説明

熱可塑性樹脂被覆金属板およびそれを用いた缶

【課題】 熱可塑性樹脂被覆金属板を高度の加工度で成形加工して缶高さの高い缶を製造する際に、樹脂層が削り取られたり金属板から剥離したりすることがなく、安定して缶に製造することが可能な熱可塑性樹脂被覆金属板およびその熱可塑性樹脂被覆金属板を用いた缶を提供する。
【解決手段】 ポリエステル樹脂と、ポリオレフィン樹脂およびポリオレフィンエラストマーからなるポリオレフィン成分と、酸化防止剤としてヒンダードフェノール系酸化防止剤または/およびトコフェロールとをブレンドしてなる熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂層を、金属板の少なくとも片面に実質上未配向の状態で被覆して熱可塑性樹脂被覆金属板とし、この熱可塑性樹脂被覆金属板に薄肉化絞り加工や薄肉化絞りしごき加工を施して缶とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱可塑性樹脂被覆金属板、特に被覆した樹脂層が低温における耐衝撃性に優れた熱可塑性樹脂被覆金属板、およびそれを成形加工してなる缶に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリエステル樹脂を金属板に被覆し、薄肉化絞り加工や薄肉化絞りしごき加工などの厳しい成形加工を施して、側壁部の減厚率を高めた缶が主として飲料用途の缶で用いられている。このポリエステル樹脂被覆金属板を、薄肉化絞り加工や薄肉化絞りしごき加工などの厳しい成形加工を施して缶に成形する場合、金属板に被覆されたポリエステル樹脂は、成形加工時に樹脂が剥離したり、樹脂に亀裂を生じたりすることがないように、優れた加工性が得られる無配向の状態で被覆する必要がある。しかしながら、ポリエステル樹脂が無配向の状態の樹脂被覆金属板に薄肉化絞り加工や薄肉化絞りしごき加工を施し、次いで缶外面に塗装印刷を施して、焼き付けのために加熱すると、特に缶上部は加工によって缶の高さ方向に分子配向された状態で熱固定されるため、配向されない缶の周方向の樹脂の伸びが極めて小さくなって脆くなり、特に低温において缶同士が衝突したりするだけで樹脂層に亀裂を生じるようになる。また缶底の部分は成形加工を殆ど受けず、塗装印刷後の焼き付けの加熱の際に樹脂結晶が粗大化して脆くなり、やはり特に低温において衝撃を受けた際に亀裂が生じやすくなる。すなわち、無配向状態のポリエステル樹脂被覆金属板は、缶に成形加工した後の耐衝撃性、特に低温における耐衝撃性に劣っている。
【0003】
このような熱可塑性樹脂被覆金属板を缶に成形加工した後の耐衝撃性を改善するため、本発明の発明者等は特許文献1において、ポリエステル樹脂にポリオレフィン樹脂またはポリオレフィンエラストマーなどのオレフィン成分をブレンドしてなる熱可塑性樹脂組成物を金属板に被覆してなる熱可塑性樹脂被覆金属板を提案している。
【0004】
しかし、特許文献1による熱可塑性樹脂被覆金属板においては、薄肉化絞り加工や薄肉化絞りしごき加工などを施して缶に成形加工する際に板厚を減少させて缶高さを高めるために、特に高度の板厚減少率で成形加工した場合に、樹脂層が削り取られたり金属板から剥離したりしてしまうことがあり、高度の加工度で成形加工する缶高さの高い缶を安定して製造できない欠点を有している。
【特許文献1】特開2002−347176号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、熱可塑性樹脂被覆金属板を高度の加工度で成形加工して缶高さの高い缶を製造する際に、樹脂層が削り取られたり金属板から剥離したりすることがなく、安定して缶に製造することが可能な熱可塑性樹脂被覆金属板およびその熱可塑性樹脂被覆金属板を用いた缶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、ポリエステル樹脂と、ポリオレフィン樹脂およびポリオレフィンエラストマーからなる群より選択された少なくとも1種からなるポリオレフィン成分と、ヒンダードフェノール系酸化防止剤およびトコフェロールからなる群より選択された少なくとも1種の酸化防止剤とをブレンドしてなる熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂層を、金属板の少なくとも片面に被覆してなる熱可塑性樹脂被覆金属板が提供される。
かかる熱可塑性樹脂被覆金属板においては、
(1)前記ポリエステル樹脂が、エチレンテレフタレート、エチレンイソフタレート、ブチレンテレフタレート、ブチレンイソフタレートのいずれかの少なくとも1種以上のエステル反復単位からなり、その固有粘度が0.5〜1.5であること、
(2)前記ポリオレフィン樹脂が、炭素数2〜8の1−アルケン重合樹脂の少なくとも1種からなること、
(3)前記ポリオレフィンエラストマーが、エチレン−プロピレン共重合エラストマーであること、
(4)前記熱可塑性樹脂組成物が、ポリエステル樹脂とオレフィン成分とを、95:5〜70:30の重量比でブレンドしてなること、
