説明

炎症性疾患の治療におけるRXRアンタゴニスト

本発明では、レチノイドアンタゴニスティク活性を有するレチノイド、特にRXRアンタゴニストと称されるレチノイドXレセプターアンタゴニスト、その製剤学的に認容性の塩、製剤学的に認容性のエステル、製剤学的に認容性のアミドが皮膚および粘膜、および他の組織や器官の炎症疾患の治療において、例えばRXRアンタゴニストを局所もしくは経口投与することにより効能があることが分かった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、選択的レチノイン酸レセプター(RAR)拮抗活性、レチノイドXレセプター(RXR)拮抗活性または混合RAR-RXR拮抗活性を有するレチノイドから成るレチノイドアンタゴニストの、皮膚および/または粘膜および他の組織および器官の1つ以上の炎症性疾患を治療するための医薬品を製造するための使用、ならびに前記疾患の1つ以上を治療するためのこのようなレチノイドアンタゴニストの使用、このようなレチノイドアンタゴニストを患者に投与することから成る前記疾患の治療法、前記疾患を治療するためのレチノイドアンタゴニストの治療における使用、前記疾患の1つ以上の治療において使用するためのこのようなレチノイドアンタゴニストおよび/または前記疾患の1つ以上の治療において使用するための製剤学的組成物(レチノイドアンタゴニストを含む)に関する。
【0002】
本発明の背景
レチノイドは、構造的にビタミンAに関係する化合物のクラスであり、天然および合成化合物から成る。一連のレチノイドは、皮膚疾患および腫瘍疾患の治療において臨床的に有効であることが分かっていた。
【0003】
レチノイドの活性は、ステロイド、甲状腺ホルモン、ビタミンD、ペルオキシソーム 増殖因子活性化レセプターのスーパーファミリーに属する核内レチノイドレセプターであるRARα、β、γおよび/またはRXRα、β、γにより媒介されていると考えられている(Pfahl et al., Vitamins and Hormones 49, 327-382(1994))。レセプターアゴニスティック活性を有するレチノイドは、レセプターと結合して、これらを活性化するのに対して、レセプター拮抗活性を有するレチノイドはレセプターに結合するが、これらを活性化しない。
【0004】
実験的に、レチノイドレセプター拮抗活性を有するレチノイド(レチノイドアンタゴニスト)は、レチノイドレセプターアゴニスティック活性を有するレチノイド(レチノイドアゴニスト)の多くの特性を妨げることにおいて有効である。例えば、細胞増殖の阻害、細胞分化の誘発、アポトーシスの誘発および血管形成の阻害である(Bollag et al., Int. J. Cancer 70, 470-472(1997))。レチノイドアンタゴニストは、ビタミンA過剰症シンドロームの徴候および症状および奇形発生のようなレチノイドアゴニストの有毒な副作用も抑制する(Standeven et al., Toxicol. Appl. Pharmacol. 138, 169-175(1996); Eckhardt and Schmitt. Toxicol. Letters 70, 299-308(1994))。従って、これらはレチノイドアゴニストにより起こる不利な事態の予防または治療において臨床的に有意である。
【0005】
レチノイドアンタゴニストは、レチノイド誘発性毒性作用と副作用、特にいわゆるビタミンA過剰症シンドロームの予防および治療において臨床的に使用することが推奨されてきた。レチノイドアンタゴニストは、レチノイドレセプターアゴニストまたは他の核内レセプターアゴニストと組み合わせて、前新生物または腫瘍性損傷、硝子体網膜症および網膜剥離の予防および治療に使用することも推奨されてきた。さらに、レチノイドアンタゴニストは、その抗増殖作用に基づいて、レチノイドレセプターアゴニストに集中的な特定の新生物の治療用に単剤として使用できる(WO 97/09297参照)。
【0006】
さらに、レチノイドアンタゴニストは、2型ヘルパーT細胞(Th2)媒介性免疫疾患またはイムノグロブリンE(IgE)媒介性疾患、アレルギー疾患、アトピー疾患またはTh2-関連サイトカインにより媒介される疾患の治療を予測する実験モデルにおいて効能があることが分かっている。これらは、アトピー性皮膚炎(神経皮膚炎)、アレルギー性鼻炎または花粉症およびアレルギー性気管支喘息を含む(WO 99/24024およびWO 00/53562参照)。
【0007】
レチノイドアンタゴニストは、骨粗鬆症のモデル系でも効能があることが示されている(WO 00/53562参照)。さらに、レチノイドアンタゴニストは、同時係属中の特許出願で記載されているように多発性硬化症の治療にも有効であり得る。
【0008】
本発明の一般的説明
極めて予想外にも、レチノイドアンタゴニスト、特にRXRアンタゴニストが皮膚および/または粘膜、特に他の組織および器官の炎症性疾患、特に骨および/または関節の炎症性疾患の治療において有効であることが、例えば皮膚および粘膜へのあらゆる種類の製剤学的投与により、特に経口または局所投与によりまたはさらに非経口的投与により初めて見出された。
【0009】
本発明の詳細な説明
以後の詳細な説明では、使用という用語が使用されるときは、これは皮膚および/または(=1つ以上の)粘膜、および他の組織および器官の炎症性疾患、特に好ましくは以下に記載するものを治療するための医薬品を製造するための、選択的レチノイン酸レセプター(RAR)拮抗活性、レチノイドXレセプター(RXR)拮抗活性または混合RAR-RXR拮抗活性を有するレチノイドから成るレチノイドアンタゴニストの使用、これらの1つ以上の疾患を治療するためのレチノイドアンタゴニストの使用、このようなレチノイドアンタゴニストを患者、特にこのような治療を必要とする患者に前記治療に有効な用量で投与することから成る前記疾患の治療方法、前記疾患を治療するためのこのようなレチノイドアンタゴニストの治療における使用、1つ以上の前記疾患の治療において使用するためのレチノイドアンタゴニスト、および/または有利には前記治療において有効量であるレチノイドアンタゴニストを有する、1つ以上の前記疾患の治療において使用するための製剤学的組成物を特記されない限り意味する。特に、このような使用には、皮膚または粘膜または他の組織および器官の炎症性疾患を有する被験者に直接投与するための製剤の製造を含み、その際、炎症は、それぞれ疾患の症状発現の1要素である(このような疾患の症状発現または症状のうち、たった1つの、または2つ以上のうち1つを意味する)か、またはこのような疾患へのかかりやすさである。
【0010】
本発明の範囲および開示では、“レチノイドアンタゴニスト”という用語は、RAR、有利にはRXRまたは混合RAR-RXR拮抗活性を有するレチノイドまたは化合物に使用される。
【0011】
WO 99/24024およびWO 00/53562(特にこれらに記載されている別の化合物および化合物クラスに関して参照して本明細書中に取り入れることとする)に記載されているRARアンタゴニストの他に、本発明は特に次の化合物:
式I
【0012】
【化1】

[式中、式中、点線は結合を表すか(よって実線と一緒にRaとRbを有する炭素原子の間で二重結合を形成する)、または点線は無く(よって単結合を形成する)、かつ点線結合がある場合には、Raはメチル、Rbは水素であり、点線結合が無い場合はRaとRbは一緒にメチレンであり、RaとRbを有する2個の炭素原子と一緒に、有利にはシス置換シクロプロピル環を形成し;およびRcは、C〜C−アルコキシであり;これらの化合物の合成は、US 6326397に開示されている]
の化合物、式II
【0013】
【化2】

[式中、式中、点線は結合を表すか(よって実線と一緒にRaとRbを有する炭素原子の間で二重結合を形成する)、または点線は無く(よって単結合を形成する)、かつ点線結合がある場合には、Raはメチル、Rbは水素であり、点線結合が無い場合はRaとRbは一緒にメチレンであり、RaとRbを有する2個の炭素原子と一緒に、有利にはシス置換シクロプロピル環を形成し;およびRcは、C〜C−アルコキシであり;このような化合物の合成は従来技術に記載されている(例えば、L.G.Hamman, J. Org. Chem. 65, 3233(2000)およびSS. Canan Koch et al., J. Med. Chem. 39, 3229(1996)参照)]の化合物、または
式III
【0014】
【化3】

[式中、・・・K・・・は、C〜C−アルキレン、特に−CH−CH−CH−、または=CH−CH=である(よって2個の炭素原子と一緒に結合・・・K・・・は、ベンゼン環を形成する);およびRcはC〜C−アルコキシである;この化合物の合成は、従来技術に記載されている(例えば、EP 0728742およびUS 5986131参照)]
の化合物の1つ以上、またはそれぞれの場合に、これらの製剤学的に認容性の塩、または製剤学的に認容性のエステルまたは製剤学的に認容性のアミド、または後者の2個の場合にはその製剤学的に認容性の塩の使用に関する。
【0015】
最も有利には、表1に記載されているレチノイドXレセプター(RXR)アンタゴニスト化合物A、B、C、D、E、FおよびGから成るグループから選択される化合物、またはその製剤学的に認容性の塩、特に化合物Aまたはその製剤学的に認容性の塩の使用である。
【0016】
【表1】

