説明

熱可塑性樹脂組成物及び成形品

【課題】成形加工時の熱安定性に優れ、衝撃により延性破壊となり、柔軟性、耐候性に優れた成形品を与える熱可塑性樹脂組成物、並びに、この熱可塑性樹脂組成物からなる成形品を提供する。
【解決手段】本発明の熱可塑性樹脂組成物は、〔A〕ゴム強化樹脂と、〔B〕ガラス転移温度が0〜75℃である共重合ポリブチレンテレフタレート系樹脂とを含有し、両者の含有量の合計を100質量%とした場合に、上記ゴム強化樹脂〔A〕の含有量が30〜95質量%であり、且つ、上記共重合ポリブチレンテレフタレート系樹脂〔B〕の含有量が5〜70質量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟性、耐候性、耐衝撃性、及び、成形加工時の熱安定性に優れた熱可塑性樹脂組成物、並びに、この熱可塑性樹脂組成物からなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両外装用の樹脂製部品としては、衝突時の安全性の観点から、尖った破片を生じにくい材料からなる柔軟成形体が用いられるようになってきている。このような柔軟成形体を与える樹脂組成物として、下記の各組成物が開示されている。
特許文献1には、アクリル酸エステル系ゴムグラフト共重合体及び熱可塑性ポリウレタンを含有する、良流動・耐候・高衝撃性重合体組成物が開示されている。特許文献2には、熱可塑性ポリウレタンと、ジエン系共重合体の存在下で単量体をグラフト共重合した共重合体とを含有する樹脂組成物が開示されている。
上記の特許文献1及び2に示される、柔軟成形体を与える樹脂組成物は、耐候性及び成形加工時の耐熱安定性が十分でなく、耐候性及び耐熱安定性の改良された樹脂組成物が求められている。
【0003】
【特許文献1】特開平4−342747号公報
【特許文献2】特開平5−65387号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、成形加工時の熱安定性に優れ、衝撃により延性破壊となり、柔軟性、耐候性に優れた成形品を与える熱可塑性樹脂組成物、並びに、この熱可塑性樹脂組成物からなる成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意研究した結果、ゴム質重合体の存在下に、ビニル系単量体を重合して得られたゴム強化ビニル系樹脂を含むゴム強化樹脂と、ガラス転移温度が0〜75℃である共重合ポリブチレンテレフタレート系樹脂とを含有する組成物が、成形加工時の熱安定性に優れ、衝撃により延性破壊となり、柔軟性、耐候性に優れた成形品を与えることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明は、以下に示される。
1.〔A〕ゴム強化樹脂と、〔B〕ガラス転移温度が0〜75℃である共重合ポリブチレンテレフタレート系樹脂とを含有し、両者の含有量の合計を100質量%とした場合に、上記ゴム強化樹脂〔A〕の含有量が30〜95質量%であり、且つ、上記共重合ポリブチレンテレフタレート系樹脂〔B〕の含有量が5〜70質量%であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
2.ISO 178に準じて測定される曲げ弾性率が、900〜1,500MPaである上記1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
3.上記ゴム強化樹脂〔A〕が、ゴム質重合体(a)の存在下に、ビニル系単量体(b1)を重合して得られたゴム強化ビニル系樹脂(A1)、又は、該ゴム強化ビニル系樹脂(A1)とビニル系単量体(b2)の(共)重合体(A2)との混合物、からなり、上記熱可塑性樹脂組成物中の上記ゴム質重合体(a)の含有量は、5〜40質量%である上記1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
4.上記ゴム強化ビニル系樹脂(A1)が、ジエン系ゴム質重合体(a1)の存在下に、ビニル系単量体(b1)を重合して得られたジエン系ゴム強化ビニル系樹脂(A1−1)と、非ジエン系ゴム質重合体(a2)の存在下に、ビニル系単量体(b1)を重合して得られた非ジエン系ゴム強化ビニル系樹脂(A1−2)とからなり、上記ジエン系ゴム質重合体(a1)及び上記非ジエン系ゴム質重合体(a2)の含有量の合計を100質量%とした場合に、上記ジエン系ゴム質重合体(a1)の含有量が20〜80質量%であり、且つ、上記非ジエン系ゴム質重合体(a2)の含有量が20〜80質量%である上記3に記載の熱可塑性樹脂組成物。
5.更に、〔C〕ポリカーボネート樹脂を含有し、該ポリカーボネート樹脂〔C〕の含有量が、上記共重合ポリブチレンテレフタレート系樹脂〔B〕の含有量を100質量部とした場合に、0.1〜50質量部である上記1乃至4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
6.更に、〔D〕耐候性向上剤を含有し、該耐候性向上剤〔D〕の含有量が、上記ゴム強化樹脂〔A〕及び上記共重合ポリブチレンテレフタレート系樹脂〔B〕の含有量の合計を100質量部とした場合に、0.01〜10質量部である上記1乃至5のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
7.上記1乃至6のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を含むことを特徴とする成形品。
8.車両部品用である上記7に記載の成形品。
【発明の効果】
【0007】
本発明の熱可塑性樹脂組成物によれば、柔軟性、耐候性、耐衝撃性、及び、成形加工時の熱安定性に優れる。
上記ゴム強化樹脂〔A〕が、特定のゴム質重合体を用いてなるゴム強化ビニル系樹脂を含む場合には、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、特に柔軟性及び耐候性に優れる。
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物が、ポリカーボネート樹脂〔C〕を含有する場合には、上記ゴム強化樹脂〔A〕及び上記共重合ポリブチレンテレフタレート系樹脂〔B〕との相溶性が向上し、更に、柔軟性、耐候性、耐衝撃性、及び、成形加工時の熱安定性に優れる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品は、柔軟性、耐候性及び耐衝撃性に優れるため、車両部品、特に外装用車両部品に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳しく説明する。
尚、本発明において、「(共)重合」とは、単独重合及び共重合を意味し、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタクリルを意味する。
【0009】
1.熱可塑性樹脂組成物
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、〔A〕ゴム強化樹脂(以下、「成分〔A〕」ともいう。)と、〔B〕ガラス転移温度が0〜75℃である共重合ポリブチレンテレフタレート系樹脂(以下、「成分〔B〕」ともいう。)とを含有し、両者の含有量の合計を100質量%とした場合に、上記ゴム強化樹脂〔A〕の含有量が30〜95質量%であり、且つ、上記共重合ポリブチレンテレフタレート系樹脂〔B〕の含有量が5〜70質量%である。
【0010】
1−1.ゴム強化樹脂〔A〕
この成分〔A〕は、ゴム質重合体(a)の存在下に、ビニル系単量体(b1)を重合して得られたゴム強化ビニル系樹脂(A1)、又は、このゴム強化ビニル系樹脂(A1)と、ビニル系単量体(b2)の(共)重合体(A2)とよりなる混合物、からなるものである。
【0011】
上記ゴム質重合体(a)は、室温でゴム質であれば、単独重合体であってよいし、共重合体であってもよい。また、このゴム質重合体(a)は、非架橋重合体であってよいし、架橋重合体であってもよい。具体例としては、ジエン系重合体(ジエン系ゴム質重合体)及び非ジエン系重合体(非ジエン系ゴム質重合体)が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし、組み合わせて用いてもよい。
【0012】
上記ジエン系重合体(以下、「ジエン系ゴム質重合体(a1)」ともいう。)としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン等の単独重合体;スチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・ブタジエン共重合体等のスチレン・ブタジエン系共重合体ゴム;スチレン・イソプレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・イソプレン共重合体等のスチレン・イソプレン系共重合体ゴム;天然ゴム等が挙げられる。尚、上記各共重合体は、ブロック共重合体でもよいし、ランダム共重合体でもよい。上記ジエン系重合体は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0013】
