説明

炭素膜の成膜装置,炭素膜の成膜方法及び炭素膜

【課題】膜厚の均一な炭素膜を、3次元形状の処理物に成膜する成膜装置,炭素膜の成膜方法及び炭素膜を提供すること。
【解決手段】本発明の炭素膜の成膜装置1は、プラズマCVD法によってワークWの表面に炭素膜を形成する炭素膜の成膜装置1であって、真空槽10と、ワークを保持する第一の電極2と、第一の電極2と間隔を隔てた位置にもうけられ、かつ第一の電極2の外周に立設してもうけられた立設部31を備えた原料ガスをイオン化する第二の電極3と、第一の電極2,第二の電極3のそれぞれに独立して電力を供給する電源装置25,35と、原料ガスを供給するノズル42と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマCVD法による炭素膜の成膜装置,炭素膜の成膜方法及び炭素膜に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素は、埋設量がほぼ無限であり、かつ無害であることから資源問題及び環境問題の面からも極めて優れた材料である。炭素材料は、原子間の結合形態が多様で、ダイヤモンドやダイヤモンドライクカーボン、グラファイト、フラーレン、カーボンナノチューブなど、様々な結晶構造が知られている。中でも、アモルファス炭素膜であるダイヤモンドライクカーボンは、耐摩耗性、固体潤滑性などの機械的特性に優れ、可視光/赤外光透過率、低誘電率、酸素バリア性などを合わせ持つ機能性材料として注目されており、各産業分野への応用が期待されている。
【0003】
ダイヤモンドライクカーボン(Diamond Like Carbon :DLC)は、その結晶構造が非晶質(アモルファス)であり、通常、化学気相合成法(Chemical Vapor Deposition :CVD)により、基材(ワーク)上に非晶質の炭素が堆積した状態で得られる。化学気相合成法としては、特許文献1〜4に開示されたように、向かい合う2つの電極間に高周波電力を加えることによって生じるグロー放電を利用したプラズマCVD法が一般的である。具体的には、ワークを配置した高周波給電電極と、その高周波給電電極と平行に対向する接地電極との間に高周波電力を供給することにより、その間にグロー放電が生じる。このグロー放電を利用して電極間に導入した原料ガス(メタン、アセチレン等)を分解し、ワーク上にDLC薄膜を堆積させる。
【0004】
プラズマCVD法には、プラズマを発生させる方法により区別され、直流プラズマCVD法,高周波プラズマCVD法のふたつがある。
【0005】
直流プラズマCVD法は、ワーク(陰極)に供給されたマイナスの直流電圧によりプラズマを発生させ、原料ガス(炭化水素ガス)をイオン化し、ワーク表面にアモルファス炭素膜を成膜する方法である。
【0006】
高周波プラズマCVD法は、ワーク(陰極)に供給した高周波電力によりプラズマを発生させ、炭化水素ガスをイオン化し、ワーク表面にアモルファス炭素膜を成膜する方法である。また、電極形状は平行平板型を用いている。
【0007】
しかしながら、直流プラズマCVD法では、ワークに直流電圧を供給する際に、プラズマ電流によりワークの温度が上昇すると言う問題点が発生する。また、ワーク(電極)へアモルファス炭素膜が堆積すると導電性が低下して、プラズマが不安定になり、しいてはアーク放電が発生し、ワーク表面を損傷するという問題が発生する。
【0008】
高周波プラズマCVD法では、高周波電力により発生するセルフバイアス電圧によりワーク温度が上昇するという問題点が発生する。また、高周波プラズマCVD法では平行平板型の電極を用いると、3次元形状の処理物(ワーク)に成膜した膜の膜厚差が大きくなる問題が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3119172号公報
【特許文献2】特開平5−273425号公報
【特許文献3】特許第3246780号公報
