照明装置
【課題】クリーンルーム内での照明に適した光が高い照度で得られる発光装置を、発光ダイオードを用いて得る。
【解決手段】アルミ筐体20の端部以外は、半円筒形状の樹脂カバー(カバー)50で覆われている。樹脂カバー50で覆われた領域におけるプリント基板30上には、多数の発光素子60が配置されている。樹脂カバー50のアーチ状の内面全面には、薄膜状のカットフィルタ70が設置されている。発光素子60における反射層に囲まれた領域には、蛍光層が形成されている。蛍光体としては、Sr3SiO5:Eu2+(SSE)を主成分としたものを用いることができる。発光素子60においてLEDチップが発する励起光が蛍光層を透過する割合を高くし、かつカットフィルタ70を用いる。
【解決手段】アルミ筐体20の端部以外は、半円筒形状の樹脂カバー(カバー)50で覆われている。樹脂カバー50で覆われた領域におけるプリント基板30上には、多数の発光素子60が配置されている。樹脂カバー50のアーチ状の内面全面には、薄膜状のカットフィルタ70が設置されている。発光素子60における反射層に囲まれた領域には、蛍光層が形成されている。蛍光体としては、Sr3SiO5:Eu2+(SSE)を主成分としたものを用いることができる。発光素子60においてLEDチップが発する励起光が蛍光層を透過する割合を高くし、かつカットフィルタ70を用いる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオード素子(LED)と蛍光体が用いられた照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
白熱電球や蛍光灯は、その照度の高さや経済性から、一般家庭の照明用として従来より広く用いられている。しかしながら、近年、その消費電力が大きいことが問題になっている。このため、白熱電球や蛍光灯に代えて、少ない消費電力でこれらと同等の照度を得ることが可能なLED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)素子を光源として用いた照明が普及してきている。
【0003】
LED素子は化合物半導体を用いて形成され、その発する光は化合物半導体の禁制帯幅で決まるため、単色(例えば青色)である。これに対して、照明用としては、そのスペクトルに広がりがある白色光が好ましい。このため、例えば、黄色の発光をする蛍光体が添加された蛍光層とLED素子とが組み合わせて用いられる。この場合には、蛍光体は、例えばLED素子の発した青色光を励起光として吸収し、黄色の蛍光を発する。ただし、この蛍光においては、LED素子が発する光と比べてスペクトルの広がりが大きい。また、LED素子が発する光が励起光となるためには、その波長が蛍光の波長よりも短いことが必要である。この場合、蛍光層を通して外部に青色光と蛍光とが混合した疑似白色光が発せられ、これを照明用として用いることができる。
【0004】
一方、照明用として、白色光が好ましくない場合がある。例えば、半導体製造施設のクリーンルーム中で用いられる照明として用いられる場合には、短波長側の成分を除去することが好ましい。これは、このクリーンルーム中ではフォトリソグラフィ工程が行われ、ここで用いられるフォトレジストは特定の波長の光(紫外光、例えば水銀のi線:波長356nm、g線:波長436nm)に感光するためである。こうした環境下で使用される照明光としては、特に500nm以下の波長の成分の光強度が充分に低いものが好ましい。
【0005】
このため、特許文献1に記載の技術においては、青色を発するLED素子と、Euが添加された(BaSr)2SiO4や、Ceが添加されたYAGを用いた蛍光体等が使用されている。ここで、蛍光体は樹脂材料に添加され、その濃度を調整することによって、発光のスペクトルが調整される。この濃度の最適化によって、クリーンルーム用の照明として適切なスペクトルを得ることができる。また、この構造においては、LED素子が発する青色の光が蛍光体を通らずに漏れることがあるため、これをカットするカットフィルタを用いることも記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、LED素子と蛍光体を組み合わせて一般的な白色発光を得る場合において、500〜700nm程度の波長における光強度を特に高くすることのできる蛍光体材料として、Sr3SiO5:Eu2+(SSE)が記載されている。この材料は、Sr3SiO5にEuが添加された材料である。この蛍光材料によって、より照明に適した白色光を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−54989号公報
【特許文献2】特開2006−514152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の蛍光体が発する蛍光のスペクトルには広がりがあるため、クリーンルーム内で使用する際に除去すべき500nm以下の波長の光強度は無視できない。
【0009】
例えば、カットオフ特性が急峻でない安価なカットフィルタを使用して500nm以下の波長の光を確実にカットしようとすると、カットオフ波長を550nm前後に設定する必要がある。この場合、上記の蛍光体が発する蛍光スペクトルの550nm前後の帯域もカットされることとなり、光強度が大幅に低下してしまう、という問題がある。
【0010】
あるいは、特許文献1に記載の技術においては、蛍光体の濃度等を十分濃く調整することによって500nm以下の波長の光(励起光)が蛍光層で充分に吸収される設定とすることができる。しかしながら、この場合には蛍光体濃度が高くなるため、実際には蛍光層においては励起光だけではなく蛍光体が発する蛍光自身も吸収される。このため、この場合には、本来必要である500nmよりも長い波長域の光強度も低くなってしまう。
【0011】
すなわち、クリーンルーム内での照明に適した光が高い照度で得られる発光装置を、発光ダイオードを用いて得ることは困難であった。
【0012】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決する発明を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明の照明装置は、励起光を吸収して蛍光を発する蛍光層が、前記蛍光よりも短い波長の前記励起光を発する発光ダイオードチップの周囲に設けられた発光素子が用いられる照明装置であって、前記蛍光層は、Sr3SiO5:Eu2+(SSE)を主成分とする蛍光体が樹脂材料中に混合された構成を具備し、前記励起光のスペクトルにおいて、前記励起光のピークの、前記蛍光層が発する光のピークに対する比率を20%〜60%の範囲とし、前記発光素子の周囲に、前記蛍光よりも短くかつ前記励起光よりも長く設定されたカットオフ波長以下の波長の光を遮断するカットフィルタを具備することを特徴とする。
