの繊維状粒子を自動的に検出する浮遊粒子測定装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この浮遊粒子測定装置は、まず、流体中に浮遊する粒子を電界方向に配向させ、次いで、当該粒子にレーザ光を照射することにより得られる散乱光の偏光の垂直成分と水平成分を検出している。この検出の結果、偏光の垂直成分が水平成分よりも大きいとき、即ち正の偏光が得られたときに、流体中の粒子が繊維状粒子であると識別される。
【特許文献1】特許第2881731号公報(段落0020,0021、及び図7,図8)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述したPCM法及び浮遊粒子測定装置では、測定対象の粒子の中から繊維状粒子を高い精度で識別することはできるものの、当該繊維状粒子が有機物や他の鉱物繊維である可能性も含まれている。同様に、上記X線回折分析法では、石綿のX線回折ピークと、石綿ではないアンチゴライトやリザルダイトのX線回折ピークが重複するため、アンチゴライトやリザルダイトが測定対象に含まれている場合には、正確な定量を行うことができない。したがって、いずれの石綿濃度測定方法であっても、石綿濃度測定の精度が十分に高いとは云えない。
【0012】
また、分散染色法では、捕集した粉塵の中から石綿粒子を正確に識別できるものの、測定員が石綿粒子をカウントする必要があるため、測定結果に個人差が生じ、測定結果の信頼性に乏しい。
【0013】
同様に、PCM法でも、測定員が繊維状粒子の識別を行うため、測定結果の信頼性に乏しい。また、PCM法では、石綿濃度の測定結果が得られるまでに1日〜7日と多大な時間を必要とするため、簡便な測定方法であるとは云えない。さらには、測定結果が得られるまでの期間内に、石綿等の粉塵の発散、さらには、建築物等の解体等の作業を行う労働者や作業場周辺地域の住民などへの石綿等の曝露(ばく露)が発生する可能性があり、労働者や住民の安全性が十分に確保されているとは云えない。したがって、石綿濃度を迅速に測定することが求められている。
【0014】
さらに、上記X線回折分析法では、大型のX線回折装置(XRD:X-ray diffractometer)を用いて詳細な分析を行う必要があるため、石綿濃度測定を作業場の近傍で簡便に行うことができない。その結果、石綿濃度の測定結果が得られるまでに多大な時間を必要とする。したがって、上記同様に、石綿濃度を迅速に測定することが求められている。
【0015】
本発明は、上述したような従来の問題に鑑みなされたものであって、その目的は、石綿粒子の検出精度の高さを維持しつつ石綿濃度の迅速な測定が可能な濃度測定装置、濃度測定システム、及び濃度測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1記載の濃度測定装置は、気体中に浮遊する粉塵の濃度を測定する濃度測定装置において、フィルタを用いてろ過することにより、前記粉塵から所定の大きさ以下の粒子を抽出するろ過部と、有機物を灰化する灰化部と、前記ろ過部及び前記灰化部を通過した後の前記粉塵に含まれる繊維状粒子をカウントするカウント部とを備えることを特徴とする。
本発明の濃度測定装置によれば、気体中に浮遊する粉塵に含まれる繊維状粒子を選択的にカウントすることができる。
【0017】
請求項2記載の濃度測定装置は、請求項1記載の濃度測定装置において、前記灰化部は、プラズマ発生装置及び発熱装置の少なくとも一方を含むことを特徴とする。
本発明の濃度測定装置によれば、気体中に浮遊する粉塵に含まれる有機物を効率的に灰化させることができる。
【0018】
請求項3記載の濃度測定装置は、請求項1又は2記載の濃度測定装置において、前記カウント部は、前記ろ過部及び前記灰化部を通過した後の前記粉塵に対してレーザ光を照射する光照射部と、前記粉塵からのレーザ光の散乱光の強度を測定する散乱光強度測定部と、前記散乱光の強度に基づいて前記粉塵に含まれる粒子の中から前記繊維状粒子を識別する識別部とを含むことを特徴とする。
本発明の濃度測定装置によれば、気体中に浮遊する粉塵に含まれる繊維状粒子を光学的にカウントすることができる。
