説明

無機粒子バインダを用いた電極、及びその製造方法

【課題】導電性の高い電極膜、ならびにそれを用いた電極および酸化還元性蓄電デバイスを提供すること。
【解決手段】酸化還元性活物質と無機粒子とを含み、前記酸化還元性活物質が前記無機粒子によって結着されている電極膜。前記電極膜が集電体上に積層されてなる電極。前記電極を有する酸化還元性蓄電デバイスであって、2枚の電極を電極膜同士が対向するように配置し、両電極膜間にセパレーターを介在させて巻回または積層し、電解液と共に金属ケースに封入してなる酸化還元性蓄電デバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極膜、電極およびその製造方法に関する。さらに本発明は、前記電極を有する酸化還元性蓄電デバイスに関する。なお、本発明における電極膜とは、集電体とともに電極を構成する部材であり、電極において実質的に電気を蓄える部分となるものである。また、本発明における酸化還元性蓄電デバイスとは、充放電に化学反応を利用する蓄電デバイスのことである。
【背景技術】
【0002】
一次電池や二次電池、ハイブリッドキャパシタといった酸化還元性蓄電デバイスに用いられる電極としては、集電体である金属箔と、バインダーで結着された酸化還元性活物質からなる電極が知られている。従来、バインダーとしてはフッ素樹脂が用いられており、中でも、耐熱性、耐薬品性、電気化学安定性に優れるポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと記す)やポリビニリデンフルオライド(以下、PVDF)が好適に用いられている。
例えば特許文献1には、ポリフルオロエチレンと活物質を含む混合物を金属スクリーンに圧着して得られる電極が開示されている。
【0003】
近年、導電性の高い電極が求められており、上記のようにバインダーとしてフッ素樹脂を用いた電極では、導電性の観点から、未だ不十分であった。
【0004】
【特許文献1】特開平6−103979号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、導電性の高い電極膜、ならびにそれを用いた電極および酸化還元性蓄電デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、酸化還元性活物質と無機粒子とを含み、前記酸化還元性活物質が前記無機粒子によって結着されている電極膜に関する。
また本発明は、前記電極膜が集電体上に積層されている電極に関する。
さらに本発明は、酸化還元性活物質および無機粒子が液体媒体に分散されている塗工液を集電体上に塗布して塗布膜を形成した後、前記塗布膜から液体媒体を除去して製造される、前記電極の製造方法に関する。
また本発明は、前記電極を有する酸化還元性蓄電デバイスであって、2枚の電極を電極膜同士が対向するように配置し、両電極膜間にセパレーターを介在させて巻回または積層し、電解液と共に金属ケースに封入してなる酸化還元性蓄電デバイスに関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、導電性の高い電極膜、ならびにそれを用いた電極および酸化還元性蓄電デバイスを得ることができる。この酸化還元性蓄電デバイスは、ラップトップPCや携帯電話等のメモリバックアップ電源や、OA機器の補助電源、電気自動車、ハイブリッド車、燃料電池車などの電源、補助電源などに好適に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の電極膜は、酸化還元性活物質と無機粒子とを含む。
【0009】
酸化還元性活物質とは、電解質との化学反応によって、電子を放出したり(酸化)、取り込んだりする(還元)物質をいう。酸化還元性活物質の酸化還元電位の例としては、標準電極電位で−3.0V〜1.2V等が挙げられる。
【0010】
本発明において、酸化還元性活物質は、活物質イオンを含有する活物質であり、活物質イオンとしては、アルカリ金属イオンなどが挙げられる。アルカリ金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオンが好ましい。酸化還元性活物質としては、金属酸化物、金属カルコゲン酸化物、金属、合金、金属錯体などで、活物質イオンを含有するものを挙げることができ、これらは、単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0011】