【特許文献4】特開平7−73454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、膜厚の均一な炭素膜を、3次元形状の処理物(ワーク)に形成(成膜)する成膜装置を提供することを課題とする。また、炭素膜の成膜方法及び炭素膜を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の炭素膜の成膜装置は、プラズマCVD法によってワークの表面に炭素膜を形成する炭素膜の成膜装置であって、真空槽と、真空槽の内部に配置され、ワークを保持する第一の電極と、第一の電極と間隔を隔てた位置にもうけられ、かつ第一の電極の外周に立設してもうけられ、原料ガスをイオン化する第二の電極と、第一の電極,第二の電極のそれぞれに独立して電力を供給する電源装置と、原料ガスを供給するノズルと、を有することを特徴とする。
【0012】
本発明の炭素膜の成膜方法は、プラズマCVD法によってワークの表面に炭素膜を形成する炭素膜の成膜方法であって、ワークを保持した第一の電極と、第一の電極と間隔を隔てた位置にもうけられ、かつ第一の電極の外周に立設してもうけられた原料ガスをイオン化する第二の電極と、のそれぞれの電極に電力を供給して、ワークの表面に炭素膜を成膜することを特徴とする。
【0013】
本発明の炭素膜は、請求項5〜6のいずれかに記載の炭素膜の成膜方法を用いて、又は請求項1〜4のいずれかに記載の炭素膜の成膜装置を用いて成膜されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の炭素膜の成膜装置は、原料ガスをイオン化する第二の電極を有する構成となっている。このような構成となることで、ワークに成膜する炭素膜が均一なものとなり、膜厚分布特性が向上する。
【0015】
また、本発明の炭素膜の成膜装置によれば、ワークの温度が200℃以下でワークの表面に炭素膜を成膜することができる。
【0016】
すなわち、本発明の炭素膜の成膜装置は、膜厚の均一な炭素膜を、3次元形状の処理物に、200℃以下で成膜することができる。
【0017】
本発明の炭素膜の成膜方法は、上記の成膜装置と同様に、原料ガスをイオン化する立設した第二の電極を有しており、ワークの表面に均一な炭素膜を成膜することができる。
【0018】
本発明の炭素膜は、上記の成膜方法を用いて、又は上記の成膜装置を用いて成膜されたものであり、均一な膜厚分布を有するものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例1の炭素膜の成膜装置の構成を示す概略図である。
【図2】実施例1の炭素膜の成膜装置の構成を示す概略断面図である。
【図3】比較例の炭素膜の成膜装置の構成を示す概略図である。
【図4】実施例1の成膜装置での炭素膜の膜厚の測定結果を示した図である。
【図5】比較例1の成膜装置での炭素膜の膜厚の測定結果を示した図である。
【図6】実施例2のワークの熱処理温度と硬度の関係を示した図である。
【図7】実施例2の電圧とワークの硬度の関係を示した図である。
【図8】実施例2の高周波電力とワークの硬度の関係を示した図である。
【図9】実施例2の処理圧力とワークの硬度の関係を示した図である。
【図10】実施例の炭素膜の成膜装置の変形形態の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の炭素膜の成膜装置,炭素膜の成膜方法及び炭素膜の実施の形態を説明する。
【0021】
[炭素膜の成膜装置]
本発明の炭素膜の成膜装置は、プラズマCVD法によってワークの表面に炭素膜を形成する炭素膜の成膜装置である。
【0022】
そして、真空槽と、真空槽の内部に配置され、ワークを保持する第一の電極と、第一の電極と間隔を隔てた位置にもうけられ、かつ第一の電極の外周に立設してもうけられた原料ガスをイオン化する第二の電極と、第一の電極,第二の電極のそれぞれに独立して電力を供給する電源装置と、原料ガスを供給するノズルと、を有する。
【0023】
真空槽は特に限定されるものではなく、従来公知の真空槽とすることができる。真空槽としては、たとえば、円筒状(断面円形形状),断面方形形状,6角形状等の断面多角形の真空槽をあげることができる。
【0024】