“製剤学的に認容性の塩”という表現には、少なくとも1つの塩形成基、例えばアミノのような塩基性基を有するか、またはカルボキシルもしくはスルホニルのような酸性基を有するレチノイドアンタゴニストの分野で化学的に許容可能な塩、および温血動物、特にヒト(例えば、患者)に、例えば、製剤学的に認容性の組成物で適用可能なものが含まれる。レチノイドアンタゴニストの製剤学的に認容性の通常の塩は、いずれも利用可能である。使用できる通常の塩の中には、塩基性塩があり、これには例えば、ナトリウム塩またはカリウム塩のようなアルカリ金属塩、カルシウムまたはマグネシウム塩のようなアルカリ土類金属塩、およびアンモニウム塩またはアルカリアンモニウム塩が含まれる。
【0017】
本明細書内でレチノイド(例えばRXR)アンタゴニストを引用する場合には、これはレチノイド(例えばRXR)酸アンタゴニスト、それらのエステルまたはアミドを意味し、それぞれ遊離した形および/または製剤学的に認容性の塩の形(=“その製剤学的に認容性のアミド、エステルおよび/または塩”)を意味する。
【0018】
本発明に従って、レチノイドアンタゴニストの投与は、皮膚および粘膜および他の組織ならびに器官の炎症性疾患のある患者の治療において効能があることが分かった。
【0019】
本発明は、レチノイドアンタゴニストの使用に関する(これは、上記および下記のRXRアンタゴニストに関連する本発明の有利な実施態様である)、その際、治療すべき皮膚および粘膜および他の組織ならびに器官の疾患は、このようなアンタゴニストで治療できる疾患のグループから選択される。
【0020】
有利には、レチノイドアンタゴニストで治療すべき疾患は、次の疾患の1つ以上から選択される:
【0021】
1.皮膚の炎症性疾患、その際、以下の疾患の1つ以上が特に有利である:
− 乾癬およびその様々なタイプと形:
− 他の角化障害
− ダリエー病
− 扁平苔癬
− 座瘡
より有利には;
− アレルギー性接触性皮膚炎(有利には)および/または湿疹;
− 刺激性接触性皮膚炎(有利には)および/または湿疹;
前記皮膚炎および湿疹の2個の疾患グループの内因性、またはより有利な外因性(特に、例えば医薬品または栄養素を局所に、または腸内もしくは腸管外、全身に投与した後)の疫学および病因の様々な臨床タイプおよび形を含む。
【0022】
2.粘膜の炎症性疾患、その際、以下の疾患の1つ以上が特に有利である:
− 気道の疾患、特に咽頭炎、(有利には非アレルギー性)気管支炎、または有利には
− 眼の疾患、特に:
・眼瞼炎
・結膜炎、および
・角膜炎
− 鼻の疾患、特に鼻炎、有利には非アレルギー性鼻炎;
− 耳の疾患、有利には耳炎;
− 消化管の疾患または障害、特に咽頭炎、さらに口内炎または直腸炎;
− 尿生殖路の疾患または障害、特に尿道炎、外陰炎、膣炎または亀頭炎。
【0023】
3.バクテリア、真菌類および/またはウイルスにより誘発される皮膚および粘膜の感染症。これらの疾患では、レチノイドアンタゴニストが抗菌薬、抗生物質、抗真菌薬および/または抗ウイルス薬のような抗感染剤と組合せて有利に使用される。
【0024】
4.特に皮膚および粘膜以外の組織および器官の炎症性疾患、炎症の徴候、症状および障害、例えば、より有利には
4.1. 自己免疫疾患または自己反応性免疫疾患と考えられる1型ヘルパーT細胞(Th1)媒介性免疫疾患;または1型ヘルパーT細胞(Th1)と2型ヘルパーT細胞(Th2)混合の疾患、または抗体媒介性免疫疾患(有利には多発性硬化症以外、より有利には急性期の多発性硬化症以外)。このカテゴリーの最も重要な疾患、従って使用が有利なものは:
・ インスリン依存性糖尿病;より有利には:
・ リウマチ様関節炎;
・ 全身性紅斑性狼瘡;
・ 自己免疫性甲状腺炎、例えば、橋本病;
・ インスリン依存性糖尿病;より有利には:
・ リウマチ様関節炎;
・ 全身性紅斑性狼瘡;
・ 自己免疫性甲状腺炎、例えば、橋本病;
・ クローン病;
・ 過敏性腸症候群;
・ 潰瘍性大腸炎;
・ 重症筋無力症;
・ 脈管炎;
・ 免疫複合体により引き起こされる疾患;
・ 臓器移植の拒絶反応および/または
・ GVH反応。
4.2. 腫瘍内または腫瘍周囲の炎症を伴う癌性疾患。極めて頻繁に癌性疾患は、炎症反応を併発し、これは時には極めて重度であり、むしろ生命を脅かしてしまう。これらの合併症は残念ながら通常の癌治療によって克服することができない。レチノイドアンタゴニストは腫瘍内および腫瘍周囲の炎症の治療において治療的に有用である。これには原発腫瘍ならびに転移での炎症が含まれる。抗炎症治療は、手術、X線治療、ホルモン療法または化学療法の前、途中または後で、通常の癌治療に相補的(合併療法)なものとして特に有効である。
4.3.(本発明の最も有利な態様として)関節および/または骨の炎症性疾患、特にリウマチ様関節炎(RA)、変形性関節症(OA)および/または後者の特殊な形としての脊椎関節症(SA)。
【0025】
RA、OAおよびSAの通常の治療は、Cox1またはCox2に特異性を有する非ステロイド性抗リウマチ薬(NSARD)、コルチコステロイド、メトトレキセートのような免疫抑制剤ならびにTNFα抗体またはTNFαレセプターのような生物学的製剤により行われている。十分な効能の欠如および有害な事態の発生頻度というような様々な理由から、通常の治療はなお不十分である。さらに、上記の生物学的製剤が経口投与できず、むしろ非経口投与されるという事実から他の不自由も生じる。
【0026】
変形性関節症は、骨および軟骨の炎症性疾患である。これは年輩者で最も頻繁な疾患のうちの1つである。変形性関節症(osteoarthritis)(この用語を以後使用する)、osteroarthrosis、または変性関節炎(degeneratave arthritis)という用語は、区別無く使用される。変形性関節症は、通常は手、脚、腰、膝、肘および脊椎に影響する。
【0027】
脊椎関節症または脊椎関節炎は、脊椎間の椎間関節が特に関わる腰椎で極めて頻繁に存在する。炎症反応が椎間関節の周囲で骨格の過骨症または骨成長を導いてしまうので、棘突起または骨棘(不適切な位置での骨形成)が形成される。これは、椎間関節嚢の肥厚、靱帯、特に黄色靱帯の肥大およびカルシウム沈着ならびに炎症性浮腫と組合わさって、脊柱管および椎孔の狭窄を導き、神経はこれ通って脊柱管を出る。上記の病理学的特徴は全体として、脊柱管狭窄症と呼ばれる。よって神経構造(神経根、神経節、脊髄神経)の圧搾は、神経跛行、知覚異常、筋衰弱および/または全身麻痺を伴って、神経障害または神経根障害を引き起こす。
【0028】
脊柱管狭窄症または一般的な変形性関節症に対して近年使用される治療は、例えば、硬膜外注射および理学療法による非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDS)、コルチコステロイドを用いる抗炎症薬を含む。最終的に、減圧を達成するために、極めて頻繁に外科的関与が避けて通れない。
【0029】
本発明による使用が成される全ての疾患および/または症状の中で特に重要なものの中に、非アレルギー性(これは特に、例えば感染性(感染を引き起こす)、自己免疫性、機械的に誘発される)炎症がある。極めて特に重要なのは、オールトランス型レチノイン酸または9−シスレチノイン酸のようなレチノイドアゴニストの副作用に基づかない、または基づくだけではない1つ以上の炎症性疾患であり、これは本発明の化合物の抗炎症作用が、レチノイドアゴニスト、特にレチノイン酸アゴニストの毒性作用および炎症作用の抑制以外である場合に有利である。本発明は、アンタゴニスト(特にRXR)の抗炎症作用が様々なタイプの炎症の誘発で見られることを初めて示した。このことは、アゴニストの副作用の除去が単にアンタゴニストの投与により達成されたのではなく、より一般的な抗炎症作用がこれらの化合物で見出されたことを示した。
【0030】
特にRXRアンタゴニスト(レチノイドXレセプター選択的)が関節および骨の炎症性疾患の治療において有効であるという発見は、特に予測不可能であった。これに関して、特に実施例のリウマチ様関節炎および変形性関節症のモデル系で証拠が存在する。リウマチ様関節炎を患った患者の関節液からのヒト滑液繊維芽細胞を、正常な関節を有する人からのヒト軟骨と共生培養した。化合物Aのような(表1参照)RXRアンタゴニストは、軟骨破壊酵素マトリックスメタロプロテアーゼ−1(MMP-1)の生産により刺激されて、実施例で使用された試験系で軟骨破壊を阻害した。
【0031】
得られた結果は、軟骨破壊の原因である軟骨分解と破壊におけるRXRアンタゴニストの阻害作用の証拠を提供する。関節および骨疾患における有益な作用は、特に意外であった。なぜなら、これまではレチノイドアゴニストだけが(フロイントアジュバントアゴニストのような特定のモデル系に基づいて)リウマチ様関節炎の治療において有用であると見なされていたからである。従って、これらの疾患の治療におけるレチノイドアンタゴニスト、特に有利なものとして挙げたものの使用は、本発明の最も有利な実施態様である。
【0032】
これに関して、本発明は、特に上記の1つ以上の炎症性疾患(特に有利なものとして挙げたもの)に対する、または炎症がこのような疾患の1要素である場合の使用に関する。
【0033】
“治療”という用語には、予防的(prophylactic)および/または特に治療学的治療が含まれる。化合物は、前記患疾の治療に有効な量で、特にこのような治療を必要とする患者に投与される。
【0034】
上記の疾患を治療するために、活性化合物、すなわちレチノイドアンタゴニスト、特にRXRアンタゴニスト、その製剤学的に認容性の塩、またはその製剤学的に認容性のエステルまたはアミドは、全身、または局所に投与される。有利には、前記活性化合物は、前記活性化合物および1つ以上の製剤学的に認容性のキャリヤーまたは前記活性化合物と相溶性の希釈剤を含有する組成物として投与される。このような組成物の製造では、製剤学的に認容性の通常のキャリヤーが利用できる。薬物を経口投与する場合には、これは一般に一定の間隔をあけて、通常は食事時間でまたは1日に1回投与される。毒性試験からの情報に基づいて、レチノイドアンタゴニストは、経口投与または局所投与される場合に、副作用を全く示さないか、または穏やかにしか示さない用量で有効である。従って、活性化合物の経口投与または局所投与が一般に有利である。しかし、例えば、皮膚、眼、耳、鼻、呼吸器、消化管または尿生殖路の疾患を治療するために、経口投与を局所投与と組合せて有利に使用してもよい。
【0035】
上記疾患の治療では、レチノイドアンタゴニストは経口投与される場合に、粘膜皮膚、筋骨格、神経性症状発現のようなビタミンA過剰症のトキシックシンドロームに属する有害な事態や、トランスアミナーゼ、トリグリセリドおよびコレステロールの上昇を誘発しないか、または僅かにだけしか誘発しない。さらに、これらはオールトランス型レチノイン酸(トレチノイン)、13−シスレチノイン酸(イソトレチノイン)、エトレチネートおよびアシトレチンのような皮膚疾患および腫瘍疾患の治療において臨床的に有効なレセプターアゴニスティックなレチノイドとは反対に殆ど催奇性ではない。
【0036】
皮膚および粘膜の炎症性疾患、および他の組織や器官の治療では、レチノイドアンタゴニスト、その製剤学的に認容性の塩または製剤学的に認容性のエステルまたはアミドは、単独で、または他の治療剤と組合せて、例えば、局所または全身的コルチコステロイド、免疫抑制剤、非ステロイド系抗炎症剤または抗リウマチ薬、抗菌薬、抗真菌薬または抗ウイルス薬のような他の製剤学的活性物質と組合せて、局所および/または全身に投与して使用できる。
