説明

燃料供給装置

【課題】内燃機関2に燃料を供給する燃料供給装置1において、気体燃料を供給する期間に内燃機関2の制御が不安定になる虞を低減する。
【解決手段】燃料供給装置1は、液体燃料が気化する空間を形成する気化容器23を有する燃料気化手段5と、気化容器23内の温度Tおよび圧力Pを検出する第1検出手段36を備える。これにより、気化容器23内の温度Tおよび圧力Pを精度よく検出することができるので、気化容器23から燃焼室3に吸入される気体燃料および空気の実質的な供給量を正確に把握することができる。このため、気体燃料の燃焼に必要な空気の供給量を正確に求めることができるので、気体燃料を供給する期間に内燃機関2の制御が不安定になる虞を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に燃料を供給する燃料供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内燃機関に燃料を供給する燃料供給装置では、例えば、噴射供給された燃料が液体のまま燃焼室の壁面等に付着することに起因して、排気ガスの未燃HCやPM等が増加する問題がある。そこで、特許文献1には、冷間時に内燃機関を始動する冷間始動時に液体燃料を気化させた気体燃料を噴射供給することで、排気ガスの未燃HCやPM等を抑制する技術が開示されている。
【0003】
しかし、気体燃料は、液体燃料に比べて質量やモル量のような実質的な供給量の推定や把握が困難である。また、何らかの容器や配管を介して気体燃料を供給する場合、気体燃料は、容器等に残る空気等を伴って供給されるので、さらに、実質的な燃料の供給量の把握が困難である。このため、燃料の燃焼に必要な空気の供給量を正確に求めることができず、気体燃料を供給する期間では、内燃機関の制御が不安定になる虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−343365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、内燃機関に燃料を供給する燃料供給装置において、気体燃料を供給する期間に内燃機関の制御が不安定になる虞を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
〔請求項1の手段〕
請求項1の手段によれば、燃料供給装置は、内燃機関の燃焼室、または内燃機関の燃焼室に通じる吸気ラインのいずれか一方に液体燃料を供給する液体燃料供給手段と、液体燃料が気化する空間を形成する気化容器、および、気化容器に液体燃料を噴射する噴射弁を有し、液体燃料を気化して気体燃料にする燃料気化手段と、燃料気化手段により得られる気体燃料を吸気ラインに供給する気体燃料供給手段と、気化容器の温度および圧力を検出する第1検出手段と、吸気ラインに気体燃料を供給している間、第1検出手段により得られる検出値に基づき、気体燃料供給手段を制御する制御手段とを備える。
【0007】
これにより、気化容器の温度および圧力を精度よく検出することができるので、気化容器から燃焼室に吸入される気体燃料および空気の実質的な供給量を正確に把握することができる。このため、気体燃料の燃焼に必要な空気の供給量を正確に求めることができるので、気体燃料を供給する期間に内燃機関の制御が不安定になる虞を低減することができる。
【0008】
〔請求項2の手段〕
請求項2の手段によれば、燃料供給装置は、吸気ラインの温度および圧力を検出する第2検出手段を備え、制御手段は、吸気ラインに気体燃料を供給している間、第1検出手段および第2検出手段により得られる検出値に基づき気体燃料供給手段を制御する。
これにより、吸気ラインから供給される空気の実質的な供給量を正確に把握することができるので、さらに、内燃機関の制御が不安定になる虞を低減することができる。
【0009】
〔請求項3の手段〕
請求項3の手段によれば、燃料供給装置は、吸気ラインの圧力を検出する第2検出手段を備え、制御手段は、吸気ラインに気体燃料を供給している間、第1検出手段および第2検出手段により得られる検出値に基づき気体燃料供給手段を制御する。
