説明

無線受信装置

【課題】初期同期を取った後、同期を外すことなく安定にパルスを追尾する。
【解決手段】検波ブロック2は、アンテナ1による受信信号の包絡線検波を行う。各積分ブロック3,3は、積分回路30,30によって検波信号を積分期間において積分する。信号処理部5では、初期同期を取った後、通常状態では第1,2の積分ブロック3,3の2つの積分期間のタイミングを検波信号のパルスのタイミングに対して進む方向又は遅れる方向の何れかの方向に一定シフト量ずつシフトさせるように、位相制御部7を制御するとともに、2つのデジタル信号(積分値)の差分の極性が反転したか否かを判定する。2つのデジタル信号の差分の極性が反転したと判定した場合、2つの積分期間のタイミングを検波信号のパルスのタイミングに対して逆方向に一定シフト量より大きいシフト量だけシフトさせるように、位相制御部7を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線信号を受信する無線受信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高速無線伝送方式の一つとして、所定周期のタイミングに同期したパルス信号からなるパルス信号列を用いて超広帯域な通信を行うウルトラワイドバンド(UWB:Ultra Wide Band)通信方式が注目されている。
【0003】
上記UWB通信方式を含めた無線通信方式に用いられる従来の無線受信装置として、特許文献1には、無線送信装置から送信された無線信号を受信するアンテナと、アンテナで受信された信号を検波する検波器と、それぞれが検波信号を積分期間において積分し、積分値をデジタル信号に変換する複数の積分ブロックとを備えるものが開示されている。
【0004】
特許文献1の無線受信装置は、初期同期を取った後、タイミングをずらした2つの積分期間における2つの積分値が等しくなるように、2つの積分期間のタイミングを同時にシフトすることによって、同期を維持している。
【特許文献1】特開2007−60507号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の無線受信装置は、2つの積分値の何れかに歪みがあった場合、この歪みの影響を受けやすい方向にもシフトする可能性がある。そうすると、2つの積分値の差分が小さくなったり、大小関係が反転してしまい、同期が外れてしまうおそれがあるという問題があった。
【0006】
本発明は上記の点に鑑みて為されたものであり、その目的は、初期同期を取った後、同期を外すことなく安定にパルスを追尾することができる無線受信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、複数の極短パルスからなるパルスを所定周期で間欠的に有する無線信号と同期して受信し当該無線信号に含まれているデータを復調する無線受信装置であって、前記無線信号を受信する受信手段と、前記受信手段で受信された信号を包絡線検波し、前記複数の極短パルスの包絡線であるパルスを含む検波信号を出力する検波手段と、それぞれが、前記検波手段から出力された検波信号を同じ長さの積分期間において積分し、積分値を出力する積分回路を有する1対の積分ブロックと、前記1対の積分ブロックのうち一方の積分期間のタイミングを他方の積分期間のタイミングより進み方向にずらした状態で前記2つの積分期間のタイミングを同時に変化させるタイミング制御手段と、前記2つの積分期間のタイミングを前記検波信号のパルスのタイミングと初期同期させる初期同期手段と、前記初期同期手段で同期させられた前記2つの積分期間の合成期間の中心を検出期間の中心とし、前記検出期間内の前記パルスの有無を検出して前記無線信号に含まれているデータを復号する復号手段と、前記初期同期手段によって前記初期同期が取られた後、通常状態では前記2つの積分期間のタイミングを前記検波信号のパルスのタイミングに対して進む方向又は遅れる方向の何れかの方向に一定シフト量ずつシフトさせるように前記タイミング制御手段を制御し、前記2つの積分値の差分の極性が反転したか否かの判定を行う一方、前記2つの積分値の差分の極性が反転したと判定した場合、前記2つの積分期間のタイミングを前記検波信号のパルスのタイミングに対して逆方向に前記一定シフト量より大きいシフト量をシフトさせるように前記タイミング制御手段を制御する同期維持手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記無線信号は、複数の前記パルスによって1ビットのデータを構成し、前記同期維持手段は、前記1ビットのデータにおいて、前記判定を複数回行うことを特徴とする。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1の発明において、前記同期維持手段は、前記判定を行う頻度を可変とすることを特徴とする。
