説明

炭素繊維およびそれを用いた複合材料

【課題】高熱伝導性であり、成形性が高いピッチ系炭素短繊維フィラー及び複合成形材料を提供すること。
【解決手段】光学顕微鏡で観測した平均繊維径(D1)が2μmより大きく7μm以下であり、平均繊維径(D1)に対する繊維径分散(S1)の100分率が3〜20%の範囲であり、透過型電子顕微鏡で観察した端面が閉じており、走査型電子顕微鏡での観察表面が実質的に平坦である請求項1に記載のピッチ系炭素短繊維フィラー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生産性が高く且つ熱伝導性に優れた炭素短繊維フィラー、それと樹脂とからからなる組成物、およびそれを成形して得られる成形体に関する。更に詳しくは、生産性が高く、コストメリットのあるピッチ系炭素短繊維フィラーを用いた伝熱性フィラー及びそれを用いた熱対策材料に関わる。
【背景技術】
【0002】
高性能の炭素繊維はポリアクリロニトリル(PAN)を原料とするPAN系炭素繊維と、一連のピッチ類を原料とするピッチ系炭素繊維に分類できる。そして炭素繊維は強度・弾性率が通常の合成高分子に比較して著しく高いという特徴を利用し、航空・宇宙用途、建築・土木用途、産業用ロボット、スポーツ・レジャー用途など広く用いられている。また、PAN系炭素繊維は、主として、その強度を利用する分野に、そしてピッチ系炭素繊維は、弾性率を利用する分野に用いられることが多い。
【0003】
近年、省エネルギーに代表されるエネルギーの効率的使用方法が注目されている一方で、高速化されたCPUや電子回路のジュール熱による発熱が重篤な問題として認識されつつある。これらを解決するためには、熱を効率的に処理するという、所謂サーマルマネジメントを達成する必要がある。
【0004】
サーマルマネジメントを具現化するには、金属・金属酸化物・金属窒化物・金属酸窒化物・合金といった、熱伝導性の高い無機材料を用いることが多い。金属ダイカストは、その典型的な例と考えることができる。しかし、複雑な形状をした電気部品の筐体を作製するには、上述した材料をフィラーとして何らかのマトリクスに混合した複合材として用いることが、費用対効果の面から望ましい。しかし、マトリクスに用いられることが多い合成樹脂の熱伝導率はフィラーの1/100程度以下であり、多量のフィラーを混合する必要がある。しかしながら、多量のフィラーの添加は、成形性の劣化を招き、実用性を損なってしまう。そのため、効率的に熱伝導性を発現できる形状にまで配慮がなされた高熱伝導性フィラーが求められていた。
【0005】
一般に炭素繊維は、他の合成高分子に比較して熱伝導率が高いと言われているが、サーマルマネジメント用途に向けた、さらなる熱伝導の向上が検討されている。ところが、市販されているPAN系炭素繊維の熱伝導率は通常200W/(m・K)よりも小さい。これは、PAN系炭素繊維が所謂難黒鉛化炭素繊維であり、熱伝導を担う黒鉛性を高めることが非常に困難なことに由来している。これに対して、ピッチ系炭素繊維は易黒鉛化炭素繊維と呼ばれ、PAN系炭素繊維に比べて、黒鉛性を高くすることができるため、高熱伝導率を達成しやすいと認識されている。よって、効率的に熱伝導性を発現できる形状にまで配慮がなされた高熱伝導性フィラーにできる可能性がある。
【0006】
ただ、炭素繊維単体での熱伝導性部材への加工は困難であり、非常に特殊な手法を用いる必要がある。そこで、金属性フィラー等と同様に、何らかのマトリクスと炭素繊維を複合材化し、それを成形体化し、その成形体の熱伝導度を向上させることが求められる。
【0007】
そして、成形体が十分な熱伝導を達成するためには、熱伝導を主として担うフィラーが三次元的にネットワークを形成している必要がある。例えばサイズの揃った球体フィラーの場合、成形体中のフィラーのネットワークは分散状態にも依存するが、均一分散を仮定すると、パーコレーション的な挙動となる。したがって、十分な熱伝導性や電気伝導性を得るためには一定以上のフィラーの添加が必要になる。ところが、成形体を形成する手法においては、媒質とフィラーを一定以上の濃度で分散することが非常に困難なことが多い。
【0008】
このような背景により、三次元的な架橋をフィラーに与える検討がされている。例えば金属を網目状にすることで、熱流を輸送する試みが特許文献1に開示されている。しかし、マトリクスへの分散に極めて高度な技術を要すると考えられる。また、特許文献2には、合金化することでマトリクスとフィラーが同時に溶融し、その結果、成形性を維持しながら高熱伝導性が達成されることが開示されている。
【0009】
しかしながら、比重が樹脂に比して大きい金属材料の添加は、樹脂組成物の比重をも高くし、1gのオーダーで軽量化を議論するような用途には、不利と考えざるを得ない。
さらに、近年の物価動向を鑑みると、コストメリットを達成することが、材料にとって非常に重要な側面を持っており、コストパフォーマンスが極めて重要になっている。
【0010】
【特許文献1】特開平6−196884号公報
【特許文献2】国際公開第03/029352号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記したように、軽量で熱伝導性の高い樹脂組成物を作成するためには、熱伝導が高く比重の小さい物質が求められており、さらに最終的な使用状態において最大の熱伝導性を発現するようなフィラーの制御が強く望まれていた。加えて、コストパフォーマンスが高いことも望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、最終的な成形体において熱伝導率を向上させること及び比重を小さくすることを目的とし、熱伝導性材料として熱伝導率の高いピッチ系炭素短繊維を、サイズ及びその分散、表面形状、微細構造に着目し、適切に制御し、さらにマトリクスに分散させることにより、これが達成できることを見出した。加えて、特定の繊維径にすることで生産性を高め、コストパフォーマンスの高い材料が供給できることを見出し本発明に到達した。
【0013】
即ち、本発明の目的は、光学顕微鏡で観測した平均繊維径(D1)が2μmより大きく7μm以下であり、平均繊維径(D1)に対する繊維径分散(S1)の100分率が3〜20%の範囲であり、透過型電子顕微鏡によるフィラー端面観察においてグラフェンシートが閉じており、走査型電子顕微鏡での観察表面が実質的に平坦であるピッチ系炭素短繊維フィラーを提供することにある。
【0014】
さらに本発明の目的は、上記ピッチ系炭素短繊維フィラーと熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂とからなり、樹脂100体積部に対して10〜150体積部の前記フィラーを含有する組成物を提供することにある。