例えば、活物質イオンを含有する金属酸化物として、より具体的には、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)などの遷移金属元素と、アルカリ金属元素とを含む酸化物を挙げることができる。このような酸化物の中でも、アルカリ金属が、リチウムである場合が好ましく、この場合は、リチウムイオン二次電池における正極活物質として好適に適用できる。より好ましくは、α−NaFeO2型構造またはスピネル型構造を母体とする複合酸化物である。該複合金属酸化物として、具体的には、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、ニッケル酸リチウムのニッケルの一部をMn、Co、Al等の他元素と置換されてなる複合酸化物や、リチウムマンガンスピネルなどを挙げることができる。
【0012】
また、例えば、活物質イオンを含有する金属、合金としては、リチウム、ナトリウムなどの金属、または、リチウム、ナトリウムなどを含む合金などが挙げられ、リチウムを含む場合は、リチウムイオン二次電池における電極活物質(特に負極活物質)として、好適である。
【0013】
本発明において、酸化還元性活物質の粒径は、膜の強度と安定性の観点から、1μm〜30μmの範囲内であることが好ましい。なお、酸化還元性活物質の粒径とは、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置で測定される平均粒径である。このような粒径の酸化還元性活物質は、市販の酸化還元性活物質をボールミル等の粉砕装置によって粉砕することにより得ることができる。ボールミルにより粉砕する場合には、金属粉の混入を避けるために、ボールや粉砕容器は、アルミナ、メノウ、ジルコニアなどの非金属製であることが好ましい。
【0014】
上記のように、本発明における酸化還元性活物質には、炭素材料、例えば活性炭、アセチレンブラックやケッチェンブラックのようなカーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ、カーボンナノスフィアは含まれない。
【0015】
無機粒子は、前記酸化還元性活物質の酸化還元電位の範囲(電位窓)で不活性(酸化還元されない)である無機粒子である。無機粒子は、酸化還元性活物質同士を結着しているバインダーである。また、本発明の電極膜が集電体と組み合わされて電極を構成しているとき、該無機粒子は、該電極膜を集電体と結着させるバインダーとしても機能する。無機粒子は、前記酸化還元性活物質の酸化還元電位の範囲(電位窓)で不活性であれば、金属粒子やその酸化物など特に限定されるものではないが、酸化還元性活物質との結着力、および電極膜の耐熱性の観点から、シリカ粒子、アルミナ粒子、またはシリカ粒子とアルミナ粒子との混合粒子であることが好ましく、シリカ粒子であることがより好ましい。
【0016】
酸化還元性活物質との結着力の観点から、本発明における無機粒子の粒径は、1nm〜100nmの範囲内にあることが好ましく、1nm〜50nmの範囲内にあることがさらに好ましい。また、無機粒子の粒径は、電極膜の膜厚以下であることが好ましく、酸化還元性活物質との結着力の観点から、酸化還元性活物質の粒径以下であることがより好ましく、更には酸化還元性活物質の粒径の10分の1以下であることがより好ましい。本発明において、無機粒子の粒径とは、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置で測定される平均粒径である。
【0017】
本発明において、無機粒子の形状に限定は無いが、酸化還元性活物質との結着力の観点から、球状、棒状、または鎖状であることが好ましく、球状の粒子が繋がった鎖状粒子が好ましい。具体的には、球状粒子としては日産化学工業(株)製のスノーテックスST−XS(商品名)、スノーテックスST−XL(商品名)、鎖状粒子としては日産化学工業(株)製のスノーテックスPS−S、スノーテックスPS−SO(商品名)等が挙げられる。
【0018】
本発明の電極膜における無機粒子の含有量は、膜の強度と安定性の観点から酸化還元性活物質100重量部に対して1〜100重量部の範囲内であることが好ましく、特に静電容量の観点から1〜50重量部の範囲内であることがさらに好ましく、1〜35重量部の範囲内であることがより好ましく、1〜20重量部の範囲内であることが最も好ましい。
【0019】
電極膜の導電性の観点から、酸化還元性活物質と、該酸化還元性活物質よりも粒径の小さいアセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ、カーボンナノスフィア等の導電剤とを併用することが好ましい。導電剤の粒径は、電極の導電性の観点から、1nm〜10μmの範囲内であることが好ましい。なお、本発明において、導電剤の粒径とは、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置で測定される平均粒径である。
