説明

熱成形用艶消しアクリル樹脂フィルム状物、熱成形用艶消しアクリル樹脂フィルム状物の製造方法、および、この熱成形用艶消しアクリル樹脂フィルム状物を含む積層体

【課題】 従来にはない意匠性を発現し、取り扱い性が良好であり、インサート成形またはインモールド成形を施し、深絞り形状に成形した場合でも、艶消し層に割れが発生せず、車輌用部材の加飾フィルムに必要とされる耐擦傷性、表面硬度、耐薬品性、耐熱性、艶消し性、および耐熱黄変色性を有する熱成形用艶消しアクリル樹脂フィルム、およびこれらを基材に積層した積層体を提供すること。
【解決手段】 アクリル樹脂フィルム基体の面上に、艶消し剤とバインダー樹脂を含有する塗料を塗工し、最外層に艶消し層を形成した熱成形用艶消しアクリル樹脂フィルムであって、艶消し層側の動摩擦係数が0.23以下である艶消しアクリル樹脂フィルムを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱成形用艶消しアクリル樹脂フィルム状物、熱成形用艶消しアクリル樹脂フィルム状物の製造方法、および、この熱成形用艶消しアクリル樹脂フィルム状物を含む積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
低コストで成形品に意匠性を付与する方法として、インサート成形法、またはインモールド成形法がある。インサート成形法は、印刷等の加飾を施したポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂などのフィルムまたはシートを、あらかじめ真空成形等によって三次元の形状に成形し、不要なフィルムまたはシート部分を除去した後、射出成形金型内に移し、基材となる樹脂を射出成形することにより一体化させた成形品を得るものである。一方、インモールド成形法は、印刷等の加飾を施したポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂などのフィルムまたはシートを射出成形金型内に設置し、真空成形を施した後、同じ金型内で基材となる樹脂を射出成形することにより一体化させた成形品を得るものである。
【0003】
特定の組成からなるゴム含有重合体と特定の組成からなる熱可塑性重合体とを特定の割合で含有するアクリル樹脂フィルム状物、あるいは、特定の組成からなるゴム含有重合体と特定の組成からなる熱可塑性重合体と艶消し剤とを特定の割合で含有するアクリル樹脂フィルム状物が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。このようなアクリル樹脂フィルム状物は、成形品に加飾性を付与するばかりでなく、艶消し塗装の代替材料としての機能を有する。
【0004】
また、熱または光硬化性樹脂と無機系微粒子からなる艶消し層とアクリル系樹脂フィルム基体からなる、成形後も良好な艶消し性能が維持できるマット化されたアクリル系樹脂フィルムが開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0005】
また、透明なアクリルフィルムの一方の面に艶消し層が形成され、他方の面に少なくとも図柄層が形成された艶消しアクリルインサートフィルムが開示されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0006】
また、成形性のよい基材フィルム上に、特定の艶消し塗料の塗膜を設けたスエード調成形用シートが開示されている(例えば、特許文献4参照。)。
【0007】
近年、インサート成形法またはインモールド成形法により成形された、表層に艶消しアクリル樹脂フィルム状物層を有する部材が、車輌用途の部品として用いられている。
【0008】
特定のフィルム表面光沢度を有する印刷適正が良好で、艶消し性、表面硬度、耐熱性、成形性に優れたアクリル樹脂フィルム状物が得られる(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、これらのアクリル樹脂フィルム状物は、ベースとなるアクリル樹脂に艶消し剤を練りこむために、使用する艶消し剤に制約があった。具体的には、アクリル樹脂以外を主成分とする架橋構造を有する有機系微粒子や、無機系の微粒子を使用した場合、艶消し状態にはなるものの艶消しアクリル樹脂フィルムのヘーズ値が増大する。従って、艶消しアクリル樹脂フィルムの片面に加飾層を形成し、加飾層を基材に接するようにして成形品を得た場合、成形品の加飾柄が濁ったように見えるため工業的利用価値が低かった。また、架橋構造を有する有機系微粒子や、無機系の微粒子を使用した場合、艶消しアクリル樹脂フィルム状物が脆くなるため、添加量によっては、製膜工程でのフィルムの取り扱い性が困難であったり、インモールド成形やインサート成形時に、例えば深絞り成形などの過酷な条件で使用すると、フィルムが割れたり、破れたりすることがある。
【0009】
また、成形後も良好な艶消し性を維持できるアクリル系樹脂フィルムが得られる(例えば、特許文献2参照。)。該公報では艶消し層として無機系微粒子を含有する熱または光硬化性樹脂をアクリル樹脂フィルム上に形成する。艶消し層に熱硬化性樹脂を使用した艶消しフィルムを用いると、インモールド成形、インサート成形時の真空成形の時にフィルムが引き伸ばされると、艶消し層が割れる場合があるために、艶消し層の厚みや用いる硬化性樹脂の組成が重要であるが、実施例で開示されている艶消しアクリル樹脂フィルムでは艶消し層が割れやすいために成形条件に制約がある。また、車輌内装用途に用いる場合には、耐傷付き性が要求されるため、これらのアクリル樹脂フィルムは一定のレベルには達しているものの、経時的に表面が磨耗していくため、長期間使用した場合、艶戻りしたような外観になる場合があった。耐傷付き性を改良するために、ワックスを使用することが多いが、最適なワックスに関する記載がない。また、印刷法またはコート法により得た艶消しアクリル樹脂フィルムでは成形の際の熱により艶消し外観が変化する場合があった。また、艶消し層が熱硬化性樹脂からなるアクリル樹脂フィルムを使用してインサート成形やインモールド成形を施した場合、フィルムの加熱条件によっては黄変することがあるが、黄変の少ないアクリル樹脂フィルムを得るための具体的な方法が記載されていない。また、アクリル樹脂フィルム状物と基材シートからなる積層シートを用いてインサート成形を行う場合がある。このときアクリル樹脂フィルム状物の熱収縮率が大きいと、インサート成形の際に、アクリル樹脂フィルム状物が基材シートから剥離するが、該公報ではアクリル樹脂フィルム状物の熱収縮率に関して具体的な記述がない。また、印刷法やコート法により艶消しアクリル樹脂フィルムを製造する場合、基材となるアクリル樹脂フィルムが溶剤アタックにより物性低下するため、使用する塗工液の溶剤組成や、フィルムに塗工する際の塗工量が重要であるが、該公報には最適な塗工条件に関する記載がない。
【0010】
また、透明なアクリルフィルムの一方の面に艶消し層が形成され、他方の面に少なくとも図柄層が形成された艶消しアクリルインサートフィルムが得られる(例えば、特許文献3参照)。該公報では、艶消し層としてフッ素樹脂系真球微粒子とアクリル樹脂からなる艶消しアクリルフィルムが開示されているが、艶消し層に硬化性樹脂を使用する場合に成形性を高めるための手段が開示されていない。また、耐傷付き性を改良するために、ワックスを使用することが多いが、ワックスについて具体的な記載がない。フッ素樹脂系真球微粒子がワックスの役割をかねているとも考えられるが生産性に問題がある可能性がある。さらに、バインダー樹脂として用いられる硬化性樹脂が具体的に記載されていない。実施例では熱可塑性樹脂が使用されており耐薬品性が劣る。また、印刷法またはコート法により得た艶消しアクリル樹脂フィルムでは成形の際の熱により艶消し外観が変化する場合があった。また、艶消し層が熱硬化性樹脂からなるアクリル樹脂フィルムを使用してインサート成形やインモールド成形を施した場合、フィルムの加熱条件によっては黄変することがあるが、黄変の少ないアクリル樹脂フィルムを得るための具体的な方法が記載されていない。
【0011】
また、成形性の良い基材フィルム上に、特定の粒子径を有するビーズ顔料と電離放射線硬化性樹脂からなる塗膜を設けたスエード調成形用シートが得られる(例えば、特許文献4参照)。該公報ではバインダー樹脂に電離放射線硬化性樹脂を用いるために、インモールドまたはインサート成形時に深絞り形状の成形品に成形した際、電離放射線硬化性樹脂と基材フィルムの成形性が異なるために、硬化性樹脂層が十分に伸びないことに起因する、割れ、破れなどの成形不良が発生する可能性があるが、これを解決するための最適な艶消し層の厚みに関する記載が無い。成形性を改良するために熱可塑性樹脂を混合することが開示されているが、この方法では耐薬品性が低下してしまう問題点があった。また、印刷法またはコート法により得た艶消しフィルムでは成形の際の熱により艶消し外観が変化する場合があった。これらの問題を解決する手段が開示されていない。また、基材に用いるのに適したアクリル樹脂フィルム状物については記載が無い。
【特許文献1】特開2002−361712号公報
【特許文献2】特開2003−211598号公報
【特許文献3】特開平10−34703号公報
【特許文献4】特公平7−110531号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、従来のアクリル樹脂フィルム層に艶消し剤を添加した場合には実現困難な意匠性を発現し、且つ取り扱い性が良好であり、インサート成形またはインモールド成形を施し、深絞り形状の成形品に成形した場合でも、艶消し層に割れが発生しない、かつ車輌用途に用いることができる耐擦傷性、表面硬度、耐熱性、耐薬品性、耐熱黄変性、および艶消し性を有する熱成形用艶消しアクリル樹脂フィルムを提供することを目的とする。また、熱成形用艶消しアクリル樹脂フィルムを得るために最適な製造方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、これらを基材に積層した積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の上記目的は、以下の本発明により解決できる。
【0014】
[1] アクリル樹脂フィルム基体の面上に、艶消し剤および硬化性バインダー樹脂を含有する塗料を塗工し、最外層に艶消し層を形成した熱成形用艶消しアクリル樹脂フィルムであって、艶消し層側の動摩擦係数が0.23以下である熱成形用艶消しアクリル樹脂フィルム。
【0015】
[2] アクリル樹脂フィルム基体の、艶消し層とは反対側の面上に、さらに絵柄層を有する前記[1]の熱成形用艶消しアクリル樹脂フィルム。
【0016】
[3] 前記[1]の熱成形用艶消しアクリル樹脂フィルムの製造方法であって、艶消し層を印刷法またはコート法により形成する熱成形用艶消しアクリル樹脂フィルムの製造方法。
【0017】
[4] 前記[1]の熱成形用艶消しアクリル樹脂フィルムの製造方法であって、1インチあたり150本以上の線数を有し、且つロール軸方向に対して40〜50°の角度で彫刻された斜線型ロールを用いて、艶消し層を形成する熱成形用艶消しアクリル樹脂フィルムの製造方法。
【0018】
[5] 前記[1]の熱成形用艶消しアクリル樹脂フィルムを、艶消し層とは反対側の面が接するように、基材上に積層して成る積層体。
【発明の効果】
【0019】
本発明の熱成形用艶消しアクリル樹脂フィルムは、従来のアクリル樹脂フィルム基体に艶消し剤を添加した場合では実現困難な意匠性を発現し、取り扱い性が良好であり、かつインサート成形またはインモールド成形を施し、深絞り形状に成形した場合でも、艶消し層に割れが発生しない、かつ、車輌用部材に必要とされる耐擦傷性、表面硬度、耐薬品性、耐熱性、艶消し性、耐熱黄変色性を有するものである。
【0020】
また、本発明の熱成形用艶消しアクリル樹脂フィルムの製造方法によれば、このような艶消しアクリル樹脂フィルムを安定的に製造できる。
【0021】
さらに、本発明の積層体は、意匠性に優れ、耐擦傷性、表面硬度、耐薬品性、耐熱性、艶消し性、および耐熱黄変色性を有し、かつ表面の艶消し層に割れ等の欠陥がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
<アクリル樹脂フィルム基体>
本発明に用いるアクリル樹脂フィルム基体としては、公知のアクリル樹脂フィルムを用いることができるが、車輌用に使用可能な、耐擦り傷性、鉛筆硬度、耐熱性、耐薬品性を有する。例えば、特開平8−323934号公報、特開平11−147237号公報、特開2002−80678号公報、特開2002−80679号公報、特開2005−97351号公報に開示されているものが好ましい。また、インサート成形やインモールド成形を行った場合の耐成形白化性の観点からは、特開2005−163003号公報、特開2005−139416号公報に開示されているものが好ましい。
