説明

炭化水素部分酸化用金触媒

本発明は、含酸素有機化合物を高い転化率で製造でき、しかも含酸素有機化合物の選択率や水素の利用効率が高い触媒を提供することを目的とする。
平均孔径が4nm以上のチタン含有珪酸塩の多孔体に金ナノ粒子を固定化することにより炭化水素部分酸化用触媒を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素部分酸化用触媒に関する。また、本発明は、該触媒を使用する含酸素有機化合物の製造方法、並びに該触媒の再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸素を用いて炭化水素を含酸素有機化合物に変換する方法は、極めて有益な技術であり、これまで近代化学産業に対して多くの恩恵を与えてきた。しかしながら、有用な化合物であるアルコールおよびケトンを飽和炭化水素から、また、エポキシドを不飽和炭化水素から、それぞれ直接得ることは、一部の例外を除いて一般に困難であるとされている。例えば、分子状酸素を酸化剤として用いて飽和炭化水素をアルコールおよびケトンへ転換する技術では、シクロヘキサンを原料とするシクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンの製造が工業的に実施されているのみである。また、不飽和炭化水素のエポキシドへの転換についても、エチレンからエチレンオキシドの製造や、ブタジエンからブタジエンモノオキシドの製造が工業的に実施されているが、他の不飽和炭化水素からのエポキシドの製造、例えばプロピレンからのプロピレンオキシドの一段階での合成等は、非常に困難であるとされている。
【0003】
これまでに、一段階で炭化水素をエポキシド、アルコール、ケトン等の含酸素有機化合物に変換することを可能とする触媒として、金−酸化チタン(特許文献1参照)や金微粒子を固定化したチタン含有珪酸塩(特許文献2参照)が報告されている。これらの触媒を用いて水素の共存下で含酸素有機化合物の合成を行うことにより、(i)酸素化合物の合成の選択率が高くなる、(ii)水以外は副生成物が生じないため、目的の含酸素有機化合物の精製が容易であり、しかも環境への負荷が少ない、等という利点が得られる。特に、後者の触媒は、前者の触媒に比べて、長期間安定に転化率を維持できる点で優れている。
【0004】
しかしながら、これらの触媒は、工業的生産への実用化を視野に入れると、反応効率、特に炭化水素の転化率や水素の利用効率の点で、更なる改善が望まれる。また、工業的に使用される触媒には、触媒活性が低減した場合に、その活性を回復するための有効な再生方法が確立されていることが望まれている。
【特許文献1】特開平8−127550号公報
【特許文献2】特開平11−76820号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、含酸素有機化合物を高い転化率で合成でき、しかも含酸素有機化合物の選択率や水素の利用効率が高い触媒を提供することを目的とするものである。
【0006】
また、本発明は、酸素と水素存在下での炭化水素の酸化反応において、高い転化率に加えて、含酸素有機化合物の選択率が高く、良好な水素の利用効率で、含酸素有機化合物を合成できる方法を提供することを目的とするものである。
【0007】
更に、本発明は、上記触媒の効率的な再生方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、孔径が4nm以上のチタン含有珪酸塩に金ナノ粒子を固体化した触媒、及び金ナノ粒子を固定化したチタン含有珪酸塩をシランカップリング剤で修飾することにより得られる触媒は、酸素及び水素の存在下で炭化水素を部分酸化する反応において、含酸素有機化合物の選択性に優れており、しかも含酸素有機化合物の転化率や水素の利用効率が高いことを見出した。また、上記の触媒を用いて、酸素及び水素の存在下に炭化水素を部分酸化することによって、高い転化率に加えて、選択性も高く、良好な水素の利用効率で、エポキシド、アルコール、ケトン等の含酸素有機化合物を得ることができることを見出した。また、当該触媒が使用によって触媒活性が低減した場合、酸素、水素及びアルゴンガスを含有する混合ガスを用いて処理することによって、該触媒活性が効果的に回復されることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねて完成されたものである。
【0009】
即ち、本発明は、下記に掲げる炭化水素部分酸化用触媒である:
項1. 平均孔径が4nm以上のチタン含有珪酸塩の多孔体に金ナノ粒子を固定化した炭化水素部分酸化用触媒。
項2. チタン含有珪酸塩の細孔構造がスポンジ状構造である、項1に記載の炭化水素部分酸化用触媒。
項3. チタン含有珪酸塩の多孔体の平均孔径が4〜50nmである、項1に記載の炭化水素部分酸化用触媒。
項4. チタン含有珪酸塩におけるTiとSiの原子比率(Ti/Si)が、1/10000〜20/100である、項1に記載の炭化水素部分酸化用触媒。
項5. 金ナノ粒子を固定化したチタン含有珪酸塩がシランカップリング剤で修飾されている、炭化水素部分酸化用触媒。
項6. 更に、アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物を担持させたものである、項5に記載の炭化水素部分酸化用触媒。
項7. 硝酸バリウム、硝酸マグネシウム及び硝酸カルシウムよりなる群から選択される少なくとも1種の化合物が担持されたものである、項6に記載の炭化水素部分酸化用触媒。
項8. チタン含有珪酸塩の多孔体の平均孔径が4〜50nmである、項5に記載の炭化水素部分酸化用触媒。
項9. チタン含有珪酸塩におけるTiとSiの原子比率(Ti/Si)が、1/10000〜20/100である、項5に記載の炭化水素部分酸化用触媒。
項10. シランカップリング剤が、メトキシトリメチルシラン、メトキシトリエチルシラン、メトキシトリイロプルシラン、エトキシトリメチルシラン、エトキシトリエチルシラン、エトキシトリイロプルシラン、トリメチルシリルトリフルオロメタンスルホネート及びトリエチルシリルトリフルオロメタンスルホネートよりなる群から選択される少なくとも1種である、項5に記載の炭化水素部分酸化用触媒。
項11. 金ナノ粒子が固定化されたチタン含有珪酸塩100重量部に対して、アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物が、0.001〜10重量部の割合で担持されている、項6に記載の炭化水素部分酸化用触媒。
