説明

炭素繊維前駆体繊維束および炭素繊維束

【課題】総繊維数が多くても、焼成工程での操業安定性を高くできる上に、得られる炭素繊維束のストランド強度および樹脂含浸性を高くできる炭素繊維前駆体アクリル繊維束を提供する。
【解決手段】本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束は、空豆形断面型単繊維と楕円形断面型単繊維と円形断面型単繊維とにより構成され、それらの本数の割合が特定範囲にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単繊維本数の多い太物の単炭素繊維前駆体繊維束および炭素繊維束に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は、他の繊維に比べて高い比強度及び比弾性率を有するため、複合材料用補強繊維として、従来から、スポーツ及び航空・宇宙用途に使用され、近年では、自動車や土木、建築、圧力容器、風車ブレードなどの一般産業用途にも幅広く利用されつつある。
【0003】
炭素繊維としては、ポリアクリルニトリル系炭素繊維束が広く利用されている。該ポリアクリロニトリル系炭素繊維束の製造方法としては、アクリル繊維などからなる炭素繊維前駆体アクリル繊維束(前駆体繊維束)を200〜400℃の酸素存在雰囲気下で加熱処理することにより耐炎化繊維束に転換し(耐炎化工程)、引き続いて1000℃以上の不活性雰囲気下で焼成し、炭素化して(焼成工程)、炭素繊維束を得る方法が知られている。
このようにして得た炭素繊維束は、必要に応じて織物等に加工された後、合成樹脂が含浸され、所定の形状に成形されて繊維強化複合材料とされる。
【0004】
炭素繊維束の製造においては、主に焼成工程で炭素繊維前駆体アクリル繊維束が、ばらけて、該繊維束を構成する単繊維が隣接する繊維束に絡まったり、ローラーに巻き付いたりすることがある。そのため、炭素繊維前駆体アクリル繊維束においては、高い集束性が要求される。しかしながら、集束性の高い炭素繊維前駆体アクリル繊維束から得られる炭素繊維束は、その集束性の高さのため、開繊しにくく、繊維強化複合材料を得る際に合成樹脂を含浸させにくいという問題を有していた。
そのため、工程通過性が良好となる繊維束の集束性と、合成樹脂の含浸性が良好となる開繊性とを両立できる炭素繊維前駆体アクリル繊維束が求められていた。
ところで、近年、炭素繊維複合材料の用途・需要拡大に伴い、炭素繊維強化複合材料の生産性を向上する目的で、20000本以上の単繊維の集合体である、いわゆるラージトウと称される炭素繊維束の需要が高まっている。集束性と開繊性の両立は、ラージトウに対しても求められていた。
【0005】
特許文献1には、総繊維数が12000本以下の炭素繊維前駆体アクリル繊維束において、単繊維断面形状及び表面皺形態を制御して、集束性と開繊性を両立させる方法が開示されている。
しかし、特許文献1に記載の方法は、総繊維数が12000本以下の炭素繊維前駆体アクリル繊維束を想定した技術であり、総繊維数が20000本以上の太物の炭素繊維前駆体アクリル繊維束に対しては適用が困難であった。
しかも、特許文献1に記載の方法では、単繊維の数が多くなると、集束性が低下するため、繊維束を構成する単繊維が隣接する繊維束に絡まったり、ローラーに巻き付いたりすることがあり、操業安定性が低下する傾向にあった。
【0006】
また、ラージトウにおいては、総繊維数が12000本以下の炭素繊維束並みのストランド強度が求められている。その要求に対し、特許文献2では、紡糸の際のノズルからの吐出線速度を下げて、乾燥緻密化および二次延伸を行って、総繊維数が20000本以上の炭素繊維前駆体アクリル繊維束を製造し、その炭素繊維前駆体アクリル繊維束から炭素繊維束を得ることにより、ストランド強度を向上させることが提案されている。
しかしながら、特許文献2に記載の方法では、高いストランド強度は得られるものの、操業安定性が必ずしも高くなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−20927号公報
【特許文献2】特開2005−113296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、ラージトウに対しては、繊維束の集束性が高く、焼成工程の通過が良好で、開繊性、樹脂含浸性が良好となる炭素繊維前駆体アクリル繊維束を得る方法は知られていなかった。そのため、工業的に重要な操業安定性が不充分である上に、近年の高い要求に応えうる高品質な炭素繊維束を製造可能な前駆体繊維束を得ることはできなかった。
【0009】
