炎症性皮膚疾患、障害または症状のための医薬組成物および診断方法
本発明は、皮膚において正常にはカスパーゼ−8により制御されているタンパク質をモジュレートすること、または皮膚におけるカスパーゼ−8活性もしくはレベルを増加させることによる、炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状の治療または予防に関する。本発明の別の側面は、個体における炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状、または該疾患、障害もしくは症状を発症する素因の診断方法に関する。本発明のさらなる側面は、炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状の経過または病状に関与する標的タンパク質の同定方法、および該疾患、障害または症状を治療するための候補化合物のスクリーニング方法に関する。より詳細には、本発明はアトピー性皮膚炎および乾癬などの炎症性皮膚疾患に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は皮膚疾患、障害もしくは症状の病状(pathology)または経過におけるカスパーゼ−8活性の効果に関する。
【背景技術】
【0002】
カスパーゼシステインプロテアーゼファミリーのメンバーは様々な細胞死誘導薬剤によって活性化されて一連の細胞死関連細胞タンパク質を切断し、これによってプログラム細胞死(またはアポトーシス)を誘導する。異なった種類のカスパーゼはこの課程で固有の役割を果たしている。エフェクターカスパーゼ(effector caspases)と名付けられたいくつかのカスパーゼは、細胞死に関連した基質の大部分の切断に関わっている。イニシエーターカスパーゼ(initiator caspases)と名付けられた他のカスパーゼは、特異的なN末端の認識配列を通じて相互作用する別個の細胞死誘導因子によるそれら自身の活性化につづいて、エフェクターカスパーゼを活性化する働きをする。カスパーゼがリンパ球、造血前駆細胞、内皮細胞およびその他の細胞を含む様々な細胞の中で、生体機能に関与していることを示している証拠が徐々に示されてきている(kangら、2004)。現在までに、これらの非アポトーシス性機能への、また、カスパーゼがこれらの非アポトーシス性機能を調節する機構への、種々のカスパーゼの相対的な寄与については、依然として殆ど知られていない。与えられた状況の中で、カスパーゼの活性化が、死をもたらすのか、または生体機能を促進するのか、を決定している機構がどのようなものであるのかは未だ明らかではない。いくつかの研究は、細胞死の誘導とは異なり、カスパーゼの非アポトーシス性機能は、それらの酵素機能とは関係なく、むしろ、他のシグナル伝達タンパク質のアダプタータンパク質またはアロステリック調節因子としてのカスパーゼの役割に関与していることを示唆している(Chaudharyら、2000)。これに対して、他の研究は、カスパーゼの酵素活性がまさに非アポトーシス性機能に寄与していることを示唆している(Hasegawaら、2005)。
【0003】
人体のもっとも広範囲でかつ環境に曝される表面として、皮膚は宿主防衛の中心的役割を担っている。皮膚は表皮(epidermis)、真皮(dermis)、および皮下組織(hypodermis)の三つの層からなる。このうち、表皮は皮膚のもっとも外側の層であり、層状の扁平上皮を形成しており、基底層、有棘層、顆粒層および角質層から成り立っている(FuchstとSegre、2000、LavkerとSun、2000)。基底層の表皮ケラチノサイトは増殖能をもち、表皮幹細胞プールを構成する。一過性増殖細胞は、3〜5回さらに細胞分裂を行なった幹細胞である。それらは、その後、基底層から上方へと移動し、最終分化することになる(Potten、1981、AdamsとWatt、1990)。
【0004】
ケラチノサイトの増殖と分化はEGF、トランスフォーミング成長因子(transforming-growth factor)(TGF)−α、ヘパリン結合型EGF類似因子(heparin binding EGF-like factor)(HB−EGF)、アンフィレグリン(amphiregulin)、ケラチノサイト成長因子(KGF)、TGF−β、インシュリン様成長因子(insulin-like growth factor)、血小板由来成長因子(platelet derived growth factor)(PDGF)、へパトサイト成長因子(HGF)、IL−6、IL−1およびTNF−αを含む数多くの成長因子とサイトカインにより調節される(BennettとSchultz、1993、PeusとPittelkow、1996、Martin、1997)。
【0005】
アトピー性皮膚炎(AD)は慢性的な炎症性皮膚疾患であるが、これは年齢に関わらず起こり、また、子供に非常によく見られるものである。ADは子供の10%以上および大人の1〜3%に発症すると報告されている。
【0006】
ADは正常なアトピー性でない個人にとっては無害である環境素因的なトリガーに対する皮膚の非常に高い反応性に関係している。現在までに、ADの診断のための客観的な臨床検査は存在せず、そして、診断は幼児および子供の掻痒(pruritus)、顔面、伸筋に沿った(extensor)湿疹(eczema)、さらに、大人の屈面性湿疹(flexural eczema)、湿疹の慢性化といった臨床的な観察に基づいて行われている。ADの診断は、また、病変の分布と継続期間、またしばしばアトピー性障害の家族歴、苔蘚化(lichenification)の存在に基づいても行われる(MERK マニュアル オンライン)。アトピー性皮膚炎は幼児の脂漏性皮膚炎(seborrheic dermatitis)やいかなる年代にも発症する接触性皮膚炎と差別化することがしばしば困難であるので、医師は確信的な診断を下すまでに、数度にわたって患者を診察しなければならない。
【0007】
皮膚への水分補給(skin hydration)、刺激物を避けること、抗ヒスタミン剤、局所的なコルチコステロイド剤(corticosteroids)およびより新しい局所的免疫モジュレーター(immunomodulators)がAD治療の中心である。しかしながら、ADは通常、治療に対して難治性であり、局部的かつ体系的な局所用ステロイド剤の副作用は広く知られるところである。
【0008】
ADに関する免疫的な基礎の理解がこの疾患を治療するための新しいアプローチの開発のためには必要である。ADは血清中のIgEレベルの上昇、アレルギー性鼻炎、喘息、フードアレルギーといった抹消の好酸球増加症によって特徴付けられる疾患と症状に関係しており、また、ADに悩まされている患者の大部分は、徐々にアレルギー性鼻炎や喘息を発症する。
【0009】
Leung(2004)による最近のレビューは、ADの免疫学的特徴についてまとめている。たとえば、大部分のAD患者は高い循環好酸球(circulating eosinophils)値を持ち、また、T細胞の機能不全によって引き起こされる、イムノグロブリンE(IgE)レベルの増加が見られる。IL−4、IL−5、およびIL−13の増加を引き起こすTh2細胞の頻度の高さがADをもつ患者の抹消血液に示されている。ADにおけるTh2細胞の発達(development)に寄与する要因として、サイトカイン、サイトカイン(IL−4)生産における遺伝子の差異、薬理要因(CAMPフォスフォジエステラーゼ活性の増加したモノサイト)そして抗原提示細胞(Th2細胞への皮膚のアレルゲン提示に役割をもつ、増加したIgEをもつランゲルハンス細胞)があげられる。
【0010】
IL−4およびIL−3は生殖細胞転写(germline transcription)のレベルにおけるIgE生産の増加を促進する唯一のサイトカインである。IL−5は、好酸球生成(eosinophilopoiesis)、活性化、走化性(chemotaxis)を誘起する。好酸球は、反応性に富むO2中間体と毒性のある顆粒タンパク質の遊離によって細胞を傷つけるサイトカインと伝達物質(mediator)を分泌する。好酸性顆粒タンパク質はADの血清中で増加しており、これは疾患の活性と関連している。
【0011】
乾癬は乾燥した、境界のはっきりした(well-circumscribed)、銀色状の様々なサイズの落屑性丘疹で特徴付けられる、よくみられる慢性かつ再発しやすい疾患である。
【0012】
乾癬は1つまたは2つの病変から、広範囲にわたる湿疹まで、重篤性が異なり、しばしば関節の不全、または剥離と関係している。乾癬の原因は知られていないが、厚い落屑(scaling)は、伝統的に表皮細胞増殖の増加と付随的な真皮の炎症が原因であると考えられてきた。免疫抑制剤であるシクロスポリンに対する乾癬の反応は、プライマリーな病原因子は免疫学的であるかもしれないことを暗示している。約2〜4%の白人および、より少数の黒人が感染する。乾癬の発病は一般的に10歳から40歳の間であるが、しかし、どの年代も除外されることはない。乾癬の家族歴もまた一般的である。
【0013】
乾癬の発病は通常段階的である。典型的な疾患過程は、頻度と期間の異なる慢性化した寛解と再発(また時々の急性な悪化)の1つである。乾癬の憎悪(flares)を引き起こす要因は、局所的な外傷(koebnerの現象においては、病変は外傷を受けた場所に現れる)、そして、しばしば炎症(koebnerの現象の変異形)、深刻な日焼け、ヴァイルマイア(viremia)、アレルギー性の対薬剤反応、局部的かつ体系的薬剤(すなわち、クロロキン(chloroquine)対マラリア治療である、リチウム剤(lithium)、ブロッカー薬(-blockers)、インターフェロン剤(interferon-)など)、または体系的なコルチコステロイド剤の使用中止を含む。一部の患者(特に子供の場合)は、急性のA型溶連菌URIの感染後、乾癬性皮疹をおこす可能性がある。
【0014】
乾癬は特徴的に(耳介後部の領域を含む)頭皮、四肢伸側(extensor surface of the extremities)(特にひじおよびひざ)、仙骨神経領域(sacral area)、臀部、そしてペニスに現れる。爪、眉毛、脇の下、臍、肛門領域にもまた発症する。しばしば、疾患はジェネラライズされる。
【0015】
典型的な病変は鋭角に区切られ、様々に掻痒性であり、卵形または環形の紅斑性丘疹(erythematous papules or plaques)であり、重なり合った肉厚な銀色状の雲母のようなまたはわずかにオパールのような輝きを持つ鱗屑(scales)で覆われている。丘疹はしばしば延伸し互いにくっつきあって、環状およびらせん状の大きな斑をつくるが、この現象は皮膚のT細胞リンパ腫でより一般的である。病変は瘢痕を伴うことなく治癒し、髪の毛の成長には通常変化は見られない。爪の障害は30〜50%の患者におこり、点刻(stippling)、穴(pitting)、傷み(fraying)、脱色、または爪甲の末端と外側縁との剥離(爪甲離床症)(onycholysis)、肥大化(thickening)、爪甲の下への角質細胞の残骸(hyperkeratotic debris)の蓄積など、真菌感染に臨床的に類似している。
【0016】
乾癬性紅皮性(erythrodermic psoriasis)(剥脱性乾癬性皮膚炎(exfoliative psoriatic dermatitis))は治療に対し難治性である。全ての皮膚の表面は赤くなり、細かい鱗屑で覆われており、典型的な乾癬性病変というものはおそらく不明瞭か全く見られないかもしれない。全身衰弱をもたらし、入院加療を必要とする場合もある。
【0017】
膿疱性乾癬(pustular psoriasis)は無菌性の膿胞によって特徴付けられ、ジェネラライズされる(von Zumbusch型)か、手のひらまたは足の裏(Barber型乾癬)に局在化している。
【0018】
乾癬は脂漏性湿疹、インサイチュー(in situ)扁平上皮細胞癌(Bowen型疾患、特に体幹に存在する場合、二期梅毒(secondary syphilis)、皮膚糸状菌感染、皮膚紅斑性狼瘡、湿疹、苔癬、バラ色粃糠疹、引っかき傷による局所的な湿疹(慢性単純性苔癬(lichen simplex chronicus))、と混同されるかもしれない。しかしながら、視診による診断が困難をともなうことは少ない。すなわち、たとえばくっきりとした領域をもつ乾燥した、うず高い、大きな銀色上の鱗屑をともなう乾癬の病変は通常、脂漏性湿疹の広範性でグリーシーな黄色身を帯びた鱗屑から識別可能であるためである。
【0019】
典型的な病変の生検で見つかることは、一般的に特徴的であるが、異形な病変は異型な特徴をもち、生検をあまり役に立たないものにする。すなわち、その他の皮膚疾患が顕微鏡的診断を困難または疑わしいものにするかもしれない乾癬様の組織学的特徴をもつことがある。
【0020】
乾癬の予後は疾患に罹患初期の範囲と深刻度に依存している。ふつう、罹患が早い年齢で起こるほど、深刻度も増す。急性の罹患は一般的に治癒するが、永久的な寛解はまれである。
【発明の開示】
【0021】
本発明は(i)カスパーゼ−8またはそのフラグメント、(ii)カスパーゼ−8またはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド、(iii)(ii)のポリヌクレオチドを含む発現ベクター、(iv)カスパーゼ−8のレベルまたは活性の活性化剤、(v)カスパーゼ−8活性化の天然阻害剤(natural inhibitor)に対する阻害剤、(vi)皮膚中でカスパーゼ−8活性によって正常には下方調節されるタンパク質の活性またはそのレベルに対する阻害剤、(vii)皮膚中でカスパーゼ−8により正常には上方調節されるタンパク質のレベルまたは活性に対する活性化剤から選択される薬剤の、炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状を予防または治療するための医薬の製造における使用に関する。
【0022】
本発明の目的の1つは、皮膚炎症性疾患、障害もしくは症状の治療方法であって、必要とする被験体に治療的に有効量の、(i)カスパーゼ−8またはそのフラグメント、(ii)カスパーゼ−8またはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド、(iii)(ii)のポリヌクレオチドを含む発現ベクター、(iv)カスパーゼ−8のレベルまたは活性に対する活性化剤、(v)カスパーゼ−8活性化の天然阻害剤に対する阻害剤、(vi)皮膚中でカスパーゼ−8活性によって正常には下方調節されるタンパク質のレベルまたは活性に対する阻害剤、(vii)皮膚中でカスパーゼ−8活性により正常には上方調節されるタンパク質のレベルまたは活性に対する活性化剤から選択される分子を投与することを含む方法を提供することである。
【0023】
カスパーゼ−8レベルまたは活性の活性化剤は、FADD、カスパーゼ−6、カスパーゼ−3またはTNF/NGFファミリーの受容体を含むが、これらに限定されるものではない。
【0024】
カスパーゼ−8活性化の天然阻害剤に対する阻害剤はcFLIPショート、cFLIPロングの阻害剤、そしてcFLIPショート、cFLIPロング、またはカスパーゼ−8およびカスパーゼ−10関連RINGタンパク質に特異的なsiRNAやshRNAなどのカスパーゼ−8およびカスパーゼ−10関連RINGタンパク質である。
【0025】
カスパーゼ−8の活性により皮膚中で正常には下方調節されるタンパク質の活性またはレベルに対する阻害剤である薬剤は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、およびそれらの相同ヒト遺伝子から選択される配列によりコードされるタンパク質の活性またはレベルに対する阻害剤である。本発明の実施様態は、薬剤が配列番号2またはその相同ヒト遺伝子に示される配列によってコードされるタンパク質の活性またはレベルに対する阻害剤である。本発明の別の実施様態は、薬剤が配列番号3またはその相同ヒト遺伝子に示される配列によってコードされるタンパク質の活性またはレベルに対する阻害剤である。他の実施様態では、阻害剤が配列番号1によって、好ましくは配列番号2、配列番号3またはそれらの相同ヒト遺伝子に示される配列によってコードされるタンパク質に特異的なsiRNAやshRNAであるものである。
【0026】
一実施様態では、疾患はアトピー性皮膚炎である。
【0027】
他の実施様態では、疾患は乾癬である。
【0028】
本発明のさらなる実施様態では、薬剤は局所的に使用されるかまたは投与される。
【0029】
別の側面では、本発明は、薬学的に許容され得る担体と、配列番号1、配列番号2および配列番号3および/またはそれらの相同ヒト遺伝子の配列によってコードされるタンパク質の発現のレベルまたは活性に対する阻害剤とを含む医薬組成物に関する。
【0030】
一実施様態では、本発明は、薬学的に許容され得る担体と、配列番号1、配列番号2および/またはそれらの相同ヒト遺伝子の配列によってコードされるタンパク質の発現のレベルまたは活性に対する阻害剤とを含む医薬組成物に関する。
【0031】
別の実施様態では、本発明は、薬学的に許容され得る担体と、配列番号1、配列番号3および/またはそれらの相同ヒト遺伝子の配列によってコードされるタンパク質の発現のレベルまたは活性に対する阻害剤とを含む医薬組成物に関する。
【0032】
さらなる別の実施様態では、本発明は、薬学的に許容され得る担体と、配列番号2、および配列番号3および/またはそれらの相同ヒト遺伝子の配列によってコードされるタンパク質の発現のレベルまたは活性に対する阻害剤とを含む医薬組成物に関する。
【0033】
別の実施様態では、阻害剤は、配列番号1、配列番号2、配列番号3またはそれらの相同ヒト遺伝子に示される配列によってコードされるタンパク質の発現を止めることのできるsiRNAまたはshRNAである。
【0034】
別の実施様態では、阻害剤は、配列番号2、配列番号3またはそれらの相同ヒト遺伝子に示される配列によってコードされるタンパク質に特異的なsiRNAまたはshRNAである。
【0035】
さらに別の実施様態では、医薬組成物はアトピー性皮膚炎の治療のためのものである。
【0036】
また別の実施様態では、医薬組成物は乾癬の治療のためのものである。
【0037】
また別の側面として、本発明は、個体における皮膚中のカスパーゼ−8欠損と関連する皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因の診断のための方法であって、被験体の皮膚サンプルおよび少なくとも1つの健常対照個体の皮膚サンプル中で、カスパーゼ−8の発現レベルまたは活性を測定すること、および/または被験体からの皮膚サンプル中のカスパーゼ−8をコードする核酸の異常を検知することを含み、該少なくとも1つの健常対照個体のサンプルと比較した場合の被験体のサンプル中のカスパーゼ−8の活性または発現レベルの減少の検出、および/または被験体のカスパーゼ−8をコードする核酸の異常の検出が、該皮膚疾患、障害もしくは症状、または被験体の該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を示す方法を提供する。
【0038】
一実施様態では、この方法は、上皮ケラチノサイトでのカスパーゼ−8欠損に関連する皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を個体において診断するためのものである。
【0039】
さらに、ある実施様態では、この方法は、アトピー性皮膚炎を診断するためのものである。
【0040】
さらに、他の実施様態では、この方法は、乾癬を診断するためのものである。
【0041】
さらなる側面として、本発明は、個体における炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を診断する方法であって、被験体の皮膚サンプルおよび少なくとも1つの健常対照個体の皮膚サンプルにおいて、配列番号1、配列番号2および配列番号3に示される遺伝子に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルまたは活性を測定することを含み、該少なくとも1つの健常対照個体のサンプルと比較した場合の被験体のサンプル中の配列番号1、配列番号2および配列番号3に示される遺伝子に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルまたは活性の増加の検出が、該皮膚疾患、障害もしくは症状、または被験体の該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を示す方法を提供する。
【0042】
さらなる別の側面として、本発明は、個体における炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を診断する方法であって、被験体の皮膚サンプルおよび少なくとも1つの健常な対照個体の皮膚サンプルにおいて、配列番号2に示される遺伝子に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルまたは活性を測定することを含み、該少なくとも1つの健常対照個体のサンプルと比較した場合の被験体のサンプル中の配列番号2に示される遺伝子に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルまたは活性の増加の検出が、該皮膚疾患、障害もしくは症状、または被験体の該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を示す方法を提供する。
【0043】
さらなる別の側面では、本発明は、個体における炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を診断する方法であって、被験体の皮膚サンプルおよび少なくとも1つの健常対照個体の皮膚のサンプルにおいて、配列番号3に示される遺伝子に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルまたは活性を測定することを含み、該少なくとも1つの健常対照個体のサンプルと比較した場合の被験体のサンプル中の配列番号3に示される遺伝子に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルまたは活性の増加の検出が、該皮膚疾患、障害もしくは症状、または被験体の該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を示す方法を提供する。
【0044】
なおさらなる側面では、本発明は、個体における炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を診断する方法であって、被験体の皮膚サンプルおよび少なくとも1つの健常対照個体の皮膚のサンプルにおいて、ISG15(Glp2)、Cxcl10、C90rf26と呼ばれる9230117N10Rik(IL33)のヒトオルソログ、IL19、Sprr2f、S100a9、IL−6、MMP13、Ccl3またはIL1bから選択されるタンパク質の1つ、またはそれ以上、すなわち2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、もしくは全部の発現レベルまたは活性と、9230117E20Rik(配列番号2)に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質、または2010002N04Rik(配列番号3)に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルまたは活性とを測定することを含み、該少なくとも1つの健常対照個体のサンプルと比較した場合の被験体のサンプル中のISG15(Glp2)、Cxcl10、C90rf26と呼ばれる9230117N10Rik(IL33)のヒトオルソログ、IL19、Sprr2f、S100a9、IL−6、MMP13,Ccl3またはIL1bから選択されるタンパク質の1つ、またはそれ以上、すなわち2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、もしくは全部の発現レベルまたは活性と、9230117E20Rik(配列番号2)に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質、または2010002N04Rik(配列番号3)に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルまたは活性との増加の検出が、該皮膚疾患、障害もしくは症状、または被験体の該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を示す方法を提供する。
【0045】
本発明の一実施様態では、皮膚サンプルにおけるタンパク質の発現レベルまたは活性の測定が逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)分析、イムノアッセイ、インサイチュハイブリダイゼーション分析および/または酵素活性を測定することによってなされる。
【0046】
本発明の一実施様態では、皮膚サンプルは表皮からなる。
【0047】
本発明のさらなる一実施様態では、炎症性皮膚疾患はアトピー性皮膚炎である。
【0048】
本発明の他のさらなる一実施様態では、炎症性皮膚疾患は乾癬である。
【0049】
別の側面では、本発明は炎症性皮膚疾患、障害または症状の動物モデルの作出方法であって、ケラチノサイトにおけるカスパーゼ−8の発現レベルまたは活性が停止されている動物を作り上げることを含む。その方法は、動物の上皮ケラチノサイトにおけるカスパーゼ−8をノックアウトすること、またはカスパーゼ−8 BAC−C362S突然変異体(mutant)などの酵素活性を欠いたカスパーゼ−8突然変異体のトランスジェニック(transgenic)発現を動物に誘導することを用い得る。動物モデルはマウス動物モデルであり得る。
【0050】
一実施様態では、アトピー性皮膚炎のための動物モデルの作出方法が提供される。
【0051】
他の実施様態では、乾癬のための動物モデルの作出方法が提供される。
【0052】
本発明は、炎症性疾患、障害もしくはその症状といった、皮膚疾患、障害もしくはその症状の病状または経過に関与し、発現レベルまたは活性が皮膚におけるカスパーゼ−8活性によって正常には調節されている標的タンパク質を同定する方法であって、カスパーゼ−8の発現レベルまたは活性が停止されている上皮ケラチノサイトを含む皮膚サンプルにおける遺伝子発現のプロファイルを、正常なカスパーゼ−8の発現レベルまたは活性を有する上皮ケラチノサイトを含む皮膚サンプルにおける遺伝子発現のプロファイルと比較する工程、正常なカスパーゼ−8の発現レベルまたは活性を有する上皮ケラチノサイトを含む皮膚のサンプルにおいてカスパーゼ−8によってその発現が、正常には上方調節または下方調節される遺伝子、およびカスパーゼ−8の発現レベルまたは活性が停止されている上皮ケラチノサイトを含む皮膚サンプルにおいてその発現が下方調節または上方調節される遺伝子をそれぞれ評価する工程を含み、カスパーゼ−8の発現レベルまたは活性が停止されている上皮ケラチノサイトを含むサンプルにおいてその発現が下方調節または上方調節される遺伝子が、該皮膚疾患、障害もしくはその症状の病状または経過に関与する、候補標的タンパク質をコードする方法に関する。
【0053】
本発明の一実施様態では、疾患はアトピー性皮膚炎である。
【0054】
本発明の別の実施様態では、疾患はアトピー性乾癬である。
【0055】
さらに別の側面では、本発明は、配列番号2に示される遺伝子に相同なヒト遺伝子によってコードされ、炎症性皮膚疾患、障害もしくはその症状の病状または経過に関与する標的タンパク質を提供する。
【0056】
さらに別の側面として、本発明は、配列番号3に示される遺伝子に相同なヒト遺伝子によってコードされ、炎症性皮膚疾患、障害もしくはその症状の病状または経過に関与する標的タンパク質を提供する。
【0057】
ある側面では、本発明は、皮膚炎症性疾患、障害もしくは症状の治療または予防のための候補化合物をスクリーニングする方法であって、カスパーゼ−8の発現レベルまたは活性が停止されているケラチノサイトを含む細胞の培養物を提供すること、該細胞にテスト化合物を導入すること、細胞の培養液中のカルシウム濃度を増加させることによって細胞分化を誘発すること、テスト化合物の存在下または非存在下で、皮膚の分化マーカーおよび/またはp21ARFの発現レベルを測定することを含み、テスト化合物の存在下における皮膚の分化マーカーの発現レベルの増加、および/またはp21ARFの減少が、テスト化合物が該疾患、障害もしくは症状の治療または予防のための候補化合物であることを示す方法を提供する。
【0058】
本発明の一実施様態では、分化マーカーはケラチン1、フィラグリン(filagrin)、および/またはロリクリン(loricrin)である。
【0059】
ある側面では、本発明はまた、皮膚炎症性疾患、障害または症状を治療するための候補化合物の有効性をテストするための方法であって、本発明によって作出される動物モデルに候補のテスト化合物を投与することおよび該動物モデルにおいて皮膚の病状の予防または軽減を評価することを含む方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0060】
本発明により、皮膚におけるカスパーゼ−8の欠損が炎症性皮膚疾患の発症に関連しているということが見出された。本発明者らは、明らかに内因性のカスパーゼ−8の活性を阻害する、酵素的に不活性なカスパーゼ−8(BAC−C362S)のマウスにおけるトランスジェニック発現、または、マウスにおけるケラチノサイト中のカスパーゼ−8の特異的な欠失が、炎症性の皮膚肥厚を誘発することを見出した。本発明者らはまた、ケラチノサイト分化の停止がカスパーゼ−8の活性の欠損によって誘導される病状に関与することを見出した。驚くべきことに、ケラチノサイトにおけるカスパーゼ−8の特異的な欠失を有するマウス(Casp−8fl/-K5−Creマウス)または酵素的に不活性なカスパーゼ−8を発現するトランスジェニックマウス(Casp−8-/+/BAC−C362Sマウス)の表皮は、アトピー性皮膚炎(AD)患者の表皮と類似の特徴、たとえば、損傷部位での好酸球の局所的な増加、およびTH2応答の誘発などを示した。
【0061】
皮膚炎症性疾患、障害または症状の発症は、皮膚におけるカスパーゼ−8欠損により引き起こされるという本発明による知見は、該疾患、障害または症状の治療または予防のための新しい療法の開発に道をつけるものである。
【0062】
したがって、本発明は、皮膚中のカスパーゼ−8によって正常には制御されるタンパク質をモジュレートすることによる、または皮膚中のカスパーゼ−8を増加させることによる、炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状の予防または治療に関する。よって、ある側面では、本発明は、カスパーゼ−8またはそのフラグメント、カスパーゼ−8またはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含むベクター、カスパーゼ−8のレベルまたは活性の活性化剤、カスパーゼ−8活性化の天然阻害剤に対する阻害剤、皮膚中でカスパーゼ−8活性によって正常には下方調節されるタンパク質のレベルまたは活性に対する阻害剤、および皮膚中でカスパーゼ−8活性により正常には上方調節されるタンパク質のレベルまたは活性に対する活性化剤から選択される薬剤の、炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状を治療または予防するための医薬の製造における使用に関する。
【0063】
本出願人によるUS 6,399,327および同6,586,571は、参考文献として本願明細書に組み込まれるものであるが、とりわけカスパーゼ−8(または、以前にMACHと定義されていたもの)のアミノ酸配列およびカスパーゼ−8をコードするヌクレオチド配列、カスパーゼ−8のプロテアーゼ(つまり酵素)活性のアッセイ、ならびにカスパーゼ−8のMORT−1(またはFADD)タンパク質への結合について開示しているものである。
【0064】
本発明による「フラグメント」は、カスパーゼ−8の活性フラグメントであり得る。フラグメントという用語は、カスパーゼ−8分子のどのような部分集合、すなわち、カスパーゼ−8の所望の生物学的活性を保持している、より短いペプチドをも意味する。フラグメントは、カスパーゼ−8のどちらかの末端からアミノ酸を取り除くことによって、および、結果的にえられたフラグメントの酵素活性をテストすることによって容易に製造され得る。プロテアーゼが、ポリペプチドのN末端もしくはC末端のどちらかから一度に1つずつのアミノ酸を取り除くために使用され得ることは公知である。これゆえ、望ましい生物学的活性を保持しているフラグメントを決定することは、単なる機械的なやり方である実験のみを含み、本出願のUS6,399,327号および同6,586,571号に記載されている。
【0065】
カスパーゼ−8と定性的にまったく同じ生物学的活性を有する修飾されたカスパーゼ−8分子も、本発明によって本明細書に包含されていることを理解すべきである。これらの修飾されたカスパーゼ−8には、(i)突然変異タンパク質(muteins)、1または複数のアミノ酸残基が欠失、または異なるアミノ酸残基で置換され、および/または1または複数のアミノ酸残基が付加された類似体であって、元のタンパク質と比べて得られた生成物の活性度が大幅に変化することなく、そして既知の合成および/または部位特異的突然変異誘発法の技術によって得られる類似体、(ii)依然として薬学的に許容され、すなわち、タンパク質の活性を壊していない限りで、アミノ酸残基の側鎖における官能基、またはNおよび/またはC末端基の化学的置換によって得られる機能性誘導体(たとえば、エステル、アミドおよびポリエチレングリコール(PEG)の側鎖を含み得る)、ならびに(iii)ポリペプチドのカルボキシル基の塩およびアミノ基の酸付加塩の両方を含む塩、が含まれる。
【0066】
本発明はまた、炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状の治療または予防のための医薬の製造における、カスパーゼ−8もしくはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド、または、該ポリヌクレオチドを含む発現ベクターの使用に関する。
【0067】
本明細書において使用される場合、「核酸分子」または「ポリヌクレオチド」という用語は、一本鎖または二本鎖のどちらかの形であるデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチド重合体を意味しており、他で特に示されない限り、天然に存在するヌクレオチドと同様に機能することのできる天然に存在するヌクレオチドの既知の類似体を含むポリヌクレオチドを包含する。核酸分子がDNA配列によって表される場合、これはまた、対応するRNA配列(「U」(ウリジン)が「T」(チミジン)に取って替わっている)を有するRNA分子を含むことは理解されるであろう。
【0068】
本発明のポリヌクレオチドは、縮重コドンを含む、および/または該ポリヌクレオチドの相補配列に高度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、ポリヌクレオチドも含む。
【0069】
「ストリンジェントな条件」という用語は、核酸のハイブリダイゼーション反応で使用される温度およびイオン条件を意味している(Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology, supra, Interscience, NY., §§6.3 および 6.4 (1987、1992)、および Sambrookら、(Sambrook, J. C., Fritsch, E. F.,および Maniatis, T. (1989) Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY)。ストリンジェントな条件は配列依存であり、異なる環境パラメータ下では異なっている。一般的に、ストリンジェントな条件は、定義されたイオン強度とpHにおける特異的な配列の融解温度(Tm)よりも、約5〜10℃または5〜20℃低い温度となるように選択される。Tmは、定義されたイオン強度とpHにおいて、標的配列の50%が、完全に合致したプローブにハイブリダイズする温度である。ストリンジェントな条件とは、塩濃度が約1.0Mナトリウムイオン未満、典型的にはpH7.0〜8.3で約0.01〜1.0Mナトリウムイオン(もしくは他の塩)であり、そして温度が短いプローブの場合(たとえば、10〜50ヌクレオチド)少なくとも30℃、長いプローブの場合(たとえば、50ヌクレオチドより長い)約60℃である条件であり得る。ストリンジェントな条件はまた、ホルムアミドなどの不安定化薬剤の添加によっても達成される。ストリンジェントな条件の例は、研究対象であるハイブリッドの推定Tmより5〜10℃低い温度で、たとえば、2×SSCおよび0.5%SDS中で5分、2×SSCおよび0.1%SDS中で15分;0.1×SSCおよび0.5%SDS中、37℃で30〜60分、そしてその後、0.1×SSCおよび0.5%SDS中、68℃で30〜60分の洗浄条件を含む。
【0070】
本発明のポリヌクレオチドはまた、縮重コドンを含むポリヌクレオチドをも含む。遺伝子コードの縮重のため、多くの機能的に同一なポリヌクレオチドが任意の所定のポリペプチドをコードする。たとえば、コドンCGU、CGC、CGA、CGG、AGAおよびAGGはすべてアミノ酸のアルギニンをコードする。したがって、アルギニンがコドンにより特定されるすべての位置で、コドンはコードされたポリペプチドを変えることなく記載された対応するいかなるコドンにも変えられることができる。通常はメチオニンに対する唯一のコドンであるAUG、および通常はトリプトファンに対する唯一のコドンであるUUGを除いて、ポリヌクレオチドにおけるそれぞれのコドンは標準的な技術によって機能的に同一な分子を得るように改変されうる。
【0071】