【0010】
請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項の発明において、通常状態で前記2つの積分期間のタイミングをシフトさせる方向を選択可能とする選択手段を備えることを特徴とする。
【0011】
請求項5の発明は、請求項1乃至4のいずれか1項の発明において、前記同期維持手段は、前記2つの積分値の差分が大きくなると逆方向へのシフト量を大きくするように前記タイミング制御手段を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、初期同期を取った後、例えば積分値に歪みが発生する部分を避ける方向に2つの積分期間のタイミングをシフトさせていき、2つの積分値の差分の極性が反転したときに2つの積分期間のタイミングを逆方向にシフトさせることによって、同期を外すことなく安定にパルスを追尾することができる。
【0013】
請求項2の発明によれば、無線信号のパルスの周期と2つの積分期間の周期の偏差が大きく且つ積分ブロックの積分値が急峻に変化する場合であっても、判定を行う頻度を短くすることによって、同期が外れてパルスロストとなるのを防止することができる。
【0014】
請求項3の発明によれば、判定を行う頻度が多い場合、雑音などが原因で、判定を誤る確率が高くなるが、判定を行う頻度を可変とすることにより、積分ブロックの積分値の急峻度合いに応じた頻度を選択することができ、最適な受信を実現することができる。
【0015】
請求項4の発明によれば、通常状態で積分期間のタイミングをシフトさせようと想定していた方向に、積分値の歪みがあった場合、この歪みが発生する部分を避けるようにシフト方向を切り替えることができる。
【0016】
請求項5の発明によれば、2つの積分値の差分が大きい場合、つまりパルスの周期と積分期間の周期の偏差が大きい場合、2つの積分期間を固定のシフト量ではなく、2つの積分値の差分に応じてシフト量を選択することによって、精度よく同期を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(実施形態1)
まず、実施形態1の無線受信装置の構成について図1〜5を用いて説明する。この無線受信装置は、複数の極短パルス(パルス幅1ナノ秒程度のパルス)からなるパルスを所定周期で間欠的に有するUWBの無線信号と同期して受信し、上記無線信号に含まれているデータを復調するものであり、図1に示すように、上記無線信号を無線送信装置(図示せず)から受信するアンテナ(受信手段)1と、アンテナ1で受信された信号を包絡線検波し、複数の極短パルスの包絡線であるパルスを含む検波信号を出力する検波ブロック(検波手段)2と、それぞれが、検波ブロック2から出力された検波信号を同じ長さの積分期間において積分し、積分値を出力する積分回路30〜30を有する第1〜nの積分ブロック3〜3と、第1〜nの積分ブロック3〜3から出力される信号(デジタル信号AD1〜ADn)を加算して加算値AD0として出力する加算器4と、第1〜nの積分ブロック3〜3から出力されるデジタル信号AD1〜ADnを用いて受信信号SIG1との同期をとるとともに、加算器4の出力信号(加算値AD0)から無線信号に含まれているデータを復調して外部に出力する信号処理部5と、間欠駆動ゲート生成部6と、第1〜nの積分ブロック3〜3の積分期間のタイミングを変化させる位相制御部(タイミング制御手段)7とを備えている。
【0018】
ここで、無線信号の一例について図3を用いて説明する。図3(a)は無線信号の通信フレームF1を示す図であり、図3(b)は、図3(a)の無線信号が包絡線検波された後における範囲Aの拡大図である。通信フレームF1は、図3(a)に示すように、パルス同期を取るための連続パルス列F1と、ビット同期を取るためにパルスPがない区間とパルスPがある区間とが交互に配置されているビット同期用パルス配列F2と、ビット同期用パルス配列F2と後述のデータ部F4とを区別するためのパルス列であるユニークワードF3と、パルスPがないときを「0」とし、パルスPがあるときを「1」とするデータ部F4とを有している。パルスPは、例えば50ナノ秒周期で配置されており、パルスPのパルス幅は例えば10ナノ秒に設定されている。また、各パルスPは、例えば10個程度連続した極短パルスで構成されている。
