炉心シュラウドの溶接方法
【課題】溶接構造物の溶接施工面の残留応力改善処理を図り、残留応力を圧縮応力としてSCC対策を施したもの。
【解決手段】本発明に係る炉心シュラウドの溶接方法は、溶接対象物を原子炉圧力容器内に据え付けられ炉心を取り囲む炉心シュラウド10または配管・容器とする。炉心シュラウド10の溶接方法は、被溶接物の炉心シュラウド10を据え付ける際、新炉心シュラウド11を基礎炉心シュラウド12上に現地溶接にて設置する方法である。この炉心シュラウド10の溶接方法は、新炉心シュラウド11を基礎炉心シュラウド12上に載置した後、シュラウド外面あるいはシュラウド内面側から反対側のシュラウド面に向って、複数パスの溶接ビード16を周方向に肉盛りして溶接ビードシーケンス15を順次形成していく際、シュラウド表面の残留応力が圧縮となるように、シュラウド半径方向の溶接位置に応じて溶接条件を選択する溶接方法である。
【解決手段】本発明に係る炉心シュラウドの溶接方法は、溶接対象物を原子炉圧力容器内に据え付けられ炉心を取り囲む炉心シュラウド10または配管・容器とする。炉心シュラウド10の溶接方法は、被溶接物の炉心シュラウド10を据え付ける際、新炉心シュラウド11を基礎炉心シュラウド12上に現地溶接にて設置する方法である。この炉心シュラウド10の溶接方法は、新炉心シュラウド11を基礎炉心シュラウド12上に載置した後、シュラウド外面あるいはシュラウド内面側から反対側のシュラウド面に向って、複数パスの溶接ビード16を周方向に肉盛りして溶接ビードシーケンス15を順次形成していく際、シュラウド表面の残留応力が圧縮となるように、シュラウド半径方向の溶接位置に応じて溶接条件を選択する溶接方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炉心シュラウドや配管・容器等の溶接構造物の溶接技術に係り、特に、炉心シュラウドを据え付けたり、主蒸気管や炉内配管等の各種配管や容器の構成メンバ同士を溶接する溶接構造物の溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電プラント等の各種発電プラントには、炉心シュラウドや各種配管の構成メンバ同士の溶接に溶接構造物が採用されている。この溶接構造物の応力腐食割れ(SCC)の発生や進展、疲労強度の低下等の原因には、溶接による熱膨張と塑性ひずみの発生に起因する残留応力がある。
【0003】
溶接構造物において、溶接による残留応力を低減する方法として、溶接後に冷却液を噴霧して材料に温度差を生じさせる方法(特許文献1参照)や残留応力解析により溶接構造物の溶接条件を求める方法(特許文献2参照)がある。
【0004】
また、追加の溶接による残留応力を低減する方法として、配管の補強溶接部の残留応力を低減させる方法(特許文献3参照)や、付加物を溶着する角巻き溶接部の残留応力を低減させる方法(特許文献4参照)が提案されている。
【特許文献1】特開2000−343270号公報
【特許文献2】特開平9−1376号公報
【特許文献3】特開平25−182393号公報
【特許文献4】特開平4−371387号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
各特許文献に開示された技術は、配管等の溶接構造物の溶接施工面の残留応力低減に関するものであり、溶接構造物の溶接施工裏面の残留応力低減は難しく、困難であるというものである。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するために、溶接構造物の溶接施工面の残留応力改善処理を図り、残留応力を圧縮応力にする溶接構造物の溶接方法を提供することを目的とする。
【0007】
本発明の他の目的は、炉心シュラウドや配管・容器等を溶接対象物とし、溶接される溶接対象物の軸方向残留応力成分および周方向残留応力成分を圧縮応力とし、応力腐食割れの発生を未然にかつ確実に防止することができる溶接構造物の溶接方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る炉心シュラウドの溶接方法は、上述した課題を解決するために、被溶接物を原子炉圧力容器内に据え付けられ炉心を取り囲む炉心シュラウドとし、上記炉心シュラウドを据え付ける際、新炉心シュラウドを基礎炉心シュラウド上に現地溶接にて設置する溶接方法において、前記新炉心シュラウドを基礎炉心シュラウド上に載置した後、シュラウド外面あるいはシュラウド内面側から反対側のシュラウド面に向って、複数パスの溶接ビードを周方向に肉盛りして溶接ビードシーケンスを順次形成していく際、シュラウド表面の残留応力が圧縮となるように、シュラウド半径方向の溶接位置に応じて溶接条件を選択する方法である。
【0009】
また、本発明に係る配管または容器の溶接方法は、上述した課題を解決するために、被溶接物を配管または容器とし、配管または容器の構成メンバ同士を突き合せてこの突合せ部を周方向に溶接して溶接ビードシーケンスを形成して一体化させる溶接方法において、前記配管または容器の構成メンバ同士を突き合せた後、構成メンバ突合せ部をその内面または外面側の一方向から反対方向の面に向けて複数の溶接ビードを周方向に順次肉盛りして溶接ビードシーケンスを形成していく際、前記配管または容器の構成メンバ表面溶接部の残留応力が圧縮となるように、溶接施工とメンバ外面側あるいはメンバ内面側から順次肉盛り溶接で行なう方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る溶接構造物(炉心シュラウドや配管・容器)の溶接方法においては、溶接構造物の溶接施工面の残留応力改善処理を図り、残留応力を圧縮応力となるように構成したので、SCC対策を施すことができ、応力腐食割れの発生を防止する炉心シュラウドや配管・容器を提供することができる。
【0011】
また、本発明では、溶接構造物である炉心シュラウドや配管・容器の溶接部の軸方向残留応力成分および周方向残留応力成分を共に圧縮応力として応力腐食割れの発生を未然にかつ確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係る溶接構造物の溶接方法の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
【0013】
[第1実施形態]
図1および図2は、沸騰水型原子炉の原子炉圧力容器内に据え付けられ炉心を取り囲む炉心シュラウド10を溶接対象物とした例を示す。沸騰水型原子炉では、炉心シュラウド10を据え付けたり、取り替える際に、取り替える場合は新炉心シュラウド11を旧炉心シュラウド12上に、また新規に据え付ける場合は上部に配される炉心シュラウド(以下新炉心シュラウドと呼ぶ)11を下部に配される基礎炉心シュラウド12上に周方向の全周溶接13にて肉盛りし、据え付けるようになっている。旧炉心シュラウド12は基礎炉心シュラウドを構成している。
【0014】
旧炉心シュラウド12は、主にインコネル材料で形成されており、インコネル製の筒状体上に同径のトーラスおよびワッシャ状のステンレス鋼製リング体を溶接肉盛りして一体に構成される。旧炉心シュラウド12は原子炉圧力容器内設置のシュラウドサポートに据え付けられる。
【0015】
新炉心シュラウド11は例えばステンレス鋼製で、旧炉心シュラウド12上に現地溶接にて据え付けられ、炉心シュラウド10が構成される。炉心シュラウド10は原子炉炉内に据え付けられ、数mφの直径を有し、シュラウド板厚(肉厚)は数10mm、好ましくは40mm〜50mm、炉心シュラウド10の軸方向高さは数m〜10mである。一例として、800MW、あるいは1100MWクラスの沸騰水型原子炉では、シュラウドの肉厚は40mm〜50mm程度であり、新炉心シュラウド11の軸方向高さが約7m程度である。旧炉心シュラウド12のリング体軸方向高さは数百mm、例えば300mm〜400mmである。
