説明

無線端末装置、無線通信システムおよび通信状態レベルの報知方法

【課題】MIMO方式を用いた無線通信において、ユーザーに適切に通信状態のレベルを報知することにより、ユーザーの利便性を向上する技術を提供する。
【解決手段】アクセスポイント200との間で、MIMO方式によって無線通信を行う無線端末装置110は、アクセスポイント200との間における通信処理のスループットを測定するスループット測定部132と、スループット測定部132による測定結果に応じたアクセスポイント200との通信状態のレベルをユーザーに報知するインジケーター部13とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、無線通信を利用した無線LANに関する。
【背景技術】
【0002】
無線LANでは、ネットワーク側に接続されているアクセスポイント(無線LAN親機)と、無線LANカードなどの無線端末装置(無線LAN子機)との間で、電波を介したデータの送受信を行う(下記特許文献1等)。無線LANの通信方式としては、MIMO(Multi Input Multi Output)方式が知られている。
【0003】
MIMO方式による無線通信では、無線LAN親機と無線LAN子機とにそれぞれ複数のアンテナを設け、各アンテナを介して電波の送受信を行うことにより、通信の高速化および安定化を実現する。より具体的には、送信側では、送信データを分割して生成した複数の信号を各アンテナから同一の周波数帯域で同時に送信する。一方、受信側では、各アンテナにおいて受信した直接波と反射波とのひずみに基づいて送信側と受信側との間の伝搬路における伝達行列を推定し、受信信号を元の複数の送信信号に分離し、統合して受信データを生成する。
【0004】
ところで、無線通信におけるユーザーの利便性を向上させるために、無線LAN子機には、無線LAN親機との間の通信状態の良否のレベルをユーザーに報知する機能を備えているものがある。通信状態のレベルの報知は、一般に、電界強度(受信電波の強度)を測定することにより行われる。
【0005】
しかし、電界強度に応じて通信状態のレベルが良好であると報知されている場合であっても、無線通信が行われる環境によっては、通信速度が低下したり、接続が遮断されてしまうなど、実質的な通信状態のレベルが低下してしまう場合がある。具体的には、以下のような環境下において無線通信を行う場合に、その実質的な通信状態のレベルが低下してしまうことが知られている。即ち、同一若しくは近隣のチャネルで他の無線通信が行われている環境下や、無線通信で使用される周波数帯域にノイズを発生させる機器やデバイスが使用されている環境下、鉄骨造の建物内など電波の反射が比較的多い環境下などで無線通信を行う場合である。
【0006】
特に、上述したMIMO方式による無線通信の場合には、無線通信に際して直接波とともに反射波を利用しているため、電界強度と通信状態のレベルとの間の相関性がさらに低下してしまう。これまで、MIMO方式による無線通信において、通信状態のレベルを適切にユーザーに報知することについて十分な工夫がなされてこなかったのが実情であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−72487号公報
【特許文献2】特開2008−160758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、MIMO方式を用いた無線通信において、ユーザーに適切に通信状態のレベルを報知することにより、ユーザーの利便性を向上する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0010】
[適用例1]
外部の無線通信装置との間で、MIMO方式によって無線通信を行う無線端末装置であって、
前記無線通信装置との間における通信処理のスループットを測定するスループット測定部と、
前記スループット測定部による測定結果に応じて前記無線通信装置との通信状態のレベルをユーザーに報知するレベル報知部と、
を備える、無線端末装置。
この無線端末装置によれば、外部の無線通信装置との間の通信状態のレベルが、スループット測定部による測定結果に応じて、ユーザーに適切に報知されるため、無線通信におけるユーザーの利便性が向上する。
【0011】
[適用例2]
適用例1記載の無線端末装置であって、
前記レベル報知部は、前記ユーザーからの指示に応じて前記スループット測定部に前記スループットを測定する測定処理を開始させるとともに、前記測定結果に応じた前記通信状態のレベルを報知する報知処理を開始し、前記測定結果に応じて調整された測定時間の間だけ前記測定処理および前記報知処理を継続する、無線端末装置。
スループット測定部による測定処理とレベル報知部による報知処理とが継続されている間には、ユーザーは、通信状態のレベルの報知を参照しつつ、無線端末装置の設置状態を調整することができる。この無線端末装置によれば、それらの処理が継続される時間が通信状態のレベルに応じて自動的に調整されるため、スループットの測定処理や報知処理が無駄に継続されたり、ユーザーの意に反して終了されてしまうことが抑制される。従って、ユーザーの利便性がより向上する。