【0037】
他の物質と組合せて使用する場合には、レチノイドアンタゴニストおよび前記の他の物質は、別々に投与するか、または有効量で1つの製剤学的組成物に挿入するか、またはパーツのキットを形成してよく、その成分を別々な時または重複しておよび/または同時に投与して、特に付加的むしろ相乗的方法で有利な効果が重複するか、むしろ相互に高めるようにしてよい。
【0038】
上記のレチノイドアンタゴニスト、その塩およびエステルまたはアミドは特に製剤学的に認容性の経口または局所調製物において有効である。これらの製剤学的組成物は、活性化合物を相溶性の製剤学的に認容性のキャリヤー材料と共同して有する。
【0039】
経口投与に適切な1つ以上の通常のキャリヤー材料を使用できる。適切なキャリヤー材料には、水、ゼラチン、アラビアゴム、ラクトース、スターチ、ステアリン酸マグネシウム、タルク、植物油、ポリアルキレン−グリコール、鉱油およびそのようなものが含まれる。さらに、製剤学的活性調製物は、他の製剤学的活性剤を含有していてもよい。さらに、着香剤、保存薬、錯化剤、顔料、染料、安定剤、界面活性剤、乳化剤、湿潤剤、可溶化剤、緩衝液などのような添加剤を、製剤学的配合で認可されている慣習に従って添加してもよい。適切なキャリヤー材料(本明細書で記載された以外の調製物用)は、薬局方、例えば欧州薬局方(Ph.Eur.)、ドイツDABまたは米国薬局方、特に本発明の提出日よりも前の最終版から導き出すことができる。
【0040】
製剤学的調製物は、特に次のものを含む通常の形を満たすことができる:(a)錠剤、カプセル剤(例えば、硬質または軟質ゼラチンカプセル剤)、丸剤、サッシェ、粉末、顆粒およびそのような物のような経口投与用の固形型;(b)液剤、懸濁剤、軟膏剤、クリーム剤、ヒドロゲル、リポゲル、微粉化粉末、スプレー、エーロゾルおよびそのような物のような局所投与用の調製物。製剤学的調製物は、滅菌してもよくおよび/または保存剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧を変えるための塩および/または緩衝液のような補助剤を含有していてもよい。
【0041】
皮膚または粘膜への局所投与のために、上記の化合物は有利に軟膏剤、チンキ剤、クリーム剤、ゲル剤、液剤、ローション剤として;鼻内スプレー;吸入用にエーロゾルおよび乾燥粉末として;懸濁剤、シャンプー、ヘアーソープ、香料およびそのような物として製造される。事実、どの通常の組成物も本発明で使用できる。本発明の薬剤を含有する組成物を適用する方法のうち有利なものは、軟膏剤、ゲル剤、クリーム剤、ローション剤;鼻内スプレー;吸入用のエーロゾルまたは乾燥粉末の形である。皮膚への局所投与用の製剤学的組成物は、前記の活性成分を通常このような調製物で使用される非毒性で治療的に不活性な固体または液体キャリヤーと混合することにより製造できる。これらの調製物は、有利には活性化合物を組成物の全重量に対して0.1〜5.0質量%、有利には0.3〜2.0質量%有する。
【0042】
上記局所調製物の製造では、局所調製物の製剤学的配合の分野で慣用の保存薬、増粘剤、香料およびそのような物の添加剤を使用できる。さらに、通常の抗酸化剤または通常の抗酸化剤の混合物を上記活性剤含有の局所調製物に挿入することもできる。これらの調製物中で利用できる通常の抗酸化剤の中には、N−メチル−α−トコフェノールアミン、トコフェロール、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、エトキシキンおよびそのような物が含まれる。本発明に従って使用される活性剤含有のクリームベースの製剤学的調製物は、脂肪酸アルコール、半固体石油炭化水素、エチレングリコールおよび乳化剤含有の水性エマルションから成る。
【0043】
例えば、骨、関節および/または靱帯への非経口的局所投与に関しては、注射または浸潤物を、本発明の更なる実施態様により、それぞれの(例えば疾患に冒された)箇所、例えば上記の組織または器官に置くことができる。本発明の有利な様式は、治療すべき関節、例えば、脊椎、腰、膝および/または指の関節へのRXRアンタゴニストの関節内注射の使用を行う。ある場合にはRXRアンタゴニストの局所投与は、RXRアンタゴニストの遅延放出型調製物の皮膚注射により行うことができる。所望の効果の遅延に応じて、種々の調製物が非経口的局所投与に有効であり、これは本発明の実施態様を形作る。数日、数週間、数ヶ月の治療に延長期間または長期の効果を達成するために、例えば、RXRアンタゴニストの結晶質懸濁液またはその塩を用いるか、または例えば、ポリラクチド、ポリ(DL-ラクチドコ−グリコライド(PLG)、Glu-PLGまたはそのような物のような(特に生分解性)ポリマー、マイクロカプセルおよび/またはミクロスフェアをベースとする他の長期放出調製物を用いることができる。これらの調製物は、有利には1単位用量あたり、10〜500mg、有利には20〜200mgまたはより有利には50〜100mg有する(例えば、結晶質懸濁液の場合には懸濁液1ml当たり)。
【0044】
本発明に倣った活性剤を含有する軟膏調製物は、例えば、半固体石油炭化水素と、活性材料の溶剤分散液の混合物を有する。本発明で使用するための活性成分を含有するクリーム組成物は、有利には湿潤剤、粘度安定剤および水の水相、脂肪酸アルコール、半固体石油炭化水素および乳化剤の油相、ならびに安定剤−緩衝剤水溶液中に分散させた活性剤含有の相から形成されるエマルションを有する。安定剤を局所調製物に添加してもよい。どの通常の安定剤も本発明に従って利用できる。これらの脂肪酸アルコール成分は、安定剤として働く。これらの脂肪酸アルコール成分は、少なくとも14個の炭素原子を含有する長鎖の飽和脂肪酸の還元から誘導される。また、一般に髪用の局所調製物中で利用される通常の香料およびローション剤も本発明に従って利用できる。さらに、所望の場合には、通常の乳化剤を本発明の局所調製物中で利用できる。
【0045】
気道の粘膜疾患、例えば、鼻炎および特に(有利には非アレルギー性)気管支炎の局所治療に関しては、鼻内スプレーおよび吸入エーロゾルが使用される。このようなエーロゾル用の調製物は、Drugs and Pharmaceutical Sciences, Marcel Dekker, New York, 1996, Vol.72、547〜574頁に記載されている。さらに、活性化合物は乾燥粉末吸入により輸送することができる。このような調製物および装置の例は、Pharmaveutical Technology, June 1997、117〜125頁に記載されている。
【0046】
有利な経口剤形の例には、錠剤、丸剤、サッシェまたは硬ゼラチンもしくは軟質ゼラチンのカプセル剤、メチルセルロールまたは消化管中で容易に溶解する他の適切な材料の物が含まれる。それぞれの錠剤、丸剤、サッシェまたはカプセル剤は、有利には活性成分を約10〜約500mg、より有利には約20〜約200mg含有できる。本発明に従って検討される経口投薬量は、処方する内科医により決定されるように各患者の必要に応じて変化する(例えば、患者の症状、大きさ、年齢、可能性としてあり得る他の治療法での障害およびそのようなもの)。しかし、一般に患者の体重1kg当たり0.2〜20mg、有利には0.5〜10mg、最も有利には体重1kg当たり約1mg〜約3mgの日用量が利用される。この用量は、患者の要求に応じて内科医により決定されるどの用量スケジュールに従って投与されてもよい。
【0047】
治療の投薬量は、通常個人の投与ルート、年齢、体重および疾患症状に依存する。適切な剤形は、当業者に公知であるかまたは自体公知の方法で容易に得ることができる。本発明の範囲内で特に適切である液剤、懸濁剤、ローション剤、ジェル剤、クリーム剤、噴霧剤;吸入用のエーロゾルおよび乾燥粉末、硬質ゼラチンカプセル剤または軟質ゼラチンカプセル剤、丸剤、錠剤およびサッシェの調製物は、上記の教示に従って容易に調節できる。
【0048】
上記で開示されたようなレチノイドアンタゴニストの製剤学的活性は、表1に挙げられている化合物:A、B、C、D、E、FおよびGを使用して、以下に示すような様々な試験モデルで証明できる。
【0049】
記載したこれらの剤形の他に、本発明で有効なものとして非経口の剤形(例えば、注射および/または点滴用の液剤または分散剤)も考えられる。しかし、腸内投与可能および/または局所投与可能な治療および相応の剤形が有利である。
【0050】
本発明の有利な実施態様は、請求項にも挙げてあり、従属請求項には更に有利な実施態様が挙げてある。よって、請求項を参照して本明細書中に取り入れることとする。
【0051】
以下の実施例は本発明を説明するものであるが、この範囲に限定されることはない:
1)皮膚の炎症性疾患の例
RXRアンタゴニストの抗炎症作用を測定するための実験的検査は、以下炎症性疾患のモデルを参照する。
【0052】
皮膚の炎症性疾患の例:レチノイドアンタゴニストをそれらの抗炎症特性について試験した。
【0053】
例1と2:急性および半慢性的炎症
炎症は、レチノイドレセプターアゴニスト、例えば、オールトランス型レチノイン酸レチノイン酸(AtRA)または9−シスレチノイン酸(9-cis RA)の局所(上皮の)塗布により誘発した;または特に、ホルボールエステル12−O−テトラデカノイルホルボール13−アセテート(TPA)の局所塗布により誘発した(この形は、プロテインキナーゼCに基づき全く異なる病因を有する炎症の場合である)。
【0054】
方法
C57BL/6系統のヌードマウスを使用した。At RA、9-cis RAまたはTPAのいずれかを用いて局所投与によりマウスの耳で炎症を誘発した。ミエロペロオキシダーゼ(MPO)の活性を多形核白血球の浸潤に直接に相関させて決定することにより、かつAP-1伝達経路に関連するタンパク質であるc-junのmRNA発現を公知の方法に従って決定することにより炎症を客観的に測定した(例えば、P. L. Stanley et al., Skin Pharmacol. 4,262-271(1991)(MPO assay), N. Basset-Sequin et al., J. Invest. Dermatol. 94, 418-422(1990), F. J. Rauscher et al., Cell 52, 471-480(1982), P-Sassone-Corn et al., Nature 326, 507-510(1987), および M.Pfahl, Endocr. Rev. 14, 651-658, 1993を参照、これを実験方法に関して参照して取り入れることとする)。
【0055】
“急性炎症”試験では、マウスを局所(上皮)、経口または腹腔内で毎日4日間治療した。“半慢性的炎症”試験では、以下に挙げられるスケジュールに従ってマウスを局所治療した。各試験では、少なくとも4匹の雄雌両方のマウスのグループを、プラセボ、ベヒクルコントロール、化合物、局所調製物、経口調製物、用量および濃度に関して所定の条件で使用した。局所ベヒクルは、エタノール/PEG400/水(3:1:1)から成る。
【0056】
結果:
例1.急性炎症
ベヒクル処理コントロールのミエロペルオキシダーゼ活性(%)の測定によりRXRアンタゴニストの抗炎症作用を試験した。炎症を誘発するために、9-cis RAまたはTPAを皮膚に毎日4日間局所投与した。炎症誘発剤を塗布した1時間後に、RXRアンタゴニスト化合物A(表1参照)を局所投与した。最後の治療の後にマウスを24時間後に殺生した。結果は表2に示してある。
【0057】
【表2】