【0010】
また、本発明は、下記に掲げる含酸素有機化合物の製造方法である:
項12. 項1〜11のいずれかに記載の炭化水素部分酸化用触媒を用いて、水素及び酸素の存在下で、炭化水素を酸化することを特徴とする含酸素有機化合物の製造方法。
項13. 不飽和炭化水素を部分酸化してエポキシドを製造する方法である、項12に記載の方法。
項14. 炭化水素が、炭素数3〜12の飽和炭化水素又は炭素数2〜12の不飽和炭化水素である、項12に記載の製造方法。
項15. 炭化水素の酸化を0〜300℃の温度条件下で行う、項12に記載の製造方法。
【0011】
更に本発明は、下記に掲げる炭化水素部分酸化用触媒の再生方法である:
項16. 項1〜11のいずれかに記載の炭化水素部分酸化用触媒の再生方法であって、酸素及び水素を含有する混合ガスを用いて、該炭化水素部分酸化用触媒を処理することを特徴とする、炭化水素部分酸化用触媒の再生方法。
項17. 上記混合ガスによる処理を100〜400℃で行う、項16に記載の再生方法。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、チタン含有珪酸塩の細孔構造の一例である、一次元のチャンネル構造を持つ細孔が六方構造に配列している構造(ヘキサゴナル構造)を示す図である。
【図2】図2は、チタン含有珪酸塩の細孔構造の一例である、一次元のチャンネル構造を持つ細孔が不規則に集合している構造(不規則構造)を示す図である。
【図3】図3は、チタン含有珪酸塩の細孔構造の一例である、一次元のチャンネル構造を持つ細孔が3次元的に連結している構造(キュービック構造)を示す図である。
【図4】図4は、チタン含有珪酸塩の細孔構造の一例である、細孔が三次元的に不規則に連貫しているスポンジ状の構造(スポンジ状構造)を示す図(透過型電子顕微鏡写真)である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明において、「含酸素有機化合物」とは、炭化水素を部分酸化して得られる有機化合物、具体的にはアルコール、ケトン、エポキシド等のことを意味する。「炭化水素の転化率」とは、原料となる炭化水素の内、反応によって消費される炭化水素の割合(モル比)(%)を示す。「含酸素有機化合物の選択率」とは、反応によって消費された炭化水素の内、含酸素有機化合物に変換されたものの割合(モル比)(%)を示す。「含酸素有機化合物の収率」とは、原料となる炭化水素に対して、生成した含酸素有機化合物の割合(モル比)(%)を示す。「水素の転化率」とは、反応に供した水素の内、反応によって消費される水素の割合(モル比)(%)を示す。以下に、本発明を詳細に説明する。
【0014】
(1)炭化水素部分酸化用触媒
(1−1)本発明の炭化水素部分酸化用触媒は、平均孔径が4nm以上のチタン含有珪酸塩の多孔体に金ナノ粒子が固定化されていることを特徴とするものである。以下、当該炭化水素部分酸化用触媒について詳細に説明する。
【0015】
本発明において、金ナノ粒子とは、平均粒径が10nm以下の金微粒子のことである。
【0016】
本発明の触媒において、金ナノ粒子は、平均粒子径が2〜5nmの範囲内であることが好ましい。このような金ナノ粒子が、チタン含有珪酸塩の担体に強固に固定化されて、担持されていることが望ましい。金の粒子径が10nmよりも著しく大きい場合には、その比表面積が小さくなりすぎて、炭化水素の転化率が低くなってしまう傾向がみられる。一方、2nmより著しく小さくなると、金属としての金の性質が失われ、不飽和炭化水素の水素化反応が優先的に進行し、部分酸化反応が進まなくなる傾向が現れることがある。
【0017】
本発明の触媒における金ナノ粒子の含有割合は、チタン含有珪酸塩100重量部に対して、0.001重量部以上が好ましく、0.01〜20重量部の範囲内がより好ましく、0.05〜10重量部の範囲内がさらに好ましい。金ナノ粒子の担持割合が0.001重量部より著しく少ないと触媒の活性が低下するので好ましくない。一方、金の担持割合を20重量部より多くしても、金を上記の範囲内で担持させた場合と比較して、触媒の活性に違いはない。
【0018】
本発明の触媒には、平均孔径が4nm以上のチタン含有珪酸塩の多孔体を使用する。好ましくは5nm以上、更に好ましくは7nm以上のチタン含有珪酸塩の多孔体である。
上記範囲内の平均孔径のチタン含有珪酸塩を使用することにより、含酸素有機化合物の転化率を向上させることが可能となる。当該チタン含有珪酸塩の多孔体の平均孔径の上限については、特に制限されないが、通常50nm、好ましくは30nmを挙げることができる。当該チタン含有珪酸塩の多孔体の平均孔径の一例として、4〜50nm、好ましくは4〜30nm、更に好ましくは7〜30nmとなる範囲を例示できる。なお、本発明において、平均孔径は、窒素吸着法による測定値とする。
【0019】
チタン含有珪酸塩の多孔体とは、チタン原子を構成成分として含有する珪酸塩の多孔体のことである。該チタン含有珪酸塩の多孔体において、チタン原子は、珪酸塩の中で孤立分散した状態であることが望ましい。
【0020】
チタン含有珪酸塩の種類は、特に限定されない。一例として、ゼオライト系材料のアルミニウムの一部がチタンで置き換わってチタンがゼオライト格子内に組み込まれたもの、シリカの一部をチタン原子で置換したもの、チタンとシリコンの複合酸化物等を挙げることができる。また、これらのチタン含有珪酸塩上に微少量の酸化チタンが高分散担持されてなるものを用いることもできる。
【0021】
チタン含有珪酸塩の細孔構造については、特に制限されるものではない。チタン含有珪酸塩の細孔構造の一例として、一次元のチャンネル構造を持つ細孔が六方構造に配列している構造(以下、該構造をヘキサゴナル構造という)(図1参照)、一次元のチャンネル構造を持つ細孔が不規則に集合している構造(以下、該構造を不規則構造という)(図2参照)、一次元のチャンネル構造を持つ細孔が3次元的に連結している構造(以下、該構造をキュービック構造という)(図3参照)、並びに細孔が三次元的に不規則に連貫しているスポンジ状の構造(以下、該構造をスポンジ状構造という)(図4参照)等を挙げることができる。好ましくはスポンジ状構造のチタン含有珪酸塩である。スポンジ状構造のチタン含有珪酸塩を用いることによって、より高い転化率で含酸素有機化合物を得ることが可能となる。
【0022】
