説明

無端ベルトの製造方法

【課題】金型からの樹脂皮膜の抜き取りを容易に行なうことにある。
【解決手段】円筒形状の金型1の外周面の一部に、金型1に対して非接着性の被覆用膜部材11を固定部材161によって固定して、金型1の外周面の一部を被覆用膜部材11で被覆する被覆工程と、被覆用膜部材11の一部を覆うよう、金型1の外周面に樹脂材料を塗布する塗布工程と、樹脂材料を硬化させて樹脂皮膜を形成する硬化工程と、金型1と被覆用膜部材11との間隙に気体を挿入して、金型1から樹脂皮膜を抜き取る抜き取り工程と、を用いて樹脂皮膜を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無端ベルトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置において、感光体、帯電体、転写体、及び定着体等に、プラスチック製フィルムからなるベルトが用いられる場合、継ぎ目のない無端ベルトが好ましい。尚、その材料としては、ポリイミド樹脂やポリアミドイミド樹脂が好ましい。
【0003】
ポリイミド樹脂の無端ベルトの製造方法として、円筒形状の金型の表面に、ポリイミド前駆体溶液(樹脂材料)を塗布して塗布膜を形成し、該塗布膜を乾燥、加熱反応させてポリイミド樹脂皮膜(無端ベルト)を形成した後、ポリイミド樹脂皮膜を金型から剥離する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この際、金型の軸方向端部にまで塗布膜を形成すると金型の軸方向端部に塗布膜がこびりつくため、加熱後の樹脂皮膜を容易に引き抜く観点から、金型と樹脂皮膜との間隙に加圧空気を吹き込む方法が模索されている。
例えば、金型の両端部外周にマスキング部材(具体的には粘着テープ等)を設けた状態で樹脂材料の塗布を行って塗布膜を形成し、該塗布膜を加熱乾燥して樹脂皮膜を形成した後、両端部の樹脂被膜と共に前記マスキング部材(粘着テープ等)を剥離し、該剥離によって形成される金型と樹脂皮膜との間隙に加圧空気を吹き込みながら、金型から樹脂皮膜を抜き取る方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−273919号公報
【特許文献2】特開2006−218844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、非接着性の被覆用膜部材を用いない場合および/または金型の外周面と非接着性の被覆用膜部材との間隙に気体を挿入しない場合に比べ、金型からの樹脂皮膜の抜き取りを容易に行なうことにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、以下の本発明によって達成される。
即ち、請求項1に係る発明は、円筒形状の金型の外周面の一部に、前記金型に対して非接着性の被覆用膜部材を固定部材によって固定して、前記金型の外周面の一部を前記被覆用膜部材で被覆する被覆工程と、前記被覆用膜部材の一部を覆うよう、前記金型の外周面に樹脂材料を塗布する塗布工程と、前記樹脂材料を硬化させて樹脂皮膜を形成する硬化工程と、前記金型の外周面と前記被覆用膜部材との間隙に気体を挿入して、前記金型から前記樹脂皮膜を抜き取る抜き取り工程と、を備える無端ベルトの製造方法である。
【0008】
請求項2に係る発明は、前記被覆用膜部材は、前記金型の外周面の周方向の一部を被覆する請求項1に記載の無端ベルトの製造方法である。
【0009】
請求項3に係る発明は、前記抜き取り工程において、前記被覆用膜部材の前記樹脂皮膜で覆われていない領域における前記金型の周方向側から、前記金型の外周面と前記被覆用膜部材との間隙に気体が吹き込まれるよう、前記固定部材によって前記被覆用膜部材が固定されている請求項2に記載の無端ベルトの製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明によれば、非接着性の被覆用膜部材を用いない場合および/または金型の外周面と非接着性の被覆用膜部材との間隙に気体を挿入しない場合に比べ、金型からの樹脂皮膜の抜き取りが容易に行なわれる。
【0011】
請求項2に係る発明によれば、被覆用膜部材が金型の外周面の周方向の全部を被覆する場合に比べ、樹脂材料による汚染が生じる領域が縮小される。
