説明

無線通信システム、無線基地局、無線端末及び通信制御方法

【課題】 通信品質の劣化を回避できるスケジューリングが可能な無線通信システム、無線基地局、無線端末及び通信制御方法を提供する。
【解決手段】 無線端末300はDL−PLとULのスケジューリング情報に基づいてPUSCHの送信電力を決める。無線端末300はPUSCHの送信電力からPHRを算出し、算出したPHR情報を無線基地局100へ通知する。無線基地局100は無線端末300から通知されたPHRと無線端末300の最大送信電力に基づいて無線端末300が実際に送信したPUSCHの送信電力を推定する。無線基地局100は推定した送信電力に基づいて次の上りリンクのスケジューリングを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信システム、無線基地局、無線端末及び通信制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3GPPで規定されているLTE(Long Term Evolution)方式の移動通信システムでは、無線基地局(eNB)と無線端末(UE)との間の無線通信における伝搬損失(PL)と、無線基地局が設定するスケジューリング情報に基づいて、無線端末がデータを送信するために用いる物理上りリンク共有チャネル(以下、PUSCHという)の送信電力が算出される。具体的には、以下の式(1)に基づいて算出される(非特許文献1参照)。
【0003】
【数1】

【0004】
式(1)において、PPUSCH(i)はPUSCHの送信電力を示す。iはサブフレーム番号を示す。PCMAXは無線端末の最大送信電力を示す。MPUSCH(i)はサブフレームiにおける、無線基地局が無線端末に割り当てたResource Block(以下、RBという) 数を示す。Po_PUSCHは無線端末固有の1RB当りの送信電力の初期値を示す。αはパスロス補償の割合を制御するための係数を示す。PLは無線基地局と無線端末との間の電波の伝搬損失を示す。伝搬損失は送信側からの送信電力が受信側でどれくらい減衰するかを示すパラメータである。ΔTF(i)は変調・符号化方式(MCS:Modulation and Coding Scheme)から定まる係数を示す。f(i)は無線基地局から無線端末へ伝送されるTPC(Transmit Power Control)コマンドによる送信電力の補正項を示す。
【0005】
LTEにおいて、無線端末が上りリンクで信号を送信するためには、無線基地局が、無線端末に対して、予め上りリンクの通信に必要な無線リソース(周波数帯域および変調・符号化方式)を割り当てるためのスケジューリングを行わなければならない。具体的には、無線基地局は、当該無線基地局と無線端末との間の電波伝搬状況に応じて、無線端末のための周波数帯域(RB数)および変調・符号化方式(MCS)を決定する。
【0006】
無線基地局は、スケジューリングを行う場合、無線端末の送信電力と、無線基地局が測定している平均干渉電力や熱雑音を用いて、SINR(Signal to Interference and Noise Ratio)を算出する。無線基地局は、算出したSINRに基づいて電波伝搬状況を知る。この場合、無線基地局は、無線端末が実際にデータを送信したときのPUSCHの送信電力を示す情報を、当該無線端末から取得することができない。このため、無線基地局は、無線端末が実際にデータを送信したときのPUSCHの送信電力を推定しなければならない。この場合、無線基地局は、上記の式(1)を用いて、無線端末についてのPUSCHの送信電力を算出し、算出したPUSCHの送信電力を、無線端末が実際にデータを送信したときのPUSCHの送信電力として推定する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】3GPP, TS36.321 (V9.2.0), “Medium Access Control (MAC) protocol specification,” Mar. 2010.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
無線基地局は、上記式(1)を用いて無線端末についてのPUSCHの送信電力を算出する場合、伝搬損失(以下、適宜、PLという)として上りリンクのPLを適用してPUSCHの送信電力を算出する。これに対して、無線端末は、上記式(1)を用いてPUSCHの送信電力を算出する場合、PLとして下りリンクのPLを適用してPUSCHの送信電力を算出する。このため、上りリンクのPLと下りリンクのPLとが異なる場合には、上記式(1)より得られるPUSCHの送信電力の値が、無線基地局と無線端末とで異なる。なお、上りリンクのPLと下りリンクのPLとが異なる場合とは、例えば、以下に示す(A)および(B)に示した状況である。これらの状況は、一般的に想定される状況である。
