説明

熱硬化性磁性スラリー及びその利用

カルボキシル基を有する脂環式オレフィン重合体、熱硬化剤、磁性体、及び溶剤を含有する熱硬化性磁性スラリー。該熱硬化性磁性スラリーを用いて形成されたプリント基板用絶縁材料。該プリント基板用絶縁材料からなる電気絶縁層を少なくとも一層有するプリント基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、カルボキシル基を有する脂環式オレフィン重合体と熱硬化剤と磁性体とを含有し、磁性体の分散性に優れた熱硬化性磁性スラリーに関する。また、本発明は、該熱硬化性磁性スラリーを用いて形成されたプリント基板用絶縁材料に関する。さらに、本発明は、該プリント基板用絶縁材料からなる絶縁層を有するプリント基板に関する。
本発明において、「カルボキシル基」とは、遊離のカルボキシル基のみならず、「酸無水物基」(カルボン酸無水物基、ジカルボン酸無水物基、またはジカルボン酸無水物残基ともいう)をも意味するものとする。
【背景技術】
インダクタンス素子、トランス素子、高周波フィルタなどの電子部品には、磁性体が重合体中に存在するプリント基板用絶縁材料を用いる場合がある。このようなプリント基板用絶縁材料は、熱硬化性樹脂と磁性体とを含有する熱硬化性磁性スラリーを用いて形成されている。プリント基板用絶縁材料に含まれる磁性体としては、フェライトや磁性合金などが用いられている。熱硬化性樹脂としては、電気絶縁性樹脂として一般的なエポキシ樹脂が用いられている。
このようなプリント基板用絶縁材料には、電気絶縁性、高周波特性、透磁率などの特性に優れていることが求められている。しかし、これらの性能を向上させるためには、熱硬化性樹脂中に磁性体を均一に分散させる必要がある。このため、プリント基板用絶縁材料に用いる磁性体として、粒子形状のものが汎用されている。
しかし、磁性体が粒子形状であるだけでは、上述のような多くの特性を満足させることが困難である。特に、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いると、磁性体が均一に分散した熱硬化性磁性スラリーを得ることが困難であり、ひいては磁性体が均一に分散したプリント基板用絶縁材料を得ることが困難である。
重合体中での磁性体の分散性を向上させるために、磁性体を絶縁物質等で表面処理する方法が検討されている。例えば、特開平7−235410号公報には、表面を絶縁化した球状鉄粉をシランカップリング剤で表面処理した磁性体粒子が開示されている。特開2001−313208号公報では、実質的に単結晶で平均粒径が0.1〜10μmの球形磁性金属粒子の表面を金属酸化物の如き絶縁体で被覆した磁性体粒子を用いることが提案されている。
しかし、このような磁性体の表面処理は、製造工程を煩雑にし、生産効率を低下させるばかりでなく、磁性体の品質の均一性を確保するのが困難である。また、磁性体の表面処理だけでは、熱硬化性磁性スラリー中での分散性を高度に改善することが困難である。
他方、特開2001−172477号公報には、脂環式オレフィン重合体、硬化剤、及び液状エポキシ樹脂を含有する硬化性重合体組成物が開示されている。脂環式オレフィン重合体としては、カルボキシル基やカルボン酸無水物基などの極性基を有する脂環式オレフィン重合体が用いられている。この硬化性重合体組成物は、良好な電気絶縁膜を与えることができる。この硬化性重合体組成物を用いて電気絶縁膜を形成するには、各成分を適当な溶剤に溶解したワニスを支持体上に塗布、乾燥して、未硬化または半硬化のシート状成形物(すなわち、ドライフィルム)を作製し、このシート状成形物をプリント基板用内層基板上に積層し、加熱硬化する方法が採用されている。しかし、この文献には、磁性体を分散させた熱硬化性磁性スラリーについては開示されていない。
特開2002−177757号公報には、カルボキシル基やジカルボン酸無水物残基などの極性基を有する脂環式オレフィン重合体を分散剤として用いることが提案されている。具体的には、大量の溶剤中に無機粒子(例えば、ポリリン酸メラミン塩粒子)または有機樹脂粒子を分散させたスラリーに、分散剤として、極性基を有する脂環式オレフィン重合体を少量添加して分散性を向上させる方法が開示されている。
熱硬化性磁性スラリーは、(1)磁性体粒子が凝集せずに均一に分散すること、(2)生産性の観点から、各成分が高濃度で溶解または分散すること、(3)電気絶縁性、高周波特性、透磁率などの特性に優れた電気絶縁層を形成することができることが要求されているが、これらの要求性能を備えた熱硬化性磁性スラリーは未だ提案されていない。
【発明の開示】
本発明の目的は、磁性体の均一分散性に優れ、各成分を高濃度で含有することができ、電気絶縁性、高周波特性、透磁率などの特性に優れた電気絶縁層を形成することができる熱硬化性磁性スラリーを提供することにある。
本発明の他の目的は、これらの優れた特性を備えた熱硬化性磁性スラリーを用いて形成したプリント基板用絶縁材料を提供することにある。
さらに、本発明の目的は、該プリント基板用絶縁材料からなる電気絶縁層を少なくとも一層有するプリント基板を提供することにある。
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意研究した結果、カルボキシル基を有する脂環式オレフィン重合体、熱硬化剤、及び溶剤を含有する硬化性樹脂組成物溶液に、磁性体を混合することにより、磁性体が凝集することなく均一に分散した熱硬化性磁性スラリーの得られることを見出した。