【0012】
請求項3に係る発明によれば、被覆用膜部材の樹脂皮膜で覆われていない領域における金型の周方向側から、金型の外周面と被覆用膜部材との間隙に気体が吹き込まれるよう、固定部材によって被覆用膜部材が固定されていない場合に比べ、金型からの樹脂皮膜の抜き取りが容易に行なわれる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1の実施形態に係る無端ベルトの製造方法において、被覆用膜部材でその一部が被覆された金型を示す概略図である。
【図2】第1の実施形態に係る無端ベルトの製造方法において、被覆用膜部材でその一部が被覆された金型を示す他の態様の概略図である。
【図3】第2の実施形態に係る無端ベルトの製造方法において、被覆用膜部材でその一部が被覆された金型を示す概略図である。
【図4】第2の実施形態に係る無端ベルトの製造方法において、被覆用膜部材でその一部が被覆された金型を示す他の態様の概略図である。
【図5】第3の実施形態に係る無端ベルトの製造方法において、被覆用膜部材でその一部が被覆された金型を示す概略図である。
【図6】第3の実施形態に係る無端ベルトの製造方法において、被覆用膜部材でその一部が被覆された金型を示す他の態様の概略図である。
【図7】浸漬塗布方法を示す概略図である。
【図8】環状塗布方法を示す概略図である。
【図9】回転塗布装置による塗布方法を示す概略図であり、(A)は横から見た図であり、(B)正面から見た図である。
【図10】芯体と切断用金型の構成図である。
【図11】皮膜を切断する説明図である。
【図12】切断用金型の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る無端ベルトの製造方法の実施形態について詳細に説明する。
【0015】
本実施形態に係る無端ベルトの製造方法は、非接着性の被覆用膜部材によって一部が被覆された金型の外周面に、前記被覆用膜部材の一部を覆うよう樹脂材料を塗布して塗布膜を形成し、該塗布膜を加熱乾燥して樹脂皮膜を形成した後、非接着性の被覆用膜部材と金型の外周面との間隙に気体を吹き込むことにより、該気体を樹脂皮膜と金型の外周面との間隙に挿入して、金型から樹脂皮膜を抜き取る方法である。
【0016】
即ち本実施形態に係る無端ベルトの製造方法は、以下の各工程を備えることを特徴とする。
(1) 被覆工程
円筒形状の金型の外周面の一部に、前記金型に対して非接着性の被覆用膜部材を固定部材によって固定して、前記金型の外周面の一部を前記被覆用膜部材で被覆する。
(2) 塗布工程
前記被覆用膜部材の一部を覆うよう、前記金型の外周面に樹脂材料を塗布する。
(3) 硬化工程
前記樹脂材料を硬化させて樹脂皮膜を形成する。
(4) 抜き取り工程
前記金型の外周面と前記被覆用膜部材との間隙に気体を挿入して、前記金型から前記樹脂皮膜を抜き取る。
【0017】
本実施形態に係る無端ベルトの製造方法によれば、(2)塗布工程および(3)硬化工程においては、被覆用膜部材は金型の外周面に密着しており、一方(4)抜き取り工程においては、被覆用膜部材が金型に対して非接着性であることから、被覆用膜部材と金型の外周面との間隙から気体が吹き込まれ、該気体が樹脂皮膜と金型の外周面との間隙に挿入されて、金型からの樹脂皮膜の抜き取りが容易に行なわれる。
また、(3)硬化工程においては、樹脂材料の硬化反応の際に発生するガスが被覆用膜部材と金型の外周面との間隙から抜けるものと推察され、その結果前記ガスによって無端ベルトに生じる膨れが抑制される。
【0018】
尚、(4)抜き取り工程の前に被覆用膜部材を除去する工程や、被覆用膜部材を金型の外周面に固定している固定部材を除去する工程を設けてもよいが、これらの除去する工程を設けずに、(4)抜き取り工程において金型から樹脂皮膜を抜き取る際に被覆用膜部材や固定部材も一緒に取り除くことが好ましい。
被覆用膜部材および固定部材を(4)抜き取り工程において金型から樹脂皮膜と共に抜き取ることにより、被覆用膜部材や固定部材を除去する工程を別途設ける必要がなく、更に生産性に優れる。
【0019】
−被覆用膜部材によって被覆する位置−
本実施形態に係る無端ベルトの製造方法においては、更に、被覆用膜部材が金型の外周面の周方向の一部を被覆する態様であることがより好ましい。
