説明

焼成炉

【課題】さや内のセラミック成形品を均一に焼成することができる焼成炉を提供する。
【解決手段】焼成炉1では、炉床板3の上面3aにおいて、下方に窪む窪み面Kが炉床板3の長手方向に沿って延在している。この窪み面Kにより、炉床板3の中央部分からヒータ5までの距離と炉床板3の端部からヒータ5までの距離との差が小さくなる。したがって、焼成炉1では、ヒータ5の輻射熱の伝わり方のばらつきを緩和でき、さやS内のセラミック成形品を均一に焼成することができる。また、炉床板3上で搬送されるさやSには、自重によって窪み面Kの窪み中心Kaに向かう力が常に作用する。したがって、炉床板3上で搬送されるさやSの蛇行の抑制が図られる。これにより、さやS内のセラミック成形品をより均一に焼成することが可能となる。また、さやSが炉2の内壁や他のさやSに衝突することを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック成形品を焼成する焼成炉に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミック成形品を焼成する焼成炉として、ヒータ等の加熱手段を備えた炉と、セラミック成形品を収容した複数のさやを炉の入口から出口に向かって送るプッシャーとを備えたプッシャー式焼成炉がある。従来のプッシャー式焼成炉としては、例えば特許文献1に記載の焼成炉がある。この従来の焼成炉では、加熱手段が配置された空間と、さやが通る炉床板が配置された空間とをレンガで仕切ることにより、被処理物からの揮発物による加熱手段の劣化を防止するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平6−64094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した従来の焼成炉では、加熱手段からの輻射熱が炉床板の中央部分には伝わり易く、幅方向の端部には伝わりにくいという問題があった。このような輻射熱の伝わり方のばらつきは、さや内のセラミック成形品の焼成の均一性に影響し、製品の歩留まり低下の一因となるおそれがある。
【0005】
本発明は、上記課題の解決のためになされたものであり、さや内のセラミック成形品を均一に焼成することができる焼成炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題の解決のため、本発明に係る焼成炉は、セラミック成形品を焼成する焼成炉であって、炉の入口から出口にかけて延在し、セラミック成形品を収容した複数のさやが連続して載置される炉床板と、入口側のさやを炉内に向けて押すことにより、炉床板上の複数のさやを出口に向かって搬送するプッシャーと、炉内において炉床板の上方に設けられ、プッシャーによって搬送される複数のさやを加熱する加熱手段と、を備え、炉床板の上面には、下方に窪む窪み面が炉床板の長手方向に沿って延在していることを特徴としている。
【0007】
この焼成炉では、炉床板の上面において、下方に窪む窪み面が炉床板の長手方向に沿って延在している。この窪み面により、炉床板の中央部分と端部とで加熱手段からの距離の差が小さくなり、輻射熱の伝わり方のばらつきが緩和される。さや内のセラミック成形品を均一に焼成することができる。また、炉床板上で搬送されるさやには、自重によって窪み面の窪み中心に向かう力が常に作用するので、蛇行の抑制が図られる。これにより、さや内のセラミック成形品をより均一に焼成することが可能となる。また、さやが炉の内壁や他のさやに衝突することを防止できる。
【0008】
また、窪み面は、断面V字状をなしていることが好ましい。この場合、窪み面を簡単に形成することができる。また、安定した姿勢でさやの搬送を行うことができる。
【0009】
また、窪み面には、複数列の空転ローラが炉床板の長手方向に沿って配列されていることが好ましい。これにより、プッシャーによるさやの搬送が容易になる。このような空転ローラを用いる場合においても、炉床板上で搬送されるさやには、自重によって窪み面の窪み中心に向かう力が常に作用するので、蛇行の抑制が図られる。
【0010】
また、空転ローラの外径は、窪み面における窪み中心側の列から外側の列に向かうに従って徐々に大きくなっていることが好ましい。この場合、さやの幅方向について、さやの底面と炉床板の上面との間の空隙の大きさに差異が生じることとなる。これにより、さやの周りに対流が生じ、焼成雰囲気が均一化される。したがって、さや内のセラミック成形品を一層均一に焼成することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る焼成炉によれば、さや内のセラミック成形品を均一に焼成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る焼成炉の側面図である。