本発明によれば、溶剤中に各成分を高濃度で均一に溶解または分散させた熱硬化性磁性スラリーを得ることができる。また、本発明の熱硬化性磁性スラリーを用いると、磁性体が均一に分散し、電気絶縁性に優れたプリント配線板用絶縁材料を得ることができる。磁性体としては、表面処理を施さないものも使用することができる。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
かくして、本発明によれば、カルボキシル基を有する脂環式オレフィン重合体(A)、熱硬化剤(B)、磁性体(C)、及び溶剤(D)を含有する熱硬化性磁性スラリーが提供される。
また、本発明によれば、前記の熱硬化性磁性スラリーを用いて形成されたプリント基板用絶縁材料が提供される。
さらに、本発明によれば、前記のプリント基板用絶縁材料からなる電気絶縁層を少なくとも一層有するプリント基板が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
カルボキシル基を有する脂環式オレフィン重合体(A)は、遊離のカルボキシル基及び/または酸無水物基を有する構造単位を含む脂環式オレフィン重合体である。
カルボキシル基を有する脂環式オレフィン重合体としては、シクロヘキセンやノルボルネン系単量体などの脂環式オレフィン単量体由来の構造単位を有する脂環式オレフィン重合体構造を主鎖とし、これにカルボキシル基(酸無水物基を含む)が直接またはアルキレン基などの二価の有機基を介して結合した構造を有するポリマーである。
カルボキシル基を有する脂環式オレフィン重合体は、酸価(JIS K 3504)を有している。本発明で使用するカルボキシル基を有する脂環式オレフィン重合体の酸価は、好ましくは5〜200mgKOH/g、より好ましくは30〜100mgKOH/g、特に好ましくは40〜80mgKOH/gの範囲内である。
カルボキシル基を有する脂環式オレフィン重合体の酸価が小さすぎると、カルボキシル基(酸無水物基を含む)の結合量が少ないことを示し、熱硬化性磁性スラリー中での磁性体の分散性が低下する。カルボキシル基を有する脂環式オレフィン重合体の酸価が大きすぎると、熱硬化性磁性スラリーを用いて形成した絶縁材料の電気絶縁性が低下する。
カルボキシル基を有する脂環式オレフィン重合体の主鎖を構成する脂環式オレフィン重合体としては、例えば、(i)ノルボルネン環を有する単量体(すなわち、ノルボルネン系単量体)の開環重合体及びその水素添加物、(ii)ノルボルネン系単量体の付加重合体、(iii)ノルボルネン系単量体とビニル化合物との付加重合体、(iv)単環シクロアルケン重合体、(v)脂環式共役ジエン重合体、(vi)ビニル系脂環式炭化水素重合体及びその水素添加物、及び(vii)芳香族オレフィン重合体の芳香環を水素添加して脂環式オレフィン構造単位を形成させた芳香環水素添加物が挙げられる。
これらの中でも、ノルボルネン系単量体の開環重合体及びその水素添加物、ノルボルネン系単量体の付加重合体、ノルボルネン系単量体とビニル化合物との付加重合体、芳香族オレフィン重合体の芳香環水素添加物が好ましく、ノルボルネン系単量体の開環重合体の水素添加物が特に好ましい。
ノルボルネン系単量体としては、慣用名で、ノルボルネン類、ジシクロペンタジエン類、テトラシクロドデセン類などが挙げられる。脂環式オレフィンや芳香族オレフィンの重合方法、及び必要に応じて行われる水素添加の方法は、格別な制限はなく、公知の方法に従って行うことができる。
これらのノルボルネン系単量体の中でも、8−エチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エンなどのテトラシクロ[4.4.0.12,.17,10]ドデカ−3−エン類(慣用名「テトラシクロドデセン類」)やトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン類などがガラス転移温度が高い重合体を形成するため好ましい。これらのノルボルネン系単量体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
本発明で使用するカルボキシル基を有する脂環式オレフィン重合体は、カルボキシル基(酸無水物基を含む)を有さない脂環式オレフィン重合体に、アクリル酸やマレイン酸無水物などの不飽和化合物をグラフト変性によって結合させる方法により調製することができる。
具体的には、脂環式オレフィン重合体を、ラジカル開始剤の存在下、アクリル酸、メタクリル酸、α−エチルアクリル酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、エンドシス−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸、メチル−エンドシス−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸などの不飽和カルボン酸化合物、これらのエステルまたはアミド;無水マレイン酸、クロロ無水マレイン酸、ブテニル無水コハク酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水シトラコン酸などの不飽和カルボン酸無水物などの不飽和化合物で変性する方法によって、カルボキシル基を有する脂環式オレフィン重合体を合成することができる。