チタン含有珪酸塩の形状は、特に限定されるものではなく、粉体状であってもよく、また他の各種の形状に成形したものであってもよい。
【0023】
チタン含有珪酸塩におけるチタンの含有量は、TiとSiの原子比率(以下、「Ti/Si」と表記する)に換算して、1/10000〜20/100の範囲内が好ましく、1/100〜10/100の範囲内がより好ましい。チタンの含有量がTi/Si=1/10000よりも著しく少ないと、シリカ単独の担体を用いた場合と同様の触媒特性となり、炭化水素の選択酸化が起きないので不適切である。一方、チタンの含有量をTi/Si=20/100より著しく多くすると、酸化チタンをシリカ上に担持した担体と同様の触媒特性となり、触媒活性の経時劣化を避けることができないので好ましくない。
【0024】
本発明に使用されるチタン含有珪酸塩の製造は、その孔径や細孔構造等に応じて、公知の製造方法に従って、行うことができる。
【0025】
スポンジ状構造のチタン含有珪酸塩の製造方法の具体例としては、例えば、ゾルゲル法又はその改良方法(例えば、S. A. Bagshaw等、Science、1995年、第269巻、第1242頁;及びZ. Shang等、Chem. Eur. J.、2001年、第7巻、第1437頁)を挙げることができる。また、細孔構造がヘキサゴナル構造、不規則構造又はキュービック構造のチタン含有珪酸塩の製造方法の具体例としては、例えば、水熱合成法(例えば、辰巳等、特開平7-300312号公報;K. Koyano 等、Stud. Surf. Sci. Catal.、1997年、第105巻、第93頁)を挙げることができる。
【0026】
上記チタン含有珪酸塩は、触媒の活性をより向上させるために、予め成形された支持体に固定化した状態で用いることもできる。支持体としては、チタンを含まない金属酸化物や各種金属からなる材料を用いることができる。具体例としては、アルミナ(酸化アルミニウム:Al23)、シリカ(二酸化珪素:SiO2)、マグネシア(酸化マグネシウム:MgO)、コージエライト、酸化ジルコニウム、これらの複合酸化物等からなるセラミックス、各種金属からなる発泡体、各種金属からなるハニカム担体、各種金属のペレット等が挙げられる。
【0027】
上記支持体としては、アルミナ及びシリカの少なくとも一種を含有するものが好ましく、シリカを含有するものが特に好ましい。ここで、「アルミナおよびシリカを含有する」とは、ゼオライト(アルミノシリケート)やシリカアルミナを含有する場合も含むこととする。
【0028】
上記支持体の結晶構造、形状、大きさ等は、特に限定されるものではないが、比表面積が50m2/g以上であることが好ましく、100m2/g以上であることがより好ましい。支持体の比表面積が50m2/g以上である場合には、遂次酸化等の副反応がより一層抑制され、効率的に炭化水素類を部分酸化することができ、触媒性能がより一層向上する。
【0029】
チタン含有珪酸塩を支持体に固定化して用いる場合には、チタン含有珪酸塩の量は、支持体を基準として1〜20重量%程度であることが好ましい。チタン含有珪酸塩をシリカやアルミナ等の担体に担持させるには、例えば、アルコキシドを用いたゾル−ゲル法、混練法、コーティング法などの方法を適用することができ、これらの方法によって、いわゆる島状構造をなすように分散させて担持させることができる。
【0030】
以下に、本発明の触媒の製造方法について説明する。
【0031】
本発明触媒の製造方法としては、金ナノ粒子をチタン含有珪酸塩に固定化できる方法であれば、特に限定されない。
【0032】
該触媒の製造方法の具体例としては、例えば、特開平7−8797号公報に記載の析出沈殿法や、特開平9−122478号広報に記載の蒸着法、含浸法等を挙げることができるが、特に限定されるものではない。以下に上記方法のうち、析出沈殿法で金ナノ粒子をチタン含有珪酸塩に固定化する手順について説明する。
【0033】
まず、金化合物を含有する水溶液を調製し、30〜100℃の範囲内、より好ましくは50〜95℃の範囲内に加温した後、攪拌しながら、アルカリ水溶液を用いて上記水溶液のpHを6〜12の範囲内、より好ましくは7〜10の範囲内に調整する。次に、この水溶液にチタン含有珪酸塩を、上記温度で攪拌しながら、一度に、若しくは数分以内に数回に分けて投入する。
【0034】
チタン含有珪酸塩を投入した後、所定時間、上記温度で攪拌を続けることにより、当該チタン含有珪酸塩の表面に金水酸化物が付着(析出沈殿)してなる固形物(金ナノ粒子固定化物)が得られる。当該固形物を濾別して取り出し、水洗した後、100〜800℃の範囲で空気中で焼成する。これにより、金微粒子がチタン含有珪酸塩に担持される。
【0035】
上記のアルカリ水溶液を構成するアルカリ成分としては、具体的には、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、アンモニア、テトラメチルアンモニウム等が挙げられる。
【0036】
上記の金化合物としては、具体的には、塩化金酸(HAuCl4)、塩化金酸ナトリウム(NaAuCl4)、シアン化金(AuCN)、シアン化金カリウム{K〔Au(CN)2〕}、三塩化ジエチルアミン金酸〔(C252 NH・AuCl3 〕等の水溶性金塩が例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
滴下時に用いる金化合物含有水溶液における金の濃度は特に限定されないが、金が通常0.1〜0.001mol/l程度含まれているものが適当である。
【0038】
チタン含有珪酸塩の水中への添加量は、特に限定はなく、例えば粉体状のチタン含有珪酸塩を用いる場合には、それを水中に均一に分散乃至縣濁できるような量であればよく、通常10〜200g/l程度が適当である。また、チタン含有珪酸塩を成形体として用いる場合には、成形体の形状に応じて、その表面に水溶液が充分に接触できる状態であれば、添加量は、特に限定されない。
【0039】
また、本発明の触媒は、特開平9−122478号公報に記載された有機金錯体の蒸気を用いる金超微粒子固定化物質の製造方法に準じた方法で製造することもできる。以下、この方法について簡単に説明する。
【0040】
この方法では、気化した有機金錯体を、チタン含有珪酸塩に減圧下で吸着させた後、100〜700℃に加熱することにより金ナノ粒子を固定化したチタン含有珪酸塩を得ることができる。
【0041】
