説明

熱リソグラフィー用レジスト組成物、レジスト積層体、レジストパターン形成方法

【課題】熱リソグラフィーによって形状に優れたレジストパターンを形成できる熱リソグラフィー用レジスト組成物、該熱リソグラフィー用レジスト組成物を用いたレジスト積層体、該レジスト積層体を用いたレジストパターン形成方法を提供する。
【解決手段】熱リソグラフィーにおいて用いられる露光光源の波長の光を吸収する熱リソグラフィー用下層膜上に、前記露光光源の波長の光に感光しないレジスト膜を形成するための熱リソグラフィー用レジスト組成物であって、酸の作用によりアルカリ現像液に対する溶解性が変化する基材成分(A)と、熱の作用により酸を発生する酸発生剤成分(B)とが、ポリアルキレングリコール系溶剤(S1)を含む有機溶剤(S)に溶解してなることを特徴とする熱リソグラフィー用レジスト組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱リソグラフィー用レジスト組成物、該熱リソグラフィー用レジスト組成物を用いたレジスト積層体、該レジスト積層体を用いたレジストパターン形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス、液晶デバイス等の各種電子デバイスにおける微細構造の製造には、リソグラフィー技術が多用されている。
リソグラフィー技術においては、従来、フォトレジストとよばれる感光性の有機材料が用いられている。フォトレジストとしては、放射線、たとえば真空紫外線等の短波長の光や電子線といった放射線の照射(露光)によりアルカリ現像液に対する溶解性(以下、アルカリ溶解性ということがある。)が変化するものが一般的に用いられている。かかるフォトレジストは、露光によって、構造の一部が分解したり、架橋を形成する等によってアルカリ溶解性が変化する。そのため、露光部と未露光部との間でアルカリ溶解性に差が生じ、これによってレジストパターンが形成可能となる。つまり、フォトレジストに対して選択的露光を行うと、当該フォトレジストのアルカリ溶解性が部分的に変化し、当該フォトレジストが、アルカリ溶解性の高い部分と、アルカリ溶解性の低い部分とからなるパターンを有するものとなる。そして、このフォトレジストをアルカリ現像すると、アルカリ溶解性の高い部分が溶解し、除去されることにより、レジストパターンが形成される。
フォトレジストには、露光部のアルカリ溶解性が増大するポジ型と、露光部のアルカリ溶解性が低下するネガ型とがある。
短波長の露光光源に対して高い感度を有するフォトレジストの1つとして、放射線の作用により酸を発生する光酸発生剤(PAG)と、該酸の作用によりアルカリ溶解性が変化する基材成分とを含有する化学増幅型レジスト組成物が知られている(たとえば特許文献1〜2参照)。
【0003】
光学ROM(Read Only Memory)ディスクのデータ書き込み過程においては、近い将来、超高密度記録を実現するために少なくとも100nm以下のピットを実現するリソグラフィー技術が望まれている。
上述したように、これまでに、より短波長な光源を用いた手法、または電子線を用いた手法についての開発が行われてきているが、露光に用いる光源の波長が短くなるにつれて、光源だけでなく光学的要因にからむ種々の困難な問題が発生する。たとえば露光機は、光源の波長が短くなるほど高価格化、大型化する傾向があり、また、電子線を用いる場合には、電子線ビームを発生させるために高電圧条件、真空チャンバー等が必要であり、結果として大掛かりな設備が必要となってしまう。これらの問題は、光学CD−ROMディスク等の製品の製造コストを増加させてしまう。
【0004】
最近開発が行われている技術の1つとして熱リソグラフィーがある。これは、光を直接使わず、光の生み出す熱分布を利用する方法である。熱リソグラフィーによれば、光のスポット径以下の微細な描画が可能になり、微細パターンの形成や、高速・低コスト化が可能であるとされている。
既に報告されている熱リソグラフィー手法としては、温度が一定以上になると急激に性質が変化する無機材料を用いる方法がある。たとえば非特許文献1には、基板上に、ZnS−SiO層、TbFeCo層およびZnS−SiO層がこの順で積層された積層体を用いる方法が記載されている。この方法は、熱による容積変化を利用した熱リソグラフィーであり、かかる方法においては、TbFeCo層がレーザー光を吸収して発熱し、その温度が200℃を越えるとその容積が増大しはじめ、結果、レーザー光の照射部分の膜厚が増大してパターンが形成される。
また、前記無機材料として、酸化プラチナを用いる方法も報告されている(たとえば非特許文献2参照)。この方法は、酸化プラチナが、一定の温度以上になると爆発的に蒸発する性質を利用したものであり、基板表面に塗った酸化プラチナに青色レーザー光を当てて加熱し、加工に必要な部分を取り除くようにしている。この方法によれば、青色レーザー光(波長405nm)で100nm以下の微細パターン形成を実現できるとされている。
また、たとえば非特許文献3には、ポリカーボネート製の基板上に、GeSbTe層、ZnS−SiO層およびフォトレジスト膜がこの順で積層された積層体を用いる方法が記載されている。この方法では、まず、基板の下側から赤色レーザーを照射すると、該レーザー光がGeSbTe層に吸収され、その部分のGeSbTe層が発熱する。この熱が上層のレジスト膜(ネガ)に伝わり、該熱の作用により、露光部のレジスト膜のアルカリ溶解性が低下する。そのため、これをアルカリ現像することによりレジストパターンが形成される。
【特許文献1】特許第2881969号公報
【特許文献2】特開2003−241385号公報
【非特許文献1】Jpn.J.Appl.Phys.Vol.43,No.8B(2004)pp.L1045−L1047
【非特許文献2】第53回応用物理学関係連合講演会、講演予稿集、第1051頁(2006春)、22a−D−9
【非特許文献3】Jpn.J.Appl.Phys.Vol.41,No.9A/B(2002)pp.L1022−L1024
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、非特許文献3のように、光を吸収して発熱する層をレジスト膜の下に設けて熱リソグラフィーを行った場合、特に化学増幅型レジスト組成物を用いてレジスト膜を形成した場合、当該レジスト膜に形成されるレジストパターンの形状がよくないという問題がある。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、熱リソグラフィーによって形状に優れたレジストパターンを形成できる熱リソグラフィー用レジスト組成物、該熱リソグラフィー用レジスト組成物を用いたレジスト積層体、該レジスト積層体を用いたレジストパターン形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
すなわち、本発明の第一の態様は、熱リソグラフィーにおいて用いられる露光光源の波長の光を吸収する熱リソグラフィー用下層膜上に、前記露光光源の波長の光に感光しないレジスト膜を形成するための熱リソグラフィー用レジスト組成物であって、
酸の作用によりアルカリ現像液に対する溶解性が変化する基材成分(A)と、熱の作用により酸を発生する酸発生剤成分(B)とが、ポリアルキレングリコール系溶剤(S1)を含む有機溶剤(S)に溶解してなることを特徴とする熱リソグラフィー用レジスト組成物である。
本発明の第二の態様は、支持体上に、熱リソグラフィーにおいて用いられる露光光源の波長の光を吸収する熱リソグラフィー用下層膜と、前記第一の態様の熱リソグラフィー用レジスト組成物を用いて形成されるレジスト膜とが積層されたレジスト積層体である。
本発明の第三の態様は、前記第二の態様のレジスト積層体に対し、前記レジスト膜が感光せず、かつ前記熱リソグラフィー用下層膜に吸収される波長の光を用いて選択的露光を行う工程、および前記レジスト膜をアルカリ現像してレジストパターンを形成する工程を含むレジストパターン形成方法である。
【0007】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、「露光」は放射線の照射全般を含む概念とする。
「アルキル基」は、特に断りがない限り、直鎖、分岐鎖および環状の1価の飽和炭化水素基を包含するものとする。
「低級アルキル基」は、炭素原子数1〜5のアルキル基である。
「アルキレン基」は、特に断りがない限り、直鎖、分岐鎖および環状の2価の飽和炭化水素基を包含するものとする。
「構成単位」とは、樹脂(重合体、共重合体)を構成するモノマー単位(単量体単位)を意味する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、熱リソグラフィーによって形状に優れたレジストパターンを形成できる熱リソグラフィー用レジスト組成物、該熱リソグラフィー用レジスト組成物を用いたレジスト積層体、該レジスト積層体を用いたレジストパターン形成方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
≪熱リソグラフィー用レジスト組成物≫
本発明の熱リソグラフィー用レジスト組成物(以下、単に「本発明のレジスト組成物」ということがある。)は、熱リソグラフィーにおいて用いられる露光光源の波長の光を吸収する熱リソグラフィー用下層膜上に、前記露光光源の波長の光に感光しないレジスト膜を形成するためのものであり、酸の作用によりアルカリ現像液に対する溶解性が変化する基材成分(A)(以下、(A)成分という。)と、熱の作用により酸を発生する酸発生剤成分(B)(以下、(B)成分という。)とが有機溶剤(S)(以下、(S)成分という。)に溶解してなる。
かかるレジスト組成物を用いて熱リソグラフィー用下層膜上に形成したレジスト膜を選択的に露光すると、熱リソグラフィー用下層膜が当該光を吸収して熱を発生する。この熱は、その上のレジスト膜に伝わり、該熱がレジスト膜中の(B)成分に作用して熱を発生させる。該酸は、(A)成分のアルカリ現像液に対する溶解性が変化させるため、当該レジスト膜をアルカリ現像することによりレジストパターンが形成される。
本発明のレジスト組成物は、ポジ型レジスト組成物であってもよく、ネガ型レジスト組成物であってもよい。好ましくはポジ型レジスト組成物である。
【0010】
<(S)成分>
(S)成分は、ポリアルキレングリコール系溶剤(S1)(以下、(S1)成分ということがある。)を含有する。
ここで、「ポリアルキレングリコール系溶剤」とは、ポリアルキレングリコールまたはその誘導体であって、常温(25℃)常圧で液体のものを意味する。
ポリアルキレングリコールとしては、たとえば、下記式(s−1)で表される化合物が挙げられる。
HO−(R21−O)−H …(s−1)
式(s−1)中、R21は炭素数2〜4の直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基であり、プロピレン基、エチレン基、テトラメチレン基等が挙げられる。qは5以上、好ましくは10〜120の整数であり、さらに好ましくは45〜100の整数である。式(s−1)中には複数のR21が存在するが、それらのR21はそれぞれ同じであってもよく、異なってもよい。複数のR21がそれぞれ同じである場合の具体例としては、たとえばポリプロピレングリコールが挙げられる。複数のR21がそれぞれ異なる場合の具体例としては、たとえばプロピレンオキサイド(PO)とエチレンオキサイド(EO)とのブロック共重合体、POとEOとのランダム共重合体が挙げられる。
(S1)成分の粘度(25℃)は、50〜1500cSt(0.5〜15cm/s)が好ましく、300〜930cSt(3.0〜9.3cm/s)がより好ましい。
(S1)成分としては、ポリプロピレングリコールが好ましく、質量平均分子量が400〜5000のポリプロピレングリコールがより好ましく、質量平均分子量が2000〜4000のポリプロピレングリコールがさらに好ましい。
【0011】
(S1)成分は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
本発明のレジスト組成物中、(S1)成分の配合量は、本発明の効果のためには、(A)成分に対し、1〜30質量%が好ましく、3〜20質量%がより好ましく、5〜15質量%がさらに好ましい。上記範囲内であると、本発明の効果が向上する。