また、カルボキシル基を有する脂環式オレフィン重合体は、カルボキシル基(酸無水物基を含む)を有さない脂環式オレフィン単量体とカルボキシル基(酸無水物基を含む)を有する脂環式オレフィン単量体とを共重合させる方法によって得ることができる。この場合、重合の形式としては、付加重合及び開環重合があり、重合後、必要に応じて水素添加してもよい。脂環式オレフィン単量体としては、前述のノルボルネン系単量体が好ましい。
カルボン酸エステル基などのカルボキシル基に変換可能な前駆基を有する環状オレフィン単量体を用いて重合を行い、加水分解などによって前駆基をカルボキシル基に変換することにより、カルボキシル基を有する脂環式オレフィン重合体を得ることもできる。具体的には、置換基として−(CHCOOR(式中、kは、0または1〜4の整数であり、Rは、炭素原子数1〜12の炭化水素基もしくはフッ素置換炭化水素基である。)を含有するノルボルネン系単量体の重合体またはその水素添加物を加水分解して、該置換基をカルボキシル基に変換する方法である。
ノルボルネン系単量体などの環状オレフィン単量体の重合方法、水素添加方法、グラフト変性方法、加水分解方法などに格別な制限はなく、公知の方法に従って行うことができる。芳香族オレフィン重合体の芳香環水素添加物も、同様に公知の方法によって合成することができる。
カルボキシル基を有する脂環式オレフィン重合体は、1種類の単量体のみを用いて得られた単独重合体であっても、複数の単量体を用いて得られた共重合体であってもよい。
本発明で用いるカルボキシル基を有する脂環式オレフィン重合体は、カルボキシル基以外の置換基を有していてもよい。他の置換基としては、例えば、アルコキシカルボニル基、シアノ基、フェニル基、ヒドロキシフェニル基、エポキシ基、アミド基、イミド基が挙げられる。これらの他の置換基は、カルボキシル基を有する脂環式オレフィン重合体の酸価が上記範囲であることを妨げない範囲内で重合体中に存在させることが好ましいが、その存在割合は、カルボキシル基に対して、より好ましくは30モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下、特に好ましくは1モル%以下である。
カルボキシル基を有する脂環式オレフィン重合体の重量平均分子量は、格別な制限はないが、分散性、操作性、電気絶縁性のバランスの観点から、通常10,000〜500,000、好ましくは10,000〜100,000、より好ましくは20,000〜100,000の範囲内である。
カルボキシル基を有する脂環式オレフィン重合体のガラス転移温度Tgは、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは130℃〜300℃であることが望ましい。カルボキシル基を有する脂環式オレフィン重合体のTgが低すぎると、絶縁材料層(電気絶縁膜)が高温下において充分な電気絶縁性を維持することが困難になり、Tgが高すぎると、絶縁材料層の耐衝撃性が悪くなって導電体回路が破損する場合がある。
熱硬化剤(B)は、加熱により架橋構造を形成し、カルボキシル基を有する脂環式オレフィン重合体を硬化することができるものであればよい。熱硬化剤としては、例えば、イオン性硬化剤、ラジカル性硬化剤、イオン性とラジカル性とを兼ね備えた硬化剤を用いることができる。
熱硬化剤の具体例としては、例えば、1−アリル−3,5−ジグリシジルイソシアヌレート、1,3−ジアリル−5−グリシジルイソシアヌレートの如きアリル基とエポキシ基とを含有するハロゲン不含のイソシアヌレート系硬化剤などの窒素系硬化剤;ビスフェノールAビス(エチレングリコールグリシジルエーテル)エーテル、ビスフェノールAビス(ジエチレングリコールグリシジルエーテル)エーテル、ビスフェノールAビス(トリエチレングリコールグリシジルエーテル)エーテル、ビスフェノールAビス(プロピレングリコールグリシジルエーテル)エーテルなどのビスフェノールA系グリシジルエーテル型エポキシ化合物のようなグリシジルエーテル型エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物などの多価エポキシ化合物;酸無水物やジカルボン酸化合物などのジカルボン酸誘導体;ジオール化合物、トリオール化合物、多価フェノール化合物などのポリオール化合物;などが挙げられる。
これらの硬化剤の中でも、ビスフェノールAビス(プロピレングリコールグリシジルエーテル)エーテルのようなグリシジルエーテル型エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物などの多価エポキシ化合物が好ましく、特に電気絶縁膜の耐クラック性を高める観点から、グリシジルエーテル型エポキシ化合物が好ましい。
熱硬化剤の使用割合は、カルボキシル基を有する脂環式オレフィン重合体100重量部に対して、通常1〜100重量部、好ましくは5〜80重量部、より好ましくは10〜50重量部の範囲内である。
熱硬化剤に加えて、硬化促進剤を添加することにより、耐熱性の高い電気絶縁膜を容易に得ることができる。例えば、熱硬化剤として多価エポキシ化合物を用いた場合には、トリアゾール化合物やイミダゾール化合物などの第3級アミン化合物;三弗化ホウ素錯化合物などの硬化促進剤を使用することが好ましい。