有機金錯体としては、揮発性を有するものであれば特に制限されず、例えば(CH32Au(CH3COCHCOCH3)、(CH32Au(CF3COCHCOCH3)、(CH32Au(CF3COCHCOCF3)、(C252Au(CH3COCHCOCH3)、(CH32Au(C65OOCHCOCF3)、CH32AuP(CH33及びCH3AuP(CH33等の少なくとも1種を用いることができる。
【0042】
なお、チタン含有珪酸塩は、予め200℃程度で加熱処理することにより、表面にある水分等を除去して用いることもできる。
【0043】
有機金錯体の気化は、加熱により行うことができる。加熱温度は、急激な気化と吸着或いは分解を起こさないようにすれば特に制限はなく、通常0〜90℃程度とする。また、上記気化は、減圧下で行うこともでき、この場合に圧力としては通常1×10−4〜2×10−3Torr程度とすれば良い。
【0044】
気化した有機金錯体は、減圧下でチタン含有珪酸塩に吸着させる。本発明でいう「減圧下」とは、大気圧よりも低ければ良いが、通常1×10−4〜200Torr程度の圧力をいう。有機金錯体の導入量は、用いる金錯体の種類により異なり、最終的に前記した固定化量となるように適宜調節すれば良い。また、圧力は、公知の真空ポンプ等で調節すれば良い。
【0045】
次いで、有機金錯体が吸着したチタン含有珪酸塩を空気中で通常100〜700℃程度、好ましくは300〜500℃で加熱する。これにより、有機金錯体中の有機成分が分解・酸化されるとともに有機金錯体が金に還元され、チタン含有珪酸塩上に金ナノ粒子として析出して固定されることとなる。加熱時間は、有機金錯体の担持量、加熱温度等に応じて適宜設定することができるが、通常は1〜24時間程度で良い。このようにして金ナノ粒子を固定化したチタン含有珪酸塩が得られる。
【0046】
上記製造方法では、有機金錯体の吸着に先立って、通常100〜700℃程度で加熱することによりチタン含有珪酸塩を表面処理することもできる。さらに、この表面処理は、酸化性ガス又は還元性ガス雰囲気下で行うこともできる。これにより、チタン含有珪酸塩表面の欠陥量と状態の制御がより容易となり、金の粒径及び担持量をより細かく制御することができる。
【0047】
上記酸化性ガスとしては、公知のものが使用でき、例えば酸素ガス、一酸化窒素ガス等が挙げられる。また、上記還元性ガスとしては、公知のものが使用でき、例えば水素ガス、一酸化炭素ガス等が挙げられる。
【0048】
以上説明した金を析出沈殿させる方法、及び有機金錯体の蒸気を用いる方法によれば、金ナノ粒子を比較的均一な分布でチタン含有珪酸塩上に強固に固定化することができる。
【0049】
本発明の触媒を支持体に担持させて用いる場合には、チタン含有珪酸塩を支持体に担持させた後、金を固定化する方法が好適である。支持体に担持させたチタン含有珪酸塩に金を固定化するには、上記した金を析出沈殿させる方法、及び有機金錯体の蒸気を用いる方法において、チタン含有珪酸塩に代えて、チタン含有珪酸塩を担持した支持体を使用すればよい。特に、金を析出沈殿させる方法によって製造すれば、金ナノ粒子は、支持体上にはほとんど析出せず、チタン含有珪酸塩上(特に、チタンイオンの存在する場所)にのみ固定化される点で有利である。また、シリカ単独の支持体又はシリカを含む支持体を用いる場合には、金を析出沈殿させる方法によれば、特に高い選択性をもってチタン含有珪酸塩上にのみ金ナノ粒子を固定化することができる点で非常に有利である。
【0050】
(1−2) また、本発明は、金ナノ粒子を固定化したチタン含有珪酸塩がシランカップリング剤で修飾されていることを特徴とする炭化水素部分酸化用触媒を提供する。以下、当該触媒について、詳細に説明する。
【0051】
本発明の触媒に使用できる金ナノ粒子は、前述の(1−1)に使用できるものと同様である。また、金ナノ粒子のチタン含有珪酸塩に対する配合割合についても、前述する(1−1)のチタン含有珪酸塩に対する金ナノ粒子の配合割合と同様である。
【0052】
本発明の触媒に用いるチタン含有珪酸塩の種類は、特に制限されるものではないが、例えば、ゼオライト系材料のアルミニウムの一部がチタンで置き換わってチタンがゼオライト格子内に組み込まれたもの、シリカの一部をチタン原子で置換したもの、チタンとシリコンの複合酸化物等を挙げることができる。また、これらのチタン含有珪酸塩上に微少量の酸化チタンを高分散担持させたものを用いることもできる。
【0053】
チタン含有珪酸塩の形態については、特に制限されないが、平均孔径が4nm以上の多孔体のものが好ましい。含酸素有機化合物の転化率を向上させるという観点から、更に好ましくは5nm以上、より好ましくは7nm以上の多孔体である。当該チタン含有珪酸塩の多孔体の平均孔径の上限については、特に制限されないが、通常50nm、好ましくは30nmを挙げることができる。当該チタン含有珪酸塩の多孔体の平均孔径の一例として、4〜50nm、好ましくは4〜30nm、更に好ましくは7〜30nmとなる範囲を例示できる。
【0054】
また、チタン含有珪酸塩の多孔体を用いる場合、その細孔構造については特に限定されるものではない。チタン含有珪酸塩の細孔構造として、例えば、ヘキサゴナル構造、不規則構造、キュービック構造、及びスポンジ状構造のものを挙げることができる。これらの中で、好ましくはスポンジ状構造のものである。
【0055】
チタン含有珪酸塩におけるチタンの含有量については、前述する(1−1)で使用するチタン含有珪酸塩におけるチタンの含有量と同様である。
【0056】
本発明に使用するチタン含有珪酸塩は、公知の製造方法に従って製造することができる。
【0057】
また、上記チタン含有珪酸塩は、前述する(1−1)と同様に、触媒の活性を向上させるために、予め成形された支持体に固定化した状態で用いることもできる。当該支持体についても、前述する(1−1)で用いられるものと同様である。
【0058】
チタン含有珪酸塩に金ナノ粒子を固定化する方法としては、特に制限されないが、例えば、前述する(1−1)に記載の析出沈殿法を挙げることができる。
【0059】
本発明の触媒は、上記のようにして得られる金ナノ粒子固定化チタン含有珪酸塩の表面がシランカップリング剤で修飾されてなるものである。
【0060】