本発明の照明装置は、複数の前記発光素子が筐体上に配列され、当該筐体における前記発光素子が配列した側を覆うカバーを具備し、当該カバーの内面に前記カットフィルタを具備することを特徴とする。
本発明の照明装置において、前記蛍光体は、(Sr,Yb)3SiO5:Eu2+であることを特徴とする。
本発明の照明装置において、前記カットオフ波長は550nmであることを特徴とする。
本発明の照明装置は、フォトリソグラフィが行われるクリーンルーム内部で用いられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明は以上のように構成されているので、クリーンルーム内での照明に適した光が高い照度で得られる発光装置を、発光ダイオードを用いて得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態となる照明装置の構成を示す外観斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態となる照明装置の断面図である。
【図3】本発明の実施の形態となる照明装置において用いられる発光素子の断面図である。
【図4】(1)従来の黄色蛍光灯、(2)LEDチップ、(3)YAG蛍光体、(4)SSE蛍光体の発光スペクトルをそれぞれのピーク値で規格化して示した図である。
【図5】蛍光層における蛍光体の濃度を3種類の設定としたときに発光素子が発する光のスペクトルである。
【図6】本発明の実施の形態となる照明装置において用いられるカットフィルタの透過特性を示す図である。
【図7】発光素子からカットフィルタを通して得られる光のスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態となる照明装置につき説明する。この照明装置は、特にフォトリソグラフィが行われるクリーンルーム内での照明に適した照明装置であり、従来より用いられているクリーンルーム用の蛍光灯を、より消費電力の小さなLED(発光ダイオード)素子が用いられたこの照明装置で置換することができる。この照明装置から発せられる光においては、照明用として適した白色光において、特にリソグラフィにおいて使用される波長が500nm以下の光の強度が無視できる程度とされる。この際、小さな消費電力で高い照度を得ることもできる。
【0017】
この照明装置においては、青色(波長が500nm以下)の光を発するLEDチップと、その発光面を取り囲む蛍光層とを具備する。ここで、LEDチップが発した光が蛍光層では充分に吸収されないように、蛍光層における蛍光体の濃度が調整される。更に、これらの周囲にはカットフィルタが形成される。
【0018】
図1は、この照明装置10の外観斜視図であり、図2はそのA−A方向の断面図である。この照明装置10においては、細長いアルミ筐体(筐体)20が用いられ、アルミ筐体20の底面上には同様に細長いプリント基板30が接合されている。アルミ筐体20の長手方向の端部にはソケット部40が形成され、ソケット部40には2本のピン41が設けられている。また、アルミ筐体20の端部以外は、半円筒形状の樹脂カバー(カバー)50で覆われている。図2に示されるように、樹脂カバー50で覆われた領域におけるプリント基板30上には、多数の発光素子60が配置されている。発光素子60における2つの電極は、ピン41に接続されている。この照明装置10を設置するに際しては、ピン41がその固定に用いられると同時に、ピン41を介した通電により、各発光素子60を発光させることができる。
【0019】
図2に示されるように、アルミ筐体20の側面上部と樹脂カバー50の側面下端部とは係合する形態とされる。樹脂カバー50は樹脂材料で形成され、弾性変形をするため、樹脂カバー50に力を加えることにより、樹脂カバー50をアルミ筐体20に取り付ける、取り外す、等の操作を容易に行うことができる。
【0020】
ここで、樹脂カバー50は、発光素子60が発した光を透過、拡散させる材料で構成される。これは、例えば特許文献1に記載されているものと同様である。ただし、図2に示されるように、樹脂カバー50のアーチ状の内面全面には、薄膜状のカットフィルタ70が設置されている。カットフィルタ70は、波長が500nm以下の波長の光を遮断するように設定される。
【0021】
ここで用いられる発光素子60の断面構造を図3に示す。この発光素子60においては、絶縁性の基板61に2つのケース電極62、63が形成されている。ケース電極62は基板61の上面から左端部を通って下面側に、ケース電極63は基板61の上面から右端部を通って下面側に、それぞれ延伸している。LED(発光ダイオード)チップ64は、基板61の上面側において、ケース電極63上に搭載されている。LEDチップ64は例えば窒化ガリウムからなる半導体層においてpn接合が形成された構成とされる。このp層、n層に対応して2つの電極がLEDチップ64の表面に形成される。これらの電極はそれぞれ基板61の上面側においてボンディングワイヤ65によってケース電極62、63と接合される。この構造により、基板61の裏面側でケース電極62、63と電気的接続をとることによって、LEDチップ64に通電をすることができ、これを発光させることができる。この接続は、例えばプリント基板30上の配線パターンにケース電極62、63をはんだ付けすることによって行うことができる。また、これによってLEDチップ64をプリント基板30に搭載することができる。
【0022】
また、基板61の上面側の端部には反射層66が形成されている。図3は断面図であるが、実際には反射層66はLEDチップ64周囲を囲んだ形態とされる。その内面(LEDチップ64が存在する側の面)は、基板61の表面に対して垂直ではなく、図3に示されるようなテーパー角が設けられている。このテーパー角は、LEDチップ64が外側に向かって発した光を図3中の上方に向かって反射させるように設定される。この場合、LEDチップ64の図中上側への発光強度を高めることができる。なお、反射層66と基板61とは同一の材料で一体化して構成することもできる。
【0023】
