説明

焼結含油軸受の製造方法とこれに用いる成形用金型及び矯正用金型

【課題】 外周面からの油の漏れを防止できる焼結含油軸受を提供する。
【解決手段】 内部に空孔を含む多孔質状の焼結合金により形成された軸受本体に、回転軸が挿通される軸受孔が形成された焼結含油軸受を製造する方法であって、内周面17に荒し部21を有する成形用ダイ12と、成形用コアロッド13との間において原料粉末を圧縮して圧粉体を形成し、圧粉体をダイから排出する際の圧粉体と、ダイの内周面に形成された荒し部と圧粉体の外周面との相対移動によって、圧粉体Pを構成する原料粉末のかけらやその小片が空孔内に入り込むことにより圧粉体の外周面の空孔を潰し、その後、圧粉体Pを焼結する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受本体に潤滑油を含浸させて、軸受孔に挿通される回転軸との潤滑を好適に行うことができる焼結含油軸受の製造方法とこれに用いる成形用金型及び矯正用金型に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質状の焼結金属により形成され、潤滑油を含浸させて使用される焼結含油軸受は、無給油で長時間使用することができ、高温での耐久性に優れ、低騒音であることから、ボールベアリングに代わる回転軸の軸受として広く利用されている。
【0003】
この種の焼結含油軸受は、多孔質状の焼結合金により形成された軸受本体に軸受孔が設けられたものであり、この軸受孔に、軸受孔より小径の回転軸が挿通されて用いられる。そして、この焼結含油軸受は、回転軸の回転に伴うポンプ作用によって軸受本体の多数の細かい空孔より吸い出された潤滑油と、摩擦熱に起因する膨張によって滲出した潤滑油とが、回転軸との摺動部分において油膜を形成し、この油膜により回転軸が焼き付け等の支障をきたすことなく支持されるように構成されている。
【0004】
そして、このような焼結含油軸受においては、回転軸が摺接する摺動面であっても潤滑油を含浸させる空孔が多数形成されているので、上述のように回転軸と摺動面との間に油膜が形成されていても、上記空孔から潤滑油の一部が漏れて油圧が低下するため、回転軸と摺動面との局部的な接触が発生しやすく、このため、回転軸に対する摩擦係数が大きくなって、焼き付けが生じやすい等といった欠点があった。
【0005】
そこで、内部に空孔を含む多孔質状の焼結合金により形成された軸受本体に、回転軸が挿通される軸受孔が形成され、前記軸受孔の内周面の一部の領域に、前記内周面で開放された前記空孔を潰してなる摺動面が設けられた焼結含油軸受が提案されており(例えば特許文献1)、コアロッドの外周面に形成した荒らし面が空孔を潰すことにより、摺動面からの潤滑油が軸受本体の内部に浸透せず、摺動面上に形成される油膜が保持される。
【0006】
ところで、このような焼結含油軸受においては、回転軸が摺接する摺動面以外の外周面にも空孔が多数形成されているので、外周面を露出して使用すると、外周面の空孔から潤滑油の一部が漏れて摺動面の油圧が低下する問題がある。
【0007】
そこで、使用箇所に円筒状の取付部を設け、この取付部内に軸受を装着することにより外周面からの潤滑油の漏れを防いだり、軸受の外周面をフェルトなどの被覆材で覆って潤滑油の漏れを防いだりすることが知られている。
【特許文献1】特開2002−122142号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように軸受の外周面を被覆材で覆うためには、製造工程において別工程が必要となり、結果として作業工程の増加を招く。また、合成樹脂ケースなどに円筒状の取付部を設ける場合、軸受の位置決めに高い精度が必要であると、取付座の位置及び内周面の真円度などで高い成形精度が要求されるため、ケースの製造コストが上昇し、さらに、軸受の外周面と取付座の内周面との間に隙間ができると、潤滑油の漏れが発生する問題がある。
【0009】