金ナノ粒子固定化チタン含有珪酸塩を修飾するシランカップリング剤としては、従来公知のものを制限なく使用することができる。好ましいシランカップリング剤としては、例えば、メトキシトリメチルシラン、メトキシトリエチルシラン、メトキシトリイロプルシラン、エトキシトリメチルシラン、エトキシトリエチルシラン、エトキシトリイロプルシラン、トリメチルシリルトリフルオロメタンスルホネート、トリエチルシリルトリフルオロメタンスルホネート等を挙げることができる。これらの中でも、特にメトキシトリメチルシランやメトキシトリエチルシランを使用することによって、より一層高い転化率で酸素含有有機化合物を合成することが可能となる。これらのシランカップリング剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0061】
チタンカップリング剤による修飾は、金ナノ粒子固定化チタン含有珪酸塩の表面の水酸基とシランカップリング剤とを反応させることにより行われる。
【0062】
金ナノ粒子が固定化されたチタン含有珪酸塩をシランカップリング剤で修飾する方法としては、従来公知のシランカップリング剤による表面処理方法を採用することができる。例えば、シランカップリング剤中にアルゴンガス等の不活性ガスを通気してシランカップリング剤を気化させ、次いで該シランカップリング剤を含む蒸気を金ナノ粒子固定化チタン含有珪酸塩と接触させた後、上記不活性ガス雰囲気中で50〜200℃程度で、5〜60分程度処理する方法を挙げることができる。また、その他の方法として、例えば、金ナノ粒子固定化チタン含有珪酸塩をシランカップリング剤の希薄溶液でスラリー化したり、浸漬させる方法(湿式法)や、金微粒子固定化チタン含有珪酸塩を高速攪拌しながら、シランカップリング剤の原液あるいは溶液を均一に分散させる方法(乾式法)等を例示することができる。
【0063】
更に、チタン含有珪酸塩にアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物(以下、これを「アルカリ化合物」と表記することもある)を固定化して(担持させて)おくことによって、より一層含酸素有機化合物の転化率を向上させることが可能となる。
【0064】
ここで、アルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム、セシウム等が挙げられ、アルカリ金属化合物としては、これらのアルカリ金属の硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、水酸化物塩、シュウ酸塩、酢酸塩等の各種の塩が挙げられる。
【0065】
また、アルカリ土類金属としては、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム、ベリリウム等が挙げられ、アルカリ土類金属化合物としては、これらのアルカリ土類金属の硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、水酸化物塩、シュウ酸塩、酢酸塩等の各種の塩が挙げられる。
【0066】
これらアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物の中で、好ましくはセシウム、バリウム、マグネシウム、カルシウム等の塩であり、更に好ましくはバリウム、マグネシウム等の塩を挙げることができる。特に、これらアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物の内、好ましい化合物の具体例として、硝酸バリウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウムが挙げられ、更に好ましくは硝酸バリウム及び硝酸マグネシウムを挙げることができる。これらアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物は、1種単独で使用しても、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0067】
チタン含有珪酸塩とアルカリ化合物との割合については、使用するチタン含有珪酸塩の種類、アルカリ金属等の種類等によって異なり一律に規定することができないが、例えば金ナノ粒子固定化チタン含有珪酸塩100重量部に対してアルカリ化合物が総量で、通常0.001〜10重量部、好ましくは0.001〜1重量部、更に好ましくは0.001〜0.2重量部を挙げることができる。
【0068】
アルカリ化合物をチタン含有珪酸塩に固定化する方法としては、特に制限されない。例えば、前述する(1−1)に記載する析出沈殿法による金ナノ粒子のチタン含有珪酸塩への固定化方法に準じて、金化合物の代わりにアルカリ化合物を使用することによって、アルカリ化合物の固定化を行うことができる。より具体的には、前述する(1−1)に記載する析出沈殿法による金ナノ粒子の固定化方法において、金化合物水溶液を滴下する代わりに、0.001〜10mmol/l、好ましくは0.001〜0.2mmol/lのアルカリ化合物の水溶液を、チタン含有珪酸塩に担持させるアルカリ化合物の量に応じた量を滴下することによって、アルカリ化合物の固定化を行うことができる。
【0069】
アルカリ化合物のチタン含有珪酸塩への固定化は、チタン含有珪酸塩に金微粒子を固定化した後に行ってもよく、またチタン含有珪酸塩に金微粒子を固定化する前に行ってもよい。また、金ナノ粒子及びアルカリ化合物のチタン含有珪酸塩への固定化を同時に行うこともできる。好ましくは、同時に行う方法である。金微粒子及びアルカリ土類金属の固定化を同時に行うには、例えば、前述する(1)に記載する析出沈殿法による金ナノ粒子のチタン含有珪酸塩への固定化方法において、金化合物と共に所定量のアルカリ化合物を含有する水溶液を使用することによって実施することができる。
【0070】
(2)含酸素有機化合物の製造方法
以下、本発明の触媒を用いて炭化水素を部分酸化させて、含酸素有機化合物を製造する方法について説明する。
【0071】
本製造方法において、原料化合物である炭化水素としては、炭素数3〜12程度の飽和炭化水素又は炭素数2〜12程度の不飽和炭化水素を用いることができる。また、気相で反応を行う場合には、生成物が100℃前後の低温においても容易に触媒層から脱離しうる炭素数が6程度までのものが、原料として適している。飽和炭化水素としては、例えば、プロパン、n−ブタン、イソブタン、シクロブタン、n−ペンタン、2−メチルブタン、シクロペンタン、n−ヘキサン、2−メチルペンタン、3−メチルペンタン、シクロヘキサン等が挙げられ、また不飽和炭化水素としては、2重結合を有する化合物、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、2−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、シクロペンテン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、3−ヘキセン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、シクロヘキセン、1−メチル−1−シクロペンテン、3−メチル−1−シクペンテン、4−メチル−1−ペンテン等が挙げられる。
