説明

無線測位システム

【課題】無線測位システムを設置する作業者の負担を軽減させ、環境が変化した場合であっても精度よく移動端末の位置座標を測位すること。
【解決手段】無線測位システムは、初期設定時において、位置座標が未知の基地局が存在する場合にでも、計算サーバ200が、位置座標が既知の基地局と位置座標が未知の基地局との間で双方向通信を行って各基地局間の距離を求め、基地局の位置座標を算出する。そして、基地局が位置座標が既知の基地局にて移動端末80から送信される送信パルスを受信し、受信時刻の差から移動端末80の位置座標を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、位置座標が既知である複数の基地局にて移動端末からの電波を受信し、各基地局が電波を受信した受信時刻の時間差に基づいて前記移動端末の位置座標を求める無線測位システムに関し、特に、無線測位システムを設置する作業者の負担を軽減させ、環境が変化した場合であっても精度よく移動端末の位置座標を測位可能な無線測位システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、複数の基地局を用いて移動端末の位置座標を求める(測位する)無線測位システムが考案されている。そして、この無線測位システムによって移動端末の位置座標を測位する方式の1つとして、到着時間差(TDOA;Time Difference Of Arrival)方式がある。
【0003】
ここで、TDOA方式によって移動端末の位置座標を測位する従来の無線測位システムについて説明する。図16は、従来の無線測位システムの構成を示すブロック図である。同図に示すように、この無線測位システムは、移動端末(タグ)5と、基地局10〜50と、計算サーバ60とを備える。
【0004】
TDOA方式では、まず、位置座標が未知である移動端末5からパルス波を送信する。この送信されたパルス波(以下、送信パルス)を、位置座標が既知である基地局にて受信する。複数(例えば、2次元の位置を測定する場合には、最低3個)の基地局を測定範囲内に配置して、送信パルスの受信時刻を各基地局で測定する。
【0005】
計算サーバ60は、各基地局で測定された受信時刻を取得し、移動端末5の測位計算を行う。具体的に、計算サーバ60は、各基地局における送信パルスの受信時刻から、2基地局間の時間差(伝搬時間差)を求め、この時間差から双曲線を得る。そして、計算サーバ60は、複数の双曲線の交点に対応する位置を移動端末5の位置座標として算出している。
【0006】
上記したようなTDOA方式によって移動端末5の位置座標を測位するには、各基地局10〜50の位置が正確に求まっている必要がある。また、伝搬時間差を求めるためには、測位計算に必要な時間精度と同程度以上の精度で、基地局間の時計(タイマ)が一致している必要がある。
【0007】
各基地局の時計を一致させるために、従来の無線測位システムは、特定の基地局10を時間基準局とし、時間基準局から時間基準用パルスを送信して、各基地局20〜50が時間基準用パルスを受信し、時計合わせを行う方法がとられている。測位のための初期設定と同様に、時計合わせを行うためには、全ての基地局10〜50の位置座標が正確にわかっている必要がある。
【0008】
なお、時間基準局からの時間基準用パルスの送信方法としては、定期的に時間基準用パルスを送信する場合や、特許文献1に記載されているように、移動端末からの測位パルスを受けた場合に、時間基準用パルスを送信する(つまり、時間基準用パルスを不定期に送信する)場合等がある。
【0009】
【特許文献1】特開2005−140617号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述した従来の技術では、移動端末の位置座標を正確に測位するために、無線測位システムに含まれる全基地局の位置座標を正確に管理しておく必要があると共に、時間基準用パルスが全基地局に届くように、時間基準局の位置を設定する必要があるため、作業者に面倒な作業を強い、時間基準局の制約により無線測位システムの設置をスムーズに実施することができないという問題があった。
【0011】
さらに、時間基準局を決定後、測位を開始した場合であっても、利用する環境の変化(例えば、障害物になるようなものが新たに設置された場合など)が原因となり、時間基準局からの時間基準用パルスを全ての基地局が受信できなくなる場合もある。図17は、従来の問題点を説明するための図である。
【0012】
図17に示すような場合には、障害物により基地局40に時間基準用パルスが届かず、基地局40の時計合わせを行うことができなくなり、時間差の計算時の誤差が大きくなることから、移動端末の測位時に、基地局40の受信時刻を利用することができなくなる。そのため、基地局が無駄になり、測位精度が悪くなるという問題も生じてしまう。
【0013】
すなわち、無線測位システムを設置する作業者の負担を軽減させ、環境が変化した場合であっても精度よく移動端末の位置座標を測位することが極めて重要な課題となっている。
【0014】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するためになされたものであり、作業者の負担を軽減させ、環境が変化した場合であっても精度よく移動端末の位置座標を測位することができる無線測位システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本発明は、位置座標が既知である複数の基地局にて移動端末からの電波を受信し、各基地局が電波を受信した受信時刻の時間差に基づいて前記移動端末の位置座標を求める無線測位システムであって、位置座標が既知または未知である第1の基地局と位置座標が既知または未知である第2の基地局との間で電波の送受信を行い、基地局間の距離を測定する距離測定手段と、前記距離測定手段の測定結果に基づいて前記第1または第2の位置座標が未知の基地局の位置座標を算出する位置座標算出手段と、前記距離測定手段の測定結果に基づいて前記受信時刻の時間差を求める場合に利用される時間基準パルスを送信する基地局を判定し、判定した基地局から前記時間基準パルスを送信させる判定制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、上記発明において、前記判定制御手段は前記測定結果に基づいて基地局ごとに他の基地局との距離の最大値を算出し、算出した各最大値のうち最も小さい最大値となる基地局を、前記時間基準パルスを送信する基地局として判定することを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、上記発明において、前記複数の基地局の中から基地局を選択し、選択した基地局からの距離を測定可能な他の基地局の数を計数する計数手段を更に備え、前記判定制御手段は前記計数手段の計数結果に基づいて距離を測定可能な他の基地局の数が最大となる基地局を、前記時間基準パルスを送信する基地局として判定することを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、上記発明において、前記判定制御手段は基地局ごとに,前記距離測定手段にて複数回、他基地局との距離測定を行い、その測定結果のばらつきを算出するとともに、複数のばらつきからその最大値を算出し、算出した各ばらつきの最大値のうち最も小さい最大値となる基地局を、前記時間基準パルスを送信する基地局として判定することを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、上記発明において、前記時間基準パルスを受信する基地局の受信状況を監視する受信状況監視手段を更に備え、前記判定制御手段は前記受信状況監視手段の監視結果に基づいて前記基地局が所定時間以上前記時間基準パルスを受信していない場合に、前記時間基準パルスを送信する基地局を切り替えることを特徴とする。