本発明は、総繊維数が20000本以上の炭素繊維束の製造においても焼成工程での操業安定性を高くできる上に、得られる炭素繊維束のストランド強度を高くでき、しかも炭素繊維束から複合材料を得る際の樹脂含浸性を良好にできる炭素繊維前駆体アクリル繊維束を提供することを目的とする。また、高い操業安定性で得ることができ、ストランド強度が高く、複合材料を得る際の樹脂含浸性に優れた炭素繊維束を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するための手段について鋭意検討した結果、単繊維の断面形状が、集束性、開繊性に影響することを見出した。さらに、複数の単繊維の断面形状を組み合わせることで、単繊維数が多い場合でも、集束性、開繊性を両立でき、操業安定性および樹脂含浸性に優れ、かつ機械的特性に優れた炭素繊維束が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束は、95質量%以上のアクリロニトリル単位を有するアクリロニトリル系重合体からなる多数本の単繊維で構成された炭素繊維前駆体アクリル繊維束であって、長手方向に対して垂直な断面の長径と短径との比(長径/短径)が1.20以上1.60以下の範囲にある略楕円形で、その周面に凹部が形成された断面の空豆形断面型単繊維と、長手方向に対して垂直な断面の長径と短径との比(長径/短径)が1.20以上1.60以下の範囲にある略楕円形で、その周面に凹部が形成されていない断面の楕円形断面型単繊維と、長手方向に対して垂直な断面の長径と短径との比(長径/短径)が1.00以上1.20未満の範囲にある略円形の断面の円形断面型単繊維とにより構成され、前記空豆形断面型単繊維の本数の割合は全単繊維本数の50〜90%、前記楕円形断面型単繊維の本数の割合は全単繊維本数の5〜35%、前記円形断面型単繊維の本数の割合は全単繊維本数の5〜15%である。
本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束は、前記空豆形断面型単繊維と前記楕円形断面型単繊維と前記円形断面型単繊維の合計の本数が20000本以上である場合に適している。
本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束においては、半径方向の中心に配置され、前記円形断面型単繊維で構成された円形断面型単繊維配置部と、該円形断面型単繊維配置部の外側に配置され、前記楕円形断面型単繊維で構成された楕円形断面型単繊維配置部と、該楕円形断面型単繊維配置部の外側に配置され、前記空豆形断面型単繊維で構成された空豆形断面型単繊維配置部とを有することが好ましい。
本発明の炭素繊維束は、上記炭素繊維前駆体アクリル繊維束を焼成してなるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束は、集束性が高く、総繊維数が20000本以上の炭素繊維束の製造においても焼成工程での操業安定性を高くできる。また、得られる炭素繊維束のストランド強度を高くでき、しかも、開繊性が高く、炭素繊維束から複合材料を得る際の樹脂含浸性を良好にできる。
また、本発明の炭素繊維束は、高い操業安定性で得ることができ、ストランド強度が高く、複合材料を得る際の樹脂含浸性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)〜(e)は空豆形断面型単繊維を長手方向に対して垂直に切断した際の断面の例を示す図である。
【図2】(a)〜(e)は楕円形断面型単繊維を長手方向に対して垂直に切断した際の断面の例を示す図である。
【図3】(a)〜(e)は円形断面型単繊維を長手方向に対して垂直に切断した際の断面の例を示す図である。
【図4】紡糸ノズルにおける空豆形断面型孔を示す図である。
【図5】紡糸ノズルにおける楕円形断面型孔を示す図である。
【図6】紡糸ノズルにおける円形断面型孔を示す図である。
【図7】実施例1にて使用した紡糸ノズルにおける孔の配置分布を示す模式図である。
【図8】実施例2にて使用した紡糸ノズルにおける孔の配置分布を示す模式図である。
【図9】実施例3にて使用した紡糸ノズルにおける孔の配置分布を示す模式図である。
【図10】実施例4にて使用した紡糸ノズルにおける孔の配置分布を示す模式図である。
【図11】比較例1にて使用した紡糸ノズルにおける孔の配置分布を示す模式図である。
【図12】比較例2にて使用した紡糸ノズルにおける孔の配置分布を示す模式図である。
【図13】比較例3にて使用した紡糸ノズルにおける孔の配置分布を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<炭素繊維前駆体アクリル繊維束>
本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束は、95質量%以上のアクリロニトリル単位を有するアクリロニトリル系重合体からなる多数本の単繊維で構成される。
アクリロニトリル系重合体は、アクリロニトリル単位のみを有するホモポリマーであってもよいし、アクリロニトリル単位とアクリロニトリルに共重合可能な他の単量体単位とを有するアクリロニトリル系共重合体であってもよい。