発現ベクターは本技術分野においてよく知られており、たとえば、Current Protocols in Molecular Biologyなどに記載されている。発現ベクターはプラスミドベクターでも、ウイルスベクターでもその類似物でもよい。一般的に、ベクターは本発明のポリヌクレオチドによってコードされるものとは独立している選択可能なマーカーを含み、そしてさらに、プロモーターやポリアデニレーション(polyadenylation)のシグナル伝達配列といった転写制御エレメント、またはリボソーム結合部位などの翻訳制御エレメントを含む。プロモーター配列は、そこに作動可能に連結されるポリヌクレオチドの組織特異的な発現を提供する。一実施様態では、プロモーターは皮膚細胞中で活性である。
本発明の別の実施様態では、プロモーターは表皮細胞中で活性である。
【0072】
本発明は、また、皮膚炎症性疾患、障害または症状におけるカスパーゼ−8のレベルまたは活性の活性化剤の使用を提供する。
【0073】
本明細書の記載における「タンパク質の活性化剤」という用語は、タンパク質、ヌクレオチドおよび低分子などの任意の薬剤を意味し、該タンパク質の生成および/または作用を上方調節することができるものである。たとえば、カスパーゼ−8の活性化剤は皮膚中でカスパーゼ−8の上流に働く分子であり得る。
【0074】
カスパーゼ−8の活性化剤の例としては、FADD、カスパーゼ−8を切断することのできるカスパーゼ、すなわちカスパーゼ−6およびカスパーゼ−3、および間接的には、TNF/NGFファミリーの種々のデス受容体が挙げられるが、これらに限定されるものではない。的確な細胞のセットアップ次第で、cFLIPロングもまたカスパーゼ−8活性化剤として働く。
【0075】
カスパーゼ−8の内因性の生成を誘発および/または促進するためのベクターは、本発明によるカスパーゼ−8の活性化剤としてもまた考慮される。ベクターは、カスパーゼ−8の発現を促進することのできる制御配列を含む。このような制御配列は、たとえば、プロモーターまたはエンハンサーである。制御配列はその後、相同的組み替えによりゲノムの正しい座に導入され、それにより、制御配列が、誘導または促進されることを必要とする遺伝子と作動可能に連結する。その技術は通常、「内因性遺伝子活性化」(EGA)と言及されるものであり、それはたとえば、WO91/09955に記載されており、文献引用により本明細書に完全に組み入れられているものである。
【0076】
本発明はまた、皮膚の炎症性疾患、障害または症状におけるカスパーゼ−8活性化の天然阻害剤に対する阻害剤の使用を提供する。
【0077】
次にあげるものは、カスパーゼ活性化に対する天然阻害剤の例であって、これらの活性またはレベルは本発明によって阻害され得る。これら天然阻害剤は、(i)cFLIPショート(CASHベータ)、(ii)cFLIPロング(CASHアルファ)、(iii)カスパーゼ−8およびカスパーゼ−10関連RINGタンパク質(CARPs, McDonald ER 3rd, El-Deiry WS, Proc Natl Acad Sci USA. 2004 Apr 20; 101(16): 6170-5)を含むが、これらに限定はされない。
【0078】
本発明において意味される「阻害剤」という用語は、タンパク質(たとえば、特異的な抗体)、ヌクレオチド(たとえば、特異的なアンチセンスおよび低分子干渉RNAs[siRNA])、ならびにタンパク質の生成および/または作用が、減衰、低減、または部分的、実質的もしくは完全に抑制、またはブロックされるような方法で、該タンパク質の生成および/または作用を下方調節できるような特異的な阻害機能をもつ低分子をさす。
【0079】
たとえば、特異的なsiRNAは、特異的なmRNA標的の転写後のサイレンシングのために使用されうる(DorsettおよびTuschl 2004)。RNAiにおける標的特異性は、RNA−RNAの配列認識および塩基対合を通じてなされる。siRNAは、典型的には19〜21塩基対の長さであり、各3’末端で突出している2つのヌクレオチドを有する二本鎖RNAである。最大限の安定のために、2つの2’デオキシヌクレオチドが3’の突出として用いられる。またその代わりに、遺伝子抑制(gene silencing)の効率の向上を示していることから、27塩基の平滑末端のヌクレオチドも使用可能である(Kim, Behlkeら、2005)。siRNAの細胞への運搬は、リポソームへのカプセル化または高脂溶性薬剤への共有結合によって促進される(Soutschekら、2004)。
【0080】
発現の阻害剤のその他の例は、特異的な短いヘアピン構造を有するRNA(shRNA)である。shRNA発現ベクターを構築するための設計およびクローニングストラテジーは技術的に知られている(McIntyreおよびGregoryら、BMC Biotechnology 2006, 6:1)。
【0081】
ある側面では、本発明は、皮膚中でカスパーゼ−8の活性により正常には下方調節されるタンパク質のレベルまたは活性の阻害剤の、炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状の治療または予防における使用に関する。
【0082】
皮膚中でカスパーゼ−8の活性により正常には下方調節されるタンパク質は、皮膚中のカスパーゼ−8の活性またはレベルが妨げられたとき、上方調節されるようになる。次にあげるものは、正常には皮膚中でカスパーゼ−8活性により直接的または間接的に下方調節されるタンパク質の非限定的な例であり、本発明により見出されたものである。すなわち、ISG15(Glp2)、Cxcl10、C90rf26と呼ばれる9230117N10Rik(IL33)のヒトオルソログ、IL19、Sprr2f、S100a9、IL−6、MMP13、Ccl3、IL1bおよび9230117E20Rik(配列番号2)、2010002N04Rik(配列番号3)によってコードされるタンパク質に対する相同ヒトタンパク質のような未知の機能のタンパク質である。
【0083】
一実施様態では、本発明は、配列番号1、好ましくは、配列番号2および/または配列番号3またはそれらの相同ヒト遺伝子によりコードされるタンパク質のレベルまたは活性を阻害することのできる阻害剤の使用に関する。阻害剤は、配列番号1、望ましくは、配列番号2、配列番号3および/またはそれらの相同ヒト遺伝子に特異的なsiRNAまたはshRNAである。
【0084】
配列番号1に示される配列によってコードされるタンパク質のアミノ酸配列は配列番号4であり、配列番号2に示される配列によってコードされるタンパク質のアミノ酸配列は配列番号5であり、配列番号3に示される配列によってコードされるタンパク質のアミノ酸配列は配列番号6である。
【0085】
もう1つの側面では、本発明は、皮膚中でカスパーゼ−8活性により正常には活性化または上方調節されるタンパク質のレベルまたは活性に対する活性化剤の、炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状の治療または予防における使用に関する。これらのタンパク質は、以下に述べるような皮膚の炎症性疾患、障害もしくは症状の病状または経過に関与する標的タンパク質を同定またはスクリーニングのための本発明に基づく方法によって同定またはスクリーニングされることができる。
【0086】
本発明による薬剤または分子は、様々な方法または経路で使用され得る。たとえば、薬剤または分子は、局所的に、皮膚中に、皮膚にまたは皮膚上に使用でき、また、上皮または内皮組織を通じて吸収させることができる。
【0087】
本発明者らは、本発明によって、カスパーゼ−8欠損によって媒介される炎症性肥厚化が上皮基底層における細胞分裂の促進を示しており、分化を抑制しているにも関わらず、病理学的状態はアポトーシス不全とは関連していないことを見出した。実際、Casp−8-/+/BAC−C362SとCasp−8fl/-K5−Creとの上皮組織中の瀕死の細胞(dying cells)の発生率は、正常な上皮組織に比べ高かった(図4C)。加えて、カスパーゼ−8欠損の上皮組織における病理学的状態は、角化不全(cornification failure)とケラチノサイトの死の停止とは無関係であった(図1D)。実際、角化はケラチノサイトの死によるものであるにも関わらず、この細胞死はアポトーシスの特性の大部分を表していない。
【0088】
機能が未だに知られていない唯一のカスパーゼ、カスパーゼ−14は、上皮細胞中で独自に発現し、角化の間に切断されることが再現性良く示されている(Takahashiら、1998、Lippensら、およびLippensら、2003)。本発明者らは、本発明によって、カスパーゼ−14の切断または活性化はカスパーゼ−8欠損によって媒介される炎症性の肥厚化に影響していないことを見出した。
【0089】
酵素的に不活性なカスパーゼ−8の過剰発現がNF−κB活性化の引き金となること、および、カスパーゼ−8の非アポトーシス性機能の少なくとも1部分に関与していると考えられる酵素的に不活性なカスパーゼ−8のホモログであるcFLIPのシグナリング伝達活性の証拠を考慮して、カスパーゼ−8の非アポトーシス性機能はそれ自身の酵素活性には依存していないと技術的には推測されてきた。しかしながら、カスパーゼ−8のT細胞の増殖に対する寄与は、その酵素的な機能に依存することが、最近技術的に示された。後者の場合、その証拠は、p65/p50 NF−κB二量体の活性化におけるカスパーゼ−8の酵素機能の役割として表されていた。本発明者らは、本発明によって、表皮の分化におけるカスパーゼ−8の役割がその酵素的能力には依存しないことを見出した。
【0090】
カスパーゼ−8欠損表皮の病状は多少p65NF−κB欠損の皮膚に見られるものと似ている(Zhangら、2004)が、これら2つのケースで関係している細胞の事象は異なっているように見える。たとえば、表皮でのp65NF−κB活性の停止はケラチノサイトの過剰な増殖という結果を生み、カスパーゼ−8欠損の場合と異なり、基底層の際立った肥厚化によって明示されるが、ケラチノサイトの分化には影響を及ぼさないように見える。さらには、ケラチノサイトにおけるNF−κB活性化の停止から生じる皮膚の病状がJunリン酸化反応(Jun phosphorylation)の過度な増加に起因したものであり、完全にTNFの機能に依存しているのに対し、カスパーゼ−8欠損から生じる病状はJunリン酸化反応のいかなる増加も伴わず、そして、TNFによって促進されるにも関わらず、それに完全に依存しているわけではない。これゆえ、カスパーゼ−8欠損から生じる病状は、p65/p50 NF−κB二量体の活性化の制御におけるカスパーゼ−8の役割を反映しているものではないと考えられる。実際、本発明者らは本発明により、カスパーゼ−8欠損の上皮をもつモデルマウスにおけるこれらのNF−κBタンパク質の核転座の程度を正常なマウスと比較しても差が見られないことを見出した。
【0091】
本発明者らの発見は、カスパーゼ−8遺伝子をケラチノサイトに特異的に欠失させたマウスが炎症性の皮膚障害を発症し、それは、ある程度TNFによって持続させられることを示している。しかしながら、本発明者らは本発明によって、病状を開始させる不十分な分化がカスパーゼ−8の細胞自律的な(cell-autonomous)役割を反映しており、それは、TNFからは独立しているが、カスパーゼ−8の酵素活性には依然依存していることを見出した。
【0092】
本発明によって得られた結果は、本発明の薬剤を投与されることによって好ましくは治療または予防される皮膚疾患が、皮膚中およびとくに表皮中におけるカスパーゼ−8欠損によって引き起こされる炎症性疾患で見出されるものに似た、1または複数の組織学的および/または免疫学的特性を表す皮膚疾患であって、該皮膚疾患が、(i)真皮中での白血球の蓄積、大部分が単核性のファゴサイトおよび/または好酸球;(ii)TまたはBリンパ球いずれかの増加の欠如;(iii)表皮中、特に上皮病変でのケラチン6の発現;(iv)ケラチン14(K14)の基底層上部(suprabasal)での著しい発現;(v)K6およびK14の全ての生存能力のある層における発現;(vi)基底層上部でのケラチン1(K1)の発現の減少または欠如;(vii)ケラチン1、ロリクリンおよびフィラグリンから選択される1または複数の皮膚の分化マーカーの減少または欠如;(viii)ISG15(Glp2)、Cxcl10、C90rf26と呼ばれる9230117N10Rik(IL33)のヒトオルソログ、IL19、Sprr2f、S100a9、IL−6、MMP13、Ccl3またはIL1bから選択される1つ、またはそれ以上、すなわち2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つもしくは全部のタンパク質の発現の増加;(ix)配列番号2または配列番号3によってコードされるタンパク質に相同なヒトタンパク質の発現の増加;(x)IL−4、IL−5(このサイトカインによって媒介される好酸球の増加によって証明された、Kupperら、2004)およびIL−19の増加した発現によって支持されるTH2応答の増加;(xi)Stat−1およびStat−3の表皮中での活性化;(xii)真皮中でのS100A8の上方調節;ならびに(xiii)カスパーゼ−14のプロセッシングへの障害がないことから選択される特徴の1つ、またはそれ以上、すなわち2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つもしくは全部を含む皮膚疾患であることを示している。たとえば、ADはCasp−8fl/-K5−CreマウスおよびCasp−8−/+/BAC−C362Sマウスの表皮に見出される性質と類似した、好酸球の蓄積やTH2応答の増加などの性質を有するため、本発明による薬剤は、ADに似ている疾患を治療することに使用することができる。
【0093】
したがって、カスパーゼ−8またはそのフラグメント、カスパーゼ−8またはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含むベクター、カスパーゼ−8の活性またはレベルの活性化剤、カスパーゼ−8活性の天然阻害剤に対する阻害剤、皮膚中でカスパーゼ−8活性により正常には下方調節されるタンパク質の活性またはレベルの阻害剤、皮膚中でカスパーゼ−8活性により正常には上方調節されるタンパク質の活性またはレベルの活性化剤から選択される薬剤を投与することによって、最適に治療または予防される疾患は、乾癬とアトピー性皮膚炎とを含むが、これらに限定はされない。
【0094】
さらなる本発明の側面は、炎症性皮膚炎、障害もしくは症状の病状または経過に関与する標的タンパク質を同定する方法に関する。本発明によって本発明者らは、皮膚疾患、障害もしくは症状の病状または経過に関与し、その発現レベルまたは活性が正常には皮膚中のカスパーゼ−8活性によって調節される標的タンパク質を同定する方法であって、カスパーゼ−8の発現レベルまたは活性が停止されている上皮ケラチノサイトを含む皮膚サンプル中の遺伝子発現のプロファイルを正常なカスパーゼ−8の発現レベルまたは活性を有する上皮ケラチノサイトの皮膚サンプル中の遺伝子発現のプロファイルと比較すること、ならびに正常なカスパーゼ−8の発現レベルまたは活性をもつ上皮ケラチノサイトを含む皮膚サンプル中においてカスパーゼ−8によって発現が正常には上方調節または下方調節され、かつカスパーゼ−8の発現レベルまたは活性が停止されている上皮ケラチノサイトを含むサンプル中ではその発現が下方調節または上方調節される遺伝子を評価することを含み、カスパーゼ−8の発現レベルまたは活性が停止されている上皮ケラチノサイトを含むサンプル中で発現が下方調節または上方調節される遺伝子が、該皮膚疾患、障害および症状の病状または経過に関与する候補標的タンパク質をコードする方法を開発した。
【0095】
ある実施様態では、本発明の方法はヒトまたはマウス由来の皮膚のサンプルを用いる。
【0096】
遺伝子発現のプロファイルは、以下の実施例に示されるように、マイクロアレイ分析やウエスタンブロット分析、インサイチュハイブリダイゼーション、およびRT−PCRなどいった技術的に良く知られた手段によって測定することができる。本発明の一実施様態では、遺伝子発現のプロファイルは、本願発明の非限定的な実施例で行われるような、ジーンアレイによってモニターされる。
【0097】
本発明の方法を使用することで、本発明者らはカスパーゼ−8の活性化が停止されている上皮ケラチノサイトを含む皮膚のサンプル中で発現が上方調節される以下の遺伝子(およびコードされるタンパク質)、ISG15(Glp2)、Cxcl10、C90rf26と呼ばれる9230117N10Rik(IL33)のヒトオルソログ、IL19、Sprr2f、S100a9、IL−6、MMP13、Ccl3、IL1bを同定した。これらの遺伝子は炎症の過程に関係している。これゆえ、本発明の一実施様態の方法では、本発明の方法は乾癬およびアトピー性皮膚炎といった炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状の経過または病因に関与している標的遺伝子(またはコードされるタンパク質)の同定を可能にした。配列番号1によってコードされるタンパク質、および9230117E20Rik(配列番号2)および2010002N04Rik(配列番号3)によってコードされる未知の機能をもつタンパク質が、本発明の方法によって、ここで積極的に選択された。これらのタンパク質または相同ヒトタンパク質は皮膚中でカスパーゼ−8によって調節されるため、それらは、皮膚の発達および/もしくは恒常性(homeostasis)において役割を果たしている。そして、これゆえ、それらは、炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状の病状または経過に関与している標的タンパク質の候補である。
【0098】
これゆえ、配列番号1、配列番号2、および/または配列番号3に対応する遺伝子またはそれらの相同ヒト遺伝子の発現に対する阻害剤、および/または該遺伝子でコードされるタンパク質の阻害剤は、アトピー性皮膚炎または乾癬といった皮膚の炎症性疾患、障害もしくは症状の治療または予防に有益である。
【0099】
これゆえ、ある側面として、本発明は、炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状の治療または予防のための薬剤の製造における、配列番号1、配列番号2、および/または配列番号3に対応する遺伝子またはそれらの相同ヒト遺伝子の阻害剤、および/またはそれぞれの該遺伝子でコードされるタンパク質の阻害剤の使用に関する。
【0100】
別の側面としては、本発明は、薬学的に許容され得る担体と、配列番号1、配列番号2および配列番号3から選択される配列を含む遺伝子またはそれらの相同ヒト遺伝子の阻害剤、および/または該遺伝子によってコードされるタンパク質の阻害剤とを含む、たとえば、アトピー性皮膚炎または乾癬といった皮膚の炎症性疾患、障害もしくは症状の治療または予防のための医薬組成物に関する。
【0101】
ある実施様態では、本発明は、薬学的に許容され得る担体と、配列番号2の配列を含む遺伝子またはその相同ヒト遺伝子の阻害剤および/または該遺伝子によってコードされるタンパク質の阻害剤とを含む医薬組成物に関する。
【0102】
他の実施様態では、本発明は、薬学的に許容され得る担体と、配列番号3の配列を含む遺伝子またはその相同ヒト遺伝子の阻害剤および/または該遺伝子によってコードされるタンパク質の阻害剤とを含む医薬組成物に関するものである。
【0103】
さらなる本発明の実施様態では、医薬組成物における阻害剤は、配列番号1、好ましくは、配列番号2、配列番号3またはそれらの相同ヒト遺伝子に特異的なsiRNAまたはshRNAである。
【0104】
主要なエフェクターカスパーゼであるカスパーゼ−3の機能に関する文献(Okumuraら、2004)は、さまざまな薬剤による死誘発におけるカスパーゼ−3の関与を除いても、カスパーゼ−3は、妊娠中期(midgestation)として知られる胚発育の間のある特定の段階で、マウスの皮膚の表皮の分化の誘導に関わっていることを明らかにしている。実際、カスパーゼ−3の酵素活性は、皮膚の胚発育の間の最終分化にむけたケラチノサイトの寄与を維持するために不可欠である。
【0105】
本発明者らは本発明によって、胚形成の初期の段階で、まさに内因性のカスパーゼ−8、およびケラチン5誘導性のCasp−8fl/-K5−CreマウスにおけるCre発現が胚形成段階で起こるように、Casp8BAC−C362Sトランスジェニックがマウスに発現されているにも関わらず、これらのマウスの皮膚の病状が生後3日より以前では明らかでないことを発見した。出生の時点では、組織学上の皮膚の特徴は野生型マウスのものと区別がつかず、これは、カスパーゼ−3とは異なり、カスパーゼ−8が皮膚の上皮の胚形成において欠失可能であることを暗示している。
【0106】
本発明によって、皮膚中でのカスパーゼ−8の発現を標的として除去した場合、増殖性が増し、胚ケラチノサイト中ではなく、出生後に後期分化マーカーの発現が減少したので、カスパーゼ−8は出生後の表皮の形態形成においてカスパーゼ−3と同様な役割を果たしていることが示された。
【0107】
カスパーゼ−3の妊娠中期の固有の段階におけるケラチノサイト分化の調節への寄与は、Notch−1により誘導されるこの段階におけるカスパーゼ−3の発現の増加に関係しており、そして、後者のキナーゼの活性化における、カスパーゼ−3によって引き起こされるPKC−dのプロセッシングの役割を反映していると考えられてきた。一方、本発明者らは、カスパーゼ−8欠損はケラチノサイトにおける分化タンパク質の誘導に先んじて起こるp21の下方調節に影響を及ぼすことを発見した。
【0108】
皮膚の正常な恒常性と皮膚の病理学的異常は表皮と真皮との間の、また、同様にこれらの二つの層のそれぞれの細胞間の、様々な可溶性伝達物質の遊離を介しての絶え間ないクロストークによって、影響されている。本発明者らは本発明によって、カスパーゼ−8が存在しない場合に観察される表皮の病状は、大部分は白血球である炎症性の細胞の真皮中への蓄積に関連しており、これらの炎症性細胞によって、ケラチノサイトそれ自身によって、またはおそらくその両者によって作られる、TNFの機能に強く影響を受けることを発見した。培養液中のケラチノサイトの分化能の評価を通じて、本発明者らはこれらの細胞の分化プログラムは、真皮中に白血球が蓄積する明らかに以前の、生後約1日で、カスパーゼ−8依存の状態にシフトすること、そしてこのシフトはTNFとは独立して起こることを発見した。いくつかの分化に関連したケラチノサイトタンパク質はカスパーゼ−8欠損によって生後約1日で影響を受けることが発見された。しかしながら、インビボでの病理学的兆候は、TNFおよびおそらくはいくつかの他の白血球が生産する伝達物質には依存しない速度で、後期にしか現れない。これゆえ、本発明者らの結果はTNFの機能と白血球の蓄積は上皮でおこる変化の中心的なものではなく、その中での補助の役割をしているにすぎないことを示している。
【0109】
本発明の他の側面は、皮膚の炎症性疾患、障害または症状を治療するための候補化合物をスクリーニングする方法に関連している。カスパーゼ−8欠損である単離されたケラチノサイトの培養における、分化に関係したケラチノサイトタンパク質はカスパーゼ−8によって影響されるという上記の発見は、皮膚の炎症性疾患、障害または症状の治療のための候補化合物のスクリーニングのための方法を開発するための方法に道をつけるものである。本発明による方法は、カスパーゼ−8の発現レベルまたは活性が停止されているケラチノサイトを含む細胞の培養を提供すること、該細胞にテスト化合物を導入すること、細胞の培養溶液中のカルシウム濃度を増加させることによって、細胞の分化を誘導すること、テスト化合物の存在下または非存在下、皮膚の分化マーカーおよび/またはp21ARFの発現レベルを細胞中で計測することを含み、テスト化合物の存在下での皮膚の分化マーカーの発現レベルの増加および/またはp21ARFの減少が、テスト化合物が該疾患、障害もしくは症状の治療または予防のための候補化合物であることを示す方法である。カスパーゼ−8の発現レベルまたは活性が停止されているケラチノサイトを含む細胞の培養は、たとえば実施例で示されるように、トランスジェニックに不活性なカスパーゼ−8の突然変異体を発現しているマウス、または、皮膚中でカスパーゼ−8の条件ノックアウトを示しているマウスから単離することができる。候補化合物は、化学物質のライブラリーまたは天然薬物からスクリーニングされることができる。細胞中へのテスト化合物の導入は、たとえば、テスト化合物を細胞の培養液に加えることによりなされる。細胞中でのタンパク質の発現レベルの測定は、タンパク質に特異的な抗体を使用した以下の実施例で行われたように、RT−PCR分析によって、または、イムノアッセイ分析により行われうる。本発明の一実施様態では、たとえばイムノアッセイ分析により、ケラチン1、フィラグリンおよび/またはロリクリンのレベルを測定している。
【0110】
本発明によれば、本発明者らは、炎症性皮膚疾患、障害、または症状の動物モデルを、ケラチノサイトカスパーゼ−8の発現レベルまたは活性が停止されている動物を開発することにより作製した。カスパーゼ−8活性とレベルの停止は、本願発明の非限定的な実施例によって示されるように、動物の上皮のケラチノサイトのカスパーゼ−8をノックアウトすることによって、また、内因性のカスパーゼ−8をもつが、たとえば残基362のCysをSerに置き換えたBAC−C362Sといった酵素活性に欠けるトランスジェニックなカスパーゼ−8もまた発現している動物を開発することによってなされる。本発明の一実施様態では、動物はマウスである。
【0111】
本発明によれば、この動物モデルはアトピー性皮膚炎または乾癬といった皮膚の炎症性疾患、障害または症状を治療するための候補化合物の効果をテストするために使用される。これゆえ、ある側面では、本発明は、本発明に従って作製された動物モデルに候補のテスト化合物を投与すること、および該動物モデルにおける皮膚の病状の予防または減少を評価することを含む、皮膚の炎症疾患、障害または症状を治療するための候補化合物の効果をテストするための方法に関係している。
【0112】
RT−PCR分析によって得られた結果は、遺伝子ISG15(Glp2)、Cxcl10、C90rf26と呼ばれる9230117N10Rik(IL33)のヒトオルソログ、IL19、Sprr2f、S100a9、IL−6、MMP13、Ccl3、IL1b、9230117E20Rik(配列番号2)の相同ヒト遺伝子、2010002N04Rik(配列番号3)の相同ヒト遺伝子が、正常な被験体からの皮膚のサンプルにおける該遺伝子の発現のレベルに比べて、上方調節されており、上方調節の同じパターンが皮膚中で病状が発症される以前に検知されていることを確認した(実施例6)。
【0113】
これゆえ、本発明のほかの側面は、炎症性の皮膚疾患、障害もしくは症状、または、個体における該疾患の障害症状が発症する素因の診断のための方法に関係している。本発明の発見に照らし合わせて、カスパーゼ−8活性または発現のレベルおよび/または皮膚中でカスパーゼ−8によって正常には制御される遺伝子の発現は、炎症性の皮膚疾患、障害もしくは症状に個体が苦しんでいるかまたは苦しむ可能性があるかどうかを見つけ出すために、個体の皮膚または表皮のサンプル中で調べられうる。たとえば、被験体の皮膚のサンプルにおいて、もしカスパーゼ−8活性または発現のレベルが下方調節されており、および/または、ISG15(Glp2)、Cxcl10、C90rf26と呼ばれる9230117N10Rik(IL33)のヒトオルソログ、IL19、Sprr2f、S100a9、IL−6、MMP13、Ccl3、IL1b、ならびに9230117E20Rik(配列番号2)および2010002N04Rik(配列番号3)の相同ヒト遺伝子といった最低でも1つの未知の機能の遺伝子(またはコードされるタンパク質)を含むが、それらに限定はされない遺伝子の1つ、またはそれ以上、すなわち2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、もしくは全部の発現のレベルまたは活性が上方調節されていて、それがたとえば、健常な個体の皮膚のサンプルにおける該遺伝子の発現レベルに比べて、少なくとも15%、または17%、25%、33%、50%、67%まで、および/または100%であるならば、被験体が炎症性の皮膚疾患、障害もしくは症状である、または、該皮膚疾患、障害もしくは症状となりやすい、または発症しやすいとみなすことができる。
【0114】
これゆえ、ほかの側面として、本発明は、上皮ケラチノサイトにおけるカスパーゼ−8欠損と関係している皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因または可能性を、被験体において診断するための方法であって、被験体の皮膚のサンプルと少なくとも1つの健常な対照個体の皮膚のサンプルとにおいて、カスパーゼ−8のレベルまたは活性、および/または皮膚中でカスパーゼ−8によって正常には調節されており、皮膚疾患、障害または症状においては調節されていない遺伝子の発現を測定すること、および/またはカスパーゼ−8をコードする核酸塩基における異常を検知することを含み、カスパーゼ−8の活性またはレベルのレベルの減少、および/または、カスパーゼ−8をコードする核酸塩基における異常の存在、および/または、該少なくとも1つの健常な対照個体の皮膚中でのレベル、活性、または発現に比べて被験体の皮膚中でカスパーゼ−8によって正常には調節されている遺伝子の発現の非調節が、被験体における該皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、傷害、または症状を発症する素因または可能性を示す方法に関する。
【0115】
被験体のサンプルにおけるカスパーゼ−8の核酸塩基の異常の検知は、たとえば以下の実施例に記載されているように、被験体の皮膚のサンプルからのRNAの分離、およびカスパーゼ−8のPCR増幅されたcDNAのシークエンシングといった技術的によく知られた方法によって行われ得る。
【0116】
カスパーゼ−8の特徴的な活性は、特異的な基質部位におけるそのタンパク質分解性活性である。これゆえ、サンプル中のカスパーゼ−8の活性は、たとえばUS特許6399327の実施例3で記載されているような基質にそのようなサンプルをさらすことを含む型通りの実験方法によって決定され得る。
【0117】
皮膚中のカスパーゼ−8の発現レベルの測定は、サンプルをイムノアッセイにかけること、カスパーゼ−8特異的抗体を作用させること、または、サンプルからRNAを抽出すること、およびカスパーゼ−8に特異的なプライマーを用いてRT−PCRを行うことなど、技術的によく知られている方法によってなされることができる。典型的には、RT−PCR分析は、下記の実施例に示すように、サンプルロードのための対照として、ベータアクチンなどのハウスキーピングジーン(house keeping gene)のRT−PCRを含む。
【0118】
これゆえ、本発明は、皮膚中のカスパーゼ−8欠失と関係している皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を個体において診断するための方法であって、被験体の皮膚のサンプルと少なくとも1つの健常対照個体の皮膚のサンプルにおいて、カスパーゼ−8の発現レベルまたは活性を測定すること、および/または被験体からの皮膚のサンプル中でカスパーゼ−8をコードする核酸塩基における異常を検知することを含み、該少なくとも1つの健常対照個体のサンプルと比較した被験体のサンプル中でのカスパーゼ−8の活性または発現レベルの減少の検知、および/または被験体中におけるカスパーゼ−8をコードする核酸塩基における異常の検知が、被験体における該皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、傷害または症状を発症する素因を示す方法を提供する。
【0119】
本発明は、また、個体の炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因の診断の方法であって、被験体の皮膚のサンプル中、および少なくとも1つの健常対照個体のサンプル中での、配列番号1、配列番号2および/または配列番号3に示される遺伝子に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質の活性または発現レベルを測定することを含み、該少なくとも1つの健常対照個体のサンプルに比べて、被験体のサンプル中の配列番号1、配列番号2および/または配列番号3に示される遺伝子に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質の活性または発現レベルの増加の検出が、被験体における該皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を示す方法を提供する。
【0120】
一実施様態では、その方法は、配列番号2に示される遺伝子に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルの測定を含む。また、別の実施様態では、その方法は、配列番号3に示される遺伝子に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルの測定を含む。
【0121】
タンパク質の発現レベルは、技術的によく知られた、イムノアッセイおよびRT−PCRといった下記に例示した方法で測定され得る。
【0122】
さらに、他の実施様態では、その方法は、アトピー性皮膚炎の診断、または、疾患を発症する素因の診断のためのものである。
【0123】
本発明はまた、炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を個体において診断するための方法であって、被験体の皮膚のサンプルと少なくとも1つの健常対照個体の皮膚のサンプルにおいて、ISG15(Glp2)、Cxcl10、C90rf26と呼ばれる9230117N10Rik(IL33)のヒトオルソログ、IL19、Sprr2f、S100a9、IL−6、MMP13、Ccl3、またはIL1bから選ばれたタンパク質、および9230117E20Rik(配列番号2)の相同ヒト遺伝子によってコードされるタンパク質または2010002N04Rik(配列番号3)の相同ヒト遺伝子によってコードされるタンパク質の1つ、またはそれ以上、すなわち2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、もしくは、全部の発現レベルまたは活性を測定することを含み、該少なくとも1つの健常対照個体のサンプルに比べて、被験体のサンプル中のISG15(Glp2)、Cxcl10、C90rf26と呼ばれる9230117N10Rik(IL33)のヒトオルソログ、IL19、Sprr2f、S100a9、IL−6、MMP13、Ccl3、またはIL1bから選ばれたタンパク質、および9230117E20Rik(配列番号2)の相同ヒト遺伝子によってコードされるタンパク質または2010002N04Rik(配列番号3)の相同ヒト遺伝子によってコードされるタンパク質の該1つ、またはそれ以上、すなわち2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、もしくは全部の発現レベルまたは活性の増加の検出が、被験体における該皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を示す方法を提供する。
【0124】
他の実施様態では、本発明の方法は少なくとも1つの健常対照個体のサンプルが用いられ、また他の実施様態では、1つの健常対照個体のサンプルが用いられ、またさらなる他の実施様態では、1つ以上、2つ、もしくは3つの健常対照個体、または、2つ、3つ、もしくはそれ以上の健常対照個体のサンプルをまとめたものが使用される。
【0125】
本明細書において使用される「遺伝子」とは、ポリヌクレオチドまたは、タンパク質をコードする配列を含むポリヌクレオチドの一部分を意味する。遺伝子は、イントロンと同様、5’または3’側配列(プロモーター、エンハンサー、レプレッサー、そしてその他の制御配列など)のような遺伝子をコードしていない(non-coding)配列も含むことは、技術的によく知られている。
【0126】
「相同な」、または「ホモログ」、または「オルソログ」という用語は、公知であり、技術的によく知られているものであり、これは共通な祖先を共有している関連しあった配列を意味しており、配列の同一性の程度をもとに決定される。これらの用語はある1つの種で発見された遺伝子と、他の種における対応するまたは等価な遺伝子との関係を述べるものである。本研究の目的として、相同な配列が比較された。「相同配列」または「ホモログ」または「オルソログ」は機能的に関連していると考えられ、信じられ、また知られている。機能的な関係は、(a)配列の同一性の程度(b)同一または類似した分子生物学的機能を含むが限定はされない数々の方法のいずれか1つによって示される。好ましくは、(a)(b)の両方が示される。配列の同一性の程度は様々であるが、望ましくは、(技術的に知られている標準的なシークエンスアライメントプログラムを用いた場合)50%以上であり、より好ましくは少なくとも60%以上であり、さらに望ましくは少なくとも75%以上であり、さらに好ましくは85%以上である。相同性は、たとえば、Current Protocols in Molecular Biology(F. M. Ausubelら、eds.、1987)のサプルメント30、セクション7.718の表7.71で議論されているような技術的にたやすく入手可能なソフトウエアプログラムを使用することで決定される。好ましいアライメントプログラムはMacVector (Oxford Molecular Ltd., Oxford, UK)およびALIGN Plus (Scientific and Educational Software, Penn.)である。他の好ましいアライメントプログラムはデフォルトのパラメータをそのまま用いたSequencher(Gene Codes, Ann Arbor, Mich.)である。
【0127】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、「タンパク質」という用語は、本明細書において、いかなる長さでもあるアミノ酸の重合体を示すために交換可能に使用されている。これらの用語は、糖鎖形成反応、アセチル化、およびリン酸化反応を含む反応を通じて、翻訳後に形質転換されるタンパク質を含む。
【0128】