【0020】
酸化還元性活物質と導電剤とを併用する場合、両者の混合割合に特に限定は無いが、電極膜の導電性という観点から、導電剤の量は、酸化還元性活物質100重量部に対し1〜20重量部の範囲内とすることが好ましい。
【0021】
電極膜の密度向上の観点からイオン液体を添加しても良い。また、イオン液体を添加しておくことで酸化還元性蓄電デバイスにした際、酸化還元性蓄電デバイスの導電性向上が期待できる。
本発明のイオン液体の添加量は酸化還元性活物質100重量部に対し0.01〜1重量部の範囲内とすることが好ましく、密度向上の観点から0.01〜0.6重量部の範囲内とすることが好ましい。
【0022】
本発明のイオン液体とは、一般に常温程度で液体である塩のことである。例えば以下に示す、イミダゾリウム塩、ピリジニウム塩、ピロリジニウム塩、ホスホニウム塩、アンモニウム塩、グアニジニウム塩、イソウロニウム塩、イソチオウロニウム塩が挙げられ、好ましくは、イミダゾリウム塩である。
【0023】
(イミダゾリウム塩)
1,3−ジメチルイミダゾリウムトリフロオロメタンスルホネート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム ビス[オクサレート(2−)]ボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム テトラフルオロボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム ブロマイド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム クロライド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム ヘキサフルオロボフォスフェイト、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム トリフルオロメタンスルホネート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム トリフルオロアセテート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム メチルスルフェイト、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム p−トルエンスルホネート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム シオチアネート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム トリフルオロメタンスルホネート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム テトラフルオロボレート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム ヘキサフルオロフォスフェイト、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム メチルスルフェイト、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム クロライド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム ブロマイド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム トリフルオロアセテート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム オクチルスルフェイト、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム クロライド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム テトラフルオロボレート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム ヘキサフルオロフォスフェイト、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロフォスフェイト、3−メチル−1−オクチルイミダゾリウム ヘキサフルオロフォスフェイト、3−メチル−1−オクチルイミダゾリウム クロライド、3−メチル−1−オクチルイミダゾリウム テトラフルオロボレート、3−メチル−1−オクチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、3−メチル−1−オクチルイミダゾリウム