【0019】
連続パルス列F11は、通信フレームF1と無線受信装置の受信タイミングとを同期させるためのパルス列で、例えば100マイクロ秒〜900マイクロ秒程度の期間、パルスPが50ナノ秒周期で連続している。
【0020】
ビット同期用パルス配列F12は、ビット同期を取るためのパルス列で、予め設定された単位期間t0の間、パルスPがないパルス無区間B0と、パルスPが50ナノ秒周期で連続するパルス有区間B1とが交互に配置されている。
【0021】
データ部F14は、1つのパルス無区間B0と1つのパルス有区間B1とが組み合わされて1ビットのデータを表わすようにされており、1ビットを表わすビット区間tbにおいて、例えばパルス無区間B0の次にパルス有区間B1となればビット「1」、パルス有区間B1の次にパルス無区間B0となればビット「0」を表わすようにされている。
【0022】
図1に示す検波ブロック2は、アンテナ1で受信された受信信号SIG1を増幅する増幅部20と、増幅部20の出力信号SIG2から無線信号の使用周波数帯域の成分を抽出するフィルタ(帯域フィルタ)21と、フィルタ21の出力信号SIG3を包絡線検波し、検波信号Kとして出力する検波器22とを備えている。上記検波ブロック2によって、アンテナ1で受信された例えば3.8GHzの帯域の受信信号SIG1は約500MHz程度に周波数変換され、検波信号Kは、検波器22から各積分ブロック3〜3に出力される。
【0023】
各積分ブロック3〜3は、一定期間の積分期間において検波信号Kを積分し、アナログ値の積分信号S1〜Snとして出力する積分回路30〜30と、積分信号S1〜Snをデジタル値に変換し、デジタル信号AD1〜ADnとして出力するAD変換器31〜31とを備えている。積分期間は、例えば6ナノ秒以上10ナノ秒以下であることが好ましく、さらに好ましいのは8ナノ秒である。
【0024】
なお、AD変換器31〜31は、例えば8bit、255段のものである。このため、各AD変換器31〜31から加算器4及び信号処理部5へのデジタル信号AD1〜ADnの出力には、図1に示すように、各bitごとに1本の信号線が割り当てられ、計8本の信号線が用いられている。
【0025】
加算器4は、各AD変換器31〜31から出力されるデジタル信号AD1〜ADn、すなわち積分回路30〜30の積分値のデジタル値を加算し、加算値AD0として信号処理部5に出力する。
【0026】
なお、加算器4から信号処理部5への加算値AD0の出力には、図1に示すように、各bitごとに1本の信号線が割り当てられ、これらの信号線を含む計(8+(n−1))本の信号線が用いられている。nは積分ブロック3〜3(AD変換器31〜31)の台数である。例えば2つのAD変換器31〜31のそれぞれから8bitのデジタル信号AD1〜ADnが加算器4に入力された場合、加算器4から出力される加算値AD0は、桁上りして9bitつまり8+(n−1)bitとなる。また、3つのAD変換器31〜31のそれぞれから8bitのデジタル信号AD1〜ADnが加算器4に入力された場合、加算器4から出力される加算値AD0は、2つのAD変換器31〜31からデジタル信号AD1〜ADnが入力されたときの9bitの状態から、さらに最大で1桁上がりして10bitになるので、8+(n−1)bitとなる。
【0027】
ただし、加算器4から出力される加算値AD0に必要なビット数は、単純に8+(n−1)と一意に決定されるものではなく、実際の回路において、ビット不足でオーバーフローしてゼロに戻らないようにするため、余裕を持たせたビット幅を用意している。例えば255(10進数)=FF(16進数)のデジタル信号AD1〜ADnを4つ加算した場合、加算値AD0は1020(10進数)=3FC(16進数)であるため、2bit追加するだけでよく、その結果、加算値AD0の出力に必要なビット数は11bitではなく10bitでよい。したがって、残り1bitは余裕を持たせるためのものである。
【0028】
間欠駆動ゲート生成部6は、例えば発振回路などを備えており、無線送信装置(図示せず)から送信される無線信号のパルス周期と同一の周期で積分回路30〜30に積分動作をさせるために、積分期間すなわちウインドウ期間を示す基準ゲート信号Gを出力する回路部である。
