説明

熱処理装置

【課題】フラッシュランプによる基板の熱処理状況を、簡便、かつ、良好に把握できる熱処理装置を提供する。
【解決手段】第1計測部78は、基板の非熱処理時に保持部7に載置可能とされている。第2計測部88は、非熱処理時だけでなく、保持部7に基板が保持されて熱処理が実行される熱処理時においても、光照射部5から出射されて導光部89により導かれた閃光のエネルギーを計測可能とされている。減少率演算部93aは、第2計測部88の計測結果に基づいて求められる減少率DR2nを、第1計測部78の減少率DR1nとして演算する。補正演算部93bは、第1計測部78で計測される閃光エネルギーの初期値E10と、減少率演算部93aで求められた減少率DR1nと、に基づいて、第n回目の発光時に基板に到達する閃光エネルギーE1nを演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハーやガラス基板等(以下、単に「基板」と称する)に閃光を照射することにより、基板を加熱する熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、フラッシュランプによる熱処理時において、フラッシュランプから基板側に照射される閃光のエネルギーをカロリーメータで計測する技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2005−093750号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、特許文献1の熱処理装置において、エネルギー計測の対象となるフラッシュランプからの光は、第1石英ロッド、プリズム、および第2石英ロッド(以下、単に、「導光要素」とも呼ぶ)を介してカロリーメータに導入される。そして、導光要素に入射した光は、この導光要素を通過する際に減衰する。
【0005】
このように、導光要素を介してカロリーメータに到達する光のエネルギーは、熱処理時に基板に到達する光のエネルギーより小さくなる。その結果、特許文献1の熱処理装置では、熱処理時に基板に到達する光のエネルギーを正しく検出することができないという問題が生じていた。
【0006】
また、上述の問題を解消する手法の1つとして、例えば、導光要素を通過する際に減衰する光エネルギーの減衰率(すなわち、導光要素を通過した光のエネルギー値を導光要素に入射する光のエネルギー値で除したもの)を予め求めるとともに、この減衰率に基づきカロリーメータで計測された光エネルギーを較正することによって、基板に到達する光のエネルギーを演算する手法が考えられる。
【0007】
しかしながら、導光要素の減衰率には個体差があり、導光要素毎に減衰率が相違する。すなわち、この演算手法を採用するためには、導光要素毎に減衰率を求めることが必要となり、その結果、熱処理装置の製造工数が増大するという問題が生じていた。
【0008】
そこで、本発明では、フラッシュランプによる基板の熱処理状況を、簡便、かつ、良好に把握できる熱処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、請求項1の発明は、基板に閃光を照射することにより、前記基板を加熱する熱処理装置において、前記基板を保持する保持部と、複数のフラッシュランプを有する光源と、前記光源から出射された前記閃光のエネルギーを計測する計測部と、前記計測部の計測結果に基づいて、前記基板に到達する前記閃光の第1エネルギーを演算する演算部とを備え、前記計測部は、前記基板の非熱処理時に前記保持部に載置可能とされており、前記第1エネルギーの第1初期値を計測する第1計測部と、前記保持部の外方に設けられた導光部につき、該導光部により導かれた前記閃光のエネルギーを第2エネルギーとして計測する第2計測部とを有し、前記演算部は、前記第1初期値に対する第n回目発光時の前記第1エネルギーの比率を(nは自然数)、第n回目発光時の第1減少率として演算する減少率演算部と、前記減少率演算部により演算された前記第1減少率と、前記第1エネルギーの前記第1初期値と、に基づいて、第n回目の発光時における前記第1エネルギーを演算する補正演算部とを有し、前記第2エネルギーの初期値とされる第2初期値につき、該第2初期値に対する第n回目発光時の前記第2エネルギーの比率を、第n回目発光時の第2減少率とする場合において、前記減少率演算部は、前記第2減少率を第n回目発光時の前記第1減少率として演算することを特徴とする。
【0010】