第一の電極は、真空槽の内部に配置され、ワークを保持するものである。第一の電極は、その構成が特に限定されるものではない。たとえば、その上にワークを保持するワーク保持部と、ワーク保持部を真空槽内に固定する固定部材と、を有する構成とすることができる。ここで、ワーク保持部は、円盤状をなすことが好ましい。第一の電極は、真空槽の中心に配置されることが好ましい。
【0025】
第二の電極は、第一の電極と間隔を隔てた位置にもうけられ、かつ第一の電極の外周に立設してもうけられ、原料ガスをイオン化するものである。第二の電極は、第一の電極の外周に立設して設けられた複数の立設部を備えていることが好ましい。第二の電極は、第一の電極のワークを保持するワーク保持部よりも大きな円盤状の基部と、基部の外縁部にもうけられた棒状の立設部と、を有することが好ましい。第二の電極の立設部は、ワーク及び/又はワーク保持部を包囲するように設けられていることが好ましい。立設部がワークを包囲するように設けられていることで、原料ガスのイオン化がより広範囲で生じるため、膜厚の均一な炭素膜を成膜することができる。
【0026】
電源装置は、第一の電極,第二の電極のそれぞれに独立して電力を供給する装置である。つまり、電源装置は、本発明の炭素膜の成膜装置において、炭素膜の成膜に要する電力を供給する装置である。
【0027】
本発明の炭素膜の成膜装置において、第二の電極は、高周波電源に接続されることが好ましい。第二の電極に高周波電源より電力を供給することで、プラズマを発生させ、原料ガスをイオン化することができる。
【0028】
本発明の炭素膜の成膜装置において、第一の電極は、バイポーラ型パルス電源、直流電源、高周波電源等の電源に接続することができる。
【0029】
ノズルは、原料ガスを供給する。ノズルが原料ガスを供給することで、原料ガスが第二の電極によりイオン化され、炭素膜がワークに成膜される。
【0030】
ノズルから供給される原料ガスは、炭素膜の成膜に用いることができるガスであれば、限定されない。原料ガスは、メタン(CH),ベンゼン(C),アセチレン(C),エタン(C),プロパン(C),ブタン(C10),トルエン(C),ピリジン(CN),ピラジン(C),ピロール(CN),4フッ化炭素(CF),6フッ化2炭素(C),8フッ化3炭素(C),6フッ化4炭素(C),8フッ化4炭素(C),6フッ化6炭素(C)などの炭素含有ガスの1種以上を含有するガスをあげることができる。原料ガスは、テトラメチルシラン(TMS:Si(CH)、シラン、SiCl等のSi含有ガスのうちの1種以上からなるガスとの混合ガスであってもよい。また、原料ガスは、水素,アルゴン,窒素,ヘリウム等の少なくとも1種からなる希釈ガスとの混合ガスであってもよい。
【0031】
本発明の炭素膜の成膜装置において、ワークの表面に成膜する炭素膜は特に限定されるものではなく、プラズマCVD法によって成膜されるアモルファス炭素膜であることが好ましい。
【0032】
[炭素膜の成膜方法]
本発明の炭素膜の成膜方法は、プラズマCVD法によってワークの表面に炭素膜を形成する炭素膜の成膜方法である。そして、ワークを保持した第一の電極と、第一の電極と間隔を隔てた位置にもうけられ、かつ第一の電極の外周に立設してもうけられた原料ガスをイオン化する第二の電極と、のそれぞれの電極に電力を供給して、ワークの表面に炭素膜を成膜する成膜方法である。
【0033】
本発明の炭素膜の成膜方法は、第一の電極にワークを保持した状態で、第一の電極の外周にもうけられた第二の電極と第一の電極に電力を供給して成膜する。第二の電極に電力を供給することで、原料ガスをイオン化する。第一の電極にも電圧が供給されており、イオン化した原料ガスが、第一の電極(に保持されたワーク)に向かって移動し、ワーク表面に付着してワーク表面に被膜を成膜する。
【0034】
本発明の炭素膜の成膜方法は、立設した第二の電極の周囲で原料ガスがイオン化されており、より多くの原料ガスをイオン化することができるとともに、立設方向の広い範囲でイオン化した原料を発生することができる。そして、このイオン化した原料ガスがワークに炭素膜を形成する。このとき、立設部がワークを包囲するように設けられており、原料ガスのイオン化がより広範囲で生じる。このように、本発明の成膜方法は、原料ガスのイオン化がワークの外周の全面を覆うように広い範囲で生じるため、ワーク全体に均一な炭素膜を形成することができる。
