説明

熱放散性に優れた高速モータ用コアおよび高速モータ用コア材料

【課題】熱放散性に優れた高速モータ用コアおよび高速モータ用コア材料を提供する。
【解決手段】高速モータ用コアは、複層型材料を鉄心として用い、打ち抜き端面の剪断面比率が50%以上である。そして、複層型材料は、下記(1)〜(3)を満足する。(1)表層部は、質量%で、Si:4〜7%を含み、残部Feおよび不可避不純物である電磁鋼板からなり、(2)内層部は、熱伝導率30W/mK以上の材料からなり、(3)板厚0.05〜0.5mmであり、(4)表層部の厚みは、全厚に対する比率が0.1〜0.7である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ハイブリッド電気自動車用モータ等に用いられる高速モータ用コアおよび高速モータ用コア材料に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ハイブリッド電気自動車のモータは小型化の観点より高周波域での駆動が行われている。このようなモータのコア材として、無方向性電磁鋼板が使用されている。そして、無方向性電磁鋼板には高周波鉄損の低い電磁鋼板が要望されており、このような背景から、現在は、Si+Al=3〜4%程度の高グレードの電磁鋼板が使用されている。
しかし、近年では、さらなる小型化の観点より回転数は一層高くなっており、加えて、エンジンの近くにモータが設置されることから、通常のモータよりも高温下で駆動されることが多い。このため、コア材として使用される電磁鋼板に対しても、さらなる低鉄損化と高周波励磁により発生した熱を効率よく除くことが強く要望される。
【0003】
従来から、電磁鋼板の高周波鉄損を低減するためにはSi添加が効果的であることが知られている。しかし、Si添加を行うと熱伝導率も低下するため、モータで発生した熱は外部に逃げにくくなるという課題がある。
特許文献1には、Siを0.1〜1.2%とし、板厚を0.25〜0.45mmとした熱伝導率に優れる無方向性電磁鋼板が開示されている。しかし、特許文献1の材料ではSi量が低いために高周波での発熱が大きく、高周波モータの温度上昇を十分に抑えることが難しいという課題がある。
【特許文献1】特開平9-283316号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、かかる事情に鑑みなされたもので、熱放散性に優れた高速モータ用コアおよび高速モータ用コア材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために、高周波モータの温度上昇を抑制する手法について鋭意検討した。その結果、コア表層部のSi量を高めることで高周波鉄損を低減し、高周波でほとんど磁化されないコア内層部に熱伝導率の高い材料を組み合わせることにより高周波鉄損を低減しつつ、熱放散性も高めることが可能になることを知見した。
【0006】
本発明は、以上の知見に基づきなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
[1]下記(1)〜(4)を満足する複層型材料を鉄心として用い、打ち抜き端面の剪断面比率が50%以上であることを特徴とする熱放散性に優れた高速モータ用コア。
(1)表層部は、質量%で、Si:4〜7%を含み、残部Feおよび不可避不純物である電磁鋼板からなり、(2)内層部は、熱伝導率30W/mK以上の材料からなり、(3)板厚0.05〜0.5mmであり、(4)表層部厚みの全厚に対する比率が0.1〜0.7である。
[2]下記(1)〜(4)を満足する複層型材料を鉄心として用い、打ち抜き端面の剪断面比率が50%以上であることを特徴とする熱放散性に優れた高速モータ用コア。
(1)表層部は、質量%で、Si:4〜7%を含み、残部Feおよび不可避不純物である電磁鋼板からなり、(2)内層部は、質量%で、Si:2%以下を含み、残部Feおよび不可避不純物である電磁鋼板からなり、(3)板厚0.05〜0.5mmであり、(4)表層部厚みの全厚に対する比率が0.1〜0.7である。