【0015】
アクリロニトリル系共重合体におけるアクリロニトリル単位の含有量は、96.0〜98.5質量%であることが好ましい。
アクリロニトリル単位の含有量が96質量%以上であると、炭素繊維前駆体アクリル繊維束から炭素繊維束にする際の焼成工程において繊維の熱融着を防止でき、より優れた品質および性能の炭素繊維束を得ることができる。また、共重合体自体の耐熱性が確保され、紡糸、乾燥、延伸の際の単繊維間の接着を回避できる。一方、アクリロニトリル単位の含有量が98.5質量%以下であれば、溶剤溶解性が低下せず、紡糸原液の安定性を確保できると共に共重合体の析出凝固性が高くなりすぎず、凝固糸を安定に作製できる。
【0016】
共重合体である場合のアクリロニトリル以外の単量体としては、アクリロニトリルと共重合可能なビニル系単量体から適宣選択することができ、耐炎化反応を促進する作用を有する点では、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等のカルボキシ基含有ビニル系単量体、またはこれらのアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩、アクリルアミド等が好ましい。前記アクリロニトリル以外の単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
アクリロニトリル系共重合体におけるカルボキシ基含有ビニル系単量体単位の含有量は1.5〜4.0質量%が好ましい。
【0017】
アクリロニトリル系重合体を得るための重合方法は、溶液重合、懸濁重合など、公知の重合方法のいずれであってもよい。
【0018】
また、本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束は、空豆形断面型単繊維と楕円形断面型単繊維と空豆形断面型単繊維とにより構成される。
ここで、空豆形断面型単繊維は、図1(a)〜(e)の例に示すような、長手方向に垂直な断面の長径と短径との比(長径/短径)が1.20以上1.60以下の範囲にある略楕円形11a〜11eで、その周面に凹部Aが形成された断面形状の単繊維である。本実施形態例では凹部は1つである。凹部とは、深さ0.5μm以上の凹みのことである。
また、楕円形断面型単繊維は、図2(a)〜(e)の例に示すような、長手方向に垂直な断面の長径と短径との比(長径/短径)が1.20以上1.60以下の範囲にある略楕円形で、その周面に凹部が形成された断面形状の単繊維12a〜12eである。
また、円形断面型単繊維は、図3(a)〜(e)の例に示すような、長手方向に垂直な断面の長径と短径との比(長径/短径)が1.00以上1.20未満の範囲にある略円形の断面形状の単繊維13a〜13eである。
【0019】
前記空豆形断面型単繊維の本数の割合は全単繊維本数の50〜90%、前記楕円形断面型単繊維の本数の割合は全単繊維本数の5〜35%、前記円形断面型単繊維の本数の割合は全単繊維本数の5〜15%である。
空豆形断面型単繊維の本数の割合が、全単繊維本数の50%より少ないと、炭素繊維前駆体アクリル繊維から得られる炭素繊維束の開繊性が低くなり、90%より多いと、炭素繊維前駆体アクリル繊維の集束性が低くなる。
楕円形断面型単繊維の本数の割合が、全単繊維本数の5%より少ないと、炭素繊維前駆体アクリル繊維の集束性が低くなり、35%より多いと、炭素繊維前駆体アクリル繊維から得られる炭素繊維束の開繊性が低くなる。
円形断面型単繊維の本数の割合が、全単繊維本数の5%より少ないと、炭素繊維前駆体アクリル繊維の集束性が低くなり、15%より多いと、炭素繊維前駆体アクリル繊維から得られる炭素繊維束の開繊性が低くなる。
【0020】
本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束においては、半径方向の中心に前記円形断面型単繊維で構成された円形断面型単繊維配置部が形成され、該円形断面型単繊維配置部の外側に前記楕円形断面型単繊維で構成された楕円形断面型単繊維配置部が形成され、該楕円形断面型単繊維配置部の外側に前記空豆形断面型単繊維で構成された空豆形断面型単繊維配置部が形成されていることが好ましい。このように各単繊維を配置すれば、操業安定性をより高くできる上に、得られる単繊維の断面形状を安定させる(単繊維の断面形状の斑を小さくする)ことができる。
【0021】
また、本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束は、空豆形断面型単繊維と楕円形断面型単繊維と円形断面型単繊維の合計の本数が20000本以上のラージトウであってもよいし、20000本未満のレギュラートウであってもよい。本発明の効果がとりわけ発揮され、しかも炭素繊維複合材料の生産性が向上する点では、単繊維の合計の本数が20000本以上のラージトウが好ましい。