発光素子60における反射層66に囲まれた領域には、蛍光層67が形成されている。蛍光層67は、絶縁性の樹脂材料に絶縁性の蛍光体材料の粉末が分散されて構成される。ここで、蛍光体としては、特許文献2に記載されたSr3SiO5対してEuが添加された材料(Sr3SiO5:Eu2+(SSE))を主成分としたものを用いることができる。また、これに更にYbが添加された(Sr,Yb)3SiO5:Eu2+を用いることができる。この蛍光体は、SSEにおけるSrの一部が更にYbに置換されている。これにより、温度上昇による効率低下が抑えられ、温度特性が向上する。
【0024】
発光素子60の構成は、特許文献2に記載の構成とほぼ同様である。ここで用いられるSSE蛍光体は、一般に用いられるYAG系蛍光体と比べて、赤色成分(長波長成分)の強度が高い。図4は、(1)従来より用いられているクリーンルーム用の蛍光灯、(2)青色発光ダイオード(LEDチップ)、(3)YAG蛍光体、(4)SSE蛍光体、の発光スペクトルをそれぞれ示す。ここでは、(1)〜(4)のそれぞれにおけるピーク値を1として規格化し、各スペクトルのピーク値を一致させて示している。
【0025】
また、YAG蛍光体(3)が発する蛍光のスペクトルと、SSE蛍光体(4)が発する蛍光のスペクトルを比較した結果を表1に示す。SSE蛍光体(4)の蛍光においては、半値幅がYAG蛍光体(3)よりも小さくなっている。
【0026】
【表1】
【0027】
これらの特性より、従来より用いられているクリーンルーム用の蛍光灯(1)と比べると、YAG蛍光体(3)のスペクトルは、本来望ましくない短波長側に広がっている。これに対し、SSE蛍光体(4)は、短波長側の広がりがYAG蛍光体(3)よりも小さく、従来より用いられているクリーンルーム用の蛍光灯(1)に近い特性をもち、より好ましい。
【0028】
一方、YAG蛍光体(3)やSSE蛍光体(4)の励起光として用いられるLEDチップ64が発する青色光(2)の波長は、これらが発する蛍光よりも短いことが必要である。このため、LEDチップ64が発する光の波長は500nm以下となるが、前記の通り、その存在はクリーンルーム内の使用においては好ましくない。
【0029】
例えば、特許文献1に記載されるように、図3の構成において、蛍光層67における蛍光体の濃度を調整することによって、蛍光体が発する光の強度とLEDチップ64が発する光の強度を調整することが可能である。特許文献1に記載の通り、蛍光体の濃度を高めることによってLEDチップ64が発する青色光が蛍光層67で充分吸収されるようにすれば、最終的にこの青色光が発せられない状態とすることも可能である。
【0030】
しかしながら、蛍光層67は、LEDチップ64が発した青色光だけでなく、蛍光体が発した蛍光自身も吸収する。このため、青色光が蛍光層67から発せられない程度に蛍光層67における蛍光体の濃度を高めた場合には、特にLEDチップ64の近傍において蛍光体が発した蛍光は、蛍光層67を透過できず、その中で吸収されやすくなる。このため、蛍光層67における青色光の吸収が大きく500nm以下の波長の光強度が小さくなった場合には、実際には蛍光(波長が500nmを越える光)の強度も低下する。すなわち、実際には、カットしたい波長500nm以下の光の強度が低下した場合には、本来必要とされる波長が500nmを越える光の強度も低下することになる。
【0031】
このため、上記の発光素子60においては、特許文献1に記載の技術とは異なり、蛍光層67を通して発せられる光のうち、LEDチップ64が発した青色光の強度をあえて高く設定する。この青色光は、樹脂カバー50の内面に設置されたカットフィルタ70によって除去する。これによって、500nm以下の波長の光の強度を充分に低くし、かつ500nmを越える波長の光の強度を高めることができる。
【0032】
図5は、蛍光層67における蛍光体の濃度を3段階((1)低濃度、(2)中濃度、(3)高濃度)に設定した場合の、発光素子60が発する光のスペクトルを示す。ここで、縦軸は各条件における各波長における強度に対応し、蛍光体の濃度が中濃度(2)の場合のピーク強度で規格化した値となっている。このため、図4と異なり、各条件(蛍光体の濃度)毎の発光強度を比較することができる。
【0033】
図5において、どの濃度においても、約450nmにピークをもつ比較的鋭いピーク(第1のピーク)と、約580nmにピークをもつ比較的半値幅の大きなピーク(第2のピーク)の2つのピークが見られる。なお、図5においては、低濃度(1)と中濃度(2)における第2のピークはほぼ重複している。第1のピークはLEDチップ64が発する青色光(励起光)に対応し、最終的に得られる発光においては残存していないことが望まれる。一方、第2のピークは蛍光体(SSE蛍光体)が発する蛍光に対応し、これは最終的に得られる発光において望まれる成分である。
【0034】
この結果より、第1のピークは、蛍光体が低濃度であるほど強くなる。これは、蛍光体が低濃度であるほど蛍光体に吸収される励起光が少なくなり、高濃度であるほど吸収が大きくなることを意味する。
【0035】
一方、第2のピークは、蛍光体が低濃度と中濃度の場合には変化せず、高濃度の場合にはこれらの場合よりも低下している。これは、SSE蛍光体を用いた場合には、蛍光体が発する光の蛍光層自身による吸収が大きく、LEDチップ64が発する励起光の強度が小さくなる程度に蛍光体の濃度を高めた場合には、かえって蛍光の強度も低下することを意味する。このため、本来望まれる第2のピークの強度を高めるためには、第1のピークの強度も高めることが必要となる。図5の結果より、第2のピークの強度を高めるためには、第1のピークの強度は、第2のピークの20%(中濃度(2)の場合)〜60%(低濃度(1)の場合)の範囲とすることができる。すなわち、この比が20%未満、あるいは60%を越えた場合には、本来望まれる第2のピークの強度が低下する。
【0036】
しかしながら、前記の通り、この第1のピークは、最終的に得られる発光においては残存していないことが望ましい。このために、この照明装置10においては、発光素子60の外部においてカットフィルタ70が用いられている。カットフィルタ70の透過特性を図6に示す。このカットフィルタ70は、カットオフ波長である550nm以下の波長を遮断するロングパスフィルタとなっている。この照明装置10においてカットフィルタ70を通して得られる光のスペクトルを図7に示す。カットフィルタ70を用いることにより、第2のピークのみを透過させ、第1のピークのみを除去することが可能である。ここで、図5と同様に、低濃度(1)の分布と中濃度(2)の分布は重複しているが、第2のピークの強度が高く、かつ第1のピークが除去された好ましいスペクトルが高い強度で得られている。すなわち、発光素子60においてLEDチップ64が発する励起光が蛍光層67を透過する割合を高くし、かつカットフィルタ70を用いることにより、クリーンルーム用として好ましいスペクトルが高強度で得られている。
