説明

熱インクジェット記録ヘッド用埋め込み配線の製造方法

【課題】 金属を埋め込む必要のある部分の深さ、および、配線幅が大きく異なっていても、大幅なディッシングによる膜厚の減少を防止して平坦な研磨面を与えることで、保護膜の厚みを小さくしても耐久性の劣化を招かずに印字速度を向上させることが可能となる熱インクジェット記録ヘッドの簡便な製造方法を提供することを目的とするものである。
【解決手段】 所望の配線パターン、及び、その近傍で保護レジストを開口して通電し、必要最小限の部分に金属を堆積させるパターンめっきを行った後に、保護レジストを除去し、ウエットエッチングによりスクライブラインを含めた不要なシード層を一括して除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射記録方式の熱インク記録ヘッドに関する技術分野のものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液体噴射記録方式の熱インクジェット記録ヘッドの製造方法は、シリコンウエハーなどの基板に熱インクジェットプリンタを駆動制御するための素子(IC)を作製する工程、成膜工程、フォトリソ工程、ノズル形成工程などにより構成されている。
【0003】
本発明は、この工程の中において、インクを加熱・発泡させるための熱源であるヒーター膜に通電する配線に関するものであるため、ノズル形成工程などの部分は省略する。
【0004】
図6は従来の熱インクジェット記録ヘッドの発熱抵抗体まわりの基本的構成を示した模式図である。図6において、シリコンウエハーなどの基板1上にSiOなどからなる絶縁蓄熱層2が積層されている。更にその絶縁蓄熱層2上にはTaNなどからなる発熱抵抗体3、アルミなどからなる発熱抵抗体への給電配線4が積層されている。以上のもののインクに対する耐性を向上させるために、更にSiNなどからなる保護膜5、インク発泡時のキァビティションに対する耐性を向上させるためのTaなどからなる保護膜6などが積層されている。
【0005】
更に、これらに図6において図示されていないノズルを形成し、外部との電気信号接続をワイヤーボンディング、または、TAB接合などで行い、熱インクジェット記録ヘッドとする。
【0006】
図7は図6に示した構造にインク吐出ノズルや図示されないインク供給口を形成したときの模式図であり、スクライブライン11に沿って切断後に外部との電気信号接続をワイヤーボンディング、または、TAB接合などで行い、熱インクジェット記録ヘッドとする。
【0007】
また、埋め込み配線の先行技術として、インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレイションにより出願された特開平11−260824、その他、が挙げられる。これらは、ダマシンプロセスとして知られるLSI用の埋め込み配線の作製方法であり、対象パターンに本出願のように極端な配線幅の変化が無く、本出願で開示するディッシング防止方法などが開示されてはいない。
【特許文献1】特開平11−260824号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の熱インクジェット記録ヘッドでは、図6に示したように保護膜5、耐キァビティション膜6は給電配線4の上部で凸上の形態を有する膜となる。通常の市販されている熱インクジェット記録ヘッドの給電配線4の厚みは約3μmほどであるため、その上部に積層されたインクに対する耐性を向上させるためのSiNなどからなる保護膜5、Taなどからなる耐キァビティション膜6も同様の段差を有してしまう。
【0009】
また、TaNなどからなる発熱抵抗体3を駆動元とするインクの発泡を高度に制御するため、SiNなどからなる保護層5、Taなどからなる耐キァビティション膜6を更に薄膜化し、熱応答性を高めたいという要求がある。
【0010】
ところが、図6に示したような凸の形状を保護膜5、耐キァビティション膜6が有していると、凸のコーナー部分にストレスが集中しやすいため、その薄膜化に対する要請には限界が生じる。このような形状の問題をクリアし、前記積層膜の薄膜化を図り、熱応答性を向上させるためには配線を蓄熱層2の内部に埋め込むことが有効である。
【0011】