【0058】
表2から分かるように、化合物Aの局所投与は、事前の9-cisRA局所塗布またはTPA局所塗布に誘発されるMPO活性を著しく低下させた。
【0059】
例2:半慢性的炎症
ベヒクルコントロールのミエロペルオキシダーゼ活性(%)を測定することにより、局所RXRアンタゴニストの抗炎症作用を試験した。RXRアンタゴニスト化合物Aの作用を、2個のコルチコステロイドのクロベタゾールジプロピネートおよびベタメタゾンプロピオネートの周知の抗炎症作用と比較した。炎症を誘発するために、AtRAおよびTPAを皮膚に局所的に塗布し、かつ試験化合物、RXRアンタゴニスト化合物Aおよび2個のコルチコステロイドの投与を以下の大きさで、Skin Pharmacol 1991; 4(4): 262-271, Stanley PL. et al,に記載されているスケジュールに従って与えた:RAまたはTPAを0、2、4、7および9日目に投与し、化合物Aまたはコルチコステロイドを7、8および9日目に1日2回、10日目の朝に1回投与した。マウスを10日目の午後に殺生した。結果は表3に挙げてある。
【0060】
【表3】

【0061】
表3から分かるように、化合物Aの局所投与は、事前の9-cisRA局所塗布またはTPA局所塗布に誘発されるMPO活性を著しく低下させた。2個のコルチコステロイドは、TPA誘発性皮膚炎症において類似した作用を有した。このことは、RXRアンタゴニストがレチノイン酸の有害な作用を補償するだけではなく、実際に、より一般的に炎症の治療に適用可能であることを示している。
【0062】
同じ実験では、c-Jun mRNAの発現はノーザンブロットにより測定し、ベヒクルコントロールのパーセントで表した。結果は表4に挙げられている:
【0063】
【表4】

