説明

無機組成物物品

【課題】面内磁気記録方式および垂直磁気記録方式の何れにおいても、高密度記録のため
のランプロード方式にも十分対応し得る良好な表面特性を兼ね備え、高速回転化、衝撃に耐え得る高強度を有し、各ドライブ部材に合致する熱膨張特性や耐熱性をも兼ね備えた、溶融温度が低く生産性の高い情報記録媒体用ディスク基板用等の無機組成物品を提供する。
【解決手段】
LiO成分と、Al成分を含有し、LiOとAlの質量%比率であるLiO/Alが0.3以上であり、結晶を含有し、表面に圧縮応力層を設けた無機組成物物品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物品表面に圧縮応力層を設けることにより優れた機械的強度を持ち、かつ、物品からのアルカリイオン溶出の低減が可能な無機組成物物品に関するものである。とりわけ、各種情報磁気記録装置に用いられる磁気記録媒体用基板、中でも特に垂直磁気記録媒体において、表面の超平滑性、洗浄性、高強度を兼ね備えたディスク状情報記録媒体用基板に関するものである。
尚、本発明において「情報記録媒体」とは、パーソナルコンピュータのハードディスクとして使用される、固定型ハードディスク、リムーバル型ハードディスク、もしくはカード型ハードディスク、デジタルビデオカメラ、デジタルカメラ、もしくはオーディオ用ハードディスク、カーナビ用ハードディスク、携帯電話用ハードディスクまたは各種電子デバイス用ハードディスクにおいて使用可能な情報磁気記録媒体を意味する。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピュータのマルチメディア化への対応のため、また、デジタルビデオカメラ・デジタルカメラで動画や音声等の大きなデータが扱われるようになり、大容量の情報磁気記録装置が必要となっている。その結果、情報磁気記録媒体は面記録密度を大きくするために、ビットおよびトラック密度を増加させ、ビットセルのサイズを縮小化する傾向にある。そのため、磁気ヘッドはディスク表面により近接して作動しなければならなくなる。
【0003】
さらに記録密度が100Gb/inを超えると、このような小さい磁化単位では熱的に不安定になるため、100Gb/inを越える高記録密度化の要求に対して面内記録方式は物理的限界に到達している。
【0004】
これに対応するべく、垂直磁気記録方式が採用されてきている。この垂直磁気記録方式は磁化容易軸を垂直方向とするため、ビットサイズを極めて小さくすることができ、また、所望の媒体膜厚(面内記録方式の5〜10倍)を有することにより反磁界の低減や形状磁気異方性による効果も望むことができるため、従来の面内方向の磁気記録方式の高密度化において生じる記録エネルギーの減少や熱的不安定という問題を解決でき、面内磁気記録方式よりも格段の記録密度向上を実現できる。この様なことから、垂直磁気記録方式では実用レベルで100Gb/in以上の記録密度を達成することが量産レベルでは既に可能となっており、300Gb/inを越える記録密度に関する研究も既に行われている。
【0005】
近年の情報磁気記録装置において、磁気ヘッドは、装置始動前は情報磁気記録媒体ディスク基板に接触しており、装置始動時には情報磁気記録媒体ディスク基板より浮上するといった動作を繰り返すCSS(コンタクト・スタート・ストップ)方式を行っている。この時、両者の接触面が必要以上に鏡面であると吸着による摩擦係数の増大に起因する回転始動の不円滑、情報磁気記録媒体表面の損傷等の問題が発生する。この様に情報磁気記録媒体ディスク基板は、記録容量の増大に伴う磁気ヘッドの低浮上化と、情報磁気記録媒体ディスク基板上での磁気ヘッド吸着防止という、相反する要求がある。これらの相反する要求に対しては、情報磁気記録媒体ディスク基板の特定領域に磁気ヘッドの始動・停止部を制作するランディングゾーン技術の開発が進められている。
【0006】
一方、上記のランディングゾーン技術に対抗して、磁気ヘッドを完全に接触させ、ヘッドの始動停止を情報磁気記録媒体ディスク基板上から外す、ランプロード技術(磁気ヘッドのコンタクトレコーディング)も開発されており、磁気ヘッドがディスク基板に吸着するのを防止する凹凸が必要なくなってきている。そのため、基板の表面を超平滑面にすることで、情報記録媒体表面に著しく近接した状態で作動可能となり、ビットセルのサイズを縮小化ができ記録密度を上げることができるようになった。
【0007】
また、垂直磁気記録媒体も記録密度向上に伴い、ヘッド浮上高さは15nm以下と低浮上化の傾向にあり、さらにはニアコンタクトレコーディング或いはコンタクトレコーディング化の方向にある。一方、媒体表面をデータ領域として有効に活用するため、従来のランディング領域を設ける方式から、ランディング領域のないランプローディング方式となっている。このため、ディスク表面のデ−タ領域または基板表面の全面が、この浮上高さの低減やコンタクトレコーディングを可能にするために、超平滑面でなければならない。
【0008】
更に、記録密度の向上に伴い、磁気ヘッドと媒体のポジショニングに高精度を要するため、ディスク基板や磁気情報記録装置の各構成部品には高い寸法精度が要求される。そしてこれら構成部品に対する平均線膨張係数の差の影響も無視できなくなるので、これら平均線膨張係数の差を極力少なくしなければならない。さらに厳密には、これら構成部品の平均線膨張係数よりもディスク基板の平均線膨張係数は極わずかに大きいことが好ましい場合が多い。特に小型の磁気情報記録媒体に使用される構成部品の平均線膨脹係数は、+90〜+100(×10−7・℃−1)程度のものが良く用いられており、ディスク基板もこの程度の熱膨脹係数が必要とされ、熱膨脹係数が僅かにずれても書き込みエラーが発生するという不都合があった。
【0009】
この垂直磁気記録方式では、媒体面に対して垂直方向に磁化を行うため、従来の面内方向に磁化容易軸を有する媒体とは異なり、垂直方向に磁化容易軸を有する媒体が用いられる。垂直磁気記録方式の記録層として研究および実用化がなされているのは、CoCrPt、CoCrPt−Si、CoCrPt−SiO等のCo系合金、FePt等のFe系合金等である。
【0010】
ところが、このようなFePt等やその他酸化物系の磁気記録媒体は、磁性体結晶粒子の微細化と垂直方向への生成のためにその成膜温度を高温化する必要がある。さらに最近の研究によれば、磁気特性向上のために高温(300〜900℃程度)でアニーリングを行う場合もある。したがって、基板材はこのような高温にも耐え得るものでなければならず、基板の変形や表面粗度の変化等を発生してはいけない。
【0011】
そして、これら磁気記録媒体基板は、成膜する媒体結晶に影響を及ぼすような、結晶異方性・異物・不純物等がなく、組織も緻密で均質、微細でなければならず、また、種々の薬品による洗浄やエッチングに耐え得る化学的耐久性を有していなければならない。
【0012】
また、情報の記録および読み出しの高速化を計るため磁気記録装置の情報磁気記録媒体ディスク基板を高速回転化する事で技術開発が進んでいるが、高速回転化する事で撓みや変形が発生するために、基板材には高い機械的強度が要求されている。加えて、現在の固定型情報磁気記録装置に対し、リムーバブル方式やカード方式等の情報磁気記録装置が検討・実用化段階にあり、デジタルビデオカメラ、デジタルカメラ等への用途展開も始まりつつあるためにこれらの要求はますます高くなっている。
【0013】
ところで、従来の磁気ディスク基板材には、アルミニウム合金が多く使用されているが、アルミニウム合金製基板では、研磨工程において基板表面に突起またはスポット状の凹凸を生じ易く、平坦性・平滑性の点で十分なものが得られ難い。またアルミニウム合金は軟かい材料で変形が生じ易いため、薄型化への対応が困難である。さらに高速回転時の撓みによりヘッドクラッシュを生じ、メディアを損傷させてしまう等の問題点を有しており、今後の高密度記録化に十分対応できる材料ではない。しかも、磁気記録方式で最も重要となる成膜時の耐熱温度が300℃未満であるため、300℃以上で成膜をおこなったり、500〜900℃程度という高温でのアニーリングを行うと、基板が熱変形してしまう。よって、アルミニウム合金製基板はこの様な高温処理を必要とする磁気記録媒体用基板としての適用は困難である。
