説明

焼入性に優れた高強度鋼製加工品及びその製造方法、並びに高強度かつ耐衝撃特性及び耐内圧疲労特性に優れたディーゼルエンジン用燃料噴射管及びコモンレールの製造方法

【課題】成分添加量の制御により強度−靭性のバランスに優れ、残留オーステナイトの安定性が高く、焼入性に優れた高強度鋼製加工品を提供する。
【解決手段】C:0.1〜0.7%、Si:2.5%以下、Mn:0.5〜3%、Al:1.5%以下、Nb、Ti、Vの内1種類又は2種類以上を合計で0.01〜0.3%、Cr:2.0%以下、Mo:0.5%以下、Ni:2.0%以下、Cr、Mo、Niの内2種類以上を合計で0.7〜3.0%、を含有し、かつ下記式の炭素当量(Ceq)が0.75%以上0.90%以下で、残部Fe及び不可避的不純物からなり、組織は、50%以上のラス状ベイニティックフェライトと、少量のポリゴナルフェライト及びグラニュラーベイニティックフェライトを含有し、第2相組織が残留オーステナイトとマルテンサイトであることを特徴とする。Ceq=C+Mn/6+Si/24+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼入性に優れた高強度鋼製加工品及びその製造方法、並びに高強度かつ耐衝撃特性及び耐内圧疲労特性に優れたディーゼルエンジン用燃料噴射管及びコモンレールの製造方法に係り、より詳しくは、主にラス状ベイニティックフェライトと、残留オーステナイト、並びにマルテンサイトからなり、高い降伏強度と引張り強度を有する高焼入性の超高強度低合金TRIP鋼(TBF鋼)からなる高強度鋼製加工品、高強度鍛造品、高圧燃料噴射管、ディーゼルエンジンに搭載される蓄圧式燃料噴射システム用コモンレールおよびそれらの製造方法に関するものである。
【0002】
なお、本発明の「高強度鍛造品」としては、例えば、ニアネットシェイプ鍛造品等が代表的に挙げられ、一次鍛造品のみならず、一次鍛造品を更に鍛造(冷間、温間鍛造等)して得られる二次鍛造品、三次鍛造品等の精密鍛造品、更に当該鍛造品を複雑な形状に加工して得られる最終製品、ディーゼルエンジンに搭載される蓄圧式燃料噴射システム用コモンレール等も全て包含される。
【背景技術】
【0003】
自動車、電機、機械等の産業用技術分野における鍛造品は一般に、加熱温度が異なる種々の鍛造(加工)を行った後、焼入れ・焼戻し等の調質処理(熱処理)をして製造されており、例えば自動車を例に挙げると、クランクシャフト、コンロッド、トランスミッションギア、ディーゼルエンジンに搭載される蓄圧式燃料噴射システム用コモンレール等には、熱間鍛造品(加圧温度1100〜1300℃)や温間鍛造品(加圧温度600〜800℃)が、ピニオンギア、歯車、ステアリングシャフト、バルブリフター等には、冷間鍛造品(常温で加圧)がそれぞれ汎用されている。
【0004】
近年、自動車の車体の軽量化と衝突安全性を確保するため、残留オーステナイトの変態誘起塑性を伴う成形可能な超高強度低合金TRIP鋼(TBF鋼)の適用が検討されている。
例えば、特許文献1には、概ねフェライトとオーステナイトの2相域温度にて焼鈍と鍛造の両方を行った後、所定温度でオーステンパー処理するという独自の熱処理を採用することによって、引張強度が600MPa級以上の高強度域において、伸び及び強度−絞り特性のバランスに優れた高強度鍛造品の製造方法に関する技術が、又、特許文献2には、焼戻しベイナイト又はマルテンサイトを作り分けた後、概ねフェライトとオーステナイトの2相域温度で焼鈍と鍛造の両方を行い、その後、所定温度でオーステンパー処理する方法を採用することにより、伸び、及び、強度−絞り特性のバランスに優れた高強度鍛造品を製造し得る技術が、更に、特許文献3には、2相域の温度範囲に加熱した後、該2相域で鍛造加工を行い、その後、規定のオーステンパー処理を施すことで、鍛造加工時の温度を低下できると共に、優れた伸びフランジ性と加工性を備えた高強度鍛造品を製造し得る技術が、開示されている。
【0005】
しかしながら、これらの方法で得られる鍛造品を作製する場合、以下に記載する問題が発生する可能性がある。
鍛造品は、その加工率に応じて発熱するため、鍛造時の部品温度が部位によって変化する場合がある。例えば、高温(Ac3点付近)で鍛造を行った場合には、加工率が高いと発熱量も大きくなり、オーステナイト同士の合体・成長が発生するため、熱処理後に粗大な残留オーステナイトが生成し、衝撃特性を劣化させることが考えられる(高温鍛造時の問題点)。一方、低温側(Ac1点付近)で鍛造を行った場合には、加工率が低いと十分な発熱量が確保できないので、不安定な残留オーステナイトが大量に生成し、熱処理後、破壊の起点となる硬質なマルテンサイトが生成して衝撃特性を劣化させることが考えられる(低温鍛造時の問題点)。従って、鍛造品の温度や加工率が異なると、部分的に粗大な残留オーステナイトや不安定なオーステナイトが発生し易く、鍛造品全体として安定かつ優れた耐衝撃特性を得ることが難しい。
【0006】
一方、特許文献4には、熱延鋼材作製時にNb、Ti、Vの内の一種類あるいは2種類以上の添加、および適量のAl添加を行い、概ねフェライトとオーステナイトの2相域温度で焼鈍と鍛造の両方を行った後、所定温度でオーステンパー処理するという熱処理を採用することにより、鍛造温度、および鍛造加工率に依らず伸び、および強度−絞り特性のバランスに優れ、引張強度も600MPa以上の、耐衝撃特性に優れた鋼製高強度加工品、高圧燃料配管(特に、高強度かつ耐衝撃特性に優れた、ディーゼルエンジン用燃料噴射管及びディーゼルエンジン用コモンレール等)を製造し得る技術が開示されている。
この特許文献4に開示されている発明は、前記特許文献1〜3に開示されている技術では得られない格別の効果を奏する点で優れ、その超高強度低合金TRIP鋼(TBF鋼)は自動車の車体の軽量化と衝突安全性の確保により大きく寄与し得ることが期待される。しかしながら、この超高強度低合金TRIP鋼(TBF鋼)は、微粒状ベイナイトフェライトと角形フェライトが、マトリックスの中で、ベイナイトフェライトのラス構造と共に共存することから、更なる高い降伏強度と引張強度を達成するための完全なTBF鋼を得るためには、高い焼入れ性が必要である。これまで、この高い焼入れ性を有する超高強度低合金TRIP鋼(TBF鋼)は未開発の状況にあるのが現状である。