【0064】
表4から分かるように、化合物Aの局所投与はc-Jun mRNA発現を阻害した。またコルチコステロイドはc-Jun mRNA発現も減らした。0.05%の同じ濃度では、これらは化合物Aより強い阻害作用を有する。しかし、有害な事態を誘発することなく、化合物Aをコルチコステロイドよりも相当に高い濃度で上皮に塗布できることを考慮すべきである。
【0065】
TPA誘発性炎症は、AP-1経路により導入されることが知られている。c-Jun発現の抑制とミエロペルオキシダーゼの相間する阻害に基づいて、RXRアンタゴニストとコルチコステロイドの作用の部分的に共通なメカニズムも可能である。
【0066】
例3:炎症していない正常皮での作用
方法
マウスの正常皮でのRXRアンタゴニスト化合物Aの作用を調べた。C57BL/6マウスの耳をアセトン/エタノール(1:1、v/v)中0.05%と2.5%濃度の化合物Aで、上皮(局所的)に4日間連続して治療した。ベヒクルコントロールと比較した。皮膚反応の1日の観察、特に炎症、紅斑、落屑および浮腫を続けた。ミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性を測定した。MPOの活性は、皮膚の炎症の評価にとって最も感受性のある判定基準であると考えられている(上記の例1および例2参照)。
【0067】
結果
化合物Aは、マウスの正常皮で皮膚炎症の臨床的徴候または症状を誘発しなかった。0.05%濃度の化合物Aでは、ベヒクルコントロールと比較してMPO活性に著しい変化はなかった。しかし、2.5%濃度の化合物Aでは、MPO活性はベヒクルコントロールのその57%まで著しく減少した。より高い濃度、なお許容される濃度の化合物Aでも、正常皮膚でのMPOの基礎活性を下げるという結論が導き出せる。このことは、炎症剤に対して、または炎症誘発剤に暴露した場合に炎症性皮膚疾患のある患者において、化合物Aの予防効果を示す証拠を提供する。
【0068】
骨および関節の炎症性疾患の例:
例4:リウマチ様関節炎のある患者から採取した髄膜線維芽細胞により誘発されるヒト軟骨の分解/破壊におけるRXRの作用
【0069】
方法:
髄膜線維芽細胞の活性におけるRXRアンタゴニストの作用を、それらの活性化状態に応じて、すなわち炎症性サイトカインインターロイキン−1β(1L-1β)による同時刺激により修正して測定した。さらに、これがヒト軟骨およびそれに引き続く関節破壊の要因であるmRNAコード化分解酵素マトリックスメタロプロテアーゼ−1(MMP-1)の蓄積において変化を伴うかどうかを測定した。RAのある患者から採取した付着性の滑液細胞を、軟骨崩壊用のin vitroアッセイで5継代培養した後に使用した。ヒト軟骨粉末0.1%(0.1g/100ml)でコーティングし、フラスコ中でインキュベートした細胞をMatrigel(R)を用いて固定した(BD Biosciences, Becton, Dickinson & Co., Boston, MS, USA)。培地へのスルフェート化グリコサミノグリカン(sGAG)の放出を、S. Bjoernssonにより記載されている方法に従って、アルシアンブルードットブロット分析を用いて、市販の比色試験によりモニターし(Anal. Biochem. 256, 229-237(1998)参照)、かつmRNAコード化MMP-1の蓄積をリアルタイムPCRにより定量化した(TaqMan(R)(Roche Diagnostics, Basle, Switzerland))。
【0070】
初めにエタノールで希釈し、次にベヒクルまたは培養液で希釈して所望の用量/濃度にしたレチノイドアゴニストオールトランス型レチノイン酸および9−シスレチノイン酸(両方ともビタミンAの生理学的代謝産物である)ならびにRXRアンタゴニスト化合物Aを、時間経過で(in vitroアッセイに0〜35日、MMP-1mRNAに0〜48時間、表7、8および10参照)および用量依存的に(10−7〜10−9M、表5、6および9参照)試験した。これはIL-1β(100pg/ml)の存在もしくは不在下に行った。
【0071】
結論
IL-1βの不在下では、レチノイドパンアゴニスト9−シスRAはin vitroでの軟骨崩壊を用量依存的(最大10−7〜10−8Mの間)に増大したのに対して、これとは反対にRXRアンタゴニスト化合物Aは、髄膜線維芽細胞の基礎活性に何の影響も及ぼさなかった(表5)。
【0072】
【表5】

【0073】
しかし、IL-1βの存在下では、極めて意外にもRXRアンタゴニスト化合物Aは著しくIL-1β依存性軟骨崩壊を阻害し、sGAGの減少により証明された(表6)。
【0074】
【表6】

【0075】
時間経過は、レチノイドアゴニスト9-cis RAがin vitroで軟骨崩壊を著しく増大したことを確証したのに対して、レチノイドアンタゴニスト化合物Aでは、そうではない。この効果は、IL-1βの存在および不在下の両方で観察された(表7と8)。
【0076】
【表7】

【0077】
【表8】

【0078】
最後に、in vitroでの軟骨崩壊は、12時間インキュベートした髄膜線維芽細胞中でのMMP-1mRNAの蓄積とよく相関した(表9、10)。
【0079】
【表9】

【0080】
【表10】

【0081】
結論
RXRアンタゴニストは、リウマチ様関節炎および変形性関節症における関節の崩壊に関する薬理学的モデル系で軟骨崩壊を阻害した。
【0082】
RXRアンタゴニストの局所または経口投与により炎症性疾患を治療するための製剤学的調製物の例
本発明の使用に有用な以下の調製物を表に挙げられているように、および標準的な方法を使用して、または特に経口投与について例5〜8で記載した方法、局所投与について例9〜13で記載した方法を使用して製造した。その際、“活性化合物”は、表1に挙げた化合物A、B、C、D、E、F およびGのうちの1つから、有利には化合物Aから成る。
【0083】
例5:軟質ゼラチンカプセル剤用の充填素材および該充填素材で充填したカプセル剤:
軟質ゲルカプセル剤用の充填素材を以下の成分を使用して製造した:
【0084】
【表11】