また、請求項2の発明は、請求項1に記載の熱処理装置において、前記減少率演算部は、前記第2減少率の近似直線を演算するとともに、前記近似直線から求められる第n回目発光時の第2減少率を、第n回目発光時の前記第1減少率として演算することを特徴とする。
【0011】
また、請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載の熱処理装置において、前記導光部は、前記保持部が収容されているチャンバー内に設けられており、前記第2計測部は、前記チャンバー外に設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1ないし請求項3に記載の発明によれば、導光部は、保持部の外方に設けられており、第2計測部は、基板の熱処理時においても、光源から出射された閃光の第2エネルギーを計測することができる。また、減少率演算部は、光源の発光回数を考慮に入れた第2エネルギーの減少率を、導光部の個体差の影響を受けずに演算することができる。
【0013】
これにより、補正演算部は、導光部の個体差を影響を受けずに演算された第2減少率を第1減少率として使用することができ、第n回目の発光時に基板に到達する閃光の第1エネルギーを良好に演算することができる。そのため、演算された第1エネルギーに基づいて、フラッシュランプによる基板の熱処理状況を正確に把握することができる。
【0014】
特に、請求項2に記載の発明によれば、減少率演算部は、第2減少率の近似直線から第n回目の発光時における第2減少率を演算し、補正演算部は、この近似演算された第2減少率を第1減少率として使用することができる。そのため、第n回目の発光時に基板に到達する閃光のエネルギーをさらに良好に演算することができ、基板Wの熱処理状況をさらに正確に把握することができる。
【0015】
特に、請求項3に記載の発明によれば、第2計測部は、基板の熱処理が実行されるチャンバ外に設けられており、熱処理の影響を受けずに第2エネルギーを計測することができる。そのため、第2計測部による計測精度をさらに向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0017】
<1.熱処理装置の構成>
図1および図2は、本発明実施の形態における熱処理装置1の構成の一例を示す側断面図である。熱処理装置1は、基板W(図2参照)に極めて強い閃光を照射することにより、基板Wの表面を加熱する。また、熱処理装置1の加熱対象となる基板Wは、例えば、イオン注入法により不純物が添加されたものであり、添加された不純物は、この熱処理によって活性化する。
【0018】
図1および図2に示すように、熱処理装置1は、主として、光照射部5と、チャンバー6と、保持部7と、第1計測部78と、第2計測部88と、導光部89と、制御部90と、を備えている。なお、図1および以降の各図には、それらの方向関係を明確にすべく必要に応じて適宜、Z軸方向を鉛直方向とし、XY平面を水平面とするXYZ直交座標系が付されている。
【0019】
光照射部5は、図1および図2に示すように、チャンバー6の上部に設けられている。光照射部5は、主として、複数(本実施の形態においては30本)のキセノンフラッシュランプ(以下、単に「フラッシュランプ」と呼ぶ)69と、リフレクタ52と、光拡散板53と、を有している。
【0020】
各フラッシュランプ69は、長尺円筒状のランプである。図2に示すように、各フラッシュランプ69は、その長手方向が保持部7に保持される基板Wの主面と略平行となるように、配列されている。また、各フラッシュランプ69は、その両端に印加された電圧に応じたエネルギー(閃光エネルギー)を有する閃光(フラッシュ光)を出射する。
【0021】
ここで、光照射部5からチャンバー6内の基板Wに閃光が照射されると、基板Wの表面温度は、瞬間的に1000℃ないし1100℃程度の熱処理温度T2まで急速に上昇し、基板Wに添加された不純物が活性化する。そして、熱処理温度T2まで急速に昇温した基板Wの表面温度は、その後、急速に下降する。そのため、閃光による熱処理後、基板Wに添加された不純物が熱拡散し、基板W中の不純物のプロファイルがなまることを抑制することができる。
【0022】
リフレクタ52は、複数のフラッシュランプ69の上方に配置されており、各フラッシュランプ69の全体を覆うように設けられている。また、リフレクタ52の表面は、ブラスト処理により粗面化加工が施されており、梨地模様を呈している。
【0023】