【0014】
そのようなアルミニウム合金基板の問題点を解消する材料として、高硬度かつ衝撃強度に優れたアモルファスガラス基板、化学強化ガラス基板、結晶化ガラス基板等がある。
アモルファスガラス基板や化学強化ガラス基板としては化学強化したソーダライムガラス(SiO−CaO−NaO)やアルミノシリケートガラス(SiO−Al−NaO)が知られているが、これらの場合、アモルファスガラスのため基板自体の耐熱性が低い。すなわち、これらの基板に磁気記録媒体を300℃以上の高温で成膜した後は平坦度が悪くなるという媒体成膜後の変形の問題がある。また、基板内のアルカリ成分が溶出し、膜にダメージを与える等の問題源となり得る。
【0015】
結晶化ガラス基板はヤング率や硬度において他のアモルファスガラス基板や化学強化ガラス基板よりも優れている反面、衝撃強度やリング曲げ強度については、情報磁気記録装置として実用上必要となる特性を充分満たしているものの、化学強化処理を施されたアモルファスガラス基板より劣っていた。
【0016】
結晶化ガラスは特定組成のアモルファスガラスを加熱することにより内部に結晶を析出させたものであり、アモルファスガラスよりも機械的強度が優れていることで知られているが、さらに強度を向上させるために結晶化ガラスに化学強化処理を施す試みがされている。(例えば、特許文献1〜特許文献9等)。
しかし、近年求められている磁気記録媒体基板用途に好適なものは見出されていない。
【0017】
特許文献1記載のLiO−Al−SiO系の結晶化ガラスは、結晶相としてβ−スポジュメン(β−LiAlSi12)を有し、この結晶相を析出させた上で化学強化処理を行うことによりその強度を高くしているが、その析出結晶は負の熱膨張係数を持つ材料であるため、情報記録媒体基板として好適ではない。また、その用途は反射鏡に限定されている。
【0018】
また、特許文献2記載のNaO−Al−SiO系結晶化ガラス、特許文献3記載のLiO−Al−SiO系の結晶化ガラスは、結晶相として、β−石英(β−SiO)固溶体を有しており、特許文献4及び特許文献5記載のLiO−Al−SiO系の結晶化ガラスは、結晶相として、β−石英(β−SiO)固溶体及び/またはβ−スポジュメン(β−LiAlSi12)を有しているが、その析出結晶は負の熱膨張係数を持つ材料であるため、情報記録媒体基板として好適ではない。また、結晶粒子径、ヤング率、比重に関する議論は何らなされていない。
【0019】
また、特許文献6には、結晶相としてフォルステライト(2MgO/SiO)及び/又はガーナイト(ZnO・Al)の結晶を析出するSiO−NaO−B−Al系結晶化ガラスが紹介されているが、その結晶体積比率は70%以上と高く、研磨後の表面粗度をスムーズにするのが困難である。また、その用途は、建築物や調理器具用トッププレートに限定されている。
【0020】
また、特許文献7には、結晶相として二珪酸リチウム(LiSi)及び/またはスポジュメン(LiAlSi12)のうち少なくとも1種を析出するSiO−LiO−Al系結晶化ガラスおよびLiO−Al−SiO系アモルファスガラスのイオン交換による化学強化基板について記載されているが、結晶化ガラスの化学強化に関する実施例は例示されていない。
【0021】
また特許文献8にはMgO−Al−SiO系結晶化ガラスにおいて、α−石英(α−SiO)とサフイリン(4MgO・5Al・SiO)の混晶または、β−石英(β−ユークリプタイト固溶体)を有しているが、その結晶量は75重量%以上と高く、研磨後の表面粗度をスムーズにするのが困難である。また、後述のヤング率や比重、結晶粒子径、結晶化率に関する議論は何らなされていない。
【0022】
また、特許文献9にはβ−ユークリプタイト(LiO・Al・2SiO)、β−スポデュメン(LiO・Al・4SiO)、ネフェリン((Na,K)AlSiO)、カーネギアイト(NaO・Al・2SiO)、β−石英(β−SiO)からなる群から選んだ結晶相を含む結晶化ガラスの強化について紹介されているが、その析出結晶のうち、β−ユークリプタイト、β−スポデュメンやβ−石英を含有する場合は、負の熱膨張係数を持つ材料であるため、情報記録媒体基板として好適ではない。また、ネフェリンやカーネギアナイトを含有する場合は、化学強化に効果的となりうるリチウムを成分として含有しておらず、かつ、化学強化に590−730℃の高温を必要とするため、情報記録媒体用基板として好適ではない。加えて、後述のヤング率や比重、結晶粒子径、結晶化率に関する議論は何らなされていない。
【特許文献1】特開2005−37906号公報
【特許文献2】特開昭61−286245号公報
【特許文献3】特開平05−70174号公報
【特許文献4】特開昭49−99521号公報
【特許文献5】特開昭59−116150号公報
【特許文献6】特開2006−62929号公報
【特許文献7】特開平10−226532号公報
【特許文献8】特開昭50−38719号公報
【特許文献9】特開昭47−49299号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明の目的は、機械的強度や化学的耐久性に優れた無機組成物物品を提供することであり、特に上記のような磁気情報記録装置の設計改良に対応可能であり、また面内磁気記方式および垂直磁気記録方式のいずれにおいても、高密度記録のためのランプロード方式にも十分対応し得る良好な表面特性を兼ね備え、高速回転化や落下衝撃に耐え得る高強度を有し、各ドライブ部材に合致する熱膨張特性や耐熱性をも兼ね備えた、溶融温度が低く生産性の高い情報記録媒体用ディスク基板用等の無機組成物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意試験研究を重ねた結果、LiO成分と、Al成分を含有し、LiOとAlの質量%比率であるLiO/Alが0.3以上であり、結晶を含有し、表面に圧縮応力層を設けた無機組成物は、上記の目的に鑑みて、従来の無機組成物物品より一段と有利な無機組成物品が得られることを見出し、本発明に至った。また、本発明の無機組成物物品は情報記録装置の高速回転にも対応し得る高強度、モバイル用途に対して優れた耐衝撃特性を有し、さらにドライブ構成部品に容易に合致する熱膨張特性を兼ね備えている点で、従来の情報記録媒体等に用いられる基板に比べて、一段と有利な基板が得られることを見出した。
尚、含有される結晶としては、モノケイ酸リチウム、ジ珪酸リチウム、α−クォーツ、α−クォーツ固溶体、α−クリストバライト、α−クリストバライト固溶体から選ばれる1種または2種以上が好ましい。これらは結晶粒子析出量、結晶化度を制御することで研磨してなる表面が極めて平滑性に優れているものである。特に、本発明の目的を達成する結晶化ガラス等の無機組成物を用いた情報記録媒体用ディスク基板等は、その表面平滑性からランプロード方式に用いるのに好適である。また、前に述べた所望の平均線膨張係数を得るのに特に好適な結晶相でもある。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0025】
(1)酸化物換算においてLiO成分と、Al成分を含有し、LiOとAlの質量%比率であるLiO/Alが0.3以上であり、結晶を含有し、表面に圧縮応力層を設けたことを特徴とする無機組成物物品。
【0026】
(2)結晶相としてモノケイ酸リチウム、ジ珪酸リチウム、α−クォーツ、α−クォーツ固溶体、α−クリストバライト、α−クリストバライト固溶体から選ばれるいずれか一つ以上を含有する(1)に記載の無機組成物物品。