本発明はまた、皮膚の炎症性疾患、障害または症状の治療に関する方法であって、治験的に十分な効果のある量の分子、または、カスパーゼ−8またはそのフラグメント、カスパーゼ−8またはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含むベクター、カスパーゼ−8の活性またはそのレベルの活性化剤、カスパーゼ−8活性化の天然阻害剤に対する阻害剤、皮膚中でカスパーゼ−8活性によって正常には下方調節されるタンパク質の活性またはそのレベルに対する阻害剤、皮膚中でカスパーゼ−8によって正常には上方調節されるタンパク質の活性またはそのレベルに対する活性化剤から選ばれる薬剤を必要としている個体に投与することを含む方法を提供する。
【0129】
本発明による薬剤または分子は、個体に様々な方法で投与されうる。一実施様態では、薬剤または分子は局所的に、皮膚の中に、皮膚に、皮膚の上に、投与されうる。たとえば、上皮または血管内皮細胞を通じた吸収、または、薬剤をコードするDNA分子またはポリヌクレオチドが(たとえば、ベクターを通じて)患者に投与され、活性をもつ薬剤の発現とインビボにおける分泌を引き起こす遺伝子療法のような、その他の治験的に効果のある投与方法が使用されうる。加えて、本発明による活性化構成物は、薬学的な条件を満たしている界面活性剤、賦形剤、担体、希釈液、または輸送媒体など、分子生物学的に活性である薬剤の他の構成成分と一緒に投与されうる。
【0130】
「薬学的に許容され得る」という定義は、活性をもつ成分の生物学的活性の効果を妨げないおよび投与された場合宿主に対して毒性を示さない、いかなる担体も含有することを意味している。たとえば、非経口投与の場合、活性を示すタンパク質は生理食塩水、デキストロース溶液、血清アルブミン、およびリンガー溶液(Ringer's solution)といった輸送媒体に注入するための単位投薬形態で処方される。
【0131】
本発明による、医薬物組成物の活性な構成成分は、様々な方法、または経路で個体に投与され得る。一実施様態では、活性化成分は局所的に、皮膚中に、皮膚にまたは皮膚上に投与され得る。他の治験的に効果のある投与方法はいかなるものでも使用可能である。活性をもつ成分は上皮または血管内皮細胞を通じて吸収される。活性な成分は活性のある薬剤をコードするDNA分子が(たとえば、ベクターを通じて)患者に投与され活性を有する薬剤の発現とインビボにおける分泌を引き起こす遺伝子療法によっても投与される。加えて、本発明による活性をもつ成分は薬学的に許容され得る界面活性剤、賦形剤、担体、希釈液、または輸送媒体など、分子生物学的に活性であるほかの成分とともに投与されうる。
【0132】
投与のほかのルートとしては、肝臓内、皮膚内、経皮的(たとえば、徐放製剤)、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、経口、硬膜外、局所性および鼻腔内ルートを含む。加えて、基質は薬学的に許容され得る界面活性剤、賦形剤、担体、希釈液、または輸送媒体など、分子生物学的に活性である薬剤の他の構成成分と一緒に投与されうる。
【0133】
活性のある成分は、製薬的に受け入れ可能な輸送媒体(たとえば、水、生理食塩水、デキストロース溶液)および等張性を維持するための添加物(たとえばマンニトール)または化学的安定性を維持するための添加物(たとえば防腐剤および緩衝液)と関連して、溶液、懸濁液、乳濁液、または凍結乾燥した粉末として処方されうる。製剤は一般的に使われる方法によって殺菌される。
【0134】
「治療的に有効量」とは、投与されたとき、活性をもつ成分が病状を予防し、疾患の経過を有益に改善し、改良することのできる量である。一回分または複数回分として個体に投与された投薬量は、活性をもつ成分の薬物動態的な特性、投与の方法、患者の容態と特性(性別、年齢、体重、健康状態、大きさ)、症状の程度、同時に行っている治療、治療の頻度、そして望む効果を含む様々な要素にしたがって異なる。定められた投薬量の範囲の調整と操作は、個体の疾患の進行における有益な改善、回復、病変の予防を決定するインビトロおよびインビボの方法と同様に、充分に当業者の能力の範囲内である。
【0135】
本明細書において本発明を完全に述べたところで、当業者によれば、同じことが、過度の実験をすることなしに、本発明の範囲および精神から外れることなく、等価のパラメータ、濃度、状況の広い範囲内で行われ得ることは充分に理解されるであろう。
【0136】
本発明は特異的な実施様態そのものとの関係によって記載されてきたが、さらなる改良が加えられうることは理解されるであろう。本願は、一般的に本発明の原則に基づくものであって、本発明に付随する公知のまたは習慣的な技術の実践にともなう、そして補足クレームの範囲に従って決定される上文の不可欠な特徴に応用されるような、現在の開示からの逸脱も含む本発明の様々な変化、使用、適応を網羅することを意図している。
【0137】
雑誌論文または概要、刊行されたまたは刊行されていない米国または外国の特許申請、米国または外国で査定された特許、または他の引用文献を含む、本明細書において引用された全ての参考文献は、引用された文献内に表された全てのデータ、表、図、および文章を含めて、ここに文献として完全に組み入れられる。加えて、本明細書において引用された引用文献内で引用されている引用文献の全ての内容もまた引用文献によって完全に組み入れられている。
【0138】
既知の方法の段階、従来の方法の段階、既知の方法、または従来の方法は、どんな場合においても、関連した技術における本発明のいかなる特徴、記載または実施様態が開示、教示、示唆されているという許可ではない。
【0139】
限定された実施様態の前述の記載は、他人が、当業者がもち得る知識(本明細書において引用した引用文献の内容を含む)を応用することによって、たやすく、限定された実施様態などの様々な応用に過度な実験をすることなく、また、本発明の全体的な概念から外れることなしに、改良および/または適用できる本発明の一般的な本質を完全に明らかにしているものである。これゆえ、このような適用および改変は、ここに表された教示と指導に基づいて、開示された実施様態と等価の範囲を意味の範囲内であるとみなされる。ここに表された表現または用語は、記述の目的のためであり、限定のためではないと理解されるべきである。すなわち、本発明の明細書に記載の表現または用語は、本明細書において表された教示と指導という点から、通常の当業者の知識とかね合わせて、当業者によって解釈されるべきである。
【実施例】
【0140】
材料および方法
(1)カスパーゼ−8を含む細菌人工染色体(BAC)の修飾
RPCI−24マウス(C57BL/6)のカスパーゼ−8を含むBACライブラリーから得られたBACクローン、(RP24−238B22)は、CHORI(BACPAC リソース)より得られた。BACクローンを含有するDH10B細菌は12.5mg/mlのクロラムフェニコールを含むLB培養中で培養された。細菌のコロニー中のカスパーゼ−8の存在はExon8F−8R、Exon1F−1R、5’UTRF−R(使用されたオレゴヌクレオチドはセクション(i)の下記に列挙されている)のオリゴヌクレオチドを用いたPCRによって確認された。BACクローンの修飾は記載どおりに(Gongら、2002およびSparwasserら、2004)、RP24−238B22クローンからのSacB遺伝子の切除およびカスパーゼ−8遺伝子の修飾の両方のために、pDelsacシャトルベクターを用いて、原則に沿って行われた。以下の4つの修飾が組み込まれた(概略図である図1Eを参照)。
【0141】
a.トランスジェニックのインビボにおける発現を観測するために、本発明者らはIRES配列とGFP cDNAを、カスパーゼ−8の終止コドンの下流であるFRTリコンビネーション部位に2つの配列を隣接させることによって組み入れた。この配列をシャトルベクターに組み込むために、RP24−238B22 DNAからオリゴヌクレオチドAF−AR、AF−AR2、およびBF−BRをそれぞれ用いてPCRによりクローンされた、終止コドンの上流および下流のホモロジーアーム(BoxAおよびBoxB、図1Eに示されているターゲッティングカセットの略図を参照のこと)が、pBC FRT−IRES/GFP−FRTベクターのSalI−EcoRIおよびSpeI−NotI部位に導入された。インサート成分は、その後シャトルベクターに移された。
【0142】
b.トランスジェニックの発現の観測をさらに補助するために、本発明者らは、カスパーゼ−8のC−末端に、BoxA(AF−AR2 PCR生成物由来)と上記aのBoxBを含むpBC FRT−IRES/GFP−FRTのEcoRI部位にT7をコードした配列を導入することにより、T7タグを融合させた。
【0143】
c.トランスジェニックマウスの遺伝子型決定を容易にするために、本発明者らは、最初のカスパーゼ−8イントロンの20ヌクレオチド配列を特異的な配列(ヌクレオチドの割合は同等)に置き換えた。BoxCおよびBoxDはCF−CRおよびDF−DRのプライマーを用いて増幅された。これらの2つのPCR生成物は、CFとDRのプライマーを一緒に用いた二度目のPCRのテンプレートとして用いられ、結果的に2つのPCRフラグメントの融合をもたらした。
【0144】
この研究の中で示された発見は、上記の全ての3つの修飾をもつBACを発現したマウスに関するものである。同一の発見は、1つ目の修飾(IRES/GFP)のみが導入されたBACを発現したマウスにも見られた。
【0145】
d.触媒的に不活性なカスパーゼ−8トランスジェニックは362番目残基の活性部位であるシステインをセリンに変換すること(C362S)によって作製された。この配列と境を接しているBoxIおよびBoxJがBox1S−1RおよびJF−Box2ASのプライマーを用いたPCRによって増幅、融合された。
【0146】
上記の全ての修飾されたカセットはpDelsacシャトルベクターのAscI−NotI部位にクローンされた。
【0147】
シャトル構築物のBACをもつ細菌へのエレクトロポレーション、クロラムフェニコールとアンピシリンを用いた選択に続いて、シャトルベクターを取り込んだコロニーが、つぎのプライマー対:(ABまたはATBCDに対してTB3F−TB3R、CDに対してMutCF−1370R、IJに対してIF2−IR1およびHindIII)を用いてダイレクトPCRまたは、制限酵素分析によって同定された。
【0148】
各種につき2つまたは3つの陽性クローンが、それから5%スクロース中でリゾルブドBACsを選択するために培養され、アンピシリン感受性コロニーを選択することによって、さらなる選択が行われた。上記に記載したように、陽性クローンはPCRによって(ABまたはATBCDに対してTB3F−TB3R、TB4F−TB4R、CDに対して1130F−1370R、MutCF−1370R、IJに対しIF2−JR1とHindIII)および制限酵素分析によって確認された。
【0149】
使用したオリゴヌクレオチド:
【0150】
(ii)BAC DNAのマイクロインジェクションのための単離
BAC DNAは2回のアセテート沈殿法とセシウムクロライド沈降法超遠心法によって単離された。エタノールによる洗浄の後、BAC DNAはTE緩衝液に溶解され、PI−SceIエンドヌクレアーゼ(NEB)によって直鎖状にされ、6時間、マイクロインジェクション緩衝液(10mM Tris、pH7.5、0.1mM EDTA、pH8.0、および100mM NaCl)に対して、0.025μmのミリポアのメンブレンフィルターディスク上に浮かべることで、ドロップ−透析された。BAC DNAの量と質はCHEF−DR III PFEGシステム(バイオラッド(Biorad)社、check)を用いることによる、1%アガロース中でのパルス−フィールドゲル電気泳動によって評価した(PFEG;5V/cm、120度、パルスタイム 5〜120秒、24〜30時間)。DNAはインジェクション緩衝液(10mM Tris、pH7.5、0.1mM EDTA、pH8.0、および100mM NaCl)に2ng/μlの濃度に希釈され、同体積の2×ポリアミン(インジェクション緩衝液中に60mM スペルミンと140mMのスペルミジンを含む)を、注入のために混合した。
【0151】
(iii)BACトランスジェニックマウスの作製と分析
DNAはCBF1またはC57BL/6マウス由来の受精卵母細胞の前核中に、1ng/μlの濃度で注入された。トランスジェニックマウスは尾の生検によって準備されたゲノムDNAのPCR分析(Mut CFおよびIN1−1730Rのプライマーを用いた)および末梢血液の白血球におけるGFP発現のFACS分析によって同定された。
【0152】
触媒的に不活性なカスパーゼ−8のトランスジェニックは、IF2−JR1のプライマーを用いたPCRとそれに続くHindIIIを用いた切断によって活性なものと区別された。
【0153】
BAC tgマウスから抽出された様々な細胞のウエスタンブロット分析のため、野生型およびBACトランスジェニックマウスからの細胞溶解物が溶解緩衝液(1%SDS、1mMオルトバナジウム酸ナトリウム、10mM Tris、pH7.4)中での均一化、続いて、5分間沸騰させることによって準備された。タンパク質の濃度はBCAタンパク質アッセイキット(ピアス(Pierce)社)により決定された。分取した25μgのタンパク質がSDS−PAGE、続いて、抗マウスカスパーゼ−8(3B10、A Strasser博士の好意により準備された)、抗GFPおよび抗ヒトb−アクチン モノクローナル抗体(シグマ(Sigma)社)に対するイムノブロッティングにより分析された。
【0154】
(iv)K5 Cre casp8fl/+およびK5 Cre casp8fl/-マウスの開発
カスパーゼ−8の対立遺伝子がノックアウトされたマウス(casp−8+/-、Varfolomeevら、1998)は、ケラチン−5プロモーターに特異的な上皮基底層の制御下でCreを発現させたトランスジェニックマウス系と交配された(K5 Cre casp−8+、Ramirezら、1994)。これらのK5 Cre Casp−8+マウスはその後、従来のカスパーゼ−8の対立遺伝子(casp−8flfl、Kangら、2004)のホモ接合体をもつマウスと、K5 Cre casp8fl/+およびK5 Cre casp8fl/-マウスを得るために交配された。
【0155】
(v)組織学と免疫染色法
皮膚とその他の臓器は10%のリン酸緩衝ホルマリン溶液、pH7.4で固定され、パラフィンに包理され、4μm区分に切断され、ヘマトキシリンとエオシンによって染色された。近接した区分は、例示された抗体で免疫染色するために使用された。Cy3が結合された二次抗体(ジャクソン イムノリサーチ ラブ(Jackson Immunoresearch Labs))が使用された。区分はさらに、Hoechst33342(シグマ社)で核を観察するためにカウンター染色された。
【0156】
TUNEL染色キット(ロッシュ ダイアグノティクス(Roche Diagnostics)社)がアポトーシス性細胞を検知するために用いられた。
【0157】
ラビットの抗サイトケラチン1、6、14、インボルクリン、フィラグリンおよびロリクリン抗体はコバンス(Covance)社より購入された。抗p21マウスはファーミンゲン(Pharmingen)社から購入された。抗F4/80ラットはセロテック(Serotec)社より購入された。抗Ki67ラットはDAKO社より購入された。
【0158】
(vi)ケラチノサイト培養物の準備
最初のケラチノサイトは生後4日の新生マウスから単離され、培養された。表皮は4℃
で終夜3.3%トリプシン(ギブコ(Gibco)社)を用いて真皮より分離された。ケラチノサイトはMEM溶媒中で15分間振盪することにより分離され、10%のchelex処理された牛胎児血漿、抗生物質、KCl(400μg)および3%炭酸ナトリウムが補足されたMEM溶媒のディッシュに植え付けられた。
【0159】
実施例1:カスパーゼ−8機能に依存する表皮ケラチノサイトの正常な成長と分化
カスパーゼ−8のこの酵素がインビボにおいて及ぼす様々な効果に対する構造−機能関係を明らかにするために、本発明者らはそれらの内因性カスパーゼ−8対立遺伝子から離れて、カスパーゼ−8遺伝子のもう1つのコピー、またはそれらの様々な突然変異体を発現しているマウスを作製するために、細菌人工染色体(BAC)が媒介するトランスジェニクス(詳細は材料および方法を参照)を行った(図1A)。これらのトランスジェニクスは偏在して発現しており、内因性の遺伝子で見られたものと同じ細胞特異的な発現パターンを明示していた(図1B)。野生型のトランスジェニック(Casp−8+/+/BAC−WT)の発現しているマウスは、たとえこれらのマウスとカスパーゼ−8ノックアウトマウスを交配させることによって内因性カスパーゼ−8の対立遺伝子が切除された後でも、正常であるように見える。一方、酵素の活性部位の突然変異体を発現させたマウスは、酵素活性を欠失しており(Casp−8BAC−C362S)皮膚の病状を発症した(図1C)。このトランスジェニック突然変異体のカスパーゼ−8に加えて、二つの内因性野生型のカスパーゼ−8の対立遺伝子も有する(Casp−8+/+/BAC−C362S)マウスは生後約2〜6ヵ月でのみ、この病状を示し始めた。1つの内因性対立遺伝子が切除されたマウス(Casp−8−/+/BAC−C362S)では、病状は生後4日ですでに観察可能となり、それは急速に進展した。皮膚サンプルの組織学的な分析(詳細は材料および方法を参照)は、生後24時間ではなく生後7日で形成される炎症性過程を示唆している(図1D)。
【0160】
本発明者らは、酵素的に不全なカスパーゼ−8の発現、Casp−8BAC−C362Sが共に発現された能力の高い酵素の機能を妨害すること、そして、皮膚の炎症性疾患の発症を誘導することを発見した。これは、カスパーゼ−8の酵素機能が生後の皮膚の発達または恒常性に役割を果たしていることを示唆している。
【0161】
実施例2:カスパーゼ−8条件ノックアウトマウスは皮膚疾患の発症におけるカスパーゼ−8の機能の役割を確認する
Casp8BAC−C362S導入遺伝子を発現するマウスにおいて見られる皮膚の病状が表皮細胞それ自身のカスパーゼ−8の機能的役割を反映していることを確かめるために、本発明者らは、条件付カスパーゼ−8対立遺伝子をもつマウスを用い、これらの細胞において特異的にカスパーゼ−8を削除することを行った(詳細は材料および方法を参照)。1つのカスパーゼ−8の対立遺伝子の一部分がloxP部位に隣接しており、もう1つの対立遺伝子が削除された(Casp−8fl/-)マウスをケラチノサイトに特異的なケラチン−5プロモーターの制御下、Creを発現しているトランスジェニックマウス系と掛け合わせることで、PCRおよびウエスタンブロット分析によって示されるように、効果的かつ限定的に表皮中のカスパーゼ−8遺伝子を削除することができた(図2Aおよび2B)。
【0162】
ウエスタンブロット分析のために、皮膚はP0 Casp−8fl/-K5−Creマウスより剥がされ、表皮と真皮を分離するために、65℃にて2〜3秒インキュベートされた。表皮と真皮の両方のサンプルはRIPA緩衝液(50mM Tris−HCl、pH8.0、0.1% NP40、0.5%デオキシコール酸ナトリウム、0.1%SDS、150mM塩化ナトリウム、1mM EDTA、1mM PMSF、1mMオルトバナジウム酸ナトリウム、プロテアーゼ阻害剤カクテル一式)の中で均一化され、30分間氷上に放置された。それから、細胞の均一化物は13000×gで15分遠心分離され、上澄みは取り除かれた。40μgのタンパク質抽出物は10%SDS−ポリアクリルアミドゲルで分けられ、ニトロセルロースメンブレンにブロットされた。メンブレンは抗マウスカスパーゼ−8(3B10、1;2000倍希釈、アレクシス(Alexis)社)または抗ベータアクチン(1:10000倍希釈、シグマ社)とインキュベートされ、製品の説明書に基づいて、抗ラットHRP(シグマ社)または標準ECL反応(ピアス社)での抗マウスHRPによって検出された。図2A(下のパネル)にまとめたウエスタンブロット分析の結果は、カスパーゼ−8の削除が表皮中で形成されているが、Casp−8fl/-K5−Creマウスにおける真皮には形成されていないことを示している。
【0163】
マウス(Casp−8fl/-K5−Cre)は誕生時正常に見える。しかしながら、たった3日後には、マウスは、Casp−8-/+/BAC−C362Sマウスに生じるものとよく似た皮膚の病状の発症を開始する(図2C)。Creの均一的な発現と表皮における効果的なカスパーゼ−8の切除にも関わらず、病変は始め限局していたが、しかし迅速に広がり、最終的には、皮膚の全域を覆った。Casp−8fl/-K5−Creマウスは正常なマウスより小さく、限られた時間しか生きながらえることができず(図2D)、全てのマウスは10日の日齢で死に至った。胃縁の表皮でもまたK5プロモーターが発現しており、これと一致してマウスの一部は深刻な胃の病状を表し、食べることができなくなった。
【0164】
組織学的分析によれば(詳細は材料および方法を参照)、Casp−8fl/-K5−Creマウスの表皮は、Casp−8-/+/BAC−C362Sマウスにおけるものとまったく同様に、真皮中の白血球の蓄積およびケラチン6の表皮における発現(炎症性と過剰増殖性の状態のマーカーである)といった炎症の特徴を、特に上皮の病変部分に示している。さらに、本発明者らは、通常基底の表皮層に限定されている、突然変異体の皮膚における重篤なケラチン14(K14)の基底層上への発現を発見した。K6およびK14は、P7においてノックアウトの表皮の全ての生存している層に発現された(図4A)。加えて、この段階で、基底層直上のケラチン1(K1)の発現とケラチノサイトの最終分化のマーカーであるロリクリンおよびフィラグリンの発現が目に見えて減少し、また、完全に失われた。真皮中に蓄積した白血球の大部分は、単核の食細胞(F4/80抗体染色、図3B)および好酸球(フェノールレッドポジティブ)であり、TまたはBリンパ球のどちらにも重篤な増殖はなかった(抗CD−3を用いた染色(図3B)、CD45R、またはCD20抗体による染色、データはあげられていない)である。好酸球のいくばくかは表皮の小膿疱内にも蓄積した(図3B)。
【0165】
実施例3:ケラチノサイト中のカスパーゼ−8欠損に関係する皮膚の炎症性疾患に対するTNFの寄与
p65そのものか、またはp65 NF−κBの活性化を媒介するキナーゼであるIKK2のどちらかをノックアウトすることによる、皮膚のケラチノサイトにおけるp65 NF−κBタンパク質の活性の停止は、また、炎症性の皮膚障害を引き起こす(Huら、1999、Pasparakisら、2002)。その場合、障害はTNFによるケラチノサイトの慢性的な自己分泌刺激作用、およびその結果として生じる、ともに活性化されるp65の抑制効果が不在の場合には過度の程度まで起こるJunリン酸化反応の増加によって引き起こされることが示された。この皮膚の炎症性疾患過程とケラチノサイト中でのカスパーゼ−8欠損の結果としておこることの間の関係を調べるために、本発明者らは後者の事象に対するTNFの寄与を評価した。それぞれのノックアウトマウスを交配させることによるCasp−8fl/-K5−CreのマウスのTNF遺伝子またはTNFレセプター1(TNFR1)遺伝子のどちらかの欠失は、皮膚の病状の開始を著しく遅くするという結果を生じた。さらにTNF−/−Casp−8fl/-K5−Creマウス(図2D)およびTNF R1−/−Casp−8fl/-K5−Creマウス(図には示されていない)は最低でも4ヵ月間は生存能力を保持していた。皮膚の病状の開始の著しい遅れは、抗TNF抗体、または溶解性のTNFレセプターをCasp−8fl/-K5−Creマウス(図には示されていない)に注入することによってもまた得ることができた。しかしながら、完全にTNFに依存している、ケラチノサイト中でのp65またはIKK2の欠失から生じる病状とは対照的に、カスパーゼ−8の欠失から生じる病状は、遅れはするが、最終的にはTNFまたはそのレセプターを発現していないマウスにおいて完璧な範囲を覆い尽くした。実際、これらのマウスは死には至らなかったので、マウスを覆った皮膚の病状の程度はTNF能力をもつCasp−8fl/-K5−Creマウスにおいて到達した範囲よりもはるかに大きなものであった。本発明者らは、組織学的な分析より、TNF応答の不在の場合に伸びた皮膚の病変がその存在下で観察されたものからは区別できないことを見出した(データは示されていない)。TNFR1の欠失に加えてTNFR2遺伝子のさらなる欠失は、皮膚の病状に影響を及ぼさなかった(データは示されていない)。
【0166】
p65阻害の効果からのさらなる違いは、Casp−8fl/-K5−Creマウスの表皮において、Junリン酸化反応の増加がまったく認められなかったことである(図4B)。これらの発見は、カスパーゼ−8欠失はp65 NF−κB活性化の停止という結果を招かないということを示唆している。実際、Casp−8fl/-K5−Creマウスと正常なマウスの表皮におけるp65およびp50核転座の程度の間には違いは認められなかった(データは示されていない)。
【0167】
皮膚のケラチノサイトにおいてカスパーゼ−8がまさにどんな役割を果たしているのかということを見つけ出すために、本発明者らは始めにその欠損が細胞死、すなわち一般的にカスパーゼ−8が関連している過程に影響を及ぼすのかを調べた。Tunnelテストはカスパーゼ−8欠損の表皮中の細胞死は減少せず、むしろ顕著な増加が見られることを明らかにした(図4C、右側のパネル)。Ki67抗原の染色による表皮中の細胞増殖の評価において、本発明者らは表皮基底層における細胞増殖の著しい増加を観察した(図4C、左側のパネル)。しかしながら、NF−κB欠損表皮中で見られた過剰な増殖、これは分裂細胞の層の著しい肥大を含むが、これとは対照的に、カスパーゼ−8欠損皮膚中の分裂細胞はただ1つ、または多くても2つの細胞層を占めるにすぎない。ブロモデオキシウリジンの取り込みの免疫組織化学上の評価によって皮膚の細胞増殖を評価する際に類似の観察が得られた(データは示されていない)。
【0168】
表皮の基底層の大きさは変化しないままである一方、ケラチノサイトの分化における明確な段階を特徴付けるタンパク質の発現パターンはカスパーゼ−8欠損皮膚中では大幅には変化しなかった(図4A)。
【0169】
実施例4:正常な表皮およびカスパーゼ−8欠損表皮の皮膚層からのケラチノサイトの培養液中での分化能力
カスパーゼ−8欠損皮膚中に見られる細胞の分化のパターンの異常(図4A)がカスパーゼ−8の細胞自律性機能、または、ケラチノサイトの他の細胞とまたは細胞外の要素との相互作用を含む、より複雑な変化を反映しているのかどうかを見出すだめに、本発明者らは正常な表皮およびカスパーゼ−8欠損表皮の皮膚層からのケラチノサイトの培養液中での分化能力を比較した(詳細は材料および方法を参照)。カルシウムイオンの増加による正常なケラチノサイトの分化の誘発は、初期の分化マーカーであるケラチン1ならびに後期の分化マーカーであるフィルガリンおよびロリクリンの効果的な誘発とともに、特徴的な形態学的変化を生じた。カルシウムのアップシフト(up-shift)はCasp−8fl/-K5−Cre細胞に、正常細胞で見られるものと類似した形態学的変化を誘発した。しかしながら、ケラチン1、フィルガリンまたはロリクリンの発現の増加を誘発することはできなかった(図6および7)。この分化不全はCasp−8fl/-K5−Creマウスの生後直後に得られたケラチノサイトでは見られなかった。しかし、この分化不全は、Casp−8fl/-K5−Creの1日齢の子供の皮膚からの細胞では、この年齢でのこれらの子供はまだいかなる異常な皮膚の組織学的特徴を現していなかったにもかかわらず、明らかであった。TNF−/−Casp−8fl/-K5−CreおよびTNF R1−/−Casp−8fl/-K5−Creマウスにおける病状の甚大な遅れにも関わらず、分化不全は、生後一日で既に、それらの細胞中にも見られた。
【0170】
細胞増殖および分化のコントロールに関わる核タンパク質であるp21ARFはケラチノサイトの分化を劇的に減少させることが示されている(Dotto 2000、およびDi Cuntoら、1998)。この変化は、分化に関わる遺伝子発現の変化における原因となる役割をもっているように見受けられる。培養したケラチノサイトにおけるp21ARFの量を決定することで、本発明者らはカルシウムのアップシフトによる分化の誘発に続くその減少が、カスパーゼ−8欠損細胞中では著しく遅れていることを発見した、これは、さらに、この欠損が分化プロセスにおけるいくつかの特徴を干渉していることを示している(図7B)。
【0171】
これゆえ、インビトロで培養されている間、カスパーゼ−8ノックアウトケラチノサイトは正常に成長し、そして、高濃度のカルシウムの適用に続いて、細胞周期から離脱していく。しかしながら、通常後期の分化段階に関係している分子事象はノックアウトの培養中では起こらない。もっとも顕著には、ロリクリンおよびフィラグリンの発現が誘導されない。さらには、細胞が後期の分化段階に入ったときp21は低下しない。
【0172】
カスパーゼ−8のケラチノサイトの分化マーカーの発現に対する寄与が細胞自律性の様式でおこることをさらに確認するために、カスパーゼ−8がCasp−8fl/-K5−Creケラチノサイトに再構成された。培養されたCasp−8fl/-K5−Creケラチノサイトでは、野生型のカスパーゼ−8の発現はレンチウイルス(lenti-virus)の発現ベクターを用いることによって、もう一度実施され、そして、カルシウムのアップシフトに応答して分化マーカーを発現する能力が回復された。このようなカルシウムのアップシフトに対する応答は、細胞が酵素的に不活性なカスパーゼ−8突然変異体(Casp8−C362S)にトランスフェクトされた場合には見られなかった。さらに、野生型のマウス由来のケラチノサイト中のこの突然変異体の発現は、それらの中での分化マーカーの発現を停止させた。類似の分化マーカーの発現の阻害が、野生型のマウス由来のケラチノサイトがカスパーゼ−8抑制作用のあるタンパク質にトランスフェクトされたとき、または、カスパーゼ−8活性化を阻害することのできる薬剤とともに処理されたときに観察された。これらの結果は、カスパーゼ−8が皮膚のケラチノサイトの分化に細胞自律性な役割をはたしており、この役割はカスパーゼ−8の酵素機能に依存していることを示していることを示している。
【0173】
実施例5:生後3日のCasp−8fl/-K5−CreマウスおよびそのF/+同腹子からの皮膚におけるジーンアレイ分析
アギレント テクノロジー(Agilent Technologies)社より購入されたマウスオリゴマイクロアレイジーンキット(mouse oligo microarray Gene kit)(塩基長60(60-mer)のオリゴ)が製品説明書に従って、生後3日(P3)のCasp−8fl/-K5−Creマウスの皮膚からおよびそのF/+同腹子からのRNAサンプルに使用された。本発明者らは炎症を促進する機能で知られている、ISG15(Glp2)、Cxcl10、C90rf26と呼ばれる9230117N10Rik(IL33)のヒトオルソログ、IL19、Sprr2f、S100a9、IL−6、MMP13、Ccl3およびIL1b遺伝子がCre カスパーゼ−8fl/−マウスの皮膚中で著しく上方調節されていることを発見した。Casp−8fl/-K5−Creマウスからの皮膚のサンプルにおける発現の差別パターンはタイプTH2サイトカインの顕著な上方調節を示している。
【0174】
また未知の機能をもつ2つのcDNAS、9230117E20Rik(配列番号2)および2010002N04Rik(配列番号3)がCasp−8fl/-K5−Creマウス中で顕著に上方調節されていた(表1)。
【0175】
【表1】
【0176】
実施例6:リアルタイムPCRとインサイチュハイブリダイゼーションによって評価されたCasp−8fl/-K5−Creマウスの皮膚サンプルにおける差異的に上方調節される遺伝子
前の実施例のジーンアレイ分析で見出された遺伝子調節の差異パターンはさらにリアルタイムPCRによって評価された。この目的のために、野生型マウス、Casp−8fl/-K5−Creマウス、またはTNF−/−Casp−8fl/-K5−Creダブルノックアウトマウスから、生後異なる時間で、皮膚が除去された。カスパーゼ−8欠損マウスは出生1日前(D−1)、出生日(P0)、生後1日(P1)、生後2日(P2)、生後3日(P3)、および生後5日(P5)にテストされた。マウスから取り去られた皮膚は65℃にて2〜3秒表皮と真皮とを分離するためにインキュベートされた。表皮と真皮のサンプルは粉末に加工(乳鉢と乳棒を用いて)され、そして粉末は、キアゲン社のRneasyキットを製品の説明書に基づいて用いRNAの単離のための出発物質として使用された。生後異なる時間で、野生型マウス、Casp−8fl/-K5−Creマウス、またはTNF−/−Casp−8fl/-K5−Creのダブルノックアウトマウスから取り除かれたそれぞれの皮膚サンプルから単離されたRNAは、アレイ技術によって上方調節されることが判明した遺伝子に特異的なプライマーを用いたリアルタイムPCRにかけられた。
【0177】
全てのPCR反応はアプライドバイオシステムズ社の7500リアルタイムPCRシステムで、市販されている専用のTaqman gene expression assayを用いて製造会社(アプライドバイオシステムズ社)の説明書に基づいて行われた。
【0178】
PCRによるそれぞれの特異的遺伝子に対して発見されたmRNAレベルは同じPCR反応でテストされたベータアクチン(ACTB)の対照遺伝子のmRNAのレベルを用いて標準化された。8fl/-K5−CreマウスまたはTNF−/−Casp−8fl/-K5−Creダブルノックアウトマウスにおける生後の所定の発達段階での特定の遺伝子のmRNAの上方調節は、8fl/-K5−CreのマウスまたはダブルノックアウトされたTNF−/−Casp−8fl/-K5−Creマウスの標準化されたmRNAと生後の同じ発達段階での野生型の標準化されたmRNAとの比率によって、デルタ−Ct法(LivakおよびScimittgen、2001)によって計算された。得られた比率は、log2に変換され、図8のヒートマップに示されるように発現の変化の上方調節の増加の一貫性に従って、順序付けられた。図では、各々のカラムが、生前およびP0、P1、P2、P3、P5における8fl/-K5−Creマウスの皮膚中の特別な遺伝子の上方調節の割合を示している。結果は22のテストされた8fl/-K5−Creマウスのうち、19のマウスがISG15(Glp2)、15のマウスがCxcl10、15のマウスが9230117N10Rik(IL33)、14のマウスがIL19、14のマウスが2010002N04Rik(配列番号3)、13のマウスがSprr2f、13のマウスがS100a9、12のマウスがIL−6、12のマウスが9230117E20Rik(配列番号2)、11のマウスがMMP13、11のマウスがCcl3、および10のマウスがIL1b遺伝子の顕著な上方調節を示した。
【0179】
結果は22のテストされたTNF−/−Casp−8fl/-K5−Creダブルノックアウトマウスのうち、11のマウスがISG15(Glp2)、13のマウスがCxcl10、13のマウスが9230117N10Rik(IL33)、16のマウスがIL19、11のマウスが2010002N04Rik(配列番号3)、16のマウスがSprr2f、16のマウスがS100a9、16のマウスがIL−6、6のマウスが9230117E20Rik (配列番号2)、12のマウスがMMP13、15のマウスがCcl3、および11のマウスがIL1b遺伝子の顕著な上方調節を示した。
【0180】
前述のとおり、皮膚の病状は生後3日で首と頭の部分に発現し、徐々に体全体に広がっていく。本発明者らは、RT−PCRにより、同じP3 8fl/-K5−Creマウスの正常な皮膚および病状を示している皮膚からのサンプルにおいて、差異発現の同じパターンを見出した(データは示されていない)。
【0181】
RT−PCR分析によって得られた結果は、向炎症性の機能をもつ遺伝子、およびIL−19などのタイプTH2サイトカインをコードする遺伝子が、Casp−8fl/-K5−Creマウスからの皮膚のサンプルにおいて、顕著に上方調節されていること、病状が発症する以前に同じ上方調節のパターンが検知されうること、TNFは皮膚の病状に主たる影響を及ぼしておらず、その病状を増幅することおよび促進することにのみ寄与していることを裏付けている。
【0182】
皮膚上におけるカスパーゼ−8欠損の効果はさらに、ジーンアレイ分析およびCasp−8fl/-K5−Creマウスからの皮膚のサンプルのRT−PCR分析において上方調節されていることが判明したケモカインである、s100a9(下記参照)に対するプローブを用いて、インサイチュハイブリダイゼーションによって評価された。この目的のために、P7野生型マウスまたはP7 Casp−8fl/-K5−Creマウスからの6μm厚さのパラフィンで処理された皮膚の区分がスライドにされた。脱パラフィン化(キシレンを10分で2回、100%エタノール2分ずつ2回、95%エタノール2分、70%エタノール2分、50%エタノール2分)の後、スライドはプロテイナーゼK(10μg/ml)で10〜20分処理され、4%パラホルムアルデヒド(PFA)で固定され、そして、アセチル化(200mlのDEPC処理された水に2.2mlのトリエタノールアミン、750μlの無水酢酸を加え、5分作用させた)した。その後、スライドはアンチセンスまたはセンス(対照)プローブと終夜65℃でインキュベーションしてハイブリダイズされた。24時間後、スライドは異なる濃度のSSC緩衝液(a.10mM DTTを含む5×SSC中65℃で30分、b.10mM DTTと50%ホルムアミドを含む2×SSC中65℃で30分、c.2×SSC中37℃で5分を3回、d.RNase A(10μg/ml)を含む0.4M NaCl、0.01M Tris−HCl pH7.5、0.005M EDTA中37℃で30分、およびe.2×SSC中37℃で15分、f.0.1×SSC中37℃で15分)で数回洗浄され、抗DIG抗体と2時間室温でインキュベートされた。その後、スライドは染色のための基質(抗−ジゴキシゲニン−アルカリ・ホスファターゼ(Anti-Digoxigenin-Alkaline Phosphatase)、ロッシュ社)によって数時間から数日間現像された。
【0183】
P7野生型マウスまたはP7 Casp−8fl/-K5−Creマウスの皮膚に適用されたs100a9からのアンチセンス(配列番号35)およびセンス(対照)プローブとのインサイチューハイブリダイゼーションの結果は図9にまとめられている。得られた結果は、s100a9転写が、表皮と真皮の両方においてアンチセンスプローブとプローブされたCasp−8fl/-K5−Creマウスのサンプルにおいてのみ検知されたことを示している。
【0184】
実施例7:差異的に上方調節されるタンパク質とウエスタンブロットによって評価されたCasp−8マウスの皮膚中のカスパーゼ−14、Stat−1、およびStat−3の活性化