【0012】
[適用例3]
適用例1または適用例2記載の無線端末装置であって、
前記レベル報知部は、前記通信状態のレベルの変化が上昇傾向にあるか下降傾向にあるかを前記ユーザーに報知する、無線端末装置。
この無線端末装置によれば、ユーザーは、自身の調整により、無線端末装置の設置状態が改善されているか否かを容易に知ることができる。従って、無線通信におけるユーザーの利便性がさらに向上する。
【0013】
[適用例4]
無線通信システムであって、
適用例1ないし適用例3のいずれか一つに記載の無線端末装置と、
前記無線端末装置とMIMO方式による無線通信が可能なアクセスポイントと、
を備える、無線通信システム。
この無線通信システムによれば、MIMO方式を用いた無線端末装置とアクセスポイントとの間の無線通信において、通信状態のレベルが、スループット測定部による測定結果に応じて、ユーザーに適切に報知される。従って、無線通信システムにおけるユーザーの利便性が向上する。
【0014】
[適用例5]
外部の無線通信装置との間で、MIMO方式によって無線通信を行う無線端末装置において、前記無線通信装置との間の通信状態のレベルをユーザーに報知する方法であって、
(a)前記無線通信装置との間における通信処理のスループットを算出する工程と、
(b)前記スループットの測定結果に応じて前記通信状態のレベルを報知する工程と、
を備える、方法。
【0015】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、無線端末装置および無線通信システム、無線通信における通信状態のレベルの報知方法、それらの方法または装置、システムの有する機能を実現するためのコンピュータープログラム、そのコンピュータープログラムを記録した記録媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1実施例における無線LANシステムの構成を示す概略図。
【図2】第1実施例における無線端末装置および端末PCの内部構成を示すブロック図。
【図3】第1実施例におけるアクセスポイントの内部構成を示すブロック図。
【図4】第1実施例における通信状態レベル報知処理の処理手順を示す説明図。
【図5】第1実施例におけるインジケーター部による通信状態のレベル表示の一例を示す説明図と、比較例のインジケーター部を説明するための模式図。
【図6】第2実施例における無線端末装置および端末PCの内部構成を示すブロック図。
【図7】第3実施例における通信状態レベル報知処理の処理手順を示す説明図。
【図8】第4実施例におけるインジケーター部を説明するための模式図。
【図9】第4実施例における通信状態レベル報知処理の処理手順を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づいて以下の順序で説明する。
A.第1実施例:
B.第2実施例:
C.第3実施例:
D.第4実施例:
E.変形例:
【0018】
A.第1実施例:
図1は本発明の一実施例としての無線LANシステムの構成を示す概略図である。この無線LANシステム1000は、無線LAN子機である無線端末装置110と、端末PC120と、無線LAN親機であるアクセスポイント200とを備える。無線端末装置110およびアクセスポイント200は、それぞれに接続されたデバイスやネットワークの間の通信を無線によって媒介する無線中継装置である。無線端末装置110は端末PC120と接続され、アクセスポイント200は、インターネットINと接続されている。端末PC120は、アクセスポイント200と無線端末装置110との間の無線通信を介してインターネットINに接続することができる。
【0019】
ここで、無線端末装置110は2本のアンテナ11,12を備えており、アクセスポイント200も2本のアンテナ21,22を備えている。無線端末装置110とアクセスポイント200とは、これらのアンテナ11,12,21,22を用いて、MIMO方式による無線通信を行う。また、無線端末装置110には、ユーザーに視認可能なインジケーター部13と、ユーザーが押下することができるボタン15とが設けられている。インジケーター部13は、例えば、LED(Light Emitting Diode)などの有色の発光素子によって構成される。インジケーター部13とボタン15の機能については後述する。
【0020】
図2は、無線端末装置110および端末PC120の内部構成を示すブロック図である。無線端末装置110は、無線LAN制御部130と、2つの送受信回路111,112と、USB(Universal Serial Bus)コントローラー115と、USBポート103とを備える。2つの送受信回路111,112はそれぞれ、アンテナ11,12と無線LAN制御部130とに接続されており、無線LAN制御部130の指示に従って、送信電波の変調や、受信電波の復調を実行する。
【0021】
無線LAN制御部130は、マイクロコンピューターとして構成され、無線端末装置110全体を制御する。無線LAN制御部130は、通信制御部131と、送信信号生成部134と、受信データ生成部135とを有する。通信制御部131は、端末PC120やアクセスポイント200などの無線端末装置110に接続するデバイスとのやりとりを制御する。