【0027】
(3)前記圧縮応力層は表面層に含まれるイオンよりもイオン半径の大きな陽イオンで置換することにより形成されてなる(1)または(2)に記載の無機組成物物品。
【0028】
(4)前記圧縮応力層は物品の加熱、その後急冷によって形成されたことを特徴とする(1)から(3)いずれかに記載の無機組成物物品。
【0029】
(5)前記圧縮応力層はイオン注入によって形成されたことを特徴とする(1)から(4)いずれかに記載の無機組成物物品。
【0030】
(6)前記結晶相を示す粒子の含有量が質量%で70%以下である(1)から(5)いずれかに記載の無機組成物物品。
【0031】
(7)前記結晶相を示す粒子の平均粒子径が1μm以下である(1)から(6)いずれかに記載物品
【0032】
(8)圧縮応力層を設けた物品の水浴中アルカリ金属イオン溶出量をA、前記圧縮応力層を設ける前の物品の水浴中アルカリ金属イオン溶出量をBとした場合、A/B<1であることを特徴とする(1)から(7)いずれかに記載の無機組成物物品。
【0033】
(9)前記圧縮応力層を設ける前の無機組成物物品の組成は、酸化物換算の質量%で
SiO:50%〜90%、および
LiO:4%を超えて15%以下、および
Al:2%〜20%、
の各成分を含有する(1)から(8)いずれかに記載の無機組成物物品。
【0034】
(10) 前記圧縮応力層を設ける前の無機組成物物品の組成は、酸化物換算の質量%で
MgO:0%〜3%、および/または
ZnO:0%〜10%、および/または
CaO:0%〜7%、および/または
BaO:0%〜7%、および/または
SrO:0%〜7%、および/または
:0%〜3%、および/または
ZrO:0%〜10%、および/または
TiO:0%〜5%、および/または
O:0%〜3%、および/または
NaO:0%〜2%、および/または
Sb成分とAs成分のうち1種以上の合量:0〜2%
の各成分を含有する(9)に記載の無機組成物物品。
【0035】
(11) 前記無機組成物は結晶化ガラスである(1)から10)いずれかに記載の無機組成物物品。
【0036】
(12) 情報記録媒体用結晶化ガラス基板である(1)から(11)いずれかに記載の無機組成物物品。
【0037】
(13)(12)に記載の情報記録媒体用結晶化ガラス基板を用いた情報記録媒体。
【0038】
(14) 電子回路基板である(1)から(11)いずれかに記載の無機組成物物品。
【0039】
(15)(14)に記載の電子回路基板を用いた電子回路。
【0040】
(16) 光フィルタ用基板である(1)から(11)いずれかに記載の無機組成物物品。
【0041】
(17)(16)に記載の光フィルタ用基板に誘電体多層膜が形成されてなる光フィルタ。
【0042】
(18)酸化物換算においてLiO成分と、Al成分を含有し、LiOとAlの質量%比率であるLiO/Alが0.3以上であり、結晶を含有する無機組成物を加熱された化学強化処理液に浸漬し、前記無機組成物中の表面層に含まれるイオンよりもイオン半径の大きな陽イオンで置換する事によって表面に圧縮応力層を設ける事を特徴とする無機組成物物品の製造方法。
【0043】
(19)LiO成分と、Al成分を含有し、LiOとAlの質量%比率であるLiO/Alが0.3以上であり、結晶を含有する無機組成物を加熱後に急冷することによって表面に圧縮応力層を設ける事を特徴とする無機組成物物品の製造方法。
【0044】
(20)LiO成分と、Al成分を含有し、LiOとAlの質量%比率であるLiO/Alが0.3以上であり、結晶を含有する無機組成物にイオン注入を行うことによって表面に圧縮応力層を設ける事を特徴とする無機組成物物品の製造方法。
【0045】
(21)前記無機組成物は結晶相としてモノケイ酸リチウム、ジ珪酸リチウム、α−クォーツ、α−クォーツ固溶体、α−クリストバライト、α−クリストバライト固溶体から選ばれるいずれか一つ以上を含有する事を特徴とする(18)から(20)のいずれかに記載の無機組成物物品の製造方法。
【0046】
(22)前記無機組成物はガラス原料を溶融・急冷して原ガラスを作成し、該原ガラスを450℃〜620℃で熱処理し核形成工程を行い、この核形成工程の後に、620℃〜800℃で熱処理することにより結晶成長工程を行って得られた結晶化ガラスであることを特徴とする(17)から(19)のいずれかに記載の無機組成物物品の製造方法。
【0047】
(23)前記ガラス原料は酸化物換算の質量%で
SiO:50%〜90%、および
LiO:4%を超えて15%以下、および
Al:2%〜20%、
の各成分を含有する(22)に記載の無機組成物物品の製造方法。
【0048】
(24)前記ガラス原料は酸化物換算の質量%で
MgO:0%〜3%、および/または
ZnO:0%〜10%、および/または
CaO:0%〜7%、および/または
BaO:0%〜7%、および/または
SrO:0%〜7%、および/または
:0%〜3%、および/または
ZrO:0%〜10%、および/または
TiO:0%〜5%、および/または
O:0%〜3%、および/または
NaO:0%〜2%、および/または
Sb成分とAs成分のうち1種以上の合量:0〜2%
の各成分を含有する(23)に記載の無機組成物物品の製造方法。
【発明の効果】
【0049】
本発明の無機組成物物品は、情報磁気記録媒体用ディスク基板等の基板に望ましい衝撃強度、リング曲げ強度を圧縮応力層の形成により飛躍的に向上させることができ、高速回転化に耐え得る高い機械的強度、優れた耐衝撃特性を有することになる。加えて、本発明の無機組成物物品の用途として表面の圧縮応力層の形成に伴い、基板からのアルカリイオン溶出抑制が可能となり、かつ、ヘッドと記録媒体の距離を縮小すべく研磨後表面粗度に優れた基板、特に情報記録媒体、電子回路、光フィルタ等に好適な基板を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
次に、本発明の無機組成物物品について、具体的な実施態様について説明する。
【0051】
本発明の無機組成物物品は、酸化物換算においてLiO成分と、Al成分を含有し、LiOとAlの質量%比率であるLiO/Alが0.3以上であり、結晶を含有し、表面に圧縮応力層を設けたものである。
【0052】
表面に圧縮応力層を設ける場合、特に化学強化による圧縮応力を形成する場合はLiO成分が必須となる。また、無機組成物を安定に作成し、イオンの拡散係数を向上させるためにはAl成分が必須である。その上、圧縮応力の形成を容易にし、かつ、衝撃強度を飛躍的に増大させるためには、その質量%比率であるLiO/Alが0.3以上であることが必要であり、より好ましくは0.4以上、最も好ましくは0.6以上である。加えて前記比率が0.3以下ではβ−スポデュメンやβ石英固溶体を析出しやすくなってしまい、これらの結晶が析出した場合は本発明において必要とする無機組成物物品の平均線膨張係数(+50×10−7・℃−1〜+130×10−7・℃−1)を得られにくくなる。一方、比率が大きくなると、すなわちLiO含有量が極度に増加し、かつ、Al成分含有量が低下すると、化学的耐久性が悪化してしまう為、LiO/Alの上限としては5が好ましく、4がより好ましく、3が最も好ましい。
【0053】
次に、圧縮応力層ついて述べる。
本発明の無機組成物物品は表面に圧縮応力層を設けることにより、圧縮応力層を設ける前の無機組成物が有する機械的強度をより向上させる効果を得られるが、無機組成物が結晶を含有することによりその効果がより高くなるのである。
【0054】
圧縮応力層の形成方法としては、例えば圧縮応力層形成前の無機組成物物品の表面層に含まれるイオンよりもイオン半径の大きな陽イオンで置換する化学強化法がある。また、無機組成物物品を加熱し、その後急冷する熱強化法、無機組成物物品の表面層にイオンを注入するイオン注入法がある。
【0055】