本発明は、このような問題点を解決しようとするもので、外周面からの潤滑油の漏れを防止することができる焼結含油軸受の製造方法とこれに用いる成形用金型及び矯正用金型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の製造方法は、内部に空孔を含む多孔質状の焼結合金により形成された軸受本体に、回転軸が挿通される軸受孔が形成された焼結含油軸受を製造する方法であって、内周面に荒し部を有する成形用ダイと、成形用コアロッドとの間において原料粉末を圧縮して圧粉体を形成し、前記圧粉体をダイから排出する際の圧粉体とダイとの相対移動によって圧粉体の外周面の空孔を潰し、その後、前記圧粉体を焼結する製造方法である。
【0011】
請求項2の製造方法は、内部に空孔を含む多孔質状の焼結合金により形成された軸受本体に、回転軸が挿通される軸受孔が形成された焼結含油軸受を製造する方法であって、内周面に均し部を有する矯正用ダイと、矯正用コアロッドとの間において前記焼結合金を圧縮矯正し、前記焼結合金をダイから排出する際の焼結合金とダイとの相対移動によって焼結合金の外周面の空孔を潰す製造方法である。
【0012】
また、請求項3の製造方法は、前記圧粉体を焼結してなる焼結合金を、内周面に均し部を有する矯正用ダイと、矯正用コアロッドとの間において前記焼結合金を圧縮矯正し、前記焼結合金をダイから排出する際の焼結合金とダイとの相対移動によって焼結合金の外周面の空孔を潰す製造方法である。
【0013】
また、請求項4の製造方法は、前記焼結合金を圧縮矯正する位置より排出側に前記均し部を設けた製造方法である。
【0014】
また、請求項5の成形用金型は、請求項1記載の焼結含油軸受の製造方法に用いられ、前記原料粉末を圧縮して圧粉体を形成する成形用金型であって、前記荒し部を放電加工で形成した成形用金型である。
【0015】
また、請求項6の矯正用金型は、請求項2、3又は4記載の焼結含油軸受の製造方法に用いられ、前記焼結合金を矯正する矯正用金型であって、前記均し部を放電加工で形成した矯正用金型である。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の構成によれば、ダイとコアロッドとの間で加圧成形された圧粉体をダイから排出すると、ダイの内周面に形成された荒し部と圧粉体の外周面との相対移動によって、圧粉体を構成する原料粉末のかけらやその小片が空孔内に入り込むことにより、空孔が潰される。
【0017】
請求項2の構成によれば、ダイとコアロッドとの間で圧縮矯正された焼結合金をダイから排出すると、ダイの内周面に形成された均し部と焼結合金の外周面との相対移動によって、焼結合金の外周面が均し部により削られ、そのかけらやその小片が空孔内に入り込むことにより、空孔が潰される。
【0018】
また、請求項3の構成によれば、まず、圧粉体の状態で空孔を潰すことにより、比較的大きな空孔を目潰でき、次に、焼結後の焼結合金の状態で空孔を潰すことにより、比較的小さな空孔を目潰しすることができる。
【0019】
また、請求項4の構成によれば、圧縮矯正された焼結合金が排出側の均し部を通るときに、スプリングバックにより焼結合金の外周面が均し部により削られ、そのかけらやその小片が空孔内に入り込むことにより、空孔が潰される。
【0020】
また、請求項5の構成によれば、放電加工により均一な粗面状の荒し部を形成することができる。例えば、研削などにより荒し 部を形成すると、ダイの内周面が放電加工を用いた場合に比べて深く削られ、圧粉体の排出時の抵抗が大きく、あるいは排出不良を招く虞があるのに対して、放電加工ではこのような問題が生じることがない。
【0021】
また、請求項6の構成によれば、放電加工により微細形状の均し部を均一に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明における好適な実施の形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を限定するものではない。また、以下に説明される構成の全てが、本発明の必須要件であるとは限らない。各実施例では、従来とは異なる新規な焼結含油軸受の製造方法とこれに用いる成形用金型及び矯正用金型を採用することにより、従来にない焼結含油軸受の製造方法とこれに用いる成形用金型及び矯正用金型が得られ、その焼結含油軸受の製造方法とこれに用いる成形用金型及び矯正用金型法について記述する。