【0012】
(S)成分は、さらに、(S1)成分以外の有機溶剤(S2)(以下、(S2)成分という。)を含有することが好ましい。
(S2)成分は、例えば従来、化学増幅型レジストの溶剤として公知のもの(ただし(S1)成分に該当するものは除く。)の中から、(A)成分等の溶解性やその他の特性を考慮して、を1種または2種以上適宜選択して用いることができる。
(S2)成分の具体例としては、後述する本発明のレジスト積層体において挙げる有機溶剤(S’)と同様のものが挙げられる。
(S2)成分の使用量は、特に限定されず、(S)成分全体としての使用量が、当該レジスト組成物を、熱リソグラフィー用下層膜上に塗布可能な液体とすることができる量であればよい。通常、レジスト組成物の固形分濃度が好ましくは2〜20質量%、より好ましくは5〜15質量%の範囲内となるように用いられる。
【0013】
<(A)成分>
(A)成分としては、特に限定されず、これまで、化学増幅型レジスト組成物用の基材成分として提案されている多数のもののなかから任意のものを選択して使用することができる。
ここで、「基材成分」とは、膜形成能を有する有機化合物であり、好ましくは分子量が500以上の有機化合物が用いられる。該有機化合物の分子量が500以上であることにより、膜形成能が向上し、また、ナノレベルのパターンを形成しやすい。
前記分子量が500以上の有機化合物は、分子量が500以上2000未満の低分子量の有機化合物(以下、低分子化合物という。)と、分子量が2000以上の高分子量の有機化合物(以下、高分子化合物という。)とに大別される。前記低分子化合物としては、通常、非重合体が用いられる。前記高分子化合物としては、通常、樹脂(重合体、共重合体)が用いられる。樹脂の場合は、「分子量」としてGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によるポリスチレン換算の質量平均分子量を用いるものとする。以下、単に「樹脂」という場合は、分子量が2000以上の樹脂を示すものとする。
基材成分は、低分子化合物であってもよく、樹脂であってもよく、これらの混合物であってもよい。
【0014】
本発明において、(A)成分としては、親水性基を有するものが好ましい。
(A)成分における親水性基としては、水酸基、カルボキシ基、カルボニル基(−C(O)−)、エステル基(エステル結合;−C(O)−O−)、アミノ基、アミド基からなる群から選択される1種以上が好ましい。これらの内、水酸基(特にはアルコール性水酸基又はフェノール性水酸基)、カルボキシ基、エステル基がより好ましい。中でもカルボキシ基、アルコール性水酸基、フェノール性水酸基が、ナノレベルでラインエッジラフネス(パターン側壁の凹凸)の小さいパターンを形成でき好ましい。
【0015】
(A)成分における親水性基の含有割合は、パターン表面に存在する親水性基の単位面積当たりの量に影響する。
(A)成分が低分子化合物の場合、(A)成分としては、親水性基を、1分子当たり1〜20当量有するものが好ましく、より好ましくは2〜10当量の範囲である。ここで「1分子当たり1〜20当量の親水性基を有する」とは、1分子中に親水性基が1〜20個存在することを意味する。
(A)成分が樹脂の場合、(A)成分は、親水性基を、0.2当量以上有することが好ましく、より好ましくは0.5〜0.8当量、さらに好ましくは0.6〜0.75当量の範囲である。これは、当該樹脂が、親水性基を有する構成単位とそれ以外の構成単位からなるとすると、前者の構成単位が20モル%以上、より好ましくは50〜80モル%、さらに好ましくは60モル%〜75モル%であることを意味する。
【0016】
本発明のレジスト組成物がネガ型レジスト組成物である場合、(A)成分としては、通常、アルカリ現像液に溶解するアルカリ可溶性樹脂が用いられ、それとともに、当該ネガ型レジスト組成物に、さらに架橋剤(C)(以下、(C)成分という。)が配合される。
かかるネガ型レジスト組成物においては、(B)成分から酸が発生すると、当該酸の作用により(A)成分および(C)成分間で架橋が起こり、(A)成分のアルカリ現像液に対する溶解性が低下する。そのため、レジストパターンの形成において、当該ネガ型レジスト組成物を基板上に塗布して得られるレジスト膜に対して選択的に露光すると、その下部の熱リソグラフィー用下層膜が当該光を吸収して熱を発生する。この熱は、その上のレジスト膜に伝わり、該熱がレジスト膜中の(B)成分に作用して熱を発生させる。そして該酸の作用により、露光部のアルカリ現像液に対する溶解性が低下する一方で、未露光部のアルカリ現像液に対する溶解性は変化しないため、アルカリ現像によりレジストパターンを形成できる。
【0017】
前記アルカリ可溶性樹脂としては、α−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸、またはα−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸の低級アルキルエステルから選ばれる少なくとも一つから誘導される単位を有する樹脂が、膨潤の少ない良好なレジストパターンが形成でき、好ましい。なお、α−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸は、カルボキシ基が結合するα位の炭素原子に水素原子が結合しているアクリル酸と、このα位の炭素原子にヒドロキシアルキル基(好ましくは炭素数1〜5のヒドロキシアルキル基)が結合しているα−ヒドロキシアルキルアクリル酸の一方または両方を示す。
また、アルカリ可溶性樹脂として、親水性基を有するノボラック樹脂、ヒドロキシスチレン系樹脂、(α−低級アルキル)アクリル酸エステル樹脂、ヒドロキシスチレンから誘導される構成単位と(α−低級アルキル)アクリル酸エステルから誘導される構成単位を含有する共重合樹脂等が挙げられる。
(α−低級アルキル)アクリル酸エステル樹脂としては、たとえば、フッ素化されたヒドロキシアルキル基、ヒドロキシアルキル基等の水酸基含有基を有する(α−低級アルキル)アクリル酸エステルから誘導される構成単位を有する樹脂が挙げられる。
アルカリ可溶性樹脂の質量平均分子量(Mw;ゲルパーミエーションクロマトグラフィによるポリスチレン換算質量平均分子量)は、好ましくは2000〜30000、より好ましくは2000〜10000、さらに好ましくは3000〜8000である。この範囲とすることにより、アルカリ現像液に対する良好な溶解速度が得られ、高解像性の点からも好ましい。質量平均分子量は、この範囲内において低い方が、良好な特性が得られる傾向がある。
【0018】
本発明のレジスト組成物がポジ型レジスト組成物である場合、(A)成分としては、通常、酸解離性溶解抑制基を有し、酸の作用によりアルカリ現像液に対する溶解性が増大する基材成分が用いられる。
かかるポジ型レジスト組成物は、(B)成分から酸が発生すると、当該酸の作用により酸解離性溶解抑制基が解離し、(A)成分のアルカリ現像液に対する溶解性が増大する。そのため、レジストパターンの形成において、当該ポジ型レジスト組成物を基板上に塗布して得られるレジスト膜に対して選択的に露光すると、その下部の熱リソグラフィー用下層膜が当該光を吸収して熱を発生する。この熱は、その上のレジスト膜に伝わり、該熱がレジスト膜中の(B)成分に作用して熱を発生させる。そして該酸の作用により、露光部のアルカリ現像液に対する溶解性が増大する一方で、未露光部のアルカリ現像液に対する溶解性は変化しないため、アルカリ現像によりレジストパターンを形成できる。
【0019】
ポジ型レジスト組成物の(A)成分としては、親水性基と酸解離性溶解抑制基とを有するものが好ましく、下記(A−1)成分および/または(A−2)成分がより好ましい。親水性基は酸解離性溶解抑制基を兼ねていてもよい。
・(A−1)成分:親水性基および酸解離性溶解抑制基を有する樹脂。
・(A−2)成分:親水性基および酸解離性溶解抑制基を有する低分子化合物。
以下、(A−1)成分および(A−2)成分の好ましい態様をより具体的に説明する。
【0020】
[(A−1)成分]
(A−1)成分としては、親水性基を有する構成単位と酸解離性溶解抑制基を有する構成単位とを有する樹脂が好ましい。
当該樹脂中の、前記親水性基を有する構成単位の割合は、当該樹脂を構成する全構成単位の合計量に対し、20〜80モル%であることが好ましく、20〜70モル%がより好ましく、20〜60モル%がさらに好ましい。
当該樹脂中の、前記酸解離性溶解抑制基を有する構成単位の割合は、当該樹脂を構成する全構成単位の合計量に対し、20〜80モル%であることが好ましく、20〜70モル%がより好ましく、30〜60モル%がさらに好ましい。
好ましくは、前記親水性基を有する構成単位が、カルボキシ基、アルコール性水酸基、フェノール性水酸基を有する構成単位であり、より好ましくはアクリル酸、メタクリル酸、アルコール性水酸基を有する(α−低級アルキル)アクリル酸エステル、ヒドロキシスチレンから誘導される単位である。
【0021】
(A−1)成分として、より具体的には、親水性基および酸解離性溶解抑制基を有するノボラック樹脂、ヒドロキシスチレン系樹脂、(α−低級アルキル)アクリル酸エステル樹脂、ヒドロキシスチレンから誘導される構成単位と(α−低級アルキル)アクリル酸エステルから誘導される構成単位を含有する共重合樹脂等が好適に用いられる。
【0022】
なお、本明細書において、「(α−低級アルキル)アクリル酸」とは、アクリル酸(CH=CH−COOH)およびα−低級アルキルアクリル酸の一方あるいは両方を示す。α−低級アルキルアクリル酸は、アクリル酸におけるカルボニル基が結合している炭素原子に結合した水素原子が、低級アルキル基で置換されたものを示す。「(α−低級アルキル)アクリル酸エステル」は「(α−低級アルキル)アクリル酸」のエステル誘導体であり、アクリル酸エステルおよびα−低級アルキルアクリル酸エステルの一方あるいは両方を示す。
「(α−低級アルキル)アクリル酸エステルから誘導される構成単位」とは、(α−低級アルキル)アクリル酸エステルのエチレン性2重結合が開裂して形成される構成単位であり、以下(α−低級アルキル)アクリレート構成単位ということがある。「(α−低級アルキル)アクリレート」は、アクリレートおよびα−低級アルキルアクリレートの一方あるいは両方を示す。
「ヒドロキシスチレンから誘導される構成単位」とは、ヒドロキシスチレン又はα―低級アルキルヒドロキシスチレンのエチレン性2重結合が開裂して形成される構成単位であり、以下ヒドロキシスチレン単位ということがある。「α−低級アルキルヒドロキシスチレン」は、フェニル基が結合する炭素原子に低級アルキル基が結合していることを示す。
「α−低級アルキルアクリル酸エステルから誘導される構成単位」及び「α−低級アルキルヒドロキシスチレンから誘導される構成単位」において、α位に結合している低級アルキル基は、炭素数1〜5のアルキル基であり、直鎖または分岐鎖状のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基などが挙げられる。工業的にはメチル基が好ましい。
【0023】
(A−1)成分として好適な樹脂成分としては、特に限定するものではないが、例えば、下記構成単位(a1)のようなフェノール性水酸基を有する単位と、下記構成単位(a2)および下記構成単位(a3)からなる群より選ばれる少なくとも1つのような酸解離性溶解抑制基を有する構成単位、そして必要に応じて用いられる(a4)のようなアルカリ不溶性の単位を有する樹脂成分(以下、(A−11)成分ということがある。)が挙げられる。
当該(A−11)成分においては、露光によって酸発生剤から発生する酸の作用によって、構成単位(a2)および/または構成単位(a3)において開裂が生じ、これによって、はじめはアルカリ現像液に対して不溶性であった樹脂において、そのアルカリ溶解性が増大する。その結果、露光・現像により、ポジ型のパターンを形成することができる。
【0024】
・・構成単位(a1)
構成単位(a1)は、フェノール性水酸基を有する単位であって、好ましくは下記一般式(I)で表されるヒドロキシスチレンから誘導される単位である。
【0025】
【化1】