また、上記非ジエン系重合体(以下、「非ジエン系ゴム質重合体(a2)」ともいう。)としては、エチレン単位と、炭素数3以上のα−オレフィンからなる単位とを含むエチレン・α−オレフィン系共重合体ゴム;アクリル系ゴム;ウレタン系ゴム;シリコーンゴム、シリコーン・アクリル系IPNゴム等のシリコーン系ゴム;共役ジエン系化合物よりなる単位を含む(共)重合体を水素添加してなる重合体等が挙げられる。尚、上記各共重合体は、ブロック共重合体でもよいし、ランダム共重合体でもよい。上記非ジエン系重合体は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、上記非ジエン系重合体としては、エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴム、及び、アクリル系ゴムが好ましい。
【0014】
上記エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムは、エチレン単位と、炭素数3以上のα−オレフィンからなる単位とを含むものであり、エチレン・α−オレフィン共重合体ゴム、エチレン・α−オレフィン・非共役ジエン共重合体ゴム等が挙げられる。
炭素数3以上のα−オレフィンとしては、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、3−メチルブテン−1、ヘキセン−1、3−メチルペンテン−1、4−メチルペンテン−1、3,3−ジメチルブテン−1、ヘプテン−1、メチルヘキセン−1、ジメチルペンテン−1、トリメチルブテン−1、エチルペンテン−1オクテン−1、プロピルペンテン−1等が挙げられる。
また、上記非共役ジエンとしては、1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘキサジエン等の直鎖の非環状ジエン化合物;5−メチル−1,4−ヘキサジエン、3,7−ジメチル−1,6−オクタジエン、5,7−ジメチルオクタ−1,6−ジエン、3,7−ジメチル−1,7−オクタジエン、7−メチルオクタ−1,6−ジエン、ジヒドロミルセン等の分岐連鎖の非環状ジエン化合物;5−メチレン−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−プロペニル−2−ノルボルネン、5−イソプロピリデン−2−ノルボルネン、5−シクロヘキシリデン−2−ノルボルネン、5−ビニル−2−ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,4−シクロヘキサジエン、1,4−シクロオクタジエン、1,5−シクロオクタジエン、テトラヒドロインデン、メチルテトラヒドロインデン、ジシクロペンタジエン、ビシクロ[2.2.1]−ヘプタ−2,5−ジエン等の脂環式ジエン化合物等が挙げられる。
【0015】
上記エチレン・α−オレフィン共重合体ゴムとしては、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1−ブテン共重合体、エチレン・1−ペンテン共重合体、エチレン・3−メチル−1−ブテン共重合体、エチレン・1−ヘキセン共重合体、エチレン・3−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン・4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン・3−エチル−1−ペンテン共重合体、エチレン・1−オクテン共重合体、エチレン・1−デセン共重合体、エチレン・1−ウンデセン共重合体等が挙げられる。
また、上記エチレン・α−オレフィン・非共役ジエン共重合体ゴムとしては、エチレン・プロピレン・5−エチリデン−2−ノルボルネン共重合体、エチレン・プロピレン・ジシクロペンタジエン共重合体、エチレン・プロピレン・5−エチリデン−2−ノルボルネン・ジシクロペンタジエン共重合体、エチレン・プロピレン・5−エチリデン−2−ノルボルネン・5−ビニル−2−ノルボルネン共重合体、エチレン・1−ブテン・5−エチリデン−2−ノルボルネン共重合体等が挙げられる。
【0016】
上記エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムを構成するエチレン単位の含有量は、全単位の合計量に対して、好ましくは10〜90質量%、より好ましくは20〜80質量%、更に好ましくは30〜70質量%である。また、上記エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムの数平均分子量(Mn)は、好ましくは5,000〜100,0000、より好ましくは30,000〜300,000である。このMnが大きすぎると、得られる非ジエン系ゴム強化樹脂を用いた際の加工性が低下することがある。更に、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量との比(Mw/Mn)は、好ましくは10以下である。
【0017】
上記アクリル系ゴム(アクリル系ゴム質重合体)としては、アクリル酸アルキルエステル及び/又はメタクリル酸アルキルエステルを含む単量体からなる(共)重合体であれば、特に限定されない。
【0018】
上記単量体は、アクリル酸アルキルエステルを含むことが好ましく、なかでも、アルキル基の炭素数が1〜12のアクリル酸アルキルエステルを含むことが特に好ましい。
このアクリル酸アルキルエステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸tert−ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル等が挙げられる。これらの化合物のうち、アクリル酸n−ブチル及びアクリル酸2−エチルヘキシルが好ましい。また、これらのアクリル酸アルキルエステルは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
上記アクリル系ゴム質重合体は、上記アクリル酸アルキルエステルの1種を用いてなる単独重合体であってよいし、2種以上を用いてなる共重合体であってもよい。また、アクリル酸アルキルエステルの1種以上と、このアクリル酸アルキルエステルと共重合可能な化合物の1種以上とを用いてなる共重合体であってもよい。
【0020】
上記アクリル酸アルキルエステルと共重合可能な化合物としては、特に限定されず、メタクリル酸アルキルエステル、単官能性芳香族ビニル化合物、単官能性シアン化ビニル化合物、ジエン化合物、多官能性ビニル化合物等が挙げられる。これらは、単独であるいは組み合わせて用いてもよい。
【0021】
上記ゴム強化ビニル系樹脂(A1)の形成に用いるゴム質重合体(a)の形状は、特に限定されないが、粒子状である場合、その体積平均粒子径は、好ましくは30〜2,000nmであり、より好ましくは100〜1,500nm、更に好ましくは200〜1,000nmである。体積平均粒子径が小さすぎると、本発明の組成物及びそれを含む成形品の耐衝撃性が劣る傾向にある。一方、大きすぎると、成形品の表面外観性が劣る傾向にある。尚、上記体積平均粒子径は、レーザー回折法、光散乱法等により測定することができる。
【0022】
上記ゴム質重合体(a)が、乳化重合により得られた粒子状である場合、体積平均粒子径が上記範囲内にあるものであれば、例えば、特開昭61−233010号公報、特開昭59−93701号公報、特開昭56−167704号公報等に記載されている方法等の公知の方法により肥大化したものを用いることもできる。
【0023】
上記ゴム質重合体(a)として、ジエン系ゴム、アクリル系ゴム、シリコーン系ゴム等を製造する方法としては、平均粒子径の調整等を考慮し、乳化重合が好ましい。この場合、平均粒子径は、乳化剤の種類及びその使用量、開始剤の種類及びその使用量、重合時間、重合温度、攪拌条件等の製造条件を選択することにより調整することができる。また、上記体積平均粒子径(粒子径分布)の他の調整方法としては、異なる粒子径を有するゴム質重合体(a)の2種類以上をブレンドする方法でもよい。
【0024】
上記ゴム強化ビニル系樹脂(A1)の形成に用いられるビニル系単量体(b1)としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、マレイミド系化合物、酸無水物等が挙げられる。これらは、単独であるいは組み合わせて用いてもよい。
【0025】