【0020】
また、本発明は、上記発明において、前記判定制御手段は前記測定結果および前記監視結果に基づいて前記時間基準パルスを送信する基準局の優先順位を判定し、判定した優先順位に基づいて前記時間基準パルスを送信する基準局を切り替えることを特徴とする。
【0021】
また、本発明は、上記発明において、前記判定制御手段は第1のタイミングおよび第2のタイミングで前記時間基準パルスを異なる基地局からそれぞれ送信し、前記第1のタイミングで送信された時間基準パルスに対する各基地局の受信状況と前記第2のタイミングで送信された時間基準パルスに対する各基地局の受信状況に基づいて前記時間基準パルスを送信する基地局を判定することを特徴とする。
【0022】
また、本発明は、上記発明において、前記距離測定手段は所定の時間ごとに各基地局間の距離を測定することを特徴とする。
【0023】
また、本発明は、上記発明において、前記距離測定手段は前記時間基準パルスが送信されるタイミングとは異なるタイミングによって各基地局間の距離を測定することを特徴とする。
【0024】
また、本発明は、上記発明において、前記基地局間の無線通信および各基地局と前記移動端末との無線通信はUWB(Ultra Wide Band)パルスを用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、第1の基地局と第2の基地局との間で電波の送受信を行い、基地局間の距離を測定し、測定結果に基づいて第1または第2の位置座標が未知である基地局の位置座標を算出する。また、基地局間の距離の測定結果に基づいて受信時刻の時間差を求める場合に利用される時間基準パルスを送信する基地局を判定し、判定した基地局から時間基準パルスを送信させるので、無線測位システムを設置する作業者の負担を軽減させ、環境が変化した場合であっても精度よく移動端末の位置座標を測位することができる。
【0026】
また、本発明によれば、基地局間の距離の測定結果に基づいて基地局ごとに他の基地局との距離の最大値を算出し、算出した各最大値のうち最も小さい最大値となる基地局を、時間基準パルスを送信する基地局として判定するので、基地局にて時間基準パルスを安定に受信することができ、移動端末の測位精度を向上させることができる。
【0027】
また、本発明によれば、複数の基地局の中から基地局を選択し、選択した基地局からの距離を測定可能な他の基地局の数を計数し、計数結果に基づいて距離を測定可能な他の基地局の数が最大となる基地局を、時間基準パルスを送信する基地局として判定するので、より多くの基地局に時間基準パルスを送信することができ、移動端末の測位精度を向上させることができる。
【0028】
また、本発明によれば、基地局間の距離の測定結果に基づいて基地局ごとに他の基地局との距離のばらつきの最大値を算出し、算出した各ばらつきの最大値のうち最も小さい最大値となる基地局を、時間基準パルスを送信する基地局として判定するので、基地局にて安定に時間基準パルスを受信することができ、移動端末の測位精度を向上させることができる。
【0029】
また、本発明によれば、時間基準パルスを受信する基地局の受信状況を監視し、監視結果に基づいて基地局が所定時間以上、時間基準パルスを受信していない場合に、時間基準パルスを送信する基地局を切り替えるので、移動端末に対する測位精度を向上させることができる。
【0030】
また、本発明によれば、測定結果および監視結果に基づいて時間基準パルスを送信する基準局の優先順位を判定し、判定した優先順位に基づいて時間基準パルスを送信する基準局を切り替えるので、効率よく時間基準パルスを送信する基地局を判定することができる。
【0031】
また、本発明によれば、第1のタイミングおよび第2のタイミングで時間基準パルスを異なる基地局からそれぞれ送信し、第1のタイミングで送信された時間基準パルスに対する各基地局の受信状況と第2のタイミングで送信された時間基準パルスに対する各基地局の受信状況に基づいて時間基準パルスを送信する基地局を判定するので、時間基準パルスを送信する基地局を効率よく切り替えることができる。
【0032】
また、本発明によれば、所定の時間ごとに各基地局間の距離を測定するので、測位精度を向上させることができる。
【0033】
また、本発明によれば、時間基準パルスが送信されるタイミングとは異なるタイミングによって各基地局間の距離を測定するので、測位精度を向上させることができる。
【0034】
また、本発明によれば、基地局間の無線通信および各基地局と移動端末との無線通信はUWB(Ultra Wide Band)パルスを用いるので、測位精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下に添付図面を参照して、この発明に係る無線測位システムの好適な実施の形態を詳細に説明する。
【実施例】
【0036】
まず、本実施例にかかる無線測位システムの概要および特徴について説明する。図1は、本実施例にかかる無線測位システムの概要および特徴を説明するための図である。本実施例にかかる無線測位システムは、初期設定時において、位置座標が未知の基地局(例えば、基地局100d〜100g)が存在する場合にでも、位置座標が既知の基地局(例えば、基地局100a〜100c)と位置座標が未知の基地局との間で双方向通信を行って各基地局間の距離を求め、基地局100d〜100gの位置座標を算出する(例えば、三角測量を利用して算出する)。
【0037】
そして、位置座標が既知の基地局100a〜100gにて移動端末80から送信される送信パルスを受信し、受信時刻の差から移動端末80の位置座標を算出する。また、本実施例1にかかる無線測位システムは、各基地局の時間基準用パルス(基地局100a〜100gのタイマを一致させるためのパルス)の受信状況を監視し、時間基準用パルスの受信状況に応じて時間基準用パルスを送信する基地局(以下、時間基準局と表記する)を切り替える。
【0038】
例えば、無線測位システムの初期設定時に基地局100aを時間基準局として運用している状況下において、障害物70の影響により基地局100aからの時間基準パルスが基地局100eに送信されなくなった場合に、時間基準局となる基地局を他の基地局に動的に切り替える。例えば、基地局100bからの時間基準用パルスが各基地局100a〜100bに送信可能である場合(時間基準用パルスを受信可能な基地局の数が、基地局100aから時間基準用パルスを送信するよりも、基地局100bから時間基準用パルスを送信したほうが多い場合)には、時間基地局を基地局100aから基地局100bに切り替える。
【0039】
このように、本実施例にかかる無線測位システムは、初期設定時において、位置座標が未知の基地局が存在する場合であっても、位置座標が既知の基地局と未知の基地局との間で双方向通信を行って各基地局間の距離を求め、基地局の位置座標を算出するので、作業者が無線測位システムの全ての基地局の位置座標を予め設定しておく必要がなくなる(必要最低限の基地局の位置座標のみを求めておけば良い)ので、作業者の負担を軽減させ、無線測位システムの設置を効率よく実施できると共に、測位精度を向上させることができる。
【0040】
また、本実施例にかかる無線測位システムは、各基地局の時間基準用パルスに対する受信状態を監視し、受信状態に応じて時間基準局を切り替えるので、各基準局を有効に利用することができると共に、測位精度を向上させることができる。
