説明

熱遮蔽された熱可塑性部品、特に総合的な熱遮蔽性を有する自動車底面部品

自動車の熱応力を受ける領域、例えばエンジン室底面の領域に使用される部品は、熱可塑性部品、すなわち金属箔(3)により熱的に遮蔽される支持層(2)からなる。金属箔(3)の接着力を向上させるために、金属箔(3)は、支持層(2)の熱可塑性材料に固定された多数の折曲ポケット部(4)を備えている。これによって、金属箔(3)と支持層(2)との間に確実な結合が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前文に記載の熱遮蔽された熱可塑性部品に関し、特に総合的な熱遮蔽性を有する自動車底面部品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンのような熱可塑性材料は温度の影響をうけやすく、表面放射ポテンシャル、即ち放射熱の吸収力が高い。この放射熱の吸収が増大する結果、こうしたプラスチックのマトリックスは、局所的な領域で局所的に変わりうる放射熱の影響のもとで強く熱せられ、このためこのような領域で望ましくない弱い箇所が生じる。
そのため、増大する放射熱に曝される領域でそのような材料を使用する際には、赤外線を反射する金属箔が用いられる。このようにして、そのような保護領域でのこれらプラスチックのマトリックス温度を効果的に下げることができる。すなわち、脆化や脆性といったような望ましくない材料変化を避けることができる。この方法によって、高温下にある環境でも熱可塑性材料を使用することが可能となる。そのような金属の保護箔がなければ、熱可塑性材料からなる部品は、急速なエイジングプロセスを受け、赤外線の増大する環境で使用できなくなる。
【0003】
特に、熱可塑性部品は、金属部品に比べてずっと軽量で、ユーザー定義ができかつ安価に形成でき、またリサイクルしやすいため、近年自動車技術においてますます用いられるようになっている。その結果、自動車技術で用いられる部品の熱遮蔽はますます重要性を増している。しかしながら、自動車技術における部品の熱遮蔽方法の実施は、振動、風力、局所的な温度変動等のような過度な機械的負荷がかかるため、極めて難しいことがわかっている。現在、そのような部品には、公知の方法では、熱に曝される領域に金属箔を備えて、こうした箇所での部品を赤外線の増加から保護している。しかしながら、この公知の方法によれば、製品の寿命は短くなる。
【0004】
例えば、特許文献1には、耐熱性かつ断熱繊維材料から成るコア層を有する、音響上効果的なアンダーフロア自動車用部品が記載されている。このコア層は、グラスファイバー、セラミックファイバー、玄武岩ウールまたはその混合物から成る不織布材料を含むのが好ましく、影響を及ぼす可能性のある赤外線を反射するため、両側に、アルミニウムまたはシートメタルから成る熱反射金属箔を備えている。このアンダーフロア部品の不織布は、少なくともその周辺領域に熱硬化樹脂(duroplastic)結合剤が与えられており、金属箔を繊維性不織布に貼り付けている。同時に、このように貼り付けることによって、周辺領域を強化しており、それによりアンダーフロア部品全体にある程度の形状安定性が与えられている。前記熱反射金属箔は、好ましくはグラスファイバー層、アルミニウム層および熱可塑性ポリオレフィン層を有する3層の薄い箔からなり、これらの層は、通常熱硬化樹脂(duroplastic)結合剤が備えられている不織布に成形プレスで表面全体がゆるく結合している。この部品は、また、相対的に堅い周辺領域と柔らかい、つまり、しなりやすい中央領域を有する。
【0005】
特許文献2では、熱可塑性合成材料から成るキャリア層およびアルミニウムから成る熱遮蔽層を含む遮熱材として用いられる部品が記載されている。アルミニウム層およびキャリア層の間には、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル(PET)、ポリアミド(PA)または熱可塑性ポリウレタン(TPU)から成る熱可塑性結合層(ホットメルト接着剤)が備えられており、これは成形プロセス中に溶解し、アルミニウム層がキャリア層としっかり結合する。このアルミニウム層の寸法は最大熱曝露領域(ホットスポット領域)よりもずっと大きく、局所的に影響を及ぼす熱、すなわち基本的には対流熱を分散させることを意図している。熱伝導性をよくするため、用いられるアルミニウム層の厚みは0.08〜0.2mmであることが好ましく、遮熱材の表面に特定のゆがみを与えることができる。好適な態様では、この遮熱材は、互いに直角であり遮熱材の安定性と冷却性をよくするために作られる、溝のようなくぼみを有している。この熱伝導機能を有効にするため、この金属の熱遮蔽層はエキスパンデッドメタルの形をとることができる。
