説明

熱分解装置

【課題】 廃棄物の処理能力を最大限に発揮することができ、また熱分解残渣を安全に且つ安定して処理することができる熱分解装置を提供する。
【解決手段】 熱分解装置1は廃棄物を熱分解処理する。熱分解装置1は、投入される廃棄物を熱分解ガスと熱分解残渣とに熱分解する熱分解炉7と、熱分解残渣から金属を選別する残渣選別機14と、選別された金属を回収する金属回収器17と、を備えている。熱分解装置1は、金属回収器17に回収される金属の重量に基づいて、処理条件を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未分別かつ未処理であって様々な汚染物質を含んでいる廃棄物(以下、被処理物とも呼ぶ)を使用可能物質に変質させる熱分解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
未分別かつ未処理であって様々な汚染物質を含んでいる廃棄物(以下、被処理物とも呼ぶ)を使用可能物質に変質させる廃棄物処理システムとして、廃棄物を熱分解処理する熱分解装置(熱分解処理システム)が従来から知られている。(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一般に熱分解装置においては、有機物を含む廃棄物を還元雰囲気下で数百℃に加熱し、熱分解ガスと固体残渣物に分離する機能が必要とされる。
【0004】
このような熱分解装置としては、回転ドラムを外部から加熱する外部加熱方式を採用した外熱式の回転炉(キルン)を適用することができる。外熱式キルンはセメント焼成などに長年の使用実績があり、未分解で未分別の廃棄物の処理装置としては構造が簡素で信頼性の高いものとして、一般に広く普及している。
【0005】
図5に、このような熱分解装置1aにおいて廃棄物を熱分解する主要装置の構成例を示す。この熱分解装置1aにおいては、廃棄物は計量機能を有する投入装置2により回転ドラム3の内部に投入され、回転ドラム3の外部に設けられた燃焼室4内で、加熱装置(バーナー等)5により回転ドラム3を介して加熱されるようになっている。加熱された回転ドラム3内の廃棄物は熱分解ガスと固体の熱分解残渣とに熱分解され、出口から排出されるようになっている。また、燃焼室4からの燃焼排気ガスは、排気ダクト6を介して系外に排出される。
【0006】
図6に、熱分解装置1aにおいて、廃棄物から熱分解された熱分解残渣を処理する主要装置の構成例を示す。この装置構成では、熱分解炉7出口から排出された熱分解残渣は残渣冷却ドラム10の内部へと運ばれ、残渣冷却ドラム10の外部に設けられた冷却室11内で、残渣冷却装置(冷却水等)12により残渣冷却ドラム10を介して冷却されるようになっている。冷却された残渣冷却ドラム10内の熱分解残渣は、残渣排出装置13から排出されて残渣選別機14により金属と金属以外の選別済残渣とに選別され、金属は金属回収器17に回収される。一方、選別済残渣は選別済残渣回収器18に回収され、造粒装置19まで搬送される。そして、更に選別され造粒物に生成される。
【0007】
このようにして選別された金属は再生資源化され、一方、造粒物はエネルギー源として再利用される。また、熱分解炉7で熱分解された熱分解ガスは、熱分解炉7の後工程の各種処理装置に送られて無害化処理が施された後に、エネルギー源として再利用される。
【特許文献1】特開2000−202419号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のような熱分解処理システムでは、廃棄物等の被処理物の熱分解処理が安定的かつ長期的に継続して行われることが望ましい。しかしながら、熱分解炉の回転ドラム内において、被処理物の熱分解処理を長時間に渡って継続的に行うような場合、回転ドラムの内壁に熱分解残渣が付着してしまい、処理能力が低下するという不具合が生じる。また、回転ドラム内で熱分解残渣中のワイヤが巨大な束(巨大ワイヤボール)となって、金属回収器まで搬送されずに途中で滞留し、熱分解残渣の閉塞が発生し、熱分解処理を継続することができないという不具合も想定される。さらには、巨大ワイヤボールが残渣冷却ドラム内で十分に冷却されずに金属回収器まで搬送され、金属回収器で発火してしまう虞すらある。