さらに本発明の目的は、上記成形体を主たる材料とする電子部品用放熱材であり、電波遮蔽材であり、または熱交換器を提供することにある。
【発明の効果】
【0015】
本発明のピッチ系炭素短繊維フィラーは、透過型電子顕微鏡によるフィラー端面観察においてグラフェンシートが閉じており、走査型電子顕微鏡での観察表面が実質的に平坦であって、さらにサイズが制御されていることにより、樹脂との組成物としたときの粘度増大を抑制しつつ、高い熱伝導率を複合成形体に付与することが可能になり、成形性が良好で熱伝導率の高い複合成形材料にすることが可能である。本発明のピッチ系炭素短繊維フィラー樹脂との組成物から得られる成形体は電子部品用放熱板や熱交換器の効率を高めることが可能になる。さらに、ピッチ系炭素短繊維が、数GHzの周波数帯域の電波遮蔽性に優れることにより、電波遮蔽板を供給することも可能になる。また、生産性に優れコストパフォーマンスを高くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明の実施の形態について順次に説明していく。
本発明のピッチ系炭素短繊維フィラーは、光学顕微鏡で観測した平均繊維径(D1)が2μmより大きく7μm以下である。D1のより好ましい範囲は3μmより大きく6μm以下である。
【0017】
本発明のピッチ系炭素短繊維フィラーは、光学顕微鏡で観測したピッチ系炭素短繊維フィラーにおける繊維径の分散である繊維径分散(S1)のD1に対する百分率(CV値)は3〜20%の範囲であり、CV値は好ましくは、3〜15%である。CV値は、小さい程工程安定性が高く、製品のバラツキを低減していると考えることができるが、3%より低減することは現状では達成が困難である。また20%より大きい値では、平均繊維径のバラツキが大きくムラの大きい製品となることがある。
【0018】
本発明のピッチ系炭素短繊維フィラーは、透過型電子顕微鏡でフィラー端面の形状を観察すると、グラフェンシートが閉じた構造になっていることを特徴とする。フィラーの端面がグラフェンシートとして閉じている場合には、余分な官能基の発生や、形状に起因する電子の局在化が起こらないので、水のような不純物の吸着や付着による濃度を低減することができ、さらに、例えば、膨張黒鉛のような異種フィラーとの親和性をより高めることが可能になり好ましい。また、グラフェンシートが閉じていることにより、ピッチ系炭素短繊維フィラーの縦ワレが抑制される。特に、本発明のうちの好ましい対応である平均繊維長が10μm以上700μm以下のピッチ系炭素短繊維フィラーにおいては、ピッチ系炭素短繊維フィラー表面積に占める端面の割合が高くなることより、グラフェンシートが閉じている構造が特に好ましい。このような構造は、ピッチ系炭素短繊維フィラーの縦ワレを抑制する効果がある。また、副次的に水との親和性が悪いために湿熱耐久性能向上がもたらされる。
【0019】
尚、グラフェンシートが閉じているとは、ピッチ系炭素短繊維フィラーを構成するグラフェンシートそのものの端部がピッチ系炭素短繊維フィラー端部に露出することなく、グラファイト層が略U字上に湾曲し、湾曲部分がピッチ系炭素短繊維フィラー端部に露出している状態である。
【0020】
また、本発明のピッチ系炭素短繊維フィラーは走査型電子顕微鏡での観察表面が実質的に平坦であることを特徴とする。
ここで、実質的に平坦であるとは、フィブリル構造のような激しい凹凸をピッチ系炭素短繊維フィラー表面に有しないことを意味する。ピッチ系炭素短繊維フィラーの表面に激しい凹凸のような欠陥が存在する場合には、マトリクス樹脂との混練に際して表面積の増大に伴う粘度の増大を引き起こし、成形性を悪化させる。よって、表面凹凸のような欠陥はできるだけ小さい状態が望ましい。より具体的には、走査型電子顕微鏡において1000倍で観察した像での観察視野に、凹凸のような欠陥が10箇所以下であることとする。
【0021】
さらに本発明のピッチ系炭素短繊維フィラーの平均繊維長(L1)は、10〜700μmであることが好ましい。ここで、平均繊維長は個数平均繊維長とし、光学顕微鏡下で測長器を用い、複数の視野において所定本数を測定し、その平均値から求めることができる。L1は目的によって最適な値があるが、当該フィラーが副次的に発現する補強効果を出す場合には、150〜700μmの範囲が好ましい。より好ましくは150〜500μmの範囲である。一方、当該フィラーを他のフィラーとの組合せて伝熱経路作製用、即ち放熱助材に用いる場合は、L1は20〜150μmの範囲が好ましい。より好ましくは、20〜100μmの範囲である。L1が20μより短い場合は、形状として繊維状を逸脱しており、本発明の趣旨をも逸脱する。L1が700μmを超える場合には、嵩真密度が小さくなり、マトリクス成分との混合が困難になる。また、D1に対するL1の比(L1/D1)は1〜100が好ましく、さらには1〜50の範囲であることが好ましい。
【0022】
L1/D1は平均繊維長にも依存するが、L1/D1が1より小さいときには、最終的な成形品での粉落ちが顕著になる。一方、L1/D1が50を超えると、マトリクス樹脂との混練の際、折れる繊維の割合が高くなるため、本来の性能を出すことが困難になる。より好ましくは平均繊維長が20〜150μmの場合には、1.5〜5であり、平均繊維長が150〜500μmの場合には、5〜50である。
【0023】
本発明のピッチ系炭素短繊維フィラーの真密度は、黒鉛化温度に強く依存するが、1.9〜2.3g/ccの範囲のものが好ましい。より好ましくは、2.0〜2.2g/ccである。また、ピッチ系炭素短繊維フィラーの繊維軸方向の熱伝導率は400W/(m・K)以上である。
【0024】
また本発明のピッチ系炭素短繊維フィラーは、六角網面の厚み方向に由来する結晶子サイズが10nm以上であり、さらに六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズが20nm以上であることが好ましい。
【0025】
結晶子サイズは六角網面の厚み方向、六角網面の成長方向のいずれも、黒鉛化に対応するものであり、熱物性を発現するためには、一定サイズ以上が必要である。六角網面の厚み方向に由来する結晶子サイズ及び六角網面の成長方向の結晶子サイズは、X線回折法で求めるこができる。測定手法は集中法とし、解析手法としては、学振法を用いた。六角網面の厚み方向の結晶子サイズは、(002)面からの回折線を用いて求め、六角網面の成長方向の結晶子サイズは、(110)面からの回折線を用いて夫々求めることができる。
【0026】
以下本発明のピッチ系炭素短繊維フィラーの好ましい製造法について述べる。