【実施例1】
【0023】
以下、本発明の実施例について説明すると、図1〜図10は本発明の実施例1を示し、同図に示すように、焼結含油軸受1は、内部に空孔を含む多孔質状の焼結合金により形成された軸受本体2に軸受孔3が設けられたものであり、略円筒形をなし、前記軸受孔3に、外径が軸受孔3より小とされた回転軸9が挿通されて用いられる。そして、軸受孔3の内周面が摺動面4であり、軸受孔3に挿通される回転軸9は、外周面が前記摺動面4に摺接しながら回転するようになっている。また、前記摺動面4の長さ方向両側には、互いに平行で平坦な端面6,6が設けられている。
【0024】
詳述すると、軸受本体3は、内部周方向全体にわたって潤滑油を含むための空孔8を有する構成になっている。その結果、潤滑油は、多くの潤滑油を含むことができる軸受本体2の内部で周方向に自由に移動可能となるので、ある部分で停滞することなく隅々までいきわたることができる。
【0025】
一方、軸受本体2の外周面7は、空孔8が多く潰れた、もしくは、空孔8の径の平均が小さくなった状態であり、単位面積あたりの表面空孔率が低くなっており、表面空孔率は10%以下、好ましくは5%以下である。
【0026】
次に、このような構成を有する焼結含油軸受1の製造方法の一例について主に図2〜図8を用いて説明する。焼結含油軸受1は、Cu−Su−C系やFe系などの原料粉末を加圧成形して圧粉体を形成し、かつ、これを焼結した後、形状を矯正することにより作成される。
【0027】
図2及び図3は成形用金型11を示し、図3は、原料粉末Mより圧粉体Pが加圧成形される様子を示している。同図に示すように、圧粉体の成形に用いる成形用金型11は、上下方向を軸方向(プレス上下軸方向)としており、成形用ダイ12、成形用コアロッド13、下パンチ14および上パンチ15を備えている。ダイ12はほぼ円筒形状で、このダイ12内にほぼ円柱形状のコアロッド13が同軸的に位置している。下パンチ14は、ほぼ円筒形状で、ダイ12およびコアロッド13間に下方から上下動自在に嵌合している。上パンチ15は、ほぼ円筒形状で、ダイ12およびコアロッド13間に上方から上下動自在にかつ挿脱自在に嵌合するものである。そして、ダイ12とコアロッド13と下パンチ14との間に充填部16が形成され、前記ダイ12の内周面が圧粉体Pの外周面7を形成し、前記下パンチ14の上面が一方の端面6を形成し、前記上パンチ15の下面が他方の端面6を形成し、コアロッド13の外周面が前記摺動面4を形成する。
【0028】
前記成形用ダイ12の内周面17には、放電加工により荒し部21が形成されている。この荒し部21の長さは前記軸受本体2の圧粉体Pの長さとほぼ等しく、またはそれ以上であって、全周に形成され、その荒し部21の表面粗度は形成すべき粉末の粒径によって適宜選択されるが、この例では2〜15S、好ましくは5〜8Sに設定されている。一方、ダイ12の内周面17は鏡面加工により鏡面状に形成され、内周面17に対して荒し部22の内周端の深さHは0〜0.0010ミリ程度であり、好ましくは深さHを0.001〜0.003ミリとする。尚、少なくとも荒し部22より排出側の内周面17を鏡面状にする。
【0029】
放電加工は、金属製の被加工物と、加工工具としての電極との間に、絶縁媒体としての放電加工液を介して電圧を印加して火花放電を行い、その際の高温度によって被加工物の表面層を微細に溶融除去していく加工である。この放電加工は、熱的な加工であるため、研削や切削などの機械加工とは違って、切削困難な高硬度の金属材料であっても精度良く加工することができるとともに、精密加工、曲面加工、球体加工等も精度良く行うことができる。なお、放電加工は、被加工物と電極との間の隙間(放電ギャップ)を適宜変更することにより、放電加工面の粗さを自在に調整することもできる。
【0030】