【0022】
ここで、通信制御部131は、レイヤ2のプロトコルであるLLD2(Link Layer Discovery & Diagnostics)プロトコルを用いた通信を行う。LLD2プロトコルにより、無線端末装置110は、接続デバイスとの間でメッセージのやりとりを行い、MACアドレスなどの当該接続デバイスに関する情報を取得することが可能となる。また、通信制御部131は、スループット測定部132を有している。通信制御部131は、スループット測定部132を用いて、ユーザーに通信状態のレベルを報知するための通信状態レベル報知処理を実行するが、詳細は後述する。
【0023】
送信信号生成部134は、アクセスポイント200へと送信するための送信データに基づいて送信信号を生成する。具体的には、送信信号生成部134は、送信データを分割して、2本のアンテナ11,12に対応する2つの系列の送信信号を生成する。生成された2系列の送信信号を表す送信電波は、2つの送受信回路111,112を介して、2本のアンテナ11,12から同一の周波数帯域で、同時に射出される。
【0024】
受信データ生成部135は、アンテナ11,12を介して受信した受信信号に基づいて受信データを生成する。具体的には、受信データ生成部135は、2本のアンテナ11,12を介して受信した直接波と反射波とのひずみに基づいてアクセスポイント200との間の伝搬路における伝達行列を推定する。そして、その伝達行列を用いて、受信電波からアクセスポイント200が発信した元の2系列の送信信号を分離・再生し、再生された2系列の信号を組み合わせることにより受信データを生成する。
【0025】
USBコントローラー115は、USBポート103に接続されたUSB機器と、無線LAN制御部130との通信を制御する。なお、USBポート103には、USBケーブル102を介して端末PC120が接続されている。
【0026】
端末PC120は、CPU(Central Processing Unit)121と、RAM(Random Access Memory)122と、ROM(Read Only Memory)123と、表示部125と、操作部127と、USBコントローラー129と、USBポート104とを備える。CPU121は、ROM123やハードディスクドライブなどの外部記憶装置(図示せず)に格納されたプログラムを主記憶装置であるRAM122に読み込み実行する。なお、端末PC120は、OS(Operating System)として、Windows Vista(登録商標)が搭載されている。
【0027】
表示部125は、例えば、液晶ディスプレイによって構成され、操作部127は、例えば、マウスやキーボードによって構成される。USBコントローラー129は、USBポート104に接続されたUSB機器との通信を制御する。これらの各構成部121,122,123,125,127,129は、バス101を介して互いに接続されている。
【0028】
なお、前記の通り、無線端末装置110と端末PC120とは、USBケーブル102を介して互いに接続されている。しかし、無線端末装置110と端末PC120とは、USB接続に変えて、LAN接続によって互いに接続されるものとしても良いし、バス接続によって互いに接続されるものとしても良い。また、無線端末装置110と端末PC120とは、一体的に構成されるものとしても良い。
【0029】
図3は、アクセスポイント200の内部構成を示すブロック図である。アクセスポイント200は、無線LAN制御部210と、2つの送受信回路221,222と、WAN(wide area network)ポート231とを備える。2つの送受信回路221,222はそれぞれ、アンテナ21,22と無線LAN制御部210に接続されており、無線LAN制御部210の指示に応じて、送信電波の変調や、受信電波の復調を実行する。
【0030】
無線LAN制御部210は、マイクロコンピューターとして構成され、アクセスポイント200全体を制御する。無線LAN制御部210は、通信制御部211と、送信信号生成部214と、受信データ生成部215とを有する。通信制御部211は、2本のアンテナ21,22を介した無線端末装置110とのやりとりや、WANポート231に接続されたルータ(図示せず)を介したインターネットINへの接続を制御する。なお、通信制御部211は、LLD2プロトコルを有している。これによって、アクセスポイント200は、同じくLLD2プロトコルを有する無線端末装置110との間でメッセージの交換が可能となる。送信信号生成部214および受信データ生成部215は、無線端末装置110の送信信号生成部134および受信データ生成部135と同様のものであり、MIMO方式の無線通信のための送信信号の生成や、受信データの生成を行う。
【0031】