吸気ラインから供給される空気の温度範囲は−20〜60℃である。また、使用地域が定まれば、より狭い温度範囲に限定することができる。このため、吸気ラインの圧力のみを検出するとともに、温度を検出せずに例えば固定することによっても、吸気ラインから供給される空気の実質的な供給量を正確に把握することができる。このため、第2検出手段を構成する必要なセンサの数を低減することができる。
【0010】
〔請求項4の手段〕
請求項4の手段によれば、燃料気化手段は、気化容器に接続して気化容器に大気を導入する大気導入路と、大気導入路に組み込まれて気化容器からの逆流を阻止する逆止弁とを有する。
冷間始動時にはエンジンルーム内が例えば常温のような低温であるため、気化容器に大気を導入できない場合、気体燃料の供給圧に相当する気化容器の圧力は、常温における燃料の飽和蒸気圧相当までしか高まらない。このため、必要な供給量の気体燃料を吸気ラインに供給することができない虞がある。
【0011】
そこで、気化容器に大気導入が可能となるように、かつ、気化容器から大気側への逆流阻止が可能となるように燃料気化手段を設ける。これにより、液体燃料を気化容器に噴射する前に、大気導入によって気化容器の圧力を大気圧相当まで高めることができる。このため、大気圧相当の圧力を有する気化容器に液体燃料を噴射することで、気化容器の圧力を、大気圧相当の圧力に燃料の飽和蒸気圧相当の圧力を加算したレベルまで高めることができる。
この結果、冷間始動時でも気体燃料の供給圧を高めることができるので、必要な供給量の気体燃料を吸気ラインに供給することができる。
【0012】
〔請求項5の手段〕
請求項5の手段によれば、制御手段は、第1検出手段により得られる検出値に基づき、気化容器内における空燃比を算出する。
この手段は、制御手段が算出すべきパラメータを例示するものである。
【0013】
〔請求項6の手段〕
請求項6の手段によれば、制御手段は、第1検出手段および第2検出手段により得られる検出値に基づき、気化容器から吸気ラインに供給される気体燃料の流量を算出する。
この手段は、制御手段が算出すべきパラメータを例示するものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】燃料供給装置の構成図である。
【図2】燃料供給装置の制御フローを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施形態の燃料供給装置は、内燃機関の燃焼室、または内燃機関の燃焼室に通じる吸気ラインのいずれか一方に液体燃料を供給する液体燃料供給手段と、液体燃料が気化する空間を形成する気化容器、および、気化容器に液体燃料を噴射する噴射弁を有し、液体燃料を気化して気体燃料にする燃料気化手段と、燃料気化手段により得られる気体燃料を吸気ラインに供給する気体燃料供給手段と、気化容器の温度および圧力を検出する第1検出手段と、吸気ラインに気体燃料を供給している間、第1検出手段により得られる検出値に基づき、気体燃料供給手段を制御する制御手段とを備える。
【0016】
また、燃料供給装置は、吸気ラインの温度および圧力を検出する第2検出手段を備え、制御手段は、吸気ラインに気体燃料を供給している間、第1検出手段および第2検出手段により得られる検出値に基づき気体燃料供給手段を制御する。
また、燃料気化手段は、気化容器に接続して気化容器に大気を導入する大気導入路と、大気導入路に組み込まれて気化容器からの逆流を阻止する逆止弁とを有する。
【0017】
また、制御手段は、第1検出手段により得られる検出値に基づき、気化容器内における空燃比を算出する。
さらに、制御手段は、第1検出手段および第2検出手段により得られる検出値に基づき、気化容器から吸気ラインに供給される気体燃料の流量を算出する。
【実施例】
【0018】
〔実施例の構成〕
実施例の燃料供給装置1の構成を、図1を用いて説明する。
燃料供給装置1は、例えば、内燃機関2の燃焼室3に直接的に液体燃料を噴射供給することを主動作とするものであり、例えば、ガソリンを液体燃料として内燃機関2に供給する。
【0019】