被覆用膜部材と金型の外周面との間隙には、(2)塗布工程において樹脂材料が侵入することがあるため、無端ベルトの製造に繰り返し用いられた金型においては、前記侵入した樹脂材料による汚染が生じることがある。しかし、金型の外周面の周方向の全周にわたってではなく、一部のみが被覆用膜部材によって被覆されているため、前記汚染が生じる領域が縮小される。
【0020】
尚、被覆用膜部材は、金型の軸方向の両端部に設けてもよく、その何れの被覆用膜部材においてもそれぞれ一部を覆うよう樹脂材料を塗布することにより、金型の軸方向の両方側から金型の外周面と被覆用膜部材との間隙に気体を吹き込める。
【0021】
−固定部材によって固定する位置−
被覆用膜部材が金型の外周面の周方向の一部を被覆する上記態様では、更に、(4)抜き取り工程において、被覆用膜部材の樹脂皮膜で覆われていない領域における金型の周方向側から、金型の外周面と被覆用膜部材との間隙に気体が吹き込まれるよう、固定部材によって被覆用膜部材が固定されていることが好ましい。
つまり、被覆用膜部材は、被覆用膜部材の樹脂皮膜で覆われていない領域における金型の周方向側から、金型の外周面と被覆用膜部材との間隙に気体が吹き込まれるよう、固定部材によって金型に固定されている。別言すると、被覆用膜部材は、被覆用膜部材の樹脂皮膜で覆われていない領域における金型の周方向側が固定されていない。これにより、その部分からも気体が吹き込まれ、金型の外周面と樹脂皮膜との間隙にも気体が良好に挿入され、金型から樹脂皮膜が更に容易に抜き取られる。
【0022】
[第1実施形態]
本実施形態の無端ベルトの製造方法における第1実施形態について、工程毎に詳細に説明する。なお、かかる工程以外にも、種々の公知の工程を設けてもよい。
【0023】
−(1)被覆工程−
(金型)
まず、本実施形態の無端ベルトの製造方法に用いる金型について説明する。該金型としては、アルミニウムやステンレス、ニッケル、銅等の金属が好ましい。金型の長さは、目的とする無端ベルトの幅以上の長さが必要であるが、端部に生じる無効領域に対する余裕幅を確保するため、金型の長さは、目的とする無端ベルトの長さより、2%以上40%以下長いことがより望ましい。金型の外径は、目的とする無端ベルトの直径に合わせ、肉厚は金型としての強度が保てる厚さにする。
【0024】
金型は円筒形状のものが用いられる。金型の質量が大きい場合には、その両端に保持板を取り付けるのが好ましい。保持板は、金型の両端をはさむ構造や、金型の内側に嵌合する構造のいずれでもよい。また、金型および/または保持板に、段差や切り込み等の加工があってもよい。保持板の取り付け方法は、ねじでもよいし、溶接でもよい。
【0025】
また、形成される樹脂皮膜が金型表面に接着することを防ぐため、金型の表面には、離型性を付与することが好ましい。そのための方法としては、金型表面をクロムやニッケルでメッキしたり、フッ素樹脂やシリコーン樹脂で被覆したり、表面に離型剤を塗布する方法がある。
【0026】
一方、樹脂皮膜としてポリイミド樹脂を使用する場合、ポリイミド樹脂は、加熱反応時に留溶剤の揮発物や、反応時に発生する水の蒸気等の気体発生が非常に多い性質がある。これは特にポリイミド樹脂皮膜の膜厚が50μmを越える厚い場合に顕著である。
そのため、特開2002−160239号公報に開示の如く、金型表面はRa0.2μm以上2μm以下に粗面化することが好ましい。粗面化の方法には、ブラスト、切削、サンドペーパーがけ等の方法がある。これにより、ポリイミド樹脂から生じる気体は、金型とポリイミド樹脂皮膜の間に形成されるわずかな隙間を通って外部に排出される。
【0027】
(被覆)
第1実施形態においては、(2)塗布工程の前に、図1に示すごとく、金型1の外周面の一部に被覆用膜部材11を金型周方向に一周巻き、その被覆用膜部材11の両端を固定部材161としての片面接着テープで貼り付けて固定して、被覆用膜部材11で金型1の外周面を被覆する。尚、図1では金型1の軸方向一端のみを示しているが、軸方向両端に該被覆用膜部材11を設けてもよい。これは、以下に示す他の実施形態でも共通である。
【0028】