【0022】
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の含液率は40〜60質量%であることが好ましく、50〜58質量%であることが好ましい。炭素繊維前駆体アクリル繊維束の含液率が40質量%以上であれば、開繊性がより高くなり、60質量%以下であれば、集束性がより高くなって、炭素繊維束製造時の操業安定性がより高くなる。
ここで、含液量は、以下の方法により測定される。
まず、炭素繊維前駆体アクリル繊維束に付着している油剤を除去し、乾燥させて、絶乾された状態の繊維束を調製し、その繊維束の絶乾質量MA0を測定する。ついで、この繊維束を蒸留水中に無張力状態で浸漬して、繊維束に水を含ませる。この含水状態の繊維束を圧搾脱水し、脱水後の繊維束質量MATを測定する。繊維束の絶乾質量MA0と圧搾脱水した後の繊維束質量MATとから、次式を用いて炭素繊維前駆体アクリル繊維束の含液率HWを算出する。
HW(質量%)=(MAT−MA0)/MA0×100
【0023】
<炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造方法>
本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造方法は、凝固糸作製工程と、一次延伸工程と、油剤処理工程と、乾燥緻密化工程と、二次延伸工程と、収納工程とを有する。
以下、各工程について説明する。
【0024】
(凝固糸作製工程)
凝固糸作製工程は、紡糸原液から凝固糸を得る工程である。ここで、紡糸原液とは、アクリロニトリル系重合体を溶剤に溶解させて得た溶液である。
【0025】
[溶剤]
溶剤としては、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等の有機溶剤、塩化亜鉛やチオシアン酸ナトリウム等の無機化合物の水溶液などを適宜選択して使用できる。これらの中でも、凝固速度を速くでき、生産性を向上できる点から、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドのいずれかが好ましく、ジメチルアセトアミドがより好ましい。
【0026】
[重合体濃度]
紡糸原液における重合体濃度は、緻密な凝固糸を得るためには、ある程度以上の濃度に調整されることが好ましい。具体的には、紡糸原液中の重合体濃度を17質量%以上になるように調整することが好ましく、19質量%以上にすることがより好ましい。一方、紡糸原液は、適正な粘度・流動性が要求されるため、重合体濃度を25質量%以下にすることが好ましい。
【0027】
[紡糸・凝固方法]
紡糸方法は、上述した紡糸原液を直接凝固浴中に紡出する湿式紡糸法、空気中で凝固する乾式紡糸法、および一旦空気中に紡出した後に浴中凝固させる乾湿式紡糸法など公知の紡糸方法を適宜採用できる。これらのうち、より高い性能を有する炭素繊維束を得るためには、湿式紡糸法または乾湿式紡糸法が好ましい。
【0028】
紡糸原液を紡出する際に使用する紡糸ノズルとしては、空豆形断面型単繊維を形成するための空豆形断面型の孔14(図4参照)と、楕円形断面型単繊維を形成するための楕円形断面型の孔15(図5参照)と、円形断面型単繊維を形成するための円形断面型の孔16(図6参照)とが形成されたものを使用する。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束において、上記のように、円形断面型単繊維配置部、楕円形断面型単繊維配置部および空豆形断面型単繊維配置部を形成する場合には、紡糸ノズルとして、ノズル吐出面の中央に配置され、空豆形断面型の孔が形成された空豆形断面型孔領域と、該空豆形断面型孔領域の外側に配置され、楕円形断面型の孔が形成された楕円形断面型孔領域と、該楕円形断面型孔領域の外側に配置され、円形断面型の孔が形成された円形断面型孔領域とを有するものを使用する。
【0029】
湿式紡糸法または乾湿式紡糸法による紡糸賦形は、紡糸原液を所定断面形状の孔を有する紡糸ノズルから凝固浴中に紡出することで行うことができる。凝固浴としては、紡糸原液に用いられる溶剤を含む水溶液を用いることが、溶剤回収の容易さの観点から好ましい。
凝固浴として溶剤を含む水溶液を用いる場合、その水溶液中の溶剤濃度は50〜85質量%であることが好ましく、凝固浴の温度は10〜60℃が好ましい。そのような溶剤濃度および凝固浴温度であれば、ボイドが少なく緻密な構造を形成でき、また、延伸性がより向上し、生産性に優れる上に、高性能な炭素繊維束を得ることができる。
【0030】
(一次延伸工程)
一次延伸工程では、凝固糸作製工程にて得た凝固糸の繊維束を延伸・洗浄して延伸繊維束を得る。
延伸方法として、凝固糸を凝固浴中または延伸浴中で延伸(浴中延伸)する方法や、一部空中延伸した後に浴中延伸する方法が挙げられる。
