説明

点火システム

【課題】火花放電やプラズマ生成に異常が生じた際に、その異常態様とその異常の発生要因とを特定できるとともに、異常態様及び異常の発生要因に対応した適切な処理を行うことができる点火システムを提供する。
【解決手段】点火システム101は、間隙29を有する点火プラグ1と、電圧印加部31と、電力投入部41とを備え、電圧印加部31から間隙29に電圧を印加することで火花放電を発生させるとともに、電力投入部41から間隙29に電力を投入することでプラズマを生成可能である。点火システム101は、間隙29の電圧値を計測する電圧計測部51と、前記電圧値に基づいて火花放電及びプラズマ生成のうち少なくとも一方の状態を判定する状態判定部52と、状態判定部52による判定に基づいて電圧印加部31及び電力投入部41のうち少なくとも一方を制御可能な制御部53とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマを生成して混合気への着火を行うプラズマジェット点火プラグの点火システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関等の燃焼装置においては、火花放電により混合気へと着火する点火プラグが使用されている。また近年では、燃焼装置の高出力化や低燃費化の要求に応えるべく、燃焼の広がりが速く、着火限界空燃比のより高い希薄混合気に対してもより確実に着火可能な点火プラグとして、プラズマジェット点火プラグが提案されている。
【0003】
一般にプラズマジェット点火プラグは、軸孔を有する筒状の絶縁碍子と、先端面が絶縁碍子の先端面よりも没入した状態で前記軸孔内に挿設される中心電極と、絶縁碍子の外周に配置される主体金具と、主体金具の先端部に接合される円環状の接地電極とを備える。また、プラズマジェット点火プラグは、中心電極の先端面及び軸孔の内周面によって形成された空間(キャビティ部)を有しており、当該キャビティ部は接地電極に形成された貫通孔を介して外部に連通されている。
【0004】
加えて、このようなプラズマジェット点火プラグにおいては、次のようにして混合気への着火が行われる。まず、中心電極と接地電極との間に高電圧を印加して、両電極の間で火花放電を生じさせて両電極間を絶縁破壊する。その上で、両電極間に電力を投入することによって放電状態を遷移させて、前記キャビティ部の内部にプラズマを発生させる。そして、発生したプラズマがキャビティ部の開口から噴出することで、混合気への着火が行われる。
【0005】
また、プラズマジェット点火プラグの点火システムとしては、火花放電用の電圧を発生させるための装置(点火コイル等)や、前記両電極間にプラズマ発生用の電力を投入するためのコンデンサ等を備えたものが知られている。加えて、火花放電の発生時期に対するプラズマの生成時期の遅れに基づいて、プラズマの生成が正常に行われているか否かを検出する技術が提案されている(例えば、特許文献1等参照)。当該技術においては、コンデンサの電圧値に基づいてプラズマの生成時期が検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−96112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、プラズマ生成の異常は、要求電圧の増大や両電極間の絶縁抵抗の低下により火花放電が正常に発生しなかった場合や、火花放電は正常に発生したものの、要求電圧の増大により両電極間に電力を投入できなかった場合に生じ得る。しかしながら、上記特許文献1に記載の技術のように、コンデンサの電圧値に基づいてプラズマ生成の異常を検出する場合には、異常が生じたことは検出できるものの、その異常態様(火花放電の異常によるものなのか、電力の投入不良によるものなのか)を特定できず、また、異常の発生要因(要求電圧の増大や絶縁抵抗の低下など)を特定することができない。従って、異常態様や異常の発生要因に対応した適切な処理を行うこともできない。
【0008】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、火花放電やプラズマ生成に異常が生じた際に、その異常態様とその異常の発生要因とを特定することができるとともに、異常態様及び異常の発生要因に対応した適切な処理を行うことができる点火システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、上記目的を解決するのに適した各構成につき、項分けして説明する。なお、必要に応じて対応する構成に特有の作用効果を付記する。
【0010】
構成1.本構成の点火システムは、中心電極と、接地電極と、前記両電極間に形成された間隙の少なくとも一部の周囲を包囲して放電空間を形成するキャビティ部とを有するプラズマジェット点火プラグと、
前記間隙に電圧を印加する電圧印加部と、
前記間隙に電力を投入する電力投入部とを備え、
前記電圧印加部から前記間隙に電圧を印加することで前記間隙に火花放電を発生させるとともに、前記電力投入部から前記間隙に電力を投入することで前記キャビティ部にプラズマを生成可能な点火システムであって、
前記間隙の電圧値を計測する電圧計測部と、
前記電圧値に基づいて、前記プラズマジェット点火プラグにおける火花放電及びプラズマ生成のうち少なくとも一方の状態を判定する状態判定部と、
前記状態判定部による判定に基づいて、前記電圧印加部及び前記電力投入部のうち少なくとも一方を制御可能な制御部と
を備えることを特徴とする。
【0011】
間隙の電圧値(電圧波形)は、プラズマが正常に生成された場合と、プラズマ生成に異常が生じた場合とで大きく異なる。また、プラズマ生成に異常が生じた場合においては、その異常の態様や発生要因によって、間隙の電圧値(電圧波形)がそれぞれ異なった時間変化をする。
【0012】
この点を鑑みて、上記構成1によれば、間隙の電圧値に基づいて火花放電やプラズマ生成の状態が判定され、その判定に基づいて、電圧印加部や電力投入部が制御されるように構成されている。すなわち、間隙の電圧値に基づいて火花放電やプラズマ生成の状態を判定することで、火花放電やプラズマ生成に異常が生じているか否かを精度よく検出することができるとともに、火花放電やプラズマ生成に異常が生じた場合には、その異常態様や異常の発生要因をより正確に特定することができる。さらに、異常態様や異常の発生要因を特定できるため、制御部により電圧印加部や電力投入部を制御することで、特定された異常態様や異常の発生要因に対応した適切な処理を行うことができる。
