説明

熱伝導シート及びその製造方法

【課題】グラフェンの面内方向だけでなく、シート厚み方向における導電性及び熱伝導性を高め得る、導電性及び熱伝導性における異方性が少ない熱伝導シートを提供する。
【解決手段】グラフェン積層体からなるグラフェンシートのグラフェン間に導電性材料層がインターカレートされている熱伝導シート、グラフェンシートの層間を膨潤して膨張化黒鉛からなるグラフェンシートを得て、該グラフェンシートの層間に導電性材料をインターカレートする、熱伝導シートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒鉛を用いる熱伝導シートに関し、特に、面方向だけでなく厚み方向においても優れた導電性及び熱伝導性を発現する熱伝導シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
黒鉛は、グラフェンと称されているシートの積層体であり、グラフェンの面方向に優れた導電性および熱伝導性を発現する。そのため、下記の特許文献1に記載のように、グラファイトシート表面にポリウレタンまたはポリウレタン誘導体プライマー層を形成し、その表面にシリコーン組成物を貼り合わせることを特徴とするグラファイトシートとシリコーン組成物の接着構造体が、導電性および熱伝導性複合材料として用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−287298
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
黒鉛は、グラフェンの積層体であり、層状の物質である。しかしながら、グラフェンの面方向には優れた導電性を発現するものの、グラフェン間すなわちシート間には隙間がある。従って、通常の黒鉛では、厚み方向における導電性や熱伝導性が低い。よって、従来の黒鉛は、厚み方向に導電性及び熱伝導性に優れたシートとして用いることはできなかった。
【0005】
本発明の目的は、上述した従来技術の現状に鑑み、面方向だけでなく、厚み方向においても優れた導電性及び熱伝導性を発現する、熱伝導シート及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る導電シートは、グラフェン積層体である黒鉛と、前記グラフェン間にインターカレートされている導電性材料層とを備える、導電シートである。本発明に従う熱伝導シートは、導電性材料層がインターカレートされているため、面方向及び厚み方向の双方において優れた導電性及び熱伝導性を発現する。
【0007】
本発明に係る熱伝導シートのある特定の局面では、前記黒鉛が、層状黒鉛を膨潤して、グラフェン間の距離が拡げられている膨張化黒鉛である。この場合には、層間距離が広げられており、従って、厚い導電性材料層により厚み方向の導電性をより一層高めることができる。
【0008】
本発明に係る熱伝導シートの他の特定の局面では、上記導電性材料層が前記グラフェンと一体焼結されている。従って、厚み方向における導電性がより一層高められ、かつ熱伝導シートの強度も高められる。
【0009】
本発明に係る熱伝導シートの製造方法は、層状黒鉛を膨潤して、層間を広げて膨張化黒鉛を得る工程と、前記膨張化黒鉛の層間に導電性材料をインターカレートして導電性材料層を形成する工程とを備える。
【0010】
本発明に係る熱伝導シートの製造方法のある特定の局面では、前記膨潤が、電解質イオンを前記層状黒鉛の層間にインターカレートすることにより行われる。上記電解質イオンのインターカレートにより、グラフェン間すなわち層間の距離をより一層広げることができる。
【0011】
本発明に係る熱伝導シートの製造方法の他の特定の局面では、前記導電性材料をインターカレートする工程が、前記膨張化黒鉛と前記導電性材料を含む導電性材料溶液に浸漬することにより行われる。導電性材料の溶液に膨張化黒鉛を浸漬するという単純な工程で導電性材料層を形成することができる。
【0012】
