説明

熱伝導性シート

【課題】磁性金属粒子と、磁性金属粒子より熱伝導性がよい熱伝導性粒子との高充填化を図ることで、熱伝導特性と電磁波抑制特性の両者の機能が良好な熱伝導性シートを提供する。
【解決手段】電子部品14と、この電子部品14が発熱する熱を放熱させる金属製放熱部材12との間に配置される熱伝導性シート11において、電子部品14から放出される電磁波を吸収する球状の磁性金属粒子と、磁性金属粒子よりも熱伝導性が高い熱伝導性粒子とを含有する可撓性樹脂からなり、磁性金属粒子の平均粒径は、熱伝導性粒子の平均粒径よりも大きく、当該熱伝導性シートに占める磁性金属粒子の体積率は55[vol%]以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体パッケージなどの電子部品と、この電子部品が発熱する熱を放熱させる金属製放熱部材との間に配置される熱伝導性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器は小型化の傾向をたどる一方、アプリケーションの多様性のために電力消費量はそれほど変化させることができないため、機器内における放熱対策がより一層重要視されている。
【0003】
上述した電子機器における放熱対策として、銅やアルミなどといった熱伝導率の高い金属材料で作製された放熱板やヒートパイプ、あるいはヒートシンクなどが広く利用されている。これらの熱伝導性に優れた放熱部品は、放熱効果または機器内の温度緩和を図るため、電子機器内における発熱部である半導体パッケージなどの電子部品に近接するようにして配置される。また、これらの熱伝導性に優れた放熱部品は、発熱部である電子部品から低温場所へ亘って配置される。また、電子部品と金属放熱部品とを接着させたときに生じる空間を埋めるため、可撓性を有する熱伝導性シートが、電子部品と金属放熱部品との間に配置される。
【0004】
電子機器内における発熱部は、電流密度が高い半導体素子などの電子部品である。電流密度が高いということは、不要輻射の成分となりうる電界強度または磁界強度が大きい。このため金属で作製された放熱部品を電子部品の近辺に配置すると、熱とともに電子部品内を流れる電気信号の高調波成分をも拾ってしまうケースがしばしば見られる。
【0005】
具体的には、放熱部品は、金属材料で作製されているため、それ自体が高調波成分のアンテナとして働いてしまうことや、高調波ノイズ成分の伝達経路として働いてしまうという現象が生じる。
【0006】
このような背景により、熱伝導性シートは、放熱部品がアンテナとして働いてしまうのを抑制するため、すなわち磁界のカップリングを断ち切るために、磁性材料を含有するものがある(特許文献1)。このような熱伝導性シートは、例えばフェライトなどの高透磁率を有する磁性材料を、シリコーン系やアクリル系などの高分子材に含有させることにより、熱伝導特性と電磁波抑制特性の両者の機能を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−310812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した熱伝導特性と電磁波抑制特性の両者の機能を有する熱伝導性シートは、母材となる高分子材に含まれる目的粉末の充填量に応じて大きく特性が変化する。
【0009】
例えば、熱伝導率は、Bruggemanの式によると以下のような関係がある。(参考:“電子機器部品用放熱材料の高熱伝導化および熱伝導性の測定・評価技術”,技術情報協会,2003年出版)
【0010】
【数1】

【0011】
ここで、λはシート全体の熱伝導率、λは熱伝導性材料の熱伝導率、λは母材の高分子材の熱伝導率、φは熱伝導性材料のシートに占める体積率である。
【0012】
また、電磁波抑制特性の指標として、一般的には複素比透磁率(μ’−jμ”)の虚部μ”が用いられる。この磁性特性についても、例えばLichteneckerの式によると以下のような関係がある。(参考:“低損失高誘電率磁性体に関する研究”,電子情報通信学会論文誌 C, Vol. J86-C, No. 4, pp. 450-456, 2003)
【0013】
【数2】

【0014】
ここで、μはシート全体の複素比透磁率、μr1は磁性材料の複素比透磁率、μr2は母材の複素比透磁率、νは磁性材料の体積率、νは母材の体積率である。
【0015】
上述のように、熱伝導特性と、電磁波抑制特性とは、それぞれシートに充填される磁性材料と熱伝導性材料との充填量に応じて大きく変化する。
【0016】
しかしながら、このような熱伝導性シートの作製にあたり、任意の金属粉末と樹脂を単に混ぜるだけでは、シートに充填する磁性材料と熱伝導性材料の充填量に限界がある。
【0017】
従来の電磁波抑制機能を有する熱伝導性シートには、磁性材料として、偏平状磁性粉末、または破砕磁性粉末が使用されている。偏平状磁性粉末、破砕磁性粉末は透磁率が大きいが比表面積が大きい。このため、樹脂とこれらの粉末を練るという単純な混合プロセスによってシート内に最密充填させることが困難であり、高充填化に限界がある。また熱伝導性を高めるため、偏平状磁性粉末又は破砕磁性粉末と充填性の高い球状の熱伝導性粉末とを混合させる場合も、これらの形状から最密充填させることが困難であり、高充填化に限界がある。磁性材料を高充填するためには熱伝導性材料を高い割合で充填することを要するが、この結果、磁性材料の充填量が減り、高い透磁率を得ることができない。
