説明

熱溶着装置

【課題】
溶着ボスに熱を効率的に伝えることのできる熱溶着装置を提供すること。
【解決手段】
熱可塑性樹脂の締結材2に一体に成形される溶着ボス2aが熱可塑性樹脂の被締結材3の固定孔3aに通された状態で溶着ボス2aを押圧して所定のリベット形状2bとする押圧部4と、通電により押圧部4の加熱温度を制御する制御部5と、溶着ボス2aを押圧するように押圧部4を駆動する駆動部6とを備え、押圧部4が加熱下で溶着ボス2aを押圧することによりリベット形状2bを形成する熱溶着装置1において、押圧部4は、制御部5により加熱され、溶着ボス2aを押圧して溶着ボス2aを溶融させるチップ41と、チップ41と接続され、被締結材3に当接することでチップ41と被締結材3との間に閉空間7を形成し、溶着ボス2aの溶融した樹脂の流動を制限するスリーブ42と、を備える構成としたこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱溶着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
公知の熱溶着装置が、後述の特許文献1に記載されている。これは、溶着ボスが一体に設けられた熱可塑性樹脂の締結材(成形品)と、固定孔が設けられた熱可塑性樹脂の被締結材(被固定物)とを熱溶着によって締結するもので、溶着ボスを押圧して所定の締結要素形状とする押圧部(溶着チップ)と、通電により押圧部の加熱温度を制御する制御部(電源装置)とを備える。押圧部は、加熱下で溶着ボスの上面を押圧することにより溶着ボスを溶融させ、締結材と被締結材を締結するための締結要素形状を形成する。
【特許文献1】特開2004−90558号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
溶着ボスを溶融させるには、溶着ボス全体に十分な熱を与える必要がある。上述のものでは、溶着ボスが溶融して締結要素形状が形成される際に、押圧部の熱が溶着ボスの上面に局所的に伝えられる。つまり、押圧部と溶着ボスとの間の熱の伝達は、押圧部と溶着ボスとの間の接触部分(溶着ボスの上面)だけで行われる。このため、押圧部の熱が溶着ボスに効率的に伝えられず、溶着ボスを溶融させ得るだけの十分な熱を溶着ボスの全体に与えるには、押圧部による溶着ボスの加熱時間を長くしたり、押圧部の加熱温度を高くしたりする必要があった。
【0004】
よって、本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、溶着ボスに熱を効率的に伝えることのできる熱溶着装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明にて講じた技術的手段は、請求項1に記載の様に、熱可塑性樹脂の締結材に一体に成形される溶着ボスが熱可塑性樹脂の被締結材の固定孔に通された状態で前記溶着ボスを押圧して所定の締結要素形状とする押圧部と、通電により前記押圧部の加熱温度を制御する制御部と、前記溶着ボスを押圧するように前記押圧部を駆動する駆動部と、を備え、前記押圧部が加熱下で前記溶着ボスを押圧することにより前記締結要素形状を形成する熱溶着装置において、前記押圧部は、前記制御部により加熱され、前記溶着ボスを押圧して前記溶着ボスを溶融させる溶融部と、前記溶融部と接続され、前記被締結材に当接することで前記溶融部と前記被締結材との間に閉空間を形成し、前記溶着ボスの溶融した樹脂の流動を制限する流動制限部材と、を備える構成としたことである。
【0006】
好ましくは、請求項2に記載の様に、前記流動制限部材は、前記溶融した樹脂が前記締結要素形状の一部を形成後は、前記締結要素形状の熱を吸収し凝固を促進させると良い。
【0007】
好ましくは、請求項3に記載の様に、前記流動制限部材は、前記溶融部の外周に摺接して設けられていると良い。
【0008】
好ましくは、請求項4に記載の様に、前記流動制限部材は、前記被締結材に向かって付勢されていると良い。
【0009】
好ましくは、請求項5に記載の様に、前記溶融部は、前記締結要素形状の形成後に加圧気体を前記溶融部の内部を通過させて前記締結要素形状の熱を吸収すると良い。
【0010】