【0016】
旧炉心シュラウド12上に新炉心シュラウド11を全周に亘り現地溶接し、肉盛りする作業を、図2では炉心シュラウド10の外周面(外面)側からシュラウド反対側の面である内周面(内面)側に向けて行ない据え付ける例を示す。炉心シュラウド10の溶接作業は、通常、図3に示すように、略180°離れて直径方向に対向する2台の溶接機14を用いて実施される。2台の溶接機14は炉心シュラウド12の内側に対向配置されるが、シュラウド外側に配置してもよい。
【0017】
炉心シュラウド10の据付作業は、全体的にはSCC発生防止対策を考慮したもので、数段階、例えば3段階の溶接施工にて行なわれる。新炉心シュラウド11を旧炉心シュラウド12上に据え付ける溶接作業は、図2の溶接ビードシーケンス15で示すように、シュラウド外面からその内面に溶接ビード16を順に盛っていくことで実施される。
【0018】
溶接初期の第1ステップでは、複数パス、例えば1パス〜3パス溶接ビードが形成され、この溶接ビードの肉盛りで、シュラウド厚さの数分の1程度が溶着される。まず、1パス目の溶接(周方向の全周溶接)は、10KJ/cm以下の入熱量で、シュラウド内外面を大気環境下に露出した冷却環境状態で実施した。次に2パス目〜数パス、例えば3パス目の溶接は、1パス目と略同じ入熱量で溶接したが、シュラウド外面に強制的に空気を吹き付けて冷却し、シュラウド材料表面の温度が速く低下するように強制冷却しながら溶接を実施した。
【0019】
ここで、入熱量は、溶接に使用される電流や電圧の大きさおよび溶接速度により決定される。
【0020】
数パス目、例えば3パス目の溶接終了後には、シュラウド内面とその外面との環境が溶接で隔離されていると確認した上で、被曝低減のため、炉心シュラウド10の外面に水を満たした。その後、シュラウド板厚(肉厚)の約1/4付近の位置まで、初期入熱量と略同じ低い入熱量で溶接を行なった。
【0021】
次に、溶接中期の第2ステップでは、シュラウド板厚の1/4以降の入熱量を10〜30KJ/cmの範囲で初期入熱量より大きくし、大きくした入熱条件でシュラウド板厚の約3/4まで溶接を実施した。具体例としては、シュラウド板厚の約1/4から中央付近までは10KJ/cmから徐々に入熱量を大きくし、中央付近では20〜30KJ/cm、例えば25KJ/cmで溶接を行ない、その後3/4付近までは中央領域(付近)より若干小さい入熱量で溶接を実施した。中間領域の溶接である溶接中期は、シュラウド板厚の1/4〜3/4の範囲を溶接するものであり、この溶接中期の第2ステップでは、初期入熱量より大きな中期入熱量で、かつこの入熱量は10〜30KJ/cmの範囲で段階的あるいは連続的に、または、中央領域が大きくなるように変化させたり、また、一定の入熱量で溶接を行なった。
【0022】
また、シュラウド板厚の約3/4以降を溶接する溶接後期の第3ステップでは、再び入熱量を中期入熱量より低くし、かつシュラウド内面の冷却速度が大気中で溶接するよりも速くなるように、シュラウド内面に強制的に空気を吹き付けたり、強制冷却環境下で溶接を実施した。シュラウド板厚の後期入熱量は、中期入熱量より低く、また、初期入熱量と同等あるいは初期入熱量より大きく、あるいは小さい所要の範囲で溶接を実施した。
【0023】
新炉心シュラウド11を基礎炉心シュラウドである旧炉心シュラウド12上に据え付ける溶接作業を実施し、シュラウド内面と面一となる位置までシュラウド外面からシュラウド内面に向けて半径方向内方の一方向の溶接を行なった後、シュラウド内面を数パス、例えば3パス程度の全周肉盛り溶接を追加して実施し、追加溶接部17を数パスの周方向の溶接ビードで形成した。
【0024】
この炉心シュラウド10の溶接方法において、シュラウド肉厚の約3/4以降では、SCC発生抑制あるいは防止対策から、シュラウド内面の冷却速度が大気中で溶接するよりも速くなるように、シュラウド内面に強制的に冷却空気を吹き付けることで、圧縮の残留応力が引張り側に変化するのを防止している。
【0025】
図4(A)および(B)は、従来の炉心シュラウドの溶接方法と本発明による炉心シュラウドの溶接方法を実施して形成される炉心シュラウドのシュラウド外面の残留応力分布を比較したものである。
【0026】
図4(A)に示される従来の炉心シュラウドの溶接方法では、SCC発生抑制対策が施されていない。従来の炉心シュラウドの溶接方法ではSCCの発生を抑制する見地から溶接の入熱条件を考慮した着想や発想は存在しない。従来の炉心シュラウドでは、溶接の冷却環境は、1〜3パスの溶接がシュラウド内外面が大気中に露出の環境下で行なわれ、4パス目以降にシュラウド外面側に水を入れ、シュラウド外面が水中で、シュラウド内面が大気中環境下で溶接を実施した。溶接の入熱条件の配慮は特にしていない。従来の炉心シュラウドの溶接方法で溶接した新炉心シュラウドと旧炉心シュラウドの溶接部近傍の軸方向残留応力成分は圧縮であったものの、周方向残留応力成分は引張りであり、SCC発生要因を作り出す原因となっている。
【0027】
これに対し、図4(B)は本発明に係る炉心シュラウドの溶接方法を実施して得られるシュラウド外面の残留応力分布を示すものである。
【0028】
SCC発生防止あるいは抑制対策を施した本発明の炉心シュラウド10の溶接方法では、第1ステップにおける1〜数パス、例えば3パス目の入熱量を低く、しかも、冷却速度を速くしてシュラウド外面に生じる引張残留応力の範囲を狭くし、かつその最大値を低く抑える。また、シュラウド板厚の中央付近では、溶接によりシュラウド外面の残留応力が圧縮になるため、入熱量(中期入熱量)を高くすることで圧縮の残留応力をより高くする。さらに、炉心シュラウド10の溶接の最後の方では、シュラウド外面の残留応力は再び引張り側になることから、SCC対策上溶接の悪影響を抑えるため、入熱量を低くかつ冷却速度を速くすることで、圧縮の残留応力が引張りに変化するのを防止する。
【0029】
この結果として、炉心シュラウド10は、シュラウド表面側の溶接部の軸方向残留応力成分、および周方向残留応力成分を共に圧縮にすることが可能となり、引張応力が残留応力成分として残ることがない。
【0030】
そして、溶接後には、シュラウド内面の溶接部近傍の残留応力のみをピーニングまたは磨き加工で改善した。
【0031】
第1実施形態に示された炉心シュラウド10の溶接では、新炉心シュラウド11を旧炉心シュラウド11上に20数パスの溶接を施して据え付ける例を示したが、この溶接のパス数は10数パスであっても、あるいは20数パス以上、例えば50パスであってもよい。
【0032】
また、第1実施形態では、新炉心シュラウド11を旧炉心シュラウド12上に据え付けるのに、シュラウド外面(外周)側からシュラウド内面(内周)側に全周に亘って順次肉盛り溶接を重ねていく例を示したが、この溶接は、シュラウド内面側からシュラウド外面側に向けて順次溶接を重ねる溶接ビードシーケンスを実施してもよい。
【0033】
[第2実施形態]
図5および図6は本発明に係る溶接構造物の溶接方法の第2実施形態を示すものである。
【0034】
第2実施形態も沸騰水型原子炉の原子炉圧力容器内に据え付けられる炉心シュラウド10Aを対象とする溶接構造物とした例を示す。
【0035】
