説明

熱交換器用プレコートフィン材及び熱交換器

【課題】暖房運転時の着霜を可及的に防止すると共に、フィン表面が結露し易い条件下では凝縮水の水滴を親水性皮膜に接触させてこの水滴を速やかに排除することができ、通風抵抗を増大させることなく良好な熱交換機能を継続し得るフィン構造を構成することができる熱交換器用プレコートフィン材、及びこのようなフィン構造を備えた熱交換器を提供する。
【解決手段】アルミニウム板材で形成されたフィン基板と、フッ素原子含有基を有する樹脂(A)、4級アンモニウム塩基含有変性エポキシ樹脂(B)及びアミノ樹脂(C)を所定の割合で含む水性撥水塗料組成物で形成され、フィン基板の一方の面に設けられた着霜抑制効果を有する架橋撥水性皮膜と、フィン基板の他方の面に設けられた凝縮水排除効果を有する親水性皮膜とを備えた熱交換器用プレコートフィン材、及び、着霜抑制効果を有する撥水性面と凝縮水排除効果を有する親水性面とが相対面するフィン構造を備えた熱交換器である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板材の表面に優れた着霜抑制効果と凝縮水排除効果とが付与された熱交換器用プレコートフィン材、及びこれを用いて構成されたフィン構造を備えた熱交換器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム板材からなる熱交換器用プレコートフィン材は、所望のフィン形状に成形加工することにより、ヒートポンプエアコン用熱交換器のフィン材として使用されている。しかるに、この熱交換器用プレコートフィン材を用いた熱交換器においては、暖房運転時の室外機において、空気の温度が低い場合や冷媒の蒸発温度が低い場合に、フィンの表面に霜が付着することがあり、そして、着霜するとフィン間が閉塞して通風抵抗が増大し、延いては熱交換器に流入する風量が低下し、室外機の熱交換器の蒸発能力が低下する。このため、熱交換器のフィン表面に霜が付着した際には、この霜を取り除くために、暖房運転を停止して除霜運転を行う必要が生じ、快適性が大きく低下するという問題があった。
【0003】
また、このような着霜を抑える技術として、フィンの表面に撥水性皮膜を形成する方法があるが、この方法においては、着霜によって閉塞する時間を延ばすことはできるが、除霜後や比較的冷媒の温度が高くてフィンの表面に水滴が結露するような条件では、フィン間に凝縮水が付着し、この付着した凝縮水がフィン間でブリッジを形成して通風抵抗が増大し、結果として熱交換性能が低下するという問題がある。
【0004】
このため、暖房運転時の熱交換器の熱効率を向上させるためには、フィン表面の凝縮水を着霜前に排除すると共に、フィン表面を着霜し難い表面にすることが求められており、また、この課題を解決するための手段としては、フィン表面に親水性皮膜を形成し、凝縮水を薄い水膜として流下させる親水処理方法(特許文献1〜3)、フィン表面に撥水性皮膜を形成し、凝縮水を早期に排除する撥水処理方法(特許文献4〜6)、及び、フィンの配置や部位に応じて撥水性皮膜と親水性皮膜とを形成し、これら撥水性皮膜及び親水性皮膜の長所及び短所を互いに補う撥水・親水処理方法(特許文献7〜9)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09-014,888号公報
【特許文献2】特開2000-028,291号公報
【特許文献3】特開2010-223,520号公報
【特許文献4】特開平08-269,367号公報
【特許文献5】特開平09-026,286号公報
【特許文献6】特開2009-270,181号公報
【特許文献7】特開平08-152,287号公報
【特許文献8】特許第3,761,262号公報
【特許文献9】特開2006-046,695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1〜3の親水処理方法においては、薄い水膜として流下する機能が十分ではなく、暖房運転を行なった際に着霜を抑制する除霜性が十分でなく、また、特許文献4〜6の撥水処理方法においても、撥水性が十分でなく、結露した水滴を確実に排除して着霜を抑制する除霜性が十分でなく、更に、特許文献7〜9においては、フィンの配置や部位に応じて形成される撥水性皮膜及び親水性皮膜、特に撥水性皮膜において、その撥水性能や親水性能、特に撥水性能について必ずしも十分ではなく、満足し得る着霜抑制効果を達成できるまでには至っておらず、また、凝縮水によるフィン間の通風抵抗増大の問題を十分に解決できるまでには至っていない。
【0007】
そこで、本発明者らは、これら従来技術の問題点に鑑み、優れた着霜抑制効果と凝縮水排除効果とを有する熱交換器用プレコートフィン材の開発を行い、このプレコートフィン材を用いて着霜抑制効果と凝縮水排除効果とを協働させることにより、暖房運転時に着霜が無く、しかも、凝縮水によるフィン間通風抵抗増大の問題もないフィン構造を備えた熱交換器を開発することについて鋭意検討を重ねた結果、撥水性皮膜中に特定の架橋構造を導入して得られた架橋撥水性皮膜が着霜抑制効果に優れており、また、この架橋撥水性皮膜を凝縮水排除効果に優れた親水性皮膜と相対面させて協働させることにより、優れた着霜抑制効果と優れた凝縮水排除効果とを兼ね備えたフィン構造を構成できることを見い出し、本発明を完成した。
【0008】
従って、本発明の目的は、一方の面に優れた着霜抑制効果を有する架橋撥水性皮膜を有すると共に、他方の面に凝縮水排除効果を有する親水性皮膜を有する熱交換器用プレコートフィン材を提供することにある。
【0009】
また、本発明の他の目的は、前記熱交換器用プレコートフィン材からなる片面撥水性/片面親水性フィン材を用い、あるいは、両面に優れた着霜抑制効果を有する架橋撥水性皮膜を備えた両面撥水性フィン材と、両面に優れた凝縮水排除効果を有する親水性皮膜を備えた両面親水性フィン材とを用い、優れた着霜抑制効果を有する架橋撥水性皮膜と優れた凝縮水排除効果を有する親水性皮膜とを相対面させて協働させ、暖房運転時の着霜を可及的に防止すると共に、フィン表面が結露し易い条件下では凝縮水の水滴を親水性皮膜に接触させてこの水滴を速やかに排除することができ、これによって通風抵抗を増大させることなく良好な熱交換機能を継続し得るフィン構造を備えた熱交換器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板材で形成されたフィン基板と、このフィン基板の一方の面に設けられた着霜抑制効果を有する架橋撥水性皮膜と、フィン基板の他方の面に設けられた凝縮水排除効果を有する親水性皮膜とを備えた熱交換器用のプレコートフィン材であって、前記架橋撥水性皮膜が、パーフルオロアルキル基及びパーフルオロアルケニル基からなる群より選ばれる少なくとも1種のフッ素原子含有基を有する樹脂(A)、4級アンモニウム塩基含有変性エポキシ樹脂(B)及びアミノ樹脂(C)を含有し、4級アンモニウム塩基含有変性エポキシ樹脂(B)とアミノ樹脂(C)の固形分合計100質量部に対して、パーフルオロアルキル基及びパーフルオロアルケニル基からなる群より選ばれる少なくとも1種のフッ素原子含有基を有する樹脂(A)の固形分が1〜30質量部である水性撥水塗料組成物から形成されていることを特徴とする熱交換器用プレコートフィン材である。
【0011】
また、本発明は、多数の平板状のプレコートフィン材が互いに所定の間隔でかつ平行に配置され、かつ、互いに隣接するプレコートフィン材間において着霜抑制効果を有する撥水性面と凝縮水排除効果を有する親水性面とが相対面するフィン構造を備えた熱交換器であり、前記多数のプレコートフィン材が、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板材で形成されたフィン基板の一方の面に撥水性面を形成する架橋撥水性皮膜を有すると共に他方の面に親水性面を形成する親水性皮膜を有する多数の片面撥水性/片面親水性フィン材で構成されており、あるいは、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板材で形成されたフィン基板の両面に撥水性面を形成する架橋撥水性皮膜を有する複数の両面撥水性フィン材と、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板材で形成されたフィン基板の両面に親水性面を形成する親水性皮膜を有する複数の両面親水性フィン材とで構成されており、前記架橋撥水性皮膜が、パーフルオロアルキル基及びパーフルオロアルケニル基からなる群より選ばれる少なくとも1種のフッ素原子含有基を有する樹脂(A)、4級アンモニウム塩基含有変性エポキシ樹脂(B)及びアミノ樹脂(C)を含有し、4級アンモニウム塩基含有変性エポキシ樹脂(B)とアミノ樹脂(C)の固形分合計100質量部に対して、パーフルオロアルキル基及びパーフルオロアルケニル基からなる群より選ばれる少なくとも1種のフッ素原子含有基を有する樹脂(A)の固形分が1〜30質量部である水性撥水塗料組成物から形成されていることを特徴とする熱交換器である。