【0018】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、磁性金属粒子と、磁性金属粒子より熱伝導性が高い熱伝導性粒子との高充填化を図ることで、熱伝導特性と電磁波抑制特性の両者の機能が良好な熱伝導性シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記のように、高い熱伝導特性を有しながら電磁波を抑制するという目的にて、磁性金属粒子と熱伝導性粒子との両者の充填量を増やすために、発明者らは下記の熱伝導性シートを発明するに至った。
【0020】
すなわち、本発明は、電子部品と、この電子部品が発熱する熱を放熱させる金属製放熱部材との間に配置される熱伝導性シートにおいて、球状の磁性金属粒子と、磁性金属粒子よりも熱伝導性が高い熱伝導性粒子とを含有する可撓性樹脂からなり、磁性金属粒子の平均粒径は、熱伝導性粒子の平均粒径よりも大きく、当該熱伝導性シートに占める磁性金属粒子の体積率は55[vol%]以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、電磁波吸収性材料である磁性金属粒子の形状を球状とし、磁性金属粒子の平均粒径を、熱伝導性粒子の平均粒径よりも大きくすることで、磁性金属粒子と熱伝導性粒子との高充填化を可能にし、さらに、磁性金属粒子の高充填化に伴い複素比透磁率の虚数部の値を高めることができるので、熱伝導特性と電磁波抑制特性との両者の機能が良好な熱伝導性シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明が適用された熱伝導性シートが実装される回路基板の構成を示す図である。
【図2】回路基板における遠方電界強度の周波数特性を示すグラフである。
【図3】熱伝導性シートの特性に応じた回路基板における遠方電界強度の周波数特性を示すグラフである。
【図4】磁性金属粒子として、球状センダストと球状アモルファス(Fe−Si−B−Cr)とにおける体積率に応じた、500MHzにおける複素比透磁率の虚数部の変化を示すグラフである。
【図5】シートにおける熱伝導性材料の充填量とシート全体の熱伝導率との関係を算出したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が可能であることは勿論である。
【0024】
本発明が適用された熱伝導性シートは、半導体パッケージなどの電子部品と、この電子部品が発熱する熱を放熱させる金属製放熱部材との間に配置される。
【0025】
<熱伝導性シートが貼着される回路基板>
例えば本発明が適用された熱伝導性シートは、図1に示すような、回路基板1に貼着される。すなわち、図1に示す熱伝導性シート11は、発熱部である高周波基板17と、高周波基板17が発熱する熱を放熱させる放熱金属板12との間に配置される。具体的に、熱伝導性シート11は、一方の面11aが高周波基板17を構成する半導体パッケージを封止する樹脂モールド13と、他方の面11bが放熱金属板12とそれぞれ密着するように、回路基板1に貼着される。
【0026】
高周波基板17は、誘電体基板16の一方の面にGND電極となる銅箔15と、もう一方の面にパターニングにより構成された銅の信号線14からなるものでマイクロストリップラインを構成している。
【0027】
高周波基板17は、不要輻射の影響が生じないようにするため、それ自体が動作した際の遠方電界強度が所定の値以下に抑制するように設計されている。このような高周波基板17を有する回路基板1では、放熱金属板12が、熱伝導性シート11を介して対向する高周波基板17の信号線14内を流れる電気信号の高調波成分を拾ってしまい、高調波成分のアンテナとして機能し、結果的に遠方電界強度を増大させてしまう。熱伝導性シート11には、放熱金属板12がアンテナとして作用するのを抑制するため、シートに占める体積率が所定の値以上になるように、球状の磁性金属粒子が含有されている。また、熱伝導性シート11には、良好な熱伝導特性を実現するため、球状の磁性金属粒子よりも熱伝導率が高い熱伝導性粒子が含有されている。
【0028】
<シミュレーション>
本発明が適用された熱伝導性シート11の具体的な構成を説明する前に、十分な熱伝導特性と電磁波吸収特性とを発揮するために必要な条件について説明する。
【0029】
第1に、遠方電界強度と熱伝導性シート11の磁気特性との関係について説明する。上述した回路基板1を解析用モデルとし、シミュレーションにはアンソフト社製の電磁界シミュレーターHFSSを用い、次のように各条件を設定して3m遠方での電界強度を算出した。
【0030】
図2は、回路基板1において、熱伝導性シート11を省いた状態で、放熱金属板12がある場合とない場合の遠方電界強度の周波数特性を比較したものである。図2から明らかなように、高周波基板17に熱伝導性シート11を介さない状態で放熱金属板12が積層されていると、高周波基板17と放熱金属板12の間での電磁気的な結合により平行平板共振が発生し、この共振に対応した周波数で電界の放射が強くなる。本例では、高周波基板17から発信される高調波の周波数が1.1[GHz]、2.1[GHz]付近で強い電界放射がみられる。
