説明

燃料を噴射するための装置

本発明は、燃料を噴射するための装置に関する。本発明の構成では、弁ボディ(2)と、外側へ向かって開く弁ニードル(3)とが設けられており、該弁ニードル(3)が、弁ボディ(2)内で、燃料充填された圧力室(4)内に配置されており、該圧力室(4)に燃料が加圧下に供給されるようになっており、さらに、弁ニードル(3)を初期位置へ戻す戻し部材(20)と、弁ニードル(3)を操作するために、アクチュエータ室(9)内に配置された電磁式のアクチュエータ(6)と、ダイヤフラム(13)とが設けられており、該ダイヤフラム(13)が、アクチュエータ室(9)内に配置されていて、該アクチュエータ室(9)を、燃料充填された第1の範囲(5)と、燃料不含の第2の範囲(18)とに、流体に対して密に分割していると共に、弁ニードル(3)を、噴射側の部分(3a)とアクチュエータ側の部分(3b)とに分割しており、弁ニードル(3)の噴射側の部分(3a)が、圧力補償ピストン(10)を有しており、該圧力補償ピストン(10)が、前記圧力室(4)を、アクチュエータ室(9)の燃料充填された第1の範囲(5)から分離しており、アクチュエータ(6)が、燃料不含の第2の範囲(18)に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景技術
本発明は、特に層状給気運転(成層運転)で直接噴射を行う内燃機関において使用可能となる、燃料を噴射するための装置に関する。
【0002】
直接噴射式の内燃機関に用いられる、燃料を噴射するための装置は、公知先行技術においては一般に、外側へ向かって開くタイプの弁ニードルを備えた高圧噴射弁として構成されている。この弁ニードルはピエゾアクチュエータによって操作され、そして所要の極めて迅速な切換時間のために、手間のかかる出力段を用いて制御される。この噴射弁の個々の構成部分の材料品質や製作誤差に課せられた高い要求は、長い加工・検査・製作時間を招き、ひいてはこの噴射弁の高い製造コストを招いている。
【0003】
したがって、公知先行技術のこのような高圧噴射弁は、層状給気運転で直接噴射を行う内燃機関に用いられる、燃料を噴射するための単純でかつ廉価に製造可能な装置を提供するために十分に適しているとは云えない。
【0004】
発明の開示
請求項1の特徴部に記載の特徴を有する、本発明による燃料を噴射するための装置には、従来のものに比べて次のような利点がある。すなわち、本発明による装置は、従来よりも単純で、ひいては従来よりも廉価な構造を有していると同時に、個々の構成部分の必要とされる製作誤差および位置誤差の点であまり厳格とならない。このことは本発明によれば、燃料を噴射するための装置が、外側へ向かって開くタイプの、複数の部分から成る弁ニードルと、ダイヤフラムとを有しており、このダイヤフラムが、アクチュエータ室を、燃料充填された第1の範囲と、燃料不含の第2の範囲とに、流体に対して密に分割していると同時に、弁ニードルを、噴射側の部分とアクチュエータ側の部分とに分割していることにより達成される。弁ニードルの噴射側の部分に配置されている圧力補償ピストンにより、燃料充填された圧力室が、アクチュエータ室の燃料充填された第1の範囲から分離される。アクチュエータはこの場合、アクチュエータ室の燃料不含の第2の範囲に配置されているので、所望の高動的な切換時間を達成することのできる廉価な電磁式のアクチュエータ(ソレノイドアクチュエータ)を使用することができる。さらに、アクチュエータにおいて特殊な軟磁性材料を有利に使用することが可能となる。なぜならば、アクチュエータ構成部分が燃料の腐食作用にさらされていないからである。
【0005】
請求項2以下には、本発明の有利な改良形が記載されている。
【0006】
本発明の別の有利な構成では、圧力補償ピストンが、弁ボディに設けられた円筒状の孔内に小さなクリアランスを持って摺動可能に配置されていて、シールギャップを備えている。これにより、圧力室内に加えられる燃料圧を、アクチュエータ室の隣接した第1の範囲に向かって簡単にかつ確実に逃がすことを達成することができる。
【0007】