化学強化法としては、例えばカリウム又は/もしくはナトリウムを含有する塩、例えば硝酸カリウム(KNO)もしくは硝酸ナトリウム(NaNO)もしくはその複合塩の溶融塩に300〜600℃の温度にて0.5〜12時間浸漬する。これにより、無機組成物物品の表面層(無機組成物が結晶化ガラスであるときは析出している結晶以外の残存ガラス成分の表面層)に存在するリチウムイオン(Li)よりもイオン半径の大きな陽イオンであるカリウムイオン(K)又は/もしくはナトリウムイオン(Na)への交換反応が進行し、無機組成物物品の容積増加が起こり無機組成物物品表層中に圧縮応力が発生し、その結果、衝撃特性の指標であるリング曲げ強度が増加する。
【0056】
熱強化法については特に限定されないが、例えば無機組成物物品を、300℃〜600℃に加熱した後に水冷および/または空冷等の急速冷却を実施することにより、ガラスの表面と内部の温度差によって生じる圧縮応力層も形成することができる。尚、上記化学処理法と組み合わせることにより圧縮応力層をより効果的に形成することができる。
【0057】
イオン注入法については特に限定されないが、例えば、物品表面に任意のイオンを対象となる無機組成物の表面が破壊しない程度の加速エネルギー、加速電圧にて衝突させ、物品表面に所望のイオンを周辺が破壊することなく注入する。その後必要に応じて熱処理を行うことにより、他方法と同様に表層部に圧縮応力層を形成することができる。
【0058】
化学強化法の場合、圧縮応力層形成前の無機組成物物品の表面層に含まれるイオンよりもイオン半径の大きな陽イオンで置換するため、置換されたイオン半径の大きな陽イオンにより表面層に圧縮応力が発生する。例えばリチウムを構成成分として多く含有する材料においては、最表面のリチウムがそれより大きなイオン半径をもつイオン、例えばカリウムイオンやナトリウムイオンに置換されることとなり、その結果、水浴中のアルカリ金属イオンの溶出量が圧縮応力層を設ける前のそれよりも低減されることとなる。これは、情報記録媒体、特に磁性膜のアルカリイオンによる破壊(アルカリマイグレーション)を抑制する点において優れている。
【0059】
本発明の無機組成物物品は圧縮応力層を設けた物品の水浴中アルカリ金属イオン溶出量をA、前記圧縮応力層を設ける前の物品の水浴中アルカリ金属イオン溶出量をBとした場合、A/B<1となり、より好ましい態様においてはA/B<0.9となり、最も好ましい態様においてはA/B<0.8となる。
【0060】
アルカリイオン溶出量の測定は、イオンクロマトグラフィーにより行った。測定条件は、フィルムパックに超純水80ミリリットル(室温)とディスク状の無機組成物(直径約65mm×0.635mm)をパックし、その後約30℃に保温された乾燥機内に3時間保持した後、ディスクを取り出しイオンクロマト測定を行った時に得られるアルカリイオンの総量(μg/disk)である。
【0061】
以下、本発明の無機組成物物品の無機組成物の結晶相を示す粒子の粒子径、表面特性、物理的特性、組成を上記の様に限定した理由について述べる。
【0062】
先ず、結晶相についてであるが、所望の表面粗度を得るためには析出割合が比較的大きく、結晶相が微細な球状粒子形状であるモノ珪酸リチウム(LiSiO)、二珪酸リチウム(LiSi)、α−石英(α−SiO)、α−石英固溶体(α−SiO固溶体)、α−クリストバライト(α−SiO)またはα−クリストバライト固溶体(α−SiO固溶体)のいずれか1種以上を含むものであるのが好ましい。
【0063】
これらの結晶相は例えば原ガラスを熱処理することで析出させる事ができるが、比較的低い熱処理温度で析出されるので、微細な結晶粒子が析出し、表面性、物理的特性にも優れるものを容易に得ることができる。尚、上記のモノ珪酸リチウム(LiSiO)と二珪酸リチウム(LiSi)との結晶相とが共存する結晶化温度領域の中でも比較的低い温度領域では、結晶粒子径が非常に微細であるために、格段と良好な表面粗度、リング曲げ強度を得る事ができ、かつ、強化処理後のリング曲げ強度が格段に優れている。
【0064】
これら結晶相を示す粒子の存在比率は、後述の研磨後の表面粗度の低減や優れた機械的特性を実現しやすくするためには、質量%にてその下限を1%とすることが好ましく、3%とすることがより好ましく、5%とすることがさらに好ましく、その上限を70%とすることが好ましく、69%とすることがより好ましく、68%とすることが最も好ましい。
【0065】
この様態によれば、無機組成物を情報記録媒体用ディスク基板等の基板に成形した際に、研磨後の基板の表面粗度(Ra)の低減や圧縮応力層形成後の基板において優れた機械的特性が実現される。尚、結晶量の定量的取り扱いとして、X線回折装置(フィリップス社製、商品名:X’pert−MPD)で得たX線回折図から回折ピーク面積を求め、検量線を基に含有量を評価した。
【0066】
また、一般的に前記化合物間では、温度範囲により若干変わる可能性はあるが、熱膨張係数の関係にLiSiO<LiSi<α−SiOが成り立つ。この系の原ガラスの平均線膨張係数は+60〜+120(×10−7・℃−1)程度である為、熱膨張係数差の大きいα−SiO等を多く析出させると、結晶と原ガラス間の歪が大きくなり易く、強度への影響を与え易い場合がある。よってLiSiOはα−SiOよりも原ガラスとの熱膨張係数差が小さい点で、より有用な結晶である。
【0067】
無機組成物物品の材料である無機組成物においては、負の平均線膨張係数を有する結晶相が析出すると、無機組成物物品は前述の所望の平均線膨張係数が得られないので、負の平均線膨張係数を有するβ−石英、β−石英固溶体は含まないことが好ましい。また、析出結晶相をより微細なものとし、表面粗度をスムーズなものとするためには、α−トリジマイト、Zn−ペタライトをはじめとするペタライト、ウォラストナイト、フォルステライト、ディオプサイト、ネフェリン、クリノエンスタタイト、アノーサイト、セルシアン、ゲーレナイト、フェルスパー、ウィレマイト、ムライト、コランダム、ランキナイト、ラルナイトおよびこれらの固溶体等を含まないことが好ましく、これらに加えて、良好な機械的強度を維持するためには、Hf−タングステン酸塩やZr−タングステン酸塩をはじめとするタングステン酸塩、チタン酸マグネシウムやチタン酸バリウムやチタン酸マンガンをはじめとするチタン酸塩、ムライト、3ケイ酸2バリウム、Al・5SiOおよびこれらの固溶体等も含まないことが好ましい。
【0068】
次に、表面特性についてであるが、先に述べたように、情報記録媒体の面記録密度向上に伴い、ヘッドの浮上高さが最近では15nm以下となっており、今後は10nm以下からニアコンタクトレコーディング方式或いは完全に接触するコンタクトレコーディング方式の方向に進みつつあり、これに対応するには、ディスク基板等の基板表面の平滑性は従来品よりも良好でなければならない。
【0069】
従来レベルの平滑性で磁気記録媒体への高密度な入出力を行おうとしても、ヘッドと媒体間の距離が大きいため、磁気信号の入出力を行うことができない。またこの距離を小さくしようとすると、媒体(ディスク基板)の突起とヘッドが衝突し、ヘッド破損や媒体破損を引き起こしてしまう。したがって、この著しく低い浮上高さもしくは接触状態でもヘッド破損やディスク基板破損を引き起こさず、且つヘッドと媒体の吸着を生じない様にするため、表面粗度Ra(算術平均粗さ)の上限は、好ましくは10Å以下、より好ましくは5Å以下であり、更に好ましくは4Å以下、最も好ましくは3Å以下である。そして、このような平滑な研磨面を得るためには、無機組成物の結晶粒子の平均粒子径の上限が1μm以下であることが好ましく、より好ましくは200nm以下、最も好ましくは150nm以下である。また、機械的強度および耐熱性を良好なものとするために、無機組成物の結晶粒子の平均粒子径の下限は1nmが好ましい。
【0070】