【0035】
なお、本発明の炭素膜の成膜方法は、ワークを保持した第一の電極と立設して設けられた第二の電極のそれぞれの電極に電力を供給して行うこと以外は、特に限定されるものではない。すなわち、従来公知の成膜条件、装置と同様にして成膜することができる。
【0036】
また、本発明の炭素膜の成膜方法は、第一の電極,第二の電極に供給される電力は、特に限定されるものではなく、第二の電極には原料ガスをイオン化できる電力を、第一の電極にはイオン化した原料ガスが移動できる電力(電圧)を供給する。
【0037】
本発明の炭素膜の成膜方法は、請求項1〜4のいずれかに記載の炭素膜の成膜装置を用いて成膜することが好ましい。請求項1〜4のいずれかに記載の成膜装置は、上記のように、均一な炭素膜を成膜することができる効果を発揮している。すなわち、本発明の成膜方法は、均一な炭素膜を成膜することができる効果を発揮する。
【0038】
[炭素膜]
本発明の炭素膜は、請求項5〜6のいずれかに記載の炭素膜の成膜方法を用いて、又は請求項1〜4のいずれかに記載の炭素膜の成膜装置を用いて成膜される。本発明の炭素膜は、上記の成膜方法又は成膜装置を用いて成膜したものであり、上記の各効果を発揮する。すなわち、本発明の炭素膜は、均一な炭素膜となっている。
【実施例】
【0039】
以下に、本発明の実施例を図を用いて説明する。図1は本実施例の炭素膜の成膜装置の構成を示す概略図であり、図2は図1の成膜装置のI−I断面での成膜炉を上方から見た断面図である。
【0040】
(実施例1)
本実施例の炭素膜の成膜装置1は、真空槽10、真空槽10内で軸方向に伸び、ワークWを保持する第一の電極2、ワークWを包囲するように立設部31がもうけられた第二の電極3、真空槽10内に原料ガスを供給するガス供給系4、真空槽10と連通して真空槽10内の真空排気を行う排気系5、を有する。
【0041】
真空槽10は、軸方向が鉛直方向となる略円筒状を有し、その内部にステンレス製の防着板100を備えている。防着板100は、第一の電極2及び第二の電極3の径方向外方に位置し、炭素膜の成膜時に、真空槽10の内周面にイオン化した原料ガスが付着して炭素膜が形成されることを防止する。
【0042】
第一の電極2は、略円筒状の真空槽10の中心(断面における中心、円筒状の軸心)にもうけられ、固定部材21にワークWを接続した。ワークWには、軸受け鋼(SUJ2)製のφ20mm×400mmの略棒状の部材を用いた。
【0043】
第一の電極2は、バイポーラ型パルス電源25に接続される。バイポーラ型パルス電源25は、第一の電極2に供給される電圧を調節できる。また、バイポーラ型パルス電源25は、第一の電極2との間にフィルタ26を介在させている。フィルタ26は、高周波電力がバイポーラ型パルス電源26へ流入することを防止する。
【0044】
第二の電極3は、第一の電極2と間隔を隔てた位置にもうけられている。第二の電極3は、円盤状の基部30と、基部30の外縁部に等間隔にもうけられた複数の棒状の立設部31と、を有する。
【0045】
第二の電極3の基部30は、円盤状の部材である。また、第二の電極3の基部30は、第一の電極2の先端(下端)と間隔を隔てた位置に、円盤状の基部30の中心がワーク保持部20の軸方向の延長上に位置した状態で配置されている。また、円盤状の基部30は、上面(第一の電極2との対向面)が、軸方向に垂直に広がるように配置されている。
【0046】
第二の電極3の立設部31は、円盤状の基部30の外縁部に略等間隔で立設している。すなわち、基部30の上面から、広がる方向に対して交差する方向(具体的には、上面に対して垂直な方向(軸方向に相当),図1で鉛直上方)にのびている。また、本実施例において、立設部31は、同じ長さで複数本がもうけられている。立設部31は、立設した先端が、第一の電極2の縮径した部分と軸方向の位置が重なるようにもうけられている。本実施例において立設部31は、比較的細径の円柱状(棒状)の部材よりなる。図に示したように、第二の電極3の立設部31は、第一の電極2を取り囲むようにもうけられている。