【0012】
本発明において、前記フィン基板を形成するアルミニウム板材については、それが純アルミニウムからなるものであっても、また、アルミニウム合金からなるものであってもよく、特に制限されるものではないが、フィン基板については、耐食性の観点から、好ましくは、その両面に耐食性皮膜が設けられているのがよい。
【0013】
この目的で上記フィン基板の両面に設けられる耐食性皮膜は、フィン基板の両面に耐食性処理剤を塗布して形成されるものであり、ここで使用される耐食性処理剤としては、例えば、クロメート処理剤、リン酸クロメート処理剤、クロムフリー化成処理剤、有機系の耐食性プライマー等を挙げることができ、環境に配慮した耐食性皮膜という観点から、クロムフリー化成処理剤や有機系の耐食性プライマーが好ましい。
【0014】
本発明においては、熱交換器用プレコートフィン材として、上記フィン基板の一方の面に撥水性面を形成する架橋撥水性皮膜が設けられると共に他方の面に親水性面を形成する親水性皮膜が設けられて片面撥水性/片面親水性フィン材が形成されるか、あるいは、上記フィン基板の両面に着霜抑制効果を有する架橋撥水性皮膜が設けられて両面撥水性フィン材が形成されるが、この着霜抑制効果を有する架橋撥水性皮膜については、後述するフッ素原子含有基を有する樹脂(A)、4級アンモニウム塩基含有変性エポキシ樹脂(B)及びアミノ樹脂(C)を含有する水性撥水塗料組成物から形成される撥水性皮膜が架橋構造を形成することが必要である。
【0015】
ここで、上記着霜抑制効果を有する架橋撥水性皮膜については、その水接触角が好ましくは100°以上、より好ましくは105°以上であり、また、その膜厚が通常0.05〜5.0μm、好ましくは0.1〜4.0μm、より好ましくは0.2〜2.0μmである。この架橋撥水性皮膜の水接触角については、高ければ高いほどよいが、この架橋撥水性皮膜の水接触角が100°より低いと、着霜抑制効果が低くなるという問題があり、また、上記架橋撥水性皮膜の膜厚については、0.05μm未満であると、ロット間での着霜抑制と親水性のバラツキが大きくなり、また着霜抑制と親水持続性の経時劣化が大きくなる等の問題があり、反対に、5.0μmを超えると、これ以上の着霜抑制、親水性の向上は期待できないだけではなく、むしろフィン材に冷媒用の銅管をロウ付けする際の熱による皮膜の焦げが目立つようになり、また膜厚が厚くなるにつれてコストアップとなる等の問題がある。
【0016】
本発明において、上記着霜抑制効果を発揮する架橋撥水性皮膜は、水性撥水塗料組成物を塗布して形成されるものであり、この目的で使用される水性撥水塗料組成物としては、着霜抑制効果を長期間維持する観点から、パーフルオロアルキル基及びパーフルオロアルケニル基からなる群より選ばれる少なくとも1種のフッ素原子含有基を有する樹脂(A)、4級アンモニウム塩基含有変性エポキシ樹脂(B)及びアミノ樹脂(C)を含む水性撥水塗料組成物を挙げることができる。なお、以下の記載において、“パーフルオロアルキル基及びパーフルオロアルケニル基からなる群より選ばれる少なくとも1種のフッ素原子含有基を有する樹脂(A)”を単に「フッ素原子含有基を有する樹脂(A)」と記載することがある。
【0017】
<フッ素原子含有基を有する樹脂(A)>
上記水性撥水塗料組成物において、フッ素原子含有基を有する樹脂(A)は、パーフルオロアルキル基及び/又はパーフルオロアルケニル基を有する樹脂であれば公知のものを使用することができ、水又は水を主成分とする媒体(以下、「水性媒体」と称する。)に分散又は溶解したものを用いることができる。このようなフッ素原子含有基を有する樹脂(A)は、例えば下記一般式(1)に示した構造のパーフルオロアルキル基及びパーフルオロアルケニル基からなる群より選ばれる少なくとも1種のフッ素原子含有基を有する重合性不飽和単量体(a-1)〔以下、「フッ素原子含有基を有する重合性不飽和単量体(a-1)」と記すことがある〕と、その他の重合性不飽和単量体(a-2)とを、共重合反応させることにより得られた樹脂であることが好ましい。上記重合反応を行う方法は、公知の重合方法から選択することができ、例えば、バルク重合、溶液重合、乳化重合、懸濁重合、分散重合等を挙げることができ、水性媒体に分散又は溶解した樹脂の製造効率等の観点から、乳化重合が好ましい。
【0018】
【化1】

【0019】
(式中、Rfは炭素数1〜21の直鎖状又は分岐状のパーフルオロアルキル基又はパーフルオロアルケニル基を表わす。Rは水素原子、ハロゲン原子、又はメチル基を表わす。Xは酸素原子又はイミノ基を表わす。Yは酸素原子、硫黄原子、窒素原子又はリン原子を含んでいても含んでいなくてもよい、炭素数1〜20の2価の有機基を表わす。)
【0020】
上記フッ素原子含有基としては、パーフルオロアルキル基であることが好ましく、該パーフルオロアルキル基としては、例えば、−CF3、−CF2CF3、−CF2CF2CF3、−CF(CF3)2、−CF2CF2CF2CF3、−CF2CF(CF3)2、−C(CF3)3、−(CF2)4CF3、−(CF2)2CF(CF3)2、−CF2C(CF3)3、−CF(CF3)CF2CF2CF3、−(CF2)5CF3、−(CF2)3CF(CF3)2、−(CF2)4CF(CF3)2、−(CF2)7CF3、−(CF2)5CF(CF3)2、−(CF2)6CF(CF3)2、−(CF2)9CF3等が挙げられる。パーフルオロアルキル基の炭素数は、1〜21、好ましくは2〜20、更に好ましくは4〜16である。
【0021】
フッ素原子含有基を有する重合性不飽和単量体(a-1)の乳化重合は、該単量体(a-1)とその他の重合性不飽和単量体(a-2)との混合物を、乳化剤、重合開始剤を用いて、水性媒体中で乳化重合させる公知の方法により行うことができる。なお、該乳化重合においては、必要に応じて親水性又は疎水性の有機溶剤を使用してもよい。
【0022】
乳化剤としては、従来公知の乳化剤を使用することができ、例えば、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、又はそれらを組合せたものが用いられる。上記界面活性剤としては、必要に応じてフッ化アルキル基等のフッ素原子が結合した化合物を用いてもよい。
【0023】
重合開始剤としては、従来公知の重合開始剤を使用することができ、例えば、過硫酸アンモニウム(APS)、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩類や、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート(IPP)、過酸化ベンゾイル、過酸化ジブチル、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)等の油溶性重合開始剤等が挙げられる。
【0024】
また、上記乳化重合反応において、連鎖移動剤を用いてもよく、該連鎖移動剤として、例えば、マロン酸ジエチル(MDE)、マロン酸ジメチル等のマロン酸ジエステル類や、酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類や、メタノール、エタノール等のアルコール類や、n-ラウリルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン等のメルカプタン類や、α-メチルスチレンダイマー等が挙げられる。
【0025】
重合反応は、重合温度20〜150℃、重合時間0.1〜100時間で行うことによって、フッ素原子含有基を有する樹脂(A)の水分散体を製造することができる。該水分散体において、フッ素原子含有基を有する樹脂(A)は、平均粒子径が10〜500nm、好ましくは30〜200nmの粒子として得られる。固形分濃度は5〜50質量%程度が望ましい。
【0026】
上記フッ素原子含有基を有する樹脂(A)の粒子は、単層構造あるいはコアシェル構造を含む多層構造であってもよく、また、粒子内部は架橋されていてもよく、これらの粒子は、乳化重合において公知の方法によって得ることができる。
【0027】