本発明で用いられるピッチ系炭素短繊維の原料としては、例えば、ナフタレンやフェナントレンといった縮合多環炭化水素化合物、石油系ピッチや石炭系ピッチといった縮合複素環化合物等が挙げられる。その中でもナフタレンやフェナントレンといった縮合多環炭化水素化合物が好ましく、特に光学的異方性ピッチ、即ちメソフェーズピッチが好ましい。これらは、一種を単独で用いても、二種以上を適宜組み合わせて用いてもよいが、メソフェーズピッチを単独で用いることが炭素短繊維の熱伝導性を向上させる上で特に望ましい。
【0027】
原料ピッチの軟化点はメトラー法により求めることができ、230℃以上340℃以下が好ましい。軟化点が230℃より低いと、不融化の際に繊維同士の融着や大きな熱収縮が発生する。また、340℃より高いとピッチの熱分解が生じ糸状になり難くなる。さらに、ガス成分が発生し、糸に気泡が発生し強度劣化を招く。
【0028】
原料ピッチはメルトブロー法により紡糸され、その後不融化、焼成、ミリング、黒鉛化によってピッチ系炭素短繊維となる。場合によっては、ミリングの後、篩い分け工程を入れることもある。本発明のピッチ系炭素短繊維フィラーは透過型電子顕微鏡によるフィラー端面観察においてグラフェンシートが閉じていることを特徴とするが、このようなピッチ系炭素短繊維フィラーは、ミリングを行った後に黒鉛化処理を実施することによって、好ましく得ることができる。以下各工程の好ましい態様について説明する。
【0029】
本発明においては、ピッチ系炭素短繊維の原料となるピッチ繊維の紡糸ノズルの形状については特に制約はないが、ノズル孔の長さと孔径の比が20よりも小さいものが好ましく用いられ、更に好ましくは10程度のものが用いられる。紡糸時のノズルの温度についても特に制約はなく、安定した紡糸状態が維持できる温度、即ち、紡糸ピッチの粘度が1〜100Pa・S、好ましくは1〜15Pa・Sになる温度であればよい。
【0030】
本発明のピッチ系炭素短繊維フィラーは、平均繊維径(D1)が2μmより大きく7μm以下であることを特徴とするが、このような繊維径を有するピッチ系炭素短繊維フィラーを得る方法、すなわち溶融ピッチを牽引して作製する平均原糸径を小さくする操作は、紡糸時に口金からの溶融ピッチの吐出量を減少させる、または紡糸口金のキャピラリー径を小さくすることで対応することができる。平均繊維径が2μmより大きく7μm以下である繊維は、平均繊維径が7μmを超える繊維に比べ、単位重量当りの炭素繊維の本数が多くなる。このため、プラスティックに添加した場合、炭素繊維同士の繋ぎが顕著に起こり、平均繊維径が7μmを超える繊維に比べ低重量で放熱特性が現れるなどの特性を有する。しかしながら、平均繊維径が2μm未満であると、ハンドリングが困難であり樹脂への均一ブレンドが困難となるばかりか、紡糸直後のマットが嵩高くなり、生産性の低下を引き起こすため好ましくない。
【0031】
ノズル孔から出糸されたピッチ繊維は、100〜370℃に加温された毎分100〜10000mの線速度のガスを細化点近傍に吹き付けることによって短繊維化される。吹き付けるガスは空気、窒素、アルゴンを用いることができるが、コストパフォーマンスの点から空気が望ましい。
【0032】
ピッチ繊維は、金網ベルト上に捕集され連続的なマット状になり、さらにクロスラップされることで一定の目付のウェブとなる。
このようにして得られたピッチ繊維よりなるウェブは、公知の方法で不融化し、700〜900℃で焼成される。不融化は、空気、或いはオゾン、二酸化窒素、窒素、酸素、ヨウ素、臭素を空気に添加したガスを用いた酸化性のガス下で実施される。不融化の温度は170〜340℃の温度で一定時間の熱処理を付与することで達成される。より好ましくは、190〜300℃であり、さらに好ましくは、200〜280℃の範囲である。また、安全性、利便性を考慮すると空気中で実施することが望ましい。昇温速度は1〜10℃/分が適切であり、1℃以下では生産性が悪く、10℃以上では、不融化にムラが発生し、融着などのトラブルの原因になる。また、ウェブの目付とも密接な関係があり、750g/mより大きな目付では、不融化での酸素吸着量のムラが大きくなり、製品のムラや、ベルトへの融着といった工程トラブルになる。
【0033】
そして、不融化したピッチ繊維は、400〜1000℃の範囲で、真空中、或いは窒素、アルゴン、クリプトン等の不活性ガスを用いた非酸化性雰囲気中で焼成されるが、常圧であり、且つコストの安い窒素中で実施される。
【0034】
不融化・焼成されたピッチ繊維よりなるウェブは、さらに短繊維化を進め一定の長さにするために、ミリング、篩分けを実施する。ミリングは、ビクトリーミル、ジェットミル、高速回転ミル等の粉砕機、切断機等が使用される。ミリングを効率よく行うためには、ブレードを取付けたロータを高速に回転させることにより、繊維軸に対して直角方向に繊維を寸断する方法が適切である。
【0035】
ミリングによって生じる繊維の平均繊維長は、ロータの回転数、ブレードの角度等を調整することにより制御される。さらに、篩を用いることも可能であり、10〜60μm、より好ましくは、15〜50μmに分けられる。或いは、100〜700μm、より好ましくは100〜300μmに分けられる。このような平均繊維長の調整は篩の目の粗さを組み合わせることによって達成することができる。
【0036】
上記のミリング処理、場合によっては篩分けを併用して作成したピッチ系短繊維は、2500〜3500℃に加熱し黒鉛化して最終的なピッチ系炭素短繊維フィラーとする。黒鉛化は、アチソン炉、電気炉等にて非酸化性雰囲気下で実施される。
【0037】
本発明においてピッチ系炭素短繊維フィラーは、表面処理したのちサイジング剤をフィラーに対し0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜2.5重量%添着させてもよい。サイジング剤としては通常用いられる任意のものが使用でき、具体的にはエポキシ化合物、水溶性ポリアミド化合物、飽和ポリエステル、不飽和ポリエステル、酢酸ビニル、水、アルコール、グリコールを単独又はこれらの混合物で用いることができる。このような表面処理は、嵩真密度を高くすることを鑑みると有効である。ただ、過剰のサイジング剤の添着は、熱抵抗となるため、必要とされる物性に応じてこれを実施することができる。
【0038】
本発明では、ピッチ系炭素短繊維フィラーと熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂とを混合した組成物も包含する。この際、ピッチ系炭素短繊維フィラーは、樹脂100体積部に対して10〜150体積部を添加させる。10体積部より少ない添加量では、熱伝導性を十分に確保することが難しい。一方、150体積部より多いピッチ系炭素短繊維フィラーのマトリクスへの添加は困難であることが多い。