ところで、MIMO方式による通信では、前記の通り、送信信号の直接波と反射波とのひずみから通信路の伝達行列を推定している。そのため、無線通信の際の伝搬路における障害物の影響を低減することができる。しかし、通信状態のレベルをより向上させるためには、アクセスポイント200に対する無線端末装置110の位置や各アンテナ11,12の向きなどを含む無線端末装置110の設置状態をユーザーが適切に調整できることが好ましい。従って、無線端末装置110は、ユーザーが無線端末装置110の設置状態を適切に調整するための手がかりとなる現在の通信状態のレベルをユーザーに対してリアルタイムに報知できる機能を有することが好ましい。そこで、本実施例の無線端末装置110では、以下に説明する通信状態レベル報知処理を実行する。
【0032】
図4は、無線端末装置110が実行する通信状態レベル報知処理の処理手順を説明するためのフローチャートである。この通信状態レベル報知処理は、LLD2プロトコルを利用したメッセージのやりとりにより、アクセスポイント200との間の通信状態のレベルを判定し、ユーザーに報知する。なお、図4の紙面左側には、説明の便宜のために、通信状態レベル報知処理の実行に際して、アクセスポイント200において実行される処理の一部が図示してある。
【0033】
通信状態レベル報知処理は、ユーザーによってボタン15が押下されたときに開始される。ステップS10では、無線端末装置110は、自身に接続する全てのデバイスに対してDiscoveryメッセージを送信する。Discoveryメッセージを受信したアクセスポイント200は、アクセスポイント200のMACアドレスを含むBSSID(Basic Service Set Identifier)を無線端末装置110に対して返信する(ステップS110)。これによって、無線端末装置110は、アクセスポイント200のMACアドレスを取得することができる(ステップS20)。以後、無線端末装置110は、取得したMACアドレスによって、通信相手をアクセスポイント200に特定してメッセージを送信する。
【0034】
続いて無線端末装置110は、アクセスポイント200に対してEchoメッセージを送信する(ステップS30)。ここで、「Echoメッセージ」とは、LLD2プロトコルにおいて、通信機器間における接続状態をテストするために送信される固定長のメッセージである。このEchoメッセージを受信すると、アクセスポイント200は、Echoメッセージをそのまま折り返して無線端末装置110に返信する(ステップS120)。無線端末装置110とアクセスポイント200とは、このEchoメッセージのやりとりを所定のN回(Nは自然数)だけ繰り返す。
【0035】
ここで、無線端末装置110のスループット測定部132は、1回のEchoメッセージのやりとりに要した各回ごとの時間t1,t2,…,tNを計測して記憶する。これらの各計測時間t1,t2,…,tNは、具体的には、送信信号生成部134が、送信信号を生成するためにEchoメッセージを表すデータの分割を開始したときから、受信データ生成部135が受信電波から返信されたEchoメッセージの再生を終了するまでの時間である。
【0036】
なお、無線端末装置110は、Echoメッセージを送信した後、所定の時間が経過しても、アクセスポイント200からのEchoメッセージの返信を受信できなかった場合には、通信路においてEchoメッセージが消失したものとみなす。そして、次のEchoメッセージの送信処理(ステップS30)を実行する。
【0037】
ステップS40では、無線端末装置110は、送信したEchoメッセージの回数Nに対するアクセスポイント200からの返信を受信できた回数M(Mは自然数)の比率(M/N×100)をEchoメッセージの返信率として算出する。Echoメッセージの返信率が所定の値(例えば90%以下)より低い場合には、無線端末装置110は、予め設定されているアクセスポイント200との間の通信レートを低下させる処理を実行する(ステップS45)。そして、記憶した計測時間t1,t2,…,tNを初期化した上で、低下させた通信レートによって、アクセスポイント200との間のEchoメッセージのやりとりを再実行する(ステップS30)。このように、ステップS40のEchoメッセージの返信率の判定処理と、ステップS45の通信レートの低下処理とを繰り返すことによって、無線端末装置110とアクセスポイント200とは、より適切な通信レートでの通信が可能となる。
【0038】
ステップS50では、無線端末装置110のスループット測定部132が、上記のアクセスポイント200との間のEchoメッセージのやりとりにおける通信処理のスループットを算出する。具体的には、スループット測定部132は、記憶しておいた上記の各計測時間t1,t2,…,tNと、Echoメッセージの既知のデータ量とを用いて、Echoメッセージのやりとりの1回ごとのスループットを算出し、その平均値を算出する。
【0039】
ステップS60では、無線端末装置110は、このスループットの平均値に応じてインジケーター部13の表示状態を変更する。即ち、この無線端末装置110では、スループット測定部132が測定した通信処理に関するスループットに応じたアクセスポイント200との通信状態のレベルを、インジケーター部13を介してユーザーに報知する。
【0040】