上記その他の重合性不飽和単量体(a-2)としては、フッ素原子含有基を有する重合性不飽和単量体(a-1)と共重合反応性を有するものであれば、特に制限なく使用することができ、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、無水マレイン酸、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、アルキル基の炭素数が1〜20の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルエステル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ベンジルエステル、ジ(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール;スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン等の芳香族ビニル系単量体;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアミル(メタ)アクリレート及びヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;アルキル基の炭素数が1〜20のビニルアルキルエーテル;アルキル基の炭素数が1〜20のハロゲン化アルキルビニルエーテル;アルキル基の炭素数が1〜20のビニルアルキルケトン;ビニルトリエトキシシラン、γ-(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン等のシリル基含有不飽和単量体;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-n-プロポキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロポキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-n-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-sec-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-tert-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド系モノマー;酢酸ビニル、「ベオバ」(シェル社製のビニルエステル)等のビニルエステル類、アクリロニトリル、メタクリロニトリルエチレン、ブタジエン等挙げることができる。なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸はアクリル酸及びメタクリル酸の総称であり、(メタ)アクリレートはアクリレート及びメタクリレートの総称であって、(メタ)アクリルアミドはアクリルアミド及びメタクリルアミドの総称である。
【0028】
水性媒体に溶解又は分散させたフッ素原子含有基を有する樹脂(A)の市販品としては、ユニダインTG−652、ユニダインTG−664、ユニダインTG−410、ユニダインTG−5521、ユニダインTG−5601、ユニダインTG−8711、ユニダインTG−470B、ユニダインTG−500S、ユニダインTG−580、ユニダインTG−581、ユニダインTG−658(以上、ダイキン社製、商品名)、SWK−601(セイミケミカル社製)、FS6810(フロロテクノロジー社製)、NKガードSR−108(日華化学社製)等が挙げられる。
【0029】
フッ素原子含有基を有する樹脂(A)の製造は、上記のフッ素原子含有基を有する重合性不飽和単量体(a-1)と、その他の重合性不飽和単量体(a-2)との共重合反応による方法以外に、パーフルオロアルキル基含有ラジカル発生剤を重合開始剤として用いた重合性不飽和単量体の重合反応により行うこともでき、該重合開始剤としては、例えば、特開平2010-195,937号公報に記載された含フッ素有機過酸化物等を挙げることができる。
【0030】
<4級アンモニウム塩基含有変性エポキシ樹脂(B)>
前記水性撥水塗料組成物は、得られる塗膜の加工性、密着性、耐湿性及び耐食性の観点から、以下に述べる4級アンモニウム塩基含有変性エポキシ樹脂(B)を含む。
【0031】
該変性エポキシ樹脂(B)は、エポキシ樹脂(b-1)、カルボキシル基含有アクリル樹脂(b-2)及びアミン化合物(b-3)を含む混合物を反応させることにより製造することができる。該反応においては、4級アンモニウム塩基を生成する反応と、エポキシ樹脂に含まれるエポキシ基とカルボキシル基含有アクリル樹脂に含まれるカルボキシル基とのエステル化反応とが進行して、4級アンモニウム塩基含有変性エポキシ樹脂(B)を生成する。また、該反応においては、エポキシ樹脂(b-1)のエポキシ基は開環し、水酸基を生成する。そして、このようにして生成した上記4級アンモニウム塩基含有変性エポキシ樹脂(B)の水酸基は、後述するアミノ樹脂(C)と反応性を有する。
【0032】
エポキシ樹脂(b-1)としては、密着性、耐食性の観点から、ビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましい。ビスフェノール型エポキシ樹脂は、ビスフェノール化合物とエピハロヒドリン、例えば、エピクロルヒドリンとの反応により得られる樹脂である。
【0033】
上記ビスフェノール化合物としては、例えば、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,2-プロパン[ビスフェノールA]、4,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン[ビスフェノールF]、4,4-ジヒドロキシジフェニルスルホン[ビスフェノールS]等を挙げることができる。ビスフェノール型エポキシ樹脂(b-1)の中でも、耐食性の観点からビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いることが好ましい。
【0034】
水性媒体中での分散安定性、得られる塗膜の加工性や衛生性等の観点から、ビスフェノール型エポキシ樹脂(b-1)の数平均分子量については、4,000〜30,000、好ましくは5,000〜30,000の範囲内であり、かつエポキシ当量が2,000〜10,000、好ましくは2,500〜10,000の範囲内のものが好適に使用される。
【0035】
ここで、ビスフェノール型エポキシ樹脂(b-1)として使用できるビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、ジャパンエポキシレジン社製のjER1010、jER1256B40、jER1256等を挙げることができる。
【0036】
また、ビスフェノールA型エポキシ樹脂は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を二塩基酸で変性したビスフェノールA型の変性エポキシ樹脂であってもよい。この場合、二塩基酸と反応させるビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、数平均分子量が2,000〜8,000であり、かつエポキシ当量が1,000〜4,000の範囲内にあるものを好適に使用することができる。また、上記二塩基酸としては、一般式HOOC-(CH2)n-COOH(式中、nは1〜12の整数を示す。)で表される化合物、具体的にはコハク酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等や、ヘキサヒドロフタル酸等が使用でき、特にアジピン酸が好適に使用できる。
【0037】
上記ビスフェノールA型の変性エポキシ樹脂は、上記ビスフェノールA型エポキシ樹脂と二塩基酸との混合物を、例えばトリ-n-ブチルアミン等のエステル化触媒や有機溶剤の存在下に、反応温度120〜180℃及び反応時間約1〜4時間の条件で反応させることによって、得ることができる。
【0038】
上記4級アンモニウム塩基含有変性エポキシ樹脂(B)の製造に用いられるカルボキシル基含有アクリル樹脂(b-2)は、カルボキシル基含有重合性不飽和単量体及びその他の重合性不飽和単量体を含む混合物を、例えば、ラジカル重合開始剤を用いて有機溶剤中80〜150℃及び1〜10時間の条件で加熱し、共重合反応させることによって、製造することができる。
【0039】
カルボキシル基含有アクリル樹脂(b-2)の製造に用いることのできる上記その他の重合性不飽和単量体としては、例えば、フッ素原子含有基を有する樹脂(A)について記載した、前記その他の重合性不飽和単量体(a-2)を挙げることができる。
【0040】
カルボキシル基含有アクリル樹脂(b-2)の製造に用いられる上記ラジカル重合開始剤としては、有機過酸化物系、アゾ系等が用いられ、有機過酸化物系としては、例えばベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート等が挙げられ、また、アゾ系としては、例えばアゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル等が挙げられる。
【0041】
上記カルボキシル基含有アクリル樹脂(b-2)を製造する際における共重合反応においては、必要により連鎖移動剤を用いてもよく、この連鎖移動剤としては、例えば、α-メチルスチレンダイマー、メルカプタン化合物等の公知のものが挙げられる。
【0042】
カルボキシル基含有アクリル樹脂(b-2)は、水性媒体中での安定性、得られる塗膜の加工性、密着性等の観点から、重量均分子量が5,000〜100,000、好ましくは10,000〜100,000で樹脂酸価150〜700mgKOH/g、200〜500mgKOH/gの範囲内にあることが好ましい。