そして、燃料供給装置1は、内燃機関2の燃焼室3に液体燃料を供給する液体燃料供給手段4と、液体燃料を気化して気体燃料にする燃料気化手段5と、燃料気化手段5により得られる気体燃料を吸気ライン6に供給する気体燃料供給手段7と、液体燃料供給手段4、燃料気化手段5、および気体燃料供給手段7が有する各種機器の動作を制御する制御手段8とを備える。
【0020】
ここで、内燃機関2は、直流電動機(図示せず)を具備する周知のスタータ10により始動されるものであり、スタータ10が具備する直流電動機の出力によって始動される。なお、スタータ10は、例えば長時間の内燃機関2の停止後の冷間時、および、例えばアイドルストップ後の温間時のいずれにおいても、制御手段8からの指令により起動されて内燃機関2を始動させる。
【0021】
また、吸気ライン6は、スロットル装置11、インテークマニホールド12等を有する周知の構成である。さらに、インテークマニホールド12は、新気を主成分とする吸入空気を受け入れるサージタンク13と、サージタンク13から分岐して吸入空気を複数の燃焼室3に順次に導く複数の分岐管14とを有する周知の構成である。つまり、吸気ライン6は、インテークマニホールド12において、内燃機関2の気筒数と同数に分岐して内燃機関2に接続している。
【0022】
液体燃料供給手段4は、液体燃料を貯留する燃料タンク16から液体燃料を汲み上げる低圧フィードポンプ17と、低圧フィードポンプ17により汲み上げられた液体燃料を高圧化して吐出する高圧ポンプ18と、高圧ポンプ18から吐出された液体燃料を高圧状態で蓄圧する蓄圧容器としてのコモンレール19と、燃焼室3ごとに内燃機関2に搭載され、コモンレール19から高圧の液体燃料の分配を受けて燃焼室3に液体燃料を噴射するインジェクタ20とを有する。
【0023】
なお、低圧フィードポンプ17、高圧ポンプ18、コモンレール19およびインジェクタ20は周知の構造を有するものであり、低圧フィードポンプ17、高圧ポンプ18およびインジェクタ20は、制御手段8から与えられる指令に応じて動作を制御される。また、コモンレール19は、蓄圧する液体燃料の燃料圧を検出する圧力センサ21を有し、圧力センサ21の検出信号は制御手段8に出力されて低圧フィードポンプ17、高圧ポンプ18およびインジェクタ20の制御に利用される。
【0024】
燃料気化手段5は、液体燃料が気化する空間を形成する気化容器23と、気化容器23に液体燃料を噴射する噴射弁24Aとを有する。
【0025】
気化容器23は、例えば、内燃機関2のシリンダーブロックに取り付けられている。このため、温間時の気化容器23内は、エンジン冷却水から伝熱されて高温状態に保たれ、液体燃料が気化しやすい状態になっている。また、気化容器23内には、気体燃料の取り出し口25を噴射弁24Aの噴射口に対して遮蔽する遮蔽板26が設けられ、遮蔽板26は、噴射弁24Aから噴射された液体燃料が気体燃料に混入して取り出されるのを防止している。
【0026】
なお、気化容器23の底部には、噴射された液体燃料の内、気化することなく溜まった液体燃料や、一旦気化した後、再度、液化することで溜まった液体燃料を燃料タンク16に戻すための戻し流路27が接続している。そして、戻し流路27には開閉弁28が配置され、開閉弁28は、気化容器23内の液体燃料の液面に応じて戻し流路27を開閉する。これにより、気化容器23内は、必要な供給量に応じた気体燃料が得られるように最適な状態に保たれる。
【0027】
噴射弁24Aは、気化容器23に搭載されて、液体燃料の噴射口を有する先端部が気化容器23内に突出する。また、噴射弁24Aに液体燃料を供給するための液体燃料供給路29aは、低圧フィードポンプ17から高圧ポンプ18に液体燃料を供給するための液体燃料供給路29bから分岐している。そして、液体燃料供給路29aは、通過する液体燃料が、例えばエンジン冷却水と伝熱可能となるように構成され、温間時には、エンジン冷却水からの伝熱により高温になった液体燃料が噴射弁24Aに供給されて気化容器23内に噴射される。このため、気化容器23内における液体燃料の気化がさらに促進される。
【0028】
また、燃料気化手段5は、気化容器23に接続して気化容器23に大気を導入する大気導入路31と、大気導入路31に組み込まれて気化容器23からの逆流を阻止する逆止弁32とを有する。
【0029】