【0019】
上記目的を達成するために、本発明の請求項4記載の濃度測定システムは、上記濃度測定装置と、当該濃度測定装置に接続され、前記カウント部によりカウントされた前記繊維状粒子の数に基づいて前記粉塵の解析を行う解析装置とを備えることを特徴とする。
本発明の濃度測定システムによれば、気体中に浮遊する粉塵に含まれる繊維状粒子を選択的にカウントすることができる。
【0020】
請求項5記載の濃度測定システムは、請求項4記載の濃度測定システムにおいて、前記濃度測定装置を操作する操作部を備えることを特徴とする。
本発明の濃度測定システムによれば、濃度測定装置を遠隔的に操作することができる。
【0021】
請求項6記載の濃度測定システムは、請求項4又は5記載の濃度測定システムにおいて、前記解析装置による前記粉塵の解析の結果、前記気体中の前記繊維状粒子の濃度が所定の閾値以上であるか否かを判別する判別部を備えることを特徴とする。
本発明の濃度測定システムによれば、繊維状粒子の濃度が所定の閾値以上であるときに、ユーザは安全対策を行うことができる。
【0022】
上記目的を達成するために、本発明の請求項7記載の濃度測定方法は、濃度測定装置を用いて気体中に浮遊する粉塵の濃度を測定する濃度測定方法において、フィルタを用いてろ過することにより、前記粉塵から所定の大きさ以下の粒子を抽出するろ過ステップと、有機物を灰化する灰化ステップと、前記ろ過ステップ及び前記灰化ステップの実行後の前記粉塵に含まれる繊維状粒子をカウントするカウントステップとを有することを特徴とする。
本発明の濃度測定方法によれば、気体中に浮遊する粉塵に含まれる繊維状粒子を選択的にカウントすることができる。
【0023】
請求項8記載の濃度測定方法は、請求項7記載の濃度測定方法において、前記灰化ステップでは、プラズマ発生装置及び発熱装置の少なくとも一方を用いることを特徴とする。
本発明の濃度測定方法によれば、気体中に浮遊する粉塵に含まれる有機物を効率的に灰化させることができる。
【0024】
請求項9記載の濃度測定方法は、請求項7又は8記載の濃度測定方法において、前記カウントステップは、前記ろ過ステップ及び前記灰化ステップの実行後の前記粉塵に対してレーザ光を照射する光照射ステップと、前記粉塵からのレーザ光の散乱光の強度を測定する散乱光強度測定ステップと、前記散乱光の強度に基づいて前記粉塵に含まれる粒子の中から前記繊維状粒子を識別する識別ステップとを含むことを特徴とする。
本発明の濃度測定方法によれば、気体中に浮遊する粉塵に含まれる繊維状粒子を光学的にカウントすることができる。
【0025】
請求項10記載の濃度測定方法は、請求項7乃至9のいずれか1項に記載の濃度測定方法において、前記カウントステップにおいてカウントされた前記繊維状粒子の数に基づいて前記粉塵の解析を行う解析ステップを有することを特徴とする。
本発明の濃度測定方法によれば、気体中に浮遊する粉塵に含まれる繊維状粒子を選択的にカウントすることができる。
【0026】
請求項11記載の濃度測定方法は、請求項7乃至10のいずれか1項に記載の濃度測定方法において、前記濃度測定装置を操作する操作ステップを有することを特徴とする。
本発明の濃度測定方法によれば、濃度測定装置を遠隔的に操作することができる。
【0027】
請求項12記載の濃度測定方法は、請求項10又は11記載の濃度測定方法において、前記解析ステップにおける前記粉塵の解析の結果、前記気体中の前記繊維状粒子の濃度が所定の閾値以上であるか否かを判別する判別ステップを有することを特徴とする。
本発明の濃度測定方法によれば、繊維状粒子の濃度が所定の閾値以上であるときに、ユーザは安全対策を行うことができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、有機物を灰化するので石綿粒子の検出精度の高さを維持することができると共に、濃度測定装置が自動的に繊維状粒子をカウントするので石綿濃度測定を迅速に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る濃度測定装置を含む濃度測定システムの構成を概略的に示すブロック図である。