【0031】
図3は、回路基板1において熱伝導性シート11を含めた状態で、熱伝導性シート11の複素比透磁率の実数部を10に固定して虚数部の値のみを変えたときの、遠方電界強度の周波数特性を比較したものである。図2と図3との解析結果を比較すると、虚数部の値が1では放射電界強度のピークを抑制できるが、図2の放射金属板無しの結果と比べると周波数全体に亘り放射電界強度が高い。これに対して、虚数部の値が3では上述した周波数の放射電界ピークは完全に抑えられ、また周波数全体に亘り図2の放射金属板無しの結果とほぼ同等な電界強度特性となっている。また、虚数部の値が5の場合は、更に放射電界強度が下がる。以上の解析結果から、熱伝導性シートの複素比透磁率虚数部が大きいほど、放射電界に対する低減効果が大きい傾向がある。特に、熱伝導性シート11は、虚数部の値が3以上であれば平行平板共振の影響を取り除くことができ、放熱金属板12を高周波基板17に近接させたとしても、不要輻射を増大させないようにすることができる。
【0032】
第2に、熱伝導性シート11における磁性金属粒子の充填量に応じた磁気特性の変化について説明する。
【0033】
ここでは、具体例として実際に次の2種類の磁性金属粒子を20vol%〜70vol%の範囲で変化させて充填させたシートを用いて説明する。図4は、磁性金属粒子として、球状センダストと球状アモルファス(Fe−Si−B−Cr)とにおける体積率に応じた、500MHzにおける複素比透磁率の虚数部の変化を示している。球状の磁性金属粒子は、偏平形状の磁性金属粒子に比べて、粒子単体での透磁率は低いが、分散性が高く高充填することが可能である。また、図4から明らかなように、磁性金属粒子の体積率が大きくなるのに伴って、シート全体での透磁率も大きくなる。よって、球状の磁性金属粒子は、シート内に高充填可能であり、その結果として高透磁率、高熱伝導率を実現することができる。
【0034】
図2、図3で示される解析結果を踏まえると、2種類の磁性金属粒子において両方とも複素比透磁率の虚数部の値が3以上となる条件は、体積率が55vol%である。したがって、熱伝導性シート11は、球状の磁性金属粒子が55vol%以上で充填されていることで、放熱金属板12を高周波基板17に近接させたとしても、不要輻射を増大させないようにすることができる。
【0035】
第3に、熱伝導性シート11における熱伝導性材料の充填量に応じた熱伝導率の変化について説明する。
【0036】
熱伝導率は、Bruggemanの式によると以下のような関係がある。
【0037】
【数3】

【0038】
ここで、λはシート全体の熱伝導率、λは熱伝導性材料の熱伝導率、λは母材の高分子材の熱伝導率、φは熱伝導性材料のシートに占める体積率である。
【0039】
図5は、上記のBruggemanの式を用い、シートにおける熱伝導性材料の充填量とシート全体の熱伝導率との関係を算出したグラフを示している。母材の高分子材の熱伝導率を0.2W/mKとし、熱伝導性材料の熱伝導率を10、30、50、70W/mKとした。ここで、熱伝導性シート11は、磁気特性が高い磁性金属粒子と、磁性金属粒子よりも熱伝導率が高い熱伝導性粒子との両方を、熱伝導性材料として含有するため、これらの含有比率に起因して、仮想的に1種類の熱伝導性材料としてみなしたときの熱伝導率が変化する。このため、含有比率に応じて熱伝導率が変化するが、図5から明らかなように、シート全体の熱伝導率は熱伝導性材料の充填量の増加に応じて単調増加し、特に、熱伝導性材料の充填量が約65%以上になると、シート全体の熱伝導率も急激に増加する。特に、シート全体で高い熱伝導率を実現するためには、70vol%以上となるように熱伝導性材料が充填されていることが望ましい。
【0040】
上述した解析結果を踏まえ、本願の発明者らは、球状の磁性粉末を使用して良好な熱伝導特性と良好な電磁波抑制を同時に実現するために最適な配合の研究を行った結果、球状の磁性金属粒子を、シリコン樹脂などの可撓性樹脂に対して55vol%以上含有されていることが、熱伝導性シート11の良好な特性を満たす上で必要であるということを見出した。さらに熱伝導性材料として、磁性金属粒子より熱伝導率が高い熱伝導性粒子を3vol%以上含有されていること、及び、磁性金属粒子と熱伝導性粒子との合計で70vol%以上含有されていることが、熱伝導性シート11の熱伝導率を高めるという観点から好ましいことを見出した。
【0041】
<熱伝導性シート>
次に、本願の発明者らが見出した良好な特性を実現する熱伝導性シート11の具体的な構成について説明する。
【0042】
熱伝導性シート11は、高周波基板17などの電子部品から放出される電磁波を吸収する電磁波吸収材料である球状の磁性金属粒子と、磁性金属粒子よりも熱伝導性が高い熱伝導性粒子とを含有する可撓性樹脂からなり、磁性金属粒子の平均粒径が熱伝導性粒子の平均粒径よりも大きく、この熱伝導性シート11に占める磁性金属粒子の体積率が55[vol%]以上である。このような構成からなる熱伝導性シート11は、磁性金属粒子と熱伝導性粒子との高充填化を可能にし、さらに、磁性金属粒子の高充填化に伴いシート内の複素比透磁率の虚数部の値を高めることができるので、良好な熱伝導特性と電磁波抑制効果とを実現することができる。