【特許文献1】特開2004−292876号公報
【特許文献2】特開2005−120397号公報
【特許文献3】特開2004−285430号公報
【特許文献4】特開2007−231353号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたもので、鍛造温度や鍛造加工率等に依らず、化学組成の成分添加量を制御することによって強度−靭性のバランスに優れ、かつ残留オーステナイトの安定性が高い微細構造の金属組織を有する、焼入性に優れた高強度鋼製加工品、高強度かつ耐衝撃特性及び耐内圧疲労特性に優れたディーゼルエンジン用燃料噴射管及びコモンレールを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鍛造温度や鍛造加工率等に依らず、強度−靭性のバランスに優れ、かつ残留オーステナイトの安定性が高い微細構造の金属組織を有する、焼入性に優れた高強度鋼製加工品、高強度かつ耐衝撃特性及び耐内圧疲労特性に優れたディーゼルエンジン用燃料噴射管及びコモンレールの実現と、これらの製造方法を確立すべく、ベイナイトフェライト及び/又はマルテンサイトのマトリックス構造をもつ超高強度低合金TRIP鋼(TBF鋼)について、熱間鍛造とその後の等温変態保持プロセス(FITプロセス)の、当該TBF鋼の微細構造と機械的特性に及ぼす効果を、具体的な実験により検討した。
その結果、焼入れ性向上のためにCr、Mo、Niの内2種類以上を、結晶粒の微細化による強度(疲労強度)向上のためにNb、Ti、Vの内1種類又は2種類以上を適量含み、かつ炭素当量(Ceq)を適正値に設定することにより、母相組織が主にラス状ベイニティックフェライトからなり、かつ少量のグラニュラーベイニティックフェライトとポリゴナルフェライトを含み、第2相組織が微細な残留オーステナイトとマルテンサイトからなる、微細構造の金属組織を有し、かつ強度と靭性のバランスが優れ、更に降伏応力と引張強さも高い、高焼入性の超高強度低合金TRIP鋼(TBF鋼)が得られることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明に係る焼入れ性に優れた高強度鋼製加工品は、C:0.1〜0.7%、Si:2.5%以下(0%を含まない)、Mn:0.5〜3%、Al:1.5%以下、Nb、Ti、Vの内1種類又は2種類以上を合計で0.01〜0.3%、Cr:2.0%以下(0%を含まない)、Mo:0.5%以下(0%を含まない)、Ni:2.0%以下、Cr、Mo、Niの内2種類以上を合計で0.7〜3.0%、を含有し、かつ下記式1により規定される炭素当量(Ceq)が0.75%以上0.90%以下で、残部Fe及び不可避的不純物からなり、金属組織は、母相組織がラス状ベイニティックフェライトを50%以上(全組織に対する体積率、組織について以下同じ)と、ポリゴナルフェライト及びグラニュラーベイニティックフェライトを合計で20%以下を含有し、第2相組織が残留オーステナイトを5〜30%、マルテンサイトを5%以下、を満たすことを特徴とするものである。
【0010】
[式1]
Ceq=C+Mn/6+Si/24+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14
【0011】
前記焼入れ性に優れた高強度鋼製加工品は、更に、他の元素として、Bを0.005%以下(0%を含まない)含んでいてもよい。
【0012】
前記焼入れ性に優れた高強度鋼製加工品として鍛造品が挙げられる。又、前記加工品として高圧燃料配管が挙げられる。前記高圧燃料配管としては、高強度かつ耐衝撃特性及び耐内圧疲労特性に優れたディーゼルエンジン用燃料噴射管、又は、高強度かつ耐衝撃特性及び耐内圧疲労特性に優れたディーゼルエンジン用コモンレールが挙げられる。
【0013】
又、本発明に係る上記高強度鋼製加工品を製造する方法は、上記成分組成を満たす鋼材を使用し、該鋼材をAc3点以上の温度域で所定時間、好ましくは1秒以上保持し、該温度域で塑性加工を施した後、所定の平均冷却速度、好ましくは1℃/s以上の平均冷却速度で300〜450℃(好ましくは325〜425℃)まで冷却し、該温度域で100〜2000秒(好ましくは1000秒)保持する工程を含むことを特徴とするものである。
【0014】
又、本発明は、上記ディーゼルエンジン用燃料噴射管を製造する方法として、上記成分組成を満たす鋼材を使用し、1200℃以上の温度に加熱保持する工程、熱間押出加工を施す工程、及び、Ac3点以上の温度域で所定時間、好ましくは1秒以上保持し、該温度域で温間押出加工を施した後、所定の平均冷却速度、好ましくは1℃/s以上の平均冷却速度で300〜450℃(好ましくは325〜425℃)まで冷却し、該温度域で100〜2000秒(好ましくは1000秒)保持する工程を経た後、常温まで冷却し、その後、ガンドリル加工法による管軸方向の穿孔加工、径方向及び/又は管軸方向に圧延する伸管加工、切断加工、端末加工、及び、曲げ加工を順次行うことを特徴とするものである。
【0015】