好ましくは、請求項6に記載の様に、前記溶融部は、前記溶着ボスを押圧しながら加熱と冷却を行い前記溶着ボスを前記締結要素形状に形成すると良い。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、溶融部と被締結材との間に流動制限部材を介して閉空間が形成され、この閉空間内で溶着ボスが溶融し、締結要素形状が形成される。締結要素形状が形成される間、溶融部と流動制限部材が溶着ボス(溶融した樹脂)に密着するので、溶着ボスを押圧する溶融部だけでなく、溶融部に接続される流動制限部材も溶着ボスに熱を伝える。これにより、押圧部では、溶着ボスを押圧する部分だけで溶着ボスに熱を伝える従来のものに比べて溶着ボスに熱を伝える部分の面積(伝熱面積)が増え、溶着ボスに熱を効率的に伝えることができる。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、締結要素形状が均一に凝固する。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、溶融部と流動制限部材との間で熱の伝達が効率よく行われる。
【0014】
請求項4に記載の発明によれば、流動制限部材が被締結材に確実に密着し、閉空間が確実に密閉される。
【0015】
請求項5に記載の発明によれば、溶融部の内部に熱がこもることがなく、締結要素形状の形成後に溶融部が効率よく冷却される。
【0016】
請求項6に記載の発明によれば、締結要素形状が形成される間、溶融部と流動制限部材が溶着ボス(溶融した樹脂)に隙間なく接触するので、溶着ボスの全体に熱が均一に伝えられ、溶着ボスにおける局所的な温度上昇が抑制される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を基に説明する。
【0018】
図1は、本発明に係る熱溶着装置1の概略図である。
【0019】
熱溶着装置1は、溶着ボス2aが一体に設けられた熱可塑性樹脂の締結材2と、固定孔3aが設けられた熱可塑性樹脂の被締結材3とを熱溶着によって締結する装置である。熱溶着装置1は、押圧部4と、制御部5と、駆動部6とを備える。押圧部4は、溶着ボス2aの端部2cを押圧し、溶着ボス2aの端部2cをリベット形状2b(締結要素形状)に形成する部位である。制御部5は、ジュール熱を利用した公知の方法により押圧部4を加熱する。制御部5は、押圧部4の所定部位に通電することにより、押圧部4を加熱する。制御部5は、通電量を変化させることなどにより、押圧部4の加熱温度を制御可能である。駆動部6は、押圧部4が溶着ボス2aを押圧するように押圧部4を駆動する部位である。駆動部6としては、エアシリンダー等の手段が適用可能である。熱溶着装置1においては、制御部5の加熱下にある押圧部4が駆動部6によって駆動され、溶着ボス2aの端部2cを押圧する。これにより、押圧部4が溶着ボス2aを溶融させ、締結材2と被締結材3を締結するためのリベット形状2bを溶着ボス2aの端部2cに形成する。
【0020】
押圧部4は、チップ41と、スリーブ42とを備える。チップ41(溶融部)は、柱状を成す部材で、駆動部6に接続される。チップ41の軸方向(図1示上下方向)の端部には、溶着ボス2aを押圧する押圧面41aが設けられる。押圧面41aの形状は、上述のリベット形状2bに対応する。チップ41は、駆動部6によって駆動され、押圧面41aで溶着ボス2aの端部2cを押圧する。チップ41は、制御部5によって加熱され、加熱下で溶着ボス2aの端部2cを押圧して、溶着ボス2aを溶融させる。チップ41の内部には、圧縮エア(加圧気体)が通過するエア通路41bが設けられる。制御部5がチップ41の加熱を停止した後、圧縮エアがエア通路41bを介してチップ41の内部に供給され、チップ41を冷却する。エア通路41bは、チップ41の外部(大気)に開口しており、チップ41の内部に熱がこもることなく、チップ41が効率的に冷却される。
【0021】
スリーブ42(流動制限部材)は、筒状を成す部材で、チップ41と同軸に設けられる。スリーブ42は、チップ41の外周41cに設けられ、チップ41と接続されている。スリーブ42は、チップ41の外周41cに摺接して設けられる。この構造により、チップ41とスリーブ42との間で熱の伝達が効率よく行われ、加熱下にあるチップ41の熱がスリーブ42に効率よく伝わる。