浴中延伸は、得られる炭素繊維束の性能の点から、通常50〜98℃の水浴中で1回あるいは2回以上の多段で行い、一次延伸における全延伸倍率を5〜15倍にすることが好ましい。
洗浄は、延伸の前後あるいは延伸と同時に行う。洗浄後には、水膨潤状態の延伸繊維束を得ることができる。
洗浄は、通常50〜98℃の洗浄水で行う。洗浄効率を高める点では、2段以上の多段で繰り返し洗浄することが好ましい。
【0031】
(油剤付与工程)
油剤付与工程では、一次延伸工程にて得た延伸繊維束に油剤を付与して、油剤付与繊維束を得る。
延伸繊維束に付与する油剤の種類として特に限定されないが、アミノシリコーン系界面活性剤が好ましい。油剤の付与方法は、延伸繊維束に充分に油剤を浸透させることができ、均一に付着できることから、延伸繊維束を油剤中に浸漬させた後、余分な油剤を除去するディップ付着法が好ましい。
油剤の付与は、油剤をより均一に付着させるためには、2段以上の多段で繰り返し付与することが好ましい。
油剤付着量は、炭素繊維束製造時の焼成工程の工程通過性、炭素繊維束の性能の点から、繊維束の乾燥質量に対して0.1〜2.0質量%であることが好ましい。
また、油剤付与工程においては、油剤に加えて、必要に応じて、帯電防止剤、酸化防止剤、抗菌剤を延伸繊維束に付与してもよい。
【0032】
(乾燥緻密化工程)
乾燥緻密化工程では、油剤付与工程にて得た油剤付与繊維束を乾燥緻密化して緻密化繊維束を得る。
乾燥緻密化の温度は、含水率によって適宜設定されるが、通常は、繊維束を構成する単繊維のガラス転移温度を超える温度とする。その温度は、下流側に向かうにつれて高くしてもよい。
乾燥緻密化の具体的な方法としては、例えば表面温度が130〜190℃程度の加熱ローラー上に油剤付与繊維束を走行させて連続的に乾燥緻密化する方法などが挙げられる。その際に使用する加熱ローラーの個数は1個でもよいし、複数個でもよい。
【0033】
(二次延伸工程)
二次延伸工程では、乾燥緻密化工程にて得た緻密化繊維束を延伸する。
延伸方法としては、加熱ローラーによる延伸、加圧水蒸気延伸などの方法を適用することができる。中でも、延伸の安定性が高く、得られる炭素繊維前駆体アクリル繊維束の緻密性や配向度をより高めることができる点で、加熱ローラーによる延伸が好ましい。その際、延伸倍率を1.1〜4.0とすることが好ましい。延伸倍率は加熱ローラーの回転速度により調整できる。
加熱ローラーの温度としては150〜200℃であることが好ましい。加熱ローラーの温度が150℃未満であると、可塑化が不完全となり、延伸させた際に毛羽等が発生し、炭素繊維束製造の際の炭素化工程にて繊維束がローラーに巻き付いて、工程障害を招き、操業安定性が低下することがある。一方、加熱ローラーの温度が200℃を超えると、酸化反応や分解反応などが生じて、炭素繊維前駆体アクリル繊維束を焼成して得られる炭素繊維束の品質を低下させる場合がある。
なお、炭素繊維前駆体アクリル繊維の製造においては、二次延伸工程は任意の工程である。
【0034】
(収納工程)
収納工程では、二次延伸工程にて得た炭素繊維前駆体アクリル繊維束をボビンまたはケンスに収容する。
具体的には、炭素繊維前駆体アクリル繊維束を、室温のロールを通して冷却した後に、ワインダーを用いてボビンに巻き取る、あるいは、ケンスに収納する方法が挙げられる。
なお、炭素繊維前駆体アクリル繊維の製造においては、収納工程は任意の工程である。
【0035】
以上説明した、空豆形断面型単繊維と楕円形断面型単繊維と円形断面型単繊維とを備える炭素繊維前駆体アクリル繊維束は高い集束性を有するため、総繊維数が20000本以上の炭素繊維束を製造する際にも焼成工程での炭素繊維前駆体アクリル繊維束がばらけることが防止されている。そのため、該炭素繊維前駆体アクリル繊維束を構成する単繊維が隣接する繊維束に絡まったり、ローラーに巻き付いたりすることを防止でき、操業安定性および生産性に優れる。
その上、集束性が高いにもかかわらず、開繊性も高いため、得られる炭素繊維から複合材料を得る際の樹脂含浸性にも優れる。
さらに、上記炭素繊維前駆体アクリル繊維束によれば、ラージトウを得る場合でもストランド強度を高くできる。
【0036】
<炭素繊維束>
本発明の炭素繊維束は、上記炭素繊維前駆体アクリル繊維束を焼成することにより得られる。
焼成では、耐炎化処理の後に炭素化処理を行う。
耐炎化処理では、空気中、230〜260℃の熱風循環式耐炎化炉に炭素繊維前駆体アクリル繊維束を投入し、30〜60分間処理して耐炎化繊維束とする。
炭素化処理では、耐炎化繊維束を窒素雰囲気下、最高温度800℃程度で1〜2分間処理し、さらに同雰囲気下で最高温度が1000〜2000℃の高温熱処理炉にて1〜2分処理して炭素繊維束を得る。
なお、繊維強化複合材料の強度発現を目的として、必要に応じて炭素化処理の後に、炭素繊維束の表面に電解処理を施し、炭素繊維用サイズ剤を付与してもよい。
【0037】