(5)前記熱可塑性樹脂組成物が、前記酸化防止剤を、0.01〜5重量%の量で含有していること、
(6)金属板が、電解クロム酸処理鋼板、錫めっき鋼板、ニッケル−錫合金めっき鋼板、アルミニウム合金板のいずれかであること、
(7)前記熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂層上に、ポリエステル樹脂層が形成されていること、
が好ましい。
また、本発明によれば、上記の熱可塑性樹脂被覆金属板を用いた缶が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明において、金属板の少なくとも片面に、好適には実質上未配向で形成される樹脂層は、重合体成分として、ポリエステル樹脂及びポリオレフィン成分(ポリオレフィン樹脂とポリオレフィンエラストマーとの少なくとも1種)を含有する熱可塑性樹脂組成物から形成されており、これにより、成形加工後の耐衝撃性、特に低温での耐衝撃性が改善されるのであるが、熱可塑性樹脂組成物により樹脂層を形成した場合には、先に述べたように、成形加工時に樹脂層が削り取られたり、金属板から剥離したりするという問題を生じる。しかるに、本発明では、このような熱可塑性樹脂にさらに、酸化防止剤としてヒンダードフェノール系酸化防止剤及びトコフェロールの少なくとも1種がブレンドされていることにより、成形加工時における樹脂層の削れや金属板からの剥離を有効に防止することが可能となったものである。
【0008】
即ち、ポリエステルとポリオレフィン成分とを含有するこのような問題が生じる原因は、ポリエステル樹脂とポリオレフィン成分とが非相溶であるため、両者の界面での密着力が低いことによるものと考えられる。しかるに、上記のように特定の酸化防止剤がブレンドされている系では、この酸化防止剤が界面活性剤的に作用し、ポリエステル樹脂とポリオレフィン成分との界面での密着力を高めているものと考えられる。即ち、本発明では、このような密着力の向上により、薄肉化絞り加工や薄肉化絞りしごき加工などを施して缶に成形加工する際に、例えば高度の板厚減少率で成形加工した場合でも、樹脂層が削り取られたり金属板から剥離したりしてしまうことなく、高度の加工度で缶高さの高い缶を安定して製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
(熱可塑性樹脂組成物)
本発明の熱可塑性樹脂被覆金属板において、金属板の少なくとも片面に設けられている樹脂層(好ましくは実質上未配向の状態で形成される)を構成する熱可塑性樹脂組成物は、ポリエステル樹脂と、ポリオレフィン成分と、特定の酸化防止剤とをブレンドすることにより得られる。
【0010】
ポリエステル樹脂;
上記のポリエステル樹脂としては、炭素数が3以上の多価アルコールと多塩基カルボン酸から誘導されたポリエステル樹脂が好適であり、さらに、その固有粘度が0.5〜1.5、特に0.8〜1.2であることが好ましい。中でも、エチレンテレフタレート、エチレンイソフタレート、ブチレンテレフタレート、ブチレンイソフタレート、エチレンナフタレート、エチレンアジペート、ブチレンナフタレート及びブチレンアジペートの群から選択される少なくとも1種の反復単位を、単独重合または共重合して得られるポリエステル樹脂が特に好適であり、これらは、1種単独或いは2種以上をブレンドして使用される。また上記以外のものでは、エステル単位の酸成分として、セバシン酸、トリメリット酸、アゼライン酸などを用いたものなど、またエステル単位のアルコール成分として、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ペンタエリスリトールなどを用いたものを用いてもよい。
【0011】
上記のポリエステル樹脂の中でも、特にエチレンイソフタレート:5〜15モル%とエチレンテレフタレート:85〜95モル%からなる共重合ポリエステルは加工性に優れており、後述するポリオレフィン成分とブレンドして金属板に積層した後、薄肉化絞り加工のような厳しい成形加工を施しても樹脂層にクラックを生じたりすることがなく、金属板との接着性も優れている。さらに、缶に充填される内容物と接してもその内容物の香りや風味を損なうことがなく、良好なフレーバー性を示す。また、ポリブチレンテレフタレートは、ポリオレフィン成分のうちのポリオレフィン樹脂と混合しやすく、ポリオレフィン樹脂とブレンドした場合に、ブレンド物中においてポリオレフィン樹脂がより細かく分散するため、耐衝撃性や加工性の向上に有効である。またポリブチレンテレフタレートは結晶化速度が大きく、熱可塑性樹脂組成物を金属板に積層してなる樹脂被覆板を缶に成形加工し、その後外面塗装などで缶を加熱する際に、脆い粗大な結晶の成長を抑制するため、本発明の目的とする低温における耐衝撃性の改善に極めて有効である。さらにポリブチレンテレフタレートをブレンドした熱可塑性樹脂は耐水劣化性(耐加水分解性)に優れており、この熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂層を有する樹脂被覆板を用いた缶に水系の内容物を充填し長期間経時させたときにも、樹脂の分子量の低下が少なく、そのため長期にわたって安定した良好な耐衝撃性を維持することができる。