更に、本発明は、上記ディーゼルエンジン用コモンレールを製造する方法として、上記成分組成を満たす鋼材を使用し、1200℃以上の温度に加熱保持する工程、熱間押出加工を施す工程、及び、Ac3点以上の温度域で所定時間、好ましくは1秒以上保持し、該温度域で温間押出加工を施した後、所定の平均冷却速度、好ましくは1℃/s以上の平均冷却速度で300〜450℃(好ましくは325〜425℃)まで冷却し、該温度域で100〜2000秒(好ましくは1000秒)保持する工程を経た後、常温まで冷却し、その後、ガンドリル加工法による管軸方向の穿孔加工、径方向及び/又は管軸方向に圧延する伸管加工、切断加工、機械加工、及び、組立加工を順次行うことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、焼入れ性向上のためにCr、Mo、Niの内2種類以上を、結晶粒の微細化による強度(疲労強度)向上のためにNb、Ti、Vの内1種類又は2種類以上を適量含み、かつ炭素当量を適正値に設定した鋼材を用い、所定の熱処理を採用することにより、母相組織が主にラス状ベイニティックフェライトからなり、かつ少量のグラニュラーベイニティックフェライトとポリゴナルフェライトを含み、第2相組織が微細な残留オーステナイトとマルテンサイトからなる、微細構造の金属組織を有し、かつ強度と靭性のバランスが優れた高焼入性の超高強度低合金TRIP鋼(TBF鋼)が得られることにより、加熱温度や、加工率(鍛造加工率や圧延加工率等)等によらず、焼入性に優れた高強度鋼製加工品、高強度かつ耐衝撃特性及び耐内圧疲労特性に優れたディーゼルエンジン用燃料噴射管及びコモンレールを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明において、焼入れ性を高めるためにCr、Mo、Niの含有量を前記の値に規定したのは、以下に記載する理由による。
すなわち、Cr、Mo、Niは、鋼の強化元素として有用であると共に、残留オーステナイトの安定化や所定量の確保に有効な元素であるのみならず、鋼の焼入れ性の向上にも有効な元素であるが、焼入れ性の向上効果を十分に発揮させるためにはCr:2.0%以下(0%を含まない)、Mo:0.5%以下(0%を含まない)、Ni:2.0%以下の内2種類以上を合計で0.7〜3.0%含有させる必要がある。その理由は、Cr、Mo、Niのうち2種類上の合計含有量が0.7%未満では、焼入れ性の向上効果を十分に発揮させることができず、他方、3.0%を超えるとベイナイト変態温度が下がりベイニティックヘライトが析出しにくくなり、マルテンサイト相になって硬くかつ脆くなり焼入れ性が高くなり過ぎるためである。
【0018】
又、本発明では、結晶粒のさらなる微細化をはかるために、鋼材にNb、Ti、Vの内1種類又は2種類以上を合計で0.01〜0.3%含有させる。これは、オーステナイト単相域及び概ねフェライトとオーステナイトの2層域温度で焼鈍、更には鍛造等の塑性加工の両方を行った後、所定温度でオーステンパー処理するという熱処理を採用することにより、下記に規定する金属組織、ひいては所望の特性を容易に確保するためである。
【0019】
・母相組織:ラス状ベイニティックフェライトが50%以上と、ポリゴナルフェライト及びグラニュラーベイニティックフェライトが合計で20%以下
焼入性に優れた高強度鋼製加工品の強度かつ耐衝撃特性及び耐内圧疲労特性、並びに強度−靭性のバランスを向上させるためには、ラス状ベイニティックフェライトの体積率を50%以上とする必要がある。なお、ポリゴナルフェライト及びグラニュラーベイニティックフェライトの体積率を合計で20%以下としたのは、20%を超えると靭性が低下するためである。
【0020】
・第2相組織:残留オーステナイトが5〜30%、マルテンサイトが5%以下
本発明の加工品は、母相組織として前記ラス状ベイニティックフェライトと、ポリゴナルフェライト及びグラニュラーベイニティックフェライトを含むと共に、第2相組織として残留オーステナイト、マルテンサイトを金属組織として含む。このうち、残留オーステナイトは、全伸びの向上に有効であり、又、塑性誘起マルテンサイト変態によるき裂抵抗となることで耐衝撃特性の向上にも有効であるが、該残留オーステナイトの体積率が5%未満では、前記効果を十分発揮することができず、他方、30%を超えると残留オーステナイト中のC濃度が低くなり、不安定な残留オーステナイトとなるので、前記効果を十分発揮することができないため、残留オーステナイトの体積率を5〜30%とした。又、マルテンサイトは、母相との界面において破壊の起点となるため、全組織に対するマルテンサイトの体積率は5%以下(好ましくは1〜3%以下)とした。
【0021】
本発明において、上記金属組織を確実に形成すると共に、引張特性、靭性等の機械的特性を効率よく高めるためには、その他の成分を下記の通り制御する必要がある。
【0022】
・C:0.1〜0.7%
Cは高強度を確保し、かつ、残留オーステナイトを確保するために必須の元素である。より詳しくは、オーステナイト中のCを確保し、室温でも安定した残留オーステナイトを残存させて、延性及び耐衝撃特性を高めるのに有効であるが、0.1%未満ではその効果が十分に得られず、他方、0.7%を超えて過剰に添加すると残留オーステナイト量が増加すると共に、残留オーステナイトにCが濃化し易くなるので、高い延性および耐衝撃特性が得られる。しかし、0.7%を超えると、その効果が飽和するのみならず、中心偏析等による欠陥等が発生し、耐衝撃特性を劣化するため、上限を0.7%に限定した。
【0023】
・Si:2.5%以下(0%を含まない)
Siは酸化物生成元素であるので、過剰に含まれると耐衝撃特性を劣化させるため添加量を2.5%以下とした。なお、本発明鋼製品は、Siと同様の作用を発揮するAlの添加を前提としているが、Siの添加による固溶強化、および残留オーステナイトの生成量増加という観点からは、0.5%以上含有させてもよい。
【0024】
・Mn:0.5〜3%
Mnは、オーステナイトを安定化し、規定量の残留オーステナイトを得るために必要な元素である。この様な作用を有効に発揮させるためには、0.5%以上(好ましくは0.7%以上、より好ましくは1%以上)添加することが必要である。しかし、過剰に添加すると、鋳片割れが生じるなどの悪影響が出るので、3%以下とした。好ましくは2.5%以下、より好ましくは2%以下である。
【0025】
・Al:1.5%以下