光拡散板53は、石英ガラスによって形成されており、光拡散板53の表面には、光拡散加工が施されている。これにより、フラッシュランプ69から出射された光は、光拡散板53に入射して拡散される。そして、光拡散板53を透過した光は、チャンバー6内に到達する。このように、本実施の形態において、光照射部5は、各フラッシュランプ69に印加された電圧に応じた閃光を基板W側に出射する光源として使用される。
【0024】
チャンバー6は、略円筒形状を有しており、熱処理室として使用される。チャンバー6の内部空間(熱処理空間65)には、熱処理対象となる基板Wが収納可能とされている。図1および図2に示すように、チャンバー6は、透光板61を有している。
【0025】
透光板61は、例えば、石英等により形成された円盤体であり、図1および図2に示すように、光照射部5の下方であって、チャンバー6上部の開口60に設けられている。また、透光板61と光拡散板53との間には、所定の間隙が設けられている。光照射部5から出射された光は、透光板61を透過して窒素ガス(不活性ガス)雰囲気とされた熱処理空間65に到達し、基板Wに照射される。
【0026】
保持部7は、チャンバー6内に収容されており、加熱対象となる基板Wを保持する。また、保持部7は、受け渡し位置(基板Wがピン75によって支持される高さ位置)と、熱処理位置(基板Wが透光板61と近接する高さ位置:図2参照)と、の間で基板Wを昇降させる。図1および図2に示すように、保持部7は、主として、ホットプレート71と、サセプタ72と、ピン75と、を有している。
【0027】
ホットプレート71は、サセプタ72の下面に密着して設けられている。図1および図2に示すように、ホットプレート71の上面(基板W側の面)は、サセプタ72によって覆われている。また、ホットプレート71は、光照射部5からの閃光による熱処理が施される前の基板を予備加熱する。
【0028】
これにより、基板Wに添加された不純物の拡散が防止されつつ、保持部7の基板W温度は予備加熱温度T1まで昇温する。また、予備加熱された基板Wの表面温度は、フラッシュランプ69による熱処理時において、熱処理温度T2(>T1)まで速やかに上昇する。
【0029】
サセプタ72は、石英(あるいは、窒化アルミニウム(AlN)等であっても良い)によって形成されており、光照射部5による熱処理時において基板Wを保持する。図1および図2に示すように、サセプタ72の上部周縁付近には、基板Wの位置ズレを防止するピン75が設けられている。
【0030】
ここで、図1および図2に示すように、チャンバー6の底部62には、複数の支持ピン70が固定されている。各支持ピン70は、例えば石英によって形成された棒状体であり、略垂直方向(Z軸方向)に立設されている。また、保持部7には複数の貫通孔77が設けられている。各貫通孔77には対応する支持ピン70が挿通可能とされている。
【0031】
また、保持部7の下部には、略円筒状のシャフト41が接続されている。さらに、シャフト41、およびこれに固定された保持部7は、昇降部42によってZ軸方向に昇降可能とされている。
【0032】
したがって、ゲートバルブ185が開放されて、チャンバー6内に基板Wが搬入されると、基板Wは、受け渡し位置にて各支持ピン70により支持される。次に、基板Wが各支持ピン70に受け渡された後に、昇降部42によって保持部7が昇降させられると、各支持ピン70に支持された基板Wは、保持部7のサセプタ72に受け渡される。そして、さらに保持部7が昇降させられると、基板Wは、熱処理位置まで移動させられる(図2参照)。一方、熱処理が完了すると、熱処理位置の基板Wは、下降させられる。これにより、基板Wは、受け渡し位置付近でサセプタ72から離隔し、各支持ピン70に受け渡される。
【0033】
第1計測部78は、いわゆるカロリーメータによって構成されており、光照射部5から出射された閃光のエネルギーを計測する。図1および図2に示すように、第1計測部78は、基板Wが保持部7に保持されていない場合に(例えば、基板Wの非熱処理時に)、保持部7に載置可能とされている。また、第1計測部78の上面(光照射部5側の面)の高さ位置は、基板Wの熱処理位置と略同一高さとなるように設定されている。
【0034】
したがって、第1計測部78に到達(入射)する閃光のエネルギーは、基板Wに到達(入射)する閃光のエネルギーと略同一となる。そのため、保持部7の第1計測部78により計測される閃光のエネルギーを、基板Wに到達する閃光のエネルギーとして使用することができる。
【0035】
第2計測部88は、第1計測部78と同様に、いわゆるカロリーメータによって構成されており、光照射部5から出射された閃光のエネルギーを計測する。図1および図2に示すように、第2計測部88は、チャンバー6の底部62であって、チャンバー6外に設けられている。