(A)無線端末が、高速で移動することによって、無線基地局と無線端末との間の無線環境におけるフェージング変動が激しくなり、上りリンクと下りリンクとでフェージング利得が大きく異なる場合。
(B)無線基地局と無線端末との間に、上りリンクにおける増幅率と下りリンクにおける増幅率が異なるAFリレーノードが中継される環境下において、無線基地局と無線端末との間で信号が伝送される場合。
このように、無線基地局が算出するPUSCHの送信電力と、無線端末が算出するPUSCHの送信電力とが異なると、無線基地局が無線端末に対するスケジューリングを適切に行うことが出来なくなる。このため、無線基地局と無線端末との間の通信品質が劣化してしまう。
【0009】
そこで、本発明は、通信品質の劣化を回避できるスケジューリングが可能な無線通信システム、無線基地局、無線端末及び通信制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するために、本発明は以下のような特徴を有している。本発明の第1の特徴は、無線端末(無線端末300)と無線基地局(無線基地局100)とを有し、前記無線端末は、下りリンクの伝搬損失と、前記無線基地局が決めた上りリンクのスケジューリングに関する情報とに基づいて、データ信号を送信するための送信電力(PUSCHの送信信号)を決める送信電力決定部(送信電力決定部331)と、前記送信電力決定部で決められた送信電力に基づいて、前記無線端末のPower Headroomを算出する算出部(PHR算出部341)と、前記算出部で算出されたPower Headroomを示す情報を送信する送信部(通信部302)と、を備え、前記無線基地局は、Power Headroomを示す情報を取得する取得部(通信部102)と、上りリンクのスケジューリングを行う制御部(制御部103)と、を備え、前記制御部は、前記無線端末の最大送信電力と前記取得部が取得したPower Headroomを示す情報とに基づいて、前記無線端末におけるデータ信号の送信電力を推定し、推定した送信電力に基づいて、前記無線端末についての次の上りリンクのスケジューリングを行う無線通信システムであることを要旨とする。
【0011】
このような無線通信システムは、無線基地局が、無線端末から通知されるPower Headroomを示す情報から、無線端末が送信するPUSCHの送信電力を推定することができる。したがって、無線基地局は、上りリンクと下りリンクとの伝播損失が異なる無線環境下であっても、無線端末のPUSCHの送信電力を適切に推定することができる。これにより、無線基地局は、通信品質の劣化を回避できるスケジューリングを行うことができる。
【0012】
本発明の第2の特徴は、前記無線基地局は、前記取得部が、Power Headroomを示す情報を取得した場合には、前記無線端末の最大送信電力と前記取得部で取得したPower Headroomを示す情報とに基づいて、前記無線端末におけるデータ信号の送信電力を推定し、推定した送信電力に基づいて、前記無線端末についての次の上りリンクのスケジューリングを行う、ことを要旨とする。
【0013】
このように、無線基地局は、無線端末からPower Headroomを示す情報を取得したときには、必ず、このPower Headroomを示す情報から、無線端末が送信するPUSCHの送信電力を推定することができる。
【0014】
本発明の第3の特徴は、前記無線端末は、前記無線端末の最大送信電力を通知する通知部を更に備え、前記無線基地局の前記制御部は、前記通知部から通知された前記無線端末の最大送信電力と前記取得部で取得されたPower Headroomを示す情報とに基づいて、前記無線端末におけるデータの送信電力を推定する、ことを要旨とする。なおこの場合、無線端末は、例えば無線基地局との通信開始時に、当該無線端末の最大送信電力に関する情報を無線基地局へ通知する。無線基地局は、無線端末から通知された当該無線端末の最大送信電力に関する情報を、当該無線端末との通信が係属している間保持(記憶)する。
【0015】
本発明の第4の特徴は、上りリンクのスケジューリングを行う制御部と、上りリンクの通信における無線端末のPower Headroomを示す情報を取得する取得部と、を備え、前記制御部は、前記無線端末の最大送信電力と前記取得部が取得したPower Headroomを示す情報とに基づいて、前記無線端末におけるデータ信号の送信電力を推定し、前記推定した送信電力に基づいて、前記無線端末についての上りリンクのスケジューリングを行う、ようにした無線基地局であることを要旨とする。
