焼入範囲検出方法及び焼入範囲検査方法
【課題】渦電流測定方法を利用して、ワークの焼入範囲と未焼入範囲との境界位置を非破壊で簡易に、且つ、精度よく判定することができる焼入範囲検出方法及び焼入範囲検査方法を提供することを目的とする。
【解決手段】上記目的を達成するため、ワークWの焼入範囲を検出する焼入範囲検出方法であって、ワークWの表面に渦電流を発生させる励磁コイル11と、渦電流に関する検出信号を検出するための検出コイル12とを備えた渦電流センサ10で、対象ワークWの焼入範囲20とこれに隣接する未焼入範囲30とを連続的に走査し、 焼入範囲20と未焼入範囲30との境界領域における検出信号の信号変化率に基づいて、当該対象ワークWの表面における焼入範囲10と未焼入範囲20との境界位置を判定する方法を採用した。
【解決手段】上記目的を達成するため、ワークWの焼入範囲を検出する焼入範囲検出方法であって、ワークWの表面に渦電流を発生させる励磁コイル11と、渦電流に関する検出信号を検出するための検出コイル12とを備えた渦電流センサ10で、対象ワークWの焼入範囲20とこれに隣接する未焼入範囲30とを連続的に走査し、 焼入範囲20と未焼入範囲30との境界領域における検出信号の信号変化率に基づいて、当該対象ワークWの表面における焼入範囲10と未焼入範囲20との境界位置を判定する方法を採用した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、渦電流測定法を利用してワーク(鉄鋼材)の焼入範囲を非破壊で検出する焼入範囲検出方法及び焼入範囲検査方法に関し、特に、焼入範囲と未焼入範囲との境界位置を判定可能な焼入範囲検出方法及び焼入範囲検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波焼入れ等により部分的に焼入れが施された焼入鋼材が種々の装置部品材料等として広く使用されている。このような焼入鋼材については、その品質保証のため、焼入鋼材に形成された焼入硬化層が、所定の硬化深さや焼入範囲で形成されているか否かを検査するために、硬化深さや焼入範囲の測定又は検出が行われる。
【0003】
例えば、特許文献1には、渦電流測定法を利用して、焼入硬化層の硬化深さを測定する方法が開示されている。また、この特許文献1には、焼入鋼材の表面上で焼入範囲を測定することが行われている。焼入範囲の測定に際して、焼入鋼材の表面における焼入組織と未焼入組織の境界点、すなわち焼入範囲と未焼入範囲との境界位置が求められている。
【0004】
また、特許文献2には、強磁性体材料を交番磁化するときに生じるバルクハウゼン効果雑音が焼入れにより変化することを利用して、部分焼入れした材料の焼入部と非焼入部のバルクハウゼン効果雑音の平均信号レベルを基準電圧と比較することにより、部分焼入れした強磁性体材料の焼入部と非焼入部との境界、すなわち焼入範囲と未焼入範囲との境界位置を測定する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−109358号公報
【特許文献2】特開平5−264508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献1においても指摘されているように、渦電流測定法により得られた測定結果には、測定位置周辺の影響が含まれて平均化されてしまう。このため、渦電流測定により得られた測定結果だけでは、焼入範囲と未焼入範囲との境界位置を精度良く特定することが困難であった。そこで、上記特許文献1に記載の方法では、表面硬度計を用いて、焼入鋼材の表面の硬度を測定し、この硬度測定結果により、渦電流測定法により得られた測定結果を補完し、焼入範囲と未焼入範囲との境界位置を求める構成としている。しかしながら、当該特許文献1に開示の方法では、渦電流測定装置に加えて、硬度計を要し、焼入範囲と未焼入範囲との境界位置を判定するための装置構成が複雑化するとともに、計算量も増加するという課題がある。
【0007】
一方、特許文献2に記載の方法では、バルクハウゼン効果雑音の平均信号レベルを求めて、基準電圧と比較することにより、焼入範囲と未焼入範囲との境界位置を判定しているため、特許文献1に開示の方法と比較すると装置構成は単純である。しかしながら、例えば、材質、形状及び焼入範囲が同一のワークであっても、各ワークを製造したときの材料ロット、熱処理ロット、測定環境の温度変化等の種々の要因によって、各ワークについて得られるバルクハウゼン効果雑音の平均信号レベルは異なる恐れがある。しかしながら、特許文献2には、当該平均信号レベルにバラツキがある場合、基準電圧値をどのように定めるかについての開示はない。当該平均信号レベルにバラツキの大きな材料を検出対象ワークとする場合、各ワークについて得られたバルクハウゼン効果雑音の平均信号レベルと所定の値である基準電圧値とを比較しても、焼入範囲と未焼入範囲との境界位置を精度良く判定するのは困難である。
【0008】
そこで、本件発明は、渦電流測定方法を利用して、各ワークの渦電流測定結果のバラツキが大きい場合であっても、ワークの焼入範囲と未焼入範囲との境界位置を非破壊で簡易に、且つ、精度よく判定することができる焼入範囲検出方法及び焼入範囲検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本件発明に係る焼入範囲検出方法は、ワークの焼入範囲を検出する焼入範囲検出方法であって、ワークの表面に渦電流を発生させる励磁コイルと、前記渦電流に関する検出信号を検出するための検出コイルとを備えた渦電流センサを用い、焼入範囲の検出対象とする対象ワークの焼入範囲とこれに隣接する未焼入範囲とを前記渦電流センサにより連続的に走査し、前記焼入範囲と前記未焼入範囲との境界領域における前記検出信号の信号変化率に基づいて、当該対象ワークの表面における焼入範囲と未焼入範囲との境界位置を判定することを特徴とする。
【0010】
本件発明に係る焼入範囲検出方法において、前記焼入範囲を前記渦電流センサで走査したときに、前記検出信号が定常的な値を示す領域を焼入定常領域とし、前記未焼入範囲を前記渦電流センサで走査したときに、前記検出信号が定常的な値を示す領域を未焼入定常領域とし、前記境界領域は、前記焼入定常領域と前記未焼入定常領域との間の領域とし、前記検出信号の信号変化率は、前記焼入定常領域における前記検出信号の定常値と、前記未焼入定常領域における前記検出信号の定常値とを基準として求めたものであり、前記境界領域において、前記検出信号の信号変化率が予め定めた判定値になる位置を前記対象ワークの焼入範囲と未焼入範囲との境界位置として判定することが好ましい。
【0011】
本件発明に係る焼入範囲検出方法において、前記信号変化率を百分率で表した場合に、前記判定値は20%〜90%の範囲内で定めた所定の値である請求項2に記載の焼入範囲検出方法。
【0012】
本件発明に係る焼入範囲検出方法において、複数の検証用ワークを用いて、各検証用ワークの前記境界領域における前記検出信号の信号変化率と、各検証用ワークの焼入範囲と未焼入範囲との境界位置との相関性を予め検証しておき、前記判定値は当該相関性に基づき定めた値であることが好ましい。
【0013】
前記検出信号は、前記検出コイルのインピーダンスに関する値であることが好ましい。このとき、当該検出コイルのインピーダンスの抵抗成分を検出信号としてもよいし、リアクタンス成分を検出信号としてもよい。
【0014】
また、上記目的を達成するために、本件発明に係る焼入範囲検査方法は、前記対象ワークの焼入範囲を検出し、この検出結果に基づいて、前記対象ワークに焼入れを施すべき範囲に、焼入れが施されているか否かを判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本件発明によれば、焼入範囲の検出対象とする対象ワークの焼入範囲と未焼入範囲とを渦電流センサにより連続的に走査することで、焼入範囲と未焼入範囲の境界領域における検出コイルに生じた検出信号の信号変化を検出することができる。そして、検出コイルの検出信号の信号変化率に基づいて、対象ワークの焼入範囲と未焼入範囲との境界位置を非破壊で簡易に判定することができる。また、検出コイルの検出信号の絶対値に基づいて対象ワークの表面における焼入範囲と未焼入範囲との境界位置を判定するのではなく、信号変化率に基づいて、対象ワークの表面における焼入範囲と未焼入範囲との境界位置を判定するため、材料ロットや熱処理ロット、或いは、測定環境の温度変化等の要因によって、対象ワーク毎に検出コイルの検出信号の絶対値が変化する場合であっても、検出信号のバラツキによらず、各対象ワークの表面における焼入組織と未焼入組織との境界を精度よく判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本件発明に係る焼入範囲検出方法及び焼入範囲検査方法の一例を示す概略図である。
【図2】本件発明に係る渦電流センサの構成を模式的に示した図である。
【図3】検出コイルのインピーダンスと、その抵抗成分Rとリアクタンス成分ωLとの関係を示す模式図である。
【図4】対象ワークを渦電流センサで走査したときの検出コイルの検出信号Z(1)、検出信号X(2)、検出信号Y(3)の測定値の推移の一例を示す図である。
【図5】対象ワークの他の形状例(a)と、このときに得られる検出信号の推移を簡略化して示した略図(b)である。
【図6】本件発明に係る検証用ワークを用いた検証方法の一例を示す概略図である。
【図7】各検証用ワークを渦電流センサで走査したときの検出信号X(抵抗成分R)の測定値の推移を示す図である。
【図8】各検証用ワークを渦電流センサで走査したときの検出信号Y(リアクタンス成分ωL)の測定値の推移を示す図である。
【図9】各検証用ワークを渦電流センサで走査したときの検出信号X(抵抗成分R)の測定値の推移を信号変化率の推移として表した図である。
【図10】各検証用ワークを渦電流センサで走査したときの検出信号Y(リアクタンス成分ωL)の測定値の推移を信号変化率の推移として表した図である。
【図11】検出信号Xの信号変化率が50%になる位置を評価位置としたときの、評価位置と各検証用ワークの焼入範囲と未焼入範囲との境界位置との相関を検証するための図である。
【図12】検出信号Yの信号変化率が50%になる位置を評価位置としたときの、評価位置と各検証用ワークの焼入範囲と未焼入範囲との境界位置との相関を検証するための図である。
【図13】評価位置を信号変化率が0%〜100%の範囲内で変化させた際の各評価位置における相関係数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本件発明に係る焼入範囲検出方法及び焼入範囲検査方法の好ましい実施の形態を図面を参照しながら説明する。本件発明では、図1に示す渦電流センサ10を用い、この渦電流センサ10でワークWの焼入範囲20とこれに隣接する未焼入範囲30とを連続的に走査し、ワークWの焼入範囲20と未焼入範囲30との境界領域における渦電流センサ10の検出信号の信号変化率に基づいて、ワークWの焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を判定する方法を採用している。また、本件発明に係る焼入範囲検査方法は、本件発明に係る焼入範囲検出方法を利用して、対象ワークの焼入範囲20を検出し、この検出結果に基づいて、対象ワークに焼入れを施すべき範囲に、焼入れが施されているか否かを判定するものである。本件発明に係る焼入範囲検出方法及び焼入範囲検査方法は、渦電流測定法を利用して、ワークWの表面における焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を非破壊で簡易に、且つ、精度よく判定することができる。
【0018】
ワーク: まず、ワークWについて説明する。本実施の形態では、対象ワークは、焼入れが施された鉄鋼材とする。例えば、鋼材として、機械構造用炭素鋼材(以下、「SC材」)は、種々の装置部品等の構造部材として用いられ、熱処理等により機械的性質を改善して使用される。また、SC材は種々の装置部品に用いられることから、その用途に応じて、熱処理が施される面積や位置も多様である。本件発明は、このような部分焼入れが施された部分焼入鋼材の焼入範囲20を検出する際に特に好適に用いることができる。また、本件発明を用いれば、部分焼入鋼材の製造ラインにおいて、焼入工程後に、焼入範囲20の全数検査をインラインで行うことが可能になる。
【0019】