(式中、Rは水素原子または低級アルキル基を示す。)
【0026】
Rは水素原子又は低級アルキル基である。低級アルキル基については上記の通りであり、特に水素原子またはメチル基が好ましい。Rの説明は以下同様である。
−OHのベンゼン環への結合位置は、特に限定されるものではないが、式中に記載の4の位置(パラ位)が好ましい。
構成単位(a1)の割合は、当該(A−11)成分を構成する全構成単位の合計量に対し、40〜80モル%が好ましく、50〜75モル%がより好ましい。40モル%以上とすることにより、アルカリ現像液に対する溶解性を向上させることができ、パターン形状の改善効果も得られる。80モル%以下とすることにより、他の構成単位とのバランスをとることができる。
【0027】
・・構成単位(a2)
構成単位(a2)は、酸解離性溶解抑制基を有する構成単位であって、下記一般式(II)で表される。
【0028】
【化2】

(式中、Rは上記と同じであり、Xは酸解離性溶解抑制基を示す。)
【0029】
酸解離性溶解抑制基Xは、第3級炭素原子を有するアルキル基であって、当該第3級アルキル基の第3級炭素原子がエステル基[−C(O)O−]に結合している酸離性溶解抑制基、テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロフラニル基のような環状アセタール基などである。
この様な酸解離性溶解抑制基Xは、例えば化学増幅型のポジ型レジスト組成物において用いられているものの中から上記以外のものも任意に使用することができる。
【0030】
構成単位(a2)として、例えば下記一般式(III)で表されるもの等が好ましいものとして挙げられる。
【0031】
【化3】

【0032】
式中、Rは上記と同じであり、R11、R12、R13は、それぞれ独立に低級アルキル基(直鎖、分岐鎖のいずれでもよい。好ましくは炭素数は1〜5である。)である。または、R11、R12、R13のうち、R11が低級アルキル基であり、R12とR13が結合して、単環または多環の脂肪族環式基を形成していてもよい。該脂肪族環式基の炭素数は好ましくは5〜12である。
ここで、本明細書において、「脂肪族」とは、当該基または化合物が芳香族性を有さないことを意味し、「脂肪族環式基」は、芳香族性を持たない単環式基または多環式基を意味する。
11、R12、R13が脂肪族環式基を有さない場合には、例えばR11、R12、R13がいずれもメチル基であるものが好ましい。
11、R12、R13のいずれかが脂肪族環式基を有する場合において、脂肪族環式基が単環の脂肪族環式基である場合は、構成単位(a2)として、例えばシクロペンチル基、シクロヘキシル基を有するもの等が好ましい。
脂肪族環式基が多環の脂環式基である場合、構成単位(a2)として好ましいものとしては、例えば下記一般式(IV)で表されるものを挙げることができる。
【0033】
【化4】

[式中、Rは上記と同じであり、R14は低級アルキル基(直鎖、分岐鎖のいずれでもよい。好ましくは炭素数が1〜5である。)]
【0034】
また、多環の脂肪族環式基を含む酸解離性溶解抑制基を有するものとして、下記一般式(V)で表されるものも好ましい。
【0035】
【化5】

[式中、Rは上記と同じであり、R15、R16は、それぞれ独立に低級アルキル基(直鎖、分岐鎖のいずれでもよい。好ましくは炭素数が1〜5である。)である。]
【0036】
構成単位(a2)の割合は、当該(A−11)成分を構成する全構成単位の合計量に対し、5〜50モル%が好ましく、10〜40モル%より好ましく、10〜35モル%がさらに好ましい。
【0037】
・・構成単位(a3)
構成単位(a3)は、酸解離性溶解抑制基を有する構成単位であって、下記一般式(VI)で表されるものである。
【0038】
【化6】

(式中、Rは上記と同じであり、X’は酸解離性溶解抑制基を示す。)
【0039】
酸解離性溶解抑制基X’は、tert−ブチルオキシカルボニル基、tert−アミルオキシカルボニル基のような第3級アルキルオキシカルボニル基;tert−ブチルオキシカルボニルメチル基、tert−ブチルオキシカルボニルエチル基のような第3級アルキルオキシカルボニルアルキル基;tert−ブチル基、tert−アミル基などの第3級アルキル基;テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロフラニル基などの環状アセタール基;エトキシエチル基、メトキシプロピル基などのアルコキシアルキル基などである。
中でも、tert―ブチルオキシカルボニル基、tert―ブチルオキシカルボニルメチル基、tert−ブチル基、テトラヒドロピラニル基、エトキシエチル基が好ましい。
酸解離性溶解抑制基X’は、例えば化学増幅型のポジ型レジスト組成物において用いられているものの中から上記以外のものを任意に使用することができる。
一般式(VI)において、ベンゼン環に結合している基(−OX’)の結合位置は特に限定するものではないが式中に示した4の位置(パラ位)が好ましい。
【0040】
構成単位(a3)の割合は、当該(A−11)成分を構成する全構成単位の合計量に対し、5〜50モル%が好ましく、10〜40モル%より好ましく、10〜35モル%がさらに好ましい。
【0041】
・・構成単位(a4)
構成単位(a4)は、アルカリ不溶性の単位であって、下記一般式(VII)で表されるものである。
【0042】
【化7】

(式中、Rは上記と同じであり、R4’は低級アルキル基を示し、n’は0または1〜3の整数を示す。)
【0043】
なお、R4’の低級アルキル基は、直鎖または分岐鎖のいずれでもよく、炭素数は好ましくは1〜5とされる。
n’は0または1〜3の整数を示すが、0であることが好ましい。
【0044】
構成単位(a4)の割合は、当該(A−11)成分を構成する全構成単位の合計量に対し、1〜40モル%が好ましく、5〜25モル%より好ましい。1モル%以上とすることにより、形状の改善(特に膜減りの改善)の効果が高くなり、40モル%以下とすることにより、他の構成単位とのバランスをとることができる。
【0045】
(A−11)成分においては、前記構成単位(a1)と、構成単位(a2)および構成単位(a3)からなる群より選ばれる少なくとも一つとを必須としつつ、任意に(a4)を含んでもよい。また、これらの各単位を全て有する共重合体を用いてもよいし、これらの単位を1つ以上有する重合体どうしの混合物としてもよい。又はこれらを組み合わせてもよい。
また、(A−11)成分は、前記構成単位(a1)〜(a4)以外の構成単位を任意に含むことができるが、これらの構成単位(a1)〜(a4)の合計の割合が、当該(A−11)成分を構成する全構成単位の合計量に対し、80モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることが好ましく、100モル%が最も好ましい。
【0046】
特に、「前記構成単位(a1)および(a3)を有する共重合体のいずれか1種、または該共重合体の2種以上の混合物」、または、「構成単位(a1)、(a2)および(a4)を有する共重合体のいずれか1種、または該共重合体の2種以上の混合物」を、それぞれ用いるか又は混合した態様が、簡便に効果が得られるため最も好ましい。また、耐熱性向上の点でも好ましい。
特には、第三級アルキルオキシカルボニル基で保護したポリヒドロキシスチレンと、1−アルコキシアルキル基で保護したポリヒドロキシスチレンとの混合物であることが好ましい。かかる混合を行う場合、各重合体の混合比(質量比)(第三級アルキルオキシカルボニル基で保護したポリヒドロキシスチレン/1−アルコキシアルキル基で保護したポリヒドロキシスチレン)は、例えば1/9〜9/1、好ましくは2/8〜8/2とされ、さらに好ましくは2/8〜5/5である。
【0047】
(A−1)成分として好適な上記(A−11)成分以外の樹脂成分として、特に、耐エッチング性がより低いパターンを形成できるという点で、(α−低級アルキル)アクリル酸エステル樹脂を含む樹脂成分((α−低級アルキル)アクリル酸エステル樹脂)が好ましく、(α−低級アルキル)アクリル酸エステル樹脂からなる樹脂成分がより好ましい。
(α−低級アルキル)アクリル酸エステル樹脂(以下、(A−12)成分という。)においては、酸解離性溶解抑制基を含む(α−低級アルキル)アクリル酸エステルから誘導される構成単位(a5)を有する樹脂が好ましい。α−低級アルキル基については上記と同様である。
構成単位(a5)の酸解離性溶解抑制基は、露光前の(A−12)成分全体を、アルカリ現像液に対して不溶とするアルカリ溶解抑制性を有すると同時に、露光後に(B)成分から発生した酸の作用により解離し、(A−12)成分全体の現像液に対する溶解性を増大させる基である。
(α−低級アルキル)アクリル酸エステル樹脂成分においては、構成単位(a5)における酸解離性溶解抑制基が、(B)成分から発生した酸により解離すると、カルボン酸を生成する。
【0048】
酸解離性溶解抑制基としては、例えばArFエキシマレーザーのレジスト組成物用の樹脂において、多数提案されているものの中から適宜選択して用いることができる。一般的には、(α−低級アルキル)アクリル酸のカルボキシ基と環状または鎖状の第3級アルキルエステルを形成する基、または環状または鎖状のアルコキシアルキル基などが広く知られている。
ここで、「第3級アルキルエステルを形成する基」とは、アクリル酸のカルボキシ基の水素原子と置換することによりエステルを形成する基である。すなわちアクリル酸エステルのカルボニルオキシ基[−C(O)−O−]の末端の酸素原子に、鎖状または環状の第3級アルキル基の第3級炭素原子が結合している構造を示す。この第3級アルキルエステルにおいては、酸が作用すると、酸素原子と第3級炭素原子との間で結合が切断される。
なお、第3級アルキル基とは、第3級炭素原子を有するアルキル基である。
鎖状の第3級アルキルエステルを形成する基としては、例えばtert−ブチル基、tert−アミル基等が挙げられる。
環状の第3級アルキルエステルを形成する基としては、後述する「脂環式基を含有する酸解離性溶解抑制基」で例示するものと同様のものが挙げられる。
【0049】
「環状または鎖状のアルコキシアルキル基」は、カルボキシ基の水素原子と置換してエステルを形成する。すなわち、アクリル酸エステルのカルボニルオキシ基[−C(O)−O―]の末端の酸素原子に前記アルコキシアルキル基が結合している構造を形成する。かかる構造においては、酸の作用により、酸素原子とアルコキシアルキル基との間で結合が切断される。
このような環状または鎖状のアルコキシアルキル基としては、1−メトキシメチル基、1−エトキシエチル基、1−イソプロポキシエチル、1−シクロヘキシルオキシエチル基、2−アダマントキシメチル基、1−メチルアダマントキシメチル基、4−オキソ−2−アダマントキシメチル基、1−アダマントキシエチル基、2−アダマントキシエチル基等が挙げられる。
【0050】
構成単位(a5)としては、環状、特に、脂肪族環式基を含有する酸解離性溶解抑制基を含む構成単位が好ましい。
ここで、「脂肪族」および「脂肪族環式基」は、上記で定義した通りである。
脂肪族環式基としては、単環または多環のいずれでもよく、例えばArFレジスト等において、多数提案されているものの中から適宜選択して用いることができる。耐エッチング性の点からは多環の脂環式基が好ましい。また、脂環式基は炭化水素基であることが好ましく、特に飽和の炭化水素基(脂環式基)であることが好ましい。
単環の脂環式基としては、例えば、シクロアルカンから1個の水素原子を除いた基が挙げられる。多環の脂環式基としては、例えばビシクロアルカン、トリシクロアルカン、テトラシクロアルカンなどから1個の水素原子を除いた基などを例示できる。
具体的には、単環の脂環式基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。多環の脂環式基としては、アダマンタン、ノルボルナン、イソボルナン、トリシクロデカン、テトラシクロドデカンなどのポリシクロアルカンから1個の水素原子を除いた基などが挙げられる。
これらの中でもアダマンタンから1個の水素原子を除いたアダマンチル基、ノルボルナンから1個の水素原子を除いたノルボルニル基、トリシクロデカンからの1個の水素原子を除いたトリシクロデカニル基、テトラシクロドデカンから1個の水素原子を除いたテトラシクロドデカニル基が工業上好ましい。
【0051】
より具体的には、構成単位(a5)は、下記一般式(I”)〜(III”)から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
また、(α−低級アルキル)アクリル酸エステルから誘導される単位であって、そのエステル部に上記した環状のアルコキシアルキル基を有する単位、具体的には2−アダマントキシメチル基、1−メチルアダマントキシメチル基、4−オキソ−2−アダマントキシメチル基、1−アダマントキシエチル基、2−アダマントキシエチル基等の置換基を有していても良い脂肪族多環式アルキルオキシ低級アルキル(α−低級アルキル)アクリル酸エステルから誘導される単位から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0052】
【化8】