硬化促進剤は、単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。硬化促進剤の配合割合は、使用目的に応じて適宜選択されるが、カルボキシル基を有する脂環式オレフィン重合体100重量部に対して、通常0.001〜30重量部、好ましくは0.01〜10重量部、より好ましくは0.03〜5重量部の範囲内である。
本発明で用いる磁性体(C)は、格別な制限はなく、フェライトや磁性合金のような磁性を有する粒子であればよい。
磁性体の粒子形状には、格別な制限はないが、高い電気絶縁性を得やすいことから、球状または球状に近い形状であることが望ましい。磁性体の粒子の長径は、最終的に形成するプリント基板用絶縁材料の厚みに対して、通常1/3以下であるが、電気絶縁性と磁性特性との良好なバランスを得るためには、1/4以下であるのが望ましい。磁性体粒子の平均粒径(d50)は、0.1〜10μm程度であることが好ましい。
フェライトの具体例としては、例えば、Mn−Zn系フェライト、Nn−Zn系フェライト、Mn−Mg−Zn系フェライト、Ni−Cu−Zn系フェライト、Cu−Zn系フェライト、Mnフェライト、Coフェライト、Liフェライト、Mgフェライト、Niフェライト、Baフェライトが挙げられる。高透磁率である点で、ソフトフェライトが好ましい。
金属合金としては、鉄と他の金属(例えば、ニッケル、モリブデン、珪素、アルミニウム、コバルト、ネオジウム、白金、サマリウム、亜鉛、硼素、銅、ビスマス、クロム、チタン)の1種以上との合金が挙げられる。合金は、例えば、鉄を、酸化ケイ素や窒化鉄(カルボニア鉄粉をアンモニア・水素混合ガス中で加熱・窒化したもの)と、メカニカルアロイング法により混合して得られたナノコンポジット磁性体粒子でもよい。その他、鉄を含まない金属合金として、例えば、Mn−Al合金、Co−Pt合金、Cu−Ni−Co合金も使用できる。
本発明の熱硬化性磁性スラリーでは、表面処理をしていない磁性体であっても良好な分散性を示すが、金属酸化物の皮膜を形成した磁性体やカップリング剤で処理した磁性体を用いてもよい。
本発明の熱硬化性磁性スラリー中、磁性体の含有量は、カルボキシル基を有する脂環式オレフィン重合体中に分散可能な量であれば格別制限されないが、カルボキシル基を有する脂環式オレフィン重合体に対して、通常0.1〜70体積%、好ましくは1〜60体積%、より好ましくは5〜50体積%である。重量規準では、カルボキシル基を有する脂環式オレフィン重合体100重量部に対して、磁性体を0.5〜90重量部の割合で用いることが好ましい。磁性体の使用量が少なすぎると、高周波特性や透磁率などの目的の性能が得られず、多すぎると電気絶縁性が低下する。
溶剤(D)としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼンなどの芳香族炭化水素;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタンなどの脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類を挙げることができる。
本発明の熱硬化性磁性スラリーには、必要に応じて、硬化助剤、難燃剤、軟質重合体、耐熱安定剤、耐候安定剤、老化防止剤、レベリング剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、染料、顔料、天然油、合成油、ワックス、乳剤、充填剤などの添加剤(E)を含有させることができる。
本発明の熱硬化性磁性スラリーに用いる各成分は、それぞれ単独でも、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明の熱硬化性磁性スラリーを得る方法には、格別な制限はなく、前述した各成分を、順次、溶剤(D)中に添加し、混合してもよい。操作性と磁性体の均一分散性の観点からは、カルボキシル基を有する脂環式オレフィン重合体(A)と熱硬化剤(B)とを溶剤(D)に溶解させた熱硬化性樹脂組成物溶液と、磁性体(C)を溶剤(D)中に分散させた磁性体スラリーとを混合する方法により、熱硬化性磁性スラリーを調製することが好ましい。
熱硬化性磁性体スラリーは、溶剤以外の成分の熱硬化性磁性体スラリー全量に対する割合(固形分濃度)は、通常30〜70重量%、好ましくは35〜60重量%の範囲内である。この濃度が低すぎると、電気絶縁膜などの成形物の形成作業性が低下する。
熱硬化性樹脂組成物溶液、磁性体スラリー、及び熱硬化性磁性スラリーの調製工程において、各成分を混合する方法としては、例えば、ホモジナイザー、攪拌機、ボールミル、ロールを使用する方法が挙げられる。混合温度に格別な制限はないが、熱硬化剤による硬化反応が作業性に影響を及ぼさない温度であって、安全性の点から混合時に使用する有機溶剤の沸点以下の温度が好ましい。
本発明の熱硬化性磁性スラリーを用いて、インダクタンス素子形成用部材や高周波ノイズフィルタなどに適用することができるプリント基板用絶縁材料を得ることができる。
プリント基板用絶縁材料としては、熱硬化性磁性スラリーを支持体上に塗布し、乾燥して得られる未硬化(半硬化を含む)の成形物を挙げることができる。また、プリント基板用絶縁材料としては、基材(例えば、基板)上に熱硬化性磁性スラリーを塗布し、乾燥し、熱硬化して得られる硬化成形物がある。
