説明

炭素繊維の製造方法、触媒構造体及び固体高分子型燃料電池用膜電極接合体

本発明は、芳香環を有する化合物を酸化重合してフィブリル状ポリマーを得、該フィブリル状ポリマーを非酸化性雰囲気中で焼成することを特徴とする炭素繊維の製造方法と、該方法で得られる炭素繊維を用いた新規な触媒構造体と、該触媒構造体を用いた固体高分子型燃料電池用膜電極接合体と、該固体高分子型燃料電池用膜電極接合体を具えた固体高分子型燃料電池とに関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、炭素繊維の製造方法、該方法で得られる炭素繊維を用いた新規な触媒構造体、該触媒構造体を用いた固体高分子型燃料電池用膜電極接合体、及び該固体高分子型燃料電池用膜電極接合体を具えた固体高分子型燃料電池に関し、特に残炭率が高く導電性に優れ、電極材料やポリマー等と複合して補強性及び機能性を与えるフィラー並びに貴金属触媒の担体等の用途に好適なフィブリル状炭素繊維の製造方法と、担持される貴金属触媒の利用率を向上させた新規触媒構造体に関するものである。
【背景技術】
従来、炭素繊維としては、液相炭素化によるピッチ系炭素繊維、固相炭素化によるポリアクリロニトリル系及びレーヨン系炭素繊維、気相炭素化による気相成長炭素繊維、並びにレーザー法やアーク放電法によるカーボンナノチューブ類等が知られている。これらのうち、ピッチ系炭素繊維、ポリアクリロニトリル系炭素繊維及びレーヨン系炭素繊維の製造工程においては、繊維状前駆体を得るために紡糸工程が必要であり、製造工程が複雑となると共に、1μmより細い繊維を得ることが困難である。また、気相成長炭素繊維の製造においては、製造設備が高価で且つ収率が高くないなど量産方法が必ずしも確立されているとはいえないという問題がある。更に、カーボンナノチューブ類の製造についても製造設備が高価である上、効率的な量産技術は検討段階にあり、0.1μmを超える繊維径のものを得ることが難しいという問題がある。
これに対して、特開平5−178603号公報には、不融化工程を必要とせず、導電率等の電気特性を制御することが可能で、残炭率が高く且つ導電性に優れた炭素質粉末を得る方法が記載されているが、該方法ではポリアニリン粉末を原料とするため、紡糸工程を経ずに炭素繊維を得ることはできない。
ところで、昨今、発電効率が高く、環境への負荷が小さい電池として、燃料電池が注目を集めており、広く研究開発が行われている。燃料電池の中でも、出力密度が高く作動温度が低い固体高分子型燃料電池は、小型化や低コスト化が他のタイプの燃料電池よりも容易なことから、電気自動車用電源、分散発電システム、家庭用のコージェネレーションシステムとして広く普及することが期待されている。
一般に固体高分子型燃料電池は、固体高分子電解質膜の両面に貴金属触媒を含む触媒層を配置し、該触媒層の外側にガスの拡散層としてカーボンペーパーやカーボンクロス等が配置されてなる膜電極接合体を具える。更に、拡散層の外側には、ガス流路が形成された導電性のセパレーターが配置されており、該セパレーターは、燃料ガスや酸化剤ガスを通過させると同時に、集電体の機能を有する上記ガス拡散層から電流を外部に伝え、電気エネルギーを取り出す役割を担う。
従来、上記触媒層は、主に貴金属触媒を粒状カーボンに担持してなる触媒構造体と高分子電解質とからなり、触媒構造体と高分子電解質と有機溶媒とからなるペースト又はスラリーをカーボンペーパー等の上にスクリーン印刷法、沈積法又はスプレー法等で形成するか、別途用意した基材上にシート状に形成した後、固体高分子電解質膜にホットプレス等により転写することによって作製される。上記触媒層に含まれる高分子電解質は、ガス拡散層から拡散してきた水素を溶解する機能を有し、一般にイオン交換樹脂等のイオン伝導性に優れたポリマーが用いられている(日本化学会編,「化学総説No.49,新型電池の材料化学」,学会出版センター,2001年,p.180−182;「固体高分子型燃料電池<2001年版>」,技術情報協会,2001年,p.14−15)。