AlはSiと同様に炭化物の析出を抑制する元素であるが、AlはSiよりもフェライト安定能が強いので、Al添加の場合には変態開始がSi添加の場合よりも速くなり、極短時間の保持(鍛造等)においてもオーステナイト中にCが濃化されやすい。そのため、Al添加を行った場合には、オーステナイトをより安定化させることができ、結果として生成したオーステナイトのC濃度分布が高濃度側にシフトする上、生成する残留オーステナイト量が多くなって、高い衝撃特性を示すようになる。しかしながら、1.5%を超える添加は、鋼のAc3変態点を上昇させ、実操業上好ましくないので、上限を1.5%に規定した。なお、好ましくは0.05%である。
【0026】
・B:0.005%以下
BはCr、Mo等と同様に鋼の焼入れ性の向上に有効な元素であるが、遅れ破壊強度を低下させずに焼入れ性を高め、コストを低く抑えるためには、0.005%以下が好ましい。
【0027】
本発明においては更に、前記式により規定される炭素当量を0.75%以上0.90%以下に限定する。これは、上記金属組織の確保と、強度−靭性のバランスをより高める上で重要である。すなわち、炭素当量(Ceq)が0.75%未満では結晶粒の微細化を十分にはかることができず、母相組織であるラス状ベイニティックフェライトを50%以上確保することが困難となり、他方、0.90%を超えると、焼入れ性が過大となって、降伏応力と引張強さが過度に高くなり、靭性の改善効果が得られないためである。
【0028】
次に、本発明の高強度鋼製加工品の製造方法は、上記成分組成を満たす鋼材を使用し、該鋼材をAc3点以上の温度域で所定時間、好ましくは1秒以上保持し、該温度域で塑性加工を施した後、所定の平均冷却速度、好ましくは1℃/s以上の平均冷却速度で300〜450℃(好ましくは325〜425℃)まで冷却し、該温度域で100〜2000秒(好ましくは1000秒)保持する工程を含むことを特徴とするものであるが、該熱処理条件を規定したのは以下に示す理由による。
【0029】
まず、鋼材をAc3点以上の温度域で1秒以上保持するのは、加熱温度を概ね2相域〜オーステナイト単相域温度とすることにより微細なラス状ベイニティックフェライト及び第2相組織を得ることができるからである。なお、加熱温度がAc3点未満では、微細なラス状ベイニティックフェライト及び第2相組織が満足に析出しないためである。又、上記温度域での保持時間としては、加熱手段に例えば高周波加熱を採用した場合には瞬時にAc3点以上の温度域に保持できるので、好ましくは1秒以上とした。なお、その上限は特に限定されないが、生産性を考慮すると約30分程度である。
【0030】
上記塑性加工としては、鍛造加工、押出加工、穿孔加工、又はロール成形による伸管加工が挙げられるが、これらの加工における条件は、特に限定されず、通常行われている方法で行えばよい。
【0031】
次に、本発明では上記塑性加工後、所定の平均冷却速度、好ましくは1℃/s以上の平均冷却速度で300〜450℃(好ましくは325〜425℃)まで冷却し、当該温度域で100〜2000秒保持(オーステンパー処理)するが、好ましい平均冷却速度を1℃/s以上としたのは、パーライトの生成を抑制するためである。又、オーステンパー処理温度を300〜450℃(好ましくは325〜425℃)としたのは、300℃未満ではCの拡散が遅く、規定量の残留オーステナイトが得られず、他方、450℃を超えると、セメンタイトが析出するのでオーステナイト中へのC濃化が生じず、規定量の残留オーステナイトが得られないためである。更に、オーステンパー処理時間を100〜2000秒としたのは、100秒未満ではCの濃化が不十分で所定量の残留オーステナイトが生成せず、不安定な残留オーステナイトがマルテンサイトへと変態してしまい、他方、2000秒を超えると生成した残留オーステナイトが分解してしまうためである。なお、好ましくは、100〜1000秒である。
【0032】
本発明は、上記製造条件を採用して、ディーゼルエンジン用燃料噴射管及びディーゼルエンジン用コモンレールを製造する方法も規定する。
ディーゼルエンジン用燃料噴射管を製造する方法しては、前記の成分組成を満たす鋼材を使用し、1200℃以上の温度に加熱保持する工程、熱間押出加工を施す工程、及び、Ac3点以上の温度域で所定時間、好ましくは1秒以上保持し、該温度域で温間押出加工を施した後、所定の平均冷却速度、好ましくは1℃/s以上の平均冷却速度で300〜450℃(好ましくは325〜425℃)まで冷却し、該温度域で100〜2000秒保持する工程を経た後、常温まで冷却し、その後、ガンドリル加工法による管軸方向の穿孔加工、径方向及び/又は管軸方向に圧延する伸管加工、切断加工、端末加工、及び、曲げ加工を順次行う方法を採用することができる。
【0033】
又、ディーゼルエンジン用コモンレールを製造する方法としては、上記ディーゼルエンジン用燃料噴射管の製造方法とほぼ同様の条件を採用し、規定の成分組成を満たす鋼材を使用し、1200℃以上の温度に加熱保持する工程、熱間押出加工を施す工程、及び、Ac3点以上の温度域で所定時間、好ましくは1秒以上保持し、該温度域で温間押出加工を施した後、所定の平均冷却速度、好ましくは1℃/s以上の平均冷却速度で300〜450℃(好ましくは325〜425℃)まで冷却し、該温度域で100〜2000秒保持する工程を経た後、常温まで冷却し、その後、ガンドリル加工法による管軸方向の穿孔加工、径方向及び/又は管軸方向に圧延する伸管加工、切断加工、機械加工、及び、組立加工を順次行う方法を採用することができる。
【0034】
上記ディーゼルエンジン用燃料噴射管及びディーゼルエンジン用コモンレールを製造する方法において、熱間押出加工を施した後、Ac3点以上の温度域まで冷却する場合があるが、該冷却方法は特に限定されない。又、100〜2000秒保持する工程を経た後、常温までの冷却は、速やかに冷却することが望ましい。更に、ディーゼルエンジン用コモンレールの製造方法において、熱間押出加工を施した後、ガンドリル加工法により管軸方向に穿孔するが、該冷却方法は特に限定されない。
【0035】