【0041】
次に、本実施例にかかる無線測位システムのシステム構成について説明する。図2は、本実施例にかかる無線測位システムの構成を示す図である。同図に示すように、この無線測位システムは、移動端末80と、基地局100a〜100gと、計算サーバ200とを備える。ここでは、一例として、基地局100a〜100gのみを示すが、この無線測位システムは、その他の基地局も備えているものとする。
【0042】
このうち、移動端末80は、各基地局100a〜100gに対して送信パルスを送信する装置である。基地局100a〜100gは、計算サーバ200に接続され、移動端末80から送信される送信パルスを受信して、移動端末80の位置座標算出にかかる各種のデータを計算サーバ200に出力する装置である。計算サーバ200は、基地局100a〜100gから出力される各種のデータに基づいて移動端末80の位置座標を算出する装置である。
【0043】
ここで、移動端末80、基地局100a〜100g、計算サーバ200の具体的な構成について順に説明する。まず、移動端末80の構成について説明する。図3は、移動端末80の構成を示す機能ブロック図である。
【0044】
図3に示すように、この移動端末80は、タイミングパルス生成部81と、送信部82と、アンテナ83とを備えて構成される。タイミングパルス生成部81は、送信パルスのパルス列をPPM(Pulse Position Modulation)変調で作成するためのタイミングパルスを生成する手段である。
【0045】
送信部82は、タイミングパルス生成部81からタイミングパルスを取得し、取得したタイミングパルスのタイミングに応じたパルス列を有する送信パルスを生成し、アンテナ83から送信パルス(例えば、UWB(Ultra Wide Band)のインパルス電波)を出力する手段である。
【0046】
続いて、基地局100a〜100gの構成について説明する。なお、基地局100a〜100gは、同一の構成であるため、ここでは基地局100aの構成について説明し、基地局100b〜100gの説明は省略する。図4は、基地局100aの構成を示す機能ブロック図である。
【0047】
図4に示すように、この基地局100aは、アンテナ101,102と、受信部103と、送信部104と、タイマ105と、受信時刻測定部106と、移動端末受信時刻保持部107と、時間基準用パルス受信時刻保持部108と、距離測定パルス受信時刻保持部109と、距離測定パルスタイミング生成部110と、時間基準用パルスタイミング生成部111とを備えて構成される。
【0048】
このうち、受信部103は、アンテナ101を介して、移動端末80から送信される送信パルス、時間基準用パルス、距離測定パルス(基地局間の距離を測定する場合に用いられるパルス)などを受信する手段である。受信部103は、UWBのインパルス電波を受信可能なものとする。受信部103は、受信したインパルス電波をデジタル化し、受信時刻測定部106に出力する。
【0049】
送信部104は、アンテナ102を介して、時間基準用パルス、距離測定パルスなどを送信する手段である。送信部104は、UWBのインパルス電波を送信可能なものとする。
【0050】
タイマ105は、時刻情報を、受信時刻測定部106、距離測定パルスタイミング生成部110、時間基準用パルスタイミング生成部111に出力する手段である。このタイマ105によって生成される受信時刻は、後述する計算サーバ200における測位計算時に計算サーバ内で時刻の補正が行われる。
【0051】
受信時刻測定部106は、各種パルス信号(送信パルス列、時間基準用パルス列、距離測定パルス列)を取得し、各種パルス信号を取得した時刻を測定する手段である。受信時刻測定部106は、複数のパルスで構成される送信パルス列(受信部103が受信した各種パルス信号)とパルス列のパターンが既知のパルス列とで時間的な相関をとることで、タイミング同期を取ると共に、送信パルス列内の所定のタイミングパルスを受信した時刻を受信時刻とする。
【0052】
なお、受信時刻測定部106は、予め、各種のパルスパターンを保持しており、かかるパルスパターンと、受信部103から取得した各種パルス信号のパルスパターンとを比較することで、各種パルス信号の種類(送信パルス、時間基準用パルス、距離測定パルス)を判定する。また、各種のパルス列内に含まれるデータの復調機能(PPM変調の復調)も備える。例えば、距離測定パルス列には、距離測定パルス列の送信元の基地局識別番号などが含まれる。
【0053】
受信時刻測定部106は、送信パルスの受信時刻とパルス列内に含まれるデータを移動端末受信時刻保持部107に出力し、時間基準用パルスの受信時刻とパルス列内に含まれるデータを時間基準用パルス受信時刻保持部108に出力し、距離測定パルスの受信時刻とパルス列内に含まれるデータを距離測定パルス受信時刻保持部109に出力する。
【0054】
移動端末受信時刻保持部107は、受信時刻測定部106から送信パルスの受信時刻とパルス列内に含まれるデータを取得し、取得した送信パルスの受信時刻とパルス列内に含まれるデータを保持する手段である。また、移動端末受信時刻保持部107は、送信パルスの受信時刻とパルス列内に含まれるデータを計算サーバ200に出力する。
【0055】
時間基準用パルス受信時刻保持部108は、受信時刻測定部106から時間基準用パルスの受信時刻とパルス列内に含まれるデータを取得し、取得した時間基準用パルスの受信時刻とパルス列内に含まれるデータを保持する手段である。また、時間基準用パルス受信時刻保持部108は、時間基準用パルスの受信時刻とパルス列内に含まれるデータを計算サーバ200に出力する。
【0056】
距離測定パルス受信時刻保持部109は、受信時刻測定部106から距離測定パルスの受信時刻とパルス列内に含まれるデータを取得し、取得した距離測定パルスの受信時刻とパルス列内に含まれるデータを保持する手段である。また、距離測定パルス受信時刻保持部109は、距離測定パルスの受信時刻とパルス列内に含まれるデータを計算サーバ200に出力する。
【0057】
距離測定パルスタイミング生成部110は、計算サーバ200からの設定に基づいて距離測定パルスの送信制御を行う手段である。また、距離測定パルスタイミング生成部110は、他の基地局から送信された自局(図4に示す例では基地局100a)への距離測定パルスを受信した場合に、距離測定パルスを送信元の基地局に返信する。各基地局の距離測定パルスタイミング生成部110が距離測定パルスの双方向通信を実行することによって、基地局間の距離を測定することができる。
【0058】
なお、距離測定パルスタイミング生成部110は、距離測定パルス受信時刻保持部109のパルス列内に含まれるデータから送信元の基地局を判定する。
【0059】
時間基準用パルスタイミング生成部111は、計算サーバ200からの設定に基づいて時間基準用パルスの送信制御を行う手段である。各基地局が時間基準用パルスタイミング生成部111を備えており、計算サーバ200からの設定によって時間基準用パルスを送信することができるので、各基地局が時間基準局の機能を実現することができる。
【0060】
続いて、計算サーバ200の構成について説明する。図5は、計算サーバ200の構成を示す機能ブロック図である。同図に示すように、この計算サーバ200は、記憶部210と、制御部220とを備えて構成される。
【0061】
記憶部210は、制御部220による各種処理に必要なデータおよびプログラムを記憶する記憶手段(格納手段)であり、特に本発明に密接に関連するものとしては、図5に示すように、管理テーブル211および候補リストテーブル212を備える。