【図2】図1に示した焼成炉の平面図である。
【図3】図1に示した焼成炉を炉の入口側から見た図である。
【図4】空転ローラの取り付け状態を示す平面図である。
【図5】実施例におけるヒータの輻射熱の伝播の様子を示す図である。
【図6】比較例におけるヒータの輻射熱の伝播の様子を示す図である。
【図7】さや周りの対流の様子を示す図である。
【図8】変形例に係る焼成炉を炉の入口側から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る焼成炉の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係る焼成炉の側面図である。また、図2は、図1に示した焼成炉の平面図であり、図3は、焼成炉を炉の入口から見た図である。この焼成炉1は、セラミック成形品を所定の温度で焼成するための炉である。
【0015】
焼成炉1は、図1及び図2に示すように、長さ10m程度のトンネル式の炉2と、炉2の入口2aから出口2bにかけて延在し、セラミック成形品を収容した複数のさやSが連続して載置される炉床板3と、炉床板3上の複数のさやSを搬送するプッシャー4と、プッシャー4によって搬送される複数のさやSを加熱するヒータ(加熱手段)5とを備えている。
【0016】
炉床板3は、図2及び図3に示すように、左右一対の第1の板11及び第2の板12によって構成されている。第1の板11及び第2の板12は、さやSの幅に応じた幅を有しており、炉2内に立設された複数の支持部13(図3参照)によって炉2の底面から浮いた状態で支持されている。支持部13は、炉2の中央側及び左右の壁部側に計3列で設けられている。中央側の列の支持部13の高さは、左右の壁部側の列の支持部13の高さよりも低くなっている。
【0017】
これにより、第1の板11及び第2の板12は、炉2の左右の壁部側に比べて中央側が低くなるように、水平面に対して2°〜5°程度傾斜した状態となっており、図3に示すように、第1の板11の上面11aと第2の板12の上面12aとが炉2の中央で接することにより、炉床板3における上面3aの全体にわたって、断面V字状で下方に窪む窪み面Kが形成されている。窪み面Kは、炉2の中央を窪み中心Kaとし、炉床板3の長手方向に沿って延在している。
【0018】
この窪み面Kには、第1の板11の上面11a及び第2の板12の上面12aに各4列ずつ、計8列の軸付きの空転ローラ16が炉床板3の長手方向に沿って配列されている。空転ローラ16は、例えばセラミックによって形成されている。各空転ローラ16は、図4に示すように、ローラの略上半分部分が窪み面Kから露出した状態で、窪み面Kに形成された受け溝17内に載置されている。なお、空転ローラ16のローラ部分は軸18に対して固定されていてもよく、回転自在となっていてもよい。
【0019】
また、空転ローラ16の外径は、図3に示すように、窪み面Kにおける窪み中心Ka側の列から外側の列に向かうに従って徐々に大きくなっている。第1の板11の上面11aにおける各列の空転ローラ16の頂部を結ぶ仮想的な平面Paは、第1の板11の上面11aに対して5°程度傾斜した状態となっている。また、第2の板12の上面12aにおける各列の空転ローラ16の頂部を結ぶ仮想的な平面Paについても同様に、第2の板12の上面12aに対して5°程度傾斜した状態となっている。
【0020】
したがって、図3に示すように、第1の板11上と第2の板12上とにさやSを2列に載置する場合、第1の板11上の各列の空転ローラ16に載置されたさやSの底面Saは、第1の板11の上面11aに対して5°程度傾斜した状態となり、第2の板12上の各列の空転ローラ16に載置されたさやSの底面Saは、窪み面Kの窪み中心Kaを挟んで対称に、第2の板12の上面12aに対して5°程度傾斜した状態となる。なお、左右のさやS,S同士は、窪み中心Ka上で接触していてもよく、離間していてもよい。
【0021】
ヒータ5は、例えばSiCヒータである。ヒータ5は、図1及び図3に示すように、炉2の入口2aから出口2bにかけて、炉床板3の上方と下方とにそれぞれ等間隔で配置されている。このヒータ5により、炉内を搬送されるさやSは、例えば700℃〜1400℃程度の温度で加熱される。
【0022】
プッシャー4は、図1及び図2に示すように、炉2の入口2aの手前側に配置されるシリンダ本体部21と、シリンダ本体部21から突出するシリンダロッド22と、シリンダロッド22の先端に固定されたプレート23とによって構成されている。シリンダロッド22は、少なくともさやS一つ分の長さのストロークを有しており、入口2a側のさやSを炉2内に向けてプレート23で押すことにより、第1の板11上のさやSと第2の板12上のさやSとを出口2bに向かって同時に搬送するようになっている。
【0023】