上記製造方法に用いる鋼材としては、ビレットや熱延丸棒等が挙げられるが、これらは常法通りに目的成分を満足する鋼を溶製し、スラブとした後、熱間のまま加工するか、又は一旦室温まで冷却したものを再度加熱した後に熱間加工を行って得られたものを用いればよい。
[実施例]
【0036】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は下記実施例によって制限を受けるものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で変更・実施することは、全て本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例1】
【0037】
まず、表1に記載の成分組成からなる鋼種No.1〜6の供試鋼スラブ(表中の単位は質量%であり、残部Fe及び不可避的不純物)を連続鋳造により製造し、それぞれ1250℃域まで再加熱後、熱間圧延を行い、酸洗後、機械加工して、直径32mm、長さ80mmの棒鋼から、厚さ20mm、長さ80mm、幅32mmの角棒からなる鍛造用試験片を作製した。
次に、各供試鋼の種類に応じて各鍛造用試験片を表2に示す鍛造温度で1秒以上加熱し、それぞれの試験片の加熱温度と同じ温度に加熱した金型を用いて鍛造加工を行い、10〜70%の圧縮鍛造歪みを付与した。その後、表2に示すオーステンパー温度まで1℃/sの平均冷却速度で冷却した後、表2に示す時間にわたって等温変態保持するオーステンパー処理を行った。
このようにして得られた各鍛造材につき、引張強度(TS)、降伏強度(YS)、伸び(EI)、シャルピー衝撃値(CIV)、及び、各組織の体積率(占積率)を下記要領でそれぞれ測定した。又、本実施例における各供試鋼のうち、代表例として鋼種No.1と鋼種No.5のCCT曲線(F:フェライト、B:ベイナイト、M:マルテンサイト)をそれぞれ図1、図2に、同じく各供試鋼の強度・靭性バランスを図3(降伏強度)、図4(引張強度)に、それぞれ示す。更に、本実施例の鋼種No.1〜3のうち、代表例として鋼種No.1の鋼の熱間鍛造熱処理後の金属組織(顕微鏡写真)を図5(緑色の相は主にラス状のベイナイトフェライトのマトリックスを表し、赤色の相は残留オーステナイトを示す。)に示す。
【0038】
・降伏強度、引張強度、及び、伸びの測定:
上記鍛造材より採取したJIS14B号試験片(平行部長さ20mm、幅6mm、厚さ1.2mm)を用いて、降伏強度YS、引張強度TS、伸びEIを測定した。なお、試験条件は、25℃、クロスヘッド速度1mm/minである。
・シャルピー衝撃試験(靭性):
上記鍛造材より採取したJIS5B号試験片(幅2.5mm)を用いて、シャルピー衝撃吸収値CIAVを測定した。なお、試験条件は、25℃、5m/sである。
・組織の観察:
各鍛造材中の組織の体積率(占積率)は、鍛造材をナイタール、及びレペラ腐食による光学顕微鏡(倍率400倍若しくは1000倍)、及び走査型電子顕微鏡(SEM:倍率1000倍若しくは4000倍)観察、飽和磁化法(熱処理, Voll.136,(1996), P.322)による残留オーステナイト量測定、X線によるオーステナイト中のC濃度測定、透過型電子顕微鏡(TEM:倍率10000倍)、ステップ間隔100nmによるFE/SEM−EBSPによる組織解析を実施し、組織を同定した。このようにして得られた各種鍛造鋼材について調べた組織の体積率、及び力学特性を表2に併せて示す。
・残留オーステナイト特性(γR ):
各鍛造材の残留オーステナイト初期体積率(fγo)、残留オーステナイト初期炭素濃度(Cγo)は、下記X線回折法により測定した。
〈残留オーステナイト初期体積率(fγo)〉
5ピーク法(200)γ、(220)γ、(311)γ
(200)α、(211)α
〈残留オーステナイト初期炭素濃度(Cγo)〉
(200)γ、(220)γ、(311)γ回折面ピークから、γの格子定数測定
Cγ=(aγ−3.578−0.000Siγ−0.00095Mnγ−0.0006Cr−0.0056Alγ−0.0051Nbγ−0.0220Nγ)/0.033
【0039】
これらの結果より、以下のように考察することができる。
まず、鋼種No.1〜3は、いずれも本発明の範囲を満足する鋼種を用い、本発明で規定する製法によって所定の組織を備えた鍛造部品を製造した例である。 この鋼種No.1〜3に示す本発明鋼は、例えば鋼種No.1の金属組織(顕微鏡写真)を図5に示すように、全て母相組織が主にラス状ベイニティックフェライトとからなり、かつ少量のグラニュラーベイニティックフェライトとポリゴナルフェライトを含み、第2相組織が微細な残留オーステナイトとマルテンサイトからなり、残留オーステナイトの安定性が高く、かつ熱間鍛造により、組織は著しく微細化することがわかる。又、この鋼種No.1〜3に示す本発明鋼の鍛造部品は、全て強度と靭性のバランスが非常に高く、降伏応力と引張強度及び伸び特性に優れ、かつ、衝撃特性も優れている(図3、図4参照)。この本発明鋼における優れた靭性は、特にCr、Mo及びNi添加による焼入れ性の向上と、多量かつ安定な残留オーステナイト特性と、鍛造処理による組織の微細化(ラス状ベイニティックフェライトと、微細な粒状及びフィルム状の残留オーステナイトの混相組織)によるものと考えられる。更に、鋼種No.1〜3のうち、代表例として示した鋼種No.1のCCT曲線から、鋼種No.1に示す本発明鋼のマルテンサイトは開始温度が約320℃であり、ベイナイト変態開始ノーズが長時間領域にシフトすることがわかる。なお、鋼種No.2、3のCCT曲線は省略したが、この鋼種No.2、3のマルテンサイトの開始温度は共に約420℃であり、鋼種No.1と同様に、ベイナイト変態開始ノーズは長時間領域にシフトすることも明らかとなった。
【0040】
これに対し、本発明で特定する要件、特に焼入れ性を高めるためのCr、Mo、Niの含有量と、金属組織の確保と、強度−靭性のバランスをより高める上で重要である炭素当量を満足しない下記比較例はそれぞれ、以下の不具合を有している。