【0062】
管理テーブル211は、各基地局100a〜100gの位置座標、各基地局間の距離等のデータを記憶するテーブルである。図6は、管理テーブル211のデータ構造の一例を示す図である。同図に示すように、この管理テーブル211は、基地局識別番号と、位置座標と、測定対象基地局と、距離と、最大距離と、距離測定可能数と、ばらつきとを備える。
【0063】
図6において、基地局識別番号は、各基地局100a〜100gを識別する情報であり、本実施例では、基地局識別番号「10001」が基地局100aに対応し、基地局識別番号「10002」が基地局100bに対応し、・・・基地局識別番号「10007」が基地局100gに対応するものとする。
【0064】
位置座標は、基地局の位置座標の情報である。また、測定対象基地局は、距離を測定する対象となる基地局の情報であり、距離は、基地局から測定対象となる基地局までの距離の情報である。例えば、図6の1段目の距離フィールドには、基地局識別番号「10001」から測定対象基地局「10002」までの距離の情報が格納される。なお、基地局から測定対象となる基地局までの距離を複数回測定している場合には、測定した距離の平均値が距離フィールドに格納される。
【0065】
最大距離は、基地局(例えば、基地局100a)から測定対象となる各基地局(基地局100b〜100g)までの距離のうち最大となる距離の情報を示す。距離測定可能数は、距離を測定可能な基地局の数を示す。例えば、基地局100aに対応する距離測定可能数は、基地局100aから距離を測定可能な基地局の数を示す。そして、例えば、基地局100aから各基地局100b〜100gまでの距離を全て測定できる場合には、基地局100aに対応する距離測定可能数は「6」となる。
【0066】
ばらつきは、複数回各基地局間の距離を測定した場合のばらつき(例えば、標準偏差など)を示す。例えば、基地局100aから基地局100bまでの距離を複数回測定した場合には、測定した複数の距離の情報を基にしてばらつきを周知の方法で算出する。
【0067】
候補リストテーブル212は、時間基準用パルスを送信する基地局を基地局100a〜100gから選択する場合の基地局の優先順位を記憶するテーブルである。図7は、候補リストテーブル212のデータ構造の一例を示す図である。同図に示すように、この候補リストテーブル212は、優先順位と基地局識別情報とを対応付けて記憶している。
【0068】
図5の説明に戻ると、制御部220は、各種の処理手順を規定したプログラムや制御データを格納するための内部メモリを有し、これらによって種々の処理を実行する手段であり、特に本発明に密接に関連するものとしては、図5に示すように、測位計算部221と、時間基準用パルス受信モニタ部222と、時間基準局制御部223と、時刻補正部224と、距離測定制御部225と、を備えて構成される。
【0069】
このうち、測位計算部221は、周知のTDOA方式によって、移動端末80の位置座標を算出する手段である。すなわち、測位計算部221は、各基地局100a〜100gから送信パルスの受信時刻を取得し、各基地局の受信時間の時間差と、管理テーブル211に記憶された各基地局の位置座標とを基にして移動端末80の位置座標を算出する。
【0070】
時間基準用パルス受信モニタ部222は、各基地局100a〜100gの時間基準用パルスの受信の有無を監視し、所定時間連続して時間基準用パルスを受信しない基準局が所定数以上となった場合に、時間基準局の再設定を行うためのトリガ(再設定トリガ)を発生させる手段である。
【0071】
具体的に、時間基準用パルス受信モニタ部222は、各基地局100a〜100gの時間基準用パルス受信時刻保持部108から時間基準用パルスの受信時刻を取得し、かかる受信時刻が所定時間連続して更新されていない基地局が所定数以上となった場合に、再設定トリガを発生させる。
【0072】
図8および図9は、時間基準用パルスの受信状態の変化を説明するための図である。図8に示すように、初期設定の段階で、基地局100aが時間基準局に設定されている状況下において、障害物70が移動した場合、基地局100aから基地局100eまでの送信経路が遮断され、図9に示すように、基地局100eは、時間基準用パルスを受信することができなくなる。このような状態となる基地局が所定数以上となった場合に、時間基準用パルス受信モニタ部222は、再設定トリガを発生させる。
【0073】
なお、時間基準用パルス受信モニタ部222は、候補局(候補局については後述する)から送信される時間基準用パルスの受信状態も監視し、かかる候補局が時間基準局に適しているか否かを判定し、判定結果を時間基準局制御部223に出力する。例えば、時間基準用パルス受信モニタ部222は、候補局から送信された時間基準用パルスを所定時間連続して受信する基地局が所定数以上となる場合に、候補局を次の時間基準局に適していると判定する。
【0074】
時間基準局制御部223は、時間基準用パルス受信モニタ部222によって再設定トリガが発生した場合に、基地局100a〜100gから時間基準局を選択し、選択した時間基準局による時間基準用パルスの送信を制御する手段である。
【0075】
具体的に、時間基準局制御部223は、再設定トリガが発生した場合に、候補リストテーブル212(図7参照)を参照し、現在の時間基準局に設定されている基地局の次に優先順位が高い基地局を新たな時間基準局に設定する。例えば、図7において、優先順位が「1」である基地局100a(基地局識別番号「10001」)が現在の時間基準局に設定されている状態で、再設定トリガが発生した場合には、優先順位が「2」である基地局100c(基地局識別番号「10003」)を新たな時間基準局に設定する。
【0076】
また、時間基準局制御部223は、新たな時間基準局を選択した場合に、選択した時間基準局の次に優先順位の高い基準局を候補局として選択する。そして、時間基準局から送信される時間基準用パルスの時間タイミングとは異なるタイミングで、候補局から時間基準用パルスを送信させる。例えば、図7において、基準局100c(基地局識別番号「10003」)を新たに時間基準局に設定した場合に、次に優先順位の高い基地局100d(基地局識別番号「10004」)を候補局として選択する。
【0077】
図10は、時間基準局から送信される時間基準用パルスと候補局から送信される時間基準用パルスとのタイミングを示す図である。同図に示すように、時間基準局から出力される時間基準用パルスのパルス列と候補局から出力される時間基準用パルスのパルス列とが所定時間ずれている。但し、パルスの周期は双方の時間基準用パルスともTで同一とする。
【0078】
このように、時間基準局制御部223が、候補局から送信される時間基準用パルスを送信させることで、候補局が時間基準局に適しているか否かを前もって判断することができ、時間基準局の切り替えを効率よく実施することができる。すなわち、時間基準局制御部223が、前もって候補局から時間基準用パルスを送信させておき、候補局が時間基準局に適していないと時間基準用パルス受信モニタ部に判定されている場合には、かかる候補局を飛ばして、次に優先順位の高い基準局を時間基準局の候補として切り替えるので、時間基準局の選択を効率よく実行することができる。
【0079】
図5の説明に戻ると、時刻補正部224は、各基地局100a〜100gを制御し、基地局毎に、基地局が受信した時間基準用パルスを基にして基地局のタイマによって得られる受信時刻を補正する手段である。時間補正部224が時間基準パルスを基にして受信時刻を補正する手法は周知の手法を用いればよい。