オクチルスルフェイト、3−メチル−1−テトラデシイミダゾリウム テトラフルオロボレート、1−ヘキサデシル−3−メチルイミダゾリウム クロライド、3−メチル−1−オクタデシルイミダゾリウム ヘキサフルオロフォスフェイト、3−メチル−1−オクタデシルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、3−メチル−1−オクタデシルイミダゾリウム トリ(ペンタフルオロエチル)トリフルオロフォスフェイト、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム ブロマイド、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム テトラフルオロボレート、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム ヘキサフルオロフォスフェイト、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム クロライド、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム p−トルエンスルホネート、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム テトラフルオロボレート、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム クロライド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム ヘキサフルオロフォスフェイト、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム オクチルスルフェイト、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウム クロライド、1−ヘキサデシル−2,3−ジメチルイミダゾリウム クロライド
【0024】
(ピリジニウム塩)
N−エチルピリジニウム クロライド、N−エチルピリジニウム ブロマイド、N−ブチルピリジニウム クロライド、N−ブチルピリジニウム テトラフルオロボレート、N−ブチルピリジニウム ヘキサフルオロフォスフェイト、N−ブチルピリジニウム トリフルオロメタンスルホネート、N−ヘキシルピリジニウム テトラフルオロボレート、N−ヘキシルピリジニウム ヘキサフルオロフォスフェイト、N−ヘキシルピリジニウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、N−ヘキシルピリジニウム トリフルオロメタンスルホネート、N−オクチルピリジニウム クロライド、4−メチル−N−ブチルピリジニウム クロライド、4−メチル−N−ブチルピリジニウム テトラフルオロボレート、4−メチル−N−ブチルピリジニウム ヘキサフルオロフォスフェイト、3−メチル−N−ブチルピリジニウム クロライド、4−メチル−N−ブチルピリジニウム ブロマイド、3,4−ジメチル−N−ブチルピリジニウム クロライド、3,5−ジメチル−N−ブチルピリジニウム クロライド
【0025】
(ピロリジニウム塩)
1−ブチル−1−メチルピロリジニウム クロライド、1−ブチル−1−メチルピロリジニウム トリフルオロメタンスルホネート、1−ブチル−1−メチルピロリジニウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−ブチル−1−メチルピロリジニウム テトラフルオロボレート、1−ブチル−1−メチルピロリジニウム ヘキサフルオロフォスフェイト、1−ブチル−1−メチルピロリジニウム トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロフォスフェイト、1−ブチル−1−メチルピロリジニウム トリフルオロアセテート、1−ヘキシル−1−メチルピロリジニウム クロライド、1−メチル−1−オクチルピロリジニウム クロライド
【0026】
(ホスホニウム塩)
トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウム クロライド、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウム トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロフォスフェイト、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウム テトラフルオロボレート、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウム ヘキサフルオロフォスフェイト、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウム ビス[オクサレート(2−)]ボレート