また、第1実施形態における別の態様として、図2に示すごとく、被覆用膜部材11の長手方向の両端部に固定部材171としての両面接着テープを貼り付けた被覆用膜部材11を金型周方向に一周巻いて固定し、被覆用膜部材11で金型1の外周面を被覆してもよい。尚、図2は、両面接着テープが被覆用膜部材11の内側、すなわち、金型1の外周面と対向する面に貼られていることを図示したものである。また、前記固定部材171としての両面接着テープの代わりに接着剤を用いてもよい。
【0029】
被覆用膜部材11としては、金型に対して非接着性(使用が想定される温度範囲、即ち常温(20℃)以上(3)硬化工程における加熱の温度以下の範囲で非接着性)であり、且つ(3)硬化工程における加熱の温度に対する耐熱性を有する膜状の部材であれば、特に限定されない。
具体的には、本実施形態における無端ベルトの製造に用いられる樹脂材料からなる膜状の部材、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等が挙げられる。尚、これらの中でも、無端ベルトの製造に用いられる樹脂材料からなる膜状の部材が好ましく、例えば無端ベルトの製造の際に発生した切れ端(切断除去される部分)を用いてもよい。
【0030】
上記片面接着テープや両面接着テープ、接着剤としては、(3)硬化工程における加熱の温度に対する耐熱性を有するものを用いることが好ましい。
片面接着テープや両面接着テープの材質としては、ポリイミド、ポリエステル、フッ素樹脂などが選ばれる。また接着剤としては、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリベンズイミダゾール樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂等が挙げられ、特には、無端ベルトの製造に用いられる樹脂材料と同じ樹脂を使うことが好ましい。
【0031】
−(2)塗布工程−
第1実施形態においては、被覆用膜部材11の一部を覆うよう、前記金型1の外周面に樹脂材料を塗布する。尚、図1および図2においては、樹脂材料が塗布される領域と塗布されない領域との境界線Kを境にして下側に、樹脂材料が塗布される。
【0032】
樹脂材料(皮膜形成樹脂溶液)の材質としては、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアミド、ポリアリレート等が挙げられる。材料が熱可塑性樹脂の場合には、その溶液が用いられ、ポリイミドのように非熱可塑性樹脂(熱硬化性樹脂)の場合には、その前駆体が用いられる。樹脂材料の濃度、粘度等は自由に選択される。
【0033】
例えば、ポリイミド前駆体としては、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)とp−フェニレンジアミン(PDA)とからなるもの、BPDAと4,4'−ジアミノジフェニルエーテルとからなるもの、ピロメリット酸二無水物(PMDA)と4,4'−ジアミノジフェニルエーテルとからなるもの等、種々公知のものが用いられる。また、ポリイミド前駆体は、2種以上を混合して用いてもよいし、複数の酸またはアミンのモノマーを混合して共重合されてもよい。
ポリイミド前駆体の溶剤としては、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトアミド、等の非プロトン系極性溶剤が挙げられる。ポリイミド前駆体溶液の混合比、濃度、粘度等は、自由に選択される。
【0034】
金型の外周面への塗布方法としては、金型を溶液に浸漬して引き上げる浸漬塗布法、金型を回転させながらその表面に溶液を吐出する流し塗り法、その際にブレードで皮膜を均すブレード塗布法など、公知の方法が採用される。
なお、「金型上に塗布」とは、金型の外周面の表面または該表面に層を有する場合にはその層の表面に塗布することをいう。また、「金型を引き上げる」とは、塗布時の液面との相対関係であり、「金型を停止し塗布液面を下降させる」場合を含む。
【0035】
塗布を浸漬塗布法で行う場合、特開2002−91027号公報に記載のごとく、環状体により膜厚を制御する方法が適用し得る。
【0036】
図7は、環状体により膜厚を制御する浸漬塗布法に用いる装置の一例を示す概略構成図である。但し、図は主要部のみを示し、金型1の保持板や、他の装置は省略する。
