説明

炭化ケイ素部材の製造方法

【課題】表面のパーティクルや、微少凹凸を高い除去率で取り除くことができる炭化ケイ素部材の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る炭化ケイ素部材の製造方法では、炭化ケイ素を含む炭化ケイ素部材1を、酸素含有雰囲気中で800〜1200℃の温度範囲で加熱することにより、前記炭化ケイ素部材1の表面2に酸化被膜6を形成する酸化処理工程と、前記炭化ケイ素部材1を酸洗浄することにより、前記酸化被膜6および炭化ケイ素部材1の表面2の少なくとも一部を除去する酸洗浄工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化ケイ素部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、半導体プロセスで用いる炭化ケイ素部材は、表面にパーティクルや、微少凹凸が存在すると表面の平滑性が低下し、被処理体の歩留まり低下を招くため望ましくない。
【0003】
このパーティクルや、微少凹凸を低減するために、特定の酸洗浄(酸処理)を行う方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この方法においては、濃度が0.1wt%のフッ酸溶液を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−26460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述した酸洗浄を行う方法は、ガラス表面の洗浄であるため、耐薬品性が非常に高い炭化ケイ素部材には適用することが困難であり、表面のパーティクルや、微少凹凸の大部分を除去することが困難であった。また、複雑に入り込んだ形状の場合は、研磨などを行うことができなかった。
【0006】
そこで、本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、表面のパーティクルや、微少凹凸を高い除去率で取り除くことができる炭化ケイ素部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した課題を解決するため、本発明は、次のような特徴を有している。
【0008】
まず、本発明の第1の特徴は、炭化ケイ素を含む炭化ケイ素部材(炭化ケイ素部材1)を、酸素含有雰囲気中で800〜1200℃の温度範囲で加熱することにより、前記炭化ケイ素部材の表面(表面2)に酸化被膜(酸化被膜6)を形成する酸化処理工程と、前記炭化ケイ素部材を酸洗浄することにより、前記酸化被膜および炭化ケイ素部材の表面の少なくとも一部を除去する酸洗浄工程と、を有することを要旨とする。
【0009】
このような、炭化ケイ素部材の製造方法によれば、炭化ケイ素部材を酸素含有雰囲気中で加熱して炭化ケイ素部材の表面に酸化被膜を形成するため、表面のパーティクルや、微少凹凸は酸化被膜で覆われる。或いは、炭化珪素を主成分とするパーティクルは、酸化される。従って、これらの酸化被膜およびパーティクルや、微少凹凸は、その後の酸洗浄によって容易に取り除かれるため、炭化ケイ素部材のパーティクル量が低減し、表面の平滑性及び洗浄度が向上する。
【0010】
本発明の他の特徴は、前記酸洗浄は、フッ酸溶液、フッ酸と塩酸との混合溶液、フッ酸と硝酸との混合溶液、および、硝酸などの酸類のいずれかの溶液中に炭化ケイ素部材を浸漬させる処理であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、表面のパーティクルや、微少凹凸を高い除去率で取り除くことができる炭化ケイ素部材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態による炭化ケイ素部材を示す概略図である。
【図2】図1の表面を拡大した詳細図である。
【図3】炭化ケイ素部材に熱処理を施している状態を示す概略図である。
【図4】表面に酸化被膜を形成した炭化ケイ素部材を示す概略図である。
【図5】図4の表面を拡大した詳細図である。