【0072】
不飽和炭化水素を原料化合物とする場合には、高い選択性でエポキシドが生成される。
【0073】
また、飽和炭化水素を原料化合物とする場合には、2級炭素−水素結合が酸化される際には、主としてケトンが生成され、3級炭素−水素結合が酸化される際には、主としてアルコールが生成される。炭素−水素結合の反応性の順序は、3級>2級>1級であり、1級炭素−水素結合は、ほとんど反応しない。
【0074】
本発明方法で使用する触媒は、上記(1)の触媒である。触媒の使用量は、特に限定されるものではないが、実用的には、空間速度(SV)が100〜10000hr-1・ml/g・cat程度の範囲内となる量とすることが適している。
【0075】
本発明においては、水素の存在が必須である。仮に水素が共存しない状態で、即ち酸素、炭化水素そして場合により希釈ガスからなる混合ガスを上記触媒下の存在下に反応させたとしても、200℃以上で反応が起こりはじめるものの、二酸化炭素の生成が主に認められるのみで、上記の含酸素有機化合物の生成は、全く認められない。しかるに、水素を反応系内に存在させると、反応の様相は一変し、50℃程度の低温においてさえ、上記の含酸素有機化合物の生成が認められるようになる。水素の存在量は、特に限定されるものではないが、通常水素/原料の体積比で、1/10〜100/1程度の範囲内で実用可能であるが、一般に水素の割合が大きい程反応速度が上昇するので、この範囲内で高目の値を採用することが好ましい。
【0076】
酸素の存在量は、特に限定されるものではないが、通常、酸素/原料の体積比で、1/10〜10/1程度の範囲が適当である。この範囲より酸素の存在量が少ないと、得られる部分酸化生成物の量が少なくなるので好ましくなく、一方、この範囲より酸素の存在量を多くしても、得られる含酸素有機化合物の量は増加せず、かえって、含酸素有機化合物の選択率の低下(二酸化炭素の生成量の増加)を生じるので好ましくない。
【0077】
本発明における反応温度は、通常0〜300℃程度、より好ましくは50〜200℃程度の範囲が適している。気相で反応を行なう場合には、触媒層からの生成物の脱離が容易に行われる様に、採用する反応圧(通常0.01〜1MPa程度)下で生成物が充分に揮発性を示す温度を選ぶ必要がある。一方、反応温度をあまり高温にすると、二酸化炭素への燃焼反応が起こり易くなると同時に、水素の水への酸化による消費が増大するため、好ましくない。従って、用いる原料の相違により、最適反応温度があるものの、好適な反応温度は、ほぼ50〜200℃の範囲に入ると思われる。
【0078】
気相反応は、本発明触媒を充填した反応装置に炭化水素、水素、酸素および必要ならば希釈ガス(例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素など)を含む混合ガスを供給し、所定の反応条件で反応させればよい。
【0079】
本発明における反応を液相で行なう場合には、上記のような触媒層からの脱離を考慮する必要がないので、多くの場合100℃以下で行い得る。また、液相で反応を行う場合には、原料を液体状態を保持させるような反応圧と反応温度とを選ぶか、或いは溶媒(例えば、ベンゼンなどの炭化水素系溶媒、塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒など)を用いて、懸濁した触媒の存在下に原料化合物、水素、酸素、場合によっては希釈ガスの混合ガスをバブリングさせることにより反応を行うことができる。
【0080】
(3)上記炭化水素部分酸化用触媒の再生方法
上記炭化水素部分酸化用触媒が使用によりその触媒活性が低減した場合、酸素及び水素を含有する混合ガスを用いて、該炭化水素部分酸化用触媒を処理することによって、該炭化水素部分酸化用触媒を再生することができる。
【0081】
上記混合ガスにおいて、酸素と水素の割合は、特に制限されるものではないが、一例として、酸素:水素が体積比で、0.1:99.9〜99.9:0.1、好ましくは10:90〜90:10、更に好ましくは25:75〜75:25となる割合が挙げられる。
【0082】
また、上記混合ガスには、上記の酸素及び水素に加えて、希釈ガス(例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素など)を含有させて使用することが望ましい。希釈ガスを混合ガスに含有させる場合、例えば、酸素と水素の総容量1容量部に対して、希釈ガスが通常1〜999容量部、好ましくは1〜99容量部、更に好ましくは1〜9容量部となる割合を挙げることができる。
【0083】
炭化水素部分酸化用触媒を上記混合ガスで処理する際の温度条件としては、例えば、0〜500℃、好ましくは50〜400℃、更に好ましくは100〜300℃、特に好ましくは250℃程度を挙げることができる。上記温度の範囲内であれば、触媒の再生を効率的に行うことができる。
【0084】
炭化水素部分酸化用触媒を上記混合ガスで処理する方法としては、再生させる炭化水素部分酸化用触媒が上記混合ガスと接触される限り、特に制限されないが、例えば、該炭化水素部分酸化用触媒を充填した容器に上記混合ガスを連続的に供給及び抜き取りを行う方法や、当該容器に上記混合ガスを入れて密閉する方法を挙げることができる。簡便には、炭化水素の部分酸化に使用した反応装置において、反応ガスの代わりに上記混合ガスを供給する方法を例示することができる。
【0085】
上記炭化水素部分酸化用触媒に対して接触させる上記混合ガスの割合としては、使用する混合ガスの成分比、炭化水素部分酸化用触媒の活性喪失の程度等によって異なり、一律に規定することはできないが、例えば、該炭化水素部分酸化用触媒1gに対して、上記混合ガスの総量0.1〜100L、好ましくは1〜50L、更に好ましくは5〜25Lとなる割合を挙げることができる。
【実施例】
【0086】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例によって限定されることはない。
実施例1
1.チタン含有珪酸塩の調製