【0016】
本発明の第5の特徴は、下りリンクの伝搬損失と、無線基地局が決めた上りリンクのスケジューリングに関する情報とに基づいて、データを送信するための送信電力を決める送信電力決定部と、前記送信電力決定部で決められた送信電力に基づいて、Power Headroomを算出する算出部と、前記算出部で算出されたPower Headroomを示す情報を前記無線基地局へ送信する送信部と、を備えた無線端末であることを要旨とする。
【0017】
本発明の第6の特徴は、無線端末が、下りリンクの伝搬損失と、無線基地局において決められた上りリンクのスケジューリングに関する情報とに基づいて、データを送信するための送信電力を決める第1ステップと、前記無線端末が、前記第1ステップで決められた送信電力に基づいて、前記無線端末のPower Headroomを算出する第2ステップと、前記無線基地局が、前記第2ステップで算出されたPower Headroomを示す情報を取得する第3ステップと、前記無線基地局が、前記無線端末の最大送信電力と前記第3ステップで取得されたPower Headroomを示す情報とに基づいて、前記無線端末におけるデータの送信電力を推定する第4ステップと、前記無線基地局が、前記第4ステップで推定された送信電力に基づいて、前記無線端末についての次の上りリンクのスケジューリングを行う第5ステップと、を含む通信制御方法であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の特徴によれば、無線基地局は、通信品質の劣化を回避できるスケジューリングを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る無線通信システムの全体概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係る無線通信システムの無線端末の構成を示す図である。
【図3】AFリレーノードの構成を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る無線通信システムの無線基地局の構成を示す図である。
【図5】本発明の実施形態に係る無線通信システムの動作を示すフローチャートである。
【図6】本発明の実施形態にかかる無線端末における上りリンクのスループット特性を示す図である。
【図7】本発明のその他の実施形態に係る無線通信システムの動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。具体的には、(1)無線通信システムの構成、(2)無線通信システムの動作、(3)作用・効果、(4)その他の実施形態について説明する。以下の実施形態における図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。
【0021】
(1)無線通信システムの構成
(1.1)無線通信システムの全体概略構成
図1は、本発明の実施形態に係る無線通信システム1の全体概略構成図である。無線通信システム1は、例えば、第4世代(4G)携帯電話システムとして位置づけられているLTE−Advancedに基づく構成を有する。
【0022】
図1に示すように、無線通信システム1は、大セル(例えば、マクロセル)MC1を形成する無線基地局(MeNB)100と、例えば建物等に設置される通信中継装置としてのAF(Amplify and Forward)リレーノード200と、大セルMC1内に位置する無線端末(UE)300とを含む。なお、AFリレーノード300は、レピータとも称される。
【0023】
図1に示す無線通信システム1では、無線基地局100からAFリレーノード200を経由して無線端末300に向かう下り方向の無線通信が行われる。また、無線端末300からAFリレーノード200を経由して無線基地局100に向かう上り方向の無線通信が行われる。
【0024】
(1.2)無線端末の構成
図2は、本発明の実施形態に係る無線通信システム1の無線端末300の構成を示す図である。
【0025】
図2に示すように、無線端末300は、制御部301と、通信部302と、アンテナ303とを備える。制御部301は、例えばCPU(Central Processing Unit)等を用いて構成され、無線端末300が具備する各種の機能を制御する。
【0026】