【0043】
上記アミン化合物(b-3)としては、例えば、トリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノメチルジエタノールアミン、N-メチルモルホリン等の第3級のアミン化合物が好ましい。
【0044】
4級アンモニウム塩基含有変性エポキシ樹脂(B)は、上記のエポキシ樹脂(b-1)、カルボキシル基含有アクリル樹脂(b-2)及びアミン化合物(b-3)を含む混合物を、有機溶剤中80〜120℃及び0.5〜8時間の条件で加熱し反応させることにより製造することできる。
【0045】
ここで、上記反応におけるエポキシ樹脂(b-1)とカルボキシル基含有アクリル樹脂(b-2)との配合割合については、塗装作業性や塗膜性能に応じて適宜選択すればよいが、好ましくは、樹脂(b-1)/樹脂(b-2)の固形分質量比で、10/90〜95/5、更には60/40〜90/10の範囲内であることがよい。
【0046】
また、上記アミン化合物(b-3)の使用量は、得られた皮膜の耐湿性や耐食性等の観点から、エポキシ樹脂(b-1)とカルボキシル基含有アクリル樹脂(b-2)の合計固形分を基準にして1〜10質量%の範囲が好適である。
【0047】
上記反応によって得られる4級アンモニウム塩基含有変性エポキシ樹脂(B)については、水性媒体中での安定性、得られる塗膜の加工性、密着性、耐湿性及び耐食性の観点から、酸価が20〜120mgKOH/g、好ましくは30〜100mgKOH/gであって、重量平均分子量が1,000〜40,000、好ましくは2,000〜15,000の範囲内であることが好ましい。
【0048】
なお、本明細書において、「重量平均分子量」は、溶媒としてテトラヒドロフランを使用し、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィにより測定した保持時間(保持容量)をポリスチレンの重量平均分子量を基準にして換算した値である。また、「数平均分子量」は、その重量平均分子量から計算によって求めた値である。
【0049】
ゲルパーミエーションクロマトグラフは、「HLC8120GPC」(東ソー社製)を使用した。カラムとしては、「TSKgel G-4000HXL」、「TSKgel G-3000HXL」、「TSKgel G-2500HXL」、「TSKgel G-2000HXL」(いずれも東ソー(株)社製、商品名)の4本を用い、移動相;テトラヒドロフラン、測定温度;40℃、流速;1ml/分、検出器;RIの条件で行ったものである。
【0050】
上記4級アンモニウム塩基含有変性エポキシ樹脂(B)は、水性媒体中に中和、分散されるが、中和に用いられる中和剤としては、アミン類やアンモニア等の塩基性化合物が好適に使用される。
【0051】
上記中和剤として用いられるアミン類の代表例としては、例えば、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、モルホリン等が挙げられる。中でも特にトリエチルアミン、ジメチルエタノールアミンが好適に挙げられる。また、4級アンモニウム塩基含有変性エポキシ樹脂(B)の中和は、樹脂中のカルボキシル基に対して通常0.2〜2.0当量中和の範囲が好ましい。
【0052】
本発明においては、密着性、耐湿性、耐食性等の観点から、上記エステル化反応時及び中和によって形成される4級アンモニウム塩基量(樹脂1g当たりに含まれる4級アンモニウム塩基のモル数)が3.0×10-4mol/g以下の範囲内、好ましくは0.6×10-4〜3.0×10-4mol/gの範囲内、より好ましくは0.8×10-4〜2.5×10-4mol/gの範囲内であることが望ましい。
【0053】
ここで、4級アンモニウム塩基量の測定は次のようにして行われる。すなわち、反応開始後の試料を溶媒に溶解して試料溶液を調製し、得られた試料溶液中に指示薬溶液(溶媒中に官能基としてスルホン酸基及びヒドロキシル基を有する指示薬を溶解して得られた溶液)を滴下して滴定反応を行い、指示薬溶液中の指示薬と試料溶液中の4級アンモニウム塩化エポキシ化合物とが反応し、スルホン酸基及びヒドロキシル基の両者が同時にイオン化されたイオン化指示薬とカルボン酸とが形成される滴定反応の第1段階、及び、この第1段階の滴定反応で生成したイオン化指示薬と上記指示薬溶液中の指示薬とが反応してスルホン酸基のみがイオン化されたスルホン酸基イオン化指示薬が形成される滴定反応の第2段階について、それぞれ滴定量と電導度との関係をプロットし、第1段階におけるプロットを結ぶ直線と第2段階におけるプロットを結ぶ直線との交点における滴定量から第1段階における滴定量t1を求め、下記式(1)により、試料固形分換算1g中の4級アンモニウム塩量(mol/g)を求める。
【0054】
4級アンモニウム塩量(mol/g)
=t1(ml)×2×指示薬濃度(mol/l)×(1/1,000)
×{100/(試料(g)×固形分(%))} ………………式(1)
なお、4級アンモニウム塩基含有変性エポキシ樹脂(B)を分散する水性媒体は、水のみであってもよいし、また、水と有機溶剤との混合物であってもよい。この有機溶剤としては、4級アンモニウム塩基含有変性エポキシ樹脂(B)の水性媒体中での安定性を損なわない限り、従来公知のいずれのものも使用することができる。
【0055】
<アミノ樹脂(C)>
上記水性撥水塗料組成物に含まれるアミノ樹脂(C)としては、例えばメラミン樹脂、尿素樹脂及びベンゾグアナミン樹脂等が挙げられるが、加工性、密着性の観点からメラミン樹脂が好ましい。
【0056】
メラミン樹脂としては、例えば、メチロール化メラミンのメチロール基の一部又は全部を炭素数1〜8の1価アルコール、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、i-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール、i-ブチルアルコール、2-エチルブタノール、2-エチルヘキサノール等で、エーテル化した部分エーテル化又はフルエーテル化メラミン樹脂が挙げられる。
【0057】
これらは、メチロール基が全てエーテル化されているか、又は部分的にエーテル化され、メチロール基やイミノ基が残存しているものも使用できる。例えばメチルエーテル化メラミン、エチルエーテル化メラミン、ブチルエーテル化メラミン等のアルキルエーテル化メラミンを挙げることができ、1種のみ、又は必要に応じて2種以上を併用してもよい。なかでもメチロール基の少なくとも一部をメチルエーテル化したメチルエーテル化メラミン樹脂が好適である。
【0058】
このような条件を満たすメラミン樹脂の市販品としては、例えば、「サイメル202」、「サイメル232」、「サイメル235」、「サイメル238」、「サイメル254」、「サイメル266」、「サイメル267」、「サイメル272」、「サイメル285」、「サイメル301」、「サイメル303」、「サイメル325」、「サイメル327」、「サイメル350」、「サイメル370」、「サイメル701」、「サイメル703」、「サイメル736」、「サイメル738」、「サイメル771」、「サイメル1141」、「サイメル1156」、「サイメル1158」、「マイコート212」、「マイコート715」、「マイコート776」等(以上、日本サイテック社製)、「ユーバン120」、「ユーバン20HS」、「ユーバン2021」、「ユーバン2028」、「ユーバン2061」等(以上、三井化学社製)、及び「メラン522」等(日立化成社製)の商品名で市販されている。
【0059】
なお、4級アンモニウム塩基含有変性エポキシ樹脂(B)及びアミノ樹脂(C)の配合割合は、4級アンモニウム塩基含有変性エポキシ樹脂(B)/アミノ樹脂(C)の固形分質量比として、95/5〜50/50、特に93/7〜60/40の範囲内が好ましい。アミノ樹脂(C)の量が少な過ぎると十分な硬化性が得られず、反対に、多過ぎると製造されたプレコートフィン材の加工性が低下することがある。
【0060】
上記水性撥水塗料組成物におけるフッ素原子含有基を有する樹脂(A)の含有量は、着霜抑制性、耐食性、塗料安定性の観点から、固形分換算で、前記4級アンモニウム塩基含有変性エポキシ樹脂(B)とアミノ樹脂(C)の合計100質量部に対して、1〜30質量部、好ましくは3〜25質量部、更に好ましくは10〜22質量部である。
【0061】
なお、本発明における水性撥水塗料組成物には、フッ素原子含有基を有する樹脂(A)、4級アンモニウム塩基含有変性エポキシ樹脂(B)及びアミノ樹脂(C)以外に、必要に応じて、塩基性化合物、アミノ樹脂(C)以外の架橋剤(例えばブロック化ポリイソシアネート等)、コロイダルシリカ、防菌剤、着色顔料、それ自体既知の防錆顔料(例えばクロム酸塩系、鉛系、モリブデン酸系等)、防錆剤(例えばタンニン酸、没食子酸等のフェノール性カルボン酸及びその塩類、フイチン酸、ホスフィン酸等の有機リン酸、重リン酸の金属塩類、亜硝酸塩等)等の添加剤や、水性媒体を加えることができる。ここで、上記水性媒体としては、水であってもよいし、水と少量の有機溶剤やアミン類やアンモニア等の塩基性化合物との混合溶媒であってもよく、また、混合溶媒において、水の含有量は通常80質量%以上である。