【0027】
(アンモニウム塩)
メチルトリオクチルアンモニウム トリフルオロアセテート、メチルトリオクチルアンモニウム トリフルオロメタンスルホネート、メチルトリオクチルアンモニウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド
【0028】
(グアニジニウム塩)
N”−エチル−N,N,N’,N’−テトラメチルグアニジニウム トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロフォスフェイト、グアニジニウム トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロフォスフェイト、グアニジニウム トリフルオロメタンスルホネート、N”−エチル−N,N,N’,N’−テトラメチルグアニジニウム トリフルオロメタンスルホネート
【0029】
(イソウロニウム塩)
O−エチル−N,N,N’,N’−テトラメチルイソウロニウム トリフルオロメタンスルホネート、O−エチル−N,N,N’,N’−テトラメチルイソウロニウム トリ(ペンタフルオロエチル)トリフルオロフォスフェイト
【0030】
(イソチオウロニウム塩)
S−エチル−N,N,N’,N’−テトラメチルイソチオウロニウム トリフルオロメタンスルホネート、S−エチル−N,N,N’,N’−テトラメチルイソチオウロニウム トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロフォスフェイト
【0031】
本発明の電極は、集電体と、該集電体上に積層された電極膜とを有し、該電極膜は、酸化還元性活物質と無機粒子とを含み、前記酸化還元性活物質同士が前記無機粒子で結着されている。集電体は通常、金属箔であり、かかる金属の例としては、アルミニウム、銅、鉄などが挙げられる。なかでもアルミニウムは、軽く、電気抵抗が低いため好ましい。巻回型電極や積層型電極の作製が容易であることから、集電体は、厚みが20μm〜100μmの範囲内のフィルム状であることが好ましい。また集電体と電極膜との密着性を向上させるために、集電体の表面はエッチング処理などによって粗面化していることが好ましい。
【0032】
本発明の電極膜および電極の製造方法を説明する。
本発明の電極膜は、酸化還元性活物質と無機粒子の混合物をロール成形やプレス成形を用いてシートにするシート成形法や、前記混合物が液体媒体(以下、溶媒と記す)に分散された塗工液を支持体上に塗布して塗布膜を形成し、次いで該塗布膜から溶媒を除去して酸化還元性活物質と無機粒子を含む電極膜を形成する塗布法等、公知の方法により製造することができる。なお、前記支持体として集電体を使用することにより、本発明の電極を直接製造することができる。
シート成形法では、まず酸化還元性活物質と無機粒子とを所定の割合で混合機に投入して混合し、ペースト状混合物を得る。この時、少量の溶媒を加えることにより、混合物の均一性を向上させることができる。次に該ペースト状混合物を、カレンダー成形等のロール成形やプレス成形等の成形方法でシート状に成形することにより、本発明の電極膜を得ることができる。また、前記した方法で得られた電極膜を、所定の厚みにするためにさらにロールにより圧延してもよい。このようにして得られた電極膜を集電体に貼合することにより、本発明の電極が得られる。電極膜に溶媒が残存している場合には、溶媒を蒸発させて除去する。
【0033】
厚みの均一な電極膜を容易に形成できることから、塗布法により電極膜を製造することが好ましい。ここで塗布法による本発明の電極膜の製造について更に詳細に説明する。塗布法とは、溶媒中に分散された酸化還元性活物質と無機粒子を含有する塗工液を支持体(例えば、金属箔からなる集電体)上に塗布して塗布膜を形成した後、前記塗布膜から溶媒を除去して、電極膜を形成する方法である。塗布法では、まず酸化還元性活物質と無機粒子とが溶媒に分散された塗工液を調製する。
【0034】