図3(a)〜図3(e)は、深さの異なる凹部の中に、めっきにより金属を埋め込む際に通常行われる製造プロセスを模式図化したものである。保護レジスト8を任意の形状に開口してSiOなどの熱酸化膜からなる蓄熱層2をエッチング・パタニングし、その上にバリア層(Tiなど)とシード層(銅など)9を形成後、全面に電気銅めっき10を行っている
図3(a)、図3(b)は給電配線のIN側となる配線溝14、給電配線のOUT側として形成されたアルミ配線7へのコンタクトホール15を蓄熱層2の中に形成した模式図である。
【0012】
図3(c)は前述のものから保護レジスト8を取り去った後にバリア層(Tiなど)/シード層(銅など)である9を積層したときの模式図であり、それに電気銅めっき10を積層したときの模式図が図3(d)である。図3(e)は積層しためっき膜10を平坦化処理し埋め込み配線4としたときの模式図である。
【0013】
この埋め込み配線4の上に発熱抵抗体3、耐インク保護膜5、耐キャビティション保護膜6を積層して図2に示したような熱インクジェット記録ヘッドのヒーター回路を作製する。
【0014】
しかし、図3(c)に示したような配線溝14と、この配線よりも深いコンタクトホール15を蓄熱層2中に形成し、これに電気銅めっきなどを用いて金属充填する場合、電気めっきは図3(d)に示したように下層の凹凸を忠実に転写する。これを研磨にて平坦化処理時して図3(e)に示した平坦化された埋め込み配線とするには、研磨処理に要する時間が膨大なものとなるため経済的でない。
【0015】
なぜならば、研磨する必要がある最大膜厚はコンタクトホールの深さと同じ5〜6μmにも達するからである。また、このような多量の研磨を行う場合、配線溝の幅が広い部位と狭い部分が混在していると、配線幅の広い部分にディッシングによる膜厚減少が生じることが多い。
【0016】
熱インクジェット記録ヘッドのヒーター回路では、埋め込み配線4は図示されていない外部電力供給ラインと各発熱抵抗体との距離が遠いほどその線幅を広げる必要があるが、逆に短い場合には配線幅を狭くしなければならない。そのため、距離の近い発熱抵抗体への埋め込み配線4の線幅が5μm程度の場合、最も遠い距離にある発熱抵抗体への埋め込み配線4の線幅が200μm近くになる。また、これらの給電配線が集合した取り出し側では500μm程度にまで配線幅が広がることもある。その結果、埋め込み配線上部を平坦化するための研磨により、線幅の広い埋め込み配線は大きくディッシングされ、期待した平坦面が得られないことが起こりうる。
【0017】
このディッシング状態を模式図化したものを図4に示す。ここで、1はSiウエハー、2は蓄熱層、4は銅めっきによる埋め込み配線であり、配線幅の広い部分は平坦化処理のための研磨によりディッシングを受けて窪んだパターンとなってしまう。
【0018】
このような全面めっき、及び、平坦化処理を行うと、スクライブライン11を被覆しているシード層上にも同じく電気銅めっきが堆積する。6inch ウエハーに幅が100μmで深さが1.5μmのダイシングラインが形成されている場合、平坦化処理後にもダイシングライン内部には銅が充填された状態になる。
【0019】
ダイシングライン内部に銅のような延展性に富む金属が充填されていると、ダイシング実施時にチップの端部にバリなどが残りやすくなるばかりか、ダイシングヘッドの寿命を著しく短くすることになるため、この部分の銅をあらかじめ除去する必要がある。通常はフォトリソプロセスなどを用いてダイシングライン以外の部分を保護した後に、不要な銅をドライ、または、ウエットエッチングにて除去するが、工程が増加して製品のコスト・歩留まりを悪化させる要因になる。
【0020】
本発明は、これらの従来技術の問題点を解消し、金属を埋め込む必要のある部分の深さ、および、配線幅が大きく異なっていても、ディッシングによる配線の窪みが発生することを防止して平坦な研磨面を得ることができる。また、平坦に埋め込まれた配線上にヒーター膜を作り込むことで、保護膜の厚みを小さくしても耐久性の劣化を招かず印字速度を向上させることが可能となる熱インクジェット記録ヘッドの簡便な製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
請求項1に記載の発明は、所定の配線・溝パターンと層構造を有したSi ウエハ−において、電気めっきのために積層された銅シード層の厚さをAμm、銅めっきにより埋め込まれる溝の深さをBμmとしたとき、溝の内部に積層する銅の膜厚が、溝の最深部から計測して(A+B)μmよりも大きくなるように電解時間を調節することを特徴とする、熱インクジェット記録ヘッド用埋め込み配線の製造方法である。