上記芳香族ビニル化合物としては、少なくとも1つのビニル結合と、少なくとも1つの芳香族環とを有する化合物であれば、特に限定されることなく用いることができる。その例としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、β−メチルスチレン、エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、モノブロモスチレン、ジブロモスチレン、フルオロスチレン等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのうち、スチレン及びα−メチルスチレンが好ましい。
【0026】
上記シアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのうち、アクリロニトリルが好ましい。
上記(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのうち、メタクリル酸メチルが好ましい。
【0027】
上記マレイミド系化合物としては、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−(2−メチルフェニル)マレイミド、N−(4−ヒドロキシフェニル)マレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。尚、マレイミド系化合物からなる単位を導入する他の方法としては、例えば、無水マレイン酸を共重合し、その後イミド化する方法でもよい。
上記酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
また、上記化合物以外に、必要に応じて、ヒドロキシル基、アミノ基、エポキシ基、アミド基、カルボキシル基、オキサゾリン基等の官能基を有するビニル系化合物を用いることができる。例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、ヒドロキシスチレン、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノメチル、N,N−ジエチル−p−アミノメチルスチレン、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸3,4−オキシシクロヘキシル、ビニルグリシジルエーテル、メタリルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、メタクリルアミド、アクリルアミド、(メタ)アクリル酸、ビニルオキサゾリン等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
上記ゴム強化ビニル系樹脂(A1)の形成に用いるビニル系単量体(b1)としては、下記の組み合わせで用いることが好ましい。
(1)芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物。
(2)芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物及び他の化合物。
尚、上記の組合せにおいて、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物の使用割合は、これらの合計量を100質量%とした場合、それぞれ、好ましくは50〜97質量%及び3〜50質量%であり、より好ましくは55〜95質量%及び5〜45質量%である。
【0030】
上記ゴム強化ビニル系樹脂(A1)は、ゴム質重合体(a)の存在下に、ビニル系単量体(b1)を重合して得られたものであり、具体例は以下に示される。
〔i〕ゴム質重合体(a)としてジエン系ゴム質重合体(a1)の存在下に、ビニル系単量体(b1)として上記(1)の単量体を用いて得られたジエン系ゴム強化ビニル系樹脂。
〔ii〕ゴム質重合体(a)としてジエン系ゴム質重合体(a1)の存在下に、ビニル系単量体(b1)として上記(2)の単量体を用いて得られたジエン系ゴム強化ビニル系樹脂。
〔iii〕ゴム質重合体(a)として非ジエン系ゴム質重合体(a2)の存在下に、ビニル系単量体(b1)として上記(1)の単量体を用いて得られた非ジエン系ゴム強化ビニル系樹脂。
〔iv〕ゴム質重合体(a)として非ジエン系ゴム質重合体(a2)の存在下に、ビニル系単量体(b1)として上記(2)の単量体を用いて得られた非ジエン系ゴム強化ビニル系樹脂。
〔v〕ゴム質重合体(a)としてジエン系ゴム質重合体(a1)及び非ジエン系ゴム質重合体(a2)の併存下に、ビニル系単量体(b1)として上記(1)の単量体を用いて得られたゴム強化ビニル系樹脂。
〔vi〕ゴム質重合体(a)としてジエン系ゴム質重合体(a1)及び非ジエン系ゴム質重合体(a2)の併存下に、ビニル系単量体(b1)として上記(2)の単量体を用いて得られたゴム強化ビニル系樹脂。
上記ゴム強化ビニル系樹脂(A1)としては、上記の各態様について、単独で用いてよいし、組み合わせて用いてもよい。また、上記の態様〔i〕〜〔vi〕のうちの2種以上を組み合わせてもよい。
【0031】
尚、より耐候性を向上させるために、ジエン系ゴム質重合体(a1)及び非ジエン系ゴム質重合体(a2)の両方を含有するゴム強化ビニル系樹脂(A1)を用いることが好ましい。即ち、上記の態様〔i〕及び〔ii〕の少なくとも一方と、上記の態様〔iii〕及び〔iv〕の少なくとも一方とを組み合わせること;上記の態様〔i〕及び〔ii〕の少なくとも一方と、上記の態様〔v〕及び〔vi〕の少なくとも一方とを組み合わせること;上記の態様〔iii〕及び〔iv〕の少なくとも一方と、上記の態様〔v〕及び〔vi〕の少なくとも一方とを組み合わせること;上記の態様〔i〕及び〔ii〕の少なくとも一方と、上記の態様〔iii〕及び〔iv〕の少なくとも一方と、上記の態様〔v〕及び〔vi〕の少なくとも一方とを組み合わせること、によりジエン系ゴム質重合体(a1)及び非ジエン系ゴム質重合体(a2)の両方を含有させることができる。ジエン系ゴム質重合体(a1)及び非ジエン系ゴム質重合体(a2)を組み合わせる場合、その含有割合について、これらの含有量の合計を100質量%とすると、上記ジエン系ゴム質重合体(a1)の下限値は、好ましくは20質量%、より好ましくは、20質量%超え、更に好ましくは25質量%超え、特に好ましくは30質量%超えであり、上限値は、好ましくは80質量%、より好ましくは80質量%未満、更に好ましくは75質量%未満、特に好ましくは70質量%未満である。また、上記非ジエン系ゴム質重合体(a2)の下限値は、好ましくは20質量%、より好ましくは、20質量%超え、更に好ましくは25質量%超え、特に好ましくは30質量%超えであり、上限値は、好ましくは80質量%、より好ましくは80質量%未満、更に好ましくは75質量%未満、特に好ましくは70質量%未満である。
【0032】
前述のように、上記成分〔A〕は、ゴム強化ビニル系樹脂(A1)のみであってもよく、ゴム強化ビニル系樹脂(A1)と、ビニル系単量体(b2)の重合によって得られた(共)重合体(A2)とよりなる混合物であってもよい。このビニル系単量体(b2)としては、上記ゴム強化ビニル系樹脂(A1)の形成に用いたビニル系単量体(b1)の中から選ばれる1種以上を用いることができる。従って、上記(共)重合体(A2)は、上記ゴム強化ビニル系樹脂(A1)の形成に用いたビニル系単量体(b1)と全く同じ組成の化合物をビニル系単量体(b2)として重合して得られた重合体であってもよいし、異なる組成で同じ種類の単量体を重合して得られた重合体であってもよいし、更には、異なる組成で異なる種類の単量体を重合して得られた重合体であってもよい。これらの各重合体が2種以上含まれるものであってもよい。
【0033】
上記(共)重合体(A2)は、ビニル系単量体(b2)の重合によって得られた単独重合体又は共重合体であることから、下記(3)〜(8)に例示される。尚、各単量体は、上記ゴム強化ビニル系樹脂(A1)の形成に用いられる化合物を適用でき、好ましい化合物も同様である。
(3)芳香族ビニル化合物のみを重合して得られた(共)重合体の1種以上。
(4)(メタ)アクリル酸エステル化合物のみを重合して得られた(共)重合体の1種以上。
(5)芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を重合して得られた共重合体の1種以上。
(6)芳香族ビニル化合物及び(メタ)アクリル酸エステル化合物を重合して得られた共重合体の1種以上。
(7)芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物及び他の化合物を重合して得られた共重合体の1種以上。
(8)芳香族ビニル化合物と、シアン化ビニル化合物を除く他の化合物とを重合して得られた共重合体の1種以上。
これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのうち、態様(5)及び(7)が好ましい。