【0023】
(加熱収縮率)
アクリル樹脂フィルム基体としては、加熱時にできるだけ収縮しないようなものであることが好ましい。熱成形用艶消しアクリル樹脂フィルムをABS等の基材シートに貼り合せてインサート成形を実施した場合に、アクリル樹脂フィルム基体の収縮が大きいと基材シートから剥がれてしまう場合がある。
【0024】
アクリル樹脂フィルム基体としては、130℃雰囲気下60分間加熱処理による、MD方向加熱収縮率が50%以下であり、TD方向加熱収縮率が−10〜10%であるアクリル樹脂フィルム基体が好ましい。このようなアクリル樹脂フィルム基体は、インサート成形またはインモールド成形を施し、積層体になったときの艶消し層とアクリル樹脂フィルム基体との密着性が良好となり、工業的利用価値が高い。具体的には、車輌用途の積層体において、艶消しアクリル樹脂フィルムと積層体基材との密着性の評価を実施したときに、艶消し層とアクリル樹脂フィルム基体との界面で剥離しない積層体が得られる。また、加飾フィルムまたはシートとして、艶消しアクリル樹脂フィルムを基材シートに積層した積層シートを用いた場合、インサート成形またはインモールド成形時の加熱の際に、基材シートとアクリル樹脂フィルム基体との界面での剥離を抑える観点からも、アクリル樹脂フィルム基体の加熱時の収縮率は小さいほうが好ましい。アクリル樹脂フィルム基体のMD方向加熱収縮率は30%以下が好ましく、15%以下がより好ましい。また、0%以上が好ましい。アクリル樹脂フィルム基体のTD方向加熱収縮率は0〜5%が好ましい。
【0025】
加熱収縮率の測定は、つぎのように行う。まず、A4サイズに切り出したアクリル樹脂フィルム基体の表面に、MD方向(製膜時の流れ方向)およびTD方向(MD方向と垂直に交わる向き)に、5cm間隔に3本の平行な直線を引き、その間隔をノギスで正確に計測する。間隔の計測は2箇所で行い、計測した箇所に目印を付ける。その後、130℃雰囲気下に60分放置して、取り出した後、先に計測した箇所と同じ箇所の間隔をもう一度計測する。2箇所の間隔の平均値を用い、下記式より、加熱収縮率を計算する。
【0026】
加熱収縮率(%)=((加熱前の間隔−加熱後の間隔)/加熱前の間隔)×100
MD方向およびTD方向が不明であるアクリル樹脂フィルムにおいて、MD方向およびTD方向を特定するには、例えばつぎのように行う。フィルム上に特定半径の円を描き、上記した条件の加熱処理をして、得られたフィルム上の円(異方性がある場合は楕円)の形状から、収縮率が最大となる方向を決定し、その方向をMD方向とし、その方向と垂直な方向をTD方向とする。
【0027】
(鉛筆硬度)
アクリル樹脂フィルム基体の鉛筆硬度(JIS K5600に基づく測定)は、本発明の艶消しアクリル樹脂フィルムの鉛筆硬度を高めるために、2B以上であることが好ましく、HB以上であることがより好ましく、F以上であることが特に好ましい。
【0028】
(アクリル樹脂フィルム基体の製造方法)
アクリル樹脂フィルム基体の製造方法としては、溶融流延法、Tダイ法、インフレーション法等の溶融押出法、カレンダー法等の公知の方法が挙げられる。これらのうち、経済性の点からTダイ法が好ましい。
【0029】
Tダイ法によりアクリル樹脂フィルム基体を成形する場合、金属ロール、非金属ロールおよび金属ベルトから選ばれる複数のロールまたはベルトに狭持して製膜する方法を用いることが好ましい。この方法によれば、得られる艶消しアクリル樹脂フィルムの表面平滑性を向上させ、アクリル樹脂フィルム基体に艶消し層を形成する際のコーティング抜け、艶消しアクリル樹脂フィルムに印刷処理した際の印刷抜けを抑制することができる。金属ロールとしては、金属製の鏡面タッチロール;特許第2808251号公報または国際公開第97/28950号パンフレットに記載の金属スリーブ(金属製薄膜パイプ)と成型用ロールとからなるスリーブタッチ方式で使用されるロール等が挙げられる。非金属ロールとしては、シリコンゴム製等のタッチロール等が挙げられる。金属ベルトとしては、金属製のエンドレスベルト等が挙げられる。これらの金属ロール、非金属ロールおよび金属ベルトを複数組み合わせて使用してもよい。
【0030】
金属ロール、非金属ロールおよび金属ベルトから選ばれる複数のロールまたはベルトに狭持して製膜する方法においては、溶融押出後の原料を、実質的にバンク(樹脂溜まり)が無い状態で狭持し、実質的に圧延することなく面転写させて製膜することが好ましい。バンク(樹脂溜まり)を形成することなく製膜した場合は、冷却過程にある原料が圧延されることなく面転写されるため、この方法で製膜したアクリル樹脂フィルム基体の加熱収縮率を低減することができる。
【0031】
また、Tダイ法等で溶融押出しをする場合は、200メッシュ以上のスクリーンメッシュで溶融状態にあるアクリル樹脂原料を濾過しながら押出しすることも好ましい。
【0032】
アクリル樹脂フィルム基体の厚さは、10〜500μmが好ましい。アクリル樹脂フィルム基体の厚さを500μm以下とすることにより、インサート成形およびインモールド成形に適した剛性が得られ、より安定にフィルムを製造することができる。また、アクリル樹脂フィルム基体の厚みを10μm以上とすることにより、基材の保護性とともに、得られる積層体に深み感をより十分に付与することができる。アクリル樹脂フィルム基体の厚みは、30μm以上がより好ましく、50μm以上が特に好ましい。また、アクリル樹脂フィルム基体の厚みは、300μm以下がより好ましく、200μm以下が特に好ましい。
【0033】

<艶消し層>
アクリル樹脂フィルム基体の一方の面上に設けられる艶消し層の厚さは、0.1〜5μmであることが好ましい。艶消し層の厚さが0.1μm以上であれば、積層体となった場合の耐擦り傷性等、表面物性を発現することができる。より好ましくは0.5μm以上、最も好ましくは0.8μm以上である。艶消し層の厚さが5μm以下であれば、インサート成形またはインモールド成形を施し、深絞り形状に成形した場合でも、艶消し層に割れが発生することを軽減できる。艶消し層の厚さは、好ましくは3μm以下、より好ましくは2μm未満である。また、塗工の際に用いる単位面積あたりの塗料量が少なくなるため、溶剤によるアクリル樹脂フィルム基体の物性低下を小さくすることができる。また、艶消し層の厚さを5μm以下とすることで、良好な艶消し性を発現することができる。艶消し層の厚みを薄くすることで艶消し性が良好に発現するので、単位体積あたりの艶消し剤量を少なくすることができ、艶消し層の物性低下を軽減できる。また、艶消し層の厚みを薄くすることでワックスの添加効果が高まるため良好な耐擦り傷性を発現する。
【0034】
艶消し層の厚さは、フィルムの断面を透過型電子顕微鏡で観察し、5箇所で厚さを測定し、それらを平均することにより求められる。なお、艶消し剤の質量平均粒子径よりも艶消し層の厚さが小さい場合、艶消し剤が存在しない部分、つまりバインダー樹脂のみからなる部分を観察して厚さを測定する。
【0035】
(艶消し剤)
艶消し剤としては、0.5〜50μmの質量平均粒子径を有する有機系または無機系粒子を用いることが好ましい。艶消し性、外観の観点から質量平均粒子径は2μm以上がより好ましい。質量平均粒子径を2μm以上とすることで、艶消し性が良好となるばかりか、蛍光灯の映りこみが軽減するため、例えばメタリック調の絵柄と組み合わせた場合、アルミを削り出したような外観に近くなり、高級感にとんだ外観となる。また、艶消し層を形成する際の成形性、外観、艶消し剤のバインダー樹脂からの脱落の観点から質量平均粒子径は30μm以下がより好ましく、10μm以下が特に好ましい。10μm以下とすることで、艶消し層の成形性が良くなるばかりか、蛍光灯の映りこみが僅かに見えるため、例えばメタリック調の絵柄と組み合わせた場合、アルミを削り出したような外観に近くなり、高級感にとんだ外観となり工業的利用価値が高い。また、例えばグラビア塗工、グラビアリバース塗工等により艶消しアクリル樹脂フィルムを得る場合、ドクター筋を軽減する観点からも質量平均粒子径は30μm以下がより好ましく、10μm以下が特に好ましい。また、塗工の際の塗工抜け発生や、ドクター筋発生の観点より、20μm以上の粗粒を含まないものを用いることが好ましい。
【0036】
有機系粒子の材質としては公知のものが使用できる。例えばシリコーン樹脂、スチレン樹脂、スチレン・アクリル樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド縮合物、ベンゾグアナミン・メラミン・ホルムアルデヒド縮合物、メラミン・ホルムアルデヒド縮合物が挙げられる。
【0037】
有機系粒子の材質としては、絵柄層を形成したときの意匠感の観点から絵柄を鮮明にしたい場合は、バインダー樹脂と屈折率ができるだけ近いものを選定することが好ましい。例えば、バインダー樹脂にアクリル系の樹脂を用いる場合は、艶消し剤として架橋ポリメタクリル酸メチル(架橋PMMA)からなるビーズを選定することが好ましい。また逆に、屈折率が若干異なる艶消し剤を用いることで、白み感がある艶消し層とすることができる等、絵柄の種類に応じて艶消し剤を選定することができる。
【0038】
無機系粒子の材質としては公知のものが使用できる。例えばマイカ、タルク、シリカ、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化鉄等が挙げられる。また、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、界面活性剤等で表面処理された無機系粒子を使用することもできるが、加熱時黄変の観点から表面処理する材質を選択する必要がある。表面無処理の無機系粒子を使用することが、加熱時黄変の観点から好ましい。これらのうち、得られる艶消しアクリル樹脂フィルムの外観、物性等の観点から、シリカが特に好ましい。シリカとしては、市販されている公知のものを用いることができ、例えば、水澤化学工業(株)製のミズカシル、富士シリシア化学(株)製のサイシリア等が挙げられる。
【0039】
無機系粒子を艶消し剤として用いると、独特の白み感を艶消しアクリル樹脂フィルムに付与することができるため、絵柄の種類によっては意匠性を増すことができ、工業的利用価値が高い。なお、アクリル樹脂フィルム基体に無機系粒子の艶消し剤を練り込み、艶消しフィルムを得ようとすると、フィルム自体がかなり白くなるために、絵柄層を形成したときに意匠性が損なわれる。
【0040】
艶消し剤の添加量は、バインダー樹脂100質量部に対して1〜40質量部とすることが好ましい。艶消し剤の添加量は、艶消し性の観点から5質量部以上がより好ましく、10質量部以上が特に好ましい。艶消し剤の添加量は、インモールド成形性、インサート成形性の観点から、或いはグラビア塗工、グラビアリバース塗工、キスリバース塗工、マイクログラビア塗工等により艶消しアクリル樹脂フィルムを得る場合にはドクター筋を軽減する観点から、30質量部以下がより好ましく、20質量部以下が特に好ましい。
【0041】
(ワックス)
ワックスとしては、カルナバワックス、木ろう、モンタンワックス、パラフィンワックス等、公知の天然ワックスや、脂肪酸アミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン等、公知の合成ワックスや、アルキル変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル等、公知のシリコーン系ワックス、その他、シリコン系、フッ素系成分を含むブロックコポリマーを挙げることができる。
【0042】
本発明では、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンとポリプロピレンの複合物などのポリオレフィン系ワックスを用いることが好ましい。
【0043】
インモールド成形時、インサート成形時の金型汚れの観点からは、融点が高いほど成形時の熱によりワックスがブリードし難いことから、融点が120℃以上のワックスであることが好ましく、140℃以上であるものがより好ましい。なお、シリコン系、フッ素系成分を含むブロックコポリマーに関しては、もう一つのコポリマー成分を選択することにより、融点が100℃以下でも、優れた耐ブリード性を発現させることは可能である。
【0044】