ワーク形状: 本件発明において、ワークWの形状は特に限定されるものではない。図1には、ワークWの一例として鋼棒の断面を示している。図1にハッチングで示すA位置からB位置の間の領域は、次に説明する焼入範囲20を示している。すなわち、図1には、外周部分の表面に焼入れが施された鋼棒の断面を示しており、鋼棒の断面部分に付すべきハッチングは省略している。
【0020】
焼入範囲20: 本実施の形態において、焼入範囲20とは、ワークWの焼入工程において、熱処理が施されることにより、焼入硬化層が形成された領域を指す。当該焼入範囲20は、ワークWの金属組織が変化して焼入組織として存在する領域である。
【0021】
未焼入範囲30: 一方、未焼入範囲30とは、上記焼入範囲20に隣接し、熱処理が施されていない領域をいう。当該未焼入範囲30は、母材の金属組織が変化せずに未焼入組織として存在する領域である。
【0022】
境界領域: 焼入範囲20と未焼入範囲30との境界領域とは、互いに隣接する焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置付近の領域を指すが、具体的には後述する。
【0023】
渦電流センサ10: 次に、図2を参照して渦電流センサ10の構成を説明する。渦電流センサ10は、ワークWの表面に渦電流Cを発生させる励磁コイル11と、ワークWの表面に発生した前記渦電流Cに関する検出信号を検出するための検出コイル12とを備えている。励磁コイル11と、検出コイル12とは、それぞれ所定の位置関係になるようにして図1に示したケース内に収容される。渦電流センサ10は、図示しない治具により、ワークWの表面に対して、一定のギャップ(リフトオフ)Gを空けて配置される。また、渦電流センサ10は、上記治具によりワークWに対して、一定速度で相対移動可能に構成されている。従って、渦電流センサ10によりワークWの表面を走査した場合、渦電流センサ10が走査基準位置から走査部位まで移動する際に要した走査時間に基づいて、ワークWの表面における走査部位を簡易に特定することができる。
【0024】
図2に模式的に示すように、励磁コイル11は、ワークWの表面に対してコイル軸が垂直になるようにしてケース内に収容される。励磁コイル11の両端には、交流電源13が接続されている。この交流電源13により、励磁コイル11には所定の周波数の交流電流が供給される。検出コイル12は、そのコイル軸が、励磁コイル11のコイル軸と一致するようにして、巻線が巻かれている。検出コイル12の両端には、検出コイル12の電気的なパラメータを検出信号として測定するための測定装置14が接続されている。
【0025】
焼入範囲20の検出原理: ここで、図2を参照しながら、渦電流測定法を利用した本件発明に係る焼入範囲20の検出原理を説明する。交流電源13は、励磁コイル11に対して所定の周波数の交流電流を供給する。但し、交流電源13から励磁コイル11に供給する交流電流の周波数は、焼入範囲20の検出対象とする対象ワークに応じて、適宜、適切な周波数を選定することができる。励磁コイル11に交流電流を供給すると、励磁コイル11によりワークWの表面に対して垂直な磁束Mが発生する。そして、ワークWの表面には、この磁束Mを中心とする環状の渦電流Cが発生する。ワークWの表面に渦電流Cが発生すると、この渦電流Cにより図示しない磁束が発生する。この磁束の一部は、検出コイル12を貫通する。その結果、電磁誘導により、検出コイル12の両端には誘起電圧が生じる。この検出コイル12の両端に生じた誘起電圧に関する電気的なパラメータは、ワークWの表面に発生した渦電流Cの状態を反映する。そこで、測定装置14により、この検出コイル12の電気的なパラメータを測定することで、渦電流センサ10の走査部位においてワークWの表面に発生した渦電流Cの状態を検出することができる。
【0026】
検出信号: 検出信号は、ワークWの表面に発生した渦電流Cに関する信号である。本実施の形態では、上述した通り、検出コイル12の両端に生じた誘起電圧に関する電気的なパラメータを検出信号とする。ここで、磁性体である鉄鋼材を焼入れると、焼入組織の硬度は未焼入組織の硬度に比して高くなる一方、焼入組織の透磁率は未焼入組織の透磁率に比して低下する。つまり、焼入組織が形成された部位では、未焼入組織を有する部位に比して、励磁コイル11により励磁されにくくなる。従って、焼入れを行ったワークWの表面を渦電流センサ10で走査したときに、未焼入組織に比して、焼入組織が形成された部位では、ワークWの表面で発生する渦電流Cが小さくなり、検出コイル12の両端に生じる誘起電圧も小さくなる。このように検出コイル12の両端に生じる誘起電圧は、ワークWの表面の透磁率を介して、ワークWの表面硬度を反映する。本実施の形態は、検出信号として、検出コイル12のインピーダンスに関する信号を採用する。
【0027】
検出コイル12のインピーダンス: 図3に、励磁コイル11に角周波数ωの交流電流を流したときの検出コイル12のインピーダンス(Z)と、その抵抗成分R(実数部)と、リアクタンス成分jωL(虚数部)の関係を模式的に示す。
但し、インピーダンス(Z)は下記式で表される。
Z=R+jωL・・・(式)
【0028】
このように、インピーダンスは、抵抗成分Rとリアクタンス成分jωLの和として表される。本実施の形態では、検出信号として、図3に示すようにインピーダンス平面に表したときの、抵抗成分Rを表すX値(実数軸値)と、リアクタンス成分jωLを表すY値(虚数軸値)とを採用する。以下、インピーダンスの抵抗成分Rを表す検出信号を検出信号Xと称する。また、インピーダンスのリアクタンス成分jωLを表す検出信号を検出信号Yと称する。本実施の形態では、測定装置14によりこれらの検出信号X及び検出信号Yをそれぞれの電圧値として測定している。但し、検出信号は、検出信号X及び検出信号Yの双方を測定する必要はなく、少なくともいずれか一方を測定すればよい。また、検出コイル12のインピーダンス自体を検出信号として用いることもできる。
【0029】
検出信号X: ここで、インピーダンス平面におけるX値は、励磁コイル11に印加された交流電圧に対して、渦電流Cにより検出コイル12の両端に生じた誘起電圧の位相差に起因する値となる。この位相差は、ワークWに形成された焼入硬化層の硬化深さと相関のある値と考えられている。すなわち、ワークWに形成された焼入硬化層の硬化深さが深くなると、透磁率の低い焼入組織が深く分布することになり、励磁コイル11に印加した交流電圧に対して、検出コイル12の両端に生じた誘起電圧の位相ズレが増加する。これに対して、ワークWに形成された焼入硬化層の硬化深さが浅くなると、透磁率の低い焼入組織の分布が浅くなるため、位相ズレは減少する。未焼入組織は、硬化深さがゼロであると考ることができるから、位相差に起因するX値の信号変化に基づいて、焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を判定することができる。
【0030】
検出信号Y: 一方、インピーダンス平面におけるY値は、検出コイル12の両端に生じた誘起電圧の振幅値を表す。走査部位の透磁率が高くなると、渦電流発生に伴う磁束が増すため、検出コイル12の両端に生じる誘起電圧の振幅値も増大する。これに対して、走査部位の透磁率が低くなると、渦電流発生に伴う磁束が減るため、検出コイル12の両端に生じる誘起電圧の振幅値も減少する。従って、誘起電圧の振幅値を表すY値は、走査部位の透磁率、すなわち、走査部位の表面硬度を反映する値といえる。従って、Y値の信号変化に基づく表面硬度の差異から、焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を判定することができる。以下、インピーダンスのリアクタンス成分を表す検出信号を検出信号Yと称する。
【0031】
検出信号の変化: 渦電流センサ10により、ワークWの焼入範囲20と未焼入範囲30とを連続的に走査したとき、検出信号X及び検出信号Yのいずれを測定した場合であってもこれらの測定値の変化は概ね同様の傾向を示す。図4に、ワークWを走査したときの検出信号X及び検出信号Yを電圧値として測定したときの測定値の推移を示す。また、図4には、このときの検出コイル12のインピーダンスの推移を検出信号Zとして併せて示している。なお、図4における検出信号Zについても電圧換算値を示している。図4に示す測定例は、S45C材からなる直径20mm、長さ100mmの円柱状の鋼材であって、その外周を部分的に熱処理を施した試験片に対して、渦電流センサ10で走査したときに得られた各検出信号の変化を示したものである。横軸は、渦電流センサ10のワークWの表面上の走査部位を走査開始位置からの走査時間として示したものである。また、縦軸は、測定値を示している。焼入組織が分布する領域と、未焼入組織が分布する領域とを比較すると、各領域の透磁率の差異から、図4に示すように、焼入組織が分布する領域に対して、未焼入組織が分布する領域の方がいずれの検出信号も高い値を示す。また、図4に示すように、いずれの検出信号も焼入範囲20側で定常的な値を示したのち、焼入範囲20と未焼入範囲30との境界領域においてその値を変動させながら、未焼入範囲30において再び定常的な値を示すようになる。
【0032】
焼入定常領域: ここで、焼入定常領域とは、焼入範囲20を渦電流センサ10で走査したときに、検出信号が定常的な値を示す領域をいう。ここで、「検出信号が定常的な値を示す領域」とは、焼入範囲20を渦電流センサ10で走査したときの検出信号の測定値を走査部位に対してプロットしたときに、所定の関数式(Y=f(x)+y1)で表される近似曲線(但し、近似直線を含む)を引くことができる領域であると定義することができる。また、当該領域における検出信号の定常的な値を「焼入定常値」と称する。図4に示す測定例では、焼入範囲20内において、走査部位によらず「検出信号の測定値が定常的に略一定の値を示す領域」があり、この領域が焼入定常領域となる。そして、当該領域では、上記関数式において「f(x)=0」の「Y=y1」で表される近似曲線を引くことができる。また、この場合、焼入定常値は「y1」で表わされ、この値は当該領域内における検出信号の測定値の平均値に相当する。
【0033】
未焼入定常領域: 一方、未焼入定常領域とは、焼入定常領域と同様に、未焼入範囲30を渦電流センサ10で走査したときに、検出信号が定常的な値を示す領域をいい、未焼入範囲30を渦電流センサ10で走査したときの検出信号の測定値を走査部位に対してプロットしたときに、所定の関数式(G=g(x)+y2)で表される近似曲線を引くことができる領域をいう。また、当該領域における検出信号の定常的な値を「未焼入定常値」と称する。図4に示す測定例では、焼入範囲20と同様に、未焼入範囲30内において、走査部位によらず検出信号の測定値が定常的に略一定の値を示す領域があり、この領域が未焼入定常領域となる。そして、当該領域では、焼入定常領域と同様に「g(x)=0」の「Y=y2」で表される近似曲線を引くことができる。また、この場合、未焼入定常値は「y2」で表わされ、焼入定常値と同様に、この値は当該領域内における検出信号の測定値の平均値に相当する。
【0034】
ところで、図4に示す測定例のように、渦電流センサ10の走査範囲において、ワークWの形状やワークの硬化層深さが略一定である場合、焼入定常領域では、走査部位によらず検出信号の測定値が略一定の値を示した。しかしながら、本件発明において、「検出信号が定常的な値を示す領域」は、図4に示す測定例のように「検出信号の測定値が定常的に略一定の値を示す領域」のみを意味するのではなく、上述した通り、「検出信号の測定値を走査部位に対してプロットしたときに、所定の関数式(Y=f(x)+y1、G=g(x)+y2)で表される近似曲線(但し、近似直線を含む)を引くことができる領域」を意味する。
【0035】
例えば、図5(a)に示すワークW1のように、渦電流センサ10の走査面と、ワークW1の表面との間の距離が、渦電流センサ10の走査部位に応じて変化する場合、図5(b)に示すように検出信号(例えば、検出信号X)の測定値も走査部位によって変化する。しかしながら、焼入範囲20を走査したときに得られた検出信号の測定値を走査部位に対してプロットしたときに、図5(b)に示すように、所定の関数式(Y=f(x)+y1、但し、図示例ではf(x)=a×xであり、aは定数である。)で表される近似曲線L1を引くことができる領域がある。従って、図5に示す例では、当該領域が焼入定常領域となる。同様に、未焼入範囲30を走査したときに得られた検出信号の測定値を走査部位に対してプロットしたときにも、所定の関数式(G=g(x)+y2、但し、図示例では、g(x)=b×xであり、bは定数である。)で表せる近似曲線L2を引くことの出来る領域がある。従って、当該領域が未焼入定常領域となる。但し、図4及び図5に示す例では、焼入定常領域及び未焼入定常領域において、近似曲線はいずれも一次関数式で表されたが、近似曲線を表す関数式は一次関数式に限るものではなく、二次関数式以上の高次の関数式であってもよいのは勿論である。すなわち、本件発明では、焼入範囲20及び未焼入範囲30において、検出信号の測定値が変化する場合であっても、当該測定値の変化がワークWの形状等の変化に伴う定性的な変化の範囲内である限り、本件発明では検出信号が定常的な値を示すものとして取り扱う。そして、検出信号の測定値が上記各近似曲線から外れた値を示す領域、すなわち、検出信号の測定値がワークWの形状等の変化の範囲を超えて変動する領域を、次に説明する境界領域とする。