気体燃料供給手段7は、気体燃料を噴射する噴射弁24Bを内燃機関2の気筒数と同数だけ有し、インテークマニホールド12の分岐管14ごとに1つの噴射弁24Bが配置されている。そして、それぞれの噴射弁24Bは、気体燃料の噴射口を有する先端部が分岐管14内に突出しており、分岐管14内に気体燃料を噴射する。
【0030】
また、気体燃料供給手段7は、気体燃料をそれぞれの噴射弁24Bに供給する気体燃料供給路34を有する。ここで、気体燃料供給路34は、気化容器23における気体燃料の取り出し口25と、それぞれの噴射弁24Bにおける気体燃料の入口とを接続するものであり、気化容器23からそれぞれの噴射弁24Bに向かう途中で噴射弁24Bと同数に分岐している。
【0031】
制御手段8は、コモンレール19に装着された圧力センサ21やその他の各種センサから入力される検出信号に基づき、液体燃料供給手段4、燃料気化手段5および気体燃料供給手段7等を構成する各種機器を駆動制御する。すなわち、制御手段8は、各種検出信号の入力を受けるとともに各種機器を制御するための制御信号を合成して出力するマイコン(図示せず)、制御信号の入力を受けて電源(図示せず)から各種機器に電力を供給する電力変換器(図示せず)等により構成されている。
【0032】
なお、マイコンは、制御処理および演算処理を行うCPU、各種のデータおよびプログラム等を記憶するROMおよびRAM等の記憶装置、入力装置、ならびに出力装置等を含んで構成される周知構造を有するものである。
【0033】
また、燃料供給装置1は、気化容器23の温度および圧力を検出する第1検出手段36と、吸気ライン6の温度および圧力を検出する第2検出手段37とを備える。
ここで、第1検出手段36は、周知の温度センサ36aおよび周知の圧力センサ36bから構成され、温度センサ36aおよび圧力センサ36bは、それぞれ、気化容器23内の温度および圧力を検出して、検出信号を制御手段8に出力する。
【0034】
また、第2検出手段37は、周知の温度センサ37aおよび周知の圧力センサ37bから構成され、温度センサ37aおよび圧力センサ37bは、それぞれ、インテークマニホールド12においてサージタンク13の上流側配管内の温度および圧力を検出して、検出信号を制御手段8に出力する。
【0035】
そして、制御手段8は、吸気ライン6に気体燃料を供給している間、第1、第2検出手段36、37により得られる検出信号に基づき気体燃料供給手段7を制御する。より具体的に、制御手段8は、第1検出手段36により得られる検出値に基づき、気化容器23内における空燃比を算出し、さらに、第1、第2検出手段36、37により得られる検出値に基づき、気化容器23から吸気ライン6に供給される気体燃料の流量を算出する。
【0036】
ここで、吸気ライン6に気体燃料を供給する期間は、例えば、冷間時または温間時に係わらず停止している内燃機関2をスタータ10により始動させるクランキングの期間に含まれる。そして、例えば、スタータ10の起動に合わせて気体燃料の供給が始まり、クランキングの途中で、気体燃料供給手段7による気体燃料の供給から液体燃料供給手段4による液体燃料の供給に切り替わる。
【0037】
〔実施例の制御方法〕
以下、制御手段8による気体燃料の供給に係わる制御方法を、図2のフローチャートに基づいて説明する。
ここで、図2のフローチャートに示された制御フローは、クランキング開始とともに処理が開始され、燃料の供給が気体燃料の供給から液体燃料の供給に切り替わるまで繰り返し処理される。
【0038】
図2のフローチャートによれば、まず、ステップS1で、第1検出手段36により気化容器23内の温度Tおよび圧力Pを検出する。
そして、ステップS2〜S4で、温度Tおよび圧力Pを利用して気化容器23内の混合気の空燃比λを算出する。
【0039】
まず、ステップS2で温度Tを利用して気化容器23内における燃料の飽和蒸気圧Psatを求める。燃料の飽和蒸気圧Psatは、例えば、マップデータやテーブルデータとして予めマイコンに記憶しておき、記憶しておいたデータに基づいて算出してもよく、アントワンの式等の飽和蒸気圧曲線の各種の近似式を利用して算出してもよい。
【0040】
続いて、ステップS3で、圧力Pから飽和蒸気圧Psatを減じて気化容器23内の空気の分圧Pa0を算出する。