【0030】
図1に示す濃度測定システム1は、例えば石綿含有建材の除去作業を密封空間(セキュリティゾーン)内で行う作業場40及びその周辺地域において使用されるものであり、例えば5台の濃度測定装置10と、当該濃度測定装置10に有線ケーブルを介してシリアル通信可能に接続された解析装置30とを備える。濃度測定システム1において、各濃度測定装置10は、局所的な大気中に浮遊する粉塵の濃度を測定し、解析装置30は、濃度測定装置10から受信した測定データに基づいて大気内に含まれていた粉塵の解析を行う。なお、作業場40は密封空間であるが、除去作業を行う労働者などは出入口41から出入り可能である。
【0031】
濃度測定装置10は、図1に示すように、建物境界内であって2つの作業場40の集塵器42の近傍に1台ずつ据付けで設置されており、建物境界から敷地境界までの間であって該敷地境界の近傍、例えば北側及び南側に1台ずつ据付けで設置されており、建物境界外から敷地境界までの間で移動自在に1台設置されている。
【0032】
解析装置30は、建物境界外から敷地境界までの間に設けられた現場事務所(不図示)内に設置されており、パーソナルコンピュータ(PC)31などの演算処理が可能な情報処理装置によって実現される。PC31には、データを記録するための記録部32と、データに基づいた表示を行うための表示部33と、上記5台の濃度測定装置10と接続するためのインターフェース34とが接続されている。
【0033】
また、解析装置30は、インターネットなどの通信回線を介して本社50及び支店51内のPCに接続されていると共に、無線の通信回線を介して携帯端末52と接続可能に構成されている。さらに、解析装置30は、各濃度測定装置10の電源のオン/オフや、移動自在に設置された濃度測定装置10の移動方向などを制御するためにユーザが操作する操作部(不図示)を備える。これにより、各濃度測定装置10を遠隔的に操作することができる。
【0034】
上記携帯端末52は、例えば携帯電話から成り、作業場40を監督する現場監督者が所有することが好ましい。
【0035】
なお、濃度測定システム1が備える濃度測定装置10は、図1では5台であるが、1台以上であれば何台であってもよい。また、濃度測定装置10を作業場40の内部(屋内)に設置してもよい。また、濃度測定装置10は、解析装置30と有線ケーブルを介して接続されているとしたが、無線の通信回線を介して接続されてもよい。
【0036】
図2は、図1における濃度測定装置10の構成を示すブロック図である。
図2に示すように、濃度測定装置10は、ろ過部11と、灰化部13と、エアーポンプ15とを備え、各部の間には流路12,14が設けられており、また、流路14の周囲には、カウント部20が設置されている。エアーポンプ15は、例えば毎分2リットルで気体の等速吸引を行い、これにより、ろ過部11を介して捕集した粉塵を含む大気は、ろ過部11、流路12、灰化部13、及び流路14を順次通過する。
【0037】
ろ過部11には、濃度測定装置10の外部の大気を吸入すべく、中空の略テーパ形状に加工された取入口が設けられている。また、ろ過部11の内部にも流路が形成されており、該流路には、例えば孔径が0.8μm、直径45mmの薄膜フィルタが該流路に対して垂直に挿入されている。該薄膜フィルタは、流路内を通過する大気中の粉塵をろ過する。これにより、大気に含まれていた粉塵から、所定の大きさ、例えば粒径700μm以下の粒子が濃度測定装置10の測定対象の粒子として抽出される。
【0038】
灰化部13には、内部にプラズマ発生装置が搭載されており、該プラズマ発生装置は、灰化部13内部に形成された流路内にプラズマを発生させる。これにより、流路内を通過する粒子のうち、有機物は、瞬時に灰化(無機化)し、粒径が5μm以下の微粒子となる。
【0039】
カウント部20は、図3を用いて後述するように、ろ過部11及び灰化部13内を通過した後の粉塵に含まれる繊維状粒子をカウントするように構成されており、濃度測定装置10は、カウント部20で得られたカウント値、即ち繊維状粒子の数をデータとして解析装置30に送信する。
【0040】