この浸漬塗布法は、図7に示すごとく、塗布槽3に入れられた溶液2に、金型1の外径よりも大きな円孔6を設けた環状体5を浮かべ、円孔6を通して金型1を引き上げて塗布する方法である。
【0037】
環状体5の材質は、溶液2の溶剤によって侵されない金属やプラスチック等から選ばれる。また、浮上しやすいよう中空構造であってもよいし、沈没防止のために、環状体5の外周面または塗布槽3に、環状体5を支える足や腕を設けてもよい。
【0038】
環状体5は、溶液2の上で水平方向に自由移動し得るよう、溶液2上に浮遊させる、環状体5をロールやベアリングで支える、環状体5をエア圧で支える、などの方法で設置する。また、環状体5が塗布槽3の中央部に位置するよう、環状体5を一時的に固定してもよい。
【0039】
金型1の外径と円孔6の内径との間隙により、塗布膜4の膜厚が規制されるので、円孔6の内径は、求められる膜厚により調整する。間隙により塗布膜の膜厚のムラも決まるので、円孔6の真円度は重要である。真円度は20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがさらに好ましい。もちろん、真円度が0μmであることが最適である。
【0040】
円孔6の内壁面(環状体5の内周)は、溶液2に浸る下部が広く、上部が狭い形状であれば、図7に示すごとく、斜めの直線状で傾斜面のものや、図8に示すごとく、組み合わせた傾斜面でもよい。また、階段状や曲線的でもよい。
【0041】
塗布の際、円孔6を通して金型1を引き上げる。引き上げ速度は、0.1m/min以上1.5m/min以下が好ましい。この塗布方法に好ましいポリイミド前駆体溶液の固形分濃度は10質量%以上40質量%以下、粘度は1Pa・s以上100Pa・s以下である。
【0042】
更に、浸漬塗布法に用いる塗布装置には、金型1を保持する金型保持手段、並びに、該保持手段を上下方向に移動する第1の移動手段および/または塗布槽3を上下方向に移動する第2の移動手段を有してもよい。
【0043】
なお、塗布工程おいて、既述のごとく、図8に示す環状塗布法も適用し得る。図8は、環状塗布法に用いる装置の一例を示す概略構成図である。
図8(A)および図8(B)において、図7との違いは、環状塗布槽7の底部に、金型1の外径より若干小さい穴を有する環状シール材8を設けることである。金型1を環状シール材8の中心に挿通させ、環状塗布槽7に溶液2を収容すると、溶液2は漏れることがない。金型1は、環状塗布槽7の下部から上部に順次つき上げられ、金型1の表面に塗布膜4が形成される。金型1の上下には、金型1に嵌合し得る中間体9、9'を取り付けてもよい。環状体5の機能は、前述の通りである。また、図8(B)に示すごとく、環状体5の過剰な上昇を防ぐために、環状シール材8の上部に、上昇規制部材8Aを設けてもよい。
【0044】
また、上記溶液2を用い、図9(A)および図9(B)に示すごとく、回転塗布装置により塗布を行なってもよい。回転塗布装置では、樹脂材料(溶液2)が入った容器23にモーノポンプ21を接続し、吐出量を調整して吐出液の直下にステンレス板等からなるブレード22を取り付ける。金型1を回転させ、吐出部とブレードを図面上左から右方向へ移動させて、金型1の外周面に溶液2を塗布する。
【0045】
−(3)硬化工程−
硬化工程では、金型1に形成された塗布膜を加熱乾燥させる。すなわち、塗布膜中に存在する溶剤を除去する目的で、塗布膜を静置しても変形しない程度の加熱乾燥を行う。加熱乾燥条件は、樹脂や溶剤の種類にもよるが、通常80℃以上170℃以下の温度で30分間以上60分間以下が好ましい。その際、温度が高いほど、加熱時間は短くてよい。温度は、時間内において段階的、または一定速度で上昇させてもよい。加熱の際、熱風を当てることも有効である。
【0046】
加熱乾燥中に塗布膜に垂れが生じる場合には、金型1の軸方向を水平にして、ゆっくり回転させることが有効である。回転速度は1rpm以上60rpm以下が好ましい。
【0047】
(加熱反応処理工程)
尚、樹脂材料が熱硬化性樹脂の場合、上記加熱乾燥のみで皮膜が形成されるが、更に高温乾燥が必要な場合は加熱を行う(加熱反応処理)。例えば、ポリイミド樹脂の場合は、好ましくは250℃以上450℃以下、より好ましくは300℃以上350℃以下で、20分間以上60分間以下、塗布膜を加熱して縮合反応させることで、ポリイミド樹脂皮膜が形成される。その際、加熱の最終温度に達する前に、完全に残留溶剤を除去することが好ましく、具体的には、200℃以上250℃以下の温度で、10分間以上30分間以下加熱して残留溶剤を乾燥させ、続けて温度を段階的、または一定速度で徐々に上昇させて加熱することが好ましい。