【0009】
回転ドラムの内壁に付着した熱分解残渣は、回転ドラムの外部から内部に伝えられる熱を遮断してしまう。このため、回転ドラム内の被処理物を回転ドラムの外部から加熱するような場合には、当該加熱による熱が回転ドラムの内部へ十分に伝わらなくなることがある。この結果、熱伝達効率が悪化してしまい、回転ドラム内の被処理物を効率良く熱分解させることが困難となる。この場合、非処理物を所定の熱分解温度まで加熱することができず、処理量を低下させざるを得なくなる。
【0010】
ワイヤボールは、回転ドラム内壁への熱分解残渣の付着が少ない場合、殆ど形成されないか、ワイヤボールが形成されたとしてもその形状は小さい。その一方で、回転ドラム内壁への熱分解残渣の付着が多い場合、ワイヤボールは大きく形成される傾向にある。ワイヤボールが残渣排出装置や残渣選別機などの残渣搬送空間よりも大きくなると、この巨大ワイヤボールは残渣搬送空間を通過することができず、熱分解残渣の閉塞を回避することができない。
【0011】
また、ワイヤボールが巨大化した場合、残渣冷却ドラムの内壁とワイヤボール中心部との距離が長くなり、残渣冷却ドラムでワイヤボールの内部まで所定の冷却温度に冷却することもできない。このため、ワイヤボール内部は高温状態が続いたままで金属回収器まで搬送される。
【0012】
さらに、大型のワイヤボールの熱容量は小型のワイヤボールに比べて大きく、金属回収器に回収されてからもワイヤボール内部の温度の下がり方は緩やかである。このため、金属回収器から金属を取り出す工程で大気開放される際、ワイヤボール内部が熱分解残渣の発火点以上の高温状態にある虞すらあり、この場合、金属回収器内に混在する熱分解残渣が発火する可能性もあり得る。
【0013】
このような問題を解決するため、処理運転を継続しながら、回転ドラムの内壁への付着物を機械的に掻き落とす装置も開発されつつある。しかしながら、付着物の堆積を完全に防ぐことは困難であり、外熱式の回転ドラムを熱分解装置に適用する場合には、付着による性能の低下という不具合は不可避的に発生するものといえる。
【0014】
一般的には被処理物の加熱状況はドラム内部あるいは外部の温度監視、あるいは出口の被処理物の温度により管理されている。回転ドラム内壁への付着物により熱の伝わりが悪くなり、ドラム内部や出口の温度が低下する場合、一般的には加熱量を増加させるか、あるいは処理量を低下するかの手段がとられる。ただし、加熱量を増加させることは装置の耐熱性や、加熱装置の容量からおのずと上限値があり、この上限に達した後は処理量の低下しか選択肢がなくなる。
【0015】
一方で、付着物が堆積した状態ではドラム内部の温度の正確な測定は困難であり、熱分解処理のための適切な加熱が行われているかの判断が難しい。このため、熱分解炉の能力上限いっぱいまで性能を引き出すことは困難であり、低い処理量で操業せざるを得なくなる。
【0016】
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、付着等の加熱阻害要因が発生しても、廃棄物の処理能力を最大限に発揮することができ、また熱分解残渣を安全に且つ安定して処理することができる熱分解装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、投入される廃棄物を熱分解ガスと熱分解残渣とに熱分解する熱分解炉と、熱分解炉から熱分解残渣を受けて熱分解残渣を冷却する残渣冷却機と、熱分解残渣から金属を選別する残渣選別機と、選別された金属を回収する金属回収器と、を備え、廃棄物を熱分解処理する熱分解装置であって、金属回収器に回収される金属の重量に基づいて処理条件を調整することを特徴とする熱分解装置である。
【0018】
本発明は、投入される廃棄物を熱分解ガスと熱分解残渣とに熱分解する熱分解炉と、熱分解炉から熱分解残渣を受けて熱分解残渣を冷却する残渣冷却機と、熱分解残渣を金属と金属以外の選別済残渣とに選別する残渣選別機と、を備え、廃棄物を熱分解処理する熱分解装置であって、熱分解残渣の温度、金属の温度、および選別済残渣の温度のいずれか、またはこれらから選択される複数の温度に基づいて処理条件を調整することを特徴とする熱分解装置である。
【0019】