【0062】
そして、本発明においては、上記片面撥水性/片面親水性フィン材を用いて、撥水性面と親水性面とが相対面する熱交換器のフィン構造が構成されるか、あるいは、フィン基板の両面に撥水性面を形成する架橋撥水性皮膜が設けられた両面撥水性フィン材と、フィン基板の両面に親水性面を形成する親水性皮膜が設けられた両面親水性フィン材とを用いて、撥水性面と親水性面とが相対面する熱交換器のフィン構造が構成されるが、上記の片面撥水性/片面親水性フィン材や両面親水性フィン材における親水性皮膜は、後述する親水塗料を塗布して形成される。
【0063】
ここで、上記凝縮水排除効果を発揮する親水性皮膜については、その水接触角が好ましくは40°以下、より好ましくは30°以下であり、また、その膜厚が通常0.05〜5.0μm以下、好ましくは0.1〜4.0μm、より好ましくは0.2〜2.0μmである。この親水性皮膜の水接触角については、低ければ低いほどよいが、この親水性皮膜の水接触角が40°より高いと、凝縮水が流れにくいという問題があり、また、上記親水性皮膜の膜厚については、架橋撥水性皮膜の場合と同様に、0.05μm未満であると、ロット間での着霜抑制と親水性のバラツキが大きくなり、また着霜抑制と親水持続性の経時劣化が大きくなる等の問題があり、反対に、5.0μmを超えると、これ以上の着霜抑制、親水性の向上は期待できないだけではなく、むしろフィン材に冷媒用の銅管をロウ付けする際の熱による皮膜の焦げが目立つようになり、また膜厚が厚くなるにつれてコストアップとなる等の問題がある。
【0064】
本発明において、上記凝縮水排除効果を発揮する親水性皮膜を形成するために用いられる親水塗料としては、例えば、水ガラス系、シリカ系、ベーマイト系等の無機系親水塗料や、水溶性アクリル樹脂、水溶性セルロース樹脂、水溶性アミノ樹脂、ポリビニルアルコール等を含有する有機系親水塗料や、無機系材料と有機樹脂とを含有する有機無機複合系親水塗料等を挙げることができ、臭気対策や金型磨耗対策の観点から、有機系親水塗料が好ましい。
【0065】
上記有機系親水塗料としては、公知のものを使用することができ、例えば、以下の有機系親水塗料組成物(E)を挙げることができる。
(1)87%以上のケン化度を有するポリビニルアルコールと、300mgKOH/g以上の樹脂酸価を有する高酸価アクリル樹脂のカルボキシル基の少なくとも一部を、180℃未満の沸点を有さずかつ180℃未満で分解しない塩基性化合物で中和し、塩を形成させて得られた中和樹脂とを含有する有機系親水塗料組成物。
(2)ポリビニルアルコール系樹脂及びポリエチレングリコール系樹脂を主成分として含み、かつ、1価又は2価の元素を有する硝酸化合物を含有する有機系親水塗料組成物(特開2002-275,407号公報参照)。
【0066】
<耐食性皮膜、架橋撥水性皮膜、及び親水性皮膜の形成方法>
前記のフィン基板の表面に耐食性皮膜、架橋撥水性被膜、及び親水性被膜を形成する方法については、特に制限はなく、例えば、通常良く用いられるロールコーターを用いて塗布するロールコーター方法や、塗布量管理に便利なグラビアロールを用いて塗布するグラビアロール方法や、厚塗りするのに便利なナチュラルコート方式や、塗布面を綺麗に仕上げるのに有利なリバースコート方式、バーコート法、スプレー法等を採用することができる。
【0067】
例えば、前記のフィン基板の一方の面に前記水性撥水塗料組成物を用いて架橋撥水性皮膜を形成し、また、他方の面に前記有機系親水塗料組成物を用いて親水性皮膜を形成することにより、熱交換器用の片面撥水性/片面親水性フィン材を製造する際には、先ず、ロールコーター等を用いてフィン基板の一方の面に前記水性撥水塗料組成物を塗布し、次いで例えばフローターオーブン等により高温通風下での加熱、好ましくは10〜30m/分の高温通風下に60〜300℃の高温で2秒間〜30分間の加熱を行って、フィン基板の一方の面に架橋撥水性皮膜を形成し、次に、上記フィン基板の他方の面に親水塗料組成物を塗布し、次いで例えばフローターオーブン等により高温通風下での加熱、好ましくは10〜30m/分の高温通風下に60〜300℃の高温で2秒間〜30分間の加熱を行う。若しくは、ロールコーター等を用いてフィン基板の一方の面に前記水性撥水塗料組成物を塗布し、次いで、フィン基板の他方の面に親水塗料組成物を塗布し、次いで例えばフローターオーブン等により高温通風下での加熱、好ましくは10〜30m/分の高温通風下に60〜300℃の高温で2秒間〜30分間の加熱を行う。
【0068】
<熱交換器のフィン構造>
以上のようにして得られた本発明の熱交換器用プレコートフィン材は、通常の成形加工、例えば、プレコートフィン材の表面にプレス成形加工用の揮発性プレス油を塗布した後、スリット加工等の成形加工を施すことにより、所望のフィン形状を有する熱交換フィンに成形され、使用される。
【0069】
そして、上記の熱交換フィンを用いて形成される熱交換器のフィン構造は、その架橋撥水性皮膜が設けられた撥水性面と親水性皮膜が設けられた親水性面とが相対面するように構成される。
例えば、熱交換器用プレコートフィン材として上記の片面撥水性/片面親水性フィン材が用いられる場合には、多数の片面撥水性/片面親水性フィン材をその撥水性面と親水性面とが相対面するように配置してチューブ材に固定し、フィン構造を構成すればよい。また、熱交換器用プレコートフィン材として上記の両面撥水性フィン材が用いられる場合には、この両面撥水性フィン材と共に、フィン基板の両面に上記親水塗料を用いて親水性皮膜が形成された両面親水性フィン材を使用し、これら両面撥水性フィン材と両面親水性フィン材とを撥水性面と親水性面とが相対面するように交互に配置してチューブ材に固定し、フィン構造を構成すればよい。
【発明の効果】
【0070】
本発明の片面撥水性/片面親水性フィン材からなる熱交換器用プレコートフィン材によれば、一方の面に設けられた架橋撥水性皮膜により優れた着霜抑制効果が発揮され、また、他方の面に設けられた親水性皮膜により優れた凝縮水排除効果が発揮されるので、この熱交換器用プレコートフィン材を用いて、着霜抑制特性及び凝縮水排除特性に優れた熱交換器のフィン構造を容易に構成することができる。
【0071】
また、本発明のフィン構造を備えた熱交換器によれば、架橋撥水性皮膜の撥水性面による優れた着霜抑制効果と親水性皮膜の親水性面による優れた凝縮水排除効果とが協働し、暖房運転時においては着霜を可及的に防止すると共に、フィン表面に結露し易い条件下では、撥水性面で凝縮して発生した水滴が隣接する親水性面に接触した際に、この水滴を容易に親水性面側に移行させて速やかに排除することができ、これによって通風抵抗を増大させることなく良好な熱交換機能を長期に亘って維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0072】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明の好適な実施の形態を具体的に説明する。
なお、以下の実施例及び比較例において、架橋撥水性皮膜及び親水性皮膜の水接触角の測定、及び着霜抑制効果の確認は、以下の方法で行った。
【0073】
〔水接触角の測定〕
各実施例及び比較例で作製した熱交換器用プレコートフィン材の一部を7cm×15cmの大きさに切り出し、水平に設置した試験片の皮膜上に純水2μLを滴下し、接触角計(協和界面科学社製:CA‐A)を用いて、上記試験片の皮膜上に形成された水滴の接触角を測定した。
【0074】
〔着霜抑制・凝縮水排除効果の確認試験〕
各実施例1〜8及び比較例1〜8で得られた片面撥水性/片面親水性フィン材(JIS A 1050、500mm×25mm×0.1mm)に2列×12列のカラー部をプレス加工して熱交換フィンとし、この熱交換フィンを、前記カラー部が一致するように、かつ、撥水性面と親水性面とが1.5mmの間隔で互いに相対面するフィン構造が形成されるように積層し、この積層体のカラー部に銅管(JIS-C1220、外径7mm、肉厚0.3mm)を挿入し、次いで前記銅管をマンドレルにより拡管して、カラー部を機械的に接合してクロスフィンチューブタイプの熱交換器(外寸500mm×25mm×250mm)を作製し、撥水性面と親水性面とが1.5mmの間隔で互いに相対面するフィン構造を有する各実施例1〜8及び比較例1〜8のクロスフィンアンドチューブ型の試験用熱交換器を作製した。
【0075】
また、比較例9のフィン材を上記と同様にプレス加工して熱交換フィンとし、この熱交換フィンを、前記カラー部が一致するように、1.5mmの間隔で積層し,この積層体のカラー部に銅管(JIS-C1220、外径7mm、肉厚0.3mm)を挿入し、次いで前記銅管をマンドレルにより拡管して、カラー部を機械的に接合してクロスフィンチューブタイプ型の試験用熱交換器(外寸500mm×25mm×250mm)を作製した。