【0043】
また、熱伝導性シート11は、熱伝導性粒子の体積率が3vol%以上が含有されていることによって、例えば偏平形状の磁性金属粒子を用いた熱伝導性シートと比べて高い熱伝導特性を実現することができる。
【0044】
また、熱伝導性シート11は、体積率の和で70vol%以上となるように磁性金属粒子と熱伝導性粒子が充填されていることによって、特に良好な熱伝導特性と電磁波抑制効果とを実現することができる。なお、熱伝導性シート11は、磁性金属粒子と熱伝導性粒子との平均粒径比を調節することにより、球状の磁性金属粒子の分散性の良さを利用して、シートに占める体積率の和が最大80vol%程度となるように、磁性金属粒子と熱伝導性粒子とを含有することができる。
【0045】
また、熱伝導性シート11は、カップリング処理の有無に拘わらず、良好な熱伝導特性と電磁波抑制特性を実現するが、熱伝導性粒子に対してカップリング処理を施すカップリング剤が含有されていることによって、シート内での分散性が向上し、特に良好な熱伝導特性を実現することができる。
【0046】
また、熱伝導性シート11は、磁性金属粒子より熱伝導率が高い複数種類の熱伝導性粒子が充填されていることによって、十分な熱伝導特性と電磁波抑制特性と維持しつつ、種々の熱伝導性粒子の充填量を調整することにより容易に特性を変更することができる。
【0047】
次に熱伝導性シート11に用いられる具体的な材料について説明する。
【0048】
熱伝導性シート11は、シリコン樹脂などの可撓性樹脂に、下記のような粒子状の粉末が含有されることにより形成されている。
【0049】
すなわち、熱伝導性シート11は、透磁率特性が良く、かつ上記の電磁波抑制特性の要求を満たす磁性金属粒子として、粉末作製の観点から比較的作製しやすい、ボロン(B)や炭素(C)などを添加した磁性金属アモルファス粉末を含有している。磁性金属アモルファス粉末は、例えば、Fe−Si−B系、Fe−Si−B−C系、Co−Si−B系、Co−Zr系、Co−Nb系、Co−Ta系などがあげられる。
【0050】
また、熱伝導性シート11に含有される磁性金属粒子は、上述した磁性金属アモルファスのみに限らず、例えば、球状センダストなどの結晶系磁性粉末であってもよい。すなわち、結晶化した金属粉末、金属合金粉末として、Fe系、Co系、Ni系、あるいはFe−Ni系、Fe−Co系、Fe−Al系、Fe−Si系、Fe−Si−Al系などがあげられ、これにN、C、Oを微量加えて微細化させた微結晶材料を磁性金属粒子として用いてもよい。
【0051】
また、熱伝導性シート11は、上述した磁性金属粒子とともに、シートの熱伝導率を高めるため、磁性金属粒子よりも熱伝導率が高い熱伝導性粒子として、アルミナ、窒化ホウ素、窒化珪素、窒化アルミ、炭化珪素などの高熱伝導性セラミックス、また銅やアルミなどに絶縁体をコーティングした粉末を含有している。なお、熱伝導性粒子は、上述したものに限定されず、磁性金属粒子よりも熱伝導率が高い材料であればよいが、特に、平均粒径が磁性金属粒子に比べてより小さいものを用いることで、更なる高充填化が実現される。一般に熱伝導性シートの厚みにも依存するが、更なる高充填化を実現するには、熱伝導性粒子の平均粒径が磁性金属粒子の平均粒径よりも小さいことを前提として、磁性金属粒子の粒径が4〜100μmの範囲であり、熱伝導性粒子の粒径が0.1〜20μmの範囲が好ましい。
【実施例1】
【0052】
次に、熱伝導性シート11の実施例1として、下記のシートA〜Dを用いて、熱伝導特性と電磁波抑制効果について評価した。
【0053】
<シートA>
シートAを、次のようにして作製した。すなわち、分子鎖両末端にのみアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンと側鎖にのみケイ素原子に直接結合した水素原子をもつメチルハイドロジェンポリシロキサンと白金族系付加反応触媒を1%未満含んだシリコーン混合物100gと、熱伝導性粒子にカップリング処理を施すためのカップリング剤21gとを可撓性樹脂材料とした。この可撓性樹脂材料に、磁性金属粒子として平均粒径が10μmの球状アモルファス合金(Fe−Si−B−Cr)を2000g(65vol%)、熱伝導性粒子として平均粒径が3μmの球状アルミナ粉末106g(6vol%)の合計71vol%を真空攪拌機にて攪拌した後に、厚さが1.5mmのシートにし、100度で60分間加熱して硬化させることにより、シートAを作製した。
【0054】
<シートB>