このような融点を有するワックスとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンとポリプロピレンの複合体、ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。融点の観点からは、ポリエチレンとポリプロピレンの複合体がより好ましく、ポリテトラフルオロエチレンが特に好ましい。擦り傷防止効果の観点からは、ポリテトラフルオロエチレンがより好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンとポリプロピレンの複合体が特に好ましい。また、これらを組み合わせて使用することで、より優れた耐擦り傷性を発現させることが可能で、特にポリエチレンとポリテトラフルオロエチレンの組み合わせが好ましい。
一方で、塗工時のワックス沈降性の観点からは比重が小さいものであることが好ましい。例えば、ポリテトラフルオロエチレンのように比重が2を超えるものは、塗工時の液の粘度にもよるが、沈降し易い。塗工時にワックスが沈降すると、艶消し層に含まれるワックスの量が減るために耐擦り傷性が低下するばかりか、沈降したワックスを版ロールが巻き上げることにより発生する白い筋が艶消しアクリル樹脂フィルム上に欠陥として転写される。
【0045】
以上より、本発明ではポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンとポリプロピレンの複合物などのポリオレフィン系ワックスを用いることが好ましい。
【0046】
ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンとポリプロピレンの複合物等のワックスは乾式粉砕により得られた超微粉末状のものを用いることが多いが、本発明では、艶消し層の厚みよりも大きな質量平均粒子径を有するワックスを用いることが好ましい。耐擦り傷防止性の観点からは、艶消し層の厚みを2倍にした値よりも大きな質量平均粒子径を有するワックスを用いることがより好ましい。また、塗工の際の塗工抜け発生や、ドクター筋発生の観点より、20μm以上の粗粒を含まないものを用いることが好ましい。
【0047】
ワックスの添加量は、特に限定はないが、本発明の請求項目である艶消し層側の動摩擦係数が0.23以下を満たすことが出来ればよい。具体的には、バインダー樹脂100質量部に対して1〜20質量部とすることが好ましい。耐擦り傷防止性の観点から3質量部以上がより好ましく、5質量部以上が特に好ましい。また、20質量部以下であることが好ましい。
【0048】
(硬化性バインダー樹脂)
硬化性バインダー樹脂としては、公知の熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂を用いることが、耐擦傷性、耐薬品性、耐熱性の観点から好ましい。例えば、アクリル系樹脂、ウレタンアクリレート系樹脂、シリコーンアクリレート系樹脂、エポキシ系樹脂、エステル系樹脂を用いることができる。これらのうち、ウレタンアクリレート系樹脂が物性面から好ましい。
【0049】
ウレタンアクリレート系樹脂としては、公知のものを用いることができ、特に、メタクリル酸アルキルエステル単位を主成分とし、水酸基価が20〜120mgKOH/gであり、ガラス転移温度が50〜110℃である水酸基含有アクリル樹脂と、ポリイソシアネートとを含有するウレタンアクリレート系熱硬化性樹脂が好ましい。
【0050】
水酸基含有アクリル樹脂の水酸基価は、鉛筆硬度、耐擦傷性の観点から、20mgKOH/g以上が好ましく、50mgKOH/g以上がより好ましい。水酸基含有アクリル樹脂の水酸基価は、耐薬品性、密着性、成形時の艶消し層割れの観点から、120mgKOH/g以下が好ましく、100mgKOH/g以下がより好ましい。
【0051】
水酸基含有アクリル樹脂のガラス転移温度は、耐熱性、フィルムブロッキング性、鉛筆硬度、耐擦傷性の観点から、50℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましい。
【0052】
ポリイソシアネート(硬化剤)としては、公知のものを用いることができ、特に、加熱時の黄変が少ないヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等からなるイソシアヌレート型ポリイソシアネート、トリメチロールプロパンとのアダクト型ポリイソシアネート、ビューレット型ポリイソシアネートが好ましい。なお、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネートをそのまま使用することもできる。
【0053】
ポリイソシアネートは、水酸基含有アクリル樹脂中の水酸基モル量に対して、イソシアネート基のモル量として0.5〜1.5倍の範囲に相当する添加量となるように使用することが好ましい。0.5倍以上とすることで、水酸基に対して、十分なイソシアネート基量となるため、硬化が十分に進み鉛筆硬度、耐擦傷性、耐薬品性は良好となる。1.5倍以下の添加量で、十分な鉛筆硬度、耐擦傷性、耐薬品性が発現し、成形時の艶消し層割れが起こり難くなり、余分なポリイソシアネートによるフィルムのブロッキングなどの問題が発生し難くなる。
【0054】
なお、熱可塑性樹脂をバインダー樹脂に使用した場合は、成形性が良好であるものの、耐薬品性が低下する傾向がある。車輌内装用をとして用いたときに、芳香剤の成分が付着すると、艶消し層が溶けてしまうために艶戻りが発生したような外観不良が発生することがある。
【0055】
<艶消しアクリル樹脂フィルム>
本発明の艶消しアクリル樹脂フィルムは、アクリル樹脂フィルム基体の面上に、艶消し剤および硬化性バインダー樹脂を含有する塗料を塗工し、最外層に艶消し層を形成したものである。
【0056】
(艶消し層の形成方法)
印刷法またはコート法により艶消し層を形成することが好ましい。この場合、艶消し層となる原料を溶剤に溶解または分散して塗料を調製し、これをアクリル樹脂フィルム基体の一方の面に塗布し、溶剤除去のための加熱乾燥を行うことによって、艶消し層が形成される。この方法は、艶消し層とアクリル樹脂フィルム基体との密着性が良好となるため好ましい。
【0057】
印刷法としては、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法等の公知の印刷方法が挙げられる。
【0058】
コート法としては、フローコート法、スプレーコート法、バーコート法、グラビアコート法、グラビアリバースコート法、キスリバースコート法、マイクログラビアコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ロッドコート法、ロールドクターコート法、エアナイフコート法、コンマロールコート法、リバースロールコート法、トランスファーロールコート法、キスロールコート法、カーテンコート法、ディッピングコート法等の公知のコート方法が挙げられる。
【0059】
これらのうち、アクリル樹脂フィルム基体の巻き形状の影響を受け難いグラビアコート法、グラビアリバースコート法が好ましい。グラビアコート法、グラビアリバースコート法によれば、フィルムの巻き斑が原因で発生する塗工抜け等が発生し難い。
【0060】
グラビアコート法で用いるグラビアロールとしては、公知のものを用いることができる。特に、版目の影響を軽減する観点からインチ巾で150線以上の斜線型ロールを用いることが好ましい。艶消しアクリル樹脂フィルムに、版目が形成されると意匠性が損なわれるため工業的利用価値が低下する。また、斜線状に版目を形成したものを用いると、通常の格子状に版目を形成したグラビアロールを用いた場合と比較して版目を軽減できるため好ましい。
【0061】
また、斜線状に版目を形成したものを用いると、インモールド成形またはインサート成形などの熱成形を行ったときの成形品の艶消し外観が、もとの艶消しフィルム外観に近い。具体的には、成形品での蛍光灯の映りこみが、艶消しフィルムでの蛍光灯の映りこみに近いため、加飾層を施した艶消しアクリル樹脂フィルムまたは積層シートの段階での意匠感を損なうことなく、成形品を得ることができるため工業的利用価値が高い。例えば、格子状に版目を形成したグラビアロールでも版目の間に小さな溝を切ったロールを使用すると艶消しアクリル樹脂フィルムの段階では非常に良好な外観のものが得られるが、インモールド成形またはインサート成形などの熱成形を行って得た成形品は、フィルムの段階での外観と異なる。
【0062】
また、ロール軸方向に対して40〜50°の角度で彫刻されていることが好ましい。このような斜線型ロールを使用することで、塗工斑がない均一な艶消し塗工面を有するアクリル樹脂フィルムを得ることができる。
【0063】
グラビアロールの材質としては銅にハードクロムメッキを施したもの、セラミック製のものなど公知のものを用いることができるが、耐久性の観点よりセラミック製のものが好ましい。
【0064】
また、グラビアコート法で用いるドクターブレードは、鋼鉄製、ステンレス製、セラミック製などの公知のものを用いることができるが、ドクター筋の観点からステンレス製のドクターブレードを用いることが好ましい。あるいはステンレス製のドクターブレードにセラミックと滑材からなる材料をコーティングし、滑り性を改良したドクターブレードを用いることも好ましい。また、プラスティック製のドクターブレードを用いることもできる。
【0065】
アクリル樹脂フィルム基体上に、塗料を塗工する場合、溶剤によるアクリル樹脂フィル基体の物性低下軽減の観点から、アクリル樹脂フィル基体1m2 あたりに塗工される塗料に含まれる溶剤量は、30g以下が好ましく、20g以下がより好ましく、10g以下が特に好ましい。また、塗工される塗料量は、乾燥後の艶消し層の厚さが0.1〜5μmとなる量であることが好ましい。塗料量が、艶消し層の厚さが0.1μm以上となる量であれば、積層体となった場合の表面物性を発現することができる。好ましくは0.5μm以上、より好ましくは0.8μm以上である。塗料量が、艶消し層の厚さが5μm以下となる量であれば、塗工の際に用いる単位面積あたりの塗料量が少なくなるため、溶剤によるアクリル樹脂フィルム基体の物性低下を小さくすることができる。艶消し層の厚さは、好ましくは3μm以下、より好ましくは2μm未満である。
【0066】
溶剤としては、バインダー樹脂のガラス転移温度より80℃以上高くない、好ましくは30℃以上高くない沸点を有する溶剤が、艶消しアクリル樹脂フィルムに溶剤が残存しにくく好ましい。特に、バインダー樹脂の各成分および艶消し剤を溶解または均一に分散させることが可能で、かつアクリル樹脂フィルム基体の物性(機械的強度、透明性等)に実用上甚大な悪影響を及ぼさず、さらにアクリル樹脂フィルム基体の主たる構成成分である樹脂成分のガラス転移温度より80℃以上高くない、好ましくは30℃以上高くない沸点を有している揮発性の溶剤が好ましい。
【0067】
溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、エチレングリコール等のアルコール系溶剤;キシレン、トルエン、ベンゼン等の芳香族系溶剤;ヘキサン、ペンタン等の脂肪族炭化水素系溶剤;クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素系溶剤;フェノール、クレゾール等のフェノール系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;ジエチルエーテル、メトキシトルエン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジブトキシエタン、1,1−ジメトキシメタン、1,1−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル系溶剤;ギ酸、酢酸、プロピオン酸等の脂肪酸系溶剤;無水酢酸等の酸無水物系溶剤;酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸ブチル、ギ酸ブチル等のエステル系溶剤;エチルアミン、トルイジン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等の窒素含有溶剤;チオフェン、ジメチルスホキシド等の硫黄含有溶剤;ジアセトンアルコール、2−メトキシエタノール(メチルセロソルブ)、2−エトキシエタノール(エチルセロソルブ)、2−ブトキシエタノール(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコール、2−アミノエタノール、アセトシアノヒドリン、ジエタノールアミン、モルホリン、1−アセトキシ−2−エトキシエタン、2−アセトキシ−1−メトキシプロパン等の2種以上の官能基を有する溶剤;水等、各種公知の溶剤が挙げられる。これらは、単独で、または2種以上組み合わせて使用することができる。
【0068】