本発明は、投入される廃棄物を熱分解ガスと熱分解残渣とに熱分解する熱分解炉と、熱分解炉から熱分解残渣を受けて熱分解残渣を冷却する残渣冷却機と、熱分解残渣を金属と金属以外の選別済残渣とに選別する残渣選別機と、を備え、廃棄物を熱分解処理する熱分解装置であって、熱分解残渣の温度、金属の温度、および選別済残渣の温度のいずれか、またはこれらから選択される複数の温度と、残渣冷却機による冷却熱量と、に基づいて処理条件を調整することを特徴とする熱分解装置である。
【0020】
本発明は、投入される廃棄物を熱分解ガスと熱分解残渣とに熱分解する熱分解炉と、熱分解炉から熱分解残渣を受けて熱分解残渣を冷却する残渣冷却機と、熱分解残渣を金属と金属以外の選別済残渣とに選別する残渣選別機と、選別された金属を回収する金属回収器と、を備え、廃棄物を熱分解処理する熱分解装置であって、熱分解残渣の温度、金属の温度、および選別済残渣の温度のいずれか、またはこれらから選択される複数の温度と、残渣冷却機による冷却熱量と、金属回収器に回収される金属の重量と、に基づいて処理条件を調整することを特徴とする熱分解装置である。
【0021】
本発明は、残渣冷却機と残渣選別機とにそれぞれダンパを介して閉鎖自在に連通し、残渣冷却機から残渣選別機に熱分解残渣を排出する残渣排出装置をさらに備え、前記熱分解残渣の温度は、残渣冷却機の出口、残渣排出装置内、残渣選別機内のいずれかの場所、またはこれらから選択される複数の場所における温度であることを特徴とする熱分解装置である。
【0022】
本発明は、熱分解残渣の温度、金属の温度、および選別済残渣の温度として、それらが存在する場所の雰囲気温度が計測されることを特徴とする熱分解装置である。
【0023】
本発明は、残渣冷却機は、熱分解炉から熱分解残渣を受ける回転自在な残渣冷却ドラムと、残渣冷却ドラムに冷却水を噴射する冷却水配管と、噴射された冷却水を回収する冷却水戻り配管と、を有し、残渣冷却機による冷却熱量は、冷却水配管から噴射される冷却水の熱量と、冷却水戻り配管に回収される冷却水の熱量との差分から計測されることを特徴とする熱分解装置である。
【0024】
本発明は、冷却水配管に冷却水温度計と冷却水流量計とが設けられ、冷却水戻り配管に冷却水戻り温度計が設けられ、冷却水温度計と、冷却水流量計と、冷却水戻り温度計とによって、冷却水配管から噴射される冷却水の熱量と、冷却水戻り配管に回収される冷却水の熱量との差分が計測されることを特徴とする熱分解装置である。
【0025】
本発明は、調整される処理条件は、熱分解炉に投入される廃棄物の投入量であることを特徴とする熱分解装置である。
【0026】
本発明は、残渣冷却機は冷却水により熱分解残渣を冷却し、調整される処理条件は、冷却水の水量であることを特徴とする熱分解装置である。
【0027】
本発明は、熱分解炉は、廃棄物を受けるとともに外部から加熱されることによって回転しながら廃棄物を加熱する回転ドラムを有し、調整される処理条件は、回転ドラムの回転速度であることを特徴とする熱分解装置である。
【0028】
本発明は、残渣冷却機は、熱分解炉から熱分解残渣を受けるとともに外部から冷却されることによって回転しながら熱分解残渣を冷却する残渣冷却ドラムを有し、調整される処理条件は、残渣冷却ドラムの回転速度であることを特徴とする熱分解装置である。
【0029】
本発明は、熱分解炉は、廃棄物を受けるとともに外部から加熱されることによって回転しながら廃棄物を加熱する回転ドラムを有し、残渣冷却機は、熱分解炉から熱分解残渣を受けるとともに冷却水により外部から冷却されることによって回転しながら熱分解残渣を冷却する残渣冷却ドラムを有し、調整される処理条件は、熱分解炉に投入される廃棄物の投入量、冷却水の水量、回転ドラムの回転速度、および残渣冷却ドラムの回転速度のいずれか、またはこれらから選択される複数の処理条件であることを特徴とする熱分解装置である。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、廃棄物の処理状況をより正確に検出した上で、熱分解装置の状態に応じた最適な処理条件を選択することができる。これにより、熱分解装置の廃棄物の処理能力を最大限に発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明よる熱分解装置の一実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0032】