【0012】
ポリオレフィン成分:
上記のポリエステル樹脂とブレンドされるポリオレフィン成分としては、ポリオレフィン樹脂あるいはポリオレフィンエラストマーが使用される。
【0013】
ポリオレフィン樹脂としては、炭素数が2〜8個の1−アルケン共重合樹脂の1種または2種以上からなる樹脂を挙げることができる。炭素数が2〜8個の1−アルケン共重合樹脂としては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリペンテン−1、ポリヘキセン−1、ポリヘプテン−1、ポリオクテン−1、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体などを挙げることができる。中でもインプラントで作成したエチレン−プロピレン共重合体を用いることが好ましい。これらのポリオレフィン樹脂としてメタロセン触媒によるポリオレフィン樹脂を用いた場合は内容物のフレーバーに影響を与えるオリゴマーの生成が少なく、好ましい。
【0014】
また、上記のポリオレフィン樹脂、たとえばポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体などを、無水マレイン酸、アクリル酸、アクリル酸エステル、アクリル酸アイオノマー、メタクリル酸ジグリシジルなどのいずれかで変性してなる変性ポリオレフィン樹脂を用いることもできる。これらの変性ポリオレフィン樹脂を未変性のポリオレフィン樹脂に1〜100重量%の比率でブレンドしたものをポリオレフィン成分として用いることにより、ポリエステル樹脂中にポリオレフィン成分が微細に分散するようになるので好ましい。
【0015】
ポリオレフィンエラストマーとしては、メルトフローレート(MFR)が0.4〜30(g/10分)、特に0.8〜25(g/10分)を有するものが好ましい。MFRが0.4未満の場合は、樹脂を加熱溶融した際にポリエステル樹脂の溶融粘度よりも高くなりすぎて、ポリエステル樹脂中に分散するポリオレフィン樹脂の粒子が粗大化し、耐衝撃性に乏しくなる。一方、25を超えるとポリオレフィンエラストマー自体の耐衝撃性が乏しく、ポリエステル樹脂とブレンドした樹脂も耐衝撃性に乏しいものになる。このようなポリオレフィンエラストマーの中でも、エチレン−プロピレン共重合エラストマーを用いることが好ましい。
【0016】
上記のポリオレフィン樹脂及びポリオレフィンエラストマーは、それぞれ1種単独で使用することもできるし、両者を併用して使用することもできる。
【0017】
上記のポリエステル樹脂とポリオレフィン成分とは、95:5〜70〜30の重量比でブレンドしてなることが好ましい。ポリオレフィン成分が5%未満である場合は、金属板に被覆した後の熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性に乏しく、30重量%を超える場合は熱可塑性樹脂組成物の透明度が減少し異方性が大きくなるので好ましくない。
【0018】
酸化防止剤;
本発明においては、上記のポリエステル樹脂とポリオレフィン成分とのブレンド物に、さらに酸化防止剤がブレンドされる。この酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤或いはトコフェロールが、それぞれ単独或いは組み合わせで使用される。即ち、これら以外の酸化防止剤の使用では、成形加工時の樹脂層の削れや、金属板からの剥がれを防止することができない。
【0019】
尚、上記の酸化防止剤のうち、ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネ−ト]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネ−ト]、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、ペンタエリスリ・テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネ−ト]、2,2−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネ−ト]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネ−ト、N、N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルフォスフォネート−ジエチルエステル、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル)カルシウム、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−ヒドロキシベンジル)−イソシアノレート、オクチル化ジフェニルアミン、2,4−ビス− [(n−オクチルチオ)メチル]−o−クレゾール、イソオクチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネ−トなどのヒンダードフェノール系酸化物が好適である。