【0047】
第二の電極3は、高周波電源35に接続される。高周波電源35は、第二の電極3に供給される電力を調節できる。また、高周波電源35は、第二の電極3との間にマッチングボックス36を介在させている。
【0048】
ガス供給系4は、マスフローコントローラ(MFC)40と、マスフローコントローラ40からのガスを供給するガス供給弁41と、真空槽10内に開口したノズル42と、を有する。ガス供給系4は、原料ガスと希釈ガスの混合ガスをマスフローコントローラ40により流量を調整後、ガス供給弁41を経て、ノズル42より真空槽10に供給する。ノズル42は、ガス供給弁41を通過した混合ガスを真空槽10内に導入する。
【0049】
排気系5は、真空槽10内のガスを吸引する真空排気装置50と、真空排気装置50が吸引するガスの流量を調節する排気調節弁51と、を有する。排気系5の真空排気装置50は、油回転ポンプ、メカニカルブースターポンプ、ターボ分子ポンプ、油拡散ポンプ等から選ばれるひとつ以上のポンプにより形成され、排気調節弁51を調節することにより真空槽10内の圧力を調整する。
【0050】
(比較例)
本比較例は、第二の電極3が立設部31を有していないこと以外は、実施例1の炭素膜の成膜装置と同様な構成の成膜装置である。本比較例の成膜装置の構成を、図3に示した。
【0051】
(評価)
実施例1及び比較例の評価として、それぞれの成膜装置で炭素膜を成膜し、炭素膜の膜厚を測定した。
【0052】
(炭素膜の成膜)
まず、排気系5により真空槽10内を到達真空度が5×10−3Paまで排気し、真空槽10内を真空状態にした。
【0053】
そして、ガス供給系4を用いて、真空槽10に、水素ガス(H)を50SCCM,アルゴンガス(Ar)を50SCCMの流量で導入した。その後、排気調節弁51の開閉度を調節し、真空槽10の処理圧を0.8Paとした。
【0054】
第一の電極2には−360Vの電圧を、第二の電極3には265Wの高周波電力を、それぞれ供給した。この電力の供給により、ワークWの表面が清浄化された。
【0055】
60分間の電力の供給後、ガス供給系4を用いて、真空槽10に、アルゴンガス(Ar)を45SCCM,ベンゼンガス(C)を55SCCMの流量で導入した。その後、排気調節弁51の開閉度を調節し、真空槽10の処理圧を0.8Paとした。
【0056】
第一の電極2には−373Vの電圧を、第二の電極3には300Wの高周波電力を、それぞれ供給した。なお、電力の供給時間は、290分であった。
【0057】
この電力の供給により、第一の電極2に接続したワークWの表面上に、炭素膜(アモルファス炭素膜)が成膜した。実施例1の成膜装置で成膜した炭素膜を実施例1の炭素膜とし、比較例の成膜装置で成膜した炭素膜を比較例の炭素膜とした。
【0058】
(炭素膜の膜厚の測定)
第一の電極2側の先端からの距離が、0,10,100,200,300,400mmのそれぞれの位置において、ワークWの表面に形成された炭素膜の膜厚を測定し、測定結果を図4,5に示した。図4は実施例1の炭素膜の測定結果を、図5は比較例の炭素膜の測定結果を、それぞれ示した。
【0059】
図4に示したように、実施例の炭素膜は、ワークWの長さ方向の全域にわたって、ほぼ均一な膜厚となっていることが確認できる。これに対し、図5に示したように、比較例の炭素膜は、ワークWの先端(第二の電極3)に近づくほど炭素膜の膜厚が厚くなっていることが確認できる。つまり、比較例の成膜装置では、均一な膜厚の炭素膜が成膜できなかった。
【0060】
上記したように、実施例1及び比較例の成膜装置では、第二の電極3に高周波電力を供給してベンゼンガスをイオン化し、第一の電極に供給された電圧により、イオン化したベンゼンガスが第一の電極に接続されたワークWに向かって移動し、ワークWの表面に堆積して炭素膜を成膜している。
【0061】
