説明

燃料容器に適した表面処理めっき鋼板

【課題】アルカリ脱脂しても耐食性と劣化ガソリンに対する耐ガソリン性に優れ、かつはんだ(ろう)付け性、後塗装性、溶接性、接着剤との密着性、成形性も良好な、燃料タンクの内外面の表面処理に適した、クロムと鉛を含有しない、1層コーティングの表面処理めっき鋼板を提供する。
【解決手段】亜鉛−ニッケル合金めっき鋼板の少なくとも片面に、カチオン性ウレタン樹脂(A)と、特定のカチオン性フェノール樹脂(B)と、リン酸(C)と、チタン化合物(D)と、バナジウム化合物(E)と、ワックス系潤滑剤(F)とを成分として含有する水系表面処理剤の塗布と乾燥により形成された皮膜を設ける。表面処理剤中の成分比が、(A)40〜55質量部、(B)15〜25質量部、(C)P換算として3〜10質量部、(D)Ti換算として0.5〜3質量部、(E)V換算として0.5〜3質量部、(F)3〜10質量部である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料容器、特にガソリンを燃料とする自動車の燃料タンク、の素材として使用するのに適した、クロムを一切使用しない表面処理めっき鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリンを燃料とする一般的な自動車用の燃料タンクの素材としては、ターンめっきと呼ばれるPb−Sn合金めっき鋼板が従来より広く使用されてきたが、環境問題からPbを含有しない材料が求められてきている。また、燃料に対する耐食性についても、有機酸を含む劣化ガソリンに対する耐食性(以下、これを単に「耐ガソリン性」と呼ぶことがある)が求められるなど、より高度なレベルが要求されている。
【0003】
この要請に対し、Alめっき鋼板(例えば、特許文献1)、Sn−Zn合金めっき鋼板(例えば、特許文献2)などが代替品として開発されている。このうち、Alめっき鋼板は、溶接やはんだ付け等の接合性に問題があり、加工メーカー等では、容易に接合できるより使い勝手のよい材料を望んでいる。一方、Sn−約8%Zn合金めっき鋼板は,性能的なバランスがよいとされているが、この合金めっきの用途がほぼ燃料タンクだけに限定されるため、生産性の面からコスト高になり,経済的な問題がある。
【0004】
この点、一般に広く用いられているZn系めっき(ZnめっきおよびZn合金めっき)を自動車燃料タンク用途に適用することができれば経済的に有利であり、そのような動きがある。
【0005】
Zn系めっき鋼板を自動車用燃料タンク用途に適用した従来技術として、特許文献3に、Zn系めっき鋼板のタンク内面側にNiおよびAl金属粉を含有する樹脂を、外面側にはワックスを含有する樹脂を塗布した表面処理鋼板が提案されている。
【0006】
この表面処理鋼板は、Zn系めっき鋼板をクロメート処理した上で上記の樹脂を塗布するものである。クロメート処理で形成されたクロメート皮膜は、この公報に記載されているように6価クロムを含有する。Zn系めっき鋼板を母材とした表面処理鋼板の場合、6価クロムを含有するクロメート処理は、耐食性の確保に極めて有効であるため、燃料タンクのように自動車の重要保安部品であって、高度の耐食性が要求される用途には、クロメート処理を行うのが普通であった。しかし、最近になって、やはり環境問題から、6価クロムを含有しない材料の要望が強くなってきている。そのため、6価クロムを含まない自動車燃料タンク用表面処理めっき鋼板の開発が急務となっている。
【0007】
6価クロムを含有しない燃料容器用表面処理めっき鋼板として、例えば、特許文献4には、亜鉛系めっき鋼板の両面に珪酸化合物と樹脂を主成分とする層を形成させ、内面側には上層としてNi、Alまたはこれらの合金からなる金属紛を含有する樹脂皮膜を、外面側には必要に応じて上層として熱可塑性樹脂を形成する技術が提案されている。しかしながら、この技術は2層のコーティングが必要であり、コスト的には不利である。