[3]前記[1]または[2]において、前記複層型材料の平均結晶粒径が150μm以下であることを特徴とする熱放散性に優れた高速モータ用コア。
[4]前記[1]〜[3]のいずれかにおいて、前記複層型材料において、表層部と内層部の界面における直径5μm以上の介在物量が50個/mm2以下であることを特徴とする熱放散性に優れた高速モータ用コア。
[5]表層部は、質量%で、Si:4〜7%を含み、残部Feおよび不可避不純物である電磁鋼板からなり、内層部は、質量%で、Si:2%以下を含み、残部Feおよび不可避不純物である電磁鋼板からなる複層型モータコア材料であり、平均結晶粒径は150μm以下で、さらに、板厚が0.05〜0.5mmで、前記表層部厚みの全厚に対する比率が0.1〜0.7であることを特徴とする熱放散性に優れた高速モータ用コア材料。
[6]表層部は、質量%で、Si:4〜7%を含み、残部Feおよび不可避不純物である電磁鋼板からなり、内層部は、質量%で、Si:2%以下を含み、残部Feおよび不可避不純物である電磁鋼板からなる複層型モータコア材料であり、前記表層部と前記内層部の界面における直径5μm以上の介在物量が50個/mm2以下で、さらに、板厚が0.05〜0.5mmで、前記表層部厚みの全厚に対する比率が0.1〜0.7であることを特徴とする熱放散性に優れた高速モータ用コア材料。
[7]表層部は、質量%で、Si:4〜7%を含み、残部Feおよび不可避不純物である電磁鋼板からなり、内層部は、質量%で、Si:2%以下を含み、残部Feおよび不可避不純物である電磁鋼板からなる複層型モータコア材料であり、平均結晶粒径が150μm以下で、前記表層部と前記内層部の界面における直径5μm以上の介在物量が50個/mm2以下で、さらに、板厚0.05〜0.5mmで、表層部厚みの全厚に対する比率が0.1〜0.7であることを特徴とする熱放散性に優れた高速モータ用コア材料。
なお、本明細書において、鋼の成分を示す%は、すべて質量%である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、熱放散性に優れた高速モータ用コアおよび高速モータ用コア材料が得られる。
そして、発熱の少ないモータコアを得ることができることで、本発明の高速モータ用コアは、特にモータコアの発熱が問題となるハイブリッド電気自動車用のモータコア、電気自動車用のモータコア、工作機械のモータコアとして有用となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明における高速モータ用コアは、打ち抜き端面の剪断面比率が50%以上であり、例えば、下記(1)〜(3)を満足する複層型材料を用い所定の形状に打ち抜き加工することにより得られる。
(1)表層部は、質量%で、Si:4〜7%を含み、残部Feおよび不可避不純物である電磁鋼板からなり、
(2)内層部は、熱伝導率30W/mK以上の材料からなり、
(3)板厚0.05〜0.5mmであり、
(4)表層部厚みの全厚に対する比率が0.1〜0.7である。
このように、本発明においては、上記高速モータ用コアを構成する材料において、表層部で高周波鉄損を低減しつつ、内層部で熱放散性を高めることを特徴とする。これは本発明において最も重要な要件であり、このような複層型材料を鉄心として用い、打ち抜き端面の剪断面比率が50%以上とすることで熱放散性に優れた高速モータ用コアが得られることになる。
【0009】
なお、本発明は板厚方向に表層−内層−表層の3層構造を有する複層材を対象としており、表層部とは鋼板表面を含む層のことを指す。一方、内層部とは前記表層部を除いた板厚方向での中央部のことである。ここで、表層部と内層部の界面は以下の領域のことを指す。すなわち、EPMAにて鋼板板厚方向にSiの濃度勾配を測定した場合、表層部と内層部の境界においてSiの濃度分布の急激な変化が生じる。このSiの急激な濃度変化が見られる位置を界面とする。ただし、Siの拡散等により、界面が一義的に定まらない場合は、界面の始まりは、表面のSi濃度を100としたとき、Si濃度が90となる位置とする。一方、界面の終わりは、中心のSi濃度を100としたとき、Si濃度が110となる位置とする。