その後、ユーザーがボタン15を再び押下したときは、無線端末装置110は、通信状態レベル報知処理を終了する(ステップS70)。ボタン15が再び押下されるまでは、無線端末装置110において、通信レートが初期値に再設定された上で、ステップS30〜S60の処理が繰り返され、インジケーター部13による通信状態のレベル表示がリアルタイムで更新されていく。これにより、ユーザーは、通信状態レベル報知処理の実行中に、インジケーター部13の表示状態を参照しつつ、通信状態のレベルが向上するように無線端末装置110の設置状態を調整することが可能となる。
【0041】
図5(A)は、インジケーター部13による通信状態のレベル表示の一例を示す説明図である。本実施例のインジケーター部13は、例えば、スループット測定部132によるスループットの測定値が34Mbps以上であった場合には、緑色の点灯状態となり、通信状態のレベルが最も高い「優」の状態であることをユーザーに報知する。また、スループットの測定値が16Mbps以上かつ34Mbps未満であった場合には、橙色の点灯状態となり、通信状態のレベルが2番目に高い「良」の状態であることをユーザーに報知する。スループットの測定値が16Mbps未満であった場合には、赤色の点灯状態となり、通信状態のレベルがかろうじて通信可能な状態であることを示す「可」の状態であることをユーザーに報知する。
【0042】
なお、無線端末装置110とアクセスポイント200とが通信不能の状態である場合には、無線端末装置110は、インジケーター部13の表示状態を赤色の点滅状態に変更して、ユーザーに報知する。ここで、無線端末装置110とアクセスポイント200とが通信不能の状態となる場合としては、例えば、ステップS10〜S20(図4)において、アクセスポイント200のMACアドレスが取得できない場合がある。また、ステップS45の通信レートの低下処理において、通信レートが規定の限界値となってしまった場合などがある。
【0043】
図5(B1),(B2)は、比較例としての無線端末装置が有するインジケーター部13aを示す模式図である。比較例の無線端末装置は、本実施例の無線端末装置110と同様に、端末PC120に接続されるとともに、インターネットINに接続されたアクセスポイント200との間で、2本のアンテナ11,12を用いたMIMO方式による無線通信を実行する。
【0044】
インジケーター部13aは、2本のアンテナ11,12のそれぞれに対応して設けられた2本のレベルバー13a1,13a2を有している。この2本のレベルバー13a1,13a2はそれぞれ、2本のアンテナ11,12の電界強度のレベルが高いほど紙面右側の位置が点灯する。なお、図では、レベルバー13a1,13a2における点灯位置が、ハッチングを付すことにより、模式的に図示されている。図5(B1)では、第1のアンテナ11が受信する電波の強度が比較的高く、第2のアンテナ12が受信する電波の強度が比較的低い場合を例示している。また、図5(B2)では、第1と第2のアンテナ11,12の受信する電波の強度がいずれも中程度である場合を例示している。
【0045】
ここで、MIMO方式による無線通信では、各アンテナ11,12で受信した電波のひずみを利用して送信されたデータを再生する。そのため、ユーザーは、2本のアンテナ11,12ごとの電界強度を報知されても、それにより、通信状態のレベルを判別することが困難である。具体的には、例えば、図5(B1)の状態と図5(B2)の状態とでは、いずれの通信状態のレベルが良好であるのかをユーザーが判別することは困難である。
【0046】
しかし、本実施例の無線端末装置110であれば、通信テスト処理(図4のステップS30〜S40)を実行して、そのスループットに応じた通信状態のレベルを単一のインジケーター部13でユーザーに報知している。従って、ユーザーは容易かつ適切に通信状態が良好であるか否かの判別をすることができ、無線端末装置110の設置状態の調整が容易となる。また、この無線端末装置110によれば、無線端末装置110と端末PC120との間の距離が離れている場合であっても、ユーザーは手元でインジケーター部13の点灯状態を参照しつつ、無線端末装置110の設置状態を調整することが可能である。
【0047】
このように、本実施例の無線LANシステム1000によれば、無線端末装置110とアクセスポイント200との間の通信状態のレベルをユーザーに適切に報知することが可能であり、無線通信におけるユーザーの利便性が向上する。
【0048】
B.第2実施例:
図6は、本発明の第2実施例としての無線LANシステムを説明するための概略図であり、無線端末装置110Aと端末PC120Aの内部構成を示す概略図である。図6は、以下の点以外は、図2とほぼ同じである。即ち、図6では、無線端末装置110Aにおいて、通信制御部131とインジケーター部13とボタン15とが省略されている。また、図6では、端末PC120AのCPU121に通信制御部131Aが設けられるとともに、表示部125にインジケーター画像13Iとボタン画像15Iとが設けられている。なお、第2実施例の無線LANシステムの他の構成は、第1実施例の無線LANシステム1000と同様であり(図1,図3)、第1実施例で説明した通信状態レベル報知処理(図4)が実行される。
【0049】