これらのうち、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、イソプロピルアルコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンを主成分とする溶剤が、溶剤によるアクリル樹脂フィル基体の物性低下を軽減することができるため好ましい。また、艶消し層とアクリル樹脂フィル基体との密着性の観点から、酢酸ブチル、メチルイソブチルケトンを併用することが好ましい。また、塗工後の艶斑の観点からも、酢酸ブチル、メチルイソブチルケトン等の中沸点溶剤、2−アセトキシ−1−メトキシプロパン、シクロヘキサノン等の高沸点溶剤を併用することが好ましい。
【0069】
アクリル樹脂フィルム基体上に、塗料を塗工する場合、艶消し層の塗工外観の観点から、塗料の粘度は、塗工時の雰囲気下において、岩田カップ粘度計(アネスト岩田製、NK−2モデル)での流下時間が10秒〜40秒の範囲にあることが好ましい。塗料の粘度が10秒以上の場合、グラビアコート法で塗工する際のグラビアロールの版目柄が顕著に目立たず、良好な艶消し層を形成することが出来るため好ましい。また、長時間塗工する際に、バインダー樹脂、艶消し剤、擦り傷防止剤などの塗料構成成分が経時的に沈降せず、生産安定性に優れるため好ましい。一方、塗料の粘度が40秒以下の場合、塗料のアクリル樹脂フィルム基体への転写量を低下させず、また、ドクター筋も発生し難い傾向であり、良好な艶消し層を形成することが出来るため好ましい。
【0070】
使用する塗料は、塗工抜けの軽減、ドクター筋発生軽減の観点から、異物や、シリカ、ワックスの粗粒を取り除く目的で、濾過を実施することが好ましい。濾過は、塗料調製後に実施しても良いし、塗工直前または塗工しながら実施することもできる。
【0071】
公知の濾過装置で濾過することができるが、例えば、チッソフィルター(株)製のCPII−10、03、01を用いることが好ましい。
【0072】
塗料には、皮張り防止剤、増粘剤、沈降防止剤、タレ防止剤、消泡剤、レベリング剤等の溶液性状を改善するための公知の添加剤;光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、抗菌剤、防カビ剤、難燃剤等の塗膜性能を改善するための公知の添加剤を添加することができる。
【0073】
通常、成形品に塗装によって十分な厚みの塗膜を形成するためには、十数回の重ね塗りが必要になることがあり、この場合、コストがかかり、生産性があまりよくない。それに対して、本発明の積層体は、艶消しアクリル樹脂フィルム自体が塗膜となるため、容易に非常に厚い塗膜を形成することができ、工業的利用価値が高い。
【0074】

(艶消しアクリル樹脂フィルムの動摩擦係数)
本発明の艶消しアクリル樹脂フィルムは、試験速度100mm/min、移動距離10mm、荷重9.8Nの試験条件において、艶消し層側とブロード60番との動摩擦係数(以下、艶消し層側の動摩擦係数とする)が0.23以下である。
【0075】
従来知られている艶消しアクリル樹脂フィルムでは、耐擦傷性の指標として鉛筆硬度が用いられることが多かったが、アクリル樹脂フィルム上に艶消し層が形成された艶消しアクリル樹脂フィルムにおいては、鉛筆硬度以外に、動摩擦係数も重要な指標となる。つまり、動摩擦係数が小さいほど、艶消しアクリル樹脂フィルムの耐擦傷性は良好となる。例えば、アクリル樹脂フィルムに艶消し層を設けた艶消しアクリル樹脂フィルムにおいては、鉛筆硬度がHであっても動摩擦係数が0.23以下でなければ良好な耐擦傷性を示さない。
【0076】
艶消し層側の動摩擦係数が0.23以下の艶消しアクリル樹脂フィルムでは、インサート成形またはインモールド成形を施す工程中で、艶消しアクリル樹脂フィルム表面に傷か付き難く、さらに積層体の耐擦傷性が良好となる。
【0077】
本発明の艶消しアクリル樹脂フィルムを用いた積層体は、ドアウエストガーニッシュ、フロントコントロールパネル、パワーウィンドウスイッチパネル、エアバッグカバー等、各種車輌用部材に好適に使用することができる。用途拡大の観点から工業上非常に有用である。
【0078】
(艶消しアクリル樹脂フィルムの鉛筆硬度)
本発明の艶消しアクリル樹脂フィルムは、鉛筆硬度(JIS K5600に基づく測定)が2B以上であることが好ましい。
【0079】
鉛筆硬度が2B以上の艶消しアクリル樹脂フィルムとすることで、インサート成形またはインモールド成形を施す工程中で、艶消しアクリル樹脂フィルム表面に傷がつきにくく、さらに積層体の耐擦傷性も良好となる。
【0080】
車輌用部材等の積層体に使用される場合を考慮すると、本発明の艶消しアクリル樹脂フィルムの鉛筆硬度は、HB以上であることが好ましい。
【0081】
このような鉛筆硬度を有する艶消しアクリル樹脂フィルムを得るためには、基材となるアクリル樹脂フィルムの鉛筆硬度が重要である。基材となるアクリル樹脂フィルムの鉛筆硬度は2B以上であることが好ましく、HB以上であることがより好ましく、F以上であることが最も好ましい。
【0082】
(艶消しアクリル樹脂フィルムの耐熱黄変性)
本発明の艶消しアクリル樹脂フィルムは、空気雰囲気下において、20〜25℃/秒の昇温スピードで200℃まで加熱した後の黄色度(以下、YI’(200℃)とする)から加熱前の艶消しアクリル樹脂フィルムの黄色度(以下、YIとする)を差し引いた値が1.3以下であるものが好ましい。この値が1.3以下の場合、インサート成形およびインモールド成形を施した際、木目調などの一般的な絵柄において、艶消しアクリル樹脂フィルムの黄変色が認められず、良好な意匠性を保持した積層体を得ることができる。好ましくは、1.0以下である。1.0以下の場合、艶消しアクリル樹脂フィルムの黄変が目立ち易い、白色度の強い絵柄あるいはメタリック調の絵柄においても、艶消しアクリル樹脂フィルムの黄変色が認められず、良好な意匠性を保持した積層体を得ることができる。さらに好ましくは0.5以下、最も好ましくは0.3以下である。また、同じくインサート成形およびインモールド成形を施した際に成形前の意匠を保持する観点から、YI’(200℃)からYIの差し引いた値が−2.0以上であることが好ましい。
【0083】
特に限定されないが、空気雰囲気下において、20〜25℃/秒の昇温スピードで250℃まで加熱した後の艶消しアクリル樹脂フィルムの黄色度(以下、YI’(250℃)とする)から該艶消しアクリル樹脂フィルムの黄色度(YI)を差し引いた値が2.0以下であることが好ましい。より好ましくは1.5以下、さらに好ましくは1.0以下、最も好ましくは0.5以下である。また、YI’(250℃)とYIの差し引いた値が−2.0以上であることが好ましい。
【0084】
また、特に限定されないが、印刷を施した際の意匠性の観点から、加熱前の艶消しアクリル樹脂フィルムの黄色度は低い方が好ましい。具体的には6.0以下が好ましい。
【0085】
なお、艶消しアクリル樹脂フィルムの黄色度は、フィルムを加熱した場合には、フィルムを室温まで冷却した後、該フィルムのアクリル樹脂基体側にマンセル記号がN9.5のスノウホワイト油性色紙(標準色カード230、日本色研事業製)を重ね合わせ、分光式色差計SE2000(日本電色製)を用い、標準C光、反射モードの条件にて該フィルムの艶消し層側を測定した値を用いる。
【0086】
本発明のような、加熱前後の艶消しアクリル樹脂フィルムの黄色度差は、艶消し層を特定の成分から構成させることで達成される。具体的には、艶消し剤、硬化剤等の構成成分は、耐熱黄変色の観点から適したものを選択する必要がある。
【0087】
<絵柄層>
本発明の艶消しアクリル樹脂フィルムには、各種基材に意匠性を付与するために絵柄層を形成してもよい。この場合、艶消し層が設けられた面とは反対側のアクリル樹脂フィルム基体の面上に絵柄層を形成することが好ましい。また、積層体の製造時には、絵柄層を基材との接着面に配することが加飾面の保護および高級感の付与の点から好ましい。
【0088】
絵柄層は公知の方法で形成することができる。絵柄層としては、印刷法で形成された印刷層、および/または蒸着法で形成された蒸着層が好ましい。
【0089】
(印刷層)
印刷層は、インサートまたはインモールド成形によって得られた積層体表面で模様または文字等となる。印刷柄としては、例えば、木目、石目、布目、砂目、幾何学模様、文字、全面ベタ等からなる絵柄が挙げられる。
【0090】
印刷層のバインダーとしては、塩化ビニル/酢酸ビニル系共重合体等のポリビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、アルキッド樹脂、塩素化ポリオレフィン系樹脂等の樹脂が挙げられる。
【0091】
印刷層の形成には、バインダー、および適切な色の顔料または染料を着色剤として含有する着色インキを用いるとよい。
【0092】
顔料としては、例えば、つぎのものが挙げられる。黄色顔料としては、ポリアゾ等のアゾ系顔料、イソインドリノン等の有機顔料;黄鉛等の無機顔料が挙げられる。赤色顔料としては、ポリアゾ等のアゾ系顔料、キナクリドン等の有機顔料;弁柄等の無機顔料が挙げられる。青色顔料としては、フタロシアニンブルー等の有機顔料;コバルトブルー等の無機顔料が挙げられる。黒色顔料としては、アニリンブラック等の有機顔料が挙げられる。白色顔料としては、二酸化チタン等の無機顔料が挙げられる。
【0093】
染料としては、本発明の効果を損なわない範囲で、各種公知の染料を使用することができる。
【0094】
印刷層の形成方法としては、オフセット印刷法、グラビア輪転印刷法、スクリーン印刷法等の公知の印刷法;ロールコート法、スプレーコート法等の公知のコート法;フレキソグラフ印刷法等が挙げられる。
【0095】
印刷層の厚さは、必要に応じて適宜決めればよく、通常、0.5〜30μm程度である。
【0096】
印刷層における印刷抜けの個数は、意匠性、加飾性の観点から、10個/m2 以下が好ましい。印刷抜けの個数を10個/m2 以下とすることにより、艶消しアクリル樹脂フィルムを用いた積層体の外観がより良好となる。印刷層における印刷抜けの個数は、5個/m2 以下がより好ましく、1個/m2 以下が特に好ましい。
【0097】
印刷層は、インサートまたはインモールド成形によって得られた積層体において所望の表面外観が得られるよう、インサートまたはインモールド成形時の伸張度合いに応じて、適宜その厚さを選択すればよい。
【0098】
(蒸着層)
蒸着層は、アルミニウム、ニッケル、金、白金、クロム、鉄、銅、インジウム、スズ、銀、チタニウム、鉛、亜鉛等からなる群から選ばれる少なくとも一つの金属、またはこれらの合金、または化合物で形成される。蒸着層の形成方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法等の方法が挙げられる。
【0099】
蒸着層は、インサートまたはインモールド成形によって得られた積層体において所望の表面外観が得られるよう、インサートまたはインモールド成形時の伸張度合いに応じて、適宜その厚みを選択すればよい。
【0100】
<他の層>
(接着層)
本発明の艶消しアクリル樹脂フィルムには、必要に応じて接着層を設けてもよい。接着層は、艶消し層が設けられた面とは反対側の表面に形成することが好ましい。
【0101】
(カバーフィルム)
また、本発明の艶消しアクリル樹脂フィルムには、さらにカバーフィルムを設けてもよい。このカバーフィルムは、艶消しアクリル樹脂フィルムの表面の防塵に有効である。カバーフィルムは、艶消し層の表面、艶消し層が設けられた面とは反対側の表面のいずれにも設けることができる。少なくとも艶消し層の表面に設けることが好ましい。
【0102】
カバーフィルムを艶消し層の表面に設けた場合、カバーフィルムは、インモールド、インサート成形する前まで艶消し層に密着し、インモールド、インサート成形する際は直ちに剥離するため、艶消し層に対して適度な密着性および良好な離型性を有していることが必要である。カバーフィルムとしては、このような条件を満たしたフィルムであれば、任意のフィルムを選択して用いることができる。そのようなフィルムとしては、例えば、ポリエチレン系フィルム、ポリプロピレン系フィルム、ポリエステル系フィルム等が挙げられる。
【0103】
(熱可塑性樹脂層)
本発明の艶消しアクリル樹脂フィルムを、さらに熱可塑性樹脂層に積層して、積層フィルムまたはシートとしてもよい。艶消しアクリル樹脂フィルムを熱可塑性樹脂層に積層する向きとしては、艶消し層が設けられた面とは反対側の表面が熱可塑性樹脂層に接するように積層することが好ましい。
【0104】