塗工液の調製方法としては、溶媒に所定量の酸化還元性活物質と無機粒子とを添加して混合する方法、所定量の酸化還元性活物質と無機粒子の混合物に溶媒を添加して混合する方法、所定量の無機粒子が溶媒に分散された無機粒子分散液に所定量の酸化還元性活物質を添加して混合する方法、所定量の無機粒子が溶媒に分散された無機粒子分散液と、所定量の酸化還元性活物質が溶媒に分散された酸化還元性活物質分散液とを混合する方法、所定量の酸化還元性活物質が溶媒に分散された酸化還元性活物質分散液に無機粒子を添加して混合する方法等が挙げられる。混合には、公知の混合機を用いることができる。更に、酸化還元性活物質と、無機粒子とを粉砕しながら溶媒に混合しても良い。こうすることで、酸化還元性活物質や無機粒子の凝集を抑え、分散性の良い塗工液を得る事ができる。無機粒子および酸化還元性活物質をより均一に分散させやすいことから、無機粒子が溶媒に分散された無機粒子分散液に酸化還元性活物質と溶媒を添加して分散させる方法により塗工液を調製することが好ましい。また、導電性のより高い電極膜を得るためには、無機粒子分散液としてコロイダルシリカを用いることが好ましい。コロイダルシリカとは、シリカまたはその水和物の水性コロイドである。
【0035】
塗工液を支持体上に塗布して塗布膜を形成するのには、ハンディ・フィルムアプリケーター、バーコーター、ダイコーター等の公知の塗布装置を用いることができる。形成した分散液膜から溶媒を除去することにより、支持体上に電極膜を形成することができる。前述のとおり、前記支持体として集電体を使用することにより、本発明の電極を直接製造することができる。溶媒を除去する方法としては、通常50〜500℃の温度で溶媒を蒸発させる方法が挙げられる。無機粒子分散液としてコロイダルシリカを用いる場合、まず50〜80℃の温度で1〜30分の時間乾燥した後、さらに100〜200℃の温度で1〜60分の時間乾燥することが、結着力を高める観点から好ましい。また、塗布法で支持体上に電極膜を形成した後、電極膜の厚さを調整するために支持体上の電極膜をプレスしてもよい。
【0036】
電極膜を圧縮する場合には、その圧力は、10〜500kg/cm2であることが好ましく、50〜300kg/cm2であることがより好ましい。
圧縮する際の温度は、酸化還元性活物質の融点と無機粒子の融点以下であることが好ましい。更に圧縮する際の温度は、残留溶媒による液架橋力を引き起こし、電極膜の成形性を向上させるという観点から、使用する溶媒の沸点以下であることが好ましく、具体的には10〜50℃であることが好ましい。このような温度で圧縮することにより、電極膜を溶融させることなく、かつ強固に酸化還元性活物質を結着させることができ、それにより電極膜の導電性向上が期待できる。圧縮して得られる電極膜は、支持体と積層したままで使用してもよく、支持体を溶かしたり剥がしたりして、電極膜単層として使用してもよい。
【0037】
本発明の電極は、例えば、乾電池、一次電池、二次電池、レドックスキャパシタ、ハイブリッドキャパシタなどの酸化還元性蓄電デバイス電極として用いることができ、とりわけ二次電池の電極として好適である。
本発明は、一つの面において、前記本発明の電極を備えた二次電池である。具体的には、2枚の電極の間にセパレーターがあり、セパレーターと各電極との間に電解液が充填された二次電池や、2枚の電極の間に固体電解質(ゲル電解質)が充填された二次電池などが挙げられる。
二次電池では、充電時は、片方の酸化還元性活物質を含む電極からもう片方の酸化還元性活物質を含む電極にイオンが移動し充電電流が流れる。放電時は、充電時と逆にイオンが移動することで放電電流が流れる。ここでいうイオンとは各種電池で異なり、例えば該イオンがリチウムであるリチウムイオン二次電池や、該イオンがナトリウムであるナトリウムイオン二次電池が挙げられる。
二次電池は、2枚の電極、すなわち1対の正極と負極を含むセルを1つだけ有する二次電池でもよいが、このようなセルを複数有する二次電池であってもよい。
【0038】
本発明の電極は、電解液が充填された二次電池に好適に用いられる。このような二次電池は、より具体的には、集電体と該集電体上に積層された電極膜とを有する電極2枚が、電極膜同士が対向するように配置され、両電極膜間に更にセパレーターが配置された少なくとも1個のセルと、電解液と、前記少なくとも1個のセルおよび電解質が封入された容器とを有する。具体的には、円盤状の電極2枚を電極膜同士が対向するように配置し、両電極膜間に更にセパレーターを配置したセルを、電解液と共にコイン型ケースに封入したコイン型二次電池や、シート状の電極2枚を電極膜同士が対向するように配置し、両電極膜間に更にセパレーターを配置したセルを巻回し、これを電解液と共に円筒型ケースに封入した円筒型二次電池や、フィルム状電極とセパレーターとを積層した積層型二次電池や、蛇腹型二次電池等が挙げられる。
【0039】
電解液としては、公知の電解質と溶媒との混合物を用いることができる。電解質は無機系電解質であっても有機系電解質であってもよい。無機系電解質は、通常、水と混合して電解液とされる。有機系電解質は、通常、有機極性溶媒を主成分とする溶媒と混合して電解液とされる。
【0040】