第2実施例の無線LANシステムでは、無線通信に際して、端末PC120AのCPU121において、通信制御部131Aの機能を有するプログラムが実行される。通信制御部131Aは、インターフェース部133を有する点以外は、第1実施例で説明した無線端末装置110の通信制御部131とほぼ同じである。
【0050】
インターフェース部133は、表示部125に無線通信に関するインターフェース画像を表示する。具体的には、インターフェース部133は、表示部125に、インターフェース画像として、通信状態レベル報知処理の実行開始を指示するためのボタン画像15Iと、通信状態のレベルを表示するインジケーター画像13Iとを表示する。ボタン画像15Iは、ユーザーが表示部125に表示されたポインターによって押下することができる画像である。また、インジケーター画像13Iは、第1実施例のインジケーター部13と同様に、色種によって通信状態のレベルをユーザーに報知するための画像である(図5(A))。
【0051】
即ち、第2実施例の無線LANシステムでは、ユーザーが表示部125に表示されたボタン画像15Iを押下したときに、端末PC120Aにおいて、通信状態レベル報知処理の実行が開始される。そして、通信状態レベル報知処理において、スループット測定部132によるスループットの測定結果に応じて、インジケーター画像13Iの表示色が変更される。
【0052】
このように、第2実施例の無線LANシステムによれば、第1実施例と同様に、無線端末装置110Aとアクセスポイント200との間の通信状態のレベルを、表示部125を介して、ユーザーに適切に報知することが可能である。また、無線端末装置110Aを第1実施例の無線端末装置110より小型化することが可能である。なお、この第2実施例の無線LANシステムでは、無線端末装置110Aと端末PC120Aとが一体的に構成されることが好ましい。これによって、ユーザーは、表示部125に表示されたインジケーター画像13Iを参照しつつ、無線端末装置110Aの設置状態を調整することが可能となる。
【0053】
C.第3実施例:
図7は、本発明の第3実施例としての無線LANシステムにおいて実行される通信状態レベル報知処理の処理手順を示すフローチャートである。図7は、ステップS5とステップS65とが追加され、ステップS70に換えてステップS70Aが設けられている点以外は、図4とほぼ同じである。なお、第3実施例の無線LANシステムの構成は、第1実施例の無線LANシステム1000と同じである。
【0054】
第3実施例の通信状態レベル報知処理では、実行開始時に、経過時間の計測を開始する(ステップS5)。そして、通信状態レベル報知処理の実行継続時間が、所定の終了時間Tendを経過するまではステップS30以降の処理を繰り返し、終了時間Tendを経過したときに自動的に通信状態レベル報知処理を終了する(ステップS70A)。
【0055】
ここで、終了時間Tendは、通信状態のレベルが「可」若しくは「不可」(図5(A))である場合には、ステップS65において延長される。即ち、通信状態のレベルが低い場合には、ユーザーがインジケーター部13を参照しつつ無線端末装置110Aの設置状態を調整することができる時間が延長される。一方、終了時間Tendは、通信状態のレベルが「優」である場合には、ステップS65において短縮される。従って、通信状態レベル報知処理が無駄に継続されてしまい、無線通信のスループットがかえって低下してしまうことを抑制できる。
【0056】
このように、第3実施例の通信状態レベル報知処理によれば、ユーザーがインジケーター部13を参照しつつ無線端末装置110の設置状態を調整できる時間が通信状態のレベルに応じて自動的に調整されるため、ユーザーの利便性がより向上する。
【0057】
D.第4実施例:
図8(A)〜(C)は、本発明の第4実施例としての無線LANシステムの無線端末装置に設けられたインジケーター部を説明するための模式図である。なお、第4実施例における無線LANシステムの構成は、無線端末装置110において、インジケーター部13に換えてインジケーター部13Aが設けられる点以外は、第1実施例の無線LANシステム1000と同じである(図1,図2,図3)。また、図9は、第4実施例における通信状態レベル報知処理の処理手順を示すフローチャートである。図9は、ステップS60に換えてステップS60Aが設けられている点と、ステップS75が追加されている点以外は、第1実施例で説明した図4とほぼ同じである。
【0058】
第4実施例の無線端末装置110に設けられたインジケーター部13Aは、3つの発光部13A1,13A2,13A3を有する(図8)。第1の発光部13A1は、上向きの矢印形状を有しており、第2の発光部13A2は、下向きの矢印形状を有している。第3の発光部13A3は、第1と第2の発光部13A1,13A2の端部によって上下方向に挟まれている。なお、図では、発光状態にある発光部13A1,13A2,13A3にハッチングを付してあり、発光色の違いをハッチングの種類によって表してある。
【0059】