熱可塑性樹脂層は、基材との密着性を高める目的から、基材との相溶性を有する材料からなるものが好ましい。熱可塑性樹脂層は、基材と同じ材料からなるものがより好ましい。熱可塑性樹脂層としては、公知の熱可塑性樹脂フィルムまたはシートを用いることができ、例えば、アクリル樹脂;ABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体);AS樹脂(アクリロニトリル−スチレン共重合体);塩化ビニル樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂;エチレン−酢酸ビニル共重合体またはその鹸化物、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体等のポリオレフィン系共重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、ポリカーボネート等のポリエステル系樹脂;6−ナイロン、6,6−ナイロン、6,10−ナイロン、12−ナイロン等のポリアミド系樹脂;ポリスチレン樹脂;セルロースアセテート、ニトロセルロース等の繊維素誘導体;ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフロロエチレン、エチレン−テトラフロロエチレン共重合体等のフッ素系樹脂等;またはこれらから選ばれる2種、または3種以上の共重合体または混合物、複合体、積層体等が挙げられる。
【0105】
これらのうち、熱可塑性樹脂層としては、絵柄層の形成性(艶消しアクリル樹脂フィルムに形成する代わりに、熱可塑性樹脂層に形成することもできる)、積層フィルムまたはシートの二次成形性の観点から、アクリル樹脂、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン、ポリカーボネートが好ましい。
【0106】
熱可塑性樹脂層には、必要に応じて、一般の配合剤、例えば、安定剤、酸化防止剤、滑剤、加工助剤、可塑剤、耐衝撃剤、発泡剤、充填剤、抗菌剤、防カビ剤、離型剤、帯電防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、難燃剤等を配合してもよい。
【0107】
熱可塑性樹脂層の厚さは、必要に応じて適宜決めればよく、通常、20〜500μm程度とすることが好ましい。熱可塑性樹脂層は、艶消しアクリル樹脂フィルムの外観が完全に円滑な上面を呈する、基材の表面欠陥を吸収する、または射出成形時に絵柄層が消失しない、程度の厚さを有することが好ましい。
【0108】
積層フィルムまたはシートを得る方法としては、熱ラミネーション、ドライラミネーション、ウェットラミネーション、ホットメルトラミネーション等の公知の方法が挙げられる。また、押出しラミネーションにより艶消しアクリル樹脂フィルムと熱可塑性樹脂層とを積層することもできる。
【0109】
本発明の艶消しアクリル樹脂フィルムを積層フィルムまたはシートとすることで、衝撃、変形等の外力に対して取り扱い上十分な強度が発現する。例えば、インサート成形等でフィルムを真空成形した後に金型から取り外したり、その真空成形品を射出成形用金型に装着したりするときに被る衝撃、変形等に対しても、割れ等が生じ難く、取り扱い性が良好となる。さらに、例えば射出成形された基材の表面欠陥が、艶消しアクリル樹脂フィルムに伝搬されることを最少にする、または基材を射出成形する際に、絵柄層が消失しにくくなるといった利点を与える。
【0110】
必要に応じて、艶消しアクリル樹脂フィルムの片面、積層フィルムまたはシートの熱可塑性樹脂層の表面に、例えばコロナ処理、オゾン処理、プラズマ処理、電離放射線処理、重クロム酸処理、アンカー、プライマー処理等の表面処理を施してもよい。艶消しアクリル樹脂フィルムと絵柄層との間、熱可塑性樹脂層と絵柄層との間、艶消しアクリル樹脂フィルムと熱可塑性樹脂層との間等の密着性を向上させることができる。
【0111】
<積層体>
本発明の積層体は、本発明の艶消しアクリル樹脂フィルム、その積層フィルムまたはシートを、基材に積層したものである。このとき、艶消し層が設けられた面とは反対側の面が基材に接するように、艶消しアクリル樹脂フィルムを基材に積層して積層体とすることが好ましい。
【0112】
基材の材質としては、樹脂;木材単板、木材合板、パーティクルボード、中密度繊維板(MDF)等の木材板;木質繊維板等の水質板;鉄、アルミニウム等の金属等が挙げられる。
【0113】
樹脂としては、種類は問わず、公知の樹脂が使用可能である。樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体、オレフィン系熱可塑性エラストマー等のポリオレフィン系樹脂;ポリスチレン樹脂、ABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)、AS樹脂(アクリロニトリル−スチレン共重合体)、アクリル樹脂、ウレタン系樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等の汎用の熱可塑性または熱硬化性樹脂;ポリフェニレンオキシド・ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール、ポリカーボネート変性ポリフェニレンエーテル、ポリエチレンテレフタレート等の汎用エンジニアリング樹脂;ポリスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキシド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、液晶ポリエステル、ポリアリル系耐熱樹脂等のスーパーエンジニアリング樹脂等;ガラス繊維または無機フィラー(タルク、炭酸カルシウム、シリカ、マイカ等)等の補強材、ゴム成分等の改質剤を添加した複合樹脂または各種変性樹脂等が挙げられる。
【0114】
これらのうち、基材の材料としては、艶消しアクリル樹脂フィルム、その積層フィルムまたはシートと溶融接着可能なものが好ましい。例えば、ABS樹脂、AS樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、またはこれらを主成分とする樹脂が挙げられる。接着性の点でABS樹脂、AS樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、またはこれらを主成分とする樹脂が好ましく、特にABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、またはこれらを主成分とする樹脂がより好ましい。
【0115】
ポリオレフィン系樹脂等の熱融着しない樹脂であっても、接着層を設けることで、艶消しアクリル樹脂フィルム、その積層フィルムまたはシートからなる群より選ばれる1つと基材とを成形時に接着させることは可能である。
【0116】
本発明の積層体の製造方法としては、二次元形状の積層体の場合で、かつ基材が熱融着できるものの場合は、熱ラミネーション等の公知の方法を用いることができる。例えば、木材単板、木材合板、パーティクルボード、中密度繊維板(MDF)等の木材板、木質繊維板等の水質板、鉄、アルミニウム等の金属等、熱融着しない基材に対しては、接着層を介して貼り合わせることが可能である。
【0117】
三次元形状の積層体の場合は、インサート成形法、インモールド成形法等の公知の方法を用いることができる。
【0118】
インモールド成形法は、艶消しアクリル樹脂フィルム、またはその積層フィルムまたはシートを加熱した後、真空引き機能を持つ金型内で真空成形を行い、ついで、同じ金型内において基材となる樹脂を射出成形することにより、艶消しアクリル樹脂フィルム、またはその積層フィルムまたはシートと基材とを一体化させた積層体を得る方法である。インモールド成形法は、フィルムの成形と射出成形を一工程で行えるため、作業性、経済性の点から好ましい。
【0119】
絵柄層を有する公知のアクリル樹脂フィルムを用いてインモールド成形を行った場合、金型の形状、射出成形の条件によっては、ゲート付近の絵柄層が消失することがある。ゲートは、ゲート部で樹脂流路が狭められない非制限ゲートと、流路が狭められる制限ゲートとに大別される。後者の代表例としてピンポイントゲート、サイドゲート、サブマリンゲート等が挙げられる。制限ゲートの場合、ゲート付近の残留応力は小さくなるものの、ゲート通過樹脂の温度上昇をともなったり、ゲート付近のアクリル樹脂フィルム面にかかる単位面積あたりの射出樹脂圧力が大きくなったりするため、絵柄層が消失しやすい。
【0120】
熱可塑性樹脂層を有する積層フィルムまたはシートは、熱可塑性樹脂層が存在するために絵柄層の消失をより軽減することができる点で好ましい。
【0121】
インモールド成形時の加熱温度は、艶消しアクリル樹脂フィルム、またはその積層フィルムまたはシートが軟化する温度以上が好ましい。具体的には、フィルムの熱的性質または積層体の形状によって適宜設定すればよく、通常70℃以上である。また、あまり温度が高いと、表面外観が悪化したり、離型性が悪くなる傾向にある。これもフィルムの熱的性質または積層体の形状によって適宜設定すればよく、通常は170℃以下である。さらに、エネルギー効率の観点からは、真空成形時の予備加熱温度は低い方が好ましい。具体的には135℃以下が好ましい。また、予備加熱温度が低くとも成形できるフィルムは、予備加熱温度を低くする代わりに予備加熱時間を短くすることもできる。この場合は、真空成形のハイサイクル化が可能となり、工業的利用価値が高い。
【0122】
真空成形によりフィルムに三次元形状を付与する場合、本発明の艶消しアクリル樹脂フィルム、またはその積層フィルムまたはシートは、高温時の伸度に富んでおり、非常に有利である。
【0123】
射出成形される樹脂としては、種類は問わず、射出成形可能な全ての樹脂が使用可能である。射出成形後の樹脂の収縮率を、艶消しアクリル樹脂フィルム、またはその積層フィルムまたはシートの収縮率に近似させることが、インモールド成形、インサート成形によって得られた積層体の反り、またはフィルムまたはシートの剥がれ等の不具合を解消できるため好ましい。
【0124】
本発明の積層体は、特に、車輌用部材、建材に適している。具体例としては、インストルメントパネル、コンソールボックス、メーターカバー、ドアロックペゼル、ステアリングホイール、パワーウィンドウスイッチベース、センタークラスター、ダッシュボード等の自動車内装用部材;ウェザーストリップ、バンパー、バンパーガード、サイドマッドガード、ボディーパネル、スポイラー、フロントグリル、ストラットマウント、ホイールキャップ、センターピラー、ドアミラー、センターオーナメント、サイドモール、ドアモール、ウインドモール等、窓、ヘッドランプカバー、テールランプカバー、風防部品等の自動車外装用部材;AV機器、家具製品等のフロントパネル、ボタン、エンブレム、表面化粧材等;携帯電話等のハウジング、表示窓、ボタン等;家具用外装材;壁面、天井、床等の建築用内装材;サイディング等の外壁、塀、屋根、門扉、破風板等の建築用外装材;窓枠、扉、手すり、敷居、鴨居等の家具類の表面化粧材;各種ディスプレイ、レンズ、ミラー、ゴーグル、窓ガラス等の光学部材;電車、航空機、船舶等の自動車以外の各種乗り物の内外装用部材;瓶、化粧品容器、小物入れ等の各種包装容器、包装材料;景品、小物等の雑貨等のその他各種用途等に好適に使用することができる。
【0125】
本発明のように、アクリル樹脂フィルム基体の一方の面上に、少なくとも艶消し剤と硬化性バインダー樹脂とを含む艶消し層が最外層に設けられた艶消しアクリル樹脂フィルムで、かつ、その艶消し層側の動摩擦係数が特定の値以下である艶消しアクリル樹脂フィルムを採用すると、従来のアクリル樹脂フィルム層に艶消し剤を添加した場合には実現困難な意匠性を発現し、且つ取り扱い性が良好であり、インサート成形またはインモールド成形を施し、深絞り形状の成形品に成形した場合でも、艶消し層に割れが発生しない、かつ車輌用途に用いることができる耐擦傷性、表面硬度、耐熱性、耐薬品性、耐熱黄変性、および艶消し性を有するアクリル樹脂フィルム、およびこれらを基材に積層した積層体を提供することができる。また、本発明の方法を採用することで、艶消しアクリル樹脂フィルムを安定的に製造することが可能となる。従来のアクリル樹脂フィルムに比べ、使用用途を飛躍的に広げることが可能である。
【実施例】
【0126】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は実施例により限定されるものではない。実施例中の「部」とあるのは「質量部」を表し、「%」は「質量%」を表す。また、実施例中の略号は表1の通りである。
【0127】
略号:化合物
MMA:メタクリル酸メチル
MA:アクリル酸メチル
n−BA:アクリル酸n−ブチル
St:スチレン
1,3−BD:1,3−ブチレングリコールジメタクリレート
AMA:メタクリル酸アリル
CHP:クメンハイドロパーオキサイド
t−BH:t−ブチルハイドロパーオキサイド
n−OM:n−オクチルメルカプタン