本発明による装置は、アクチュエータ室の第1の範囲から燃料リザーバタンクに通じた燃料戻し管路を有していると有利である。これにより、アクチュエータ室の燃料充填された第1の範囲には、燃料リザーバタンク内に存在する周辺圧とほぼ同じ圧力が加えられており、この周辺圧はダイヤフラムの、この第1の範囲に面した側にも作用する。
【0008】
有利には、アクチュエータ室の燃料不含の第2の範囲においても、ひいてはダイヤフラムの他方の側においても、周辺圧しか形成されていないので、圧力負荷が存在しないことに基づき、もしくは圧力負荷が極めて僅かにしか存在しないことに基づき、単純で廉価な、特に薄い構成のダイヤフラムを使用することができる。
【0009】
さらに、弁ニードルのアクチュエータ側の部分にアーマチュアが配置されていると有利である。これにより、最小限に抑えられた構成部分点数と、コンパクトな組込み体積とを有するアクチュエータの単純でかつ廉価な構造が達成される。
【0010】
本発明のさらに別の有利な構成では、アクチュエータが、圧縮ばねの形の当接ばねを有している。当接ばねのばね力は、アクチュエータが操作されていない状態でも、弁ニードルのアクチュエータ側の部分が常にダイヤフラムに接触するように設計されている。これにより、ダイヤフラムの過剰負荷や、これによって生ぜしめられる、減じられた耐久性が回避され、アーマチュアは規定されたスタート位置に位置する。
【0011】
戻し部材は、アクチュエータが操作されていない状態でも、つまり弁ニードルが閉じられている状態でも、弁ニードルの噴射側の部分が常にダイヤフラムに接触するように設計されていると有利である。これにより、ダイヤフラムからの圧力補償ピストンの持ち上がりや、ダイヤフラムに対する衝撃負荷が回避される。このことは、やはりダイヤフラムの高められた耐久性もしくは寿命のために寄与する。噴射装置のいかなる運転状態においても、アクチュエータ側の部分と噴射側の部分とが常にダイヤフラムに接触していると特に有利である。
【0012】
本発明のさらに別の有利な構成では、弁ニードルの噴射側の部分が、2つの部分、すなわちニードルと圧力補償ピストンとによって形成されている。これにより、これらの構成部分を、それぞれ必要となる所要の寸法誤差を持って別個に製作しかつ加工することが可能となる。このことは、一層のコスト削減のために寄与する。
【0013】
圧力補償ピストンの、ダイヤフラムに面した側の端部と、弁ニードルのアクチュエータ側の部分の、ダイヤフラムに面した側の端部とが、それぞれ丸められて形成されていると有利である。これにより、特にダイヤフラムが変位させられた状態、つまりダイヤフラムが膨らまされた状態において、前記端部の均一な載着が確保され、そしてたとえば圧力補償ピストンおよび弁ニードルのアクチュエータ側の部分の端範囲が丸められていない場合に形成されるシャープなエッジによってダイヤフラムが損傷を受けることが回避される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明による装置の1実施形態を示す概略的な断面図である。
【0015】
発明の実施形態
以下に、図1につき、燃料を噴射するための本発明による装置の有利な実施形態を詳しく説明する。
【0016】
図1に示した概略的な断面図から判るように、燃料を噴射するための装置1は弁ボディ2と、外側へ向かって開くタイプの弁ニードル3とを有している。この弁ニードル3は噴射側の部分3aと、アクチュエータ側の部分3bとから形成されている。弁ニードル3の噴射側の部分3aはニードル31と圧力補償ピストン10とを有しており、このニードル3と圧力補償ピストン10とは圧力室4内に配置されている。この圧力室4には、供給管路19を介して燃料が加圧下に供給される。圧力補償ピストン10は弁ボディ2に設けられた円筒状の孔16内に、小さなクリアランスを持って摺動可能に配置されている。
【0017】
圧力室4内には、さらに戻し部材20が配置されている。この戻し部材20は弁ボディ2とニードル31との間に支持されていて、操作後に弁ニードル3を初期位置へ戻す。
【0018】
アクチュエータ室9内には、電磁式のアクチュエータ6、すなわちソレノイド式のアクチュエータ6が配置されている。このアクチュエータ6はコイル8とアーマチュア7、有利には図示のフラットアーマチュアのタイプのアーマチュアとを有しており、このアーマチュア7は弁ニードル3のアクチュエータ側の部分3bに取り付けられている。