炭素繊維束においては、樹脂含浸率が4.0〜7.0質量%であることが好ましく、4.0〜6.0質量%であることがより好ましい。樹脂含浸率が4.0質量%以上であれば、炭素繊維束に樹脂が充分に含浸し、高品質な繊維強化複合材料を容易に得ることができる。一方、樹脂含浸率が7.0%以下であれば、炭素繊維束のまとまりが良く、高品質の繊維強化複合材料を容易に得ることができる。
ここで、樹脂含浸率とは、下記方法により測定された値である。
炭素繊維束を約20cmに切断し、炭素繊維束の長さ(L)、質量(MB0)を測定する。これをグリシジルエーテル中に約3cm浸漬し15分間放置し、グリシジルエーテル中から取り出した後3分間放置し、浸漬側から3.5cmのところで切り落とし、残った炭素繊維束の長さ(L)、質量(MB1)を測定する。吸い上げたグリシジルエーテルの質量割合を下記式により算出し、これを樹脂含浸率とする。
樹脂含浸率=(MB1−(MB0×L/L))/(MB0×L/L)×100
【0038】
本発明の炭素繊維束は、上記炭素繊維前駆体アクリル繊維束が焼成されたものであるため、単繊維本数が多くても、高い操業安定性で得ることができ、ストランド強度が高く、複合材料を得る際の樹脂含浸性に優れている。
【0039】
なお、本発明は上記実施形態例に限定されず、空豆形断面型単繊維は周面に凹部が2つ以上形成されていても構わない。
【実施例】
【0040】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
以下の例により得た炭素繊維前駆体アクリル繊維束について、単繊維断面形状、単繊維同士の接着数、含液率、操業安定性を以下のように測定または評価した。また、得られた炭素繊維束について、ストランド強度およびストランド弾性率、開繊性、樹脂含浸率を以下のように測定または評価した。
<測定・評価>
[単繊維断面形状]
単繊維の断面形状の割合は、以下のようにして求めた。
内径1mmのポリ塩化ビニル樹脂製のチューブ内に測定用の単繊維を通した後、これをナイフで輪切りにして試料を準備した。ついで、該試料を断面が上を向くように走査型電子顕微鏡(SEM)の試料台に接着し、さらに金を約10nmの厚さにスパッタリングした。そして、フィリップ社製XL20走査型電子顕微鏡により、加速電圧7.00kV、作動距離31mmの条件で単繊維の断面を観察し、単繊維の断面の長径および短径を測定し、長径/短径の比率を求めた。
【0042】
(単繊維同士の接着数)
炭素繊維前駆体アクリル繊維束を約5mmに切断し、100mLのアセトンの中に分散させ、100rpm(回転/分)で1分間攪拌後、黒色濾紙にて濾過した。そして、単繊維同士の接着数を測定した。
【0043】
[含液率]
炭素繊維前駆体アクリル繊維束に付着している油剤を、100℃の沸騰水中で充分に洗浄して除去し、乾燥機中で105℃、2時間乾燥させて、絶乾された状態の繊維束を得た。このときの繊維束の絶乾質量MA0を測定した。ついで、この繊維束を20℃の蒸留水中に無張力状態で1時間以上浸漬して、繊維束に水を含ませた。この含水状態の繊維束を、ニップローラ装置を用いて、200kPaの圧力をかけながら、引き取り速度10m/分で圧搾脱水した。圧搾脱水した後の繊維束質量MATを測定した。繊維束の絶乾質量MA0と圧搾脱水した後の繊維束質量MATとから、次式を用いて炭素繊維前駆体アクリル繊維束の含液率HWを算出した。
HW(質量%)=(MAT−MA0)/MA0×100
【0044】
[操業安定性]
炭素繊維前駆体アクリル繊維束を焼成して炭素繊維束にする際の操業安定性を観察して評価した。
【0045】
[ストランド強度およびストランド弾性率]
炭素繊維束のストランド強度およびストランド弾性率は、JIS R7608に規定されているエポキシ樹脂含浸ストランド法に準じて測定した。なお、測定回数は10回とし、その平均値で評価した。
【0046】
[トウ幅(開繊性)]
炭素繊維束を0.06g/単繊維1本の張力下、走行速度1m/分で金属ロール上を走行させた際のトウ幅を測定し、そのトウ幅を開繊性の指標とした。トウ幅が広いほど、開繊性に優れる。
【0047】
[樹脂含浸率]
炭素繊維束を約20cmに切断し、炭素繊維束の長さ(L)、質量(MB0)を測定した。これをグリシジルエーテル中に約3cm浸漬し15分間放置し、グリシジルエーテル中から取り出した後、3分間放置し、浸漬側から3.5cmのところで切り落とし、残った炭素繊維束の長さ(L)、質量(MB1)を測定した。吸い上げたグリシジルエーテルの質量割合を下記式により算出し、これを樹脂含浸率とした。
樹脂含浸率=(MB1−(MB0×L/L))/(MB0×L/L)×100
【0048】
<実施例1>
[アクリロニトリル系共重合体]
アクリロニトリル、アクリルアミドおよびメタクリル酸を、過硫酸アンモニウム−亜硫酸水素アンモニウムおよび硫酸鉄の存在下、水系懸濁重合により共重合し、アクリロニトリル単位/アクリルアミド単位/メタクリル酸単位=96/3/1(質量比)からなるアクリロニトリル系重合体を得た。