制御部301は、下りリンクの伝搬損失を算出するDL伝搬損失算出部311と、無線基地局100が決めた上りリンクのスケジューリングに関する情報を認識するULスケジューリング情報認識部321と、DL伝搬損失算出部311が算出した下りリンクの伝搬損失およびULスケジューリング情報認識部321が認識した上りリンクのスケジューリングに関する情報とに基づいて、データ信号を送信するための送信電力を決める送信電力決定部331と、送信電力決定部331で決められた送信電力に基づいて、無線端末300のPower Headroom(以下、PHRと称する)を算出するPHR算出部341と、を備える。
【0027】
DL伝搬損失算出部311は、無線端末300が信号を受信したときの受信電力測定値と既知である無線基地局100の送信電力値とに基づいて、無線基地局100と無線端末300との間の下りリンクの伝搬損失を算出する。なお、伝搬損失は、距離減衰、シャドウィング損失、地物通過損失を含む。
【0028】
ULスケジューリング情報認識部321は、無線基地局100がスケジューリングして、当該無線基地局100から無線端末300へ通知された上りリンクのスケジューリングに関する情報を認識する。スケジューリングに関する情報は、無線端末300が上りリンクの通信で用いる周波数帯域および変調・符号化方式を示す。無線基地局100におけるスケジューリングの詳細については後述する。
【0029】
送信電力決定部331は、DL伝搬損失算出部311で算出された下りリンクの伝搬損失と、ULスケジューリング情報認識部321で認識された上りリンクのスケジューリングに関する情報に基づいてデータ信号を送信するための送信電力を決める。この場合の送信電力は、PUSCH(Physical Uplink Shared Channel)の送信電力である。
【0030】
送信電力決定部331は、具体的には、上記式(1)に基づいて、PUSCHの送信電力を決める(算出する)。この場合、送信電力決定部331は、DL伝搬損失算出部311で算出された下りリンクの伝搬損失を、式(1)のPLに適用する。また、送信電力決定部331は、ULスケジューリング情報認識部321で認識された、上りリンクの通信で用いる周波数帯域(この場合RB数)を、式(1)のMPUSCH(i)に適用する。また、送信電力決定部331は、ULスケジューリング情報認識部321で認識された、上りリンクの通信で用いる変調・符号化方式を、式(1)のΔTF(i)に適用する。
【0031】
PHR算出部341は、送信電力決定部331で決められた送信電力に基づいて、無線端末300のPHRを算出する。具体的には、以下の式(2)に基づいて算出される。PHRはデシベル値で示される。
【数2】

【0032】
式(2)において、PH(i)はサブフレームiにおける無線端末300のPHRを示す。PCMAXは無線端末UEの最大送信電力を示す。PPUSCH(i)は送信電力決定部313において式(1)によって算出されたサブフレームiにおけるPUSCHの送信電力を示す。MPUSCH(i)、Po_PUSCH、係数α、PL、ΔTF(i)、およびf(i)については、上述した説明と同じであるため説明を省略する。
【0033】
PHR算出部341で算出されたPHRは、無線端末300が増加可能な送信電力を示す。PHRが大きい場合は、無線端末300が増加可能な送信電力が大きいことを示す。PHRが小さい場合は、無線端末300が増加可能な送信電力が小さいことを示す。
【0034】
通信部302は、PHR算出部341で算出されたPHRを示す情報(以下、PHR情報という)をアンテナ303を介して送信する。通信部302は、RF等で構成される。これにより、無線端末300は、PHR算出部341で算出されたPHR情報を無線基地局100へ通知することができる。
【0035】
(1.3)AFリレーノードの構成
図3は、AFリレーノード200の構成を示す図である。
【0036】
AFリレーノード200は、例えば1入力1出力のSISO(Single Input Single Output)タイプが用いられる。なお、SISOタイプのAFリレーノードに限らず、MIMO(Multiple Input Multiple Output)タイプのAFリレーノードであってもよい。
【0037】
図3に示すように、AFリレーノード200は、アンテナ201、アンテナ202、ドナー側無線通信部203、サービス側無線通信部204、制御部205を含む。制御部205は、下りリンク用増幅部206と上りリンク用増幅部207とを含む。下りリンク用増幅部206の増幅率と上りリンク用増幅部207の増幅率は異なる。本実施の形態では、上りリンク用増幅部207の増幅率が下りリンク用増幅部206の増幅率よりも高くように設定されている。
【0038】
無線基地局100から送信された通信ストリームの信号は、アンテナ201で受信される。アンテナ201で受信された信号は、ドナー側無線通信部203を介して制御部205の下りリンク用増幅部206に入力される。