【0008】
近年、燃料容器用の表面処理鋼板に対して、さらに別の性能が要求されるようになってきている。例えば、めっき鋼板をプレスして燃料タンクの形状に成形加工した後に、次に述べる理由により、アルカリ性脱脂剤により洗浄することが多くなっている。成形加工時にめっき鋼板に塗布された潤滑油は、成形加工を補助する役割を果たす。しかし、その後に燃料タンクとして使用する際には、潤滑油は不要である上、燃料を汚したり、はんだ付け、接着、溶接といった後工程の作業を妨害する可能性があるので、洗浄を行って、表面に付着している汚れと一緒に潤滑油を除去する。従来は、トリクレンなどの塩素系有機溶剤を用いて短時間で容易に洗浄が実施できたが、周知のとおり、環境保全という観点から塩素系有機溶剤は法的規制物質となり、代替が急がれている。そこで、代替洗浄剤としてアルカリ脱脂剤が使用されるようになってきている。そのため、アルカリ脱脂剤による洗浄後も表面処理鋼板がなお所定の性能を維持していること、即ち、耐アルカリ性に優れていることが求められるようになってきた。
【0009】
クロムを含有しない1層の処理として、特許文献5、6には、イオン性の有機樹脂と特定のフェノール系樹脂とさらに金属化合物を含有する水系の表面処理剤による処理が提案されている。しかし、そこに開示されている表面処理剤では、特に耐アルカリ性、劣化ガソリンに対する耐ガソリン性、耐食性に関して、十分な性能が必ずしも得られないことが判明した。
【特許文献1】特開平10−46358号公報
【特許文献2】特開平8−269733号公報
【特許文献3】特開平10−137681号公報
【特許文献4】特開2000−129461号公報
【特許文献5】特開2001−181860号公報
【特許文献6】特開2003−13252号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
自動車燃料タンク用の表面処理鋼板に求められる性能は、タンクの内面側と外面側とで異なる。
タンク内面側は、ガソリン、特にギ酸等の有機酸を含有する劣化ガソリンに対する耐食性が最も重要である。また、アルカリ脱脂剤で洗浄した後に性能が劣化しないという耐アルカリ性も重要である。
【0011】
一方、外面側に求められる特性としては、はんだ付け性、加工メーカーでの後塗装性、および溶接性や接着剤との密着性等が挙げられる。このような外面側に求められる性能を満たすことができれば、同じ表面処理を内外両面に施すことができ、表面処理めっき鋼板の生産性が高まるので、さらに好ましい。
【0012】
本発明は、環境面で問題のある鉛と6価クロムを含有しない、自動車燃料タンク用に適した1層コーティング型の表面処理めっき鋼板において、前述した内面側と外面側に求められる性能を全て満たすことができる鋼板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、亜鉛−ニッケル合金めっき鋼板の表面に特定の水系表面処理剤の塗布と乾燥により皮膜を形成することにより、上記課題を解決することが可能であることを見出し、本発明に到達した。
【0014】
ここに、本発明は、亜鉛−ニッケル合金めっき鋼板の少なくとも片面に、カチオン性ウレタン樹脂(A)と、下記一般式(1)で示される反復単位を有する平均重合度2〜50の重合体分子からなるカチオン性フェノール樹脂(B)と、リン酸(C)と、チタン化合物(D)と、バナジウム化合物(E)と、潤滑剤(F)とを成分として含有する水系表面処理剤の塗布と乾燥により形成された皮膜を有する表面処理めっき鋼板であって、前記表面処理剤中の成分比が、(A)40〜55質量部、(B)15〜25質量部、(C)P換算として3〜10質量部、(D)Ti換算として0.5〜3質量部、(E)V換算として0.5〜3質量部、(F)3〜10質量部であることを特徴とする表面処理めっき鋼板である。
【0015】
【化3】