上記触媒構造体は、メソポア等の細孔を有するナノポーラスな粒状カーボンに貴金属を担持してなるが、該細孔には高分子電解質が浸透できないため、細孔内に担持された貴金属は高分子電解質と接触できない。そのため、従来の粒状カーボンを担体とした触媒構造体には、貴金属利用効率が著しく低いという問題があった。
また、燃料の水素は、貴金属上でプロトンと電子とに解離し、生成した電子は、カーボンを経由して集電体の機能を担う拡散層まで移動しなければならないため、カーボン同士の接触が不十分で集電体との電気的導通がとれていないカーボン上に担持された貴金属は、有効に利用されず、水素の解離が十分に進行しないという問題もあった。
【発明の開示】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、紡糸工程及び不融化工程を必要とせず、残炭率が高く且つ導電性に優れ、特に30〜数百nmの繊維径の炭素繊維を効率良く得ることができ、更に得られる炭素繊維の導電率等の電気特性を制御することが可能な炭素繊維の製造方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、貴金属触媒の利用率を向上させた触媒構造体、それを用いた固体高分子型燃料電池用膜電極接合体、及びそれを具えた固体高分子型燃料電池を提供することにある。
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、芳香環を有する化合物から得られたフィブリル状ポリマーを原料とすることにより、紡糸工程及び不融化工程を必要とせず、導電率等の電気特性を制御することが可能で、残炭率が高く、導電性に優れ、30〜数百nmの繊維径の炭素繊維が効率良く製造できることを見出した。
また、本発明者らは、該炭素繊維に貴金属触媒を担持することにより、貴金属を炭素繊維の表面にのみ担持することができ、且つ該炭素繊維が3次元連続状で導電性に優れるため、貴金属の利用効率を向上させることができることを見出した。
即ち、本発明の炭素繊維の製造方法は、芳香環を有する化合物を酸化重合してフィブリル状ポリマーを得、該フィブリル状ポリマーを非酸化性雰囲気中で焼成することを特徴とする。
本発明の炭素繊維の製造方法の好適例においては、前記芳香環を有する化合物がベンゼン環又は芳香族複素環を有する化合物である。ここで、該芳香環を有する化合物は、アニリン、ピロール、チオフェン及びそれらの誘導体からなる群から選択された少なくとも一種の化合物であるのが特に好ましい。
本発明の炭素繊維の製造方法の他の好適例においては、前記酸化重合が電解酸化重合である。
また、本発明の触媒構造体は、上記の方法で製造した炭素繊維に、貴金属の微粒子を担持したことを特徴とする。ここで、本発明の触媒構造体は、触媒としての貴金属と、担体としての炭素繊維とからなり、該炭素繊維は、3次元連続状である。
本発明の触媒構造体の好適例においては、前記貴金属の微粒子を電気メッキにより前記炭素繊維上に担持する。
本発明の触媒構造体の他の好適例においては、前記貴金属が少なくともPtを含む。
また、本発明の固体高分子型燃料電池用膜電極接合体(MEA)は、固体高分子電解質膜と、該固体高分子電解質膜の両側に配置した触媒層と、該触媒層の両側に配置した拡散層とからなる固体高分子型燃料電池用膜電極接合体において、前記触媒層が前記触媒構造体と高分子電解質とからなることを特徴とする。
また、本発明の固体高分子型燃料電池は、上記膜電極接合体を具えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
図1は、実施例1で製造したフィブリル状ポリアニリン(焼成前)のSEM写真である。
図2は、実施例1で製造した炭素繊維(焼成後)のSEM写真である。
図3は、実施例3で製造した3次元連続状炭素繊維のSEM写真である。
図4は、実施例3で調製した白金が担持された3次元連続状炭素繊維(触媒構造体)のSEM写真である。
図5は、実施例3及び比較例2の固体高分子型燃料電池の電圧−電流特性を示す。
発明を実施するための最良の態様
以下に、本発明を詳細に説明する。
<炭素繊維の製造方法>