図2の構成によれば、濃度測定装置10の各部が一体的に構成されているので、粉塵の捕集から石綿濃度の測定までを一連して行うことができる。この結果、作業場40内部や作業場40近傍における石綿濃度の測定を迅速に行うことができるだけでなく、終日に亘るリアルタイムの石綿濃度の測定が可能となる。また、濃度測定装置10の各部を小型の装置で構成することにより、作業場40内部や作業場40近傍への運搬が容易となる。また、ユーザは、エアーポンプ15の電源をオンするなどの操作だけで済むので、簡便に石綿濃度測定を行うことができる。
【0041】
なお、灰化部13には、プラズマ発生装置が搭載されているとしたが、プラズマ発生装置に代えて発熱装置としてのヒータが搭載されていてもよく、また、プラズマ発生装置及びヒータの双方が搭載されていてもよい。すなわち、灰化部13は、有機物を灰化させることが可能な構成であればいかなる構成であってもよい。
【0042】
また、図2において、ろ過部11と灰化部13の配置を入れ替えてもよい。さらには、流路12用のエアーポンプを灰化部13内に設けてもよい。これにより、灰化部13による有機物の灰化に時間を費やすことができる。
【0043】
図3は、図2におけるカウント部20の構成を詳細に示すブロック図である。
図3において、カウント部20は、レーザ光を出射するレーザ21と、流路14を介して対向するように該流路14上に設けられた一対の光学窓24a,24bと、光学窓24bを通過した光、即ち透過光を受光するフォトダイオード26と、光学窓24aから導出された散乱光を受光するフォトマルチプライヤ(光電子増倍管)29a,29bとを備える。
【0044】
レーザ21としては、波長が632.8nmのレーザ光を出射するヘリウムネオンレーザであることが好ましいが、ヘリウムネオンレーザに限られることはなく、石綿粒子を光学的に検出するのに適した波長の光を出射可能な光源であればいかなるものを用いてもよい。
【0045】
また、図3に示すように、レーザ21と流路14の間には、レーザ21が出射したレーザ光を、光学窓24aを介して流路14内に導光すべく反射ミラー22,23が配置されている。したがって、レーザ21、反射ミラー22,23、及び光学窓24aは、ろ過部11及び灰化部13内を既に通過した大気中の粉塵に対してレーザ光を照射する光照射部として機能する。
【0046】
さらに、流路14とフォトダイオード26の間には、光学窓24a,24bを通過したレーザ光即ち透過光をフォトダイオード26に導光すべく反射ミラー25が配置されている。
【0047】
光学窓24aと、フォトマルチプライヤ(光電子増倍管)29a,29bの間には、光学窓24aから導出された散乱光を偏光させるアクロマティックレンズ(色収差補正レンズ)27と、アクロマティックレンズ27を通過することによって得られた偏光をその垂直成分と水平成分とに分光するプリズム28aを内包するビームスプリッタ28とが配置されている。なお、散乱光としては、図3に示すように、光学窓24aに入射する入射光に対して後方、例えば170度の方向の散乱光を用いることが好ましい。これにより、アスペクト比が3以上の繊維状粒子を容易に検出することができる。
【0048】
また、フォトマルチプライヤ29aは、受光した散乱光の偏光の水平成分の光強度を測定し、フォトマルチプライヤ29bは、受光した散乱光の偏光の垂直成分の光強度を測定する。フォトマルチプライヤ29a,29bは、識別部29cに接続されており、測定した散乱光の偏光の光強度を識別部29cに入力する。
【0049】
識別部29cは、散乱光の偏光の水平成分及び垂直成分の光強度を比較し、偏光の垂直成分が水平成分よりも大きいとき、即ち正の偏光が得られたときに、捕集した粉塵中の粒子が石綿などの繊維状粒子であると識別し、この繊維状粒子を光学的にカウントするように構成されている。
【0050】
次に、濃度測定装置10のカウント部20において実行される石綿粒子のカウント方法について説明する。
【0051】
まず、流路14内には、ろ過部11及び灰化部13内を既に通過した粉塵を含む大気が図中の矢印A方向に通過しており、流路14内の粉塵などの粒子は、光学窓24a,24b近傍において流路14を挟持する一対の電極(不図示)から生じた電界の方向に配向している。