図1乃至図4は本実施の形態を説明する図であり、このうち図1は本発明による熱分解装置1の一実施の形態を示す構成図であり、図2は熱分解装置1の制御フローを説明する図である。
【0033】
なお、図1には熱分解装置1のうち熱分解残渣を処理する工程以降の構成図であり、それ以前の、廃棄物を熱分解ガスと熱分解残渣とに熱分解し、熱分解ガスと熱分解残渣とに選別する工程までの構成が示されていない。本実施の形態において、廃棄物を熱分解ガスと熱分解残渣とに熱分解し、熱分解ガスと熱分解残渣とに選別する工程までの装置構成は、図5を用いて説明した従来技術の熱分解装置1aと同一であり、この部分についての詳細な説明を一部省略する。また、図1に示す装置構成内においても、図6を用いて説明した従来技術の熱分解装置1aと同一部分が有り、同一部分については同一符号を付すとともに、詳細な説明を一部省略する。
【0034】
図1乃至図5に示すように、本実施の形態による熱分解装置1は、投入される廃棄物を熱分解ガスと熱分解残渣とに熱分解する熱分解炉7と、熱分解炉7から熱分解残渣を受けて、熱分解残渣を冷却する残渣冷却機9と、冷却された熱分解残渣を金属と金属以外の選別済残渣とに選別する残渣選別機14と、を備えている(図1および図5)。
【0035】
また、熱分解装置1は、残渣冷却機9と残渣選別機14との間に配置され、残渣冷却機9と残渣選別機14とにそれぞれ上ダンパ22と下ダンパ23とを介して閉鎖自在に連通し、残渣冷却機9から残渣選別機14に熱分解残渣を排出する残渣排出装置13を、さらに備えている(図1)。
【0036】
さらに、熱分解装置1は、残渣選別機14により選別された金属を回収する金属回収器17と、選別された選別済残渣を回収する選別済残渣回収器18と、をさらに備えている(図1)。
【0037】
このうち、熱分解炉7は、上述したように、投入される廃棄物を受ける回転自在な回転ドラム3と、回転ドラム3を外部から加熱する加熱装置5と、を有している。そして、回転ドラム3は投入装置2から廃棄物を受けるとともに、外部から加熱装置5により加熱されることによって、回転ドラム3の内部に収納され、そして回転ドラム3を通過していく廃棄物を回転しながら加熱し、熱分解ガスと熱分解残渣とに熱分解する(図5)。
【0038】
残渣冷却機9は、熱分解炉7から熱分解残渣を受ける回転自在な残渣冷却ドラム10と、残渣冷却ドラム10に冷却水を噴射する冷却水配管(残渣冷却装置とも呼ぶ)12と、噴射された冷却水を回収する冷却水戻り配管21と、を有している。そして、残渣冷却ドラム10は熱分解炉7から熱分解残渣を受けるとともに、外部に冷却水配管12から冷却水を噴射されることによって冷却され、これにより、残渣冷却ドラム10の内部に収納され、そして残渣冷却ドラム10を通過していく熱分解残渣を回転しながら冷却する(図1)。
【0039】
本実施の形態においては、図5に示すように、熱分解残渣7の温度を計測することができるよう、残渣冷却機9の出口に残渣冷却機出口温度計27が設けられ、残渣排出装置13内に残渣排出装置温度計28が設けられ、そして残渣選別機14内に残渣選別機温度計29が設けられている。また、熱分解残渣が残渣選別機14で金属と選別済残渣とに分別された後に金属と選別済残渣との温度を計測できるよう、金属回収器17内に金属回収器温度計30が設けられ、選別済残渣回収器18内に選別済残渣回収器温度計31が設けられている。また、金属回収器17に回収された金属の重量を計測できるよう、金属回収器17に重量測定器24が設けられている。
【0040】
また、残渣冷却機9の冷却水配管12に冷却水温度計25と冷却水流量計32とが設けられ、冷却水戻り配管21に冷却水戻り温度計26が設けられている。この冷却水温度計25と、冷却水流量計32と、冷却水戻り温度計26とによって、冷却水配管12から噴射される冷却水の熱量と、冷却水戻り配管21に回収される冷却水の熱量との差分を計量することができる。この差分は、残渣冷却機9が残渣冷却ドラム10内を通過する熱分解残渣から奪った熱量、すなわち、残渣冷却機9による熱分解残渣の正味冷却熱量に相当する。
【0041】