【0006】
しかしながら、金属箔に覆われ高い熱応力にさらされるこうした公知の箔は、急速なエイジングプロセスをうけやすい。すなわち、損なわれないのは短期間のみである。特に、そのようなアンダーフロア部品ではしばらくするとデラミネーションが起こり、そのため自動車業界でのそのような部品の使用は不適切になる。特に、金属保護箔とキャリア材料の間のホットメルト接着剤は、高くかつ絶えず変化する熱応力によるエイジングプロセスの加速のせいで、接着特性を失う。さらに、この使用領域での特に著しい振動によって、そのような部品が疲労、破壊または局所的な分解の兆候を急速に示すようになり、望ましくない騒音の発生に至りうる。
【0007】
特許文献3には、燃料タンクを総合的に熱遮蔽したことが記載されている。そこでは反射金属箔に穴を開け、できた穴の突起部に製造プロセスの間に熱可塑性合成材料を逆流させるようにすることが示されている。これによって、確実に機械的に係止(locking)[かぎつめ留め(clawing)や 囲い込み(bracketing)]し、そしてより耐久性のある製品になる。
しかしながら、こうした部品であっても、穴の開いた領域で用いられるプラスチックは赤外線に対して十分には保護されず、このためこうした領域でより急速に経年劣化(age)しうる。
【特許文献1】US 5,464,952
【特許文献2】DE 197 05 511 A1
【特許文献3】WO99/44851
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、上記のような欠点がなく、放射熱のもとで長期間使用した後でも表面全体にわたり接着特性を保持する熱遮蔽された熱可塑性部品を提供することである。特に、本発明の目的は、長寿命の熱遮蔽されかつ耐振性のある自動車底面部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、請求項1の特徴を有する部品による本発明によって解決される。その部品は、特に、熱可塑性合成樹脂、特にLFT(エンドレスの繊維強化熱可塑性樹脂)またはGMT(ガラス繊維強化合成樹脂)、および少なくとも部分的にそれに結合し、多数の小さな折曲ポケット部(folding pockets)を含む金属箔から成るキャリア層を有する部品である。これら折曲ポケット部は合成樹脂に埋め込まれている。すなわち、これらの折曲ポケット部は、機械的に合成樹脂に固定され(anchored)、長期的に(すなわち、約140℃の温度での1000時間より長い作動時間)一定の剥離抵抗WS、例えば少なくとも0.15N/mm2(WS>0.15N/mm2)をもたらす。金属箔の固定(anchorage)、または囲い込み(bracketing)は、凹凸のある(knobbed)、またはそれに類する形状の箔が、形成される合成材料とともに成形型(form nest)または鋳型(mold)に挿入されるという点で、前記熱可塑性部品の成形プロセス中で簡単に行うことができる。成形プレスが終わると、個々の凹凸、折り目またはそれに類するくぼみ状の隆起部は部分的に圧縮され、向きを変えられ、または折り畳まれ、事実上閉じ込められた折曲ポケット部を形成する。部品が形成されると、前記熱可塑性樹脂は個々の折曲ポケット部の周囲に流れることができ、このようにして金属箔と、形状に合った、または確実な結合を生み出す。成形プロセスによってそのような部品を形成する技術は、専門家による特殊な技術的知識を必要とせず、本発明の課題ではない。その特定の使用や機能の要求により、個々の折曲ポケット部はさまざまな寸法であってもよく、規則的または不規則に配置することができ、他の材料で被覆することもでき、そして全体的または部分的にプラスチックで周囲に流すこともできる。好適な態様では、少なくとも1〜5個の折曲ポケット部が10〜30mmの区間内に配列される。使用される箔はアルミニウムから成るのが好ましく、厚みは0.01〜0.1mmであるが、最大0.5mmの厚みを有することができる。
【0010】
本発明のさらなる展開において、耐熱性接着剤が、箔と、熱応力が増大しても接着特性を失わない合成樹脂キャリアとの間に備えられる。専門家が、アルミニウム箔と熱可塑性樹脂との間にさらに機能的な層を備えてもよいことは自明である。
【0011】
本発明にかかる部品は、特に、熱応力をうける自動車の領域、例えばエンジン室の底面、スペア・ホイール室、自動車トンネル、ダッシュボード・カウル(cowl)、排気管や触媒コンバータなどのような領域での使用に適している。
【0012】