EDTA:エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム
HEMA:メタクリル酸2−ヒドロキシエチル
〔物性の測定、評価方法〕
ゴム含有重合体(I’)およびゴム含有多段重合体(I)、熱可塑性重合体(II)、および熱可塑性重合体(IV)の物性、作製したアクリル樹脂フィルム基体(A)〜(C)、実施例1〜6、および比較例1〜4において得られた艶消しアクリル樹脂フィルム、および積層体等の物性は、以下のように測定、評価した。
【0128】
積層体の評価は、以下の(12)または(13)に示した成形性の評価用に作製した積層体を用いて行った。
【0129】
(1)ゴム含有重合体(I’)およびゴム含有多段重合体(I)の質量平均粒子径:
乳化重合にて得られたゴム含有重合体(I’)およびゴム含有多段重合体(I)の重合体ラテックスについて、大塚電子(株)製の光散乱光度計DLS−700(商品名)を用い、動的光散乱法で測定した。
【0130】
(2)ゴム含有重合体(I’)およびゴム含有多段重合体(I)のゲル含有率:
所定量(抽出前質量)のゴム含有重合体(I’)およびゴム含有多段重合体(I)(重合後、得られた凝固粉)をアセトン溶媒中、還流下で抽出処理し、この処理液を遠心分離により分別し、乾燥後、アセトン不溶分の質量を測定し(抽出後質量)、下記式にて算出した。
【0131】
ゲル含有率(%)=抽出後質量(g)/抽出前質量(g)×100
(3)ゴム含有重合体(I’)およびゴム含有多段重合体(I)、バインダー樹脂のガラス転移温度(Tg):
ポリマーハンドブック〔Polymer HandBook(J.Brandrup,Interscience,1989)〕に記載されている値を用いてFOXの式から算出した。
【0132】
(4)熱可塑性重合体(II)、熱可塑性重合体(IV)の還元粘度:
重合体0.1gをクロロホルム100mLに溶解し、25℃で測定した。
【0133】
(5)バインダー樹脂の水酸基価:
JIS K0070に従って測定した。
【0134】
(6)バインダー樹脂の質量平均分子量:
Shimadzu LC−6Aシステム((株)島津製作所製)を用い、GPCカラムとしてKF−805L(昭和電工(株)製)を3本連結したものを用い、溶媒としてTHFを用い、ポリスチレン換算で測定した。
【0135】
(7)アクリル樹脂フィルム基体の加熱収縮率:
A4サイズに切り出したアクリル樹脂フィルム基体の表面に、MD方向(製膜時の流れ方向)およびTD方向(MD方向と垂直に交わる向き)に、5cm間隔に3本の平行な直線を引いて、その間隔をノギスで正確に計測した。間隔の計測は2箇所で行い、計測した箇所に目印を付けた。その後、130℃雰囲気下に60分放置して、取り出した後、先に計測した箇所と同じ箇所の間隔をもう一度計測した。2箇所の間隔の平均値を用い、下記式より、加熱収縮率を計算した。
【0136】
加熱収縮率(%)=((加熱前の間隔−加熱後の間隔)/加熱前の間隔)×100
(8)艶消しアクリル樹脂フィルムの艶消し層の厚さ:
艶消しアクリル樹脂フィルムを断面方向に70nmの厚みに切断したサンプルを、透過型電子顕微鏡(日本電子(株)製 J100S)にて観察し、5箇所で厚さを測定し、それらを平均することにより艶消し層の厚さを求めた。艶消し層の厚さは、艶消し剤が存在しない部分、つまりバインダー樹脂のみからなる部分を観察して測定した。
【0137】
(9)艶消しアクリル樹脂フィルムの鉛筆硬度:
JIS K5400に従って測定した。なお、艶消し層の表面の鉛筆硬度を測定した。
【0138】
(10)艶消しアクリル樹脂フィルムの表面光沢:
グロスメーター((株)村上色彩技術研究所製、GM−26D型(商品名))を用い、艶消し面の60°での表面光沢を測定した。
【0139】
(11)艶消しアクリル樹脂フィルム加熱時の黄変色性:
厚さ約75μmの艶消しアクリル樹脂フィルムを、上;350℃、下;500℃にそれぞれ設定した遠赤外線ヒーターパネルが配置された真空圧空成形機((株)浅野研究所製)のクランプ枠に固定した。なお、遠赤外線ヒーターパネルは、クランプにセットした艶消しアクリル樹脂フィルムの上下それぞれ100mmの場所の両面に設置されている。
【0140】
艶消しアクリル樹脂フィルムの加熱開始前の表面温度は25℃であった。ここから、艶消しアクリル樹脂フィルムの表面温度が所定温度になるまで加熱した。なお、フィルムの表面温度が250℃になるまでに要した時間は約11秒であり、昇温スピードは約20℃/秒であった。また、フィルムの表面温度が200℃になるまでに要した時間は約7秒であり、昇温スピードは約25℃/秒であった。フィルム表面温度は、クランプ上方に配置されている非接触型温度計により測定した。
【0141】
その後、フィルム温度が再び室温になるまで冷却した後、該フィルムのアクリル樹脂基体側にマンセル記号がN9.5のスノウホワイト油性色紙(標準色カード230、日本色研事業製)を重ね合わせ、分光式色差計SE2000(日本電色製)を用い、標準C光、反射モードの条件にて該フィルムの艶消し層側を測定面とし黄色度YI’を測定した。
【0142】
一方、加熱前の艶消しアクリル樹脂フィルムも同様にして黄色度YIを測定し、YI’からYIを差し引いた値を以って黄変色性を評価した。
【0143】
(12)艶消しアクリル樹脂フィルムのインサート成形性:
厚さ約75μmの艶消しアクリル樹脂フィルムに、絵柄層としてシルバーメタリック層を、グラビア印刷にてアクリル樹脂フィルム基体側に設けた。さらに、艶消しアクリル樹脂フィルムに、接着層を有する厚さ1mmのABSシートを、接着層とシルバーメタリック層とが接するように、熱ラミネーションによって積層し、艶消しアクリル樹脂フィルムの積層シートを得た。この積層シートを用いて成形を行った。
【0144】
具体的には、得られた積層シートを、艶消しアクリル樹脂フィルム側がキャビティー側になるように、真空引き機能を持つ金型内に配置し、積層シートが190℃に達するまでヒーターで加熱した後、真空成形を行った。ついで、不要部をトリミングした。キャビティー側の金型の底、かつ中央のゲートから横方向に3cmの位置に、1cm2 、深さ1mmの凹みがある金型の底に、真空成形した積層シートを、艶消しアクリル樹脂フィルム側がキャビティー側になるように配置した。ついで、積層シートのABSシート側に基材となるABS樹脂(UMG ABS(株)製、商品名「ダイヤペットABSバルクサムTM25」)を射出成形し、インサート成形により積層体を得た。
【0145】
詳細な積層体の形状は、縦150mm×横120mm×厚さ2mm、深さ10mmの箱型であり、金型のゲート位置は、積層体中央に1箇所、中央ゲートの上下(積層体縦方向)40mmの位置に各1箇所の計3箇所であり、ゲート形状は、直径1mmのピンポイントゲートである。また、金型のキャビティー側の底面と側面を結ぶ角のコーナーRは約3である。つまり、アクリル樹脂フィルムがラミネートされる側の積層体エッジ部のコーナーRは約3である。コーナーRは、FUJI TOOL製 RADIUS GAGEで測定した。
【0146】
射出成形は、(株)日本製鋼所製、J85ELII型射出成形機(商品名)を用い、シリンダー温度250℃、射出速度30%、射出圧力43%、金型温度60℃の条件で行った。
【0147】
得られた積層体に形成された1cm2 、高さ1mmの凸部分、または積層体エッジ部のコーナー付近の状態を観察し、以下のように評価した。
【0148】
(凸部の割れについて)
○:割れなし、
×:艶消し層に大きな割れが発生。
【0149】
(コーナー付近の割れについて)
○:割れなし、
×:艶消し層に大きな割れが発生。
【0150】
(凸部の白化に関して)
○:フィルム白化なし、
×:フィルム強い白化あり。
【0151】
(コーナー付近の白化に関して)
○:フィルム白化なし、
×:フィルム強い白化あり。
【0152】
(13)艶消しアクリル樹脂フィルムのインモールド成形性:
厚さ約75μmの艶消しアクリル樹脂フィルムを用いてインモールド成形を行った。
【0153】
具体的には、真空引き機能を有し、キャビティー側の金型の底、かつ中央のゲートから横方向に3cmの位置に、1cm2 、深さ1mmの凹みがある金型を用い、J85ELII型射出成形機((株)日本製鋼所製、商品名)およびホットパックシステム(日本写真印刷(株)製、商品名)を組み合わせたインモールド成形装置により、インモールド成形を行った。
【0154】
詳細な積層体の形状は、縦150mm×横120mm×厚さ2mm、深さ10mmの箱型であり、金型のゲート位置は、積層体中央に1箇所、中央ゲートの上下(積層体縦方向)40mmの位置に各1箇所の計3箇所であり、ゲート形状は、直径1mmのピンポイントゲートである。また、金型のキャビティー側の底面と側面を結ぶ角のコーナーRは約3である。つまり、アクリル樹脂フィルムがラミネートされる側の積層体のコーナーRは約3である。コーナーRは、FUJI TOOL製 RADIUS GAGEで測定した。
【0155】
艶消しアクリル樹脂フィルムの真空成形は、ヒーター設定温度約330℃、加熱時間12秒、ヒーターとフィルムとの距離15mmの条件で行い、艶消し層が金型と接する向きに真空成形を実施した。
【0156】
また、引き続き同一金型内で実施する射出成形は、シリンダー温度250℃、射出速度30%、射出圧力43%、金型温度60℃の条件で、非艶消し層から基材樹脂を射出した。基材樹脂としては、耐熱性ABS樹脂(UMG ABS(株)製、商品名「バルクサムTM25B」)を用いた。
【0157】
得られた積層体に形成された1cm2 、高さ1mmの凸部分、または積層体エッジ部のコーナー付近の状態を観察し、以下のように評価した。
【0158】
(凸部の割れについて)
○:割れなし、
×:艶消し層に大きな割れが発生。
【0159】
(コーナー付近の割れについて)
○:割れなし、
×:艶消し層に大きな割れが発生。
【0160】
(凸部の白化に関して)
○:フィルム白化なし、
×:フィルム強い白化あり。
【0161】
(コーナー付近の白化に関して)
○:フィルム白化なし、
×:フィルム強い白化あり。
【0162】
(14)積層体の動摩擦係数
試験速度100mm/min、移動距離10mm、荷重9.8Nの試験条件において、摩擦させる相手材としてブロード60番を用いたときの、艶消しアクリル樹脂フィルムを積層した積層体の艶消し層側の動摩擦係数を測定した。なお、サンプルは(13)で成形したものを用いて、動摩擦係数は測定点数5点の平均値を用いた。
【0163】
(15)積層体の耐擦傷性:
(条件1)
1枚重ねのブロード60番上に0.01MPaの荷重をかけながら積層体を押さえ付け、該積層体を、100mmのストローク幅で、かつ30往復/分の速さで1000往復させた。積層体の外観を以下のように評価した。
【0164】
◎:外観変化なし。
【0165】
○:僅かに傷つきあり。
【0166】
△:弱い艶戻りあり。
【0167】
×:強い艶戻りあり。
【0168】
(条件2)
5枚重ねのカーゼ上に0.049MPaの荷重をかけながら積層体を押さえ付け、該積層体を、100mmのストロークで、かつ30往復/分の速さで200往復させた。積層体の外観を以下のように評価した。
【0169】
◎:外観変化なし。
【0170】
○:僅かに傷つきあり。
【0171】
△:弱い艶戻りあり。
【0172】
×:強い艶戻りあり。
【0173】
(16)積層体の耐薬品性
積層成形品表面に内径38mm、高さ15mmのポリエチレン製円筒を置き、圧着器で試験片に強く密着させ、その開口部に自動車用芳香剤(株)ダイヤケミカル製グレイスメイトポピー柑橘系を5ml注入する。開口部にガラス板で蓋をした後、55℃に保持した恒温槽に入れ4時間放置する。試験後、圧着器を取り外し、試験片を水洗した後風乾し、試験部の表面の白化状態を観察する。
【0174】
○−艶消し層の剥がれがない(艶戻りがない)
△−艶消し層の剥がれが僅かにある(僅かに艶戻りがある)
×−艶消し層の剥がれがある(艶戻りがある)
(17)積層体の外観:
蛍光灯の光の下での積層体の絵柄層の見え方を目視により以下のように評価した。
【0175】
○:蛍光灯の映りこみが僅かに確認できる、また、インサート成形品では、絵柄層の絵柄が鮮明に見え、極わずかに白味がかっているためシルバーメタリック感が良好である。
【0176】
×:蛍光灯の映りこみは確認できるが、成形品表面の艶消し面のうねりが成形前の艶消しアクリル樹脂フィルムの状態と比較して大きくなったため、映り込み方がぼやけている。
【0177】
(18)積層体の外観(黄変色性の評価):
積層体の絵柄層の見え方を目視により以下のように評価した。
【0178】
○:成形前の絵柄層と変化なし。
【0179】
×:成形前の絵柄層より黄色味が目立ち、意匠が異なって見える。