【0036】
境界領域: 次に、境界領域について説明する。境界領域とは、上述した様に、焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置付近の領域を指し、具体的には上記焼入定常領域と上記未焼入定常領域との間の領域をいう。焼入定常領域及び未焼入定常領域では、検出信号の測定値はそれぞれ定常的な値を示すことから、各領域に分布する金属組織の透磁率はそれぞれ略一定であり、各領域における焼入硬化層の硬化層深さは略一定(若しくはゼロ)或いは、設計上の変動の範囲内の値を示すことが分かる。一方、境界領域では、図4に示すように、検出信号の測定値が変動する。これは、当該境界領域においてワークWの表面硬度やワークWに形成された金属硬化層の硬化層深さも変動しているためである。本件発明では、渦電流センサ10で焼入範囲20と未焼入範囲30とを連続的に走査することにより、焼入定常領域と未焼入定常領域とを明らかにするとともに、当該境界領域における検出信号の信号変化に基づいて、焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を判定する方法を採用している。当該観点から、この境界領域は、焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を判定するための判定領域である。
【0037】
しかしながら、材質、形状、焼入範囲20が互いに同じワークWであっても、当該ワークWを製造したときの材料ロットや熱処理ロットが異なる場合、母材の金属組織や、焼入組織の透磁率、導電率等に誤差があることが想定される。また、検出信号を測定するときのワークWの表面温度や、雰囲気温度が異なると、同じ材質等から成るワークWであっても、その抵抗率、すなわち導電率が変化することが想定される。このように透磁率や導電率等の変化を招く外乱要因は種々存在するため、検出信号の測定値(絶対値)そのものを用いて、ワークWの焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を判定した場合、ワークWの焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を精度よく判定するのは困難である。
【0038】
そこで、本件発明では、検出信号の測定値を用いるのではなく、検出信号の測定値を信号変化率に変換して、当該信号変化率が予め定めた判定値(閾値)になった位置を焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置と判定する方法を採用している。すなわち、検出信号の測定値を信号変化率に変換し、検出信号の信号変化率を用いて焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を判定することにより、材料ロットや熱処理ロット、あるいは測定環境の温度変化等の種々の外乱要因による影響を排除して、ワークWの焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を精度よく判定することが可能になった。
【0039】
信号変化率: ここで、信号変化率は、検出信号の測定値を焼入定常値と未焼入定常値を基準とした信号変化率として表したものである。このように、検出信号の測定値を焼入定常値と未焼入定常値との間の変化の割合に変換することにより、外乱要因の影響を排除して、検出信号の信号変化率を境界領域における金属組織等の変化の程度として捉えることができる。従って、ワークWの用途や材質等に応じて、焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を表す所定の値を判定値として予め定めておくことにより、対象ワークを走査したときの信号変化率と、この判定値とを比較することにより、対象ワークに形成された焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を簡易に、且つ、精度よく判定することができる。但し、図4に示す場合は上述した様に、焼入定常値及び未焼入定常値はそれぞれ切片「y1」、「y2」の値で表され、これらの値を基準にして、境界領域において得られた検出信号の測定値を信号変換率に変換することができる。一方、図5(b)に例示する場合のように、近似曲線が傾き(a≠0、b≠0)を有する一次関数式あるいは、二次関数以上の関数式で表される場合は、次のようにして信号変換率を求める。走査部位「Sx」における検出信号Xの測定値が「Xs」であった場合、各近似曲線L1、L2を表す関数式のf(x)、g(x)にそれぞれ「x=Sx」を代入し、そのときに得られる「Ys」、「Gs」の値を基準にして、当該測定値「XS」を信号変換率に変換することができる。
【0040】
判定値: 判定値は、焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を判定するために用いる所定の値であり、ワークWの用途や材質等に応じて、適宜、適切な値を選定することができる。ところで、現時点において、ワークWの表面における焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置に関する規格はない。そこで、本件発明では、焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置として、焼入組織と未焼入組織との物理的又は化学的性質の差異が区別できない位置と定義する。判定値は、この境界位置における検出信号の信号変化率に相当する。
【0041】
判定値の設定: 具体的に判定値を設定する際には、複数の検証用ワークWNを用いて、各検証用ワークWNの境界領域における検出信号の信号変化率と、各検証用ワークWNの焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置との相関性を予め検証しておくことが好ましい。そして、この相関性に基づいて、判定値を設定することが好ましい。具体的には、複数の検証用ワークWNを用いて、各検証用ワークWNを渦電流センサ10で焼入範囲20とこれに隣接する未焼入範囲30を連続的に走査したときの検出信号の信号の推移に基づいて、焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置として適切であり、且つ、信号変化率の推移により精度よく当該境界位置を判定可能な値にすることが好ましい。
【0042】
検証方法: 具体的な検証方法として、例えば、判定値を0%〜100%の範囲で変化させて、各判定値において焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置として判定した位置(以下、評価位置とする)と、検証用ワークWNの実際の焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置との相関性を検証する方法が一例として挙げられる。本件発明者が行った実験結果によると、信号変化率を百分率で表したときに、判定値を20%〜90%の範囲の値とした場合、上記判定位置と実際の境界位置との相関性がよく、精度よく対象ワークの焼入範囲20を検出することができる。特に、S45C材については、判定値を20%〜90%の範囲内の値とすると、判定位置と実際の境界位置との相関性が良好であった。また、判定値の値を20%未満あるいは90%を超える値にした場合、図4に示すように、渦電流センサ10で境界領域を走査した場合に、判定値と同じ信号変化率となる位置が2箇所以上存在する場合があり、焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を一意的に判定するのが困難になる。これらの観点から、信号変化率を百分率で表したとき、判定値は20%〜90%の範囲内で定めた所定の値とすることが妥当である。
【0043】
焼入範囲検査方法: 以上のようにして得た焼入範囲20の検出結果に基づいて、対象ワークに焼入れを施すべき範囲に、焼入れが施されているか否かを判定することができる。このとき、例えば、対象ワークについて判定された境界位置が、対象ワークの焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置として適切な位置であるか否かを判定すればよい。
【0044】
以上説明した本実施の形態は、本件発明の一態様であり、本件発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であるのは勿論である。また、入力装置、記憶装置、演算装置、出力装置等を有するコンピュータを測定装置14に接続し、測定装置14から入力装置を介して入力された検出信号の測定値を、演算装置により信号変化率に変換すると共に、この信号変化率を記憶装置に予め記憶された判定値と比較し、信号変化率が判定値になった走査部位を焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置と判定する焼入範囲検出装置として構成してもよい。また、このとき、演算装置により、判定された境界位置が、対象ワークの焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置として適切な位置であるか否かを、記憶装置に予め記憶された管理値としての境界位置と比較して、焼入範囲20の良否を判定し、その判定結果を出力装置を介して出力するようにしてもよい。このとき、コンピュータには、各ステップを実行させるための本件発明に係るプログラムがインストールされるのは勿論である。また、プログラムは、検出信号の測定値の入力を受け付けるステップと、焼入範囲と未焼入範囲との境界領域における前記検出信号の測定値を、信号変化率に変換するステップと、前記検出信号の信号変化率の変化に基づいて、当該対象ワークの表面における焼入範囲と未焼入範囲との境界位置を判定させるステップとを、コンピュータに実行させるものであれば、本件発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【実施例】
【0045】
以下、実際に複数の検証用ワークWNを用いて、各検証用ワークWNの境界領域における検出信号の信号変化率と、各検証用ワークWNの焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置との相関性を検証した検証結果に関する実施例について説明する。但し、以下に説明する実施例に本件発明が限定されるものではない。
【0046】
検証用ワークWN: まず、検証用ワークWNについて説明する。図5に示すように、本実施例では焼入範囲20の異なる6個(N個)の検証用ワークWNを用意した。各検証用ワークWNは、焼入範囲20の検出対象とする対象ワークに対応するものであり、対象ワークと素材や形状が一致するものを用意する。本実施例では、S45C材から成る直径20mm、長さ100mmの鋼棒を検証用ワークWNとして用いた。この6個の検証用ワークWNに対して、それぞれ異なる領域に誘導加熱コイルにより移動焼入れを行った。誘導加熱コイルの移動加熱領域は、図4に示すA位置を移動開始位置とし、Bn位置(n=N−1)を移動終了位置とした。各検証用ワークWNに対する焼入れ条件は、誘導加熱コイルの移動加熱領域(熱処理範囲)が異なる以外は同一の条件を採用した。検証用ワークWNのうち、いずれか一の検証用ワークWNの熱処理範囲は、焼入範囲20の検出対象とする対象ワークの熱処理範囲と同じ領域になるようにした。
【0047】