【0048】
−(4)抜き取り工程−
加熱乾燥もしくは加熱反応処理を施した後は、50℃以下まで冷却を行い、形成された樹脂皮膜を金型から剥離することで、無端ベルトが得られる。
その際、図1および図2に示すごとく、被覆用膜部材11の樹脂皮膜で覆われていない側から、即ち矢印A方向側から、金型1の外周面と前記被覆用膜部材11との間隙に気体(例えば空気)を吹き込むことにより、金型1の外周面と樹脂皮膜との間隙に気体を挿入し、金型1から樹脂皮膜および被覆用膜部材11を抜き取る。間隙に気体を吹き込むことで、その圧力により金型と樹脂皮膜との密着性が低下し、金型からの剥離性が向上される。
【0049】
気体を吹き込ませる手段としては、エアガン等が使用される。エアガンの数は風量を増やすため1個よりも複数あることが望ましい。エアガンの先端口は金型の曲率に合わせて細長い形状であると、気体が金型と被覆用膜部材との間隙に入り易い。空気圧は、0.1MPa以上0.6MPa以下が好ましく、0.1MPa以上0.5MPa以下がより好ましい。また、エアブローリング等も使用し得る。
【0050】
無端ベルトの両端部は、変形等があるので、不要部分(無効領域)を切断し、中央の有効部分(有効領域)が製品とされる。無端ベルトには、さらに穴あけ加工やリブ付け加工等が施されることがある。
【0051】
なお、金型から樹脂皮膜を抜き取る前に、金型の一方の端部に切断用金型を設け、樹脂皮膜を切断用金型に移動させ、移動後の樹脂皮膜の端部を切断する切断処理を施してもよい。
【0052】
この切断処理について、図10乃至図12によって説明する。図10において、金型1の外周面(表面)に樹脂皮膜111が形成されているが、抜き取る際には、金型1の軸方向(図10では紙面下方)に、切断用金型120を配置する。切断用金型120は、金型1の外径より少し小さい外径を有し、樹脂皮膜111が嵌まるだけの長さがあればよい。
【0053】
こうすることにより、金型1から樹脂皮膜111を抜き取った後切断用金型120に嵌められる。次いで図11に示すごとく、切断用の刃物121を押し当て、切断用金型120または刃物121を回転させて、樹脂皮膜111を求められる長さに切断する。あらかじめ複数本分の無端ベルトを作製する場合には、それに応じた本数の刃物を用意すれば、複数本分の切断が行える。
【0054】
なお、図10に示すごとく、切断用金型120の刃物を当てる位置には、溝123や筋等を設けておいてもよい。
【0055】
切断用金型120の外径は、樹脂皮膜111を嵌める時には樹脂皮膜111の内径より小さく、切断の際には樹脂皮膜111をしっかり保持し得るよう、大きく変えられる構成であるのが好ましい。それには、例えば図12の断面図に示すごとく、複数の構成部材122a、122bに分割して、間隔を調整し得る方法がある。こうして切断した後、切断用金型120から樹脂皮膜111を抜き取ることで無端ベルトが得られる。
【0056】
以上の通り作製した無端ベルトを、転写ベルトや、接触帯電ベルトとして使用する場合には、ポリイミド材料の中に、導電性物質を分散させてもよい。
導電性物質としては、例えば、カーボンブラック、カーボンブラックを造粒したカーボンビーズ、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、グラファイト等の炭素系物質;銅、銀、アルミニウム等の金属または合金;酸化錫、酸化インジウム、酸化アンチモン、SnO2−In23複合酸化物等の導電性金属酸化物等が挙げられる。
【0057】
無端ベルトを定着ベルトとして使用する場合には、表面に付着するトナーの剥離性の向上のため、ベルト表面に非粘着性の樹脂層を形成することがよい。
その非粘着性の材料としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等のフッ素系樹脂が好ましい。また、非粘着性の樹脂層には、カーボン粉末や硫酸バリウム等が分散されていてもよい。
【0058】