そして、ステップS4で、飽和蒸気圧Psatを分圧Pa0で除することで、空燃比λをモル比として算出する。
【0041】
次に、ステップS5で、第2検出手段37により吸気ライン6の温度Tおよび圧力Pを検出する。
そして、ステップS6〜S9で、温度Tおよび圧力P等を利用して気化容器23から吸気ライン6への混合気の供給量を算出する。
【0042】
まず、ステップS6で、気化容器23から吸気ライン6への流れがチョーク流れまたは亜音速流れの何れの流れとなるかの判定基準となる臨界圧力Pを算出する。
ここで、チョーク流れとは、圧力Pが大側または小側のどちらに変化しても、気化容器23から吸気ライン6に流れる混合気の流量が変化しない流れであり、圧力Pが臨界圧力P以下のときに、気化容器23から吸気ライン6への流れはチョーク流れとなる。
【0043】
また、亜音速流れとは、圧力Pの大きさに応じて、気化容器23から吸気ライン6に流れる混合気の流量が変化する流れであり、圧力Pが臨界圧力Pよりも大きいときに、気化容器23から吸気ライン6への流れは亜音速流れとなる。
そして、臨界圧力Pは、例えば、気化容器23内の混合気の比熱比(定圧比熱/定積比熱)γを用いて下記の数式1により算出することができる。
〔数式1〕

【0044】
また、比熱比γは、空気、気体燃料それぞれの比熱比γ、γ、ならびに気化容器23内における混合気に対する空気、気体燃料それぞれのモル比ra0、rf0を用いて下記の数式2により算出することができる。
〔数式2〕

なお、モル比ra0、rf0は、空燃比λを用いて算出することができる。
【0045】
続いて、ステップS7で、気化容器23から吸気ライン6への流れがチョーク流れまたは亜音速流れの何れの流れとなるか、つまり、圧力Pが臨界圧力Pよりも大きいか否かの判定を行なう。そして、圧力Pが臨界圧力Pよりも大きいと判定した場合(YES)、ステップS8に進み、圧力Pが臨界圧力P以下と判定した場合(NO)、ステップS9に進む。
【0046】
ステップS8では、亜音速流れの場合に気化容器23から吸気ライン6に流れて供給される混合気の流量を、例えば、下記の数式3により質量流量qとして算出する。数式3では、圧力P、Pおよび比熱比γとともに、混合気の密度ρ、音速a、チョークノズル断面積Aを用いて質量流量qを算出する。なお、チョークノズル断面積Aは、例えば、気体燃料供給路34の流路径に相当するものであり、算出値の精度を上げるために、実験的に求めてもよい。
〔数式3〕

【0047】
ステップS9では、チョーク流れの場合に気化容器23から吸気ライン6に流れて供給される混合気の流量を、例えば、下記の数式4により質量流量qとして算出する。数式4では、比熱比γとともに、混合気の密度ρ、音速a、チョークノズル断面積Aを用いて質量流量qを算出する。
〔数式4〕

【0048】
なお、燃料および空気の分子量、空燃比λを利用すれば、質量流量qから気体燃料の供給量をモル流量として算出することができるので、ステップS6〜ステップS9により、質量流量qを算出することは、気化容器23から吸気ライン6に供給される気体燃料のモル流量を算出することと等価である。
【0049】
そして、ステップS10〜S12で、質量流量q等を利用して噴射弁24Bの開弁期間Δtを算出する。
まず、ステップS10で、吸気ライン6から燃焼室3に吸入される空気のモル数na1を算出する。この空気のモル数na1は、例えば、理想気体の状態方程式に、温度T、圧力P、および吸気ライン6の容積Vを当てはめることで算出することができる。
【0050】
なお、容積Vは、例えば、スロットル装置11よりも下流側であり、かつ燃焼室3よりも上流側の吸気ライン6の全容積として定義することができ、より具体的には、インテークマニホールド12におけるサージタンク13、全ての分岐管14、およびサージタンク13の上流側配管の容積を含むものである。
【0051】
続いて、ステップS11で、燃料のストイキ燃焼に必要な空燃比λをモル比として算出する。この空燃比λは、燃料を炭化水素Cと等価であると見なした場合、空気における酸素のモル分率αを利用して下記の数式5により算出することができる。
〔数式5〕

【0052】