【0016】
式中、Y1およびY2は、それぞれ独立して、水素原子または下記式(2)もしくは式(3)で表されるZ基を意味し
【0017】
【化4】

【0018】
式(2)および式(3)中のR1、R2、R3、R4およびR5は、それぞれ独立して、水素原子、C1〜C10アルキル基またはC1〜C10ヒドロキシアルキル基を表し、前記重合体分子中のベンゼン環当たりの前記Z基の平均置換数は0.2〜1.0である。
【0019】
好ましくは、前記皮膜の付着量は500〜2000mg/m2の範囲内である。本発明はまた、上記表面処理めっき鋼板から製造された、前記皮膜を内面のみ、または内面と外面の両面、に有する燃料容器にも関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の表面処理めっき鋼板は、燃料タンクの内面側に要求される、ガソリン、特に劣化ガソリンに対する耐食性と、耐アルカリ性に優れ、アルカリ脱脂剤で洗浄した後も耐ガソリン性の性能を保持している。また、この表面処理めっき鋼板は、燃料タンクの外面側に求められる、はんだ(ろう)付け性、後塗装性、溶接性、接着剤との密着性、成形性にも優れている。

従って、本発明の表面処理めっき鋼板は、ガソリン用燃料容器の素材として好適であって、自動車、バイク、トラクター等の燃料タンク、携帯用燃料タンク等に好適である。また1層コーティング型のためコスト的にも有利である。さらに、内外面の両面に同じ表面処理を施すことが可能となり、その場合には生産性も向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に本発明を具体的に説明する。以下の説明において、%および部は、特に指定しない限り、質量%および質量部である。
本発明の表面処理めっき鋼板におけるめっき母材となる鋼板は、通常用いられている一般的な冷延鋼板でよい。ただし、燃料タンク用途では、一般に厳しい成形加工が行われるため、例えば極低炭素鋼で、かつTi、Nb、Bの1種または2種以上が添加された成分系といった、プレス成形性に優れた鋼板であることが好ましい。
【0022】
鋼板に施すめっきは、本発明の用途から、耐食性が重要であるので、耐食性に優れている亜鉛−ニッケル合金めっきとする。亜鉛−ニッケル合金めっき皮膜中のニッケルの含有率は5〜17%の範囲が好ましい。
【0023】
めっき方法は電気めっき法が好適であり、使用するめっき浴は、亜鉛化合物とニッケル化合物に加えて、少量の有機インヒビター、デキストリン、デキストランなどの有機化合物を含有していてもよい。めっき付着量は、耐食性の観点から、片面あたり10g/m2以上が好ましい。付着量が多すぎると、コストおよび加工性の面で問題となるので、より好ましい付着量は、片面当たり15〜50g/m2である。
【0024】
この亜鉛−ニッケル合金めっき鋼板の少なくとも片面に、上記成分(A)〜(F)を含有する水系表面処理剤の塗布と乾燥により、皮膜を形成する。この皮膜は、前述したように、耐食性、特に耐ガソリン性と、耐アルカリ性に優れ、さらにはんだ(ろう)付け性、後塗装性、溶接性、接着剤との密着性も良好である。従って、燃料タンクの内面と外面の両面がこの皮膜を有するように、上記水系表面処理剤はめっき鋼板の両面に塗布してもよく、あるいは燃料タンクの内面側だけがこの皮膜を有するように、上記水系表面処理剤をめっき鋼板の片面だけに塗布してもよい。
【0025】
カチオン性ウレタン樹脂(A)は、緻密な皮膜を形成するうえで重要な役割を担い、優れた耐ガソリン性や耐アルカリ性を得る上で重要である。カチオン性ウレタン樹脂(A)は、ポリオールと脂肪族、脂環式もしくは芳香族ポリイソシアネートとの重縮合物であり、水溶性樹脂もしくは水系エマルジョン樹脂の形態のものを使用する。
【0026】
ポリオールとしてはジエチレングリコール、トリエチレングリコール等のポリエチレングリコール、ポリエチレン/プロピレングリコールなどのポリエーテルグリコールが例示される。他に、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールなども使用できる。樹脂をカチオン性にして、水溶性または水乳化性を付与するために、ポリオール成分の一部は(置換)アンモニウム基を有するポリオールとする。
【0027】
脂肪族、脂環式もしくは芳香族ポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどが例示される。
【0028】
カチオン性ウレタン樹脂(A)の重量平均分子量は1,000〜1,000,000であるのが好ましく、2,000〜500,000であるのがより好ましい。平均分子量が小さすぎると皮膜形成性が不十分となり、大きすぎると処理剤の安定性が低下する傾向となる。
【0029】
カチオン性ウレタン樹脂(A)は、40〜55部の範囲の量で含有させる。この成分比は好ましくは44〜51部の範囲である。少なすぎると耐アルカリ性や耐ガソリン性が低下し、多すぎると前記性能のほか接着性が低下する傾向にある。
【0030】
カチオン性フェノール樹脂(B)は、カチオン性ウレタン樹脂(A)とともに、皮膜を構成する基本的成分となる。さらに、接着剤との接着性を高めるうえで重要な役割を担う。カチオン性フェノール樹脂(B)は、一般式(1)で示される反復単位を有する重合体分子からなり、平均重合度(n)が2〜50のオリゴマーまたはポリマーである。
【0031】
【化5】

【0032】
式中、ベンゼン環の任意の位置に結合しうるY1およびY2は、それぞれ独立して、水素原子または下記式(2)もしくは式(3)により表されるZ基を意味する。
【0033】
【化6】