このアクリロニトリル系重合体のカルボキシ基含有量は1.2×10−4当量/g、数平均分子量は2.43×10、質量平均分子量は4.00×10であった。
[原液]
前記アクリロニトリル系重合体をジメチルアセトアミドに溶解し、重合体濃度が21質量%の紡糸原液を調製した。
【0049】
[炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造]
この紡糸原液を、空豆形断面型孔領域と、該空豆形断面型孔領域の外側に配置された楕円形断面型孔領域と、該楕円形断面型孔領域の外側に配置された円形断面型孔領域とを有する紡糸ノズルAを通した。この紡糸ノズルAの孔数、孔径、空豆形断面型孔の割合、楕円形断面型孔の割合、円形断面型孔の割合を表1に示す。また、各孔の配置分布を図7に示す。
紡糸ノズルAを通した紡糸原液を、濃度60質量%、温度35℃のジメチルアセトアミド水溶液が入れられ、上流側から下流側に向かって幅が徐々に狭くなった後に再び広くなる整流された紡浴槽中に吐出させて凝固糸を得た。この凝固糸を凝固浴中から吐出線速度の0.4倍の引取り速度で引き取った。
次いで、凝固糸の繊維束で水洗すると同時に、60〜98℃の範囲で温度勾配を設けた6段の洗浄槽で5.4倍の一次延伸を行って、延伸繊維束を得た。
次いで、延伸繊維束に、1.5質量%に調製したアミノシリコーン系油剤が入れられた第1油浴槽に導入して第1油剤を付与し、複数本のガイドで一旦絞りを行った。その後、1.5質量%に調製したアミノシリコーン系油剤が入れられた第2油浴槽で第2油剤を付与した。
次いで、油剤を付与した繊維束を、表面温度180℃の熱ロールに接するように走行させ、乾燥させて、乾燥緻密化させた。
次いで、乾燥緻密化させた繊維束に、0.3質量%のジメチルアセトアミド水溶液を、タッチロールを用いて付着させ、表面温度190℃のロールを用いて乾燥を行って、溶剤含有量を調整した。
次いで、破断延伸倍率の0.85倍になるように延伸ロールの速度を設定し、延伸倍率1.87倍で二次延伸した。その後、タッチロールを用いて、水分率が2質量%になるように調整して、単繊維繊度1.0dtexで総繊度60000dtexの炭素繊維前駆体アクリル繊維束を得た。
得られた炭素繊維前駆体アクリル繊維束の単繊維の断面形状、単繊維同士の接着数、トウ幅、含液率および操業安定性を測定または評価した。それらの結果を表2に示す。
【0050】
[炭素繊維束の製造方法]
得られた炭素繊維前駆体アクリル繊維束を、空気中230〜260℃の温度勾配を有する熱風循環式耐炎化炉にて50分間処理して耐炎化繊維束とした。次いで、耐炎化繊維束を窒素雰囲気中で最高温度780℃にて1.5分間処理し、さらに同様の雰囲気中で最高温度1300℃の高温処理炉にて約1.5分間処理した。その後、重炭酸水素アンモニウム水溶液中で0.4A・分/mで電解処理を施して、炭素繊維束を得た。
得られた炭素繊維束のストランド強度およびストランド弾性率、開繊性、樹脂含浸率を測定または評価した。それらの結果を表2に示す。
【0051】
<実施例2〜4>
空豆形断面型孔領域と、該空豆形断面型孔領域の外側に配置された楕円形断面型孔領域と、該楕円形断面型孔領域の外側に配置された円形断面型孔領域とを有する紡糸ノズルB(実施例2)、紡糸ノズルC(実施例3)、紡糸ノズルD(実施例4)を使用した以外は、実施例1と同様にして炭素繊維前駆体アクリル繊維束および炭素繊維束を得た。表1に、紡糸ノズルB〜Dの孔数、孔径、空豆形断面型孔の割合、楕円形断面型孔の割合、円形断面型孔の割合を示し、図8〜10に各孔の配置分布を示す。
得られた炭素繊維前駆体アクリル繊維束の単繊維の断面形状、単繊維同士の接着数、含液率、操業安定性を測定または評価し、得られた炭素繊維束のストランド強度およびストランド弾性率、開繊性、樹脂含浸率を測定または評価した。それらの結果を表2に示す。
【0052】
<実施例5>
孔数および孔径が紡糸ノズルAと異なる表1に示す紡糸ノズルEを使用した以外は実施例1と同様にして炭素繊維前駆体アクリル繊維束および炭素繊維束を得た。
得られた炭素繊維前駆体アクリル繊維束の単繊維の断面形状、単繊維同士の接着数、含液率、操業安定性を測定または評価し、得られた炭素繊維束のストランド強度およびストランド弾性率、開繊性、樹脂含浸率を測定または評価した。それらの結果を表2に示す。
【0053】
<実施例6>
孔数および孔径が紡糸ノズルAと異なる表1に示す紡糸ノズルFを使用した以外は実施例1と同様にして炭素繊維前駆体アクリル繊維束および炭素繊維束を得た。
得られた炭素繊維前駆体アクリル繊維束の単繊維の断面形状、単繊維同士の接着数、含液率、操業安定性を測定または評価し、得られた炭素繊維束のストランド強度およびストランド弾性率、開繊性、樹脂含浸率を測定または評価した。それらの結果を表2に示す。
【0054】
<実施例7>