そして、ステップS12で、下記の数式6を利用して噴射弁24Bの開弁期間Δtを算出する。
〔数式6〕

【0053】
数式6では、モル数na1、容積V、空燃比λおよびモル比rf0とともに、燃焼室3の容積V、気化容器23から吸気ライン6に流れて供給される混合気のモル流量qを利用する。また、モル流量qは、気化容器23内の混合気の平均分子量と質量流量qとを用いて算出することができ、混合気の平均分子量は、モル比ra0、rf0、空気の平均分子量および燃料の分子量から算出することができる。
【0054】
〔実施例の効果〕
実施例の燃料供給装置1は、液体燃料が気化する空間を形成する気化容器23を有する燃料気化手段5と、燃料気化手段5により得られる気体燃料を吸気ライン6に供給する気体燃料供給手段7と、気化容器23内の温度Tおよび圧力Pを検出する第1検出手段36と、吸気ライン6に気体燃料を供給している間、第1検出手段36により検出される温度Tおよび圧力Pに基づき、気体燃料供給手段7の噴射弁24Bを制御する制御手段8とを備える。
【0055】
これにより、気化容器23内の温度Tおよび圧力Pを精度よく検出することができるので、気化容器23から燃焼室3に吸入される気体燃料および空気の実質的な供給量を正確に把握することができる。このため、気体燃料の燃焼に必要な空気の供給量を正確に求めることができるので、気体燃料を供給する期間に内燃機関2の制御が不安定になる虞を低減することができる。
【0056】
また、燃料供給装置1は、吸気ライン6の温度Tおよび圧力Pを検出する第2検出手段37を備え、制御手段8は、吸気ライン6に気体燃料を供給している間、第1、第2検出手段36、37により検出される温度T、Tおよび圧力P、Pに基づき噴射弁24Bを制御する。
これにより、吸気ライン6から供給される空気の実質的な供給量を正確に把握することができるので、さらに、内燃機関2の制御が不安定になる虞を低減することができる。
【0057】
また、燃料気化手段5は、気化容器23に接続して気化容器23に大気を導入する大気導入路31と、大気導入路31に組み込まれて気化容器23からの逆流を阻止する逆止弁32とを有する。
【0058】
冷間時に内燃機関2を始動する冷間始動時には、エンジンルーム内が例えば常温のような低温であるため、気化容器23に大気を導入できない場合、気体燃料の供給圧に相当する気化容器23内の圧力Pは、常温における燃料の飽和蒸気圧Psat相当までしか高まらない。このため、必要な供給量の気体燃料を吸気ライン6に供給することができない虞がある。
【0059】
そこで、気化容器23に大気導入が可能となるように、かつ、気化容器23から大気側への逆流阻止が可能となるように燃料気化手段5を設ける。これにより、液体燃料を気化容器23に噴射する前に、大気導入によって気化容器23内の圧力Pを大気圧相当まで高めることができる。このため、大気圧相当の圧力を有する気化容器23内に液体燃料を噴射することで、気化容器23内の圧力Pを、大気圧相当の圧力に燃料の飽和蒸気圧Psat相当の圧力を加算したレベルまで高めることができる。
この結果、冷間始動時でも気体燃料の供給圧を高めることができるので、必要な供給量の気体燃料を吸気ライン6に供給することができる。
【0060】
〔変形例〕
燃料供給装置1の態様は、実施例に限定されず種々の変形例を考えることができる。例えば、実施例の燃料供給装置1の液体燃料供給手段4は、内燃機関2の燃焼室3に液体燃料を供給するものであったが、吸気ライン6に液体燃料を供給してもよい。また、コモンレール19を介さずに液体燃料を供給してもよい。
【0061】
また、実施例の燃料供給装置1の第2検出手段37は、吸気ライン6の温度Tおよび圧力Pの両方を検出することができるように構成されていたが、吸気ライン6の圧力Pのみを検出することができるように第2検出手段37を構成してもよい。
【0062】
すなわち、吸気ライン6から供給される空気の温度の範囲は−20〜60℃であり、使用地域が定まれば、より狭い範囲に限定することができる。このため、吸気ライン6の圧力Pのみを検出するとともに、温度Tを検出せずに例えば固定することによっても、吸気ライン6から供給される空気の実質的な供給量を正確に把握することができる。このため、第2検出手段37を構成する必要なセンサの数を低減することができる。