【0080】
距離測定制御部225は、各基地局100a〜100gから距離測定パルスを送信させて、各基地局間の距離、基地局の位置座標等を算出すると共に、管理テーブル211および候補リストテーブル212を管理する手段である。
【0081】
まず、距離測定制御部225が各基地局間の距離を算出する方法について説明する。また、ここでは、説明の便宜上、基地局100aと基地局100bとの距離の算出方法を例にして説明を行う。その他の基地局間の距離の算出方法は、基地局100aと基地局100bとの距離の算出方法と同様であるため説明を省略する。
【0082】
距離測定制御部225は、基地局100aが基地局100bに対して距離測定パルスを送信した時刻Tと、基地局100bが距離測定パルスを基地局100aから受信した時刻Tと、基地局100bが距離測定パルスの応答パルスを基地局100aに送信した時刻Tと、基地局100aが応答パルスを基地局100bから受信した時刻Tを基地局100aおよび基地局100bから取得する。
【0083】
そして、距離測定制御部225は、
【数1】

を用いて基地局間の距離Lを算出する。なお、式(1)に含まれるcは、音速を示す。距離測定制御部225は、式(1)を用いて各基地局間の距離を複数回算出し、算出した距離の平均値を各基地局間の距離として管理テーブル211に登録する。また、距離測定制御部225は、算出した複数の距離を基にして、各基地局間の距離のばらつき(例えば、標準偏差など)を算出し、算出したばらつきを管理テーブル211に登録する。
【0084】
また、距離測定制御部225は、各基地局間の距離に基づいて、各基地局の最大距離および距離測定可能数を算出し、算出した値を、管理テーブル211の最大距離フィールドおよび距離測定可能数フィールドに登録する。
【0085】
続いて、距離測定制御部225が、位置座標が未知の基地局の位置座標を算出する手法について説明する。すべての基地局が同一平面内にあり,二次元で計算ができるものとして説明すると,距離測定制御部225が、基地局の距離を算出する手法は、2個の基地局の位置座標と1個の基地局の方向とを用いる方法や、3個の基地局の位置座標を用いる方法等がある。
【0086】
ここでは、3個の基地局の位置座標を用いる方法について説明する。この方法では、無線測位システムを構成する各基地局のうち最低3個の基地局の位置座標が既知である必要がある。位置が既知である基地局3個との間で距離測定が可能となる基地局は、三角測量により位置座標を算出することができる。
【0087】
距離測定制御部225は、管理テーブル211を参照して、位置座標が既知となる基地局3個と、当該基地局との間で距離測定が可能であった基地局(位置座標が未知の基地局)とを全て検出し、三角測量を用いて各基地局の位置座標を順次算出する。なお、ここでは、三角測量を用いて各基地局の位置座標を算出する例を示したが、これに限定されるものではなく、最小二乗法を用いて各基地局の位置座標を算出してもよい。
【0088】
続いて、距離測定制御部225が、候補リストテーブル212を生成する処理について説明する。距離測定制御部225は、管理テーブル211を参照し、距離測定可能数、最大距離、ばらつきに基づいて、時間基準局の優先順位を判定する。
【0089】
距離測定制御部225は、距離測定可能数の多い基地局から距離測定可能数の少ない基地局の順で候補リストテーブル212を生成してもよいし、最大距離の小さい基地局から最大距離の大きい基地局の順で候補リストテーブル212を生成してもよいし、ばらつきの小さい基地局からばらつきの大きい基地局の順で候補リストテーブル212を生成してもよい。
【0090】
次に、本実施例にかかる計算サーバ200が基地局の位置座標を算出する処理について説明する。図11は、計算サーバ200が基地局の位置座標を算出する処理を示すフローチャートである。同図に示すように、計算サーバ200は、距離測定制御部225が管理テーブル211を参照して、送信元の基地局(距離測定パルスを送信する基地局)を決定し(ステップS101)、距離測定パルスを送信させる(ステップS102)。
【0091】
そして、距離測定制御部225は、各基地局間の距離を測定し、測定結果を管理テーブル211に保存し(ステップS103)、送信元の基地局以外の全ての基地局に距離測定パルスを送信したか否かを判定する(ステップS104)。
【0092】
全ての基地局に距離測定パルスを送信していない場合には(ステップS105,No)、ステップS102に移行する。一方、全ての基地局に距離測定パルスを送信している場合には(ステップS105,Yes)、全ての基地局を送信元の基地局として、距離測定を実行したか否かを判定する(ステップS106)。
【0093】
そして、実行していない場合には(ステップS107,No)、ステップS101に移行し、実行している場合には(ステップS107,Yes)、基地局間の距離および基地局の位置座標を用いて、未知の基地局の位置座標を算出する(ステップS108)。
【0094】
このように、距離測定制御部225が、基地局間で距離測定パルスを送信させて基地局間の距離を算出し、算出した基地局間の距離および基地局(位置座標が既存の基地局)の位置座標を用いて、未知の基地局の位置座標を算出するので、作業員は全ての基地局の位置座標を特定する必要がなくなり、作業員の負担を軽減させることができる。
【0095】
次に、本実施例にかかる計算サーバ200が時間基準局を選択する処理について説明する。図12は、計算サーバ200が時間基準局を選択する処理を示すフローチャートである。同図に示すように、計算サーバ200は、距離測定制御部225が管理テーブル211を参照して、送信元の基地局(距離測定パルスを送信する基地局)を決定し(ステップS201)、距離測定パルスを送信させる(ステップS202)。
【0096】
そして、距離測定制御部225は、各基地局間の距離を測定し、測定結果を管理テーブル211に保存し(ステップS203)、送信元の基地局以外の全ての基地局に距離測定パルスを送信したか否かを判定する(ステップS204)。
【0097】
全ての基地局に距離測定パルスを送信していない場合には(ステップS205,No)、ステップS202に移行する。一方、全ての基地局に距離測定パルスを送信している場合には(ステップS205,Yes)、全ての基地局を送信元の基地局として、距離測定を実行したか否かを判定する(ステップS206)。
【0098】
そして、実行していない場合には(ステップS207,No)、ステップS201に移行し、実行している場合には(ステップS207,Yes)、基地局間の距離および基地局の位置座標を用いて、未知の基地局の位置座標を算出する(ステップS208)。
【0099】
距離測定制御部225は、管理テーブル211を参照して基地局毎に距離を測定可能な基地局の数(距離測定可能数)を算出し(ステップS209)、距離を測定可能な基地局の数が最大となる基地局を時間基準局として選択する(ステップS210)。
【0100】
なお、ステップS210では、一例として、距離測定可能数が最大となる基地局を時間基準局として選択しているが、これに限定されるものではなく、最大距離が最小となる基地局を時間基準局として選択してもよいし、ばらつきが最小となる基地局を時間基準局として選択してもよい。
【0101】
次に、本実施例にかかる計算サーバ200が時間基準局を切り替える処理について説明する。図13は、計算サーバ200が時間基準局を切り替える処理を示すフローチャートである。同図に示すように、計算機サーバ200は、時間基準パルス受信モニタ部が、基地局が時間基準用パルスを受信したか否かを判定し(ステップS301)、受信している場合には(ステップS302,Yes)、未受信回数を0にセットしてステップS301に移行する。