【0034】
従って、上記(共)重合体(A2)の具体例としては、アクリロニトリル・スチレン共重合体、アクリロニトリル・α−メチルスチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・メタクリル酸メチル共重合体、スチレン・メタクリル酸メチル共重合体、アクリロニトリル・スチレン・N−フェニルマレイミド共重合体等が挙げられる。
【0035】
次に、ゴム強化ビニル系樹脂(A1)及び(共)重合体(A2)の製造方法について説明する。
上記ゴム強化ビニル系樹脂(A1)は、ゴム質重合体(a)の存在下に、ビニル系単量体(b1)を、好ましくは乳化重合、溶液重合、塊状重合することにより、製造することができる。
尚、ゴム強化ビニル系樹脂(A1)の製造の際には、ゴム質重合体(a)及びビニル系単量体(b1)は、反応系において、ゴム質重合体(a)全量の存在下に、ビニル系単量体(b1)を一括添加してもよいし、分割又は連続添加してもよい。また、これらを組み合わせた方法でもよい。更に、ゴム質重合体(a)の全量又は一部を、重合途中で添加して重合してもよい。
ゴム強化ビニル系樹脂(A1)を100質量部製造する場合、ゴム質重合体(a)の使用量は、好ましくは5〜80質量部、より好ましくは10〜70質量部、更に好ましくは15〜60質量部である。また、ビニル系単量体(b1)の使用量は、好ましくは20〜95質量部、より好ましくは30〜90質量部、更に好ましくは40〜85質量部である。
【0036】
乳化重合によりゴム強化ビニル系樹脂(A1)を製造する場合には、重合開始剤、連鎖移動剤(分子量調節剤)、乳化剤、水等が用いられる。
【0037】
上記重合開始剤としては、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物と、含糖ピロリン酸処方、スルホキシレート処方等の還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤;過硫酸カリウム等の過硫酸塩;ベンゾイルパーオキサイド(BPO)、ラウロイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシラウレイト、tert−ブチルパーオキシモノカーボネート等の過酸化物等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。更に、上記重合開始剤は、反応系に一括して又は連続的に添加することができる。また、上記重合開始剤の使用量は、上記ビニル系単量体(b1)全量に対し、通常、0.1〜1.5質量%、好ましくは0.2〜0.7質量%である。
【0038】
上記連鎖移動剤としては、オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン、n−ヘキサデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、tert−テトラデシルメルカプタン等のメルカプタン類、ターピノーレン、α−メチルスチレンのダイマー等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。上記連鎖移動剤の使用量は、上記ビニル系単量体(b1)全量に対して、通常、0.05〜2.0質量%である。
【0039】
乳化重合の場合に使用する乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の脂肪族スルホン酸塩、高級脂肪族カルボン酸塩、リン酸系等のアニオン性界面活性剤;ポリエチレングリコールのアルキルエステル型、アルキルエーテル型等のノニオン系界面活性剤等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。上記乳化剤の使用量は、上記ビニル系単量体(b1)全量に対して、通常、0.3〜5.0質量%である。
【0040】
乳化重合により得られたラテックスは、通常、凝固剤により凝固させ、重合体成分を粉末状とし、その後、これを水洗、乾燥することによって精製される。この凝固剤としては、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム等の無機塩;硫酸、塩酸等の無機酸;酢酸、乳酸等の有機酸等が用いられる。
尚、複数のゴム強化ビニル系樹脂(A1)を併用する場合には、各樹脂を製造した後、混合してもよいが、他の方法として、各樹脂を各々含むラテックスを混合し、その後、凝固する等により、混合されたゴム強化ビニル系樹脂(A1)とすることができる。
溶液重合及び塊状重合によるゴム強化ビニル系樹脂(A1)の製造方法は、公知の方法を適用することができる。
【0041】
上記ゴム強化ビニル系樹脂(A1)のグラフト率は、好ましくは10〜200質量%、より好ましくは15〜150質量%、更に好ましくは20〜150質量%である。上記ゴム強化ビニル系樹脂(A1)のグラフト率が10質量%未満では、本発明の組成物及びそれを含む成形品の表面外観性及び耐衝撃性が低下することがある。また、200質量%を超えると、成形加工性が劣る。
ここで、グラフト率とは、上記ゴム強化ビニル系樹脂(A1)1グラム中のゴム成分をxグラム、上記ゴム強化ビニル系樹脂(A1)1グラムをアセトン(但し、ゴム質重合体(a)がアクリル系ゴムである場合には、アセトニトリルを使用。)に溶解させた際の不溶分をyグラムとしたときに、次式により求められる値である。
グラフト率(質量%)={(y−x)/x}×100
【0042】
また、上記ゴム強化ビニル系樹脂(A1)のアセトン(但し、ゴム質重合体(a)がアクリル系ゴムである場合には、アセトニトリルを使用。)による可溶成分の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃で測定)は、好ましくは0.1〜1.0dl/g、更に好ましくは0.2〜0.9dl/g、特に好ましくは0.3〜0.7dl/gである。この範囲とすることにより、成形加工性に優れ、本発明の組成物及びそれを含む成形品の耐衝撃性も優れる。
尚、上記のグラフト率及び極限粘度[η]は、上記ゴム強化ビニル系樹脂(A1)を製造するときの、重合開始剤、連鎖移動剤、乳化剤、溶剤等の種類や量、更には重合時間、重合温度等を変えることにより、容易に制御することができる。
【0043】
上記(共)重合体(A2)は、上記ゴム強化ビニル系樹脂(A1)の製造に適用される重合開始剤等を用いて、ビニル系単量体(b2)を、溶液重合、塊状重合、乳化重合、懸濁重合等で重合することにより、あるいは、重合開始剤を用いない熱重合により、製造することができる。また、これらの重合方法を組み合わせてもよい。
【0044】
上記(共)重合体(A2)の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃で測定)は、好ましくは0.1〜1.0dl/g、より好ましくは0.15〜0.7dl/gである。極限粘度[η]が上記範囲内であると、成形加工性と耐衝撃性との物性バランスに優れる。尚、この(共)重合体(A2)の極限粘度[η]は、上記ゴム強化ビニル系樹脂(A1)の場合と同様、製造条件を調整することにより制御することができる。
【0045】
上記成分〔A〕のアセトン(但し、ゴム質重合体(a)がアクリル系ゴムである場合には、アセトニトリルを使用。)による可溶成分の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃で測定)は、好ましくは0.1〜0.8dl/g、より好ましくは0.15〜0.7dl/gである。極限粘度[η]が上記範囲内であると、成形加工性と耐衝撃性との物性バランスに優れる。
【0046】
上記成分〔A〕が、ゴム強化ビニル系樹脂(A1)である場合、及び、ゴム強化ビニル系樹脂(A1)と、(共)重合体(A2)との混合物からなる場合のいずれにおいても、本発明の組成物中のゴム質重合体(a)の含有量について、その下限値は、好ましくは5質量%、より好ましくは5質量%超え、更に好ましくは10質量%超え、特に好ましくは15質量%超えである。また、その上限値は、好ましくは40質量%、より好ましくは40質量%未満、更に好ましくは35質量%未満、特に好ましくは30質量%未満である。上記ゴム質重合体(a)の含有量が上記範囲にあれば、成形加工性に優れ、本発明の組成物を含む成形品の耐衝撃性、表面外観性及び剛性に優れる。尚、この含有量が少なすぎると、ノッチ感度が高くなり、延性破壊性が低下する傾向にある。
【0047】
1−2.共重合ポリブチレンテレフタレート系樹脂〔B〕