実施例の成膜装置(成膜方法)では、第二の電極3が立設部31を有する条件で炭素膜を成膜している。このとき、立設部31を含む広い範囲でベンゼンガスのイオン化が発生する。イオン化したベンゼンの発生量が多くなるだけでなく、発生したベンゼンガスがワークWの全体を覆うようになる。この状態で、ワークWにイオン化したベンゼンガスが付着して堆積して炭素膜が成膜する。この結果、実施例の成膜装置(成膜方法)では、膜厚の均一な実施例の炭素膜を成膜することができた。対して、第二の電極3が立設部31を有していない比較例では、ベンゼンガスのイオン化が基部30に相当する部材のみで行われるため、イオン化したベンゼンガスの量が少なく、さらに第一の電極2方向に向かって移動するため、不均一な炭素膜となった。
【0062】
(実施例2)
本実施例では、ワークWに、炭素工具鋼(SK4)製のφ6mm×50mmの略棒状の部材を用い、実施例1の成膜装置で炭素膜の成膜を行った。成膜は、下記の成膜1〜3の各条件で行われた。
【0063】
(炭素膜の成膜1)
まず、排気系5により真空槽10内を到達真空度が5×10−3Paまで排気し、真空槽10内を真空状態にした。
【0064】
そして、ガス供給系4を用いて、真空槽10に、水素ガス(H)を50SCCM,アルゴンガス(Ar)を50SCCMの流量で導入した。その後、排気調節弁51の開閉度を調節し、真空槽10の処理圧を0.8Paとした。
【0065】
第一の電極2には−360Vの電圧を、第二の電極3には265Wの高周波電力を、それぞれ供給した。この電力の供給により、ワークWの表面が清浄化された。
【0066】
60分間の電力の供給後、ガス供給系4を用いて、真空槽10に、アルゴンガス(Ar)を55SCCM,メタンガス(CH)を45SCCMの流量で導入した。その後、排気調節弁51の開閉度を調節し、真空槽10の処理圧を0.8Paとした。
【0067】
第一の電極2には電圧(−100,−200,−300,−373,−500,−650V)を、第二の電極3には300Wの高周波電力を、それぞれ供給した。なお、電力の供給時間は、290分であった。
【0068】
この電力の供給により、第一の電極2に接続したワークWの表面上に、炭素膜が成膜した。
【0069】
(炭素膜の成膜2)
まず、排気系5により真空槽10内を到達真空度が5×10−3Paまで排気し、真空槽10内を真空状態にした。
【0070】
そして、ガス供給系4を用いて、真空槽10に、水素ガス(H)を50SCCM,アルゴンガス(Ar)を50SCCMの流量で導入した。その後、排気調節弁51の開閉度を調節し、真空槽10の処理圧を0.8Paとした。
【0071】
第一の電極2には−360Vの電圧を、第二の電極3には265Wの高周波電力を、それぞれ供給した。この電力の供給により、ワークWの表面が清浄化された。
【0072】
60分間の電力の供給後、ガス供給系4を用いて、真空槽10に、アルゴンガス(Ar)を55SCCM,メタンガス(CH)を45SCCMの流量で導入した。その後、排気調節弁51の開閉度を調節し、真空槽10の処理圧を0.8Paとした。
【0073】
第一の電極2には−373Vの電圧を、第二の電極3には高周波電力(100,300、500,1000W)を、それぞれ供給した。なお、電力の供給時間は、290分であった。
【0074】
この電力の供給により、第一の電極2に接続したワークWの表面上に、炭素膜が成膜した。
【0075】
(炭素膜の成膜3)
まず、排気系5により真空槽10内を到達真空度が5×10−3Paまで排気し、真空槽10内を真空状態にした。
【0076】
そして、ガス供給系4を用いて、真空槽10に、水素ガス(H)を50SCCM,アルゴンガス(Ar)を50SCCMの流量で導入した。その後、排気調節弁51の開閉度を調節し、真空槽10の処理圧を0.8Paとした。
【0077】
第一の電極2には−360Vの電圧を、第二の電極3には265Wの高周波電力を、それぞれ供給した。この電力の供給により、ワークWの表面が清浄化された。
【0078】
60分間の電力の供給後、ガス供給系4を用いて、真空槽10に、アルゴンガス(Ar)を55SCCM,メタンガス(CH)を45SCCMの流量で導入した。その後、排気調節弁51の開閉度を調節し、真空槽10の処理圧を0.1,0.8,10.0,40.0,100.0Paとした。