【0013】
また、火花放電やプラズマ生成が行われているものの、短期間のうちに火花放電やプラズマ生成に異常が生じ得る場合(例えば、両電極間にカーボン等の導電性物質が付着し、両電極間の一部においてのみ絶縁性が確保されている場合など)には、間隙の電圧値が正常時と異なる値で推移する。従って、上記構成1のように、間隙の電圧値に基づいて火花放電やプラズマ生成の状態を判定することで、プラズマ生成等に実際に異常が生じる前に、異常の予兆を検出することができる。そのため、火花放電等の異常に伴う内燃機関の出力低下や燃費悪化等といった性能の低下が生じる前に適切な処理を行うことができ、その結果、性能低下の未然防止を図ることができる。
【0014】
構成2.本構成の点火システムは、上記構成1において、前記電圧計測部は、前記電圧印加部による電圧の印加開始タイミングから所定の計測期間内において、当該計測期間内におけるピーク電圧値と、当該ピーク電圧値を計測した時点から所定の待機期間の経過時におけるピーク後電圧値とを計測し、
前記状態判定部は、前記ピーク電圧値及び前記ピーク後電圧値に基づいて、火花放電及びプラズマ生成のうち少なくとも一方の状態を判定することを特徴とする。
【0015】
尚、「計測期間」の終期は、遅くとも次の電圧の印加開始タイミングの直前となる。但し、電圧計測部における処理負担の軽減を図るという点では、「計測期間」の終期を、電圧の印加開始タイミングから比較的短時間(例えば、30μs以内)が経過した時点とすることが好ましい。一方で、電圧計測部によりピーク電圧値及びピーク後電圧値の双方をより確実に計測するためには、計測期間として所定期間以上(例えば、10μs以上)を確保することが好ましい。また、ピーク後電圧値の計測時期は、ピーク後電圧値に基づいて火花放電等の状態をより正確に判定するために、ピーク電圧値の計測時の直後とすること〔換言すれば、「待機期間」を比較的短いもの(例えば、1〜3μs)とすること〕が好ましい。
【0016】
火花放電やプラズマ生成が正常に行われている場合と、火花放電やプラズマ生成に異常が生じている場合とでは、間隙の電圧値のピーク値(ピーク電圧値)と、ピーク時からの電圧の時間変化に対応するピーク後電圧値とのうちの少なくとも一方が顕著に異なったものとなる。また、火花放電に異常が生じているときと、プラズマ生成自体に異常が生じているときとでは(すなわち、異常態様が異なるときには)、ピーク電圧値及びピーク後電圧値のうちの少なくとも一方が大きく異なったものとなり、さらに、火花放電に異常が生じているときであっても、その異常の発生要因によって、ピーク電圧値やピーク後電圧値が大きく変動する。
【0017】
この点を鑑みて、上記構成2によれば、ピーク電圧値とピーク後電圧値とに基づいて、火花放電やプラズマ生成の状態が判定される。従って、異常の発生を精度よく検出することができるとともに、火花放電やプラズマ生成に異常が生じた場合には、その異常態様とその異常の発生要因とをより正確に特定することができる。また、2点のみの電圧値に基づいて状態を判定するため、状態判定部における処理負担の軽減を図ることができる。
【0018】
構成3.本構成の点火システムは、上記構成2において、前記状態判定部は、前記ピーク電圧値が所定の基準電圧値以上であり、かつ、前記ピーク後電圧値が前記電力投入部の出力電圧以下である場合に、火花放電及びプラズマ生成が正常に行われているものと判定することを特徴とする。
【0019】
尚、「基準電圧値」とあるのは、内燃機関の状態(負荷、圧力、空燃比等)やプラズマジェット点火プラグの状態(間隙の絶縁抵抗等)が正常である場合に、プラズマジェット点火プラグにおいて火花放電を生じさせるために必要な要求電圧に基づいて、当該要求電圧以下の値に設定されるものである。
【0020】
火花放電は、両電極間の電位差が両電極間の絶縁破壊電圧(要求電圧)を上回るまで上昇したときに生じ、プラズマは、絶縁破壊により抵抗値の低くなった両電極間に電力が投入されることで生じる。従って、火花放電及びプラズマ生成が正常に行われている場合、ピーク電圧値は、火花放電を生じさせることができる程度の十分に大きなものとなり、一方で、ピーク後電圧値は、電力投入部から両電極間に電力を投入できるほどの小さなもの(電力投入部の出力電圧以下)となる。
【0021】
この点を鑑みて、上記構成3によれば、ピーク電圧値が所定の基準電圧値以上であり、かつ、ピーク後電圧値が電力投入部の出力電圧以下である場合に、状態判定部により、火花放電及びプラズマ生成がともに正常に生じているものと判定される。従って、火花放電及びプラズマ生成が正常に行われているか否かを一層精度よく判定することができる。
【0022】
構成4.本構成の点火システムは、上記構成2又は3において、前記状態判定部は、前記ピーク電圧値が所定の基準電圧値未満であり、かつ、前記ピーク後電圧値が前記電力投入部の出力電圧よりも大きい場合に、前記間隙における絶縁抵抗の低下に伴い火花放電に異常が生じているものと判定することを特徴とする。
【0023】
両電極間にカーボン等の導電性物質が付着し、間隙(両電極間)の絶縁抵抗が低下してしまうと、電圧印加部からの電流が導電性物質を通じてリークし、火花放電を発生させることができなくなってしまったり、火花放電及びプラズマ生成が現時点では生じていても、短期間のうちに火花放電等が生じなくなってしまったりするおそれがある。このような絶縁抵抗の低下が生じた場合、ピーク電圧値はさほど大きなものとならず、また、ピーク後電圧値は両電極間に電力を投入できるほどの小さなものとはならない。
【0024】
この点を踏まえて、上記構成4によれば、ピーク電圧値が基準電圧値未満であり、かつ、ピーク後電圧値が電力投入部の出力電圧よりも大きい場合に、状態判定部により、間隙における絶縁抵抗の低下に伴い火花放電に異常が生じているものと判定される。従って、火花放電異常の発生要因が絶縁抵抗の低下にあることをより確実に、かつ、より容易に特定することができ、ひいてはその異常の発生要因に対応した適切な処理を行うことができる。
【0025】
構成5.本構成の点火システムは、上記構成4において、前記制御部は、前記状態判定部により、前記間隙における絶縁抵抗の低下に伴い火花放電に異常が生じているもの判定された場合に、前記電力投入部を制御し、前記プラズマジェット点火プラグに対する電力の投入を停止させることを特徴とする。