チタニウムブトキシド溶液(Ti=6mol%)0.7gをテトラエチルオルト珪酸塩20.8gに滴下した。次いで、これに、トリエタノールアミン29.8gを滴下、混合した後、脱イオン水19.8gを添加した。得られた溶液を2時間攪拌した後、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド14.7gを滴下した。斯くして得られた混合液を室温で24時間静置した後、100℃で12時間乾燥し、次いで空気中で700℃で10時間焼成した。このようにして得られたチタン含有珪酸塩は、チタン含有珪酸塩のTi/Si原子比が3/100であり、平均細孔径7.4nmのスポンジ状構造を有していることが、前者についてICP元素分析法により、後者については粉末X線回折法(XRD)、窒素吸着(BET)法、及びTEM(透過型電子顕微鏡)による分析で確認された。

2.金ナノ粒子の固定化
蒸留水1200mlに塩化金酸・4水和物(HAuCl4・4H2O)1.0g(2.43mmol)を溶解し、70℃に加温し、0.1NNaOH 水溶液によりpHを7.5とした後、激しく撹拌しながら、上記で得られたチタン含有珪酸塩6gを一度に加え、同温度で1時間撹拌を続け、該チタン含有珪酸塩上に水酸化金Au(OH)3を析出沈殿させた。この懸濁液を静置し、室温まで放冷した後、上澄液を除去し、新たに蒸留水3000mlを加え、室温で5分間撹拌し、再び静置後上澄液を除去した。この洗浄操作を数回繰り返した後、ろ過し、得られたペーストを室温で12時間真空乾燥し、空気中400℃で4時間焼成することにより、金超微粒子が担持されたチタン含有珪酸塩触媒を得た。使用した塩化金酸の量は、チタン含有珪酸塩(TiO-SiO)に対して8重量%であったが、分析の結果、実際に担持された金の量は0.42重量%であった。

3.プロピレンの部分酸化反応
上記で得られた触媒を使用し、固定床流通式触媒反応装置を用いてプロピレンの部分酸化反応を行った。反応条件は下記の通りである。
触媒反応セル:石英製 内径10mm、
触媒量:0.15g、
触媒前処理:250℃にてアルゴン/H2=9/1(容量比)の混合ガスを30分流通後、250℃にてアルゴン/O2=9/1(容量比)の混合ガスを30分流通、
反応ガス:容量比 アルゴン/O2/H2/プロピレン=7/1/1/1、
空間速度:4000h-1・ml/g・cat、
反応温度:150℃。
【0087】
また、比較として、下表1に示す細孔径及び細孔構造を有するチタン含有珪酸塩(比較例1〜4)及び、細孔構造を有しない珪酸塩担持チタン(比較例5)、細孔構造を有しない二酸化チタン(比較例6)を用いて、上記と同様の方法で金微粒子を固定化して、プロピレンの部分酸化反応を行った。
【0088】
【表1】

【0089】
実施例1及び比較例1〜6の触媒を用いてプロピレンの部分酸化反応を行った結果(プロピレンの転化率、プロピレンオキサイドの選択率、プロピレンオキサイドの収率、及び水素の転化率)を下表2に示す。
【0090】
【表2】

【0091】
これらの結果から、平均細孔径が7.4nmのチタン含有珪酸塩に金微粒子を担持された触媒(実施例1)は、細孔の孔径が小さいか、あるいは有しない比較例1〜6に比して、プロピレンの転化率が高く、プロピレンオキサイドの収率も高いことが確認された。また、実施例1は、プロピレンオキサイドの選択率が90%以上と良好であり、水素転化率も14%程度と良好であることも明らかとなった。
【0092】
実施例2−4
1.触媒の調製
(i)実施例2及び3
実施例1に記載の方法に従って、表3に示すチタン含有ケイ酸塩に金ナノ粒子を固定化した。次いで、25℃のメトキシトリメチルシランを満たした容器内にArガスを流入して、メトキシトリメチルシランを含有する蒸気を発生させながら、当該蒸気を30分間、流速10ml/分、反応管に充填した金微粒子を固定化したチタン含有ケイ酸塩0.15gに流通され、その後、Arガスを流速10ml/分、200℃で5時間流通させる処理をすることによって、金ナノ粒子固定化チタン含有ケイ酸塩のシリレート化を行った。
(ii)実施例4
蒸留水1200mlに塩化金酸・4水和物(HAuCl4・4H2O)1.0g(2.43mmol)と共にBa(NO0.261g(0.1mmol)を溶解した溶液を用いて、実施例1に記載の金微粒子の固定化方法と同条件で表3に示すチタン含有ケイ酸塩を処理することによって、チタン含有ケイ酸塩に金ナノ粒子とBa(NOを固定化した。次いで、実施例2−3と同じ方法で、シリレート化を行った。
(iii)比較例7−10
比較のために、以下に示す触媒を調製した:表3に示すチタン含有ケイ酸塩(TiO-SiO;実施例1で調製したスポンジ状構造のチタン含有珪酸塩)を用いて、実施例1に記載の方法に従って金ナノ粒子の固定化のみを行ったもの(比較例7及び8);表3に示すチタン含有ケイ酸塩を用いて、実施例4に記載の方法に従って金微粒子とBa(NOの固定化のみを行ったもの(比較例9);及び表3に示すチタン含有ケイ酸塩を用いて、実施例4に記載の方法において、Ba(NOの代わりにMg(NO6水和物0.256g(0.1mmol)を用いて金微粒子とMg(NOの固定化のみを行ったもの(比較例10)。

2.プロピレンの部分酸化反応
かくして得られた触媒(実施例2−4及び比較例7−10)を使用し、実施例1と同条件でプロピレンの部分酸化反応を行い、反応開始0.5時間後と4時間後のプロピレンの転化率、プロピレンオキサイドの選択率、プロピレンオキサイドの収率、及び水素転化率について調べた(但し、比較例8−10については、反応開始1時間後のみ測定)。
【0093】
得られた結果を表3に併せて示す。
【0094】
【表3】

【0095】
この結果、金微粒子を固定化したチタン含有ケイ酸塩をシリレート化した触媒(実施例2−4)では、比較例7−10に比べて、プロピレンオキサイドをプロピレンの高い転化率で、且つ高い選択率で得ることができることが確認さ
れた。特に、金微粒子と共にBa(NOを固定化したチタン含有ケイ酸塩をシリレート化した触媒(実施例4)では、より一層高いプロピレンの転化率及びプロピレンオキサイドの選択率が達成できることが明らかとなった。
【0096】
実施例5
実施例2のシリレート化した金ナノ粒子固定化チタン含有ケイ酸塩を触媒として用いて、以下の試験を行った。
【0097】
上記触媒を使用し、固定床流通式触媒反応装置を用いてプロピレンの部分酸化反応を5時間行った。反応条件は下記の通りである。
触媒反応セル:石英製 内径10mm、