このような構成からなる熱分解装置1において、熱分解残渣7にワイヤボールが多く含まれていると、残渣冷却機9内に持ち込まれる熱量が上昇する。また、ワイヤボールは、上述したように粉状の残渣に比べて冷却されにくい。したがって、残渣冷却機9の冷却水配管12からの冷却水量(冷却水の流量)が一定ならば、冷却水戻り温度計26の計測値が上昇し、残渣冷却機出口温度計27の計測値も上昇する。
【0042】
次に、ワイヤボールが残渣排出装置13内に進み上ダンパ22と下ダンパ23が閉じた時に、残渣排出装置温度計28の計測値は急激に上昇し、そしてワイヤボールの通過後は緩やかに温度が下がる。その後、ワイヤボールが残渣選別機14内に進むと、残渣選別機温度計29の計測値が上昇し、さらに、金属回収器温度計30および選別済残渣回収器温度計31の計測値も上昇する。
【0043】
このように温度が高く、かつ冷却されにくいワイヤボールの通過にともなった、各場所における温度上昇の傾向から、ワイヤボールの量や大きさを推定することが可能となる。
【0044】
なお、図4は、このような温度変化の例として、残渣排出装置温度計28により計測された温度変化を示している。D、EおよびFにおいて温度が急激に上昇し、その後、温度は緩やか下がっている。すなわち、D、EおよびFのとき、ワイヤボールが残渣排出装置13を通過中であり、また上ダンパ22と下ダンパ23が閉じている。
【0045】
また、ワイヤボールが金属回収器17内に回収されると、重量測定器24により計測される重量は急激に上昇する。このような重量変化からもワイヤボールの量や大きさを推定することが可能となる。
【0046】
図3は重量測定器24により計測された重量変化の例を示している。A、BおよびCにおいて重量が急激に増加しており、このとき、ワイヤボールが金属回収器17に回収されている。一方、AからB、あるいはBからCといった滑らかな右上がり部分は、金属が一定量ずつ回収されており、熱分解炉7での処理が安定していることを示す。
【0047】
本実施の形態においては、このようにワイヤボールの存在にともなって変化する、熱分解残渣の温度、金属の温度、および選別済残渣の温度と、残渣冷却機9による冷却熱量と、金属回収器17に回収される金属の重量と、に基づいて廃棄物の処理条件を調整(制御)するようになっている。
【0048】
図2に示すように、熱分解装置1の制御部40は、投入装置2から熱分解炉7への廃棄物の投入量を調整する投入量制御装置35と、残渣冷却機9の冷却水配管(残渣冷却装置)12からの冷却水流量を調整する冷却水流量制御装置36と、熱分解炉7の回転ドラム3の回転速度および残渣冷却機9の残渣冷却ドラム10の回転速度を調整する回転数制御装置37と、重量測定器24の計測値に基づいて各処理条件を調整する必要がある場合を検出する金属重量制御器33と、各温度計25,26,27,28,29,30,31の計測値に基づいて各処理条件を調整する必要がある場合を検出する温度制御器34と、を有しており、この制御部40によって廃棄物の処理条件が制御される。
【0049】
本実施の形態においては、重量測定器24の重量計測値の変化率が予め設定された規定値以上となるかを金属重量制御器33が判別し、残渣冷却機出口温度計27、残渣排出装置温度計28、残渣選別機温度計29、金属回収器温度計30、および選別済残渣回収器温度計31の温度計測値の変化率が予め設定された規定値以上となるかを温度制御器34が判別し、また、冷却水戻り温度計26の温度計測値の変化率が予め設定された規定値以上となるかを温度制御器34が判別する。そして、これらの内のいずれか、または複数が規定値以上となる場合を各制御器33,34が検知すると、投入量制御装置35、冷却水流量制御装置36、および回転数制御装置37の内のいずれかまたは複数に信号を送り、投入量制御装置35、冷却水流量制御装置36、および回転数制御装置37は各処理条件を調整する。
【0050】
このように金属の重量と、熱分解残渣の温度と、金属の温度と、選別済残渣の温度と、冷却水の温度(残渣冷却機による冷却熱量)との変化率により、投入量制御装置35、冷却水流量制御装置36ならびに回転数制御装置37のいずれか、あるいは複数の制御装置によって、投入装置2による廃棄物の投入量、残渣冷却機9の冷却水量(冷却水の流量)、回転ドラム33の回転速度、および残渣冷却ドラム10の回転速度の制御を行うことができるようになっている。