この成分〔B〕は、ポリブチレンテレフタレート骨格を有する共重合ポリエステルであり、ガラス転移温度は、0〜75℃である。このガラス転移温度の下限は、好ましくは0℃超えである。また、上限は、好ましくは70℃未満、より好ましくは65℃未満、更に好ましくは60℃未満である。このガラス転移温度が低すぎると、本発明の組成物を含む成形品の機械的強度及び耐熱性が十分ではなく、一方、高すぎると、柔軟性が劣る。尚、上記ガラス転移温度は、動的粘弾性測定法により得ることができる。
【0048】
この成分〔B〕は、テレフタル酸及び/又はそのエステル誘導体を主成分とするジカルボン酸成分と、1,4−ブタンジオールを主成分とするジオール成分と、更に他のジカルボン酸及び/又はそのエステル誘導体とを重縮合させて得られたものである。このような共重合ポリエステルは、テレフタル酸及び/又はそのエステル誘導体と、1,4−ブタンジオールとから製造されるポリブチレンテレフタレート(PBT)に比し、実質的に、柔軟性があることが知られており、「ソフトPBT」とも呼ばれている。
【0049】
上記ジカルボン酸成分としては、フタル酸、イソフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルケトンジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸等のジカルボン酸並びにこれらのエステル誘導体等が挙げられる。
【0050】
上記ジカルボン酸成分の他に、更に、グリコール酸、m−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸、p−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸やアルコキシカルボン酸、及び、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、安息香酸、tert−ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸等の単官能成分またはそのエステル誘導体、トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール等の3官能以上の多官能成分等又はそのエステル誘導体の1種又は2種以上を、共重合成分として用いてもよい。
【0051】
上記ジオール成分としては、1,4−ブタンジオール以外に、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、ポリテトラメチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール等の脂肪族ジオール;1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,1−シクロヘキサンジメチロール、1,4−シクロヘキサンジメチロール等の脂環式ジオール;キシリレングリコール、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン等の芳香族ジオール等から選ばれた1種又は2種以上を併用することができる。
【0052】
上記のジカルボン酸成分やジオール成分は、主成分であるテレフタル酸及び1,4−ブタンジオールと併せて使用し、且つ、2種類以上を同時に用いてもよいが、ジカルボン酸成分及びジオール成分の少なくとも一方が2種類以上の混合物であることが必要である。
従って、上記成分〔B〕としては、実質的に、テレフタル酸及び/又はそのエステル誘導体からなるジカルボン酸成分と、1,4−ブタンジオールを主成分とする2種以上のジオール混合物からなるジオール成分とからなる重縮合物、並びに、テレフタル酸及び/又はそのエステル誘導体を主成分とする2種以上のジカルボン酸混合物からなるジカルボン酸成分と、1,4−ブタンジオールを主成分とする2種以上のジオールを含むジオール成分とからなる重縮合物が好ましい。
【0053】
上記のジカルボン酸成分及びジオール成分の使用量は、ガラス転移温度が0〜75℃の範囲となるように調整される。耐候性の観点から、テレフタル酸及び/又はそのエステル誘導体を、ジカルボン酸成分に対して、好ましくは50質量%以上、及び、1,4−ブタンジオールを、ジオール成分に対して、好ましくは50質量%以上、それぞれ、用いることが好ましい。
【0054】
上記成分〔B〕の溶融粘度は、成形加工性の観点から、250℃、せん断速度91.2(1/秒)、ノズル口径1mmφ、ノズル流路長30mm(L/D=30)の条件で測定した場合、好ましくは400〜2500Pa・s、より好ましくは600〜1300Pa・sである。
【0055】
上記成分〔B〕の製造方法は、特に限定されず、ポリブチレンテレフタレート系樹脂の製造方法として公知の方法を採用することができる。即ち、テレフタル酸及び/又はそのエステル誘導体を主成分とするジカルボン酸成分と、1,4−ブタンジオールを主成分とするジオール成分とを、単数若しくは複数のエステル化反応槽内で、エステル化反応触媒の存在下に、通常、150〜280℃、好ましくは180〜265℃の温度、及び、通常、50〜1000Torr(6666〜133322Pa)、好ましくは70〜760Torr(9333〜101325Pa)の圧力、の条件で、攪拌しながら2〜5時間エステル化反応させ、得られたエステル化反応生成物(オリゴマー)を重縮合反応槽に移送し、単数若しくは複数の重縮合反応槽内で、重縮合反応触媒の存在下に、通常、210〜280℃、好ましくは220〜265℃の温度、及び、通常、200Torr(26664Pa)以下、好ましくは150Torr(19998Pa)以下の圧力、の条件で、攪拌しながら2〜5時間重縮合反応させる。反応形式は、連続式、半連続式あるいは回分式のいずれであってもよい。
また、重縮合反応により得られた樹脂は、通常、重縮合反応槽の底部からポリマー抜き出しダイに移送されてストランド状に抜き出され、水冷されながら、あるいは、水冷後、カッターで切断されてペレット状、チップ状等の粒状体とされる。
【0056】
尚、上記エステル化反応触媒としては、チタン化合物、錫化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、ジルコニウム化合物等が挙げられる。これらのうち、チタン化合物が好ましく、例えば、テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のチタンアルコラート;テトラフェニルチタネート等のチタンフェノラート等が挙げられる。このエステル化反応触媒の使用量は、例えば、テトラブチルチタネートの場合、ポリブチレンテレフタレート系樹脂の理論収量に対して、チタン原子として、通常、30〜300ppm、好ましくは50〜200ppmである。
【0057】
また、上記重縮合反応触媒としては、エステル化反応時に添加したエステル化反応触媒を引き続いて重縮合反応触媒として用いることにより新たな触媒の添加を行わなくてもよいが、エステル化反応時に添加したエステル化反応触媒と同じ触媒を更に添加してもよく、そのときの使用量は、例えば、テトラブチルチタネートの場合、ポリブチレンテレフタレート系樹脂の理論収量に対してチタン原子として、通常、300ppm以下、好ましくは150ppm以下である。また、エステル化反応時に添加したエステル化反応触媒とは異なる、例えば、三酸化二アンチモン等のアンチモン化合物、二酸化ゲルマニウム、四酸化ゲルマニウム等のゲルマニウム化合物等を新たに添加してもよい。
【0058】
上記のエステル化反応、又は/及び、重縮合反応において、前記触媒の他に、正燐酸、亜燐酸、次亜燐酸、ポリ燐酸及びこれらのエステルや金属塩等の燐化合物、水酸化ナトリウム、安息香酸ナトリウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属化合物等の反応助剤、2,6−ジ−tert−ブチル−4−オクチルフェノール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3’,5’−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕等のフェノール化合物、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ペンタエリスリチル−テトラキス(3−ラウリルチオジプロピオネート)等のチオエーテル化合物、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト等の燐化合物等の抗酸化剤、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、モンタン酸やモンタン酸エステルに代表される長鎖脂肪酸及びそのエステル、シリコーンオイル等の離型剤等の他の添加剤を存在させてもよい。
【0059】