【0029】
位相制御部7は、間欠駆動ゲート生成部6から出力された基準ゲート信号Gと信号処理部5からの制御信号SIG4,SIG5とに基づいて、第1の積分ブロック3の積分期間のタイミングを第2の積分ブロック3の積分期間のタイミングより進み方向にずらした状態で2つの積分期間のタイミングを同時に変化させるように、積分回路30,30の積分期間のタイミングがそれぞれ異なるように基準ゲート信号Gの位相を変化させ、ゲート信号G1,G2として積分回路30,30にそれぞれ出力する。なお、第kの積分ブロック3の積分期間のタイミングも第k+1の積分ブロック3k+1の積分期間のタイミングより進み方向にずらした状態で2つの積分期間のタイミングを同時に変化させるように、積分回路30,30k+1の積分期間のタイミングがそれぞれ異なるように基準ゲート信号Gの位相を変化させ、ゲート信号Gk,Gk+1として積分回路30,30k+1にそれぞれ出力する。kは1,3,5・・・n−1である。
【0030】
ここで、無線送信装置(図示せず)のパルス周期と無線受信装置のパルス周期の相対変化について図4を用いて説明する。まず、検波信号KのパルスP(無線信号のパルス)の周期が2つの積分ブロック3,3の積分期間の周期(図4ではゲート信号G1,G2で表している。)より長い場合、図4の矢印aで示す方向に、検波信号KのパルスPのタイミングに対して2つの積分期間のタイミングが変化していく。この場合、デジタル信号AD1,AD2は、初め(1)ではデジタル信号AD1のほうがデジタル信号AD2よりも大きく、(2)でデジタル信号AD1が最大となる。その後、(3)で2つの積分期間の合成積分期間の中心とパルスPの中心が一致し、デジタル信号AD1とデジタル信号AD2は等しくなり、(3)〜(4)ではデジタル信号AD2のほうがデジタル信号AD1より大きくなる。
【0031】
一方、検波信号KのパルスPの周期が2つの積分ブロック3,3の積分期間の周期より短い場合、図4の矢印bで示す方向に、検波信号KのパルスPのタイミングに対して2つの積分期間のタイミングが遅れていく。この場合、デジタル信号AD1,AD2は、初め(4)ではデジタル信号AD2のほうがデジタル信号AD1よりも大きく、(3)で2つの積分期間の合成積分期間の中心とパルスPの中心が一致し、デジタル信号AD1とデジタル信号AD2が等しくなる。その後、(2)でデジタル信号AD1が最大となり、(2)〜(1)ではデジタル信号AD1のほうがデジタル信号AD2より大きくなる。
【0032】
信号処理部5は、図2に示すように、同期部50と、ベースバンド復号部(復号手段)52と、閾値設定部(閾値設定手段)51とを備えている。
【0033】
同期部50は、信号到来判定部500と、信号捕捉/追尾制御部(同期維持手段)501と、同期制御部502とを備えている。
【0034】
信号到来判定部500は、後述の同期制御部502が時間軸において第1の積分ブロック3の積分区間と第2の積分ブロック3の積分区間とが一部重なるようにして、2つの積分期間のタイミングを同時に一方向に変化させているときに(図4参照)、第1,2の積分ブロック3,3から出力されたデジタル信号AD1,AD2と、閾値設定部51で設定された閾値との比較を行い、デジタル信号AD1,AD2が閾値以上であるか否かの判定結果を判定信号Hとして同期制御部502に出力する。
【0035】
同期制御部502は、まず、第1の積分ブロック3の積分期間のタイミングを第2の積分ブロック3の積分期間のタイミングより進み方向にずらした状態で2つの積分期間のタイミングを同時に変化させるように、位相制御部7を制御する。
【0036】
上記同期制御部502は、信号到来判定部500からの判定信号Hによって、2つのデジタル信号(積分値)AD1,AD2の少なくとも一方が閾値以上となる範囲では、2つのデジタル信号AD1,AD2が等しくなるように第1の積分回路30の積分期間と第2の積分回路30の積分期間の両方のタイミングを同時に変化させるように、信号捕捉/追尾制御部501を制御する。
【0037】
信号捕捉/追尾制御部501は、第1,2の積分ブロック3,3のデジタル信号AD1,AD2のうち、同期制御部502によって選択された第1の積分ブロック3及び第2の積分ブロック3のデジタル信号AD1,AD2が等しくなるように、位相制御部7に制御信号SIG5を出力する。
【0038】