【0076】
更に、各実施例9〜11で得られた両面撥水性フィン材と両面親水性フィン材(JIS A 1050、500mm×25mm×0.1mm)を用い、上記と同様に撥水性面と親水性面とが互いに1.5mmの間隔で相対面するフィン構造が形成されるように積層し、上記と同様にして撥水性面と親水性面とが1.5mmの間隔で互いに相対面するフィン構造を有する各実施例9〜11のクロスフィンアンドチューブ型の試験用熱交換器を作製した。
【0077】
また、比較例10では、2枚の実施例9の両面撥水性フィン材(JIS A 1050、500mm×25mm×0.1mm)を積層させて次に2枚の両面親水性フィン材(JIS A 1050、500mm×25mm×0.1mm)を積層させる構成を、複数回繰り返してフィン構造を形成し、撥水性面と撥水性面、撥水性面と親水性面、及び親水性面と親水性面が1.5mmの等間隔で形成されるように積層された比較例10のクロスフィンアンドチューブ型の試験用熱交換器を作製した。更に、比較例11では、5枚の実施例10の両面撥水性フィン材(JIS A 1050、500mm×25mm×0.1mm)を積層させて次に5枚の両面親水性フィン材(JIS A 1050、500mm×25mm×0.1mm)を積層させる構成を、複数回繰り返してフィン構造を形成し、撥水性面と撥水性面、撥水性面と親水性面、及び親水性面と親水性面が1.5mmの等間隔で形成されるように積層された比較例11のクロスフィンアンドチューブ型の試験用熱交換器を作製した。
【0078】
次に、このようにして作成された各実施例1〜11及び比較例1〜11の試験用熱交換器に冷媒として50wt%-プロピレングリコール水溶液を導入し、室温2℃、湿度RH90%以上の恒温室内で、冷媒温度−6℃、及び冷媒流量1L/minの条件で循環させ、45分間運転して各試験用熱交換器の熱交換フィンにおける着霜状態を観察した。また、着霜した後に30℃の冷媒で3分間の除霜運転を行い、熱交換フィン間に発生した融解水(又は凝縮水)によるブリッジの形成有無を観察した。
【0079】
着霜抑制効果は、全面着霜するまでの時間を測定して、×:15分未満の場合、△:15分以上30分未満の場合、○:30分以上45分未満の場合、及び、◎:45分経過しても着霜のない場合の基準で評価し、また、凝縮水排除効果は、除霜運転後のフィン間における融解水(又は凝縮水)の付着状況を観察し、×:ほぼ全面にブリッジが発生した場合、△:一部にブリッジが発生した場合、及び、○:ブリッジの発生が認められない場合の基準で評価した。
【0080】
<フィン基板イ及びロの作製>
アルミニウムフィン材として板厚100μmのアルミニウム材(JIS A 1050)を用い、脱脂処理後、アルミ材の両面に、耐食性処理剤としてクロメート系処理剤(処理剤イ:日本パーカライジング社製、商品名「アルクロム712」)、又は、有機系処理剤(処理剤ロ:関西ペイント社製、商品名「Cosmer 9105」)をロールコーターで塗装し、耐食性皮膜を形成し、以下の実施例及び比較例で用いるフィン基板イ及びロを作製した。
【0081】
ここで、処理剤イを用いてフィン基板イを調製するに際しては、アルミ材両面に、ロールコーターを用いて処理剤イをCr量で20mg/m2となるように塗装し、次いでPMT(Peak Metal Temperature)230℃の温度で15秒間乾燥させることにより形成し、また、処理剤ロを用いる場合には、アルミ板片の両面に、処理剤ロを膜厚1.0g/m2となるようにロールコーターで塗装し、次いでPMT250℃の温度で10秒間乾燥させることにより形成した。
【0082】
<水性撥水塗料組成物の製造例>
以下の製造例において、「部」は質量部、「%」は質量%を示す。
(1) アンモニウム塩基含有変性エポキシ樹脂(B)の製造に使用するカルボキシル基含有アクリル樹脂(ca)の製造
〔製造例1:カルボキシル基含有アクリル樹脂(ca-1)の溶液〕
n-ブタノール850部を窒素気流下で100℃に加熱し、その中に単量体混合物及び重合開始剤「メタクリル酸450部、スチレン450部、エチルアクリレート100部、t-ブチルパーオキシ−2-エチルヘキサノエート 40部」を3時間で滴下し、滴下後1時間熟成した。次いで、t-ブチルパーオキシ−2-エチルヘキサノエート10部とn-ブタノール100部との混合溶液を30分間かけて滴下し、滴下後2時間熟成した。次いで、n-ブタノール933部、エチレングリコールモノブチルエーテル400部を加え、固形分約30%のカルボキシル基含有アクリル樹脂(ca-1)の溶液を得た。得られた樹脂は、樹脂酸価300mgKOH/g、重量平均分子量約17,000を有していた。
【0083】
〔製造例2:カルボキシル基含有アクリル樹脂(ca-2)の溶液〕
n-ブタノール1,400部を窒素気流下で100℃に加熱し、その中に単量体混合物及び重合開始剤「メタクリル酸670部、スチレン250部、エチルアクリレート80部、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート50部」を3時間で滴下し、滴下後1時間熟成した。次いで、t-ブチルパーオキシ−2-エチルヘキサノエート10部とn-ブタノール100部との混合溶液を30分間かけて滴下し、滴下後2時間熟成した。次いで、n-ブタノール373部、エチレングリコールモノブチルエーテル400部を加え、固形分約30%のカルボキシル基含有アクリル樹脂(ca-2)の溶液を得た。得られた樹脂は、樹脂酸価450mgKOH/g、重量平均分子量約14,000を有していた。
【0084】
(2) アンモニウム塩基含有変性エポキシ樹脂(ae)の製造
〔製造例3:アンモニウム塩基含有変性エポキシ樹脂(ae-1)の水分散体〕
jER828EL〔ジャパンエポキシレジン(株)製、エポキシ樹脂、エポキシ当量約190、数平均分子量約380〕513部、ビスフェノールA287部、テトラメチルアンモニウムクロライド0.3部及びメチルイソブチルケトン89部を仕込み、窒素気流下で140℃に加熱しながら約4時間反応を行い、エポキシ樹脂溶液を得た。得られたエポキシ樹脂はエポキシ当量3,700、数平均分子量約1,7000を有していた。
【0085】
次いで、得られたエポキシ樹脂溶液に製造例1で得た固形分約30%のカルボキシル基含有アクリル樹脂(ca-1)の溶液を667部仕込み、90℃に加熱して均一に溶解させた後、同温度で脱イオン水40部を30分かけて滴下し、次いでジメチルエタノールアミン30部を添加して1時間撹拌して反応を行った。更に、脱イオン水2380部を1時間かけて添加して固形分約25%のアンモニウム塩基含有変性エポキシ樹脂(ae-1)の水分散体を得た。得られた樹脂は、樹脂酸価48mgKOH/g、4級アンモニウム塩量(明細書中の導電率滴定方法による)1.2×10-4mol/g、重量平均分子量26,000を有していた。
【0086】
〔製造例4:アンモニウム塩基含有変性エポキシ樹脂(ae-2)の水分散体〕
jER828EL〔ジャパンエポキシレジン(株)製、エポキシ樹脂、エポキシ当量約190、数平均分子量約380〕519部、ビスフェノールA281部、テトラメチルアンモニウムクロライド0.3部及びメチルイソブチルケトン89部を仕込み、窒素気流下で140℃に加熱しながら約4時間反応を行い、エポキシ樹脂溶液を得た。得られたエポキシ樹脂はエポキシ当量2,800、数平均分子量約12,000を有していた。
【0087】
次いで、得られたエポキシ樹脂溶液に製造例2で得た固形分約30%のカルボキシル基含有アクリル樹脂(ca-2)の溶液を667部仕込み、90℃に加熱して均一に溶解させた後、同温度で脱イオン水40部を30分かけて滴下し、次いでジメチルエタノールアミン53部を添加して1時間撹拌して反応を行った。更に、脱イオン水2,350部を1時間かけて添加して固形分約25%のアンモニウム塩基含有変性エポキシ樹脂(ae-2)の水分散体を得た。得られた樹脂は、樹脂酸価75mgKOH/g、4級アンモニウム塩量(導電率滴定による結果)1.8×10-4mol/g、重量平均分子量18,000を有していた。
【0088】
(3) 水性撥水塗料組成物(D)の製造
〔製造例5:水性撥水塗料組成物(D-1)〕
ユニダインTG−500S(注2の*1)を10部(固形分)、製造例3で得た4級アンモニウム塩基含有変性エポキシ樹脂(ae-1)を90部(固形分)、マイコート715(注2の*4)を10部(固形分)加え、更に脱イオン水を加えて固形分を調整して、固形分10%の水性撥水塗料組成物(D-1)を得た。
【0089】
〔製造例6〜12:水性撥水塗料組成物(D-2)〜(D-8)〕
下記表1及び表2に示す配合に従って各成分を攪拌機で十分に混合し、脱イオン水を加えて固形分を調整して固形分10%の水性撥水塗料組成物(D-2)〜(D-8)を作成した。
【0090】
【表1】

【0091】
<親水塗料組成物(E)の製造例>
〔製造例13:ポリビニルアルコール水溶液(e-1)〕