【0039】
樹脂は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれか一つ以上を含有し、さらに複合成形体に所望の物性を発現させるために熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂を適宜混合して用いることもできる。
【0040】
マトリクスに用いることができる熱可塑性樹脂としてポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体等のエチレン−α−オレフィン共重合体、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリアセタール、フッ素樹脂(ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等)、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン2,6ナフタレート、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、スチレン−アクリロニトリル共重合体、ABS樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂、変性PPE樹脂、脂肪族ポリアミド類、芳香族ポリアミド類、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリメタクリル酸類(ポリメタクリル酸メチル等のポリメタクリル酸エステル)、ポリアクリル酸類、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルニトリル、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリケトン、液晶ポリマー、アイオノマー等が挙げられる。
【0041】
なかでも熱可塑性樹脂として、ポリカーボネート類、ポリエチレンテレフタレート類、ポリブチレンテレフタレート類、ポリエチレン2,6ナフタレート類、ナイロン類、ポリプロピレン類、ポリエチレン類、ポリエーテルケトン類、ポリフェニレンスルフィド類、およびアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン系共重合樹脂類からなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂が好ましく挙げられる。
【0042】
また、熱硬化性樹脂としては、エポキシ類、アクリル類、ウレタン類、シリコーン類、フェノール類、イミド類、熱硬化型変性PPE類、および熱硬化型PPE類等が挙げられ、これらから一種を単独で用いても、二種以上を適宜組み合わせて用いても良い。
【0043】
本発明の組成物は、ピッチ系炭素短繊維フィラーと樹脂とを混合して作製するが、混合の際には、ニーダー、ミキサー、ブレンダー、ロール、押出機、ミリング機、自公転式の撹拌機などの混合装置又は混練装置が好適に用いられる。そして、複合材料及び/または複合成形体は、射出成形法、プレス成形法、カレンダー成形法、ロール成形法、押出成形法、注型成形法、ブロー成形法等の成形方法にて、成形することが可能である。成形条件は、手法とマトリクスに強く依存し、熱可塑性樹脂の場合は、当該樹脂の溶融粘度より温度を上げた状態で成形を実施する。マトリクスが熱硬化性樹脂の場合は、適切な型において、当該樹脂の硬化温度を付与するといった方法を挙げることができる。
【0044】
本発明の組成物を平板状に成形し、熱伝導率を測定すると2W/(m・K)以上の熱伝導率を示す。2W/(m・K)の熱伝導率は、マトリクスとして用いている高分子材料に比較すると約一桁高い熱伝導率である。
【0045】
本発明の組成物の熱伝導率、成形性、機械物性をより高めるためには、ピッチ系炭素短繊維フィラー以外のフィラーを必要に応じて添加してもよい。具体的には、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛、などの金属酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物、窒化ホウ素、窒化アルミニウムなどの金属窒化物、酸化窒化アルミニウムなどの金属酸窒化物、炭化珪素などの金属炭化物、金、銀、銅、アルミニウムなどの金属もしくは金属合金、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛、ダイヤモンドなどの炭素材料などが挙げられる。さらに、ガラス繊維、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、硼化アルミニウムウィスカ、窒化ホウ素ウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、アスベスト繊維、石膏繊維、金属繊維などの繊維状フィラーを欲する機能に応じて適宜添加してもよい。ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、カオリン、マイカ、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アスベスト、タルク、アルミナシリケートなどの珪酸塩、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、ガラスビーズ、ガラスフレーク及びセラミックビーズなどの非繊維状フィラーも必要に応じて適宜添加することが可能である。これらは中空であってもよく、さらにはこれらを2種類以上併用することも可能である。ただ、上記化合物は、密度がピッチ系炭素短繊維フィラーより大きなものが多く、軽量化を目的とするときには、添加量や添加比率に気を配る必要がある。
【0046】
本発明の組成物を成形して得られる成形体は、その熱伝導率の高さを利用することで、電子部品用放熱材として用いることができる。また、ピッチ系炭素短繊維フィラーの添加量を多くすることで、高い熱伝導度が得られるため、電子部品においても、比較的耐熱性が要求される自動車や大電流を必要とする産業用パワーモジュールのコネクタ等に好適に用いることができる。より具体的には、放熱板、半導体パッケージ用部品、ヒートシンク、ヒートスプレッダー、ダイパッド、プリント配線基板、冷却ファン用部品、筐体等に用いることができる。また、熱交換器の部品として用いることもできる。ヒートパイプに用いることができる。さらに、ピッチ系炭素短繊維フィラーの電波遮蔽性を利用し、特にGHz帯の電波遮蔽材として好適に用いることができる。
【実施例】
