説明

熱交換器用部材の製造方法および熱交換器用部材

【課題】安定的に低コストで製造が行われ、フィレットの優先的によるフィン剥がれが起こらない高耐食性の熱交換器用部材の製造方法を提供する。
【解決手段】アルミニウムまたはその合金からなる基材の表面に、Alより腐食電位が卑なる金属またはその合金もしくはその化合物からなる金属粒子を高速で噴射し、その金属粒子を機械的に付着させて金属付着層を形成する熱交換器用部材の製造方法であって、平均粒径(x)が25μm以下の金属粒子を、温度:200〜400℃、粒子速度(y):100〜400m/secで噴射することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばろう付によって製作されるアルミニウム製熱交換器の構成部材として用いられ、特にろう付性および耐食性を要求される部材に好適に用いられる熱交換器用部材の製造方法およびこの方法で製造した熱交換器用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム製熱交換器の耐食性を向上させるために、チューブの表面にZnを溶射して犠牲腐食層を形成する技術は既に知られている。しかし、このZn溶射チューブにおいては、低い付着量では安定的な溶射が困難であり、Znを均一かつ薄く付着させることができない。また、低い付着量を達成したとしてもチュ一ブ表面に均一に付着しておらず、付着部と未付着部が混在するため、チューブの穴あき耐食性に問題があった。また、未付着部をなくすためにZn付着量を多くすると、フィン/チューブ接合部のフィレットにZnが濃化し、フィレットが優先的に腐食するという事象が発生し、フィン剥がれが発生していた。
【0003】
このため、Znを薄く均一に付着させる方法として、A1−Zn合金を溶射して付着するZnの実質量を減らしたり、Zn置換型フラックスを用いることによりZnを薄く均一に付着させてフィン剥がれを防止する方法が提案されている(特許文献1,2参照)。
【特許文献1】特開平04−15496号公報
【特許文献2】特開2003−225760号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、Al−Zn溶射による手法では、Al−Zn線がコスト高であるという問題があった。また、Zn置換型反応を示すフラックスを用いる方法では、樹脂をバインダ−として塗布するための塗布工程とろう付時に樹脂成分を加熱により分解する必要があり、加熱工程において大幅な設備変更が必要であった。
【0005】
また、チューブとして押出材を用いることが一般であるが、チューブ表面にダイスラインが存在しているとろう材がダイスラインに誘導され、ろう材による侵食(エロージョン)が発生するという問題も発生した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、上記のような技術的背景に鑑みてなされたものであって、安定的に低コストで製造が行われ、フィレットの優先腐食によるフィン剥がれが起こらない高耐食性の熱交換器用部材の製造方法、熱交換器の製造方法、熱交換器用部材を提供するものである。
【0007】
即ち、本発明の熱交換器用部材の製造方法、熱交換器の製造方法、および熱交換器用部材は下記[1]〜[9]に記載の構成を有する。
【0008】
[1]アルミニウムまたはその合金からなる基材の表面に、Alより腐食電位が卑なる金属またはその合金もしくはその化合物からなる金属粒子を高速で噴射し、その金属粒子を機械的に付着させて金属付着層を形成する熱交換器用部材の製造方法であって、
平均粒径(x)が25μm以下の金属粒子を、温度:200〜400℃、粒子速度(y):100〜400m/secで噴射することを特徴とする熱交換器用部材の製造方法。
【0009】
[2]前記金属粒子の平均粒径x(μm)と粒子速度y(m/sec)とが、x≧8.5、y≧150、y≧20x−140、x≦25、y≦500、y≦12x+230を満たす領域内に存在することを特徴とする前項1に記載の熱交換器部材の製造方法。
【0010】
[3]前記基材は押出材である前項1または2に記載の熱交換器用部材の製造方法。
【0011】
[4]チューブとフィンとを交互に重ねて配置するとともに、前記チューブにヘッダータンクを連結した状態でコア部を仮組みし、仮組みしたコア部を加熱して前記チューブ、フィンおよびヘッダータンクをろう付する熱交換器の製造方法において、