ウエスタンブロット分析のために、P4 Casp−8fl/-K5−CreマウスまたはP4野生型マウスの皮膚全体、表皮、真皮のサンプルが単離された。それぞれのサンプルは乳鉢と乳棒で粉砕され、組織中の細胞は1mgの組織あたり、10μlのRIPA(RIPA緩衝液、20mM Tris−HCl pH7.5、150mM NaCl、1mM EDTA pH8、0.1%SDS、1%NP−40)とインキュベートすることによって溶解され、タンパク質を抽出するために使用された。次に、組織溶解物は0℃で10分間インキュベートされ、サンプル緩衝液が添加された後、100℃で5分間インキュベートされた。サンプルは1300rpmで遠心分離され、上澄み液は10%SDSポリアクリルアミドゲルで分離され、ニトロセルロースメンブレンにブロットされた。
【0185】
分離された皮膚のタンパク質を含むニトロセルロースメンブレンはStat−1およびStat−3に特異的な抗体とプローブされた。Stat−1およびStat−3はリン酸化反応において、IL−6によって誘発され、核に転位し、皮膚の炎症性病状のマーカーとして使用されるタンパク質キナーゼによって活性化される転写因子である。Stat特異的な抗体によって得られた結果は、Casp−8fl/-K5−Creマウスの皮膚の表皮のサンプルにおいてのみ、リン酸化されたAtat−1またはリン酸化されたStat−3に対応するバンドが検知されたことを示している(図10A)。
【0186】
プロカスパーゼ−14は、皮膚の表皮中で活性化カスパーゼ−14に構造的に促進されることが知られているので、カスパーゼ−8欠損によって誘導された結果生じた炎症性の病状がこの組織内でプロカスパーゼ−14のプロセッシングの制御に関わっているのかどうかをテストすることは興味深いことである。この目的のため、分離された皮膚のタンパク質を含むニトロセルロースメンブレンが、カスパーゼ−14に特異的な抗体とプローブされた。図10Bにまとめられた結果は、プロカスパーゼ−14のCasp−8fl/-K5−Creマウスの皮膚におけるプロセッシングには変化がないことを示しており、これは、カスパーゼ−14はカスパーゼ−8欠損によって引き起こされる病因には関与していないことを示している。
【0187】
S100A8はマクロファージによって発現されるケモカインである。S100A8は、本発明者らが先に、ジーンアレイによってCasp−8fl/-K5−Creマウスの皮膚において、および、RT−PCR分析によってCasp−8fl/-K5−Creマウスの表皮において上方調節されることを明らかにした遺伝子である、S100A9とヘテロ二量体を作ることが知られている。S100A8タンパク質の存在は、野生型マウスまたはCasp−8fl/-K5−Creマウスから単離された皮膚全体、真皮、または表皮のサンプルにおいて、ウエスタンブロットハイブリダイゼイションによって分析された。図10Cにまとめられた結果は、S100A8タンパク質はCasp−8fl/-K5−Creマウスにのみ検知されること、およびS100A8の最も高い発現が真皮中に見られたことを示している。これゆえ、これらの結果は表皮中のカスパーゼ−8の欠損が真皮中での病理学的変化を引き起こしていることを示している。
【0188】
実施例8:IL−1αおよびIL−1βはケラチノサイト中のカスパーゼ−8欠損に関連する皮膚の炎症性疾患に寄与していない。
IL−1αおよびIL−1βは、ジーンアレイによってCasp−8fl/-K5−Creマウスの皮膚中で、および、RT−PCR分析によってCasp−8fl/-K5−Creマウスの表皮において、上方調節されることが見出された。本発明者らはケラチノサイト中でカスパーゼ−8欠損の結果起こる皮膚の炎症の過程におけるIL−1αおよびIL−1βの役割をさらに調べた。IL−1α遺伝子またはIL−1β遺伝子のどちらかとCasp−8fl/-K5−Creのダブルノックアウトマウスは、IL−1α遺伝子またはIL−1β遺伝子のどちらかをノックアウトしたマウスとCasp−8fl/-K5−Creマウスを交配することによって得られた(Horaiら、1998)。ダブルノックアウトマウスは皮膚の病状の開始において抜本的な遅れは示さなかったが、Casp−8fl/-K5−Creマウスとして8日または9日しか生存しなかった。
【0189】
【図面の簡単な説明】
【0190】
【図1A】酵素的に不活性なカスパーゼ−8を発現させたトランスジェニックマウスが炎症性皮膚疾患を発症していることを示す。左側のパネルは各サンプルにおけるPCRジェノタイピングを示しており、サンプルは(左から右へ)内因性のカスパーゼ−8遺伝子のみをもつ対照マウス(+/+)、内因性のカスパーゼ−8遺伝子とBAC由来のカスパーゼ−8をもつトランスジェニックマウス(+/+BAC)、カスパーゼ−8バックグラウンドを部分的にノックアウトしたBACカスパーゼ−8をもつトランスジェニックマウス(カスパーゼ−8の1つの対立遺伝子のみがノックアウトされている)(+/−BAC)、およびカスパーゼ−8バックグラウンドのフルノックアウトのBACカスパーゼ−8のみをもつトランスジェニックマウス(−/−BAC)である。子宮内で死亡したカスパーゼ−8フルノックアウトマウスの場合と異なり、−/−BACマウスは生存できた。右側のパネルの初めの半分はPCRのジェノタイピングを示しており、サンプルは(左から右へ)、+/+、+/+BAC、および+/+BAC C362S(残基362のシステインがセリンに代えられている酵素活性を持たない突然変異体カスパーゼ−8のBACをもつ)である。右側のパネルの二番目の半分は始めの半分のものと同じサンプルかつ同じ順番のものであるが、野生型のカスパーゼ−8から突然変異体BAC−C362Sと区別するためにHind IIIで制限されたものである。HindIIIはBAC−C362S突然変異体のカスパーゼ−8を確かに切断する(矢印)、しかし、内因性またはBAC WTカスパーゼ−8は切断しない。
【図1B】酵素的に不活性なカスパーゼ−8を発現させたトランスジェニックマウスが炎症性皮膚疾患を発症していることを示す。サンプル中のカスパーゼ−8発現のウエスタンブロット分析を示し、サンプルは対照マウス(+/+)または内因性カスパーゼ−8に加えて、同起源のカスパーゼ−8プロモーターにより制御されるトランスジェニックなBACカスパーゼ−8を発現させたトランスジェニックマウス(+/+BAC)の、(左から右へ)肝臓、脾臓、腎臓、胸腺、肺、脳、および皮膚である。上部のパネルはカスパーゼ−8の合計(内因性およびトランスジェニック)のレベルを示している。1番目のレーンは+/+マウスの所定の組織内のカスパーゼ−8のレベルを、二番目のレーンは、内因性およびトランスジェニック起源から発現されたカスパーゼ−8をもつ+/+BACマウスの同じ組織におけるカスパーゼ−8を示している。中央のパネルはトランスジェニックマウスのみに存在するGFPを示しており、そのレベルはトランスジェニックなカスパーゼ−8の発現レベルと密接な相関関係にある(カスパーゼ−8およびGFPの発現はともに同起源のカスパーゼ−8プロモーターの制御下にある)。下側のパネルはそれぞれ異なるレーンにロードしたタンパク質の量の対照としてのアクチンのレベルを示している(約25μgの組織溶解物/レーン)。対照およびトランスジェニックマウスにおけるカスパーゼ−8の合計およびGFPの発現の観察されたパターンは、トランスジェニックカスパーゼ−8は内因性カスパーゼ−と同様に、肝臓、脾臓、腎臓、胸腺、および肺で高いレベルで発現されているが、脳では発現されなかったことを示している。また、内因性およびトランスジェニックカスパーゼ−8はともに、皮膚で発現することが観察された。これゆえ、同起源のカスパーゼ−8プロモーターは内因性およびトランスジェニックカスパーゼ−8の両方の、類似の組織特異的な発現を可能にしている。
【図1C】酵素的に不活性なカスパーゼ−8を発現させたトランスジェニックマウスが炎症性皮膚疾患を発症していることを示す。カスパーゼ−8バックグラウンドの部分的ノックアウト(Casp8+/−)の突然変異体カスパーゼ−8(BAC C362S)を発現しているトランスジェニックマウスの生後5日(P5)、生後7日(P7)、および生後14日(P14)の一般的な外観を示す。図の結果は、酵素活性が欠損しているミュータントカスパーゼ−8を発現しているマウスは、たとえ内因性カスパーゼ−8の存在下であっても、時間と共に進行する皮膚疾患を発症することを示している。
【図1D】酵素的に不活性なカスパーゼ−8を発現させたトランスジェニックマウスが炎症性皮膚疾患を発症していることを示す。生後0日(P0)と生後7日(P7)の、BAC C362Sをもつトランスジェニックマウスおよび対照マウスのヘマトキシリン/イオシンで染色した皮膚の区分の組織学的分析を示す。図に示された結果は、対照マウス(WT)ではP0(生後24時間以内)での表皮層はP7の場合よりもより厚かったことを表している。P0では、トランスジェニックマウスと対照マウスの組織学的パターンに明らかな違いは見られなかった。P7では、突然変異体カスパーゼ−8を発現しているトランスジェニックマウスにおいて細胞の湿潤と厚みを増した表皮によって明確に示される違いが見られた。
【図1E】酵素的に不活性なカスパーゼ−8を発現させたトランスジェニックマウスが炎症性皮膚疾患を発症していることを示す。上記の実験で使用されたBACの修飾の概要の図によって表している(材料と方法を参照)。
【図2A】カスパーゼ−8を表皮特異的にノックアウトしたマウスが炎症性皮膚疾患を発症することを示す。上のパネルは、Casp−8fl/-Cre−またはCasp−8fl/-Cre+マウスの(左から右へと)皮膚全体、表皮、および真皮からのサンプルにおけるカスパーゼ−8欠失をゲノムPCRにより見積もっている。下のパネルは、K5Casp−8fl/-Cre−またはK5Casp−8fl/-Cre+マウスの表皮または真皮からのサンプルにおけるカスパーゼ−8欠失をウエスタンブロット分析により見積もっている。
【図2B】カスパーゼ−8を表皮特異的にノックアウトしたマウスが炎症性皮膚疾患を発症することを示しており、P7 ROSA26Casp−8fl/+K5−Cre(上部パネル)およびROSA26CCasp−8fl/-K5−Creマウス(下部パネル)の皮膚からの細胞区分におけるβガラクトシダーゼ発現の分析を示している。結果は、マウスの毛嚢および表皮における特異的なCre誘導性の発現(より濃い染色)を支持している。
【図2C】カスパーゼ−8を表皮特異的にノックアウトしたマウスが炎症性皮膚疾患を発症することを示しており、生後の異なる時間における野生型(上部パネル)およびTNF−/−ノックアウトバックグラウンド(下部パネル)でのCasp−8fl/-K5−Creマウスの表現型を示している。得られた結果はTNF欠損マウスではカスパーゼ−8欠損によって媒介される皮膚疾患の始まりは予防されないが、遅らされる。
【図2D】カスパーゼ−8を表皮特異的にノックアウトしたマウスが炎症性皮膚疾患を発症することを示しており、K5F/−マウス(Casp−8fl/-K5−Creマウス)およびTNF-/-K5FI/−マウスの生存曲線を示している。図に示された結果はTNF欠損は表皮特異的にカスパーゼ−8をノックアウトしたマウスの死を遅らせることを表している。
【図3A】Casp−8fl/-K5−Creにおける組織学的分析と皮膚の炎症の評価を示す。P0(左側)とP7(右側)の表皮をターゲットしたカスパーゼ−8欠損マウス(sKO,下部のパネル)とWTマウス(上部のパネル)のヘマトキシリン/エオシン染色を表している。P0では、WTとカスパーゼ−8欠損マウスとの間で違いはまったく認められなかった。p7では、Casp−8fl/-K5−Cre P7マウスの真皮において細胞性の増加が認められた。
【図3B】Casp−8fl/-K5−Creにおける組織学的分析と皮膚の炎症の評価を示しており、P7における、マクロファージ(F4/80抗体)、WTマウスもしくはCasp−8fl/-K5−Creマウスの皮膚区分における好酸球(フェノールレッド取り込み)とTリンパ球(抗CD3抗体)の染色を示している。図中の結果はマクロファージと好酸球の湿潤とを示しているが、Casp−8fl/-K5−Creマウスの皮膚のT細胞では見られなかった。同一の染色パターンがTNFR1−/−バックグラウンドのCasp−8fl/-K5−Creにおいて観察された(データは示していない)。注目すべきは好酸球もまたCasp−8fl/-K5−Creマウスの表皮中の膿疱に蓄積していることである。これらの結果は皮膚を標的としたカスパーゼ−8欠損マウスに発症している皮膚疾患が炎症性であることを示している。
【図3C】Casp−8fl/-K5−Creにおける組織学的分析と皮膚の炎症の評価を示しており、P3マウスの表皮病変の領域における炎症の制限を示している。真皮の細胞性の一般的な増加(上部パネル)、F4/80−陽性細胞の蓄積(中央のパネル)、および表皮の活性化に対するマーカーである抗ケラチン6による染色(下部パネル)が表皮が肥大化した領域(点線で線引きされた領域)に限られていることを示している。
【図4A】カスパーゼ−8欠損表皮の免疫組織学的分析を示している。右側のパネルはWTマウス(左側)の皮膚、Casp−8fl/-K5−Creマウスの皮膚病変(中央)、同じCasp−8fl/-K5−Creマウスの深刻な皮膚病変(右側)の部位のP7における免疫染色を表している。基底層マーカーであるK14の免疫染色はCasp−8fl/-K5−Cre表皮の至るところにこのタンパクの発現が延伸していることを示している。すなわち、分化マーカーK1(顆粒層)インボルクリン(角質層)、フィラグリン(角質層)、およびロリクリン(角質層)に対する染色はP7でのより深刻なCasp−8fl/-K5−Cre病変領域での組織化されていない局在化、マーカーの減少、および次第にこれらのタンパクの完全な喪失を表すようになる。さらに、一般的な表皮活性化のマーカーである抗K6による大量染色を示している。これらの変化はひとつとして、P0(左側パネル)およびP1(データは示していない)では認められなかった。
【図4B】カスパーゼ−8欠損表皮の免疫組織学的分析を示しており、P0(左側パネル)およびP7(右側パネル)におけるWTおよびKOマウスの皮膚区分のcJunリン酸化に対する免疫染色を表している。異なる皮膚区分をテストしてもいかなる違いも見られなかった。
【図4C】カスパーゼ−8欠損表皮の免疫組織学的分析を示しており、P7でのCasp−8fl/+K5−CreおよびCasp−8fl/-K5−Creの表皮におけるアポトーシスを評価するためのTUNEL染色(右側)および細胞増殖を決定するKi67染色(左側)を示している。結果はアポトーシスの増加(矢印で示されている)とCasp−8fl/-K5−Creマウスの皮膚サンプルにおける細胞増殖の増加を示している。
【図5】皮膚の層およびそれぞれの皮膚層における特異的タンパクの発現の概略図を表している。皮膚には2つの大きな層(真皮および表皮)が存在する。表皮は基底層、有棘層(上基底層)、粉留層、および角質層の4層からなっている。それぞれの層は異なるタンパクを発現している。
【図6】0.12mMのカルシウムに暴露に続き所定の時間(時間)溶解された、P3のCasp−8fl/+K5−CreおよびCasp−8fl/-K5−Creマウス由来の培養されたケラチノサイトからの全てのタンパク質のウエスタンブロット分析を示している。フィラグリン(Fila)およびロリクリン(Lori)が最終分化のマーカーとして、ケラチン1(CK1)が中間分化マーカーとして使用された。ケラチン14(CK14)はローディングコントロールとして用いられた。図に示された結果は正常なカスパーゼ−8を発現している細胞とは異なり、カスパーゼ−8欠損細胞はCa2+によって誘発される分化マーカーである、fila、lori、CK1を示さないことを表している。
【図7A】所定の時間(時間)0.12mMのカルシウムの存在下培養された付加ケラチノサイトにおける分化マーカーの発現を示している。付加ケラチノサイトからの全体の細胞抽出物(15μg)がウエスタンブロットによって分析された。P0以外の、P1、P4でのCasp−8fl/+K5−CreおよびCasp−8fl/-K5−Creマウスからの培養されたケラチノサイトのおける分化マーカーの不完全な発現を、ロリクリンおよびフラグリンに対する抗体を用いたウエスタンブロットによって示している。
【図7B】所定の時間(時間)0.12mMのカルシウムの存在下培養された付加ケラチノサイトにおける分化マーカーの発現を示している。付加ケラチノサイトからの全体の細胞抽出物(15μg)がウエスタンブロットによって分析された。P3の培養液のCasp−8fl/+K5−Creケラチノサイト中でのカルシウム刺激下での適応するp21の分解とロリクリン発現の欠損を示している。
【図8A】Casp−8fl/-K5−Creにおける遺伝子発現の上方調節をRT−PCRによって示している。RNAはカスパーゼ8欠損または野生型の動物の出生前(D−1)、生後直後(P0)、または1日(P1)、2日(P2)、3日(P3)、5日(P5)に表皮から単離され、Glp2、Cxcl10、9230117N10Rik(IL33)、IL19、lfl202b、2010002No4Rik(配列番号3)、Sprr2f、S100a9、IL−6、9230117E20Rik(配列番号2)、MMP13、Ccl3、Rptn、IL1b、IL1aおよびアクチンベータ(対照として)の16の遺伝子の発現をリアルタイムPCRによって決定するために使用された。ヒートマップの下の括弧内の数字は、それぞれの示された遺伝子のmRNA発現の顕著な増加を示しているカスパーゼ−8欠損動物の全体数(全体で22匹テストされたうち)を示している。顕著なmRNAsの上方調節を示すカスパーゼ8欠損個体の割合がヒートマップの方形中に表されている。
【図8B】Casp−8fl/-K5−Creにおける遺伝子発現の上方調節をRT−PCRによって示している。図8Aと同じ分析を示しているが、TNF−/−バックグラウンドでカスパーゼ8欠損動物からのサンプルで行われたものである。
【図9】S100A9のmRNA発現がノックアウトマウスの皮膚の病変において劇的に上方調節されていることをインサイチュハイブリダイゼーション分析によって示している。検知はDigラベルされたs100a9プローブを用いて行われた。
【図10A】カスパーゼ8欠損皮膚におけるstat1およびstat3の活性化を示している。リン酸化されたstat1、stat3、および全体のstat3のウエスタンブロット分析が、カスパーゼ−8−(KO)およびカスパーゼ−8+(WT)マウス(P4,2個体)の上皮から抽出された全体のタンパク質のサンプルで行われた。同じサンプルのアクチンレベルがローディングコントロールとして見積もられた。
【図10B】カスパーゼ−8欠損皮膚におけるカスパーゼ−14の活性化を示している。ウエスタンブロット分析が、カスパーゼ−14の活性化とプロセッシングの程度を示すためにカスパーゼ−8−(KO)およびカスパーゼ−8+(WT)マウス(P4,2個体)の上皮から抽出された全体のタンパク質のサンプルで行われた。
【図10C】カスパーゼ−8欠損皮膚におけるs100a8タンパク質の差異的発現を示している。S100a8のレベルはカスパーゼ−8−(KO)およびカスパーゼ−8+(WT)マウス(P4,2個体)から抽出された表皮、真皮、および全体の皮膚のサンプルのウエスタンブロット分析によって決定された。
【技術分野】
【0001】
本発明は皮膚疾患、障害もしくは症状の病状(pathology)または経過におけるカスパーゼ−8活性の効果に関する。
【背景技術】
【0002】
カスパーゼシステインプロテアーゼファミリーのメンバーは様々な細胞死誘導薬剤によって活性化されて一連の細胞死関連細胞タンパク質を切断し、これによってプログラム細胞死(またはアポトーシス)を誘導する。異なった種類のカスパーゼはこの課程で固有の役割を果たしている。エフェクターカスパーゼ(effector caspases)と名付けられたいくつかのカスパーゼは、細胞死に関連した基質の大部分の切断に関わっている。イニシエーターカスパーゼ(initiator caspases)と名付けられた他のカスパーゼは、特異的なN末端の認識配列を通じて相互作用する別個の細胞死誘導因子によるそれら自身の活性化につづいて、エフェクターカスパーゼを活性化する働きをする。カスパーゼがリンパ球、造血前駆細胞、内皮細胞およびその他の細胞を含む様々な細胞の中で、生体機能に関与していることを示している証拠が徐々に示されてきている(kangら、2004)。現在までに、これらの非アポトーシス性機能への、また、カスパーゼがこれらの非アポトーシス性機能を調節する機構への、種々のカスパーゼの相対的な寄与については、依然として殆ど知られていない。与えられた状況の中で、カスパーゼの活性化が、死をもたらすのか、または生体機能を促進するのか、を決定している機構がどのようなものであるのかは未だ明らかではない。いくつかの研究は、細胞死の誘導とは異なり、カスパーゼの非アポトーシス性機能は、それらの酵素機能とは関係なく、むしろ、他のシグナル伝達タンパク質のアダプタータンパク質またはアロステリック調節因子としてのカスパーゼの役割に関与していることを示唆している(Chaudharyら、2000)。これに対して、他の研究は、カスパーゼの酵素活性がまさに非アポトーシス性機能に寄与していることを示唆している(Hasegawaら、2005)。
【0003】
人体のもっとも広範囲でかつ環境に曝される表面として、皮膚は宿主防衛の中心的役割を担っている。皮膚は表皮(epidermis)、真皮(dermis)、および皮下組織(hypodermis)の三つの層からなる。このうち、表皮は皮膚のもっとも外側の層であり、層状の扁平上皮を形成しており、基底層、有棘層、顆粒層および角質層から成り立っている(FuchstとSegre、2000、LavkerとSun、2000)。基底層の表皮ケラチノサイトは増殖能をもち、表皮幹細胞プールを構成する。一過性増殖細胞は、3〜5回さらに細胞分裂を行なった幹細胞である。それらは、その後、基底層から上方へと移動し、最終分化することになる(Potten、1981、AdamsとWatt、1990)。
【0004】
ケラチノサイトの増殖と分化はEGF、トランスフォーミング成長因子(transforming-growth factor)(TGF)−α、ヘパリン結合型EGF類似因子(heparin binding EGF-like factor)(HB−EGF)、アンフィレグリン(amphiregulin)、ケラチノサイト成長因子(KGF)、TGF−β、インシュリン様成長因子(insulin-like growth factor)、血小板由来成長因子(platelet derived growth factor)(PDGF)、へパトサイト成長因子(HGF)、IL−6、IL−1およびTNF−αを含む数多くの成長因子とサイトカインにより調節される(BennettとSchultz、1993、PeusとPittelkow、1996、Martin、1997)。
【0005】
アトピー性皮膚炎(AD)は慢性的な炎症性皮膚疾患であるが、これは年齢に関わらず起こり、また、子供に非常によく見られるものである。ADは子供の10%以上および大人の1〜3%に発症すると報告されている。
【0006】
ADは正常なアトピー性でない個人にとっては無害である環境素因的なトリガーに対する皮膚の非常に高い反応性に関係している。現在までに、ADの診断のための客観的な臨床検査は存在せず、そして、診断は幼児および子供の掻痒(pruritus)、顔面、伸筋に沿った(extensor)湿疹(eczema)、さらに、大人の屈面性湿疹(flexural eczema)、湿疹の慢性化といった臨床的な観察に基づいて行われている。ADの診断は、また、病変の分布と継続期間、またしばしばアトピー性障害の家族歴、苔蘚化(lichenification)の存在に基づいても行われる(MERK マニュアル オンライン)。アトピー性皮膚炎は幼児の脂漏性皮膚炎(seborrheic dermatitis)やいかなる年代にも発症する接触性皮膚炎と差別化することがしばしば困難であるので、医師は確信的な診断を下すまでに、数度にわたって患者を診察しなければならない。
【0007】
皮膚への水分補給(skin hydration)、刺激物を避けること、抗ヒスタミン剤、局所的なコルチコステロイド剤(corticosteroids)およびより新しい局所的免疫モジュレーター(immunomodulators)がAD治療の中心である。しかしながら、ADは通常、治療に対して難治性であり、局部的かつ体系的な局所用ステロイド剤の副作用は広く知られるところである。
【0008】
ADに関する免疫的な基礎の理解がこの疾患を治療するための新しいアプローチの開発のためには必要である。ADは血清中のIgEレベルの上昇、アレルギー性鼻炎、喘息、フードアレルギーといった抹消の好酸球増加症によって特徴付けられる疾患と症状に関係しており、また、ADに悩まされている患者の大部分は、徐々にアレルギー性鼻炎や喘息を発症する。
【0009】
Leung(2004)による最近のレビューは、ADの免疫学的特徴についてまとめている。たとえば、大部分のAD患者は高い循環好酸球(circulating eosinophils)値を持ち、また、T細胞の機能不全によって引き起こされる、イムノグロブリンE(IgE)レベルの増加が見られる。IL−4、IL−5、およびIL−13の増加を引き起こすTh2細胞の頻度の高さがADをもつ患者の抹消血液に示されている。ADにおけるTh2細胞の発達(development)に寄与する要因として、サイトカイン、サイトカイン(IL−4)生産における遺伝子の差異、薬理要因(CAMPフォスフォジエステラーゼ活性の増加したモノサイト)そして抗原提示細胞(Th2細胞への皮膚のアレルゲン提示に役割をもつ、増加したIgEをもつランゲルハンス細胞)があげられる。
【0010】
IL−4およびIL−3は生殖細胞転写(germline transcription)のレベルにおけるIgE生産の増加を促進する唯一のサイトカインである。IL−5は、好酸球生成(eosinophilopoiesis)、活性化、走化性(chemotaxis)を誘起する。好酸球は、反応性に富むO2中間体と毒性のある顆粒タンパク質の遊離によって細胞を傷つけるサイトカインと伝達物質(mediator)を分泌する。好酸性顆粒タンパク質はADの血清中で増加しており、これは疾患の活性と関連している。
【0011】
乾癬は乾燥した、境界のはっきりした(well-circumscribed)、銀色状の様々なサイズの落屑性丘疹で特徴付けられる、よくみられる慢性かつ再発しやすい疾患である。
【0012】
乾癬は1つまたは2つの病変から、広範囲にわたる湿疹まで、重篤性が異なり、しばしば関節の不全、または剥離と関係している。乾癬の原因は知られていないが、厚い落屑(scaling)は、伝統的に表皮細胞増殖の増加と付随的な真皮の炎症が原因であると考えられてきた。免疫抑制剤であるシクロスポリンに対する乾癬の反応は、プライマリーな病原因子は免疫学的であるかもしれないことを暗示している。約2〜4%の白人および、より少数の黒人が感染する。乾癬の発病は一般的に10歳から40歳の間であるが、しかし、どの年代も除外されることはない。乾癬の家族歴もまた一般的である。
【0013】
乾癬の発病は通常段階的である。典型的な疾患過程は、頻度と期間の異なる慢性化した寛解と再発(また時々の急性な悪化)の1つである。乾癬の憎悪(flares)を引き起こす要因は、局所的な外傷(koebnerの現象においては、病変は外傷を受けた場所に現れる)、そして、しばしば炎症(koebnerの現象の変異形)、深刻な日焼け、ヴァイルマイア(viremia)、アレルギー性の対薬剤反応、局部的かつ体系的薬剤(すなわち、クロロキン(chloroquine)対マラリア治療である、リチウム剤(lithium)、ブロッカー薬(-blockers)、インターフェロン剤(interferon-)など)、または体系的なコルチコステロイド剤の使用中止を含む。一部の患者(特に子供の場合)は、急性のA型溶連菌URIの感染後、乾癬性皮疹をおこす可能性がある。
【0014】
乾癬は特徴的に(耳介後部の領域を含む)頭皮、四肢伸側(extensor surface of the extremities)(特にひじおよびひざ)、仙骨神経領域(sacral area)、臀部、そしてペニスに現れる。爪、眉毛、脇の下、臍、肛門領域にもまた発症する。しばしば、疾患はジェネラライズされる。
【0015】
典型的な病変は鋭角に区切られ、様々に掻痒性であり、卵形または環形の紅斑性丘疹(erythematous papules or plaques)であり、重なり合った肉厚な銀色状の雲母のようなまたはわずかにオパールのような輝きを持つ鱗屑(scales)で覆われている。丘疹はしばしば延伸し互いにくっつきあって、環状およびらせん状の大きな斑をつくるが、この現象は皮膚のT細胞リンパ腫でより一般的である。病変は瘢痕を伴うことなく治癒し、髪の毛の成長には通常変化は見られない。爪の障害は30〜50%の患者におこり、点刻(stippling)、穴(pitting)、傷み(fraying)、脱色、または爪甲の末端と外側縁との剥離(爪甲離床症)(onycholysis)、肥大化(thickening)、爪甲の下への角質細胞の残骸(hyperkeratotic debris)の蓄積など、真菌感染に臨床的に類似している。
【0016】
乾癬性紅皮性(erythrodermic psoriasis)(剥脱性乾癬性皮膚炎(exfoliative psoriatic dermatitis))は治療に対し難治性である。全ての皮膚の表面は赤くなり、細かい鱗屑で覆われており、典型的な乾癬性病変というものはおそらく不明瞭か全く見られないかもしれない。全身衰弱をもたらし、入院加療を必要とする場合もある。
【0017】
膿疱性乾癬(pustular psoriasis)は無菌性の膿胞によって特徴付けられ、ジェネラライズされる(von Zumbusch型)か、手のひらまたは足の裏(Barber型乾癬)に局在化している。
【0018】
乾癬は脂漏性湿疹、インサイチュー(in situ)扁平上皮細胞癌(Bowen型疾患、特に体幹に存在する場合、二期梅毒(secondary syphilis)、皮膚糸状菌感染、皮膚紅斑性狼瘡、湿疹、苔癬、バラ色粃糠疹、引っかき傷による局所的な湿疹(慢性単純性苔癬(lichen simplex chronicus))、と混同されるかもしれない。しかしながら、視診による診断が困難をともなうことは少ない。すなわち、たとえばくっきりとした領域をもつ乾燥した、うず高い、大きな銀色上の鱗屑をともなう乾癬の病変は通常、脂漏性湿疹の広範性でグリーシーな黄色身を帯びた鱗屑から識別可能であるためである。
【0019】
典型的な病変の生検で見つかることは、一般的に特徴的であるが、異形な病変は異型な特徴をもち、生検をあまり役に立たないものにする。すなわち、その他の皮膚疾患が顕微鏡的診断を困難または疑わしいものにするかもしれない乾癬様の組織学的特徴をもつことがある。
【0020】
乾癬の予後は疾患に罹患初期の範囲と深刻度に依存している。ふつう、罹患が早い年齢で起こるほど、深刻度も増す。急性の罹患は一般的に治癒するが、永久的な寛解はまれである。
【発明の開示】
【0021】
本発明は(i)カスパーゼ−8またはそのフラグメント、(ii)カスパーゼ−8またはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド、(iii)(ii)のポリヌクレオチドを含む発現ベクター、(iv)カスパーゼ−8のレベルまたは活性の活性化剤、(v)カスパーゼ−8活性化の天然阻害剤(natural inhibitor)に対する阻害剤、(vi)皮膚中でカスパーゼ−8活性によって正常には下方調節されるタンパク質の活性またはそのレベルに対する阻害剤、(vii)皮膚中でカスパーゼ−8により正常には上方調節されるタンパク質のレベルまたは活性に対する活性化剤から選択される薬剤の、炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状を予防または治療するための医薬の製造における使用に関する。
【0022】
本発明の目的の1つは、皮膚炎症性疾患、障害もしくは症状の治療方法であって、必要とする被験体に治療的に有効量の、(i)カスパーゼ−8またはそのフラグメント、(ii)カスパーゼ−8またはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド、(iii)(ii)のポリヌクレオチドを含む発現ベクター、(iv)カスパーゼ−8のレベルまたは活性に対する活性化剤、(v)カスパーゼ−8活性化の天然阻害剤に対する阻害剤、(vi)皮膚中でカスパーゼ−8活性によって正常には下方調節されるタンパク質のレベルまたは活性に対する阻害剤、(vii)皮膚中でカスパーゼ−8活性により正常には上方調節されるタンパク質のレベルまたは活性に対する活性化剤から選択される分子を投与することを含む方法を提供することである。
【0023】
カスパーゼ−8レベルまたは活性の活性化剤は、FADD、カスパーゼ−6、カスパーゼ−3またはTNF/NGFファミリーの受容体を含むが、これらに限定されるものではない。
【0024】
カスパーゼ−8活性化の天然阻害剤に対する阻害剤はcFLIPショート、cFLIPロングの阻害剤、そしてcFLIPショート、cFLIPロング、またはカスパーゼ−8およびカスパーゼ−10関連RINGタンパク質に特異的なsiRNAやshRNAなどのカスパーゼ−8およびカスパーゼ−10関連RINGタンパク質である。
【0025】
カスパーゼ−8の活性により皮膚中で正常には下方調節されるタンパク質の活性またはレベルに対する阻害剤である薬剤は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、およびそれらの相同ヒト遺伝子から選択される配列によりコードされるタンパク質の活性またはレベルに対する阻害剤である。本発明の実施様態は、薬剤が配列番号2またはその相同ヒト遺伝子に示される配列によってコードされるタンパク質の活性またはレベルに対する阻害剤である。本発明の別の実施様態は、薬剤が配列番号3またはその相同ヒト遺伝子に示される配列によってコードされるタンパク質の活性またはレベルに対する阻害剤である。他の実施様態では、阻害剤が配列番号1によって、好ましくは配列番号2、配列番号3またはそれらの相同ヒト遺伝子に示される配列によってコードされるタンパク質に特異的なsiRNAやshRNAであるものである。
【0026】
一実施様態では、疾患はアトピー性皮膚炎である。
【0027】
他の実施様態では、疾患は乾癬である。
【0028】
本発明のさらなる実施様態では、薬剤は局所的に使用されるかまたは投与される。
【0029】
別の側面では、本発明は、薬学的に許容され得る担体と、配列番号1、配列番号2および配列番号3および/またはそれらの相同ヒト遺伝子の配列によってコードされるタンパク質の発現のレベルまたは活性に対する阻害剤とを含む医薬組成物に関する。
【0030】
一実施様態では、本発明は、薬学的に許容され得る担体と、配列番号1、配列番号2および/またはそれらの相同ヒト遺伝子の配列によってコードされるタンパク質の発現のレベルまたは活性に対する阻害剤とを含む医薬組成物に関する。
【0031】
別の実施様態では、本発明は、薬学的に許容され得る担体と、配列番号1、配列番号3および/またはそれらの相同ヒト遺伝子の配列によってコードされるタンパク質の発現のレベルまたは活性に対する阻害剤とを含む医薬組成物に関する。
【0032】
さらなる別の実施様態では、本発明は、薬学的に許容され得る担体と、配列番号2、および配列番号3および/またはそれらの相同ヒト遺伝子の配列によってコードされるタンパク質の発現のレベルまたは活性に対する阻害剤とを含む医薬組成物に関する。
【0033】
別の実施様態では、阻害剤は、配列番号1、配列番号2、配列番号3またはそれらの相同ヒト遺伝子に示される配列によってコードされるタンパク質の発現を止めることのできるsiRNAまたはshRNAである。
【0034】
別の実施様態では、阻害剤は、配列番号2、配列番号3またはそれらの相同ヒト遺伝子に示される配列によってコードされるタンパク質に特異的なsiRNAまたはshRNAである。
【0035】
さらに別の実施様態では、医薬組成物はアトピー性皮膚炎の治療のためのものである。
【0036】
また別の実施様態では、医薬組成物は乾癬の治療のためのものである。
【0037】
また別の側面として、本発明は、個体における皮膚中のカスパーゼ−8欠損と関連する皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因の診断のための方法であって、被験体の皮膚サンプルおよび少なくとも1つの健常対照個体の皮膚サンプル中で、カスパーゼ−8の発現レベルまたは活性を測定すること、および/または被験体からの皮膚サンプル中のカスパーゼ−8をコードする核酸の異常を検知することを含み、該少なくとも1つの健常対照個体のサンプルと比較した場合の被験体のサンプル中のカスパーゼ−8の活性または発現レベルの減少の検出、および/または被験体のカスパーゼ−8をコードする核酸の異常の検出が、該皮膚疾患、障害もしくは症状、または被験体の該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を示す方法を提供する。
【0038】
一実施様態では、この方法は、上皮ケラチノサイトでのカスパーゼ−8欠損に関連する皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を個体において診断するためのものである。
【0039】
さらに、ある実施様態では、この方法は、アトピー性皮膚炎を診断するためのものである。
【0040】
さらに、他の実施様態では、この方法は、乾癬を診断するためのものである。
【0041】
さらなる側面として、本発明は、個体における炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を診断する方法であって、被験体の皮膚サンプルおよび少なくとも1つの健常対照個体の皮膚サンプルにおいて、配列番号1、配列番号2および配列番号3に示される遺伝子に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルまたは活性を測定することを含み、該少なくとも1つの健常対照個体のサンプルと比較した場合の被験体のサンプル中の配列番号1、配列番号2および配列番号3に示される遺伝子に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルまたは活性の増加の検出が、該皮膚疾患、障害もしくは症状、または被験体の該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を示す方法を提供する。