この炉心シュラウド10Aの溶接方法は、炉心シュラウド10Aのシュラウド内面(内周面)に溶接中心から所要の位置に数パス、例えば3パスの肉盛り溶接を全周に亘り実施したものである。他の構成および作用は、第1実施形態に示された溶接構造物の溶接方法と実質的に異ならないので同じ構成には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0036】
この炉心シュラウド10Aにおいては、新炉心シュラウド11を旧炉心シュラウド12に据え付ける溶接を行なった後に、図5に示すようにシュラウド内面の溶接中心から数10mm離れた所要の位置、例えば約50mm離れた位置に、全周に亘り数パス、例えば3パスの追加溶接18を実施し、溶接ビードを全周に亘り形成した。
【0037】
図6(A)および(B)は、従来の炉心シュラウドの溶接と本発明に係る炉心シュラウド10Aの溶接を実施した場合における溶接後のシュラウド外面の残留応力分布を比較したものである。
【0038】
従来の炉心シュラウドの溶接方法では、図6(A)に示すように、炉心シュラウドは、シュラウド外面の溶接部の軸方向残留応力成分が圧縮であったものの、周方向残留応力成分は引張りとなり、SCC発生要因を作り出す結果となっている。図6(A)は図4(A)に対応する図となっている。
【0039】
これに対し、図6(B)に示すように、炉心シュラウド10Aはシュラウド外面の溶接部の軸方向残留応力成分および周方向残留応力成分が共に圧縮となり、溶接部にSCC対策を施すことができる。
【0040】
図5(B)では炉心シュラウド10Aのシュラウド内面の溶接中心から所要の位置、例えば約50mmの位置に追加溶接18を軸方向高さ10mm〜数10mm、好ましくは10〜20mmの範囲を、シュラウド内面側の入熱条件と同じ入熱条件で最適化して溶接することにより、シュラウド表面の溶接中心から所要の位置には引張の残留応力が生じるが溶接部近傍の引張りの残留応力は解消あるいは低減させることができる。
【0041】
応力腐食割れ(SCC)の観点からは、溶接熱影響部である溶接部近傍の残留応力を低減あるいは解消でき、溶接後にシュラウド内面の溶接部近傍の残留応力のみをピーニングまたは磨きで改善することができる。
【0042】
[第3実施形態]
図7ないし図9は本発明に係る溶接構造物の溶接方法の第3実施形態を示すものである。
【0043】
第3実施形態を説明するに当り、第1実施形態に示された溶接構造物の溶接方法と同じ構成には、同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0044】
第3実施形態も沸騰水型原子炉の原子炉圧力容器内に据え付けられる炉心シュラウド10Bを対象とする溶接構造物とした例を示す。
【0045】
この炉心シュラウド10Bの溶接には、図7に示すように、4台の溶接機14,20が用いられる。4台の溶接機14,20は、通常の溶接と同様に180度離れた直径位置に2台が組をなして設置され、さらに残りの2台は、2台1組の溶接機14,14を追いかけて溶接するように設置される。溶接条件は通常の溶接条件とされ、通常の溶接を行なった後に、図8に示すように、シュラウド内面の溶接中心から炉心シュラウド10Bの軸方向両側に所要の範囲で2次元の追加溶接21を実施した。
【0046】
図9(A)および(B)は、従来の炉心シュラウドの溶接と、本実施形態のように2次元の追加溶接21を施した例における溶接後のシュラウド外面の残留応力分布を比較したものである。
【0047】
図9(A)は炉心シュラウドを通常の溶接条件を施した場合における炉心シュラウドのシュラウド外面の残留応力分布を示すものである。図9(A)に示すように、新炉心シュラウドを旧炉心シュラウド上に据え付ける通常の溶接条件では、シュラウド外面における溶接部近傍の軸方向残留応力成分は圧縮であるものの、周方向残留成分は引張応力となり、SCC発生の条件が生じてしまう。
【0048】
これに対し、第3実施形態に示すように、新炉心シュラウド11を旧炉心シュラウド12上に据え付ける炉心シュラウド10Bにおいて、通常の溶接条件で溶接した後に、図9(B)に示すように、シュラウド内面(内周面)に溶接中心の両側(炉心シュラウド10Bの軸方向両側)に所要の範囲、例えば20mm〜数10mm、好ましくは50mmの範囲に2次元の追加溶接部21を施すことにより、シュラウド内面の溶接部近傍の残留応力を低下させることができた。2次元の追加溶接部21は、図9(B)に示すように炉心シュラウド10Bの下方から上方に向けて一方向の溶接施工で、所要の追加溶接の範囲に亘って実施できる。
【0049】
炉心シュラウド10Bの溶接作業に伴う応力腐食割れ(SCC)対策の観点からは、溶接熱影響部である溶接部近傍の残留応力を低減あるいは解消することができる。溶接後にシュラウド内面の溶接部近傍の残留応力のみをピーニングまたは磨き加工で改善することができる。
【0050】
加えて、溶接機14,20を2台ずつ組をなして4台用いたため、シュラウド内面に2次元溶接(面溶接)を追加しても、正味の溶接時間は従来の炉心シュラウドと較べて長くならず、現状の溶接工程を大幅に変更することなく溶接作業を実施することができる。
【0051】
[第4実施形態]
図10ないし図12は、本発明に係る溶接構造物の溶接方法の第4実施形態を示すものである。
【0052】
第4実施形態は、原子力発電プラントの主蒸気管や炉内配管あるいは種々のプラントの各種配管を溶接対象物(被溶接物)とし、配管の構成メンバ同士を溶接肉盛りで一体に接続して溶接配管を構成する例を示す。
【0053】
第4実施形態の配管の溶接方法を説明するに当り、第1実施形態に示された構成と同じ構成には同一符号を付して重複説明を省略する。第4実施形態は、各種配管の配管メンバ同士を突き合せて全周肉盛りにより一体化した配管の溶接技術を示している。
【0054】
図10および図11に示された配管25は、配管メンバ25a,25bの外径が150mmφ〜300mmφ、一例として外径約200mmφ、肉厚8mmの例を示す。この配管メンバ25a,25b同士を全周に亘り、配管内面側からその外面側に向けて数パス、例えば5パスの溶接ビード27を順次肉盛りし、接合した例である。
【0055】
全5パスの配管溶接のうち、1パスから3パス目の溶接ビード27は、配管内外面を共に大気中に開放した環境下で溶接を実施し、残りの4パスおよび5パス目の溶接ビード27は、配管25の内側に水を入れた状態で全周に亘り肉盛り溶接を施した。
【0056】
配管25は、配管メンバ25a,25b同士を突き合せ、配管内側から外側への数パスの溶接ビードで溶接部26を形成し、接合される。この配管25の溶接作業では、配管メンバ25a,25b同士の溶接部26における配管内面の残留応力分布が図11に示すように表われる。
【0057】
配管25の溶接部26における配管内面の残留応力分布では、図12に示されるように表われる。配管内面溶接部26は、軸方向残留応力成分および周方向残留応力成分とも圧縮となり、SCC対策上の問題は生じない。配管外面の溶接部近傍の残留応力のみをピーニング加工、例えばショットピーニングにより改善することで、耐SCC性を向上させることができる。
【0058】
なお、第4実施形態では、配管の溶接方法を説明したが、溶接構造物を配管に代えて容器とした場合も同様にして適用することができる。
【0059】
また、変形例として、第4実施形態で示した配管に対して、必要に応じて第2実施形態に示した追加溶接部21を新たに行なって良いのは勿論である。
【0060】
[第5実施形態]
図13ないし図15は本発明に係る溶接構造物の溶接方法の第5実施形態を説明する図である。
【0061】