【0102】
一方、基地局が時間基準用パルスを受信していない場合には(ステップS302,No)、かかる基地局が時間基準用パルスを所定時間連続して受信していないか否かを判定し(ステップS304)、所定時間内に時間基準用パルスを受信していた場合には(ステップS305,No)、ステップS301に移行する。
【0103】
所定時間連続して時間基準用パルスを受信していない場合は(ステップS305,Yes)、未受信回数に1を加算し(ステップS306)、未受信回数が所定数以上となったか否かを判定する(ステップS307)。
【0104】
未受信回数が所定数未満である場合には(ステップS308,No)、ステップS301に移行する。一方、未受信回数が所定数以上である場合には(ステップS308,Yes)、時間基準用パルス受信モニタ部222が再設定トリガを発生させて、時間基準局制御部223が時間基準局切替処理を実行する(ステップS309)。
【0105】
ここで、図13のステップS309に示した時間基準局切替処理について説明する。図14は、時間基準局切替処理の処理手順を示すフローチャートである。同図に示すように、時間基準局制御部223が候補リストテーブル212から時間基準局の候補となる候補局を選択し(ステップS401)、候補局から時間基準用パルスを送信させる(ステップS402)。
【0106】
そして、候補局以外の基地局において、候補局からの時間基準用パルスの受信結果を蓄積し(ステップS403)、所定の時間基準用パルスの送信が完了したか否かを判定し(ステップS404)、完了していない場合には(ステップS405,No)、ステップS402に移行する。
【0107】
一方、初手の時間基準用パルスの送信が完了した場合には(ステップS405,Yes)、候補局からの時間基準用パルスを受信可能な基地局の数を算出し(ステップS406)、現在の時間基準局から送信される時間基準用パルスを受信可能な基地局の数よりも候補局のほうが多いか否かを判定する(ステップS407)。
【0108】
受信可能な基地局の数が現在の時間基準局よりも候補局のほうが多い場合には(ステップS408,Yes)、現在の時間基準局からの時間基準用パルスの送信を終了し、候補局を新たな時間基準局に設定して、時間基準用パルスを送信させる(ステップS409)。
【0109】
一方、受信可能な基地局の数が現在の時間基準局よりも候補局のほうが少ない場合には(ステップS408,No)、候補リストテーブル212を参照して別の候補局が存在するか否かを判定し(ステップS410)、存在する場合には(ステップS411,Yes)、ステップS401に移行する。別の候補局が存在しない場合には(ステップS411,No)、候補局からの時間基準用パルスの送信を終了する(ステップS412)。
【0110】
このように、時間基準用パルス受信モニタ部222が、現在の時間基準局から送信される時間基準用パルスを受信可能な基地局の数と候補局から送信される時間基準用パルスを送信可能な基地局の数とを比較して時間基準局を切り替えるので、各基地局に時間基準用パルスを送信する最適な基地局を時間基地局として選択することができる。
【0111】
上述してきたように、本実施例にかかる無線測位システムは、初期設定時において、位置座標が未知の基地局が存在する場合にでも、計算サーバ200が、位置座標が既知の基地局と位置座標が未知の基地局との間で双方向通信を行って各基地局間の距離を求め、基地局の位置座標を算出する(例えば、三角測量を利用して算出する)。そして、基地局が位置座標が既知の基地局にて移動端末80から送信される送信パルスを受信し、受信時刻の差から移動端末80の位置座標を算出するので、作業者の負担を軽減させ、無線測位システムの設置を効率よく実施できると共に、測位精度を向上させることができる。
【0112】
また、本実施例1にかかる無線測位システムは、各基地局の時間基準用パルス(基地局100a〜100gのタイマを一致させるためのパルス)の受信状況を監視し、時間基準用パルスの受信状況に応じて時間基準用パルスを送信する基地局(以下、時間基準局と表記する)を切り替えるので、各基準局を有効に利用することができると共に、測位精度を向上させることができる。
【0113】
すなわち、本実施例にかかる無線測位システムは、基地局全てに時間基準用パルスと距離測定パルスを送受信する機能を備えることにより、基地局の座標を求めることができると共に、時間基準局の決定を自動化することができる。また、環境が変化した場合であっても時間基準局を動的に変更することで、安定して移動端末80の位置座標を算出することができる。
【0114】
ところで、本実施例において説明した各処理のうち、自動的に行われるものとして説明した処理の全部または一部を手動的に行うこともでき、あるいは、手動的に行われるものとして説明した処理の全部あるいは一部を公知の方法で自動的に行うこともできる。この他、上記文書中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各種のデータやパラメータを含む情報については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。
【0115】
また、図3、図4、図5に示した移動端末80、基地局100a、計算サーバ200の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。さらに、各装置にて行われる各処理機能は、その全部または任意の一部がCPUおよび当該CPUにて解析実行されるプログラムにて実現され、あるいは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現され得る。
【0116】
図15は、図5に示した計算サーバ200を構成するコンピュータのハードウェア構成を示す図である。図15に示すように、このコンピュータ400は、ユーザからのデータ入力を受け付ける入力装置401、モニタ402、RAM(Random Access Memory)403、ROM(Read Only Memory)404、記憶媒体からデータを読み取る媒体読取装置405、基地局との間でデータの送受信を行うネットワークインターフェース406、CPU(Central Processing Unit)407、HDD(Hard Disk Drive)408をバス409で接続して構成される。
【0117】
そして、HDD408には、上記した計算サーバ200の機能と同様の機能を発揮する測位制御プログラム408bが記憶されている。CPU407が、測位制御プログラム408bを読み出して実行することにより、計算サーバ200の制御部220の機能を実現する測位制御プロセス407aが起動される。この測位制御プロセス407aは、図5に示す測位計算部221、時間基準用パルス受信モニタ部222、時間基準局制御部223、時刻補正部224、距離測定制御部225に対応する。
【0118】
また、HDD408は、図5に示した、管理テーブル211、候補リストテーブル211に対応する各種データ408aが記憶される。CPU407は、HDD408に格納された各種データ408aを読み出して、RAM403に格納し、RAM403に格納された各種データ403aを用いて測位制御を実施する。
【0119】