前記チューブまたはヘッダータンクとして、前項1〜3のいずれかに記載の熱交換器用部材の製造方法で製作したチューブまたはヘッダータンクを用い、ろう付時の加熱によって金属付着層の金属を基材の表層部に拡散させて犠牲腐食層を形成することを特徴とする熱交換器の製造方法。
【0012】
[5]アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材の外面に、Alより腐食電位が卑なる金属またはその合金もしくはその化合物からなる金属粒子が機械的に付着してなる金属付着層を有する熱交換器用部材であって、
前記金属付着層において、金属粒子の付着面における平均直径が50μm以下、金属粒子の層厚方向の厚さ(T)と付着面における直径(D)とのアスペクト比(T/D)の平均が1/2以下、金属粒子の粒子間距離が300μm以下、金属粒子による被覆面積率が15%以上であることを特徴とする熱交換器用部材。
【0013】
[6]前記Alより腐食電位が卑なる金属がZnである前項5に記載の熱交換器部用部材。
【0014】
[7]前記金属粒子がZnおよびKZnFの少なくとも1種である前項6に記載の熱交換器用部材。
【0015】
[8]前記金属付着層におけるZn付着量が0.5〜20g/mである前項6または7に記載の熱交換器用部材。
【0016】
[9]前記熱交換器用部材はチューブまたはヘッダータンクである前項5〜8のいずれかに記載の熱交換器用部材。
【発明の効果】
【0017】
上記[1]に記載の熱交換器用部材の製造方法によれば、犠牲腐食のための金属粒子を機械的に付着させた金属付着層を形成して高耐食性の熱交換器用部材を製造できる。この金属付着層は、金属粒子の平均直径、アスペクト比、粒子間距離、被覆面積率が規定されたものであるから、少ない金属量で均一な層となされている。このため、加熱によって金属が拡散すると、薄く均一な犠牲腐食層が形成され、高い耐食性が得られる。
【0018】
上記[2]に記載の熱交換器用部材の製造方法によれば、特に効率良く熱交換器用部材を製造できる。
【0019】
上記[3]に記載の熱交換器用部材の製造方法によれば、基材のダイスラインを除去することができる。
【0020】
上記[4]に記載の熱交換器の製造方法によれば、ろう付時に加熱により犠牲腐食層が形成されて高耐食性の熱交換器を製造できる。
【0021】
上記[5]に記載の熱交換器用部材において、金属付着層は犠牲腐食のための金属粒子を機械的に付着させた層であり、金属粒子の平均直径、アスペクト比、粒子間距離、被覆面積率が規定されたものであるから、少ない金属量で均一な層となされている。このため、加熱によって金属が拡散すると、薄く均一な犠牲腐食層が形成され、高い耐食性が得られる。
【0022】
上記[6][7][8]に記載の熱交換器用部材によれば、特に高い耐食性が得られる。
【0023】
上記[9]に記載の熱交換器用部材は、高い耐食性を有するチューブまたはヘッダーである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の熱交換器用部材は、基材の表面にAlよりも腐食電位が卑なる金属またはその合金もしくはその化合物からなる金属粒子を付着させた金属付着層を有する。かかる熱交換器用部材は、加熱、例えばろう付時の加熱によって付着させた金属が基材の表層部に拡散し、犠牲腐食層が形成される。
【0025】
本発明において、熱交換器用部材の種類は問わない。例えば図1に示した熱交換器(1)は、チューブ(2)とフィン(3)とが交互に積層されるとともに、前記チューブ(2)の端部をヘッダータンク(4)に連通接続され、チューブ(2)とフィン(3)、チューブ(2)とヘッダータンク(4)がろう付接合されることにより、コア部が形成されたものである。本発明の熱交換器用部材は、チューブ(2)、フィン(3)、ヘッダータンク(4)のいずれにも適用でき、特にチューブ(2)およびヘッダータンク(4)を推奨できる。なお、図1の熱交換器(1)においては、最外側のフィン(3)にサイドプレート(5)がろう付されている。本発明の製造方法は熱交換器用部材がろう付される前であれば適用でき、ろう付前の各々の熱交換器用部材に適用できるのはもちろん、フィン、チューブ、ヘッダ等の熱交換器用部材を製造する前の板材や管材等の材料に本発明を適用しても良い。
【0026】
本発明の熱交換器用部材において、基材の材料はアルミニウムまたはその合金である限り限定されず、周知のものを適宜使用できる。チューブ材料として、JIS 1000系のアルミニウム合金、微量のCu、Mnを添加したアルミニウム合金、JIS 3000系のアルミニウム合金を推奨できる。また、フィン材料としてはJIS 3203にZnを添加したアルミニウム合金を推奨でき、ヘッダータンク材料としてはJIS 3003合金を推奨できる。