【0022】
請求項2に記載の発明は、前述の銅シード層の膜厚が、0.05μm以上であることを特徴とする、熱インクジェット記録ヘッド用埋め込み配線の製造方法である。
【0023】
請求項3に記載の発明は、前述の銅シード層の膜厚が、0.1μm以上であることを特徴とする、熱インクジェット記録ヘッド用埋め込み配線の製造方法である。
【0024】
請求項4に記載の発明は、前述の銅めっきが、全面に銅シード層を積層後に所定の配線パターン、及び、その近傍のみで保護レジストが開口されている状態で通電を行うパターンめっき法によるものであることを特徴とする、熱インクジェット記録ヘッド用埋め込み配線の製造方法である。
【0025】
請求項5に記載の発明は、銅めっき終了後に保護レジストを除去し、スクライブライン上に積層された銅シード層が除去されるまでウエットエッチングにて銅を除去することを特徴とする、熱インクジェット記録ヘッド用埋め込み配線の製造方法である。
【0026】
請求項6に記載の発明は、前記エッチング後にCMPによる平坦化処理を行い、ヒーター膜、及び、保護膜、その他の積層を行うことを特徴とする、熱インクジェット記録ヘッド用埋め込み配線の製造方法である。
【0027】
請求項7に記載の発明は、所定の配線・溝パターンと層構造を有したSi ウエハ−に形成された溝の最小幅が2μm以上、最大深さが5μm以内であることを特徴とする、熱インクジェット記録ヘッド用埋め込み配線の製造方法である。
【発明の効果】
【0028】
本発明の製造方法によれば、熱インクジェット記録ヘッドのヒーター膜に積層する保護膜や耐キャビティション膜などを、通常の配線構造の場合に比べ極めて薄く設計してもヘッドの耐久性が劣化しない。しかも、ヒーター膜上に積層する膜を薄くすることで、ヘッドの熱応答性が向上して単位時間あたりのインク吐出量が増加し、高速での印字が可能となる。また、熱インクジェット記録ヘッド1個に必要な面積を縮小することで、ウエハ−1枚あたりの取り個数を増加させることができる。さらに、スクライブライン内部に埋め込まれた不要な銅を用意に除去できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して詳述する。
【実施例1】
【0030】
図1は本発明を用いて作製した熱インクジェット記録ヘッド用の埋め込み配線部分の模式図である。図1において、1はシリコンウエハー、2は蓄熱層、7は給電用のアルミ配線、9はバリア層(Tiなど)とその上に積層されたシード層(銅など)である。
【0031】
また、4はコンタクトホール15に埋め込まれ平坦化された配線、及び、配線溝14の中に埋め込まれた配線である。また、11はスクライブラインであり、スクライブラインの表面にはバリア層であるTiが露出している。
【0032】
図2は図1の平坦化した基板上に、インクを熱するためのヒーターを積層した時の模式図である。図2において、平坦化された埋め込み配線4、及び、蓄熱層2の上に発熱抵抗体3が積層されており、この発熱抵抗体を覆うようにして、保護膜5と耐キャビティション膜6が積層されている。
【0033】
このとき、アルミ配線7にコンタクトするためのコンタクトホール15、及び、埋め込み配線用の溝14とスクライブライン11は図5(a)、図5(b)に示した手順により作製される。
【0034】
図5(a)は、図示されていない方法によりパタニングされたアルミ配線7を上部構造体として有するSiウエハ−1の上にSiOからなる蓄熱層2を積層し、さらに保護レジスト8を積層したときの模式図である。ただし、前述のSiウエハー1内部には図示されていないトランジスタ、ゲート酸化膜、その他の構造物が作りこまれている。このとき、蓄熱層2は下部構造物のパターンを転写する形で積層されているため、研磨などによる平坦化処理が施されている。
【0035】
図5(b)は、レジスト8を露光・現像して所望のパターンを開口後に、蓄熱層2をエッチングして、コンタクトホール15や配線溝14、スクライブライン11などを形成したときの模式図である。
【0036】
このとき、コンタクトホール15の下部は直径10μm×深さ1.5μm、その上部は幅20μm×深さ2μmの溝である。また、埋め込み配線用の溝14は深さが3μmであり、幅が5μmから300μmまで変化している。