セパレーターとしては、大きなイオン透過度と所定の機械的強度とを持つ絶縁性の膜が用いられる。具体的には、天然セルロースやマニラ麻など天然繊維の抄紙;レーヨン、ビニロン、ポリエステルなどの再生繊維や合成繊維などの抄紙;前記天然繊維と前記再生繊維や前記合成繊維を混合して抄造した混抄紙;ポリエチレン不織布、ポリプロピレン不織布、ポリエステル不織布、ポリブチレンテレフタレー不織布などの不織布;多孔質ポリエチレン、多孔質ポリプロピレン、多孔質ポリエステルなどの多孔質膜;パラ系全芳香族ポリアミド、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデンと6フッ化プロピレンとの共重合体、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂などの樹脂膜が挙げられる。
【実施例】
【0041】
以下、本件を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限られることではない。
【0042】
[実施例1]
酸化還元性活物質としてコバルト酸リチウム(和光純薬株式会社製;平均粒径6μm)、導電材としてアセチレンブラック(電気化学工業製のデンカブラック 50%プレス品;平均粒径32nm)、および人造黒鉛(ロンザ社製のKS15;平均粒径6μm)を用いた。
無機粒子としては、コロイダルシリカ(日産化学工業株式会社製のスノーテックスPS−S(商品名);平均粒径10〜50nm;球状シリカが50〜200nmの長さに結合した鎖状粒子;固形分濃度:20重量%)を用いた。
酸化還元性活物質9.0gとアセチレンブラック0.1gと人造黒鉛0.6gにコロイダルシリカ3.0gを添加し、さらに純水を添加して混合し、固形分濃度57重量%のスラリーを調製した。該スラリーは、酸化還元性活物質9.0g、アセチレンブラック0.1g、人造黒鉛0.6g、シリカ0.6gを含有していた。すなわち、酸化還元性活物質100重量部当たりの無機粒子の量は6.6重量部であった。厚さ20μmのアルミニウム箔(集電体)上に、前記スラリーをハンディ・フィルムアプリケーターを用いて塗布しスラリー膜を形成した後、室温で30分間保持後60℃で60分間、さらに150℃で6時間加熱して水を除去することで、集電体上に電極膜が積層されている電極を得た。乾燥後の電極膜の膜厚は80μmであった。
得られた電極から3.0cm×3.0cmの大きさの電極1枚を切り出して、電極膜の重量、膜厚および表面抵抗を測定した。表面抵抗の測定にはロレスタ(株式会社ダイアインストルメンツ製)を用いた。重量と膜厚から算出した密度と表面抵抗結果を表1に示した。
【0043】
[実施例2]
イオン液体(1−エチル−3−メチル−イミダゾリウムテトラフルオロボレート)0.01gを添加し、純水を添加して固形分濃度44重量%にした以外は実施例1と同様にしてスラリーを調製した。該スラリーは、酸化還元性活物質9.0g、アセチレンブラック0.1g、人造黒鉛0.6g、シリカ0.6g、イオン液体0.01gを含有していた。すなわち、酸化還元性活物質100重量部当たりの無機粒子の量は6.6重量部、イオン液体の量は0.11重量部であった。次に、実施例1と同様に電極を作製した。乾燥後の電極膜の膜厚は44μmであった。
得られた電極から3.0cm×3.0cmの大きさの電極1枚を切り出して、電極膜の重量、膜厚および表面抵抗を測定した。重量と膜厚から算出した密度と表面抵抗結果を表1に示した。
【0044】
[実施例3]
イオン液体(1−エチル−3−メチル−イミダゾリウムテトラフルオロボレート)0.05gを添加し、純水を添加して固形分濃度44重量%にした以外は実施例1と同様にしてスラリーを調整した。該スラリ−は、酸化還元性活物質9.0g、アセチレンブラック0.1g、人造黒鉛0.6g、シリカ0.6g、イオン液体0.05gを含有していた。すなわち、酸化還元性活物質100重量部当たりの無機粒子の量は6.6重量部、イオン液体の量は0.56重量部であった。次に、実施例1と同様に電極を作製した。乾燥後の電極膜の膜厚は43.3μmであった。
得られた電極から3.0cm×3.0cmの大きさの電極1枚を切り出して、電極膜の重量、膜厚および表面抵抗を測定した。重量と膜厚から算出した密度と表面抵抗結果を表1に示した。
【0045】
[実施例4]
導電材に人造黒鉛を用いず、アセチレンブラック0.7gを使用し、純水を添加して固形分濃度44重量%にした以外は実施例1と同様にしてスラリーを調製した。該スラリーは、酸化還元性活物質9.0g、アセチレンブラック0.7g、シリカ0.6gを含有していた。すなわち、酸化還元性活物質100重量部当たりの無機粒子の量は6.6重量部であった。次に、実施例1と同様に電極を作製した。乾燥後の電極膜の膜厚は49.5μmであった。