ところで、図15に示した測位制御プログラム408bは、必ずしも最初からHDDに記憶させておく必要はない。たとえば、コンピュータに挿入されるフレキシブルディスク(FD)、CD−ROM、DVDディスク、光磁気ディスク、ICカードなどの「可搬用の物理媒体」、または、コンピュータの内外に備えられるハードディスクドライブ(HDD)などの「固定用の物理媒体」、さらには、公衆回線、インターネット、LAN、WANなどを介してコンピュータに接続される「他のコンピュータ(またはサーバ)」などに測位制御プログラム408bを記憶しておき、コンピュータがこれらから測位制御プログラム408bを読み出して実行するようにしてもよい。
【0120】
(付記1)位置座標が既知である複数の基地局にて移動端末からの電波を受信し、各基地局が電波を受信した受信時刻の時間差に基づいて前記移動端末の位置座標を求める無線測位システムであって、
第1の基地局と第2の基地局との間で電波の送受信を行い、基地局間の距離を測定する距離測定手段と、
前記距離測定手段の測定結果に基づいて前記第1または第2の位置座標が未知の基地局の位置座標を算出する位置座標算出手段と、
前記距離測定手段の測定結果に基づいて前記受信時刻の時間差を求める場合に利用される時間基準パルスを送信する基地局を判定し、判定した基地局から前記時間基準パルスを送信させる判定制御手段と、
を備えたことを特徴とする無線測位システム。
【0121】
(付記2)前記判定制御手段は前記測定結果に基づいて基地局ごとに他の基地局との距離の最大値を算出し、算出した各最大値のうち最も小さい最大値となる基地局を、前記時間基準パルスを送信する基地局として判定することを特徴とする付記1に記載の無線測位システム。
【0122】
(付記3)前記複数の基地局の中から基地局を選択し、選択した基地局からの距離を測定可能な他の基地局の数を計数する計数手段を更に備え、前記判定制御手段は前記計数手段の計数結果に基づいて距離を測定可能な他の基地局の数が最大となる基地局を、前記時間基準パルスを送信する基地局として判定することを特徴とする付記1または2に記載の無線測位システム。
【0123】
(付記4)前記判定制御手段は基地局ごとに前記距離測定手段にて複数回、他基地局との距離測定を行い、その測定結果のばらつきを算出するとともに、複数のばらつきからその最大値を算出し、算出した各ばらつきの最大値のうち最も小さい最大値となる基地局を、前記時間基準パルスを送信する基地局として判定することを特徴とする付記1、2または3に記載の無線測位システム。
【0124】
(付記5)前記時間基準パルスを受信する基地局の受信状況を監視する受信状況監視手段を更に備え、前記判定制御手段は前記受信状況監視手段の監視結果に基づいて前記基地局が所定時間以上前記時間基準パルスを受信していない場合に、前記時間基準パルスを送信する基地局を切り替えることを特徴とする付記1〜4のいずれか一つに記載の無線測位システム。
【0125】
(付記6)前記判定制御手段は前記測定結果および前記監視結果に基づいて前記時間基準パルスを送信する基準局の優先順位を判定し、判定した優先順位に基づいて前記時間基準パルスを送信する基準局を切り替えることを特徴とする付記5に記載の無線測位システム。
【0126】
(付記7)前記判定制御手段は第1のタイミングおよび第2のタイミングで前記時間基準パルスを異なる基地局からそれぞれ送信し、前記第1のタイミングで送信された時間基準パルスに対する各基地局の受信状況と前記第2のタイミングで送信された時間基準パルスに対する各基地局の受信状況に基づいて前記時間基準パルスを送信する基地局を判定することを特徴とする付記6に記載の無線測位システム。
【0127】
(付記8)前記距離測定手段は所定の時間ごとに各基地局間の距離を測定することを特徴とする付記1〜7のいずれか一つに記載の無線測位システム。
【0128】
(付記9)前記距離測定手段は前記時間基準パルスが送信されるタイミングとは異なるタイミングによって各基地局間の距離を測定することを特徴とする付記8に記載の無線測位システム。
【0129】
(付記10)前記基地局間の無線通信および各基地局と前記移動端末との無線通信はUWB(Ultra Wide Band)パルスを用いることを特徴とする付記1〜9のいずれか一つに記載の無線測位システム。
【0130】
(付記11)位置座標が既知である複数の基地局にて移動端末からの電波を受信し、各基地局が電波を受信した受信時刻の時間差に基づいて前記移動端末の位置座標を求める無線測位システムの測位方法であって、
第1の基地局と第2の基地局との間で電波の送受信を行い、基地局間の距離を測定する距離測定ステップと、
前記距離測定ステップの測定結果に基づいて前記第1または第2の位置座標が未知の基地局の位置座標を算出する位置座標算出ステップと、
前記距離測定ステップの測定結果に基づいて前記受信時刻の時間差を求める場合に利用される時間基準パルスを送信する基地局を判定し、判定した基地局から前記時間基準パルスを送信させる判定制御ステップと、
を含んだことを特徴とする測位方法。
【0131】
(付記12)前記判定制御ステップは前記測定結果に基づいて基地局ごとに他の基地局との距離の最大値を算出し、算出した各最大値のうち最も小さい最大値となる基地局を、前記時間基準パルスを送信する基地局として判定することを特徴とする付記11に記載の測位方法。
【0132】
(付記13)前記複数の基地局の中から基地局を選択し、選択した基地局からの距離を測定可能な他の基地局の数を計数する計数ステップを更に含み、前記判定制御ステップは前記計数ステップの計数結果に基づいて距離を測定可能な他の基地局の数が最大となる基地局を、前記時間基準パルスを送信する基地局として判定することを特徴とする付記11または12に記載の測位方法。
【0133】
(付記14)前記判定制御ステップは基地局ごとに、前記距離測定手段にて複数回、他基地局との距離測定を行い、その測定結果のばらつきを算出するともに、複数のばらつきからその最大値を算出し、算出した各ばらつきの最大値のうち最も小さい最大値となる基地局を、前記時間基準パルスを送信する基地局として判定することを特徴とする付記11、12または13に記載の測位方法。
【0134】
(付記15)前記時間基準パルスを受信する基地局の受信状況を監視する受信状況監視ステップを更に含み、前記判定制御ステップは前記受信状況監視ステップの監視結果に基づいて前記基地局が所定時間以上前記時間基準パルスを受信していない場合に、前記時間基準パルスを送信する基地局を切り替えることを特徴とする付記11〜14のいずれか一つに記載の測位方法。
【0135】
(付記16)前記判定制御ステップは前記測定結果および前記監視結果に基づいて前記時間基準パルスを送信する基準局の優先順位を判定し、判定した優先順位に基づいて前記時間基準パルスを送信する基準局を切り替えることを特徴とする付記15に記載の測位方法。
【0136】
(付記17)前記判定制御ステップは第1のタイミングおよび第2のタイミングで前記時間基準パルスを異なる基地局からそれぞれ送信し、前記第1のタイミングで送信された時間基準パルスに対する各基地局の受信状況と前記第2のタイミングで送信された時間基準パルスに対する各基地局の受信状況に基づいて前記時間基準パルスを送信する基地局を判定することを特徴とする付記16に記載の測位方法。
【0137】
(付記18)前記距離測定ステップは所定の時間ごとに各基地局間の距離を測定することを特徴とする付記11〜17のいずれか一つに記載の測位方法。
【0138】
(付記19)前記距離測定ステップは前記時間基準パルスが送信されるタイミングとは異なるタイミングによって各基地局間の距離を測定することを特徴とする付記18に記載の測位方法。
【0139】
(付記20)前記基地局間の無線通信および各基地局と前記移動端末との無線通信はUWB(Ultra Wide Band)パルスを用いることを特徴とする付記11〜19のいずれか一つに記載の測位方法。