【0037】
これは、ヒーター膜3に接続される埋め込み配線4の配線距離が長いほど、埋め込み配線の配線幅を広げた設計を行ったためで、配線幅が5μmのものは配線長も短く設計されている。また、スクライブライン11は、幅が100μmで深さ1.5μmとなるように設計されている。
【0038】
図5(c)は、以上のようにしてパタニングした蓄熱層2を含む基板の全面に、SiOのバリア層としてのTiを0.05μmスパッタし、更に引き続いて、電気銅めっきのシード層となる銅を0.15μmスパッタしたときの模式図である。
【0039】
図5(d)は、このスパッタ済み基板の表面に公知の方法によりフォトレジスト12を積層し、コンタクトホール、及び、配線溝と周辺部分を露光・現像して開口後に、電気銅めっきのパターンめっきを最大4μm行ったときの模式図である。このときスクライブライン11は保護レジストにより被覆されているため、電気銅めっき膜は積層されていない。
【0040】
また、図示したように配線溝よりも広めにレジスト12の露光をして配線溝の肩にもめっき膜10を積層した理由は、露光時の誤差によりSiOと銅めっき膜の間に隙間が生じる危険を回避するためである。なぜならば、平坦化処理後に積層を行うヒーター膜、保護膜などの膜厚が薄いため、前工程で生じた隙間を埋めることができずに製品の耐久性を著しく劣化させる可能性があるためである。
【0041】
以上の工程において使用可能なレジストは、露光された部分が現像時に溶解除去されるポジ型のレジストであれば、特に制限無く市販品を使用可能であり、液体レジストの場合にはスピンコート法、スリットコート法などを任意に選択して塗布することができる。また、液体レジストではなく市販のフィルムレジストを使用することも可能である。
【0042】
本実施例においては、フォトレジストとして東京応化工業製のポジ型レジストである、OFPR(登録商標)-800を使用して、プリベーク後の膜厚が2μmとなるよう積層した。このレジスト12を選択露光・現像して、図5(d)に示したような開口部を形成し、露出したシード層の上に電気めっき法により銅を4μm積層した。ここで使用する電気銅めっき浴は、硫酸銅めっき浴、ピロリン酸銅めっき浴、シアン化銅めっき浴などの公知の組成のものを任意に使用することが可能であり、本実施例においては硫酸銅めっき浴を使用した。
【0043】
図5(e)は、前記の電気めっき終了後、ウエハ−を水洗・乾燥し、前記保護レジスト12を除去した後に、露出した銅シード層を除去したときの模式図である。この銅の除去はウエハ−のめっき面全体を銅のエッチャントに接触させて実施した。図5(e)において、銅シード層が除去された部分にはバリア層であるTiが露出している。ただし、めっき10の厚みは銅シード層に比べ十分に厚いので、この下には銅シード層が残っている。
【0044】
本実施例においては、銅のエッチャントとして塩化第一鉄と塩化第二鉄の混合水溶液を主成分とするものを使用して銅を0.3μmエッチングし、ウエハ−を水洗・乾燥した。
【0045】
また、必要な場合にはウエハ−のアニールを前記プロセスに引き続いて行い、銅めっき膜の物性を安定させた後、研磨により蓄熱層2の表面が露出するまで平坦化処理を行い、埋め込み配線4を形成して図1に示したような構成とした。
【0046】
ここで行った研磨は、研磨メディアを用いた物理研磨を主体に行っても良いし、CMPと呼ばれる化学薬品を前記メディアに混ぜて行うプロセスを採用しても良い。
【0047】
最後に、上記プロセスにて平坦化したパターン上の適切な位置にTaNなどよりなる発熱抵抗体3、SiNなどよりなる保護膜5、Taなどからなる耐キァビティション膜6を積層・パタニングし、図2に示したような熱インクジェット記録ヘッドのヒーター膜周辺のパターンを作製した。
【0048】
ここで、発熱抵抗体であるTaNの膜厚は0.1μm、耐キァビティション膜であるTaの膜厚は0.23μmとした。これは、埋め込み配線を行わないヒーターボードでの標準的な膜厚である。また、埋め込み配線を行わないヒーターボードにおけるSiN保護膜の膜厚は、通常0.3μm程度を必要とするが、本実施例においては0.05μmとした。
【0049】
前述のようにして作製したパターンの信頼性を評価するため、引き続いて、図示されていないノズル、及び、インク供給口を配置し、スクライブ後に電気配線を接続して熱インクジェット記録ヘッドとした。