【0039】
下りリンク用増幅部206は、ドナー側無線通信部203から入力された信号を増幅してサービス側無線通信部204へ出力する。サービス側無線通信部204は、下りリンク用増幅部206で増幅された信号をアンテナ202へ出力する。下りリンク用増幅部206で増幅された信号はアンテナ202から下りリンク用の信号として再送信される。
【0040】
無線端末300から送信された通信ストリームの信号は、アンテナ202で受信される。アンテナ202で受信された信号は、サービス側無線通信部204を介して制御部205の上りリンク用増幅部207に入力される。
【0041】
上りリンク用増幅部207は、サービス側無線通信部204から入力された信号を増幅してドナー側無線通信部203へ出力する。ドナー側無線通信部203は、上りリンク用増幅部207で増幅された信号をアンテナ201へ出力する。上りリンク用増幅部207で増幅された信号はアンテナ201から上りリンク用の信号として再送信される。
【0042】
(1.4)無線基地局の構成
図4は、本発明の実施形態に係る無線通信システムの無線基地局100の構成を示す図である。
【0043】
図4に示すように、無線基地局100は、アンテナ101、通信部102、制御部103、および記憶部104を備える。アンテナ101は、無線端末300からの信号をAF−リレーノード200を介して受信する。通信部102は、RF等で構成される。制御部103は、例えばCPU(Central Processing Unit)等を用いて構成され、無線基地局100が具備する各種の機能を制御する。記憶部104には、無線端末300の最大送信電力を示す情報が記憶されている。
【0044】
通信部102は、AFリレーノード200を介して伝送された無線端末300からの信号をアンテナ101を介して受信する。通信部102で受信された信号は、上述した無線端末300のPHR情報を含む。通信部102で受信された信号は、制御部103へ送られる。また、通信部102は、スケジューリング部123が無線端末300に対して割り当てた無線リソースの情報(周波数帯域(RB数)および変調・符号化方式)を、無線端末300へ送信する。スケジューリング部123でのスケジューリングの内容については後述する。
【0045】
制御部103は、無線端末300の送信電力を推定するUE送信電力推定部113と、上りリンクのスケジューリングを行うスケジューリング部123を含む。
【0046】
UE送信電力推定部113は、無線端末300のPHR情報と、記憶部104に記憶された無線端末300の最大送信電力を示す情報とに基づいて、無線端末300におけるデータ信号の送信電力(PUSCHの送信電力)を推定する。具体的には、UE送信電力推定部113は、以下の式(3)によって、無線端末300の送信電力を推定する。
【数3】

【0047】
式(3)において、PPUSCH(i)は無線端末300の送信電力を示す。PCMAXは無線端末UEの最大送信電力を示し、記憶部104に記憶されたものである。PH(i)はサブフレームiにおける無線端末300のPHRを示す。このPHRは、無線端末300から無線基地局100へ通知されたものである。
【0048】
スケジューリング部123は、UE送信電力推定部113で推定された無線端末300の送信電力(PPUSCH(i))に基づいて、無線端末300についての次の送信タイミングにおける上りリンクのスケジューリングを行う。つまり、無線基地局は、無線端末300の送信電力を考慮して上りの無線リソース(周波数帯域(RB数)および変調・符号化方式)を割り当てる。スケジューリング部123は、当該無線通信システムのスケジューリングポリシーに基づいてスケジューリングを実行する。この場合、スケジューリング部123は、無線端末300の通信品質を保証するようにスケジューリングする。
【0049】
(2)無線通信システムの動作
次に、無線通信システムの動作について説明する。図5は、本発明の実施形態に係る無線通信システムの動作を示すフローチャートである。
【0050】
ステップS1において、無線端末300の送信電力決定部331は、無線基地局100から通知され、ULスケジューリング情報認識部312で認識された上りリンクのスケジューリングに関する情報と、DL伝搬損失算出部311で算出された下りリンクの伝搬損失とに基づいてデータ信号を送信するための送信電力(PUSCHの送信電力)を決める。
【0051】