本発明の炭素繊維の製造方法は、(i)芳香環を有する化合物を酸化重合してフィブリル状ポリマーを得、(ii)該フィブリル状ポリマーを非酸化性雰囲気中で焼成することを特徴とする。本発明の炭素繊維の製造方法では、紡糸工程や不融化工程が必要でないため、工程数が少なく、生産性に優れ、コストも安い。
本発明の炭素繊維の製造方法に用いる芳香環を有する化合物としては、ベンゼン環を有する化合物、芳香族複素環を有する化合物を挙げることができる。ここで、ベンゼン環を有する化合物としては、アニリン及びアニリン誘導体が好ましく、芳香族複素環を有する化合物としては、ピロール、チオフェン及びこれらの誘導体が好ましい。これら芳香環を有する化合物は、一種単独で用いても、二種以上の混合物として用いてもよい。
本発明の炭素繊維の製造方法では、上記芳香環を有する化合物を酸化重合してフィブリル状ポリマーを得る。該フィブリル状ポリマーは、直径が30〜数百nmで、好ましくは40〜500nmであり、長さが0.5〜100000μmで、好ましくは1〜10000μmである。
上記酸化重合法としては、電解酸化重合法と化学的酸化重合法が挙げられるが、電解酸化重合法が好ましい。また、酸化重合においては、原料の芳香環を有する化合物と共に、酸を混在させることが好ましい。この場合、酸の負イオンがドーパントとして合成されるフィブリル状ポリマー中に取り込まれ、導電性に優れるフィブリル状ポリマーが得られ、このフィブリル状ポリマーを用いることにより最終的に炭素繊維の導電性を更に向上させることができる。
この点について更に詳述すると、例えば、重合原料としてアニリンを用いた場合、アニリンをHBFを混在させた状態で酸化重合して得られるポリアニリンは、通常下記式(A)〜(D):

に示した4種のポリアニリンが混在した状態、即ち、ベンゾノイド=アミン状態(式A)、ベンゾノイド=アンモニウム状態(式B)、ドープ=セミキノンラジカル状態(式C)及びキノイド=ジイミン状態(式D)の混合状態になる。ここで、上記各状態の混合比率は特に制限されるものではないが、ドープ=セミキノンラジカル状態(式C)を多く含んでいる方がキノイド=ジイミン状態(式D)が大部分であるよりも最終的に得られる炭素繊維の残炭率及び導電率が高くなる。従って、ドープ=セミキノンラジカル状態(式C)を多く含むポリアニリンを得るためには、重合時に酸を混在させることが好ましい。なお、重合の際に混在させる酸としては、上記HBFに限定されるものではなく、種々のものを使用することができ、HBFの他、HSO、HCl、HClO等を例示することができる。ここで、該酸の濃度は、0.1〜3mol/Lが好ましく、0.5〜2.5mol/Lがより好ましい。
上記ドープ=セミキノンラジカル状態(式C)の含有割合(ドーピングレベル)は適宜調節することができ、この含有割合(ドーピングレベル)を調節することにより、得られる炭素繊維の残炭率及び導電率を制御することができ、ドーピングレベルを高くすることにより得られる炭素繊維の残炭率及び導電率が共に高くなる。なお、特に限定されるものではないが、このドープ=セミキノンラジカル状態(式C)の含有割合(ドーピングレベル)は、通常0.01〜50%の範囲とすることが好ましい。
電解酸化重合によりフィブリル状ポリマーを得る場合には、芳香環を有する化合物を含む溶液中に作用極及び対極となる一対の電極板を浸漬し、両極間に前記芳香環を有する化合物の酸化電位以上の電圧を印加するか、または該芳香環を有する化合物が重合するのに充分な電圧が確保できるような条件の電流を通電すればよく、これにより作用極上にフィブリル状ポリマーが生成する。この電解酸化重合法によるフィブリル状ポリマーの合成方法の一例を挙げると、作用極及び対極としてステンレススチール、白金、カーボン等の良導電性物質からなる板や多孔質材などを用い、これらをHSO、HBF等の酸及び芳香環を有する化合物を含む電解溶液中に浸漬し、両極間に0.1〜1000mA/cm、好ましくは0.2〜100mA/cmの電流を通電して、作用極側にフィブリル状ポリマーを重合析出させる方法などが例示される。ここで、芳香環を有する化合物の電解溶液中の濃度は、0.05〜3mol/Lが好ましく、0.25〜1.5mol/Lがより好ましい。また、電解溶液には、上記成分に加え、pHを調製するために可溶性塩等を適宜添加してもよい。