得られた電極から3.0cm×3.0cmの大きさの電極1枚を切り出して、電極膜の重量、膜厚および表面抵抗を測定した。重量と膜厚から算出した密度と表面抵抗結果を表1に示した。
【0046】
[実施例5]
実施例4と同様にしてスラリーを調製した。該スラリーは、酸化還元性活物質9.0g、アセチレンブラック0.7g、シリカ0.6gを含有していた。すなわち、酸化還元性活物質100重量部当たりの無機粒子の量は6.6重量部であった。次に、実施例1と同様に電極を作製した。乾燥後の電極膜の膜厚は28μmであった。
得られた電極から3.0cm×3.0cmの大きさの電極1枚を切り出して、プレス圧縮を行った。プレス温度は室温、プレス圧は100kg/cm3で3分間保持した。圧縮後の電極膜の重量、膜厚および表面抵抗を測定した。重量と膜厚から算出した密度と表面抵抗結果を表1に示した。
【0047】
[実施例6]
イオン液体(1−エチル−3−メチル−イミダゾリウムテトラフルオロボレート)0.1gを添加し、純水を添加して固形分濃度44重量%にした以外は実施例1と同様にしてスラリーを調整した。該スラリ−は、酸化還元性活物質9.0g、アセチレンブラック0.1g、人造黒鉛0.6g、シリカ0.6g、イオン液体0.1gを含有していた。すなわち、酸化還元性活物質100重量部当たりの無機粒子の量は6.6重量部、イオン液体の量は1.11重量部であった。次に、実施例1と同様に電極を作製した。乾燥後の電極膜の膜厚は61.0μmであった。
得られた電極から3.0cm×3.0cmの大きさの電極1枚を切り出して、電極膜の重量、膜厚および表面抵抗を測定した。重量と膜厚から算出した密度と表面抵抗結果を表1に示した。
【0048】
[比較例1]
無機粒子の代わりにフッ素樹脂粒子(シグマ・アルドリッチ社製のPVdF(商品名))3.0gを用い、純水の替わりにNメチルピロリドン(NMP)を用いた以外は実施例1と同様にしてスラリーを調製した。該スラリーは酸化還元性活物質9.0g、アセチレンブラック0.1g、人造黒鉛0.6g、PVdF0.3gを含有していた。すなわち、酸化還元性活物質100重量部当たりのフッ素樹脂の量は3.3重量部であった。次に、実施例1と同様に電極を作製した。乾燥後の電極膜の膜厚は88μmであった。
得られた電極から実施例1と同様に、3.0cm×3.0cmの大きさの電極1枚を切り出して、膜厚および表面抵抗を測定した。重量と膜厚から算出した密度と表面抵抗結果を表1に示した。
【0049】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化還元性活物質と無機粒子とを含み、前記酸化還元性活物質が前記無機粒子によって結着されている電極膜。
【請求項2】
無機粒子がシリカである請求項1に記載の電極膜。
【請求項3】
無機粒子の平均粒径が1nm〜100nmである請求項1または2に記載の電極膜。
【請求項4】
酸化還元性活物質100重量部に対し無機粒子1〜50重量部含有する、請求項1〜3のいずれかに記載の電極膜。
【請求項5】
さらにイオン液体を含む請求項1〜4のいずれかに記載の電極膜。
【請求項6】
酸化還元性活物質の融点以下であり、且つ無機粒子の融点以下の温度で圧縮した、請求項1〜5のいずれかに記載の電極膜。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の電極膜が集電体上に積層されてなる電極。
【請求項8】
酸化還元性活物質および無機粒子が液体媒体に分散されている塗工液を集電体上に塗布して塗布膜を形成した後、前記塗布膜から液体媒体を除去して製造される、請求項7に記載の電極の製造方法。
【請求項9】
塗工液が、酸化還元性活物質と、無機粒子とを粉砕しながら液体媒体に混合したものであることを特徴とする、請求項8に記載の電極の製造方法。
【請求項10】
塗工液が、予め無機粒子が液体媒体に分散されている無機粒子分散液に、酸化還元性活物質および液体媒体を添加して混合したものであることを特徴とする、請求項8に記載の電極の製造方法。
【請求項11】
無機粒子分散液が、コロイダルシリカである請求項10に記載の電極の製造方法。
【請求項12】
請求項7に記載の電極を有する酸化還元性蓄電デバイス。
【請求項13】
2枚の電極を電極膜同士が対向するように配置し、両電極膜間にセパレーターを介在させて巻回または積層し、電解液と共に金属ケースに封入してなる、請求項12に記載の酸化還元性蓄電デバイス。

【公開番号】特開2010−129418(P2010−129418A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−303862(P2008−303862)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】