さらに、微細な結晶粒子を均一に析出させることにより、無機組成物の機械的強度の向上を図ることができる。特に微細なクラックの成長を析出結晶粒子が防止するため、研磨加工時におけるチッピング等による微細な欠けを著しく低減できる。
また、このような微細な結晶を均一に析出させ、かつ、表面に圧縮応力層を形成させることにより無機組成物の機械的強度、とりわけリング曲げ強度を飛躍的に向上させることが可能となる。これらの観点からも結晶粒子の平均粒子径の範囲は上記の範囲が好ましい。
【0071】
このため、例えば、磁気記録媒体用ディスク基板等の基板とした場合、面記録密度を大きくすることができ、記録密度の向上するために基板自体を高回転化しても、撓みや変形が発生することがなく、この回転による振動が低減され、振動や撓みによるデータ読み取りのエラー数(TMR)を低下させることになる。その上、耐衝撃特性に優れているため、特にモバイル用途等の情報記録媒体としてヘッドクラッシュ、基板の破壊に対し優れた安定動作性を示すこととなる。ここで、結晶相を示す粒子とは、結晶相を構成する粒子であって、結晶質の粒子および非晶質の粒子を含むものとする。
【0072】
ここで、前記結晶粒子の平均粒子径とは、透過型電子顕微鏡(TEM)像により測定した面積基準の粒子径の中央累積値(「メジアン径」d50)をいう。また、リング曲げ強度とは、直径が65mmで厚み0.635mm程度の薄い円板状試料を作成し、円形の支持リングと荷重リングにより該円板状試料の面内強度を測定する同心円曲げ法で測定した曲げ強度をいう。
【0073】
次に、リング曲げ強度および比重について述べる。前記のように、記録密度およびデータ転送速度を向上するために、情報記録媒体ディスク基板の高速回転化傾向が進行しているが、この傾向に対応するには、基板材は高速回転時の撓みによるディスク振動を防止すべく、高剛性、低比重でなければならない。また、ヘッドの接触やリムーバブル記録装置のような携帯型の記録装置に用いた場合においては、それに十分耐え得る機械的強度、高ヤング率、表面硬度を有する事が必要になり、具体的には、表面に圧縮応力層を形成した後の曲げ強度で400MPa以上、ヤング率で80GPa以上であることが好ましい。
【0074】
ところが、単に高剛性であっても比重が大きければ、高速回転時にその重量が大きいことによって撓みが生じ、振動を発生する。逆に低比重でも剛性が小さければ、同様に振動が発生することになる。その一方で比重を低くし過ぎると、結果として所望の機械的強度を得ることが難しくなる。したがって、高剛性でありながら低比重という一見相反する特性のバランスを取らなければならず、その好ましい範囲はヤング率(GPa)/比重で30以上であり、より好ましい範囲は33以上であり、最も好ましい範囲は35以上である。また、比重についても、例え高剛性であっても2.7以下である必要があるが、2.2を下回ると、所望の剛性を有する基板は実質上得難いことになる。
【0075】
また、平均線膨張係数についてであるが、記録密度の向上に伴って、磁気ヘッドと媒体のポジショニングに高精度を要するため、媒体基板やディスクの各構成部品には高い寸法精度が要求される。このためこれら構成部品との熱膨脹係数の差の影響も無視できなくなるので、これらの平均線膨張係数差を極力少なくしなければならない。特に小型の磁気情報記録媒体に使用される構成部品の熱膨脹係数は、25〜100℃の範囲において、+90〜+100(×10−7・℃−1)程度のものが良く用いられており、基板もこの程度の熱膨脹係数が必要とされるが、ドライブメーカーによってはこの範囲からはずれた熱膨脹係数(+70前後〜+125前後(×10−7・℃−1)を有する材料を構成部品に用いることもある。以上のような理由により、本発明の無機組成物の結晶系で強度との兼ね合いを図りながら、用いる構成部品の材質に広く対応し得るよう、25〜100℃の範囲において、平均線膨張係数が下限で+50(×10−7・℃−1)以上であり、上限が+130(×10−7・℃−1)以下であるのが好ましい。
【0076】
本発明の無機組成物物品は、研磨後に平滑な面を得られやすく、表面に圧縮応力層を形成した場合に、高い機械的強度が得られやすいという点から結晶化ガラスであることが好ましい。
【0077】
次に、無機組成物の組成範囲ついて以下に述べる。尚、無機組成物の組成の各成分は酸化物換算の質量%にて表現する。
【0078】
ここで、「酸化物換算の質量%」とは、本発明の無機組成物構成成分の原料として使用される酸化物、硝酸塩等が溶融時にすべて分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、この生成酸化物の質量の総和を100質量%として、無機組成物中に含有される各成分を表記した組成である。
【0079】
本発明の無機組成物は、例えば、特定の組成を有するガラス原料を溶解し、成形、徐冷を行った後、さらに熱処理を行って製造される。
【0080】
SiO成分は、熱処理により、結晶相として析出するモノケイ酸リチウム、ジ珪酸リチウム、α−クォーツ、α−クォーツ固溶体、α−クリストバライト、α−クリストバライト固溶体を生成する極めて有用な成分であるが、その量が50%未満では、得られた無機組成物の析出結晶が不安定で組織が粗大化し易く、また90%を超えると熱処理する前の無機組成物(原無機組成物と称する)の溶融・成形性が困難になり易いので、その下限を50%とすることが好ましく、55%とすることがより好ましく、60%とすることが最も好ましく、その上限を90%とすることが好ましく、85%とすることがより好ましく、82%とすることが最も好ましい。
【0081】
LiO成分は、原無機組成物の熱処理により結晶相として析出するモノ珪酸リチウム(LiSiO)および二珪酸リチウム(LiSi)を生成する極めて重要な成分であるが、その量が4%以下では、上記結晶の析出が困難となり易くなると共に、原無機組成物の溶融が困難となり易く、また15%を超えると得られる結晶が不安定で組織が粗大化し易い上、化学的耐久性も低下し易いので、その下限を4%より多くすることが好ましく、5%とすることがより好ましく、5.5%とすることが最も好ましく、その上限を15%とすることが好ましく、14%とすることがより好ましく、13%とすることが最も好ましい。
【0082】
Al成分は、無機組成物の化学的耐久性および機械的硬度を向上させるのに好適である。熱処理条件によって析出結晶の種類は異なってくるが、各種熱処理条件を考慮にいれても、モノ珪酸リチウム(LiSiO)および二珪酸リチウム(LiSi)をAlが固溶することなく析出させるためには、Alの上限を20%とすることが好ましく、15%とすることがより好ましく、10%とすることが最も好ましい。また、無機組成物の化学的耐久性を良好なものとするためには、Al成分の下限を2%とすることが好ましく、2.5%とすることがより好ましく、3%とすることが最も好ましい。
【0083】
MgO、CaO、BaO、SrO、ZnO成分は、無機組成物の溶融性を向上させると同時に析出結晶の粗大化を防止する任意成分であり、さらに結晶相としてモノケイ酸リチウム、ジ珪酸リチウム、α−クォーツ、α−クォーツ固溶体、α−クリストバライト、α−クリストバライト固溶体の各結晶粒子を球状に析出させることに効果的であるが、過剰に含まれると、得られる結晶が不安定で組織が粗大化し易く、そのためにMgO成分は3%以下、より好ましくは2.8%以下、最も好ましくは2.5%以下である。また、CaO成分は7%以下、より好ましくは5%以下、最も好ましくは3%以下である。BaO成分は7%以下、より好ましくは6%以下、最も好ましくは5%以下である。また、SrO成分は7%以下、より好ましくは6%以下、最も好ましくは5%以下である。また、ZnO成分は10%以下、より好ましくは8.5%以下、最も好ましくは7%以下である。
【0084】