【0047】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。
(1)ピッチ系炭素短繊維フィラーの平均繊維径及び繊維径分散:
黒鉛化を経たピッチ系炭素繊維フィラーをJIS R7607に準じ、光学顕微鏡下でスケールを用いて60本測定し、その平均値から求めた。
(2)ピッチ系炭素短繊維フィラーの平均繊維長:
平均繊維長は、個数平均繊維長であり、黒鉛化を経たピッチ系炭素短繊維フィラーを光学顕微鏡下で測長器で2000本測定(10視野、200本ずつ測定)し、その平均値から求めた。倍率は糸長さに応じて適宜調整した。
(3)ピッチ系炭素短繊維フィラーの真密度:
比重法を用いて求めた。
(4)結晶サイズ:
X線回折にて求め、六角網面の厚み方向に由来する結晶子サイズは(002)面からの回折線を用いて求め、六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズは(110)面からの回折線を用いて求めた。また、求め方は学振法に準拠して実施した。
(5)ピッチ系炭素短繊維フィラーの熱伝導率:
粉砕工程以外を同じ条件で作製した、黒鉛化後のピッチ系炭素短繊維の抵抗率を測定し、特開平11−117143号公報に開示されている熱伝導率と電気比抵抗との関係を表す下記式(1)より求めた。
[数1]
K=1272.4/ER−49.4 (1)
ここで、Kは黒鉛化後のピッチ系炭素短繊維の熱伝導率W/(m・K)、ERは同じピッチ系炭素短繊維の電気比抵抗μΩmを表す。
(6)平板状成形体の熱伝導率:
京都電子製QTM−500で測定した。
(7)実質的に平坦な表面の確認:
ピッチ系炭素短繊維フィラーを走査型電子顕微鏡にて1000倍で観察した像に、凹凸のような欠陥が何箇所あるかを数えた。
【0048】
[実施例1]
縮合多環炭化水素化合物よりなるピッチを主原料とした。光学的異方性割合は100%、軟化点が288℃であった。340℃で溶融した粘度7Pa・sのピッチを、直径0.2mmφの孔のキャップを使用し、スリットから加熱空気を毎分5500mの線速度で噴出させて、溶融ピッチを牽引して平均繊維径が9.0μmのピッチ系短繊維を作製した。紡出された短繊維をベルト上に捕集してマットとし、さらにクロスラッピングで目付280g/mのピッチ系短繊維からなるウェブとした。
【0049】
このウェブを空気中で175℃から280℃まで平均昇温速度4℃/分で昇温して不融化を行った。不融化したウェブを窒素雰囲気中750℃で焼成した後、ミリングし、その後、非酸化性雰囲気とした電気炉にて3000℃で熱処理することで黒鉛化し、ピッチ系炭素短繊維フィラーとした。平均繊維径(D1)は6.8μmであった。平均繊維長(L1)が60μmであった。繊維径分散の平均繊維径に対する百分率は11%であった。D1に対するL1の比は、8.8であった。真密度は、2.15g/ccであった。なお、炭素短繊維フィラーの縦割りは殆ど認められなかった。
【0050】
得られたピッチ系炭素短繊維フィラーを透過型電子顕微鏡で100万倍の倍率で観察し、400万倍に写真上で拡大した。ピッチ系炭素短繊維フィラーの端面はグラフェンシートが閉じていることを確認した。また、走査型電子顕微鏡で1000倍の倍率で観察した、ピッチ系炭素短繊維フィラーの表面には、大きな凹凸のような欠陥はなく平滑であった。X線回折法によって求めた六角網面の厚み方向の結晶子サイズは、34nmであった。また、六角網面の成長方向の結晶子サイズは、78nmであった。なお、焼成までを同じ工程で作製し、ミリングを実施しなかったウェブを、非酸化性雰囲気とした電気炉にて3000℃で熱処理した黒鉛化ウェブより、単糸を抜き取り、電気比抵抗を測定したところ、1.6μΩmであった。熱伝導度は750W/(m・K)であった。
【0051】
[実施例2]
750℃焼成までを実施例1と同じ方法で作製したウェブをミリングし、その後、非酸化性雰囲気とした電気炉にて3000℃で熱処理することで黒鉛化し、ピッチ系炭素短繊維フィラーとした。平均繊維径(D1)は6.8μmであった。平均繊維長(L1)は180μmであった。繊維径分散の平均繊維径に対する百分率は9%であった。D1に対するL1の比は、26.5であった。真密度は、2.18g/ccであった。なお、炭素短繊維フィラーの縦割りは殆ど認められなかった。
【0052】
得られたピッチ系炭素短繊維フィラーを透過型電子顕微鏡で100万倍の倍率で観察し、400万倍に写真上で拡大した。ピッチ系炭素短繊維フィラーの端面はグラフェンシートが閉じていることを確認した。また、走査型電子顕微鏡で1000倍の倍率で観察した、ピッチ系炭素短繊維フィラーの表面には、大きな凹凸のような欠陥は認められず平滑であった。X線回折法によって求めた六角網面の厚み方向の結晶子サイズは、43nmであった。また、六角網面の成長方向の結晶子サイズは、95nmであった。
焼成までを同じ工程で作製し、ミリングを実施しなかったウェブを、非酸化性雰囲気とした電気炉にて3000℃で熱処理した黒鉛化ウェブより、単糸を抜き取り、電気比抵抗を測定したところ、1.6μΩmであった。熱伝導度は750W/(m・K)であった。
【0053】
[実施例3]
ミリングまでを実施例1と同じ方法で作製し、目開き50μmの篩で分級し、篩の上に残ったピッチ系繊維を、非酸化性雰囲気とした電気炉にて3000℃で熱処理することで黒鉛化し、ピッチ系炭素短繊維フィラーとした。平均繊維径(D1)は6.8μmであった。平均繊維長(L1)は300μmであった。繊維径分散の平均繊維径に対する百分率は9.2%であった。D1に対するL1の比は、44.1であった。真密度は、2.16g/ccであった。なお、炭素短繊維フィラーの縦割りは殆ど認められなかった。
【0054】
得られたピッチ系炭素短繊維フィラーを透過型電子顕微鏡で100万倍の倍率で観察し、400万倍に写真上で拡大した。ピッチ系炭素短繊維フィラーの端面はグラフェンシートが閉じていることを確認した。また、走査型電子顕微鏡で1000倍の倍率で観察した、ピッチ系炭素短繊維フィラーの表面には、大きな凹凸のような欠陥は認められず平滑であった。X線回折法によって求めた六角網面の厚み方向の結晶子サイズは、40nmであった。また、六角網面の成長方向の結晶子サイズは、88nmであった。焼成までを同じ工程で作製し、ミリングを実施しなかったウェブを、非酸化性雰囲気とした電気炉にて3000℃で熱処理した黒鉛化ウェブより、単糸を抜き取り、電気比抵抗を測定したところ、1.6μΩmであった。熱伝導度は750W/(m・K)であった。
【0055】
[実施例4]