【0051】
また、各計測値に対して段階的な複数の規定値を設定し、金属重量制御器33および温度制御器34によって、各計測値の変化率の大小をさらに定量的(段階的)に判断(評価)するようにしてもよい。この場合、例えば、各計測値の変化率が小さいと金属重量制御器33および温度制御器34が判断した場合、冷却水流量制御装置36によって冷却水量のみを調整し、一方、各計測値の変化率が大きいと金属重量制御器33および温度制御器34が判断した場合、冷却水流量制御装置36によって冷却水量のみを調整するだけでなく、回転数制御装置37により回転ドラム33および残渣冷却ドラム10の回転速度を調整するとともに、投入量制御装置35により廃棄物の投入量を調整するようにすることも可能である。
【0052】
なお、本願において「熱分解残渣の温度に基づいて」とあるが、各場所における熱分解残渣自体の温度を計測する必要はなく、熱分解残渣が存在する各場所における雰囲気温度を計測するようにしてもよい。雰囲気温度は、その場所に存在する熱分解残渣の温度に対応して変化するため、温度制御器34が雰囲気温度の計測値を判断することにより、熱分解残渣の温度に基づいた制御をすることができるからである。これにより、熱分解残渣の計測が困難である場合においても、「熱分解残渣の温度に基づいた制御」を、容易に行うことができる。なお、同様のことが金属および選別済残渣についても言える。すなわち、金属および選別済残渣が存在する場所の雰囲気温度を計測して処理条件を制御することは、結果として、金属の温度および選別済残渣の温度に基づいて処理条件を制御していることになる。
【0053】
このように構成された本実施の形態においては、廃棄物の処理経過に伴って熱分解炉7の回転ドラム3内部に付着物が進行することによりワイヤボールが発生したとしても、各処理工程における熱分解残渣の温度、金属の温度、選別済残渣の温度、冷却水の温度(残渣冷却機による冷却熱量)、および回収される金属の重量を計測し、その変化率を判断することによって、ワイヤボールの発生状況を的確に検出することができる。そして、ワイヤボールの発生状況に応じて投入量制御装置35、冷却水流量制御装置36および回転数制御装置37により、廃棄物の投入量、残渣冷却機9による冷却能力、および回転ドラム33と残渣冷却ドラム10との回転数をそれぞれ適正に制御することができる。
また、冷却水の温度から残渣冷却機9のよる熱分解残渣の冷却熱量を計測することができる。したがって、この冷却熱量と、残渣冷却機9によって冷却された後における熱分解残渣の温度とに基づき、より正確にワイヤボールの発生状況を検出することができる。
【0054】
本実施の形態によれば、熱分解炉7の処理経過にしたがった回転ドラム3内部への付着物の進行にともなった熱分解残渣中のワイヤボールの発生状況を、より正確に検出した上で、熱分解装置1の状態に応じた最適な処理条件を選択することができるので、熱分解装置1の廃棄物の処理能力を最大限に発揮することができる。また、これにより、熱分解残渣の発火の防止を従来よりも適正に行うことができる。
【0055】
なお、本実施の形態において、熱分解残渣の温度と、金属の温度と、選別済残渣の温度と、残渣冷却機9による冷却熱量と、回収される金属の重量と、に基づいて、処理条件を制御(調整)する例を示したが、これに限られない。金属の重量のみに基づいて処理条件を調整するようにしてもよいし、また、熱分解残渣の温度、金属の温度、および選別済残渣の温度のいずれかのみ、またはこれらから選択される複数の温度のみに基づいて処理条件を調整するようにしてもよいし、さらに、残渣冷却機9による冷却熱量のみに基づいて処理条件を調整するようにしてもよい。また、熱分解残渣の温度、金属の温度、および選別済残渣の温度のいずれか、またはこれらから選択される複数の温度と、残渣冷却機9による冷却熱量とに基づいて処理条件を調整するようにしてもよい。さらに、熱分解残渣の温度、金属の温度、および選別済残渣の温度のいずれか、またはこれらから選択される複数の温度と、金属回収器17に回収される金属の重量とに基づいて処理条件を調整するようにしてもよい。さらにまた、残渣冷却機9による冷却熱量と、金属回収器17に回収される金属の重量とに基づいて処理条件を調整するようにしてもよい。このようにすることによって、制御を簡素化することができ、熱分解装置1の製造コストおよびメンテナンスコストを削減することができるとともに、このような熱分解装置1のランニングコストを削減することもできる。