【0026】
上記構成5によれば、絶縁抵抗の低下に伴う火花放電の異常と判定された場合に、点火プラグに対する電力の投入が停止され、火花放電のみを生じさせるように設定される。従って、キャビティ部に侵入した導電性物質等の除去を効果的に行うことができる。その結果、間隙の絶縁性回復を図ることができ、ひいてはプラズマを正常に発生可能な状態へと点火システムを回復させることができる。
【0027】
構成6.本構成の点火システムは、上記構成2乃至4のいずれかにおいて、前記状態判定部は、前記ピーク電圧値が所定の基準電圧値以上であり、かつ、前記ピーク後電圧値が前記ピーク電圧値の50%以上である場合に、火花放電を生じさせるために必要な要求電圧の増大に伴い火花放電に異常が生じているものと判定することを特徴とする。
【0028】
電極の消耗に伴う間隙の拡大や内燃機関の運転状態によっては、要求電圧が増大してしまい、火花放電を正常に発生させることができないことがある。要求電圧の増大による火花放電の異常が生じている場合、間隙の電圧波形は、電圧印加部の出力電圧を示す波形(能力波形)となり、ピーク電圧値及びピーク後電圧値は比較的大きな値となる。
【0029】
この点を鑑みて、上記構成6によれば、ピーク電圧値が基準電圧値以上であり、かつ、ピーク後電圧値がピーク電圧値の50%以上と十分に大きい場合に、状態判定部により、要求電圧の増大に伴い火花放電に異常が生じているものと判定される。従って、火花放電異常の発生要因が要求電圧の増大にあることをより確実に、かつ、より容易に特定することができ、ひいてはその異常の発生要因に対応した適切な処理を行うことができる。
【0030】
構成7.本構成の点火システムは、上記構成6において、前記制御部は、前記状態判定部により、要求電圧の増大に伴い火花放電に異常が生じているものと判定された場合に、前記電圧印加部を制御し、火花放電を発生させる時期を異常判定前よりも早めることを特徴とする。
【0031】
上記構成7によれば、要求電圧の増大に伴う火花放電の異常と判定された場合に、火花放電を発生させる時期が異常判定前よりも早められる(点火時期が進角される)。これにより、要求電圧の低減を図ることができ、ひいては異常状態の解消を図ることができる。
【0032】
構成8.本構成の点火システムは、上記構成2乃至4及び6のいずれかにおいて、前記状態判定部は、前記ピーク電圧値が所定の基準電圧値以上であるとともに、前記ピーク後電圧値が前記電力投入部の出力電圧より大きく、前記ピーク電圧値の50%未満である場合に、火花放電を生じさせるために必要な要求電圧の増大に伴いプラズマ生成に異常が生じているものと判定することを特徴とする。
【0033】
要求電圧が増大した場合には、火花放電を生じさせることができても、容量放電の後に(誘導放電時に)間隙の電圧値がさほど低下せず、間隙へと電力を投入できないことがある。このような場合、ピーク電圧値は非常に大きなものとなり、ピーク後電圧値は、ピーク電圧値に比べて十分に小さいものの、電力投入部の出力電圧よりも大きなものとなる。
【0034】
この点を踏まえて、上記構成8によれば、ピーク電圧値が基準電圧値以上であるとともに、ピーク後電圧値が電力投入部の出力電圧より大きく、ピーク電圧値の50%未満である場合に、状態判定部により、要求電圧の増大に伴いプラズマ生成に異常が生じているものと判定される。従って、プラズマ生成異常の発生要因が要求電圧の増大にあることをより確実に、かつ、より容易に特定することができ、ひいてはその異常の発生要因に対応した適切な処理を行うことができる。
【0035】
構成9.本構成の点火システムは、上記構成8において、前記制御部は、前記状態判定部により、要求電圧の増大に伴いプラズマ生成に異常が生じているもの判定された場合に、前記電力投入部を制御し、前記プラズマジェット点火プラグに対する投入電力を増大させることを特徴とする。
【0036】
上記構成9によれば、要求電圧の増大に伴うプラズマ生成の異常と判定された場合に、点火プラグへの投入電力が増大される。これにより、誘導放電時に間隙の電圧値がさほど低下しない状態であっても、間隙に対して電力をより確実に投入することができ、ひいてはプラズマを正常に発生させることが可能となる。
【0037】
構成10.本構成の点火システムは、上記構成8において、前記制御部は、前記状態判定部により、要求電圧の増大に伴いプラズマ生成に異常が生じているもの判定された場合に、前記電圧印加部を制御し、火花放電を発生させる時期を異常判定前よりも早めることを特徴とする。
【0038】
上記構成10によれば、要求電圧の増大に伴うプラズマ生成の異常と判定された場合に、火花放電を発生させる時期が異常判定前よりも早められる(点火時期が進角される)。これにより、要求電圧の低減を図ることができ、ひいてはプラズマを正常に発生させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】点火システムの概略構成を示すブロック図である。
【図2】点火プラグの構成を示す一部破断正面図である。
【図3】火花放電及びプラズマ生成が正常に生じている場合における間隙の電圧値の推移を示すグラフである。
【図4】絶縁抵抗低下異常が生じている場合における間隙の電圧値の推移を示すグラフである。
【図5】能力波形発生異常が生じている場合における間隙の電圧値の推移を示すグラフである。
【図6】要求電圧増大異常が生じている場合における間隙の電圧値の推移を示すグラフである。
【図7】状態判定部における正常時処理を示すフローチャートである。
【図8】絶縁抵抗低下対応処理を示すフローチャートである。
【図9】能力波形発生対応処理を示すフローチャートである。
【図10】要求電圧増大対応処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下に、一実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、プラズマジェット点火プラグ(以下、「点火プラグ」と称す)1と、電圧印加部31と、電力投入部41とを備えた点火システム101の概略構成を示すブロック図である。尚、図1では、点火プラグ1を1つのみ示しているが、内燃機関ENには複数の気筒が設けられており、各気筒に対応して点火プラグ1が設けられている。そして、各点火プラグ1ごとに電圧印加部31や電力投入部41が設けられている。