【0037】
この照明装置10(実施例)の特性を、従来より使用されている白色蛍光灯(比較例1)、クリーンルーム用黄色蛍光灯(比較例2)、YAG蛍光体が用いられた白色LED(カットフィルタなし)と比較した結果を表2に示す。ここで、比較例1、2は、蛍光材料が異なる以外は同一仕様の蛍光灯であり、比較例3と実施例においては、同一仕様のLEDチップが用いられているため、比較例1と比較例2、比較例3と実施例のそれぞれにおける消費電力は等しくなっている。得られた光束量(照度に対応)と消費電力との関係を調べ、効率は光束量/消費電力として評価した。
【0038】
【表2】
【0039】
周知のように、蛍光灯(比較例1、2)をLED化(比較例3、実施例)することにより、高い効率が得られる。また、蛍光灯を用いる場合においては、クリーンルーム用に黄色化をする(比較例1→比較例2)ことによって、効率は50%程度にまで下がるのに対し、実施例においては、白色(比較例3)よりも効率が高まっている。すなわち、実施例においては、単純に蛍光灯をLEDに置換するよりも大きな効率改善がなされている。すなわち、高い照度を高効率で得ることができる。
【0040】
また、実施例で用いられるカットフィルタ70においては、図6に示されるように、透過率が0〜90%程度の間を変化する領域(スロープ)の幅は30nm程度である。一般に、この幅はロングパスフィルタの構成に応じて調整することが可能であるが、スロープの幅が狭い、カットオフ特性の急峻なものほど材料の精密な制御が必要となるため、高価となる。このため、照明装置を安価とするためには、スロープの幅が広い安価なカットフィルタが使用できることが好ましい。
【0041】
これに対して、図4の特性、表1より、YAG蛍光体(3)の蛍光スペクトルにおいては、ピーク波長から500nmまで緩やかに発光強度が減少し、500nm以下の波長においても裾を引いた状態となっている。あるいは、第1のピークと第2のピークは近接している。このため、カットフィルタに対しては、第1のピークだけでなく、第2のピークの短波長側の裾もカットすることが要求される。このため、500nmを越える波長の強度を低下させずに500nm以下の波長の強度を減少させるためには、スロープの幅の狭い特性をもつ高価なカットフィルタが必要となる。
【0042】
一方、SSE蛍光体(4)の蛍光スペクトルにおいては、その半値幅が狭く、ピーク波長から500nmにわたり急激に発光強度が低下するため、第2のピーク(蛍光に対応するピーク)は500nm以下に裾を引かない。このため、カットフィルタ70に対して要求される特性としては、第2のピークから離れた第1のピークのみをカットできれば充分である。このためには、特にスロープの幅の狭い特性は不要であり、高価なカットフィルタは不要である。すなわち、安価なカットフィルタを使用することができ、この照明装置10を安価とすることができる。
【0043】
すなわち、この照明装置10においては、高い効率が得られるためにランニングコストが低下できることに加え、照明装置10の製造コスト自身も安価とすることができる。
【0044】
なお、上記の例では、LEDチップの発光波長を450nm程度、カットフィルタのカットオフ波長を550nmとしたが、これらの設定は、上記の効果を奏する限りにおいて、任意である。LEDチップの発光波長は、蛍光体が発する蛍光の励起光となりうる波長であれば充分であり、これはこの蛍光よりも短い波長となる。カットフィルタ(ロングパスフィルタ)のカットオフ波長についても、クリーンルーム内で除去すべき波長に応じて適宜設定が可能である。図4の結果より、このカットオフ波長は、蛍光体が発する蛍光よりも短くかつLEDチップが発する励起光よりも長い波長として、500nm近傍であればよいことは明らかである。
【0045】
また、上記の例では、カットフィルタが樹脂カバーの内面に沿って設けられた構成としたが、発光素子の周囲にカットフィルタが設置される限りにおいて、この設定は任意である。例えば、同等のフィルタ特性をもつ樹脂カバーを使用することもできる。あるいは、樹脂カバーの外側周囲にカットフィルタを設けることもできる。この場合には、熱収縮性の材料でカットフィルタを構成すれば、直管状の構造の周囲に容易かつ強固にカットフィルタを設けることができる。前記の通り、SSE蛍光体を用いた場合には、カットフィルタの特性に対する要求は緩和されるため、こうした各種の構成が実現できる。
【0046】
また、上記の例では、この照明装置が従来の直管型の蛍光灯を置換するものとしたが、面照明型や、白熱電球型の形状とすることもできる。
【0047】
また、蛍光層において、SSE蛍光体に加え、他の色(例えば緑や赤)を発する蛍光体を更に添加して演色性を高めることも可能である。
【0048】
また、上記の照明装置は、クリーンルーム用の照明に限らず、同様に短波長成分がカットされた屋外の防蛾用照明としても用いることができることも明らかである。
【符号の説明】
【0049】
10 照明装置
20 アルミ筐体(筐体)
30 プリント基板
40 ソケット部
41 ピン
50 樹脂カバー(カバー)
60 発光素子
61 基板
62、63 ケース電極
64 LED(発光ダイオード)チップ
65 ボンディングワイヤ
66 反射層
67 蛍光層
70 カットフィルタ
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオード素子(LED)と蛍光体が用いられた照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
白熱電球や蛍光灯は、その照度の高さや経済性から、一般家庭の照明用として従来より広く用いられている。しかしながら、近年、その消費電力が大きいことが問題になっている。このため、白熱電球や蛍光灯に代えて、少ない消費電力でこれらと同等の照度を得ることが可能なLED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)素子を光源として用いた照明が普及してきている。
【0003】
LED素子は化合物半導体を用いて形成され、その発する光は化合物半導体の禁制帯幅で決まるため、単色(例えば青色)である。これに対して、照明用としては、そのスペクトルに広がりがある白色光が好ましい。このため、例えば、黄色の発光をする蛍光体が添加された蛍光層とLED素子とが組み合わせて用いられる。この場合には、蛍光体は、例えばLED素子の発した青色光を励起光として吸収し、黄色の蛍光を発する。ただし、この蛍光においては、LED素子が発する光と比べてスペクトルの広がりが大きい。また、LED素子が発する光が励起光となるためには、その波長が蛍光の波長よりも短いことが必要である。この場合、蛍光層を通して外部に青色光と蛍光とが混合した疑似白色光が発せられ、これを照明用として用いることができる。