【0022】
チップ41とスリーブ42の間にはコイルバネ43が設けられる。コイルバネ43は、スリーブ42をチップ41に対し被締結材3に向かう方向(図1示下方向)に付勢している。この構成とすることで、チップ41で溶着ボス2aを押圧する際に、チップ41、スリーブ42で形成される空間内で溶融した溶着ボス2aが受ける圧力が高まる。そして、この状態で押圧することにより密着性を向上させて溶着ボス2aの表面を均一に加圧することができる。更に、チップ41及びスリーブ42からの熱が溶着ボス2aに均一に伝わる。これにより、形成されるリベット形状2bの表面が滑らかに形成できる。
【0023】
次に、熱溶着装置1の作動について、図2乃至図4を参照して説明する。
【0024】
まず、チップ41の押圧面41aが溶着ボス2aの端部2cに当接するように、チップ41が駆動部6によって駆動される(図2示)。この時点で、スリーブ42は被締結材3に当接し、チップ41と被締結材3との間に閉空間7が形成される。スリーブ42はコイルバネ43により被締結材3に向かって付勢されているので、スリーブ42が被締結材3に確実に密着し、閉空間7が確実に密閉される。チップ41と被締結材3との間に閉空間7が形成された後、制御部5(図1参照)がチップ41の加熱を開始する。
【0025】
チップ41が所定の温度に到達すると、加熱下のチップ41が溶着ボス2aを押圧するように、チップ41が駆動部6によってさらに駆動される。これにともなって溶着ボス2aが溶融し、この溶融した樹脂により、溶着ボス2aの端部2cにリベット形状2bが形成される(図3示)。リベット形状2bが形成される間、溶着ボス2aの溶融した樹脂の流動は、スリーブ42によって制限される。また、リベット形状2bが形成される間、チップ41とスリーブ42が溶着ボス2aに密着するので、チップ41の熱がスリーブ42を介して溶着ボス2aの全体に従来技術の熱溶着装置と比較して効率的に伝えられる。なお、溶着ボス2aが溶融してリベット形状2bが形成される間、チップ41は溶着ボス2aを押圧し続ける。この作動をすることで、チップ41で溶着ボス2aを押圧する際に、チップ41、スリーブ42で形成される空間内で溶融した溶着ボス2aが受ける圧力が高まる。そして、この状態で押圧することにより密着性を向上させて溶着ボス2aの表面を均一に加圧することができる。更に、チップ41及びスリーブ42からの熱が溶着ボス2aに均一に伝わる。これにより、形成されるリベット形状2bの表面が滑らかに形成できる。
【0026】
所定の加熱時間が経過すると、制御部5がチップ41の加熱を停止し、チップ41の内部に圧縮エアが供給される。これにより、チップ41が冷却され、チップ41に密着する溶着ボス2a(リベット形状2b)が冷却される。つまり、チップ41は、溶着ボス2aにリベット形状2bが形成された後に圧縮エアをその内部を通過させることで、溶着ボス2a(リベット形状2b)の熱を吸収する。なお、溶着ボス2aが冷却される間も、チップ41は溶着ボス2aを押圧し続ける。この構造によれば、溶着ボス2aがチップ41、スリーブ42及び被締結材3に密着するので、溶着ボス2aの放熱が従来技術の熱溶着装置と比較して効率的に行われ、溶着ボス2aの全体が均一に冷却され、溶着ボス2a(リベット形状2b)が均一に凝固する。つまり、スリーブ42は、溶着ボス2aにリベット形状2bが形成された後は、溶着ボス2a(リベット形状2b)の熱を吸収し、凝固を促進させる。
【0027】
そして、所定の冷却時間が経過すると、チップ41の押圧面41aが溶着ボス2a(リベット形状2b)から離れるように、チップ41が駆動部6によって駆動される。これにより、熱溶着による締結が完了する(図4示)。
【0028】
以上の実施形態では、チップ41の外周41cに設けられたスリーブ42が溶融した樹脂の流動を制限するが、図5に示す様に、被締結材3に固定孔3aが凹部3bと共に設けられる場合には、チップ41と凹部3bとの間の径方向の隙間を最小限にすることで、スリーブ42(図1乃至図4参照)が設けられなくても本実施形態と同様の効果が得られる。
【0029】