基準ワークW0と比較ワークWn: 検証用ワークWNのうち、いずれか一の検証用ワークWNの熱処理範囲は、焼入範囲20の検出対象とする対象ワークの熱処理範囲と同じ領域になるようにした。この検証用ワークWNを基準ワークW0とした。そして、基準ワークW0以外の検証用ワークWNを比較ワークWnとした。各比較ワークWnの熱処理範囲の端部位置であるBn位置は、基準ワークW0の端部位置B0位置からDnmm離間する位置にある。本実施例では、第一比較ワークW1のB1位置は、B0位置からD1=0.5mm離間した位置とした。第二比較ワークW2のB2位置は、B0位置からD2=1.5mm離間した位置とした。第三比較ワークW3のB4位置は、B0位置からD3=2.0mm離間した位置とした。第四比較ワークW4のB4位置は、B0位置からD4=2.5mm離間した位置とした。第五比較ワークW5のB5位置は、B0位置からD5=3.0mm離間した位置とした。但し、これらの各Bn位置は任意に設定することができる。
【0048】
走査条件: 次に、渦電流センサ10による走査条件を説明する。渦電流センサ10により上述の各検証用ワークWNの焼入範囲20と未焼入範囲30とを連続して走査する。このとき、図5に示すように、検証用ワークWNの長尺方向(軸方向)を走査方向とし、走査速度は2mm/秒とした。また、焼入範囲20側から未焼入範囲30側に向かって走査するものとした。渦電流センサ10の構成は、図2において説明したものと同様の構成を有している。励磁コイル11と検出コイル12の外径はそれぞれ2.9mmとした。また、検出信号を測定するための測定周波数は32kHzとした。すなわち、交流電源13から励磁コイル11に供給する交流電流の周波数を32kHzとした。また、検出信号は検出コイル12のインピーダンスに関する信号とし、具体的には、図3を参照しながら説明した検出信号Xと検出信号Yとをそれぞれ測定した。
【0049】
検出信号の測定値: 渦電流センサ10により、各検出用ワークW(基準ワークW0及び比較ワークWn)を走査したときの、検出信号X及び検出信号Yの測定値の推移をそれぞれ図5及び図7に示す。図6及び図7は、渦電流センサ10の走査部位に対して、当該走査部位における検出信号X及び検出信号Yのそれぞれの測定値をプロットしたものである。但し、図6及び図7において、走査部位は、予め定めた走査基準位置からの距離を走査時間として表している。渦電流センサ10は、一定の速度(2mm/秒)で各検証用ワークWNの表面を走査するため、渦電流センサ10が走査基準位置から走査部位に達するまでに要した走査時間により、各検証用ワークWNの表面上の走査部位を特定することができる。本実施例では、基準ワークW0の焼入定常領域と境界領域との境界位置を走査基準位置とした。
【0050】
焼入定常値と未焼入定常値: 図6に示すように、渦電流センサ10が焼入範囲20を走査している間に、検出信号Xの測定値が、0.00V〜−0.10V程度の定常的な値を示す領域が見られた。この領域を焼入定常領域とする。また、当該焼入定常領域における検出信号Xの測定値の平均値を焼入定常値とする。また、渦電流センサ10が未焼入範囲30を走査している間に、検出信号Xの測定値が1.0V〜1.30V程度の定常的な値を示す領域が見られた。この領域を未焼入定常領域とする。このときの未焼入定常領域における検出信号Xの測定値の平均値を未焼入定常値とする。
【0051】
また、図7に示すように、検出信号Yは、検出信号Xと同様の推移を示した。検出信号Yについても渦電流センサ10が焼入範囲20及び未焼入範囲30を走査している間に、検出信号Yの測定値が定常的な値を示す領域がそれぞれ見られた。これらの領域をそれぞれ焼入定常領域、未焼入定常領域とし、その間の領域を境界領域とする。また、各領域における検出信号Yの測定値の平均値をそれぞれ焼入定常値、未焼入定常値とする。
【0052】
信号変化率: 図6及び図7に示すように、各検証用ワークWNについて得た検出信号X、Yの焼入定常値及び未焼入定常値はそれぞれ異なっている。これは、上述した通り、種々の外乱要因によるものと考えられる。そこで、これらの外乱要因による影響を排除するために、各検証用ワークWNについて測定した検出信号X、Yについて、それぞれ焼入定常値を0%、未焼入定常値を100%として、境界領域における検出信号Xの測定値を信号変化率に変換した。各検証用ワークWNの検出信号Xに関するグラフを図8に示す。また、検出信号Yに関するグラフを図9に示す。
【0053】
判定値と評価位置: 次に、判定値を設定するために、これらの各検証用ワークWNの境界領域における検出信号の信号変化率と、各検証用ワークWNの焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置との相関性を検証する。このとき、仮の判定値として判定値を0%〜100%の範囲で5%ずつ変化させて、この仮の判定値を用いて判定した焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置(評価位置)と、各検証用ワークWNの焼入範囲20と未焼入範囲30との実際の境界位置との相関性を検証した。ここで、破壊検査を行って各検証用ワークWNの焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を求めることができるが、本実施例では誘導加熱コイルの移動範囲に基づいて各検証用コイルの焼入範囲20と非焼入範囲20との境界位置を定めた。高周波焼入れでは、誘導加熱コイルによる熱処理範囲と焼入範囲20とは高い相関性を有する。各比較ワークWnの熱処理範囲の端部位置であるBn位置は、基準ワークW0の端部位置B0位置からDnmm離間する位置にある。従って、各比較ワークWnの焼入範囲20と未焼入れ範囲との境界位置は、基準ワークWの焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置とそれぞれDnmmに対応する位置関係を有するはずである。従って、仮の判定値が判定値として適切である場合、各比較ワークWの評価位置は、基準ワークWの評価位置に対して、Dnmmに対応する位置関係となるはずである。本実施例では、このような観点に基づき、検証を行った。
【0054】
検証結果: 図10及び図11に、判定値を仮に50%としたときの検証結果を示す。図10及び図11において、縦軸はそれぞれ基準ワークWの評価位置から各検出用ワークWの評価位置までの距離(mm)を表している。また、横軸は基準ワークWの焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置に対応するB0位置から、比較ワークWの焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置に対応するBn位置までの距離(Dn)を表している。図10及び図11において、それぞれ近似曲線(回帰直線)を引いた。検出信号Xについては、y=1.027x+0.0157の近似曲線が得られた。このときの相関係数r=0.998であった。一方、検出信号Yについては、y=0.9337x−0.015の近似曲線が得られた。このときの相関係数は、r=0.9951であった。
【0055】
各評価位置と相関係数: 上記と同様の方法により、信号変化率を変化させて検証を行った。結果を図12に示す。図12において、横軸は評価位置を判定したときの判定値を示している。縦軸は、そのときの評価位置と実際の焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置との相関係数を示している。図12に示すように、検出信号Xについてみると、信号変化率が20%未満の位置で、焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を判定した場合、相関係数が低くなることが分かる。一方、検出信号Yは、信号変化率が10%になる位置で焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を判定した場合であっても、相関係数は0.995であり、相関性は良好である。しかしながら、図9に示すように、検証用ワークWNによっては、信号変化率が20%未満の領域では2箇所以上の走査部位で同じ信号変化率を示す場合があり、焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を一意的に判定するのが困難になる。従って、焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を判定する際に用いる判定値としての信号変化率は20%以上とすることが好ましい。一方、信号変化率が90%を超える位置で焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を判定すると、検出信号X及び検出信号Yのいずれについても相関係数の低下が見られる。また、信号変化率が90%を超える領域において検出信号Yの相関係数の低下の度合いは低い。しかしながら、図9に示すように、検出信号Yは信号変化率が90%を超える領域で、2箇所以上の走査部位で同じ信号変化率を示す場合がある。このため、焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を一意的に判定するのが困難になる。また、信号変化率が20%〜90%の領域で焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を判定すると、高い相関性が得られることが分かる。以上の検証結果より、判定値として用いる信号変化率の値は、20%〜90%の間で判定するのが好ましく、また、当該範囲内において判定値を設定することにより、精度よく対象ワークの焼入範囲20の検出が可能であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本件発明は、渦電流測定法を利用してワークW(鉄鋼材)の焼入範囲20を非破壊で検出することができ、特に焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を簡易に、且つ、精度よく判定することができる。また、本件発明では、コンピュータを用いて、コンピュータ処理により自動的に対象ワークの焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を判定することができ、焼入範囲20の良否を精度よく判定することが可能である。このため、焼入鋼材の製造ラインにおいて、インラインで、焼入範囲20の検出及び焼入範囲20の全数検査を行うことができ、焼入鋼材の品質保証を良好に行うことができる。焼入範囲20が不良な鉄鋼材が組付工程等に回されるのを防止し、不良品の発生を防止し、無駄な廃材が出るのを防止することができる。
【符号の説明】
【0057】
10・・・渦電流センサ
11・・・励磁コイル
12・・・検出コイル
20・・・焼入範囲
30・・・未焼入範囲
W ・・・ワーク
WN・・・検証用ワーク
【技術分野】
【0001】
本件発明は、渦電流測定法を利用してワーク(鉄鋼材)の焼入範囲を非破壊で検出する焼入範囲検出方法及び焼入範囲検査方法に関し、特に、焼入範囲と未焼入範囲との境界位置を判定可能な焼入範囲検出方法及び焼入範囲検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波焼入れ等により部分的に焼入れが施された焼入鋼材が種々の装置部品材料等として広く使用されている。このような焼入鋼材については、その品質保証のため、焼入鋼材に形成された焼入硬化層が、所定の硬化深さや焼入範囲で形成されているか否かを検査するために、硬化深さや焼入範囲の測定又は検出が行われる。
【0003】
例えば、特許文献1には、渦電流測定法を利用して、焼入硬化層の硬化深さを測定する方法が開示されている。また、この特許文献1には、焼入鋼材の表面上で焼入範囲を測定することが行われている。焼入範囲の測定に際して、焼入鋼材の表面における焼入組織と未焼入組織の境界点、すなわち焼入範囲と未焼入範囲との境界位置が求められている。
【0004】
また、特許文献2には、強磁性体材料を交番磁化するときに生じるバルクハウゼン効果雑音が焼入れにより変化することを利用して、部分焼入れした材料の焼入部と非焼入部のバルクハウゼン効果雑音の平均信号レベルを基準電圧と比較することにより、部分焼入れした強磁性体材料の焼入部と非焼入部との境界、すなわち焼入範囲と未焼入範囲との境界位置を測定する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−109358号公報