【0079】
第一の電極2には−373Vの電圧を、第二の電極3には300Wの高周波電力を、それぞれ供給した。なお、電力の供給時間は、290分であった。
【0080】
この電力の供給により、第一の電極2に接続したワークWの表面上に、炭素膜が成膜した。
【0081】
(評価)
実施例2の評価として、上記の成膜1〜3で炭素膜が成膜したワークWの硬度を測定した。なお、硬度(HRC)の測定は、JIS G 0202に規定の方法を用いた。
【0082】
ワークWを形成するSK4の、熱処理温度と硬度の関係を図6に示した。
【0083】
上記の成膜1〜3で炭素膜を成膜したワークWの硬度の測定結果を図7〜9に示した。図7には成膜1でのワークWの硬度の測定結果を、図8には成膜2でのワークWの硬度の測定結果を、図9には成膜3でのワークWの硬度の測定結果を、それぞれ示した。なお、ワークWの硬度の測定は、表面に炭素膜が成膜した状態で行った。ワークWの表面の炭素膜は、硬度の測定結果に影響を及ぼすものではなく、炭素膜が無い状態と同じ測定結果を示す。
【0084】
図6に示したように、ワークWを形成するSK4は、熱処理の処理温度が200℃以上となると、硬度が変化(低下)する。
【0085】
図7に示したように、電圧の負の値が373Vより大きくなると、ワークWの硬度が変化(低下)していくことが確認できる。さらに、図6,7から、電圧の負の値が373Vより小さい条件で成膜を行うと、ワークWの硬度を、200℃未満の熱処理後の硬度と同程度の高い硬度とすることができることがわかる。
【0086】
また、図8に示したように、高周波電力の値が300Wより大きくなると、ワークWの硬度が変化(低下)していくことが確認できる。さらに、図6,8から、高周波電力の値が300Wより小さい条件で成膜を行うと、ワークWの硬度を、200℃未満の熱処理後の硬度と同程度のワークWの硬度とすることができることがわかる。
【0087】
また、図9に示したように、電力の供給時の真空槽10内の混合ガスの圧力が10Paより大きくなると、ワークWの硬度が変化(低下)していくことが確認できる。さらに、図6,9から、真空槽10内の圧力が10Paより小さい条件で成膜を行うと、ワークWの硬度を、200℃未満の熱処理後の硬度と同程度のワークWの硬度とすることができることがわかる。
【0088】
上記のように、電圧の負の値を373V以下、高周波電力の値を300W以下、成膜時の真空槽10内の圧力を10Pa以下とすることで、ワークWの温度が200℃以上に上昇することを抑えることができることが確認できる。
【0089】
すなわち、実施例の成膜装置(成膜方法)では、膜厚の均一な炭素膜を、3次元形状の処理物(ワーク)に成膜することができる効果を発揮する。さらに、電圧、高周波電力、真空槽内の混合ガスの圧力を調節することで、処理物の温度を200℃以下で炭素膜を成膜することができる効果を発揮する。
【0090】
(実施例の成膜装置の変形形態)
上記の実施例の成膜装置では、第一の電極2に接続したワークWの表面に炭素膜を形成していた(ワークWが第一の電極2と同様に機能していた)が、第一の電極2と第二の電極3との間にワークWを配する場合でも、ワークWの表面に炭素膜を形成することができる。
【0091】
ワークWは、第一の電極2に支持又は固定された状態で配することが好ましいが、ワークWを配する形態については限定されるものではない。
【0092】
たとえば、図10に示したように第一の電極がワークWを保持するワーク保持部を有していてもよい。この構成は、図10に示したように、実施例の成膜装置の第一の電極2の先端(下端)に、その上にワークWを保持する円盤状のワーク保持部20を備えている。ワーク保持部20は、その中心(円心)が第一の電極2の先端に固定されている。
【0093】
ワーク保持部20におけるワークWの保持は、成膜装置1により成膜しているときに、ワーク保持部20にワークWを保持できる形態であればよく、ワーク保持部20にワークWを固定しても、ワーク保持部20上にワークWを載置しても、いずれでもよい。本実施例では、図10に示したように、固定部材21を用いてワークWをワーク保持部20に固定した。