図4及び図5に示すように、成形用ダイ12の前記放電加工に用いる電極51は、成形用ダイ12の内周面17より径小な円筒面状の外周面52を有し、この外周面52は前記荒し部21の長さとほぼ等しく、前記外周面52に前記荒し部21に対応する微細凹凸を形成し、その電極51は駆動軸53の先端に設けられており、この駆動軸53を回転(自転)及びダイ12の中心を中心として回転(公転)する駆動手段(図示せず)が設けられている。そして、被加工物たるダイ12の内周面17と外周面52とが所定の隙間を保持するように、電極51を公転させながら、公転と同一方向に駆動軸53を回転して電極51を自転させ、ダイ12の内周面17に前記荒し部21を形成する。このように放電加工を用いることにより、内周面17を不必要に削ることなく、粗面状の荒し部21を形成することができる。
【0031】
そして、図4に示すように、前記充填部16に、原料粉末Mを充填し、上,下パンチ15,14により充填部16内の原料粉末Mを加圧することにより圧粉体Pを圧縮成形する。さらに、これに続く工程で、上パンチ15がダイ12の上方に上昇し、下パンチ14の上昇により圧粉体Pをダイ12内から排出する際、ダイ12の内周面17に形成した荒し部21と荒し部21の圧粉体排出側にある鏡面状の内周面17により圧粉体Pの外周面7の空孔8が潰される。
【0032】
すなわち、充填部16内において、圧粉体Pの外周面7にはダイ12の荒し部21形状が転写され、この荒し部21は鏡面状の内周面17より外側に凹んで形成されているから、圧粉体Pの外周面7は内周面17より僅かに大きな微細凹凸状に形成され、その圧粉体Pが下パンチ14に押されて排出される際、荒し部21により前記微細凹凸状の部分が削られ、削られた原料粉末のかけらやその小片が表面の空孔8に入り込み、さらに、鏡面状の内周面17により平滑化され、空孔8が潰される。言い換えて説明すると、排出時に、前記圧粉体Pの前記大きな微細凹凸状に形成され部分により、外周面6側が圧縮されるとともに、その部分が空孔8内に入り込むことにより、空孔8の目潰しがなされる。この場合、焼結前であるから、圧粉体Pの外周面7にある比較的大きな空孔8を潰すことができる。このように内周面17より外側に出っ張った微細凹凸状の部分を削って、圧粉体Pを排出側の内周面17側に押し出すため、前記深さHが0.0010ミリを超えると、押し出し難くなるから、上述したように、深さHを0.0010ミリ以下、好ましくは0.003ミリ以下とし、これを放電加工により可能とした。
【0033】
このようにして成形した圧粉体Pを焼結して前記軸受本体2を形成する。また、焼結合金である軸受本体2を矯正し、所定の寸法精度に仕上げる。図6及び図7は矯正用金型11Aを示し、この矯正用金型11Aは、上下方向を軸方向(プレス上下軸方向)としており、ダイ12A、コアロッド13A、下パンチ14Aおよび上パンチ15Aを備えている。ダイ12Aはほぼ円筒形状で、このダイ12A内にほぼ円柱形状のコアロッド13Aが同軸的に位置している。下パンチ14Aは、ほぼ円筒形状で、ダイ12Aおよびコアロッド13A間に下方から上下動自在に嵌合している。上パンチ15Aは、ほぼ円筒形状で、ダイ12Aおよびコアロッド13A間に上方から上下動自在にかつ挿脱自在に嵌合するものである。そして、ダイ12Aとコアロッド13Aと下パンチ14Aとの間に矯正部16Aが形成される。
【0034】
前記ダイ12Aの内周面17Aには、放電加工により均し部31が形成され、この例では均し部31の長さは軸受本体2より短く形成されている。この均し部31は、ダイ12Aにおける焼結本体2の矯正位置である矯正部16Aより排出側に設けられ、円周方向の凹条32を長さ方向に複数並べて形成し、凹条32,32の間に凸条33を形成し、この凸条33の先端は前記外周面17と同径に形成されている。また、凹条32の深さHAを0.01ミリ程度、凹条32の底部及び凸条33の長さLAを0.1ミリ程度としている。尚、凹条32の深さHAと凸条33の高さは同一である。
【0035】