これらフッ素系樹脂層を形成するには、その水分散液を無端ベルトの表面に塗布して焼き付け処理する方法が好ましい。こうして、ベルト表面にフッ素系樹脂層を形成するには、ポリイミド樹脂皮膜を金型の表面に形成して加熱してから塗布してもよいが、ポリイミド前駆体溶液を塗布して溶剤を乾燥させた後、フッ素系樹脂分散液を塗布し、その後に加熱してイミド化反応とフッ素系樹脂の焼成処理を行ってもよい。
【0059】
無端ベルトを定着ベルトとして使用する場合、ポリイミド樹脂の厚さは25μm以上500μm以下、フッ素系樹脂層の厚さは5μm以上50μm以下が好ましい。
【0060】
[第2実施形態]
本実施形態の無端ベルトの製造方法における第2実施形態について、工程毎に詳細に説明する。尚、以下に説明すること以外は、前記第1実施形態において説明した事項がそのまま適用し得るため、ここではその説明を省略する。
【0061】
−(1)被覆工程−
(被覆)
第2実施形態においては、(2)塗布工程の前に、図3に示すごとく、金型1の外周面の一部であって且つ金型1の周方向の一部に、被覆用膜部材11を配置する。すなわち、被覆用膜部材11は、(2)塗布工程において樹脂皮膜で覆われない側の端部を固定部材162としての2枚の片面接着テープで金型1の外周面に貼り付けて固定し、被覆用膜部材11で金型1の外周面を被覆する。
【0062】
また、第2実施形態における別の態様として、図4に示すごとく、被覆用膜部材11の、(2)塗布工程において樹脂皮膜で覆われない側の端部に固定部材172としての両面接着テープを貼り付けた被覆用膜部材11を金型周方向の一部に固定し、被覆用膜部材11で金型1の外周面を被覆してもよい。尚、図4は、両面接着テープが被覆用膜部材11の内側、すなわち、金型1の外周面と対向する面に貼られていることを図示したものである。また、前記固定部材172としての両面接着テープの代わりに接着剤を用いてもよい。
【0063】
尚、第2実施形態に係る上記無端ベルトの製造方法では、図3および図4に示す通り、被覆用膜部材11が金型1の外周面の周方向の一部を被覆する態様である。また更に、(4)抜き取り工程において、被覆用膜部材11の樹脂皮膜で覆われていない領域における金型1の周方向側(即ち図3および図4における矢印B方向側)から、金型1と被覆用膜部材11との間隙に気体が吹き込まれるよう、固定部材162または172によって被覆用膜部材11が固定されている。
【0064】
そのため、被覆用膜部材11と金型1との間隙に、(2)塗布工程において樹脂材料が侵入することによる汚染の発生領域が縮小される。また、矢印B方向側からも気体が吹き込まれ、金型1と樹脂皮膜との間隙にも気体が良好に挿入され、金型1から樹脂皮膜が更に容易に抜き取られる。
【0065】
−(2)塗布工程−
第2実施形態においては、被覆用膜部材11の一部を覆うよう、金型1の外周面に樹脂材料を塗布する。尚、図3および図4においては、樹脂材料が塗布される領域と塗布されない領域との境界線Kを境にして下側に、樹脂材料が塗布される。
【0066】
−(4)抜き取り工程−
加熱乾燥もしくは加熱反応処理を施した後は、50℃以下まで冷却を行い、形成された樹脂皮膜を金型から剥離することで、無端ベルトが得られる。
その際、図3および図4に示すごとく、被覆用膜部材11の樹脂皮膜で覆われていない側から、即ち矢印Aおよび矢印B方向側から、金型1の外周面と前記被覆用膜部材11との間隙に気体(例えば空気)を吹き込むことにより、金型1の外周面と樹脂皮膜との間隙に気体を挿入し、金型1から樹脂皮膜および被覆用膜部材11を抜き取る。
【0067】
[第3実施形態]
本実施形態の無端ベルトの製造方法における第3実施形態について、工程毎に詳細に説明する。尚、以下に説明すること以外は、前記第1実施形態において説明した事項がそのまま適用し得るため、ここではその説明を省略する。
【0068】
−(1)被覆工程−
(被覆)
第3実施形態においては、(2)塗布工程の前に、図5に示すごとく、金型1の外周面の一部であって且つ金型周方向の一部に、被覆用膜部材11を配置する。被覆用膜部材11は、(2)塗布工程において樹脂皮膜で覆われない側の端部を固定部材163としての1枚の片面接着テープで金型1の外周面に貼り付けて固定して、被覆用膜部材11で金型1の外周面を被覆する。
【0069】