本発明の利点は、専門家にとって直ちに明らかであり、特に、こうした部品を使えば、密封した箔は完全に合成樹脂を赤外線から守り、それによって、デラミネーションを防止できるという点に見られる。剥離抵抗、接着性の性能および振動抵抗は長期にわたる使用後、すなわち、より高温においてさえ変化しないので、特に熱を受ける自動車の領域で使用することもできる。さらに、本発明は、特に、熱可塑性材料の形成プロセスおよび金属箔の熱可塑性材料への固定または接着プロセスがただ1つの工程で実施できるので、本発明の部品を低コストで生産が可能になる。さらに、穴を開ける必要がないため、製造時間を短縮できる。ゆえに、本発明にかかる部品は、増大する振動や熱応力下においても剥離や脱離の長期的な兆候を示さず、よって自動車に使用される場合は、望ましくない騒音の発生には至らない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について実施例および図面を用いてさらに詳細に説明する。
【0014】
図1に示す部品1は、その利用に応じて適切に形成された溝形の(trough−shaped)キャリア層2からなる。図に示されるように、金属箔3がこのキャリア層2内に挿入されている。本発明によれば、この箔3は、金属箔3をキャリア層2に機械的に結合する多数の折曲ポケット部4からなる。キャリア層は、ガラス繊維強化熱可塑性樹脂(GMB)またはエンドレス繊維で満たされた熱可塑性樹脂(LFT)から成るのが好ましい。適切な材料は、専門家にとって公知である。エンドレス繊維を有する生成物は、通常、ループやスリングにエンドレス繊維を含むが、単に長い繊維で満たすだけでもよい。金属箔3はアルミニウムから成るのが好ましく、厚みは0.01〜0.1mmである。しかしながら、この箔は異なる金属材料、特に薄い鋼鉄シートメタルから成ることができ、厚みは最大0.5mmであると理解される。また、耐熱性接着層(ホットメルト接着剤)をこの金属箔3とキャリア層2の間に設けることができ、または、断熱性がありかつ音響上効果のある追加材料を挿入することができる。好適な態様では、金属箔3は10〜30mmごとの間隔で1〜5個の本発明の折曲ポケット部4を有する。これらの折曲ポケット部4は、その使用上の要請に従って、異なる寸法や配列が可能である。
【0015】
図2は、本発明により作製された部品1の一部断面の概略図を示す。これは少なくとも一方に、完成部品1において熱反射箔の役割を果たす金属箔3を有する。この箔3にはアルミニウムを使用するのが好ましい。この箔3はキャリア層2に貼り付けられ、キャリア層2に埋め込まれた折曲ポケット部4を含む。この折曲ポケット部4は成形プロセスの過程で生じ、キャリア層2の材料で完全に囲まれている。こうした折曲ポケット部4の形成によって、金属箔3とキャリア層2との間が、強く結合する。すなわち、形に合った、または確実な結合となる。これらの折曲ポケット部4は、形成プロセスに凹凸のある、または他の形の箔を使うことによって簡単に形成される。使用目的により、これらの折曲ポケット部4は、専門家によって異なる寸法および/または配列にすることが可能である。本発明に関して、この種の固定に対して、確実な結合を可能にするために、箔3に穴を開ける必要がないということが、特に有益であることがわかった。特に、固定領域6、すなわち折曲ポケット部4を有する領域は、キャリア層2の熱可塑性材料を損なう赤外線から保護される。もちろん、例えば音響上の目的のような他の目的のために、専門家は箔3に穴を設けて、キャリア層2に異なる材料を使用したり、あるいは金属箔3とキャリア層2との間にさらに中間層を設けることができる。このように、例えば、ホットメルト接着剤、セラミック層および/または音響上効果的な層といった中間層を含めるのは専門家の裁量になる。
【0016】
形成プロセスの間に、事前に凹凸をつけておいた、あるいは幾何学的なゆがみを与えられた金属箔3は、加熱成形プレス内に配置され、LFT、GMTまたはその他の適切な合成材料で覆われる。それによって、ゆがみ、特に凹凸を有する側が合成材料に対面し、合成材料が入ってくると、こうしたゆがみは圧縮され、押し潰され、無作為に折り畳まれる。このようにして本発明による折曲ポケット部が形成され、これにより流動性を有するプラスチック材料が、個々の折曲ポケット部4の後ろに回って、それらを完全に飲み込むように、流れるようになる。このようにして、単純な方法で確実な結合を得ることができる。繊維プラスチック材料は、所望のキャリア層2を形成するために、形成プロセスの間に硬化される。同時に、プラスチック層2の硬化により、金属箔3と確実で長期的に安定した機械的な結合が得られる。
【0017】