【0027】
また、金属付着層において、金属粒子はAlより腐食電位が卑なる金属であれば犠牲腐食層を形成することができ、Zn,In,Snを例示できる。特にコストが安い点でZnを推奨できる。また、これらの金属はその金属を単体で用いる他、合金、化合物のいずれでも用いることができる。Znの場合は、Al−Zn合金、KZnF,ZnF,ZnClを例示できる。特に、Zn単体、KZnFのうちのいずれかを推奨できる。これらの金属粒子は1種を単独で用いることも、複数種を用いることもできる。
【0028】
図2におよび図3に、本発明の熱交換器用部材の一例として扁平多穴型の熱交換器用チューブ(2)を示す。前記熱交換器用チューブ(2)は、基材(2a)の対向する2つの平坦壁に金属付着層(10)を有する。
【0029】
前記金属付着層(10)は、金属粒子(11)を基材(2a)に機械的に付着させることにより形成したものである。機械的付着とは、バインダーを介さず金属粒子(11)が基材(2a)に直接付着している状態であり、例えば金属粒子を高速噴射して基材(2a)に衝突させることにより機械的に付着させることができる。
【0030】
前記金属付着層(10)において、金属粒子(11)は衝突時の衝撃で扁平に変形した状態で付着しており、扁平に変形することで基材(2a)表面が薄く均一にかつ効率良く被覆されている。大径の金属粒子を基材(2a)に衝突させると付着せずに脱落するものが多くなり、均一性や付着効率が悪くなるので、金属粒子(11)の付着面(11a)における直径(D)の平均(Dm)は50μm以下となされ、特に平均直径(Dm)が30μm以下となされていることが好ましい。金属粒子(11)の扁平性は、層厚方向の厚さ(T)と付着面(11a)における直径(D)とのアスペクト比(T/D)で表される。金属粒子(11)が扁平であるほど薄く均一にかつ効率良く基材(2a)を被覆でき、本発明においては前記アスペクト比(T/D)の平均が1/2以下となされている。特に好ましい平均アスペクト比は1/3以下である。
【0031】
また、薄く均一な犠牲腐食層を形成して高い耐食性を得るためには金属粒子(11)による被覆状態が重要であり、本発明においては金属粒子(11)の粒子間距離(A)および被覆面積率によって被覆状態を規定する。粒子間距離(A)とは、粒子形状や粒径にかかわらず粒子(11)(11)の端部間距離である。被覆面積率とは、金属付着層(10)の面積に対する金属粒子(11)の付着面(11a)の面積の合計の割合である。本発明においては、粒子間距離(A)を300μm以下とするとともに、被覆面積率が15%以上とすることによって耐食性を確保している。粒子間距離(A)が300μmを超え、または被覆面積率が15%未満では金属粒子(11)の未付着部分が多くなって均一な犠牲腐食層の形成が困難である。好ましい粒子間距離(A)は200μm以下であり、好ましい被覆面積率は20%以上である。
【0032】
さらに、耐食性を得るための金属量は、金属の付着量によっても表わすことができる。金属としてZnを用いる場合、Zn付着量は0.5〜20g/mが好ましい。0.5g/m未満では犠牲腐食に必要なZn量を満たしておらず耐食性の確保が困難である。20g/mを越えるとフィレット部が優先腐食し易くかつ不経済でもある。特に好ましい付着量は1〜15g/mである。なお、前記付着量は、金属を金属単体、合金、化合物のいずれの物質として付着させる場合もその元素の正味量である。例えば、Al−Zn合金やKZnFとして付着させる場合のZn量である。
【0033】
上述した金属付着層(10)は、例えば噴射装置のノズルから金属粒子をキャリアガスによって高速で噴射し、基材(2a)の表面に金属粒子を衝突させて付着させることによって形成することができる。基材(2a)に衝突した金属粒子(11)は衝撃によって扁平に変形した状態で機械的に付着し(図3参照)、少ない付着量で均一な金属付着層(10)が形成される。以下の説明において、噴射材料としての金属粒子を「噴射用金属粒子」と称し、扁平に変形して基材(2a)に付着した金属粒子(11)を「付着金属粒子」と称する。
【0034】
噴射用金属粒子は球状または付着金属粒子よりも球状に近い形状であるが、扁平に変形して付着することで球状のままで付着するよりも広い面積を覆うことができる。その結果、均一な金属付着層(10)が形成され、ひいては均一な犠牲腐食層が形成される。
【0035】