【0036】
導光部89は、例えば石英によって形成された棒状体であり、図1および図2に示すように、保持部7の径方向外方に設けられている。また、導光部89は、チャンバー6内の底部62から熱処理空間65側に立設されており、略垂直方向(Z軸方向)に伸びている。
【0037】
また、導光部89の上端には、光照射部5から出射された閃光を受光する受光部88aが設けられている。図1に示すように、受光部88aは、熱処理時において保持部7に保持された基板Wの高さ位置(熱処理位置)と略同一となるように、その長さ方向(Z軸方向)のサイズが設定されている。
【0038】
さらに、図1および図2に示すように、導光部89は、チャンバー6の底部62に設けられた貫通孔88bに挿通されており、導光部89の下端は、チャンバー6外の第2計測部88と接続されている。
【0039】
したがって、光照射部5から出射されて熱処理位置に到達した閃光は、受光部88aから導光部89内に入射する。そして、導光部89内に入射した閃光は、第2計測部88に導かれる。これにより、第2計測部88は、保持部7に基板Wが保持されているか否かに関わらず、光照射部5から出射された閃光のエネルギーを計測することができる。
【0040】
そのため、第2計測部88は、非熱処理時だけでなく、保持部7に基板Wが保持されて熱処理が実行される熱処理時においても、光照射部5から出射されて導光部89により導かれた閃光のエネルギー(第2エネルギー)を計測することができる。
【0041】
また、第2計測部88は、チャンバー6外に設けられており、熱処理の影響を受けずに閃光のエネルギー(第2エネルギー)を計測することができる。そのため、第2計測部88による計測精度をさらに向上させることができる。
【0042】
ここで、カロリーメータとは、光子のエネルギーを計測する粒子検出器を言う。カロリーメータは、入射する光子によって電子陽電子対生成と制動輻射とを繰り返し生じさせる。そして、カロリーメータからは、光照射部5からの閃光エネルギーに応じた電気信号が出力される。
【0043】
したがって、第1計測部78に閃光が入射すると、第1計測部78からは、入射した閃光のエネルギー(第1エネルギー)に対応する電気信号が出力される。また同様に、導光部89を介して第2計測部88に閃光が入射すると、第2計測部88からは、導光部89を通過する際に減衰した閃光に対応する電気信号が出力される。
【0044】
制御部90は、熱処理装置1の各構成要素の動作制御(例えば、光照射部5による閃光の照射制御や、昇降部42による保持部7の昇降制御等)、およびデータ演算を実現する。図1および図2に示すように、制御部90は、主として、RAM91と、ROM(Read Only Member)92と、CPU(Central Processing Unit)93と、を有している。
【0045】
RAM(Random Access Memory)91は、揮発性の記憶部であり、例えば、CPU93の演算で使用されるデータが格納される。ROM(Read Only Memory)92は、いわゆる不揮発性の記憶部であり、例えば、プログラム92aが格納される。なお、ROM92としては、読み書き自在の不揮発性メモリであるフラッシュメモリが使用されてもよい。
【0046】
CPU93は、ROM92のプログラム92aに従った動作制御やデータ演算を実行する演算部である。例えば、CPU93は、第1および第2計測部78、88の計測結果に基づいて、基板Wに到達する閃光のエネルギーを演算する。また、図1および図2中のCPU93内に記載されている各演算部93a、93bに対応する演算機能は、CPU93によって実現される。
【0047】
<2.第1および第2計測部により計測された閃光エネルギーの関係と演算機能>
ここでは、第1および第2計測部78、88により計測された閃光エネルギーの関係を説明するとともに、CPU93によって実現される演算機能について説明する。
【0048】
ここで、光照射部5のフラッシュランプ69は、繰り返し発光されると劣化し、基板に照射される閃光のエネルギーが低下する。すなわち、光照射部5からの閃光エネルギーは、発光回数の増大に従って低下する。また、基板Wの表面は、照射される閃光のエネルギーに応じて昇温する。
【0049】
したがって、フラッシュランプ69を使用した熱処理において、基板Wの熱処理状況を正しく把握するためには、熱処理時に光照射部5側から基板W側に照射される閃光のエネルギーを正確に把握することが必要となる。