【特許文献2】特開平5−264508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献1においても指摘されているように、渦電流測定法により得られた測定結果には、測定位置周辺の影響が含まれて平均化されてしまう。このため、渦電流測定により得られた測定結果だけでは、焼入範囲と未焼入範囲との境界位置を精度良く特定することが困難であった。そこで、上記特許文献1に記載の方法では、表面硬度計を用いて、焼入鋼材の表面の硬度を測定し、この硬度測定結果により、渦電流測定法により得られた測定結果を補完し、焼入範囲と未焼入範囲との境界位置を求める構成としている。しかしながら、当該特許文献1に開示の方法では、渦電流測定装置に加えて、硬度計を要し、焼入範囲と未焼入範囲との境界位置を判定するための装置構成が複雑化するとともに、計算量も増加するという課題がある。
【0007】
一方、特許文献2に記載の方法では、バルクハウゼン効果雑音の平均信号レベルを求めて、基準電圧と比較することにより、焼入範囲と未焼入範囲との境界位置を判定しているため、特許文献1に開示の方法と比較すると装置構成は単純である。しかしながら、例えば、材質、形状及び焼入範囲が同一のワークであっても、各ワークを製造したときの材料ロット、熱処理ロット、測定環境の温度変化等の種々の要因によって、各ワークについて得られるバルクハウゼン効果雑音の平均信号レベルは異なる恐れがある。しかしながら、特許文献2には、当該平均信号レベルにバラツキがある場合、基準電圧値をどのように定めるかについての開示はない。当該平均信号レベルにバラツキの大きな材料を検出対象ワークとする場合、各ワークについて得られたバルクハウゼン効果雑音の平均信号レベルと所定の値である基準電圧値とを比較しても、焼入範囲と未焼入範囲との境界位置を精度良く判定するのは困難である。
【0008】
そこで、本件発明は、渦電流測定方法を利用して、各ワークの渦電流測定結果のバラツキが大きい場合であっても、ワークの焼入範囲と未焼入範囲との境界位置を非破壊で簡易に、且つ、精度よく判定することができる焼入範囲検出方法及び焼入範囲検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本件発明に係る焼入範囲検出方法は、ワークの焼入範囲を検出する焼入範囲検出方法であって、ワークの表面に渦電流を発生させる励磁コイルと、前記渦電流に関する検出信号を検出するための検出コイルとを備えた渦電流センサを用い、焼入範囲の検出対象とする対象ワークの焼入範囲とこれに隣接する未焼入範囲とを前記渦電流センサにより連続的に走査し、前記焼入範囲と前記未焼入範囲との境界領域における前記検出信号の信号変化率に基づいて、当該対象ワークの表面における焼入範囲と未焼入範囲との境界位置を判定することを特徴とする。
【0010】
本件発明に係る焼入範囲検出方法において、前記焼入範囲を前記渦電流センサで走査したときに、前記検出信号が定常的な値を示す領域を焼入定常領域とし、前記未焼入範囲を前記渦電流センサで走査したときに、前記検出信号が定常的な値を示す領域を未焼入定常領域とし、前記境界領域は、前記焼入定常領域と前記未焼入定常領域との間の領域とし、前記検出信号の信号変化率は、前記焼入定常領域における前記検出信号の定常値と、前記未焼入定常領域における前記検出信号の定常値とを基準として求めたものであり、前記境界領域において、前記検出信号の信号変化率が予め定めた判定値になる位置を前記対象ワークの焼入範囲と未焼入範囲との境界位置として判定することが好ましい。
【0011】
本件発明に係る焼入範囲検出方法において、前記信号変化率を百分率で表した場合に、前記判定値は20%〜90%の範囲内で定めた所定の値である請求項2に記載の焼入範囲検出方法。
【0012】
本件発明に係る焼入範囲検出方法において、複数の検証用ワークを用いて、各検証用ワークの前記境界領域における前記検出信号の信号変化率と、各検証用ワークの焼入範囲と未焼入範囲との境界位置との相関性を予め検証しておき、前記判定値は当該相関性に基づき定めた値であることが好ましい。
【0013】
前記検出信号は、前記検出コイルのインピーダンスに関する値であることが好ましい。このとき、当該検出コイルのインピーダンスの抵抗成分を検出信号としてもよいし、リアクタンス成分を検出信号としてもよい。
【0014】
また、上記目的を達成するために、本件発明に係る焼入範囲検査方法は、前記対象ワークの焼入範囲を検出し、この検出結果に基づいて、前記対象ワークに焼入れを施すべき範囲に、焼入れが施されているか否かを判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本件発明によれば、焼入範囲の検出対象とする対象ワークの焼入範囲と未焼入範囲とを渦電流センサにより連続的に走査することで、焼入範囲と未焼入範囲の境界領域における検出コイルに生じた検出信号の信号変化を検出することができる。そして、検出コイルの検出信号の信号変化率に基づいて、対象ワークの焼入範囲と未焼入範囲との境界位置を非破壊で簡易に判定することができる。また、検出コイルの検出信号の絶対値に基づいて対象ワークの表面における焼入範囲と未焼入範囲との境界位置を判定するのではなく、信号変化率に基づいて、対象ワークの表面における焼入範囲と未焼入範囲との境界位置を判定するため、材料ロットや熱処理ロット、或いは、測定環境の温度変化等の要因によって、対象ワーク毎に検出コイルの検出信号の絶対値が変化する場合であっても、検出信号のバラツキによらず、各対象ワークの表面における焼入組織と未焼入組織との境界を精度よく判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本件発明に係る焼入範囲検出方法及び焼入範囲検査方法の一例を示す概略図である。
【図2】本件発明に係る渦電流センサの構成を模式的に示した図である。
【図3】検出コイルのインピーダンスと、その抵抗成分Rとリアクタンス成分ωLとの関係を示す模式図である。
【図4】対象ワークを渦電流センサで走査したときの検出コイルの検出信号Z(1)、検出信号X(2)、検出信号Y(3)の測定値の推移の一例を示す図である。
【図5】対象ワークの他の形状例(a)と、このときに得られる検出信号の推移を簡略化して示した略図(b)である。
【図6】本件発明に係る検証用ワークを用いた検証方法の一例を示す概略図である。
【図7】各検証用ワークを渦電流センサで走査したときの検出信号X(抵抗成分R)の測定値の推移を示す図である。
【図8】各検証用ワークを渦電流センサで走査したときの検出信号Y(リアクタンス成分ωL)の測定値の推移を示す図である。
【図9】各検証用ワークを渦電流センサで走査したときの検出信号X(抵抗成分R)の測定値の推移を信号変化率の推移として表した図である。
【図10】各検証用ワークを渦電流センサで走査したときの検出信号Y(リアクタンス成分ωL)の測定値の推移を信号変化率の推移として表した図である。
【図11】検出信号Xの信号変化率が50%になる位置を評価位置としたときの、評価位置と各検証用ワークの焼入範囲と未焼入範囲との境界位置との相関を検証するための図である。
【図12】検出信号Yの信号変化率が50%になる位置を評価位置としたときの、評価位置と各検証用ワークの焼入範囲と未焼入範囲との境界位置との相関を検証するための図である。
【図13】評価位置を信号変化率が0%〜100%の範囲内で変化させた際の各評価位置における相関係数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本件発明に係る焼入範囲検出方法及び焼入範囲検査方法の好ましい実施の形態を図面を参照しながら説明する。本件発明では、図1に示す渦電流センサ10を用い、この渦電流センサ10でワークWの焼入範囲20とこれに隣接する未焼入範囲30とを連続的に走査し、ワークWの焼入範囲20と未焼入範囲30との境界領域における渦電流センサ10の検出信号の信号変化率に基づいて、ワークWの焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を判定する方法を採用している。また、本件発明に係る焼入範囲検査方法は、本件発明に係る焼入範囲検出方法を利用して、対象ワークの焼入範囲20を検出し、この検出結果に基づいて、対象ワークに焼入れを施すべき範囲に、焼入れが施されているか否かを判定するものである。本件発明に係る焼入範囲検出方法及び焼入範囲検査方法は、渦電流測定法を利用して、ワークWの表面における焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を非破壊で簡易に、且つ、精度よく判定することができる。
【0018】
ワーク: まず、ワークWについて説明する。本実施の形態では、対象ワークは、焼入れが施された鉄鋼材とする。例えば、鋼材として、機械構造用炭素鋼材(以下、「SC材」)は、種々の装置部品等の構造部材として用いられ、熱処理等により機械的性質を改善して使用される。また、SC材は種々の装置部品に用いられることから、その用途に応じて、熱処理が施される面積や位置も多様である。本件発明は、このような部分焼入れが施された部分焼入鋼材の焼入範囲20を検出する際に特に好適に用いることができる。また、本件発明を用いれば、部分焼入鋼材の製造ラインにおいて、焼入工程後に、焼入範囲20の全数検査をインラインで行うことが可能になる。
【0019】
ワーク形状: 本件発明において、ワークWの形状は特に限定されるものではない。図1には、ワークWの一例として鋼棒の断面を示している。図1にハッチングで示すA位置からB位置の間の領域は、次に説明する焼入範囲20を示している。すなわち、図1には、外周部分の表面に焼入れが施された鋼棒の断面を示しており、鋼棒の断面部分に付すべきハッチングは省略している。
【0020】
焼入範囲20: 本実施の形態において、焼入範囲20とは、ワークWの焼入工程において、熱処理が施されることにより、焼入硬化層が形成された領域を指す。当該焼入範囲20は、ワークWの金属組織が変化して焼入組織として存在する領域である。
【0021】
未焼入範囲30: 一方、未焼入範囲30とは、上記焼入範囲20に隣接し、熱処理が施されていない領域をいう。当該未焼入範囲30は、母材の金属組織が変化せずに未焼入組織として存在する領域である。
【0022】
境界領域: 焼入範囲20と未焼入範囲30との境界領域とは、互いに隣接する焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置付近の領域を指すが、具体的には後述する。
【0023】
渦電流センサ10: 次に、図2を参照して渦電流センサ10の構成を説明する。渦電流センサ10は、ワークWの表面に渦電流Cを発生させる励磁コイル11と、ワークWの表面に発生した前記渦電流Cに関する検出信号を検出するための検出コイル12とを備えている。励磁コイル11と、検出コイル12とは、それぞれ所定の位置関係になるようにして図1に示したケース内に収容される。渦電流センサ10は、図示しない治具により、ワークWの表面に対して、一定のギャップ(リフトオフ)Gを空けて配置される。また、渦電流センサ10は、上記治具によりワークWに対して、一定速度で相対移動可能に構成されている。従って、渦電流センサ10によりワークWの表面を走査した場合、渦電流センサ10が走査基準位置から走査部位まで移動する際に要した走査時間に基づいて、ワークWの表面における走査部位を簡易に特定することができる。
【0024】
図2に模式的に示すように、励磁コイル11は、ワークWの表面に対してコイル軸が垂直になるようにしてケース内に収容される。励磁コイル11の両端には、交流電源13が接続されている。この交流電源13により、励磁コイル11には所定の周波数の交流電流が供給される。検出コイル12は、そのコイル軸が、励磁コイル11のコイル軸と一致するようにして、巻線が巻かれている。検出コイル12の両端には、検出コイル12の電気的なパラメータを検出信号として測定するための測定装置14が接続されている。
【0025】
焼入範囲20の検出原理: ここで、図2を参照しながら、渦電流測定法を利用した本件発明に係る焼入範囲20の検出原理を説明する。交流電源13は、励磁コイル11に対して所定の周波数の交流電流を供給する。但し、交流電源13から励磁コイル11に供給する交流電流の周波数は、焼入範囲20の検出対象とする対象ワークに応じて、適宜、適切な周波数を選定することができる。励磁コイル11に交流電流を供給すると、励磁コイル11によりワークWの表面に対して垂直な磁束Mが発生する。そして、ワークWの表面には、この磁束Mを中心とする環状の渦電流Cが発生する。ワークWの表面に渦電流Cが発生すると、この渦電流Cにより図示しない磁束が発生する。この磁束の一部は、検出コイル12を貫通する。その結果、電磁誘導により、検出コイル12の両端には誘起電圧が生じる。この検出コイル12の両端に生じた誘起電圧に関する電気的なパラメータは、ワークWの表面に発生した渦電流Cの状態を反映する。そこで、測定装置14により、この検出コイル12の電気的なパラメータを測定することで、渦電流センサ10の走査部位においてワークWの表面に発生した渦電流Cの状態を検出することができる。