噴射用金属粒子の噴射条件は、上述した金属付着層(10)の条件を達成するために以下の諸条件を推奨できる。図4は、噴射用金属粒子の平均粒径(x)と粒子速度(y)との関係を示すものであり、図4を参照しつつ噴射条件について詳述する。
【0036】
噴射用金属粒子は、平均粒径(x)が25μm以下のものを用いる(図4の(b)参照)。粒径が大きすぎると基材(2a)に付着しにくくなって付着効率が低下するおそれがある。また、25μm以下の噴射用金属粒子を用いることで、上述した付着金属粒子(11)の平均直径(Dm)50μm以下を達成できる。また、噴射用金属粒子の下限値は限定されないが、小さくなり過ぎると粒子の慣性力が小さくなり、基材(2a)近くで流速が遅くなって付着効率が低下するおそれがあるため、5μm以上が好ましい(図4の(a)参照)。噴射用金属粒子の特に好ましい平均直径(x)は8.5〜14μmである。
【0037】
噴射温度は粒子の変形および付着効率に影響を及ぼす因子である。噴射温度が200℃未満では噴射用金属粒子が十分に軟化せず、基材(2a)に衝突させたときに十分に扁平に変形せず、かつ脱落する粒子が多くなって付着効率も悪くなる。一方、400℃を超えると噴射用金属粒子の表面の酸化皮膜が成長するために付着しにくくなる。好ましい噴射温度は300〜400℃である。
【0038】
噴射時の粒子速度(y)は粒子の付着に影響する因子であり、100〜400m/secとするのが好ましい(図4の(c)(d)参照)。粒子速度(y)が100m/sec未満では、付着せずに脱落する粒子が多くなって付着効率が悪く不経済である。一方、400m/secを越える範囲では、粒子速度が速すぎて衝突時の衝撃で基材(2a)が変形するおそれがあるために好ましくない。特に好ましい粒子速度(y)は150〜300m/secである。
【0039】
また、噴射用金属粒子は、その粒径が大きくなるほど高い粒子速度で基材に衝突させることにより付着効率を上げることができ、ひいては高耐食性の熱交換器用部材を効率良く製造することができる。具体的には、上述した金属粒子の平均粒径(x)および粒子速度(y)の好適範囲より、前記金属粒子の平均粒径x(μm)と粒子速度y(m/sec)とが、図4の式(e)(f)(g)(b)(d)(h)で囲まれた領域内、即ちx≧8.5、y≧150、y≧20x−140、x≦25、y≦500、y≦12x+230を満たす領域内で設定することが好ましい。
【0040】
また、前記噴射用金属粒子を高速噴射するためのキャリアガスの種類は限定されないが、空気、窒素ガス、炭酸ガス、アルゴンガス等を例示できる。噴射用金属粒子を酸化させないために、特に窒素ガスやアルゴンガス等の非酸化性雰囲気下で噴射することが好ましい。
【0041】
本発明の熱交換器用チューブ(2)の製造は、基材(2a)となる扁平多穴管をコア組みするための寸法にしてから金属付着層(20)を形成しても良いし、長尺の基材(2a)に対して金属付着層(10)を形成した後に所要寸法に切断しても良い。例えば図5に示すように、押出成形した扁平多穴管からなる基材(2a)をコイル状に巻き取り、コイル(21)をほどく一方で基材(2a)の上下に微粒子高速噴射装置のノズル(20)を配置し、走行中の基材(2a)の上下両面に噴射用金属粒子を噴射する方法を示したものである。このように長尺の基材(2a)に対して連続的に金属付着層(10)を形成することにより、熱交換器用チューブ(2)を効率良く製造することができる。
【0042】
前記基材の製造方法は何ら限定されないが、押出材を推奨できる。押出材にはダイスラインが形成されることがあるが、噴射用属粒子の高速噴射よってダイスラインを除去できるので、ダイスラインへのろう材流入によるエロージョンを防ぐことができる。このため、本発明の熱交換器の製造方法を押出材に適用する意義は大きい。
【0043】
前記熱交換器(1)は、前記熱交換器用チューブ(2)、フィン(3)、ヘッダータンク(4)を仮組した状態でろう付加熱され、これらが接合される。ろう付時の加熱温度は、580〜620℃が好ましい。また、金属の拡散による犠牲腐食層の形成は400℃以上の加熱によってなされ、ろう付時の加熱によって熱交換器用チューブ(2)の表層部に犠牲腐食層が形成される。この犠牲腐食層により、本願発明の熱交換器(1)は耐食性に優れたものとなる。
【実施例】
【0044】
〔試験1〕 噴射用金属粒子の平均粒径と粒子速度の関係
〈熱交換器用チューブの製作〉