【0042】
さらなる別の側面として、本発明は、個体における炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を診断する方法であって、被験体の皮膚サンプルおよび少なくとも1つの健常な対照個体の皮膚サンプルにおいて、配列番号2に示される遺伝子に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルまたは活性を測定することを含み、該少なくとも1つの健常対照個体のサンプルと比較した場合の被験体のサンプル中の配列番号2に示される遺伝子に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルまたは活性の増加の検出が、該皮膚疾患、障害もしくは症状、または被験体の該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を示す方法を提供する。
【0043】
さらなる別の側面では、本発明は、個体における炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を診断する方法であって、被験体の皮膚サンプルおよび少なくとも1つの健常対照個体の皮膚のサンプルにおいて、配列番号3に示される遺伝子に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルまたは活性を測定することを含み、該少なくとも1つの健常対照個体のサンプルと比較した場合の被験体のサンプル中の配列番号3に示される遺伝子に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルまたは活性の増加の検出が、該皮膚疾患、障害もしくは症状、または被験体の該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を示す方法を提供する。
【0044】
なおさらなる側面では、本発明は、個体における炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を診断する方法であって、被験体の皮膚サンプルおよび少なくとも1つの健常対照個体の皮膚のサンプルにおいて、ISG15(Glp2)、Cxcl10、C90rf26と呼ばれる9230117N10Rik(IL33)のヒトオルソログ、IL19、Sprr2f、S100a9、IL−6、MMP13、Ccl3またはIL1bから選択されるタンパク質の1つ、またはそれ以上、すなわち2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、もしくは全部の発現レベルまたは活性と、9230117E20Rik(配列番号2)に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質、または2010002N04Rik(配列番号3)に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルまたは活性とを測定することを含み、該少なくとも1つの健常対照個体のサンプルと比較した場合の被験体のサンプル中のISG15(Glp2)、Cxcl10、C90rf26と呼ばれる9230117N10Rik(IL33)のヒトオルソログ、IL19、Sprr2f、S100a9、IL−6、MMP13,Ccl3またはIL1bから選択されるタンパク質の1つ、またはそれ以上、すなわち2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、もしくは全部の発現レベルまたは活性と、9230117E20Rik(配列番号2)に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質、または2010002N04Rik(配列番号3)に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルまたは活性との増加の検出が、該皮膚疾患、障害もしくは症状、または被験体の該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を示す方法を提供する。
【0045】
本発明の一実施様態では、皮膚サンプルにおけるタンパク質の発現レベルまたは活性の測定が逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)分析、イムノアッセイ、インサイチュハイブリダイゼーション分析および/または酵素活性を測定することによってなされる。
【0046】
本発明の一実施様態では、皮膚サンプルは表皮からなる。
【0047】
本発明のさらなる一実施様態では、炎症性皮膚疾患はアトピー性皮膚炎である。
【0048】
本発明の他のさらなる一実施様態では、炎症性皮膚疾患は乾癬である。
【0049】
別の側面では、本発明は炎症性皮膚疾患、障害または症状の動物モデルの作出方法であって、ケラチノサイトにおけるカスパーゼ−8の発現レベルまたは活性が停止されている動物を作り上げることを含む。その方法は、動物の上皮ケラチノサイトにおけるカスパーゼ−8をノックアウトすること、またはカスパーゼ−8 BAC−C362S突然変異体(mutant)などの酵素活性を欠いたカスパーゼ−8突然変異体のトランスジェニック(transgenic)発現を動物に誘導することを用い得る。動物モデルはマウス動物モデルであり得る。
【0050】
一実施様態では、アトピー性皮膚炎のための動物モデルの作出方法が提供される。
【0051】
他の実施様態では、乾癬のための動物モデルの作出方法が提供される。
【0052】
本発明は、炎症性疾患、障害もしくはその症状といった、皮膚疾患、障害もしくはその症状の病状または経過に関与し、発現レベルまたは活性が皮膚におけるカスパーゼ−8活性によって正常には調節されている標的タンパク質を同定する方法であって、カスパーゼ−8の発現レベルまたは活性が停止されている上皮ケラチノサイトを含む皮膚サンプルにおける遺伝子発現のプロファイルを、正常なカスパーゼ−8の発現レベルまたは活性を有する上皮ケラチノサイトを含む皮膚サンプルにおける遺伝子発現のプロファイルと比較する工程、正常なカスパーゼ−8の発現レベルまたは活性を有する上皮ケラチノサイトを含む皮膚のサンプルにおいてカスパーゼ−8によってその発現が、正常には上方調節または下方調節される遺伝子、およびカスパーゼ−8の発現レベルまたは活性が停止されている上皮ケラチノサイトを含む皮膚サンプルにおいてその発現が下方調節または上方調節される遺伝子をそれぞれ評価する工程を含み、カスパーゼ−8の発現レベルまたは活性が停止されている上皮ケラチノサイトを含むサンプルにおいてその発現が下方調節または上方調節される遺伝子が、該皮膚疾患、障害もしくはその症状の病状または経過に関与する、候補標的タンパク質をコードする方法に関する。
【0053】
本発明の一実施様態では、疾患はアトピー性皮膚炎である。
【0054】
本発明の別の実施様態では、疾患はアトピー性乾癬である。
【0055】
さらに別の側面では、本発明は、配列番号2に示される遺伝子に相同なヒト遺伝子によってコードされ、炎症性皮膚疾患、障害もしくはその症状の病状または経過に関与する標的タンパク質を提供する。
【0056】
さらに別の側面として、本発明は、配列番号3に示される遺伝子に相同なヒト遺伝子によってコードされ、炎症性皮膚疾患、障害もしくはその症状の病状または経過に関与する標的タンパク質を提供する。
【0057】
ある側面では、本発明は、皮膚炎症性疾患、障害もしくは症状の治療または予防のための候補化合物をスクリーニングする方法であって、カスパーゼ−8の発現レベルまたは活性が停止されているケラチノサイトを含む細胞の培養物を提供すること、該細胞にテスト化合物を導入すること、細胞の培養液中のカルシウム濃度を増加させることによって細胞分化を誘発すること、テスト化合物の存在下または非存在下で、皮膚の分化マーカーおよび/またはp21ARFの発現レベルを測定することを含み、テスト化合物の存在下における皮膚の分化マーカーの発現レベルの増加、および/またはp21ARFの減少が、テスト化合物が該疾患、障害もしくは症状の治療または予防のための候補化合物であることを示す方法を提供する。
【0058】
本発明の一実施様態では、分化マーカーはケラチン1、フィラグリン(filagrin)、および/またはロリクリン(loricrin)である。
【0059】
ある側面では、本発明はまた、皮膚炎症性疾患、障害または症状を治療するための候補化合物の有効性をテストするための方法であって、本発明によって作出される動物モデルに候補のテスト化合物を投与することおよび該動物モデルにおいて皮膚の病状の予防または軽減を評価することを含む方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0060】
本発明により、皮膚におけるカスパーゼ−8の欠損が炎症性皮膚疾患の発症に関連しているということが見出された。本発明者らは、明らかに内因性のカスパーゼ−8の活性を阻害する、酵素的に不活性なカスパーゼ−8(BAC−C362S)のマウスにおけるトランスジェニック発現、または、マウスにおけるケラチノサイト中のカスパーゼ−8の特異的な欠失が、炎症性の皮膚肥厚を誘発することを見出した。本発明者らはまた、ケラチノサイト分化の停止がカスパーゼ−8の活性の欠損によって誘導される病状に関与することを見出した。驚くべきことに、ケラチノサイトにおけるカスパーゼ−8の特異的な欠失を有するマウス(Casp−8fl/-K5−Creマウス)または酵素的に不活性なカスパーゼ−8を発現するトランスジェニックマウス(Casp−8-/+/BAC−C362Sマウス)の表皮は、アトピー性皮膚炎(AD)患者の表皮と類似の特徴、たとえば、損傷部位での好酸球の局所的な増加、およびTH2応答の誘発などを示した。
【0061】
皮膚炎症性疾患、障害または症状の発症は、皮膚におけるカスパーゼ−8欠損により引き起こされるという本発明による知見は、該疾患、障害または症状の治療または予防のための新しい療法の開発に道をつけるものである。
【0062】
したがって、本発明は、皮膚中のカスパーゼ−8によって正常には制御されるタンパク質をモジュレートすることによる、または皮膚中のカスパーゼ−8を増加させることによる、炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状の予防または治療に関する。よって、ある側面では、本発明は、カスパーゼ−8またはそのフラグメント、カスパーゼ−8またはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含むベクター、カスパーゼ−8のレベルまたは活性の活性化剤、カスパーゼ−8活性化の天然阻害剤に対する阻害剤、皮膚中でカスパーゼ−8活性によって正常には下方調節されるタンパク質のレベルまたは活性に対する阻害剤、および皮膚中でカスパーゼ−8活性により正常には上方調節されるタンパク質のレベルまたは活性に対する活性化剤から選択される薬剤の、炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状を治療または予防するための医薬の製造における使用に関する。
【0063】
本出願人によるUS 6,399,327および同6,586,571は、参考文献として本願明細書に組み込まれるものであるが、とりわけカスパーゼ−8(または、以前にMACHと定義されていたもの)のアミノ酸配列およびカスパーゼ−8をコードするヌクレオチド配列、カスパーゼ−8のプロテアーゼ(つまり酵素)活性のアッセイ、ならびにカスパーゼ−8のMORT−1(またはFADD)タンパク質への結合について開示しているものである。
【0064】
本発明による「フラグメント」は、カスパーゼ−8の活性フラグメントであり得る。フラグメントという用語は、カスパーゼ−8分子のどのような部分集合、すなわち、カスパーゼ−8の所望の生物学的活性を保持している、より短いペプチドをも意味する。フラグメントは、カスパーゼ−8のどちらかの末端からアミノ酸を取り除くことによって、および、結果的にえられたフラグメントの酵素活性をテストすることによって容易に製造され得る。プロテアーゼが、ポリペプチドのN末端もしくはC末端のどちらかから一度に1つずつのアミノ酸を取り除くために使用され得ることは公知である。これゆえ、望ましい生物学的活性を保持しているフラグメントを決定することは、単なる機械的なやり方である実験のみを含み、本出願のUS6,399,327号および同6,586,571号に記載されている。
【0065】
カスパーゼ−8と定性的にまったく同じ生物学的活性を有する修飾されたカスパーゼ−8分子も、本発明によって本明細書に包含されていることを理解すべきである。これらの修飾されたカスパーゼ−8には、(i)突然変異タンパク質(muteins)、1または複数のアミノ酸残基が欠失、または異なるアミノ酸残基で置換され、および/または1または複数のアミノ酸残基が付加された類似体であって、元のタンパク質と比べて得られた生成物の活性度が大幅に変化することなく、そして既知の合成および/または部位特異的突然変異誘発法の技術によって得られる類似体、(ii)依然として薬学的に許容され、すなわち、タンパク質の活性を壊していない限りで、アミノ酸残基の側鎖における官能基、またはNおよび/またはC末端基の化学的置換によって得られる機能性誘導体(たとえば、エステル、アミドおよびポリエチレングリコール(PEG)の側鎖を含み得る)、ならびに(iii)ポリペプチドのカルボキシル基の塩およびアミノ基の酸付加塩の両方を含む塩、が含まれる。
【0066】
本発明はまた、炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状の治療または予防のための医薬の製造における、カスパーゼ−8もしくはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド、または、該ポリヌクレオチドを含む発現ベクターの使用に関する。
【0067】
本明細書において使用される場合、「核酸分子」または「ポリヌクレオチド」という用語は、一本鎖または二本鎖のどちらかの形であるデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチド重合体を意味しており、他で特に示されない限り、天然に存在するヌクレオチドと同様に機能することのできる天然に存在するヌクレオチドの既知の類似体を含むポリヌクレオチドを包含する。核酸分子がDNA配列によって表される場合、これはまた、対応するRNA配列(「U」(ウリジン)が「T」(チミジン)に取って替わっている)を有するRNA分子を含むことは理解されるであろう。
【0068】
本発明のポリヌクレオチドは、縮重コドンを含む、および/または該ポリヌクレオチドの相補配列に高度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、ポリヌクレオチドも含む。
【0069】
「ストリンジェントな条件」という用語は、核酸のハイブリダイゼーション反応で使用される温度およびイオン条件を意味している(Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology, supra, Interscience, NY., §§6.3 および 6.4 (1987、1992)、および Sambrookら、(Sambrook, J. C., Fritsch, E. F.,および Maniatis, T. (1989) Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY)。ストリンジェントな条件は配列依存であり、異なる環境パラメータ下では異なっている。一般的に、ストリンジェントな条件は、定義されたイオン強度とpHにおける特異的な配列の融解温度(Tm)よりも、約5〜10℃または5〜20℃低い温度となるように選択される。Tmは、定義されたイオン強度とpHにおいて、標的配列の50%が、完全に合致したプローブにハイブリダイズする温度である。ストリンジェントな条件とは、塩濃度が約1.0Mナトリウムイオン未満、典型的にはpH7.0〜8.3で約0.01〜1.0Mナトリウムイオン(もしくは他の塩)であり、そして温度が短いプローブの場合(たとえば、10〜50ヌクレオチド)少なくとも30℃、長いプローブの場合(たとえば、50ヌクレオチドより長い)約60℃である条件であり得る。ストリンジェントな条件はまた、ホルムアミドなどの不安定化薬剤の添加によっても達成される。ストリンジェントな条件の例は、研究対象であるハイブリッドの推定Tmより5〜10℃低い温度で、たとえば、2×SSCおよび0.5%SDS中で5分、2×SSCおよび0.1%SDS中で15分;0.1×SSCおよび0.5%SDS中、37℃で30〜60分、そしてその後、0.1×SSCおよび0.5%SDS中、68℃で30〜60分の洗浄条件を含む。
【0070】
本発明のポリヌクレオチドはまた、縮重コドンを含むポリヌクレオチドをも含む。遺伝子コードの縮重のため、多くの機能的に同一なポリヌクレオチドが任意の所定のポリペプチドをコードする。たとえば、コドンCGU、CGC、CGA、CGG、AGAおよびAGGはすべてアミノ酸のアルギニンをコードする。したがって、アルギニンがコドンにより特定されるすべての位置で、コドンはコードされたポリペプチドを変えることなく記載された対応するいかなるコドンにも変えられることができる。通常はメチオニンに対する唯一のコドンであるAUG、および通常はトリプトファンに対する唯一のコドンであるUUGを除いて、ポリヌクレオチドにおけるそれぞれのコドンは標準的な技術によって機能的に同一な分子を得るように改変されうる。
【0071】
発現ベクターは本技術分野においてよく知られており、たとえば、Current Protocols in Molecular Biologyなどに記載されている。発現ベクターはプラスミドベクターでも、ウイルスベクターでもその類似物でもよい。一般的に、ベクターは本発明のポリヌクレオチドによってコードされるものとは独立している選択可能なマーカーを含み、そしてさらに、プロモーターやポリアデニレーション(polyadenylation)のシグナル伝達配列といった転写制御エレメント、またはリボソーム結合部位などの翻訳制御エレメントを含む。プロモーター配列は、そこに作動可能に連結されるポリヌクレオチドの組織特異的な発現を提供する。一実施様態では、プロモーターは皮膚細胞中で活性である。
本発明の別の実施様態では、プロモーターは表皮細胞中で活性である。
【0072】
本発明は、また、皮膚炎症性疾患、障害または症状におけるカスパーゼ−8のレベルまたは活性の活性化剤の使用を提供する。
【0073】
本明細書の記載における「タンパク質の活性化剤」という用語は、タンパク質、ヌクレオチドおよび低分子などの任意の薬剤を意味し、該タンパク質の生成および/または作用を上方調節することができるものである。たとえば、カスパーゼ−8の活性化剤は皮膚中でカスパーゼ−8の上流に働く分子であり得る。
【0074】
カスパーゼ−8の活性化剤の例としては、FADD、カスパーゼ−8を切断することのできるカスパーゼ、すなわちカスパーゼ−6およびカスパーゼ−3、および間接的には、TNF/NGFファミリーの種々のデス受容体が挙げられるが、これらに限定されるものではない。的確な細胞のセットアップ次第で、cFLIPロングもまたカスパーゼ−8活性化剤として働く。
【0075】
カスパーゼ−8の内因性の生成を誘発および/または促進するためのベクターは、本発明によるカスパーゼ−8の活性化剤としてもまた考慮される。ベクターは、カスパーゼ−8の発現を促進することのできる制御配列を含む。このような制御配列は、たとえば、プロモーターまたはエンハンサーである。制御配列はその後、相同的組み替えによりゲノムの正しい座に導入され、それにより、制御配列が、誘導または促進されることを必要とする遺伝子と作動可能に連結する。その技術は通常、「内因性遺伝子活性化」(EGA)と言及されるものであり、それはたとえば、WO91/09955に記載されており、文献引用により本明細書に完全に組み入れられているものである。
【0076】
本発明はまた、皮膚の炎症性疾患、障害または症状におけるカスパーゼ−8活性化の天然阻害剤に対する阻害剤の使用を提供する。
【0077】
次にあげるものは、カスパーゼ活性化に対する天然阻害剤の例であって、これらの活性またはレベルは本発明によって阻害され得る。これら天然阻害剤は、(i)cFLIPショート(CASHベータ)、(ii)cFLIPロング(CASHアルファ)、(iii)カスパーゼ−8およびカスパーゼ−10関連RINGタンパク質(CARPs, McDonald ER 3rd, El-Deiry WS, Proc Natl Acad Sci USA. 2004 Apr 20; 101(16): 6170-5)を含むが、これらに限定はされない。
【0078】
本発明において意味される「阻害剤」という用語は、タンパク質(たとえば、特異的な抗体)、ヌクレオチド(たとえば、特異的なアンチセンスおよび低分子干渉RNAs[siRNA])、ならびにタンパク質の生成および/または作用が、減衰、低減、または部分的、実質的もしくは完全に抑制、またはブロックされるような方法で、該タンパク質の生成および/または作用を下方調節できるような特異的な阻害機能をもつ低分子をさす。
【0079】
たとえば、特異的なsiRNAは、特異的なmRNA標的の転写後のサイレンシングのために使用されうる(DorsettおよびTuschl 2004)。RNAiにおける標的特異性は、RNA−RNAの配列認識および塩基対合を通じてなされる。siRNAは、典型的には19〜21塩基対の長さであり、各3’末端で突出している2つのヌクレオチドを有する二本鎖RNAである。最大限の安定のために、2つの2’デオキシヌクレオチドが3’の突出として用いられる。またその代わりに、遺伝子抑制(gene silencing)の効率の向上を示していることから、27塩基の平滑末端のヌクレオチドも使用可能である(Kim, Behlkeら、2005)。siRNAの細胞への運搬は、リポソームへのカプセル化または高脂溶性薬剤への共有結合によって促進される(Soutschekら、2004)。
【0080】
発現の阻害剤のその他の例は、特異的な短いヘアピン構造を有するRNA(shRNA)である。shRNA発現ベクターを構築するための設計およびクローニングストラテジーは技術的に知られている(McIntyreおよびGregoryら、BMC Biotechnology 2006, 6:1)。
【0081】
ある側面では、本発明は、皮膚中でカスパーゼ−8の活性により正常には下方調節されるタンパク質のレベルまたは活性の阻害剤の、炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状の治療または予防における使用に関する。
【0082】
皮膚中でカスパーゼ−8の活性により正常には下方調節されるタンパク質は、皮膚中のカスパーゼ−8の活性またはレベルが妨げられたとき、上方調節されるようになる。次にあげるものは、正常には皮膚中でカスパーゼ−8活性により直接的または間接的に下方調節されるタンパク質の非限定的な例であり、本発明により見出されたものである。すなわち、ISG15(Glp2)、Cxcl10、C90rf26と呼ばれる9230117N10Rik(IL33)のヒトオルソログ、IL19、Sprr2f、S100a9、IL−6、MMP13、Ccl3、IL1bおよび9230117E20Rik(配列番号2)、2010002N04Rik(配列番号3)によってコードされるタンパク質に対する相同ヒトタンパク質のような未知の機能のタンパク質である。
【0083】
一実施様態では、本発明は、配列番号1、好ましくは、配列番号2および/または配列番号3またはそれらの相同ヒト遺伝子によりコードされるタンパク質のレベルまたは活性を阻害することのできる阻害剤の使用に関する。阻害剤は、配列番号1、望ましくは、配列番号2、配列番号3および/またはそれらの相同ヒト遺伝子に特異的なsiRNAまたはshRNAである。
【0084】
配列番号1に示される配列によってコードされるタンパク質のアミノ酸配列は配列番号4であり、配列番号2に示される配列によってコードされるタンパク質のアミノ酸配列は配列番号5であり、配列番号3に示される配列によってコードされるタンパク質のアミノ酸配列は配列番号6である。
【0085】
もう1つの側面では、本発明は、皮膚中でカスパーゼ−8活性により正常には活性化または上方調節されるタンパク質のレベルまたは活性に対する活性化剤の、炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状の治療または予防における使用に関する。これらのタンパク質は、以下に述べるような皮膚の炎症性疾患、障害もしくは症状の病状または経過に関与する標的タンパク質を同定またはスクリーニングのための本発明に基づく方法によって同定またはスクリーニングされることができる。
【0086】
本発明による薬剤または分子は、様々な方法または経路で使用され得る。たとえば、薬剤または分子は、局所的に、皮膚中に、皮膚にまたは皮膚上に使用でき、また、上皮または内皮組織を通じて吸収させることができる。
【0087】
本発明者らは、本発明によって、カスパーゼ−8欠損によって媒介される炎症性肥厚化が上皮基底層における細胞分裂の促進を示しており、分化を抑制しているにも関わらず、病理学的状態はアポトーシス不全とは関連していないことを見出した。実際、Casp−8-/+/BAC−C362SとCasp−8fl/-K5−Creとの上皮組織中の瀕死の細胞(dying cells)の発生率は、正常な上皮組織に比べ高かった(図4C)。加えて、カスパーゼ−8欠損の上皮組織における病理学的状態は、角化不全(cornification failure)とケラチノサイトの死の停止とは無関係であった(図1D)。実際、角化はケラチノサイトの死によるものであるにも関わらず、この細胞死はアポトーシスの特性の大部分を表していない。
【0088】
機能が未だに知られていない唯一のカスパーゼ、カスパーゼ−14は、上皮細胞中で独自に発現し、角化の間に切断されることが再現性良く示されている(Takahashiら、1998、Lippensら、およびLippensら、2003)。本発明者らは、本発明によって、カスパーゼ−14の切断または活性化はカスパーゼ−8欠損によって媒介される炎症性の肥厚化に影響していないことを見出した。
【0089】
酵素的に不活性なカスパーゼ−8の過剰発現がNF−κB活性化の引き金となること、および、カスパーゼ−8の非アポトーシス性機能の少なくとも1部分に関与していると考えられる酵素的に不活性なカスパーゼ−8のホモログであるcFLIPのシグナリング伝達活性の証拠を考慮して、カスパーゼ−8の非アポトーシス性機能はそれ自身の酵素活性には依存していないと技術的には推測されてきた。しかしながら、カスパーゼ−8のT細胞の増殖に対する寄与は、その酵素的な機能に依存することが、最近技術的に示された。後者の場合、その証拠は、p65/p50 NF−κB二量体の活性化におけるカスパーゼ−8の酵素機能の役割として表されていた。本発明者らは、本発明によって、表皮の分化におけるカスパーゼ−8の役割がその酵素的能力には依存しないことを見出した。
【0090】
カスパーゼ−8欠損表皮の病状は多少p65NF−κB欠損の皮膚に見られるものと似ている(Zhangら、2004)が、これら2つのケースで関係している細胞の事象は異なっているように見える。たとえば、表皮でのp65NF−κB活性の停止はケラチノサイトの過剰な増殖という結果を生み、カスパーゼ−8欠損の場合と異なり、基底層の際立った肥厚化によって明示されるが、ケラチノサイトの分化には影響を及ぼさないように見える。さらには、ケラチノサイトにおけるNF−κB活性化の停止から生じる皮膚の病状がJunリン酸化反応(Jun phosphorylation)の過度な増加に起因したものであり、完全にTNFの機能に依存しているのに対し、カスパーゼ−8欠損から生じる病状はJunリン酸化反応のいかなる増加も伴わず、そして、TNFによって促進されるにも関わらず、それに完全に依存しているわけではない。これゆえ、カスパーゼ−8欠損から生じる病状は、p65/p50 NF−κB二量体の活性化の制御におけるカスパーゼ−8の役割を反映しているものではないと考えられる。実際、本発明者らは本発明により、カスパーゼ−8欠損の上皮をもつモデルマウスにおけるこれらのNF−κBタンパク質の核転座の程度を正常なマウスと比較しても差が見られないことを見出した。
【0091】
本発明者らの発見は、カスパーゼ−8遺伝子をケラチノサイトに特異的に欠失させたマウスが炎症性の皮膚障害を発症し、それは、ある程度TNFによって持続させられることを示している。しかしながら、本発明者らは本発明によって、病状を開始させる不十分な分化がカスパーゼ−8の細胞自律的な(cell-autonomous)役割を反映しており、それは、TNFからは独立しているが、カスパーゼ−8の酵素活性には依然依存していることを見出した。
【0092】
本発明によって得られた結果は、本発明の薬剤を投与されることによって好ましくは治療または予防される皮膚疾患が、皮膚中およびとくに表皮中におけるカスパーゼ−8欠損によって引き起こされる炎症性疾患で見出されるものに似た、1または複数の組織学的および/または免疫学的特性を表す皮膚疾患であって、該皮膚疾患が、(i)真皮中での白血球の蓄積、大部分が単核性のファゴサイトおよび/または好酸球;(ii)TまたはBリンパ球いずれかの増加の欠如;(iii)表皮中、特に上皮病変でのケラチン6の発現;(iv)ケラチン14(K14)の基底層上部(suprabasal)での著しい発現;(v)K6およびK14の全ての生存能力のある層における発現;(vi)基底層上部でのケラチン1(K1)の発現の減少または欠如;(vii)ケラチン1、ロリクリンおよびフィラグリンから選択される1または複数の皮膚の分化マーカーの減少または欠如;(viii)ISG15(Glp2)、Cxcl10、C90rf26と呼ばれる9230117N10Rik(IL33)のヒトオルソログ、IL19、Sprr2f、S100a9、IL−6、MMP13、Ccl3またはIL1bから選択される1つ、またはそれ以上、すなわち2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つもしくは全部のタンパク質の発現の増加;(ix)配列番号2または配列番号3によってコードされるタンパク質に相同なヒトタンパク質の発現の増加;(x)IL−4、IL−5(このサイトカインによって媒介される好酸球の増加によって証明された、Kupperら、2004)およびIL−19の増加した発現によって支持されるTH2応答の増加;(xi)Stat−1およびStat−3の表皮中での活性化;(xii)真皮中でのS100A8の上方調節;ならびに(xiii)カスパーゼ−14のプロセッシングへの障害がないことから選択される特徴の1つ、またはそれ以上、すなわち2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つもしくは全部を含む皮膚疾患であることを示している。たとえば、ADはCasp−8fl/-K5−CreマウスおよびCasp−8−/+/BAC−C362Sマウスの表皮に見出される性質と類似した、好酸球の蓄積やTH2応答の増加などの性質を有するため、本発明による薬剤は、ADに似ている疾患を治療することに使用することができる。
【0093】
したがって、カスパーゼ−8またはそのフラグメント、カスパーゼ−8またはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含むベクター、カスパーゼ−8の活性またはレベルの活性化剤、カスパーゼ−8活性の天然阻害剤に対する阻害剤、皮膚中でカスパーゼ−8活性により正常には下方調節されるタンパク質の活性またはレベルの阻害剤、皮膚中でカスパーゼ−8活性により正常には上方調節されるタンパク質の活性またはレベルの活性化剤から選択される薬剤を投与することによって、最適に治療または予防される疾患は、乾癬とアトピー性皮膚炎とを含むが、これらに限定はされない。
【0094】
さらなる本発明の側面は、炎症性皮膚炎、障害もしくは症状の病状または経過に関与する標的タンパク質を同定する方法に関する。本発明によって本発明者らは、皮膚疾患、障害もしくは症状の病状または経過に関与し、その発現レベルまたは活性が正常には皮膚中のカスパーゼ−8活性によって調節される標的タンパク質を同定する方法であって、カスパーゼ−8の発現レベルまたは活性が停止されている上皮ケラチノサイトを含む皮膚サンプル中の遺伝子発現のプロファイルを正常なカスパーゼ−8の発現レベルまたは活性を有する上皮ケラチノサイトの皮膚サンプル中の遺伝子発現のプロファイルと比較すること、ならびに正常なカスパーゼ−8の発現レベルまたは活性をもつ上皮ケラチノサイトを含む皮膚サンプル中においてカスパーゼ−8によって発現が正常には上方調節または下方調節され、かつカスパーゼ−8の発現レベルまたは活性が停止されている上皮ケラチノサイトを含むサンプル中ではその発現が下方調節または上方調節される遺伝子を評価することを含み、カスパーゼ−8の発現レベルまたは活性が停止されている上皮ケラチノサイトを含むサンプル中で発現が下方調節または上方調節される遺伝子が、該皮膚疾患、障害および症状の病状または経過に関与する候補標的タンパク質をコードする方法を開発した。
【0095】
ある実施様態では、本発明の方法はヒトまたはマウス由来の皮膚のサンプルを用いる。
【0096】
遺伝子発現のプロファイルは、以下の実施例に示されるように、マイクロアレイ分析やウエスタンブロット分析、インサイチュハイブリダイゼーション、およびRT−PCRなどいった技術的に良く知られた手段によって測定することができる。本発明の一実施様態では、遺伝子発現のプロファイルは、本願発明の非限定的な実施例で行われるような、ジーンアレイによってモニターされる。
【0097】
本発明の方法を使用することで、本発明者らはカスパーゼ−8の活性化が停止されている上皮ケラチノサイトを含む皮膚のサンプル中で発現が上方調節される以下の遺伝子(およびコードされるタンパク質)、ISG15(Glp2)、Cxcl10、C90rf26と呼ばれる9230117N10Rik(IL33)のヒトオルソログ、IL19、Sprr2f、S100a9、IL−6、MMP13、Ccl3、IL1bを同定した。これらの遺伝子は炎症の過程に関係している。これゆえ、本発明の一実施様態の方法では、本発明の方法は乾癬およびアトピー性皮膚炎といった炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状の経過または病因に関与している標的遺伝子(またはコードされるタンパク質)の同定を可能にした。配列番号1によってコードされるタンパク質、および9230117E20Rik(配列番号2)および2010002N04Rik(配列番号3)によってコードされる未知の機能をもつタンパク質が、本発明の方法によって、ここで積極的に選択された。これらのタンパク質または相同ヒトタンパク質は皮膚中でカスパーゼ−8によって調節されるため、それらは、皮膚の発達および/もしくは恒常性(homeostasis)において役割を果たしている。そして、これゆえ、それらは、炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状の病状または経過に関与している標的タンパク質の候補である。
【0098】
これゆえ、配列番号1、配列番号2、および/または配列番号3に対応する遺伝子またはそれらの相同ヒト遺伝子の発現に対する阻害剤、および/または該遺伝子でコードされるタンパク質の阻害剤は、アトピー性皮膚炎または乾癬といった皮膚の炎症性疾患、障害もしくは症状の治療または予防に有益である。
【0099】
これゆえ、ある側面として、本発明は、炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状の治療または予防のための薬剤の製造における、配列番号1、配列番号2、および/または配列番号3に対応する遺伝子またはそれらの相同ヒト遺伝子の阻害剤、および/またはそれぞれの該遺伝子でコードされるタンパク質の阻害剤の使用に関する。
【0100】
別の側面としては、本発明は、薬学的に許容され得る担体と、配列番号1、配列番号2および配列番号3から選択される配列を含む遺伝子またはそれらの相同ヒト遺伝子の阻害剤、および/または該遺伝子によってコードされるタンパク質の阻害剤とを含む、たとえば、アトピー性皮膚炎または乾癬といった皮膚の炎症性疾患、障害もしくは症状の治療または予防のための医薬組成物に関する。
【0101】
ある実施様態では、本発明は、薬学的に許容され得る担体と、配列番号2の配列を含む遺伝子またはその相同ヒト遺伝子の阻害剤および/または該遺伝子によってコードされるタンパク質の阻害剤とを含む医薬組成物に関する。
【0102】
他の実施様態では、本発明は、薬学的に許容され得る担体と、配列番号3の配列を含む遺伝子またはその相同ヒト遺伝子の阻害剤および/または該遺伝子によってコードされるタンパク質の阻害剤とを含む医薬組成物に関するものである。
【0103】
さらなる本発明の実施様態では、医薬組成物における阻害剤は、配列番号1、好ましくは、配列番号2、配列番号3またはそれらの相同ヒト遺伝子に特異的なsiRNAまたはshRNAである。
【0104】
主要なエフェクターカスパーゼであるカスパーゼ−3の機能に関する文献(Okumuraら、2004)は、さまざまな薬剤による死誘発におけるカスパーゼ−3の関与を除いても、カスパーゼ−3は、妊娠中期(midgestation)として知られる胚発育の間のある特定の段階で、マウスの皮膚の表皮の分化の誘導に関わっていることを明らかにしている。実際、カスパーゼ−3の酵素活性は、皮膚の胚発育の間の最終分化にむけたケラチノサイトの寄与を維持するために不可欠である。
【0105】
本発明者らは本発明によって、胚形成の初期の段階で、まさに内因性のカスパーゼ−8、およびケラチン5誘導性のCasp−8fl/-K5−CreマウスにおけるCre発現が胚形成段階で起こるように、Casp8BAC−C362Sトランスジェニックがマウスに発現されているにも関わらず、これらのマウスの皮膚の病状が生後3日より以前では明らかでないことを発見した。出生の時点では、組織学上の皮膚の特徴は野生型マウスのものと区別がつかず、これは、カスパーゼ−3とは異なり、カスパーゼ−8が皮膚の上皮の胚形成において欠失可能であることを暗示している。