【0085】
次に、この充填素材を使用して、以下の含有量を有する軟質ゼラチンカプセル剤を製造した:
【0086】
【表12】

【0087】
例6:硬質ゼラチンカプセル剤:
以下のように硬質ゼラチンカプセル剤を製造した:
【0088】
【表13】

【0089】
例7:錠剤:
以下のように錠剤を製造した:
【0090】
【表14】

【0091】
表8:サッシェ:
以下の成分を用いてサッシェを製造した:
【0092】
【表15】

【0093】
例9:ローション剤、液剤または懸濁剤:
以下の組成物を用いて、ローション剤、液剤または懸濁剤を製造した:
【0094】
【表16】

【0095】
例10:ゲル剤:
以下の組成物を用いてゲル剤を製造した:
【0096】
【表17】

【0097】
例11:クリーム剤:
以下の組成物を用いてクリーム剤を製造した:
【0098】
【表18】

【0099】
例12:鼻内スプレー:
以下の組成物を用いて鼻内噴霧懸濁剤を製造し、かつ定量噴霧式ポケット噴霧器に充填した。
【0100】
【表19】

【0101】
例13:エーロゾル:
以下の組成物で吸入用のエーロゾル懸濁剤を製造し、定量噴霧式吸入器に充填した。
【0102】
【表20】

【0103】
例14:吸入器用の乾燥粉末:
ドライパウダーインヘラーを以下の混合物で充填した:
【0104】
【表21】

【0105】
例15:結晶質の懸濁剤:
遅延放出型調製物として関節内注射、硬膜外注射または病巣内浸透用に結晶質の懸濁剤を製造した。
【0106】
【表22】

【0107】
健康な有志者の皮膚に局所投与した化合物A(RXRアンタゴニスト)の作用の例、臨床パイロット試験、上皮塗布:
例16:炎症の無い健常者の皮膚への局所化合物Aの作用:
皮膚への化合物の局所投与は、ヒトの皮膚に炎症を起こして頻繁に障害を持つようになる。従って、ヒトの皮膚でその炎症ポテンシャルについて化合物A(RXRアンタゴニスト)を試験した。
【0108】
方法
1人の健康な有志者における臨床パイロット試験では、0.1%、0.3%および1%の濃度の強力な炎症誘発剤である9-cis RAのものと比較して、その炎症ポテンシャルに関して化合物Aを1%の濃度で上皮に塗布した。
【0109】
化合物をエタノール/プロピレングリコール(1:1)中に溶解または懸濁させた。これらを1日に2回、1週間に7日間、2週間連続して上皮に塗布した。塗布部位は、腹部皮膚上の3×3=9cmの部分であった。体積は1回の塗布当たり0.1mlであった。
【0110】
次の皮膚炎症の徴候および症状を記録した:紅斑、落屑(スケーリング)、そう痒、焼け、疼痛、滲出、浮腫、潰瘍。これらを次のスケールで分類した:
0=皮膚炎症の徴候または症状なし
1=僅かな紅斑、落屑およびそう痒
2=穏やかな紅斑、落屑およびそう痒
3=著しい紅斑、落屑およびそう痒/焼け
4=重度の紅斑、落屑およびそう痒、焼けまたは疼痛、浮腫、滲出、潰瘍。
【0111】
治療期間は、1〜14日目まで続き、治療後観察は、15〜28日目であった。
【0112】
結果
9−cisRAを3つの濃度で試験した:0.1%、0.3%および1.0%。治療開始後、最初の9日間は、皮膚炎症の徴候または症状が何も観察されなかった。10日目と11日目の周辺では、症状が僅かな紅斑、落屑およびそう痒の形で現れるようになった。これらの症状は12、13および14日の間に濃度に応じて、0.1%と0.3%では穏やかな炎症に、1.0%では著しい症状に増大した。治療を中止した3日後、すなわち17日目に、炎症はなお続き、かつ濃度依存性であった:1%で著しい炎症(3)、0.3%で穏やかな炎症(2)、0.1%で僅かな炎症(1)。18日目以降、18日目と22日目の間、すなわち治療中止後の4〜8日目には、濃度に依存して炎症は0に減少した。
【0113】
化合物Aを1%濃度で試験した。1%で著しい皮膚炎症を引き起こす9-cis RAとは反対に、化合物Aは1%で皮膚炎症が無く、優れた耐性があった。化合物Aは、治療期間中も治療後の観察期間中にも客観的または主観的症状を誘発しなかった。
【0114】
結論:
ヒトの皮膚の上皮に塗布した化合物Aは、28日間の臨床パイロット試験で皮膚炎症の徴候または症状を誘発しなかった。
【0115】
例17:局所9-cis RAレチノイ酸(9-cis RA)により誘発されるヒトの皮膚炎症における局所的化合物Aの治療効果
上皮に塗布した化合物A(RXRアンタゴニスト)をその抗炎症作用についてヒトの皮膚で試験した。ここで、炎症は局所9-cis RAにより誘発した。
【0116】
方法
一人の健康な有志者(WB)における以下の臨床パイロット試験では、化合物を上皮に塗布した。その皮膚炎症ポテンシャルに関して知られた9-cis RAを0.1%、0.3%および1%の濃度で使用した。化合物A(RXRアンタゴニスト)濃度は1%であった。化合物をエタノール/プロピレングリコール(1:1)中で溶解させた。9-cis RAを1日に2回、1週間に7日間、2週間連続して塗布した。塗布部位は、腹部皮膚上の3×3=9cmの部分であった。体積は1回の投与当たり0.1mlであった。
【0117】
1%濃度で1日2回投与した化合物Aでの治療を、9−cisRAでの治療を中止した15日目に開始した。この治療は15日から22日目まで続けた。適切な評価のために、9-cis RAにより誘発した炎症のある比較部位を15から22日目までベヒクル、エタノール/プロピレングリコールで治療した。治療後期間は28日まで続けた。
【0118】
例16に記載したように、皮膚炎症の徴候および症状を0から4のスケールで記録した。
【0119】
化合物Aの抗炎症作用を評価するために、15から28日目までの1日の炎症スコアの合計ならびに15日目から皮膚炎症が完全に消失するまでの時間を測定した。
【0120】
結果(表22参照)
9-cisレチノイン酸(9-cis RA)誘発性皮膚炎症におけるRXRアンタゴニスト化合物Aの抗炎症作用−臨床パイロット試験
皮膚炎症の誘発:9-cis RA0.1%、0.3%および1%の局所塗布
治療:化合物A 1%の局所塗布、
9-cis RA 0.1%、0.3%および1%、1〜14日目、
続いてベヒクル15〜22日目、
9-cis RA 0.1%、0.3%および1%、1〜14日目、
続いて化合物A1%、15〜22日目、
皮膚炎症:スケール0〜4、ベースラインから28日目までの1日の測定
【0121】
【表23】

【0122】
局所に与えた9-cis RAは、著しい皮膚炎症作用を及ぼした。炎症の誘発は9-cis RAの濃度に依存した。1%9-cis RAの溶液は、0.1%のものよりもはるかに高い皮膚刺激を引き起こした。
【0123】
最初の2週間以内に9-cis RAで治療した後は、炎症は減少する傾向があり、15日目と23日間の間に消失した。
【0124】
炎症が消失するまでの時間は、ベヒクルコントロールと比べて、15日目と22日目の間に化合物Aを1%濃度で塗布した場合に目だって短くなった。0.1%9-cis RAで皮膚炎症を誘発したケースで、化合物Aを1%濃度で投与した場合に、炎症が消失するまでの時間は3日間であり、ベヒクル投与の場合には8日であった。
【0125】
この抗炎症作用は、15日目から28日目までの1日の炎症スコアの合計を測定することによっても証明された。1%化合物Aで治療することにより、0.1%9-cis RA試験での1日の炎症スコアの合計は、ベヒクルコントロールでの治療による6.5と比較して2.5まで減少した。
【0126】
0.3%9-cis RAでの試験は、0.1%9-cis RAでの試験と似た作用を示した。炎症が高濃度の1%9-cis RAにより誘発される場合には、抗炎症作用はあまり著しくなく、1日の炎症スコアの合計の減少は、14.5から11までであった。
【0127】
例18:9-cis RA誘発性皮膚炎症におけるRXRアンタゴニスト化合物Aの抗炎症作用−化合物Aの予防的および治療的効果の比較
有志者の試験は、例17に関して付加的な試験を意味する。例15は、9-cis RAを局所投与する前に皮膚炎症が誘発された後に、化合物Aの治療的抗炎症作用が化合物Aの局所投与により証明された試験を扱っている。この試験は、局所的9-cis RAにより誘発した皮膚炎症においてRXRアンタゴニスト化合物Aの予防的および治療的効果を比較するために実施した。
【0128】
方法
一人の健康な有志者(WB)におけるこのパイロット試験では、物質9-cis RAと化合物Aを上皮に投与した。炎症誘発剤9-cis RAを0.3%濃度で使用した。RXRアンタゴニスト化合物Aを1%濃度で塗布した。化合物をエタノール/プロピレングリコール(1:1)中に溶解し、かつ1日に2回投与した。塗布部位は、腹部皮膚上の様々な箇所で3×3=9cmであった。1回の塗布当たりの体積は0.1mlであった
様々な部位で次の3つの臨床的セットを選択した:
1.9-cis RAによる皮膚炎症の誘発
9-cis RAを0.3%溶液として1日目から14日目まで1日に2回投与した。ベヒクルを15日目から皮膚炎症が消失するまで投与した。
2.RXRアンタゴニスト化合物Aによる9-cis RA誘発性皮膚炎症の予防
0.3%の9-cis RA溶液を1日目から14日目まで1日に2回投与し、その後、そのつど化合物Aを1%溶液として塗布した。
3.RXRアンタゴニスト化合物Aによる9-cis RA誘発性炎症の治療
0.3%の9-cis RA溶液を1日目から14日目まで1日に2回投与した。化合物Aを1%溶液として15日目から皮膚炎症が消失するまで投与した。
【0129】
例16に記載したように、皮膚炎症の徴候と症状を0から4のスケールで記録した。抗炎症作用の評価は炎症スコアの1日の測定に基づいている(スケール0〜4)。
【0130】
次のパラメーターは、9-cis RAの効果、化合物Aの予防効果および化合物Aの治療効果を評価するための判定基準として利用する。
1.1日目から28日目までの1日の炎症スコアの合計。全体の炎症スコア。
2.15日目から皮膚炎症が消失するまでの1日の炎症スコアの合計。
3.15日目から皮膚炎症が消失するまでの日数時間。
【0131】
結果(表23):
【0132】
【表24】