【0020】
これらの酸化防止剤は、ポリエステル樹脂とポリオレフィン成分とのブレンド物に対して0.01〜5重量%でブレンドすることが好ましい。0.01重量%未満では非相溶であるポリエステル樹脂とポリオレフィン成分との界面における密着力が向上せず、薄肉化絞り加工や薄肉化絞りしごき加工などの厳しい加工を施して缶に成形加工する際に樹脂層が削り取られたり、或いは金属板から剥離しやすくなる。一方、5重量%を超えてブレンドしてもポリエステル樹脂とオレフィン成分との界面における密着力のさらなる向上は認めらなくなり、不経済である。
【0021】
(熱可塑性樹脂被覆金属板)
本発明の熱可塑性樹脂被覆金属板は、上述した各成分をブレンドしてなる熱可塑性樹脂組成物を金属板の少なくとも片面に被覆するものであるが、かかる被覆層は、この熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂層が単層で金属板に積層されたものであってもよいし、該熱可塑性樹脂組成物の樹脂層を下層として金属板上に積層し、さらにこの上にポリエステル樹脂層を上層として積層した2層構造であってもよいし、さらには、ポリエステル樹脂層(下層)、該熱可塑性樹脂組成物の樹脂層(中間層)及びポリエステル樹脂層(上層)の順に金属板上に積層した3層構造であってもよい。
【0022】
上記の2層或いは3層構造の被覆層において、上層および下層として用いるポリエステル樹脂としては、先に述べたように、内容物に対するフレーバー性や成形加工性および金属板との接着性も優れていることから、エチレンテレフタレート・エチレンイソフタレート共重合体を用いることが好ましい。特に上層のポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、または15モル%以下のエチレンイソフタレートと85モル%以上のエチレンテレフタレートからなる共重合ポリエステルが好ましく、下層のポリエステル樹脂としては、エチレンイソフタレート:10〜25モル%とエチレンテレフタレート:75〜90モル%からなる共重合ポリエステルを用いることが好ましい。
【0023】
また、上述した被覆層の厚さは、前記熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂層単層の場合は5〜50μm、2層構造の場合は、上層(ポリエステル樹脂層)が3〜15μm、下層(前記熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂層)が2〜47μm、3層構造の場合は、上層(ポリエステル樹脂層)が2〜10μm、中間層(前記熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂層)が5〜30μm、下層(ポリエステル樹脂層)が3〜10μmであることが好ましい。
【0024】
熱可塑性樹脂被覆金属板の樹脂層を被覆する基板となる金属板しては、電解クロム酸処理鋼板(ティンフリースチール、以下TFSで示す)や錫めっき鋼板(ぶりき、以下ぶりきで示す)、ニッケル−錫合金めっき鋼板などの各種表面処理鋼板、およびアルミニウム合金板を使用することができる、表面処理鋼板としては10〜200mg/mの皮膜量の金属クロムからなる下層と、クロム換算で1〜30mg/mの皮膜量のクロム水和酸化物からなる上層とからなる2層皮膜を鋼板上に形成させたTFSが好ましく、このような表面処理鋼板は、本発明で用いる熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂層に対して十分な密着性を有し、さらに耐食性も兼ね備えている。また、ぶりきとしては、鋼板表面に錫を0.1〜11.2g/mのめっき量でめっきし、その上にクロム換算で1〜30mg/mの皮膜量の金属クロムとクロム水和酸化物からなる2層皮膜を形成させたもの、またはクロム水和酸化物のみからなる単層皮膜を形成させたものが好ましい。ニッケル−錫合金めっき鋼板としては、付着量が1〜10g/mであり、ニッケル−錫合金層中におけるニッケル含有量が70〜100重量%であるニッケル−錫合金層を鋼板面に形成させたものが好ましい。いずれの場合も基板となる鋼板は、缶用素材として一般的に使用されている低炭素冷延鋼板であることが好ましい。鋼板の板厚は0.1〜0.32mmであることが好ましい。アルミニウム合金板に関しては、JISの3000系、または5000系のものが好ましく、表面に電解クロム酸処理を施して、0〜200mg/mの皮膜量の金属クロムからなる下層と、クロム換算で1〜30mg/mの皮膜量のクロム水和酸化物からなる上層とからなる2層皮膜を形成させたものか、またはリン酸クロメート処理を施してクロム換算で1〜30mg/mのクロム成分と、リン換算で0〜30mg/mのリン成分が付着しているものが好ましい。アルミニウム合金板の板厚は0.15〜0.4mmであることが好ましい。