[式(I”)中、Rは上記と同じであり、Rは低級アルキル基である。]
【0053】
【化9】

[式(II”)中、Rは上記と同じであり、R及びRはそれぞれ独立に低級アルキル基である。]
【0054】
【化10】

[式(III”)中、Rは上記と同じであり、Rは第3級アルキル基である。]
【0055】
式(I”)〜(III”)中、Rの水素原子または低級アルキル基としては、上述したアクリル酸エステルのα位に結合している水素原子または低級アルキル基の説明と同様である。
の低級アルキル基としては、炭素数1〜5の直鎖又は分岐状のアルキル基が好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基等が挙げられる。中でも、メチル基、エチル基であることが、工業的に入手が容易であることから好ましい。
及びRの低級アルキル基は、それぞれ独立に、炭素数1〜5の直鎖または分岐のアルキル基であることが好ましい。中でも、RおよびRが共にメチル基である場合が工業的に好ましい。具体的には、2−(1−アダマンチル)−2−プロピルアクリレートから誘導される構成単位を挙げることができる。
【0056】
は鎖状の第3級アルキル基または環状の第3級アルキル基である。鎖状の第3級アルキル基としては、例えばtert−ブチル基やtert−アミル基が挙げられ、tert−ブチル基が工業的に好ましい。
環状の第3級アルキル基としては、前述の「脂肪族環式基を含有する酸解離性溶解抑制基」で例示したものと同じであり、2−メチル−2−アダマンチル基、2−エチル−2−アダマンチル基、2−(1−アダマンチル)−2−プロピル基、1−エチルシクロヘキシル基、1−エチルシクロペンチル基、1−メチルシクロヘキシル基、1−メチルシクロペンチル基等を挙げることができる。
また、基−COORは、式中に示したテトラシクロドデカニル基の3または4の位置に結合していてよいが、結合位置は特定できない。また、アクリレート構成単位のカルボキシ基残基も同様に式中に示した8または9の位置に結合していてよい。
【0057】
構成単位(a5)は1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
(A−12)成分中、構成単位(a5)の割合は、(A−12)成分を構成する全構成単位の合計に対して、20〜60モル%であることが好ましく、30〜50モル%がより好ましく、35〜45モル%が最も好ましい。下限値以上とすることによってパターンを得ることができ、上限値以下とすることにより他の構成単位とのバランスをとることができる。
【0058】
(A−12)成分は、前記構成単位(a5)に加えてさらに、ラクトン環を有するアクリル酸エステルから誘導される構成単位(a6)を有することが好ましい。構成単位(a6)は、レジスト膜の基板への密着性を高めたり、現像液との親水性を高めたりするうえで有効なものである。
構成単位(a6)において、α位の炭素原子に結合しているのは、低級アルキル基または水素原子である。α位の炭素原子に結合している低級アルキル基は、構成単位(a5)の説明と同様であって、好ましくはメチル基である。
構成単位(a6)としては、アクリル酸エステルのエステル側鎖部にラクトン環からなる単環式基またはラクトン環を有する多環の環式基が結合した構成単位が挙げられる。なお、このときラクトン環とは、−O−C(O)−構造を含むひとつの環を示し、これをひとつの目の環として数える。したがって、ここではラクトン環のみの場合は単環式基、さらに他の環構造を有する場合は、その構造に関わらず多環式基と称する。
構成単位(a6)としては、例えば、γ−ブチロラクトンから水素原子1つを除いた単環式基や、ラクトン環含有ビシクロアルカンから水素原子を1つ除いた多環式基を有するもの等が挙げられる。
構成単位(a6)として、より具体的には、例えば以下の一般式(IV”)〜(VII”)から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0059】
【化11】

[式(IV”)中、Rは上記と同じであり、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子または低級アルキル基である。]
【0060】
【化12】

[式(V”)中、Rは上記と同じであり、mは0または1である。]
【0061】
【化13】

[式(VI”)中、Rは上記と同じである。]
【0062】
【化14】

[式(VII”)中、Rは上記と同じである。]
【0063】
式(IV”)中において、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子または低級アルキル基であり、好ましくは水素原子である。R、Rにおいて、低級アルキル基としては、好ましくは炭素数1〜5の直鎖又は分岐状アルキル基であり、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基などが挙げられる。工業的にはメチル基が好ましい。
【0064】
一般式(IV”)〜(VII”)で表される構成単位の中でも、(IV”)で表される構成単位が安価で工業的に好ましく、(IV”)で表される構成単位の中でもRがメチル基、RおよびRが水素原子であり、メタクリル酸エステルとγ−ブチロラクトンとのエステル結合の位置が、そのラクトン環上のα位であるα−メタクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトンであることが最も好ましい。
構成単位(a6)は1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
(A−12)成分中、構成単位(a6)の割合は、(A−12)成分を構成する全構成単位の合計に対して、20〜60モル%が好ましく、20〜50モル%がより好ましく、30〜45モル%が最も好ましい。下限値以上とすることによりリソグラフィー特性が向上し、上限値以下とすることにより他の構成単位とのバランスをとることができる。
【0065】
(A−12)成分は、前記構成単位(a5)に加えて、または前記構成単位(a5)および(a6)に加えてさらに、極性基含有多環式基を含むアクリル酸エステルから誘導される構成単位(a7)を有することが好ましい。
構成単位(a7)により、(A−12)成分全体の親水性が高まり、現像液との親和性が高まって、露光部でのアルカリ溶解性が向上し、解像性の向上に寄与する。
構成単位(a7)において、α位の炭素原子に結合しているのは、低級アルキル基または水素原子である。α位の炭素原子に結合している低級アルキル基は、構成単位(a5)の説明と同様であって、好ましくはメチル基である。
極性基としては、水酸基、シアノ基、カルボキシ基、アミノ基等が挙げられ、特に水酸基が好ましい。
多環式基としては、前述の構成単位(a5)において「脂肪族環式基を含有する酸解離性溶解抑制基」で例示した脂肪族環式基のうち、多環式のものから適宜選択して用いることができる。
構成単位(a7)としては、下記一般式(VIII”)〜(IX”)から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0066】
【化15】

[式(VIII”)中、Rは上記と同じであり、nは1〜3の整数である。]
【0067】
式(VIII”)中のRは上記式(I”)〜(III”)中のRと同様である。
これらの中でも、nが1であり、水酸基がアダマンチル基の3位に結合しているものが好ましい。
【0068】
【化16】

[式(IX”)中、Rは上記と同じであり、kは1〜3の整数である。]
【0069】
これらの中でも、kが1であるものが好ましい。また、シアノ基がノルボルニル基の5位又は6位に結合していることが好ましい。
【0070】
構成単位(a7)は1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
(A−12)成分中、構成単位(a7)の割合は、(A−12)成分を構成する全構成単位の合計に対して、10〜50モル%が好ましく、15〜40モル%がより好ましく、20〜35モル%がさらに好ましい。下限値以上とすることによりリソグラフィー特性が向上し、上限値以下とすることにより他の構成単位とのバランスをとることができる。
【0071】
(A−12)成分においては、これらの構成単位(a5)〜(a7)の合計が、全構成単位の合計に対し、70〜100モル%であることが好ましく、80〜100モル%であることがより好ましい。
【0072】
(A−12)成分は、前記構成単位(a5)〜(a7)以外の構成単位(a8)を含んでいてもよい。
構成単位(a8)としては、上述の構成単位(a5)〜(a7)に分類されない他の構成単位であれば特に限定するものではない。
例えば多環の脂肪族炭化水素基を含み、かつ(α−低級アルキル)アクリル酸エステルから誘導される構成単位等が好ましい。該多環の脂肪族炭化水素基は、例えば、前述の「脂肪族環式基を含有する酸解離性溶解抑制基」で例示した脂肪族環式基のうち、多環式のものから適宜選択して用いることができる。特にトリシクロデカニル基、アダマンチル基、テトラシクロドデカニル基、ノルボルニル基、イソボルニル基から選ばれる少なくとも1種以上であると、工業上入手し易い等の点で好ましい。構成単位(a8)としては、酸非解離性基であることが最も好ましい。
構成単位(a8)として、具体的には、下記(X”)〜(XII”)の構造のものを例示することができる。
【0073】
【化17】

(式中、Rは上記と同じである。)
【0074】
【化18】

(式中、Rは上記と同じである。)
【0075】
【化19】

(式中、Rは上記と同じである。)
【0076】
構成単位(a8)を有する場合、(A−12)成分中、構成単位(a8)の割合は、(A−12)成分を構成する全構成単位の合計に対して、1〜25モル%が好ましく、5〜20モル%がより好ましい。
【0077】
(A−12)成分は、少なくとも構成単位(a5)、(a6)および(a7)を有する共重合体であることが好ましい。係る共重合体としては、たとえば、上記構成単位(a5)、(a6)および(a7)からなる共重合体、上記構成単位(a5)、(a6)、(a7)および(a8)からなる共重合体等が例示できる。
【0078】
(A−1)成分は、前記構成単位に係るモノマーを公知の方法で重合することにより得ることができる。例えば、各構成単位に係るモノマーを、例えばアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)のようなラジカル重合開始剤を用いた公知のラジカル重合等によって重合させることによって得ることができる。
(A−1)成分は、質量平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィによるポリスチレン換算質量平均分子量、以下同様。)30000以下であることが好ましく、20000以下であることが好ましく、12000以下であることがさらに好ましい。下限値は、2000超であればよく、パターン倒れの抑制、解像性向上等の点で、好ましくは4000以上、さらに好ましくは5000以上とされる。
【0079】
[(A−2)成分]
(A−2)成分としては、分子量が500以上2000以下であって、親水性基を有するとともに、上述の(A−1)成分の説明で例示したような酸解離性溶解抑制基XまたはX’を有する低分子化合物が好ましい。具体的には、複数のフェノール骨格を有する化合物の水酸基の水素原子の一部を上記酸解離性溶解抑制基XまたはX’で置換したものが挙げられる。
(A−2)成分は、例えば、非化学増幅型のg線やi線レジストにおける増感剤や耐熱性向上剤として知られている低分子量フェノール化合物の水酸基の水素原子の一部を上記酸解離性溶解抑制基で置換したものが好ましく、そのようなものから任意に用いることができる。
かかる低分子量フェノール化合物としては、例えば、次のようなものが挙げられる。
ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2,3,4−トリヒドロキシフェニル)メタン、2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(4’−ヒドロキシフェニル)プロパン、2−(2,3,4−トリヒドロキシフェニル)−2−(2’,3’,4’−トリヒドロキシフェニル)プロパン、トリス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−2−ヒドロキシフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシ−2,5−ジメチルフェニル)−2−ヒドロキシフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−3,4−ジヒドロキシフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシ−2,5−ジメチルフェニル)−3,4−ジヒドロキシフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−3,4−ジヒドロキシフェニルメタン、ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシ−6−メチルフェニル)−4−ヒドロキシフェニルメタン、ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシ−6−メチルフェニル)−3,4−ジヒドロキシフェニルメタン、1−[1−(4−ヒドロキシフェニル)イソプロピル]−4−[1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン、フェノール、m−クレゾール、p−クレゾールまたはキシレノールなどのフェノール類のホルマリン縮合物の2、3、4核体などが挙げられる。勿論これらに限定されるものではない。
なお、酸解離性溶解抑制基も特に限定されず、上記したものが挙げられる。
【0080】
<(B)成分>
(B)成分は、熱の作用により酸を発生する成分である。ここで、「熱の作用により酸を発生する」とは、80℃以上200℃以下の加熱により酸を発生することを意味する。
(B)成分としては、従来、化学増幅型レジスト用の酸発生剤として公知のものの中から任意のものを適宜選択して用いることができる。このような酸発生剤としては、これまで、ヨードニウム塩やスルホニウム塩などのオニウム塩系酸発生剤、オキシムスルホネート系酸発生剤、ビスアルキルまたはビスアリールスルホニルジアゾメタン類、ポリ(ビススルホニル)ジアゾメタン類などのジアゾメタン系酸発生剤、ニトロベンジルスルホネート系酸発生剤、イミノスルホネート系酸発生剤、ジスルホン系酸発生剤など多種のものが知られている。
なお、これらの酸発生剤は、一般的に、露光により酸を発生する光酸発生剤(PAG)として知られているが、熱の作用により酸を発生する熱酸発生剤(TAG)としても機能する。そのため、(B)成分としては、従来フォトリソグラフィーに用いられているPAGを利用することができる。
【0081】
オニウム塩系酸発生剤の具体例としては、ジフェニルヨードニウムトリフルオロメタンスルホネート、(4−メトキシフェニル)フェニルヨードニウムトリフルオロメタンスルホネート、ビス(p−tert−ブチルフェニル)ヨードニウムトリフルオロメタンスルホネート、トリフェニルスルホニウムトリフルオロメタンスルホネート、(4−メトキシフェニル)ジフェニルスルホニウムトリフルオロメタンスルホネート、(4−メチルフェニル)ジフェニルスルホニウムノナフルオロブタンスルホネート、(p−tert−ブチルフェニル)ジフェニルスルホニウムトリフルオロメタンスルホネート、ジフェニルヨードニウムノナフルオロブタンスルホネート、ビス(p−tert−ブチルフェニル)ヨードニウムノナフルオロブタンスルホネート、トリフェニルスルホニウムノナフルオロブタンスルホネートが挙げられる。これらのなかでもフッ素化アルキルスルホン酸イオンをアニオンとするオニウム塩が好ましい。
【0082】
オキシムスルホネート系酸発生剤としては、たとえば、一般式>C=N−O−SO−R31[式中、R31は、置換基を有していてもよいアルキル基またはアリール基である。]で表される構造を有するオキシムスルホネート系化合物が挙げられる。
オキシムスルホネート系化合物としては、α‐(メチルスルホニルオキシイミノ)‐フェニルアセトニトリル、α‐(メチルスルホニルオキシイミノ)‐p‐メトキシフェニルアセトニトリル、α‐(トリフルオロメチルスルホニルオキシイミノ)‐フェニルアセトニトリル、α‐(トリフルオロメチルスルホニルオキシイミノ)‐p‐メトキシフェニルアセトニトリル、α‐(エチルスルホニルオキシイミノ)‐p‐メトキシフェニルアセトニトリル、α‐(プロピルスルホニルオキシイミノ)‐p‐メチルフェニルアセトニトリル、α‐(メチルスルホニルオキシイミノ)‐p‐ブロモフェニルアセトニトリル、下記式(B−1)で表される化合物などが挙げられる。これらの中で、α‐(メチルスルホニルオキシイミノ)‐p‐メトキシフェニルアセトニトリル、式(B−1)で表される化合物が好ましい。
【0083】
【化20】