具体的には、2つのデジタル信号AD1,AD2の少なくとも一方が閾値以上となる範囲において、第1の積分ブロック3のデジタル信号AD1が第2の積分ブロック3のデジタル信号AD2より大きい場合、2つの積分期間のタイミングを検波信号KのパルスPのタイミングに対して進み方向にシフトさせる。一方、第2の積分ブロック3のデジタル信号AD2が第1の積分ブロック3のデジタル信号AD1より大きい場合、2つの積分期間のタイミングを検波信号KのパルスPのタイミングに対して遅れ方向にシフトさせるように、位相制御部7を制御する。上記のようにすることで、2つのデジタル信号AD1,AD2を等しくして2つの積分期間のタイミングを検波信号KのパルスPのタイミングと同期させる。
【0039】
また、初期同期を取った後、信号捕捉/追尾制御部501は、図5に示すように、通常状態では第1,2の積分ブロック3,3の2つの積分期間のタイミングを検波信号KのパルスPのタイミングに対して進む方向又は遅れる方向の何れかの方向に一定シフト量ずつシフトさせるように、位相制御部7を制御するとともに、2つのデジタル信号(積分値)AD1,AD2の差分(AD1−AD2)の極性が反転したか否かを判定する。2つのデジタル信号AD1,AD2の差分(AD1−AD2)の極性が反転したと判定した場合、信号捕捉/追尾制御部501は、2つの積分期間のタイミングを検波信号KのパルスPのタイミングに対して逆方向に予め設定されたシフト量だけシフトさせるように、位相制御部7を制御する。なお、上記予め設定されたシフト量は、一定シフト量より大きいシフト量である。
【0040】
このとき、信号捕捉/追尾制御部501は、通常状態において、2つの積分期間のタイミングを検波信号KのパルスPに対して進む方向にシフトさせるか、遅れ方向にシフトさせるかを、外部のマイクロコンピュータからの設定によって選択する機能を有している。例えば、積分回路や検波回路などのアナログ回路の雑音の影響から、設計時に比べて想定外の条件により、2つのデジタル信号AD1,AD2の大小関係及びシフト方向が異なる条件となった場合であっても、判定を誤ることなく、信号を追尾することが可能であり、誤り率の増大を防止することができる。
【0041】
閾値設定部51は、複数の閾値のレベル(L1<L2<L3)を選択して設定できるようになっている。この閾値設定部51には、使用者が閾値を選択するための操作部(図示せず)が設けられており、使用者は操作部を用いて閾値L1〜L3を事前に設定することができる。また、予め設定された閾値(例えばL1)において所定時間内に初期同期を取ることができなかった場合、閾値設定部51は、上記閾値(L1)に代えて他の閾値(例えばL3)を自動設定する。閾値設定部51で設定された閾値L1〜L3の情報は閾値信号Lとして信号到来設定部53に出力される。
【0042】
図2に示すベースバンド復号部52は、同期部50で同期させられた2つの積分期間の合成期間の中心を検出期間の中心とし、検出期間内のパルスPの有無を検出して、無線信号に含まれているデータを復号する。具体的には、ベースバンド復号部52は、加算器4から出力される加算値AD0が一定値以上であれば「1」と判定し、加算値AD0が一定値未満であれば「0」と判定することによって復調し、復号信号Doutとして外部に出力する。
【0043】
次に、本実施形態の無線受信装置における初期同期の動作について説明する。ここでは、第1の積分ブロック3と第2の積分ブロック3のみを用いた場合について説明する。アンテナ1による無線信号の受信が開始された初期状態においては、検波器22から出力された検波信号KのパルスP(図4参照)のタイミングと第1,2の積分回路30,30の積分期間のタイミングとが同期していないので、無線信号の通信フレームF1(図3(a)参照)のうち連続パルス列F11を受信するときに、第1,2の積分回路30,30のタイミングを検波信号KのパルスPのタイミングと同期させる初期同期処理を行う必要がある。
【0044】
まず、同期制御部502からの制御信号SIG4に応じて、位相制御部7が、積分期間をパルスPに対して進み方向に同時に徐々に変化させる。2つの積分期間がパルスPに対して進み方向に変化されていくと、第1のデジタル信号AD1が大きくなり、その後、第2のデジタル信号AD2も大きくなっていく。しかし、第1,2のデジタル信号AD1,AD2は閾値L3未満であるため、2つの積分期間のタイミングはパルスPのタイミングに対して進み方向にそのまま変化されていく。その後、第1のデジタル信号AD1が閾値L3以上となった場合、第1のデジタル信号AD1のほうが第2のデジタル信号AD2より大きいときは、2つの積分期間をパルスPに対して進み方向に変化し、第2のデジタル信号AD2のほうが第1のデジタル信号AD1より大きいときは、2つの積分期間をパルスPに対して遅れ方向に変化する。その後、第1のデジタル信号AD1と第2のデジタル信号AD2が等しくなると、2つの積分期間のタイミングとパルスPのタイミングとの間で同期が取れたと判断し、初期同期処理を終了する。