【0025】
上記の熱可塑性樹脂組成物は、ブレンドする樹脂ペレットおよび酸化防止剤を、使用する樹脂の中で最も高い融点を有するポリエステル樹脂の融点より20〜40℃高い温度(約200〜300℃)で加熱溶融してブレンドし、押出機のTダイから直接アンコイラーから解き戻された長尺帯状の金属板上に押し出すか、または別途ポリエステル樹脂ペレットを融点より20〜40℃高い温度で加熱溶融した樹脂と前記の加熱溶融しブレンドした樹脂組成物をそれぞれ別の押出機で加熱溶解したのち、複数のダイノズルを有するTダイから直接アンコイラーから解き戻された長尺帯状の金属板上に共押し出し、圧着ロールで金属板に押しつけた後、直ちに水中に急冷して熱可塑性樹脂被覆金属板を作成してもよいし、上記と同様にして加熱溶融した樹脂を押出機のTダイからキャスティングロール上に押し出し、冷却固化してフィルムとした後、公知のラミネーターを用い、アンコイラーから解き戻され、ポリエステル樹脂の融点より20〜40℃高い温度に加熱された長尺帯状の金属板に当接し1対のラミネートロールで挟み付けて圧着し、直ちに水中に急冷して熱可塑性樹脂被覆金属板を作成してもよい。
【0026】
さらに、本発明のように厳しい成形加工を施さない用途に適用する場合は、加熱溶融した樹脂を押出機のTダイからキャスティングロール上に押し出した後、1軸方向(長手方向)または2軸方向(長手方向と幅方向)に延伸した後ヒートセットして結晶分子を配向させたフィルムとし、これを金属板に積層被覆してもよい。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例にてさらに詳細に説明する。
【0028】
(試料番号1、2、16の供試板の作成)
長尺帯状の電解クロム酸処理鋼板(以下、TFSという)を150m/分の速度でアンコイラーから巻き戻して加熱し、その缶内面となる片側(表中缶内面側で表す。以下同様)に、表1に示すポリエステル樹脂(表中PESで表す。以下同様)とポリオレフィン樹脂(表中POLで表す。以下同様)或いはポリオレフィンエラストマー(表中PELで表す。以下同様)のペレット、および酸化防止剤として表2に示す1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−ヒドロキシベンジル)ベンゼン(表中ANOX−1で表す。以下同様)またはトコフェロール(表中ANOX−2で表す。以下同様)の粉末を(但し、試料番号16では酸化防止剤の粉末は使用せず)、押出機を用いてポリエステル樹脂の融点より30℃前後高い温度で混練時間を種々変えて加熱溶融してブレンド樹脂とした後、Tダイに送り込み、ダイノズルからTFSの片面上に押し出した。同時に加熱したTFSの缶外面となる片側(表中缶外面側で表す。以下同様)に、表2に示す白色の二酸化チタンを20重量%含有させたポリエステル樹脂のペレットを、押出機を用いてポリエステル樹脂の融解温度より30℃前後高い温度で加熱溶融した後、Tダイに送り込み、ダイノズルからTFS上の他の片面上に押し出した。次いで1対の圧着ロールを用いて、両面に樹脂層を押し出したTFSを挟み付けた後、直ちに水中に急冷し、表3の試料番号1、2、16の熱可塑性樹脂被覆金属板を作成した。
【0029】
(試料番号3および4の供試板の作成)
長尺帯状のぶりき板(表中ETで表す。以下同様)を150m/分の速度でアンコイラーから巻き戻して加熱し、その缶内面となる片側に、表1に示すポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂のペレット、および表2に示す酸化防止剤の粉末を、押出機を用いてポリエステル樹脂の融点より30℃前後高い温度で混練時間を種々変えて加熱溶融してブレンド゛樹脂と、別の押出機を用いて表1に示すポリエステル樹脂をポリエステル樹脂の融点より30℃前後高い温度で加熱溶融した後、2つのダイノズルを有するTダイに送り込み、ダイノズルからぶりき板の片面上にポリオレフィン樹脂を含む樹脂層がぶりき板と接するようにして共押出した。同時に加熱したぶりき板の缶外面となる片側に、表3に示す白色の二酸化チタンを20重量%含有させたポリエステル樹脂のペレットを、押出機を用いてポリエステル樹脂の融点より30℃前後高い温度で加熱溶融した後、Tダイに送り込み、ダイノズルからぶりき板上の他の片面上に押し出した。次いで1対の圧着ロールを用いて、両面に樹脂層を押し出したぶりき板を挟み付けた後、直ちに水中に急冷し、表3の試料番号3および4の熱可塑性樹脂被覆金属板を作成した。なお、試料番号4において、缶内面側の中間層には酸化防止剤として、ANOX-1を1.0重量%とANOX-2を1.0重量%添加した。
【0030】
(試料番号8〜11の供試板の作成)