第5実施形態は、第4実施形態に示されたものと同様に、配管25を溶接対象物(被溶接物)とする例であり、第4実施形態に示されたものと同じ構成には同一符号を付して重複説明を省略する。
【0062】
図13および図14は、例えば外径約200mmφ、肉厚8mmの配管25を溶接対象物とするものである。この配管25は、配管メンバ25a,5b同士の端面を合せ、全数パス、例えば5パスの溶接ビード27で溶接部26を構成し、配管メンバ25a,25b同士を一体接合させるものである。
【0063】
この配管25は、配管メンバ25a,25b同士を突き合せ、配管内側(内周側)からその外側に向って全周に亘り全数パスの溶接ビード27で順次肉盛り溶接を実施して溶接部26を構成し、配管メンバ25a,25b同士を互いに一体接合させたものである。配管25では、例えば、全5パスの溶接を配管内外面が大気中に開放した環境下で行なう。配管メンバ25a,25b同士を突き合せ、溶接接合した後、配管25の溶接中心から配管外面両側に数10mm、例えば約30mmの範囲を2次元の肉盛り溶接28を実施した。
【0064】
第5実施形態に示された配管25の肉厚は、炉心シュラウドの肉厚約40mm〜50mmに較べて約8mmと薄いため、溶接接合後の2次元の肉盛り溶接28の範囲も数10mm、例えば30mmとした。この追加肉盛り溶接28は全て配管25の接合部26を覆うように配管外面側から実施した。
【0065】
配管メンバ25a,25b同士を溶接接合した後、配管25の接合部26を配管外面側で全周に亘り数パス〜10数パスの溶接ビードで肉盛り溶接を追加して施すと、配管内面の残留応力分布は図15に示すように表わされる。
【0066】
この場合にも、配管25の内面の溶接部近傍の残留応力は圧縮となり、SCC対策が施される。このため、配管25の外面の溶接部近傍の残留応力のみをピーニング加工、例えばショットピーニングで改善することで、耐SCC性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明に係る溶接構造物の溶接方法の第1実施形態を示す構成図。
【図2】図1に示された炉心シュラウドの溶接部を示す部分的な縦断面図。
【図3】炉心シュラウドを溶接する溶接機の配置例を例示する平面図。
【図4】(A)および(B)は、炉心シュラウドの従来の溶接例と第1実施形態の溶接例とを比較して示す、溶接後のシュラウド外面の残留応力分布図。
【図5】本発明に係る溶接構造物の溶接方法の第2実施形態を示す部分的な縦断面図。
【図6】(A)および(B)は、従来の炉心シュラウドの溶接例と第2実施形態における溶接例とを比較して示す、溶接後のシュラウド外面の残留応力分布図。
【図7】本発明に係る溶接構造物の溶接方法の第3実施形態を示す簡略的な平面図。
【図8】第3実施形態に示された炉心シュラウドの溶接部を部分的に示す縦断面図。
【図9】(A)および(B)は、炉心シュラウドの従来の溶接例と第3実施形態による溶接例とを比較して示す、溶接後のシュラウド外面の残留応力分布図。
【図10】本発明に係る溶接構造物の溶接方法の第4実施形態を示す構成図。
【図11】第4実施形態に示された配管溶接部を示す部分的縦断面図。
【図12】第4実施形態に示された溶接後の配管内面の残留応力分布図。
【図13】本発明に係る溶接構造物の溶接方法の第5実施形態を示す構成図。
【図14】第5実施形態に示された配管溶接部を示す部分的縦断面図。
【図15】第5実施形態に示された溶接後の配管内面の残留応力分布図。
【符号の説明】
【0068】
10,10A,10B 炉心シュラウド(溶接構造物)
11 新炉心シュラウド
12 旧炉心シュラウド
13 溶接部
14,20 溶接機
15 溶接ビードシーケンス
16 溶接ビード
17,18,21 追加溶接部
25 配管
25a,25b 配管メンバ
26 溶接部
27 溶接ビード
28 追加溶接部
【技術分野】
【0001】
本発明は、炉心シュラウドや配管・容器等の溶接構造物の溶接技術に係り、特に、炉心シュラウドを据え付けたり、主蒸気管や炉内配管等の各種配管や容器の構成メンバ同士を溶接する溶接構造物の溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電プラント等の各種発電プラントには、炉心シュラウドや各種配管の構成メンバ同士の溶接に溶接構造物が採用されている。この溶接構造物の応力腐食割れ(SCC)の発生や進展、疲労強度の低下等の原因には、溶接による熱膨張と塑性ひずみの発生に起因する残留応力がある。
【0003】
溶接構造物において、溶接による残留応力を低減する方法として、溶接後に冷却液を噴霧して材料に温度差を生じさせる方法(特許文献1参照)や残留応力解析により溶接構造物の溶接条件を求める方法(特許文献2参照)がある。
【0004】
また、追加の溶接による残留応力を低減する方法として、配管の補強溶接部の残留応力を低減させる方法(特許文献3参照)や、付加物を溶着する角巻き溶接部の残留応力を低減させる方法(特許文献4参照)が提案されている。
【特許文献1】特開2000−343270号公報
【特許文献2】特開平9−1376号公報
【特許文献3】特開平25−182393号公報
【特許文献4】特開平4−371387号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
各特許文献に開示された技術は、配管等の溶接構造物の溶接施工面の残留応力低減に関するものであり、溶接構造物の溶接施工裏面の残留応力低減は難しく、困難であるというものである。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するために、溶接構造物の溶接施工面の残留応力改善処理を図り、残留応力を圧縮応力にする溶接構造物の溶接方法を提供することを目的とする。
【0007】
本発明の他の目的は、炉心シュラウドや配管・容器等を溶接対象物とし、溶接される溶接対象物の軸方向残留応力成分および周方向残留応力成分を圧縮応力とし、応力腐食割れの発生を未然にかつ確実に防止することができる溶接構造物の溶接方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る炉心シュラウドの溶接方法は、上述した課題を解決するために、被溶接物を原子炉圧力容器内に据え付けられ炉心を取り囲む炉心シュラウドとし、上記炉心シュラウドを据え付ける際、新炉心シュラウドを基礎炉心シュラウド上に現地溶接にて設置する溶接方法において、前記新炉心シュラウドを基礎炉心シュラウド上に載置した後、シュラウド外面あるいはシュラウド内面側から反対側のシュラウド面に向って、複数パスの溶接ビードを周方向に肉盛りして溶接ビードシーケンスを順次形成していく際、シュラウド表面の残留応力が圧縮となるように、シュラウド半径方向の溶接位置に応じて溶接条件を選択する方法である。
【0009】
また、本発明に係る配管または容器の溶接方法は、上述した課題を解決するために、被溶接物を配管または容器とし、配管または容器の構成メンバ同士を突き合せてこの突合せ部を周方向に溶接して溶接ビードシーケンスを形成して一体化させる溶接方法において、前記配管または容器の構成メンバ同士を突き合せた後、構成メンバ突合せ部をその内面または外面側の一方向から反対方向の面に向けて複数の溶接ビードを周方向に順次肉盛りして溶接ビードシーケンスを形成していく際、前記配管または容器の構成メンバ表面溶接部の残留応力が圧縮となるように、溶接施工とメンバ外面側あるいはメンバ内面側から順次肉盛り溶接で行なう方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る溶接構造物(炉心シュラウドや配管・容器)の溶接方法においては、溶接構造物の溶接施工面の残留応力改善処理を図り、残留応力を圧縮応力となるように構成したので、SCC対策を施すことができ、応力腐食割れの発生を防止する炉心シュラウドや配管・容器を提供することができる。