成分は本発明において、無機組成物の結晶核形成剤として作用する有用な成分であり、任意で添加できる。その量が3%を超えると原無機組成物の乳白失透を生じるので、3%以下であるのが好ましい。尚、1%未満では結晶核形成が不十分で析出結晶相を異常成長させやすい場合があるので、その上限を3%とすることが好ましく、その下限を1%とすることがより好ましい範囲である。
【0085】
ZrO成分はP成分と同様に無機組成物の結晶核形成剤として機能する上に、析出結晶の微細化と材料の機械的強度の向上および化学的耐久性の向上に顕著な効果を有する有用な成分であり、任意で添加できる。前記成分は10%を超えると原無機組成物の溶融が困難となり易いので、10%以下が好ましい。より好ましくは6.5%以下であり、最も好ましくは6.0%である。
【0086】
TiO成分は、ZrO成分やP成分と同様に無機組成物の結晶核形成剤として機能する上に、析出結晶の微細化と材料の機械的強度の向上および化学的耐久性の向上に顕著な効果を有する有用な成分であり任意で添加できる。前記成分は5%を超えると原無機組成物の溶融が困難となり易いので、5%以下が好ましい。より好ましくは4.8%以下であり、最も好ましくは4.5%である。
【0087】
また、所望の結晶を析出させるためには、上記のP成分、ZrO成分、またはTiO成分のいずれか1種以上の合量が1%以上であることが好ましく、1.5%以上であることがより好ましく、2%以上であることが最も好ましい。
【0088】
O成分は、無機組成物の溶融性を向上させると共に、析出結晶の粗大化を防止する任意成分であるが、それらの効果を得やすくするためにはその量は3.0%以下、より好ましくは2.8%以下であり、最も好ましくは2.6%以下である。
【0089】
尚、NaO成分は、無機組成物の溶融性を向上させる任意成分であるが、過剰に含有すると析出結晶相の増大や析出結晶相の変化を引き起こしやすい。そのため、上記特性を損なわない範囲で含有させることができ、その量の上限は2.0%以下、より好ましくは1.5%以下、最も好ましくは1.0%以下である。
【0090】
Sb成分、As成分は無機組成物溶融の際の清澄剤として添加するが、清澄剤としての効果を得るためには、それらの成分の1成分以上の和は2.0%以下、より好ましくは1.8%以下、最も好ましくは1.5%以下である。
【0091】
成分、WO成分、La成分、Bi成分は、無機組成物の溶融性を向上させると共に、ガラスの高ヤング率化を促進する成分であり任意で添加出来る。所望の結晶を得やすくするためには、これらの成分の各々の含有量の上限は3.0%以下、より好ましくは2.8%以下、最も好ましくは2.5%以下である。
【0092】
また、PbO成分は、環境上好ましくない成分であるので、使用は極力避ける方が好ましい。
【0093】
また、V,Cu,Mn,Cr,Co,Mo,Ni,Fe,Te,Ce,Pr,Nd,Erの金属酸化物からなる成分はガラスを着色させ、また他の特性を損なう可能性があるため実質的には含まないことが好ましい。
【0094】
次に、本発明の無機組成物を製造するには、まず上記の組成を有する原料を溶解し、熱間成形および/または冷間加工を行った後、結晶化を行う、すなわち下限を450℃、好ましくは480℃、さらに好ましくは520℃以上とし、上限を620℃、好ましくは580℃、さらに好ましくは560℃とする温度の範囲で約1〜20時間熱処理して結晶核を形成し、続いて下限を620℃以上、上限を800℃、好ましくは750℃、さらに好ましくは685℃とする温度の範囲で、かつ前記結晶核の形成の熱処理温度より高い温度で約0.5〜10時間熱処理して結晶成長を促進させる。
【0095】
このとき結晶核形成温度について、450℃以下になると核が形成しないため結晶化が始まらず、620℃以上になると核形成以外に結晶成長も同時に起こるため結晶化の制御ができなくなる。また結晶成長工程の温度が620℃より低下すると、好ましい平均線膨張係数を持つ結晶まで成長しにくく、さらに800℃以上になると低膨張の性質を持つ結晶が析出してしまう。
【0096】
こうして熱処理により結晶化された無機組成物の結晶相は、モノケイ酸リチウム、ジ珪酸リチウム、α−クォーツ、α−クォーツ固溶体、α−クリストバライト、α−クリストバライト固溶体から選ばれる1種以上であって、平均粒子径は1μm以下、より好ましくは150nm以下、さらに好ましくは1nm以上150nm以下であり、微細な結晶が均一に析出し、情報磁気記録用ディスク基板として適用できる表面粗度、機械的強度に優れている。
【0097】
そして、この熱処理結晶化した無機組成物は、圧縮応力形成前のリング曲げ強度が300MPa以上の機械的強度と、25〜100℃の温度範囲における平均線膨張係数が下限が+50(×10−7・℃−1)以上であり、上限が+130(×10−7・℃−1)以下、好ましくは+120(×10−7・℃−1)以下を有するものとなる。また、ヤング率が80GPa以上、比重が2.7以下である。
また、この熱処理結晶化した無機組成物からなる基板を常法によりラッピングした後、ポリシングすることにより、表面粗度Ra(算術平均粗さ)が10Å以下、より好ましくは5Å以下、さらに好ましくは4Å以下、最も好ましくは3Å以下という平滑な表面性が得られる。これらの物性は磁気記録媒体用ディスク基板等の用途として好ましいものである。従って、磁気記録媒体用ディスク基板、電子回路基板、光ディスク基板材料が得られる。そして、このディスク基板材料上に磁性膜および必要に応じてNi−Pメッキ、または下地層、保護層、潤滑膜等を形成して、高密度記録に対応し得る情報磁気記録媒体ディスクが得られる。また、光フィルタ基板材料上に誘電体多層膜を形成して光フィルタが得られる。





【実施例】
【0098】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定
されるものではない。
【0099】
[無機組成物A〜Lおよび無機組成物(比較例)M]
本発明の無機組成物である結晶化ガラスの無機組成物A〜Lおよび無機組成物(比較例)Mの結晶化ガラスについて、成分組成の割合、結晶化ガラスの核形成温度、結晶化温度、結晶相、結晶化度、平均結晶粒子径、比重、ヤング率、ビッカーズ硬度、平均線膨張係数、アルカリイオン溶出量の値を表1から表3に示した。比重はアルキメデス法、ヤング率は超音波法、ビッカーズ硬度はJIS R1610により、平均線膨張係数はJOGIS(日本光学硝子工業会規格)16−2003光学ガラスの常温付近の平均線膨張係数の測定方法に則り、温度範囲を25℃から100℃の範囲に換えて測定した。
【0100】
無機組成物A〜Lの結晶化ガラスはいずれも、無機組成物が酸化物換算で表1に示す組成となるように酸化物、炭酸塩、硝酸塩等の原料を混合し、これを通常の溶解装置を用いて約1200〜1550℃の温度で溶解し攪拌均質化した後、ディスク状に成形して、冷却し、ガラス成形体を得た。尚、無機組成物Mの結晶化ガラスは、無機組成物が酸化物換算で表1に示す組成となるように酸化物、炭酸塩、硝酸塩等の原料を混合し、これを通常の溶解装置を用いて約1400〜1600℃の温度で溶解し攪拌均質化した後、ディスク状に成形して、冷却し、ガラス成形体を得た。
【0101】
その後、このガラス成形体を表1に示す核形成条件および結晶化条件で熱処理して結晶化し、所望の結晶化ガラスを得た。次いで、この結晶化ガラスを#800〜#2000のダイヤモンドペレットにて約1〜20分ラッピングし、その後、平均粒子径3μm以下の研磨剤(酸化セリウム)にて約10〜120分間研磨して仕上げた。
【0102】
得られた各結晶化ガラスの結晶相を示す粒子の平均粒子径については透過型電子顕微鏡
(TEM)により求めた。また、各結晶粒子の結晶種はXRD解析により同定した。
【0103】
その後得られた無機組成物A〜Lおよび無機組成物Mの無機組成物物品の基板表面に条件を換えて圧縮応力層を設けた。方法としては、カリウム又は/もしくはナトリウムを含有する塩、例えば硝酸カリウム(KNO)もしくは硝酸ナトリウム(NaNO)もしくはその複合塩の溶融塩に300〜600℃の温度にて0.5〜12時間浸漬した。