【図6】炭化ケイ素部材に酸洗浄を施している状態を示す概略図である。
【図7】酸洗浄後の炭化ケイ素部材を示す概略図である。
【図8】図7の表面を拡大した詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明に係る炭化ケイ素部材の製造方法の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の図面の記載において、同一または類似の部分には、同一または類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率などは現実のものとは異なることに留意すべきである。
【0014】
したがって、具体的な寸法などは以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0015】
[実施形態]
(1)炭化ケイ素部材の製造方法の概要
本発明に係る炭化ケイ素部材の製造方法は、大まかに、炭化ケイ素部材を酸素含有雰囲気中で熱処理する酸化処理工程と、炭化ケイ素部材を酸洗浄する酸洗浄工程と、を含む。即ち、炭化ケイ素部材を酸素含有雰囲気中で熱処理する酸化処理工程を施して、炭化ケイ素部材の表面に酸化被膜を形成し、酸洗浄をしたのち超音波洗浄を施す。
【0016】
図1は、半導体プロセス等で用いる炭化ケイ素部材を示す概略図である。
【0017】
本実施形態に係る炭化ケイ素部材1には、側面視で上面の中央側に凹部が形成されており、その表面2には、略全面に亘って微小な凸部3が多数連続して形成されている。
【0018】
図2は、図1の表面を拡大した詳細図である。
【0019】
炭化ケイ素部材1の表面2を拡大して微視的に見ると、表面2からパーティクル4と呼ばれる微小な凸部3又は微少粒子3が無数に突出している。このパーティクル4は、炭化ケイ素部材1にプラズマ処理などの特殊処理を施した場合の表面2、又は機械加工における残面の表面2から発生する微粉である。
【0020】
図3は、炭化ケイ素部材に熱処理を施している状態を示す概略図である。
【0021】
具体的には、炉5の内部に炭化ケイ素部材1を収容すると共に、炉内に酸素を含有する気体を充填させて酸素含有雰囲気にして炉内を加熱することにより、酸化処理工程を行う。この酸素含有雰囲気における酸素濃度は、100%よりも少ないことが好ましい。また、炉内の温度は、800〜1200℃が好ましく、温度保持時間は、1〜50時間が好ましい。炉内の温度は、例えば、1000℃に設定される。
【0022】
図4は表面に酸化被膜を形成した炭化ケイ素部材を示す概略図、および、図5は図4の表面を拡大した詳細図である。
【0023】
図4に示すように、炭化ケイ素部材1に形成された多数の凸部3の表面には酸化被膜(SiO)6が形成されている。微視的に見ると、図5に示すように、パーティクル4の表面全体を覆うように酸化被膜6が形成されている。この酸化被膜6の膜厚は、0.01〜1.0μmが好ましい。
【0024】
図6は、炭化ケイ素部材に酸洗浄を施している状態を示す概略図である。
【0025】
容器7の内部に酸洗浄溶液8を入れ、該酸洗浄溶液8中に、表面に酸化被膜6が形成された炭化ケイ素部材1を浸漬させることによって、酸洗浄を行っている。前記酸洗浄溶液8は、フッ酸溶液、フッ酸と塩酸との混合溶液、フッ酸と硝酸との混合溶液、および、硝酸などの酸類のいずれかの溶液が好ましい。
【0026】
図7は酸洗浄後の炭化ケイ素部材を示す概略図、および、図8は図7の表面を拡大した詳細図である。
【0027】
酸洗浄を施すと、図7に示すように、炭化ケイ素部材1の表面2は平滑になり、微視的に見ても、図8に示すように、炭化ケイ素部材1の表面2には僅かのパーティクル4しか残存していない。これは、酸洗浄によって、酸化被膜6で覆われたパーティクル4が効率的に除去されたからである。即ち、パーティクル4のみを酸洗浄するよりも、酸化被膜6とパーティクル4とを一緒に併せて除去した方が効率的な除去を行うことができることを意味する。
【0028】
(2)作用・効果