図8に示すように、矯正用ダイ12Aの前記放電加工に用いる電極51Aは、成形用ダイ12Aの内周面より径小な円筒面状の外周面52Aを有し、この外周面52Aは前記均し部31の長さとほぼ等しく、前記外周面52に前記均し部31の凹条32に対応して複数の凸条部54を形成し、その電極51Aは駆動軸53Aの先端に設けられており、この駆動軸53Aを回転(自転)及びダイ12Aの中心を中心として回転(公転)する駆動手段(図示せず)が設けられている。そして、被加工物たるダイ12Aの内周面17Aと外周面52Aとが所定の隙間を保持するように、電極51Aを公転させながら、公転と同一方向に駆動軸53を回転して電極51Aを自転させ、ダイ12Aの内周面17Aに前記均し部31を形成する。このように放電加工を用いることにより、内周面17Aを不必要に削ることなく、凸条33の先端を内周面17Aと面一に形成することができる。尚、図8に示すように、電極51Aの凸条部54を、先鋭で高さ寸法を前記凹条32の深さHA寸法より大きく形成しておく。こうすると、放電加工の使用により凸条部54の先端が消耗し、上記形状の凹条32を加工することができる。
【0036】
また、両金型において、駆動軸53,53Aを公転し、駆動軸53,53Aを中心として電極51,51Aを回転するようにしてもよい。
【0037】
そして、図7に示すように、前記矯正部16Aに、軸受本体2を収納し、上,下パンチ15A,14Aにより矯正部16A内の軸受本体2を加圧することにより軸受本体2を矯正する。さらに、これに続く工程で、上パンチ15Aがダイ12Aの上方に上昇し、下パンチ14Aの上昇により軸受本体2をダイ12A内から排出する際、矯正部16Aより排出側でダイ12Aの内周面17に形成した均し部31により空孔8が潰される。
【0038】
すなわち、矯正部16A内において、軸受本体2は圧縮されて矯正され、圧縮矯正された軸受本体2が下パンチ14に押されて排出される際、軸受本体2が、複数の凸条33と、排出側の凹条32と内周面17との角部34とにより、軸受本体2の外周面が削られ、そのかけらやその小片が空孔8内に入り込むことにより、空孔8の目潰しが行われる。この場合、矯正部16Aにおける内周面17Aと、凸条33と、排出側の凹条32と内周面17Aとの角部34とは同径であるが、矯正部16Aにおいて圧縮矯正されることによる軸受本体2のスプリングバックにより、凸条33と角部34との軸受本体2の外周面7が摺動し、軸受本体2の外周面7から削られた部分が空孔8を塞ぎ、該軸受本体2の外周面7の空孔8が目潰しされる。
【0039】
図9は、成形時及び強制時に空孔8を潰す処理を行わなかった「処理なし」の軸受と、本実施例により成形時及び強制時に空孔8を潰す処理を行なった「処理あり」の軸受1の外周面7を拡大撮影し、二値化処理した画像を示し、No.1は密度が6.7g/cm3、No.2は密度が6.9g/cm3、No.3は密度が7.1g/cm3のものを示し、「処理あり」では表面空孔率が大幅に下がることが判る。
【0040】
図10は軸受1の取付構造の一例を示し、前記軸受1を装着する取付部41が、合成樹脂製のハウジングなどに設けられ、取付部41の内周面は多角形に形成され、この例では八角形であり、前記軸受8が圧入により嵌合固定される。このように、軸受1を8箇所で位置決めするから、円筒形の場合より軸受8の芯出しが容易となる。一方、軸受1の外周面7と取付部41の内周面との間には隙間が発生する。
【0041】
このようにして軸受本体2の外周面7の表面空孔率を10%以下、好ましくは5%以下とする。したがって、軸受本体2の外周面7からの潤滑油の漏れを防止することができ、内側の摺動面4における油圧を確保することができる。
【0042】
このように本実施例では、請求項1に対応して、内部に空孔8を含む多孔質状の焼結合金により形成された軸受本体2に、回転軸9が挿通される軸受孔3が形成された焼結含油軸受1を製造する方法であって、内周面17に荒し部21を有する成形用ダイ12と、成形用コアロッド13との間において原料粉末Mを圧縮して圧粉体Pを形成し、圧粉体Pをダイ12から排出する際の圧粉体Pとダイ12との相対移動によって圧粉体Pの外周面7の空孔8を潰し、その後、圧粉体Pを焼結するから、ダイ12とコアロッド13との間で加圧成形された圧粉体Pをダイ12から排出すると、ダイ12の内周面17に形成された荒し部21と圧粉体Pの外周面7との相対移動によって、圧粉体Pを構成する原料粉末Mのかけらやその小片が空孔8内に入り込むことにより、空孔8が潰される。