エステル化反応槽としては、例えば、縦型攪拌完全混合槽、縦型熱対流式混合槽、塔型連続反応槽等の型式のいずれであってもよい。また、単数槽としても、同種又は異種の槽を直列させた複数槽としてもよい。更に、重縮合反応槽としては、例えば、縦型攪拌重合槽、横型攪拌重合槽、薄膜蒸発式重合槽等の型式のいずれであってもよく、また、単数槽としても、同種又は異種の槽を直列させた複数槽としてもよい。
【0060】
本発明の熱可塑性樹脂組成物中の成分〔A〕及び〔B〕の含有量は、これらの合計を100質量%とした場合に、それぞれ、30〜95質量%及び5〜70質量%である。上記成分〔A〕の含有量の下限値は、好ましくは40質量%、より好ましくは40質量%超え、更に好ましくは50質量%超え、特に好ましくは60質量%超えであり、上限値は、好ましくは90質量%、より好ましくは90質量%未満、更に好ましくは85質量%未満、特に好ましくは80質量%未満である。また、上記成分〔B〕の含有量の下限値は、好ましくは10質量%、より好ましくは10質量%超え、更に好ましくは15質量%超え、特に好ましくは20質量%超えであり、上限値は、好ましくは60質量%、より好ましくは60質量%未満、更に好ましくは50質量%未満、特に好ましくは40質量%未満である。上記成分〔A〕の含有量が30質量%未満では、成形加工性が低下し、ノッチ感度が高くなり、延性破壊性が低下し、耐候性が低下する。一方、95質量%を超えると、曲げ弾性率が高くなり、柔軟成形体が得られなくなる。
【0061】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上記ゴム強化ビニル系樹脂以外に、他の樹脂、添加剤等を含有してもよい。
他の樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、上記成分〔B〕以外のポリエステル樹脂、ポリアミド系樹脂等が挙げられる。これらのうち、ポリカーボネート樹脂(以下、「成分〔C〕」ともいう。)を含有する熱可塑性樹脂組成物とすることができる。
【0062】
1−3.ポリカーボネート樹脂〔C〕
この成分〔C〕は、主鎖にカーボネート結合を有するものであれば、特に限定されない。
この成分〔C〕は、芳香族ポリカーボネートでよいし、脂肪族ポリカーボネートでもよい。また、これらを組み合わせて用いてもよい。本発明においては、耐衝撃性等の観点から、芳香族ポリカーボネートが好ましい。尚、このポリカーボネート樹脂は、末端が、R−CO−基、R’−O−CO−基(R及びR’は、いずれも有機基を示す。)に変性されたものであってもよい。
【0063】
上記芳香族ポリカーボネートとしては、芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルを溶融によりエステル交換(エステル交換反応)して得られたもの、ホスゲンを用いた界面重縮合法により得られたもの、ピリジンとホスゲンとの反応生成物を用いたピリジン法により得られたもの等を用いることができる。
【0064】
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、分子内にヒドロキシル基を2つ有する化合物であればよく、ヒドロキノン、レゾルシノール等のジヒドロキシベンゼン、4,4’−ビフェノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「ビスフェノールA」という。)、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3、5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(p−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1−ビス(p−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(p−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、1,1−ビス(p−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(p−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、9,9−ビス(p−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(p−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、ビス(p−ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(p−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(p−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)エステル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(p−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィド、ビス(p−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(p−ヒドロキシフェニル)スルホキシド等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0065】
上記芳香族ジヒドロキシ化合物のうち、2つのベンゼン環の間に炭化水素基を有する化合物が好ましい。尚、この化合物において、炭化水素基は、ハロゲン置換された炭化水素基であってもよい。また、ベンゼン環は、そのベンゼン環に含まれる水素原子がハロゲン原子に置換されたものであってもよい。従って、この、2つのベンゼン環の間に炭化水素基を有する化合物としては、ビスフェノールA、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3、5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(p−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)ブタン等が挙げられる。これらのうち、特に、ビスフェノールAが好ましい。
【0066】
芳香族ポリカーボネートをエステル交換反応により得るために用いる炭酸ジエステルとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−tert−ブチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0067】
上記成分〔C〕の粘度平均分子量は、好ましくは15,000〜40,000、より好ましくは17,000〜30,000である。この範囲とすることにより、耐衝撃性及び成形加工性の物性バランスに優れる。
尚、上記成分〔C〕を2種以上用いる場合には、成分〔C〕全体としての粘度平均分子量が上記範囲に入るものであれば、上記範囲外にある、互いに異なる粘度平均分子量を有するポリカーボネート樹脂の2種以上を混合して用いてもよい。
【0068】
本発明の熱可塑性樹脂組成物が、上記成分〔C〕を含有する場合、その含有量の下限値は、上記成分〔B〕を100質量部とすると、好ましくは0.1質量部、より好ましくは0.1質量部超え、更に好ましくは1質量部超え、特に好ましくは5質量部超えであり、上限値は、好ましくは50質量部、より好ましくは50質量部未満、更に好ましくは45質量部未満、特に好ましくは40質量部未満である。この範囲とすることにより、成形加工性を低下させることなく、安定な相構造を有する成形品を得ることができる。
【0069】
1−4.添加剤
添加剤としては、耐候性向上剤、帯電防止剤、酸化防止剤、難燃剤、熱安定剤、可塑剤、離型剤、滑剤、摺動剤、着色剤、充填剤、抗菌剤等が挙げられる。これらのうち、耐候性向上剤(以下、「成分〔D〕」ともいう。)を含有する熱可塑性樹脂組成物とすることができる。
【0070】
上記成分〔D〕としては、ベンゾフェノン系化合物;ベンゾトリアゾール系化合物;サリチル酸エステル等のヒドロキシル基含有化合物;有機リン系化合物;有機硫黄系化合物;金属錯塩類等が挙げられる。これらは、1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0071】
本発明の熱可塑性樹脂組成物が、上記成分〔D〕を含有する場合、その含有量の下限値は、上記成分〔A〕及び〔B〕の含有量の合計を100質量部とすると、好ましくは0.01質量部、より好ましくは0.01質量部超え、更に好ましくは0.05質量部超え、特に好ましくは0.1質量部超えであり、上限値は、好ましくは10質量部、より好ましくは10質量部未満、更に好ましくは5質量部未満、特に好ましくは3質量部未満である。この成分〔D〕の含有量が、上記範囲にあれば、成形品が屋外で用いられた場合に、劣化を抑制することができる。尚、この含有量が多すぎると、成形品の表面からブリードアウトし、表面外観性が低下する場合がある。