【0052】
レーザ21からのレーザ光は、光学窓24aを介して流路14に向かって入射する。このとき、レーザ光の透過光は光学窓24bから出射してフォトダイオード26に入射する。一方、流路14内の粉塵の粒子により散乱したレーザ光、即ち散乱光は、光学窓24aから出射してビームスプリッタ28を介してフォトマルチプライヤ29a,29bに入射する。ここで、散乱光は、レーザ光が照射された粉塵の粒子のうち、所定の粒径以上、例えば5μm以上の粒子から得られる。したがって、灰化した有機物は粒径が5μm以下であるため、濃度測定装置10の測定対象から除外される。これにより、繊維状粒子が石綿粒子である可能性を高めることができ、もって濃度測定装置10による石綿濃度測定の精度を十分に確保することができる。具体的には、濃度測定装置10は、測定員が分散染色法などにより繊維状粒子を検出するよりも高い石綿粒子の検出精度を有する。
【0053】
フォトマルチプライヤ29a,29bに入射した散乱光の光強度は、測定データとして上記識別部29cに入力され、識別部29cは、この光強度の測定データに基づいて粉塵に含まれる粒子の中から繊維状粒子を識別すると共にカウントする。
【0054】
なお、カウント対象の繊維状粒子には、ガラス繊維やロックウールなどの無機物が含まれている場合もあるが、これらも石綿粒子とみなしてカウントすることにより、濃度測定装置10は、より安全性の高い測定結果を得ることができる。
【0055】
図4は、図1における解析装置30において実行される測定結果リアルタイム表示処理のフローチャートである。
【0056】
図4において、まず、ステップS401では、解析装置30は、濃度測定装置10から繊維状粒子の数を示すカウント値を受信する。次いで、解析装置30は、濃度測定装置10が粉塵を含む大気をサンプリングしたときの採気量と、濃度測定装置10から受信したカウント値とに基づいて、大気中の石綿濃度を算出する(ステップS402)。なお、採気量は、エアーポンプ15の吸引力によって決まるサンプリング対象である気体の流速と、ろ過部11の吸入口の断面積とから算出することができる。したがって、解析装置30に各濃度測定装置10の採気量などのデータを予め登録しておくことが好ましい。
【0057】
続くステップS403では、解析装置30は、算出した石綿濃度を濃度測定装置10の測定結果として表示部33上にリアルタイム表示する。
【0058】
また、解析装置30は、算出した石綿濃度が所定の閾値以上であるか否かを判別する(ステップS404)。該判別の結果、石綿濃度が閾値以上でないときは、算出した石綿濃度などのデータを本社50や支店51のPCに送信する(ステップS405)。この閾値としては、法令で定められた石綿濃度に対応する数値か、又はそれ以上に厳しい基準値を設定することが好ましい。
【0059】
次に、ステップS406では、ステップS403のリアルタイム表示を終了するか否かを判別し、該判別の結果、リアルタイム表示を終了しないときは、リアルタイム表示を継続すべくステップS401に戻り、一方、リアルタイム表示を終了するときは、本処理を終了する。
【0060】
また、ステップS404の判別の結果、算出した石綿濃度が所定の閾値以上であるときには、ステップS403のリアルタイム表示に加えて所定の警告表示を行うと共に(ステップS407)、石綿濃度などのデータ及び石綿濃度が閾値以上である旨のデータを携帯端末52並びに本社50及び支店51のPCに送信し(ステップS405)、ステップS406に進む。なお、警告表示の際に、警告音を発してもよい。
【0061】
図4の処理によれば、解析装置30の表示部33上に濃度測定装置10による石綿濃度の測定結果がリアルタイム表示される(ステップS403)ので、ユーザは、作業場40を含む周辺地域の常時監視を行うことができる。
【0062】