【0043】
また、このように本実施例では、請求項2に対応して、内部に空孔8を含む多孔質状の焼結合金2により形成された軸受本体1に、回転軸9が挿通される軸受孔3が形成された焼結含油軸受1を製造する方法であって、内周面17Aに均し部31を有する矯正用ダイ12Aと、矯正用コアロッド13Aとの間において焼結合金を圧縮矯正し、焼結合金をダイ12Aから排出する際の焼結合金とダイ12Aとの相対移動によって焼結合金である軸受本体2の外周面7の空孔8を潰すから、ダイ12Aとコアロッド13Aとの間で圧縮矯正された焼結合金をダイ12Aから排出すると、ダイ12Aの内周面17Aに形成された均し部31と焼結合金の外周面7との相対移動によって、均し部31により焼結合金たる軸受本体2の外周面7が削られ、そのかけらやその小片が空孔8内に入り込むことにより、空孔8が潰される。
【0044】
また、このように本実施例では、請求項3に対応して、圧粉体Pを焼結してなる焼結合金を、内周面7に均し部31を有する矯正用ダイ12Aと、矯正用コアロッド13Aとの間において焼結合金を圧縮矯正し、焼結合金をダイ12Aから排出する際の焼結合金とダイ12Aとの相対移動によって焼結合金である軸受本体2の外周面7の空孔8を潰すから、まず、圧粉体Pの状態で空孔8を潰すことにより、比較的大きな空孔8を目潰でき、次に、焼結後の焼結合金の状態で空孔8を潰すことにより、比較的小さな空孔8を目潰しすることができる。
【0045】
また、このように本実施例では、請求項4に対応して、焼結合金を圧縮矯正する位置である矯正部16Aより排出側に均し部31を設けたから、圧縮矯正された焼結合金が排出側の均し部31を通るときに、スプリングバックにより焼結合金の外周面7が均し部31により削られ、そのかけらやその小片が空孔8内に入り込むことにより、空孔8が潰される。
【0046】
また、このように本実施例では、請求項5に対応して、請求項1記載の焼結含油軸受1の製造方法に用いられ、原料粉末Mを圧縮して圧粉体Pを形成する成形用金型11であって、荒し部21を放電加工で形成したから、均一な粗面状の荒し部21を形成することができる。例えば、研削などにより荒し部を形成すると、ダイ12の内周面17が放電加工を用いた場合に比べて深く削られ、圧粉体Pの排出時の抵抗が大きく、あるいは排出不良を招く虞があるのに対して、放電加工ではこのような問題が生じることがない。
【0047】
また、このように本実施例では、請求項6に対応して、請求項2、3又は4記載の焼結含油軸受1の製造方法に用いられ、焼結合金である軸受本体2を矯正する矯正用金型11Aであって、均し部31を放電加工で形成したから、微細形状の均し部を均一に形成することができる。微細形状の均し部を均一に形成することができる。
【0048】
また、実施例上の効果として、均し部31は。複数の凸条33と、排出側の凹条32と内周面17Aとの角部34とにより、軸受本体2の外周面7を削るものであり、放電加工により、凸条33と内周面17Aとを同一径に仕上げることができる。
【0049】
また、このように内部に空孔8を含む多孔質状の焼結合金により形成された軸受本体2に、回転軸9が挿通される軸受孔3が形成された焼結含油軸受1において、軸受本体2の外周面7で開放された空孔8を潰したから、軸受1の外周面7から潤滑油が漏れることがなく、内側の軸受孔3における油圧を確保することができる。したがって、軸受1の外周面7が円柱面で、その軸受1を組み込む取付座などの真円度が確保できない場合でも、外周面7からの潤滑油の漏れを防止できる。また、外周面7の空孔8を潰した部分の表面空孔率が10%以下であるから、外周面7からの潤滑油の漏れを確実に防止することができる。