【0050】
このようにして作製した熱インクジェット記録ヘッドの耐久試験を実施したところ、通常の埋め込み配線を採用していないものと比較して同等以上の耐久性を示した。
【0051】
以上説明したように、本発明によれば、熱インクジェット記録ヘッドの発熱抵抗体へ接続する配線パターンを埋め込み配線とする際に、パターンめっきを行って研磨面積を減少させることで、埋め込み配線上面の平坦化処理時時間を大幅に削減できる。そのため、研磨に使用する補材の使用量を削減できるばかりか、スループットも著しく向上する。
【0052】
また、パターンめっきを行う際にスクライブライン上をレジストで保護できるので、スクライブ処理の前に除去する必要のある銅膜厚をシード層の厚みのみに限定できる。
【0053】
そのため、パターンめっきの際に、スクライブライン上から除去しなければならないシード層の厚み分を付加して電解時間を設定することで、めっき終了後に保護レジストを除去したウエハ−の全面エッチングによりスクライブラインから容易に銅を除去できる。
【0054】
このようにスクライブライン上に付着した銅を除去することで、ダイシングヘッドの極端な劣化も見られなかった。
【0055】
また、抵抗値の低い銅の埋め込み配線を採用したことで、配線に必要な面積が減少して1チップあたりの面積が縮小されウエハ−1枚あたりの取り個数が増加した。
【0056】
また、このようにして作製した熱インクジェット記録ヘッドは、平坦化された面上にヒーター膜、保護膜、耐キャビティション膜などの薄膜が積層されており、インク発泡時の衝撃によるストレスが一点に集中する明確なコーナー部が無い。
【0057】
そのため、ヒーター膜に積層する保護膜や耐キャビティション膜などを、通常の配線構造の場合に比べ極めて薄く設計してもヘッドの耐久性が劣化しない。しかも、ヒーター膜上に積層する膜を薄くすることで、ヘッドの熱応答性が向上して単位時間あたりのインク吐出量が増加し、高速での印字が可能となった。
【実施例2】
【0058】
コンタクトホール15の部分を2回に分けてパターンめっきした以外は、実施例1と同様な方法により熱インクジェット記録ヘッドを作製した。
【0059】
具体的には、東京応化工業製のポジ型フォトレジストであるOFPR(登録商標)800を使用し、110℃で90秒のプリベークを行った後に露光・現像した。これにより直径10μmの下側のコンタクトホール15の外周部に、直径14μmの開口部を持つ厚さ2μmの保護レジスト12を形成した。このようにして作製したウエハ−を実施例1と同じ硫酸銅めっき浴中において電解し、銅シード層の上に電気銅めっき膜10を2μm積層した。この状態の模式図を図5(f)に示す。
【0060】
さらに、めっき終了後に基板を水洗・乾燥し、露光・現像を再度行って埋め込み配線用溝14の上部を開口した。このウエハ−を再び硫酸銅めっき浴中において電解し、露出した銅シード層9、及び、前述のコンタクトホール15内に埋め込んだめっき膜の上に電気銅めっき膜10を2.5μm積層した。この状態の模式図を図5(g)に示す。
【0061】
これ以降のプロセスは実施例1と同様にして、図1に示したような平坦化された埋め込み配線基板を作製した。これに発熱抵抗体3、その他を積層して、図2に示したような熱インクジェット記録ヘッドのヒーター膜周辺のパターンを作製した。
【0062】
このようにして作製した熱インクジェット記録ヘッドの性能試験を実施したところ、通常の埋め込み配線を採用していないものと比較して同等以上の耐久性と熱応答性を示した。また、ダイシングヘッドの極端な劣化も見られなかった。さらに、ウエハ−1枚あたりの取り個数も増加した。
【0063】
(比較例1)
本発明の実施例1における銅埋め込み配線の変わりに、従来手法にて作製した熱インクジェット記録ヘッドの模式図を図6に示す。図6において、Si基板1の上に形成したSiOなどの蓄熱層2の上にTaNなどからなる発熱抵抗体3が形成されている。この発熱抵抗体3の上に膜厚が1μmのアルミ配線4をパターニングし、さらに、この上にSiNよりなる保護膜5とTaよりなる耐キャビティション膜6を積層した。
【0064】
このときのSiN保護膜の膜厚を0.05μmにして、熱インクジェット記録ヘッドを作製して耐久試験を行ったところ、インク発泡時の衝撃によるストレスによりアルミ配線のコーナー部分を被覆するSiN保護膜が破壊されインクの吐出異常が生じた。