【0056】
また、本実施の形態においては、熱分解残渣の温度を、残渣冷却機9の出口、残渣排出装置13内、および残渣選別機14内で計測する例を示したが、これに限られない、制御を簡素化するために、これらの内のいずれかの場所、またはこれらから選択される複数の場所に限定して熱分解残渣の温度を計測するようにしてもよい。
【0057】
さらに、本実施の形態において、制御部40により制御(調整)することができる処理条件を、熱分解炉7に投入される廃棄物の投入量、冷却水の水量(残渣冷却装置12による冷却量)、回転ドラム3の回転速度、および残渣冷却ドラム10の回転速度とした例を示したが、これに限られない。例えば、これらすべての処理条件を制御することができるのではなく、これらの内から選択される1つまたは複数の処理条件のみを制御することができるようにしてもよい。このようにすることによって、制御を簡素化することができ、熱分解装置1の製造コストおよびメンテナンスコストを削減することができるとともに、このような熱分解装置1のランニングコストを削減することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明による熱分解装置の一実施の形態を示す構成図。
【図2】熱分解装置の制御フローを説明する図。
【図3】重量測定器により計測された重量変化の例を示す図。
【図4】残渣排出装置温度計により計測された温度変化の例を示す図。
【図5】従来の熱分解装置を示す構成図。
【図6】従来の熱分解装置を示す構成図。
【符号の説明】
【0059】
1 熱分解装置
2 投入装置
3 回転ドラム
4 燃焼室
5 加熱装置
6 排気ダクト
7 熱分解炉
9 残渣冷却機
10 残渣冷却ドラム
11 冷却室
12 冷却水配管
13 残渣排出装置
14 残渣選別機
17 金属回収器
18 選別済残渣回収器
19 造粒装置
21 冷却水戻り配管
22 上ダンパ
23 下ダンパ
24 重量測定器
25 冷却水温度計
26 冷却水戻り温度計
27 残渣冷却機出口温度計
28 残渣排出装置温度計
29 残渣選別機温度計
30 金属回収器温度計
31 選別済残渣回収器温度計
32 冷却水流量計
33 金属重量制御器
34 温度制御器
35 投入量制御装置
36 冷却水流量制御装置
37 回転数制御装置
40 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
投入される廃棄物を熱分解ガスと熱分解残渣とに熱分解する熱分解炉と、
熱分解炉から熱分解残渣を受けて熱分解残渣を冷却する残渣冷却機と、
熱分解残渣から金属を選別する残渣選別機と、
選別された金属を回収する金属回収器と、を備え、廃棄物を熱分解処理する熱分解装置であって、
金属回収器に回収される金属の重量に基づいて処理条件を調整することを特徴とする熱分解装置。
【請求項2】
投入される廃棄物を熱分解ガスと熱分解残渣とに熱分解する熱分解炉と、
熱分解炉から熱分解残渣を受けて熱分解残渣を冷却する残渣冷却機と、
熱分解残渣を金属と金属以外の選別済残渣とに選別する残渣選別機と、を備え、廃棄物を熱分解処理する熱分解装置であって、
熱分解残渣の温度、金属の温度、および選別済残渣の温度のいずれか、またはこれらから選択される複数の温度に基づいて処理条件を調整することを特徴とする熱分解装置。
【請求項3】
投入される廃棄物を熱分解ガスと熱分解残渣とに熱分解する熱分解炉と、
熱分解炉から熱分解残渣を受けて熱分解残渣を冷却する残渣冷却機と、
熱分解残渣を金属と金属以外の選別済残渣とに選別する残渣選別機と、を備え、廃棄物を熱分解処理する熱分解装置であって、
熱分解残渣の温度、金属の温度、および選別済残渣の温度のいずれか、またはこれらから選択される複数の温度と、残渣冷却機による冷却熱量と、に基づいて処理条件を調整することを特徴とする熱分解装置。
【請求項4】
投入される廃棄物を熱分解ガスと熱分解残渣とに熱分解する熱分解炉と、