縮合多環炭化水素化合物よりなるピッチを主原料とした。光学的異方性割合は100%、軟化点が288℃であった。327℃で溶融した粘度5Pa・sのピッチを、直径0.15mmφの孔のキャップを使用し、スリットから加熱空気を毎分4000mの線速度で噴出させて、溶融ピッチを牽引して平均繊維径が8.1μmのピッチ系短繊維を作製した。紡出された短繊維をベルト上に捕集してマットとし、さらにクロスラッピングで目付270g/mのピッチ系短繊維からなるウェブとした。
【0056】
このウェブを空気中で200℃から290℃まで平均昇温速度4℃/分で昇温して不融化を行った。不融化したウェブを窒素雰囲気中750℃で焼成した後、ミリングし、その後、非酸化性雰囲気とした電気炉にて3000℃で熱処理することで黒鉛化し、ピッチ系炭素短繊維フィラーとした。平均繊維径(D1)は5.7μmであった。平均繊維長(L1)は50μmであった。繊維径分散の平均繊維径に対する百分率は8%であった。D1に対するL1の比は、8.8であった。真密度は、2.2g/ccであった。なお、炭素短繊維フィラーの縦割りは殆ど認められなかった。
【0057】
得られたピッチ系炭素短繊維フィラーを透過型電子顕微鏡で100万倍の倍率で観察し、400万倍に写真上で拡大した。ピッチ系炭素短繊維フィラーの端面はグラフェンシートが閉じていることを確認した。また、走査型電子顕微鏡で1000倍の倍率で観察した、ピッチ系炭素短繊維フィラーの表面には、大きな凹凸のような欠陥はなく平滑であった。
【0058】
X線回折法によって求めた六角網面の厚み方向の結晶子サイズは、40nmであった。また、六角網面の成長方向の結晶子サイズは、90nmであった。
焼成までを同じ工程で作製し、ミリングを実施しなかったウェブを、非酸化性雰囲気とした電気炉にて3000℃で熱処理した黒鉛化ウェブより、単糸を抜き取り、電気比抵抗を測定したところ、1.5μΩmであった。熱伝導度は800W/(m・K)であった。
【0059】
[実施例5]
750℃焼成までを実施例4と同じ方法で作製したウェブをミリングし、その後、非酸化性雰囲気とした電気炉にて3000℃で熱処理することで黒鉛化し、ピッチ系炭素短繊維フィラーとした。平均繊維径(D1)は5.7μmであった。平均繊維長(L1)は220μmであった。繊維径分散の平均繊維径に対する百分率は8.3%であった。D1に対するL1の比は、38.6であった。真密度は、2.18g/ccであった。なお、炭素短繊維フィラーの縦割りは殆ど認められなかった。
【0060】
得られたピッチ系炭素短繊維フィラーを透過型電子顕微鏡で100万倍の倍率で観察し、400万倍に写真上で拡大した。ピッチ系炭素短繊維フィラーの端面はグラフェンシートが閉じていることを確認した。また、走査型電子顕微鏡で1000倍の倍率で観察した、ピッチ系炭素短繊維フィラーの表面には、大きな凹凸のような欠陥は1個であり平滑であった。
【0061】
X線回折法によって求めた六角網面の厚み方向の結晶子サイズは、42nmであった。また、六角網面の成長方向の結晶子サイズは、91nmであった。
焼成までを同じ工程で作製し、ミリングを実施しなかったウェブを、非酸化性雰囲気とした電気炉にて3000℃で熱処理した黒鉛化ウェブより、単糸を抜き取り、電気比抵抗を測定したところ、1.5μΩmであった。熱伝導度は800W/(m・K)であった。
【0062】
[実施例6]
ミリングまでを実施例4と同じとし、目開き50μmの篩で分級し、篩の上に残ったピッチ系繊維を、その後、非酸化性雰囲気とした電気炉にて3000℃で熱処理することで黒鉛化し、ピッチ系炭素短繊維フィラーとした。平均繊維径(D1)は5.7μmであった。平均繊維長(L1)は360μmであった。繊維径分散の平均繊維径に対する百分率は7.8%であった。D1に対するL1の比は、63.2であった。真密度は、2.16g/ccであった。なお、炭素短繊維フィラーの縦割りは殆ど認められなかった。
【0063】
得られたピッチ系炭素短繊維フィラーを透過型電子顕微鏡で100万倍の倍率で観察し、400万倍に写真上で拡大した。ピッチ系炭素短繊維フィラーの端面はグラフェンシートが閉じていることを確認した。また、走査型電子顕微鏡で1000倍の倍率で観察した、ピッチ系炭素短繊維フィラーの表面には、大きな凹凸のような欠陥は1個であり平滑であった。
【0064】
X線回折法によって求めた六角網面の厚み方向の結晶子サイズは、49nmであった。また、六角網面の成長方向の結晶子サイズは、89nmであった。
焼成までを同じ工程で作製し、ミリングを実施しなかったウェブを、非酸化性雰囲気とした電気炉にて3000℃で熱処理した黒鉛化ウェブより、単糸を抜き取り、電気比抵抗を測定したところ、1.5μΩmであった。熱伝導度は800W/(m・K)であった。
【0065】
[実施例7]
ミリングまでを実施例1と同じとし、非酸化性雰囲気とした電気炉にて2700℃で黒鉛化し、ピッチ系炭素短繊維フィラーを得た。平均繊維径(D1)は6.8μmであった。平均繊維長(L1)は、50μmであった。繊維径分散の平均繊維径に対する百分率は12%であった。D1に対するL1の比は、7.4であった。真密度は、1.9g/ccであった。なお、炭素短繊維フィラーの縦割りは殆ど認められなかった。
【0066】
透過型電子顕微鏡で100万倍の倍率で観察し、400万倍に写真上で拡大した。ピッチ系炭素短繊維フィラーの端面はグラフェンシートが閉じていた。また、走査型電子顕微鏡で1000倍の倍率で観察した、ピッチ系炭素短繊維フィラーの表面は、凹凸が3個であり平滑であった。
【0067】
X線回折法によって求めた六角網面の厚み方向の結晶子サイズは、21nmであった。また、六角網面の成長方向の結晶子サイズは、30nmであった。
焼成までを同じ工程で作製し、ミリングを実施しなかったウェブを、非酸化性雰囲気とした電気炉にて2700℃で熱処理した黒鉛化ウェブより、単糸を抜き取り、電気比抵抗を測定したところ、2.5μΩmであった。熱伝導度は460W/(m・K)であった。
【0068】
[比較例1]
縮合多環炭化水素化合物よりなるピッチを主原料とした。光学的異方性割合は100%、軟化点が288℃であった。334℃で溶融した粘度8Pa・sのピッチを、直径0.15mmφの孔のキャップを使用し、スリットから加熱空気を毎分5000mの線速度で噴出させて、溶融ピッチを牽引して平均繊維径が8.2μmのピッチ系短繊維を作製した。紡出された短繊維をベルト上に捕集してマットとし、さらにクロスラッピングで目付290g/mのピッチ系短繊維からなるウェブとした。
【0069】
このウェブを空気中で175℃から280℃まで平均昇温速度4℃/分で昇温して不融化を行った。不融化したウェブを窒素雰囲気中750℃で焼成した後、非酸化性雰囲気とした電気炉にて3000℃で熱処理することで黒鉛化し、その後ミリングすることでピッチ系炭素短繊維フィラーとした。平均繊維径(D1)は5.2μmであった。平均繊維長(L1)が50μmであった。繊維径分散の平均繊維径に対する百分率は35%であった。D1に対するL1の比は、9.6であった。真密度は、2.15g/ccであった。なお、炭素短繊維フィラーの縦割りが多数認められ、繊維径分散の平均繊維径に対する百分率が20%を超えていた。