上述のように、炭素繊維のドーピングレベルを調節することにより、得られる炭素繊維の導電率及び残炭率を制御することができるが、ドーピングレベルの調節は、得られたフィブリル状ポリマーを何らかの方法で還元すればよく、その手法に特に制限はない。具体例としては、アンモニア水溶液又はヒドラジン水溶液などに浸漬する方法、電気化学的に還元電流を付加する方法などが挙げられる。この還元レベルによりフィブリル状ポリマーに含まれるドーパント量の制御を行うことができ、この場合、還元処理によってフィブリル状ポリマー中のドーパント量は減少する。また、重合時において酸濃度を制御することにより重合過程でドーピングレベルをある程度調節することもできるが、ドーピングレベルが大きく異なる種々のサンプルを得ることは難しく、このため上記還元法が好適に採用される。なお、このように含有割合を調節したドーパントは、後述する焼成処理後も、その焼成条件を制御することによって得られた炭素繊維中に保持され、これにより炭素繊維の導電率及び残炭率が制御される。
上記のようにして作用極上に得られたフィブリル状ポリマーを、水や有機溶剤等の溶媒で洗浄し、乾燥させた後、非酸化性雰囲気中で焼成して炭化することで、フィブリル状で3次元連続状の炭素繊維が得られる。ここで、乾燥方法としては、特に制限されるものではないが、風乾、真空乾燥の他、流動床乾燥装置、気流乾燥機、スプレードライヤー等を使用した方法を例示することができる。また、焼成条件としては、特に限定されるものではなく、炭素繊維の用途により最適導電率となるように設定すればよいが、特に高導電率を必要とする場合は、温度500〜3000℃、好ましくは600〜2800℃で、0.5〜6時間とすることが好ましい。なお、非酸化性雰囲気としては、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、ヘリウム雰囲気等の不活性ガス雰囲気を挙げることができ、場合によっては水素雰囲気とすることもできる。
本発明の製造方法で得られる炭素繊維は、直径が30〜数百nm、好ましくは40〜500nmであり、長さが0.5〜100000μm、好ましくは1〜10000μmであり、表面抵抗が10〜10−2Ω、好ましくは10〜10−2Ωである。また、該炭素繊維は、残炭率が95〜30%、好ましくは90〜40%である。該炭素繊維は、カーボン全体が3次元に連続した構造を有するため、粒状カーボンよりも導電性が高い。
<触媒構造体>
本発明の触媒構造体は、上記方法で製造した炭素繊維に、貴金属の微粒子を担持したことを特徴とする。上記炭素繊維は、高分子電解質が浸透できる表面部分に貴金属の微粒子が析出するので、高分子電解質との接触性に優れる。そのため、上記炭素繊維に担持された貴金属微粒子は、高分子電解質との接触割合が従来よりも高い。また、上記炭素繊維は、3次元連続状であるため、粒状カーボンよりも導電性が高い。これらの理由により、本発明の触媒構造体は、(i)高分子電解質と接触していない貴金属及び(ii)集電体と導通がとれていない孤立した担体に担持されている貴金属の割合が、従来の触媒構造体に比べ、著しく低いため、貴金属の利用効率が大幅に向上している。なお、本発明の触媒構造体は、種々の化学反応の触媒として有効であるが、特に固体高分子型燃料電池の触媒層に好適に用いることができる。
本発明の触媒構造体に用いる貴金属としては、Ptが特に好ましい。なお、本発明においては、Ptを単独で用いてもよいし、Ru等の他の金属との合金として用いてもよい。貴金属としてPtを用いることで、100℃以下の低温でも水素を高効率で酸化することができる。また、PtとRu等の他の合金を用いることで、COによるPtの被毒を防止して、触媒の活性低下を防止することができる。なお、炭素繊維上に担持される貴金属微粒子の粒径は、0.5〜20nmの範囲が好ましく、貴金属の担持率は、炭素繊維1gに対して0.05〜5gの範囲が好ましい。