熱分解炉から熱分解残渣を受けて熱分解残渣を冷却する残渣冷却機と、
熱分解残渣を金属と金属以外の選別済残渣とに選別する残渣選別機と、
選別された金属を回収する金属回収器と、を備え、廃棄物を熱分解処理する熱分解装置であって、
熱分解残渣の温度、金属の温度、および選別済残渣の温度のいずれか、またはこれらから選択される複数の温度と、残渣冷却機による冷却熱量と、金属回収器に回収される金属の重量と、に基づいて処理条件を調整することを特徴とする熱分解装置。
【請求項5】
残渣冷却機と残渣選別機とにそれぞれダンパを介して閉鎖自在に連通し、残渣冷却機から残渣選別機に熱分解残渣を排出する残渣排出装置をさらに備え、
前記熱分解残渣の温度は、残渣冷却機の出口、残渣排出装置内、残渣選別機内のいずれかの場所、またはこれらから選択される複数の場所における温度であることを特徴とする請求項2乃至4のいずれか一項に記載の熱分解装置。
【請求項6】
熱分解残渣の温度、金属の温度、および選別済残渣の温度として、それらが存在する場所の雰囲気温度が計測されることを特徴とする請求項2乃至5のいずれか一項に記載の熱分解装置。
【請求項7】
残渣冷却機は、熱分解炉から熱分解残渣を受ける回転自在な残渣冷却ドラムと、残渣冷却ドラムに冷却水を噴射する冷却水配管と、噴射された冷却水を回収する冷却水戻り配管と、を有し、
残渣冷却機による冷却熱量は、冷却水配管から噴射される冷却水の熱量と、冷却水戻り配管に回収される冷却水の熱量との差分から計測されることを特徴とする請求項3または4のいずれか一項に記載の熱分解装置。
【請求項8】
冷却水配管に冷却水温度計と冷却水流量計とが設けられ、冷却水戻り配管に冷却水戻り温度計が設けられ、
冷却水温度計と、冷却水流量計と、冷却水戻り温度計とによって、冷却水配管から噴射される冷却水の熱量と、冷却水戻り配管に回収される冷却水の熱量との差分が計測されることを特徴とする請求項7に記載の熱分解装置。
【請求項9】
調整される処理条件は、熱分解炉に投入される廃棄物の投入量であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の熱分解装置。
【請求項10】
残渣冷却機は冷却水により熱分解残渣を冷却し、
調整される処理条件は、冷却水の水量であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の熱分解装置。
【請求項11】
熱分解炉は、廃棄物を受けるとともに外部から加熱されることによって回転しながら廃棄物を加熱する回転ドラムを有し、
調整される処理条件は、回転ドラムの回転速度であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の熱分解装置。
【請求項12】
残渣冷却機は、熱分解炉から熱分解残渣を受けるとともに外部から冷却されることによって回転しながら熱分解残渣を冷却する残渣冷却ドラムを有し、
調整される処理条件は、残渣冷却ドラムの回転速度であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の熱分解装置。
【請求項13】
熱分解炉は、廃棄物を受けるとともに外部から加熱されることによって回転しながら廃棄物を加熱する回転ドラムを有し、
残渣冷却機は、熱分解炉から熱分解残渣を受けるとともに冷却水により外部から冷却されることによって回転しながら熱分解残渣を冷却する残渣冷却ドラムを有し、
調整される処理条件は、熱分解炉に投入される廃棄物の投入量、冷却水の水量、回転ドラムの回転速度、および残渣冷却ドラムの回転速度のいずれか、またはこれらから選択される複数の処理条件であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の熱分解装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−68629(P2006−68629A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−254544(P2004−254544)
【出願日】平成16年9月1日(2004.9.1)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】