【0050】
また、第2計測部88で計測される閃光は、導光要素として使用される導光部89を介して第2計測部88に導入され、導光部89を通過する際に減衰する。したがって、第2計測部88の計測結果を使用して基板Wに到達する閃光のエネルギーを演算するためには、何らかの補正演算が必要となる。
【0051】
なお、基板Wに到達する閃光のエネルギーは、導光部89を通過する際に減衰する閃光エネルギーの減衰率を予め求め、この減衰率と、第2計測部88の計測結果と、に基づいて演算することも可能である。しかし、導光部89の減衰率は、個体差を有しており、導光部89毎に相違する値となる。その結果、減衰率を使用した演算手法では、熱処理装置1の製造工数が増大するという問題が生ずることになる。
【0052】
そこで、本実施の形態では、以下の手法を採用することによって、各導光部89の個体差の影響を抑制しつつ、基板Wに到達する閃光のエネルギーを演算している。
【0053】
図3は、フラッシュランプ69への印加電圧を一定とした場合おいて、第n回目の発光時における閃光エネルギーの減少率と発光回数nとの関係を示すグラフである。図3の横軸は、発光回数nを示す。また、図3の縦軸は、第n回目の発光時における減少率DR1n(図3中の「●」(黒塗り丸))、DR2n(図3中の「◇」(白抜き菱形))を示す。また、図3中の実線AL1、AL2は、それぞれ減少率DR1n、DR2nの近似直線(第1次近似直線)を示す。
【0054】
ここで、本実施の形態において閃光エネルギーの減少率DR1n、DR2nとは、第1計測部78、88で計測される閃光エネルギーの初期値をE10、E20と、第n回目の閃光時に第1計測部78、88で計測される閃光エネルギーをE1n、E2nと、それぞれする場合、初期値E10、E20に対する閃光エネルギーE1n、E2nの比率であり、数1および数2によって表される。
【0055】
DR1n = E1n / E10 ・・・ 数1
DR2n = E2n / E20 ・・・ 数2
なお、初期値E10、E20としては、例えば、第1回目の閃光時に計測された閃光エネルギーや、光照射部5のフラッシュランプ69を交換した際において複数回照射された閃光エネルギーの平均値等が使用される。
【0056】
また、上述の閃光エネルギーE1n(第1エネルギー)、E2n(第2エネルギー)は、第1計測部78が保持部7に載置された状態において、光照射部5から照射され、第1および第2計測部78、88で略同一タイミングで計測されたものである。
【0057】
ここで、近似直線AL1の傾きをA1、縦軸に対する切片をB1と、近似直線AL2の傾きをA2、縦軸に対する切片をB2と、それぞれ定義する。図3に示すように、第1計測部78に基づく近似直線AL1と、第2計測部88に基づく近似直線AL2と、について、切片B1(=103.8)、B2(=104.0)が略同一値となり、傾きA1(=−0.00072)、A2(=−0.00076)も略同一値となる。すなわち、近似直線AL1、AL2は、略同一形状を有する直線となり、第n回目の発光時において近似直線AL1、AL2から求められる減少率DR1n、DR2nは、略同一値となる。
【0058】
したがって、第n回目の発光時における減少率DR1n、DR2nは、近似直線AL2の傾きA2および切片B2と、発光回数nとを使用して、数3のように表される。
【0059】
DR1n = DR2n = B2 − A2 × n(nは自然数)・・・ 数3
よって、数3を数1に代入して整理することにより、第n回目の発光時において基板Wに到達する閃光のエネルギー(すなわち、第1計測部78の計測値E1n)は、数4のように表される。
【0060】
E1n = E10 × DR1n
= E10 ×(B2 − A2 × n) ・・・ 数4
このように、第1計測部78によって計測される閃光エネルギー(第1エネルギー)の初期値(第1初期値)が予め求められると、第2計測部88の計測値に基づいた近似直線AL2の傾きA2および切片B2によって、第n回目の発光時に基板Wに到達する閃光のエネルギーを演算することが可能となる。
【0061】
減少率演算部93aは、数3に基づいた演算を実行する。すなわち、減少率演算部93aは、第2計測部88の計測結果により求められる減少率DR2n(第2減少率)を、第n回目発光時の減少率DR1n(第1減少率)として演算する。
【0062】
具体的には、まず、第2計測部88により計測された複数の閃光エネルギーと、初期値E20(第2初期値)と、から複数の減少率DR2nが演算される。続いて、求められた減少率DR2nの近似直線AL2が求められ、傾きA2と切片B2とがRAM91に記憶される。