【0063】
また、実施例の燃料供給装置1の制御手段8は、気体燃料の供給に係わる制御において、ストイキ燃焼を前提として噴射弁24Bの開弁期間Δtを算出していたが、ストイキ燃焼を前提とすることなく開弁期間Δtを算出してもよい。
【0064】
さらに、実施例の燃料供給装置1は、燃料としてガソリンを内燃機関2に供給するものであったが、軽油や液化石油ガス等のガソリン以外の燃料を燃料供給装置1により供給してもよい。
【符号の説明】
【0065】
1 燃料供給装置
2 内燃機関
3 燃焼室
4 液体燃料供給手段
5 燃料気化手段
6 吸気ライン
7 気体燃料供給手段
8 制御手段
23 気化容器
24A 噴射弁
31 大気導入路
32 逆止弁
36 第1検出手段
37 第2検出手段
温度(気化容器の温度、第1検出手段により得られる検出値)
圧力(気化容器の圧力、第1検出手段により得られる検出値)
温度(吸気ラインの温度、第2検出手段により得られる検出値)
圧力(吸気ラインの圧力、第2検出手段により得られる検出値)
λ 空燃比(気化容器内における空燃比)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の燃焼室、または前記内燃機関の燃焼室に通じる吸気ラインのいずれか一方に液体燃料を供給する液体燃料供給手段と、
液体燃料が気化する空間を形成する気化容器、および、この気化容器に液体燃料を噴射する噴射弁を有し、液体燃料を気化して気体燃料にする燃料気化手段と、
この燃料気化手段により得られる気体燃料を前記吸気ラインに供給する気体燃料供給手段と、
前記気化容器の温度および圧力を検出する第1検出手段と、
前記吸気ラインに気体燃料を供給している間、前記第1検出手段により得られる検出値に基づき、前記気体燃料供給手段を制御する制御手段とを備える燃料供給装置。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料供給装置において、
前記吸気ラインの温度および圧力を検出する第2検出手段を備え、
前記制御手段は、前記吸気ラインに気体燃料を供給している間、前記第1検出手段および前記第2検出手段により得られる検出値に基づき前記気体燃料供給手段を制御することを特徴とする燃料供給装置。
【請求項3】
請求項1に記載の燃料供給装置において、
前記吸気ラインの圧力を検出する第2検出手段を備え、
前記制御手段は、前記吸気ラインに気体燃料を供給している間、前記第1検出手段および前記第2検出手段により得られる検出値に基づき前記気体燃料供給手段を制御することを特徴とする燃料供給装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3の内のいずれか1つに記載の燃料供給装置において、
前記燃料気化手段は、前記気化容器に接続して前記気化容器に大気を導入する大気導入路と、この大気導入路に組み込まれて前記気化容器からの逆流を阻止する逆止弁とを有することを特徴とする燃料供給装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4の内のいずれか1つに記載の燃料供給装置において、
前記制御手段は、前記第1検出手段により得られる検出値に基づき、前記気化容器内における空燃比を算出することを特徴とする燃料供給装置。
【請求項6】
請求項5に記載の燃料供給装置において、
前記吸気ラインの温度および圧力、または前記吸気ラインの圧力を検出する第2検出手段を備え、
前記制御手段は、前記第1検出手段および前記第2検出手段により得られる検出値に基づき、前記気化容器から前記吸気ラインに供給される気体燃料の流量を算出することを特徴とする燃料供給装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−241634(P2012−241634A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113065(P2011−113065)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】