上記貴金属の炭素繊維上への担持法としては、含浸法、電気メッキ法(電解還元法)、無電解メッキ法等が挙げられるが、貴金属の担持率の調整が容易な点で、電気メッキ法が好ましい。電気メッキ法では、例えば、塩化白金酸水溶液等の目的とする貴金属成分が溶解した液から、貴金属を電気化学的に析出させることにより、炭素繊維表面のみに貴金属を析出させることができ、しかも析出量を通電電荷量で正確に制御できる。この際、通電条件(電流密度、直流法かパルス法か、温度、貴金属イオン濃度、共存イオン種等)を適宜選択することで、析出させる貴金属微粒子の粒径、形態、付着状況等を変えることができる。
<固体高分子型燃料電池用膜電極接合体>
本発明の固体高分子型燃料電池用膜電極接合体(MEA)は、固体高分子電解質膜と、該固体高分子電解質膜の両側に配置した触媒層と、該触媒層の両側に配置した拡散層とからなり、前記触媒層が上述した触媒構造体と高分子電解質とからなることを特徴とする。該膜電極接合体においては、触媒層中の貴金属量を従来よりも大幅に減ずることができる。そのため、本発明の膜電極接合体は、従来のものよりもコストが大幅に安い。
上記固体高分子電解質膜には、イオン伝導性のポリマーを使用することができ、該イオン伝導性のポリマーとしては、スルホン酸、カルボン酸、ホスホン酸、亜ホスホン酸等のイオン交換基を有するポリマーを挙げることができ、該ポリマーはフッ素を含んでも、含まなくてもよい。該イオン伝導性のポリマーとしては、ナフィオン(登録商標)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー等が挙げられる。
上記触媒層は、前述した触媒構造体と高分子電解質とからなり、該高分子電解質としては、上記固体高分子電解質膜に用いたイオン伝導性のポリマーを使用することができる。該触媒層の厚さは、特に限定されるものではないが、0.1〜100μmの範囲が好ましい。触媒層における触媒構造体と高分子電解質との割合は、触媒構造体100質量部に対して高分子電解質10〜500質量部の範囲が好ましい。また、触媒層の貴金属担持量は、前記担持率と触媒層の厚さにより定まり、好ましくは0.001〜0.8mg/cmの範囲である。
また、上記拡散層は、上記触媒層へ水素ガス或いは、酸素や空気等の酸化剤ガスを供給し、発生した電子の授受を行うための層であり、集電体の役割も担う。拡散層に用いる材質としては、多孔質かつ電子伝導性を有するものであればよく、特に限定されるものではないが、多孔質のカーボン布、カーボンペーパー等が挙げられる。
本発明の膜電極接合体は、特に限定されるものではないが、カーボンペーパー等よりなる拡散層上でフィブリル状の炭素繊維を形成し、電気メッキ等により白金等の貴金属微粒子を該炭素繊維上に担持し、該貴金属担持炭素繊維にナフィオン(登録商標)等の高分子電解質を含んだ溶液を塗布して触媒層を形成し、該触媒層でナフィオン(登録商標)等よりなる固体高分子電解質膜を挟み、加熱処理することで製造できる。この場合、触媒構造体を塗布する工程を省略することができる。
<固体高分子型燃料電池>
また、本発明の固体高分子型燃料電池は、上記膜電極接合体を具えることを特徴とする。本発明の固体高分子型燃料電池は、上記膜電極接合体を具える以外特に制限は無く、従来の固体高分子型燃料電池と同様にして製造することができる。本発明の固体高分子型燃料電池は、触媒層に用いるPt等の貴金属の利用効率が高く、使用量が少ないため、コストが安いという利点を有する。
【実施例】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例1】
アニリンモノマー1.0mol/LとHBF2.0mol/Lとを含む酸性水溶液中に白金板からなる作用極を設置し、対極として白金板を使用し、室温にて25mA/cmの定電流で30分間電解重合を行い、ポリアニリンを作用極上に電析させた。得られたポリアニリン膜をイオン交換水で充分洗浄した後、一昼夜風乾させ、更に24時間真空乾燥してポリアニリンを得た。SEMで観察したところ、直径が100〜200nmのフィブリル状ポリアニリンが絡み合ったような状態で得られていることを確認した。写真を図1に示す。ここで、写真の右上及び左下に本発明にかかわるフィブリル状ポリアニリンが写っている。