未硬化成形物を得る方法の具体例は、次の通りである。すなわち、熱硬化性磁性スラリーを、溶液キャスト法や溶融キャスト法によって、樹脂フィルム(キャリアフィルム)や金属箔などの平坦な支持体上に塗布し、溶剤を乾燥除去すれば、シート状またはフィルム状の未硬化成形物が得られる。このような未硬化成形物は、一般にドライフィルムと呼ばれている。溶剤の乾燥除去条件は、溶剤の種類により適宜選択される。乾燥温度は、通常20〜300℃、好ましくは30〜200℃である。乾燥時間は、通常30秒間〜1時間、好ましくは1分間〜30分間である。
硬化成形物を得る好ましい方法の具体例は、次の通りである。すなわち、上述したシート状またはフィルム状の未硬化成形物(ドライフィルム)を、導電体回路を有する内層基板上の任意の位置に重ね合わせ、加圧ラミネータ、真空ラミネータ、真空プレス、ロールラミネータなどの加圧機を使用して、加熱圧着することにより、内層基板上に硬化成形物の膜(電気絶縁膜)を形成することができる。
加熱圧着は、電気絶縁膜の配線への埋め込み性を向上させ、気泡の発生を抑えるために、真空下で行うことが好ましい。加熱圧着時の温度は、通常30〜250℃、好ましくは70〜200℃である。圧着力は、通常10kPa〜20MPa、好ましくは100kPa〜10MPaである。圧着時間は、通常30秒間〜5時間、好ましくは1分間〜3時間である。加熱圧着時には、通常100kPa〜1Pa、好ましくは40kPa〜10Paに雰囲気を減圧する。
このようにして内層基板上に形成された硬化成形物の膜(電気絶縁膜)は、例えば、導電体回路を囲むように配置されていると、磁場を生じさせて、インダクタンス素子やトランス素子などの素子をプリント基板上に形成することができる。本発明の熱硬化性スラリーを用いて形成した電気絶縁膜をプリント基板上の導電体回路間を埋める電気絶縁層の途中に挟むと、絶縁部材に電気ノイズを吸収させる高周波フィルタとして用いることができる。
本発明の熱硬化性磁性スラリーを、有機合成繊維やガラス繊維などの繊維基材に含浸させた後、乾燥すれば、プリプレグ形状のプリント基板用絶縁材料を形成することができる。このプリプレグを用いて、磁性特性を有する積層板を作製することができる。
本発明のプリント基板用絶縁材料からなる電気絶縁層(電気絶縁膜)を少なくとも一層配置することにより、多層のプリント基板を作製することができる。多層プリント基板は、常法に従って、回路基板上に電気絶縁層を多層に配置することにより製造することができる。配線パターンやビアホールの形成も、常法に従って行うことができる。
【実施例】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。実施例中の「部」及び「%」は、特に断りのない限り重量(質量)基準である。本発明における物性及び特性の測定法及び評価法は、以下のとおりである。
(1)分子量(Mw及びMn):
カルボキシル基含有脂環式オレフィン重合体の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、トルエンを溶剤とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレン換算値として測定した。
(2)水素添加率及び(無水)マレイン酸残基含有率:
水素添加前の重合体中の不飽和結合のモル数に対する水素添加率、及び重合体中の総モノマー単位数に対する(無水)マレイン酸残基のモル数の割合は、いずれもH−NMRスペクトルにより測定した。
(3)酸価:
JIS K 3504に定める油脂の酸価試験方法に従って、カルボキシル基(酸無水物残基を含む)を含有する重合体の酸価を測定した。
(4)ガラス移転温度:
重合体のガラス転移温度Tgは、示差走査熱量法(DSC法)により測定した。
(5)凝集物の評価:
熱硬化性磁性スラリー中に存在する磁性体粒子の凝集の程度は、JIS K 5400にて定める「つぶの試験A法」にて評価した。熱硬化性磁性スラリーの配合後に凝集物の評価を行い、粒の大きさが30μmを超えるものが無い場合をA、30μmを超えるが40μm以下の場合をB、40μmを超えるものが存在する場合をCとした。
(6)多層基板の層間絶縁抵抗評価:
熱硬化性磁性スラリーを用いて得た成形物を硬化して、内層基板の両面に3層づつ電気絶縁層を形成し、両面合計6層の多層回路基板を作製した。得られた多層回路基板について、それぞれ2層目と3層目の電気絶縁層間で、JPCA−BU01に定める「ベタ導体−ライン間評価用パターン」を形成した後、温度85℃、相対湿度(RH)85%を維持する恒温恒湿槽に放置した。
48時間後、恒温恒湿槽から多層回路基板を取り出して、常態(25℃、50%RH)で1時間放置した。この多層回路基板に常態で直流電圧5.5Vを印加しながら、ベタ導体とラインとの間の電気絶縁抵抗値を測定した。層間絶縁抵抗は、電気絶縁抵抗値(オーム)に基づいて、以下の基準で評価した。
A:10オーム以上、
B:10オーム以上、10オーム未満、
C:10オーム未満ではあるが、短絡の認められない、
D:10オーム未満であって、かつ短絡している。
【実施例1】
1.開環重合体水素添加物の合成
8−エチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エンを開環重合し、次いで、得られた開環重合体の水素添加反応を行い、数平均分子量(Mn)=31,200、重量平均分子量(Mw)=55,800、Tg=約140℃の水素添加物(水素化重合体)を得た。得られた水素化重合体の水素添加率は、99%以上であった。