【0063】
そして、発光回数nと、RAM91に記憶された傾きA2および切片B2とが、数3に代入されることによって、第n回目発光時の減少率DR1nが演算される。なお、第2計測部88により計測結果に基づいて演算された閃光エネルギーの初期値E20は、予めRAM91等に記憶されている。
【0064】
なお、近似直線AL2の傾きA2および切片B2は、光照射部5から閃光が出射されて熱処理が実行される毎に再演算されてもよいし、光照射部5の発光が所定回数行われる毎に再演算されてもよい。さらに、基板Wの熱処理に先立って演算された傾きA2および切片B2が、熱処理時の閃光エネルギーE1nの演算に使用されてもよい。
【0065】
補正演算部93bは、減少率DR1nと、初期値E10と、に基づいて、第n回目の発光時に基板Wに到達する閃光エネルギーE1nを演算する。具体的には、補正演算部93bは、減少率演算部93aにより近似演算された減少率DR1nと、初期値E10と、を数4に代入することによって求める。なお、第1計測部78により計測結果に基づいて演算された閃光エネルギーの初期値E10は、初期値E20と同様に、予めRAM91等に記憶されている。
【0066】
図4は、フラッシュランプ69への印加電圧を一定とした場合において、第1計測部78により計測された閃光エネルギーの計測値と、数4による演算値との関係を示すグラフである。図4の横軸は、発光回数nを示す。また、図4の縦軸は、数4よる閃光エネルギー(第1エネルギー)の演算値を、第1計測部78による計測値で除した値(比率R1)である。また、図4中の「◆」(黒塗り菱形)は、比率R1をプロットしたものである。
【0067】
図4に示すように、比率R1は、各発光回数nとも、概ね99.5〜100.5(%)の範囲となった。したがって、第n回目の発光時において基板Wに到達する閃光エネルギーは、数4に基づいた演算によって、良好に求められる。
【0068】
<3.本実施の形態の熱処理装置の利点>
以上のように、本実施の形態の熱処理装置1において、導光部89は、保持部7の外方に設けられており、第2計測部88は、基板Wの熱処理時においても光照射部5からの閃光のエネルギー(第2エネルギー)を計測することができる。また、減少率演算部93aは、光源の発光回数を考慮に入れた減少率DR2nを、導光部89の個体差の影響を受けず、良好に演算することができる。
【0069】
これにより、補正演算部93bは、導光部89の個体差を影響を受けずに演算された減少率DR2nを減少率DR1nとして使用することができ、第n回目の発光時において基板に到達する閃光のエネルギー(第1エネルギー)を良好に演算することができる。そのため、補正演算部93bの演算結果に基づいて、基板Wの熱処理状況を正確に把握することができる。
【0070】
また、減少率演算部93aは、減少率DR2nの近似直線AL2から、第n回目の発光時における減少率DR2nを近似演算する。また、補正演算部93bは、この近似演算された減少率DR2nを減少率DR1nとして使用することにより、第n回目の発光時に基板Wに到達するエネルギー(第1エネルギー)を演算する。そのため、第n回目の発光時に基板Wに到達する閃光のエネルギーをさらに良好に演算することができ、基板Wの熱処理状況をさらに正確に把握することができる。
【0071】
<4.変形例>
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく様々な変形が可能である。
【0072】
(1)本実施の形態において、補正演算部93bは、近似直線AL2に基づいて求められた減少率DR2nに基づいて、基板Wに到達する閃光のエネルギーE1nを演算するものとして説明したが、閃光エネルギーE1nの演算手法はこれに限定されるものでない。例えば、数1および数2を整理することにより導かれる数5が、数4の代わりに使用されてもよい。
【0073】
E1n = E10 × DR2n
= E2n × E10 / E20 ・・・ 数5
ただし、数4が使用されると、第2計測部88による閃光エネルギーの計測誤差を丸めて、減少率DR2n、および基板Wに到達する閃光のエネルギーE1nを演算することができる。そのため、数4に基づいた演算の場合には、第n回目の発光時に基板Wに到達する閃光のエネルギーE1nをさらに良好に演算することができ、基板Wの熱処理状況をさらに正確に把握することができる。
【0074】