【0094】
ワーク保持部20は、ワークWの載置面がメッシュ状であってもよい。
【0095】
また、ワークWは、第一の電極に懸架して配してもよい。
【0096】
これらの形態でも、ワークWの表面に炭素膜を成膜することができる。このとき、上記の実施例の成膜装置での成膜と同様な効果を発揮する。
【0097】
さらに、上記の実施例の成膜装置では、第二の電極3は、基部30と立設部31とを備えた構成をしているが、この構成のみに限定されない。
【0098】
たとえば、立設した立設部31は、その先端部が基端部に対して拡径又は縮径する(先端部が位置する円の径が基端部が位置する円の径に対して拡径又は縮径する)ように、鉛直方向に対して傾斜した状態でもうけられてもよい。また、立設部31は、拡径と縮径を繰り返すように、湾曲した状態でもうけられていてもよい。さらに、複数の立設部31を基部30の上方で導電性の部材により接続していてもよい。
【0099】
また、立設部31は、メッシュ,パンチングメタルにより形成してもよい。たとえば、メッシュ,パンチングメタルを基部30の外周形状に沿った筒状として、基部30上に配置する形態でもよい。
【符号の説明】
【0100】
1:炭素膜の成膜装置
10:真空槽 100:防着板
2:第一の電極
20:ワーク保持部 21:固定部材
25:バイポーラ型パルス電源 26:フィルタ
3:第二の電極
30:基部 31:立設部
35:高周波電源 36:マッチングボックス
4:ガス供給系
40:マスフローコントローラ 41:ガス供給弁
42:ノズル
5:排気系
50:真空排気装置 51:排気調節弁
W:ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマCVD法によってワークの表面に炭素膜を形成する炭素膜の成膜装置であって、
真空槽と、
該真空槽の内部に配置され、該ワークを保持する第一の電極と、
該第一の電極と間隔を隔てた位置にもうけられ、かつ該第一の電極の外周に立設してもうけられた原料ガスをイオン化する第二の電極と、
該第一の電極,該第二の電極のそれぞれに独立して電力を供給する電源装置と、
原料ガスを供給するノズルと、
を有することを特徴とする炭素膜の成膜装置。
【請求項2】
前記第二の電極は、
前記第一の電極の前記ワークを保持するワーク保持部よりも大きな円盤状の基部と、
該基部の外縁部にもうけられた棒状の立設部と、
を有する請求項1記載の炭素膜の成膜装置。
【請求項3】
前記第二の電極の前記立設部は、前記ワーク及び/又は前記ワーク保持部を包囲するようにもうけられている請求項1〜2のいずれかに記載の炭素膜の成膜装置。
【請求項4】
前記第二の電極は、高周波電源に接続される請求項1〜3のいずれかに記載の炭素膜の成膜装置。
【請求項5】
プラズマCVD法によってワークの表面に炭素膜を形成する炭素膜の成膜方法であって、
ワークを保持した第一の電極と、該第一の電極と間隔を隔てた位置にもうけられ、かつ該第一の電極の外周に立設してもうけられた原料ガスをイオン化する第二の電極と、のそれぞれの電極に電力を供給して、該ワークの表面に炭素膜を成膜することを特徴とする炭素膜の成膜方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の炭素膜の成膜装置を用いて成膜する請求項5記載の炭素膜の成膜方法。
【請求項7】
請求項5〜6のいずれかに記載の炭素膜の成膜方法を用いて、又は請求項1〜4のいずれかに記載の炭素膜の成膜装置を用いて成膜されてなることを特徴とする炭素膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−180568(P2012−180568A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45013(P2011−45013)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(591055078)日本電子工業株式会社 (8)
【Fターム(参考)】