2.無水マレイン酸変性重合体の合成
上記で得られた水素化重合体100部、無水マレイン酸40部、及びジクミルパーオキシド5部をt−ブチルベンゼン250部に溶解し、140℃で6時間変性反応を行った。反応後、得られた反応生成物溶液を1,000部のイソプロピルアルコール中に注ぎ、反応生成物を凝固させた。凝固物を回収し、100℃で20時間真空乾燥した。このようにして、Mn=33,200、Mw=68,300、Tg=170℃、(無水)マレイン酸残基含有率=25モル%、酸価=63の無水マレイン酸変性水素化重合体を得た。
3.熱硬化性磁性スラリーの調製
上記で得られた無水マレイン酸変性水素化重合体100部、ビスフェノールAビス(プロピレングリコールグリシジルエーテル)エーテル40部、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]ベンゾトリアゾール5部、及び1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール0.1部を、キシレン172部及びシクロペンタノン43.2部からなる混合溶剤中に溶解させて、硬化性樹脂組成物溶液(a)を調製した。この硬化性樹脂組成物溶液(a)中の溶剤以外の成分の含有量(濃度)は、40.4%であった。
金属酸化物系磁性材料である平均粒径1.2μm、最大粒径10μmのNi−Znフェライト40部を、キシレン43部及びシクロペンタノン10.8部からなる混合溶剤中に遊星式攪拌ミルを用いて分散させ、磁性体スラリー(b)を調製した。
硬化性樹脂組成物溶液(a)と磁性体スラリー(b)とを混合攪拌して、熱硬化性磁性スラリー(I)を調製した。この熱硬化性磁性スラリー(I)中の溶剤以外の成分の濃度は、スラリー全量基準で40.8%であった。得られた熱硬化性磁性スラリー(I)中の凝集物の評価を行った。結果を表1に示す。
4.ドライフィルムの作製
熱硬化性磁性スラリー(I)を、ダイコーターを用いて、300mm角の厚さ50μmのポリエチレンナフタレートフィルムからなるキャリアフィルム上に塗工し、次いで、窒素オーブン中、120℃で10分間乾燥し、厚みが50μmの樹脂層(硬化性樹脂組成物の成形体に相当)を得た。このようにして、キャリアフィルム付きドライフィルム(樹脂層)を作製した。
5.多層回路基板の作製
2−ジ−n−ブチルアミノ−4,6−ジメルカプト−s−トリアジンの0.1%イソプロピルアルコール溶液を調製した。この溶液に、配線幅及び配線間距離が各々50μm、導体厚みが18μmで表面がマイクロエッチング処理された内層回路を形成した厚さ0.8mmの両面銅張り基板を25℃で1分間浸漬し、次いで、90℃で15分間、窒素置換したオーブン中で乾燥させて、プライマー層を形成した内層基板を得た。両面銅張り基板としては、ガラスフィラー及びエポキシ樹脂を含有するワニスをガラスクロスに含浸させて得られたコア材を有するものを用いた。
プライマー層を形成した内層基板の両面に、前述のキャリアフィルム付きドライフィルムを該ドライフィルムの樹脂面が内側となるようにして重ね合わせた。これを、一次プレスとして、耐熱ゴム製プレス板を上下に備えた真空ラミネータを使用し、200Paに減圧して、温度110℃、圧力0.5MPaで60秒間加熱圧着した。次いで、二次プレスとして、金属製プレス板で覆われた耐熱ゴム製プレス板を上下に備えた真空ラミネータを使用し、200Paに減圧して、温度140℃、1.0MPaで60秒間加熱圧着した。このようにして、両面銅張り基板(内層基板)の両面に硬化性樹脂組成物の成形体を積層した。その後、キャリアフィルムのポリエチレンナフタレートフィルムのみを剥がし、窒素オーブン中に140℃で30分間、170℃で60分間放置し、内層基板の両面にドライフィルムからなる電気絶縁層を形成した積層板を得た。
このようにして得られた積層板の電気絶縁層部分に、UV−YAGレーザ第3高調波を用いて、直径50μmの層間接続用ビアホールを形成した。ビアホールを形成した積層板の表面をプラズマ処理した。プラズマ処理は、アルゴンガスと窒素ガスとの体積比が20:80の混合ガスを用いて、周波数13.56MHz、出力100W、ガス圧0.8Paの処理条件で行った。プラズマ処理時の温度は25℃で、処理時間は5分間であった。
プラズマ処理した積層板の表面に、周波数13.56MHz、出力400W、ガス圧0.8Paの条件でアルゴン雰囲気下にてRFスパッタ法により、28nm/分のレートで厚さ0.03μmのクロム膜を形成させた。次いで、クロム膜上に、同様のRFスパッタ法により、55nm/分のレートで厚さ0.3μmの銅薄膜を形成させた。このようにして、両面に金属薄膜を有する積層板を得た。
この積層板表面に市販の感光性ドライフィルムを熱圧着して貼り付け、さらに、感光性ドライフィルム上に所定のパターンを有するマスクを密着させて露光し、次いで、現像してレジストパターンを形成した。次に、電解銅メッキを施して、レジストパターンのレジストのない部分に厚さ18μmの電解銅メッキ膜を形成した。レジストパターンを剥離液で除去し、塩化第二銅と塩酸混合溶液によりエッチング処理を行って、金属薄膜及び電解銅メッキ膜からなる配線パターンを形成した。最後に、170℃で30分間アニール処理をして、両面合計2層の配線パターン付きの磁性特性を有する多層回路基板を得た。