【0084】
ジアゾメタン系酸発生剤の具体例としては、ビス(イソプロピルスルホニル)ジアゾメタン、ビス(p−トルエンスルホニル)ジアゾメタン、ビス(1,1−ジメチルエチルスルホニル)ジアゾメタン、ビス(シクロヘキシルスルホニル)ジアゾメタン、ビス(2,4−ジメチルフェニルスルホニル)ジアゾメタン等が挙げられる。
【0085】
(B)成分として、1種の酸発生剤を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(B)成分の使用量は、(A)成分100質量部に対し、1〜20質量部、好ましくは2〜10質量部とされる。上記範囲の下限値以上とすることにより充分はパターン形成が行われ、上記範囲の上限値以下であれば溶液の均一性が得られやすく、良好な保存安定性が得られる。
【0086】
<(C)成分>
上述したように、本発明のレジスト組成物がネガ型である場合、当該レジスト組成物には、さらに(C)成分(架橋剤)が配合される。
(C)成分としては、特に限定されず、これまでに知られている化学増幅型のネガ型レジスト組成物に用いられている架橋剤の中から任意に選択して用いることができる。
具体的には、例えば2,3−ジヒドロキシ−5−ヒドロキシメチルノルボルナン、2−ヒドロキシ−5,6−ビス(ヒドロキシメチル)ノルボルナン、シクロヘキサンジメタノール、3,4,8(又は9)−トリヒドロキシトリシクロデカン、2−メチル−2−アダマンタノール、1,4−ジオキサン−2,3−ジオール、1,3,5−トリヒドロキシシクロヘキサンなどのヒドロキシル基又はヒドロキシアルキル基あるいはその両方を有する脂肪族環状炭化水素又はその含酸素誘導体が挙げられる。
また、メラミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、尿素、エチレン尿素、プロピレン尿素、グリコールウリルなどのアミノ基含有化合物にホルムアルデヒド又はホルムアルデヒドと低級アルコールを反応させ、該アミノ基の水素原子をヒドロキシメチル基又は低級アルコキシメチル基で置換した化合物、エポキシ基を有する化合物等が挙げられる。これらのうち、メラミンを用いたものをメラミン系架橋剤、尿素を用いたものを尿素系架橋剤、エチレン尿素、プロピレン尿素等のアルキレン尿素を用いたものをアルキレン尿素系架橋剤、グリコールウリルを用いたものをグリコールウリル系架橋剤という。
(C)成分としては、メラミン系架橋剤、尿素系架橋剤、アルキレン尿素系架橋剤、エポキシ系架橋剤およびグリコールウリル系架橋剤からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、特にメラミン系架橋剤が好ましい。
(C)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対し、1〜50質量部であることが好ましく、3〜30質量部がより好ましく、3〜15質量部がさらに好ましい。(C)成分の含有量が下限値以上であると、架橋形成が充分に進行し、良好なレジストパターンが得られる。またこの上限値以下であると、レジスト塗布液の保存安定性が良好であり、感度の経時的劣化が抑制される。
【0087】
<その他の任意成分>
本発明のレジスト組成物には、レジストパターン形状、引き置き経時安定性などを向上させるために、さらに任意の成分として、含窒素有機化合物(D)(以下、(D)成分という)を配合させることができる。
この(D)成分は、既に多種多様なものが提案されているので、公知のものから任意に用いれば良く、なかでも脂肪族アミン、特に第2級脂肪族アミンや第3級脂肪族アミンが好ましい。ここで、本特許請求の範囲及び明細書における「脂肪族」とは、芳香族に対する相対的な概念であって、芳香族性を持たない基、化合物等を意味するものと定義する。「脂肪族環式基」は、芳香性を持たない単環式基または多環式基であることを示す。脂肪族アミンとは、1つ以上の脂肪族基を有するアミンであり、該脂肪族基は炭素数が1〜12であることが好ましい。
脂肪族アミンとしては、アンモニアNHの水素原子の少なくとも1つを、炭素数12以下のアルキル基またはヒドロキシアルキル基で置換したアミン(アルキルアミンまたはアルキルアルコールアミン)又は環式アミンが挙げられる。
アルキルアミンおよびアルキルアルコールアミンの具体例としては、n−ヘキシルアミン、n−ヘプチルアミン、n−オクチルアミン、n−ノニルアミン、n−デシルアミン等のモノアルキルアミン;ジエチルアミン、ジ−n−プロピルアミン、ジ−n−ヘプチルアミン、ジ−n−オクチルアミン、ジシクロヘキシルアミン等のジアルキルアミン;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、トリ−n−ヘキシルアミン、トリ−n−ペンチルアミン、トリ−n−ヘプチルアミン、トリ−n−オクチルアミン、トリ−n−ノニルアミン、トリ−n−デカニルアミン、トリ−n−ドデシルアミン等のトリアルキルアミン;ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジ−n−オクタノールアミン、トリ−n−オクタノールアミン等のアルキルアルコールアミンが挙げられる。これらの中でも、アルキルアルコールアミン、トリアルキルアミンが好ましく、アルキルアルコールアミンがより好ましい。アルキルアルコールアミンの中でも、トリエタノールアミンやトリイソプロパノールアミンが最も好ましい。
環式アミンとしては、たとえば、ヘテロ原子として窒素原子を含む複素環化合物が挙げられる。該複素環化合物としては、単環式のもの(脂肪族単環式アミン)であっても多環式のもの(脂肪族多環式アミン)であってもよい。
脂肪族単環式アミンとして、具体的には、ピペリジン、ピペラジン等が挙げられる。
脂肪族多環式アミンとしては、炭素数が6〜10のものが好ましく、具体的には、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、ヘキサメチレンテトラミン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン等が挙げられる。
これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(D)成分は、(A)成分100質量部に対して、通常0.01〜5.0質量部の範囲で用いられる。
【0088】
本発明のレジスト組成物には、感度劣化の防止や、レジストパターン形状、引き置き経時安定性等の向上の目的で、任意の成分として、有機カルボン酸、ならびにリンのオキソ酸およびその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の化合物(E)(以下、(E)成分という)を含有させることができる。
有機カルボン酸としては、例えば、酢酸、マロン酸、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、安息香酸、サリチル酸などが好適である。
リンのオキソ酸およびその誘導体としては、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸等が挙げられ、これらの中でも特にホスホン酸が好ましい。
リンのオキソ酸の誘導体としては、たとえば、上記オキソ酸の水素原子を炭化水素基で置換したエステル等が挙げられ、前記炭化水素基としては、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基等が挙げられる。
リン酸の誘導体としては、リン酸ジ−n−ブチルエステル、リン酸ジフェニルエステル等のリン酸エステルなどが挙げられる。
ホスホン酸の誘導体としては、ホスホン酸ジメチルエステル、ホスホン酸−ジ−n−ブチルエステル、フェニルホスホン酸、ホスホン酸ジフェニルエステル、ホスホン酸ジベンジルエステル等のホスホン酸エステルなどが挙げられる。
ホスフィン酸の誘導体としては、フェニルホスフィン酸等のホスフィン酸エステルなどが挙げられる。
(E)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
(E)成分としては、有機カルボン酸が好ましく、特にサリチル酸が好ましい。
(E)成分は、(A)成分100質量部に対して、通常0.01〜5.0質量部の割合で用いられる。
【0089】
本発明のレジスト組成物には、さらに、所望により、混和性のある添加剤、例えばレジスト膜の性能を改良するための付加的樹脂、塗布性を向上させるための界面活性剤、溶解抑制剤、可塑剤、安定剤、着色剤、ハレーション防止剤、染料などを適宜、添加含有させることができる。
【0090】
上記本発明のレジスト組成物は、熱リソグラフィー用下層膜に吸収される波長の光に感光しない。すなわち熱リソグラフィーで使用する露光光源に対して感度を有さない。
本発明において、前記(A)成分および(B)成分としては、化学増幅型レジスト組成物に一般的に用いられているものが利用できるが、これらの成分を含有する本発明のレジスト組成物は、通常、250nm以下の波長の光、たとえばKrFエキシマレーザー、ArFエキシマレーザー等のエキシマレーザーや、それよりも短波長の光源に感光する一方、350nm以上の波長の光、たとえば可視光レーザーには感光しない。
したがって、熱リソグラフィーの露光光源としては、波長350nm以上の光が好ましく用いられる。また、熱リソグラフィー用下層膜としては、波長350nm以上の光を吸収するものが好ましく用いられる。詳しくは下記本発明のレジスト積層体で説明する。
【0091】
≪レジスト積層体≫
本発明のレジスト積層体は、支持体上に、熱リソグラフィー用下層膜と、レジスト膜とが積層されてなるレジスト積層体である。
【0092】
<支持体>
支持体としては、特に限定されず、従来公知のものを用いることができ、例えば、電子部品用の基板や、これに所定の配線パターンが形成されたもの等を例示することができる。より具体的には、シリコンウェーハ、銅、クロム、鉄、アルミニウム等の金属製の基板や、ガラス(石英ガラス等)基板等が挙げられる。配線パターンの材料としては、例えば銅、アルミニウム、ニッケル、金等が使用可能である。また、基板上に、無機系および/または有機系の反射防止膜が設けられていてもよい。
【0093】
<熱リソグラフィー用下層膜>
熱リソグラフィー用下層膜としては、熱リソグラフィーにおいて用いられる露光光源の波長の光を吸収するものであればよく、たとえば背景技術で挙げたTbFeCo層、酸化プラチナGeSbTe層等の無機材料を用いてもよい。しかし、これらの無機材料は、高価なものが多く、また、レジストパターン形成後、基板エッチング等の加工性が悪いなどの問題があることから、熱リソグラフィー用下層膜としては、有機材料から構成される膜(有機膜)が好ましい。
本発明においては、かかる有機膜と、前記本発明のレジスト組成物を用いて形成されるレジスト膜とを用いることによって、無機材料を用いることなく、有機材料のみを用いて熱リソグラフィーを行うことができる。また、熱リソグラフィー用下層膜が有機膜であると、従来のエッチング法、好適にはドライエッチング法でエッチング可能であるため、当該熱リソグラフィー用下層膜上のレジスト膜にレジストパターンを形成した後、該レジストパターンをマスクとしてエッチングを行うことにより、当該レジストパターンを容易に下層膜に転写することができるなど、加工性に優れる。
なお、熱リソグラフィー用下層膜は、レジスト膜のような、光や電子線に対する感受性を必ずしも必要とするものではない。
【0094】
本発明において、熱リソグラフィー用下層膜は、膜形成能を有する有機化合物(A’)(以下、(A’)成分ということがある。)、および熱リソグラフィーにおいて用いられる露光光源の波長の光を吸収する染料(B’)(以下、(B’)成分ということがある。)を含有する有機膜(以下、有機下層膜ということがある。)であることが好ましい。
また、前記有機下層膜は、熱リソグラフィーで使用する露光光源の波長において、膜厚100nmあたり0.26以上の吸光度を有することが好ましい。該吸光度が0.26以上であることにより、熱リソグラフィーにおいて、当該下層膜が、露光光源から照射された光を吸収した際に、当該下層膜上のレジスト膜中の(B)成分から酸を発生させるのに充分な温度の熱を発生することができる。
前記吸光度は、膜厚100nmあたり、0.28以上が好ましく、0.30以上がより好ましい。
前記吸光度の上限値としては、特に制限はなく、熱干渉の影響等を考慮すると、膜厚100nmあたり、0.60以下が好ましく、0.50以下がより好ましい。
【0095】
前記吸光度は、(A’)成分や(B’)成分の種類や配合量を調節することにより調節できる。たとえば(B’)成分の含有量が多いほど、また、(B’)成分の光吸収能が高いほど、前記吸光度が大きくなる。また、(A’)成分が、(B’)成分と同様に、熱リソグラフィーにおいて用いられる露光光源の波長の光を吸収する(以下、単に「光吸収性を有する」ということがある。)化合物である場合は、(A’)成分の種類や配合量を調節することによっても前記吸光度を調節できる。
本明細書および特許請求の範囲において、前記吸光度は、(A’)成分および(B’)成分を含有する熱リソグラフィー用下層膜形成用材料を用いて石英基板上に有機下層膜を成膜し、該有機下層膜について、露光光源の波長における吸光度を測定し、その値と、当該有機下層膜の膜厚とから、有機下層膜の膜厚100nmあたりの吸光度を算出することにより求められる。
このとき、有機下層膜の成膜は、前記熱リソグラフィー用下層膜形成用材料の有機溶剤溶液を、石英基板上に、スピンコートにより塗布し、ベークすることにより行うことができる。ベーク温度は、特に制限はなく、使用する(A’)成分に応じて適宜設定すればよい。
有機下層膜の吸光度は、たとえば市販の分光光度計を用いて測定することができる。
【0096】
<熱リソグラフィー用下層膜形成用材料>
[(A’)成分]
(A’)成分としては、膜形成能を有する有機化合物であればよく、膜形成能に優れることから、分子量が500以上の有機化合物が好ましい。
(A’)成分としては、特に制限はなく、半導体素子や液晶表示素子の製造において被膜形成用樹脂として一般的に用いられている有機化合物や低分子化合物、たとえばレジスト膜、有機系の反射防止膜等の基材成分として用いられている樹脂や低分子化合物を用いることができる。前記樹脂としては、たとえばノボラック樹脂、ヒドロキシスチレンから誘導される構成単位を有する樹脂(ポリヒドロキシスチレン、ヒドロキシスチレン−スチレン共重合体等)、アクリル酸エステルから誘導される構成単位を有する樹脂、シクロオレフィンから誘導される構成単位を有する樹脂、可溶性ポリイミド等が挙げられる。