以上説明した様に、本実施形態に係る熱溶着装置1によれば、チップ41と被締結材3との間にスリーブ42を介して閉空間7が形成され、この閉空間7内で溶着ボス2aが溶融し、リベット形状2bが形成される。リベット形状2bが形成される間、チップ41とスリーブ42が溶着ボス2a(溶融した樹脂)に密着するので、溶着ボス2aを押圧するチップ41だけでなく、チップ41に接続されるスリーブ42も溶着ボス2aに熱を伝える。これにより、押圧部4においては、溶着ボス2aを押圧する部分だけで溶着ボス2aに熱を伝える従来のものに比べて溶着ボス2aに熱を伝える部分の面積(伝熱面積)が増え、溶着ボス2aに熱を効率的に伝えることができる。その結果、締結の為に溶着ボス2aに与える熱エネルギ量を低減することが可能となり、溶着ボス2aの加熱冷却時間を短縮でき、生産性をさらに向上できる。
【0030】
また、リベット形状2bが形成される間、チップ41とスリーブ42が溶着ボス2a(溶融した樹脂)に隙間なく接触するので、溶着ボス2a全体に熱が均一に伝えられ、溶着ボス2aにおける局所的な温度上昇が抑制される。これにより、樹脂の熱劣化による強度低下やチップ41への樹脂付着の可能性が低くなり、締結加工部分(溶着ボス2aのリベット形状2b)の品質の安定化を図ることが可能となる。
【0031】
さらに、閉空間7内での溶着ボス2aの溶融とリベット形状2bの形成が加圧下で行われるので、リベット形状2bの外観面をより平滑に形成でき、締結部分の品質をさらに向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る熱溶着装置1の概略図。
【図2】熱溶着装置1の作動の態様を示す図。
【図3】熱溶着装置1の作動の態様を示す図。
【図4】熱溶着装置1の作動の態様を示す図。
【図5】固定孔3aと凹部3bが設けられる被締結材3を示す図。
【符号の説明】
【0033】
1 熱溶着装置
2 締結材
2a 溶着ボス
2b リベット形状(締結要素形状)
3 被締結材
3a 固定孔
4 押圧部
5 制御部
6 駆動部
7 閉空間
41 チップ(溶融部)
41c 外周
42 スリーブ(流動制限部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂の締結材に一体に成形される溶着ボスが熱可塑性樹脂の被締結材の固定孔に通された状態で前記溶着ボスを押圧して所定の締結要素形状とする押圧部と、
通電により前記押圧部の加熱温度を制御する制御部と、
前記溶着ボスを押圧するように前記押圧部を駆動する駆動部と、
を備え、
前記押圧部が加熱下で前記溶着ボスを押圧することにより前記締結要素形状を形成する熱溶着装置において、
前記押圧部は、
前記制御部により加熱され、前記溶着ボスを押圧して前記溶着ボスを溶融させる溶融部と、
前記溶融部と接続され、前記被締結材に当接することで前記溶融部と前記被締結材との間に閉空間を形成し、前記溶着ボスの溶融した樹脂の流動を制限する流動制限部材と、
を備えることを特徴とする熱溶着装置。
【請求項2】
前記流動制限部材は、前記溶融した樹脂が前記締結要素形状の一部を形成後は、前記締結要素形状の熱を吸収し凝固を促進させることを特徴とする請求項1に記載の熱溶着装置。
【請求項3】
前記流動制限部材は、前記溶融部の外周に摺接して設けられていることを特徴とする請求項1に記載の熱溶着装置。
【請求項4】
前記流動制限部材は、前記被締結材に向かって付勢されていることを特徴とする請求項1に記載の熱溶着装置。
【請求項5】
前記溶融部は、前記締結要素形状の形成後に加圧気体を前記溶融部の内部を通過させて前記締結要素形状の熱を吸収することを特徴とする請求項1に記載の熱溶着装置。
【請求項6】
前記溶融部は、前記溶着ボスを押圧しながら加熱と冷却を行い前記溶着ボスを前記締結要素形状に形成することを特徴とする請求項1に記載の熱溶着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−168437(P2008−168437A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−957(P2007−957)
【出願日】平成19年1月9日(2007.1.9)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【Fターム(参考)】