紡糸ノズルの孔数を78000、孔径を40μm(丸断面形状以外は、孔面積より丸断面形状換算の孔径)にした以外は実施例1と同様にして炭素繊維前駆体アクリル繊維束および炭素繊維束を得た。
得られた炭素繊維前駆体アクリル繊維束の単繊維の断面形状、単繊維同士の接着数、含液率、操業安定性を測定または評価し、得られた炭素繊維束のストランド強度およびストランド弾性率、開繊性、樹脂含浸率を測定または評価した。それらの結果を表2に示す。
【0055】
<比較例1〜3>
表1に示す孔の割合および図11〜図13に示す各孔の配置分布の紡糸ノズルG(比較例1)、紡糸ノズルH(比較例2)、紡糸ノズルI(比較例3)を使用した以外は、実施例1と同様にして炭素繊維前駆体アクリル繊維束および炭素繊維束を得た。
得られた炭素繊維前駆体アクリル繊維束の単繊維の断面形状、単繊維同士の接着数、含液率、操業安定性を測定または評価し、得られた炭素繊維束のストランド強度およびストランド弾性率、開繊性、樹脂含浸率を測定または評価した。それらの結果を表2に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
表2から明らかなように、各実施例で得られた炭素繊維前駆体アクリル繊維は、集束性が高く、操業安定性が良好であった。また、炭素繊維束はストランド強度が高く、機械的特性に優れていた。しかも、開繊性が良好で樹脂含浸率が高く、繊維強化樹脂含浸複合材料に適していた。
これに対し、単繊維の全部が円形断面型単繊維の比較例1、円形断面型単繊維および楕円形断面型単繊維の本数割合が規定値より多い比較例3では、開繊性が不充分で樹脂含浸性が低かった。
単繊維の全部が空豆形断面型単繊維の比較例2では、集束性が低いために、ローラーへの巻き付き、単繊維同士の絡みつきが発生し、操業安定性が低かった。また、単繊維同士の接着数が多く、品質が低かった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明により得られた炭素繊維束に樹脂を含浸させることにより、プリプレグを得ることができる。さらに、そのプリプレグを成形し、硬化させることにより、複合材料を得ることができる。その複合材料は、ゴルフシャフトや釣り竿などのスポーツ用途、さらには構造材料として自動車や航空宇宙用途、また各種ガス貯蔵タンク用途などに好適に用いることができ、有用である。
【符号の説明】
【0060】
11a,11b,11c,11d,11e 空豆形断面型単繊維
12a,12b,12c,12d,12e 楕円形断面型単繊維
13a,13b,13c,13d,13e 円形断面型単繊維
A 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
95質量%以上のアクリロニトリル単位を有するアクリロニトリル系重合体からなる多数本の単繊維で構成された炭素繊維前駆体アクリル繊維束であって、
長手方向に対して垂直な断面の長径と短径との比(長径/短径)が1.20以上1.60以下の範囲にある略楕円形で、その周面に凹部が形成された断面の空豆形断面型単繊維と、
長手方向に対して垂直な断面の長径と短径との比(長径/短径)が1.20以上1.60以下の範囲にある略楕円形で、その周面に凹部が形成されていない断面の楕円形断面型単繊維と、
長手方向に対して垂直な断面の長径と短径との比(長径/短径)が1.00以上1.20未満の範囲にある略円形の断面の円形断面型単繊維とにより構成され、
前記空豆形断面型単繊維の本数の割合は全単繊維本数の50〜90%、前記楕円形断面型単繊維の本数の割合は全単繊維本数の5〜35%、前記円形断面型単繊維の本数の割合は全単繊維本数の5〜15%である炭素繊維前駆体アクリル繊維束。
【請求項2】
前記空豆形断面型単繊維と前記楕円形断面型単繊維と前記円形断面型単繊維の合計の本数が20000本以上である、請求項1に記載の炭素繊維前駆体アクリル繊維束。
【請求項3】
半径方向の中心に配置され、前記円形断面型単繊維で構成された円形断面型単繊維配置部と、該円形断面型単繊維配置部の外側に配置され、前記楕円形断面型単繊維で構成された楕円形断面型単繊維配置部と、該楕円形断面型単繊維配置部の外側に配置され、前記空豆形断面型単繊維で構成された空豆形断面型単繊維配置部とを有する、請求項1または2に記載の炭素繊維前駆体アクリル繊維束。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の炭素繊維前駆体アクリル繊維束を焼成してなる炭素繊維束。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2012−188766(P2012−188766A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51547(P2011−51547)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】