触媒量:0.15g、
触媒前処理:250℃にて、アルゴン/H2=9/1(容量比)の混合ガスを30分流通後、250℃にてアルゴン/O2=9/1(容量比)の混合ガスを30分流通、
反応ガス:容量比 アルゴン/O2/H2/プロピレン=7/1/1/1、
空間速度:4000h-1・ml/g・cat、
反応温度:165℃。
【0098】
当該反応(再生処理回数0回)におけるプロピレンの転化率、プロピレンオキサイドの選択率、プロピレンオキサイドの収率、及び水素の転化率を求めた。
【0099】
次いで、反応後、触媒を反応セルに充填したままの状態で、以下の条件で再生処理を行った。
触媒前処理:250℃にて、アルゴン/H2/O2=8/1/1の混合ガスを30分間流通、
空間速度:4000h-1・ml/g・cat、
処理温度:250℃
かかる再生処理した触媒(再生処理回数1回)を用いて、上記反応条件で、再度プロピレンの部分酸化反応を行い、プロピレンの転化率、プロピレンオキサイドの選択率、プロピレンオキサイドの収率、及び水素の転化率を求めた。
【0100】
更に、当該触媒の再生及び反応を上記条件で再度繰り返し行い(再生処理回数2回)、プロピレンの転化率、プロピレンオキサイドの選択率、プロピレンオキサイドの収率、及び水素の転化率を求めた。
【0101】
得られた結果を表4に示す。この結果、使用により活性が低下した触媒を、
本発明の再生方法の処理に供することによって、再度優れた触媒活性を回復できることが確認された。
【0102】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の炭化水素部分酸化用触媒によれば、酸素及び水素の存在下で炭化水素類を部分酸化する反応において、高い転化率でかつ高い選択率で、含酸素有機化合物を合成することが可能となり、一方、同時に無駄な水素の消費(水の生成)を抑制し、効率よく含酸素有機化合物を製造することが実現できる。
【0104】
故に、本発明の炭化水素部分酸化用触媒を用いて、炭化水素類を部分酸化する方法によれば、炭化水素類から一段階でアルコール、ケトン、エポキシド等の含酸素有機化合物を効率的に製造することが可能となる。
【0105】
また、本発明の炭化水素部分酸化用触媒は、使用により触媒活性が低減しても、酸素、水素及びアルゴンガスを含有する混合ガスで処理することによって、容易に再生されるので、工業的利用に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均孔径が4nm以上のチタン含有珪酸塩の多孔体に金ナノ粒子を固定化した炭化水素部分酸化用触媒。
【請求項2】
チタン含有珪酸塩の細孔構造がスポンジ状構造である、請求項1に記載の炭化水素部分酸化用触媒。
【請求項3】
チタン含有珪酸塩の多孔体の平均孔径が4〜50nmである、請求項1に記載の炭化水素部分酸化用触媒。
【請求項4】
チタン含有珪酸塩におけるTiとSiの原子比率(Ti/Si)が、1/10000〜20/100である、請求項1に記載の炭化水素部分酸化用触媒。
【請求項5】
金ナノ粒子を固定化したチタン含有珪酸塩がシランカップリング剤で修飾されている、炭化水素部分酸化用触媒。
【請求項6】
更に、アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物を担持させたものである、請求項5に記載の炭化水素部分酸化用触媒。
【請求項7】
硝酸バリウム、硝酸マグネシウム及び硝酸カルシウムよりなる群から選択される少なくとも1種の化合物が担持されたものである、請求項6に記載の炭化水素部分酸化用触媒。
【請求項8】
チタン含有珪酸塩の多孔体の平均孔径が、4〜50nmである、請求項5に記載の炭化水素部分酸化用触媒。
【請求項9】
チタン含有珪酸塩におけるTiとSiの原子比率(Ti/Si)が、1/10000〜20/100である、請求項5に記載の炭化水素部分酸化用触媒。
【請求項10】
シランカップリング剤が、メトキシトリメチルシラン、メトキシトリエチルシラン、メトキシトリイロプルシラン、エトキシトリメチルシラン、エトキシトリエチルシラン、エトキシトリイロプルシラン、トリメチルシリルトリフルオロメタンスルホネート及びトリエチルシリルトリフルオロメタンスルホネートよりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項5に記載の炭化水素部分酸化用触媒。
【請求項11】
金ナノ粒子が固定化されたチタン含有珪酸塩100重量部に対して、アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物が、0.001〜10重量部の割合で担持されている、請求項6に記載の炭化水素部分酸化用触媒。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の炭化水素部分酸化用触媒を用いて、水素及び酸素の存在下で、炭化水素を酸化することを特徴とする含酸素有機化合物の製造方法。
【請求項13】
不飽和炭化水素を部分酸化してエポキシドを製造する方法である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
炭化水素が、炭素数3〜12の飽和炭化水素又は炭素数2〜12の不飽和炭化水素である、請求項12に記載の製造方法。
【請求項15】
炭化水素の酸化を0〜300℃の温度条件下で行う、請求項12に記載の製造方法。
【請求項16】
請求項1〜11のいずれかに記載の炭化水素部分酸化用触媒の再生方法であって、酸素及び水素を含有する混合ガスを用いて、該炭化水素部分酸化用触媒を処理することを特徴とする、炭化水素部分酸化用触媒の再生方法。
【請求項17】
上記混合ガスによる処理を100〜400℃で行う、請求項16に記載の再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【国際公開番号】WO2005/056181
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【発行日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516198(P2005−516198)
【国際出願番号】PCT/JP2004/018502
【国際出願日】平成16年12月10日(2004.12.10)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】