(2)また、本実施の形態において、複数の演算機能は、ROM92に格納されたプログラム92aに従いCPU93によって実現されるものとして説明したが、これに限定されるものでない。例えば、演算回路(ハードウェア)によって、これら演算機能が実現されてもよい。
【0075】
(3)また、本実施の形態において、第2計測部88は、チャンバー6の底部62であって、チャンバー6外に設けられているものとして説明したが、これに限定されるものでない。すなわち、第2計測部88の設置場所の条件としては、チャンバー6内で熱処理が施される場合において、この熱処理に起因した熱影響を受けない場所であれば、十分である。なお、導光部89と第2計測部88とが離隔して配置される場合、第2計測部88と導光部89とは、光伝達要素(例えば光ファイバー)によって接続されてもよい。この場合、導光部89および光ファイバーを介して導かれた閃光が、第2計測部88で計測される。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の実施の形態における熱処理装置の構成の一例を示す側断面図である。
【図2】本発明の実施の形態における熱処理装置の構成の一例を示す側断面図である。
【図3】第n回目の発光時における閃光エネルギーの減少率と発光回数との関係を示すグラフである。
【図4】第1計測部によって計測された閃光エネルギーの計測値と、演算値との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0077】
1 熱処理装置
5 光照射部(光源)
6 チャンバー
7 保持部
69 フラッシュランプ
78 第1計測部
88 第2計測部
89 導光部
90 制御部
93 CPU
93a 減少率演算部
93b 補正演算部
E1n 閃光エネルギー(第1エネルギー)
E2n 閃光エネルギー(第2エネルギー)
E10、E20 初期値(第1初期値、第2初期値)
DR1n、DR2n 減少率(第1減少率、第2減少率)
W 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に閃光を照射することにより、前記基板を加熱する熱処理装置において、
(a)前記基板を保持する保持部と、
(b)複数のフラッシュランプを有する光源と、
(c)前記光源から出射された前記閃光のエネルギーを計測する計測部と、
(d)前記計測部の計測結果に基づいて、前記基板に到達する前記閃光の第1エネルギーを演算する演算部と、
を備え、
前記計測部は、
(c-1)前記基板の非熱処理時に前記保持部に載置可能とされており、前記第1エネルギーの第1初期値を計測する第1計測部と、
(c-2)前記保持部の外方に設けられた導光部につき、該導光部により導かれた前記閃光のエネルギーを第2エネルギーとして計測する第2計測部と、
を有し、
前記演算部は、
(d-1)前記第1初期値に対する第n回目発光時の前記第1エネルギーの比率を(nは自然数)、第n回目発光時の第1減少率として演算する減少率演算部と、
(d-2)前記減少率演算部により演算された前記第1減少率と、前記第1エネルギーの前記第1初期値と、に基づいて、第n回目の発光時における前記第1エネルギーを演算する補正演算部と、
を有し、
前記第2エネルギーの初期値とされる第2初期値につき、該第2初期値に対する第n回目発光時の前記第2エネルギーの比率を、第n回目発光時の第2減少率とする場合において、前記減少率演算部は、前記第2減少率を第n回目発光時の前記第1減少率として演算することを特徴とする熱処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の熱処理装置において、
前記減少率演算部は、前記第2減少率の近似直線を演算するとともに、前記近似直線から求められる第n回目発光時の第2減少率を、第n回目発光時の前記第1減少率として演算することを特徴とする熱処理装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の熱処理装置において、
前記導光部は、前記保持部が収容されているチャンバー内に設けられており、
前記第2計測部は、前記チャンバー外に設けられていることを特徴とする熱処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−231714(P2009−231714A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−77848(P2008−77848)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】