【0072】
上記帯電防止剤としては、低分子型帯電防止剤、高分子型帯電防止剤等が挙げられる。これらの帯電防止剤は、イオン伝導型でよいし、電子伝導型でもよい。
低分子型帯電防止剤としては、アニオン系帯電防止剤;カチオン系帯電防止剤;非イオン系帯電防止剤;両性系帯電防止剤;錯化合物;アルコキシシラン、アルコキシチタン、アルコキシジルコニウム等の金属アルコキシド及びその誘導体等が挙げられる。
また、高分子型帯電防止剤としては、分子内にスルホン酸塩を有するビニル共重合体、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ベタイン等が挙げられる。更に、ポリエーテル、ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマー等を用いることもできる。
上記帯電防止剤の含有量は、上記成分〔A〕及び〔B〕の含有量の合計を100質量部とした場合に、好ましくは0.1〜30質量部、より好ましくは1〜25質量部、更に好ましくは3〜25質量部である。
【0073】
上記酸化防止剤としては、ヒンダードアミン類、ハイドロキノン類、ヒンダードフェノール類、硫黄含有化合物等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記酸化防止剤の含有量は、上記成分〔A〕及び〔B〕の含有量の合計を100質量部とした場合に、好ましくは0.05〜5質量部、より好ましくは0.1〜5質量部、更に好ましくは0.1〜3質量部である。
【0074】
上記難燃剤としては、有機系難燃剤、無機系難燃剤、反応系難燃剤等を用いることができる。
有機系難燃剤としては、ハロゲン系難燃剤;リン酸エステル及びこれらを各種置換基で変性した化合物、各種の縮合型のリン酸エステル化合物、リン元素及び窒素元素を含むホスファゼン誘導体等のリン系難燃剤;ハロゲン化ポリスチレン、ハロゲン化スチレンの重合体、ハロゲン化エポキシ重合体、ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
無機系難燃剤としては、水酸化アルミニウム、酸化アンチモン、水酸化マグネシウム、等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0075】
上記難燃剤の含有量は、上記成分〔A〕及び〔B〕の含有量の合計を100質量部とした場合に、好ましくは5〜35質量部、より好ましくは5〜30質量部、更に好ましくは10〜30質量部である。尚、上記難燃剤を配合する場合には、難燃助剤を併用することが好ましい。この難燃助剤としては、三酸化二アンチモン等のアンチモン化合物や、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、水和アルミナ、酸化ジルコニウム、ポリリン酸アンモニウム、酸化スズ等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0076】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、各種押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、フィーダールーダー等により、原料成分を混練することにより調製することができ、所定形状のペレット等とすることができる。混練温度は、通常、150〜280℃、好ましくは160〜260℃である。原料成分の使用方法は、特に限定されず、各成分を一括配合して混練してもよく、多段、分割配合して混練してもよい。
【0077】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、柔軟性に優れ、ISO 178に準じて測定される曲げ弾性率の下限値を、好ましくは900MPa、より好ましくは900MPa超え、更に好ましくは950MPa、特に好ましくは950MPa超えとすることができ、上限値を、好ましくは1,500MPa、より好ましくは1,500MPa未満、更に好ましくは1,450MPa未満、特に好ましくは1,400MPa未満とすることができる。この範囲の数値は、得られる成形体が柔らかすぎず硬すぎない程度である。また、衝撃により破壊した際には、延性破壊となり、尖った破片が発生しにくい。
【0078】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、耐候性にも優れ、特に、成分〔A〕が、エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴム等の非ジエン系ゴム質重合体を用いてなるゴム強化ビニル系樹脂を含む場合には、経時による色の変化が少ない。
【0079】
2.成形品
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、射出成形、プレス成形、押出成形、共押出成形、シート押出成形、異形押出成形、発泡成形、真空成形、キャスト成形、ロール成形等の公知の成形法により、所定形状の成形品とすることができる。即ち、本発明の成形品は、上記熱可塑性樹脂組成物を含む。本発明の成形品は、上記熱可塑性樹脂組成物が、成形加工時の熱安定性に優れるので、表面外観性にも優れる。
【0080】
これらの成形法で成形された成形品としては、バンパー、フロントフェンダー、リアーフェンダー、ドアパネル、テールゲートパネル、ライセンスガーニッシュ、ボンネット、トランクリッド等の車両用外装部品;家電用外装部品;人工木材、擬似竹、雨樋等の建材用部品;工業部品等が挙げられる。
本発明の成形品は、塗装、メッキ、スパッタリング、溶着等の二次加工を施して使用することができる。
【実施例】
【0081】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明の主旨を超えない限り、本発明はかかる実施例に限定されるものではない、尚、下記において、部及び%は、特に断らない限り、質量基準である。
【0082】
1.評価方法
下記の実施例及び比較例における、各評価項目の測定方法を以下に示す。尚、評価用試験片の作製方法は、下記の通りである。
原料成分を、40mmφ一軸スクリュータイプ押出機に供給して、シリンダー温度200℃の条件で押出し、ペレット(熱可塑性樹脂組成物)とした後、このペレットを、3.5オンスのスクリュータイプ射出成形機に供給して、シリンダー温度220℃の条件で、所定形状の試験片を作製した。
【0083】
(1)流動性
ISO 1133に準じて、メルトマスフローレート(MFR、温度;240℃、荷重;98N)を測定した。
(2)耐衝撃性
ISO 179に準じて、シャルピー衝撃強度を測定した。
(3)曲げ強さ及び曲げ弾性率
ISO 178に準じて、測定した。
(4)高速落錘試験
50mm×80mm×2.4mmの試験片4枚に対し、高速衝撃試験機「サーボパルサEHF−2H−20L」(島津製作所社製)を用い、温度23℃及び−30℃における、破壊エネルギー(試験片4枚の平均値)及び延性破壊割合(延性破壊した枚数/試験に供した枚数)を測定した。測定条件は、試験片受け台径30mmφ、打撃棒先端12.7mmR、打撃速度3.1m/sである。
【0084】
(5)耐候性
80mm×55mm×2.5mmの試験片を、「サンシャインウェザーオメーター」(スガ試験機社製)に静置し、降雨サイクル18分/120分、ブラックパネル温度63℃として、500時間及び1000時間暴露し、それぞれ、暴露前後の色調変化値ΔEを算出した。
ΔEは、「多光源分光測定計」(スガ試験機社製)を用いて、変色度Lab(L;明度、a;赤色度、b;黄色度)を測定し、次式により算出した。
ΔE=√〔(L−L+(a−a+(b−b
(式中、L、a、bは、暴露前の値を、L、a、bは暴露後の値を示す。)
ΔEの値が小さいほど、色の変化が小さく、色調が優れていることを示す。
(6)成形加工時の熱安定性
熱可塑性樹脂組成物を、260℃に設定した射出成形機内に滞留させた後、試験片(50mm×80mm×2.4mm)を成形し、外観性を目視評価した。変色又は発泡等が見られるものを「×」、部分的に見られるものを「△」、及び、全く見られないものを「○」と判定した。
【0085】
2.熱可塑性樹脂組成物の原料成分
熱可塑性樹脂組成物の調製に用いた原料成分を以下に示す。
2−1.成分〔A〕
(1)ゴム強化ビニル系樹脂(A−1)
体積平均粒子径290nmのポリブタジエンの存在下に、スチレン及びアクリロニトリルを乳化重合して得られた共重合樹脂であり、ポリブタジエン/スチレン/アクリロニトリル=60/29/11(%)であり、グラフト率が60%であり、アセトン可溶分の極限粘度(メチルエチルケトン中、30℃)が0.45dl/gである。