図3は、異なるアレンジメントA、B、Cについての剥離抵抗WSの測定結果のグラフである。ここで、WSは、金属箔3が熱可塑性キャリア部分に結合する能力、すなわち金属箔3をキャリア層2から分離するのに必要な、単位表面積あたりのエネルギーの尺度を意味すると理解される。エリア(I)の値は、エイジング処理をしないアレンジメントに関する。一方、エリア(II)の値は、1000時間に140℃の温度にさらされたアレンジメントに関する。値A(I)およびA(II)は、従来の金属ホットメルト接着剤(MSK25)がLFT部品とアルミニウム箔の間に用いられたアレンジメントAに関する。測定結果は、測定できるほどの接着性が得られなかったことを示す。
【0018】
値B(I)およびB(II)は、アルミニウムおよびポリプロピレン(HSK15)の結合に最適化された接着剤がLFT部品とアルミニウム箔の間に用いられた、アレンジメントBに関する。それによって得られる測定値B(I)は、エイジング処理のない条件でのアレンジメントで極めて高い剥離抵抗WS=1.2N/mm2を達成できることを明確に示している。しかしながら、測定値B(II)はエイジング処理後の剥離抵抗はWS=0.15N/mm2に減少(接着能力値の約85%減少)していることを示している。
【0019】
値C(I)およびC(II)は、形成されたくぼみを備えたアルミニウム箔がLFT部品に貼り付けられ、LFT部品とアルミニウム箔の間には接着剤が使用されていない、本発明によるアレンジメントCに関する。本発明のアレンジメントCで、追加の接着剤を使用せず、エイジング処理をしない条件での剥離抵抗の値はWS=0.2N/mm2となる。一方、このアレンジメントCの1000時間の熱処理後の剥離抵抗は、WS=0.16N/mm2に減少しただけであった(接着能力の約20%の減少)。これらの測定結果は、本発明の効果を明らかにしている。特に、さらなる発明のステップを経ることなしに、専門家は、折曲ポケット部の寸法や形を適切に調整し最適化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明にかかる部品を概略的に示す斜視図である。
【図2】図1にかかる部品を概略的に示す拡大部分である。
【図3】剥離抵抗の長期的な性能を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性合成樹脂から成るキャリア層(2)および少なくとも部分的に結合した金属箔(3)を有する熱遮蔽された熱可塑性部品(1)であって、前記金属箔(3)は、キャリア層(2)に埋め込まれキャリア層(2)と確実な結合を形成する複数の折曲ポケット部(4)を有する熱遮蔽された熱可塑性部品。
【請求項2】
前記熱可塑性合成樹脂が、エンドレスの繊維強化熱可塑性樹脂(LFT)である請求項1に記載の部品。
【請求項3】
前記熱可塑性合成樹脂が、ガラス繊維強化合成樹脂(GMT)である請求項1に記載の部品。
【請求項4】
前記金属箔(3)がアルミニウム箔である請求項1に記載の部品。
【請求項5】
前記アルミニウム箔の厚さが0.01〜0.1mmである請求項4に記載の部品。
【請求項6】
10〜30mmの区間内に少なくとも1〜5個の折曲ポケット部が配列されている請求項1〜5のいずれかに記載の部品。
【請求項7】
金属箔(3)と熱可塑性キャリア層(2)の間にホットメルト接着剤が備えられている請求項1〜6のいずれかに記載の部品。
【請求項8】
約140℃の温度に1000時間以上連続曝露した後の剥離抵抗WSの値が少なくとも0.15N/mm2である請求項1〜6のいずれかに記載の部品。
【請求項9】
約140℃の温度に1000時間以上連続曝露した後の剥離抵抗WSの減少が20%以下である請求項1〜6のいずれかに記載の部品。
【請求項10】
前記熱遮蔽された熱可塑性部品が自動車底面の部品である請求項1〜9のいずれかに記載の部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−527808(P2007−527808A)
【公表日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−502168(P2007−502168)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【国際出願番号】PCT/CH2005/000164
【国際公開番号】WO2005/090068
【国際公開日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(502324354)リーター テクノロジーズ アー ゲー (11)
【氏名又は名称原語表記】RIETER TECHNOLOGIES A.G.
【Fターム(参考)】