【0104】
表4から表5に実施例1から38、比較例1から12として、圧縮応力形成条件(各種溶融塩の種類、浸漬温度、浸漬時間)と共に、リング曲げ強度、圧縮層形成前のリング曲げ強度r1と圧縮応力層形成後のリング曲げ強度r2の比率であるr2/r1を示した。
【0105】
リング曲げ強度については、直径が65mmで厚み0.635mmの薄い円板状試料を作成し、直径59mmの円形の支持リングと直径26mmの荷重リングにより円板状試料の面内強度を測定する同心円曲げ法により、破壊荷重を求め、ディスクの内径・外径・板厚・ポアソン比・破壊荷重から以下の式1により算出した。
【0106】
【数1】

(式1)
ここで、Pは破壊荷重、aはディスクの外径、bはディスクの内径、hは板厚、νはポア
ソン比である。
【0107】
析出結晶相や結晶化率(結晶相を示す粒子の存在比率)はX線回折装置(フィリップス
社製、商品名:X’Pert−MPD)および走査型電子顕微鏡観察装置とエネルギー分散型分析装置(日立製作所社製、商品名:S−4000N、堀場製作所社製、商品名:EX420)で同定した。


































【0108】
【表1】




【0109】
【表2】




【0110】
【表3】





【0111】
【表4】















【0112】
【表5】


















【0113】
表1から表3に示されるとおり、本発明の無機組成物A〜Lおよび比較となる無機組成物MとではLiO/Alの比率、結晶相、結晶化度および結晶相を示す粒子の平均粒子径が異なる。
無機組成物A〜Cの結晶化ガラスは結晶相がモノケイ酸リチウム、ジ珪酸リチウム、α−クォーツから選択される1種もしくは2種以上であり、平均結晶粒子径は0.01μm以上0.15μm以下で、いずれも微細で概略球状である。
また、無機組成物D〜Iの結晶化ガラスは結晶相がα−クォーツ、α−クォーツ固溶体、α−クリストバライト、α−クリストバライト固溶体から選択される1種もしくは2種以上であり、平均結晶粒子径は0.05μm以下で、いずれも微細で概略球状である。
無機組成物J〜Lの結晶化ガラスは結晶相が、ジ珪酸リチウム、α−クォーツから選択される1種もしくは2種以上であり、平均結晶粒子径は0.15μm以下で、いずれも微細で概略球状である。一方、無機組成物Mの結晶化ガラスの結晶相はβ−石英固溶体であり、平均結晶粒子径は0.06μmと、いずれも微細で概略球状である。
【0114】
表4、表5に示されるとおり、実施例1〜37および比較例1〜13のうち、実施例1〜37におけるリング曲げ強度は比較例1〜11よりも全て高いリング曲げ強度を示している。
【0115】
尚、圧縮応力層形成条件として溶融塩として硝酸カリウム(KNO)を用い、450℃、12hrの条件にて条件固定し基板を浸漬した場合、比較例13のリング曲げ強度r2と比較例12のリング曲げ強度r1の比であるr2/r1は1.4と2倍にも満たない。これは、比較例MのLiO/Alの比率が0.17と低いため、イオン交換がうまく進行しないこと、結晶化度が70%と高く結晶化ガラスに存在するアモルファスガラスの比率が少ないためである。
【0116】
一方、他実施例における同様の圧縮応力層形成条件により得られた比は少なくとも3倍以上と劇的な効果を示した。その中でも、表4の実施例Aに圧縮応力層を設けた実施例4においてリング曲げ強度は3480GPaと本実施例の中で最も高い結果を示した。また、実施例表4の比較例1と上記浸漬条件と同一である実施例4のリング曲げ強度比r2/r1は7.0であった。これは、実施例AのLiO/Alの比率が1.41であること、結晶化度が6.3%と低く、結晶化ガラスに存在するアモルファスガラスの比率が多いことに起因している。
【0117】
次に、溶融塩の種類を変更した場合溶融塩の種類は、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムと硝酸ナトリウムの1:1比率混合(溶液の体積比)を選択、実施した。
どの種類においてもイオン交換がうまく進行し、圧縮応力層の形成を行うことが出来たが、実施例1〜24の結果より、同一組成においても結晶化度の低い方が、溶融塩として硝酸カリウムを使用した場合のリング曲げ強度の値が高く、逆に結晶化度の高い実施例Cに圧縮応力層を形成した実施例17〜24においては溶融塩として硝酸ナトリウムを使用した場合の方がリング曲げ強度の値が高い結果となった。
【0118】
これは、結晶化度が低い場合はリチウムイオンとカリウムイオンの置換の際に障壁となりうる結晶粒子の比率が少ないため、容易にイオン交換がしやすい反面、結晶化度が高くなった場合はリチウムイオンとカリウムイオンの置換の際に障壁となる結晶粒子の比率が多くなるため、容易に置換しにくくなる傾向がリング曲げ強度に端的に現れたものと考えられる。そのため、カリウムイオンよりもイオン半径の小さなナトリウムイオンを含有する溶融塩の方が、結晶化度がある程度高い、この場合は結晶化度約10%を境にナトリウムイオンを含有する溶融塩を使用した方が短時間の圧縮応力層の形成に向いていることが分かる。
【0119】
しかしながら、アルカリ溶出の低減に着目して考えた場合は、イオン交換によりリチウムイオンがカリウムイオンおよび/またはナトリウムイオンに置換されるが、カリウムよりもイオン半径の小さなナトリウムイオンの方がアルカリ溶出の速度は早いため、リング曲げ強度の向上と低アルカリ溶出の両面について考慮した場合はカリウムイオンを含有する溶融塩を使用する方がより好ましい。
【0120】
さらに、溶融塩の種類を硝酸カリウム(KNO)とし、浸漬時間を0.5時間に固定した場合の浸漬温度とリング曲げ強度の関係を調べた結果、どの実施例においても350℃条件よりも450℃条件の方が格段に強いリング曲げ強度を示し、550℃条件においてもほぼ450℃と同等ないし高いリング曲げ強度を示すことがわかる。一般にアモルファスガラスのイオン交換時の浸漬温度の上限はガラス転移温度(Tg)より低い温度が最高温度となるため、400℃〜500℃の間が一般的であるが、上記実施例の結果より、結晶化ガラスは耐熱性が高くアモルファスガラスより高い温度で溶融塩に浸漬することができるため、450℃で浸漬した時のリング曲げ強度と同様の強度を得るために、浸漬温度を450℃よりも高い温度に設定することで浸漬時間をより短くすることができると予測できる。
【0121】
化学強化処理に伴うイオン交換の深さについては、SEM/EDX観察により表層部のカリウムイオンの量またはもしくはナトリウムイオンの有無を調べることができ、その結果、本実施例において5〜20μmの深さまでイオン交換が進行していた。尚、当観察には、走査型電子顕微鏡およびエネルギー分散型分析装置(日立製作所社製、商品名:S−4000N、堀場製作所社製、商品名:EX420)を用いた。
【0122】
また、上記の実施例により得られた基板に、DCスパッタ法により、Cr中間層(80nm)、Co−Cr磁性層(50nm)、SiC保護膜(10nm)を成膜した。
【0123】
次いで、パーフルオロポリエーテル系潤滑剤(5nm)を塗布して、情報磁気記録媒体を得た。
【0124】
これによって得られた情報磁気記録媒体は、その良好な表面粗度により、従来よりもヘッド浮上高さを低減することができ、またランプローディング方式によって、ヘッドと媒体が接触状態での入出力を行っても、ヘッド破損・媒体破損を生じることなく磁気信号の入出力を行うことができた。さらに本発明の無機組成物物品からなる情報磁気記録媒体用基板は、ランディングゾーン方式にて行われるレーザーテクスチャーにおいても安定したバンプ形状を示すものである。
【0125】
[実施例39]