また、第3実施形態における別の態様として、図6に示すごとく、被覆用膜部材11の、(2)塗布工程において樹脂皮膜で覆われない側の端部に固定部材173としての両面接着テープを貼り付けた被覆用膜部材11を金型周方向の一部に固定し、被覆用膜部材11で金型1の外周面を被覆してもよい。尚、図6は、両面接着テープが被覆用膜部材11の内側、すなわち、金型1の外周面と対向する面に貼られていることを図示したものである。また、前記固定部材173としての両面接着テープの代わりに接着剤を用いてもよい。
【0070】
尚、第3実施形態に係る上記無端ベルトの製造方法では、図5および図6に示す通り、被覆用膜部材11が金型1の外周面の周方向の一部を被覆する態様である。また更に、(4)抜き取り工程において、被覆用膜部材11の樹脂皮膜で覆われていない領域における金型1の周方向側(即ち図5および図6における矢印B方向側)から、金型1の外周面と被覆用膜部材11との間隙に気体が吹き込まれるよう、固定部材163または173によって被覆用膜部材11が固定されている。
【0071】
そのため、被覆用膜部材11と金型1の外周面との間隙に、(2)塗布工程において樹脂材料が侵入することによる汚染の発生領域が縮小される。また、矢印B方向側から気体が吹き込まれ、金型1の外周面と樹脂皮膜との間隙にも気体が良好に挿入され、金型1から樹脂皮膜が更に容易に抜き取られる。
【0072】
−(2)塗布工程−
第3実施形態においては、被覆用膜部材11の一部を覆うよう、前記金型1の外周面に樹脂材料を塗布する。尚、図5および図6においては、樹脂材料が塗布される領域と塗布されない領域との境界線Kを境にして下側に、樹脂材料が塗布される。
【0073】
−(4)抜き取り工程−
加熱乾燥もしくは加熱反応処理を施した後は、50℃以下まで冷却を行い、形成された樹脂皮膜を金型から剥離することで、無端ベルトが得られる。
その際、図5および図6に示すごとく、被覆用膜部材11の樹脂皮膜で覆われていない側から、即ち矢印B方向側から、金型1と前記被覆用膜部材11との間隙に気体(例えば空気)を吹き込むことにより、金型1と樹脂皮膜との間隙に気体を挿入し、金型1から樹脂皮膜および被覆用膜部材11を抜き取る。
【符号の説明】
【0074】
1 金型
2 溶液(樹脂材料)
3 塗布槽
4 塗布膜
5 環状体
6 円孔
7 環状塗布槽
8 環状シール材
8A 上昇規制部材
9 中間体
11 被覆用膜部材
21 モーノポンプ
22 ブレード
23 容器
111 樹脂皮膜
120 切断用金型
121 刃物
123 溝
161,162,163,171,172,173 固定部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形状の金型の外周面の一部に、前記金型に対して非接着性の被覆用膜部材を固定部材によって固定して、前記金型の外周面の一部を前記被覆用膜部材で被覆する被覆工程と、
前記被覆用膜部材の一部を覆うよう、前記金型の外周面に樹脂材料を塗布する塗布工程と、
前記樹脂材料を硬化させて樹脂皮膜を形成する硬化工程と、
前記金型の外周面と前記被覆用膜部材との間隙に気体を挿入して、前記金型から前記樹脂皮膜を抜き取る抜き取り工程と、
を備える無端ベルトの製造方法。
【請求項2】
前記被覆用膜部材は、前記金型の外周面の周方向の一部を被覆する請求項1に記載の無端ベルトの製造方法。
【請求項3】
前記抜き取り工程において、前記被覆用膜部材の前記樹脂皮膜で覆われていない領域における前記金型の周方向側から、前記金型の外周面と前記被覆用膜部材との間隙に気体が吹き込まれるよう、前記固定部材によって前記被覆用膜部材が固定されている請求項2に記載の無端ベルトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−40849(P2012−40849A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−186510(P2010−186510)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【特許番号】特許第4766189号(P4766189)
【特許公報発行日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】