【0026】
検出信号: 検出信号は、ワークWの表面に発生した渦電流Cに関する信号である。本実施の形態では、上述した通り、検出コイル12の両端に生じた誘起電圧に関する電気的なパラメータを検出信号とする。ここで、磁性体である鉄鋼材を焼入れると、焼入組織の硬度は未焼入組織の硬度に比して高くなる一方、焼入組織の透磁率は未焼入組織の透磁率に比して低下する。つまり、焼入組織が形成された部位では、未焼入組織を有する部位に比して、励磁コイル11により励磁されにくくなる。従って、焼入れを行ったワークWの表面を渦電流センサ10で走査したときに、未焼入組織に比して、焼入組織が形成された部位では、ワークWの表面で発生する渦電流Cが小さくなり、検出コイル12の両端に生じる誘起電圧も小さくなる。このように検出コイル12の両端に生じる誘起電圧は、ワークWの表面の透磁率を介して、ワークWの表面硬度を反映する。本実施の形態は、検出信号として、検出コイル12のインピーダンスに関する信号を採用する。
【0027】
検出コイル12のインピーダンス: 図3に、励磁コイル11に角周波数ωの交流電流を流したときの検出コイル12のインピーダンス(Z)と、その抵抗成分R(実数部)と、リアクタンス成分jωL(虚数部)の関係を模式的に示す。
但し、インピーダンス(Z)は下記式で表される。
Z=R+jωL・・・(式)
【0028】
このように、インピーダンスは、抵抗成分Rとリアクタンス成分jωLの和として表される。本実施の形態では、検出信号として、図3に示すようにインピーダンス平面に表したときの、抵抗成分Rを表すX値(実数軸値)と、リアクタンス成分jωLを表すY値(虚数軸値)とを採用する。以下、インピーダンスの抵抗成分Rを表す検出信号を検出信号Xと称する。また、インピーダンスのリアクタンス成分jωLを表す検出信号を検出信号Yと称する。本実施の形態では、測定装置14によりこれらの検出信号X及び検出信号Yをそれぞれの電圧値として測定している。但し、検出信号は、検出信号X及び検出信号Yの双方を測定する必要はなく、少なくともいずれか一方を測定すればよい。また、検出コイル12のインピーダンス自体を検出信号として用いることもできる。
【0029】
検出信号X: ここで、インピーダンス平面におけるX値は、励磁コイル11に印加された交流電圧に対して、渦電流Cにより検出コイル12の両端に生じた誘起電圧の位相差に起因する値となる。この位相差は、ワークWに形成された焼入硬化層の硬化深さと相関のある値と考えられている。すなわち、ワークWに形成された焼入硬化層の硬化深さが深くなると、透磁率の低い焼入組織が深く分布することになり、励磁コイル11に印加した交流電圧に対して、検出コイル12の両端に生じた誘起電圧の位相ズレが増加する。これに対して、ワークWに形成された焼入硬化層の硬化深さが浅くなると、透磁率の低い焼入組織の分布が浅くなるため、位相ズレは減少する。未焼入組織は、硬化深さがゼロであると考ることができるから、位相差に起因するX値の信号変化に基づいて、焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を判定することができる。
【0030】
検出信号Y: 一方、インピーダンス平面におけるY値は、検出コイル12の両端に生じた誘起電圧の振幅値を表す。走査部位の透磁率が高くなると、渦電流発生に伴う磁束が増すため、検出コイル12の両端に生じる誘起電圧の振幅値も増大する。これに対して、走査部位の透磁率が低くなると、渦電流発生に伴う磁束が減るため、検出コイル12の両端に生じる誘起電圧の振幅値も減少する。従って、誘起電圧の振幅値を表すY値は、走査部位の透磁率、すなわち、走査部位の表面硬度を反映する値といえる。従って、Y値の信号変化に基づく表面硬度の差異から、焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を判定することができる。以下、インピーダンスのリアクタンス成分を表す検出信号を検出信号Yと称する。
【0031】
検出信号の変化: 渦電流センサ10により、ワークWの焼入範囲20と未焼入範囲30とを連続的に走査したとき、検出信号X及び検出信号Yのいずれを測定した場合であってもこれらの測定値の変化は概ね同様の傾向を示す。図4に、ワークWを走査したときの検出信号X及び検出信号Yを電圧値として測定したときの測定値の推移を示す。また、図4には、このときの検出コイル12のインピーダンスの推移を検出信号Zとして併せて示している。なお、図4における検出信号Zについても電圧換算値を示している。図4に示す測定例は、S45C材からなる直径20mm、長さ100mmの円柱状の鋼材であって、その外周を部分的に熱処理を施した試験片に対して、渦電流センサ10で走査したときに得られた各検出信号の変化を示したものである。横軸は、渦電流センサ10のワークWの表面上の走査部位を走査開始位置からの走査時間として示したものである。また、縦軸は、測定値を示している。焼入組織が分布する領域と、未焼入組織が分布する領域とを比較すると、各領域の透磁率の差異から、図4に示すように、焼入組織が分布する領域に対して、未焼入組織が分布する領域の方がいずれの検出信号も高い値を示す。また、図4に示すように、いずれの検出信号も焼入範囲20側で定常的な値を示したのち、焼入範囲20と未焼入範囲30との境界領域においてその値を変動させながら、未焼入範囲30において再び定常的な値を示すようになる。
【0032】
焼入定常領域: ここで、焼入定常領域とは、焼入範囲20を渦電流センサ10で走査したときに、検出信号が定常的な値を示す領域をいう。ここで、「検出信号が定常的な値を示す領域」とは、焼入範囲20を渦電流センサ10で走査したときの検出信号の測定値を走査部位に対してプロットしたときに、所定の関数式(Y=f(x)+y1)で表される近似曲線(但し、近似直線を含む)を引くことができる領域であると定義することができる。また、当該領域における検出信号の定常的な値を「焼入定常値」と称する。図4に示す測定例では、焼入範囲20内において、走査部位によらず「検出信号の測定値が定常的に略一定の値を示す領域」があり、この領域が焼入定常領域となる。そして、当該領域では、上記関数式において「f(x)=0」の「Y=y1」で表される近似曲線を引くことができる。また、この場合、焼入定常値は「y1」で表わされ、この値は当該領域内における検出信号の測定値の平均値に相当する。
【0033】
未焼入定常領域: 一方、未焼入定常領域とは、焼入定常領域と同様に、未焼入範囲30を渦電流センサ10で走査したときに、検出信号が定常的な値を示す領域をいい、未焼入範囲30を渦電流センサ10で走査したときの検出信号の測定値を走査部位に対してプロットしたときに、所定の関数式(G=g(x)+y2)で表される近似曲線を引くことができる領域をいう。また、当該領域における検出信号の定常的な値を「未焼入定常値」と称する。図4に示す測定例では、焼入範囲20と同様に、未焼入範囲30内において、走査部位によらず検出信号の測定値が定常的に略一定の値を示す領域があり、この領域が未焼入定常領域となる。そして、当該領域では、焼入定常領域と同様に「g(x)=0」の「Y=y2」で表される近似曲線を引くことができる。また、この場合、未焼入定常値は「y2」で表わされ、焼入定常値と同様に、この値は当該領域内における検出信号の測定値の平均値に相当する。
【0034】
ところで、図4に示す測定例のように、渦電流センサ10の走査範囲において、ワークWの形状やワークの硬化層深さが略一定である場合、焼入定常領域では、走査部位によらず検出信号の測定値が略一定の値を示した。しかしながら、本件発明において、「検出信号が定常的な値を示す領域」は、図4に示す測定例のように「検出信号の測定値が定常的に略一定の値を示す領域」のみを意味するのではなく、上述した通り、「検出信号の測定値を走査部位に対してプロットしたときに、所定の関数式(Y=f(x)+y1、G=g(x)+y2)で表される近似曲線(但し、近似直線を含む)を引くことができる領域」を意味する。
【0035】
例えば、図5(a)に示すワークW1のように、渦電流センサ10の走査面と、ワークW1の表面との間の距離が、渦電流センサ10の走査部位に応じて変化する場合、図5(b)に示すように検出信号(例えば、検出信号X)の測定値も走査部位によって変化する。しかしながら、焼入範囲20を走査したときに得られた検出信号の測定値を走査部位に対してプロットしたときに、図5(b)に示すように、所定の関数式(Y=f(x)+y1、但し、図示例ではf(x)=a×xであり、aは定数である。)で表される近似曲線L1を引くことができる領域がある。従って、図5に示す例では、当該領域が焼入定常領域となる。同様に、未焼入範囲30を走査したときに得られた検出信号の測定値を走査部位に対してプロットしたときにも、所定の関数式(G=g(x)+y2、但し、図示例では、g(x)=b×xであり、bは定数である。)で表せる近似曲線L2を引くことの出来る領域がある。従って、当該領域が未焼入定常領域となる。但し、図4及び図5に示す例では、焼入定常領域及び未焼入定常領域において、近似曲線はいずれも一次関数式で表されたが、近似曲線を表す関数式は一次関数式に限るものではなく、二次関数式以上の高次の関数式であってもよいのは勿論である。すなわち、本件発明では、焼入範囲20及び未焼入範囲30において、検出信号の測定値が変化する場合であっても、当該測定値の変化がワークWの形状等の変化に伴う定性的な変化の範囲内である限り、本件発明では検出信号が定常的な値を示すものとして取り扱う。そして、検出信号の測定値が上記各近似曲線から外れた値を示す領域、すなわち、検出信号の測定値がワークWの形状等の変化の範囲を超えて変動する領域を、次に説明する境界領域とする。
【0036】
境界領域: 次に、境界領域について説明する。境界領域とは、上述した様に、焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置付近の領域を指し、具体的には上記焼入定常領域と上記未焼入定常領域との間の領域をいう。焼入定常領域及び未焼入定常領域では、検出信号の測定値はそれぞれ定常的な値を示すことから、各領域に分布する金属組織の透磁率はそれぞれ略一定であり、各領域における焼入硬化層の硬化層深さは略一定(若しくはゼロ)或いは、設計上の変動の範囲内の値を示すことが分かる。一方、境界領域では、図4に示すように、検出信号の測定値が変動する。これは、当該境界領域においてワークWの表面硬度やワークWに形成された金属硬化層の硬化層深さも変動しているためである。本件発明では、渦電流センサ10で焼入範囲20と未焼入範囲30とを連続的に走査することにより、焼入定常領域と未焼入定常領域とを明らかにするとともに、当該境界領域における検出信号の信号変化に基づいて、焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を判定する方法を採用している。当該観点から、この境界領域は、焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を判定するための判定領域である。
【0037】
しかしながら、材質、形状、焼入範囲20が互いに同じワークWであっても、当該ワークWを製造したときの材料ロットや熱処理ロットが異なる場合、母材の金属組織や、焼入組織の透磁率、導電率等に誤差があることが想定される。また、検出信号を測定するときのワークWの表面温度や、雰囲気温度が異なると、同じ材質等から成るワークWであっても、その抵抗率、すなわち導電率が変化することが想定される。このように透磁率や導電率等の変化を招く外乱要因は種々存在するため、検出信号の測定値(絶対値)そのものを用いて、ワークWの焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を判定した場合、ワークWの焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を精度よく判定するのは困難である。
【0038】
そこで、本件発明では、検出信号の測定値を用いるのではなく、検出信号の測定値を信号変化率に変換して、当該信号変化率が予め定めた判定値(閾値)になった位置を焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置と判定する方法を採用している。すなわち、検出信号の測定値を信号変化率に変換し、検出信号の信号変化率を用いて焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を判定することにより、材料ロットや熱処理ロット、あるいは測定環境の温度変化等の種々の外乱要因による影響を排除して、ワークWの焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を精度よく判定することが可能になった。