シートBを、次のようにして作製した。すなわち、分子鎖両末端にのみアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンと側鎖にのみケイ素原子に直接結合した水素原子をもつメチルハイドロジェンポリシロキサンと白金族系付加反応触媒を1%未満含んだシリコーン混合物100gと熱伝導性粒子にカップリング処理を施すためのカップリング剤35gとを可撓性樹脂材料とした。この可撓性樹脂材料に、磁性金属粒子として平均粒径が10μmの球状アモルファス合金(Fe−Si−B−Cr)を3100g(62vol%)、熱伝導性粒子として平均粒径が1μmの窒化アルミ破砕粉末380g(16vol%)、熱伝導性粒子として平均粒径が0.2μmの球状アルミナ87g(2vol%)の合計80%を真空攪拌機にて攪拌した後に、厚さが2mmのシートにし、100℃で60分間加熱して硬化させることによりシートBを作製した。
【0055】
<シートC>
シートCを、次のようにして作製した。すなわち、分子鎖両末端にのみアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンと側鎖にのみケイ素原子に直接結合した水素原子をもつメチルハイドロジェンポリシロキサンと白金族系付加反応触媒を1%未満含んだシリコーン混合物100gと熱伝導性粒子にカップリング処理を施すためのカップリング剤66gとを可撓性樹脂材料とした。この可撓性樹脂材料に、磁性金属粒子として平均粒径が10μmの球状アモルファス合金(Fe−Si−B−Cr)を4200g(67vol%)、熱伝導性粒子として平均粒径が1μmの窒化アルミ破砕粉末を300g(10vol%)の合計77vol%を真空攪拌機にて攪拌した後に、厚さが2mmのシートにし、100℃で60分間加熱して硬化させることによりシートCを作製した。
【0056】
<シートD>
シートDを、次のようにして作製した。すなわち、分子鎖両末端にのみアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンと側鎖にのみケイ素原子に直接結合した水素原子をもつメチルハイドロジェンポリシロキサンと白金族系付加反応触媒を1%未満含んだシリコーン混合物100gと熱伝導性粒子にカップリング処理を施すためのカップリング剤18gとを可撓性樹脂材料とした。この可撓性樹脂材料に、磁性金属粒子として平均粒径が10μmの球状センダスト1615g(55vol%)、熱伝導性粒子として平均粒径が1μmの窒化アルミ破砕粉末205g(15vol%)の合計70vol%を真空攪拌機にて攪拌した後に、厚さが2mmのシートにし、100℃で60分間加熱して硬化させることによりシートDを作製した。
【0057】
このような4種類のシートA〜Dに対し、比較対象として次の4種類のシートE〜Hを用いた。
【0058】
<シートE>
シートEを、次のようにして作製した。すなわち、分子鎖両末端にのみアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンと側鎖にのみケイ素原子に直接結合した水素原子をもつメチルハイドロジェンポリシロキサンと白金族系付加反応触媒を1%未満含んだシリコーン混合物100gと熱伝導性粒子にカップリング処理を施すためのカップリング剤13gとを可撓性樹脂材料とした。この可撓性樹脂材料に、磁性金属粒子として平均粒径が10μmの球状アモルファス合金(Fe−Si−B−Cr)を600g(22vol%)、熱伝導性粒子として平均粒径が1μmの窒化アルミ破砕粉末100g(8vol%)、熱伝導性粒子として平均粒径が45μmの球状アルミナ620g(40vol%)の合計70vol%を真空攪拌機にて攪拌した後に、厚さが2mmのシートにし、100℃で60分間加熱して硬化させることによりシートEを作製した。
【0059】
<シートF>
シートFを、次のようにして作製した。すなわち、分子鎖両末端にのみアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンと側鎖にのみケイ素原子に直接結合した水素原子をもつメチルハイドロジェンポリシロキサンと白金族系付加反応触媒1%未満を含んだシリコーン混合物100gと熱伝導性粒子にカップリング処理を施すためのカップリング剤3gとを可撓性樹脂材料とした。この可撓性樹脂材料に、磁性金属粒子として平均粒径が60μmの偏平形状センダスト265g(24vol%)、熱伝導性粒子として平均粒径が5μmの窒化アルミ破砕粉末50g(8vol%)の合計32vol%を真空攪拌機にて攪拌した後に、厚さが2mmのシートにし、100℃で60分間加熱して硬化させることによりシートFを作製した。
【0060】
<シートG>
シートGを、次のようにして作製した。すなわち、分子鎖両末端にのみアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンと側鎖にのみケイ素原子に直接結合した水素原子をもつメチルハイドロジェンポリシロキサンと白金族系付加反応触媒を1%未満含んだシリコーン混合物100gと熱伝導性粒子にカップリング処理を施すためのカップリング剤5.3gとを可撓性樹脂材料とした。この可撓性樹脂材料に、磁性金属粒子として平均粒径が60μmの偏平形状センダスト230g(15vol%)、熱伝導性粒子として平均粒径が5μmの球状アルミナ粉末280g(32vol%)、熱伝導性粒子として平均粒径が0.2μmの球状アルミナ粉末35g(3vol%)の合計50vol%を真空攪拌機にて攪拌した後に、厚さが2mmのシートにし、100℃で60分間加熱して硬化させることによりシートGを作製した。
【0061】
<シートH>