こうして得られた配線パターン付きの多層回路基板を内層回路基板として使用し、前述同様にして、電気絶縁層と導電体層を形成する操作を繰り返して、両面合計6層の多層回路基板を得た。この多層回路基板を用いて、電気絶縁抵抗の評価を行った。結果を表1に示す。
【実施例2】
実施例1において、Ni−Znフェライトに代えて、金属合金系磁性材料である平均粒径1.1μm、最大粒径9μmのパーマロイ(Ni−Fe合金)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして磁性体スラリー(c)を調製した。この磁性体スラリー(c)と硬化性樹脂組成物溶液(a)とを混合攪拌し、熱硬化性磁性スラリー(II)を得た。この熱硬化性磁性スラリー(II)について、凝集物の評価を行った。結果を表1に示す。
この熱硬化性磁性スラリー(II)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、両面合計6層の多層回路基板を作製し、電気絶縁抵抗の評価を行った。結果を表1に示す。
【実施例3】
実施例1で調製した熱硬化性磁性スラリー(I)をガラス繊維に含浸させて、幅0.17mmのスリットを通した後、窒素オーブン中、120℃で10分間乾燥し、厚み0.11mmの熱硬化性磁性材料含有プリプレグを作製した。このプリプレグを2枚重ねて、その両面に電解銅箔GTS−MP(古河サーキットフォイル株式会社製)のマット面を内側となるよう重ね合わせた後、真空プレスした。具体的には、真空プレス機中で、常温にて500Paまで減圧し、次いで、毎分10℃で120℃まで昇温し、120℃に到達した時点でプレス圧力30Kgf/cmで30分間保持する条件で真空プレスを行った。その後、プレス圧力を30Kgf/cmのままで毎分10℃で180℃まで昇温し、180℃に到達した時点から60分間保持して磁性特性を有する両面銅張り積層板を得た。
得られた両面銅張り積層板の表面に市販の感光性ドライフィルムを熱圧着して貼り付け、さらに、感光性ドライフィルム上に所定のパターンを有するマスクを密着させて露光した後、現像してレジストパターンを得た。次いで、塩化第二銅と塩酸混合溶液によりエッチング処理を行い、その後、レジストを剥離液で除去して、所望の配線パターンを形成した回路基板を得た。
こうして得られた配線パターン付き回路基板3枚を、前述の磁性材料含有プリプレグを層間絶縁材料として使用し、真空プレスを用いて真空プレス機中で、常温にて500Paまで減圧し、次いで、毎分10℃の速度で120℃まで昇温し、120℃に到達した時点でプレス圧力30Kgf/cmで30分間保持した。その後、プレス圧力を30Kgf/cmのままで毎分10℃の速度で180℃まで昇温し、180℃に到達した時点から60分間保持して、磁性特性を有する両面合計6層の多層回路基板を得た。多層回路基板にドリル加工によりスルーホールを形成した。スルーホール内部に、無電解めっき後、電解めっきを施すことにより導体層を形成して、所望の多層回路基板を得た。この多層回路基板を用いて電気絶縁抵抗の評価を行った。結果を表1に示す。
[比較例1]
実施例1において、無水マレイン酸変性水素化重合体に代えて、エポキシ樹脂(商品名:エピコート1001:ジャパンエポキシレジン株式会社製:重量平均分子量1300)を使用し、かつジシアンジアミド13部を加えたこと以外は、実施例1と同様にして、磁性材料含有の硬化性樹脂組成物ワニス(III)を得た。得られたワニスについて、凝集物の評価を行った。結果を表1に示す。
この硬化性樹脂組成物ワニス(III)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、両面合計6層の多層回路基板を作製し、電気絶縁抵抗の評価を行った。結果を表1に示す。
[比較例2]
比較例1において、Ni−Znフェライトに代えて、金属合金系磁性材料であるパーマロイ(Ni−Fe合金)を用いたこと以外は、比較例1と同様にして、磁性材料含有の硬化性樹脂組成物ワニス(IV)を得た。得られたワニスについて、凝集物の評価を行った。結果を表1に示す。この硬化性樹脂組成物ワニス(IV)を用いたこと以外は、比較例1と同様にして、両面合計6層の多層回路基板を作製し、電気絶縁抵抗の評価を行った。結果を表1に示す。
[比較例3]
エポキシ変性重合体を、特開平10−182799号公報の実施例1に記載の方法によって製造した。このエポキシ変性重合体をマレイン酸変性水素化重合体の代わりに使用し、かつジシアンジアミド13部を加えたこと以外は、実施例1と同様にして、磁性材料含有の硬化性樹脂組成物ワニス(V)を得た。得られたワニスについて、凝集物の評価を行った。結果を表1に示す。
この硬化性樹脂組成物ワニス(V)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、両面合計6層の多層回路基板を作製し、電気絶縁抵抗の評価を行った。結果を表1に示す。

以上の結果から明らかなように、カルボキシル基(無水物基を含む)を有する脂環式オレフィン重合体と熱硬化剤とを含有する硬化性樹脂組成物に磁性体を含有させた熱硬化性磁性スラリー(実施例1〜3)を用いると、熱硬化後の硬化物内においても、磁性体が均一に分散して存在し、高い電気絶縁性を確保することができる。