【0041】
まず、点火システム101の説明に先立って、点火プラグ1の概略構成を説明する。
【0042】
図2は、点火プラグ1を示す一部破断正面図である。尚、図2では、点火プラグ1の軸線CL1方向を図面における上下方向とし、下側を点火プラグ1の先端側、上側を後端側として説明する。
【0043】
点火プラグ1は、筒状をなす絶縁碍子2、これを保持する筒状の主体金具3などから構成されるものである。
【0044】
絶縁碍子2は、周知のようにアルミナ等を焼成して形成されており、その外形部において、後端側に形成された後端側胴部10と、当該後端側胴部10よりも先端側において径方向外向きに突出形成された大径部11と、当該大径部11よりも先端側においてこれよりも細径に形成された中胴部12と、当該中胴部12よりも先端側においてこれよりも細径に形成された脚長部13とを備えている。加えて、絶縁碍子2のうち、大径部11、中胴部12、及び、脚長部13は、主体金具3の内部に収容されている。そして、中胴部12と脚長部13との連接部にはテーパ状の段部14が形成されており、当該段部14にて絶縁碍子2が主体金具3に係止されている。
【0045】
さらに、絶縁碍子2には、軸線CL1に沿って軸孔4が貫通形成されており、当該軸孔4の先端側には中心電極5が挿入、固定されている。当該中心電極5は、熱伝導性に優れる銅や銅合金等からなる内層5A、及び、ニッケル(Ni)を主成分とするNi合金〔例えば、インコネル(商標名)600や601等〕からなる外層5Bを備えている。さらに、中心電極5は、全体として棒状(円柱状)をなし、その先端が絶縁碍子2の先端面よりも後端側に配置されている。加えて、中心電極5のうち、その先端から軸線CL1方向後端側に少なくとも0.3mmまでの部位には、タングステン(W)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、又は、これらの金属のうち少なくとも一種を主成分とする合金により形成された電極チップ5Cが設けられている。
【0046】
また、軸孔4の後端側には、絶縁碍子2の後端から突出した状態で端子電極6が挿入、固定されている。
【0047】
さらに、中心電極5と端子電極6との間には、円柱状のガラスシール層9が配設されている。当該ガラスシール層9により、中心電極5と端子電極6とがそれぞれ電気的に接続されるとともに、中心電極5及び端子電極6が絶縁碍子2に固定されている。
【0048】
加えて、前記主体金具3は、低炭素鋼等の金属により筒状に形成されており、その外周面には点火プラグ1を燃焼装置(例えば、内燃機関や燃料電池改質器等)の取付孔に取付けるためのねじ部(雄ねじ部)15が形成されている。また、ねじ部15の後端側の外周面には座部16が形成され、ねじ部15後端のねじ首17にはリング状のガスケット18が嵌め込まれている。さらに、主体金具3の後端側には、主体金具3を前記燃焼装置に取付ける際にレンチ等の工具を係合させるための断面六角形状の工具係合部19が設けられるとともに、後端部において絶縁碍子2を保持するための加締め部20が設けられている。併せて、主体金具3の先端部外周には、軸線CL1方向先端側に向けて突出するように形成された環状の係合部21が形成されており、当該係合部21に対して後述する接地電極27が接合されるようになっている。
【0049】
また、主体金具3の内周面には、絶縁碍子2を係止するためのテーパ状の段部22が設けられている。そして、絶縁碍子2は、主体金具3の後端側から先端側に向かって挿入され、自身の段部14が主体金具3の段部22に係止された状態で、主体金具3の後端側の開口部を径方向内側に加締めること、つまり上記加締め部20を形成することによって主体金具3に固定されている。尚、絶縁碍子2及び主体金具3双方の段部14,22間には、円環状の板パッキン23が介在されている。これにより、燃焼室内の気密性を保持し、絶縁碍子2の脚長部13と主体金具3の内周面との隙間に入り込む燃料ガスが外部に漏れないようになっている。
【0050】
さらに、加締めによる密閉をより完全なものとするため、主体金具3の後端側においては、主体金具3と絶縁碍子2との間に環状のリング部材24,25が介在され、リング部材24,25間にはタルク(滑石)26の粉末が充填されている。すなわち、主体金具3は、板パッキン23、リング部材24,25及びタルク26を介して絶縁碍子2を保持している。
【0051】
また、主体金具3の先端部には、絶縁碍子2の先端よりも軸線CL1方向先端側に位置するようにして、円板状をなす接地電極27が接合されている。当該接地電極27は、前記主体金具3の係合部21に係合された状態で、自身の外周部分が前記係合部21に対して溶接されることで主体金具3に接合されている。尚、本実施形態において、接地電極27は、W、Ir、Pt,Ni、又は、これらの金属のうち少なくとも一種を主成分とする合金により構成されている。
【0052】
加えて、接地電極27は、自身の中央に板厚方向に貫通する貫通孔27Hを有している。そして、軸孔4の内周面と中心電極5の先端面とにより形成され、先端側に向けて開口する円柱状の空間であるキャビティ部28が、前記貫通孔27Hを介して外部へと連通されている。
【0053】
上述した点火プラグ1においては、中心電極5と接地電極27との間に形成された間隙29に高電圧を印加することにより火花放電を生じさせた上で、間隙29に電力を投入し、放電状態を遷移させることで、キャビティ部28にプラズマを発生させ、貫通孔27Hからプラズマを噴出させるようになっている。そこで次に、点火プラグ1の前記間隙29に高電圧を印加するための電圧印加部31、及び、電力を投入するための電力投入部41の構成について説明する。
【0054】
図1に示すように、電圧印加部31は、逆流防止用のダイオード36を介して点火プラグ1に接続されており、一次コイル32、二次コイル33、コア34、及び、イグナイタ35を備えている。
【0055】
一次コイル32は、前記コア34を中心に巻回されており、その一端が電力供給用のバッテリVAに接続されるとともに、その他端がイグナイタ35に接続されている。また、二次コイル33は、前記コア34を中心に巻回されており、その一端が一次コイル32及びバッテリVA間に接続されるとともに、その他端が点火プラグ1の端子電極6に接続されている。
【0056】