【0019】
アクチュエータ室9内には、さらにダイヤフラム13が配置されている。このダイヤフラム13は弁ボディ2に固定されている。ダイヤフラム13は、一方では弁ニードル3を噴射側の部分3aとアクチュエータ側の部分3bとに分割しており、他方ではアクチュエータ室9を、燃料充填された第1の範囲5と、燃料不含の第2の範囲18とに、流体に対して密に分割している。アクチュエータ室9の第1の範囲5は少なくとも部分的に燃料で充填されており、この燃料は、圧力室4内に形成された高い圧力に基づき、圧力補償ピストン10の表面に沿って形成されたシールギャップ17を介して第1の範囲5に流入する。
【0020】
図1からさらに判るように、圧力補償ピストン10の、ダイヤフラム13に面した側の端部10aと、弁ニードル3のアクチュエータ側の部分3bの、ダイヤフラム13に面した側の端部15とは、それぞれ丸められて形成されている。これにより、圧力補償ピストン10および弁ニードル3の端範囲に段部またはエッジが形成されていた場合に、当該装置1の作動時においてダイヤフラム13が変位させられるか、もしくは膨らまされる際に、これらの段部またはエッジが原因でダイヤフラム13が損傷を受けてしまうことが阻止される。
【0021】
図1に示したように、アクチュエータ室9の燃料充填された第1の範囲5からは、燃料戻し管路14が分岐している。この燃料戻し管路14により、圧力室4から第1の範囲5への圧力逃がしにより圧力補償ピストン10のシールギャップ17を通じて溜まった燃料が燃料リザーバタンク(図示しない)へ戻される。燃料リザーバタンク内には周辺圧が形成されており、ひいてはアクチュエータ室9の第1の範囲5にも周辺圧が形成されているので、アクチュエータ室9の燃料充填された第1の範囲5から燃料リザーバタンクへの燃料戻しは無圧で行われる。アクチュエータ室9の燃料不含の第2の範囲18には同じく周辺圧が形成されているので、ダイヤフラム13の両側には、ほぼ等しい圧力が加えられている。したがって、ダイヤフラム13には圧力平衡が生ぜしめられる。
【0022】
アクチュエータ室9内では、さらにアーマチュア7と閉鎖部材21との間に圧縮ばねとして形成された当接ばね12が配置されている。この当接ばね12は、弁ニードル3のアクチュエータ側の部分3bと、このアクチュエータ側の部分3bに位置固定されたアーマチュア7とを閉鎖部材21に支持している。この閉鎖部材21を貫いて、アクチュエータ6のための電気的な接続線路22が外部へ案内されている。当接ばね12は、アクチュエータ6が作動されていない状態でも、弁ニードル3のアクチュエータ側の部分3bがダイヤフラム13に接触するように設計されている。さらに、戻し部材20は、アクチュエータ6が作動されていない状態(弁ニードルが閉じられた状態)でも、弁ニードル3の噴射側の部分3aがダイヤフラム13に接触するように設計されている。いかなる運転状態においても弁ニードル3のアクチュエータ側の部分3bと噴射側の部分3aとが両側でダイヤフラム13に接触することにより、弁ニードル3を操作するための本発明による装置1の構成部分のいわば剛性的な組合せが達成される。この場合、組立て後に場合によっては存在する半径方向の小さなずれまたは弁ニードル3のアクチュエータ側の部分3bと噴射側の部分3aとの間のダイヤフラム13における小さな角度ずれを許容することができる。なぜならば、このようなずれは、本発明による装置1の、確実に作動する申し分のない機能に対して何ら影響を与えないからである。
【0023】
上で説明した個々の構成部分の配置および設計に基づき、寸法誤差および位置誤差に関して一層簡単でかつ一層迅速な製作が達成可能となる。なぜならば、弁ニードル3のアクチュエータ側の部分3bを備えたアクチュエータ6と、弁ニードル3を取り囲む弁ボディ2を備えた弁ニードル3の噴射側の部分3aとを互いに別個に製造し、かつ検査することができるからである。このことは、全体的に検査・製作手間の減少をもたらすと同時に、不良部品のリスクの減少をもたらし、この高圧噴射弁の製造コストにおける著しいコスト削減に貢献する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料を噴射するための装置において、