まず、No.4は基本鋼(0.4%C−1.5%Si−1.5%Mn−0.5%Al−0.05Nb)であり、初析フェライトが析出し、ベイナイト変態が十分でなく、Crの含有量が少ないため焼入れ性が低下した。
No.5はNo.1の本発明鋼よりCrが0.5%高いだけで、本発明で規定する成分組成をほぼ満足するCr−Mo鋼であるが、炭素当量が本発明の範囲の上限を上回っているため、図2に示す当該鋼のCCT曲線から明らかのように、CCT曲線のフェライトとベイナイト変態の開始時間がかなり長時間に移動し、結果的に焼入れ性が高くなり過ぎ、降伏応力と引張強さが過度に高くなり、靭性の改善効果が得られなかった。
No.6は本発明で規定する成分組成をほぼ満足するCr鋼を用いた例であるが、Mo量が本発明鋼より少ないため焼入れ性が低下した。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【実施例2】
【0043】
表1の鋼種No.1に示す成分を有する本発明鋼製のビレットを1200℃の温度に加熱保持して熱間押出加工を施した後、940℃まで冷却し、当該温度に1秒間以上保持して所定の温間押出し加工を施して丸棒とし、該丸棒を4℃/sの冷却速度で325℃まで冷却し、該温度域に1800秒保持した後、所定の冷却速度で常温まで冷却し、しかる後ガンドリル加工にて管軸方向に穿孔して燃料噴射管用素管とし、該素管に所定の伸管加工を施して製品寸法が外径8.0mm、内径3.0mm、肉厚2.5mmの燃料噴射管用鋼管を得、これを所望長さに切断加工し、次いでナット等のねじ部品を挿入した後に接続頭部をプレス成形する端末加工を施し、更に曲げ加工を施して燃料噴射管を得た。
【実施例3】
【0044】
表1の鋼種No.2に示す成分を有する本発明鋼製のビレットを1250℃の温度に加熱保持して熱間押出加工を施した後、常温まで冷却し、その後ガンドリル加工法により管軸方向に穿孔し、次いで950℃の温度に1秒間以上保持してから熱間ロール成形加工を施した後、2℃/sの冷却速度で375℃まで冷却し、該温度で1000秒間保持するオーステンパー処理を施した。更に、冷間で伸管加工を施して製品寸法が外径8.0mm、内径3.0mm、肉厚2.5mmとした後、切断加工、端末加工及び曲げ加工を施して燃料噴射管用鋼管を得た。
【実施例4】
【0045】
表1の鋼種No.3に示す成分を有する本発明鋼製の棒鋼を用いて温間でマンネスマン方式により管軸方向に穿孔した後、1000℃まで加熱し、当該温度で1秒間以上保持した後、熱間押出成形を行い、その後1℃/sの冷却速度で350℃まで冷却し、該温度に950秒間保持し、次いで常温まで冷却した。その後伸管加工を施して製品寸法が外径6.35mm、内径2.35mm、肉厚2mmとした後、切断加工、端末加工及び曲げ加工を施して燃料噴射管用鋼管を得た。
【実施例5】
【0046】
表1の鋼種No.1に示す成分を有する本発明鋼製のビレットを1200℃の温度に加熱保持した後、常温まで冷却し、その後ガンドリル加工法により管軸方向に穿孔し、次いで930℃まで加熱し、当該温度に1秒間以上保持した後、熱間ロール成形加工を施し、続いて5℃/sの冷却速度で325℃まで冷却し、該温度で1750秒間保持し、その後常温まで冷却した。次いで、伸管加工を施して製品寸法が外径8.0mm、内径3.0mm、肉厚2.5mmとした後、切断加工、端末加工及び曲げ加工を施して燃料噴射管用鋼管を得た。
【実施例6】
【0047】
表1の鋼種No.2に示す成分を有する本発明鋼製のビレットを1250℃の温度に加熱保持して熱間押出加工を施した後、常温まで冷却し、その後ガンドリル加工法により管軸方向に穿孔し、次いで950℃まで加熱し、当該温度に1秒間以上保持した後、熱間ロール成形加工を施し、続いて8℃/sの冷却速度で400℃まで冷却し、該温度に210秒間保持してオーステンパー処理を施した。その後冷間で伸管加工を施して製品寸法が外径8.0mm、内径3.0mm、肉厚2.5mmとした後、切断加工、端末加工及び曲げ加工を施して燃料噴射管用鋼管を得た。
【実施例7】
【0048】
表1の鋼種No.3に示す成分を有する本発明鋼製の鋼管に温間ロール成形加工を施した後、1250℃の温度に加熱保持し、次いで980℃の温度に1秒以上保持した後、熱間押出加工を施し、その後2℃/sの冷却速度で325℃まで冷却し、該温度に1700秒間保持した後、常温まで冷却した。しかる後、伸管加工を施して製品寸法が外径8.0mm、内径3.0mm、肉厚2.5mmとした後、切断加工、端末加工及び曲げ加工を施して燃料噴射管用鋼管を得た。
【実施例8】
【0049】
表1の鋼種No.1に示す成分を有する本発明鋼製の棒鋼を用いてガンドリル加工法により管軸方向に穿孔した後、940℃まで加熱し、該温度に1秒間保持した後、10℃/sの冷却速度で425℃まで冷却し、該温度に220秒間保持した後、常温まで冷却した。しかる後、伸管加工を施して製品寸法が外径8.0mm、内径3.0mm、肉厚2.5mmとした後、切断加工、端末加工及び曲げ加工を施して燃料噴射管用鋼管を得た。
【実施例9】
【0050】
表1の鋼種No.2に示す成分を有する本発明鋼製のビレットを1200℃の温度に加熱保持した後、常温まで冷却し、3℃/sの冷却速度で425℃まで冷却し、該温度に220秒間保持した後、常温まで冷却した。しかる後、伸管加工を施して製品寸法が外径8.0mm、内径3.0mm、肉厚2.5mmとした後、切断加工、端末加工及び曲げ加工を施して燃料噴射管用鋼管を得た。
【実施例10】
【0051】
表1の鋼種No.1に示す成分を有する本発明鋼製のビレットを用いて熱間押出加工を施した後、冷間でガンドリル加工法により管軸方向に穿孔し、次いで、該素管を1200℃の温度で熱間ロール成形し、その後930℃の温度に1秒間以上保持し、続いて4℃/sの冷却速度で450℃まで冷却し、該温度で100秒間保持してオーステンパー処理を施した。その後、冷間で伸管加工を施して外径30mm、内径8mm、肉厚11mmとし、当該管に切断加工、外周面に円錐状のシート面及びφ3mmの分岐孔の穿孔等の機械加工、分岐孔の周縁にねじスリーブを有するリテーナの組立て加工等を施してコモンレールを得た。