上記ポリアニリンをAr雰囲気中2.5℃/分の昇温速度で1200℃まで加熱し、その後1200℃で1時間保持して焼成処理した。得られた焼成物をSEMで観察したところ、直径が100〜200nmであり、焼成処理前とほとんど同様な形状の炭素繊維が得られていることが確認できた。写真を図2に示す。ここで、写真の右下及び左下に本発明のフィブリル状炭素繊維が写っている。
【実施例2】
アニリンモノマー0.5mol/LとHBF1.0mol/Lとを含む酸性水溶液中にカーボンペーパー[東レ製]からなる作用極を設置し、対極として白金板を使用し、室温にて10mA/cmの定電流で2分間電解重合を行い、ポリアニリンを作用極上に電析させた。得られたポリアニリンをイオン交換水で洗浄後、24時間真空乾燥した後、SEMで観察したところ、カーボンペーパーを構成している炭素繊維上に直径が50〜100nmのフィブリル状ポリアニリンが得られていることを確認した。
上記ポリアニリンをAr雰囲気中3℃/分の昇温速度で900℃まで加熱し、その後900℃で1時間保持して焼成処理した。得られた焼成物をSEMで観察したところ、直径が40〜100nmの炭素繊維が、カーボンペーパー上に得られていることを確認した。
(比較例1)
原料としてフェノール球(UA−30)を用い、窒素雰囲気中、3℃/分の昇温速度で800℃まで加熱し、その後800℃で1時間焼成処理し、得られた炭素材料(焼成物)を粉砕して炭素質粉体を得た。
上記のようにして得られた各炭素繊維及び炭素質粉末について、残炭率を測定した。また、各炭素繊維及び炭素質粉末を加圧ペレット成形し、表面抵抗計(三菱油化製Loresta IP又はHiresta IP)にて表面抵抗を測定した。

表1から、比較例に比べ実施例の炭素繊維は、残炭率が高く、表面抵抗が低いため導電性に優れることが分かる。
【実施例3】
アニリンモノマー0.5mol/LとHBF1.0mol/Lとを含む酸性水溶液中に、カーボンペーパー[東レ製]からなる作用極を設置し、対極として白金板を使用し、室温にて10mA/cmの定電流で10分間電解重合を行い、ポリアニリンを作用極上に電析させた。得られたポリアニリンをイオン交換水で洗浄後、24時間真空乾燥した後、SEMで観察したところ、カーボンペーパーの白金板に面した側に直径が50〜100nmのフィブリル状ポリアニリンが生成していることを確認した。
上記ポリアニリンをカーボンペーパーごとAr雰囲気中3℃/分の昇温速度で950℃まで加熱し、その後950℃で1時間保持して焼成処理した。得られた焼成物をSEMで観察したところ、直径が40〜100nmのフィブリル状で3次元連続状の炭素繊維が、カーボンペーパー上に生成していることを確認した。得られた炭素繊維のSEM写真を図3に示す。なお、該炭素繊維は、残炭率が45%で、表面抵抗が1.0Ωであった(三菱油化製,Loresta IP又はHiresta IPで測定)。
3質量%の塩化白金酸水溶液中に上記炭素繊維を表面に有するカーボンペーパーを作用極として設置し、対極として白金板を使用し、室温にて30mA/cmの定電流で電気メッキ(電解還元)を25秒間行い、炭素繊維上に白金を析出させ、白金担持量0.4mg/cmの触媒構造体をカーボンペーパー上に形成した。ここで、作用極と白金板の配置は、カーボンペーパーの炭素繊維が付加した面が白金板に面するようにした。白金が担持された炭素繊維のSEM写真を図4に示す。
上記カーボンペーパー上に形成した触媒構造体に、5質量%のナフィオン(登録商標)溶液を塗布した後、乾燥して、カーボンペーパー上に触媒層を形成した。次に、ナフィオン(登録商標)からなる固体高分子電解質膜(膜厚:175μm)の両面に上記触媒層が接触するように触媒層付きカーボンペーパーをそれぞれ配置し、ホットプレスにより膜電極接合体(MEA)を作製した。得られた膜電極接合体は、触媒層の厚さが10μm、触媒構造体/ナフィオン=4/1(質量比)である。該膜電極接合体をエレクトロケミカル社製の試験セル(EFC25−01SP)に組み込み、燃料電池を作製した。該燃料電池の電圧−電流特性を、H流量300cm/分、O流量300cm/分、セル温度80℃、加湿温度80℃の条件で測定した。結果を図5に示す。