−弁ボディ(2)が設けられており、
−外側へ向かって開く弁ニードル(3)が設けられており、該弁ニードル(3)が、前記弁ボディ(2)内で、燃料充填された圧力室(4)内に配置されており、該圧力室(4)に燃料が加圧下に供給されるようになっており、
−弁ニードル(3)を初期位置へ戻す戻し部材(20)が設けられており、
−弁ニードル(3)を操作するために、アクチュエータ室(9)内に配置された電磁式のアクチュエータ(6)が設けられており、
−ダイヤフラム(13)が設けられており、該ダイヤフラム(13)が、アクチュエータ室(9)内に配置されていて、該アクチュエータ室(9)を、燃料充填された第1の範囲(5)と、燃料不含の第2の範囲(18)とに、流体に対して密に分割していると共に、弁ニードル(3)を、噴射側の部分(3a)とアクチュエータ側の部分(3b)とに分割しており、
−弁ニードル(3)の噴射側の部分(3a)が、圧力補償ピストン(10)を有しており、該圧力補償ピストン(10)が、前記圧力室(4)を、アクチュエータ室(9)の燃料充填された第1の範囲(5)から分離しており、アクチュエータ(6)が、燃料不含の第2の範囲(18)に配置されている
ことを特徴とする、燃料を噴射するための装置。
【請求項2】
圧力補償ピストン(10)が、弁ボディ(2)に設けられた円筒状の孔(16)内に小さなクリアランスを持って配置されていて、圧力室(4)からアクチュエータ室(9)の第1の範囲(5)に圧力を逃がすためのシールギャップ(17)を有している、請求項1記載の燃料を噴射するための装置。
【請求項3】
アクチュエータ室(9)の第1の範囲(5)から燃料リザーバタンクに通じた燃料戻し管路(14)が分岐している、請求項1または2記載の燃料を噴射するための装置。
【請求項4】
燃料充填された第1の範囲(5)と、燃料不含の第2の範囲(18)とにおいて、ダイヤフラム(13)の両側に等しい圧力またはほぼ等しい圧力が加えられている、請求項1から3までのいずれか1項記載の燃料を噴射するための装置。
【請求項5】
弁ニードル(3)のアクチュエータ側の部分(3b)にアーマチュア(7)が配置されている、請求項1から4までのいずれか1項記載の燃料を噴射するための装置。
【請求項6】
アクチュエータ(6)がさらに当接ばね(12)を有しており、該当接ばね(12)は、アクチュエータ(6)が操作されていない状態でも、弁ニードル(3)のアクチュエータ側の部分(3b)がダイヤフラム(13)に接触するように設計されている、請求項1から5までのいずれか1項記載の燃料を噴射するための装置。
【請求項7】
前記戻し部材(20)は、アクチュエータ(6)が操作されていない状態でも、弁ニードル(3)の噴射側の部分(3a)がダイヤフラム(13)に接触するように設計されている、請求項1から6までのいずれか1項記載の燃料を噴射するための装置。
【請求項8】
弁ニードル(3)の噴射側の部分(3a)が、2つの部分、すなわちニードル(31)と圧力補償ピストン(10)とによって形成されている、請求項1から7までのいずれか1項記載の燃料を噴射するための装置。
【請求項9】
圧力補償ピストン(10)が、ダイヤフラム(13)に面した側の、丸められた端部(10a)を有しており、弁ニードル(3)のアクチュエータ側の部分(3b)が、ダイヤフラム(13)に面した側の、丸められた端部(15)を有している、請求項1から8までのいずれか1項記載の燃料を噴射するための装置。

【図1】
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【公表番号】特表2012−526226(P2012−526226A)
【公表日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−508958(P2012−508958)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【国際出願番号】PCT/EP2010/052814
【国際公開番号】WO2010/127887
【国際公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】