熱交換器用チューブ(2)の基材(2a)の材料として、JIS 1000系アルミニウム合金(Cu:0.4質量%、Mn:0.2質量%含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる)を用いた。そして、前記組成のアルミニウム合金ビレットに対して均熱処理を施し、押出機から図2に示す幅16mm×高さ3mm×肉厚0.5mmの多穴扁平管(2a)を押出し、コイル(21)に巻き取った。
【0045】
次に、図5に示すように、コイル(21)をほどく一方で多穴扁平管(2a)の上下に噴射装置のノズル(20)を配置し、走行中の多穴扁平管(2a)の上下の平坦壁の表面に、噴射用金属粒子としてZn粒子を高速噴射して金属付着層(10)を連続形成した。Zn粒子は平均粒径が2μm、5μm、10μm、15μm、20μm、25μm、30μmの7種類とし、粒子速度は50m/sec、100m/sec、200m/sec、300m/sec、400m/sec、500m/sec、550m/secの7段階とし、49通りの組み合わせで噴射して金属付着層(10)を形成した。他の条件は全て共通とし、コイルの走行速度は一定、噴射温度は350℃とした。
【0046】
金属付着層(10)を形成した多穴扁平管(2a)は所定長さにカッティングし、これを熱交換器用チューブ(2)とした。
【0047】
形成された金属付着層(10)を観察したところ、式(a)(b)(c)(d)で囲まれた領域内の条件を満たすものは、付着金属粒子の平均直径が50μm以下、アスペクト比(T/D)の平均が1/2以下、粒子間距離が300μm以下、被覆面積率が15%以上であった。
【0048】
作製した各熱交換器用チューブ(2)、ブレージングフィン(3)、ヘッダータンク(4)を仮組みし、ろう付することにより図1に示す表熱交換器(1)を作製した。ろう付加熱は600℃×10minとした。この加熱により、熱交換器用チューブ(2)の表層部にはZnが拡散されて犠牲腐食層が形成された。
【0049】
ろう付した各熱交換器について、下記の試験方法により耐食性を評価した。これらの評価結果を図4に示す。
〈耐食性〉
製作した各熱交換器に対し、ASTM−G85−A3に規定されたSWAAT試験を実施した。腐食試験液は、ASTM D1141による人工海水を作製し、この人工海水に酢酸を添加してpH3に調製した腐食試験液を用いた。また、試験条件は0.5時間噴霧−湿潤1.5時間を1サイクルとし、このサイクルを480時間実施するものとした。さらに、480時間の腐食試験で良好な結果を得たものについては、さらに480時間延長して合計960時間の腐食試験を実施した。
【0050】
前記腐食試験後に以下の基準で耐食性を評価した。
【0051】
○:良好にろう付されてエロージョンの発生がなかった。また、フィレットの優先腐食が無く、960時間の腐食試験においても良好であったもの
△:良好にろう付されてエロージョンの発生がなかった。また、最大腐食深さは○と同等で480時間の腐食試験において良好であったもの
×:腐食深さが200μm以上のもの、または孔食が発生したもの、または基材のエロージョンが発生したもの
【0052】
図4の結果より、金属付着層を形成する際の噴射用金属粒子の平均粒径(x)と粒子速度(y)との関係が式(a)(b)(c)(d)で囲まれた領域内の条件を満たす場合に効率良く金属粒子を付着させることができ、ひいては高い耐食性が得られることを確認した。さらに、式(e)(f)(g)(b)(d)(h)で囲まれた領域内の条件を満たす場合には、なお一層高い耐食性が得られることを確認した。
【0053】
〔試験2〕 種々の熱交換器用チューブ
〈熱交換器用チューブの製作〉
上記試験1と同じ方法で押出した多穴扁平管(2a)をコイル(21)に巻き取り、図5に示すように、コイル(21)をほどく一方で走行中の多穴扁平管(2a)の上下の平坦壁に種々の噴射用金属粒子を高速噴射して金属付着層(10)を形成した。各例で用いた噴射用金属粒子の組成、粒径、噴射条件は表1に示すとおりである。
【0054】
上述した噴射用金属粒子の高速噴射により、多穴扁平管(2a)の上下の平坦壁に金属付着層(10)が形成され、正味のZn付着量は表1に示す量となった。金属付着層(10)を形成した多穴扁平管(2a)は所定長さにカッティングし、これを熱交換器用チューブ(2)とした。
【0055】
作製した各例の熱交換器用チューブ(2)、ブレージングフィン(3)、ヘッダータンク(4)を仮組みし、ろう付することにより図1に示す表熱交換器(1)を作製した。ろう付加熱は600℃×10minとした。この加熱により、熱交換器用チューブ(2)の表層部にはZnが拡散されて犠牲腐食層が形成された。
【0056】