本発明に係る熱伝導シートの製造方法のさらに他の特定の局面では、前記導電性材料が層間にインターカレートされた膨張化黒鉛を厚み方向に加圧し、かつ加熱することにより導電性材料層とグラフェンとを一体化焼結する工程をさらに備える。この場合には、一体焼結により、導電性材料層とグラフェンとの結合力が高められ、厚み方向の導電性をより一層高めることができる。また、機械強度も高めることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る熱伝導シートでは、グラフェン積層体からなる黒鉛のグラフェン間すなわち層間に導電性材料層がインターカレートされているため、グラフェンの面内方向だけでなく、厚み方向においても良好な導電性及び熱導伝導性を発現する。従って、導電性及び熱伝導性において異方性を有しない導電熱伝導シートを提供することが可能となる。
【0014】
本発明に係る製造方法によれば、上記導電性材料を層間にインターカレートするため、グラフェンの面内方向及び厚み方向の双方において導電性及び熱伝導性に優れた本発明の熱伝導シートを提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0016】
(熱伝導シート)
本発明に係る熱伝導シートは、グラフェン積層体からなる黒鉛の層間すなわちグラフェン間に導電性材料層がインターカレートされていることを特徴とする。
【0017】
黒鉛は、通常グラフェンが間隔を隔てて積層されている積層体である。本明細書においては、このような通常の黒鉛を、層状黒鉛とし、以下に述べる膨張化黒鉛及び薄片化黒鉛と区別することとする。後述する製造方法から明らかなように、層状黒鉛のグラフェン間に電解質イオンをインターカレートさせることにより、層状黒鉛の層間を広げ、膨張化黒鉛とすることができる。すなわち、膨張化黒鉛とは、元の層状黒鉛よりも層間が広げられた黒鉛をいうものとする。
【0018】
好ましくは、上記導電性材料層は上記膨張化黒鉛の層間にインターカレートされる。従って、十分な厚みの導電性材料層をインターカレートすることができる。よって、熱伝導シートの厚み方向の導電性及び熱伝導性を効果的に高めることができる。
【0019】
また、薄片化黒鉛とは、上記膨張化黒鉛を剥離処理することにより得られ、膨張化黒鉛よりもグラフェンの積層数が少ない積層体をいうものとする。薄片化黒鉛を用いた場合、より厚みが薄い熱伝導シートを得ることができる。このような剥離処理は、膨張化黒鉛を混練する方法、超音波を加える方法等により得ることができる。
【0020】
本発明において、グラフェン間にインターカレートされる導電性材料は、導電性を発現する限り、特に限定されるものではない。もっとも、好ましくは、グラフェンよりも導電性に優れた導電性材料を用いることが望ましく、それによって、厚み方向及び面内方向の導電性をより一層高めることができる。
【0021】
上記導電性材料の例としては、有機導電材、無機導電材、複合導電材、金属粉末、等を挙げることができる。
【0022】
また、本発明に係る熱伝導シートでは、上記導電性材料層がグラフェンと一体焼結されていることが好ましい。その場合には、導電性材料層とグラフェンとの結合力が高められ、厚み方向においてより一層高い導電性及び熱伝導性を発現する。上記導電性材料層の積層数及び厚みは、用意される膨張化黒鉛の層間の数及び層間距離に依存することとなる。
【0023】
また、本発明に係る熱伝導シートでは、上記導電性材料層が積層された膨張化黒鉛の外側の面に、さらに他の導電性材料層が積層されていてもよい。
【0024】
(製造方法)
本発明の熱伝導シートの製造に際しては、まず、層状黒鉛のグラフェン間に電解質イオンをインターカレートし、膨張化黒鉛を得る。例えば、層状黒鉛の層間に硝酸イオン、硫酸イオン等の電解質イオンを電気分解法や他の方法によりインターカレートする。それによって、層間が広げられ、膨張化黒鉛を得ることができる。
【0025】
より具体的には、層状黒鉛を作用極とし、該作用極を対照極とともに硝酸や硫酸中に浸漬し、電気分解を行う。この電気分解により、層状黒鉛の層間すなわちグラフェン間に硝酸イオンや硫酸イオン等の電解質イオンをインターカレートすることができる。
【0026】
また、他の方法として、電気化学的に電解質イオンを層間にインターカレートする方法が挙げられる。まず、前記層状黒鉛を、硝酸や硫酸と混合し、氷浴しつつ撹拌する。しかる後、急速加熱し、それによって層間距離を広げ、膨張化黒鉛とすることができる。加熱温度については、40℃〜70℃の範囲とすることが望ましい。この範囲内であれば、層間距離を十分に広げることができる。
【0027】