シートHを、次のようにして作製した。すなわち、分子鎖両末端にのみアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンと側鎖にのみケイ素原子に直接結合した水素原子をもつメチルハイドロジェンポリシロキサンと白金族系付加反応触媒を1%未満含んだシリコーン混合物100gと熱伝導性粒子にカップリング処理を施すためのカップリング剤5.3gとを可撓性樹脂材料とした。この可撓性樹脂材料に、磁性金属粒子として平均粒径が20μmの偏平形状のFe−Si−Cr−Ni230g(15vol%)、熱伝導性粒子として平均粒径が5μmの球状アルミナ粉末280g(32vol%)、熱伝導性粒子として平均粒径が0.2μmの球状アルミナ粉末35g(3vol%)の合計50vol%を真空攪拌機にて攪拌した後に、厚さが2mmのシートにし、100℃で60分間加熱して硬化させることによりシートHを作製した。
【0062】
<評価>
以上のような合計8種類のシートの電磁波吸収特性を評価するための指標として、次のような条件下で複素比透磁率の虚数部μ”を測定した。
【0063】
すなわち、各シートを外径20mm、内径6mmのリング状体に打ち抜いて作製したサンプルについて、アジレントテクノロジー社製の測定器「Agilent 4291B RFインピーダンス/マテリアル・アナライザ」を使用して、電磁波の発振周波数が500MHzでの複素比透磁率の虚数部を測定した。
【0064】
また、熱伝導特性の評価指標として、次のような条件下で熱伝導率を算出した。
【0065】
すなわち、各シートを1cm角程度の大きさに切り出し、これを金属性ヒートシンクと金属製ヒーターケースの間に挟んで、1kgfの力で加圧して接触させ、金属製ヒータケースに電力をかけて加熱して、金属製ヒータケースと金属性ヒートシンクの温度が一定になったところで、この間の温度差を計測した。ここで、熱伝導率は下記の式より算出した。
【0066】
熱伝導率=(電力×サンプル厚み)/(温度差×測定面積)
【0067】
上記の条件下で測定した複素比透磁率の虚数部μ”と、算出した熱伝導率とを下記の表1に示す。表1においては、シートの厚みと磁性金属粒子の体積率と熱伝導性粒子の体積率とを示す。
【0068】
【表1】

【0069】
上記の表1を見ると、シートA〜Dは、複素比透磁率の虚数部μ”の値が3以上であり、放熱金属板12を高周波基板17に近接させたとしても、不要輻射を増大させないようにすることができた。
【0070】
これに対して、比較対象であるシートE〜Hのうち、シートFを除くものは、複素透磁率の虚数部μ”の値が3以下であり、十分に電磁波を抑制させることができなかった。シートFは、複素透磁率の虚数部μ”の値が3以上であり電磁波抑制効果に優れているが、熱伝導率が低く十分な熱伝導特性を実現することができなかった。シートEは、シートA、C、Dに比べて熱伝導性に優れているが、複素透磁率の虚数部μ”が非常に小さく電磁波を十分に抑制させることができなかった。
【0071】
この結果から明らかなように、シートA〜Dにおいて、磁性金属粒子と、熱伝導性粒子とを互いに高充填することができたのは、比較対象のシートF〜Hに含有されている偏平形状の磁性金属粒子に比べて、球状の磁性金属粒子の方が分散性に優れているからである。
【0072】
また、シートA〜Dにおいて、磁性金属粒子と、熱伝導性粒子とを互いに高充填することができたのは、磁性金属粒子の平均粒径が熱伝導性粒子に比べて大きいからである。これは、比較対象であるシートEにおいて、磁性金属粒子の形状が球形であっても、磁性金属粒子の平均粒径に比べて熱伝導性粒子の平均粒径が大きいため、磁性金属粒子を高充填できず電磁波抑制効果が十分ではない点からみても明らかである。
【0073】
また、シートA〜Dにおいて、熱伝導性粒子が球状であるか破砕粉末であるかに拘わらず高充填できたのは、球状の磁性金属粒子の分散性が高く、さらに、磁性金属粒子の平均粒径が熱伝導性粒子の平均粒径に比べて大きいからである。
【0074】
また、シートBにおいて、2種類の熱伝導性粒子を含有することができたのは、磁性金属粒子の分散性が高いので、種々の熱伝導性粒子を充填できるからである。
【0075】
以上の評価から明らかなように、シートA〜Dは、電磁波吸収性材料を球状の磁性金属粒子にしたことで、例えば体積率の和で70vol%以上となるように磁性金属粒子と熱伝導性粒子との高充填化を可能にし、さらに、磁性金属粒子の高充填化に伴いシート内の複素比透磁率の虚数部の値を高めることができたので、良好な熱伝導特性と電磁波抑制効果とを実現することができた。
【0076】
また、シートA〜Dは、磁性金属粒子の平均粒径が、熱伝導性粒子の平均粒径よりも大きいので、磁性金属粒子の分散性を利用して熱伝導性粒子を高充填化でき、結果として高い電磁波抑制効果を維持しつつ、高い熱伝導特性を実現することができた。
【0077】
また、シートBは、磁性金属粒子の分散性が高いので、球状粉末であるか破砕粉末であるかに拘わらず、種々の熱伝導性粒子を高充填することができた。このため、シートBは、十分な熱伝導特性と電磁波抑制特性と維持しつつ、種々の熱伝導性粒子の充填量を調整することにより容易に特性を変更することができたことを明示している。