【実施例11】
【0052】
表1の鋼種No.2に示す成分を有する本発明鋼製のビレットに熱間で押出加工を施し、次いで冷間でガンドリル加工法により管軸方向に穿孔し、その後冷間で伸管加工を施して外径30mm、内径8mm、肉厚12mmとし、該管を所定の長さに切断し、機械加工を施した後、当該管を1200℃の温度に加熱し、その後、950℃の温度に1秒間以上保持し、続いて1℃/sの冷却速度で300℃まで冷却し、該温度で2000秒間保持してオーステンパー処理を施した。しかる後、組立て加工を施してコモンレールを得た。
【実施例12】
【0053】
表1の鋼種No.3に示す成分を有する本発明鋼製のビレットを1300℃の温度に加熱し、マンネスマン方式による穿孔加工を施した後、該素管を1200℃の温度で熱間ロール成形し、その後冷間で伸管加工を施し、次いで950℃の温度に1秒間以上保持した後、5℃/sの冷却速度で350℃まで冷却し、該温度に1200秒間保持してオーステンパー処理を施した。その後、冷間で伸管加工を施して外径32mm、内径8mm、肉厚12mmとした後、当該管に切断加工、外周面に円錐状のシート面及びφ3mmの分岐孔の穿孔等の機械加工、分岐孔の周縁にねじスリーブを有するリテーナの組立て加工等を施してコモンレールを得た。
【実施例13】
【0054】
表1の鋼種No.3に示す成分を有する本発明鋼製のビレットに冷間圧延を施し、次いでガンドリル加工法により管軸方向に穿孔し、その後該素管を1200℃の温度で熱間ロール成形し、次いで950℃の温度に1秒間以上保持し、続いて8℃/sの冷却速度で400℃まで冷却した後、該温度に500秒間保持してオーステンパー処理を施した。しかる後、冷間で伸管加工を施して外径32mm、内径8mm、肉厚12mmとし、更に切断加工、機械加工、及び組立て加工を順次施してコモンレールを得た。
【実施例14】
【0055】
表1の鋼種No.1に示す成分を有する本発明鋼製の鋼素材を所望長さに切断後、温間で粗型鍛造し、これを1200℃の温度に加熱後、1200℃の温度に1秒以上保持してから、本体部の外径が32mmで、φ18mmのボス部を多数有する形状に熱間鍛造し、その後9℃/sの冷却速度で450℃まで冷却し、該温度に1200秒間保持してオーステンパー処理を施した。その後、常温に冷却してロングドリル加工法により内径9mmの管孔を管軸方向に穿孔し、ボス部外周にM16の外ねじの加工、ボス部頂部に円錐状のシート面の形成、φ3mmの分岐孔の穿孔等の機械加工を施してコモンレールを得た。
【実施例15】
【0056】
表1の鋼種No.2に示す成分を有する本発明鋼製の鋼素材を1200℃の温度に加熱後鍛造加工を施し、次いで950℃の温度に1秒以上保持した後、本体部の外径が32mmで、φ18mmのボス部を多数有する形状に熱間鍛造し、その後7℃/sの冷却速度で425℃まで冷却し、該温度に200秒間保持してオーステンパー処理を施した。その後、常温に冷却してロングドリル加工法により内径9mmの管孔を管軸方向に穿孔し、ボス部外周にM16の外ねじの加工、ボス部頂部に円錐状のシート面の形成、φ3mmの分岐孔の穿孔等の機械加工を施してコモンレールを得た。
【実施例16】
【0057】
表1の鋼種No.3に示す成分を有する本発明鋼製の鋼素材を1200℃の温度に加熱後、熱間押出加工を行ってから所望長さに切断し、次いで950℃の温度に1秒以上保持した後、本体部の外径が32mmで、φ18mmのボス部を多数有する形状に熱間鍛造し、その後6℃/sの冷却速度で350℃まで冷却し、該温度に950秒間保持してオーステンパー処理を施した。その後、常温に冷却してロングドリル加工法により内径8mmの管孔を管軸方向に穿孔し、ボス部外周にM16の外ねじの加工、ボス部頂部に円錐状のシート面の形成、φ3mmの分岐孔の穿孔等の機械加工を施してコモンレールを得た。
【0058】
上記実施例2〜9の各燃料噴射管と、実施例10〜16の各コモンレールをそれぞれ内圧繰返し疲労試験機にかけて内圧疲労限界を調べた結果、燃料噴射管及びコモンレールは全て、2500Barを超える内圧を1000万回以上繰返して加えても破損することがなく、より優れた耐内圧疲労特性を示した。
【0059】
なお、上記実施例2〜9の各燃料噴射管と、実施例10〜16の各コモンレールは、最終工程実施後に高圧水又は高圧油を封入してオートフレッテージ処理を実施することにより耐内圧疲労特性を更に向上させることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、焼入れ性向上のためにCr、Mo、Niを、結晶粒の微細化による強度(疲労強度)向上のためにNb、Ti、Vの内1種類又は2種類以上を適量含み、かつ炭素当量(Ceq)を適正値に設定した鋼材を用い、所定の熱処理を採用することにより、母相組織が主にラス状ベイニティックフェライトからなり、かつ少量のグラニュラーベイニティックフェライトとポリゴナルフェライトを含み、第2相組織が微細な残留オーステナイトとマルテンサイトからなる、微細構造の金属組織を有し、かつ強度と靭性のバランスが優れた高焼入性の超高強度低合金TRIP鋼(TBF鋼)が得られることにより、加熱温度や、加工率(鍛造加工率や圧延加工率等)等によらず、焼入性に優れた高強度鋼製加工品、高強度かつ耐衝撃特性及び耐内圧疲労特性に優れたディーゼルエンジン用燃料噴射管及びコモンレールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施例1における鋼種No.1の供試鋼のCCT曲線を示す図である。
【図2】同じく実施例1における比較例の鋼種No.5の供試鋼のCCT曲線を示す図である。