【0004】
一方、照明用として、白色光が好ましくない場合がある。例えば、半導体製造施設のクリーンルーム中で用いられる照明として用いられる場合には、短波長側の成分を除去することが好ましい。これは、このクリーンルーム中ではフォトリソグラフィ工程が行われ、ここで用いられるフォトレジストは特定の波長の光(紫外光、例えば水銀のi線:波長356nm、g線:波長436nm)に感光するためである。こうした環境下で使用される照明光としては、特に500nm以下の波長の成分の光強度が充分に低いものが好ましい。
【0005】
このため、特許文献1に記載の技術においては、青色を発するLED素子と、Euが添加された(BaSr)2SiO4や、Ceが添加されたYAGを用いた蛍光体等が使用されている。ここで、蛍光体は樹脂材料に添加され、その濃度を調整することによって、発光のスペクトルが調整される。この濃度の最適化によって、クリーンルーム用の照明として適切なスペクトルを得ることができる。また、この構造においては、LED素子が発する青色の光が蛍光体を通らずに漏れることがあるため、これをカットするカットフィルタを用いることも記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、LED素子と蛍光体を組み合わせて一般的な白色発光を得る場合において、500〜700nm程度の波長における光強度を特に高くすることのできる蛍光体材料として、Sr3SiO5:Eu2+(SSE)が記載されている。この材料は、Sr3SiO5にEuが添加された材料である。この蛍光材料によって、より照明に適した白色光を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−54989号公報
【特許文献2】特開2006−514152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の蛍光体が発する蛍光のスペクトルには広がりがあるため、クリーンルーム内で使用する際に除去すべき500nm以下の波長の光強度は無視できない。
【0009】
例えば、カットオフ特性が急峻でない安価なカットフィルタを使用して500nm以下の波長の光を確実にカットしようとすると、カットオフ波長を550nm前後に設定する必要がある。この場合、上記の蛍光体が発する蛍光スペクトルの550nm前後の帯域もカットされることとなり、光強度が大幅に低下してしまう、という問題がある。
【0010】
あるいは、特許文献1に記載の技術においては、蛍光体の濃度等を十分濃く調整することによって500nm以下の波長の光(励起光)が蛍光層で充分に吸収される設定とすることができる。しかしながら、この場合には蛍光体濃度が高くなるため、実際には蛍光層においては励起光だけではなく蛍光体が発する蛍光自身も吸収される。このため、この場合には、本来必要である500nmよりも長い波長域の光強度も低くなってしまう。
【0011】
すなわち、クリーンルーム内での照明に適した光が高い照度で得られる発光装置を、発光ダイオードを用いて得ることは困難であった。
【0012】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決する発明を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明の照明装置は、励起光を吸収して蛍光を発する蛍光層が、前記蛍光よりも短い波長の前記励起光を発する発光ダイオードチップの周囲に設けられた発光素子が用いられる照明装置であって、前記蛍光層は、Sr3SiO5:Eu2+(SSE)を主成分とする蛍光体が樹脂材料中に混合された構成を具備し、前記励起光のスペクトルにおいて、前記励起光のピークの、前記蛍光層が発する光のピークに対する比率を20%〜60%の範囲とし、前記発光素子の周囲に、前記蛍光よりも短くかつ前記励起光よりも長く設定されたカットオフ波長以下の波長の光を遮断するカットフィルタを具備することを特徴とする。
本発明の照明装置は、複数の前記発光素子が筐体上に配列され、当該筐体における前記発光素子が配列した側を覆うカバーを具備し、当該カバーの内面に前記カットフィルタを具備することを特徴とする。
本発明の照明装置において、前記蛍光体は、(Sr,Yb)3SiO5:Eu2+であることを特徴とする。
本発明の照明装置において、前記カットオフ波長は550nmであることを特徴とする。
本発明の照明装置は、フォトリソグラフィが行われるクリーンルーム内部で用いられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明は以上のように構成されているので、クリーンルーム内での照明に適した光が高い照度で得られる発光装置を、発光ダイオードを用いて得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態となる照明装置の構成を示す外観斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態となる照明装置の断面図である。
【図3】本発明の実施の形態となる照明装置において用いられる発光素子の断面図である。
【図4】(1)従来の黄色蛍光灯、(2)LEDチップ、(3)YAG蛍光体、(4)SSE蛍光体の発光スペクトルをそれぞれのピーク値で規格化して示した図である。
【図5】蛍光層における蛍光体の濃度を3種類の設定としたときに発光素子が発する光のスペクトルである。
【図6】本発明の実施の形態となる照明装置において用いられるカットフィルタの透過特性を示す図である。
【図7】発光素子からカットフィルタを通して得られる光のスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態となる照明装置につき説明する。この照明装置は、特にフォトリソグラフィが行われるクリーンルーム内での照明に適した照明装置であり、従来より用いられているクリーンルーム用の蛍光灯を、より消費電力の小さなLED(発光ダイオード)素子が用いられたこの照明装置で置換することができる。この照明装置から発せられる光においては、照明用として適した白色光において、特にリソグラフィにおいて使用される波長が500nm以下の光の強度が無視できる程度とされる。この際、小さな消費電力で高い照度を得ることもできる。
【0017】