【0180】
〔製造例1〕
(ゴム含有多段重合体(I)の製造)
攪拌機を備えた容器に脱イオン水10.8部を仕込んだ後、MMA 0.3部、n−BA 4.5部、1,3−BD 0.2部、AMA 0.05部およびCHP 0.025部からなる単量体成分を投入し、室温下にて攪拌混合した。ついで、攪拌しながら、乳化剤(東邦化学工業(株)製、商品名「フォスファノールRS610NA」)1.3部を上記容器内に投入し、攪拌を20分間継続して乳化液を調製した。
【0181】
つぎに、冷却器付き重合容器内に脱イオン水139.2部を投入し、75℃に昇温した。さらに、イオン交換水5部にソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.20部、硫酸第一鉄0.0001部およびEDTA0.0003部を加えて調製した混合物を重合容器内に一度に投入した。ついで、窒素下で攪拌しながら、調製した乳化液を8分間にわたって重合容器に滴下した後、15分間反応を継続させ、弾性重合体の第1段階目の重合を完結した(I−A−1)。続いて、MMA 9.6部、n−BA 14.4部、1,3−BD 1.0部およびAMA 0.25部からなる単量体成分を、CHP 0.016部と共に、90分間にわたって重合容器に滴下した後、60分間反応を継続させ、弾性重合体の二段目重合体の重合を完結させ(I−A−2)、弾性重合体(I−A)を得た。重合体(I−A−1)単独のTgは−48℃であり、重合体(I−A−2)単独のTgは−10℃であった。
【0182】
続いて、MMA 6部、MA 4部およびAMA 0.075部からなる単量体成分を、CHP 0.0125部と共に、45分間にわたって重合容器に滴下した後、60分間反応を継続させ、中間重合体(I−B)を形成させた。中間重合体(I−B)単独のTgは60℃であった。
【0183】
続いて、MMA 57部、MA 3部、n−OM 0.264部およびt−BH 0.075部からなる単量体成分を140分間にわたって重合容器に滴下した後、60分間反応を継続させ、硬質重合体(I−C)を形成して、ゴム含有多段重合体(I)の重合体ラテックスを得た。硬質重合体(I−C)単独のTgは99℃であった。また、重合後に測定したゴム含有多段重合体(I)の質量平均粒子径は0.11μmであった。
【0184】
得られたゴム含有多段重合体(I)の重合体ラテックスを、濾材としてSUS製のメッシュ(平均目開き:62μm)を取り付けた振動型濾過装置を用いて濾過した後、酢酸カルシウム3.5部を含む水溶液中で塩析させ、水洗して回収した後、乾燥し、粉体状のゴム含有多段重合体(I)を得た。ゴム含有多段重合体(I)のゲル含有率は、70%であった。
【0185】
また、得られたゴム含有多段重合体(I)214.3gを目開き25μmのナイロンメッシュで濾過したアセトン1500mlに投入し、3時間攪拌して、ゴム含有多段重合体(I)のアセトン分散液を調製した。ついで、この分散液を目開き32μmのナイロンメッシュで濾過した後、ナイロンメッシュごとクロロホルム中で15分間超音波洗浄することでメッシュ上の捕捉物をクロロホルム洗浄した。ついで、目開き25μmのナイロンメッシュで濾過したアセトン150mlに上記超音波洗浄後の捕捉物をナイロンメッシュごと投入し、この液を15分間超音波処理した後、ナイロンメッシュを除去して、メッシュ上の捕捉物のアセトン分散液150mlを調製した。ついで、この分散液70mlについて、リオン(株)製、自動式液中微粒子計測器(型式:KL−01)にて25℃下で測定し、直径55μm以上の粒子の数を求めたところ、10個であった。
【0186】
〔製造例2〕
(ゴム含有重合体(I’)の製造)
窒素雰囲気下、還流冷却器付き反応容器内に脱イオン水244部を入れ、80℃に昇温した。そして、表2に示す(イ)を添加し、撹拌しながら、表3に示す弾性重合体の一段階目重合体(I’−A−1)用の原料(ロ)の1/15を仕込み、15分間保持した。ついで、残りの原料(ロ)を、水に対する単量体成分[原料(ロ)]の増加率が8%/時間となる速度で、連続的に添加した後、60分間保持し、弾性重合体の一段階目重合体(I’−A−1)のラテックスを得た。重合体(I’−A−1)単独のTgは24℃であった。
【0187】
続いて、このラテックスにソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.6部を加え、15分間保持した。そして、窒素雰囲気下、80℃で撹拌しながら、表3に示す弾性重合体の二段階目重合体(I’−A−2)用の原料(ハ)を、水に対する単量体成分[原料(ハ)]の増加率が4%/時間となる速度で、連続的に添加した後、120分間保持し、弾性重合体の二段階目重合体(I’−A−2)を形成し、弾性重合体(I’−A)のラテックスを得た。重合体(I’−A−2)単独のTgは−38℃であった。
【0188】
続いて、このラテックスにソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.4部を加え、15分間保持した。そして、窒素雰囲気下、80℃で撹拌しながら、表3に示す硬質重合体(I’−C)用の原料(ニ)を、水に対する単量体成分[原料(ニ)]の増加率が10%/時間となる速度で、連続的に添加した後、60分間保持し、硬質重合体(I’−C)を形成し、ゴム含有重合体(I’)の重合体ラテックスを得た。硬質重合体(I’−C)単独のTgは99℃であった。また、重合後に測定したゴム含有重合体(I’)の質量平均粒子径は0.28μmであった。
【0189】
得られたゴム含有重合体(I’)の重合体ラテックスに酢酸カルシウムを添加し、凝析、凝集、固化反応を行い、ろ過、水洗後、乾燥して、粉体状のゴム含有重合体(I’)を得た。ゴム含有重合体(I’)のゲル含有率は、90%であった。
【0190】
化 合 物:使用量
(イ) ソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート:0.6部
硫酸第一鉄:0.00012部
EDTA:0.0003部
(ロ) MMA:18.0部
n−BA:20.0部
St:2.0部
AMA:0.4部
1,3−BD:0.14部
t−BH:0.18部
乳化剤:0.75部
(ハ) n−BA:50.0部
St:10.0部
AMA:0.4部
1,3−BD:0.14部
t−BH:0.2部
乳化剤:0.6部
(ニ) MMA:57.0部
MA:3.0部
n−OM:0.3部
t−BH:0.06部
*)東邦化学工業(株)製、商品名「フォスファノールRS610NA」
〔製造例3〕
(熱可塑性重合体(IV)の製造)
反応容器に窒素置換したイオン交換水200部を仕込み、さらに乳化剤として花王(株)製、商品名「ラテムルASK」1部および過硫酸カリウム0.15部を仕込んだ。
【0191】
つぎに、MMA 40部、n−BA 2部およびn−OM 0.004部を仕込み、窒素雰囲気下、65℃で3時間攪拌し、重合を完結させた。
【0192】
続いて、MMA 44部およびn−BA 14部からなる単量体成分を2時間にわたって滴下した後、2時間保持し、重合を完結した。
【0193】
得られた熱可塑性重合体(IV)の重合体ラテックスを0.25%硫酸水溶液に添加し、重合体を酸析させた後、脱水、水洗、乾燥し、粉体状の熱可塑性重合体(IV)を回収した。得られた熱可塑性重合体(IV)の還元粘度は、0.38L/gであった。
【0194】
〔製造例4〕
(アクリル樹脂フィルム基体(A)の製造)
ゴム含有多段重合体(I)75部および熱可塑性重合体(II)[MMA/MA共重合体(MMA/MA=99/1(質量比)、還元粘度ηsp/c=0.06L/g)]25部に、配合剤としてチバスペシャリティケミカルズ社製、商品名「チヌビン234」1.4部、旭電化工業(株)製、商品名「アデカスタブAO−50」0.1部、および旭電化工業(株)製、商品名「アデカスタブLA−67」0.3部を添加した後、ヘンシェルミキサーを用いて混合した。この混合物[アクリル樹脂組成物(III−1)]を230℃に加熱した脱気式押出機(池貝鉄工(株)製、PCM−30(商品名))に供給し、混練して、300メッシュのスクリーンメッシュで異物を取り除きながら押し出し、ペレット(A)を得た。
【0195】
上記の方法で製造したペレット(A)を80℃で一昼夜乾燥し、300mm巾のTダイを取り付けた40mmφのノンベントスクリュー型押出機(L/D=26)を用いて、シリンダー温度180〜240℃の条件で、500メッシュのスクリーンメッシュで異物を取り除きながら押し出し、Tダイ温度240℃、Tダイのスリット幅0.3mmの条件で押し出しした溶融状態のアクリル樹脂フィルムを2本の金属製冷却ロール間に通し、バンク(樹脂溜まり)のない状態で樹脂を挟持し、圧延せずに面転写した後、これを巻き取り機で紙巻に巻き取ることによって厚さ75μmのアクリル樹脂フィルム基体(A)を製膜した。
【0196】
なお、このアクリル樹脂フィルム基体(A)の鉛筆硬度はHであった。
【0197】
〔製造例5〕
(アクリル樹脂フィルム基体(B)の製造)
ゴム含有重合体(I’)16部および熱可塑性重合体(II)[MMA/MA共重合体(MMA/MA=90/10(質量比)、還元粘度ηsp/c=0.06L/g)]84部に、配合剤として熱可塑性重合体(IV)1部、チバスペシャリティケミカルズ社製、商品名「チヌビン234」1.4部、旭電化工業(株)製、商品名「アデカスタブAO−50」0.1部、および旭電化工業(株)製、商品名「アデカスタブLA−67」0.3部を添加した後、ヘンシェルミキサーを用いて混合した。この混合物[アクリル樹脂組成物(III−2)]を230℃に加熱した脱気式押出機(池貝鉄工(株)製、PCM−30(商品名))に供給し、混練して、300メッシュのスクリーンメッシュで異物を取り除きながら押し出し、ペレット(B)を得た。
【0198】
上記の方法で製造したペレット(B)を用いる以外は、アクリル樹脂フィルム基体(A)の製膜と同様にして、厚さ75μmのアクリル樹脂フィルム基体(B)を製膜した。
【0199】
なお、このアクリル樹脂フィルム基体(B)の鉛筆硬度は2Hであった。
【0200】
〔製造例6〕
(アクリル樹脂フィルム基体(C)の製造)
製造例5において、熱可塑性重合体(II)として[MMA/MA共重合体(MMA/MA=99/1(質量比)、還元粘度ηsp/c=0.06L/g)]を用いる以外は同様にして、厚さ75μmのアクリル樹脂フィルム基体(C)を製膜した。
【0201】
なお、このアクリル樹脂フィルム基体(C)の鉛筆硬度は2Hであった。
【0202】
〔実施例1〕
MMA85%、HEMA12%およびn−BA3%の共重合体である水酸基含有アクリル樹脂(水酸基価80mgKOH/g、Tg90℃、質量平均分子量約8万)27.5部と、ポリイソシアネートとしてヘキサメチレンジイソシアネート(イソシアヌレート型)の3量体6.8部と、質量平均粒子径5〜6μmの不定形シリカ6部、沈殿防止剤として質量平均粒子径0.1μmの不定形シリカ1.5部および質量平均粒子径5μmのポリテトラフロロエチレンワックスSST−3(商品名、SHAMROCK製、融点321℃)1部とを、MEK22部、MIBK43部および酢酸ブチル40部からなる溶剤に分散させて塗料を得た。なお、この塗料を塗工直前に岩田カップ粘度計で測定したところ、流下時間は18秒であった。粘度調整した後に、チッソフィルター(株)製のCPII−10を用いて塗工液を濾過した。
【0203】
つぎに、厚さ75μmのアクリル樹脂フィルム基体(A)の片面に、インチ巾で200線の斜線グラビアロール(ロール軸方向に対する斜線角度は約45°、版目の開口巾116μm、版目の底巾13μm、版深度33μm、セル容量16.9cm3/m2、直径120mm)、セラミック製のドクターブレードを用いて、グラビアコーターにて、塗工速度20m/minで塗料を塗布した後、90℃の雰囲気下で溶剤を揮発させて艶消しアクリル樹脂フィルムを得た。得られた艶消しアクリル樹脂フィルムの外観は、転写量の低下によるかすれ状あるいは顕著な版目等がなく、良好な艶消し層を形成できていた。該艶消しアクリル樹脂フィルムを紙管に巻き取り、40℃の雰囲気下で2日間エージングをし、艶消し層を硬化させた。
【0204】
なお、塗工はアクリル樹脂フィルム基体に対して約3000m程度実施したが、その間に、グラビアロールが沈降したワックスを巻き上げて発生する外観欠陥(流れ方向に断続的に白い筋が転写される)がときどき確認できた。また、塗工終了後、塗工液を溜めてあるパンの底を確認したが沈殿物が確認できた。
【0205】
〔実施例2〕