ステップS2において、無線端末300のPHR算出部341は、送信電力決定部331が決定した送信電力に基づいて無線端末300のPHRを算出する。通信部302は、PHR算出部341で算出されたPHR情報の信号を、PUCCH(Physical Uplink Control Channel)によって送信する。
【0052】
次に、無線端末300から送信された信号(PHR情報を含む信号)は、AFリレーノード200で中継されて無線基地局100へ伝送される(ステップS3)。AFリレーノード200は、無線端末300からの信号を増幅し無線基地局100へ再送信する。
【0053】
ステップS4において、無線基地局100は、無線端末300の最大送信電力とAFリレーノード200を介して受信された、無線端末300からのPHR情報とに基づいて、無線端末300におけるデータ信号の送信電力(PUSCHの送信電力)を推定する。
【0054】
ステップS5において、無線基地局100は、ステップS4で推定した無線端末300の送信電力に基づいて、無線端末300における次の上りリンクの送信に要する無線リソースを割り当てる。無線基地局100は、ステップS5において無線端末300に対する上りリンクの無線リソースを割り当てた場合には、割り当てた無線リソースを示す情報を、PDCCH(Physical Downlink Control Channel)に含めて無線端末300へ向けて送信する。
【0055】
無線基地局100から送信された信号(上りリンクの無線リソースの割り当て情報が含まれた信号)は、AFリレーノード200で中継されて無線端末300へ伝送される(ステップS6)。AFリレーノード200は、無線基地局100からの信号を増幅し無線端末300へ再送信する。
【0056】
無線端末300は、AFリレーノード200から再送信された無線基地局100からの信号を受信し、受信した信号から上りリンクの無線リソースの割り当て情報を認識すると、4サブフレーム後に、ステップS1の処理を行う。無線通信システムは、前述したステップS1ないしステップS6の処理を繰り返す。
【0057】
(3)作用・効果
本実施形態における無線通信システムは、無線端末300が、下りリンクの伝搬損失と、無線基地局100が決めた上りリンクのスケジューリングに関する情報とに基づいてPUSCHの送信電力を算出し、さらにそのPUSCHの送信電力から無線端末300のPHRを算出し、算出したPHR情報を無線基地局100へ通知する。無線基地局100は、無線端末300の最大送信電力と無線端末300から通知されたPHRとに基づいて、無線端末300が実際に送信したPUSCHの送信電力を推定する。これにより、無線基地局100は、上りリンクと下りリンクとの伝搬損失が異なる無線環境下であっても、無線端末300のPUSCHの送信電力を適切に推定することができる。
【0058】
従って、無線基地局100は、適切に推定されたPUSCHの送信電力に基づいて無線端末300に関する上りリンクの無線リソースの割り当てを行うので、通信品質の劣化を回避できるスケジューリングを行うことができる。
【0059】
本実施形態では、AFリレーノード200において、上りリンクの信号の増幅率が下りリンクの信号の増幅率よりも高い場合について説明した。図6は、本発明の実施形態にかかる無線端末300における上りリンクのスループット特性を示す図である。図6において、縦軸が無線端末における上りリンクのスループットを示す。図6において、「Avg」は平均UE(無線端末)スループット、「5%」は5percentile UEのスループット、「Cluster」は屋内UEの平均スループットを示す。本実施形態における無線端末300の上りリンクのスループットは、図6において「Estimated by PHR」で示される。図6で示された「Estimated PL」は、上述した上りリンクの伝搬損失に基づいてスケジューリングされた場合の無線端末のスループットを示す。
【0060】
図6には、無線基地局100が、PUSCHの送信電力を上りリンクの伝搬損失に基づいて推定した場合、および無線端末300のPHRに基づいて推定した場合の無線端末300の上りリンクのスループットの測定結果を示されている。このシミュレーション結果によると、無線基地局100が上りリンクの伝搬損失に基づいてPUSCHの送信電力を推定した場合よりも、無線基地局100が無線端末300のPHRに基づいてPUSCHの送信電力を推定した場合のほうが、スループット特性が改善していることが認識される。なぜなら、無線基地局100が無線端末300のPHRに基づいてPUSCHの送信電力を推定することにより、AFリレーノード200の増幅率が異なっていても、無線端末300が決定したPUSCHの送信電力を無線基地局100が正しく推定することができ、これにより無線基地局100が適切な変調・符号化方式(MCS)を選択できるためであると考えられる。