【0133】
9-cis RAは、ヒトの皮膚で著しい炎症作用を有した。全体の炎症スコアは、18であった。15日目から炎症が完全に消失するまでの1日の炎症スコアの合計は、14であった。15日目から皮膚炎症が完全に消失するまでに13日間必要であった。
【0134】
RXRアンタゴニスト化合物Aによる皮膚炎症の予防
化合物Aは、著しい作用を有した。評価のための全てのパラメーターが影響を受けた。この予防試験では、全体の炎症スコアは18から11に減少し、15日目から皮膚炎症が消失するまでの1日の炎症スコアの合計は、14から5に減少し、15日目から皮膚炎症が消失するまでの時間は、13日から6日に減少した。
【0135】
RXRアンタゴニスト化合物Aによる皮膚炎症の治療
化合物Aは、治療的臨床試験において著しい炎症作用を有した。全てのパラメーターは、炎症誘発剤9-cis RAの値と比較して50%またはそれ以上減少した。全体の炎症スコアは18から9まで減少し、15日目から皮膚炎症が消失するまでの1日の炎症スコアの合計は、14から5に減少し、かつ15日目から皮膚炎症が消失するまでの日数は、13日から6日に減少した。
【0136】
結論
例15と16の結果は、炎症性疾患、特に皮膚の炎症性疾患の予防および治療での抗炎症剤としてRXRアンタゴニスト化合物Aに効能があるという概念を臨床的に証明している。
【0137】
例19:健康な有志者の皮膚に投与した化合物Aの作用、ここで皮膚炎症はCandidin(カンジダアルビカンスの抽出物)の局所塗布またはUV-B照射により誘発させた
臨床フェーズI試験、ジュネーブ大学病院の倫理委員会およびスイス薬物局Swiss Medicにより認可された。
【0138】
この臨床フェーズI試験では、化合物Aの抗炎症作用と、局所的コルチコステロイドもしくは免疫調整薬マクロライドを用いる通常の治療の抗炎症作用とを比較した。例17および18とは異なり、例19での皮膚炎症は9−cisレチノイン酸のようなレチノイドアゴニストにより誘発されなかった。従って、レチノイドアンタゴニスト化合物A(RXRアンタゴニスト)の抗炎症作用は、単にレチノイドアゴニストの毒性作用および炎症作用の抑制として考えることはできない。
【0139】
レチノイドアゴニストの炎症作用と他の炎症誘発剤の炎症作用との間の大きな違いについての更なる証拠は、それらの毒性副作用のスペクトルが極めて異なることにある。レチノイドアゴニストは、全身投与される場合には、局所的ビタミンA過剰症シンドロームを誘発し、それ自体が頭痛、潮紅、口唇炎、結膜炎、他の様々な粘膜皮膚の症状発現、筋骨格の症状および実験上の異常、例えば、トランスアミラーゼ、トリグリセリドおよびコレステロールの増大となって表れる。例19で使用される皮膚炎症誘発剤は、この毒性副作用のスペクトルを誘発しない。従って、例19はRXRアンタゴニスト化合物のグループが予想外かつ未知の発明的な一般の抗炎症薬として有用性があることを臨床的に証明した。
【0140】
方法:
4人の健康な有志者が参加した。含まれる判定基準:18歳以上、男性または女性。彼らは書面でインフォームドコンセントを受けた。除かれる判定基準:予め存在する皮膚疾患、試験薬に対する公知のアレルギー。
【0141】
炎症誘発剤:Candidinを皮内に投与した(D. Poffet, Comparaison entre le pouvoir vaso-constricteur dun corticoide topique et linhibition de la dermite a la candidine apres intradermoreaction(IDR). These, Universite de Geneve, 1984も参照)。UV-B線をUV-Bランプにより当てた。
【0142】
炎症を定量的に測定した。炎症した皮膚の部分をcmで測定した。皮膚の厚さを20MHzで超音波によりモニターした。紅斑をMinolta CR 20を用いて比色定量により測定した。
【0143】
以下の抗炎症剤を使用した:
− 化合物A(RXRアンタゴニスト):ローション、エタノール/PEG 400/水(3:1:1)中に溶解させた1%濃度の活性成分。
− コルチコステロイド:Diprosone(R)(エセックスファーマ; 有効成分:ジプロピオン酸ベータメタゾン)クリーム;Dermovate(R)(グラクソスミスクライン;有効成分:プロピオン酸クロベタゾール)クリーム。
− マクロライド:Protopic(R)(藤沢薬品;有効成分:タクロリムス)クリーム;Elidel(R)(ノルバティス;有効成分:ピメクロリムス)クリーム。
【0144】
試験計画:
投与の部分:各有志者の前腕での小さな6つの別々の皮膚の部分。
1日目:皮膚の厚さの測定。炎症剤の投与(1日目のみ)。炎症剤を直前に載せた部分への化合物A、コルチコステロイドまたはマクロライドの投与。1部分をベヒクルコントロールで治療するか、または全く治療しなかった。
2日目:皮膚の厚さ、紅斑および炎症した皮膚の部分の測定。抗炎症試験物質の塗布。
3日目:皮膚の厚さ、紅斑および炎症した皮膚の部分の測定。抗炎症試験物質の塗布。
4日目:皮膚の厚さ、紅斑および炎症した皮膚の部分の測定。
【0145】
全ての測定を0〜4のスケールで記録した:
0=減少なし
1=僅かな減少(10〜20%)
2=穏やかな減少(21〜40%)
3=著しい減少(41〜70%)
4=極めて著しい減少(71〜100%)[ベヒクルコントロールと比較して]。
【0146】
結果:
4人の有志者では、コルチコステロイドまたは炎症調整薬マクロライドで治療した場合に、炎症反応の著しい減少から極めて著しい減少までが見られた。局所化合物Aで治療した有志者では、抗炎症作用がコルチコステロイドまたはマクロライドのものよりも優れていた。炎症反応の減少は、局所化合物Aで治療した全ての有志者で極めて著しかった。化合物Aの更なる利点は、前のパイロット試験では、局所塗布した場合でも4日間だけではなく、14〜20日間にわたって化合物Aが皮膚において何の副作用も起こさなかったということである(例16参照)。これは、コルチコステロイドと免疫調整薬マクロライドを用いた場合には常にこうなるとは限らない。
【0147】
結論:局所投与した化合物Aは、通常のコルチコステロイドまたは免疫調整薬マクロライドを用いる通常の治療よりも優れた、臨床的に効能のある抗炎症剤であることが証明された。局所的化合物Aの更なる利点は、皮膚での有害な副作用を誘発しないことである。例19のヒトにおけるパイロット試験での結果は、上記の例1と2で報告された動物実験で達成された結果に相応する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炎症が疾患の症状発現の1要素である場合の、皮膚、粘膜の疾患、または皮膚および/または粘膜の他の疾患を治療するための製剤学的調製物を製造するための、レチノイドアンタゴニスト、その製剤学的に認容性のエステルまたはアミド、またはこれらの製剤学的に認容性の塩の使用。
【請求項2】
治療すべき疾患は、皮膚または粘膜のうちの1つである、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
治療すべき疾患は、皮膚または粘膜以外の器官または組織の疾患である、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
レチノイドアゴニストは、式I
【化1】

[式中、点線は結合を表し、よって実線と一緒にRaとRbを有する炭素原子の間で二重結合を形成するか、または点線は無く、よって単結合を形成し、かつ点線結合がある場合には、Raはメチル、Rbは水素であり、点線結合が無い場合はRaとRbは一緒にメチレンであり、RaとRbを有する2個の炭素原子と一緒に、有利にはシス置換シクロプロピル環を形成し;およびRcは、C〜C−アルコキシである]
の化合物;
式II
【化2】

[式中、点線は結合を表し、よって実線と一緒にRaとRbを有する炭素原子の間で二重結合を形成するか、または点線は無く、よって単結合を形成し、かつ点線結合がある場合には、Raはメチル、Rbは水素であり、点線結合が無い場合はRaとRbは一緒にメチレンであり、RaとRbを有する2個の炭素原子と一緒に、有利にはシス置換シクロプロピル環を形成し;およびRcは、C〜C−アルコキシである]
の化合物;および
式III
【化3】