また上記無機組成物Lの結晶化ガラスをラッピングした後、ポリシングし、実施例38と同様の条件でイオン交換後、洗浄して得られた結晶化ガラス基板に、TiO/SiO、Ta/SiO、Nb/SiOの多層膜をそれぞれ成膜して干渉型光フィルターを作製した。この干渉型光フィルタは中心波長の温度安定性が非常に良好なものであり、光通信用のバンドパスフィルターとして非常に良好なものであった。
【0126】
[実施例40]
また上記無機組成物Cの結晶化ガラスをラッピングした後、ポリシングし、実施例18と同様の条件でイオン交換後、洗浄して得られた結晶化ガラス基板に感光性樹脂層を塗布またはラミネートにより形成し、そこに、所望のパターン像が描かれたマスクを密着させ感光性樹脂が感度を持つ波長の電磁波を照射する。その後、所定の現像液で、ポジ型感光性樹脂であれば感光部をネガ型感光性樹脂であれば未露光部を露出させ、所望の回路の像を基板上に形成する。それをマスク材として、ドライプロセスより結晶化ガラス基板上にパターンを形成することができた。これは、バイオチップやパターンドメディア、ディスプレイ用基板などの電子回路基板として有望である。














































【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明の無機組成物物品は、今後の磁気記録方式による高記録密度化、特に垂直磁気記録方式による高記録密度化に対応し得るために必要とされる、優れた耐熱特性と衝撃特性、機械的強度を有し、成膜の際、膜材の結晶配向性を良くするために必要となる超平滑表面を達成し、アルカリマイグレーションの少ない各種基板を提供することができる。これにより、HDD向け垂直磁気記録媒体用基板としての用途として好適であるのみならず、その他、情報記録媒体用基板、電子回路基板、光フィルタ用基板、光フィルタ用基板に誘電体多層膜が形成されている光フィルタとしても使用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物換算においてLiO成分と、Al成分を含有し、LiOとAlの質量%比率であるLiO/Alが0.3以上であり、結晶を含有し、表面に圧縮応力層を設けたことを特徴とする無機組成物物品。
【請求項2】
結晶相としてモノケイ酸リチウム、ジ珪酸リチウム、α−クォーツ、α−クォーツ固溶体、α−クリストバライト、α−クリストバライト固溶体から選ばれるいずれか一つ以上を含有する請求項1に記載の無機組成物物品。
【請求項3】
前記圧縮応力層は表面層に含まれるイオンよりもイオン半径の大きな陽イオンで置換することにより形成されてなる請求項1または2に記載の無機組成物物品。
【請求項4】
前記圧縮応力層は物品の加熱、その後急冷によって形成されたことを特徴とする請求項1から3いずれかに記載の無機組成物物品。
【請求項5】
前記圧縮応力層はイオン注入によって形成されたことを特徴とする請求項1から4いずれかに記載の無機組成物物品。
【請求項6】
前記結晶相を示す粒子の含有量が質量%で70%以下である請求項1から5いずれかに記載の無機組成物物品。
【請求項7】
前記結晶相を示す粒子の平均粒子径が1μm以下である請求項1から6いずれかに記載物品
【請求項8】
圧縮応力層を設けた物品の水浴中アルカリ金属イオン溶出量をA、前記圧縮応力層を設ける前の物品の水浴中アルカリ金属イオン溶出量をBとした場合、A/B<1であることを特徴とする請求項1から7いずれかに記載の無機組成物物品。
【請求項9】
前記圧縮応力層を設ける前の無機組成物物品の組成は、酸化物換算の質量%で
SiO:50%〜90%、および
LiO:4%を超えて15%以下、および
Al:2%〜20%、
の各成分を含有する請求項1から8いずれかに記載の無機組成物物品。
【請求項10】
前記圧縮応力層を設ける前の無機組成物物品の組成は、酸化物換算の質量%で
MgO:0%〜3%、および/または
ZnO:0%〜10%、および/または
CaO:0%〜7%、および/または
BaO:0%〜7%、および/または
SrO:0%〜7%、および/または
:0%〜3%、および/または
ZrO:0%〜10%、および/または
TiO:0%〜5%、および/または
O:0%〜3%、および/または
NaO:0%〜2%、および/または
Sb成分とAs成分のうち1種以上の合量:0%〜2%
の各成分を含有する請求項9に記載の無機組成物物品。
【請求項11】
前記無機組成物は結晶化ガラスである請求項1から10いずれかに記載の無機組成物物品。
【請求項12】
情報記録媒体用結晶化ガラス基板である請求項1から11いずれかに記載の無機組成物物品。
【請求項13】
請求項12に記載の情報記録媒体用結晶化ガラス基板を用いた情報記録媒体。
【請求項14】
電子回路基板である請求項1から11いずれかに記載の無機組成物物品。
【請求項15】
請求項14に記載の電子回路基板を用いた電子回路。
【請求項16】
光フィルタ用基板である請求項1から11いずれかに記載の無機組成物物品。
【請求項17】
請求項16に記載の光フィルタ用基板に誘電体多層膜が形成されてなる光フィルタ。
【請求項18】
酸化物換算においてLiO成分と、Al成分を含有し、LiOとAlの質量%比率であるLiO/Alが0.3以上であり、結晶を含有する無機組成物を加熱された化学強化処理液に浸漬し、前記無機組成物中の表面層に含まれるイオンよりもイオン半径の大きな陽イオンで置換する事によって表面に圧縮応力層を設ける事を特徴とする無機組成物物品の製造方法。
【請求項19】
LiO成分と、Al成分を含有し、LiOとAlの質量%比率であるLiO/Alが0.3以上であり、結晶を含有する無機組成物を加熱後に急冷することによって表面に圧縮応力層を設ける事を特徴とする無機組成物物品の製造方法。
【請求項20】
LiO成分と、Al成分を含有し、LiOとAlの質量%比率であるLiO/Alが0.3以上であり、結晶を含有する無機組成物にイオン注入を行うことによって表面に圧縮応力層を設ける事を特徴とする無機組成物物品の製造方法。
【請求項21】
前記無機組成物は結晶相としてモノケイ酸リチウム、ジ珪酸リチウム、α−クォーツ、α−クォーツ固溶体、α−クリストバライト、α−クリストバライト固溶体から選ばれるいずれか一つ以上を含有する事を特徴とする請求項18から20のいずれかに記載の無機組成物物品の製造方法。
【請求項22】
前記無機組成物はガラス原料を溶融・急冷して原ガラスを作成し、該原ガラスを450℃〜620℃で熱処理し核形成工程を行い、この核形成工程の後に、620℃〜800℃の範囲で核形成工程より高い温度で熱処理することにより結晶成長工程を行って得られた結晶化ガラスであることを特徴とする請求項17から19のいずれかに記載の無機組成物物品の製造方法。
【請求項23】
前記ガラス原料は酸化物換算の質量%で
SiO:50%〜90%、および
LiO:4%を超えて15%以下、および
Al:2%〜20%、
の各成分を含有する請求項22に記載の無機組成物物品の製造方法。
【請求項24】
前記ガラス原料は酸化物換算の質量%で、
MgO:0%〜3%、および/または
ZnO:0%〜10%、および/または
CaO:0%〜7%、および/または
BaO:0%〜7%、および/または
SrO:0%〜7%、および/または
:0%〜3%、および/または
ZrO:0%〜10%、および/または
TiO:0%〜5%、および/または
O:0%〜3%、および/または
NaO:0%〜2%、および/または
Sb成分とAs成分のうち1種以上の合量:0%〜2%
の各成分を含有する請求項23に記載の無機組成物物品の製造方法。

【公開番号】特開2008−254984(P2008−254984A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−101180(P2007−101180)
【出願日】平成19年4月6日(2007.4.6)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】