【0039】
信号変化率: ここで、信号変化率は、検出信号の測定値を焼入定常値と未焼入定常値を基準とした信号変化率として表したものである。このように、検出信号の測定値を焼入定常値と未焼入定常値との間の変化の割合に変換することにより、外乱要因の影響を排除して、検出信号の信号変化率を境界領域における金属組織等の変化の程度として捉えることができる。従って、ワークWの用途や材質等に応じて、焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を表す所定の値を判定値として予め定めておくことにより、対象ワークを走査したときの信号変化率と、この判定値とを比較することにより、対象ワークに形成された焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を簡易に、且つ、精度よく判定することができる。但し、図4に示す場合は上述した様に、焼入定常値及び未焼入定常値はそれぞれ切片「y1」、「y2」の値で表され、これらの値を基準にして、境界領域において得られた検出信号の測定値を信号変換率に変換することができる。一方、図5(b)に例示する場合のように、近似曲線が傾き(a≠0、b≠0)を有する一次関数式あるいは、二次関数以上の関数式で表される場合は、次のようにして信号変換率を求める。走査部位「Sx」における検出信号Xの測定値が「Xs」であった場合、各近似曲線L1、L2を表す関数式のf(x)、g(x)にそれぞれ「x=Sx」を代入し、そのときに得られる「Ys」、「Gs」の値を基準にして、当該測定値「XS」を信号変換率に変換することができる。
【0040】
判定値: 判定値は、焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を判定するために用いる所定の値であり、ワークWの用途や材質等に応じて、適宜、適切な値を選定することができる。ところで、現時点において、ワークWの表面における焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置に関する規格はない。そこで、本件発明では、焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置として、焼入組織と未焼入組織との物理的又は化学的性質の差異が区別できない位置と定義する。判定値は、この境界位置における検出信号の信号変化率に相当する。
【0041】
判定値の設定: 具体的に判定値を設定する際には、複数の検証用ワークWNを用いて、各検証用ワークWNの境界領域における検出信号の信号変化率と、各検証用ワークWNの焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置との相関性を予め検証しておくことが好ましい。そして、この相関性に基づいて、判定値を設定することが好ましい。具体的には、複数の検証用ワークWNを用いて、各検証用ワークWNを渦電流センサ10で焼入範囲20とこれに隣接する未焼入範囲30を連続的に走査したときの検出信号の信号の推移に基づいて、焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置として適切であり、且つ、信号変化率の推移により精度よく当該境界位置を判定可能な値にすることが好ましい。
【0042】
検証方法: 具体的な検証方法として、例えば、判定値を0%〜100%の範囲で変化させて、各判定値において焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置として判定した位置(以下、評価位置とする)と、検証用ワークWNの実際の焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置との相関性を検証する方法が一例として挙げられる。本件発明者が行った実験結果によると、信号変化率を百分率で表したときに、判定値を20%〜90%の範囲の値とした場合、上記判定位置と実際の境界位置との相関性がよく、精度よく対象ワークの焼入範囲20を検出することができる。特に、S45C材については、判定値を20%〜90%の範囲内の値とすると、判定位置と実際の境界位置との相関性が良好であった。また、判定値の値を20%未満あるいは90%を超える値にした場合、図4に示すように、渦電流センサ10で境界領域を走査した場合に、判定値と同じ信号変化率となる位置が2箇所以上存在する場合があり、焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を一意的に判定するのが困難になる。これらの観点から、信号変化率を百分率で表したとき、判定値は20%〜90%の範囲内で定めた所定の値とすることが妥当である。
【0043】
焼入範囲検査方法: 以上のようにして得た焼入範囲20の検出結果に基づいて、対象ワークに焼入れを施すべき範囲に、焼入れが施されているか否かを判定することができる。このとき、例えば、対象ワークについて判定された境界位置が、対象ワークの焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置として適切な位置であるか否かを判定すればよい。
【0044】
以上説明した本実施の形態は、本件発明の一態様であり、本件発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であるのは勿論である。また、入力装置、記憶装置、演算装置、出力装置等を有するコンピュータを測定装置14に接続し、測定装置14から入力装置を介して入力された検出信号の測定値を、演算装置により信号変化率に変換すると共に、この信号変化率を記憶装置に予め記憶された判定値と比較し、信号変化率が判定値になった走査部位を焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置と判定する焼入範囲検出装置として構成してもよい。また、このとき、演算装置により、判定された境界位置が、対象ワークの焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置として適切な位置であるか否かを、記憶装置に予め記憶された管理値としての境界位置と比較して、焼入範囲20の良否を判定し、その判定結果を出力装置を介して出力するようにしてもよい。このとき、コンピュータには、各ステップを実行させるための本件発明に係るプログラムがインストールされるのは勿論である。また、プログラムは、検出信号の測定値の入力を受け付けるステップと、焼入範囲と未焼入範囲との境界領域における前記検出信号の測定値を、信号変化率に変換するステップと、前記検出信号の信号変化率の変化に基づいて、当該対象ワークの表面における焼入範囲と未焼入範囲との境界位置を判定させるステップとを、コンピュータに実行させるものであれば、本件発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【実施例】
【0045】
以下、実際に複数の検証用ワークWNを用いて、各検証用ワークWNの境界領域における検出信号の信号変化率と、各検証用ワークWNの焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置との相関性を検証した検証結果に関する実施例について説明する。但し、以下に説明する実施例に本件発明が限定されるものではない。
【0046】
検証用ワークWN: まず、検証用ワークWNについて説明する。図5に示すように、本実施例では焼入範囲20の異なる6個(N個)の検証用ワークWNを用意した。各検証用ワークWNは、焼入範囲20の検出対象とする対象ワークに対応するものであり、対象ワークと素材や形状が一致するものを用意する。本実施例では、S45C材から成る直径20mm、長さ100mmの鋼棒を検証用ワークWNとして用いた。この6個の検証用ワークWNに対して、それぞれ異なる領域に誘導加熱コイルにより移動焼入れを行った。誘導加熱コイルの移動加熱領域は、図4に示すA位置を移動開始位置とし、Bn位置(n=N−1)を移動終了位置とした。各検証用ワークWNに対する焼入れ条件は、誘導加熱コイルの移動加熱領域(熱処理範囲)が異なる以外は同一の条件を採用した。検証用ワークWNのうち、いずれか一の検証用ワークWNの熱処理範囲は、焼入範囲20の検出対象とする対象ワークの熱処理範囲と同じ領域になるようにした。
【0047】
基準ワークW0と比較ワークWn: 検証用ワークWNのうち、いずれか一の検証用ワークWNの熱処理範囲は、焼入範囲20の検出対象とする対象ワークの熱処理範囲と同じ領域になるようにした。この検証用ワークWNを基準ワークW0とした。そして、基準ワークW0以外の検証用ワークWNを比較ワークWnとした。各比較ワークWnの熱処理範囲の端部位置であるBn位置は、基準ワークW0の端部位置B0位置からDnmm離間する位置にある。本実施例では、第一比較ワークW1のB1位置は、B0位置からD1=0.5mm離間した位置とした。第二比較ワークW2のB2位置は、B0位置からD2=1.5mm離間した位置とした。第三比較ワークW3のB4位置は、B0位置からD3=2.0mm離間した位置とした。第四比較ワークW4のB4位置は、B0位置からD4=2.5mm離間した位置とした。第五比較ワークW5のB5位置は、B0位置からD5=3.0mm離間した位置とした。但し、これらの各Bn位置は任意に設定することができる。
【0048】
走査条件: 次に、渦電流センサ10による走査条件を説明する。渦電流センサ10により上述の各検証用ワークWNの焼入範囲20と未焼入範囲30とを連続して走査する。このとき、図5に示すように、検証用ワークWNの長尺方向(軸方向)を走査方向とし、走査速度は2mm/秒とした。また、焼入範囲20側から未焼入範囲30側に向かって走査するものとした。渦電流センサ10の構成は、図2において説明したものと同様の構成を有している。励磁コイル11と検出コイル12の外径はそれぞれ2.9mmとした。また、検出信号を測定するための測定周波数は32kHzとした。すなわち、交流電源13から励磁コイル11に供給する交流電流の周波数を32kHzとした。また、検出信号は検出コイル12のインピーダンスに関する信号とし、具体的には、図3を参照しながら説明した検出信号Xと検出信号Yとをそれぞれ測定した。
【0049】
検出信号の測定値: 渦電流センサ10により、各検出用ワークW(基準ワークW0及び比較ワークWn)を走査したときの、検出信号X及び検出信号Yの測定値の推移をそれぞれ図5及び図7に示す。図6及び図7は、渦電流センサ10の走査部位に対して、当該走査部位における検出信号X及び検出信号Yのそれぞれの測定値をプロットしたものである。但し、図6及び図7において、走査部位は、予め定めた走査基準位置からの距離を走査時間として表している。渦電流センサ10は、一定の速度(2mm/秒)で各検証用ワークWNの表面を走査するため、渦電流センサ10が走査基準位置から走査部位に達するまでに要した走査時間により、各検証用ワークWNの表面上の走査部位を特定することができる。本実施例では、基準ワークW0の焼入定常領域と境界領域との境界位置を走査基準位置とした。
【0050】
焼入定常値と未焼入定常値: 図6に示すように、渦電流センサ10が焼入範囲20を走査している間に、検出信号Xの測定値が、0.00V〜−0.10V程度の定常的な値を示す領域が見られた。この領域を焼入定常領域とする。また、当該焼入定常領域における検出信号Xの測定値の平均値を焼入定常値とする。また、渦電流センサ10が未焼入範囲30を走査している間に、検出信号Xの測定値が1.0V〜1.30V程度の定常的な値を示す領域が見られた。この領域を未焼入定常領域とする。このときの未焼入定常領域における検出信号Xの測定値の平均値を未焼入定常値とする。
【0051】
また、図7に示すように、検出信号Yは、検出信号Xと同様の推移を示した。検出信号Yについても渦電流センサ10が焼入範囲20及び未焼入範囲30を走査している間に、検出信号Yの測定値が定常的な値を示す領域がそれぞれ見られた。これらの領域をそれぞれ焼入定常領域、未焼入定常領域とし、その間の領域を境界領域とする。また、各領域における検出信号Yの測定値の平均値をそれぞれ焼入定常値、未焼入定常値とする。
【0052】