次に、上記のようにして得られた膨張化黒鉛からなるシートを水等により洗浄し、乾燥し、シート周辺の硝酸イオンや硫酸イオン等を除去する。このようにして、乾燥した膨張化黒鉛シートを得ることができる。
【0028】
次に、乾燥した膨張化黒鉛シートを、導電性材料溶液に浸漬し、層間に導電性材料を含浸させる。導電性材料溶液は、前述した導電性材料を溶解してなる適宜の溶液を用いることができる。この場合の溶媒としては、導電性材料を溶解し得る限り特に限定されず、例えば、水溶液、有機溶媒、イオン流体等を用いることができる。また、導電性材料溶液に代えて、導電性材料が分散された導電性材料分散液を用いてもよい。上記導電性材料溶液に用いる溶媒としては、水溶液、有機溶媒、アルコール類、イオン流体等を挙げることができる。また、上記分散液に用いる分散媒としては、水溶液、有機溶媒、アルコール類、イオン流体等を挙げることができる。
【0029】
上記含浸処理に際しての温度は、特に限定されないが、含浸速度を高める上では、30℃以上であることが望ましい。含浸温度が高すぎると、膨張黒鉛シートが破壊されることがあるため、含浸に際しての温度は90℃以下とすることが望ましい。
【0030】
含浸時間については、導電性材料が層間に含浸される限り特に限定されないが、5分〜12時間程度とすればよい。含浸時間が短すぎると、導電性材料を層間に確実に含浸させ得ないことがあり、長すぎると生産性が低下する。
【0031】
次に、上記のようにして、導電性材料が層間にインターカレートされた膨張化黒鉛シートを乾燥する。乾燥条件は特に限定されず、常温〜120℃の温度で20分〜2時間程度維持すればよい。
【0032】
上記のようにして、導電性材料層が層間にインターカレートされている本発明の熱伝導シートを得ることができる。この熱伝導シートでは、グラフェン間に導電性材料層が形成されているため、厚み方向においても良好な熱伝導性及び導電性を発現する。
【0033】
好ましくは、上記熱伝導シートを次の支持シート間に挟み、厚み方向に加圧しつつ、加熱・加圧処理を行うことが望ましい。この加熱及び加圧処理により、導電性材料層とグラフェンとの間の結合力を高め、導電性及び熱伝導性をより一層高めることができる。この場合の加熱温度については、特に限定されないが、250℃〜1200℃の範囲とすることが望ましく、この範囲内であれば、導電性材料層とグラフェンとの結合力を効果的に高めることができる。また、加熱及び加圧時間については、5分〜2時間程度とすればよい。1時間以上加熱及び加圧処理することにより、導電性材料層とグラフフェンとの結合力を効果的に高めることができ、2時間を超えて加熱及び加圧処理を行うと、生産性が低下する。
【0034】
より好ましくは、上記加熱及び加圧処理後の熱伝導シートを、さらに一対の支持体間に挟み込み、400℃〜800℃の温度で1時間加熱し、上記導電性材料層とグラフェンとを一体焼結することが望ましい。一体焼結により、導電性材料層とグラフェンとの結合力がより一層高められる。そのため、厚み方向の導電性及び熱伝導性をより一層高めることができる。
【0035】
なお、上記加熱及び加圧処理ならびに一体焼結処理に対しての支持体としては、グラフェンと反応性を有しない適宜の材料を用いることができる。このような材料としては、ステンレス、セラミック、ガラス、カーボンシート等の無機材料を好適に用いることができる。より好ましくは、多孔質無機材料を用いることが望ましい。それによって、発生するガスを透過することができる。
【0036】
(用途)
本発明に係る熱伝導シートは、グラフェンの面内方向だけでなく、熱伝導シートの厚み方向においても、良好な導電性及び熱伝導性を発現する。従って、導電性及び熱伝導性に異方性が求められない導電熱伝導シートとして様々な用途に好適に用いることができる。
【0037】
例えば、本発明の熱伝導シートは、半導体基盤材料、電子材料、太陽電池基板材料等に好適に用いることができる。
【0038】
以下、本発明の実施例及び比較例を説明する。本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
層状黒鉛(巴工業社製、品番:密度0.7品)からなるグラファイトシートを用意した。このグラファイトシートにおけるグラフェン間の層間距離を、XRDスペクトルにより求めたところ、0.34nmであった。
【0040】