以上のような構成を有する焼成炉1では、炉床板3の上面3aにおいて、下方に窪む窪み面Kが炉床板3の長手方向に沿って延在している。この窪み面Kにより、図5に示すように、炉床板3の中央部分からヒータ5までの距離と炉床板3の端部からヒータ5までの距離との差が小さくなる。したがって、焼成炉1では、図6に示すように、第1の板11及び第2の板12が共に水平に配置され、炉床板3の上面3aに窪み面Kが設けられていない従来の焼成炉101と比べて、ヒータ5の輻射熱の伝わり方のばらつきを緩和できる。したがって、さやS内のセラミック成形品を均一に焼成することができる。なお、窪み面Kが断面V字状となっていることにより、安定した姿勢でさやSの搬送を行うことができる。
【0024】
また、炉床板3上で搬送される左右のさやSには、自重によって窪み面Kの窪み中心Kaに向かう力が常に作用する。したがって、炉床板3上で搬送されるさやSの蛇行の抑制が図られる。これにより、さやS内のセラミック成形品をより均一に焼成することが可能となる。また、さやSが炉2の内壁や他のさやSに衝突することを防止できる。
【0025】
なお、上述のように炉床板3上にセラミック製の空転ローラ16を設ける場合、空転ローラ16の寸法精度のばらつきによって、空転ローラ16を設けない場合に比べてさやSの蛇行が大きくなる場合がある。したがって、炉床板3の上面3aに窪み面Kを設けることにより、炉床板3に空転ローラ16を設ける場合において、プッシャー4によるさやSの搬送を容易にしつつ、さやSの蛇行を好適に防止できる。
【0026】
また、焼成炉1では、空転ローラ16の外径が窪み面Kにおける窪み中心Ka側の列から外側の列に向かうに従って徐々に大きくなっている。このため、さやSの幅方向について、さやSの底面Saと炉床板3の上面3aとの間の空隙の大きさに差異が生じることとなる。これにより、図7に示すように、さやSの周りに対流が生じ、焼成雰囲気が均一化される。したがって、さやS内のセラミック成形品を一層均一に焼成することができる。
【0027】
本発明は、上記実施形態に限られるものではない。例えば上述した実施形態では、炉床板3の上面3aの窪み面Kは断面V字状となっているが、断面アーチ状などの形態であってもよい。また、例えば図8に示す焼成炉31のように、炉床板32を、略水平に配置した第1の板41と、第1の板41の両側にそれぞれ設けた第2の板42,42とによって構成し、炉2の左右の壁部側に比べて中央側が低くなるように、第1の板41に対して第2の板42,42を2°〜5°程度傾斜させるようにしてもよい。この場合、第1の板41の中央が窪み面Kの窪み中心Kaとなる。
【0028】
この焼成炉31においても、例えば第2の板42,42に左右4列ずつの空転ローラ16を炉床板32の上面32aに設けることにより、上述した実施形態と同様に、プッシャー4によるさやSの搬送を容易にしつつ、さやSの蛇行を好適に防止できる。また、空転ローラ16の外径を窪み面Kにおける窪み中心Ka側の列から外側の列に向かうに従って徐々に大きくすることで、さやSの周りに対流が生じ、焼成雰囲気が均一化される。したがって、さやS内のセラミック成形品を一層均一に焼成することができる。
【符号の説明】
【0029】
1,31…焼成炉、2…炉、2a…入口、2b…出口、3,32…炉床板、3a,32a…上面、4…プッシャー、5…ヒータ(加熱手段)、16…空転ローラ、K…窪み面、Ka…窪み中心、S…さや。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック成形品を焼成する焼成炉であって、
炉の入口から出口にかけて延在し、前記セラミック成形品を収容した複数のさやが連続して載置される炉床板と、
前記入口側のさやを炉内に向けて押すことにより、前記炉床板上の前記複数のさやを前記出口に向かって搬送するプッシャーと、
前記炉内において前記炉床板の上方に設けられ、前記プッシャーによって搬送される前記複数のさやを加熱する加熱手段と、を備え、
前記炉床板の上面には、下方に窪む窪み面が前記炉床板の長手方向に沿って延在していることを特徴とする焼成炉。
【請求項2】
前記窪み面は、断面V字状をなしていることを特徴とする請求項1記載の焼成炉。
【請求項3】
前記窪み面には、複数列の空転ローラが前記炉床板の長手方向に沿って配列されていることを特徴とする請求項1又は2記載の焼成炉。
【請求項4】
前記空転ローラの外径は、前記窪み面における窪み中心側の列から外側の列に向かうに従って徐々に大きくなっていることを特徴とする請求項3記載の焼成炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−242108(P2011−242108A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117364(P2010−117364)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】