本発明においては、特に、酸素プラズマによるエッチングを行いやすいこと、レジストパターン形成後の後工程でシリコン基板等のエッチングに用いられているフッ化炭素系ガスに対する耐性が強いこと等の利点を有することから、ノボラック樹脂、アクリル樹脂及び可溶性ポリイミドからなる群から選択される少なくとも一種を主成分とするものが(A’)成分として好ましく用いられる。これらの中でも、ノボラック樹脂、及び側鎖に脂環式部位又は芳香族環を有するアクリル樹脂は、安価で汎用的に用いられ、後工程のドライエッチング耐性に優れるので、好ましく用いられる。
【0097】
ノボラック樹脂としては、ポジ型レジスト組成物に一般的に用いられているものが使用可能であるし、ノボラック樹脂を主成分として含むi線やg線用のポジレジストも使用可能である。
ノボラック樹脂は、市販されているものを使用してもよく、合成してもよい。
ノボラック樹脂は、例えば、フェノール性水酸基を持つ芳香族化合物(以下、単に「フェノール類」という。)とアルデヒド類とを酸触媒下で付加縮合させることにより得られる。
フェノール類としては、例えばフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、o−エチルフェノール、m−エチルフェノール、p−エチルフェノール、o−ブチルフェノール、m−ブチルフェノール、p−ブチルフェノール、2,3−キシレノール、2,4−キシレノール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、3,4−キシレノール、3,5−キシレノール、2,3,5−トリメチルフェノール、3,4,5−トリメチルフェノール、p−フェニルフェノール、レゾルシノール、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、ピロガロール、フロログリシノール、ヒドロキシジフェニル、ビスフェノールA、没食子酸、没食子酸エステル、α−ナフトール、β−ナフトール等が挙げられる。
特に、m−クレゾールを含むフェノール類を用いて得られるノボラック樹脂は、埋め込み特性が良好であり好ましい。かかるノボラック樹脂を得るために用いられるフェノール類中のm−クレゾールの割合は、好ましくは20〜100モル%、より好ましくは40〜90モル%である。
また、フェノール類が、m−クレゾールに加えて、さらにp−クレゾールを含むと、下層膜の成膜性が向上するので好ましい。下層膜の成膜性が向上すると、下層膜の上にレジスト組成物を塗布してレジスト膜を設ける際のインターミキシングの発生が防止される。p−クレゾールを含む場合、その割合は、フェノール類中、好ましくは10〜50モル%、より好ましくは15〜30モル%である。
アルデヒド類としては、例えばホルムアルデヒド、フルフラール、ベンズアルデヒド、ニトロベンズアルデヒド、アセトアルデヒド等が挙げられる。工業的生産性等を考慮すると、ホルムアルデヒドが最も好ましい。
付加縮合反応時の触媒は、特に限定されるものではないが、例えば酸触媒では、塩酸、硝酸、硫酸、蟻酸、蓚酸、酢酸等が使用される。
【0098】
ノボラック樹脂の質量平均分子量(Mw)は、3000以上が好ましく、5000以上がより好ましく、6000以上がより好ましく、7000以上がさらに好ましく、8000以上が特に好ましい。また、Mwは、50000以下が好ましく、30000以下がより好ましく、10000以下がさらに好ましく、9000以下が特に好ましい。
Mwが3000以上であると、高温でベークしたときに昇華しにくく、装置等が汚染されにくい。また、Mwを5000以上とすることにより、フッ化炭素系ガス等に対する耐エッチング性が優れるので好ましい。
また、Mwが50000以下であると、微細な凹凸を有する基板に対する良好な埋め込み特性が優れ、特に10000以下であると、ドライエッチングしやすい傾向があり、好ましい。
【0099】
ノボラック樹脂は、分子量500以下の低核体の含有量、特に分子量200以下の低核体の含有量が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法において1質量%以下であることが好ましく、0.8質量%以下であることがより好ましい。低核体の含有量は、少ないほど好ましく、望ましくは0質量%である。
上記範囲内のMwを有するノボラック樹脂において、分子量500以下の低核体の含有量が1質量%以下であることにより、微細な凹凸を有する基板に対する埋め込み特性が良好になる。低核体の含有量が低減されていることにより埋め込み特性が良好になる理由は明らかではないが、分散度が小さくなるためと推測される。さらに、低核体の含有量が低減されていることにより、該樹脂を含む下層膜の有機溶剤に対する耐性も向上する。したがって、下層膜上にレジスト組成物を塗布した際に、レジスト組成物に含まれる有機溶剤によるインターミキシングが生じにくい。
ここで、「分子量500以下の低核体」とは、ポリスチレンを標準としてGPC法により分析した際に分子量500以下の低分子フラクションとして検出されるものである。「分子量500以下の低核体」には、重合しなかったモノマーや、重合度の低いもの、例えば、分子量によっても異なるが、フェノール類2〜5分子がアルデヒド類と縮合したものなどが含まれる。
分子量500以下の低核体の含有量(質量%)は、このGPC法による分析結果を、横軸にフラクション番号、縦軸に濃度をとってグラフとし、全曲線下面積に対する、分子量500以下の低分子フラクションの曲線下面積の割合(%)を求めることにより測定される。
【0100】
ノボラック樹脂のMwの調整及び分子量500以下の低核体の除去は、例えば以下のような分別沈殿処理によって行うことができる。まず、ノボラック樹脂を極性溶媒に溶解し、この溶液に対し、水、ヘプタン、ヘキサン、ペンタン、シクロヘキサン等の貧溶媒を加える。このとき、分子量500以下の低核体は貧溶媒に溶解したままであるので、析出物をろ取することにより、分子量500以下の低核体の含有量が低減された本発明の下地材用樹脂を得ることができる。
前記極性溶媒としては、例えばメタノール、エタノール等のアルコール、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のグリコールエーテルエステル、テトラヒドロフラン等の環状エーテルなどを挙げることができる。
析出物(本発明の下地材用樹脂)のMw及び分子量500以下の低核体の含有量は、上述のように、GPC法により確認することができる。
【0101】
アクリル樹脂としては、レジスト組成物に一般的に用いられているものが使用可能であり、例えば、エーテル結合を有する重合性化合物から誘導された構成単位と、カルボキシ基を有する重合性化合物から誘導された構成単位を含有するアクリル樹脂を挙げることができる。
エーテル結合を有する重合性化合物としては、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等のエーテル結合及びエステル結合を有する(メタ)アクリル酸誘導体等を例示することができる。これらの化合物は、いずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。なお、本明細書において(メタ)アクリレートはアクリレートとメタクリレートの一方または両方を示す。
カルボキシ基を有する重合性化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などのモノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのジカルボン酸;2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸、2−メタクリロイルオキシエチルマレイン酸、2−メタクリロイルオキシエチルフタル酸、2−メタクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸などのカルボキシ基及びエステル結合を有する化合物等を例示することができ、好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸である。これらの化合物は、いずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0102】
可溶性ポリイミドとは、有機溶剤により液状にできるポリイミドである。
【0103】
(A’)成分は、光吸収性を有する化合物(以下、(A’−1)成分という。)であってもよく、光吸収性を有さない化合物(以下、(A’−2)成分という。)であってもよい。本発明の効果に優れることから、(A’)成分が、(A’−1)成分であることが好ましい。すなわち、(A’)成分が光吸収性を有することにより、所望の吸光度を達成するために必要な(B’)成分の量を低減できる。そのため、たとえば成膜時の加熱による昇華物の発生やそれに伴う歩留りの悪化、溶液とした際の析出物の発生等の、(B’)成分を含有することにより生じるおそれがあるリスクを低減できる。
【0104】
(A’−1)成分としては、たとえば、前記(A’)成分として挙げた有機化合物のうち、熱リソグラフィーにおいて用いられる露光光源の波長の光を吸収する分子構造を有するものが挙げられる。
(A’−2)成分としては、(A’)成分として挙げた有機化合物のうち、前記(A’−1)成分に該当しないもの、すなわち熱リソグラフィーにおいて用いられる露光光源の波長の光を吸収しないものが挙げられる。
当該有機化合物が前記光を吸収するかどうかは、前術した吸光度の測定方法と同様に、当該有機化合物の有機溶剤を用いて有機膜を形成し、該有機膜について、露光光源の波長における吸光度を測定することにより確認できる。
【0105】
[(B’)成分]
(B’)成分としては、熱リソグラフィーにおいて用いられる露光光源の波長の光を吸収する有機化合物であれば特に制限はなく、使用する露光光源の波長に応じて、市販の染料のなかから適宜選択して用いればよい。
当該染料が、使用する露光光源の波長の光を吸収するかどうかは、メーカーから出されているパンフレット等を参照すればよく、また、分光光度計を用いて常法により測定してもよい。
前記本発明のレジスト組成物は、通常、250nm以下の波長の光、たとえばKrFエキシマレーザー、ArFエキシマレーザー等のエキシマレーザーや、それよりも短波長の光源に感光する一方、350nm以上の波長の光、たとえば可視光レーザーには感光しない。したがって、(B’)成分としては、350nm以上の波長の光を吸収する化合物が好ましく、可視光レーザーを吸収する染料がより好ましい。特に、波長350〜800nmの光を吸収する染料が好ましく、350〜550nmの光を吸収する染料がさらに好ましく、350〜450nmの光を吸収する染料が最も好ましい。
たとえば、400nm付近の波長の光を吸収する化合物としては、主に黄色染料として用いられている化合物が挙げられ、具体例としては、商品名:OY−105、OY−107、OY−108、OY−129、OY−3G、OY−GG−S(オリエント化学社製)、Diaresin Yellow F,Diaresin A(三菱化学社製)、Soldan Yellow GRN(中外化成社製)、Sumiplast Yellow GG, Sumiplast Yellow F5G, Sumiplast Yellow FG(住友化学社製)、CH−1002(ダイトーケミックス社製)などがある。
【0106】
(B’)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いても良い。
(B’)成分の配合量は、熱リソグラフィー用下層膜の吸光度が、前記露光光源の波長において、膜厚100nmあたり0.26以上となる量であればよく、所望の吸光度、使用する(B’)成分の種類、前記(A’)成分が露光光源の波長を吸収するかどうか等に応じて適宜調整すればよい。
(B’)成分の好ましい配合量は、(A’)成分100質量部に対して、1〜100質量部であり、より好ましくは5〜80質量部であり、最も好ましくは10〜60質量部である。1質量部以上であると、吸光度が向上し、100質量部以下であると塗付性が向上する。
【0107】
[ナフトキノンジアジドスルホン酸によりエステル化された分子量200以上のフェノール誘導体(C’)]
上記(A’)成分がノボラック樹脂である場合、熱リソグラフィー用下層膜形成用材料は、さらに、ナフトキノンジアジドスルホン酸によりエステル化された分子量200以上のフェノール誘導体(C’)(以下、(C’)成分という)を含有することが好ましい。
ここで、上記ナフトキノンジアジドスルホン酸とは、ナフトキノンジアジドスルホン酸ハロンゲン化物のような反応性誘導体も含むものとする。かかる反応性誘導体は、フェノール化合物との反応性に優れることから、(C’)成分を得るために好適に用いられる。
すなわち、(C’)成分には、上記ナフトキノンジアジドスルホン酸として、ナフトキノンジアジドスルホン酸クロライドのようなハロゲン化物を用いてエステル化されたフェノール誘導体も含まれる。
(C’)成分を含有することにより、熱リソグラフィー用下層膜の成膜性が向上する。(C’)成分を用いることにより成膜性が向上する理由としては、200℃以上の温度での加熱により、(C’)成分がノボラック樹脂に対し、架橋剤として働くことが考えられる。また、(C’)成分を用いると、一般的に用いられている架橋剤を用いるよりも、昇華物の発生が少ない。これは、(C’)成分が、ノボラック樹脂との間で架橋を形成しやすく、ノボラック樹脂中の低核体や、未架橋の(C’)成分に由来する昇華物の発生が少ないためと推測される。
また、成膜性が向上するため、比較的低温での加熱により成膜した場合でも、エッチング耐性や有機溶剤耐性に優れた下層膜が得られる。すなわち、(A1)成分として用いるノボラック樹脂によっても異なるが、(C’)成分を含有しない場合は、充分な成膜のためには例えば300℃程度の温度で加熱することが好ましいが、(C’)成分を含有することにより、例えば200℃程度の温度でも、充分な成膜を行うことができる。
【0108】
(C’)成分の分子量は、200以上であればよく、300以上が好ましく、500以上がより好ましい。分子量が大きいほど、成膜性に優れる。
分子量の上限は、特に制限はないが、溶解性を考慮すると、2000以下が好ましく、1000以下がより好ましい。
【0109】
(C’)成分として、より具体的には、例えば特開2002−278062号公報においてポジ型感光性樹脂組成物の感光性成分として提案されている、下記一般式(c’−1)または(c’−2)で表される化合物が挙げられる。
【0110】
【化21】