【0045】
続いて、2つの積分期間をパルスPに対して遅れ方向に同時に徐々に変化する場合について説明する。2つの積分期間がパルスPに対して遅れ方向に変化されていくと、第2のデジタル信号AD2に歪みがあるため、先に第1のデジタル信号AD1が大きくなり、その後、第2のデジタル信号AD2が大きくなっていく。しかし、第1,2のデジタル信号AD1,AD2は閾値L3未満であるため、2つの積分期間はパルスPに対して遅れ方向にそのまま変化されていく。その後、第1,2のデジタル信号AD1,AD2の大小関係が反転し、第2のデジタル信号AD2が閾値L3以上なった場合、第2のデジタル信号AD2のほうが第1のデジタル信号AD1より大きいときは、2つの積分期間をパルスPに対して遅れ方向に変化し、第1のデジタル信号AD1のほうが第2のデジタル信号AD2より大きいときは、2つの積分期間をパルスPに対して進み方向に変化する。その後、第1のデジタル信号AD1と第2のデジタル信号AD2が等しくなると、2つの積分期間のタイミングとパルスPのタイミングとの間で同期が取れたと判断し、初期同期処理を終了する。
【0046】
一方、所定時間内に初期同期が取れなかった場合、本実施形態の無線受信装置は、閾値設定部51において閾値を設定しなおして、再度、初期同期の動作を行う。
【0047】
なお、初期同期処理において、積分ブロック3,3の積分期間のタイミングを変化させることにより、初期同期を行う例を示したが、n個の積分ブロック3〜3を用いて、n/2組の積分期間のタイミングを変化させることにより、初期同期を行うようにしてもよい。この場合、1組の積分期間をずらしながら初期同期を行う場合に比べて、初期同期処理の処理時間を約2/nにすることができる。
【0048】
次に、本実施形態の無線受信装置において初期同期処理が行われた後に同期を維持して信号追尾するための動作について説明する。無線送信装置(図示せず)や間欠駆動ゲート生成部6の水晶発信回路の周期の偏差などにより、検波信号KのパルスP(無線信号のパルス)の周期と、2つの積分期間の周期との間に差異が生じる場合があるため、検波信号KのパルスP(無線信号のパルス)のタイミングに対して2つの積分期間のタイミングにずれが生じ、このタイミングのずれは時間の経過とともに増大し、同期が取れなくなってしまう。
【0049】
そこで、本実施形態の無線受信装置では、無線信号の通信フレームF1(図3(a)参照)のうちビット同期用パルス配列F12、ユニークワードF13及びデータ部F14において、2つのデジタル信号AD1,AD2を用いて、2つの積分期間のタイミングがパルスPのタイミングと同期するように調整する。
【0050】
具体的には、同期制御部502は、通常状態では、2つの積分期間のタイミングを遅れ方向(又は進み方向)に例えば1ナノ秒ずつシフトさせるように制御している。このとき、2つのデジタル信号AD1,AD2の差分(AD1−AD2)を算出し、この差分(AD1−AD2)の極性を検出する。差分(AD1−AD2)の極性が反転したと判断した場合、2つの積分期間のタイミングを逆方向に例えば2ナノ秒シフトさせる。これらの動作を繰り返すことにより、2つの積分期間のタイミングと検波信号KのパルスPのタイミングの同期を維持する。
【0051】
以上、本実施形態によれば、初期同期を取った後、例えばデジタル信号(積分値)AD1,AD2に歪みが発生する部分を避ける方向に2つの積分期間のタイミングをシフトさせていき、2つのデジタル信号AD1,AD2の差分(AD1−AD2)の極性が反転したときに2つの積分期間のタイミングを逆方向にシフトさせることによって、同期を外すことなく安定にパルスを追尾することができる。
【0052】
また、通常状態で積分期間のタイミングをシフトさせようと想定していた方向に、デジタル信号AD1,AD2の歪みがあった場合、この歪みが発生する部分を避けるようにシフト方向を切り替えることができる。
【0053】
(実施形態2)