実施例1において、ポリテトラフロロエチレンワックスSST−3(商品名)の代わりに、質量平均粒子径5μmのポリエチレンとポリプロピレンからなるワックスS−363(商品名、SHAMROCK製、融点142℃)を用いる以外は実施例1と同様にして、艶消しアクリル樹脂フィルムを得た。なお。この塗料を塗工直前に岩田カップ粘度計で測定したところ、流下時間は19秒であった。得られた艶消しアクリル樹脂フィルムの外観は、転写量の低下によるかすれ状あるいは顕著な版目等がなく、良好な艶消し層を形成できていた。
【0206】
なお、塗工はアクリル樹脂フィルム基体に対して約3000m程度実施したが、その間に、グラビアロールが沈降したワックスを巻き上げて発生する外観欠陥は発生しなかった。また、塗工終了後、塗工液を溜めてあるパンの底を確認したが沈殿物は確認できなかった。
【0207】
〔実施例3〕
ポリエチレンとポリプロピレンからなるワックスS−363(商品名)を2部に増やす以外は実施例2と同様にして、艶消しアクリル樹脂フィルムを得た。なお、この塗料を塗工直前に岩田カップ粘度計で測定したところ、流下時間は19秒であった。得られた艶消しアクリル樹脂フィルムの外観は、転写量の低下によるかすれ状あるいは顕著な版目等がなく、良好な艶消し層を形成できていた。
【0208】
〔実施例4〕
MMA85%、HEMA12%およびn−BA3%の共重合体である水酸基含有アクリル樹脂(水酸基価80mgKOH/g、Tgガラス転移温度90℃、質量平均分子量約8万)27.4部と、ポリイソシアネートとしてヘキサメチレンジイソシアネート(イソシアヌレート型)の3量体6.8部と、質量平均粒子径5〜6μmの不定形シリカ7部、沈殿防止剤として質量平均粒子径0.1μmの不定形シリカ1.5部および質量平均粒子径5μmのポリエチレンとポリプロピレンからなるワックスS−363(商品名、SHAMROCK製、融点142℃)1部とを、MEK22.3部、MIBK49.6部および酢酸ブチル45.8部からなる溶剤に分散させて塗料を得た。なお、この塗料を塗工直前に岩田カップ粘度計で測定したところ、流下時間は15秒であった。粘度調整した後に、チッソフィルター(株)製のCPII−10を用いて塗工液を濾過した。
【0209】
つぎに、厚さ75μmのアクリル樹脂フィルム基体(A)の片面に、インチ巾で200線の斜線型グラビアロール(ロール軸方向に対する斜線角度は約45°、版目の開口巾116μm、版目の底巾13μm、版深度33μm、セル容量16.9cm3/m2、直径120mm)、セラミック製のドクターブレードを用いて、グラビアコーターにて、塗工速度30m/minで塗料を塗布した後、80℃の雰囲気下で溶剤を揮発させて艶消しアクリル樹脂フィルムを得た。得られた艶消しアクリル樹脂フィルムの外観は、転写量の低下によるかすれ状あるいは顕著な版目等がなく、良好な艶消し層を形成できていた。該艶消しアクリル樹脂フィルムを紙管に巻き取り、40℃の雰囲気下で2日間エージングをし、艶消し層を硬化させた。
【0210】
艶消し層の厚さは1μmであった。また、得られた艶消しアクリル樹脂フィルムは、蛍光灯の映りこみがあり、版目がない良好な外観であった。
【0211】
〔実施例5〕
実施例4においてインチ巾で200線の斜線グラビアロールのかわりに、インチ巾で250線の斜線型グラビアロール(ロール軸方向に対する斜線角度は約45°、版目の開口巾80μm、版目の底巾11μm、版深度35μm、セル容量15.6cm3/m2、直径120mm)を用い、塗工速度を40m/minとする以外は実施例4と同様に実施した。
【0212】
艶消し層の厚さは1μmであった。また、得られた艶消しアクリル樹脂フィルムは、蛍光灯の映りこみがあり、版目がない良好な外観であった。
【0213】
〔実施例6〕
実施例4においてインチ巾で200線の斜線グラビアロールのかわりに、インチ巾で250線のロトフロ格子型グラビアロール(版深度34μm、セル容量13.2cm3/m2、直径120mm)を用いる以外は実施例4と同様に実施した。
【0214】
艶消し層の厚さは0.8μmであった。また、得られた艶消しアクリル樹脂フィルムは、蛍光灯の映りこみがあり、版目がない良好な外観であった。
【0215】
〔参考例1〕
実施例4においてインチ巾で200線の斜線グラビアロールのかわりに、インチ巾で250線の斜線型グラビアロール(ロール軸方向に対する斜線角度は約75°、版目の開口巾90μm、版目の底巾8μm、版深度32μm、セル容量15.4cm3/m2、直径120mm)を用いる以外は実施例4と同様に実施した。
【0216】
得られた艶消しアクリル樹脂フィルムの表面光沢度は19%であり良好な艶消し性であったが、所々に塗工液が塗布されていない箇所があり、均一な艶消し塗工面を有するアクリル樹脂フィルムは得られなかった。
【0217】
〔比較例1〕
MMA 85%、HEMA 12%、n−BA 3%の共重合体である水酸基含有アクリル樹脂(水酸基価80mgKOH/g、Tg90℃、質量平均分子量約8万)23部と、ポリイソシアネートとしてヘキサメチレンジイソシアネート(イソシアヌレート型)の3量体5.6部と、質量平均粒子径が6〜7μmの不定形シリカ4部とを、酢酸エチル48部、酢酸nプロピル16部、および酢酸ブチル10部からなる溶剤に分散させて塗料を得た。この塗料を酢酸エチルで希釈して、岩田カップ粘度計による流下時間が14秒になるように粘度調整した。粘度調整した後に、チッソフィルター(株)製のCPII−10を用いて塗工液を濾過した。
【0218】
つぎに、厚さ75μmのアクリル樹脂フィルム基体(A)の片面に、インチ巾で200線の斜線グラビアロール(ロール軸方向に対する斜線角度は約45°、版目の開口巾116μm、版目の底巾13μm、版深度33μm、セル容量16.9cm3/m2、直径120mm)、鋼鉄製のドクターブレードを用いてグラビアコーターにて、塗工速度20m/minで、粘度調整した塗料を塗布した後、85℃の雰囲気下で溶剤を揮発させて艶消しアクリル樹脂フィルムを得た。得られた艶消しアクリル樹脂フィルムの外観は、転写量の低下によるかすれ状あるいは顕著な版目等がなく、良好な艶消し層を形成できていた。該艶消しアクリル樹脂フィルムを紙管に巻き取り、40℃の雰囲気下で2日間エージングを実施し、艶消し層を硬化させた。艶消し層の厚さは1.1μmであった。
【0219】
〔比較例2〕
MMA 68%、HEMA 9%、n−BA 9%、メタクリル酸n−ブチル14%の共重合体である水酸基含有アクリル樹脂(水酸基価60mgKOH/g、ガラス転移温度65℃、質量平均分子量約3万)32部と、ポリイソシアネートとしてヘキサメチレンジイソシアネート(イソシアヌレート型)の3量体5.6部と、質量平均粒子径が6〜7μmの不定形シリカ4.8部とを、酢酸エチル33部、酢酸nプロピル15部、および酢酸ブチル15部からなる溶剤に分散させて塗料を得た。この塗料を酢酸エチルで希釈して、岩田カップ粘度計による流下時間が14秒になるように粘度調整した。粘度調整した後に、チッソフィルター(株)製のCPII−10を用いて塗工液を濾過した。この希釈塗料をアクリル樹脂フィルム基体(B)に塗布する以外は比較例1と同様に実施した。得られた艶消しアクリル樹脂フィルムの外観は、転写量の低下によるかすれ状あるいは顕著な版目等がなく、良好な艶消し層を形成できていた。艶消し層の厚さは1.3μmであった。
【0220】
〔比較例3〕
アクリル樹脂フィルム基体(A)のかわりに、厚さ75μmのアクリル樹脂フィルム基体(C)を用いた以外は比較例1と同様に実施した。得られた艶消しアクリル樹脂フィルムの外観は、転写量の低下によるかすれ状あるいは顕著な版目等がなく、良好な艶消し層を形成できていた。艶消し層の厚さは1.1μmであった。
【0221】
〔比較例4〕
ポリエチレンワックスS−395(商品名)を使用しない以外は実施例1と同様にして、艶消しアクリル樹脂フィルムを得た。なお、この塗料を塗工直前に岩田カップ粘度計で測定したところ、流下時間は19秒であった。得られた艶消しアクリル樹脂フィルムの外観は、転写量の低下によるかすれ状あるいは顕著な版目等がなく、良好な艶消し層を形成できていた。艶消し層の厚さは1μmであった。
【0222】
以上で得られたアクリル樹脂フィルム基体、艶消しアクリル樹脂フィルム、および積層体の評価結果をまとめて表3に示す。
【表1】

【0223】
実施例1〜6より、艶消しアクリル樹脂フィルムを積層した、動摩擦係数が0.23以下である積層体は、良好な耐擦り傷性を示すことがわかる。
【0224】
また、0.1〜5μmの範囲に塗工した艶消しアクリル樹脂フィルムは成形時に、艶消し層の割れが発生せず良好な成形性を示すことがわかる。また、硬化性バインダー樹脂を使用することにより良好な耐薬品性を示すことがわかる。また、200℃まで加熱したときの黄色度(YI’(200℃))と加熱前の黄色度(YI)の差が1.3以下である艶消しアクリル樹脂フィルムは成形時の外観変化が無いことがわかる。
【0225】
実施例4〜6、参考例1より、1インチあたり150本以上の線数を有し、且つロール軸方向に対して40〜50°の角度で彫刻された斜線型ロールを使用することで、良好な外観のフィルムが得られ、且つ熱成形を行っても外観変化が小さいフィルムが得られることがわかる。
【0226】
以上のように、本発明の構成を有する艶消しアクリル樹脂フィルムを採用することで、従来のアクリル樹脂フィルム層に艶消し剤を添加した場合には実現困難な意匠性を発現し、且つ取り扱い性が良好であり、インサート成形またはインモールド成形を施し、深絞り形状の成形品に成形した場合でも、艶消し層に割れが発生しない、かつ車輌用途に用いることができる耐擦傷性、表面硬度、耐熱性、耐薬品性、耐熱黄変性、および艶消し性を有する艶消しアクリル樹脂フィルム、およびこれらを基材に積層した積層体を提供することができる。また、本発明の製造方法を採用することで、艶消しアクリル樹脂フィルムを安定的に製造することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0227】
本発明の艶消しアクリル樹脂フィルム状物を有する積層成形品は、特に車輌用途、建材用途に適している。具体例としては、インストルメントパネル、コンソールボックス、メーターカバー、ドアロックペゼル、ステアリングホイール、パワーウィンドウスイッチベース、センタークラスター、ダッシュボード等の自動車内装用途、ウェザーストリップ、バンパー、バンパーガード、サイドマッドガード、ボディーパネル、スポイラー、フロントグリル、ストラットマウント、ホイールキャップ、センターピラー、ドアミラー、センターオーナメント、サイドモール、ドアモール、ウインドモール等、窓、ヘッドランプカバー、テールランプカバー、風防部品等の自動車外装用途、AV機器や家具製品のフロントパネル、ボタン、エンブレム、表面化粧材等の用途、携帯電話等のハウジング、表示窓、ボタン等の用途、さらには家具用外装材用途、壁面、天井、床等の建築用内装材用途、サイディング等の外壁、塀、屋根、門扉、破風板等の建築用外装材用途、窓枠、扉、手すり、敷居、鴨居等の家具類の表面化粧材用途、各種ディスプレイ、レンズ、ミラー、ゴーグル、窓ガラス等の光学部材用途、あるいは電車、航空機、船舶等の自動車以外の各種乗り物の内外装用途、瓶、化粧品容器、小物入れ等の各種包装容器および材料、景品や小物等の雑貨等のその他各種用途等に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル樹脂フィルム基体の面上に、艶消し剤および硬化性バインダー樹脂を含有する塗料が塗工され、最外層に艶消し層が形成された熱成形用艶消しアクリル樹脂フィルムであって、艶消し層側の動摩擦係数が0.23以下である熱成形用艶消しアクリル樹脂フィルム。
【請求項2】
アクリル樹脂フィルム基体の、艶消し層とは反対側の面上に、さらに絵柄層を有する請求項1記載の熱成形用艶消しアクリル樹脂フィルム。
【請求項3】
請求項1記載の熱成形用艶消しアクリル樹脂フィルムの製造方法であって、艶消し層を印刷法またはコート法により形成する熱成形用艶消しアクリル樹脂フィルムの製造方法。
【請求項4】
請求項1記載の熱成形用艶消しアクリル樹脂フィルムの製造方法であって、1インチあたり150本以上の線数を有し、且つロール軸方向に対して40〜50°の角度で彫刻された斜線型ロールを用いて、艶消し層を形成する熱成形用艶消しアクリル樹脂フィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の熱成形用艶消しアクリル樹脂フィルムを、艶消し層とは反対側の面が接するように、基材上に積層して成る積層体。

【公開番号】特開2007−161735(P2007−161735A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−336515(P2005−336515)
【出願日】平成17年11月22日(2005.11.22)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】