【産業上の利用可能性】
【0140】
以上のように、本発明にかかる無線測位システムは、複数の基地局を用いて移動端末の位置座標を算出する測位システムなどに有用であり、特に、測位システムの設置にかかる効率を向上させ、測位精度を向上させる必要がある場合に適している。
【図面の簡単な説明】
【0141】
【図1】本実施例にかかる無線測位システムの概要および特徴を説明するための図である。
【図2】本実施例にかかる無線測位システムの構成を示す図である。
【図3】移動端末の構成を示す機能ブロック図である。
【図4】基地局の構成を示す機能ブロック図である。
【図5】計算サーバの構成を示す機能ブロック図である。
【図6】管理テーブルのデータ構造の一例を示す図である。
【図7】候補リストテーブルのデータ構造の一例を示す図である。
【図8】時間基準用パルスの受信状態の変化を説明するための図(1)である。
【図9】時間基準用パルスの受信状態の変化を説明するための図(2)である。
【図10】時間基準局から送信される時間基準用パルスと候補局から送信される時間基準用パルスとのタイミングを示す図である。
【図11】計算サーバが基地局の位置座標を算出する処理を示すフローチャートである。
【図12】計算サーバが時間基準局を選択する処理を示すフローチャートである。
【図13】計算サーバが時間基準局を切り替える処理を示すフローチャートである。
【図14】時間基準局切替処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図15】図5に示した計算サーバを構成するコンピュータのハードウェア構成を示す図である。
【図16】従来の無線測位システムの構成を示すブロック図である。
【図17】従来の問題点を説明するための図である。
【符号の説明】
【0142】
10,20,30,40,50,100a,100b,100c,100d,100e,100f,100g 基地局
60,200 計算サーバ
70 障害物
80 移動端末
81 タイミングパルス生成部
82,104 送信部
83,101,102 アンテナ
103 受信部
105,304 タイマ
106 受信時刻測定部
107 移動端末受信時刻保持部
108 時間基準用パルス受信時刻保持部
109 距離測定パルス受信時刻保持部
110 距離測定パルスタイミング生成部
111 時間基準用パルスタイミング生成部
210 記憶部
211 管理テーブル
212 候補リストテーブル
220 制御部
221 測位計算部
222 時間基準用パルス受信モニタ部
223 時間基準局制御部
224 時刻補正部
225 距離測定制御部
400 コンピュータ
401 入力装置
402 モニタ
403 RAM
404 ROM
405 媒体読取装置
406 ネットワークインターフェース
407 CPU
408 HDD
409 バス
403a,408a 各種データ
407a 測位制御プロセス
408b 測位制御プログラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
位置座標が既知である複数の基地局にて移動端末からの電波を受信し、各基地局が電波を受信した受信時刻の時間差に基づいて前記移動端末の位置座標を求める無線測位システムであって、
第1の基地局と第2の基地局との間で電波の送受信を行い、基地局間の距離を測定する距離測定手段と、
前記距離測定手段の測定結果に基づいて前記第1または第2の位置座標が未知の基地局の位置座標を算出する位置座標算出手段と、
前記距離測定手段の測定結果に基づいて前記受信時刻の時間差を求める場合に利用される時間基準パルスを送信する基地局を判定し、判定した基地局から前記時間基準パルスを送信させる判定制御手段と、
を備えたことを特徴とする無線測位システム。
【請求項2】
前記判定制御手段は前記測定結果に基づいて基地局ごとに他の基地局との距離の最大値を算出し、算出した各最大値のうち最も小さい最大値となる基地局を、前記時間基準パルスを送信する基地局として判定することを特徴とする請求項1に記載の無線測位システム。
【請求項3】
前記複数の基地局の中から基地局を選択し、選択した基地局からの距離を測定可能な他の基地局の数を計数する計数手段を更に備え、前記判定制御手段は前記計数手段の計数結果に基づいて距離を測定可能な他の基地局の数が最大となる基地局を、前記時間基準パルスを送信する基地局として判定することを特徴とする請求項1または2に記載の無線測位システム。
【請求項4】
前記判定制御手段は基地局ごとに、前記距離測定手段にて複数回、他基地局との距離測定を行い、その測定結果のばらつきを算出するとともに、複数のばらつきからその最大値を算出し、算出した各ばらつきの最大値のうち最も小さい最大値となる基地局を、前記時間基準パルスを送信する基地局として判定することを特徴とする請求項1、2または3に記載の無線測位システム。
【請求項5】
前記時間基準パルスを受信する基地局の受信状況を監視する受信状況監視手段を更に備え、前記判定制御手段は前記受信状況監視手段の監視結果に基づいて前記基地局が所定時間以上前記時間基準パルスを受信していない場合に、前記時間基準パルスを送信する基地局を切り替えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の無線測位システム。
【請求項6】
前記判定制御手段は前記測定結果および前記監視結果に基づいて前記時間基準パルスを送信する基準局の優先順位を判定し、判定した優先順位に基づいて前記時間基準パルスを送信する基準局を切り替えることを特徴とする請求項5に記載の無線測位システム。
【請求項7】
前記判定制御手段は第1のタイミングおよび第2のタイミングで前記時間基準パルスを異なる基地局からそれぞれ送信し、前記第1のタイミングで送信された時間基準パルスに対する各基地局の受信状況と前記第2のタイミングで送信された時間基準パルスに対する各基地局の受信状況に基づいて前記時間基準パルスを送信する基地局を判定することを特徴とする請求項6に記載の無線測位システム。
【請求項8】
前記距離測定手段は所定の時間ごとに各基地局間の距離を測定することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記載の無線測位システム。
【請求項9】
前記距離測定手段は前記時間基準パルスが送信されるタイミングとは異なるタイミングによって各基地局間の距離を測定することを特徴とする請求項8に記載の無線測位システム。
【請求項10】
前記基地局間の無線通信および各基地局と前記移動端末との無線通信はUWB(Ultra Wide Band)パルスを用いることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一つに記載の無線測位システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2009−47457(P2009−47457A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−211530(P2007−211530)
【出願日】平成19年8月14日(2007.8.14)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、総務省、「UWBインテリジェント測位センサーネットワークの研究開発と医療・ホーム・オフィスへの応用」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】