【0010】
次に、本発明の詳細を実験結果に基づいて説明する。
最初に、高速モータ用コア材料となる複層型材料の表層部について検討する。
コア表層部で高周波鉄損を低減する手段として、Si量を高めることが考えられる。そこで、下記サンプルを作成し、表層部のSi量と鉄損W5/3kとの関係を調査した。
内層部に用いるSi=0.5%の鋼と、表層部に用いるSi量を2.5〜7%まで変化させた鋼を各々溶製しインゴットとした後、複層比(表層厚/全厚)が0.3となるように貼り合わせ、その後、熱間圧延、900℃×30sの熱延板焼鈍を行い、板破断を防止するため300℃で温間圧延を行い、板厚を0.35mmとした。その後、1000℃×30sの仕上焼鈍を行い、幅30mm、長さ280mmのエプスタインサンプルを切り出し磁気特性を評価した。なお、磁気特性はJIS C2550に記載の方法に基づき測定した。
以上より得られた結果を、図1に表層部のSi量と鉄損W5/3kとの関係として示す。図1より、表層Si量が4%以上で鉄損が低下していることがわかる。これは鋼板内層部に比べて鋼板表層部では固有抵抗が高いために、高周波透磁率が鋼板表層部で高くなり、通常の表皮効果以上に鋼板表層部に磁束が集中することにより渦電流損が低下したためと考えられる。
以上より、鋼板表層部のSi量は4%以上、好ましくは4.5%以上とする。一方、Si量が7%を超えた場合には温間圧延を行っても板破断を防止することが困難であるため、鋼板表層部のSi量の上限は7%とする。
【0011】
次に内層部の熱伝導率向上によるモータの発熱抑制について検討する。
表層部に用いるSi=5.50%の鋼と、内層部に用いるSiを0.1〜5.7%まで変化させた鋼を各々溶製しインゴットとした後、複層比(表層厚/全厚)が0.3となるように貼り合わせ、その後、熱間圧延、900℃×30sの熱延板焼鈍を行い、板破断を防止するため300℃での温間圧延を行い、板厚を0.35mmとした。その後、上記により得られた材料を用いて24極のIPMモータを作製した。ここで、ステーター外形は200mm、ロータ外形は110mm、積み厚100mmである。本モータを15000rpmで10min回転させた後、ティース部の温度を測定した。なお、温度測定位置はティース先端より50mmのティース幅中央部であり、モータ積層端部より10mmの位置とした。また、ステーターはアルミのケースに焼きばめで固定し、モータコアの冷却は空冷とした。
以上より得られた結果を、図2に内層部の熱伝導率とモータ温度との関係として示す。ここで、内層部の熱伝導率は、製品板の表層部を化学研磨により除去し、内層部のみとした後レーザーフラッシュ法にて求めた。図2より、内層部の熱伝導率が30W/mK以上でモータ温度の低下が大きいことがわかる。これは、モータで生じた発熱がコア内層部の熱伝導率の高い部分を伝わって回りに拡散したためと考えられる。以上より、コア内層部の熱伝導率は30W/mK以上とする。
【0012】
そして、このように高い熱伝導率の材料を電磁鋼板で得る場合にはSi量を低減する必要があり、Si量は2%以下、好ましくは1.5%以下、より好ましくは1%以下である。
また、高い熱伝導率の材料として、電磁鋼板の他に、より熱伝導率の高い、純鉄、アルミ、銅等で内層部を作製することもできる。アルミ、銅等で内層部を作製する場合には表層部と内層部をそれぞれ作製しておき、圧着法等で一体化すればよい。
【0013】
次に複層比について検討する。
表層部に用いるSi=5.5%の鋼と、内層部に用いるSi=1.0%とした鋼を各々溶製しインゴットとした後、複層比(表層厚/全厚)を0.02〜0.8となるように貼り合わせ、その後、熱間圧延、900℃×30sの熱延板焼鈍を行い、板破断を防止するため250℃での温間圧延を行い、板厚を0.35mmとした。その後、1000℃×30sの仕上焼鈍を行い、上記により得られた材料を用いて24極のIPMモータを作製しモータ温度を測定した。なお、モータ温度の測定方法は上記と同様である。