表1に示すポリエステル樹脂とポリオレフィンエラストマーのペレット、および表2に示す酸化防止剤の粉末を、押出機を用いてポリエステル樹脂の融点より30℃前後高い温度で混練時間を種々変えて加熱溶融しブレンド樹脂とした後、Tダイに送り込み、ダイノズルから押し出した後トリミングし、無配向フィルムとしてコイラーに巻き取った。また、表3に示す白色の二酸化チタンを20重量%含有させたポリエステル樹脂のペレットを、押出機を用いてポリエステル樹脂の融点より30℃前後高い温度で加熱溶融した後、Tダイに送り込み、ダイノズルから押し出した後トリミングし、無配向フィルムとしてコイラーに巻き取った。次いで長尺帯状のニッケル−錫合金めっき鋼板(表中NISNで表す。以下同様)を150m/分の速度でアンコイラーから巻き戻して加熱し、その缶内面となる片側に、コイラーからブレンド樹脂フィルイムを巻き戻しながら当接し、同時に缶外面となる他の片側に、コイラーから白色ポリエステルフィルムを巻き戻しながら当接し、次いで1対の圧着ロールを用いて、両面に樹脂層を押し出したニッケル−錫合金めっき鋼板を挟み付けた後、直ちに水中に急冷し、表3の試料番号8〜11の熱可塑性樹脂被覆金属板を作成した。
【0031】
(試料番号5〜7の供試板の作成)
表1に示すポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂のペレット、および表2に示す酸化防止剤の粉末を、押出機を用いてポリエステル樹脂の融点より30℃前後高い温度で混練時間を種々変えて加熱溶融しブレンド樹脂とした後、Tダイに送り込み、ダイノズルから押し出した後トリミングし、無配向フィルムとしてコイラーに巻き取った。また、表3に示す白色の二酸化チタンを20重量%含有させたポリエステル樹脂のペレットを、押出機を用いてポリエステル樹脂の融点より30℃前後高い温度で加熱溶融した後、Tダイに送り込み、ダイノズルから押し出した後トリミングし、無配向フィルムとしてコイラーに巻き取った。次いで長尺帯状のアルミニウム合金板を150m/分の速度でアンコイラーから巻き戻して加熱し、その缶内面となる片側に、コイラーからブレンド樹脂フィルイムを巻き戻しながら当接し、同時に缶外面となる他の片側に、コイラーから白色ポリエステルフィルムを巻き戻しながら当接し、次いで1対の圧着ロールを用いて、両面に樹脂層を押し出したアルミニウム合金板を挟み付けた後、直ちに水中に急冷し、表3の試料番号5〜7の熱可塑性樹脂被覆金属板を作成した。
【0032】
(試料番号12および13の供試板の作成)
表1に示すポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂または/およびポリオレフィンエラストマーのペレット、および表2に示す酸化防止剤の粉末を、押出機を用いてポリエステル樹脂の融点より30℃前後高い温度で混練時間を種々変えて加熱溶融しブレンド樹脂とし、表1の樹脂番号PES1のポリエステル樹脂のペレットを別の押出機を用いて、ポリエステル樹脂の融点より30℃前後高い温度で加熱溶融した後、2つのノズルを有するダイスに送り込み、上層がPES1、下層がブレンド樹脂となるようにしてダイノズルから共押出した後トリミングし、2層の無配向フィルムとしてコイラーに巻き取った。また、表3に示す白色の二酸化チタンを20重量%含有させたポリエステル樹脂のペレットを、押出機を用いてポリエステル樹脂の融点より30℃前後高い温度で加熱溶融した後、Tダイに送り込み、ダイノズルから押し出した後トリミングし、無配向フィルムとしてコイラーに巻き取った。次いで長尺帯状のTFSを150m/分の速度でアンコイラーから巻き戻して加熱し、その缶内面となる片側に、コイラーから2層の樹脂フィルイムを巻き戻しながら当接し、同時に缶外面となる他の片側に、コイラーから白色ポリエステルフィルムを巻き戻しながら当接し、次いで1対の圧着ロールを用いて、両面に樹脂層を押し出したアルミニウム合金板を挟み付けた後、直ちに水中に急冷し、表3の試料番号12および13の熱可塑性樹脂被覆金属板を作成した。
【0033】
(試料番号14および15の供試板の作成)
表1に示すポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂のペレット、および表2に示す酸化防止剤の粉末を、押出機を用いてポリエステル樹脂の融点より30℃前後高い温度で混練時間を種々変えて加熱溶融しブレンド樹脂とし、表1の樹脂番号PES1およびPES4のポリエステル樹脂のペレットをそれぞれ別の押出機を用いて、それぞれのポリエステル樹脂の融点より30℃前後高い温度で加熱溶融した後、3つのノズルを有するダイスに送り込み、上層がPES1、中間層がブレンド樹脂、下層がPES4となるようにしてダイノズルから共押出した後トリミングし、3層の無配向フィルムとしてコイラーに巻き取った。また、表3に示す白色の二酸化チタンを20重量%含有させたポリエステル樹脂のペレットを、押出機を用いてポリエステル樹脂の融点より30℃前後高い温度で加熱溶融した後、Tダイに送り込み、ダイノズルから押し出した後トリミングし、無配向フィルムとしてコイラーに巻き取った。次いで長尺帯状のTFSを150m/分の速度でアンコイラーから巻き戻して加熱し、その缶内面となる片側に、コイラーから3層の樹脂フィルイムを巻き戻しながら当接し、同時に缶外面となる他の片側に、コイラーから白色ポリエステルフィルムを巻き戻しながら当接し、次いで1対の圧着ロールを用いて、両面に樹脂層を押し出したアルミニウム合金板を挟み付けた後、直ちに水中に急冷し、表3の試料番号14および15の熱可塑性樹脂被覆金属板を作成した。