【0106】
本発明によって、皮膚中でのカスパーゼ−8の発現を標的として除去した場合、増殖性が増し、胚ケラチノサイト中ではなく、出生後に後期分化マーカーの発現が減少したので、カスパーゼ−8は出生後の表皮の形態形成においてカスパーゼ−3と同様な役割を果たしていることが示された。
【0107】
カスパーゼ−3の妊娠中期の固有の段階におけるケラチノサイト分化の調節への寄与は、Notch−1により誘導されるこの段階におけるカスパーゼ−3の発現の増加に関係しており、そして、後者のキナーゼの活性化における、カスパーゼ−3によって引き起こされるPKC−dのプロセッシングの役割を反映していると考えられてきた。一方、本発明者らは、カスパーゼ−8欠損はケラチノサイトにおける分化タンパク質の誘導に先んじて起こるp21の下方調節に影響を及ぼすことを発見した。
【0108】
皮膚の正常な恒常性と皮膚の病理学的異常は表皮と真皮との間の、また、同様にこれらの二つの層のそれぞれの細胞間の、様々な可溶性伝達物質の遊離を介しての絶え間ないクロストークによって、影響されている。本発明者らは本発明によって、カスパーゼ−8が存在しない場合に観察される表皮の病状は、大部分は白血球である炎症性の細胞の真皮中への蓄積に関連しており、これらの炎症性細胞によって、ケラチノサイトそれ自身によって、またはおそらくその両者によって作られる、TNFの機能に強く影響を受けることを発見した。培養液中のケラチノサイトの分化能の評価を通じて、本発明者らはこれらの細胞の分化プログラムは、真皮中に白血球が蓄積する明らかに以前の、生後約1日で、カスパーゼ−8依存の状態にシフトすること、そしてこのシフトはTNFとは独立して起こることを発見した。いくつかの分化に関連したケラチノサイトタンパク質はカスパーゼ−8欠損によって生後約1日で影響を受けることが発見された。しかしながら、インビボでの病理学的兆候は、TNFおよびおそらくはいくつかの他の白血球が生産する伝達物質には依存しない速度で、後期にしか現れない。これゆえ、本発明者らの結果はTNFの機能と白血球の蓄積は上皮でおこる変化の中心的なものではなく、その中での補助の役割をしているにすぎないことを示している。
【0109】
本発明の他の側面は、皮膚の炎症性疾患、障害または症状を治療するための候補化合物をスクリーニングする方法に関連している。カスパーゼ−8欠損である単離されたケラチノサイトの培養における、分化に関係したケラチノサイトタンパク質はカスパーゼ−8によって影響されるという上記の発見は、皮膚の炎症性疾患、障害または症状の治療のための候補化合物のスクリーニングのための方法を開発するための方法に道をつけるものである。本発明による方法は、カスパーゼ−8の発現レベルまたは活性が停止されているケラチノサイトを含む細胞の培養を提供すること、該細胞にテスト化合物を導入すること、細胞の培養溶液中のカルシウム濃度を増加させることによって、細胞の分化を誘導すること、テスト化合物の存在下または非存在下、皮膚の分化マーカーおよび/またはp21ARFの発現レベルを細胞中で計測することを含み、テスト化合物の存在下での皮膚の分化マーカーの発現レベルの増加および/またはp21ARFの減少が、テスト化合物が該疾患、障害もしくは症状の治療または予防のための候補化合物であることを示す方法である。カスパーゼ−8の発現レベルまたは活性が停止されているケラチノサイトを含む細胞の培養は、たとえば実施例で示されるように、トランスジェニックに不活性なカスパーゼ−8の突然変異体を発現しているマウス、または、皮膚中でカスパーゼ−8の条件ノックアウトを示しているマウスから単離することができる。候補化合物は、化学物質のライブラリーまたは天然薬物からスクリーニングされることができる。細胞中へのテスト化合物の導入は、たとえば、テスト化合物を細胞の培養液に加えることによりなされる。細胞中でのタンパク質の発現レベルの測定は、タンパク質に特異的な抗体を使用した以下の実施例で行われたように、RT−PCR分析によって、または、イムノアッセイ分析により行われうる。本発明の一実施様態では、たとえばイムノアッセイ分析により、ケラチン1、フィラグリンおよび/またはロリクリンのレベルを測定している。
【0110】
本発明によれば、本発明者らは、炎症性皮膚疾患、障害、または症状の動物モデルを、ケラチノサイトカスパーゼ−8の発現レベルまたは活性が停止されている動物を開発することにより作製した。カスパーゼ−8活性とレベルの停止は、本願発明の非限定的な実施例によって示されるように、動物の上皮のケラチノサイトのカスパーゼ−8をノックアウトすることによって、また、内因性のカスパーゼ−8をもつが、たとえば残基362のCysをSerに置き換えたBAC−C362Sといった酵素活性に欠けるトランスジェニックなカスパーゼ−8もまた発現している動物を開発することによってなされる。本発明の一実施様態では、動物はマウスである。
【0111】
本発明によれば、この動物モデルはアトピー性皮膚炎または乾癬といった皮膚の炎症性疾患、障害または症状を治療するための候補化合物の効果をテストするために使用される。これゆえ、ある側面では、本発明は、本発明に従って作製された動物モデルに候補のテスト化合物を投与すること、および該動物モデルにおける皮膚の病状の予防または減少を評価することを含む、皮膚の炎症疾患、障害または症状を治療するための候補化合物の効果をテストするための方法に関係している。
【0112】
RT−PCR分析によって得られた結果は、遺伝子ISG15(Glp2)、Cxcl10、C90rf26と呼ばれる9230117N10Rik(IL33)のヒトオルソログ、IL19、Sprr2f、S100a9、IL−6、MMP13、Ccl3、IL1b、9230117E20Rik(配列番号2)の相同ヒト遺伝子、2010002N04Rik(配列番号3)の相同ヒト遺伝子が、正常な被験体からの皮膚のサンプルにおける該遺伝子の発現のレベルに比べて、上方調節されており、上方調節の同じパターンが皮膚中で病状が発症される以前に検知されていることを確認した(実施例6)。
【0113】
これゆえ、本発明のほかの側面は、炎症性の皮膚疾患、障害もしくは症状、または、個体における該疾患の障害症状が発症する素因の診断のための方法に関係している。本発明の発見に照らし合わせて、カスパーゼ−8活性または発現のレベルおよび/または皮膚中でカスパーゼ−8によって正常には制御される遺伝子の発現は、炎症性の皮膚疾患、障害もしくは症状に個体が苦しんでいるかまたは苦しむ可能性があるかどうかを見つけ出すために、個体の皮膚または表皮のサンプル中で調べられうる。たとえば、被験体の皮膚のサンプルにおいて、もしカスパーゼ−8活性または発現のレベルが下方調節されており、および/または、ISG15(Glp2)、Cxcl10、C90rf26と呼ばれる9230117N10Rik(IL33)のヒトオルソログ、IL19、Sprr2f、S100a9、IL−6、MMP13、Ccl3、IL1b、ならびに9230117E20Rik(配列番号2)および2010002N04Rik(配列番号3)の相同ヒト遺伝子といった最低でも1つの未知の機能の遺伝子(またはコードされるタンパク質)を含むが、それらに限定はされない遺伝子の1つ、またはそれ以上、すなわち2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、もしくは全部の発現のレベルまたは活性が上方調節されていて、それがたとえば、健常な個体の皮膚のサンプルにおける該遺伝子の発現レベルに比べて、少なくとも15%、または17%、25%、33%、50%、67%まで、および/または100%であるならば、被験体が炎症性の皮膚疾患、障害もしくは症状である、または、該皮膚疾患、障害もしくは症状となりやすい、または発症しやすいとみなすことができる。
【0114】
これゆえ、ほかの側面として、本発明は、上皮ケラチノサイトにおけるカスパーゼ−8欠損と関係している皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因または可能性を、被験体において診断するための方法であって、被験体の皮膚のサンプルと少なくとも1つの健常な対照個体の皮膚のサンプルとにおいて、カスパーゼ−8のレベルまたは活性、および/または皮膚中でカスパーゼ−8によって正常には調節されており、皮膚疾患、障害または症状においては調節されていない遺伝子の発現を測定すること、および/またはカスパーゼ−8をコードする核酸塩基における異常を検知することを含み、カスパーゼ−8の活性またはレベルのレベルの減少、および/または、カスパーゼ−8をコードする核酸塩基における異常の存在、および/または、該少なくとも1つの健常な対照個体の皮膚中でのレベル、活性、または発現に比べて被験体の皮膚中でカスパーゼ−8によって正常には調節されている遺伝子の発現の非調節が、被験体における該皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、傷害、または症状を発症する素因または可能性を示す方法に関する。
【0115】
被験体のサンプルにおけるカスパーゼ−8の核酸塩基の異常の検知は、たとえば以下の実施例に記載されているように、被験体の皮膚のサンプルからのRNAの分離、およびカスパーゼ−8のPCR増幅されたcDNAのシークエンシングといった技術的によく知られた方法によって行われ得る。
【0116】
カスパーゼ−8の特徴的な活性は、特異的な基質部位におけるそのタンパク質分解性活性である。これゆえ、サンプル中のカスパーゼ−8の活性は、たとえばUS特許6399327の実施例3で記載されているような基質にそのようなサンプルをさらすことを含む型通りの実験方法によって決定され得る。
【0117】
皮膚中のカスパーゼ−8の発現レベルの測定は、サンプルをイムノアッセイにかけること、カスパーゼ−8特異的抗体を作用させること、または、サンプルからRNAを抽出すること、およびカスパーゼ−8に特異的なプライマーを用いてRT−PCRを行うことなど、技術的によく知られている方法によってなされることができる。典型的には、RT−PCR分析は、下記の実施例に示すように、サンプルロードのための対照として、ベータアクチンなどのハウスキーピングジーン(house keeping gene)のRT−PCRを含む。
【0118】
これゆえ、本発明は、皮膚中のカスパーゼ−8欠失と関係している皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を個体において診断するための方法であって、被験体の皮膚のサンプルと少なくとも1つの健常対照個体の皮膚のサンプルにおいて、カスパーゼ−8の発現レベルまたは活性を測定すること、および/または被験体からの皮膚のサンプル中でカスパーゼ−8をコードする核酸塩基における異常を検知することを含み、該少なくとも1つの健常対照個体のサンプルと比較した被験体のサンプル中でのカスパーゼ−8の活性または発現レベルの減少の検知、および/または被験体中におけるカスパーゼ−8をコードする核酸塩基における異常の検知が、被験体における該皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、傷害または症状を発症する素因を示す方法を提供する。
【0119】
本発明は、また、個体の炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因の診断の方法であって、被験体の皮膚のサンプル中、および少なくとも1つの健常対照個体のサンプル中での、配列番号1、配列番号2および/または配列番号3に示される遺伝子に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質の活性または発現レベルを測定することを含み、該少なくとも1つの健常対照個体のサンプルに比べて、被験体のサンプル中の配列番号1、配列番号2および/または配列番号3に示される遺伝子に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質の活性または発現レベルの増加の検出が、被験体における該皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を示す方法を提供する。
【0120】
一実施様態では、その方法は、配列番号2に示される遺伝子に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルの測定を含む。また、別の実施様態では、その方法は、配列番号3に示される遺伝子に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルの測定を含む。
【0121】
タンパク質の発現レベルは、技術的によく知られた、イムノアッセイおよびRT−PCRといった下記に例示した方法で測定され得る。
【0122】
さらに、他の実施様態では、その方法は、アトピー性皮膚炎の診断、または、疾患を発症する素因の診断のためのものである。
【0123】
本発明はまた、炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を個体において診断するための方法であって、被験体の皮膚のサンプルと少なくとも1つの健常対照個体の皮膚のサンプルにおいて、ISG15(Glp2)、Cxcl10、C90rf26と呼ばれる9230117N10Rik(IL33)のヒトオルソログ、IL19、Sprr2f、S100a9、IL−6、MMP13、Ccl3、またはIL1bから選ばれたタンパク質、および9230117E20Rik(配列番号2)の相同ヒト遺伝子によってコードされるタンパク質または2010002N04Rik(配列番号3)の相同ヒト遺伝子によってコードされるタンパク質の1つ、またはそれ以上、すなわち2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、もしくは、全部の発現レベルまたは活性を測定することを含み、該少なくとも1つの健常対照個体のサンプルに比べて、被験体のサンプル中のISG15(Glp2)、Cxcl10、C90rf26と呼ばれる9230117N10Rik(IL33)のヒトオルソログ、IL19、Sprr2f、S100a9、IL−6、MMP13、Ccl3、またはIL1bから選ばれたタンパク質、および9230117E20Rik(配列番号2)の相同ヒト遺伝子によってコードされるタンパク質または2010002N04Rik(配列番号3)の相同ヒト遺伝子によってコードされるタンパク質の該1つ、またはそれ以上、すなわち2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、もしくは全部の発現レベルまたは活性の増加の検出が、被験体における該皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を示す方法を提供する。
【0124】
他の実施様態では、本発明の方法は少なくとも1つの健常対照個体のサンプルが用いられ、また他の実施様態では、1つの健常対照個体のサンプルが用いられ、またさらなる他の実施様態では、1つ以上、2つ、もしくは3つの健常対照個体、または、2つ、3つ、もしくはそれ以上の健常対照個体のサンプルをまとめたものが使用される。
【0125】
本明細書において使用される「遺伝子」とは、ポリヌクレオチドまたは、タンパク質をコードする配列を含むポリヌクレオチドの一部分を意味する。遺伝子は、イントロンと同様、5’または3’側配列(プロモーター、エンハンサー、レプレッサー、そしてその他の制御配列など)のような遺伝子をコードしていない(non-coding)配列も含むことは、技術的によく知られている。
【0126】
「相同な」、または「ホモログ」、または「オルソログ」という用語は、公知であり、技術的によく知られているものであり、これは共通な祖先を共有している関連しあった配列を意味しており、配列の同一性の程度をもとに決定される。これらの用語はある1つの種で発見された遺伝子と、他の種における対応するまたは等価な遺伝子との関係を述べるものである。本研究の目的として、相同な配列が比較された。「相同配列」または「ホモログ」または「オルソログ」は機能的に関連していると考えられ、信じられ、また知られている。機能的な関係は、(a)配列の同一性の程度(b)同一または類似した分子生物学的機能を含むが限定はされない数々の方法のいずれか1つによって示される。好ましくは、(a)(b)の両方が示される。配列の同一性の程度は様々であるが、望ましくは、(技術的に知られている標準的なシークエンスアライメントプログラムを用いた場合)50%以上であり、より好ましくは少なくとも60%以上であり、さらに望ましくは少なくとも75%以上であり、さらに好ましくは85%以上である。相同性は、たとえば、Current Protocols in Molecular Biology(F. M. Ausubelら、eds.、1987)のサプルメント30、セクション7.718の表7.71で議論されているような技術的にたやすく入手可能なソフトウエアプログラムを使用することで決定される。好ましいアライメントプログラムはMacVector (Oxford Molecular Ltd., Oxford, UK)およびALIGN Plus (Scientific and Educational Software, Penn.)である。他の好ましいアライメントプログラムはデフォルトのパラメータをそのまま用いたSequencher(Gene Codes, Ann Arbor, Mich.)である。
【0127】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、「タンパク質」という用語は、本明細書において、いかなる長さでもあるアミノ酸の重合体を示すために交換可能に使用されている。これらの用語は、糖鎖形成反応、アセチル化、およびリン酸化反応を含む反応を通じて、翻訳後に形質転換されるタンパク質を含む。
【0128】
本発明はまた、皮膚の炎症性疾患、障害または症状の治療に関する方法であって、治験的に十分な効果のある量の分子、または、カスパーゼ−8またはそのフラグメント、カスパーゼ−8またはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含むベクター、カスパーゼ−8の活性またはそのレベルの活性化剤、カスパーゼ−8活性化の天然阻害剤に対する阻害剤、皮膚中でカスパーゼ−8活性によって正常には下方調節されるタンパク質の活性またはそのレベルに対する阻害剤、皮膚中でカスパーゼ−8によって正常には上方調節されるタンパク質の活性またはそのレベルに対する活性化剤から選ばれる薬剤を必要としている個体に投与することを含む方法を提供する。
【0129】
本発明による薬剤または分子は、個体に様々な方法で投与されうる。一実施様態では、薬剤または分子は局所的に、皮膚の中に、皮膚に、皮膚の上に、投与されうる。たとえば、上皮または血管内皮細胞を通じた吸収、または、薬剤をコードするDNA分子またはポリヌクレオチドが(たとえば、ベクターを通じて)患者に投与され、活性をもつ薬剤の発現とインビボにおける分泌を引き起こす遺伝子療法のような、その他の治験的に効果のある投与方法が使用されうる。加えて、本発明による活性化構成物は、薬学的な条件を満たしている界面活性剤、賦形剤、担体、希釈液、または輸送媒体など、分子生物学的に活性である薬剤の他の構成成分と一緒に投与されうる。
【0130】
「薬学的に許容され得る」という定義は、活性をもつ成分の生物学的活性の効果を妨げないおよび投与された場合宿主に対して毒性を示さない、いかなる担体も含有することを意味している。たとえば、非経口投与の場合、活性を示すタンパク質は生理食塩水、デキストロース溶液、血清アルブミン、およびリンガー溶液(Ringer's solution)といった輸送媒体に注入するための単位投薬形態で処方される。
【0131】
本発明による、医薬物組成物の活性な構成成分は、様々な方法、または経路で個体に投与され得る。一実施様態では、活性化成分は局所的に、皮膚中に、皮膚にまたは皮膚上に投与され得る。他の治験的に効果のある投与方法はいかなるものでも使用可能である。活性をもつ成分は上皮または血管内皮細胞を通じて吸収される。活性な成分は活性のある薬剤をコードするDNA分子が(たとえば、ベクターを通じて)患者に投与され活性を有する薬剤の発現とインビボにおける分泌を引き起こす遺伝子療法によっても投与される。加えて、本発明による活性をもつ成分は薬学的に許容され得る界面活性剤、賦形剤、担体、希釈液、または輸送媒体など、分子生物学的に活性であるほかの成分とともに投与されうる。
【0132】
投与のほかのルートとしては、肝臓内、皮膚内、経皮的(たとえば、徐放製剤)、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、経口、硬膜外、局所性および鼻腔内ルートを含む。加えて、基質は薬学的に許容され得る界面活性剤、賦形剤、担体、希釈液、または輸送媒体など、分子生物学的に活性である薬剤の他の構成成分と一緒に投与されうる。
【0133】
活性のある成分は、製薬的に受け入れ可能な輸送媒体(たとえば、水、生理食塩水、デキストロース溶液)および等張性を維持するための添加物(たとえばマンニトール)または化学的安定性を維持するための添加物(たとえば防腐剤および緩衝液)と関連して、溶液、懸濁液、乳濁液、または凍結乾燥した粉末として処方されうる。製剤は一般的に使われる方法によって殺菌される。
【0134】
「治療的に有効量」とは、投与されたとき、活性をもつ成分が病状を予防し、疾患の経過を有益に改善し、改良することのできる量である。一回分または複数回分として個体に投与された投薬量は、活性をもつ成分の薬物動態的な特性、投与の方法、患者の容態と特性(性別、年齢、体重、健康状態、大きさ)、症状の程度、同時に行っている治療、治療の頻度、そして望む効果を含む様々な要素にしたがって異なる。定められた投薬量の範囲の調整と操作は、個体の疾患の進行における有益な改善、回復、病変の予防を決定するインビトロおよびインビボの方法と同様に、充分に当業者の能力の範囲内である。
【0135】
本明細書において本発明を完全に述べたところで、当業者によれば、同じことが、過度の実験をすることなしに、本発明の範囲および精神から外れることなく、等価のパラメータ、濃度、状況の広い範囲内で行われ得ることは充分に理解されるであろう。
【0136】
本発明は特異的な実施様態そのものとの関係によって記載されてきたが、さらなる改良が加えられうることは理解されるであろう。本願は、一般的に本発明の原則に基づくものであって、本発明に付随する公知のまたは習慣的な技術の実践にともなう、そして補足クレームの範囲に従って決定される上文の不可欠な特徴に応用されるような、現在の開示からの逸脱も含む本発明の様々な変化、使用、適応を網羅することを意図している。
【0137】
雑誌論文または概要、刊行されたまたは刊行されていない米国または外国の特許申請、米国または外国で査定された特許、または他の引用文献を含む、本明細書において引用された全ての参考文献は、引用された文献内に表された全てのデータ、表、図、および文章を含めて、ここに文献として完全に組み入れられる。加えて、本明細書において引用された引用文献内で引用されている引用文献の全ての内容もまた引用文献によって完全に組み入れられている。
【0138】
既知の方法の段階、従来の方法の段階、既知の方法、または従来の方法は、どんな場合においても、関連した技術における本発明のいかなる特徴、記載または実施様態が開示、教示、示唆されているという許可ではない。
【0139】
限定された実施様態の前述の記載は、他人が、当業者がもち得る知識(本明細書において引用した引用文献の内容を含む)を応用することによって、たやすく、限定された実施様態などの様々な応用に過度な実験をすることなく、また、本発明の全体的な概念から外れることなしに、改良および/または適用できる本発明の一般的な本質を完全に明らかにしているものである。これゆえ、このような適用および改変は、ここに表された教示と指導に基づいて、開示された実施様態と等価の範囲を意味の範囲内であるとみなされる。ここに表された表現または用語は、記述の目的のためであり、限定のためではないと理解されるべきである。すなわち、本発明の明細書に記載の表現または用語は、本明細書において表された教示と指導という点から、通常の当業者の知識とかね合わせて、当業者によって解釈されるべきである。
【実施例】
【0140】
材料および方法
(1)カスパーゼ−8を含む細菌人工染色体(BAC)の修飾
RPCI−24マウス(C57BL/6)のカスパーゼ−8を含むBACライブラリーから得られたBACクローン、(RP24−238B22)は、CHORI(BACPAC リソース)より得られた。BACクローンを含有するDH10B細菌は12.5mg/mlのクロラムフェニコールを含むLB培養中で培養された。細菌のコロニー中のカスパーゼ−8の存在はExon8F−8R、Exon1F−1R、5’UTRF−R(使用されたオレゴヌクレオチドはセクション(i)の下記に列挙されている)のオリゴヌクレオチドを用いたPCRによって確認された。BACクローンの修飾は記載どおりに(Gongら、2002およびSparwasserら、2004)、RP24−238B22クローンからのSacB遺伝子の切除およびカスパーゼ−8遺伝子の修飾の両方のために、pDelsacシャトルベクターを用いて、原則に沿って行われた。以下の4つの修飾が組み込まれた(概略図である図1Eを参照)。
【0141】
a.トランスジェニックのインビボにおける発現を観測するために、本発明者らはIRES配列とGFP cDNAを、カスパーゼ−8の終止コドンの下流であるFRTリコンビネーション部位に2つの配列を隣接させることによって組み入れた。この配列をシャトルベクターに組み込むために、RP24−238B22 DNAからオリゴヌクレオチドAF−AR、AF−AR2、およびBF−BRをそれぞれ用いてPCRによりクローンされた、終止コドンの上流および下流のホモロジーアーム(BoxAおよびBoxB、図1Eに示されているターゲッティングカセットの略図を参照のこと)が、pBC FRT−IRES/GFP−FRTベクターのSalI−EcoRIおよびSpeI−NotI部位に導入された。インサート成分は、その後シャトルベクターに移された。
【0142】
b.トランスジェニックの発現の観測をさらに補助するために、本発明者らは、カスパーゼ−8のC−末端に、BoxA(AF−AR2 PCR生成物由来)と上記aのBoxBを含むpBC FRT−IRES/GFP−FRTのEcoRI部位にT7をコードした配列を導入することにより、T7タグを融合させた。
【0143】
c.トランスジェニックマウスの遺伝子型決定を容易にするために、本発明者らは、最初のカスパーゼ−8イントロンの20ヌクレオチド配列を特異的な配列(ヌクレオチドの割合は同等)に置き換えた。BoxCおよびBoxDはCF−CRおよびDF−DRのプライマーを用いて増幅された。これらの2つのPCR生成物は、CFとDRのプライマーを一緒に用いた二度目のPCRのテンプレートとして用いられ、結果的に2つのPCRフラグメントの融合をもたらした。
【0144】
この研究の中で示された発見は、上記の全ての3つの修飾をもつBACを発現したマウスに関するものである。同一の発見は、1つ目の修飾(IRES/GFP)のみが導入されたBACを発現したマウスにも見られた。
【0145】
d.触媒的に不活性なカスパーゼ−8トランスジェニックは362番目残基の活性部位であるシステインをセリンに変換すること(C362S)によって作製された。この配列と境を接しているBoxIおよびBoxJがBox1S−1RおよびJF−Box2ASのプライマーを用いたPCRによって増幅、融合された。
【0146】
上記の全ての修飾されたカセットはpDelsacシャトルベクターのAscI−NotI部位にクローンされた。
【0147】
シャトル構築物のBACをもつ細菌へのエレクトロポレーション、クロラムフェニコールとアンピシリンを用いた選択に続いて、シャトルベクターを取り込んだコロニーが、つぎのプライマー対:(ABまたはATBCDに対してTB3F−TB3R、CDに対してMutCF−1370R、IJに対してIF2−IR1およびHindIII)を用いてダイレクトPCRまたは、制限酵素分析によって同定された。
【0148】
各種につき2つまたは3つの陽性クローンが、それから5%スクロース中でリゾルブドBACsを選択するために培養され、アンピシリン感受性コロニーを選択することによって、さらなる選択が行われた。上記に記載したように、陽性クローンはPCRによって(ABまたはATBCDに対してTB3F−TB3R、TB4F−TB4R、CDに対して1130F−1370R、MutCF−1370R、IJに対しIF2−JR1とHindIII)および制限酵素分析によって確認された。
【0149】
使用したオリゴヌクレオチド:
【0150】
(ii)BAC DNAのマイクロインジェクションのための単離
BAC DNAは2回のアセテート沈殿法とセシウムクロライド沈降法超遠心法によって単離された。エタノールによる洗浄の後、BAC DNAはTE緩衝液に溶解され、PI−SceIエンドヌクレアーゼ(NEB)によって直鎖状にされ、6時間、マイクロインジェクション緩衝液(10mM Tris、pH7.5、0.1mM EDTA、pH8.0、および100mM NaCl)に対して、0.025μmのミリポアのメンブレンフィルターディスク上に浮かべることで、ドロップ−透析された。BAC DNAの量と質はCHEF−DR III PFEGシステム(バイオラッド(Biorad)社、check)を用いることによる、1%アガロース中でのパルス−フィールドゲル電気泳動によって評価した(PFEG;5V/cm、120度、パルスタイム 5〜120秒、24〜30時間)。DNAはインジェクション緩衝液(10mM Tris、pH7.5、0.1mM EDTA、pH8.0、および100mM NaCl)に2ng/μlの濃度に希釈され、同体積の2×ポリアミン(インジェクション緩衝液中に60mM スペルミンと140mMのスペルミジンを含む)を、注入のために混合した。
【0151】
(iii)BACトランスジェニックマウスの作製と分析
DNAはCBF1またはC57BL/6マウス由来の受精卵母細胞の前核中に、1ng/μlの濃度で注入された。トランスジェニックマウスは尾の生検によって準備されたゲノムDNAのPCR分析(Mut CFおよびIN1−1730Rのプライマーを用いた)および末梢血液の白血球におけるGFP発現のFACS分析によって同定された。
【0152】
触媒的に不活性なカスパーゼ−8のトランスジェニックは、IF2−JR1のプライマーを用いたPCRとそれに続くHindIIIを用いた切断によって活性なものと区別された。
【0153】
BAC tgマウスから抽出された様々な細胞のウエスタンブロット分析のため、野生型およびBACトランスジェニックマウスからの細胞溶解物が溶解緩衝液(1%SDS、1mMオルトバナジウム酸ナトリウム、10mM Tris、pH7.4)中での均一化、続いて、5分間沸騰させることによって準備された。タンパク質の濃度はBCAタンパク質アッセイキット(ピアス(Pierce)社)により決定された。分取した25μgのタンパク質がSDS−PAGE、続いて、抗マウスカスパーゼ−8(3B10、A Strasser博士の好意により準備された)、抗GFPおよび抗ヒトb−アクチン モノクローナル抗体(シグマ(Sigma)社)に対するイムノブロッティングにより分析された。
【0154】
(iv)K5 Cre casp8fl/+およびK5 Cre casp8fl/-マウスの開発
カスパーゼ−8の対立遺伝子がノックアウトされたマウス(casp−8+/-、Varfolomeevら、1998)は、ケラチン−5プロモーターに特異的な上皮基底層の制御下でCreを発現させたトランスジェニックマウス系と交配された(K5 Cre casp−8+、Ramirezら、1994)。これらのK5 Cre Casp−8+マウスはその後、従来のカスパーゼ−8の対立遺伝子(casp−8flfl、Kangら、2004)のホモ接合体をもつマウスと、K5 Cre casp8fl/+およびK5 Cre casp8fl/-マウスを得るために交配された。
【0155】
(v)組織学と免疫染色法
皮膚とその他の臓器は10%のリン酸緩衝ホルマリン溶液、pH7.4で固定され、パラフィンに包理され、4μm区分に切断され、ヘマトキシリンとエオシンによって染色された。近接した区分は、例示された抗体で免疫染色するために使用された。Cy3が結合された二次抗体(ジャクソン イムノリサーチ ラブ(Jackson Immunoresearch Labs))が使用された。区分はさらに、Hoechst33342(シグマ社)で核を観察するためにカウンター染色された。
【0156】
TUNEL染色キット(ロッシュ ダイアグノティクス(Roche Diagnostics)社)がアポトーシス性細胞を検知するために用いられた。
【0157】
ラビットの抗サイトケラチン1、6、14、インボルクリン、フィラグリンおよびロリクリン抗体はコバンス(Covance)社より購入された。抗p21マウスはファーミンゲン(Pharmingen)社から購入された。抗F4/80ラットはセロテック(Serotec)社より購入された。抗Ki67ラットはDAKO社より購入された。
【0158】
(vi)ケラチノサイト培養物の準備
最初のケラチノサイトは生後4日の新生マウスから単離され、培養された。表皮は4℃
で終夜3.3%トリプシン(ギブコ(Gibco)社)を用いて真皮より分離された。ケラチノサイトはMEM溶媒中で15分間振盪することにより分離され、10%のchelex処理された牛胎児血漿、抗生物質、KCl(400μg)および3%炭酸ナトリウムが補足されたMEM溶媒のディッシュに植え付けられた。
【0159】
実施例1:カスパーゼ−8機能に依存する表皮ケラチノサイトの正常な成長と分化
カスパーゼ−8のこの酵素がインビボにおいて及ぼす様々な効果に対する構造−機能関係を明らかにするために、本発明者らはそれらの内因性カスパーゼ−8対立遺伝子から離れて、カスパーゼ−8遺伝子のもう1つのコピー、またはそれらの様々な突然変異体を発現しているマウスを作製するために、細菌人工染色体(BAC)が媒介するトランスジェニクス(詳細は材料および方法を参照)を行った(図1A)。これらのトランスジェニクスは偏在して発現しており、内因性の遺伝子で見られたものと同じ細胞特異的な発現パターンを明示していた(図1B)。野生型のトランスジェニック(Casp−8+/+/BAC−WT)の発現しているマウスは、たとえこれらのマウスとカスパーゼ−8ノックアウトマウスを交配させることによって内因性カスパーゼ−8の対立遺伝子が切除された後でも、正常であるように見える。一方、酵素の活性部位の突然変異体を発現させたマウスは、酵素活性を欠失しており(Casp−8BAC−C362S)皮膚の病状を発症した(図1C)。このトランスジェニック突然変異体のカスパーゼ−8に加えて、二つの内因性野生型のカスパーゼ−8の対立遺伝子も有する(Casp−8+/+/BAC−C362S)マウスは生後約2〜6ヵ月でのみ、この病状を示し始めた。1つの内因性対立遺伝子が切除されたマウス(Casp−8−/+/BAC−C362S)では、病状は生後4日ですでに観察可能となり、それは急速に進展した。皮膚サンプルの組織学的な分析(詳細は材料および方法を参照)は、生後24時間ではなく生後7日で形成される炎症性過程を示唆している(図1D)。
【0160】
本発明者らは、酵素的に不全なカスパーゼ−8の発現、Casp−8BAC−C362Sが共に発現された能力の高い酵素の機能を妨害すること、そして、皮膚の炎症性疾患の発症を誘導することを発見した。これは、カスパーゼ−8の酵素機能が生後の皮膚の発達または恒常性に役割を果たしていることを示唆している。
【0161】
実施例2:カスパーゼ−8条件ノックアウトマウスは皮膚疾患の発症におけるカスパーゼ−8の機能の役割を確認する
Casp8BAC−C362S導入遺伝子を発現するマウスにおいて見られる皮膚の病状が表皮細胞それ自身のカスパーゼ−8の機能的役割を反映していることを確かめるために、本発明者らは、条件付カスパーゼ−8対立遺伝子をもつマウスを用い、これらの細胞において特異的にカスパーゼ−8を削除することを行った(詳細は材料および方法を参照)。1つのカスパーゼ−8の対立遺伝子の一部分がloxP部位に隣接しており、もう1つの対立遺伝子が削除された(Casp−8fl/-)マウスをケラチノサイトに特異的なケラチン−5プロモーターの制御下、Creを発現しているトランスジェニックマウス系と掛け合わせることで、PCRおよびウエスタンブロット分析によって示されるように、効果的かつ限定的に表皮中のカスパーゼ−8遺伝子を削除することができた(図2Aおよび2B)。
【0162】
ウエスタンブロット分析のために、皮膚はP0 Casp−8fl/-K5−Creマウスより剥がされ、表皮と真皮を分離するために、65℃にて2〜3秒インキュベートされた。表皮と真皮の両方のサンプルはRIPA緩衝液(50mM Tris−HCl、pH8.0、0.1% NP40、0.5%デオキシコール酸ナトリウム、0.1%SDS、150mM塩化ナトリウム、1mM EDTA、1mM PMSF、1mMオルトバナジウム酸ナトリウム、プロテアーゼ阻害剤カクテル一式)の中で均一化され、30分間氷上に放置された。それから、細胞の均一化物は13000×gで15分遠心分離され、上澄みは取り除かれた。40μgのタンパク質抽出物は10%SDS−ポリアクリルアミドゲルで分けられ、ニトロセルロースメンブレンにブロットされた。メンブレンは抗マウスカスパーゼ−8(3B10、1;2000倍希釈、アレクシス(Alexis)社)または抗ベータアクチン(1:10000倍希釈、シグマ社)とインキュベートされ、製品の説明書に基づいて、抗ラットHRP(シグマ社)または標準ECL反応(ピアス社)での抗マウスHRPによって検出された。図2A(下のパネル)にまとめたウエスタンブロット分析の結果は、カスパーゼ−8の削除が表皮中で形成されているが、Casp−8fl/-K5−Creマウスにおける真皮には形成されていないことを示している。
【0163】
マウス(Casp−8fl/-K5−Cre)は誕生時正常に見える。しかしながら、たった3日後には、マウスは、Casp−8-/+/BAC−C362Sマウスに生じるものとよく似た皮膚の病状の発症を開始する(図2C)。Creの均一的な発現と表皮における効果的なカスパーゼ−8の切除にも関わらず、病変は始め限局していたが、しかし迅速に広がり、最終的には、皮膚の全域を覆った。Casp−8fl/-K5−Creマウスは正常なマウスより小さく、限られた時間しか生きながらえることができず(図2D)、全てのマウスは10日の日齢で死に至った。胃縁の表皮でもまたK5プロモーターが発現しており、これと一致してマウスの一部は深刻な胃の病状を表し、食べることができなくなった。