この照明装置においては、青色(波長が500nm以下)の光を発するLEDチップと、その発光面を取り囲む蛍光層とを具備する。ここで、LEDチップが発した光が蛍光層では充分に吸収されないように、蛍光層における蛍光体の濃度が調整される。更に、これらの周囲にはカットフィルタが形成される。
【0018】
図1は、この照明装置10の外観斜視図であり、図2はそのA−A方向の断面図である。この照明装置10においては、細長いアルミ筐体(筐体)20が用いられ、アルミ筐体20の底面上には同様に細長いプリント基板30が接合されている。アルミ筐体20の長手方向の端部にはソケット部40が形成され、ソケット部40には2本のピン41が設けられている。また、アルミ筐体20の端部以外は、半円筒形状の樹脂カバー(カバー)50で覆われている。図2に示されるように、樹脂カバー50で覆われた領域におけるプリント基板30上には、多数の発光素子60が配置されている。発光素子60における2つの電極は、ピン41に接続されている。この照明装置10を設置するに際しては、ピン41がその固定に用いられると同時に、ピン41を介した通電により、各発光素子60を発光させることができる。
【0019】
図2に示されるように、アルミ筐体20の側面上部と樹脂カバー50の側面下端部とは係合する形態とされる。樹脂カバー50は樹脂材料で形成され、弾性変形をするため、樹脂カバー50に力を加えることにより、樹脂カバー50をアルミ筐体20に取り付ける、取り外す、等の操作を容易に行うことができる。
【0020】
ここで、樹脂カバー50は、発光素子60が発した光を透過、拡散させる材料で構成される。これは、例えば特許文献1に記載されているものと同様である。ただし、図2に示されるように、樹脂カバー50のアーチ状の内面全面には、薄膜状のカットフィルタ70が設置されている。カットフィルタ70は、波長が500nm以下の波長の光を遮断するように設定される。
【0021】
ここで用いられる発光素子60の断面構造を図3に示す。この発光素子60においては、絶縁性の基板61に2つのケース電極62、63が形成されている。ケース電極62は基板61の上面から左端部を通って下面側に、ケース電極63は基板61の上面から右端部を通って下面側に、それぞれ延伸している。LED(発光ダイオード)チップ64は、基板61の上面側において、ケース電極63上に搭載されている。LEDチップ64は例えば窒化ガリウムからなる半導体層においてpn接合が形成された構成とされる。このp層、n層に対応して2つの電極がLEDチップ64の表面に形成される。これらの電極はそれぞれ基板61の上面側においてボンディングワイヤ65によってケース電極62、63と接合される。この構造により、基板61の裏面側でケース電極62、63と電気的接続をとることによって、LEDチップ64に通電をすることができ、これを発光させることができる。この接続は、例えばプリント基板30上の配線パターンにケース電極62、63をはんだ付けすることによって行うことができる。また、これによってLEDチップ64をプリント基板30に搭載することができる。
【0022】
また、基板61の上面側の端部には反射層66が形成されている。図3は断面図であるが、実際には反射層66はLEDチップ64周囲を囲んだ形態とされる。その内面(LEDチップ64が存在する側の面)は、基板61の表面に対して垂直ではなく、図3に示されるようなテーパー角が設けられている。このテーパー角は、LEDチップ64が外側に向かって発した光を図3中の上方に向かって反射させるように設定される。この場合、LEDチップ64の図中上側への発光強度を高めることができる。なお、反射層66と基板61とは同一の材料で一体化して構成することもできる。
【0023】
発光素子60における反射層66に囲まれた領域には、蛍光層67が形成されている。蛍光層67は、絶縁性の樹脂材料に絶縁性の蛍光体材料の粉末が分散されて構成される。ここで、蛍光体としては、特許文献2に記載されたSr3SiO5対してEuが添加された材料(Sr3SiO5:Eu2+(SSE))を主成分としたものを用いることができる。また、これに更にYbが添加された(Sr,Yb)3SiO5:Eu2+を用いることができる。この蛍光体は、SSEにおけるSrの一部が更にYbに置換されている。これにより、温度上昇による効率低下が抑えられ、温度特性が向上する。
【0024】
発光素子60の構成は、特許文献2に記載の構成とほぼ同様である。ここで用いられるSSE蛍光体は、一般に用いられるYAG系蛍光体と比べて、赤色成分(長波長成分)の強度が高い。図4は、(1)従来より用いられているクリーンルーム用の蛍光灯、(2)青色発光ダイオード(LEDチップ)、(3)YAG蛍光体、(4)SSE蛍光体、の発光スペクトルをそれぞれ示す。ここでは、(1)〜(4)のそれぞれにおけるピーク値を1として規格化し、各スペクトルのピーク値を一致させて示している。
【0025】
また、YAG蛍光体(3)が発する蛍光のスペクトルと、SSE蛍光体(4)が発する蛍光のスペクトルを比較した結果を表1に示す。SSE蛍光体(4)の蛍光においては、半値幅がYAG蛍光体(3)よりも小さくなっている。
【0026】
【表1】
【0027】
これらの特性より、従来より用いられているクリーンルーム用の蛍光灯(1)と比べると、YAG蛍光体(3)のスペクトルは、本来望ましくない短波長側に広がっている。これに対し、SSE蛍光体(4)は、短波長側の広がりがYAG蛍光体(3)よりも小さく、従来より用いられているクリーンルーム用の蛍光灯(1)に近い特性をもち、より好ましい。
【0028】
一方、YAG蛍光体(3)やSSE蛍光体(4)の励起光として用いられるLEDチップ64が発する青色光(2)の波長は、これらが発する蛍光よりも短いことが必要である。このため、LEDチップ64が発する光の波長は500nm以下となるが、前記の通り、その存在はクリーンルーム内の使用においては好ましくない。
【0029】
例えば、特許文献1に記載されるように、図3の構成において、蛍光層67における蛍光体の濃度を調整することによって、蛍光体が発する光の強度とLEDチップ64が発する光の強度を調整することが可能である。特許文献1に記載の通り、蛍光体の濃度を高めることによってLEDチップ64が発する青色光が蛍光層67で充分吸収されるようにすれば、最終的にこの青色光が発せられない状態とすることも可能である。
【0030】