[式中、・・・K・・・は、C〜C−アルキレン、特に−CH−CH−CH−、または=CH−CH=であり、よって2個の炭素原子と一緒に結合・・・K・・・は、ベンゼン環を形成し;およびRcはC〜C−アルコキシである]
の化合物から成るグループから選択されるレチノイドRXRアンタゴニスト化合物またはそれぞれの場合に、その製剤学的に認容性のアミド、エステルおよび/または塩である、請求項1または2もしくは3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
レチノイドアンタゴニストは、
(2E,4E)−(1RS,2RS)−5−[2−(3,5−ジ−tert−ブチル−2−ブトキシ−フェニル)−シクロプロピル]−3−メチル−ペンタ−2,4−ジエン酸、
(2E,4E)−(1RS,2RS)−5−[2−(3,5−ジ−tert−ブチル−2−エトキシ−フェニル)−シクロプロピル]−3−メチル−ペンタ−2,4−ジエン酸、
(2E,4E,6Z)−7−[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−2−エトキシフェニル]−3−メチル−2,4,6−オクタトリエン酸エチルエステル、
(2E,4E)−3−メチル−5−[2−(2,6,6−トリメチル−シクロヘキセ−1−エニルエチニル)−シクロヘプテ−1−エニル]−ペンタ−2,4−ジエン酸、
(2E,4E)−3−メチル−5−[(1RS,2RS)−2−(5,5,8,8−テトラメチル−3−プロポキシ−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−2−イル)−シクロプロピル]−ペンタ−2,4−ジエン酸、
(2E,4E,6Z)−3−メチル−7−(5,5,8,8−テトラメチル−3−プロポキシ−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−2−イル)−オクタ−2,4,6−トリエン酸、および
特に(2E,4E,6Z)−7−[2−ブトキシ−3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)フェニル]−3−メチル−2,4,6−オクタトリエン酸
から成るグループから選択されるRXRアンタゴニスト、またはそれぞれの場合に、その製剤学的に認容性のアミド、エステルおよび/または塩である、請求項1から4までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
疾患は、1型ヘルパーT細胞または混合の1型ヘルパーT細胞/2型ヘルパーT細胞媒介性である、請求項1から5までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
疾患と関連する炎症症状を治療すべきである、請求項1から6までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
治療すべき疾患は、アレルギー性湿疹および/または有利にはアレルギー性皮膚炎、特に接触性皮膚炎である皮膚の疾患である、請求項1から7までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
治療すべき疾患は、刺激性接触性湿疹および/または有利には刺激性接触性皮膚炎である皮膚の疾患である、請求項1から7までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
治療すべき疾患は、それぞれ外因性病因の湿疹または皮膚炎である皮膚の疾患である、請求項1から7までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項11】
治療すべき疾患は、乾癬の様々なタイプと形のうちの1つである皮膚の疾患、他の角化障害、ダリエ病または扁平苔癬である、請求項1から7までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項12】
治療すべき疾患は、座瘡である皮膚の疾患、有利には炎症要素のある座瘡である、請求項1から7までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項13】
治療すべき疾患は、感染性疾患である皮膚の疾患である、請求項1から7までのいずれか1項、または請求項8から12までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項14】
治療すべき疾患は、気道の疾患である粘膜の疾患、特に喉頭炎および/または気管支炎、特に非アレルギー性気管支炎である、請求項1から7までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項15】
治療すべき疾患は、眼の疾患である粘膜の疾患、有利には眼瞼炎、結膜炎および/または角膜炎である、請求項1から7までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項16】
治療すべき疾患は、鼻の疾患である粘膜の疾患、有利には鼻炎、特に非アレルギー性鼻炎、または有利には耳の疾患、特に耳炎である、請求項1から7までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項17】
治療すべき疾患は、消化管の疾患または障害である粘膜の疾患、有利には咽頭炎、さらに有利には口内炎または直腸炎である、請求項1から7までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項18】
治療すべき疾患は、尿生殖路の疾患または障害である粘膜の疾患、特に尿道炎、外陰炎、膣炎および/または亀頭炎である、請求項1から7までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項19】
治療すべき疾患は、バクテリア、真菌類および/またはウイルスにより誘発される疾患である、請求項1から7までのいずれか1項、または請求項14から18までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項20】
治療すべき疾患は、皮膚および/または粘膜の疾患または障害であり、かつ製剤学的調製物は、レチノイドRXRアンタゴニストと、抗炎症剤および抗感染薬、特に抗菌薬、抗真菌薬および/または抗ウイルス薬から成るグループから選択される1つ以上の他の薬剤とを有して、固定した組合せの形であるか、または同時、別々もしくは連続して使用するためのパーツのキットの組合せであり、かつ特に経口投与または局所投与のためである、請求項1から7までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項21】
治療すべき疾患は、皮膚および粘膜以外の組織および/または器官の炎症性疾患であるか、または皮膚および粘膜以外の組織および/または器官の疾患であり、その際、炎症は疾患の症状発現の1要素である、請求項1から7までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項22】
疾患は、細胞媒介性免疫疾患および/または1型ヘルパーT細胞媒介性免疫疾患または自己免疫疾患である、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
治療すべき疾患は、インスリン依存性糖尿病である、請求項21および22のいずれか1項に記載の使用。
【請求項24】
治療すべき疾患は、リウマチ様関節炎、全身性紅斑性狼瘡、自己免疫疾患、特に自己免疫性甲状腺炎、クローン病、過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎、重症筋無力症、脈管炎、免疫複合体により引き起こされる疾患、臓器移植の急性および/または慢性拒絶反応および/またはGVH反応である、請求項21および22のいずれか1項に記載の使用。
【請求項25】
炎症性疾患は、原発腫瘍ならびに転移を含む、体のいずれかの種類の組織および器官の癌腫または肉腫のような癌性疾患で生じる腫瘍周囲または腫瘍内炎症である、請求項21または22のいずれか1項に記載の使用。
【請求項26】
炎症性疾患は、関節および/または骨の炎症、特にリウマチ様関節炎または変形性関節症、特に動物、とりわけ人体の1つ以上の関節および/または骨で軟骨破壊、関節破壊および/または骨破壊を導く炎症性疾患である、請求項21および22のいずれか1項に記載の使用。
【請求項27】
炎症性疾患は、脊椎管狭窄症を導く脊椎の関節および/または骨の炎症である、請求項21および22のいずれか1項に記載の使用。
【請求項28】
製剤学的調製物は、経口投与用であり、特に被験者の体重1kg当たり約0.2mg〜約20mg、より有利には1.0〜5mgの化合物の日用量である、請求項4から20まで、または特に請求項1、2、3または請求項21から27までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項29】
製剤学的調製物は、レチノイドアンタゴニストを10〜500mg、有利には20〜200mg有する錠剤、カプセル剤、丸剤またはサッシェの形で製造される、請求項27に記載の使用。
【請求項30】
製剤学的調製物は、局所投与用であり、特にレチノイドアンタゴニストを0.1〜5.0質量パーセント、有利には0.3〜2.0質量パーセント有する軟膏剤、クリーム剤、ローション剤、ゲル剤またはスプレー剤である、請求項4から20まで、または特に請求項1、2、3または請求項21から27までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項31】
製剤学的調製物は、吸入用のものから成り、有利には鼻のエーロゾル、吸入用のエーロゾルまたは吸入用の乾燥粉末であり、それぞれレチノイドアンタゴニストを0.1〜5.0質量パーセント、有利には0.3〜2.0質量パーセント有する、請求項30に記載の使用。
【請求項32】
製剤学的調製物は、調製物1ml当たりレチノイドアンタゴニストを10〜500mg、有利には20〜200mg、より有利には50〜100mg有する、遅延放出型調製物、特に関節内注射、硬膜外注射または病巣内浸透用の結晶質懸濁液である、請求項4から20まで、または特に請求項1、2、3または請求項21から27までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項33】
製剤学的調製物は、レチノイドRXRアンタゴニストと、抗炎症剤および抗感染薬から成るグループから選択される1つ以上の他の薬剤とを有して、固定した組合せの形であるか、または同時、別々もしくは連続して使用するためのパーツのキットの組合せであり、かつ特に経口投与または局所投与のためである、請求項21から31まで、または請求項32のいずれか1項に記載の使用。
【請求項34】
請求項1から3まで、または請求項6から27までのいずれか1項に記載の疾患または障害の治療における、有利には請求項28に記載の用量で、有利には請求項20から28まで、または請求項31もしくは32のいずれか1項に記載の製剤学的調製物の形でのレチノイドアンタゴニスト、その製剤学的に認容性のエステル、製剤学的に認容性のアミドおよび/または製剤学的に認容性の塩、特に請求項4または5に示されたものの使用、または請求項1から3まで、または請求項6から27までのいずれか1項に記載の疾患または障害の治療において、有利には請求項28に記載の用量で、有利には請求項20から28まで、または請求項31もしくは32のいずれか1項に記載の製剤学的調製物の形で使用するための、レチノイドアンタゴニスト、その製剤学的に認容性のエステル、製剤学的に認容性のアミドおよび/または製剤学的に認容性の塩、特に請求項4または5に示されたもの。
【請求項35】
治療を必要とするホ乳類、特にヒトにレチノイドアンタゴニスト、その製剤学的に認容性のエステル、製剤学的に認容性のアミドおよび/または製剤学的に認容性の塩、特に請求項4または5に示されたものを、該疾患の治療に有効な量で、有利には請求項28に記載の用量で投与することから成る、請求項1、2、3または6から27までのいずれか1項に記載の疾患または障害を治療する方法。
【請求項36】
レチノイドアンタゴニスト、その製剤学的に認容性のエステル、製剤学的に認容性のアミドおよび/または製剤学的に認容性の塩、特に請求項4または5に示されたもの、および製剤学的に認容性のキャリヤー材料を有する、請求項1、2、3または6から27までのいずれか1項に記載の疾患または障害を治療するための製剤学的調製物。

【公表番号】特表2008−508208(P2008−508208A)
【公表日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−522965(P2007−522965)
【出願日】平成17年7月16日(2005.7.16)
【国際出願番号】PCT/EP2005/007762
【国際公開番号】WO2006/010503
【国際公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(506426177)
【氏名又は名称原語表記】Werner Bollag
【住所又は居所原語表記】Birmannsgasse 14A, CH−4055 Basel, Switzerland
【Fターム(参考)】