【0070】
得られたピッチ系炭素短繊維フィラーを透過型電子顕微鏡で100万倍の倍率で観察し、400万倍に写真上で拡大した。ピッチ系炭素短繊維フィラー端面のグラフェンシートが開いている箇所があることを確認した。また、走査型電子顕微鏡で1000倍の倍率で観察した、ピッチ系炭素短繊維フィラーの表面には、大きな凹凸のような欠陥が多数認められた。
【0071】
X線回折法によって求めた六角網面の厚み方向の結晶子サイズは、28nmであった。また、六角網面の成長方向の結晶子サイズは、60nmであった。
焼成までを同じ工程で作製し、ミリングを実施しなかったウェブを、非酸化性雰囲気とした電気炉にて3000℃で熱処理した黒鉛化ウェブより、単糸を抜き取り、電気比抵抗を測定したところ、1.7μΩmであった。熱伝導度は700W/(m・K)であった。
【0072】
[比較例2]
縮合多環炭化水素化合物よりなるピッチを主原料とした。光学的異方性割合は100%、軟化点が288℃であった。349℃で溶融した粘度5Pa・sのピッチを、直径0.2mmφの孔のキャップを使用し、スリットから加熱空気を毎分4000mの線速度で噴出させて、溶融ピッチを牽引して平均繊維径が30μmのピッチ系短繊維を作製した。紡出された短繊維をベルト上に捕集してマットとし、さらにクロスラッピングで目付750g/m以下のピッチ系短繊維からなるウェブを作ることができなくなった。
【0073】
目付840g/mのこのウェブを空気中で175℃から280℃まで平均昇温速度4℃/分で昇温して不融化を行った。不融化したウェブは、不融化異常が発生しており、酸素濃度のムラが大きく、焼成できない状態であった。
【0074】
[比較例3]
縮合多環炭化水素化合物よりなるピッチを主原料とした。光学的異方性割合は100%、軟化点が288℃であった。334℃で溶融した粘度8Pa・sのピッチを、直径0.2mmφの孔のキャップを使用し、スリットから加熱空気を毎分7500mの線速度で噴出させて、溶融ピッチを牽引して平均繊維径が19μmのピッチ系短繊維を作製した。紡出された短繊維をベルト上に捕集してマットとし、さらにクロスラッピングで目付430g/mのピッチ系短繊維からなるウェブとした。
【0075】
このウェブを空気中で175℃から280℃まで平均昇温速度4℃/分で昇温して不融化を行った。不融化したウェブを窒素雰囲気中750℃で焼成した後、ミリングし、その後、非酸化性雰囲気とした電気炉にて3000℃で熱処理することで黒鉛化し、ピッチ系炭素短繊維フィラーとした。平均繊維径(D1)は14.6μmであった。平均繊維長(L1)が60μmであった。繊維径分散の平均繊維径に対する百分率は25%であった。糸径のバラツキが大きく、同一フィラー内でも糸径のバラツキがあり、特に糸径が細くなっている箇所で、ひび割れが入っていることがある。
【0076】
[実施例8]
熱可塑性樹脂として、ポリカーボネート樹脂(帝人化成製L−1225WP)を選定し、実施例1で作製したピッチ系炭素短繊維フィラーとを100体積部:70体積部の比でクリモト製二軸混練機にて、コンパウンディングし、複合材料とした。この複合材料を名機製作所製の射出成形機にて、厚み2mmの平板に加工し、複合成形体を得た。この複合成形体の熱伝導率を測定したところ、2.6W/(m・K)であった。
この複合成形体を60℃90%RHの湿熱耐久試験にかけたところ、1000時間後にも、熱伝導率は2.6W/(m・K)を示していた。
【0077】
[実施例9]
熱可塑性樹脂として、ポリカーボネート樹脂(帝人化成製L−1225WP)を選定し、実施例2で作製したピッチ系炭素短繊維フィラーとを100体積部:70体積部の比でクリモト製二軸混練機にて、コンパウンディングし、複合材料とした。この複合材料を名機製作所製の射出成形機にて、厚み2mmの平板に加工し、複合成形体を得た。この複合成形体の熱伝導率を測定したところ、3.1W/(m・K)であった。
【0078】
[実施例10]
熱可塑性樹脂として、ポリカーボネート樹脂(帝人化成製L−1225WP)を選定し、実施例1で作製したピッチ系炭素短繊維フィラーとを100体積部:45体積部の比でクリモト製二軸混練機にて、コンパウンディングし、複合材料とした。この複合材料を名機製作所製の射出成形機にて、厚み2mmの平板に加工し、複合成形体を得た。この複合成形体の熱伝導率を測定したところ、2.2W/(m・K)であった。
【0079】
[実施例11]
熱可塑性樹脂として、ポリカーボネート樹脂(帝人化成製L−1225WP)を選定し、実施例2で作製したピッチ系炭素短繊維フィラーとを100体積部:45体積部の比でクリモト製二軸混練機にて、コンパウンディングし、複合材料とした。この複合材料を名機製作所製の射出成形機にて、厚み2mmの平板に加工し、複合成形体を得た。この複合成形体の熱伝導率を測定したところ、3.6W/(m・K)であった。
【0080】
[実施例12]
熱可塑性樹脂として、ポリカーボネート樹脂(帝人化成製L−1225WP)を選定し、実施例1で作製したピッチ系炭素短繊維フィラーとを100体積部:100体積部の比でクリモト製二軸混練機にて、コンパウンディングし、複合材料とした。この複合材料を名機製作所製の射出成形機にて、厚み2mmの平板に加工し、複合成形体を得た。この複合成形体の熱伝導率を測定したところ、2.9W/(m・K)であった。
【0081】
[比較例4]
比較例1で作製したピッチ系炭素短繊維フィラーを用いた以外は実施例8と同じ条件で複合成形体を得た。この複合成形体の熱伝導率を測定したところ、1.2W/(m・K)であった。複合成形体を得たが複合成形体はムラが大きく、目視でピッチ系炭素短繊維フィラーの多い場所と少ない場所がわかるほど不均一であった。
【0082】
[比較例5]
比較例3で作製したピッチ系炭素短繊維フィラーを用いた以外は実施例8と同じ条件で複合成形体を得た。この複合成形体の熱伝導率を測定したところ、1.1W/(m・K)であった。複合成形体を得たが複合成形体はムラが大きく、目視でピッチ系炭素短繊維フィラーの多い場所と少ない場所がわかるほど不均一であった。
【0083】
[実施例13]
熱可塑性樹脂として、ポリフェニレンスルフィド樹脂(ポリプラスチックス製0220A9)を選定し、実施例1で作製したピッチ系炭素短繊維フィラーとを100体積部:100体積部の比でクリモト製二軸混練機にて、コンパウンディングし、マスターチップとした。このチップを名機製作所製の射出成形機にて、厚み2mmの平板に加工し、複合成形体を得た。この複合成形体の熱伝導率を測定したところ、3.6W/(m・K)であった。