【産業上の利用可能性】
本発明によれば、磁性体の均一分散性に優れ、各成分を高濃度で含有することができ、電気絶縁性、高周波特性、透磁率などの特性に優れた電気絶縁層を形成することができる熱硬化性磁性スラリーが提供される。また、本発明によれば、これらの優れた特性を備えた熱硬化性磁性スラリーを用いて形成したプリント基板用絶縁材料が提供される。さらに、本発明によれば、該プリント基板用絶縁材料からなる電気絶縁層を少なくとも一層有するプリント基板が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基を有する脂環式オレフィン重合体(A)、熱硬化剤(B)、磁性体(C)、及び溶剤(D)を含有する熱硬化性磁性スラリー。
【請求項2】
カルボキシル基を有する脂環式オレフィン重合体(A)が、5〜200mgKOH/gの範囲内の酸価を有するものである請求項1記載の熱硬化性磁性スラリー。
【請求項3】
カルボキシル基を有する脂環式オレフィン重合体(A)が、120〜300℃の範囲内のガラス転移温度を有するものである請求項1記載の熱硬化性磁性スラリー。
【請求項4】
カルボキシル基を有する脂環式オレフィン重合体(A)が、カルボキシル基または酸無水物基を有する不飽和化合物によるグラフト変性に由来するカルボキシル基を有する脂環式オレフィン重合体である請求項1記載の熱硬化性磁性スラリー。
【請求項5】
カルボキシル基を有する脂環式オレフィン重合体(A)が、カルボキシル基または酸無水物基を含有する脂環式オレフィン単量体に由来するカルボキシル基を有するものである請求項1記載の熱硬化性磁性スラリー。
【請求項6】
カルボキシル基を有する脂環式オレフィン重合体(A)が、
(i)ノルボルネン系単量体の開環重合体及びその水素添加物、
(ii)ノルボルネン系単量体の付加重合体、
(iii)ノルボルネン系単量体とビニル化合物との付加重合体、及び
(iv)芳香族オレフィン単量体の重合体の芳香環水素添加物
からなる群より選ばれる少なくとも一種の脂環式オレフィン重合体であって、かつカルボキシル基を有するものである請求項1記載の熱硬化性磁性スラリー。
【請求項7】
カルボキシル基を有する脂環式オレフィン重合体(A)が、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−ドデカ−3−エン類の開環重合体の水素添加物であって、かつカルボキシル基を有するものである請求項1記載の熱硬化性磁性スラリー。
【請求項8】
熱硬化剤(B)が、イオン性硬化剤、ラジカル性硬化剤、またはイオン性とラジカル性とを兼ね備えた硬化剤である請求項1記載の熱硬化性磁性スラリー。
【請求項9】
熱硬化剤(B)が、多価エポキシ化合物である請求項1記載の熱硬化性磁性スラリー。
【請求項10】
磁性体(C)が、フェライト及び磁性合金から選ばれる磁性体の粒子である請求項1記載の熱硬化性磁性スラリー。
【請求項11】
カルボキシル基を有する脂環式オレフィン重合体(A)100重量部に対して、熱硬化剤(B)1〜100重量部、磁性体(C)0.5〜90重量部、及び前記各成分を均一に溶解または分散するに足る量の溶剤(D)を含有する請求項1記載の熱硬化性磁性スラリー。
【請求項12】
溶剤(D)以外の成分の含有量が、熱硬化性磁性スラリー全量を基準にして30重量%以上である請求項1記載の熱硬化性磁性スラリー。
【請求項13】
カルボキシル基を有する脂環式オレフィン重合体(A)、熱硬化剤(B)及び溶剤(D)を含有する硬化性樹脂組成物溶液と、磁性体(C)及び溶剤(D)を含有する磁性体スラリーとの混合物である請求項1記載の熱硬化性磁性スラリー。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれか1項に記載の熱硬化性磁性スラリーを用いて形成されたプリント基板用絶縁材料。
【請求項15】
支持体上に熱硬化性磁性スラリーを塗布し、乾燥して得られた未硬化成形物である請求項14記載のプリント基板用絶縁材料。
【請求項16】
支持体上に熱硬化性磁性スラリーを塗布し、乾燥して得られた未硬化成形物を、基板上に加熱圧着してなる熱硬化成形物である請求項14記載のプリント基板用絶縁材料。
【請求項17】
基材上に熱硬化性磁性スラリーを塗布し、乾燥し、加熱硬化して得られた硬化成形物である請求項14記載のプリント基板用絶縁材料。
【請求項18】
繊維基材に熱硬化性磁性スラリーを含浸し、乾燥して得られたプリプレグである請求項14記載のプリント基板用絶縁材料。
【請求項19】
10オーム以上の電気絶縁抵抗値を示す請求項14記載のプリント基板用絶縁材料。
【請求項20】
請求項14記載のプリント基板用絶縁材料からなる電気絶縁層を少なくとも一層有するプリント基板。

【国際公開番号】WO2004/029153
【国際公開日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【発行日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−539563(P2004−539563)
【国際出願番号】PCT/JP2003/012395
【国際出願日】平成15年9月29日(2003.9.29)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】