【0011】
また、本発明では、溶接構造物である炉心シュラウドや配管・容器の溶接部の軸方向残留応力成分および周方向残留応力成分を共に圧縮応力として応力腐食割れの発生を未然にかつ確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係る溶接構造物の溶接方法の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
【0013】
[第1実施形態]
図1および図2は、沸騰水型原子炉の原子炉圧力容器内に据え付けられ炉心を取り囲む炉心シュラウド10を溶接対象物とした例を示す。沸騰水型原子炉では、炉心シュラウド10を据え付けたり、取り替える際に、取り替える場合は新炉心シュラウド11を旧炉心シュラウド12上に、また新規に据え付ける場合は上部に配される炉心シュラウド(以下新炉心シュラウドと呼ぶ)11を下部に配される基礎炉心シュラウド12上に周方向の全周溶接13にて肉盛りし、据え付けるようになっている。旧炉心シュラウド12は基礎炉心シュラウドを構成している。
【0014】
旧炉心シュラウド12は、主にインコネル材料で形成されており、インコネル製の筒状体上に同径のトーラスおよびワッシャ状のステンレス鋼製リング体を溶接肉盛りして一体に構成される。旧炉心シュラウド12は原子炉圧力容器内設置のシュラウドサポートに据え付けられる。
【0015】
新炉心シュラウド11は例えばステンレス鋼製で、旧炉心シュラウド12上に現地溶接にて据え付けられ、炉心シュラウド10が構成される。炉心シュラウド10は原子炉炉内に据え付けられ、数mφの直径を有し、シュラウド板厚(肉厚)は数10mm、好ましくは40mm〜50mm、炉心シュラウド10の軸方向高さは数m〜10mである。一例として、800MW、あるいは1100MWクラスの沸騰水型原子炉では、シュラウドの肉厚は40mm〜50mm程度であり、新炉心シュラウド11の軸方向高さが約7m程度である。旧炉心シュラウド12のリング体軸方向高さは数百mm、例えば300mm〜400mmである。
【0016】
旧炉心シュラウド12上に新炉心シュラウド11を全周に亘り現地溶接し、肉盛りする作業を、図2では炉心シュラウド10の外周面(外面)側からシュラウド反対側の面である内周面(内面)側に向けて行ない据え付ける例を示す。炉心シュラウド10の溶接作業は、通常、図3に示すように、略180°離れて直径方向に対向する2台の溶接機14を用いて実施される。2台の溶接機14は炉心シュラウド12の内側に対向配置されるが、シュラウド外側に配置してもよい。
【0017】
炉心シュラウド10の据付作業は、全体的にはSCC発生防止対策を考慮したもので、数段階、例えば3段階の溶接施工にて行なわれる。新炉心シュラウド11を旧炉心シュラウド12上に据え付ける溶接作業は、図2の溶接ビードシーケンス15で示すように、シュラウド外面からその内面に溶接ビード16を順に盛っていくことで実施される。
【0018】
溶接初期の第1ステップでは、複数パス、例えば1パス〜3パス溶接ビードが形成され、この溶接ビードの肉盛りで、シュラウド厚さの数分の1程度が溶着される。まず、1パス目の溶接(周方向の全周溶接)は、10KJ/cm以下の入熱量で、シュラウド内外面を大気環境下に露出した冷却環境状態で実施した。次に2パス目〜数パス、例えば3パス目の溶接は、1パス目と略同じ入熱量で溶接したが、シュラウド外面に強制的に空気を吹き付けて冷却し、シュラウド材料表面の温度が速く低下するように強制冷却しながら溶接を実施した。
【0019】
ここで、入熱量は、溶接に使用される電流や電圧の大きさおよび溶接速度により決定される。
【0020】
数パス目、例えば3パス目の溶接終了後には、シュラウド内面とその外面との環境が溶接で隔離されていると確認した上で、被曝低減のため、炉心シュラウド10の外面に水を満たした。その後、シュラウド板厚(肉厚)の約1/4付近の位置まで、初期入熱量と略同じ低い入熱量で溶接を行なった。
【0021】
次に、溶接中期の第2ステップでは、シュラウド板厚の1/4以降の入熱量を10〜30KJ/cmの範囲で初期入熱量より大きくし、大きくした入熱条件でシュラウド板厚の約3/4まで溶接を実施した。具体例としては、シュラウド板厚の約1/4から中央付近までは10KJ/cmから徐々に入熱量を大きくし、中央付近では20〜30KJ/cm、例えば25KJ/cmで溶接を行ない、その後3/4付近までは中央領域(付近)より若干小さい入熱量で溶接を実施した。中間領域の溶接である溶接中期は、シュラウド板厚の1/4〜3/4の範囲を溶接するものであり、この溶接中期の第2ステップでは、初期入熱量より大きな中期入熱量で、かつこの入熱量は10〜30KJ/cmの範囲で段階的あるいは連続的に、または、中央領域が大きくなるように変化させたり、また、一定の入熱量で溶接を行なった。
【0022】
また、シュラウド板厚の約3/4以降を溶接する溶接後期の第3ステップでは、再び入熱量を中期入熱量より低くし、かつシュラウド内面の冷却速度が大気中で溶接するよりも速くなるように、シュラウド内面に強制的に空気を吹き付けたり、強制冷却環境下で溶接を実施した。シュラウド板厚の後期入熱量は、中期入熱量より低く、また、初期入熱量と同等あるいは初期入熱量より大きく、あるいは小さい所要の範囲で溶接を実施した。
【0023】
新炉心シュラウド11を基礎炉心シュラウドである旧炉心シュラウド12上に据え付ける溶接作業を実施し、シュラウド内面と面一となる位置までシュラウド外面からシュラウド内面に向けて半径方向内方の一方向の溶接を行なった後、シュラウド内面を数パス、例えば3パス程度の全周肉盛り溶接を追加して実施し、追加溶接部17を数パスの周方向の溶接ビードで形成した。
【0024】
この炉心シュラウド10の溶接方法において、シュラウド肉厚の約3/4以降では、SCC発生抑制あるいは防止対策から、シュラウド内面の冷却速度が大気中で溶接するよりも速くなるように、シュラウド内面に強制的に冷却空気を吹き付けることで、圧縮の残留応力が引張り側に変化するのを防止している。
【0025】
図4(A)および(B)は、従来の炉心シュラウドの溶接方法と本発明による炉心シュラウドの溶接方法を実施して形成される炉心シュラウドのシュラウド外面の残留応力分布を比較したものである。
【0026】
図4(A)に示される従来の炉心シュラウドの溶接方法では、SCC発生抑制対策が施されていない。従来の炉心シュラウドの溶接方法ではSCCの発生を抑制する見地から溶接の入熱条件を考慮した着想や発想は存在しない。従来の炉心シュラウドでは、溶接の冷却環境は、1〜3パスの溶接がシュラウド内外面が大気中に露出の環境下で行なわれ、4パス目以降にシュラウド外面側に水を入れ、シュラウド外面が水中で、シュラウド内面が大気中環境下で溶接を実施した。溶接の入熱条件の配慮は特にしていない。従来の炉心シュラウドの溶接方法で溶接した新炉心シュラウドと旧炉心シュラウドの溶接部近傍の軸方向残留応力成分は圧縮であったものの、周方向残留応力成分は引張りであり、SCC発生要因を作り出す原因となっている。
【0027】
これに対し、図4(B)は本発明に係る炉心シュラウドの溶接方法を実施して得られるシュラウド外面の残留応力分布を示すものである。
【0028】