【0065】
(比較例2)
本発明の実施例1におけるパターンめっきの替わりに、保護レジストを積層しない全面ベタめっきを行い図3(d)に示したような状態に銅めっき膜10を積層した。次に、この基板を水洗後に乾燥させ、引き続いて平坦化処理を行い、図3(e)に示した構成の埋め込み配線基板を作製した。ただし、銅めっきによりスクライブライン中に堆積した銅は平坦化処理中に除去されず残存していた。
【0066】
また、これ以降のプロセスは、実施例1と同様にしてノズル、及び、インク供給口を作成後、スクライブを行い、独立したチップに加工した。このときの模式図を図8に示す。図8において11はスクライブライン、10はスクライブライン中に埋め込まれた銅めっき、13はインク吐出ノズル、その他である。
【0067】
このようにして作製したチップは、チップへと切り出す際にスクライブラインに沿ってバリが発生し、しかもダイシングヘッドがダメージを受けた。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の一実施例の要部説明図である。
【図2】本発明の一実施例の要部説明図である。
【図3】従来の製造プロセスの説明図である。
【図4】従来の製造プロセスの説明図である。
【図5】本発明の製造プロセス説明図である。
【図6】従来の熱インクジェット記録ヘッドの発熱抵抗体の周辺構造模式図である。
【図7】従来の熱インクジェット記録ヘッドの構造模式図である。
【図8】本発明の比較例の要部説明図である。
【符号の説明】
【0069】
1 Siウエハ−
2 蓄熱層
3 発熱抵抗体
4 埋め込み配線
5 保護膜
6 耐キャビティション膜
7 アルミ配線
8 SiOパターニング用保護レジスト
9 バリア層、及び、シード層
10 めっき膜
11 スクライブライン
12 保護レジスト
13 インク吐出ノズル、その他
14 埋め込み配線用の溝
15 コンタクトホール
16 露出したバリア膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溝の中に形成された電気配線と切断のためのスクライブラインを少なくとも有するSi ウエハ−において、電気めっきのために積層された銅シード層の厚さをAμm、銅めっきにより埋め込まれる溝の深さをBμmとしたとき、溝の内部に積層する銅の膜厚が、溝の最深部から計測して(A+B)μmよりも大きくなるように電解時間を調節することを特徴とする、熱インクジェット記録ヘッド用埋め込み配線の製造方法。
【請求項2】
前記請求項における銅シード層の膜厚Aが、0.05μm以上であることを特徴とする、請求項1に記載の熱インクジェット記録ヘッド用埋め込み配線の製造方法。
【請求項3】
前記請求項における銅シード層の膜厚Aが、0.1μm以上であることを特徴とする、請求項1に記載の熱インクジェット記録ヘッド用埋め込み配線の製造方法。
【請求項4】
前記銅めっきが、全面に銅シード層を積層後に所定の配線パターン、及び、その近傍のみで保護レジストが開口されている状態で通電を行うパターンめっき法によるものであることを特徴とする、請求項1に記載の熱インクジェット記録ヘッド用埋め込み配線の製造方法。
【請求項5】
銅めっき終了後に保護レジストを除去し、スクライブライン上に積層された銅シード層が除去されるまでウエットエッチングにて銅を除去することを特徴とする、熱インクジェット記録ヘッド用埋め込み配線の製造方法。
【請求項6】
前記エッチング後に研磨による埋め込み配線の平坦化処理を行い、ヒーター膜、及び、保護膜、その他の積層を行うことを特徴とする、請求項5に記載の熱インクジェット記録ヘッド用埋め込み配線の製造方法。
【請求項7】
前記請求項においてSiウエハ−に形成された溝の最小幅が2μm以上、最大深さBが5μm以内であることを特徴とする、請求項5に記載の熱インクジェット記録ヘッド用埋め込み配線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−6559(P2009−6559A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−169301(P2007−169301)
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】