[式(c’−1)中、D〜Dは、それぞれ独立にナフトキノン−1,2−ジアジドスルホニル基または水素原子であって、それらの中の少なくとも1個がナフトキノン−1,2−ジアジドスルホニル基であり;a、bおよびcはそれぞれ独立に0〜3の整数である。式(c’−2)中、D〜Dは、それぞれ独立にナフトキノン−1,2−ジアジドスルホニル基または水素原子であって、それらの中の少なくとも1個がナフトキノン−1,2−ジアジドスルホニル基であり;d、eおよびfはそれぞれ独立に0〜3の整数である。]
【0111】
(C’)成分としては、特に、ビス(5−シクロヘキシル−4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)−3,4−ヒドロキシフェニルメタンとナフトキノン−1,2−ジアジド−5−スルホニルクロリドとのエステル化反応生成物が、優れた成膜性改善効果を有しているため好ましい。
【0112】
(C’)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いても良い。
(C’)成分の配合量は、(A’)成分100質量部に対して、好ましくは0.5〜20質量部、より好ましくは5〜15質量部である。
【0113】
[他の任意成分]
熱リソグラフィー用下層膜形成用材料は、さらに、本発明の効果を損なわない範囲で、(A’)成分等に対して混和性のある添加剤、例えば、塗布性の向上やストリエーション防止のための界面活性剤や、下層膜の性能を改良するための付加的樹脂、架橋剤、溶解抑制剤、可塑剤、安定剤、ハレーション防止剤などを含有しても良い。
界面活性剤としては、XR−104(大日本インキ社製)等のフッ素系界面活性剤が挙げられる。これらの界面活性剤は、単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0114】
[有機溶剤(S’)]
熱リソグラフィー用下層膜形成用材料は、前述の各成分を適当な有機溶剤(S’)(以下、(S’)成分という。)に溶解して溶液の形で用いるのが好ましい。
(S’)成分としては、使用する各成分を溶解し、均一な溶液とすることができるものであればよく、例えばγ−ブチロラクトン等のラクトン類;
アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチル−n−アミルケトン、メチルイソアミルケトン、2−ヘプタノンなどのケトン類;
エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールなどの多価アルコール類;
エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノアセテート、またはジプロピレングリコールモノアセテート等のエステル結合を有する化合物、前記多価アルコール類または前記エステル結合を有する化合物のモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノブチルエーテル等のモノアルキルエーテルまたはモノフェニルエーテル等のエーテル結合を有する化合物等の多価アルコール類の誘導体[これらの中では、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)が好ましい];
ジオキサンのような環式エーテル類や、乳酸メチル、乳酸エチル(EL)、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチルなどのエステル類;
アニソール、エチルベンジルエーテル、クレジルメチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、フェネトール、ブチルフェニルエーテル、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、アミルベンゼン、イソプロピルベンゼン、トルエン、キシレン、シメン、メシチレン等の芳香族系有機溶剤などを挙げることができる。
これらの有機溶剤は、いずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合溶剤として用いてもよい。
【0115】
熱リソグラフィー用下層膜形成用材料の別の態様として、膜形成能を有し、かつ熱リソグラフィーにおいて用いられる露光光源の波長の光を吸収する有機化合物(A”)を含有するものが挙げられる。
本態様の熱リソグラフィー用下層膜形成用材料は、前記(B’)成分を含有しなくともよい。すなわち、有機化合物(A”)が、膜形成能および光吸収能の両方を有しており、(B’)成分としての機能も有するため、(B’)成分を含有しなくても、熱リソグラフィーを実施するのに充分に前記露光光源の波長の光を吸収できる。(B’)成分を含有しなくてもよいため、たとえば成膜時の加熱による昇華物の発生やそれに伴う歩留りの悪化、溶液とした際の析出物の発生等の、(B’)成分を含有することにより生じるおそれがあるリスクを低減できる。
有機化合物(A”)としては、前記(A’−1)成分として挙げたものと同様のものが挙げられる。
本態様の熱リソグラフィー用下層膜形成用材料は、有機化合物(A”)以外の他の成分を含有してもよい。該他の成分としては、上述した(A’−2)成分、(B’)成分、(C’)成分、他の任意成分、(S’)成分等が挙げられる。特に、(B’)成分を併用すると、(A’−1)成分として、光吸収能が比較的低いものを用いても所望の吸光度を達成できるため好ましい。
【0116】
熱リソグラフィー用下層膜の厚さは、好ましくは10〜1000nmであり、より好ましくは50〜800nmであり、さらに好ましくは100〜600nmである。上記の範囲内とすることにより、支持体上に高アスペクト比のパターンが形成でき、基板エッチング時に十分な耐エッチング性が確保できる等の効果がある。また感度がる良好なものとなる。
【0117】
熱リソグラフィー用下層膜は、たとえば、支持体上に、前記熱リソグラフィー用下層膜形成用材料の有機溶剤溶液を、スピンナーなどで塗布し、ベーク処理することにより形成できる。
ベーク条件は、特に制限はなく、使用する(A’)成分の耐熱性等を考慮して適宜設定すればよい。たとえばノボラック樹脂を用いる場合は、150〜350℃で30〜300秒間が好ましく、200〜300℃で60〜180秒間がより好ましい。
前記熱リソグラフィー用下層膜形成用材料が前述した(C’)成分を含有する場合、上記ベーク処理を行うことにより、形成される熱リソグラフィー用下層膜がアルカリ現像液に対して不溶となる。また、有機溶剤に対する耐性も高まり、当該下層膜上にレジスト組成物を塗布してレジスト膜を形成する際にインターミキシングが生じにくくなる。
【0118】
<レジスト膜>
レジスト膜は、前記本発明のレジスト組成物を用いて形成されるものである。該レジスト膜は、熱リソグラフィーにおいて用いられる露光光源の波長の光には感光しない。
レジスト膜の厚さは、好ましくは30〜1000nm、より好ましくは50〜600nm、さらに好ましくは50〜450nmである。この範囲内とすることにより、レジストパターンを高解像度で形成できる、エッチングに対する十分な耐性が得られる等の効果がある。
【0119】
レジスト膜は、たとえば、前記本発明のレジスト組成物を、前記熱リソグラフィー用下層膜上に、スピンナーなどで塗布し、80〜150℃の温度条件下、プレベーク(ポストアプライベーク(PAB))を40〜120秒間、好ましくは60〜90秒間施すことにより形成できる。
このように、前記支持体上に形成された熱リソグラフィー用下層膜上に、前記本発明のレジスト組成物を用いてレジスト膜を形成することにより、本発明のレジスト積層体が得られる。
【0120】
本発明のレジスト積層体は、下記本発明のレジストパターン形成方法に好適に用いられる。
【0121】
≪レジストパターン形成方法≫
本発明のレジストパターン形成方法は、前記本発明のレジスト積層体に対し、前記レジスト膜が感光せず、かつ前記熱リソグラフィー用下層膜に吸収される波長の光を用いて選択的露光を行う工程(露光工程)、および前記レジスト膜をアルカリ現像してレジストパターンを形成する工程(現像工程)を含む。
本発明のレジストパターン形成方法は、例えば以下のようにして行うことができる。
【0122】
(露光工程)
露光光源としては、前記レジスト膜が感光せず、かつ前記熱リソグラフィー用下層膜に吸収される波長の光であればよい。上述したように、本発明のレジスト組成物は、通常、250nm以下の波長の光、たとえばKrFエキシマレーザー、ArFエキシマレーザー等のエキシマレーザーや、それよりも短波長の光源に感光する一方、350nm以上の波長の光、たとえば可視光レーザーには感光しない。
したがって、熱リソグラフィーの露光光源としては、波長350nm以上の光が好ましく、可視光レーザーがより好ましく、特に、波長350〜450nmが好ましい。
選択的露光は、使用する光源に応じ、市販の露光装置を適宜選択して用いることができる。たとえば可視光レーザーを用いる場合には、パルステック社製のナノ加工装置NEO−500(波長405nmの半導体レーザー)が使用できる。この装置は、レンズによって集光した半導体レーザー光を対象物(レジスト積層体)に照射して描画を行う装置である。
【0123】
前記レジスト積層体の表面(レジスト膜側)に対して所定の波長の光を照射すると、該光はレジスト膜を透過して下層膜に吸収され、光を吸収した部分の下層膜(光吸収部)が発熱し、該熱により、光吸収部上のレジスト膜が加熱される。その結果、加熱された部分、すなわち露光された部分のレジスト膜(露光部)中において、前記(B)成分から酸が発生し、該酸の作用により、(A)成分のアルカリ現像液に対する溶解性が変化する。そのため、この後の現像工程でアルカリ現像を行うと、使用したレジスト組成物がポジ型である場合は、露光部が除去され、未露光部が除去されずに残ってレジストパターンが形成される。また、また、使用したレジス組成物がネガ型である場合は、露光部が除去されずに残り、未露光部が除去されてレジストパターンが形成される。
上記光の照射時において、光吸収部において発生する熱の熱分布は、吸収した光の強度分布と同様のものとなり、たとえば光のスポットの場合、中心部に近いほど光の強度が高く、発生する熱も中心部ほど高くなる。熱リソグラフィーの反応は、加熱されたレジスト膜の温度が所定の温度(感熱温度)以上になることにより生じるため、光のスポットの中心部分の、感熱温度以上の高温部(熱スポット)が熱リソグラフィー反応に寄与する。この熱スポットの径は、光のスポット径よりも小さいため、照射する光のスポット径よりも微細な径で描画を行うことができ、結果として、微細なパターンが形成できる。
なお、前記感熱温度は、使用するレジスト組成物によって異なるが、通常、140〜300℃の範囲内である。
【0124】
選択的露光後、レジスト積層体に対し、PEB(露光後加熱)を、80〜150℃の温度条件下、40〜120秒間、好ましくは60〜90秒間施すことが好ましい。
【0125】
(現像工程)
次いで、これをアルカリ現像液、例えば0.05〜10質量%、好ましくは0.05〜3質量%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液を用いて現像処理する。このとき、使用したレジス組成物がポジ型であれば露光部分が、ネガ型であれば未露光部分が選択的に溶解除去されてレジストパターンが形成される。
【0126】
上記のようにしてレジストパターンが形成されたレジスト積層体に対し、さらに、形成されたレジストパターンをマスクパターンとして、前記下層膜をエッチングするエッチング処理を行ってもよい。かかるエッチング処理を行うことにより、下層膜に、レジスト膜のレジストパターンが転写される。これにより、支持体上に、高アスペクト比のパターンが形成される。
下層膜のエッチングは、従来公知のエッチング法を用いて行うことができる。下層膜が有機下層膜である場合、特にドライエッチングが好ましく、中でも酸素プラズマによるエッチングが好ましい。
【0127】
上記本発明のレジスト組成物、レジスト積層体およびレジストパターン形成方法によれば、熱リソグラフィーによって、形状に優れたレジストパターンを形成できる。
これは、本発明のレジスト組成物を支持体上に塗布し、PAB工程およびPEB工程といった加熱工程を経てレジスト膜を成膜した後も、レジスト膜中に適度な量の(S1)成分が残存し、他の成分との間に何らかの相互作用を発揮するためではないかと推測される。すなわち、前記熱リソグラフィー用下層膜上にレジスト膜を形成して熱リソグラフィーを行う場合、露光により下層膜で発生した熱が上層のレジスト膜に伝わり、酸を発生させると考えられるが、このとき、レジスト膜中では、下層膜に近いほど、多くの熱が伝わり、より多くの酸が発生し、レジスト膜内での酸の分布に偏りが生じ、これがレジストパターン形状を悪化させていたと考えられる。
これに対し、本発明においては、レジスト膜中に残存する(S1)成分が、レジスト膜中での酸の拡散を促進し、酸の分布の偏りが改善され、上記効果が得られると推測される。
なお、(S1)成分の代わりに高沸点の有機溶剤(たとえば沸点が160℃以上の有機溶剤)を用いた場合、当該高沸点の有機溶剤は、(S1)成分と同様、レジスト膜中に残存すると思われるが、この場合は本発明の効果が得られない。
【実施例】
【0128】
[製造例1]
(下層膜形成用組成物1の調製)
下記(A’−11)成分100質量部と、下記(C’−11)成分10質量部と、界面活性剤XR−104(大日本インキ化学工業(株)製)0.06質量部と、PGMEA500質量部とを混合、溶解して下層膜用溶液を調整した。次に、前記下層膜用溶液100質量部と、市販の黄色染料OY−108(オリエント化学製)5質量部と、PGMEA60質量部とを混合、溶解して下層膜形成用組成物1を調製した。
(A’−11)成分:Mwが20000であり、分子量500以下の低核体の含有量が0.9質量%のノボラック樹脂[m−クレゾールとp−クレゾールとの混合物(m−クレゾール:p−クレゾール=6:4(質量比))と、ホルムアルデヒドとを、シュウ酸触媒の存在下で常法により縮合させて得たMw12000のノボラック樹脂を、室温で、メタノールに溶解して15質量%溶液とし、そこに、メタノールの2倍量の水を加えて得られた析出物。]。
(C’−11)成分:ビス(5−シクロヘキシル−4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)−3,4−ヒドロキシフェニルメタンと、ナフトキノン−1,2−ジアジド−5−スルホニルクロリドとのエステル化反応生成物。
【0129】
(下層膜の吸光度の測定)
スピンコーター(MIKASA製)を用いて、上記で調製した下層膜形成用組成物1を2インチの石英基板上に塗布し、230℃で15分間ベークすることにより、膜厚100nmの有機膜を成膜して測定用のサンプルを作製した。
このサンプルについて、(株)島津製作所製の「島津磁気分光光度計 UV−3100PC」を用い、下記の測定条件で当該有機膜の吸光度を測定した。
[測定条件]
測定波長の範囲:600nm〜200nm。
吸光度の測定範囲:0〜2.5abs。
スキャン速度:高速。
スリット幅:2.0nm。
サンプリングピッチ:AUTO。
ベースライン:空気[バックグラウンド補正における装置側のリファレンス]、新品の石英基板[バックグラウンド補正におけるサンプル側のリファレンス]。
【0130】
上記測定により得られた波長405nmにおける当該有機膜の吸光度と、当該有機膜の膜厚とから、波長405nmにおける膜厚100nmあたりの吸光度を算出した。その結果、上記下層膜形成用組成物1を用いて形成された下層膜の、波長405nmにおける吸光度は、0.36/膜厚100nmであった。
【0131】
[実施例1、比較例1〜3]
(ポジ型レジスト組成物の調製)
次に、下記表1に示す各成分を混合、溶解してポジ型レジスト組成物を調製した。
【0132】
【表1】