本実施形態に係る炭化ケイ素部材の製造方法では、炭化ケイ素を含む炭化ケイ素部材1を、酸素含有雰囲気中で800〜1200℃の温度範囲で加熱することにより、前記炭化ケイ素部材1の表面2に酸化被膜6を形成する酸化処理工程と、前記炭化ケイ素部材1を酸洗浄することにより、前記酸化被膜6および炭化ケイ素部材1の表面2の少なくとも一部を除去する酸洗浄工程と、を有する。
【0029】
炭化ケイ素部材1を酸素含有雰囲気中で加熱して炭化ケイ素部材1の表面2に酸化被膜6を形成するため、表面2のパーティクル4は酸化被膜6で覆われる。従って、これらの酸化被膜6およびパーティクル4は、その後の酸洗浄によって容易に取り除かれるため、炭化ケイ素部材1のパーティクル量が低減し、表面2の平滑性が向上する。
【0030】
本実施形態では、前記酸洗浄は、フッ酸溶液、フッ酸と塩酸との混合溶液、フッ酸と硝酸との混合溶液、および、硝酸などの酸類のいずれかの溶液中に炭化ケイ素部材を浸漬させる処理である。
【0031】
従って、研削等の機械加工によってパーティクルを取り除く工法に比較して、部材の形状を問わずにパーティクルや、微少凹凸を除去して表面の平滑性が得られる。また、酸洗浄には、HFガスへの曝露、F系プラズマ処理などが考えられるが、酸溶液への浸漬が最も酸化被膜を溶解させる効率が良い。
【0032】
(3)比較評価
以下に、本発明について、実施例を通してさらに具体的に説明する。
【0033】
比較例は、炭化ケイ素部材を酸洗浄したのちに超音波純水洗浄を施した。実施例は、比較例に対して、炭化ケイ素部材に熱処理をする酸化処理工程を追加した。以下、具体的に説明する。
【0034】
[実施例]
炉内を、温度が1000℃、圧力が常圧、酸素濃度が100%の酸素雰囲気とした。炉内に炭化ケイ素部材を30時間収容して熱処理(酸化処理工程)を行った。
【0035】
次に、前記炭化ケイ素部材を、フッ酸15%と硝酸15%の混合溶液中に12時間浸漬したのち、超音波純水洗浄を1時間施した。
【0036】
得られた炭化ケイ素部材を、CF4/Oプラズマを用いたプラズマ処理装置内に暴露し、その間、リアルタイムにパーティクル量を測定できるように、装置に取り付けられたパーティクルモニターでパーティクル量をカウントする。
【0037】
その結果、0.5μm以上のパーティクルや、微少凹凸が検出されなかったため、実施例の処理によって、パーティクルや、微少凹凸発生源を大幅に低減できたことが判明した。
【0038】
[比較例]
炭化ケイ素部材を、フッ酸15%と硝酸15%の混合溶液中に12時間浸漬したのち、超音波純水洗浄を1時間施した。
【0039】
得られた炭化ケイ素部材を、CF4/Oプラズマを用いたプラズマ処理装置内に暴露し、その間、パーティクルモニターでパーティクル量をカウントする。
【0040】
その結果、0.5μm以上のパーティクルや、微少凹凸が多量に検出されたため、比較例の処理によって、パーティクルや、微少凹凸発生源を大幅に低減できないことが判明した。
【符号の説明】
【0041】
1…炭化ケイ素部材
2…表面
3…パーティクル
6…酸化被膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化ケイ素を含む炭化ケイ素部材を、酸素含有雰囲気中で800〜1200℃の温度範囲で加熱することにより、前記炭化ケイ素部材の表面に酸化被膜を形成する酸化処理工程と、
前記炭化ケイ素部材を酸洗浄することにより、前記酸化被膜および炭化ケイ素部材の表面の少なくとも一部を除去する酸洗浄工程と、を有することを特徴とする炭化ケイ素部材の製造方法。
【請求項2】
前記酸洗浄は、フッ酸溶液、フッ酸と塩酸との混合溶液、フッ酸と硝酸との混合溶液、および、硝酸などの酸類のいずれかの溶液中に炭化ケイ素部材を浸漬させる処理であることを特徴とする請求項1に記載の炭化ケイ素部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−51812(P2011−51812A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200575(P2009−200575)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】