以上より得られた結果を、図3に複層比とモータ温度との関係として示す。図3より、複層比が0.1〜0.7の場合にモータ温度が低下していることがわかる。これは表層の高抵抗部が0.1未満では鉄損が高くなるため発熱量が増大したものと考えられる。一方、高抵抗部が0.7超となった場合には内層部の熱伝導率の高い部分の割合が小さくなるためモータ温度が低下しなかったものと考えられる。以上より、複層比は0.1〜0.7とする。
【0014】
また、複層型材料の板厚は0.05〜0.5mmとする。これは、0.05mm未満では打ち抜き工数が著しく増大するためである。一方、0.5mm超えでは高周波鉄損が高くなるためである。
【0015】
次に、モータコアの抜熱の安定性について検討する。
表層部に用いるSi=5.5%の鋼と、内層部に用いるSi=1.0%とした鋼を各々溶製しインゴットとした後、複層比(表層厚/全厚)を0.3となるように貼り合わせ、その後、熱間圧延、900℃×30sの熱延板焼鈍を行い、板破断を防止するため250℃での温間圧延を行い、板厚を0.35mmとした。その後、1000℃×30sの仕上焼鈍を行い、上記により得られた材料を数種類の金型で打ち抜きモータコアとし、24極のIPMモータを10台作製しモータ温度を測定した。
その結果、モータ温度上昇は抑制されているものの、コアにより温度にばらつきがあることが明らかとなった。この原因について調査したところ、コアの温度上昇が大きい材料では打ち抜き端面の剪断面比率が50%未満と小さく、一方で、剪断面比率が50%以上のコアにおいては温度上昇が抑制されていることが判明した。これは、高周波励磁により発生したモータコアの熱がステーターコアの外周からアルミケースへ伝わる際、剪断面比率が小さいとアルミケースとコア間の密着部の面積が小さくなるためと考えられる。以上のことから、モータコアの打ち抜き端面の剪断面比率は50%以上とする。
【0016】
なお、複層型材料では板厚方向で変形抵抗が異なることから、剪断面比率が従来の単層材料に比べ低下しやすい。このため、剪断面比率を50%以上とするためには複層型材料の平均結晶粒径を150μm以下とすることが好ましい。一方、結晶粒径が150μm超えとなった粗大粒組織を有する複層鋼板を打ち抜く際にはクリアランスを3%以下と非常に小さくするか、ファインブランキングを用いることにより剪断面比率を50%以上とすることも可能である。
【0017】
次にモータコアの抜熱性をさらに向上させるため、表層部と内層部の界面の介在物の最適化について検討する。
表層部に用いるSi=5.50%の鋼と、内層部に用いるSi=1.4%とした鋼を各々溶製し、内層材の表面粗さを変化させることにより表層部と内層部の界面の介在物量を変化させたインゴットを作製し、複層比(表層厚/全厚)が0.3となるように貼り合わせ、その後、熱間圧延、900℃×30sの熱延板焼鈍を行い、板破断を防止するため300℃での温間圧延を行い、板厚を0.35mmとした。その後、上記により得られた材料を用いて24極のIPMモータを作製し、上述の実験と同様にモータ部の発熱を調査した。ここで、モータコアの剪断面比率は70%であった。
以上より得られた結果を、図4にモータの温度と介在物量の関係として示す。ここで、介在物の観察には板厚方向に界面まで研磨した後、光学顕微鏡を用い200倍にて20視野観察し、介在物と明確に識別可能な円相当直径が5μm以上の量をカウントした。ここでの界面とはEPMAによりSi分布が急激に変化する部分であり、本材料ではSiの拡散が生じていないため、一義的に決定することができる。図4より、介在物量を50個/mm2以下とすることによりモータ温度が低下することがわかる。この介在物低減によりモータ温度上昇が抑制された原因は明確でないが、介在物低減により表層部から内層部へと熱が容易に伝わるようになったためではないかと考えられる。
【0018】
次に、本発明の熱放散性に優れた高速モータ用コア材料の製造方法について説明する。