【0164】
組織学的分析によれば(詳細は材料および方法を参照)、Casp−8fl/-K5−Creマウスの表皮は、Casp−8-/+/BAC−C362Sマウスにおけるものとまったく同様に、真皮中の白血球の蓄積およびケラチン6の表皮における発現(炎症性と過剰増殖性の状態のマーカーである)といった炎症の特徴を、特に上皮の病変部分に示している。さらに、本発明者らは、通常基底の表皮層に限定されている、突然変異体の皮膚における重篤なケラチン14(K14)の基底層上への発現を発見した。K6およびK14は、P7においてノックアウトの表皮の全ての生存している層に発現された(図4A)。加えて、この段階で、基底層直上のケラチン1(K1)の発現とケラチノサイトの最終分化のマーカーであるロリクリンおよびフィラグリンの発現が目に見えて減少し、また、完全に失われた。真皮中に蓄積した白血球の大部分は、単核の食細胞(F4/80抗体染色、図3B)および好酸球(フェノールレッドポジティブ)であり、TまたはBリンパ球のどちらにも重篤な増殖はなかった(抗CD−3を用いた染色(図3B)、CD45R、またはCD20抗体による染色、データはあげられていない)である。好酸球のいくばくかは表皮の小膿疱内にも蓄積した(図3B)。
【0165】
実施例3:ケラチノサイト中のカスパーゼ−8欠損に関係する皮膚の炎症性疾患に対するTNFの寄与
p65そのものか、またはp65 NF−κBの活性化を媒介するキナーゼであるIKK2のどちらかをノックアウトすることによる、皮膚のケラチノサイトにおけるp65 NF−κBタンパク質の活性の停止は、また、炎症性の皮膚障害を引き起こす(Huら、1999、Pasparakisら、2002)。その場合、障害はTNFによるケラチノサイトの慢性的な自己分泌刺激作用、およびその結果として生じる、ともに活性化されるp65の抑制効果が不在の場合には過度の程度まで起こるJunリン酸化反応の増加によって引き起こされることが示された。この皮膚の炎症性疾患過程とケラチノサイト中でのカスパーゼ−8欠損の結果としておこることの間の関係を調べるために、本発明者らは後者の事象に対するTNFの寄与を評価した。それぞれのノックアウトマウスを交配させることによるCasp−8fl/-K5−CreのマウスのTNF遺伝子またはTNFレセプター1(TNFR1)遺伝子のどちらかの欠失は、皮膚の病状の開始を著しく遅くするという結果を生じた。さらにTNF−/−Casp−8fl/-K5−Creマウス(図2D)およびTNF R1−/−Casp−8fl/-K5−Creマウス(図には示されていない)は最低でも4ヵ月間は生存能力を保持していた。皮膚の病状の開始の著しい遅れは、抗TNF抗体、または溶解性のTNFレセプターをCasp−8fl/-K5−Creマウス(図には示されていない)に注入することによってもまた得ることができた。しかしながら、完全にTNFに依存している、ケラチノサイト中でのp65またはIKK2の欠失から生じる病状とは対照的に、カスパーゼ−8の欠失から生じる病状は、遅れはするが、最終的にはTNFまたはそのレセプターを発現していないマウスにおいて完璧な範囲を覆い尽くした。実際、これらのマウスは死には至らなかったので、マウスを覆った皮膚の病状の程度はTNF能力をもつCasp−8fl/-K5−Creマウスにおいて到達した範囲よりもはるかに大きなものであった。本発明者らは、組織学的な分析より、TNF応答の不在の場合に伸びた皮膚の病変がその存在下で観察されたものからは区別できないことを見出した(データは示されていない)。TNFR1の欠失に加えてTNFR2遺伝子のさらなる欠失は、皮膚の病状に影響を及ぼさなかった(データは示されていない)。
【0166】
p65阻害の効果からのさらなる違いは、Casp−8fl/-K5−Creマウスの表皮において、Junリン酸化反応の増加がまったく認められなかったことである(図4B)。これらの発見は、カスパーゼ−8欠失はp65 NF−κB活性化の停止という結果を招かないということを示唆している。実際、Casp−8fl/-K5−Creマウスと正常なマウスの表皮におけるp65およびp50核転座の程度の間には違いは認められなかった(データは示されていない)。
【0167】
皮膚のケラチノサイトにおいてカスパーゼ−8がまさにどんな役割を果たしているのかということを見つけ出すために、本発明者らは始めにその欠損が細胞死、すなわち一般的にカスパーゼ−8が関連している過程に影響を及ぼすのかを調べた。Tunnelテストはカスパーゼ−8欠損の表皮中の細胞死は減少せず、むしろ顕著な増加が見られることを明らかにした(図4C、右側のパネル)。Ki67抗原の染色による表皮中の細胞増殖の評価において、本発明者らは表皮基底層における細胞増殖の著しい増加を観察した(図4C、左側のパネル)。しかしながら、NF−κB欠損表皮中で見られた過剰な増殖、これは分裂細胞の層の著しい肥大を含むが、これとは対照的に、カスパーゼ−8欠損皮膚中の分裂細胞はただ1つ、または多くても2つの細胞層を占めるにすぎない。ブロモデオキシウリジンの取り込みの免疫組織化学上の評価によって皮膚の細胞増殖を評価する際に類似の観察が得られた(データは示されていない)。
【0168】
表皮の基底層の大きさは変化しないままである一方、ケラチノサイトの分化における明確な段階を特徴付けるタンパク質の発現パターンはカスパーゼ−8欠損皮膚中では大幅には変化しなかった(図4A)。
【0169】
実施例4:正常な表皮およびカスパーゼ−8欠損表皮の皮膚層からのケラチノサイトの培養液中での分化能力
カスパーゼ−8欠損皮膚中に見られる細胞の分化のパターンの異常(図4A)がカスパーゼ−8の細胞自律性機能、または、ケラチノサイトの他の細胞とまたは細胞外の要素との相互作用を含む、より複雑な変化を反映しているのかどうかを見出すだめに、本発明者らは正常な表皮およびカスパーゼ−8欠損表皮の皮膚層からのケラチノサイトの培養液中での分化能力を比較した(詳細は材料および方法を参照)。カルシウムイオンの増加による正常なケラチノサイトの分化の誘発は、初期の分化マーカーであるケラチン1ならびに後期の分化マーカーであるフィルガリンおよびロリクリンの効果的な誘発とともに、特徴的な形態学的変化を生じた。カルシウムのアップシフト(up-shift)はCasp−8fl/-K5−Cre細胞に、正常細胞で見られるものと類似した形態学的変化を誘発した。しかしながら、ケラチン1、フィルガリンまたはロリクリンの発現の増加を誘発することはできなかった(図6および7)。この分化不全はCasp−8fl/-K5−Creマウスの生後直後に得られたケラチノサイトでは見られなかった。しかし、この分化不全は、Casp−8fl/-K5−Creの1日齢の子供の皮膚からの細胞では、この年齢でのこれらの子供はまだいかなる異常な皮膚の組織学的特徴を現していなかったにもかかわらず、明らかであった。TNF−/−Casp−8fl/-K5−CreおよびTNF R1−/−Casp−8fl/-K5−Creマウスにおける病状の甚大な遅れにも関わらず、分化不全は、生後一日で既に、それらの細胞中にも見られた。
【0170】
細胞増殖および分化のコントロールに関わる核タンパク質であるp21ARFはケラチノサイトの分化を劇的に減少させることが示されている(Dotto 2000、およびDi Cuntoら、1998)。この変化は、分化に関わる遺伝子発現の変化における原因となる役割をもっているように見受けられる。培養したケラチノサイトにおけるp21ARFの量を決定することで、本発明者らはカルシウムのアップシフトによる分化の誘発に続くその減少が、カスパーゼ−8欠損細胞中では著しく遅れていることを発見した、これは、さらに、この欠損が分化プロセスにおけるいくつかの特徴を干渉していることを示している(図7B)。
【0171】
これゆえ、インビトロで培養されている間、カスパーゼ−8ノックアウトケラチノサイトは正常に成長し、そして、高濃度のカルシウムの適用に続いて、細胞周期から離脱していく。しかしながら、通常後期の分化段階に関係している分子事象はノックアウトの培養中では起こらない。もっとも顕著には、ロリクリンおよびフィラグリンの発現が誘導されない。さらには、細胞が後期の分化段階に入ったときp21は低下しない。
【0172】
カスパーゼ−8のケラチノサイトの分化マーカーの発現に対する寄与が細胞自律性の様式でおこることをさらに確認するために、カスパーゼ−8がCasp−8fl/-K5−Creケラチノサイトに再構成された。培養されたCasp−8fl/-K5−Creケラチノサイトでは、野生型のカスパーゼ−8の発現はレンチウイルス(lenti-virus)の発現ベクターを用いることによって、もう一度実施され、そして、カルシウムのアップシフトに応答して分化マーカーを発現する能力が回復された。このようなカルシウムのアップシフトに対する応答は、細胞が酵素的に不活性なカスパーゼ−8突然変異体(Casp8−C362S)にトランスフェクトされた場合には見られなかった。さらに、野生型のマウス由来のケラチノサイト中のこの突然変異体の発現は、それらの中での分化マーカーの発現を停止させた。類似の分化マーカーの発現の阻害が、野生型のマウス由来のケラチノサイトがカスパーゼ−8抑制作用のあるタンパク質にトランスフェクトされたとき、または、カスパーゼ−8活性化を阻害することのできる薬剤とともに処理されたときに観察された。これらの結果は、カスパーゼ−8が皮膚のケラチノサイトの分化に細胞自律性な役割をはたしており、この役割はカスパーゼ−8の酵素機能に依存していることを示していることを示している。
【0173】
実施例5:生後3日のCasp−8fl/-K5−CreマウスおよびそのF/+同腹子からの皮膚におけるジーンアレイ分析
アギレント テクノロジー(Agilent Technologies)社より購入されたマウスオリゴマイクロアレイジーンキット(mouse oligo microarray Gene kit)(塩基長60(60-mer)のオリゴ)が製品説明書に従って、生後3日(P3)のCasp−8fl/-K5−Creマウスの皮膚からおよびそのF/+同腹子からのRNAサンプルに使用された。本発明者らは炎症を促進する機能で知られている、ISG15(Glp2)、Cxcl10、C90rf26と呼ばれる9230117N10Rik(IL33)のヒトオルソログ、IL19、Sprr2f、S100a9、IL−6、MMP13、Ccl3およびIL1b遺伝子がCre カスパーゼ−8fl/−マウスの皮膚中で著しく上方調節されていることを発見した。Casp−8fl/-K5−Creマウスからの皮膚のサンプルにおける発現の差別パターンはタイプTH2サイトカインの顕著な上方調節を示している。
【0174】
また未知の機能をもつ2つのcDNAS、9230117E20Rik(配列番号2)および2010002N04Rik(配列番号3)がCasp−8fl/-K5−Creマウス中で顕著に上方調節されていた(表1)。
【0175】
【表1】
【0176】
実施例6:リアルタイムPCRとインサイチュハイブリダイゼーションによって評価されたCasp−8fl/-K5−Creマウスの皮膚サンプルにおける差異的に上方調節される遺伝子
前の実施例のジーンアレイ分析で見出された遺伝子調節の差異パターンはさらにリアルタイムPCRによって評価された。この目的のために、野生型マウス、Casp−8fl/-K5−Creマウス、またはTNF−/−Casp−8fl/-K5−Creダブルノックアウトマウスから、生後異なる時間で、皮膚が除去された。カスパーゼ−8欠損マウスは出生1日前(D−1)、出生日(P0)、生後1日(P1)、生後2日(P2)、生後3日(P3)、および生後5日(P5)にテストされた。マウスから取り去られた皮膚は65℃にて2〜3秒表皮と真皮とを分離するためにインキュベートされた。表皮と真皮のサンプルは粉末に加工(乳鉢と乳棒を用いて)され、そして粉末は、キアゲン社のRneasyキットを製品の説明書に基づいて用いRNAの単離のための出発物質として使用された。生後異なる時間で、野生型マウス、Casp−8fl/-K5−Creマウス、またはTNF−/−Casp−8fl/-K5−Creのダブルノックアウトマウスから取り除かれたそれぞれの皮膚サンプルから単離されたRNAは、アレイ技術によって上方調節されることが判明した遺伝子に特異的なプライマーを用いたリアルタイムPCRにかけられた。
【0177】
全てのPCR反応はアプライドバイオシステムズ社の7500リアルタイムPCRシステムで、市販されている専用のTaqman gene expression assayを用いて製造会社(アプライドバイオシステムズ社)の説明書に基づいて行われた。
【0178】
PCRによるそれぞれの特異的遺伝子に対して発見されたmRNAレベルは同じPCR反応でテストされたベータアクチン(ACTB)の対照遺伝子のmRNAのレベルを用いて標準化された。8fl/-K5−CreマウスまたはTNF−/−Casp−8fl/-K5−Creダブルノックアウトマウスにおける生後の所定の発達段階での特定の遺伝子のmRNAの上方調節は、8fl/-K5−CreのマウスまたはダブルノックアウトされたTNF−/−Casp−8fl/-K5−Creマウスの標準化されたmRNAと生後の同じ発達段階での野生型の標準化されたmRNAとの比率によって、デルタ−Ct法(LivakおよびScimittgen、2001)によって計算された。得られた比率は、log2に変換され、図8のヒートマップに示されるように発現の変化の上方調節の増加の一貫性に従って、順序付けられた。図では、各々のカラムが、生前およびP0、P1、P2、P3、P5における8fl/-K5−Creマウスの皮膚中の特別な遺伝子の上方調節の割合を示している。結果は22のテストされた8fl/-K5−Creマウスのうち、19のマウスがISG15(Glp2)、15のマウスがCxcl10、15のマウスが9230117N10Rik(IL33)、14のマウスがIL19、14のマウスが2010002N04Rik(配列番号3)、13のマウスがSprr2f、13のマウスがS100a9、12のマウスがIL−6、12のマウスが9230117E20Rik(配列番号2)、11のマウスがMMP13、11のマウスがCcl3、および10のマウスがIL1b遺伝子の顕著な上方調節を示した。
【0179】
結果は22のテストされたTNF−/−Casp−8fl/-K5−Creダブルノックアウトマウスのうち、11のマウスがISG15(Glp2)、13のマウスがCxcl10、13のマウスが9230117N10Rik(IL33)、16のマウスがIL19、11のマウスが2010002N04Rik(配列番号3)、16のマウスがSprr2f、16のマウスがS100a9、16のマウスがIL−6、6のマウスが9230117E20Rik (配列番号2)、12のマウスがMMP13、15のマウスがCcl3、および11のマウスがIL1b遺伝子の顕著な上方調節を示した。
【0180】
前述のとおり、皮膚の病状は生後3日で首と頭の部分に発現し、徐々に体全体に広がっていく。本発明者らは、RT−PCRにより、同じP3 8fl/-K5−Creマウスの正常な皮膚および病状を示している皮膚からのサンプルにおいて、差異発現の同じパターンを見出した(データは示されていない)。
【0181】
RT−PCR分析によって得られた結果は、向炎症性の機能をもつ遺伝子、およびIL−19などのタイプTH2サイトカインをコードする遺伝子が、Casp−8fl/-K5−Creマウスからの皮膚のサンプルにおいて、顕著に上方調節されていること、病状が発症する以前に同じ上方調節のパターンが検知されうること、TNFは皮膚の病状に主たる影響を及ぼしておらず、その病状を増幅することおよび促進することにのみ寄与していることを裏付けている。
【0182】
皮膚上におけるカスパーゼ−8欠損の効果はさらに、ジーンアレイ分析およびCasp−8fl/-K5−Creマウスからの皮膚のサンプルのRT−PCR分析において上方調節されていることが判明したケモカインである、s100a9(下記参照)に対するプローブを用いて、インサイチュハイブリダイゼーションによって評価された。この目的のために、P7野生型マウスまたはP7 Casp−8fl/-K5−Creマウスからの6μm厚さのパラフィンで処理された皮膚の区分がスライドにされた。脱パラフィン化(キシレンを10分で2回、100%エタノール2分ずつ2回、95%エタノール2分、70%エタノール2分、50%エタノール2分)の後、スライドはプロテイナーゼK(10μg/ml)で10〜20分処理され、4%パラホルムアルデヒド(PFA)で固定され、そして、アセチル化(200mlのDEPC処理された水に2.2mlのトリエタノールアミン、750μlの無水酢酸を加え、5分作用させた)した。その後、スライドはアンチセンスまたはセンス(対照)プローブと終夜65℃でインキュベーションしてハイブリダイズされた。24時間後、スライドは異なる濃度のSSC緩衝液(a.10mM DTTを含む5×SSC中65℃で30分、b.10mM DTTと50%ホルムアミドを含む2×SSC中65℃で30分、c.2×SSC中37℃で5分を3回、d.RNase A(10μg/ml)を含む0.4M NaCl、0.01M Tris−HCl pH7.5、0.005M EDTA中37℃で30分、およびe.2×SSC中37℃で15分、f.0.1×SSC中37℃で15分)で数回洗浄され、抗DIG抗体と2時間室温でインキュベートされた。その後、スライドは染色のための基質(抗−ジゴキシゲニン−アルカリ・ホスファターゼ(Anti-Digoxigenin-Alkaline Phosphatase)、ロッシュ社)によって数時間から数日間現像された。
【0183】
P7野生型マウスまたはP7 Casp−8fl/-K5−Creマウスの皮膚に適用されたs100a9からのアンチセンス(配列番号35)およびセンス(対照)プローブとのインサイチューハイブリダイゼーションの結果は図9にまとめられている。得られた結果は、s100a9転写が、表皮と真皮の両方においてアンチセンスプローブとプローブされたCasp−8fl/-K5−Creマウスのサンプルにおいてのみ検知されたことを示している。
【0184】
実施例7:差異的に上方調節されるタンパク質とウエスタンブロットによって評価されたCasp−8マウスの皮膚中のカスパーゼ−14、Stat−1、およびStat−3の活性化
ウエスタンブロット分析のために、P4 Casp−8fl/-K5−CreマウスまたはP4野生型マウスの皮膚全体、表皮、真皮のサンプルが単離された。それぞれのサンプルは乳鉢と乳棒で粉砕され、組織中の細胞は1mgの組織あたり、10μlのRIPA(RIPA緩衝液、20mM Tris−HCl pH7.5、150mM NaCl、1mM EDTA pH8、0.1%SDS、1%NP−40)とインキュベートすることによって溶解され、タンパク質を抽出するために使用された。次に、組織溶解物は0℃で10分間インキュベートされ、サンプル緩衝液が添加された後、100℃で5分間インキュベートされた。サンプルは1300rpmで遠心分離され、上澄み液は10%SDSポリアクリルアミドゲルで分離され、ニトロセルロースメンブレンにブロットされた。
【0185】
分離された皮膚のタンパク質を含むニトロセルロースメンブレンはStat−1およびStat−3に特異的な抗体とプローブされた。Stat−1およびStat−3はリン酸化反応において、IL−6によって誘発され、核に転位し、皮膚の炎症性病状のマーカーとして使用されるタンパク質キナーゼによって活性化される転写因子である。Stat特異的な抗体によって得られた結果は、Casp−8fl/-K5−Creマウスの皮膚の表皮のサンプルにおいてのみ、リン酸化されたAtat−1またはリン酸化されたStat−3に対応するバンドが検知されたことを示している(図10A)。
【0186】
プロカスパーゼ−14は、皮膚の表皮中で活性化カスパーゼ−14に構造的に促進されることが知られているので、カスパーゼ−8欠損によって誘導された結果生じた炎症性の病状がこの組織内でプロカスパーゼ−14のプロセッシングの制御に関わっているのかどうかをテストすることは興味深いことである。この目的のため、分離された皮膚のタンパク質を含むニトロセルロースメンブレンが、カスパーゼ−14に特異的な抗体とプローブされた。図10Bにまとめられた結果は、プロカスパーゼ−14のCasp−8fl/-K5−Creマウスの皮膚におけるプロセッシングには変化がないことを示しており、これは、カスパーゼ−14はカスパーゼ−8欠損によって引き起こされる病因には関与していないことを示している。
【0187】
S100A8はマクロファージによって発現されるケモカインである。S100A8は、本発明者らが先に、ジーンアレイによってCasp−8fl/-K5−Creマウスの皮膚において、および、RT−PCR分析によってCasp−8fl/-K5−Creマウスの表皮において上方調節されることを明らかにした遺伝子である、S100A9とヘテロ二量体を作ることが知られている。S100A8タンパク質の存在は、野生型マウスまたはCasp−8fl/-K5−Creマウスから単離された皮膚全体、真皮、または表皮のサンプルにおいて、ウエスタンブロットハイブリダイゼイションによって分析された。図10Cにまとめられた結果は、S100A8タンパク質はCasp−8fl/-K5−Creマウスにのみ検知されること、およびS100A8の最も高い発現が真皮中に見られたことを示している。これゆえ、これらの結果は表皮中のカスパーゼ−8の欠損が真皮中での病理学的変化を引き起こしていることを示している。
【0188】
実施例8:IL−1αおよびIL−1βはケラチノサイト中のカスパーゼ−8欠損に関連する皮膚の炎症性疾患に寄与していない。
IL−1αおよびIL−1βは、ジーンアレイによってCasp−8fl/-K5−Creマウスの皮膚中で、および、RT−PCR分析によってCasp−8fl/-K5−Creマウスの表皮において、上方調節されることが見出された。本発明者らはケラチノサイト中でカスパーゼ−8欠損の結果起こる皮膚の炎症の過程におけるIL−1αおよびIL−1βの役割をさらに調べた。IL−1α遺伝子またはIL−1β遺伝子のどちらかとCasp−8fl/-K5−Creのダブルノックアウトマウスは、IL−1α遺伝子またはIL−1β遺伝子のどちらかをノックアウトしたマウスとCasp−8fl/-K5−Creマウスを交配することによって得られた(Horaiら、1998)。ダブルノックアウトマウスは皮膚の病状の開始において抜本的な遅れは示さなかったが、Casp−8fl/-K5−Creマウスとして8日または9日しか生存しなかった。
【0189】
【図面の簡単な説明】
【0190】
【図1A】酵素的に不活性なカスパーゼ−8を発現させたトランスジェニックマウスが炎症性皮膚疾患を発症していることを示す。左側のパネルは各サンプルにおけるPCRジェノタイピングを示しており、サンプルは(左から右へ)内因性のカスパーゼ−8遺伝子のみをもつ対照マウス(+/+)、内因性のカスパーゼ−8遺伝子とBAC由来のカスパーゼ−8をもつトランスジェニックマウス(+/+BAC)、カスパーゼ−8バックグラウンドを部分的にノックアウトしたBACカスパーゼ−8をもつトランスジェニックマウス(カスパーゼ−8の1つの対立遺伝子のみがノックアウトされている)(+/−BAC)、およびカスパーゼ−8バックグラウンドのフルノックアウトのBACカスパーゼ−8のみをもつトランスジェニックマウス(−/−BAC)である。子宮内で死亡したカスパーゼ−8フルノックアウトマウスの場合と異なり、−/−BACマウスは生存できた。右側のパネルの初めの半分はPCRのジェノタイピングを示しており、サンプルは(左から右へ)、+/+、+/+BAC、および+/+BAC C362S(残基362のシステインがセリンに代えられている酵素活性を持たない突然変異体カスパーゼ−8のBACをもつ)である。右側のパネルの二番目の半分は始めの半分のものと同じサンプルかつ同じ順番のものであるが、野生型のカスパーゼ−8から突然変異体BAC−C362Sと区別するためにHind IIIで制限されたものである。HindIIIはBAC−C362S突然変異体のカスパーゼ−8を確かに切断する(矢印)、しかし、内因性またはBAC WTカスパーゼ−8は切断しない。
【図1B】酵素的に不活性なカスパーゼ−8を発現させたトランスジェニックマウスが炎症性皮膚疾患を発症していることを示す。サンプル中のカスパーゼ−8発現のウエスタンブロット分析を示し、サンプルは対照マウス(+/+)または内因性カスパーゼ−8に加えて、同起源のカスパーゼ−8プロモーターにより制御されるトランスジェニックなBACカスパーゼ−8を発現させたトランスジェニックマウス(+/+BAC)の、(左から右へ)肝臓、脾臓、腎臓、胸腺、肺、脳、および皮膚である。上部のパネルはカスパーゼ−8の合計(内因性およびトランスジェニック)のレベルを示している。1番目のレーンは+/+マウスの所定の組織内のカスパーゼ−8のレベルを、二番目のレーンは、内因性およびトランスジェニック起源から発現されたカスパーゼ−8をもつ+/+BACマウスの同じ組織におけるカスパーゼ−8を示している。中央のパネルはトランスジェニックマウスのみに存在するGFPを示しており、そのレベルはトランスジェニックなカスパーゼ−8の発現レベルと密接な相関関係にある(カスパーゼ−8およびGFPの発現はともに同起源のカスパーゼ−8プロモーターの制御下にある)。下側のパネルはそれぞれ異なるレーンにロードしたタンパク質の量の対照としてのアクチンのレベルを示している(約25μgの組織溶解物/レーン)。対照およびトランスジェニックマウスにおけるカスパーゼ−8の合計およびGFPの発現の観察されたパターンは、トランスジェニックカスパーゼ−8は内因性カスパーゼ−と同様に、肝臓、脾臓、腎臓、胸腺、および肺で高いレベルで発現されているが、脳では発現されなかったことを示している。また、内因性およびトランスジェニックカスパーゼ−8はともに、皮膚で発現することが観察された。これゆえ、同起源のカスパーゼ−8プロモーターは内因性およびトランスジェニックカスパーゼ−8の両方の、類似の組織特異的な発現を可能にしている。
【図1C】酵素的に不活性なカスパーゼ−8を発現させたトランスジェニックマウスが炎症性皮膚疾患を発症していることを示す。カスパーゼ−8バックグラウンドの部分的ノックアウト(Casp8+/−)の突然変異体カスパーゼ−8(BAC C362S)を発現しているトランスジェニックマウスの生後5日(P5)、生後7日(P7)、および生後14日(P14)の一般的な外観を示す。図の結果は、酵素活性が欠損しているミュータントカスパーゼ−8を発現しているマウスは、たとえ内因性カスパーゼ−8の存在下であっても、時間と共に進行する皮膚疾患を発症することを示している。
【図1D】酵素的に不活性なカスパーゼ−8を発現させたトランスジェニックマウスが炎症性皮膚疾患を発症していることを示す。生後0日(P0)と生後7日(P7)の、BAC C362Sをもつトランスジェニックマウスおよび対照マウスのヘマトキシリン/イオシンで染色した皮膚の区分の組織学的分析を示す。図に示された結果は、対照マウス(WT)ではP0(生後24時間以内)での表皮層はP7の場合よりもより厚かったことを表している。P0では、トランスジェニックマウスと対照マウスの組織学的パターンに明らかな違いは見られなかった。P7では、突然変異体カスパーゼ−8を発現しているトランスジェニックマウスにおいて細胞の湿潤と厚みを増した表皮によって明確に示される違いが見られた。
【図1E】酵素的に不活性なカスパーゼ−8を発現させたトランスジェニックマウスが炎症性皮膚疾患を発症していることを示す。上記の実験で使用されたBACの修飾の概要の図によって表している(材料と方法を参照)。
【図2A】カスパーゼ−8を表皮特異的にノックアウトしたマウスが炎症性皮膚疾患を発症することを示す。上のパネルは、Casp−8fl/-Cre−またはCasp−8fl/-Cre+マウスの(左から右へと)皮膚全体、表皮、および真皮からのサンプルにおけるカスパーゼ−8欠失をゲノムPCRにより見積もっている。下のパネルは、K5Casp−8fl/-Cre−またはK5Casp−8fl/-Cre+マウスの表皮または真皮からのサンプルにおけるカスパーゼ−8欠失をウエスタンブロット分析により見積もっている。
【図2B】カスパーゼ−8を表皮特異的にノックアウトしたマウスが炎症性皮膚疾患を発症することを示しており、P7 ROSA26Casp−8fl/+K5−Cre(上部パネル)およびROSA26CCasp−8fl/-K5−Creマウス(下部パネル)の皮膚からの細胞区分におけるβガラクトシダーゼ発現の分析を示している。結果は、マウスの毛嚢および表皮における特異的なCre誘導性の発現(より濃い染色)を支持している。
【図2C】カスパーゼ−8を表皮特異的にノックアウトしたマウスが炎症性皮膚疾患を発症することを示しており、生後の異なる時間における野生型(上部パネル)およびTNF−/−ノックアウトバックグラウンド(下部パネル)でのCasp−8fl/-K5−Creマウスの表現型を示している。得られた結果はTNF欠損マウスではカスパーゼ−8欠損によって媒介される皮膚疾患の始まりは予防されないが、遅らされる。
【図2D】カスパーゼ−8を表皮特異的にノックアウトしたマウスが炎症性皮膚疾患を発症することを示しており、K5F/−マウス(Casp−8fl/-K5−Creマウス)およびTNF-/-K5FI/−マウスの生存曲線を示している。図に示された結果はTNF欠損は表皮特異的にカスパーゼ−8をノックアウトしたマウスの死を遅らせることを表している。
【図3A】Casp−8fl/-K5−Creにおける組織学的分析と皮膚の炎症の評価を示す。P0(左側)とP7(右側)の表皮をターゲットしたカスパーゼ−8欠損マウス(sKO,下部のパネル)とWTマウス(上部のパネル)のヘマトキシリン/エオシン染色を表している。P0では、WTとカスパーゼ−8欠損マウスとの間で違いはまったく認められなかった。p7では、Casp−8fl/-K5−Cre P7マウスの真皮において細胞性の増加が認められた。
【図3B】Casp−8fl/-K5−Creにおける組織学的分析と皮膚の炎症の評価を示しており、P7における、マクロファージ(F4/80抗体)、WTマウスもしくはCasp−8fl/-K5−Creマウスの皮膚区分における好酸球(フェノールレッド取り込み)とTリンパ球(抗CD3抗体)の染色を示している。図中の結果はマクロファージと好酸球の湿潤とを示しているが、Casp−8fl/-K5−Creマウスの皮膚のT細胞では見られなかった。同一の染色パターンがTNFR1−/−バックグラウンドのCasp−8fl/-K5−Creにおいて観察された(データは示していない)。注目すべきは好酸球もまたCasp−8fl/-K5−Creマウスの表皮中の膿疱に蓄積していることである。これらの結果は皮膚を標的としたカスパーゼ−8欠損マウスに発症している皮膚疾患が炎症性であることを示している。
【図3C】Casp−8fl/-K5−Creにおける組織学的分析と皮膚の炎症の評価を示しており、P3マウスの表皮病変の領域における炎症の制限を示している。真皮の細胞性の一般的な増加(上部パネル)、F4/80−陽性細胞の蓄積(中央のパネル)、および表皮の活性化に対するマーカーである抗ケラチン6による染色(下部パネル)が表皮が肥大化した領域(点線で線引きされた領域)に限られていることを示している。
【図4A】カスパーゼ−8欠損表皮の免疫組織学的分析を示している。右側のパネルはWTマウス(左側)の皮膚、Casp−8fl/-K5−Creマウスの皮膚病変(中央)、同じCasp−8fl/-K5−Creマウスの深刻な皮膚病変(右側)の部位のP7における免疫染色を表している。基底層マーカーであるK14の免疫染色はCasp−8fl/-K5−Cre表皮の至るところにこのタンパクの発現が延伸していることを示している。すなわち、分化マーカーK1(顆粒層)インボルクリン(角質層)、フィラグリン(角質層)、およびロリクリン(角質層)に対する染色はP7でのより深刻なCasp−8fl/-K5−Cre病変領域での組織化されていない局在化、マーカーの減少、および次第にこれらのタンパクの完全な喪失を表すようになる。さらに、一般的な表皮活性化のマーカーである抗K6による大量染色を示している。これらの変化はひとつとして、P0(左側パネル)およびP1(データは示していない)では認められなかった。
【図4B】カスパーゼ−8欠損表皮の免疫組織学的分析を示しており、P0(左側パネル)およびP7(右側パネル)におけるWTおよびKOマウスの皮膚区分のcJunリン酸化に対する免疫染色を表している。異なる皮膚区分をテストしてもいかなる違いも見られなかった。
【図4C】カスパーゼ−8欠損表皮の免疫組織学的分析を示しており、P7でのCasp−8fl/+K5−CreおよびCasp−8fl/-K5−Creの表皮におけるアポトーシスを評価するためのTUNEL染色(右側)および細胞増殖を決定するKi67染色(左側)を示している。結果はアポトーシスの増加(矢印で示されている)とCasp−8fl/-K5−Creマウスの皮膚サンプルにおける細胞増殖の増加を示している。
【図5】皮膚の層およびそれぞれの皮膚層における特異的タンパクの発現の概略図を表している。皮膚には2つの大きな層(真皮および表皮)が存在する。表皮は基底層、有棘層(上基底層)、粉留層、および角質層の4層からなっている。それぞれの層は異なるタンパクを発現している。
【図6】0.12mMのカルシウムに暴露に続き所定の時間(時間)溶解された、P3のCasp−8fl/+K5−CreおよびCasp−8fl/-K5−Creマウス由来の培養されたケラチノサイトからの全てのタンパク質のウエスタンブロット分析を示している。フィラグリン(Fila)およびロリクリン(Lori)が最終分化のマーカーとして、ケラチン1(CK1)が中間分化マーカーとして使用された。ケラチン14(CK14)はローディングコントロールとして用いられた。図に示された結果は正常なカスパーゼ−8を発現している細胞とは異なり、カスパーゼ−8欠損細胞はCa2+によって誘発される分化マーカーである、fila、lori、CK1を示さないことを表している。
【図7A】所定の時間(時間)0.12mMのカルシウムの存在下培養された付加ケラチノサイトにおける分化マーカーの発現を示している。付加ケラチノサイトからの全体の細胞抽出物(15μg)がウエスタンブロットによって分析された。P0以外の、P1、P4でのCasp−8fl/+K5−CreおよびCasp−8fl/-K5−Creマウスからの培養されたケラチノサイトのおける分化マーカーの不完全な発現を、ロリクリンおよびフラグリンに対する抗体を用いたウエスタンブロットによって示している。
【図7B】所定の時間(時間)0.12mMのカルシウムの存在下培養された付加ケラチノサイトにおける分化マーカーの発現を示している。付加ケラチノサイトからの全体の細胞抽出物(15μg)がウエスタンブロットによって分析された。P3の培養液のCasp−8fl/+K5−Creケラチノサイト中でのカルシウム刺激下での適応するp21の分解とロリクリン発現の欠損を示している。
【図8A】Casp−8fl/-K5−Creにおける遺伝子発現の上方調節をRT−PCRによって示している。RNAはカスパーゼ8欠損または野生型の動物の出生前(D−1)、生後直後(P0)、または1日(P1)、2日(P2)、3日(P3)、5日(P5)に表皮から単離され、Glp2、Cxcl10、9230117N10Rik(IL33)、IL19、lfl202b、2010002No4Rik(配列番号3)、Sprr2f、S100a9、IL−6、9230117E20Rik(配列番号2)、MMP13、Ccl3、Rptn、IL1b、IL1aおよびアクチンベータ(対照として)の16の遺伝子の発現をリアルタイムPCRによって決定するために使用された。ヒートマップの下の括弧内の数字は、それぞれの示された遺伝子のmRNA発現の顕著な増加を示しているカスパーゼ−8欠損動物の全体数(全体で22匹テストされたうち)を示している。顕著なmRNAsの上方調節を示すカスパーゼ8欠損個体の割合がヒートマップの方形中に表されている。
【図8B】Casp−8fl/-K5−Creにおける遺伝子発現の上方調節をRT−PCRによって示している。図8Aと同じ分析を示しているが、TNF−/−バックグラウンドでカスパーゼ8欠損動物からのサンプルで行われたものである。
【図9】S100A9のmRNA発現がノックアウトマウスの皮膚の病変において劇的に上方調節されていることをインサイチュハイブリダイゼーション分析によって示している。検知はDigラベルされたs100a9プローブを用いて行われた。
【図10A】カスパーゼ8欠損皮膚におけるstat1およびstat3の活性化を示している。リン酸化されたstat1、stat3、および全体のstat3のウエスタンブロット分析が、カスパーゼ−8−(KO)およびカスパーゼ−8+(WT)マウス(P4,2個体)の上皮から抽出された全体のタンパク質のサンプルで行われた。同じサンプルのアクチンレベルがローディングコントロールとして見積もられた。
【図10B】カスパーゼ−8欠損皮膚におけるカスパーゼ−14の活性化を示している。ウエスタンブロット分析が、カスパーゼ−14の活性化とプロセッシングの程度を示すためにカスパーゼ−8−(KO)およびカスパーゼ−8+(WT)マウス(P4,2個体)の上皮から抽出された全体のタンパク質のサンプルで行われた。
【図10C】カスパーゼ−8欠損皮膚におけるs100a8タンパク質の差異的発現を示している。S100a8のレベルはカスパーゼ−8−(KO)およびカスパーゼ−8+(WT)マウス(P4,2個体)から抽出された表皮、真皮、および全体の皮膚のサンプルのウエスタンブロット分析によって決定された。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)カスパーゼ−8またはそのフラグメント、(ii)カスパーゼ−8またはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド、(iii)(ii)のポリヌクレオチドを含む発現ベクター、(iv)カスパーゼ−8のレベルまたは活性の活性化剤、(v)カスパーゼ−8活性化の天然の阻害剤に対する阻害剤、(vi)皮膚中でカスパーゼ−8活性によって正常には下方調節されるタンパク質のレベルまたは活性に対する阻害剤、および(vii)皮膚中でカスパーゼ−8活性により正常には上方調節されるタンパク質のレベルまたは活性に対する活性化剤から選択される薬剤の、炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状を治療または予防するための医薬の製造における使用。
【請求項2】
薬剤がカスパーゼ−8またはそのフラグメントである請求項1記載の使用。
【請求項3】