(比較例2)
エレクトロケミカル社製のMEA(固体高分子電解質膜:ナフィオン膜,膜厚:130μm,担体:粒状カーボン,白金担持率20質量%,白金担持量:1mg/cm)を用いた以外は、実施例3と同様にして燃料電池を作製し、その電圧−電流特性を測定した。結果を図5に示す。
図5から、本発明の固体高分子型燃料電池は、従来のものに比べ、白金担持量を大幅に減じても、同等の電池性能を示し、白金の利用効率が大幅に改善されていることが分かる。特に、本発明の固体高分子型燃料電池は、低電流側でのセル電圧が高いため、活性化分極が小さく、触媒層での化学反応に起因する電圧降下が小さいものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
本発明によれば、紡糸工程及び不融化工程を必要とせず、残炭率が高く且つ導電性に優れ、特に30〜数百nmの繊維径の炭素繊維を効率良く得ることができ、更に得られる炭素体の導電率等の電気特性を制御することが可能な炭素繊維の製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、フィブリル状で3次元連続状の炭素繊維に貴金属触媒を担持することにより、貴金属の利用効率が従来よりも大幅に向上した触媒構造体を提供することができる。更に、該触媒構造体を用いた安価な膜電極接合体、及び該膜電極接合体を具えた安価な固体高分子型燃料電池を提供することができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香環を有する化合物を酸化重合してフィブリル状ポリマーを得、該フィブリル状ポリマーを非酸化性雰囲気中で焼成することを特徴とする炭素繊維の製造方法。
【請求項2】
前記芳香環を有する化合物がベンゼン環又は芳香族複素環を有する化合物であることを特徴とする請求項1に記載の炭素繊維の製造方法。
【請求項3】
前記芳香環を有する化合物が、アニリン、ピロール、チオフェン及びそれらの誘導体からなる群から選択された少なくとも一種の化合物であることを特徴とする請求項2に記載の炭素繊維の製造方法。
【請求項4】
前記酸化重合が電解酸化重合であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の炭素繊維の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の方法で製造した炭素繊維に、貴金属の微粒子を担持したことを特徴とする触媒構造体。
【請求項6】
前記炭素繊維が3次元連続状であることを特徴とする請求項5に記載の触媒構造体。
【請求項7】
前記貴金属の微粒子を電気メッキにより前記炭素繊維上に担持したことを特徴とする請求項5に記載の触媒構造体。
【請求項8】
前記貴金属が少なくともPtを含むことを特徴とする請求項5に記載の触媒構造体。
【請求項9】
固体高分子電解質膜と、該固体高分子電解質膜の両側に配置した触媒層と、該触媒層の両側に配置した拡散層とからなる固体高分子型燃料電池用膜電極接合体において、前記触媒層が請求項5〜8のいずれかに記載の触媒構造体と高分子電解質とからなることを特徴とする固体高分子型燃料電池用膜電極接合体。
【請求項10】
請求項9に記載の膜電極接合体を具えた固体高分子型燃料電池。

【国際公開番号】WO2004/063438
【国際公開日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【発行日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−508009(P2005−508009)
【国際出願番号】PCT/JP2004/000227
【国際出願日】平成16年1月15日(2004.1.15)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】