ろう付した各熱交換器について、試験1と同じ方法で耐食性試験を行い評価した。評価結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
各実施例の熱交換器用チューブは、所定の金属付着層が形成されたことで優れた耐食性を有するものであった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の方法により製造された熱交換器用部材は優れた耐食性およびろう付性を有するものであるから、各種熱交換器の構成部品として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の熱交換器の一実施形態を示す正面図である。
【図2】本発明の熱交換器用部材の一実施形態を示す断面図である。
【図3】本発明の熱交換器用部材における金属付着層の断面図である。
【図4】本発明の熱交換器用部材の製造方法において、金属粒子の平均粒径と粒子速度の関係を示す図である。
【図5】実施例において噴射装置のノズルの配置例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0061】
1…熱交換器
2…熱交換器用チューブ(熱交換器用部材)
2a…基材(多穴扁平管)
3…フィン
4…ヘッダータンク
10…金属付着層
11…金属粒子
11a…付着面
A…粒子間距離
T…金属粒子の厚さ
D…金属粒子の付着面における直径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムまたはその合金からなる基材の表面に、Alより腐食電位が卑なる金属またはその合金もしくはその化合物からなる金属粒子を高速で噴射し、その金属粒子を機械的に付着させて金属付着層を形成する熱交換器用部材の製造方法であって、
平均粒径(x)が25μm以下の金属粒子を、温度:200〜400℃、粒子速度(y):100〜400m/secで噴射することを特徴とする熱交換器用部材の製造方法。
【請求項2】
前記金属粒子の平均粒径x(μm)と粒子速度y(m/sec)とが、x≧8.5、y≧150、y≧20x−140、x≦25、y≦500、y≦12x+230を満たす領域内に存在することを特徴とする請求項1に記載の熱交換器部材の製造方法。
【請求項3】
前記基材は押出材である請求項1または2に記載の熱交換器用部材の製造方法。
【請求項4】
チューブとフィンとを交互に重ねて配置するとともに、前記チューブにヘッダータンクを連結した状態でコア部を仮組みし、仮組みしたコア部を加熱して前記チューブ、フィンおよびヘッダータンクをろう付する熱交換器の製造方法において、
前記チューブまたはヘッダータンクとして、請求項1〜3のいずれかに記載の熱交換器用部材の製造方法で製作したチューブまたはヘッダータンクを用い、ろう付時の加熱によって金属付着層の金属を基材の表層部に拡散させて犠牲腐食層を形成することを特徴とする熱交換器の製造方法。
【請求項5】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材の外面に、Alより腐食電位が卑なる金属またはその合金もしくはその化合物からなる金属粒子が機械的に付着してなる金属付着層を有する熱交換器用部材であって、
前記金属付着層において、金属粒子の付着面における平均直径が50μm以下、金属粒子の層厚方向の厚さ(T)と付着面における直径(D)とのアスペクト比(T/D)の平均が1/2以下、金属粒子の粒子間距離が300μm以下、金属粒子による被覆面積率が15%以上であることを特徴とする熱交換器用部材。
【請求項6】
前記Alより腐食電位が卑なる金属がZnである請求項5に記載の熱交換器部用部材。
【請求項7】
前記金属粒子がZnおよびKZnFの少なくとも1種である請求項6に記載の熱交換器用部材。
【請求項8】
前記金属付着層におけるZn付着量が0.5〜20g/mである請求項6または7に記載の熱交換器用部材。
【請求項9】
前記熱交換器用部材はチューブまたはヘッダータンクである請求項5〜8のいずれかに記載の熱交換器用部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−229426(P2010−229426A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−205322(P2007−205322)
【出願日】平成19年8月7日(2007.8.7)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】