デンカポバールK−05(電気化学工業(株)製、ケン化度99%、重合度550)を水に溶解し、固形分14%のポリビニルアルコール水溶液(e-1)を得た。
【0092】
〔製造例14:アクリル樹脂水溶液〕
「ジュリマーAC10LP」〔日本純薬(株)製のポリアクリル酸、重量平均分子量25,000、酸価779mgKOH/g〕80部を3%-n-ブタノール水溶液535部に溶解させ、固形分13%のアクリル樹脂水溶液(e-2)を得た。
【0093】
〔製造例15:アクリル樹脂水溶液〕
「ジュリマーAC10LHP」〔日本純薬(株)製のポリアクリル酸、重量平均分子量250,000、酸価779mgKOH/g〕80部を3%-n-ブタノール水溶液920部に溶解させ、固形分8%のアクリル樹脂水溶液(e-3)を得た。
【0094】
〔製造例16:親水塗料組成物(E-2)〕
製造例13で得た固形分14%のポリビニルアルコール水溶液(e-1)357部に製造例14で得た固形分13%のアクリル樹脂水溶液(e-2)385部を加え、更にアクリル樹脂のカルボキシル基の中和度が0.6当量となるように14.6部の水酸化リチウム一水和物(LiOH・H2O)と3%-n-ブタノール水溶液131.4部との混合溶液(水酸化リチウム一水和物の濃度が10%の溶液)146部加えて混合攪拌を行い、更に3%-n-ブタノール水溶液112部を加えて均一になるように混合攪拌を行い固形分10%の親水塗料組成物(E-2)を得た。表2に塗料配合を示す。
【0095】
〔製造例17:親水塗料組成物(E-3)〕
製造例13で得た固形分14%のポリビニルアルコール水溶液(e-1)357部に製造例15で得た固形分13%のアクリル樹脂水溶液(e-3)385部を加え、更にアクリル樹脂のカルボキシル基の中和度が0.6当量となるように14.6部の水酸化リチウム一水和物(LiOH・H2O)と3%n-ブタノール水溶液131.4部との混合溶液(水酸化リチウム一水和物の濃度が10%の溶液)146部加えて混合攪拌を行い、更に3%n-ブタノール水溶液112部を加えて均一になるように混合攪拌を行い固形分10%の親水塗料組成物(E-3)を得た。表2に塗料配合を示す。
【0096】
【表2】

【0097】
<比較撥水塗料組成物の調製>
〔比較製造例1:4級アンモニウム塩基を含まない変性エポキシ樹脂〕
jER828EL〔ジャパンエポキシレジン(株)製、エポキシ樹脂、エポキシ当量約190、数平均分子量約380〕513部、ビスフェノールA287部、テトラメチルアンモニウムクロライド0.3部、及びメチルイソブチルケトン89部を仕込み、窒素気流下で140℃に加熱しながら約4時間反応を行い、エポキシ樹脂溶液を得た。得られたエポキシ樹脂は、エポキシ当量が3,700であって、数平均分子量が約1,7000であった。
【0098】
次に、このようにして得られたエポキシ樹脂溶液に、製造例1で得られた固形分約30%のカルボキシル基含有アクリル樹脂(ca-1)の溶液667部を仕込み、90℃に加熱して均一に溶解させた後、同温度で脱イオン水40部を30分かけて滴下し、次いで、テトラメチルアンモニウムクロライド0.2部を添加して3時間撹拌下に反応を行った。更に、脱イオン水2380部と25%-アンモニア水23部とを混合したものを1時間かけて添加し、固形分約25%の4級アンモニウム塩基を含まない変性エポキシ樹脂の水分散体を得た。得られた樹脂は、樹脂酸価が48mgKOH/gであって、重量平均分子量が24,000であった。
【0099】
【表3】

【0100】
<片面撥水性/片面親水性フィン材の製造例>
〔実施例1〕
フィン基板として上記フィン基板イを用い、このフィン基板イの一方の面の耐食性皮膜の上に、ロールコーター(又は、バーコーター)により表1に示す水性撥水塗料組成物の塗料D-1を表4に示す膜厚で塗布し、次いでPMT220℃の温度で10秒間乾燥させて架橋撥水性皮膜を形成した。
【0101】
次に、片面に架橋撥水性皮膜を設けたフィン基板イの他方の面の耐食性皮膜の上に、ロールコーターによりカルボキシメチルセルロース系の塗料E-1(日本ペイント社製、商品名「サーファルコート160」)を表4に示す膜厚で塗布し、次いでPMT200℃の温度で10秒間乾燥させて親水性皮膜を形成し、実施例1に係る片面撥水性/片面親水性フィン材を調製した。
【0102】
〔実施例2〜8〕
表4に示すフィン基板を用い、表4に示す水性撥水塗料組成物と親水性塗料組成物として塗料E-1、又は表2に示す塗料E-2又は塗料E-3を用い、上記実施例1と同様にして、また、塗料E-2及び塗料E-3を用いた場合にはPMT230℃及び10秒間の条件で、それぞれ実施例2〜8に係る片面撥水性/片面親水性フィン材を調製した。
【0103】
〔比較例1〕
フィン基板として上記フィン基板イを用い、このフィン基板イの両面に設けられた耐食性皮膜の上に、ロールコーターにより表1に示す水性撥水塗料組成物の塗料D-1を表4に示す膜厚で塗布し、次いでPMT220℃の温度で10秒間乾燥させ、フィン基板イの両面に架橋撥水性皮膜を有する比較例1の両面撥水性フィン材を形成した。
【0104】
〔比較例2〕
フィン基板として上記フィン基板イを用い、このフィン基板イの両面に設けられた耐食性皮膜の上に、ロールコーターにより表1に示す親水塗料組成物の塗料E-2を表4に示す膜厚で塗布し、次いでPMT230℃の温度で10秒間乾燥させ、フィン基板イの両面に親水性皮膜を有する比較例2の両面親水性フィン材を形成した。
【0105】
〔比較例3〕
フィン基板として上記フィン基板イを用い、このフィン基板イの一方の面の耐食性皮膜の上に、ロールコーターにより表3に示す比較撥水塗料組成物の塗料F-1を表4に示す膜厚で塗布し、次いでPMT220℃の温度で10秒間乾燥させて撥水性皮膜を形成した。
【0106】
次に、片面に撥水性皮膜を設けたフィン基板イの他方の面の耐食性皮膜の上に、ロールコーターにより親水性塗料組成物の塗料E-1を表4に示す膜厚で塗布し、次いでPMT200℃の温度で10秒間乾燥させて親水性皮膜を形成し、比較例3に係る片面撥水性/片面親水性フィン材を調製した。
【0107】
〔比較例4〕
フィン基板として上記フィン基板イを用い、このフィン基板イの一方の面の耐食性皮膜の上に、ロールコーターにより表1に示す水性撥水塗料組成物の塗料D-2を表4に示す膜厚で塗布し、次いでPMT220℃の温度で10秒間乾燥させて架橋撥水性皮膜を形成した。
【0108】
次に、片面に架橋撥水性皮膜を設けたフィン基板イの他方の面の耐食性皮膜の上に、ロールコーターにより親水性塗料組成物の塗料E-2を表4に示す膜厚で塗布し、次いでPMT270℃の温度で10秒間乾燥させて親水性皮膜を形成し、比較例4に係る片面撥水性/片面親水性フィン材を調製した。
【0109】
〔比較例5〕
フィン基板として上記フィン基板イを用い、このフィン基板イの一方の面の耐食性皮膜の上に、ロールコーターにより表3に示す比較撥水塗料組成物の塗料F-2を表4に示す膜厚で塗布し、次いでPMT220℃の温度で10秒間乾燥させて撥水性皮膜を形成した。
【0110】
次に、片面に撥水性皮膜を設けたフィン基板イの他方の面の耐食性皮膜の上に、ロールコーターにより親水性塗料組成物の塗料E-1を表4に示す膜厚で塗布し、次いでPMT270℃の温度で10秒間乾燥させて親水性皮膜を形成し、比較例4に係る片面撥水性/片面親水性フィン材を調製した。
【0111】
〔比較例6〜9〕
フィン基板として上記フィン基板ロを用い、このフィン基板ロの両面に設けられた耐食性皮膜の上に、ロールコーターにより表3に示す比較撥水塗料組成物F3、F4、F5を表4に示す膜厚で塗布し、次いでPMT220℃の温度で10秒間乾燥させてフィン基板ロの両面に比較撥水性皮膜を有する比較例6〜8の両面撥水性フィン材を形成した。
また、比較例9では、フィン基板として上記フィン基板ロを用い、撥水性若しくは親水性皮膜を形成しないフィン材を調製した。
【0112】
以上のようにして作製された各実施例1〜8及び比較例1〜9の片面撥水性/片面親水性フィン材について、各実施例1〜8の架橋撥水性皮膜及び各比較例1〜9の撥水性皮膜により形成された撥水性面と各実施例1〜8及び比較例1〜9の親水性皮膜により形成された親水性面における水接触角の測定と、各実施例1〜8及び比較例1〜9について、熱交換器を作製し、着霜抑制・凝縮水排除効果の確認試験とを実施した。
結果を表4に示す。
【0113】
【表4】

【0114】
実施例1〜8では、使用された熱交換フィンにおいて、親水性皮膜が形成されている親水性面では着霜したが、霜が閉塞するまで成長することはなかった。もう一方の架橋撥水性皮膜が形成されている撥水性面においては着霜現象は起きず、30分以内に全面着霜することはなかった。除霜運転後、親水性面に付着した霜の融解水は流れ落ち、また、撥水性面上の結露水は、親水性面に触れて流れ落ち、ブリッジの形成は無く、良好な通風状態であった。その際に親水性面に付着した霜も融解して流れ落ちた。
【0115】