【0084】
[実施例14]
熱可塑性樹脂として、ポリプロピレン樹脂(サンアロマー製PM900A)を選定し、実施例1で作製したピッチ系炭素短繊維フィラーとを100体積部:45体積部の比でクリモト製二軸混練機にて、コンパウンディングし、マスターチップとした。このチップを名機製作所製の射出成形機にて、厚み2mmの平板に加工し、複合成形体を得た。この複合成形体の熱伝導率を測定したところ、2.3W/(m・K)であった。
【0085】
[実施例15]
熱硬化性樹脂として、東レ・ダウ・コーニング社製のシリコーン樹脂を選定し、実施例1で作製したピッチ系炭素短繊維フィラーとをプラネタリーミキサーを用いて100体積部:45体積部の比でミキシングを行い、1辺300mmの正方形の金枠に設置し、真空プレス機で、プレス加工し厚み0.5mmの平板状の複合成形体を得た。この複合成形体の熱伝導率を測定したところ、2.7W/(m・K)であった。
【0086】
[実施例16]
熱硬化性樹脂として、東レ・ダウ・コーニング社製のシリコーン樹脂を選定し、実施例2で作製したピッチ系炭素短繊維フィラーとをプラネタリーミキサーを用いて100体積部:45体積部の比でミキシングを行い、1辺300mmの正方形の金枠に設置し、真空プレス機で、プレス加工し厚み0.5mmの平板状の複合成形体を得た。この複合成形体の熱伝導率を測定したところ、6.8W/(m・K)であった。
【0087】
[実施例17]
熱硬化性樹脂として、東レ・ダウ・コーニング社製のシリコーン樹脂を選定し、実施例2で作製したピッチ系炭素短繊維フィラーとをプラネタリーミキサーを用いて100体積部:45体積部の比でミキシングを行い、1辺300mmの正方形の金枠に設置し、真空プレス機で、プレス加工し厚み0.5mmの平板状の複合成形体を得た。この複合成形体の熱伝導率を測定したところ、11.5W/(m・K)であった。
【0088】
[比較例6]
ピッチ系炭素短繊維フィラーを添加しない、ポリカーボネート樹脂(帝人化成製L−1225WP)の平板を作製した。熱伝導率は0.2W/(m・K)であった。
【0089】
[比較例7]
ピッチ系炭素短繊維フィラーを添加しない、東レ・ダウ・コーニング社製のシリコーン樹脂製の平板を作製した。熱伝導率は、0.3W/(m・K)であった。
【0090】
[実施例18]
実施例9で作製した、平板状の複合成形体の上に70℃に加熱した分銅を乗せ、熱伝導性シートとした。熱伝導性は、比較例6に比べて高かった。放熱部材として機能していることがわかった。
【0091】
[実施例19]
実施例16で作製した、平板状の複合成形体の上に70℃に加熱した分銅を乗せ、熱伝導性シートとした。熱伝導性は、比較例7に比べて高かった。放熱部材として機能していることがわかった。
【0092】
[実施例20]
実施例9で作製した、平板状の複合成形体の電波遮蔽性は、比較例6より高かった。
【0093】
[実施例21]
実施例16で作製した、平板状の複合成形体の電波遮蔽性は、比較例7より高かった。
【0094】
[実施例22]
実施例9で作製した平板状の複合成形体を賦型し熱交換器を作成したところ、熱交換器として作用した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学顕微鏡で観測した平均繊維径(D1)が2μmより大きく7μm以下であり、平均繊維径(D1)に対する繊維径分散(S1)の100分率が3〜20%の範囲であり、透過型電子顕微鏡によるフィラー端面観察においてグラフェンシートが閉じており、走査型電子顕微鏡での観察表面が実質的に平坦であるピッチ系炭素短繊維フィラー。
【請求項2】
平均繊維長(L1)が10μm以上700μm以下の範囲であり、平均繊維径(D1)に対するL1の比が1〜100である、請求項1に記載のピッチ系炭素短繊維フィラー。
【請求項3】
真密度が1.9〜2.3g/ccの範囲であり、繊維軸方向の熱伝導率が400W/(m・K)以上である、請求項1〜2のいずれかに記載のピッチ系炭素短繊維フィラー。
【請求項4】
六角網面の厚み方向に由来する結晶子サイズが10nm以上であり、六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズが20nm以上である請求項1〜3のいずれかに記載のピッチ系炭素短繊維フィラー。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のピッチ系炭素短繊維フィラーと熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂とからなり、樹脂100体積部に対して10〜150体積部の前記フィラーを含有する組成物。
【請求項6】
熱可塑性樹脂が、ポリカーボネート類、ポリエチレンテレフタレート類、ポリブチレンテレフタレート類、ポリエチレン2,6ナフタレート類、ナイロン類、ポリプロピレン類、ポリエチレン類、ポリエーテルケトン類、ポリフェニレンスルフィド類、およびアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン系共重合樹脂類からなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
熱硬化性樹脂が、エポキシ類、アクリル類、ウレタン類、シリコーン類、フェノール類、イミド類、熱硬化型変性PPE類、および熱硬化型PPE類からなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂である、請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
平板状に成形した状態における熱伝導率が2W/(m・K)以上である、請求項5〜7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれかに記載の組成物を、射出成形法、プレス成形法、カレンダー成形法、ロール成形法、押出成形法、注型成形法、およびブロー成形法からなる群より選ばれる少なくとも一種の方法により成形して得られる成形体。
【請求項10】
請求項9に記載の成形体を主たる材料とする電子部品用放熱材。
【請求項11】
請求項9に記載の成形体を主たる材料とする電波遮蔽材。
【請求項12】
請求項9に記載の成形体を主たる材料とする熱交換器。

【公開番号】特開2009−108425(P2009−108425A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−278800(P2007−278800)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】