SCC発生防止あるいは抑制対策を施した本発明の炉心シュラウド10の溶接方法では、第1ステップにおける1〜数パス、例えば3パス目の入熱量を低く、しかも、冷却速度を速くしてシュラウド外面に生じる引張残留応力の範囲を狭くし、かつその最大値を低く抑える。また、シュラウド板厚の中央付近では、溶接によりシュラウド外面の残留応力が圧縮になるため、入熱量(中期入熱量)を高くすることで圧縮の残留応力をより高くする。さらに、炉心シュラウド10の溶接の最後の方では、シュラウド外面の残留応力は再び引張り側になることから、SCC対策上溶接の悪影響を抑えるため、入熱量を低くかつ冷却速度を速くすることで、圧縮の残留応力が引張りに変化するのを防止する。
【0029】
この結果として、炉心シュラウド10は、シュラウド表面側の溶接部の軸方向残留応力成分、および周方向残留応力成分を共に圧縮にすることが可能となり、引張応力が残留応力成分として残ることがない。
【0030】
そして、溶接後には、シュラウド内面の溶接部近傍の残留応力のみをピーニングまたは磨き加工で改善した。
【0031】
第1実施形態に示された炉心シュラウド10の溶接では、新炉心シュラウド11を旧炉心シュラウド11上に20数パスの溶接を施して据え付ける例を示したが、この溶接のパス数は10数パスであっても、あるいは20数パス以上、例えば50パスであってもよい。
【0032】
また、第1実施形態では、新炉心シュラウド11を旧炉心シュラウド12上に据え付けるのに、シュラウド外面(外周)側からシュラウド内面(内周)側に全周に亘って順次肉盛り溶接を重ねていく例を示したが、この溶接は、シュラウド内面側からシュラウド外面側に向けて順次溶接を重ねる溶接ビードシーケンスを実施してもよい。
【0033】
[第2実施形態]
図5および図6は本発明に係る溶接構造物の溶接方法の第2実施形態を示すものである。
【0034】
第2実施形態も沸騰水型原子炉の原子炉圧力容器内に据え付けられる炉心シュラウド10Aを対象とする溶接構造物とした例を示す。
【0035】
この炉心シュラウド10Aの溶接方法は、炉心シュラウド10Aのシュラウド内面(内周面)に溶接中心から所要の位置に数パス、例えば3パスの肉盛り溶接を全周に亘り実施したものである。他の構成および作用は、第1実施形態に示された溶接構造物の溶接方法と実質的に異ならないので同じ構成には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0036】
この炉心シュラウド10Aにおいては、新炉心シュラウド11を旧炉心シュラウド12に据え付ける溶接を行なった後に、図5に示すようにシュラウド内面の溶接中心から数10mm離れた所要の位置、例えば約50mm離れた位置に、全周に亘り数パス、例えば3パスの追加溶接18を実施し、溶接ビードを全周に亘り形成した。
【0037】
図6(A)および(B)は、従来の炉心シュラウドの溶接と本発明に係る炉心シュラウド10Aの溶接を実施した場合における溶接後のシュラウド外面の残留応力分布を比較したものである。
【0038】
従来の炉心シュラウドの溶接方法では、図6(A)に示すように、炉心シュラウドは、シュラウド外面の溶接部の軸方向残留応力成分が圧縮であったものの、周方向残留応力成分は引張りとなり、SCC発生要因を作り出す結果となっている。図6(A)は図4(A)に対応する図となっている。
【0039】
これに対し、図6(B)に示すように、炉心シュラウド10Aはシュラウド外面の溶接部の軸方向残留応力成分および周方向残留応力成分が共に圧縮となり、溶接部にSCC対策を施すことができる。
【0040】
図5(B)では炉心シュラウド10Aのシュラウド内面の溶接中心から所要の位置、例えば約50mmの位置に追加溶接18を軸方向高さ10mm〜数10mm、好ましくは10〜20mmの範囲を、シュラウド内面側の入熱条件と同じ入熱条件で最適化して溶接することにより、シュラウド表面の溶接中心から所要の位置には引張の残留応力が生じるが溶接部近傍の引張りの残留応力は解消あるいは低減させることができる。
【0041】
応力腐食割れ(SCC)の観点からは、溶接熱影響部である溶接部近傍の残留応力を低減あるいは解消でき、溶接後にシュラウド内面の溶接部近傍の残留応力のみをピーニングまたは磨きで改善することができる。
【0042】
[第3実施形態]
図7ないし図9は本発明に係る溶接構造物の溶接方法の第3実施形態を示すものである。
【0043】
第3実施形態を説明するに当り、第1実施形態に示された溶接構造物の溶接方法と同じ構成には、同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0044】
第3実施形態も沸騰水型原子炉の原子炉圧力容器内に据え付けられる炉心シュラウド10Bを対象とする溶接構造物とした例を示す。
【0045】
この炉心シュラウド10Bの溶接には、図7に示すように、4台の溶接機14,20が用いられる。4台の溶接機14,20は、通常の溶接と同様に180度離れた直径位置に2台が組をなして設置され、さらに残りの2台は、2台1組の溶接機14,14を追いかけて溶接するように設置される。溶接条件は通常の溶接条件とされ、通常の溶接を行なった後に、図8に示すように、シュラウド内面の溶接中心から炉心シュラウド10Bの軸方向両側に所要の範囲で2次元の追加溶接21を実施した。
【0046】
図9(A)および(B)は、従来の炉心シュラウドの溶接と、本実施形態のように2次元の追加溶接21を施した例における溶接後のシュラウド外面の残留応力分布を比較したものである。
【0047】
図9(A)は炉心シュラウドを通常の溶接条件を施した場合における炉心シュラウドのシュラウド外面の残留応力分布を示すものである。図9(A)に示すように、新炉心シュラウドを旧炉心シュラウド上に据え付ける通常の溶接条件では、シュラウド外面における溶接部近傍の軸方向残留応力成分は圧縮であるものの、周方向残留成分は引張応力となり、SCC発生の条件が生じてしまう。
【0048】
これに対し、第3実施形態に示すように、新炉心シュラウド11を旧炉心シュラウド12上に据え付ける炉心シュラウド10Bにおいて、通常の溶接条件で溶接した後に、図9(B)に示すように、シュラウド内面(内周面)に溶接中心の両側(炉心シュラウド10Bの軸方向両側)に所要の範囲、例えば20mm〜数10mm、好ましくは50mmの範囲に2次元の追加溶接部21を施すことにより、シュラウド内面の溶接部近傍の残留応力を低下させることができた。2次元の追加溶接部21は、図9(B)に示すように炉心シュラウド10Bの下方から上方に向けて一方向の溶接施工で、所要の追加溶接の範囲に亘って実施できる。
【0049】
炉心シュラウド10Bの溶接作業に伴う応力腐食割れ(SCC)対策の観点からは、溶接熱影響部である溶接部近傍の残留応力を低減あるいは解消することができる。溶接後にシュラウド内面の溶接部近傍の残留応力のみをピーニングまたは磨き加工で改善することができる。
【0050】
加えて、溶接機14,20を2台ずつ組をなして4台用いたため、シュラウド内面に2次元溶接(面溶接)を追加しても、正味の溶接時間は従来の炉心シュラウドと較べて長くならず、現状の溶接工程を大幅に変更することなく溶接作業を実施することができる。
【0051】
[第4実施形態]
図10ないし図12は、本発明に係る溶接構造物の溶接方法の第4実施形態を示すものである。
【0052】
第4実施形態は、原子力発電プラントの主蒸気管や炉内配管あるいは種々のプラントの各種配管を溶接対象物(被溶接物)とし、配管の構成メンバ同士を溶接肉盛りで一体に接続して溶接配管を構成する例を示す。
【0053】