しかしながら、蛍光層67は、LEDチップ64が発した青色光だけでなく、蛍光体が発した蛍光自身も吸収する。このため、青色光が蛍光層67から発せられない程度に蛍光層67における蛍光体の濃度を高めた場合には、特にLEDチップ64の近傍において蛍光体が発した蛍光は、蛍光層67を透過できず、その中で吸収されやすくなる。このため、蛍光層67における青色光の吸収が大きく500nm以下の波長の光強度が小さくなった場合には、実際には蛍光(波長が500nmを越える光)の強度も低下する。すなわち、実際には、カットしたい波長500nm以下の光の強度が低下した場合には、本来必要とされる波長が500nmを越える光の強度も低下することになる。
【0031】
このため、上記の発光素子60においては、特許文献1に記載の技術とは異なり、蛍光層67を通して発せられる光のうち、LEDチップ64が発した青色光の強度をあえて高く設定する。この青色光は、樹脂カバー50の内面に設置されたカットフィルタ70によって除去する。これによって、500nm以下の波長の光の強度を充分に低くし、かつ500nmを越える波長の光の強度を高めることができる。
【0032】
図5は、蛍光層67における蛍光体の濃度を3段階((1)低濃度、(2)中濃度、(3)高濃度)に設定した場合の、発光素子60が発する光のスペクトルを示す。ここで、縦軸は各条件における各波長における強度に対応し、蛍光体の濃度が中濃度(2)の場合のピーク強度で規格化した値となっている。このため、図4と異なり、各条件(蛍光体の濃度)毎の発光強度を比較することができる。
【0033】
図5において、どの濃度においても、約450nmにピークをもつ比較的鋭いピーク(第1のピーク)と、約580nmにピークをもつ比較的半値幅の大きなピーク(第2のピーク)の2つのピークが見られる。なお、図5においては、低濃度(1)と中濃度(2)における第2のピークはほぼ重複している。第1のピークはLEDチップ64が発する青色光(励起光)に対応し、最終的に得られる発光においては残存していないことが望まれる。一方、第2のピークは蛍光体(SSE蛍光体)が発する蛍光に対応し、これは最終的に得られる発光において望まれる成分である。
【0034】
この結果より、第1のピークは、蛍光体が低濃度であるほど強くなる。これは、蛍光体が低濃度であるほど蛍光体に吸収される励起光が少なくなり、高濃度であるほど吸収が大きくなることを意味する。
【0035】
一方、第2のピークは、蛍光体が低濃度と中濃度の場合には変化せず、高濃度の場合にはこれらの場合よりも低下している。これは、SSE蛍光体を用いた場合には、蛍光体が発する光の蛍光層自身による吸収が大きく、LEDチップ64が発する励起光の強度が小さくなる程度に蛍光体の濃度を高めた場合には、かえって蛍光の強度も低下することを意味する。このため、本来望まれる第2のピークの強度を高めるためには、第1のピークの強度も高めることが必要となる。図5の結果より、第2のピークの強度を高めるためには、第1のピークの強度は、第2のピークの20%(中濃度(2)の場合)〜60%(低濃度(1)の場合)の範囲とすることができる。すなわち、この比が20%未満、あるいは60%を越えた場合には、本来望まれる第2のピークの強度が低下する。
【0036】
しかしながら、前記の通り、この第1のピークは、最終的に得られる発光においては残存していないことが望ましい。このために、この照明装置10においては、発光素子60の外部においてカットフィルタ70が用いられている。カットフィルタ70の透過特性を図6に示す。このカットフィルタ70は、カットオフ波長である550nm以下の波長を遮断するロングパスフィルタとなっている。この照明装置10においてカットフィルタ70を通して得られる光のスペクトルを図7に示す。カットフィルタ70を用いることにより、第2のピークのみを透過させ、第1のピークのみを除去することが可能である。ここで、図5と同様に、低濃度(1)の分布と中濃度(2)の分布は重複しているが、第2のピークの強度が高く、かつ第1のピークが除去された好ましいスペクトルが高い強度で得られている。すなわち、発光素子60においてLEDチップ64が発する励起光が蛍光層67を透過する割合を高くし、かつカットフィルタ70を用いることにより、クリーンルーム用として好ましいスペクトルが高強度で得られている。
【0037】
この照明装置10(実施例)の特性を、従来より使用されている白色蛍光灯(比較例1)、クリーンルーム用黄色蛍光灯(比較例2)、YAG蛍光体が用いられた白色LED(カットフィルタなし)と比較した結果を表2に示す。ここで、比較例1、2は、蛍光材料が異なる以外は同一仕様の蛍光灯であり、比較例3と実施例においては、同一仕様のLEDチップが用いられているため、比較例1と比較例2、比較例3と実施例のそれぞれにおける消費電力は等しくなっている。得られた光束量(照度に対応)と消費電力との関係を調べ、効率は光束量/消費電力として評価した。
【0038】
【表2】
【0039】
周知のように、蛍光灯(比較例1、2)をLED化(比較例3、実施例)することにより、高い効率が得られる。また、蛍光灯を用いる場合においては、クリーンルーム用に黄色化をする(比較例1→比較例2)ことによって、効率は50%程度にまで下がるのに対し、実施例においては、白色(比較例3)よりも効率が高まっている。すなわち、実施例においては、単純に蛍光灯をLEDに置換するよりも大きな効率改善がなされている。すなわち、高い照度を高効率で得ることができる。
【0040】
また、実施例で用いられるカットフィルタ70においては、図6に示されるように、透過率が0〜90%程度の間を変化する領域(スロープ)の幅は30nm程度である。一般に、この幅はロングパスフィルタの構成に応じて調整することが可能であるが、スロープの幅が狭い、カットオフ特性の急峻なものほど材料の精密な制御が必要となるため、高価となる。このため、照明装置を安価とするためには、スロープの幅が広い安価なカットフィルタが使用できることが好ましい。
【0041】
これに対して、図4の特性、表1より、YAG蛍光体(3)の蛍光スペクトルにおいては、ピーク波長から500nmまで緩やかに発光強度が減少し、500nm以下の波長においても裾を引いた状態となっている。あるいは、第1のピークと第2のピークは近接している。このため、カットフィルタに対しては、第1のピークだけでなく、第2のピークの短波長側の裾もカットすることが要求される。このため、500nmを越える波長の強度を低下させずに500nm以下の波長の強度を減少させるためには、スロープの幅の狭い特性をもつ高価なカットフィルタが必要となる。
【0042】
一方、SSE蛍光体(4)の蛍光スペクトルにおいては、その半値幅が狭く、ピーク波長から500nmにわたり急激に発光強度が低下するため、第2のピーク(蛍光に対応するピーク)は500nm以下に裾を引かない。このため、カットフィルタ70に対して要求される特性としては、第2のピークから離れた第1のピークのみをカットできれば充分である。このためには、特にスロープの幅の狭い特性は不要であり、高価なカットフィルタは不要である。すなわち、安価なカットフィルタを使用することができ、この照明装置10を安価とすることができる。