薬剤がカスパーゼ−8またはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチドである請求項1記載の使用。
【請求項4】
薬剤が、カスパーゼ−8またはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターである請求項1記載の使用。
【請求項5】
薬剤がカスパーゼ−8のレベルまたは活性の活性化剤である請求項1記載の使用。
【請求項6】
活性化剤が、FADD、カスパーゼ−6、カスパーゼ−3および、TNF/NGFファミリーの受容体から選択される請求項5記載の使用。
【請求項7】
薬剤が、カスパーゼ−8活性化の天然の阻害剤に対する阻害剤である請求項1記載の使用。
【請求項8】
カスパーゼ−8活性化の天然の阻害剤が、cFLIPショート、cFLIPロング、ならびにカスパーゼ−8およびカスパーゼ−10関連RINGタンパク質から選選択される請求項7記載の使用。
【請求項9】
前記天然の阻害剤に対する阻害剤が、cFLIPショート、cFLIPロング、もしくはカスパーゼ−8およびカスパーゼ−10関連RINGタンパク質に特異的な、siRNAまたはshRNAである請求項7記載の使用。
【請求項10】
薬剤が、皮膚中でカスパーゼ−8活性によって正常には下方調節されるタンパク質のレベルまたは活性の阻害剤である請求項1記載の使用。
【請求項11】
薬剤が、配列番号1、配列番号2、配列番号3、およびそれらの相同ヒト遺伝子から選択される配列によりコードされるタンパク質のレベルまたは活性の阻害剤である請求項10記載の使用。
【請求項12】
薬剤が、配列番号2またはその相同ヒト遺伝子に示される配列によりコードされるタンパク質のレベルまたは活性の阻害剤である請求項11記載の使用。
【請求項13】
薬剤が、配列番号3またはその相同ヒト遺伝子に示される配列によりコードされるタンパク質のレベルまたは活性の阻害剤である請求項11記載の使用。
【請求項14】
阻害剤が、配列番号1、配列番号2、配列番号3またはそれらの相同ヒト遺伝子に示される配列によってコードされるタンパク質に特異的なsiRNAまたはshRNAである請求項11〜13のいずれかに記載の使用。
【請求項15】
薬剤が、皮膚中でカスパーゼ−8によって正常には上方調節されるタンパク質の活性化剤である請求項1記載の使用。
【請求項16】
炎症性皮膚疾患がアトピー性皮膚炎である請求項1〜15のいずれかに記載の使用。
【請求項17】
炎症性皮膚疾患が乾癬である請求項1〜15のいずれかに記載の使用。
【請求項18】
医薬が局所投与用である請求項1〜17のいずれかに記載の使用。
【請求項19】
薬学的に許容され得る担体と、配列番号1、配列番号2、配列番号3およびそれらの相同ヒト遺伝子から選択される配列によりコードされるタンパク質の活性または発現レベルの阻害剤とを含む医薬組成物。
【請求項20】
阻害剤が、配列番号1、配列番号2、配列番号3またはそれらの相同ヒト遺伝子に示される配列によりコードされるタンパク質に特異的なsiRNAまたはshRNAである請求項19記載の医薬組成物。
【請求項21】
薬学的に許容され得る担体と、配列番号2、配列番号3またはそれらの相同ヒト遺伝子によりコードされるタンパク質の活性または発現レベルに対する阻害剤とを含む医薬組成物。
【請求項22】
阻害剤が、配列番号2、配列番号3またはそれらの相同ヒト遺伝子に示される配列によりコードされるタンパク質に特異的なsiRNAまたはshRNAである請求項21記載の医薬組成物。
【請求項23】
アトピー性皮膚炎の治療のための請求項19〜22のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項24】
乾癬の治療のための請求項19〜22のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項25】
個体において、皮膚中のカスパーゼ−8欠損と関連する皮膚疾患、障害または症状、または該皮膚疾患、障害または症状を発症する素因を診断する方法であって、被験体の皮膚のサンプルおよび少なくとも1つの健常対照個体の皮膚のサンプル中の、カスパーゼ−8の発現レベルまたは活性を測定し、および/または、被験体由来の皮膚のサンプルにおけるカスパーゼ−8をコードする核酸の異常を検出する方法であり、該少なくとも1つの健常対照個体のサンプルと比較した、被験体のサンプル中のカスパーゼ−8の活性または発現レベルの減少の検出、および/または被験体におけるカスパーゼ−8をコードする核酸の異常の検出が、被験体における、該皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を示す方法。
【請求項26】
個体において、上皮ケラチノサイトにおけるカスパーゼ−8欠損に関連する皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を診断するための請求項25記載の方法。
【請求項27】
個体において、炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を診断する方法であって、被験体の皮膚サンプルおよび少なくとも1つの健常対照個体の皮膚サンプル中の、配列番号1、配列番号2および配列番号3に示される遺伝子に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルまたは活性を測定することを含み、該少なくとも1つの健常対照個体のサンプルと比較した、被験体のサンプル中の配列番号1、配列番号2および配列番号3で示される遺伝子に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルまたは活性の増加の検出が、被験体における該皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を示す方法。
【請求項28】
個体において、炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を診断する方法であって、被験体の皮膚サンプルおよび少なくとも1つの健常対照個体の皮膚サンプル中の、配列番号2で示される遺伝子に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルまたは活性を測定することを含み、該少なくとも1つの健常対照個体のサンプルと比較した、被験体のサンプル中の配列番号2で示される遺伝子に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルまたは活性の増加の検出が、被験体における該皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を示す方法。
【請求項29】
個体において、炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を診断する方法であって、被験体の皮膚サンプルおよび少なくとも1つの健常対照個体の皮膚サンプル中の、配列番号3に示される遺伝子に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルまたは活性を測定することを含み、該少なくとも1つの健常対照個体のサンプルと比較した、被験体のサンプル中の配列番号3に示される遺伝子に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルまたは活性の増加の検出が、被験体における該皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を示す方法。
【請求項30】
個体において、炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を診断する方法であって、被験体の皮膚サンプルおよび少なくとも1つの健常対照個体の皮膚サンプル中の、ISG15(Glp2)、Cxcl10、C90rf26と呼ばれる9230117N10Rik(IL33)のヒトオルソログ、IL19、Sprr2f、S100a9、IL−6、MMP13、Ccl3またはIL1bから選択されるタンパク質の1つ、またはそれ以上、すなわち2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、もしくは全部の発現レベルまたは活性と、9230117E20Rik(配列番号2)に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質、または2010002N04Rik(配列番号3)に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルまたは活性とを測定することを含み、該少なくとも1つの健常対照個体のサンプルと比較した、被験体のサンプル中のISG15(Glp2)、Cxcl10、C90rf26と呼ばれる9230117N10Rik(IL33)のヒトオルソログ、IL19、Sprr2f、S100a9、IL−6、MMP13、Ccl3またはIL1bから選択されるタンパク質の1つ、またはそれ以上、すなわち2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、もしくは全部の発現レベルまたは活性と、9230117E20Rik(配列番号2)に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質、または2010002N04Rik(配列番号3)に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルまたは活性との増加の検出が、被験体における該皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を示す方法。
【請求項31】
皮膚サンプルにおけるタンパク質の発現レベルまたは活性の測定が、RT−PCR分析、イムノアッセイ、インサイチュハイブリダイゼーション分析および/または酵素活性の測定によりなされる請求項25〜30のいずれかに記載の方法。
【請求項32】
皮膚サンプルが表皮からなる請求項25〜31のいずれかに記載の方法。
【請求項33】
炎症性皮膚疾患がアトピー性皮膚炎である請求項25〜32のいずれかに記載の方法。
【請求項34】
炎症性皮膚疾患が乾癬である請求項25〜32のいずれかに記載の方法。
【請求項35】
炎症性皮膚疾患、障害または症状の動物モデルの作出方法であって、ケラチノサイトにおけるカスパーゼ−8の発現レベルまたは活性が停止されている動物を作り上げることを含む方法。
【請求項36】
カスパーゼ−8の発現レベルの停止が、動物の上皮ケラチノサイトにおいてカスパーゼ−8をノックアウトすることによってなされる請求項35記載の方法。
【請求項37】
カスパーゼ−8活性の停止が、動物において、酵素活性を欠いたカスパーゼ−8突然変異体のトランスジェニック発現を誘導することによってなされる請求項35記載の方法。
【請求項38】
トランスジェニックなカスパーゼ−8突然変異体がBAC−C362Sである請求項37記載の方法。
【請求項39】
炎症性皮膚疾患がアトピー性皮膚炎である請求項35〜38のいずれかに記載の方法。
【請求項40】
炎症性皮膚疾患が乾癬である請求項35〜38のいずれかに記載の方法。
【請求項41】
動物がマウスである請求項35〜40のいずれかに記載の方法。
【請求項42】
皮膚疾患、障害もしくはその症状の病状または経過に関与し、発現レベルまたは活性が皮膚におけるカスパーゼ−8活性によって正常には調節されている標的タンパク質の同定方法であって、カスパーゼ−8の発現レベルまたは活性が停止されている上皮ケラチノサイトを含む皮膚サンプルにおける遺伝子発現のプロファイルを、正常なカスパーゼ−8の発現レベルまたは活性を有する上皮ケラチノサイトを含む皮膚サンプルにおける遺伝子発現のプロファイルと比較する工程、正常なカスパーゼ−8の発現レベルまたは活性を有する上皮ケラチノサイトを含む皮膚サンプルにおいてカスパーゼ−8によってその発現が正常には上方調節または下方調節される遺伝子、およびカスパーゼ−8の発現レベルまたは活性が停止されている上皮ケラチノサイトを含む皮膚サンプルにおいてその発現が下方調節または上方調節される遺伝子をそれぞれ評価する工程を含み、カスパーゼ−8の発現レベルまたは活性が停止されている上皮ケラチノサイトを含むサンプルにおいてその発現が下方調節または上方調節される遺伝子が、該皮膚疾患、障害もしくはその症状の病状または経過に関係する候補標的タンパク質をコードする方法。
【請求項43】
皮膚疾患、障害または症状が炎症性皮膚疾患、障害または症状である請求項42記載の方法。
【請求項44】
疾患がアトピー性皮膚炎である請求項43記載の方法。
【請求項45】
疾患が乾癬である請求項43記載の方法。
【請求項46】
配列番号2に示される遺伝子に相同なヒト遺伝子によってコードされる、炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状の病状または経過に関係する標的タンパク質。
【請求項47】
配列番号3に示される遺伝子に相同なヒト遺伝子によってコードされる、炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状の病状または経過に関係する標的タンパク質。
【請求項48】
皮膚炎症性疾患、障害もしくは症状の治療または予防のための候補化合物をスクリーニングする方法であって、カスパーゼ−8の発現レベルまたは活性を停止したケラチノサイトを含む細胞の培養物を提供すること、該細胞にテスト化合物を導入すること、細胞の培養液中のカルシウム濃度を増加させることによって細胞分化を誘発すること、テスト化合物の存在下または非存在下で、皮膚の分化マーカーおよび/またはp21ARFの発現レベルを測定することを含み、テスト化合物の存在下における皮膚の分化マーカーの発現レベルの増加、および/またはp21ARFの減少が、テスト化合物が該疾患、障害もしくは症状の治療または予防のための候補化合物であることを示す方法。
【請求項49】
分化マーカーが、ケラチン1、フィラグリンおよびロリクリンから選択される請求項48記載の方法。
【請求項50】
皮膚炎症性疾患、障害もしくは症状を治療するための候補化合物の有効性をテストするための方法であって、請求項35〜41のいずれかに記載の方法により作出された動物モデルに候補のテスト化合物を投与すること、および該動物モデルにおいて皮膚の病状の予防または軽減を評価することを含む方法。
【請求項51】
炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状の治療方法であって、治療的に有効量の、(i)カスパーゼ−8またはそのフラグメント、(ii)カスパーゼ−8またはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド、(iii)(ii)のポリヌクレオチドを含む発現ベクター、(iv)カスパーゼ−8のレベルまたは活性の活性化剤、(v)カスパーゼ−8活性化の天然阻害剤に対する阻害剤、(vi)皮膚中でカスパーゼ−8活性によって正常には下方調節されるタンパク質のレベルまたは活性に対する阻害剤、および(vii)皮膚中でカスパーゼ−8により正常に上方調節されるタンパク質のレベルまたは活性に対する活性化剤から選択される分子を、必要としている被験体に投与することを含む方法。
【請求項52】
薬剤が、カスパーゼ−8またはそのフラグメントである請求項51記載の方法。
【請求項53】
薬剤が、カスパーゼ−8またはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチドである請求項51記載の方法。
【請求項54】
薬剤が、カスパーゼ−8またはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド含む発現ベクターである請求項51記載の方法。
【請求項55】
薬剤が、カスパーゼ−8のレベルまたは活性の活性化剤である請求項51記載の方法。
【請求項56】
活性化剤が、FADD、カスパーゼ−6、カスパーゼ−3およびTNF/NGFファミリーの受容体から選択される請求項55記載の方法。
【請求項57】
薬剤が、カスパーゼ−8活性化の天然阻害剤に対する阻害剤である請求項51記載の方法。
【請求項58】
カスパーゼ−8活性化の天然阻害剤が、cFLIPショート、cFLIPロング、ならびにカスパーゼ−8およびカスパーゼ−10関連RINGタンパク質から選択される請求項57記載の方法。
【請求項59】
前記天然阻害剤に対する阻害剤が、cFLIPショート、cFLIPロング、またはカスパーゼ−8およびカスパーゼ−10関連RINGタンパク質に特異的な、siRNAまたはshRNAである請求項58記載の方法。
【請求項60】
薬剤が、皮膚中でカスパーゼ−8活性によって正常には下方調節されるタンパク質のレベルまたは活性に対する阻害剤である請求項51記載の方法。
【請求項61】
薬剤が、配列番号1、配列番号2、配列番号3およびそれらの相同ヒト遺伝子から選択される配列によりコードされるタンパク質のレベルまたは活性に対する阻害剤である請求項60記載の方法。
【請求項62】
薬剤が、配列番号2またはそれらの相同ヒト遺伝子に示される配列によりコードされるタンパク質のレベルまたは活性に対する阻害剤である請求項61記載の方法。
【請求項63】
薬剤が、配列番号3またはそれらの相同ヒト遺伝子に示される配列によりコードされるタンパク質のレベルまたは活性に対する阻害剤である請求項61記載の方法。
【請求項64】
阻害剤が、配列番号1、配列番号2、配列番号3またはそれらの相同ヒト遺伝子に示される配列によってコードされるタンパク質に特異的な、siRNAまたはshRNAである請求項61〜63のいずれかに記載の方法。
【請求項65】
薬剤が、皮膚中でカスパーゼ−8により正常に上方調節されるタンパク質の活性化剤である請求項51記載の方法。
【請求項66】
炎症性皮膚疾患がアトピー性皮膚炎である請求項51〜65のいずれかに記載の方法。
【請求項67】
炎症性皮膚疾患が乾癬である請求項51〜65のいずれかに記載の方法。
【請求項68】
局所投与のための請求項51〜67のいずれかに記載の方法。
【請求項1】
(i)カスパーゼ−8またはそのフラグメント、(ii)カスパーゼ−8またはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド、(iii)(ii)のポリヌクレオチドを含む発現ベクター、(iv)カスパーゼ−8のレベルまたは活性の活性化剤、(v)カスパーゼ−8活性化の天然の阻害剤に対する阻害剤、(vi)皮膚中でカスパーゼ−8活性によって正常には下方調節されるタンパク質のレベルまたは活性に対する阻害剤、および(vii)皮膚中でカスパーゼ−8活性により正常には上方調節されるタンパク質のレベルまたは活性に対する活性化剤から選択される薬剤の、炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状を治療または予防するための医薬の製造における使用。
【請求項2】
薬剤がカスパーゼ−8またはそのフラグメントである請求項1記載の使用。
【請求項3】
薬剤がカスパーゼ−8またはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチドである請求項1記載の使用。
【請求項4】
薬剤が、カスパーゼ−8またはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターである請求項1記載の使用。
【請求項5】
薬剤がカスパーゼ−8のレベルまたは活性の活性化剤である請求項1記載の使用。
【請求項6】
活性化剤が、FADD、カスパーゼ−6、カスパーゼ−3および、TNF/NGFファミリーの受容体から選択される請求項5記載の使用。
【請求項7】
薬剤が、カスパーゼ−8活性化の天然の阻害剤に対する阻害剤である請求項1記載の使用。
【請求項8】
カスパーゼ−8活性化の天然の阻害剤が、cFLIPショート、cFLIPロング、ならびにカスパーゼ−8およびカスパーゼ−10関連RINGタンパク質から選選択される請求項7記載の使用。
【請求項9】
前記天然の阻害剤に対する阻害剤が、cFLIPショート、cFLIPロング、もしくはカスパーゼ−8およびカスパーゼ−10関連RINGタンパク質に特異的な、siRNAまたはshRNAである請求項7記載の使用。
【請求項10】
薬剤が、皮膚中でカスパーゼ−8活性によって正常には下方調節されるタンパク質のレベルまたは活性の阻害剤である請求項1記載の使用。
【請求項11】
薬剤が、配列番号1、配列番号2、配列番号3、およびそれらの相同ヒト遺伝子から選択される配列によりコードされるタンパク質のレベルまたは活性の阻害剤である請求項10記載の使用。
【請求項12】
薬剤が、配列番号2またはその相同ヒト遺伝子に示される配列によりコードされるタンパク質のレベルまたは活性の阻害剤である請求項11記載の使用。
【請求項13】
薬剤が、配列番号3またはその相同ヒト遺伝子に示される配列によりコードされるタンパク質のレベルまたは活性の阻害剤である請求項11記載の使用。
【請求項14】
阻害剤が、配列番号1、配列番号2、配列番号3またはそれらの相同ヒト遺伝子に示される配列によってコードされるタンパク質に特異的なsiRNAまたはshRNAである請求項11〜13のいずれかに記載の使用。
【請求項15】
薬剤が、皮膚中でカスパーゼ−8によって正常には上方調節されるタンパク質の活性化剤である請求項1記載の使用。
【請求項16】
炎症性皮膚疾患がアトピー性皮膚炎である請求項1〜15のいずれかに記載の使用。
【請求項17】
炎症性皮膚疾患が乾癬である請求項1〜15のいずれかに記載の使用。
【請求項18】
医薬が局所投与用である請求項1〜17のいずれかに記載の使用。
【請求項19】
薬学的に許容され得る担体と、配列番号1、配列番号2、配列番号3およびそれらの相同ヒト遺伝子から選択される配列によりコードされるタンパク質の活性または発現レベルの阻害剤とを含む医薬組成物。
【請求項20】
阻害剤が、配列番号1、配列番号2、配列番号3またはそれらの相同ヒト遺伝子に示される配列によりコードされるタンパク質に特異的なsiRNAまたはshRNAである請求項19記載の医薬組成物。
【請求項21】
薬学的に許容され得る担体と、配列番号2、配列番号3またはそれらの相同ヒト遺伝子によりコードされるタンパク質の活性または発現レベルに対する阻害剤とを含む医薬組成物。
【請求項22】
阻害剤が、配列番号2、配列番号3またはそれらの相同ヒト遺伝子に示される配列によりコードされるタンパク質に特異的なsiRNAまたはshRNAである請求項21記載の医薬組成物。
【請求項23】
アトピー性皮膚炎の治療のための請求項19〜22のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項24】
乾癬の治療のための請求項19〜22のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項25】
個体において、皮膚中のカスパーゼ−8欠損と関連する皮膚疾患、障害または症状、または該皮膚疾患、障害または症状を発症する素因を診断する方法であって、被験体の皮膚のサンプルおよび少なくとも1つの健常対照個体の皮膚のサンプル中の、カスパーゼ−8の発現レベルまたは活性を測定し、および/または、被験体由来の皮膚のサンプルにおけるカスパーゼ−8をコードする核酸の異常を検出する方法であり、該少なくとも1つの健常対照個体のサンプルと比較した、被験体のサンプル中のカスパーゼ−8の活性または発現レベルの減少の検出、および/または被験体におけるカスパーゼ−8をコードする核酸の異常の検出が、被験体における、該皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を示す方法。
【請求項26】
個体において、上皮ケラチノサイトにおけるカスパーゼ−8欠損に関連する皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を診断するための請求項25記載の方法。
【請求項27】
個体において、炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を診断する方法であって、被験体の皮膚サンプルおよび少なくとも1つの健常対照個体の皮膚サンプル中の、配列番号1、配列番号2および配列番号3に示される遺伝子に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルまたは活性を測定することを含み、該少なくとも1つの健常対照個体のサンプルと比較した、被験体のサンプル中の配列番号1、配列番号2および配列番号3で示される遺伝子に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルまたは活性の増加の検出が、被験体における該皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を示す方法。
【請求項28】
個体において、炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を診断する方法であって、被験体の皮膚サンプルおよび少なくとも1つの健常対照個体の皮膚サンプル中の、配列番号2で示される遺伝子に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルまたは活性を測定することを含み、該少なくとも1つの健常対照個体のサンプルと比較した、被験体のサンプル中の配列番号2で示される遺伝子に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルまたは活性の増加の検出が、被験体における該皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を示す方法。
【請求項29】
個体において、炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を診断する方法であって、被験体の皮膚サンプルおよび少なくとも1つの健常対照個体の皮膚サンプル中の、配列番号3に示される遺伝子に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルまたは活性を測定することを含み、該少なくとも1つの健常対照個体のサンプルと比較した、被験体のサンプル中の配列番号3に示される遺伝子に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルまたは活性の増加の検出が、被験体における該皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を示す方法。
【請求項30】
個体において、炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を診断する方法であって、被験体の皮膚サンプルおよび少なくとも1つの健常対照個体の皮膚サンプル中の、ISG15(Glp2)、Cxcl10、C90rf26と呼ばれる9230117N10Rik(IL33)のヒトオルソログ、IL19、Sprr2f、S100a9、IL−6、MMP13、Ccl3またはIL1bから選択されるタンパク質の1つ、またはそれ以上、すなわち2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、もしくは全部の発現レベルまたは活性と、9230117E20Rik(配列番号2)に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質、または2010002N04Rik(配列番号3)に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルまたは活性とを測定することを含み、該少なくとも1つの健常対照個体のサンプルと比較した、被験体のサンプル中のISG15(Glp2)、Cxcl10、C90rf26と呼ばれる9230117N10Rik(IL33)のヒトオルソログ、IL19、Sprr2f、S100a9、IL−6、MMP13、Ccl3またはIL1bから選択されるタンパク質の1つ、またはそれ以上、すなわち2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、もしくは全部の発現レベルまたは活性と、9230117E20Rik(配列番号2)に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質、または2010002N04Rik(配列番号3)に相同なヒト遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルまたは活性との増加の検出が、被験体における該皮膚疾患、障害もしくは症状、または該皮膚疾患、障害もしくは症状を発症する素因を示す方法。
【請求項31】
皮膚サンプルにおけるタンパク質の発現レベルまたは活性の測定が、RT−PCR分析、イムノアッセイ、インサイチュハイブリダイゼーション分析および/または酵素活性の測定によりなされる請求項25〜30のいずれかに記載の方法。
【請求項32】
皮膚サンプルが表皮からなる請求項25〜31のいずれかに記載の方法。
【請求項33】
炎症性皮膚疾患がアトピー性皮膚炎である請求項25〜32のいずれかに記載の方法。
【請求項34】
炎症性皮膚疾患が乾癬である請求項25〜32のいずれかに記載の方法。
【請求項35】
炎症性皮膚疾患、障害または症状の動物モデルの作出方法であって、ケラチノサイトにおけるカスパーゼ−8の発現レベルまたは活性が停止されている動物を作り上げることを含む方法。
【請求項36】
カスパーゼ−8の発現レベルの停止が、動物の上皮ケラチノサイトにおいてカスパーゼ−8をノックアウトすることによってなされる請求項35記載の方法。
【請求項37】
カスパーゼ−8活性の停止が、動物において、酵素活性を欠いたカスパーゼ−8突然変異体のトランスジェニック発現を誘導することによってなされる請求項35記載の方法。
【請求項38】
トランスジェニックなカスパーゼ−8突然変異体がBAC−C362Sである請求項37記載の方法。
【請求項39】
炎症性皮膚疾患がアトピー性皮膚炎である請求項35〜38のいずれかに記載の方法。
【請求項40】
炎症性皮膚疾患が乾癬である請求項35〜38のいずれかに記載の方法。
【請求項41】
動物がマウスである請求項35〜40のいずれかに記載の方法。
【請求項42】
皮膚疾患、障害もしくはその症状の病状または経過に関与し、発現レベルまたは活性が皮膚におけるカスパーゼ−8活性によって正常には調節されている標的タンパク質の同定方法であって、カスパーゼ−8の発現レベルまたは活性が停止されている上皮ケラチノサイトを含む皮膚サンプルにおける遺伝子発現のプロファイルを、正常なカスパーゼ−8の発現レベルまたは活性を有する上皮ケラチノサイトを含む皮膚サンプルにおける遺伝子発現のプロファイルと比較する工程、正常なカスパーゼ−8の発現レベルまたは活性を有する上皮ケラチノサイトを含む皮膚サンプルにおいてカスパーゼ−8によってその発現が正常には上方調節または下方調節される遺伝子、およびカスパーゼ−8の発現レベルまたは活性が停止されている上皮ケラチノサイトを含む皮膚サンプルにおいてその発現が下方調節または上方調節される遺伝子をそれぞれ評価する工程を含み、カスパーゼ−8の発現レベルまたは活性が停止されている上皮ケラチノサイトを含むサンプルにおいてその発現が下方調節または上方調節される遺伝子が、該皮膚疾患、障害もしくはその症状の病状または経過に関係する候補標的タンパク質をコードする方法。
【請求項43】
皮膚疾患、障害または症状が炎症性皮膚疾患、障害または症状である請求項42記載の方法。
【請求項44】
疾患がアトピー性皮膚炎である請求項43記載の方法。
【請求項45】
疾患が乾癬である請求項43記載の方法。
【請求項46】
配列番号2に示される遺伝子に相同なヒト遺伝子によってコードされる、炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状の病状または経過に関係する標的タンパク質。
【請求項47】
配列番号3に示される遺伝子に相同なヒト遺伝子によってコードされる、炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状の病状または経過に関係する標的タンパク質。
【請求項48】
皮膚炎症性疾患、障害もしくは症状の治療または予防のための候補化合物をスクリーニングする方法であって、カスパーゼ−8の発現レベルまたは活性を停止したケラチノサイトを含む細胞の培養物を提供すること、該細胞にテスト化合物を導入すること、細胞の培養液中のカルシウム濃度を増加させることによって細胞分化を誘発すること、テスト化合物の存在下または非存在下で、皮膚の分化マーカーおよび/またはp21ARFの発現レベルを測定することを含み、テスト化合物の存在下における皮膚の分化マーカーの発現レベルの増加、および/またはp21ARFの減少が、テスト化合物が該疾患、障害もしくは症状の治療または予防のための候補化合物であることを示す方法。
【請求項49】
分化マーカーが、ケラチン1、フィラグリンおよびロリクリンから選択される請求項48記載の方法。
【請求項50】
皮膚炎症性疾患、障害もしくは症状を治療するための候補化合物の有効性をテストするための方法であって、請求項35〜41のいずれかに記載の方法により作出された動物モデルに候補のテスト化合物を投与すること、および該動物モデルにおいて皮膚の病状の予防または軽減を評価することを含む方法。
【請求項51】
炎症性皮膚疾患、障害もしくは症状の治療方法であって、治療的に有効量の、(i)カスパーゼ−8またはそのフラグメント、(ii)カスパーゼ−8またはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド、(iii)(ii)のポリヌクレオチドを含む発現ベクター、(iv)カスパーゼ−8のレベルまたは活性の活性化剤、(v)カスパーゼ−8活性化の天然阻害剤に対する阻害剤、(vi)皮膚中でカスパーゼ−8活性によって正常には下方調節されるタンパク質のレベルまたは活性に対する阻害剤、および(vii)皮膚中でカスパーゼ−8により正常に上方調節されるタンパク質のレベルまたは活性に対する活性化剤から選択される分子を、必要としている被験体に投与することを含む方法。
【請求項52】
薬剤が、カスパーゼ−8またはそのフラグメントである請求項51記載の方法。
【請求項53】
薬剤が、カスパーゼ−8またはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチドである請求項51記載の方法。
【請求項54】
薬剤が、カスパーゼ−8またはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド含む発現ベクターである請求項51記載の方法。
【請求項55】
薬剤が、カスパーゼ−8のレベルまたは活性の活性化剤である請求項51記載の方法。
【請求項56】
活性化剤が、FADD、カスパーゼ−6、カスパーゼ−3およびTNF/NGFファミリーの受容体から選択される請求項55記載の方法。
【請求項57】
薬剤が、カスパーゼ−8活性化の天然阻害剤に対する阻害剤である請求項51記載の方法。
【請求項58】
カスパーゼ−8活性化の天然阻害剤が、cFLIPショート、cFLIPロング、ならびにカスパーゼ−8およびカスパーゼ−10関連RINGタンパク質から選択される請求項57記載の方法。
【請求項59】
前記天然阻害剤に対する阻害剤が、cFLIPショート、cFLIPロング、またはカスパーゼ−8およびカスパーゼ−10関連RINGタンパク質に特異的な、siRNAまたはshRNAである請求項58記載の方法。
【請求項60】
薬剤が、皮膚中でカスパーゼ−8活性によって正常には下方調節されるタンパク質のレベルまたは活性に対する阻害剤である請求項51記載の方法。
【請求項61】
薬剤が、配列番号1、配列番号2、配列番号3およびそれらの相同ヒト遺伝子から選択される配列によりコードされるタンパク質のレベルまたは活性に対する阻害剤である請求項60記載の方法。
【請求項62】
薬剤が、配列番号2またはそれらの相同ヒト遺伝子に示される配列によりコードされるタンパク質のレベルまたは活性に対する阻害剤である請求項61記載の方法。
【請求項63】
薬剤が、配列番号3またはそれらの相同ヒト遺伝子に示される配列によりコードされるタンパク質のレベルまたは活性に対する阻害剤である請求項61記載の方法。
【請求項64】
阻害剤が、配列番号1、配列番号2、配列番号3またはそれらの相同ヒト遺伝子に示される配列によってコードされるタンパク質に特異的な、siRNAまたはshRNAである請求項61〜63のいずれかに記載の方法。
【請求項65】
薬剤が、皮膚中でカスパーゼ−8により正常に上方調節されるタンパク質の活性化剤である請求項51記載の方法。
【請求項66】
炎症性皮膚疾患がアトピー性皮膚炎である請求項51〜65のいずれかに記載の方法。
【請求項67】
炎症性皮膚疾患が乾癬である請求項51〜65のいずれかに記載の方法。
【請求項68】
局所投与のための請求項51〜67のいずれかに記載の方法。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【公表番号】特表2009−511572(P2009−511572A)
【公表日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−535190(P2008−535190)
【出願日】平成18年10月16日(2006.10.16)
【国際出願番号】PCT/IL2006/001188
【国際公開番号】WO2007/046087
【国際公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(500018608)イエダ リサーチ アンド ディベロップメント カンパニー リミテッド (35)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年10月16日(2006.10.16)
【国際出願番号】PCT/IL2006/001188
【国際公開番号】WO2007/046087
【国際公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(500018608)イエダ リサーチ アンド ディベロップメント カンパニー リミテッド (35)
【Fターム(参考)】
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