本発明においては、表層部に鉄損の低い高Siの材料を形成し、内層部には熱伝導率の高い材料を形成することが重要である。そのための手法として、例えば、成分の異なる材料を各々転炉で吹練し、溶鋼を脱ガス処理し所定の成分に調整し、引き続き鋳造を行いスラブとした後、所定の複層比となるように表層部の鋼板と内層部の材料を貼り合わせ、その後、スラブを通常の方法にて熱間圧延、次いで、一回の冷間または温間圧延、もしくは中間焼鈍をはさんだ2回以上の冷間または温間圧延により所定の板厚とした後に、仕上焼鈍を行うことにより本発明の複層型材料を得ることができる。ここで、熱間圧延時の仕上温度、巻取り温度は特に規定する必要はなく、通常でかまわない。また、熱延後の熱延板焼鈍は行っても良いが必須ではない。
また、鋼板を複層組織とすることで上記複層型材料として用いることも可能である。例えば、表層部に鉄損の低い高Siを形成し、内層部の熱伝導率の高くするために、仕上焼鈍板にSiの浸珪処理を行うことができる。この場合、打ち抜き端面の剪断面比率を50%以上とするため、結晶粒径が200〜300μmに粗大化する浸珪材では打ち抜き時にファインブランキング等を採用する必要がある。
さらに、上述したように、内層部には、鉄鋼以外の銅、アルミ等の熱伝導率の高い材料を用いることもできる。
【実施例1】
【0019】
表1に示す鋼を用い、転炉で吹練した後に脱ガス処理を行うことにより所定の成分に調整後鋳造し、スラブとした。次いで、得られたスラブを表1に示す複層比となるように積層し、外周を溶接した後、1140℃で1hr加熱し、板厚2.0mmまで熱間圧延を行った。熱延仕上げ温度は800℃とした。巻取り温度は610℃とし、巻取り後、900℃×30sの熱延板焼鈍を施した。その後、酸洗を行い、表1に示す板厚まで温間圧延を行い、表1に示す仕上焼鈍条件で焼鈍を行った。
以上により得られた供試材に対して、磁気測定を行った。なお、磁気測定は25cmエプスタイン試験片を用いて行った。
【0020】
また、上記供試材を用いて24極のIPMモータを作製した。ここで、ステーター外形は200mm、ロータ外形は110mm、積み厚100mmである。
本モータを15000rpmで10min回転させた後、ティース部の温度を測定した。温度測定位置はティース先端より50mmのティース幅中央部であり、モータ積層端部より10mmの位置とした。また、ステーターはアルミのケースに焼きばめで固定し、モータコアの冷却は空冷とした。素材の熱伝導率の測定はレーザーフラッシュ法により測定した。
また、複層型材料の表面粗さ、内層材の介在物量、平均結晶粒径、打ち抜き端面の剪断面比率は以下のようにして求めた。
【0021】
内層材の熱伝導率
供試材の表層部を化学研磨により除去し、内層部のみとした後レーザーフラッシュ法にて求めた。
【0022】
複層型材料の表面粗さ
クラッド前の内層材の表面をJIS B 0601に記載の方法に基づいて測定し、表面粗さRaを求めた。
【0023】
内層材の介在物量
板厚方向に界面まで研磨した後、光学顕微鏡を用い200倍にて20視野観察し、介在物と明確に識別可能な円相当直径が5μm以上の量をカウントした。
【0024】
平均結晶粒径
鋼板断面における結晶粒径をJIS G0551に記載の方法に基づいて測定した。
【0025】
打ち抜き端面の剪断面比率
打ち抜き材の端面をSEMを用い100倍にて5視野観察し、剪断面比率の平均値を求めた。
得られた結果を成分、製造条件と併せて表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
表1より、表層、内層の熱伝導率、複層比、打ち抜き端面の剪断面比率が本発明の範囲の本発明例では、発熱の少ないモータコアが得られることがわかる。
【実施例2】
【0028】
表2に示す鋼と銅を用い、圧着法にて複層材とした。さらに、実施例1と同様の方法にて、モータの作製、評価を行った。
得られた結果を成分、製造条件と併せて表2に示す。
【0029】
【表2】

【0030】
表2より、本発明例では、発熱の少ないモータコアが得られることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の熱放散性に優れた高速モータ用コアを用いることにより、特にモータコアの発熱が問題となるハイブリッド電気自動車用のモータコア、電気自動車用のモータコア、工作機械のモータコアを中心に、多様な用途での使用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】表層Si量と鉄損との関係を示す図である。