【0043】
すなわち、この照明装置10においては、高い効率が得られるためにランニングコストが低下できることに加え、照明装置10の製造コスト自身も安価とすることができる。
【0044】
なお、上記の例では、LEDチップの発光波長を450nm程度、カットフィルタのカットオフ波長を550nmとしたが、これらの設定は、上記の効果を奏する限りにおいて、任意である。LEDチップの発光波長は、蛍光体が発する蛍光の励起光となりうる波長であれば充分であり、これはこの蛍光よりも短い波長となる。カットフィルタ(ロングパスフィルタ)のカットオフ波長についても、クリーンルーム内で除去すべき波長に応じて適宜設定が可能である。図4の結果より、このカットオフ波長は、蛍光体が発する蛍光よりも短くかつLEDチップが発する励起光よりも長い波長として、500nm近傍であればよいことは明らかである。
【0045】
また、上記の例では、カットフィルタが樹脂カバーの内面に沿って設けられた構成としたが、発光素子の周囲にカットフィルタが設置される限りにおいて、この設定は任意である。例えば、同等のフィルタ特性をもつ樹脂カバーを使用することもできる。あるいは、樹脂カバーの外側周囲にカットフィルタを設けることもできる。この場合には、熱収縮性の材料でカットフィルタを構成すれば、直管状の構造の周囲に容易かつ強固にカットフィルタを設けることができる。前記の通り、SSE蛍光体を用いた場合には、カットフィルタの特性に対する要求は緩和されるため、こうした各種の構成が実現できる。
【0046】
また、上記の例では、この照明装置が従来の直管型の蛍光灯を置換するものとしたが、面照明型や、白熱電球型の形状とすることもできる。
【0047】
また、蛍光層において、SSE蛍光体に加え、他の色(例えば緑や赤)を発する蛍光体を更に添加して演色性を高めることも可能である。
【0048】
また、上記の照明装置は、クリーンルーム用の照明に限らず、同様に短波長成分がカットされた屋外の防蛾用照明としても用いることができることも明らかである。
【符号の説明】
【0049】
10 照明装置
20 アルミ筐体(筐体)
30 プリント基板
40 ソケット部
41 ピン
50 樹脂カバー(カバー)
60 発光素子
61 基板
62、63 ケース電極
64 LED(発光ダイオード)チップ
65 ボンディングワイヤ
66 反射層
67 蛍光層
70 カットフィルタ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起光を吸収して蛍光を発する蛍光層が、前記蛍光よりも短い波長の前記励起光を発する発光ダイオードチップの周囲に設けられた発光素子が用いられる照明装置であって、
前記蛍光層は、Sr3SiO5:Eu2+(SSE)を主成分とする蛍光体が樹脂材料中に混合された構成を具備し、
前記励起光のスペクトルにおいて、前記励起光のピークの、前記蛍光層が発する光のピークに対する比率を20%〜60%の範囲とし、
前記発光素子の周囲に、前記蛍光よりも短くかつ前記励起光よりも長く設定されたカットオフ波長以下の波長の光を遮断するカットフィルタを具備することを特徴とする照明装置。
【請求項2】
複数の前記発光素子が筐体上に配列され、当該筐体における前記発光素子が配列した側を覆うカバーを具備し、
当該カバーの内面に前記カットフィルタを具備することを特徴とする請求項1に記載の照明装置。
【請求項3】
前記蛍光体は、(Sr,Yb)3SiO5:Eu2+であることを特徴とする請求項1又は2に記載の照明装置。
【請求項4】
前記カットオフ波長は550nmであることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の照明装置。
【請求項5】
フォトリソグラフィが行われるクリーンルーム内部で用いられることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の照明装置。
【請求項1】
励起光を吸収して蛍光を発する蛍光層が、前記蛍光よりも短い波長の前記励起光を発する発光ダイオードチップの周囲に設けられた発光素子が用いられる照明装置であって、
前記蛍光層は、Sr3SiO5:Eu2+(SSE)を主成分とする蛍光体が樹脂材料中に混合された構成を具備し、
前記励起光のスペクトルにおいて、前記励起光のピークの、前記蛍光層が発する光のピークに対する比率を20%〜60%の範囲とし、
前記発光素子の周囲に、前記蛍光よりも短くかつ前記励起光よりも長く設定されたカットオフ波長以下の波長の光を遮断するカットフィルタを具備することを特徴とする照明装置。
【請求項2】
複数の前記発光素子が筐体上に配列され、当該筐体における前記発光素子が配列した側を覆うカバーを具備し、
当該カバーの内面に前記カットフィルタを具備することを特徴とする請求項1に記載の照明装置。
【請求項3】
前記蛍光体は、(Sr,Yb)3SiO5:Eu2+であることを特徴とする請求項1又は2に記載の照明装置。
【請求項4】
前記カットオフ波長は550nmであることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の照明装置。
【請求項5】
フォトリソグラフィが行われるクリーンルーム内部で用いられることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の照明装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図4】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図4】
【公開番号】特開2013−98152(P2013−98152A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243233(P2011−243233)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(000106276)サンケン電気株式会社 (982)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(000106276)サンケン電気株式会社 (982)
【Fターム(参考)】
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