ところで、実施形態1の無線受信装置は、積分ブロックの積分値が急峻に変化する場合、1ビットのデータ分の時間ごとでは、上記積分値が大きく変化してしまう可能性がある。この場合、デジタル信号が小さくなってしまうため、同期が外れてしまうおそれがある。
【0054】
そこで、実施形態2の無線受信装置は、無線信号が、複数のパルスによって1ビットのデータを構成し、信号捕捉/追尾制御部501が、1ビットのデータにおいて、判定を複数回行うものである。つまり、本実施形態の無線受信装置では、データ1ビット分の時間ごとではなく、データ1ビットの半分の時間ごとに判定を行う。なお、実施形態1と同様の構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0055】
以上、本実施形態によれば、図6に示すように、無線信号のパルスの周期と2つの積分期間の周期の偏差が大きく且つ積分ブロック3,3のデジタル信号(積分値)AD1,AD2が急峻に変化する場合であっても、判定を行う頻度を短くすることによって、同期が外れてパルスロストとなるのを防止することができる。
【0056】
(実施形態3)
ところで、無線信号のデータについて、例えば、初期設定ではデータ1ビットが16マイクロ秒であったのに対し、データ1ビットを32マイクロ秒に設定変更された場合、実施形態1の無線受信装置では、上記設定変更後において、32マイクロ秒ごとに判定を行うことになる。その結果、同じデータ1ビットでも、設定変更後では設定変更前に比べて、判定を行う間隔が2倍になってしまうため、その間に無線信号のパルスのタイミングに対して積分期間のタイミングも2倍変化することから、同期が外れてしまうおそれがある。
【0057】
また、実施形態1の無線受信装置では、データ1ビットが16マイクロ秒であっても、シフト量に対するデジタル信号AD1,AD2の変化率が大きい場合、次の判定までの間にデジタル信号AD1,AD2が大きく変動する。
【0058】
そこで、実施形態3の無線受信装置は、信号捕捉/追尾制御部501が、判定を行う頻度を可変とするものである。つまり、本実施形態の無線受信装置では、信号捕捉/追尾制御部501が判定を行う頻度を、例えば外部のマイクロコンピュータからの設定で可変とするもので、通信速度の違いによるデータ1ビットの判定時間の差異を補完するものである。具体的には、1ビットが32マイクロ秒であった場合、判定頻度を16マイクロ秒とすることである。なお、実施形態1と同様の構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0059】
以上、本実施形態によれば、判定を行う頻度が多い場合、雑音などが原因で、判定を誤る確率が高くなるが、判定を行う頻度を可変とすることにより、積分ブロック3,3の積分値の急峻度合いに応じた頻度を選択することができ、最適な受信を実現することができる。また、判定を行う間隔を短くすることによって、デジタル信号AD1,AD2の変動幅を小さくすることができるので、誤り率を低減させることができる。
【0060】
(実施形態4)
実施形態4の無線受信装置は、信号捕捉/追尾制御部501が、2つのデジタル信号(積分値)AD1,AD2の差分(AD1−AD2)が大きくなると逆方向へのシフト量を大きくするように、位相制御部7を制御する点で、実施形態1の無線受信装置と相違している。なお、実施形態1と同様の構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0061】
本実施形態の無線受信装置は、デジタル信号AD1,AD2の差分(AD1−AD2)の極性を判定するだけでなく、デジタル信号AD1,AD2のうち大きい値に対する差分(AD1−AD2)の割合に応じてシフト量を算出し、算出したシフト量だけシフトさせるものである。図7に示すように、パルスのタイミングに対する2つの積分期間のタイミングのシフト量は、2つのデジタル信号AD1,AD2の差分(AD1−AD2)と関連しているため、デジタル信号AD1に対する差分(AD1−AD2)の割合に応じて、2つの積分期間のタイミングをシフトさせる。
【0062】
例えば、デジタル信号AD1に対する差分(AD1−AD2)の割合が50%である場合、2つの積分期間を3ナノ秒、60%の場合に2ナノ秒、80%の場合に1ナノ秒だけ遅れ方向にシフトさせる。そして、差分(AD1−AD2)が90%以上の場合、2つの積分期間をシフトさせないように制御する。
【0063】