【実施例2】
【0078】
次に、熱伝導性シート11の実施例2として、熱伝導性粒子の体積率が3vol%以上であることが、偏平形状の磁性金属粒子を用いた熱伝導性シートと比べて高い熱伝導特性を実現するために望ましいことを、下記のシートI、Jを用いて説明する。
【0079】
<シートI>
シートIを、次のようにして作製した。すなわち、分子鎖両末端にのみアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンと側鎖にのみケイ素原子に直接結合した水素原子をもつメチルハイドロジェンポリシロキサンと白金族系付加反応触媒を1%未満含んだシリコーン混合物100gと熱伝導性粒子にカップリング処理を施すためのカップリング剤12.8gとを可撓性樹脂材料とした。この可撓性樹脂材料に、磁性金属粒子として平均粒径が26μmの球状アモルファス合金(Fe−Si−B−Cr)を2500g(73vol%)、熱伝導性粒子として平均粒径が3μmの球状アルミナ粉末60g(3vol%)の合計76vol%を真空攪拌機にて攪拌した後に、厚さが2mmのシートにし、100℃で60分間加熱して硬化させることによりシートIを作製した。
【0080】
<シートJ>
シートJを、次のようにして作製した。すなわち、分子鎖両末端にのみアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンと側鎖にのみケイ素原子に直接結合した水素原子をもつメチルハイドロジェンポリシロキサンと白金族系付加反応触媒を1%未満含んだシリコーン混合物100gと熱伝導性粒子にカップリング処理を施すためのカップリング剤20.5gを可撓性樹脂材料とした。この可撓性樹脂材料に、磁性金属粒子として平均粒径が50μmの球状アモルファス合金(Fe−Si−B−Cr)を2000g(67vol%)、熱伝導性粒子として平均粒径が3μmの球状アルミナ粉末50g(3vol%)の合計70vol%を真空攪拌機にて攪拌した後に、厚さが2mmのシートにし、100℃で60分間加熱して硬化させることによりシートJを作製した。
【0081】
<評価>
これら2種類の熱伝導性シートI、Jに対して、上述した実施例1において行った条件下で、複素比透磁率の虚数部μ”を測定し、熱伝導率を算出した。
【0082】
測定した複素比透磁率の虚数部μ”と、算出した熱伝導率を、下記の表2に示す。
【0083】
【表2】

【0084】
上記の表2に示されるように、磁性金属粒子の体積率に応じて特性が変化するものの、熱伝導性粒子の体積率が3vol%以上を含有されていることにより、熱伝導率の値が2以上となった。
【0085】
この評価結果から明らかなように、シートI、Jは、熱伝導性粒子の体積率が3vol%以上含有されていることによって、例えば偏平形状の磁性金属粒子を用いた熱伝導性シートと比べて高い熱伝導特性を実現することができた。
【実施例3】
【0086】
次に、熱伝導性シート11の実施例3として、磁性金属粒子と熱伝導性粒子との平均粒径比を調節することにより、シートに占める体積率の和が最大80vol%程度となるように、磁性金属粒子と熱伝導性粒子とを高充填することができることを、下記のシートK、Lを用いて説明する。
【0087】
<シートK>
シートKを、次のようにして作製した。すなわち、分子鎖両末端にのみアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンと側鎖にのみケイ素原子に直接結合した水素原子をもつメチルハイドロジェンポリシロキサンと白金族系付加反応触媒を1%未満含んだシリコーン混合物100gと熱伝導性粒子にカップリング処理を施すためのカップリング剤27gを可撓性樹脂材料とした。この可撓性樹脂材料に、磁性金属粒子として平均粒径が26μmの球状アモルファス合金(Fe−Si−B−Cr)を2350g(60vol%)、熱伝導性粒子として平均粒径が3μmの球状アルミナ粉末355g(16vol%)の合計76vol%を真空攪拌機にて攪拌した後に、厚さが2mmのシートにし、100℃で60分間加熱して硬化させることによりシートKを作製した。
【0088】
<シートL>
シートLを、次のようにして作製した。すなわち、分子鎖両末端にのみアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンと側鎖にのみケイ素原子に直接結合した水素原子をもつメチルハイドロジェンポリシロキサンと白金族系付加反応触媒を1%未満含んだシリコーン混合物100gと熱伝導性粒子にカップリング処理を施すためのカップリング剤20gを可撓性樹脂材料とした。この可撓性樹脂材料に、磁性金属粒子として平均粒径が50μmの球状アモルファス合金(Fe−Si−B−Cr)を2435g(58vol%)、熱伝導性粒子として平均粒径が3μmの球状アルミナ粉末525g(22vol%)の合計80vol%を真空攪拌機にて攪拌した後に、厚さが2mmのシートにし、100℃で60分間加熱して硬化させることにより熱伝導性シートLを作製した。
【0089】
<評価>
これら2種類のシートK、Lに対して、上述した実施例1及び2で行ったときと同様の条件下で複素比透磁率の虚数部μ”を測定し、熱伝導率を算出した。