加えて、イグナイタ35は、所定のトランジスタにより形成されており、所定のECU(電子制御装置)61から入力される通電信号に応じて、バッテリVAから一次コイル32に対する電力の供給及び供給停止を切り替える。点火プラグ1に高電圧を印加する場合には、バッテリVAから一次コイル32に電流を流し、前記コア34の周囲に磁界を形成した上で、ECUからの通電信号をオンからオフに切り替えることにより、バッテリVAから一次コイル32に対する電流を停止する。電流の停止により、前記コア34の磁界が変化し、自己誘電作用によって一次コイル32に一次電圧が生じるとともに、二次コイル33に負極性の高電圧(例えば、5kV〜30kV)が発生する。この高電圧が点火プラグ1(端子電極6)に印加されることで、間隙29において火花放電を発生させることができる。
【0057】
尚、前記通電信号をオンからオフとするタイミングを調節することで、火花放電を発生させる時期を変更することができる。
【0058】
加えて、前記電力投入部41は、電源PSと、コンデンサ42とを備えている。
【0059】
電源PSは、負極性の高電圧(例えば、500V〜1000V)を発生可能な電源回路であり、逆流防止用のダイオード43と電流調節用のコイル44とを介して、点火プラグ1に対して電気的に接続されている。加えて、前記コンデンサ42は、一端が接地されるとともに、他端が電源PSに接続されており、当該電源PSにより充電が行われるように構成されている。そして、前記間隙29にて火花放電が生じ、前記両電極5,27間が絶縁破壊されると、コンデンサ42に蓄積された電気エネルギーが点火プラグ1へと供給され、プラズマが生成されるようになっている。
【0060】
また、電源PSからコンデンサ42に対する供給電圧は、ECU61から入力される昇圧信号に基づいて動作する昇圧手段62により調節可能に構成されている。すなわち、ECU61から出力される昇圧信号を調節することで、点火プラグ1に対する投入電力が変更可能とされている。
【0061】
さらに、本実施形態において、点火システム101は、電圧計測部51と、状態判定部52及び制御部53を有するマイコン54とを備えている。
【0062】
電圧計測部51は、間隙29に印加される電圧値を計測するものであり、本実施形態では、電圧印加部31から点火プラグ1に対する電圧の印加開始タイミングから所定の計測期間内において、当該計測期間内におけるピーク電圧値VMAXと、ピーク電圧値VMAXを計測した時点から所定の待機期間の経過時におけるピーク後電圧値VPとを計測する。また、電圧計測部51により計測されたピーク電圧値VMAX及びピーク後電圧値VPは、状態判定部52に送られる。
【0063】
尚、本実施形態では、電圧計測部51による計測処理の負担を軽減しつつ、ピーク電圧値VMAX及びピーク後電圧値VPの双方をより確実に計測するという観点から、「計測期間」は、10μs以上30μs以下に設定されている。また、「待機期間」は、1μs以上3μs以下に設定されている。
【0064】
状態判定部52は、ピーク電圧値VMAX及びピーク後電圧値VPに基づいて、点火プラグ1における火花放電及びプラズマ生成が正常に発生しているか否かを判定し、火花放電やプラズマ生成に異常が生じた場合には、その異常態様とその異常の発生要因を判定する(尚、以下における電圧値の大小判断は、各電圧値の絶対値を用いて行われる)。
【0065】
具体的には、図3に示すように、ピーク電圧値VMAXが所定の基準電圧値VB以上であり、かつ、ピーク後電圧値VPが電力投入部41から点火プラグ1に対する出力電圧VC(例えば、500V〜1000V)以下である場合に、状態判定部52は、火花放電及びプラズマ生成の双方が正常に行われているものと判定する。尚、キャビティ部28の近傍における混合気の圧縮比が異常に低下した場合など、内燃機関ENの運転状態によっては、要求電圧が一時的に低下し、ピーク電圧値VPが基準電圧値VBよりも小さいときであっても、火花放電及びプラズマ生成が正常に行われる場合がある。この点を考慮して、本実施形態における状態判定部52は、ピーク電圧値VMAXが基準電圧値VBよりも小さいときであっても、ピーク後電圧値VPが電力投入部41の出力電圧VC以下である場合には、火花放電及びプラズマ生成が正常に行われているものと判定する。
【0066】
加えて、状態判定部52は、図4に示すように、ピーク電圧値VMAXが基準電圧値VB未満であり、かつ、ピーク後電圧値VPが電力投入部41の出力電圧VCよりも大きい場合、火花放電に異常が生じており、この異常は間隙29における絶縁抵抗の低下により生じているものと判定する(「絶縁抵抗低下異常」と判定する)。尚、このような異常は、導電性物質(例えば、カーボンや消耗により発生した中心電極5を構成していた金属の金属粉等)が軸孔4に付着し、両電極5,27間が付着した導電性物質により電気的に接続されてしまったとき(電流のリークが生じているとき)や、電流のリークは生じていないものの、両電極5,27間の一部においてのみ絶縁性が確保されている場合(火花放電やプラズマ生成は生じているものの、短期間のうちに電流のリークに至ってしまう可能性が高いとき)に発生する。
【0067】
さらに、図5に示すように、ピーク電圧値VMAXが基準電圧値VB以上であるものの、ピーク後電圧値VPがピーク電圧値VMAXの50%(VMAX×50%)以上である場合、状態判定部52は、火花放電に異常が生じており、この異常は火花放電を生じさせるための要求電圧が増大したために生じているものと判定する(「能力波形発生異常」と判定する)。尚、このような異常は、例えば、内燃機関ENにおける圧力や負荷が極端に増大したときや、中心電極5の消耗等により間隙29が拡大したときなど、両電極5,27間の絶縁破壊電圧(要求電圧)が著しく増大したときに発生し、間隙29における電圧波形は、電圧印加部31からの出力電圧を示す波形(能力波形)となる。
【0068】
加えて、図6に示すように、ピーク電圧値VMAXが基準電圧値VB以上であるものの、ピーク後電圧値VPが電力投入部41の出力電圧VCよりも大きく、かつ、ピーク電圧値VMAXの50%未満である場合、状態判定部52は、プラズマ生成に異常が生じており、この異常は要求電圧の増大により生じているものと判定する(「要求電圧増大異常」と判定する)。このような異常は、火花放電(誘導放電)時における間隙29の電圧値が、電力投入部41の出力電圧VCを下回らず、間隙29へと電力を投入できないときに発生する。