さらに、原料粉末から圧粉体Pを形成し、この成形体Pを焼結して内部に空孔8を含む多孔質状の焼結合金を形成し、この焼結合金からなる軸受本体2に、回転軸9が挿通される軸受孔3が形成された焼結含油軸受1の製造方法において、圧粉体Pの外周面7で開放された空孔8を潰すから、圧粉体Pの状態で空孔8を潰すことにより、比較的大きな空孔8を目潰しすることができ、このようにして軸受1の外周面7に開放された空孔8が潰されているため、外周面7から潤滑油が漏れることがなく、内側の軸受孔3における油圧を確保することができる。したがって、軸受1の外周面7が円柱面で、その軸受1を組み込む取付座などの真円度が確保できない場合でも、軸受孔3における油圧を確保できる焼結含油軸受1が得られる。また、原料粉末から圧粉体Pを形成し、この圧粉体Pを焼結して内部に空孔8を含む多孔質状の焼結合金を形成し、この焼結体を矯正し、この矯正した焼結合金からなる軸受本体2に、回転軸9が挿通される軸受孔3が形成された焼結含油軸受1の製造方法において、矯正時に焼結合金の外周面で開放された空孔8を潰すから、焼結後の焼結合金の状態で空孔8を潰すことにより、比較的小さな空孔8を目潰しすることができ、このようにして軸受1の外周面7に開放された空孔8が潰されているため、外周面7から潤滑油が漏れることがなく、内側の軸受孔3における油圧を確保することができる。したがって、軸受1の外周面7が円柱面で、その軸受1を組み込む取付座などの真円度が確保できない場合でも、軸受孔3における油圧を確保することができる焼結含油軸受1が得られる。また、圧粉体Pの外周面7で開放された空孔8を潰すから、まず、圧粉体Pの状態で空孔8を潰すことにより、比較的大きな空孔8を目潰でき、次に、焼結後の焼結合金の状態で空孔8を潰すことにより、比較的小さな空孔8を目潰しすることができる。また、金型11,11Aからの排出時に圧粉体P,軸受本体2の外周面7における空孔8を潰すことができるから、製造工数を増加することなく、空孔8を潰すことができる。
【実施例2】
【0050】
図11は、本発明の実施例2を示し、上記各実施例と同一部分に同一符号を付し、その詳細な説明を省略して詳述すると、この例では、外周面7の一部の領域(部分)において空孔8を潰す例であり、外周面7の円周方向2分の1の領域を目潰し、圧縮体Pにおいて、外周面7の空孔8を目潰しする場合は、成形用金型11のダイ12の内周面17の2分の1に前記荒し部21を形成し、焼結後の焼結合金2において、外周面7の空孔8を目潰しする場合は、矯正用金型11Aのダイ12Aの内周面17の2分の1に前記均し部31を形成する。尚、この場合の表面空孔率は外周面7の2分の1の領域Rにおける表面の空孔8の面積割合である。
【0051】
また、内側の前記摺動面4には、前記外周面7の空孔8を目潰した部分と同じ側で軸受孔3の2分の1の空孔8を潰す。そして、この例の焼結含油軸受1は、図11に示すように目潰しを行った側を下にして使用される。このように摺動面4の空孔8を潰すことにより、摺動面4の潤滑油が軸受1内に漏れることがなく、目潰しされた領域の摺動面4に強固な油面が形成され、回転軸9の円滑な回転を確保することができる。
【0052】
そして、外周面7においては、目潰しされた領域Rを下側にすると、重力により下側から潤滑油が漏れ易くなるが、その領域の空孔8が潰されているから、ここから潤滑油が漏れ出すことがない。また、目潰しされた領域Rは、他の部分と外観上識別可能であるから、取付部41に軸受1を組み付ける際、軸受1の向きを確認する上で、前記目潰しされた領域Rが目印となる。
【0053】
このように本実施例においても、内部に空孔8を含む多孔質状の焼結合金により形成された軸受本体2に、回転軸9が挿通される軸受孔3が形成された焼結含油軸受1を製造する方法であって、内周面17に荒し部21を有する成形用ダイ12と、成形用コアロッド13との間において原料粉末Mを圧縮して圧粉体Pを形成し、圧粉体Pをダイ12から排出する際の圧粉体Pとダイ12との相対移動によって圧粉体Pの外周面7の空孔8を潰し、内周面17Aに均し部31を有する矯正用ダイ12Aと、矯正用コアロッド13Aとの間において焼結合金を圧縮矯正し、焼結合金をダイ12Aから排出する際の焼結合金とダイ12Aとの相対移動によって焼結合金である軸受本体2の外周面7の空孔8を潰すから、各請求項に対応して、上記実施例1と同様な作用・効果を奏する。
【0054】