【0133】
(A)−1:下記式(1)で表される2種の構成単位からなる質量平均分子量8000の樹脂であり、式(1)中のmおよびnはそれぞれ、当該樹脂中の各構成単位の割合(単位:モル%)であり、m/n=61/39である。
(A)−2:下記式(2)で表される2種の構成単位からなる質量平均分子量8000の樹脂であり、式(2)中のmおよびnはそれぞれ、当該樹脂中の各構成単位の割合(単位:モル%)であり、m/n=61/39である。
(B)−1:下記式(3)で表される化合物。
(D)−1:トリエタノールアミン。
(E)−1:サリチル酸。
(O)−1:ジメチルアセトアミド。
(S)−1:PGMEA(沸点146℃)。
(S)−2:2−ヘプタノン(沸点151℃)。
(S)−3:質量平均分子量3000のポリプロピレングリコール(粘度6.0cm/s)。
(S)−4:サリチル酸ベンジル(沸点300℃)。
(S)−5:γ−ブチロラクトン(沸点203℃)。
【0134】
【化22】

【0135】
(パターン形成の確認)
スピンコーター(MIKASA製)を用いて、上記で調製した下層膜形成用組成物1を、5インチのSi基板上に塗布し、ホットプレートで230℃、90秒間加熱して膜厚300nmの下層膜を形成した。そして、この下層膜上に、上記で調製したポジ型レジスト組成物を塗布し、ホットプレートで110℃、90秒間加熱して膜厚200nmのレジスト膜を形成し、レジスト積層体を得た。
次に、ナノ加工装置NEO−500(パルステック工業(株)製)において、前記レジスト積層体に対し、レジスト膜側から青色レーザー光(半導体レーザー波長405nm)を、出力16mW、Duty30%で照射した。処理後のレジスト積層体を、130℃、90秒間加熱し、2.38質量%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液中に60秒間浸漬し、さらに純水で洗浄した後、ホットプレートで100℃、60秒間加熱した。
【0136】
各レジスト積層体表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。その結果、実施例1においては、内径900nmのホールが等間隔(ピッチ1200nm)に配置されたレジストパターンの形成が確認できた。また、そのホール形状も良好であった。
一方、比較例1〜3では、ホールは形成されたものの、その形状は、下層膜から離れるほど径が小さくなっており、特に比較例3の場合、レジスト膜表面部分ではほとんど開口していなかった。
【0137】
[比較例4]
石英基板上に、下層膜を形成せずに直接レジスト膜を形成した以外は実施例1と同様にしてパターン形成の確認を行った。その結果、レジストパターンは解像しなかった。
この結果から、実施例1におけるレジストパターンの形成が、青色レーザー光が直接レジスト膜に作用することによるものではなかったことは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱リソグラフィーにおいて用いられる露光光源の波長の光を吸収する熱リソグラフィー用下層膜上に、前記露光光源の波長の光に感光しないレジスト膜を形成するための熱リソグラフィー用レジスト組成物であって、
酸の作用によりアルカリ現像液に対する溶解性が変化する基材成分(A)と、熱の作用により酸を発生する酸発生剤成分(B)とが、ポリアルキレングリコール系溶剤(S1)を含む有機溶剤(S)に溶解してなることを特徴とする熱リソグラフィー用レジスト組成物。
【請求項2】
前記ポリアルキレングリコール系溶剤(S1)が、ポリプロピレングリコールである請求項1に記載の熱リソグラフィー用レジスト組成物。
【請求項3】
さらに、含窒素有機化合物(D)を含有する請求項1または2に記載の熱リソグラフィー用レジスト組成物。
【請求項4】
支持体上に、熱リソグラフィーにおいて用いられる露光光源の波長の光を吸収する熱リソグラフィー用下層膜と、請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱リソグラフィー用レジスト組成物を用いて形成されるレジスト膜とが積層されたレジスト積層体。
【請求項5】
前記熱リソグラフィー用下層膜が、膜形成能を有する有機化合物(A’)と、熱リソグラフィーにおいて用いられる露光光源の波長の光を吸収する染料(B’)とを含有する有機膜である請求項4に記載のレジスト積層体。
【請求項6】
請求項4または5に記載のレジスト積層体に対し、前記レジスト膜が感光せず、かつ前記熱リソグラフィー用下層膜に吸収される波長の光を用いて選択的露光を行う工程、および前記レジスト膜をアルカリ現像してレジストパターンを形成する工程を含むレジストパターン形成方法。

【公開番号】特開2008−233781(P2008−233781A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−76914(P2007−76914)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000220239)東京応化工業株式会社 (1,407)
【Fターム(参考)】