第4実施形態の配管の溶接方法を説明するに当り、第1実施形態に示された構成と同じ構成には同一符号を付して重複説明を省略する。第4実施形態は、各種配管の配管メンバ同士を突き合せて全周肉盛りにより一体化した配管の溶接技術を示している。
【0054】
図10および図11に示された配管25は、配管メンバ25a,25bの外径が150mmφ〜300mmφ、一例として外径約200mmφ、肉厚8mmの例を示す。この配管メンバ25a,25b同士を全周に亘り、配管内面側からその外面側に向けて数パス、例えば5パスの溶接ビード27を順次肉盛りし、接合した例である。
【0055】
全5パスの配管溶接のうち、1パスから3パス目の溶接ビード27は、配管内外面を共に大気中に開放した環境下で溶接を実施し、残りの4パスおよび5パス目の溶接ビード27は、配管25の内側に水を入れた状態で全周に亘り肉盛り溶接を施した。
【0056】
配管25は、配管メンバ25a,25b同士を突き合せ、配管内側から外側への数パスの溶接ビードで溶接部26を形成し、接合される。この配管25の溶接作業では、配管メンバ25a,25b同士の溶接部26における配管内面の残留応力分布が図11に示すように表われる。
【0057】
配管25の溶接部26における配管内面の残留応力分布では、図12に示されるように表われる。配管内面溶接部26は、軸方向残留応力成分および周方向残留応力成分とも圧縮となり、SCC対策上の問題は生じない。配管外面の溶接部近傍の残留応力のみをピーニング加工、例えばショットピーニングにより改善することで、耐SCC性を向上させることができる。
【0058】
なお、第4実施形態では、配管の溶接方法を説明したが、溶接構造物を配管に代えて容器とした場合も同様にして適用することができる。
【0059】
また、変形例として、第4実施形態で示した配管に対して、必要に応じて第2実施形態に示した追加溶接部21を新たに行なって良いのは勿論である。
【0060】
[第5実施形態]
図13ないし図15は本発明に係る溶接構造物の溶接方法の第5実施形態を説明する図である。
【0061】
第5実施形態は、第4実施形態に示されたものと同様に、配管25を溶接対象物(被溶接物)とする例であり、第4実施形態に示されたものと同じ構成には同一符号を付して重複説明を省略する。
【0062】
図13および図14は、例えば外径約200mmφ、肉厚8mmの配管25を溶接対象物とするものである。この配管25は、配管メンバ25a,5b同士の端面を合せ、全数パス、例えば5パスの溶接ビード27で溶接部26を構成し、配管メンバ25a,25b同士を一体接合させるものである。
【0063】
この配管25は、配管メンバ25a,25b同士を突き合せ、配管内側(内周側)からその外側に向って全周に亘り全数パスの溶接ビード27で順次肉盛り溶接を実施して溶接部26を構成し、配管メンバ25a,25b同士を互いに一体接合させたものである。配管25では、例えば、全5パスの溶接を配管内外面が大気中に開放した環境下で行なう。配管メンバ25a,25b同士を突き合せ、溶接接合した後、配管25の溶接中心から配管外面両側に数10mm、例えば約30mmの範囲を2次元の肉盛り溶接28を実施した。
【0064】
第5実施形態に示された配管25の肉厚は、炉心シュラウドの肉厚約40mm〜50mmに較べて約8mmと薄いため、溶接接合後の2次元の肉盛り溶接28の範囲も数10mm、例えば30mmとした。この追加肉盛り溶接28は全て配管25の接合部26を覆うように配管外面側から実施した。
【0065】
配管メンバ25a,25b同士を溶接接合した後、配管25の接合部26を配管外面側で全周に亘り数パス〜10数パスの溶接ビードで肉盛り溶接を追加して施すと、配管内面の残留応力分布は図15に示すように表わされる。
【0066】
この場合にも、配管25の内面の溶接部近傍の残留応力は圧縮となり、SCC対策が施される。このため、配管25の外面の溶接部近傍の残留応力のみをピーニング加工、例えばショットピーニングで改善することで、耐SCC性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明に係る溶接構造物の溶接方法の第1実施形態を示す構成図。
【図2】図1に示された炉心シュラウドの溶接部を示す部分的な縦断面図。
【図3】炉心シュラウドを溶接する溶接機の配置例を例示する平面図。
【図4】(A)および(B)は、炉心シュラウドの従来の溶接例と第1実施形態の溶接例とを比較して示す、溶接後のシュラウド外面の残留応力分布図。
【図5】本発明に係る溶接構造物の溶接方法の第2実施形態を示す部分的な縦断面図。
【図6】(A)および(B)は、従来の炉心シュラウドの溶接例と第2実施形態における溶接例とを比較して示す、溶接後のシュラウド外面の残留応力分布図。
【図7】本発明に係る溶接構造物の溶接方法の第3実施形態を示す簡略的な平面図。
【図8】第3実施形態に示された炉心シュラウドの溶接部を部分的に示す縦断面図。
【図9】(A)および(B)は、炉心シュラウドの従来の溶接例と第3実施形態による溶接例とを比較して示す、溶接後のシュラウド外面の残留応力分布図。
【図10】本発明に係る溶接構造物の溶接方法の第4実施形態を示す構成図。
【図11】第4実施形態に示された配管溶接部を示す部分的縦断面図。
【図12】第4実施形態に示された溶接後の配管内面の残留応力分布図。
【図13】本発明に係る溶接構造物の溶接方法の第5実施形態を示す構成図。
【図14】第5実施形態に示された配管溶接部を示す部分的縦断面図。
【図15】第5実施形態に示された溶接後の配管内面の残留応力分布図。
【符号の説明】
【0068】
10,10A,10B 炉心シュラウド(溶接構造物)
11 新炉心シュラウド
12 旧炉心シュラウド
13 溶接部
14,20 溶接機
15 溶接ビードシーケンス
16 溶接ビード
17,18,21 追加溶接部
25 配管
25a,25b 配管メンバ
26 溶接部
27 溶接ビード
28 追加溶接部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被溶接物を原子炉圧力容器内に据え付けられ炉心を取り囲む炉心シュラウドとし、上記炉心シュラウドを据え付ける際、新炉心シュラウドを基礎炉心シュラウド上に現地溶接にて設置する溶接方法において、
前記新炉心シュラウドを基礎炉心シュラウド上に載置した後、シュラウド外面あるいはシュラウド内面側から反対側のシュラウド面に向って、複数パスの溶接ビードを周方向に肉盛りして溶接ビードシーケンスを順次形成していく際、シュラウド表面の残留応力が圧縮となるように、シュラウド半径方向の溶接位置に応じて溶接条件を選択することを特徴とする炉心シュラウドの溶接方法。
【請求項2】
前記基礎炉心シュラウド上に新炉心シュラウドを載置した後、シュラウド外面あるいはシュラウド内面側から反対側のシュラウド面に向けて複数パスの溶接ビードを周方向に肉盛りして溶接ビードシーケンスを順次形成していく際、シュラウド外面とシュラウド内面の冷却環境、または電流、電圧、溶接速度から決定される入熱量、もしくは冷却環境および入熱量の両方を、シュラウド半径方向の溶接位置に応じて変更させることを特徴とする請求項1記載の炉心シュラウドの溶接方法。
【請求項3】
前記基礎炉心シュラウド上に新炉心シュラウドを載置した後、シュラウド外面から反対側のシュラウド内面に向けて複数パスの溶接ビードで溶接ビードシーケンスを順次形成していく際、
初期の数パスのシュラウド外面の冷却環境を、冷却速度が空気中より速くなる環境下で溶接し、最終層のシュラウド内面側の冷却環境を冷却速度の空気中よりも速くなる環境下で溶接を実施する請求項1または2記載の炉心シュラウドの溶接方法。
【請求項4】
前記基礎炉心シュラウド上に新炉心シュラウドを載置した際、