【0069】
尚、上記「基準電圧値VB」は、例えば、2kV以上8kV以下の値(本実施形態では、5kV)に設定される。
【0070】
制御部53は、ECU61と通信可能に構成されており、状態判定部52による判定に基づいて、電圧印加部31及び電力投入部41を制御する。本実施形態において、制御部53は、状態判定部52により火花放電やプラズマ生成に異常が生じているものと判定された場合に、ECU61から出力される通電信号や昇圧信号を調節することで、電圧印加部31及び電力投入部41を制御する。
【0071】
具体的には、状態判定部52により、絶縁抵抗の低下に伴い火花放電に異常が生じているもの(絶縁抵抗低下異常)と判定された場合、制御部53は、電力投入部41を制御することで、点火プラグ1に対する電力の投入を停止し、点火プラグ1において火花放電のみが生じるように設定する。
【0072】
尚、制御部53により絶縁抵抗低下異常に対する処理(電力の投入停止処理)が行われると、絶縁抵抗低下異常が解消するまでの間、状態判定部52においては、上述した火花放電やプラズマ生成が正常に行われているか否かの判定処理(正常時処理)に代えて、ピーク後電圧値VPと電力投入部41の出力電圧VCとを比較する処理(異常時処理A)が行われる。そして、ピーク後電圧値VPが電力投入部41の出力電圧VC以下となったときに(つまり、絶縁抵抗低下異常が解消したときに)、制御部53により電力投入部41が制御され、点火プラグ1に対する電力の投入が再開されるとともに、状態判定部52は正常時処理を再開する。
【0073】
加えて、状態判定部52により、要求電圧の増大に伴い火花放電に異常が生じているもの(能力波形発生異常)と判定された場合、制御部53は、ECU61からイグナイタ35に出力される通電信号のオフタイミングを早めることで、点火プラグ1に対する電圧の印加タイミングを異常判定前のタイミングよりも早める(点火時期を進角させる)ように電圧印加部31を制御する。
【0074】
尚、制御部53により能力波形発生異常に対する処理(点火時期の進角処理)が行われると、能力波形発生異常が解消するまでの間、状態判定部52においては、前記正常時処理に代えて、ピーク後電圧値VPとピーク電圧値VMAXの50%とを比較する処理(異常時処理B)が行われる。そして、ピーク後電圧値VPがピーク電圧値VMAXの50%よりも小さくなったとき(すなわち、点火時期を進角させることで能力波形発生異常が解消したとき)、状態判定部52は正常時処理を再開する。一方で、ピーク後電圧値VPがピーク電圧値VMAXの50%以上である場合、ECU61により、内燃機関ENの運転条件が変更され(例えば、点火時期を進角させる制御や軽負荷とするための処理、出力を低下させるための処理が行われる)、要求電圧の低減が図られる。
【0075】
加えて、状態判定部52により、要求電圧の増大に伴いプラズマ生成に異常が生じているもの(要求電圧増大異常)と判定された場合、制御部53は、ECU61から昇圧手段62に出力される昇圧信号を変更することで、電力投入部41からの出力電圧VCを増大させ、点火プラグ1への投入電力を増大させる。
【0076】
尚、制御部53により要求電圧増大異常に対する処理(投入電力の増大処理)が行われると、要求電圧増大異常が解消するまでの間、状態判定部52においては、前記正常時処理に代えて、ピーク後電圧値VPと電力投入部41の出力電圧VCとを比較する処理(異常時処理A)が行われる。そして、ピーク後電圧値VPが電力投入部41の出力電圧VC以下となったとき(つまり、投入電力の増大により要求電圧増大異常が解消したとき)、状態判定部52は正常時処理を再開する。一方で、ピーク後電圧値VPが電力投入部41の出力電圧VC以上である場合には、ECU61により、内燃機関ENの運転条件が変更され、要求電圧の低減が図られる。
【0077】
次いで、点火システム101の動作について、図7〜10のフローチャートに従って説明する。図7は、状態判定部52における正常時処理(メインルーチン)を示すフローチャートであり、図8は、絶縁抵抗低下異常が生じた場合の処理(絶縁抵抗低下対応処理)を示すフローチャートである。また、図9は、能力波形発生異常が生じた場合の処理(能力波形発生対応処理)を示すフローチャートであり、図10は、要求電圧増大異常が生じた場合の処理(要求電圧増大対応処理)を示すフローチャートである。
【0078】
まず、図7に示すように、ECU61からイグナイタ35への通電信号がオンからオフとされ、電圧印加部31から点火プラグ1に対する電圧の印加が開始されると(S1)、電圧計測部51によって間隙29の電圧値の計測が開始される(S2)。そして、電圧計測部51によって、ピーク電圧値VMAXと、ピーク後電圧値VPとが取得されるとともに(S3,S4)、電圧の印加開始タイミングから所定の計測期間が経過したときに、電圧計測部51による電圧値の計測が終了される(S5)。
【0079】
次いで、状態判定部52により、取得されたピーク電圧値VMAXと所定の基準電圧値VBとが比較される(S6)。ここで、ピーク電圧値VMAXが基準電圧値VBよりも小さい場合には(S6;NO)、S7に移行し、ピーク後電圧値VPが電力投入部41の出力電圧VCよりも大きいか否かが判定される(S7)。そして、ピーク後電圧値VPが出力電圧VCよりも大きい場合には(S7;YES)、状態判定部52により絶縁抵抗低下異常が生じているものと判定され(S8)、絶縁抵抗低下対応処理(S20)が行われる(絶縁抵抗低下対応処理については、後に説明する)。一方で、ピーク後電圧値VPが出力電圧VC以下である場合には(S7;NO)、状態判定部52により、火花放電及びプラズマ生成が正常に行われているものと判定される(S9)。
【0080】
S6において、ピーク電圧値VMAXが基準電圧値VB以上である場合には(S6;YES)、S10において、ピーク後電圧値VPがピーク電圧値VMAXの50%(VMAX×50%)以上であるか否かが判定される。ピーク後電圧値VPがピーク電圧値VMAXの50%以上である場合には(S10;YES)、状態判定部52により能力波形発生異常が生じているものと判定され(S11)、能力波形発生対応処理(S30)が行われる(能力波形発生処理については、後に説明する)。
【0081】