【0034】
上記の4種類の金属板として、下記に示す表面処理を施した金属板を用いた。
1)電解クロム酸処理鋼板(表中TFSで表示)
板厚:0.18mm
金属クロム量:160mg/m
クロム水和酸化物量:(クロムとして)19mg/m
加熱温度:ポリエステル樹脂の融点より約30℃高い温度
2)ぶりき(表中ETで表示)
板厚:0.18mm
錫めっき量:0.2g/m
クロム水和酸化物量:(クロムとして)9mg/m
加熱温度:ポリエステル樹脂の融点より約30℃高い温度
3)ニッケル−錫合金めっき鋼板(表中NISNで表示)
板厚:0.18mm
合金めっき量:2.8g/m(Ni:82重量%含有)
加熱温度:ポリエステル樹脂の融点より約30℃高い温度
4)アルミニウム合金板(JIS 5052
H39)(表中ALで表示)
板厚:0.26mm
皮膜量:(リンとして)11mg/m
(クロムとして)7mg/m
加熱温度:ポリエステル樹脂の融点より約30℃高い温度
【0035】
なお、上記の各種ポリオレフィン樹脂として、いずれもメタロセン触媒によるポリオレフィン樹脂を用いた。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
上記のようにして得られた試料番号1〜16の熱可塑性樹脂被覆金属板を、下記のように薄肉化絞りしごき加工法を用いて有底円筒状の缶に成形加工した。
熱可塑性樹脂被覆金属板を直径:150mmのブランクに打ち抜いた後、白色ポリエステル樹脂被覆面が缶の外面となるようにして、缶底径:100mmの絞り缶とした。次いで再絞り加工により、缶底径:80mmの再絞り缶とした。さらにこの再絞り缶を複合加工により、ストレッチ加工と同時にしごき加工を行い、缶底径:65mmの絞りしごき缶とした。この複合加工は、缶の上端部となる再絞り加工部としごき加工部の間隔は20mm、再絞りダイスの肩アールは板厚の
1.5倍、再絞りダイスとポンチのクリアランスは板厚の
1.0倍、しごき加工部のクリアランスは元板厚の40%となる条件で実施した。次いで公知の方法で缶上部をトリミングし、ネックイン加工、フランジ加工を施した。
【0039】
以上のようにして得られた缶について、その層構造を表3に示し、また、缶を構成している熱可塑性樹脂被覆金属板の各種特性を評価した結果を表4に示した。
【0040】
尚、用いたポリオレフィンエラストマーのメルトフローレート(MFR)、缶内面側樹脂層である熱可塑性樹脂組成物(ブレンド樹脂)からなる層の厚み、或いはその上層や下層のポリエステル樹脂層の厚み、用いたポリエステル樹脂の固有粘度、および各種特性評価は、以下の方法で行った。
【0041】
(ポリオレフィンエラストマーのメルトフローレート:MFR)
定法により測定した。
【0042】
(各種樹脂層の厚さ)
熱可塑性樹脂被覆金属板をエポキシ系包埋樹脂に埋め込み、5μmの厚さにスライスし、断面を顕微鏡観察して測定した。
【0043】
(固有粘度(IV値))
ポリエステル樹脂をフェノール/テトラクロロエタンの1:1混合溶液に溶解させた後、30℃の恒温浴槽中でウベローデ粘度計により比粘度を測定し、固有粘度を求めた。
【0044】
(樹脂層の成形性)
薄肉化絞りしごき加工法を用いて成形加工した缶内面の樹脂層を肉眼観察し、下記の基準で成形性を評価した。
◎:削れ部分や剥離は認められない。
○:実用上問題とならない程度のわずかな削れ部分が認められる。
△:実用上問題となる程度の削れ部分および上端部に樹脂層の剥離が認められる。
×:成形加工時に破胴する。
【0045】
(耐低温衝撃性)
薄肉化絞りしごき加工法を用いて成形加工し、缶上部をトリミングし、ネックイン加工、フランジ加工を施した後、pH2.6の酸性飲料(商品名アセロラドリンク:株式会社ニチレイ製)を充填し、37℃で1ヶ月間経時させた後開封し、缶の上端から30mmの幅で円周方向に切り出し試料とした。この試料を氷水中に5分間浸漬した後取り出し、約5℃の温度の試料の缶外面側に、円周方向で15mm間隔で先端に直径が1/2インチの鋼球を付設した鋼棒(重さ:1kg)を40mmの高さから落下させ、発生した缶内面側の凸部に1%食塩水を含浸させたスポンジを当接し、試料に6.3Vの直流電流を印加し、流れる電流値を測定し、測定された電流値の大小から、下記の基準で耐低温衝撃性を評価した。
◎ : 0.05mA未満
○ : 0.05mA以上でかつ0.1mA未満
△ : 0.1mA以上でかつ0.3mA未満
× : 0.3mA以上
【0046】
(耐食性)