溶接の初期の数パスでは入熱量を低く、
中間領域では溶接の初期より入熱量を高くし、
溶接の最後の方では入熱量を中間領域より低くして溶接を実施することを特徴とする請求項1または2記載の炉心シュラウドの溶接方法。
【請求項5】
前記溶接の入熱量を変更する位置を、溶接開始からシュラウド板厚の1/4付近と3/4付近を目安とする請求項4記載の炉心シュラウドの溶接方法。
【請求項6】
前記シュラウド外面とシュラウド内面とを複数パスの周方向の溶接ビードで封止した後、シュラウド外面側に水を入れてシュラウド内面側に向けて順次溶接を実施していき、この溶接終了後に、シュラウド内面の溶接中心から所要距離離れた位置を2次元肉盛りの追加溶接を実施することを特徴とする請求項1または2記載の炉心シュラウドの溶接方法。
【請求項7】
前記シュラウド外面の冷却環境を、冷却速度が空気中より速くなる環境下とし、シュラウド外面からシュラウド内面に向けて溶接ビードを周方向に肉盛りして溶接ビードシーケンスを順次形成する溶接を実施した後、
シュラウド内面の溶接中心から両側に所要距離の範囲を2次元の追加溶接することを特徴とする請求項1または2記載の炉心シュラウドの溶接方法。
【請求項8】
2台以上の溶接機を炉心シュラウドの内周側または外周側に配置し、2台以上の溶接機を使用してシュラウド外面側またはシュラウド内面側から反対側のシュラウド面に向けて溶接することを特徴とする請求項1または2記載の炉心シュラウドの溶接方法。
【請求項9】
被溶接物を配管または容器とし、配管または容器の構成メンバ同士を突き合せてこの突合せ部を周方向に溶接して溶接ビードシーケンスを形成して一体化させる溶接方法において、
前記配管または容器の構成メンバ同士を突き合せた後、構成メンバ突合せ部をその内面または外面側の一方向から反対方向の面に向けて複数の溶接ビードを周方向に順次肉盛りして溶接ビードシーケンスを形成していく際、前記配管または容器の構成メンバ表面溶接部の残留応力が圧縮となるように、溶接施工とメンバ外面側あるいはメンバ内面側から順次肉盛り溶接で行なうことを特徴とする配管または容器の溶接方法。
【請求項10】
前記被溶接物を配管または容器とし、上記配管または容器の構成メンバ同士を、その内面または外面の一方向から溶接施工を行ない、この溶接施工の構成メンバ裏面側の残留応力を圧縮するように、前記配管または容器の構成メンバ同士を一方向から溶接施工した後、構成メンバに追加溶接する位置または範囲を前記配管または容器の肉厚に応じて変更させることを特徴とする請求項9記載の配管または容器の溶接方法。
【請求項1】
被溶接物を原子炉圧力容器内に据え付けられ炉心を取り囲む炉心シュラウドとし、上記炉心シュラウドを据え付ける際、新炉心シュラウドを基礎炉心シュラウド上に現地溶接にて設置する溶接方法において、
前記新炉心シュラウドを基礎炉心シュラウド上に載置した後、シュラウド外面あるいはシュラウド内面側から反対側のシュラウド面に向って、複数パスの溶接ビードを周方向に肉盛りして溶接ビードシーケンスを順次形成していく際、シュラウド表面の残留応力が圧縮となるように、シュラウド半径方向の溶接位置に応じて溶接条件を選択することを特徴とする炉心シュラウドの溶接方法。
【請求項2】
前記基礎炉心シュラウド上に新炉心シュラウドを載置した後、シュラウド外面あるいはシュラウド内面側から反対側のシュラウド面に向けて複数パスの溶接ビードを周方向に肉盛りして溶接ビードシーケンスを順次形成していく際、シュラウド外面とシュラウド内面の冷却環境、または電流、電圧、溶接速度から決定される入熱量、もしくは冷却環境および入熱量の両方を、シュラウド半径方向の溶接位置に応じて変更させることを特徴とする請求項1記載の炉心シュラウドの溶接方法。
【請求項3】
前記基礎炉心シュラウド上に新炉心シュラウドを載置した後、シュラウド外面から反対側のシュラウド内面に向けて複数パスの溶接ビードで溶接ビードシーケンスを順次形成していく際、
初期の数パスのシュラウド外面の冷却環境を、冷却速度が空気中より速くなる環境下で溶接し、最終層のシュラウド内面側の冷却環境を冷却速度の空気中よりも速くなる環境下で溶接を実施する請求項1または2記載の炉心シュラウドの溶接方法。
【請求項4】
前記基礎炉心シュラウド上に新炉心シュラウドを載置した際、
溶接の初期の数パスでは入熱量を低く、
中間領域では溶接の初期より入熱量を高くし、
溶接の最後の方では入熱量を中間領域より低くして溶接を実施することを特徴とする請求項1または2記載の炉心シュラウドの溶接方法。
【請求項5】
前記溶接の入熱量を変更する位置を、溶接開始からシュラウド板厚の1/4付近と3/4付近を目安とする請求項4記載の炉心シュラウドの溶接方法。
【請求項6】
前記シュラウド外面とシュラウド内面とを複数パスの周方向の溶接ビードで封止した後、シュラウド外面側に水を入れてシュラウド内面側に向けて順次溶接を実施していき、この溶接終了後に、シュラウド内面の溶接中心から所要距離離れた位置を2次元肉盛りの追加溶接を実施することを特徴とする請求項1または2記載の炉心シュラウドの溶接方法。
【請求項7】
前記シュラウド外面の冷却環境を、冷却速度が空気中より速くなる環境下とし、シュラウド外面からシュラウド内面に向けて溶接ビードを周方向に肉盛りして溶接ビードシーケンスを順次形成する溶接を実施した後、
シュラウド内面の溶接中心から両側に所要距離の範囲を2次元の追加溶接することを特徴とする請求項1または2記載の炉心シュラウドの溶接方法。
【請求項8】
2台以上の溶接機を炉心シュラウドの内周側または外周側に配置し、2台以上の溶接機を使用してシュラウド外面側またはシュラウド内面側から反対側のシュラウド面に向けて溶接することを特徴とする請求項1または2記載の炉心シュラウドの溶接方法。
【請求項9】
被溶接物を配管または容器とし、配管または容器の構成メンバ同士を突き合せてこの突合せ部を周方向に溶接して溶接ビードシーケンスを形成して一体化させる溶接方法において、
前記配管または容器の構成メンバ同士を突き合せた後、構成メンバ突合せ部をその内面または外面側の一方向から反対方向の面に向けて複数の溶接ビードを周方向に順次肉盛りして溶接ビードシーケンスを形成していく際、前記配管または容器の構成メンバ表面溶接部の残留応力が圧縮となるように、溶接施工とメンバ外面側あるいはメンバ内面側から順次肉盛り溶接で行なうことを特徴とする配管または容器の溶接方法。
【請求項10】
前記被溶接物を配管または容器とし、上記配管または容器の構成メンバ同士を、その内面または外面の一方向から溶接施工を行ない、この溶接施工の構成メンバ裏面側の残留応力を圧縮するように、前記配管または容器の構成メンバ同士を一方向から溶接施工した後、構成メンバに追加溶接する位置または範囲を前記配管または容器の肉厚に応じて変更させることを特徴とする請求項9記載の配管または容器の溶接方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2008−23570(P2008−23570A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−200620(P2006−200620)
【出願日】平成18年7月24日(2006.7.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月24日(2006.7.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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