以上、本実施形態によれば、2つのデジタル信号(積分値)AD1,AD2の差分が大きい場合、つまりパルスの周期と積分期間の周期の偏差が大きい場合、2つの積分期間を固定のシフト量ではなく、2つのデジタル信号AD1,AD2の差分(AD1−AD2)に応じてシフト量を選択することによって、精度よく同期を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】実施形態1〜4の無線受信装置の構成を示すブロック図である。
【図2】同上の無線受信装置における信号処理部の構成を示すブロック図である。
【図3】同上の無線受信装置で受信される無線信号を示す図である。
【図4】同上の無線受信装置における同期について説明するための図である。
【図5】実施形態1の無線受信装置における受信エネルギーと閾値との関係を示す図である。
【図6】実施形態2の無線受信装置における受信エネルギーと閾値との関係を示す図である。
【図7】実施形態4の無線受信装置における受信エネルギーと閾値との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0065】
1 アンテナ
2 検波ブロック
〜3 積分ブロック
30〜30 積分回路
5 信号処理部
7 位相制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の極短パルスからなるパルスを所定周期で間欠的に有する無線信号と同期して受信し当該無線信号に含まれているデータを復調する無線受信装置であって、
前記無線信号を受信する受信手段と、
前記受信手段で受信された信号を包絡線検波し、前記複数の極短パルスの包絡線であるパルスを含む検波信号を出力する検波手段と、
それぞれが、前記検波手段から出力された検波信号を同じ長さの積分期間において積分し、積分値を出力する積分回路を有する1対の積分ブロックと、
前記1対の積分ブロックのうち一方の積分期間のタイミングを他方の積分期間のタイミングより進み方向にずらした状態で前記2つの積分期間のタイミングを同時に変化させるタイミング制御手段と、
前記2つの積分期間のタイミングを前記検波信号のパルスのタイミングと初期同期させる初期同期手段と、
前記初期同期手段で同期させられた前記2つの積分期間の合成期間の中心を検出期間の中心とし、前記検出期間内の前記パルスの有無を検出して前記無線信号に含まれているデータを復号する復号手段と、
前記初期同期手段によって前記初期同期が取られた後、通常状態では前記2つの積分期間のタイミングを前記検波信号のパルスのタイミングに対して進む方向又は遅れる方向の何れかの方向に一定シフト量ずつシフトさせるように前記タイミング制御手段を制御し、前記2つの積分値の差分の極性が反転したか否かの判定を行う一方、前記2つの積分値の差分の極性が反転したと判定した場合、前記2つの積分期間のタイミングを前記検波信号のパルスのタイミングに対して逆方向に前記一定シフト量より大きいシフト量をシフトさせるように前記タイミング制御手段を制御する同期維持手段と
を備えることを特徴とする無線受信装置。
【請求項2】
前記無線信号は、複数の前記パルスによって1ビットのデータを構成し、
前記同期維持手段は、前記1ビットのデータにおいて、前記判定を複数回行う
ことを特徴とする請求項1記載の無線受信装置。
【請求項3】
前記同期維持手段は、前記判定を行う頻度を可変とすることを特徴とする請求項1記載の無線受信装置。
【請求項4】
通常状態で前記2つの積分期間のタイミングをシフトさせる方向を選択可能とする選択手段を備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の無線受信装置。
【請求項5】
前記同期維持手段は、前記2つの積分値の差分が大きくなると逆方向へのシフト量を大きくするように前記タイミング制御手段を制御することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の無線受信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−130387(P2009−130387A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−299680(P2007−299680)
【出願日】平成19年11月19日(2007.11.19)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】