一方で、ピーク後電圧値VPがピーク電圧値VMAXの50%よりも小さい場合には(S10;NO)、S12において、ピーク後電圧値VPが電力投入部41の出力電圧VCよりも大きいか否かが判定される。ピーク電圧値VPが出力電圧VCよりも大きい場合には(S12;YES)、状態判定部52により要求電圧増大異常が生じているものと判定され(S13)、要求電圧増大対応処理(S40)が行われる(要求電圧増大対応処理については、後に説明する)。これに対して、ピーク電圧値VPが出力電圧VC以下である場合には(S12;NO)、状態判定部52により火花放電及びプラズマ生成が正常に行われているものと判定される(S14)。
【0082】
次いで、絶縁抵抗低下対応処理(S20)について説明する。図8に示すように、絶縁抵抗低下対応処理においては、まず、点火プラグ1において火花放電のみを生じさせるために、制御部53により、電力投入部41から点火プラグ1に対する電力の投入が停止される(S21)。その上で、状態判定部52において、ピーク後電圧値VPと電力投入部41の出力電圧VC(正常時の出力電圧)とを比較する処理(異常時処理A)が行われる。
【0083】
すなわち、点火プラグ1に対する電圧の印加開始タイミングから(S22)、電圧計測部51により間隙29の電圧値の計測が開始され(S23)、ピーク電圧値VMAXとピーク後電圧値VPとが取得される(S24,S25)。そして、電圧の印加開始タイミングから所定の計測期間が経過したときに、電圧計測部51による電圧値の計測が終了され(S26)、次いで、ピーク後電圧値VPが出力電圧VC以下であるか否かが判定される(S27)。ここで、ピーク後電圧値VPが出力電圧VC以下である場合には(S27;YES)、絶縁抵抗低下異常が解消しているものと考えられるため、制御部53により電力投入部41から点火プラグ1に対する電力投入が再開された上で(S28)、正常時処理(メインルーチン)に戻る。一方で、ピーク後電圧値VPが出力電圧VCよりも大きい場合には(S27;NO)、絶縁抵抗低下異常が継続しているものと考えられるため、S22に戻る。すなわち、絶縁抵抗低下異常が解消するまでの間、状態判定部52においては異常時処理Aが継続して行われる。
【0084】
次に、能力波形発生対応処理(S30)について説明する。図9に示すように、能力波形発生対応処理においては、まず、要求電圧の低減を図るために、制御部53により、点火時期が異常判定前よりも早められる(S31)。その上で、状態判定部52において、ピーク後電圧値VPとピーク電圧値VMAXの50%とを比較する処理(異常時処理B)が行われる。
【0085】
すなわち、点火プラグ1に対する電圧の印加開始タイミングから(S32)、電圧計測部51により間隙29の電圧値の計測が開始され(S33)、ピーク電圧値VMAXとピーク後電圧値VPとが取得される(S34,S35)。そして、電圧の印加開始タイミングから所定の計測期間が経過したときに、電圧計測部51による電圧値の計測が終了され(S36)、次いで、ピーク後電圧値VPがピーク電圧値VMAXの50%未満であるか否かが判定される(S37)。ここで、ピーク後電圧値VPがピーク電圧値VMAXの50%未満である場合には(S37;YES)、点火時期の進角(S31)により能力波形発生異常が解消しているものと考えられるため、正常時処理(メインルーチン)に戻る。一方で、ピーク後電圧値VPがピーク電圧値VMAXの50%以上である場合には(S37;NO)、能力波形発生異常が継続しているものと考えられるため、要求電圧の更なる低減を図るべく、内燃機関ENの運転条件が変更された上で(S38)、S32に戻る。すなわち、能力波形発生異常が解消するまでの間、状態判定部52においては異常時処理Bが継続して行われる。
【0086】
次いで、要求電圧増大対応処理(S40)について説明する。図10に示すように、要求電圧増大対応処理においては、まず、要求電圧の増大に対応すべく、制御部53により、電力投入部41から点火プラグ1に対する投入電力(出力電圧VC)が増大させられる(S41)。その上で、状態判定部52において、ピーク後電圧値VPと電力投入部41の出力電圧VC(投入電力の増大に伴い正常時の出力電圧よりも大きな値となっている)とを比較する処理(異常時処理A)が行われる。
【0087】
すなわち、点火プラグ1に対する電圧の印加開始タイミングから(S42)、電圧計測部51により間隙29の電圧値の計測が開始され(S43)、ピーク電圧値VMAXとピーク後電圧値VPとが取得される(S44,S45)。そして、電圧の印加開始タイミングから所定の計測期間が経過したときに、電圧計測部51による電圧値の計測が終了され(S46)、次いで、ピーク後電圧値VPが出力電圧VC以下であるか否かが判定される(S47)。ここで、ピーク後電圧値VPが出力電圧VC以下である場合には(S47;YES)、点火プラグ1に対する投入電力の増大により要求電圧増大異常が解消しているものと考えられるため、正常時処理(メインルーチン)に戻る。一方で、ピーク後電圧値VPが出力電圧VCよりも大きい場合には(S47;NO)、要求電圧増大異常が継続しているものと考えられるため、要求電圧の低減を図るべく、内燃機関ENの運転条件が変更された上で(S48)、S42に戻る。すなわち、要求電圧増大異常が解消するまでの間、状態判定部52においては異常時処理Aが継続して行われる。
【0088】
以上詳述したように、本実施形態によれば、間隙29の電圧値に基づいて火花放電やプラズマ生成の状態を判定するため、火花放電やプラズマ生成に異常が生じているか否かを精度よく検出することができるとともに、火花放電やプラズマ生成に異常が生じた場合には、その異常態様やその異常の発生要因をより正確に特定することができる。
【0089】
さらに、要求電圧の増大に伴う火花放電異常が生じている場合には、点火時期を進角させるなど、特定された異常態様や異常の発生要因に対応した適切な処理が行われる。従って、異常状態を効果的に解消することができ、ひいてはプラズマを正常に発生させることが可能な状態へと速やかに復帰させることができる。
【0090】
尚、上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施してもよい。勿論、以下において例示しない他の応用例、変更例も当然可能である。
【0091】