これに対して、比較例1においては、熱交換フィンの両面が着霜抑制効果のある撥水性皮膜のみであるため、着霜現象は起きなかったが、除霜運転後、結露水によってブリッジを形成した。また、比較例2においては、熱交換フィンの両面が親水性皮膜のみであるため、短時間で全面着霜して閉塞した。更に、比較例3、5、6、8においては、着霜抑制の持続効果のない撥水性皮膜のため、15分〜30分で全面着霜し、除霜運転後、結露水によってブリッジを形成した。比較例4においては、片面が着霜抑制効果のある撥水性皮膜であったため、30分以内に着霜することはなかったが、除霜運転後、親水性面に付着した霜の融解水は流れ落ちず、また、撥水性面上の結露水は、親水性面に触れていたが流れ落ちず、結露水によってブリッジを形成した。更にまた、比較例7においては、着霜抑制効果の低い撥水性皮膜のため、15分以内で全面着霜し、除霜運転後、結露水によってブリッジを形成した。更にまた、無処理の熱交換フィンを用いた比較例9の場合には、比較例7と同様に、15分以内で全面着霜し、除霜運転後、結露水によってブリッジを形成した。
【0116】
<両面撥水性フィン材の製造例>
〔実施例9〕
フィン基板として上記フィン基板イ又はロを用い、このフィン基板イ又はロの両面に設けられた耐食性皮膜の上に、ロールコーターにより表1に示す水性撥水塗料組成物の塗料D-2を表5に示す膜厚で塗布し、次いでPMT220℃の温度で10秒間乾燥させ、フィン基板イの両面に架橋撥水性皮膜を有する実施例9の両面撥水性フィン材を形成した。
【0117】
〔実施例10〕
フィン基板として上記フィン基板ロを用い、このフィン基板ロの両面に設けられた耐食性皮膜の上に、ロールコーターにより表1に示す水性撥水塗料組成物の塗料D-3を表5に示す膜厚で塗布し、次いでPMT220℃の温度で10秒間乾燥させ、フィン基板の両面に架橋撥水性皮膜を有する実施例10の両面撥水性フィン材を形成した。
【0118】
〔実施例11〕
フィン基板として上記フィン基板ロを用い、このフィン基板ロの両面に設けられた耐食性皮膜の上に、ロールコーターにより表1に示す水性撥水塗料組成物の塗料D-4を表5に示す膜厚で塗布し、次いでPMT220℃の温度で10秒間乾燥させ、フィン基板の両面に架橋撥水性皮膜を有する実施例11の両面撥水性フィン材を形成した。
【0119】
得られた各実施例9〜11の両面撥水性フィン材について、それぞれ上記と同様にして水接触角の測定を行った。結果を表5に示す。
【0120】
【表5】

【0121】
<両面親水性フィン材の製造例>
フィン基板として上記フィン基板イ又はロを用い、このフィン基板イ又はロの両面に設けられた耐食性皮膜の上に、ロールコーター(又は、バーコーター)により表2に示す親水塗料組成物の塗料E-1、E-2、E-3を表6に示す膜厚で塗布し、次いでE-1では、PMT200℃の温度で10秒間、また、E-2、E-3では、PMT230℃の温度で10秒間それぞれ乾燥させ、フィン基板イ又はロの両面に親水性皮膜を有する3種の両面親水性フィン材(a〜c)を形成した。
【0122】
得られた各両面親水性フィン材(a〜c)について、それぞれ上記と同様にして水接触角の測定を行った。結果を表6に示す。
【0123】
【表6】

【0124】
<フィン構造の作成と着霜抑制・凝縮水排除効果の確認試験>
〔実施例9〜11及び比較例10〜11〕
以上のようにして作製された表5に示す実施例9〜11の両面撥水性フィン材と表6に示す各両面親水性フィン材a〜cとを用い、これら両面撥水性フィン材と両面親水性フィン材とを撥水性面と親水性面とが互いに1.5mmの間隔で相対面するように交互に配置して実施例9〜11のフィン構造を構成し、実施例1〜8の場合と同様にクロスフィンチューブ型の試験用熱交換器を作製し、着霜抑制・凝縮水排除効果の確認試験を実施した。
【0125】
また、比較例10では、2枚の実施例9の両面撥水性フィン材を積層させて次に2枚の両面親水性フィンaを積層させる構成を、複数回繰り返してフィン構造を構成し、また、比較例11では、5枚の実施例10の両面撥水性フィン材D-3を積層させて次に5枚の両面親水性フィンbを積層させる構成を、複数回繰り返してフィン構造を構成し、上記と同様にしてクロスフィンチューブ型の試験用熱交換器を作製し、着霜抑制・凝縮水排除効果の確認試験を実施した。
各実施例9〜11及び比較例10〜11の結果を表7に示す。
【0126】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板材で形成されたフィン基板と、このフィン基板の一方の面に設けられた着霜抑制効果を有する架橋撥水性皮膜と、フィン基板の他方の面に設けられた凝縮水排除効果を有する親水性皮膜とを備えた熱交換器用のプレコートフィン材であって、
前記架橋撥水性皮膜が、パーフルオロアルキル基及びパーフルオロアルケニル基からなる群より選ばれる少なくとも1種のフッ素原子含有基を有する樹脂(A)、4級アンモニウム塩基含有変性エポキシ樹脂(B)及びアミノ樹脂(C)を含有し、4級アンモニウム塩基含有変性エポキシ樹脂(B)とアミノ樹脂(C)の固形分合計100質量部に対して、パーフルオロアルキル基及びパーフルオロアルケニル基からなる群より選ばれる少なくとも1種のフッ素原子含有基を有する樹脂(A)の固形分が1〜30質量部である水性撥水塗料組成物から形成されていることを特徴とする熱交換器用プレコートフィン材。
【請求項2】
前記架橋撥水性皮膜は、前記フィン基板の両面に設けられた耐食性皮膜の何れか一方の上に形成されている請求項1に記載の熱交換器用プレコートフィン材。
【請求項3】
前記架橋撥水性皮膜は、その水接触角が100°以上である請求項1又は2に記載の熱交換器用プレコートフィン材。
【請求項4】
前記親水性皮膜は、その水接触角が40°以下である請求項1〜3のいずれかに記載の熱交換器用プレコートフィン材。
【請求項5】
前記架橋撥水性皮膜は、水性撥水塗料組成物を塗布した後に焼き付けて形成されており、その膜厚が0.05〜5.0μmである請求項1〜4のいずれかに記載の熱交換器用プレコートフィン材。
【請求項6】
前記親水性皮膜は、親水塗料を塗布した後に焼き付けて形成されており、その膜厚が0.05〜5.0μmである請求項1〜4のいずれかに記載の熱交換器用プレコートフィン材。
【請求項7】
多数の平板状のプレコートフィン材が互いに所定の間隔でかつ平行に配置され、かつ、互いに隣接するプレコートフィン材間において着霜抑制効果を有する撥水性面と凝縮水排除効果を有する親水性面とが相対面するフィン構造を備えた熱交換器であり、
前記多数のプレコートフィン材は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板材で形成されたフィン基板の一方の面に撥水性面を形成する架橋撥水性皮膜を有すると共に他方の面に親水性面を形成する親水性皮膜を有する多数の片面撥水性/片面親水性フィン材で構成されており、あるいは、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板材で形成されたフィン基板の両面に撥水性面を形成する架橋撥水性皮膜を有する複数の両面撥水性フィン材と、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板材で形成されたフィン基板の両面に親水性面を形成する親水性皮膜を有する複数の両面親水性フィン材とで構成されており、
前記架橋撥水性皮膜は、パーフルオロアルキル基及びパーフルオロアルケニル基からなる群より選ばれる少なくとも1種のフッ素原子含有基を有する樹脂(A)、4級アンモニウム塩基含有変性エポキシ樹脂(B)及びアミノ樹脂(C)を含有し、4級アンモニウム塩基含有変性エポキシ樹脂(B)とアミノ樹脂(C)の固形分合計100質量部に対して、パーフルオロアルキル基及びパーフルオロアルケニル基からなる群より選ばれる少なくとも1種のフッ素原子含有基を有する樹脂(A)の固形分が1〜30質量部である水性撥水塗料組成物から形成されていることを特徴とする熱交換器。
【請求項8】
前記多数のプレコートフィン材が、多数の片面撥水性/片面親水性フィン材で構成されている請求項7に記載の熱交換器。
【請求項9】
前記多数のプレコートフィン材が、複数の両面撥水性フィン材と複数の両面親水性フィン材とで構成されている請求項7に記載の熱交換器。

【公開番号】特開2012−237476(P2012−237476A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105498(P2011−105498)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【出願人】(511113718)
【氏名又は名称原語表記】Alcom Nikkei Specialty Coatings Sdn. Bhd.
【住所又は居所原語表記】No.3, Persiaran Waja, Bukit Raja Industrial Estate, 41050 Klang, Selangor Darul Ehsan, Malaysia
【Fターム(参考)】