インジケーター部13Aは、通信状態レベル報知処理(図9)のステップS60Aにおいて、第3の発光部13A3の発光色によって通信状態のレベルを示す(図8(A))。具体的には、図5(A)で説明した一例のようにレベル表示する。そして、ステップS30〜S50の工程が繰り返され、通信状態のレベルが、直前に表示していた通信状態のレベルより高くなった場合には、第1の発光部13A1を発光させて、ユーザーに通信状態のレベルが上昇傾向にあることを報知する(図8(B))。逆に、通信状態のレベルが、直前に表示していた通信状態のレベルより低くなった場合には、第2の発光部13A2を発光させて、ユーザーに通信状態のレベルが下降傾向にあることを報知する(図8(C))。
【0060】
ここで、この第4実施例では、ステップS60A(図4)の後に、ステップS70を経て再びステップS30以降の処理を実行するとき、無線端末装置110とアクセスポイント200との間の通信レートの調整処理を実行する(ステップS75)。即ち、通信状態のレベルが上昇傾向にある場合には、通信レートを初期値(最大値)に再設定し、通信状態のレベルが下降傾向にある場合には、通信レートを直前に設定されていた値のまま維持する。これによって、通信状態のレベルが上昇傾向にあるにもかかわらず、低レベルの通信レートが設定されたままとなることを抑制できる。また、通信状態のレベルが下降傾向にある場合に、必要以上に高いレベルの通信レートによって、ステップS30〜S40の通信テスト処理が余分に実行されてしまうことを抑制できる。
【0061】
なお、ステップS75において、通信状態のレベルが上昇傾向にある場合には、通信レートを、直前の通信レートの値より所定の値だけ高い上位レベルの通信レートに設定するものとしても良い。これによって、無線端末装置110の設置状態が改善され、通信状態のレベルの上昇傾向が継続される場合には、設定される通信レートも徐々に高く改善されていくため、より適切な通信レートの設定が可能となる。
【0062】
第4実施例のインジケーター部13Aによれば、ユーザーは、自身の調整により、無線端末装置110の設置状態が改善されているか否かをインジケーター部13Aを介して容易に知ることができる。また、ステップS75において、無線端末装置110の設置状態が調整された場合に、その調整結果に応じて、アクセスポイント200との間の通信レートがより適切に再設定される。従って、より、無線通信におけるユーザーの利便性が向上される。
【0063】
E.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0064】
E1.変形例1:
上記実施例において、ソフトウェアによって実現されていた構成の一部をハードウェアに置き換えるようにしてもよく、逆に、ハードウェアによって実現されていた構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよい。例えば、送信信号生成部134や受信データ生成部135の機能の一部を送受信回路111,112が実行するようにすることもできる。
【0065】
E2.変形例2:
上記実施例では、無線端末装置110はそれぞれ、2本のアンテナ11,12を備えていた。しかし、無線端末装置110は、n本(nは2以上の整数)のアンテナを備えているものとしても良い。この場合には、無線端末装置110は、送信データを分割してn系列の送信信号を生成し、n本のアンテナのそれぞれから送信することとなる。また、同様に、アクセスポイント200は、m本(mは2以上の整数)のアンテナを備えているものとしても良い。
【0066】
E3.変形例3:
上記実施例において、無線端末装置110とアクセスポイント200とは、LLD2プロトコルを利用した通信を実行していた。しかし、無線端末装置110とアクセスポイント200とは、他のレイヤ2のプロトコルを利用して通信を実行するものとしても良いし、TCP/IPやFTPなど、レイヤ2以上のプロトコルを利用して通信を実行するものとしても良い。なお、LLD2プロトコルを利用する場合には、比較的容易に接続デバイスのMACアドレスを取得することができ、接続デバイスを特定した通信を容易に行うことができるため、無線通信の利便性が向上する。
【0067】
また、上記実施例において、端末PC120は、OSとしてWindows Vistaを搭載していたが、他のOSを搭載しているものとしても良い。ただし、Windows Vistaには、LLD2プロトコルが含まれており、端末PC120がWindows Vistaを搭載していれば、無線通信においてLLD2プロトコルの利用が可能となるため好ましい。
【0068】
E4.変形例4:
上記実施例において、スループット測定部132は、無線端末装置110とアクセスポイント200との間のEchoメッセージのやりとりにおけるスループットを測定していた。しかし、スループット測定部132は、Echoメッセージ以外の他のデータの送受信処理におけるスループットを測定するものとしても良い。ただし、Echoメッセージのやりとりなど、利用する通信プロトコルが有する通信テスト機能を利用して、その際の通信処理のスループットを測定すれば、通信状態のレベルの測定が適切かつ容易に行えるため好ましい。なお、スループット測定部132は、送信信号生成部134および受信データ生成部135のスループットを含むデータの送受信処理全体のスループットを測定することが好ましい。