【図3】同じく本発明の実施例1における鋼種No.1、2、3、と比較例の鋼種No.4、5、6の供試鋼の降伏強度(YS)とシャルピー衝撃吸収値(CIAV)の関係を比較して示す図である。
【図4】同じく本発明の実施例1における鋼種No.1、2、3、と比較例の鋼種No.4、5、6の供試鋼の引張強度(TS)とシャルピー衝撃吸収値(CIAV)の関係を比較して示す図である。
【図5】同じく本発明の実施例1における鋼種No.1の供試鋼の熱間鍛造熱処理後の金属組織(顕微鏡写真)を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.1〜0.7%、Si:2.5%以下(0%を含まない)、Mn:0.5〜3%、Al:1.5%以下、Nb、Ti、Vの内1種類又は2種類以上を合計で0.01〜0.3%、Cr:2.0%以下(0%を含まない)、Mo:0.5%以下(0%を含まない)、Ni:2.0%以下、Cr、Mo、Niの内2種類以上を合計で0.7〜3.0%、を含有し、かつ下記式により規定される炭素当量(Ceq)が0.75%以上0.90%以下で、残部Fe及び不可避的不純物からなり、金属組織は、母相組織がラス状ベイニティックフェライトを50%以上(全組織に対する体積率、組織について以下同じ)と、ポリゴナルフェライト及びグラニュラーベイニティックフェライトを合計で20%以下を含有し、第2相組織が残留オーステナイトを5〜30%、マルテンサイトを5%以下、を満たすことを特徴とする焼入性に優れた高強度鋼製加工品。

Ceq=C+Mn/6+Si/24+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14
【請求項2】
更に、Bを0.005%以下(0%を含まない)含有する請求項1に記載の焼入性に優れた高強度鋼製加工品。
【請求項3】
前記加工品が鍛造品である請求項1又は2に記載の焼入性に優れた高強度鋼製加工品。
【請求項4】
前記加工品が高圧燃料配管である請求項1又は2に記載の焼入性に優れた高強度鋼製加工品。
【請求項5】
前記高圧燃料配管が、高強度かつ耐衝撃特性及び耐内圧疲労特性に優れたディーゼルエンジン用燃料噴射管、又は、高強度かつ耐衝撃特性及び耐内圧疲労特性に優れたディーゼルエンジン用コモンレールである請求項4に記載の焼入性に優れた高強度鋼製加工品。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の高強度鋼製加工品を製造する方法であって、請求項1又は2に記載の成分組成を満たす鋼材を使用し、該鋼材をAc3点以上の温度域で所定時間保持し、該温度域で塑性加工を施した後、所定の平均冷却速度で300〜450℃(好ましくは325〜425℃)まで冷却し、該温度域で100〜2000秒保持する工程を含むことを特徴とする焼入性に優れた高強度鋼製加工品の製造方法。
【請求項7】
前記Ac3点以上の温度域での保持時間を1秒以上、前記平均冷却速度を1℃/s以上とすることを特徴とする請求項6に記載の焼入性に優れた高強度鋼製加工品の製造方法。
【請求項8】
請求項5に記載のディーゼルエンジン用燃料噴射管を製造する方法であって、請求項1又は2に記載の成分組成を満たす鋼材を使用し、1200℃以上の温度に加熱保持する工程、熱間押出加工を施す工程、及び、Ac3点以上の温度域で所定時間保持し、該温度域で温間押出加工を施した後、所定の平均冷却速度で300〜450℃(好ましくは325〜425℃)まで冷却し、該温度域で100〜2000秒保持する工程を経た後、常温まで冷却し、その後、ガンドリル加工法による管軸方向の穿孔加工、径方向及び/又は管軸方向に圧延する伸管加工、切断加工、端末加工、及び、曲げ加工を順次行うことを特徴とする高強度かつ耐衝撃特性及び耐内圧疲労特性に優れたディーゼルエンジン用燃料噴射管の製造方法。
【請求項9】
前記Ac3点以上の温度域での保持時間を1秒以上、前記平均冷却速度を1℃/s以上とすることを特徴とする請求項8に記載の高強度かつ耐衝撃特性及び耐内圧疲労特性に優れたディーゼルエンジン用燃料噴射管の製造方法。
【請求項10】
請求項5に記載のディーゼルエンジン用コモンレールを製造する方法であって、請求項1又は2に記載の成分組成を満たす鋼材を使用し、1200℃以上の温度に加熱保持する工程、熱間押出加工を施す工程、及び、Ac3点以上の温度域で所定時間保持し、該温度域で温間押出加工を施した後、所定の平均冷却速度で300〜450℃(好ましくは325〜425℃)まで冷却し、該温度域で100〜2000秒保持する工程を経た後、常温まで冷却し、その後、ガンドリル加工法による管軸方向の穿孔加工、径方向及び/又は管軸方向に圧延する伸管加工、切断加工、機械加工、及び、組立加工を順次行うことを特徴とする高強度かつ耐衝撃特性及び耐内圧疲労特性に優れたディーゼルエンジン用コモンレールの製造方法。
【請求項11】
前記Ac3点以上の温度域での保持時間を1秒以上、前記平均冷却速度を1℃/s以上とすることを特徴とする請求項10に記載の高強度かつ耐衝撃特性及び耐内圧疲労特性に優れたディーゼルエンジン用コモンレールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−106353(P2010−106353A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−282598(P2008−282598)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人科学技術振興機構、地域イノベーション創出総合支援事業、重点地域研究開発推進プログラム、育成研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000120249)臼井国際産業株式会社 (168)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(505227043)野村ユニソン株式会社 (25)
【Fターム(参考)】