【0061】
(4)その他の実施形態
上記のように、本発明は上述した実施形態の説明によって示されるが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなる。
【0062】
上述した実施形態では、無線端末300と無線基地局100との間にAFリレーノード200が設けられているが、例えば、図7に示すように、無線端末300と無線基地局100との間にAFリレーノード200が設けられていない無線環境下においても、同様に本発明を適用可能である。
【0063】
上述した実施形態では、無線基地局100は、記憶部104に、予め無線端末300の最大送信電力を示す情報を記憶しておき、無線端末300からPHR情報を取得した場合には、記憶部104で記憶していた無線端末300の最大送信電力とPHRとに基づいて、無線端末300のPUSCHの送信電力を推定していたが、次に示す実施形態であってもよい。
【0064】
具体的には、無線端末300は、当該無線端末300の最大送信電力を無線基地局100へ通知するための通知部(制御部301の一部を構成するもの。通知部については図示せず)を更に備える。無線基地局100の制御部103は、無線端末300の前記通知部によって通知された当該無線端末300の最大送信電力を示す情報を記憶部104に記憶する。無線基地局100は、通信部102で取得されたPHR情報と先に記憶部104に記憶されていた無線端末300の最大送信電力を示す情報とに基づいて、無線端末300におけるデータの送信電力(PDSCHの送信電力)を推定する。
【0065】
この場合、無線端末300は、例えば無線基地局100との通信開始時(例えばランダムアクセス開始時)に、無線端末300の最大送信電力を示す情報を無線基地局100へ通知する。なお、無線基地局100は、無線端末300から通知された当該無線端末300の最大送信電力を示す情報を、当該無線端末300との通信が係属している間保持(記憶)し、無線端末300との通信接続が解除された場合には、記憶していた当該無線端末300の最大送信電力を示す情報を抹消するようにしてもよい。またこの場合、無線基地局100は、無線端末300から通知された当該無線端末300の最大送信電力を示す情報を、当該無線基地局100に隣接する無線基地局(ネイバーリストに示された無線基地局、以下、隣接無線基地局という)へ通知するようにしてもよい。この場合、無線基地局100は、少なくとも無線端末300のハンドオーバ先の候補となる隣接無線基地局へ、無線端末300の最大送信電力を示す情報を通知する。これにより、無線端末300が、現在通信接続している無線基地局100から、ハンドオーバ先の隣接無線基地局へハンドオーバした場合には、無線端末300のハンドオーバ先の隣接無線基地局は、上述した無線基地局100と同様に、無線端末300の最大送信電力を示す情報を活用した前記スケジューリングを実行することができる。
【0066】
また、上述した実施形態では、無線基地局100は、無線端末300からPHR情報を取得した場合には、必ず、取得したPHR情報を用いて、無線端末300のPUSCHの送信電力を推定するようにしていたが、次に示すような実施形態であってもよい。
【0067】
無線基地局100は、無線端末300から定期的に通知されるPHRついて所定期間分のログをとり記憶部104に記憶する。無線基地局100は、無線端末300から所定のタイミング(所定の周期)でPHR情報が通知されなくなった場合には、記憶部104で記憶されていた過去のPHR情報に基づいて、当該無線端末の送信電力を推定するようにする。また、無線基地局100は、無線端末300から所定のタイミング(所定の周期)でPHR情報が通知されない場合には、暫定的に、上りリンクの伝搬損失に基づいて無線端末が送信するPUSCHの送信電力を推定するようにしてもよい。
【0068】
また、上述した実施形態では、無線通信システムは、LTE−Advancedに基づく構成であったが、3GPP−Release9等の他の通信規格に基づく構成であってもよい。
【0069】
このように本発明は、ここでは記載していない様々な実施形態等を包含するということを理解すべきである。したがって、本発明はこの開示から妥当な特許請求の範囲の発明特定事項によってのみ限定されるものである。
【符号の説明】
【0070】