60wt%濃度の硝酸中に、対照極としてPt電極を挿入し、作用極として上記グラファイトシートを浸漬し、両者の間に電圧一定で、直流電流を100mA〜720mA、30min〜150min流し、電気分解を行った。それによって、グラファイトシートの層間に硝酸イオンをインターカレートさせた。しかる後、グラファイトシートを取り出し、風乾ののち真空乾燥により膨潤化したグラファイトシートを作製した。
【0041】
しかる後、乾燥したグラファイトシートを、導電性材料として金属微粒子を水溶液に5wt%濃度となるように溶解してなる導電性材料溶液に、室温すなわち25℃で1時間浸漬した。それによって、導電性材料をグラフェン間に含浸させた。
【0042】
次に、グラファイトシートを25℃で、2時間、風乾した。このようにして、厚み4mmのグラファイトシートを得た。
【0043】
上記グラファイトシートを、一対のセラミック板からなる支持シート間に挟み込み、さらにこのようにして得られた積層体を一対のステンレス板で挟み込んだ。この積層体をステージ上に配置し、上方のステンレス板上に15kgの重さの鉄板からなる重りをのせ、加圧し、280℃の温度で1.5時間加熱した。
【0044】
上記のように加熱処理した後のグラファイトシートを再度セラミックからなる一対の支持シートに挟み込み、さらに上記一対のステンレス板で再度挟み込み、ステージ上において、鉄板からなる15kgの重さの重りをのせ、加圧した状態で、400℃の温度で2時間加熱し、焼結処理を行った。このようにして、実施例1の導電性を有する熱伝導シートを得た。
【0045】
(比較例1)
実施例1で用意した原材料のグラファイトシートを比較例1とした。
【0046】
(実施例及び比較例の評価)
(1)熱伝導性:熱伝導率測定
ファインケミカルジャパン社製ブラックガードスプレーFC−153を両面にスプレーし、NETSCH社製ナノフラッシュLFA447を用いて熱拡散率を測定した。
【0047】
熱伝導率は、熱拡散率×密度×比熱から計算される。密度はサンプルの重量と厚みから求めた。
【0048】
(2)絶縁性:シートの厚み方向に沿う電気的抵抗値を測定した。
【0049】
結果を下記の表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
表1から明らかなように、比較例1のグラファイトシートに比べ、実施例1で得た導電性を有する熱伝導シートでは、厚み方向の導電率及び熱伝導性が飛躍的に高められていることがわかる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェン積層体である黒鉛と、
前記グラフェン間にインターカレートされている導電性材料層とを備える、熱伝導シート。
【請求項2】
前記黒鉛が、層状黒鉛を膨潤して、グラフェン間の距離が拡げられている膨張化黒鉛である、請求項1に記載の熱伝導シート。
【請求項3】
導電性材料層が、前記グラフェンと一体焼成されている、請求項1または2に記載の熱伝導シート。
【請求項4】
層状黒鉛を膨潤して、層間を広げて膨張化黒鉛を得る工程と、
前記膨張化黒鉛の層間に導電性材料をインターカレートして導電性材料層を形成する工程とを備える、熱伝導シートの製造方法。
【請求項5】
前記膨潤が、電解質イオンを前記層状黒鉛の層間にインターカレートすることにより行われる、請求項4に記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項6】
前記導電性材料をインターカレートする工程が、前記膨張化黒鉛と前記導電性材料を含む導電性材料溶液に浸漬することにより行われる、請求項4または5に記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項7】
前記導電性材料が層間にインターカレートされた膨張化黒鉛を厚み方向に加圧し、かつ加熱することにより導電性材料層とグラフェンとを一体化焼結する工程をさらに備える、請求項4〜6のいずれか1項に記載の熱伝導シートの製造方法。

【公開番号】特開2012−96937(P2012−96937A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244146(P2010−244146)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】