また、図4の処理によれば、リアルタイム表示の際に、石綿濃度が閾値以上であれば警告表示がなされる(ステップS407)ので、ユーザは、濃度測定装置10の設置場所である測定場所を優先的に確認することなどによって、安全対策を効率的に行うことができ、もって、労働者や周辺住民の安全性を向上させることができる。また、この警告表示は、リアルタイム表示の際に行われるので、石綿等の粉塵の発散、さらには、建築物等の解体等の作業を行う労働者や作業場周辺地域の住民などへの石綿等の曝露(ばく露)が発生した場合であっても、従来技術のように、測定結果が得られていないということを確実に無くすことができる。
【0063】
図5は、図4のステップS403において解析装置30の表示部33上に表示される測定結果リアルタイム表示画面の一例を示す模式図である。
【0064】
図5に示す測定結果リアルタイム表示画面330は、解析装置30のPC31により表示部33上に表示されるものである。この測定結果リアルタイム表示画面330上には、稼働状況表示領域331と、判定結果表示領域332と、測定場所表示領域333と、最新値表示領域334と、2時間平均値表示領域335と、測定結果表示領域336とが配置されている。
【0065】
測定場所表示領域333には、濃度測定装置10が設置されている場所、即ち測定場所が表示される。測定場所表示領域333を不図示のキーボードなどを用いて選択することにより、測定場所の変更、即ち石綿濃度の測定結果を表示すべき濃度測定装置10を選択することが可能である。
【0066】
稼働状況表示領域331には、測定場所表示領域333に表示されている測定場所に設置されている濃度測定装置10の稼働状況、例えば「測定中」が表示される。最新値表示領域334には、測定された石綿濃度の最新値が表示される。2時間平均値表示領域335には、最新値を含む2時間に亘って測定された石綿濃度の平均値が表示される。
【0067】
判定結果表示領域332には、最新値表示領域334に表示されている石綿濃度の最新値が正常であるのか又は異常であるのかの判別結果、即ち、上述した図4のステップS404の判別結果が表示される。また、2時間平均値表示領域335に表示されている石綿濃度の平均値が閾値以上である場合にも、判定結果表示領域332に判別結果として異常である旨が表示される。なお、異常である旨を表示する場合には、例えば赤色を用いた強調表示が行われる。
【0068】
測定結果表示領域336には、石綿濃度の測定結果が図6に示すようにタイムチャートとして表示される。
【0069】
また、PC31は、上述した各領域に表示したデータ及び警告表示の有無や、各濃度測定装置10から受信したカウント値などを測定時刻に関連付けて記録部32に記録する。なお、解析装置30は、各濃度測定装置10から受信したカウント値を直接的に記録部32に書き込み、PC31が記録部32に記録されているカウント値を読み出すように構成されていてもよい。
【0070】
図6は、図5における測定結果表示領域336に表示される測定結果の一例を示す図である。
図6において、縦軸は大気中における石綿等の粒子の数、即ち濃度を示しており、横軸は時間を示している。
【0071】
図6に示す実線Aは、上述した図4のステップS402の処理によって算出された石綿濃度の経時変化を示している。二点鎖線Bは、図2,図3の構成を有する濃度測定装置10において、図2の流路14内を通過する粒子の濃度の経時変化を示している。鎖線Cは、灰下部13を使用しなかった場合に検出される粒子の濃度の経時変化を示している。
【0072】
より具体的に説明すると、濃度測定対象の粒子は、鎖線Cの場合、ろ過部11を通過した粉塵に含まれる全粒子であり、二点鎖線Bの場合、ろ過部11を通過した粉塵のうち、有機物を除外した粒子、即ちさまざまな形状を有する無機物の粒子であり、実線Aの場合、ろ過部11を通過した粉塵のうち、有機物と、無機物のうち繊維状粒子以外の形状の粒子とを除外した粒子である。
【0073】
したがって、図6に示すように、大気中に含まれている粉塵にはさまざまな粒子が含まれていることが分かる。
【0074】
また、図6の鎖線C及び二点鎖線Bに示すように、測定される全粒子数や全粒子中の無機物の粒子の濃度は、午前8時から午後6時までの間では、作業時間内の作業や作業員の移動などの影響により地表面上の粉塵が大気中に曝露するため、閾値以下ではあるが高い数値を示し、一方、午後6時から午前8時までの間は、大気中に曝露していた粉塵が地表面上に沈降するため、非常に低い値を示す。