1:無線通信システム、100:無線基地局、200:AFリレーノード、300:無線端末、101:アンテナ、102:通信部、103:制御部、104:記憶部、113:UE送信電力推定部、123:スケジューリング部、201、202:アンテナ、203:ドナー側無線通信部、204:サービス側無線通信部、205:制御部、206:下りリンク用増幅部、207:上りリンク用増幅部、301:制御部、302:通信部、303:アンテナ、311:DL伝搬損失算出部、321:上りスケジューリング情報認識部、331:送信電力決定部、341:PHR算出部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線端末と無線基地局とを有し、
前記無線端末は、
下りリンクの伝搬損失と、前記無線基地局が決めた上りリンクのスケジューリングに関する情報とに基づいて、データ信号を送信するための送信電力を決める送信電力決定部と、
前記送信電力決定部で決められた送信電力に基づいて、前記無線端末のPower Headroomを算出する算出部と、
前記算出部で算出されたPower Headroomを示す情報を送信する送信部と、を備え、
前記無線基地局は、
前記Power Headroomを示す情報を取得する取得部と、
上りリンクのスケジューリングを行う制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記無線端末の最大送信電力と前記取得部で取得したPower Headroomを示す情報とに基づいて、前記無線端末におけるデータ信号の送信電力を推定し、
前記推定した送信電力に基づいて、前記無線端末についての次の上りリンクのスケジューリングを行う、ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
前記無線基地局は、
前記取得部が、前記Power Headroomを示す情報を取得した場合には、前記無線端末の最大送信電力と前記取得部が取得したPower Headroomを示す情報とに基づいて、前記無線端末におけるデータ信号の送信電力を推定し、
前記推定した送信電力に基づいて、前記無線端末についての次の上りリンクのスケジューリングを行う、請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記無線端末は、
前記無線端末の最大送信電力を通知する通知部を更に備え、
前記無線基地局の前記制御部は、
前記通知部から通知された前記無線端末の最大送信電力と、前記取得部で取得されたPower Headroomを示す情報とに基づいて、前記無線端末におけるデータの送信電力を推定する、請求項1または2に記載の無線通信システム。
【請求項4】
上りリンクのスケジューリングを行う制御部と、
上りリンクの通信における無線端末のPower Headroomを示す情報を取得する取得部と、を備え、
前記制御部は、
前記無線端末の最大送信電力と前記取得部で取得したPower Headroomを示す情報とに基づいて、前記無線端末におけるデータ信号の送信電力を推定し、
前記推定した送信電力に基づいて、前記無線端末についての上りリンクのスケジューリングを行う無線基地局。
【請求項5】
下りリンクの伝搬損失と、無線基地局が決めた上りリンクのスケジューリングに関する情報とに基づいて、データを送信するための送信電力を決める送信電力決定部と、
前記送信電力決定部で決められた送信電力に基づいて、Power Headroomを算出する算出部と、
前記算出部で算出されたPower Headroomを示す情報を前記無線基地局へ送信する送信部と、を備えた無線端末。
【請求項6】
無線端末が、下りリンクの伝搬損失と、無線基地局において決められた上りリンクのスケジューリングに関する情報とに基づいて、データを送信するための送信電力を決める第1ステップと、
前記無線端末が、前記第1ステップで決められた送信電力に基づいて、前記無線端末のPower Headroomを算出する第2ステップと、
前記無線基地局が、前記第2ステップで算出されたPower Headroomを示す情報を取得する第3ステップと、
前記無線基地局が、前記無線端末の最大送信電力と前記第3ステップで取得されたPower Headroomを示す情報とに基づいて、前記無線端末におけるデータの送信電力を推定する第4ステップと、
前記無線基地局が、前記第4ステップで推定された送信電力に基づいて、前記無線端末についての次の上りリンクのスケジューリングを行う第5ステップと、を含む通信制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−259238(P2011−259238A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132309(P2010−132309)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】