【図2】内層材の熱伝導率とモータ温度との関係を示す図である。
【図3】複層比とモータ温度との関係を示す図である。
【図4】複層型材料界面の介在物量とモータ温度との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)〜(4)を満足する複層型材料を鉄心として用い、打ち抜き端面の剪断面比率が50%以上であることを特徴とする熱放散性に優れた高速モータ用コア。
(1)表層部は、質量%で、Si:4〜7%を含み、残部Feおよび不可避不純物である電磁鋼板からなり、(2)内層部は、熱伝導率30W/mK以上の材料からなり、(3)板厚0.05〜0.5mmであり、(4)表層部厚みの全厚に対する比率が0.1〜0.7である。
【請求項2】
下記(1)〜(4)を満足する複層型材料を鉄心として用い、打ち抜き端面の剪断面比率が50%以上であることを特徴とする熱放散性に優れた高速モータ用コア。
(1)表層部は、質量%で、Si:4〜7%を含み、残部Feおよび不可避不純物である電磁鋼板からなり、(2)内層部は、質量%で、Si:2%以下を含み、残部Feおよび不可避不純物である電磁鋼板からなり、(3)板厚0.05〜0.5mmであり、(4)表層部厚みの全厚に対する比率が0.1〜0.7である。
【請求項3】
前記複層型材料の平均結晶粒径が150μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の熱放散性に優れた高速モータ用コア。
【請求項4】
前記複層型材料において、表層部と内層部の界面における直径5μm以上の介在物量が50個/mm2以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱放散性に優れた高速モータ用コア。
【請求項5】
表層部は、質量%で、Si:4〜7%を含み、残部Feおよび不可避不純物である電磁鋼板からなり、内層部は、質量%で、Si:2%以下を含み、残部Feおよび不可避不純物である電磁鋼板からなる複層型モータコア材料であり、平均結晶粒径は150μm以下で、さらに、板厚が0.05〜0.5mmで、前記表層部厚みの全厚に対する比率が0.1〜0.7であることを特徴とする熱放散性に優れた高速モータ用コア材料。
【請求項6】
表層部は、質量%で、Si:4〜7%を含み、残部Feおよび不可避不純物である電磁鋼板からなり、内層部は、質量%で、Si:2%以下を含み、残部Feおよび不可避不純物である電磁鋼板からなる複層型モータコア材料であり、前記表層部と前記内層部の界面における直径5μm以上の介在物量が50個/mm2以下で、さらに、板厚が0.05〜0.5mmで、前記表層部厚みの全厚に対する比率が0.1〜0.7であることを特徴とする熱放散性に優れた高速モータ用コア材料。
【請求項7】
表層部は、質量%で、Si:4〜7%を含み、残部Feおよび不可避不純物である電磁鋼板からなり、内層部は、質量%で、Si:2%以下を含み、残部Feおよび不可避不純物である電磁鋼板からなる複層型モータコア材料であり、平均結晶粒径が150μm以下で、前記表層部と前記内層部の界面における直径5μm以上の介在物量が50個/mm2以下で、さらに、板厚0.05〜0.5mmで、表層部厚みの全厚に対する比率が0.1〜0.7であることを特徴とする熱放散性に優れた高速モータ用コア材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−63252(P2010−63252A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−225459(P2008−225459)
【出願日】平成20年9月3日(2008.9.3)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】