【0075】
一方で、図中の実線Aに示す石綿の濃度は、発散や曝露が無ければ、作業時間に依らず変化がなく、実際に測定される石綿粒子の数は、0〜1本である。
【0076】
したがって、石綿と思われる繊維状粒子を選択的に抽出することにより、より精度の高い石綿濃度の測定結果が得られることになる。
【0077】
また、図6は、作業場40の外部(屋外)の測定結果の一例を示したものである。一方、作業場40の内部(屋内)の場合にも、同様の傾向を示す測定結果が得られるが、この場合には、石綿の濃度が図6の実線Aに示す石綿濃度よりも高い場合が多い。したがって、屋内で石綿濃度の測定を行う場合には、屋外の場合の閾値よりも高い閾値を設定することが好ましい。
【0078】
また、図6に示すような石綿濃度の測定結果において、粒子の濃度が急峻に上昇して閾値以上の濃度を呈するパルス状の波形が現れることがある。具体的には、粒子の濃度が急峻に上昇し、その後、短時間で粒子の濃度が急峻に下降するような波形、即ち略長方形のパルス波形や、粒子の濃度が急峻に上昇し、その後、経時に伴って粒子の濃度が減衰するような波形、即ち略三角形のパルス波形が得られることがある。これらのような波形を含む全波形を予め解析しておき、記録部32に記憶させておくのが好ましい。
【0079】
波形の解析では、まず、パルス状の波形が現れないような条件下で得られた測定データ(基礎データ)の変化を示す平均値、分散、及び標準偏差などの各値を統計的に分析しておき、次に、パルス状の波形が現れるような条件下で得られた測定データと比較する。なお、図6の二点鎖線Bが示す全無機物の粒子数と実線Aが示す石綿粒子数との関係、例えば比の値の変化に基づいて、上述したような波形の解析を行ってもよい。
【0080】
このような波形の解析を行うことにより、例えば、上述した略長方形の波形は、ミラーの位置がずれたりフィルタが外れたりした場合などに発生する測定異常や、カウント部20に発生した振動などによる単なる測定エラーの場合に得られることが分かり、また、上述した略三角形の波形は、粉塵が大気中に突発的に曝露した場合に得られることが分かる。
【0081】
そして、図6に示したような測定結果が呈する部分波形と、上述した波形の解析結果とを比較して、測定結果の部分波形が、粉塵の曝露を示す波形であるのか否かを判別することにより、上記ステップS404において、測定された粒子の濃度が閾値以上であると判別された場合であっても、測定異常や測定エラーのときには警告表示等を行う必要をなくすことができる。この結果、ユーザは、測定場所の確認などの安全対策を効率的に行うことができる。
【0082】
なお、上述した実施の形態において、濃度測定装置10は、さらに、PCM法などの従来の石綿濃度測定方法との比較や校正が実行可能に構成されていることが好ましい。これにより、測定結果の信頼性をより向上させることができる。
【0083】
また、上記実施の形態では、濃度測定装置10の測定対象として、大気中の粉塵に含まれる繊維状粒子である石綿粒子を例に挙げたが、他の繊維状粒子であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の実施の形態に係る濃度測定装置を含む濃度測定システムの構成を概略的に示すブロック図である。
【図2】図1における濃度測定装置の構成を示すブロック図である。
【図3】図2におけるカウント部の構成を詳細に示すブロック図である。
【図4】図1における解析装置において実行される測定結果リアルタイム表示処理のフローチャートである。
【図5】図4のステップS403において解析装置の表示部上に表示される測定結果リアルタイム表示画面の一例を示す模式図である。
【図6】図5における測定結果表示領域に表示される濃度測定装置による測定結果の一例を示す図である。
【図7】従来のPCM法による石綿濃度測定のタイミングを示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0085】
1 濃度測定システム
10 濃度測定装置
11 ろ過部
12,14 流路
13 灰化部