【0090】
測定した複素比透磁率の虚数部μ”と、算出した熱伝導率を、下記の表3に示す。
【0091】
【表3】

【0092】
上記の表3に示すように、シートK、Lでは、磁性金属粒子と熱伝導性粒子との平均粒径比を調節することにより、球状の磁性金属粒子の分散性の良さを利用して、シートに占める体積率の和が最大80vol%程度となるように、磁性金属粒子と熱伝導性粒子とを含有することができ、結果として良好な熱伝導特性及び電磁波抑制特性を実現することができた。
【実施例4】
【0093】
次に、熱伝導性シート11の実施例4として、カップリング処理の有無による特性の変化について、下記のシートM、Nを用いて説明する。
【0094】
<シートM>
カップリング処理が施されていない具体例として、シートMを次のように作製した。すなわち、分子鎖両末端にのみアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンと側鎖にのみケイ素原子に直接結合した水素原子をもつメチルハイドロジェンポリシロキサンと白金族系付加反応触媒を1%未満含んだシリコーン混合物100gとを可撓性樹脂材料とした。この可撓性樹脂材料に、磁性金属粒子として平均粒径が26μmの球状アモルファス合金(Fe−Si−B−Cr)を1970g(60vol%)、熱伝導性粒子として平均粒径が3μmの球状アルミナ粉末335g(18vol%)の合計78vol%を真空攪拌機にて攪拌した後に、厚さが2mmのシートにし、100℃で60分間加熱して硬化して、シートMを作製した。
【0095】
<シートN>
カップリング処理が施されている以外を熱伝導性シートMと同様にして、シートNを作製した。すなわち、分子鎖両末端にのみアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンと側鎖にのみケイ素原子に直接結合した水素原子をもつメチルハイドロジェンポリシロキサンと白金族系付加反応触媒を1%未満含んだシリコーン混合物100gと熱伝導性粒子にカップリング処理を施すためのカップリング剤31gを可撓性樹脂材料とした。この可撓性樹脂材料に、磁性金属粒子として平均粒径が26μmの球状アモルファス合金(Fe−Si−B−Cr)を2650g(60vol%)、熱伝導性粒子として平均粒径が3μmの球状アルミナ粉末450g(18vol%)の合計78vol%を真空攪拌機にて攪拌した後に、厚さが2mmのシートにし、100℃で60分間加熱して硬化させてシートNを作製した。
【0096】
<評価>
これら2種類のシートM、Nに対して、上述した実施例1〜3で行ったときと同様の条件下で、複素比透磁率の虚数部μ”を測定し、熱伝導率を算出した。
【0097】
測定した複素透磁率の虚数部μ”と、算出した熱伝導率を、下記の表4に示す。
【0098】
【表4】

【0099】
上記の表4から明らかなように、カップリング処理の有無に拘わらず、熱伝導性シートM、N両者とも良好な熱伝導特性と電磁波抑制特性を実現することができた。また、熱伝導性シートNは、特に熱伝導性粒子に対してカップリング処理を施すカップリング剤を含有することで、シート内での分散性が向上し、特に良好な熱伝導特性を実現することができた。
【符号の説明】
【0100】
1 回路基板、11 熱伝導性シート、12 放熱金属板、13 樹脂モールド、14 信号線、15 銅箔、16 誘電体基板、17 高周波基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子部品と、この電子部品が発熱する熱を放熱させる金属製放熱部材との間に配置される熱伝導性シートにおいて、
球状の磁性金属粒子と、上記磁性金属粒子よりも熱伝導性が高い熱伝導性粒子とを含有する可撓性樹脂からなり、
上記磁性金属粒子の平均粒径は、上記熱伝導性粒子の平均粒径よりも大きく、
当該熱伝導性シートに占める上記磁性金属粒子の体積率は55[vol%]以上であることを特徴とする熱伝導性シート。
【請求項2】
上記熱伝導性粒子の体積率は、3[vol%]以上であることを特徴とする請求項1記載の熱伝導性シート。
【請求項3】
当該熱伝導性シートに占める上記磁性金属粒子の体積率と、当該熱伝導性シートに占める上記熱伝導性粒子の体積率との和は、70[vol%]以上であることを特徴とする請求項2記載の熱伝導性シート。
【請求項4】
上記熱伝導性粒子には、カップリング処理が施されていることを特徴とする請求項1記載の熱伝導性シート。
【請求項5】
上記熱伝導性粒子は、2種類以上の熱伝導性材料から構成されている請求項1記載の熱伝導性シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−186856(P2010−186856A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−29685(P2009−29685)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(000108410)ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社 (595)
【Fターム(参考)】