(2)ゴム強化ビニル系樹脂(A−2)
トルエン溶媒中、エチレン・プロピレン系ゴム(商品名「EP84」、JSR社製)の存在下に、スチレン及びアクリロニトリルを溶液重合して得られた共重合樹脂であり、エチレン・プロピレン系ゴム/スチレン/アクリロニトリル=30/46/24(%)であり、グラフト率が55%であり、アセトン可溶分の極限粘度(メチルエチルケトン中、30℃)が0.5dl/gである。
(3)ゴム強化ビニル系樹脂(A−3)
体積平均粒子径100nmのアクリル系ゴム(アクリル酸n−ブチル99部及びメタクリル酸アリル1部の乳化重合品)の存在下に、スチレン及びアクリロニトリルを乳化重合して得られた共重合樹脂であり、アクリル系ゴム/スチレン/アクリロニトリル=50/37/13(%)であり、グラフト率が60%であり、アセトニトリル可溶分の極限粘度(メチルエチルケトン中、30℃)が0.46dl/gである。
(4)アクリロニトリル・スチレン共重合体(A−4)
スチレン/アクリロニトリル=76/24(%)であり、極限粘度(メチルエチルケトン中、30℃)が0.5dl/gである。
【0086】
2−2.成分〔B〕
(1)共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂(B−1)
「ノバデュラン5510S」(三菱エンジニアリングプラスチック社製)を用いた。ガラス転移温度は、20℃である。
(2)非共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂(B−2)
「ノバデュラン5008F」(三菱エンジニアリングプラスチック社製)を用いた。ガラス転移温度は、79℃である。
【0087】
2−3.成分〔C〕
ポリカーボネート樹脂(商品名「ノバレックス7022A」、三菱エンジニアリングプラスチック社製)を用いた。粘度平均分子量は、23,000である。
【0088】
2−4.成分〔D〕
(1)2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール(D−1)
チバスペシャルティ・ケミカルズ社製「TINUVIN P」(商品名)を用いた。
(2)テトラキス[メチレン3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(D−2)
チバスペシャルティ・ケミカルズ社製「IRGANOX 1010」(商品名)を用いた。
【0089】
2−5.成分〔E〕
熱可塑性ポリウレタンエラストマー(商品名「ミラクトランE195」、日本ミラクトラン社製)を用いた。
【0090】
実施例1〜16及び比較例1〜6
上記成分〔A〕〜〔E〕を用いてなるペレットを作製し、各種評価を行った。その結果を表1〜表3に併記した。
【0091】
【表1】

【0092】
【表2】

【0093】
【表3】

【0094】
表1〜表3から、以下のことが明らかである。
実施例1〜4及び比較例1〜2は、成分〔A〕が、ジエン系ゴム質重合体を用いて得られたゴム強化ビニル系樹脂を含有する例である。比較例1は、成分〔B〕の含有量が、本発明の範囲外の、少ない例であり、曲げ弾性率が大きすぎた。また、比較例2は、成分〔B〕の含有量が、本発明の範囲外の、多い例であり、曲げ弾性率が小さく、シャルピー衝撃強度も低かった。一方、実施例1〜4は、曲げ強さが30〜45MPa、曲げ弾性率が700〜1295MPaであり、シャルピー衝撃強度が46〜60J/mであり、柔軟性及び耐衝撃性に優れており、耐候性、及び、成形加工時の熱安定性にも優れていた。
実施例5〜9及び比較例3〜6は、成分〔A〕が、非ジエン系ゴム質重合体を用いて得られたゴム強化ビニル系樹脂を含有する例である。比較例3は、成分〔B〕の含有量が、本発明の範囲外の、少ない例であり、曲げ弾性率が大きすぎた。比較例4は、成分〔B〕の含有量が、本発明の範囲外の、多い例であり、曲げ弾性率が小さく、シャルピー衝撃強度も低かった。また、比較例5は、ガラス転移温度が高すぎる成分〔B〕を含有する例であり、柔軟性、及び、衝撃による延性破壊性に劣っていた。更に、比較例6は、成分〔B〕に代えて、熱可塑性ポリウレタンエラストマーを用いた例であり、耐候性、及び、成形加工時の熱安定性に劣っていた。一方、実施例5〜9は、曲げ強さが35〜50MPa、曲げ弾性率が800〜1350MPaであり、シャルピー衝撃強度が52〜64J/mであり、柔軟性及び耐衝撃性に優れており、耐候性、及び、成形加工時の熱安定性にも優れていた。特に、耐候性については、実施例1〜4よりも格段に優れていた。
また、実施例10及び11は、成分〔A〕が、アクリル系ゴム質重合体を用いて得られたゴム強化ビニル系樹脂を含有する例、実施例12〜15は、成分〔A〕が、ジエン系ゴム質重合体を用いて得られたゴム強化ビニル系樹脂と、非ジエン系ゴム質重合体を用いて得られたゴム強化ビニル系樹脂とを含有する例、更に、実施例16は、ジエン系ゴム質重合体を用いて得られたゴム強化ビニル系樹脂と、アクリル系ゴム質重合体を用いて得られたゴム強化ビニル系樹脂とを含有する例であり、いずれも、柔軟性、耐候性、耐衝撃性、及び、成形加工時の熱安定性に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、柔軟性、耐候性、耐衝撃性、及び、成形加工時の熱安定性に優れ、成形品とした場合の表面外観性にも優れ、衝撃により延性破壊となるため、例えば、バンパー、フロントフェンダー、リアーフェンダー、ドアパネル、テールゲートパネル、ライセンスガーニッシュ、ボンネット、トランクリッド等の車両用外装部品;家電用外装部品;人工木材、擬似竹、雨樋等の建材用部品;工業部品等に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
〔A〕ゴム強化樹脂と、〔B〕ガラス転移温度が0〜75℃である共重合ポリブチレンテレフタレート系樹脂とを含有し、両者の含有量の合計を100質量%とした場合に、上記ゴム強化樹脂〔A〕の含有量が30〜95質量%であり、且つ、上記共重合ポリブチレンテレフタレート系樹脂〔B〕の含有量が5〜70質量%であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
ISO 178に準じて測定される曲げ弾性率が、900〜1,500MPaである請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
上記ゴム強化樹脂〔A〕が、ゴム質重合体(a)の存在下に、ビニル系単量体(b1)を重合して得られたゴム強化ビニル系樹脂(A1)、又は、該ゴム強化ビニル系樹脂(A1)とビニル系単量体(b2)の(共)重合体(A2)との混合物、からなり、上記熱可塑性樹脂組成物中の上記ゴム質重合体(a)の含有量は、5〜40質量%である請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
上記ゴム強化ビニル系樹脂(A1)が、ジエン系ゴム質重合体(a1)の存在下に、ビニル系単量体(b1)を重合して得られたジエン系ゴム強化ビニル系樹脂(A1−1)と、非ジエン系ゴム質重合体(a2)の存在下に、ビニル系単量体(b1)を重合して得られた非ジエン系ゴム強化ビニル系樹脂(A1−2)とからなり、
上記ジエン系ゴム質重合体(a1)及び上記非ジエン系ゴム質重合体(a2)の含有量の合計を100質量%とした場合に、上記ジエン系ゴム質重合体(a1)の含有量が20〜80質量%であり、且つ、上記非ジエン系ゴム質重合体(a2)の含有量が20〜80質量%である請求項3に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
更に、〔C〕ポリカーボネート樹脂を含有し、該ポリカーボネート樹脂〔C〕の含有量が、上記共重合ポリブチレンテレフタレート系樹脂〔B〕の含有量を100質量部とした場合に、0.1〜50質量部である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
更に、〔D〕耐候性向上剤を含有し、該耐候性向上剤〔D〕の含有量が、上記ゴム強化樹脂〔A〕及び上記共重合ポリブチレンテレフタレート系樹脂〔B〕の含有量の合計を100質量部とした場合に、0.01〜10質量部である請求項1乃至5のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を含むことを特徴とする成形品。
【請求項8】
車両部品用である請求項7に記載の成形品。

【公開番号】特開2008−37936(P2008−37936A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−211483(P2006−211483)
【出願日】平成18年8月2日(2006.8.2)
【出願人】(396021575)テクノポリマー株式会社 (278)
【Fターム(参考)】