15 エアーポンプ
20 カウント部
21 レーザ
29a,29b フォトマルチプライヤ(光電子増倍管)
29c 識別部
30 解析装置
33 表示部
40 作業場
42 集塵器
330 測定結果リアルタイム表示画面
333 測定場所表示領域
334 最新値表示領域
336 測定結果表示領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体中に浮遊する粉塵の濃度を測定する濃度測定装置において、
フィルタを用いてろ過することにより、前記粉塵から所定の大きさ以下の粒子を抽出するろ過部と、
有機物を灰化する灰化部と、
前記ろ過部及び前記灰化部を通過した後の前記粉塵に含まれる繊維状粒子をカウントするカウント部とを備えることを特徴とする濃度測定装置。
【請求項2】
前記灰化部は、プラズマ発生装置及び発熱装置の少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1記載の濃度測定装置。
【請求項3】
前記カウント部は、前記ろ過部及び前記灰化部を通過した後の前記粉塵に対してレーザ光を照射する光照射部と、前記粉塵からのレーザ光の散乱光の強度を測定する散乱光強度測定部と、前記散乱光の強度に基づいて前記粉塵に含まれる粒子の中から前記繊維状粒子を識別する識別部とを含むことを特徴とする請求項1又は2記載の濃度測定装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の濃度測定装置と、当該濃度測定装置に接続され、前記カウント部によりカウントされた前記繊維状粒子の数に基づいて前記粉塵の解析を行う解析装置とを備えることを特徴とする濃度測定システム。
【請求項5】
前記濃度測定装置を操作する操作部を備えることを特徴とする請求項4記載の濃度測定システム。
【請求項6】
前記解析装置による前記粉塵の解析の結果、前記気体中の前記繊維状粒子の濃度が所定の閾値以上であるか否かを判別する判別部を備えることを特徴とする請求項4又は5記載の濃度測定システム。
【請求項7】
濃度測定装置を用いて気体中に浮遊する粉塵の濃度を測定する濃度測定方法において、
フィルタを用いてろ過することにより、前記粉塵から所定の大きさ以下の粒子を抽出するろ過ステップと、
有機物を灰化する灰化ステップと、
前記ろ過ステップ及び前記灰化ステップの実行後の前記粉塵に含まれる繊維状粒子をカウントするカウントステップとを有することを特徴とする濃度測定方法。
【請求項8】
前記灰化ステップでは、プラズマ発生装置及び発熱装置の少なくとも一方を用いることを特徴とする請求項7記載の濃度測定方法。
【請求項9】
前記カウントステップは、前記ろ過ステップ及び前記灰化ステップの実行後の前記粉塵に対してレーザ光を照射する光照射ステップと、前記粉塵からのレーザ光の散乱光の強度を測定する散乱光強度測定ステップと、前記散乱光の強度に基づいて前記粉塵に含まれる粒子の中から前記繊維状粒子を識別する識別ステップとを含むことを特徴とする請求項7又は8記載の濃度測定方法。
【請求項10】
前記カウントステップにおいてカウントされた前記繊維状粒子の数に基づいて前記粉塵の解析を行う解析ステップを有することを特徴とする請求項7乃至9のいずれか1項に記載の濃度測定方法。
【請求項11】
前記濃度測定装置を操作する操作ステップを有することを特徴とする請求項7乃至10のいずれか1項に記載の濃度測定方法。
【請求項12】
前記解析ステップにおける前記粉塵の解析の結果、前記気体中の前記繊維状粒子の濃度が所定の閾値以上であるか否かを判別する判別ステップを有することを特徴とする請求項10又は11記載の濃度測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−170335(P2008−170335A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−4818(P2007−4818)
【出願日】平成19年1月12日(2007.1.12)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】