【0069】
E5.変形例5:
上記実施例において、無線端末装置110は、アクセスポイント200と接続するインフラストラクチャ・モードによる通信を行っていた。しかし、無線端末装置110は、他の無線通信装置と接続するものとしても良い。例えば、無線端末装置110は、外部の無線端末装置と接続して、アドホック・モードの無線通信を行うものとしても良い。
【0070】
E6.変形例6:
上記実施例において、インジケーター部13はLEDによる発光の色種によって、通信状態のレベルをユーザーに報知していた。しかし、インジケーター部13による報知に換えて、他の方法による報知を行うものとしても良い。具体的には、数字の表示など他の視覚的方法による報知を行うものとしても良いし、音声など聴覚的方法により報知を行うものとしても良い。
【0071】
E7.変形例7:
上記実施例において、無線LANシステム1000では、2以上の無線端末装置110がアクセスポイント200に接続するものとしても良い。また、2以上のアクセスポイント200同士が有線接続されているものとしても良い。
【0072】
E8.変形例8:
上記の各実施例は、適宜、組み合わせて実施することが可能である。例えば、第2実施例の無線LANシステムにおいて、第3実施例の通信状態レベル報知処理を実行しても良いし、第4実施例のインジケーター部13Aによる報知を表示部125において行うものとしても良い。また、第3実施例の通信状態レベル報知処理において、第4実施例のインジケーター部13Aによる報知が行われるものとしても良い。
【符号の説明】
【0073】
11,12,21,22…アンテナ
13…インジケーター部
13A…インジケーター部
13A1,13A2,13A3…発光部
13I…インジケーター画像
13a…インジケーター部(比較例)
13a1,13a2…レベルバー
15…ボタン
15I…ボタン画像
101…バス
102…USBケーブル
103…USBポート
104…USBポート
110,110A…無線端末装置
111,112…送受信回路
115…USBコントローラー
120,120A…端末PC
121…CPU
122…RAM
123…ROM
125…表示部
127…操作部
129…USBコントローラー
130…無線LAN制御部
131,131A…通信制御部
132…スループット測定部
133…インターフェース部
134…送信信号生成部
135…受信データ生成部
200…アクセスポイント
210…無線LAN制御部
211…通信制御部
214…送信信号生成部
215…受信データ生成部
221,222…送受信回路
231…WANポート
1000…無線LANシステム
IN…インターネット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部の無線通信装置との間で、MIMO方式によって無線通信を行う無線端末装置であって、
前記無線通信装置との間における通信処理のスループットを測定するスループット測定部と、
前記スループット測定部による測定結果に応じて前記無線通信装置との通信状態のレベルをユーザーに報知するレベル報知部と、
を備える、無線端末装置。
【請求項2】
請求項1記載の無線端末装置であって、
前記レベル報知部は、前記ユーザーからの指示に応じて前記スループット測定部に前記スループットを測定する測定処理を開始させるとともに、前記測定結果に応じた前記通信状態のレベルを報知する報知処理を開始し、前記測定結果に応じて調整された測定時間の間だけ前記測定処理および前記報知処理を継続する、無線端末装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の無線端末装置であって、
前記レベル報知部は、前記通信状態のレベルの変化が上昇傾向にあるか下降傾向にあるかを前記ユーザーに報知する、無線端末装置。
【請求項4】
無線通信システムであって、
請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の無線端末装置と、
前記無線端末装置とMIMO方式による無線通信が可能なアクセスポイントと、
を備える、無線通信システム。
【請求項5】
外部の無線通信装置との間で、MIMO方式によって無線通信を行う無線端末装置において、前記無線通信装置との間の通信状態のレベルをユーザーに報知する方法であって、
(a)前記無線通信装置との間における通信処理のスループットを算出する工程と、
(b)前記スループットの測定結果に応じて前記通信状態のレベルを報知する工程と、
を備える、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−55060(P2011−55060A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−199563(P2009−199563)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(390040187)株式会社バッファロー (378)
【Fターム(参考)】