薄肉化絞りしごき加工法を用いて成形加工し、缶上部をトリミングし、ネックイン加工、フランジ加工を施した後、pH2.6の酸性飲料(商品名アセロラドリンク:株式会社ニチレイ製)を充填した後、耐低温衝撃性の評価において実施したのと同様にして缶外部から缶側壁部に低温で衝撃を与えて凹部を形成させ、次いで37℃で1ヶ月間経時させた後開封し、溶出した金属濃度を原子吸光法を用いて測定し、その多少から、下記の基準で耐食性を評価した。
◎ : 0.3ppm未満
○ : 0.3ppm以上でかつ0.5ppm未満
△ : 0.5ppm以上でかつ1.0ppm未満
× : 1.0ppm以上
【0047】
【表3】

【0048】
【表4】

【0049】
表4に示すように、本発明の熱可塑性樹脂被覆金属板は、いずれも樹脂層の成形加工性に優れ、かつ良好な耐低温衝撃性と耐食性を示すことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の熱可塑性樹脂被覆金属板は、ポリエステル樹脂にポリオレフィン樹脂またはポリオレフィンエラストマーなどのポリオレフィン成分をブレンドしてなる熱可塑性樹脂組成物に、さらに酸化防止剤としてヒンダードフェノール系酸化防止剤または/およびトコフェロールとをブレンドしてなる熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂層を金属板に被覆したものであり、非相溶であるポリエステル樹脂とオレフィン成分の樹脂間の界面における密着力が向上するので、薄肉化絞り加工や薄肉化絞りしごき加工などを施して缶に成形加工する際に板厚を減少させて缶高さを高める特に高度の板厚減少率で成形加工した場合でも樹脂層が削り取られたり金属板から剥離したりしてしまうことがなく、高度の加工度で缶高さの高い缶を安定して製造することができる。このようにして得られる本発明の缶は、低温で衝撃を加えても樹脂層にクラックが発生しにくく、優れた耐低温衝撃性を示し、さらに、缶に酸性内容物を充填し長期間経時しても金属溶出が少なく、優れた耐食性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂と、ポリオレフィン樹脂およびポリオレフィンエラストマーからなる群より選択された少なくとも1種からなるポリオレフィン成分と、ヒンダードフェノール系酸化防止剤およびトコフェロールからなる群より選択された少なくとも1種の酸化防止剤とをブレンドしてなる熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂層を、金属板の少なくとも片面に被覆してなる熱可塑性樹脂被覆金属板。
【請求項2】
前記ポリエステル樹脂が、エチレンテレフタレート、エチレンイソフタレート、ブチレンテレフタレート、ブチレンイソフタレートのいずれかの少なくとも1種以上のエステル反復単位からなり、その固有粘度が0.5〜1.5である、請求項1に記載の熱可塑性樹脂被覆金属板。
【請求項3】
前記ポリオレフィン樹脂が、炭素数2〜8の1−アルケン重合樹脂の少なくとも1種からなる、請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂被覆金属板。
【請求項4】
前記ポリオレフィンエラストマーが、エチレン−プロピレン共重合エラストマーである、請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂被覆金属板。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂組成物が、ポリエステル樹脂とオレフィン成分とを、95:5〜70:30の重量比でブレンドしてなる、請求項1〜4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂被覆金属板。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂組成物が、前記酸化防止剤を、0.01〜5重量%の量で含有している、請求項1〜5のいずれかに記載の熱可塑性樹脂被覆金属板。
【請求項7】
金属板が、電解クロム酸処理鋼板、錫めっき鋼板、ニッケル−錫合金めっき鋼板、アルミニウム合金板のいずれかである、請求項1〜6のいずれかに記載の熱可塑性樹脂被覆金属板。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂層上に、ポリエステル樹脂層が形成されている、請求項1〜7のいずれかに記載の熱可塑性樹脂被覆金属板。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の熱可塑性樹脂被覆金属板を用いた缶。

【公開番号】特開2006−7609(P2006−7609A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−188389(P2004−188389)
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【出願人】(390003193)東洋鋼鈑株式会社 (265)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】