(a)上記実施形態において、状態判定部52は、絶縁抵抗低下異常、要求電圧増大異常、及び、能力波形発生異常の三種を判定可能に構成されているが、状態判定部52により、前記三種のうち一種又は二種のみを判定可能としてもよい。従って、例えば、状態判定部52が、絶縁抵抗低下異常、及び、要求電圧増大異常のみを判定可能となるように構成してもよい。
【0092】
(b)上記実施形態では、状態判定部52により要求電圧増大異常と判定された場合に、点火プラグ1に対する投入電力を増大させるように電力投入部41が制御されているが、火花放電を発生させる時期を異常判定前よりも早めるように電圧印加部31を制御することとしてもよい。この場合には、要求電圧の低下を図ることができ、プラズマ生成異常の解消を図ることができる。
【0093】
(c)上記実施形態では、各点火プラグ1ごとに電圧印加部31や電力投入部41が設けられているが、各点火プラグ1ごとに電圧印加部31等を設けることなく、電圧印加部や電力投入部からの電力をディストリビュータを介して各点火プラグ1に供給することとしてもよい。
【0094】
(d)上記実施形態では、マイコン54により、状態判定部52及び制御部53が構成されているが、ECU61が、状態判定部52及び制御部53の機能を備えるように構成することとしてもよい。
【0095】
(e)上記実施形態では、接地電極27がWやIr等の金属により形成されているが、接地電極27のうち火花放電に伴い消耗する内周側の部位のみをWやIr等の金属により形成することとしてもよい。
【0096】
(f)上記実施形態における点火プラグ1の構成は例示であって、本発明を適用可能な点火プラグ1は特に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0097】
1…点火プラグ(プラズマジェット点火プラグ)
5…中心電極
27…接地電極
28…キャビティ部
29…間隙
31…電圧印加部
41…電力投入部
51…電圧計測部
52…状態判定部
53…制御部
101…点火システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心電極と、接地電極と、前記両電極間に形成された間隙の少なくとも一部の周囲を包囲して放電空間を形成するキャビティ部とを有するプラズマジェット点火プラグと、
前記間隙に電圧を印加する電圧印加部と、
前記間隙に電力を投入する電力投入部とを備え、
前記電圧印加部から前記間隙に電圧を印加することで前記間隙に火花放電を発生させるとともに、前記電力投入部から前記間隙に電力を投入することで前記キャビティ部にプラズマを生成可能な点火システムであって、
前記間隙の電圧値を計測する電圧計測部と、
前記電圧値に基づいて、前記プラズマジェット点火プラグにおける火花放電及びプラズマ生成のうち少なくとも一方の状態を判定する状態判定部と、
前記状態判定部による判定に基づいて、前記電圧印加部及び前記電力投入部のうち少なくとも一方を制御可能な制御部と
を備えることを特徴とする点火システム。
【請求項2】
前記電圧計測部は、前記電圧印加部による電圧の印加開始タイミングから所定の計測期間内において、当該計測期間内におけるピーク電圧値と、当該ピーク電圧値を計測した時点から所定の待機期間の経過時におけるピーク後電圧値とを計測し、
前記状態判定部は、前記ピーク電圧値及び前記ピーク後電圧値に基づいて、火花放電及びプラズマ生成のうち少なくとも一方の状態を判定することを特徴とする請求項1に記載の点火システム。
【請求項3】
前記状態判定部は、前記ピーク電圧値が所定の基準電圧値以上であり、かつ、前記ピーク後電圧値が前記電力投入部の出力電圧以下である場合に、火花放電及びプラズマ生成が正常に行われているものと判定することを特徴とする請求項2に記載の点火システム。
【請求項4】
前記状態判定部は、前記ピーク電圧値が所定の基準電圧値未満であり、かつ、前記ピーク後電圧値が前記電力投入部の出力電圧よりも大きい場合に、前記間隙における絶縁抵抗の低下に伴い火花放電に異常が生じているものと判定することを特徴とする請求項2又は3に記載の点火システム。
【請求項5】
前記制御部は、前記状態判定部により、前記間隙における絶縁抵抗の低下に伴い火花放電に異常が生じているもの判定された場合に、前記電力投入部を制御し、前記プラズマジェット点火プラグに対する電力の投入を停止させることを特徴とする請求項4に記載の点火システム。
【請求項6】
前記状態判定部は、前記ピーク電圧値が所定の基準電圧値以上であり、かつ、前記ピーク後電圧値が前記ピーク電圧値の50%以上である場合に、火花放電を生じさせるために必要な要求電圧の増大に伴い火花放電に異常が生じているものと判定することを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載の点火システム。
【請求項7】
前記制御部は、前記状態判定部により、要求電圧の増大に伴い火花放電に異常が生じているものと判定された場合に、前記電圧印加部を制御し、火花放電を発生させる時期を異常判定前よりも早めることを特徴とする請求項6に記載の点火システム。
【請求項8】
前記状態判定部は、前記ピーク電圧値が所定の基準電圧値以上であるとともに、前記ピーク後電圧値が前記電力投入部の出力電圧より大きく、前記ピーク電圧値の50%未満である場合に、火花放電を生じさせるために必要な要求電圧の増大に伴いプラズマ生成に異常が生じているものと判定することを特徴とする請求項2乃至4及び6のいずれか1項に記載の点火システム。
【請求項9】
前記制御部は、前記状態判定部により、要求電圧の増大に伴いプラズマ生成に異常が生じているもの判定された場合に、前記電力投入部を制御し、前記プラズマジェット点火プラグに対する投入電力を増大させることを特徴とする請求項8に記載の点火システム。
【請求項10】
前記制御部は、前記状態判定部により、要求電圧の増大に伴いプラズマ生成に異常が生じているもの判定された場合に、前記電圧印加部を制御し、火花放電を発生させる時期を異常判定前よりも早めることを特徴とする請求項8に記載の点火システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−162990(P2012−162990A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21567(P2011−21567)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】