尚、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。例えば、外周面で空孔を潰す領域は実施例1のように全領域であっても、実施例2のように一部であってもよい。また、圧粉体においてのみ空孔を潰し、矯正時に焼結合金の空孔を潰さなくてもよく、さらにまた、必ずしも矯正を行わなくてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施例1を示す軸受の斜視図である。
【図2】同上、一部を拡大した成形用金型の断面図であり、原料粉末の充填前の状態である。
【図3】同上、成形用金型の断面図であり、圧縮工程の状態である。
【図4】同上、放電加工を説明する成形用ダイと電極の断面図である。
【図5】同上、放電加工を説明する成形用ダイと電極の平面図である。
【図6】同上、一部を拡大した矯正用金型の断面図であり、焼結合金の充填前の状態である。
【図7】同上、矯正用金型の断面図であり、圧縮矯正の状態である。
【図8】同上、放電加工を説明する矯正用ダイと電極の断面図である。
【図9】同上、軸受の外周面を拡大撮影し、二値化した画像を示す図面である。
【図10】同上、取付部に軸受を装着した状態を示す正面図である。
【図11】本発明の実施例2を示す正面図である。
【符号の説明】
【0056】
1 焼結含油軸受
2 軸受本体
3 軸受孔
4 摺動面
7 外周面
8 空孔
11 成形用金型
11A 矯正用金型
12 成形用ダイ
12A 矯正用ダイ
13 成形用コアロッド
13A 矯正用コアロッド
17 内周面
17A 内周面
21 荒し部
31 均し部
M 原料粉末
P 圧粉体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に空孔を含む多孔質状の焼結合金により形成された軸受本体に、回転軸が挿通される軸受孔が形成された焼結含油軸受を製造する方法であって、内周面に荒し部を有する成形用ダイと、成形用コアロッドとの間において原料粉末を圧縮して圧粉体を形成し、前記圧粉体をダイから排出する際の圧粉体とダイとの相対移動によって圧粉体の外周面の空孔を潰し、その後、前記圧粉体を焼結することを特徴とする焼結含油軸受の製造方法。
【請求項2】
内部に空孔を含む多孔質状の焼結合金により形成された軸受本体に、回転軸が挿通される軸受孔が形成された焼結含油軸受を製造する方法であって、内周面に均し部を有する矯正用ダイと、矯正用コアロッドとの間において前記焼結合金を圧縮矯正し、前記焼結合金をダイから排出する際の焼結合金とダイとの相対移動によって焼結合金の外周面の空孔を潰すことを特徴とする焼結含油軸受の製造方法。
【請求項3】
前記圧粉体を焼結してなる焼結合金を、内周面に均し部を有する矯正用ダイと、矯正用コアロッドとの間において前記焼結合金を圧縮矯正し、前記焼結合金をダイから排出する際の焼結合金とダイとの相対移動によって焼結合金の外周面の空孔を潰すことを特徴とする請求項1記載の焼結含油軸受の製造方法。
【請求項4】
前記焼結合金を圧縮矯正する位置より排出側に前記均し部を設けたことを特徴とする請求項2又は3記載の焼結含油軸受の製造方法。
【請求項5】
請求項1記載の焼結含油軸受の製造方法に用いられ、前記原料粉末を圧縮して圧粉体を形成する成形用金型であって、前記荒し部を放電加工で形成したことを特徴とする成形用金型。
【請求項6】
請求項2、3又は4記載の焼結含油軸受の製造方法に用いられ、前記焼結合金を矯正する矯正用金型であって、前記均し部を放電加工で形成したことを特徴とする矯正用金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−275222(P2006−275222A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−98013(P2005−98013)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(306000315)三菱マテリアルPMG株式会社 (130)
【Fターム(参考)】