信号変化率: 図6及び図7に示すように、各検証用ワークWNについて得た検出信号X、Yの焼入定常値及び未焼入定常値はそれぞれ異なっている。これは、上述した通り、種々の外乱要因によるものと考えられる。そこで、これらの外乱要因による影響を排除するために、各検証用ワークWNについて測定した検出信号X、Yについて、それぞれ焼入定常値を0%、未焼入定常値を100%として、境界領域における検出信号Xの測定値を信号変化率に変換した。各検証用ワークWNの検出信号Xに関するグラフを図8に示す。また、検出信号Yに関するグラフを図9に示す。
【0053】
判定値と評価位置: 次に、判定値を設定するために、これらの各検証用ワークWNの境界領域における検出信号の信号変化率と、各検証用ワークWNの焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置との相関性を検証する。このとき、仮の判定値として判定値を0%〜100%の範囲で5%ずつ変化させて、この仮の判定値を用いて判定した焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置(評価位置)と、各検証用ワークWNの焼入範囲20と未焼入範囲30との実際の境界位置との相関性を検証した。ここで、破壊検査を行って各検証用ワークWNの焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を求めることができるが、本実施例では誘導加熱コイルの移動範囲に基づいて各検証用コイルの焼入範囲20と非焼入範囲20との境界位置を定めた。高周波焼入れでは、誘導加熱コイルによる熱処理範囲と焼入範囲20とは高い相関性を有する。各比較ワークWnの熱処理範囲の端部位置であるBn位置は、基準ワークW0の端部位置B0位置からDnmm離間する位置にある。従って、各比較ワークWnの焼入範囲20と未焼入れ範囲との境界位置は、基準ワークWの焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置とそれぞれDnmmに対応する位置関係を有するはずである。従って、仮の判定値が判定値として適切である場合、各比較ワークWの評価位置は、基準ワークWの評価位置に対して、Dnmmに対応する位置関係となるはずである。本実施例では、このような観点に基づき、検証を行った。
【0054】
検証結果: 図10及び図11に、判定値を仮に50%としたときの検証結果を示す。図10及び図11において、縦軸はそれぞれ基準ワークWの評価位置から各検出用ワークWの評価位置までの距離(mm)を表している。また、横軸は基準ワークWの焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置に対応するB0位置から、比較ワークWの焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置に対応するBn位置までの距離(Dn)を表している。図10及び図11において、それぞれ近似曲線(回帰直線)を引いた。検出信号Xについては、y=1.027x+0.0157の近似曲線が得られた。このときの相関係数r=0.998であった。一方、検出信号Yについては、y=0.9337x−0.015の近似曲線が得られた。このときの相関係数は、r=0.9951であった。
【0055】
各評価位置と相関係数: 上記と同様の方法により、信号変化率を変化させて検証を行った。結果を図12に示す。図12において、横軸は評価位置を判定したときの判定値を示している。縦軸は、そのときの評価位置と実際の焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置との相関係数を示している。図12に示すように、検出信号Xについてみると、信号変化率が20%未満の位置で、焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を判定した場合、相関係数が低くなることが分かる。一方、検出信号Yは、信号変化率が10%になる位置で焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を判定した場合であっても、相関係数は0.995であり、相関性は良好である。しかしながら、図9に示すように、検証用ワークWNによっては、信号変化率が20%未満の領域では2箇所以上の走査部位で同じ信号変化率を示す場合があり、焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を一意的に判定するのが困難になる。従って、焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を判定する際に用いる判定値としての信号変化率は20%以上とすることが好ましい。一方、信号変化率が90%を超える位置で焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を判定すると、検出信号X及び検出信号Yのいずれについても相関係数の低下が見られる。また、信号変化率が90%を超える領域において検出信号Yの相関係数の低下の度合いは低い。しかしながら、図9に示すように、検出信号Yは信号変化率が90%を超える領域で、2箇所以上の走査部位で同じ信号変化率を示す場合がある。このため、焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を一意的に判定するのが困難になる。また、信号変化率が20%〜90%の領域で焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を判定すると、高い相関性が得られることが分かる。以上の検証結果より、判定値として用いる信号変化率の値は、20%〜90%の間で判定するのが好ましく、また、当該範囲内において判定値を設定することにより、精度よく対象ワークの焼入範囲20の検出が可能であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本件発明は、渦電流測定法を利用してワークW(鉄鋼材)の焼入範囲20を非破壊で検出することができ、特に焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を簡易に、且つ、精度よく判定することができる。また、本件発明では、コンピュータを用いて、コンピュータ処理により自動的に対象ワークの焼入範囲20と未焼入範囲30との境界位置を判定することができ、焼入範囲20の良否を精度よく判定することが可能である。このため、焼入鋼材の製造ラインにおいて、インラインで、焼入範囲20の検出及び焼入範囲20の全数検査を行うことができ、焼入鋼材の品質保証を良好に行うことができる。焼入範囲20が不良な鉄鋼材が組付工程等に回されるのを防止し、不良品の発生を防止し、無駄な廃材が出るのを防止することができる。
【符号の説明】
【0057】
10・・・渦電流センサ
11・・・励磁コイル
12・・・検出コイル
20・・・焼入範囲
30・・・未焼入範囲
W ・・・ワーク
WN・・・検証用ワーク
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの焼入範囲を検出する焼入範囲検出方法であって、
ワークの表面に渦電流を発生させる励磁コイルと、前記渦電流に関する検出信号を検出するための検出コイルとを備えた渦電流センサを用い、
焼入範囲の検出対象とする対象ワークの焼入範囲とこれに隣接する未焼入範囲とを前記渦電流センサにより連続的に走査し、
前記焼入範囲と前記未焼入範囲との境界領域における前記検出信号の信号変化率に基づいて、当該対象ワークの表面における焼入範囲と未焼入範囲との境界位置を判定することを特徴とする焼入範囲検出方法。
【請求項2】
前記焼入範囲を前記渦電流センサで走査したときに、前記検出信号が定常的な値を示す領域を焼入定常領域とし、
前記未焼入範囲を前記渦電流センサで走査したときに、前記検出信号が定常的な値を示す領域を未焼入定常領域とし、
前記境界領域は、前記焼入定常領域と前記未焼入定常領域との間の領域とし、
前記検出信号の信号変化率は、前記焼入定常領域における前記検出信号の定常値と、前記未焼入定常領域における前記検出信号の定常値とを基準として求めたものであり、
前記境界領域において、前記検出信号の信号変化率が予め定めた判定値になる位置を前記対象ワークの焼入範囲と未焼入範囲との境界位置として判定する請求項1に記載の焼入範囲検出方法。
【請求項3】
前記信号変化率を百分率で表した場合に、前記判定値は20%〜90%の範囲内で定めた所定の値である請求項2に記載の焼入範囲検出方法。
【請求項4】
複数の検証用ワークを用いて、各検証用ワークの前記境界領域における前記検出信号の信号変化率と、各検証用ワークの焼入範囲と未焼入範囲との境界位置との相関性を予め検証しておき、前記判定値は当該相関性に基づき定めた値である請求項2〜請求項3のいずれか一項に記載の焼入範囲検出方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の焼入範囲検出方法を用いて、前記対象ワークの焼入範囲を検出し、この検出結果に基づいて、前記対象ワークに焼入れを施すべき範囲に、焼入れが施されているか否かを判定することを特徴とする焼入範囲検査方法。
【請求項1】
ワークの焼入範囲を検出する焼入範囲検出方法であって、
ワークの表面に渦電流を発生させる励磁コイルと、前記渦電流に関する検出信号を検出するための検出コイルとを備えた渦電流センサを用い、
焼入範囲の検出対象とする対象ワークの焼入範囲とこれに隣接する未焼入範囲とを前記渦電流センサにより連続的に走査し、
前記焼入範囲と前記未焼入範囲との境界領域における前記検出信号の信号変化率に基づいて、当該対象ワークの表面における焼入範囲と未焼入範囲との境界位置を判定することを特徴とする焼入範囲検出方法。
【請求項2】
前記焼入範囲を前記渦電流センサで走査したときに、前記検出信号が定常的な値を示す領域を焼入定常領域とし、
前記未焼入範囲を前記渦電流センサで走査したときに、前記検出信号が定常的な値を示す領域を未焼入定常領域とし、
前記境界領域は、前記焼入定常領域と前記未焼入定常領域との間の領域とし、
前記検出信号の信号変化率は、前記焼入定常領域における前記検出信号の定常値と、前記未焼入定常領域における前記検出信号の定常値とを基準として求めたものであり、
前記境界領域において、前記検出信号の信号変化率が予め定めた判定値になる位置を前記対象ワークの焼入範囲と未焼入範囲との境界位置として判定する請求項1に記載の焼入範囲検出方法。
【請求項3】
前記信号変化率を百分率で表した場合に、前記判定値は20%〜90%の範囲内で定めた所定の値である請求項2に記載の焼入範囲検出方法。
【請求項4】
複数の検証用ワークを用いて、各検証用ワークの前記境界領域における前記検出信号の信号変化率と、各検証用ワークの焼入範囲と未焼入範囲との境界位置との相関性を予め検証しておき、前記判定値は当該相関性に基づき定めた値である請求項2〜請求項3のいずれか一項に記載の焼入範囲検出方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の焼入範囲検出方法を用いて、前記対象ワークの焼入範囲を検出し、この検出結果に基づいて、前記対象ワークに焼入れを施すべき範囲に、焼入れが施されているか否かを判定することを特徴とする焼入範囲検査方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
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【図5】
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【図7】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−132870(P2012−132870A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287075(P2010−287075)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(390029089)高周波熱錬株式会社 (288)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(390029089)高周波熱錬株式会社 (288)
【Fターム(参考)】
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