【0034】
式(2)および式(3)中のR1、R2、R3、R4およびR5は、それぞれ独立して、水素原子、C1〜C10アルキル基またはC1〜C10ヒドロキシアルキル基を表し、前記重合体分子中のベンゼン環当たりの前記Z基の平均置換数は0.2〜1.0である。
【0035】
Z基中に存在する置換基R1〜R5の炭素数が大きくなりすぎると、処理液の成膜性が低下するため、表面処理めっき鋼板の耐ガソリン性や、上塗り塗装性等が不十分になる。この置換基の炭素数は、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜4、特に好ましくは1〜2である。
【0036】
カチオン性フェノール樹脂(B)の平均重合度(n)が2未満になると、成膜性が低下するため、耐ガソリン性や、耐アルカリ性が劣り、一方50を超えると、処理剤の安定性が低下する。この平均重合度(n)は好ましくは4〜40、より好ましくは8〜20である。
【0037】
カチオン性フェノール樹脂(B)のベンゼン環当たりのZ基の平均置換数が0.2未満であると、樹脂の基体表面への密着性が不十分となり、塗装性が悪くなる。また、この平均置換数が1.0を越える(即ち、平均して各ベンゼン環に1個より多いZ基が置換する)と、樹脂の親水性が大きくなりすぎ、処理した亜鉛系めっき鋼板の耐食性が不十分となる。平均置換数は、好ましくは0.3〜0.7である。置換基が式(3)で示されるイオン性のアンモニウム基である場合には、その平均置換数は0.5未満とすることが好ましい。
【0038】
カチオン性フェノール樹脂(B)は、15〜25部の範囲の量で存在させる。この成分比は、好ましくは18〜22部の範囲である。15部未満では接着性が低下し、25部を超えると耐アルカリ性や耐ガソリン性が低下する。
【0039】
リン酸(C)は、皮膜の耐食性を向上させるために効果的である。種類としては、オルトリン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ポリリン酸が好適である。リン酸(C)の量は、P換算で3〜10部の範囲とし、好ましくは5〜8部の範囲である。少なすぎると耐食性が低下する傾向にある。多すぎると接着性が低下する。
【0040】
チタン化合物(D)も、皮膜の耐食性を向上させるのに効果的である。水系表面処理液中に可溶性であれば種類は特に問わない。適当なチタン化合物の例としては、硫酸チタニル(TiOSO4)、チタンフッ化水素酸、ジイソプロポキシチタニウムビスアセチルアセトン{(C572)2Ti[OCH(CH3)2]2}、乳酸とチタニウムアルコキシドとの反応生成物、チタンラクテート、チタンアセチルアセトネートなどが挙げられる。チタン化合物(D)の量はTi換算で0.5〜3部の範囲とし、好ましくは1〜2.5部の範囲である。少なすぎる場合または多すぎる場合のいずれも耐食性 (耐ガソリン性、耐アルカリ性)の低下を招く。
【0041】
バナジウム化合物(E)も、皮膜の耐食性を向上させるのに効果的である。やはり、水系表面処理液中に可溶性であれば種類は特に問わない。適当なバナジウム化合物の例としては、五酸化バナジウム(V25)、メタバナジン酸(HVO3)、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、オキシ三塩化バナジウム(VOCl3)、三酸化バナジウム(V23)、二酸化バナジウム(VO2)、オキシ硫酸バナジウム(VOSO4)、バナジウムオキシアセチルアセトネート[VO(OC(=CH2)CH2COCH3)2]、バナジウムアセチルアセトネート[V(OC(=CH2)CH2COCH3)3]、三塩化バナジウム(VCl3)などが挙げられる。バナジウム化合物(E)の量は、V換算で0.5〜3部の範囲とし、好ましくは1〜2.5部の範囲である。少なすぎる場合または多すぎる場合のいずれも耐食性の低下を招く。
【0042】
金属化合物として、チタン化合物(D)とバナジウム化合物(E)の2種類を併用することが、耐ガソリン性および耐アルカリ性の両方を確保するのに重要である。どちらか1種類だけを使用するか、あるいはどちらか1種類を他の金属化合物で置換すると、耐ガソリン性と耐アルカリ性のいずれも不十分となる。
【0043】
潤滑剤(F)は、燃料タンクを成形加工するうえで複合皮膜の潤滑性を向上し、めっき磨耗などを防止するために効果的である。さらに、複雑な形状でなければ、成形加工時に使用する潤滑油がいらない無潤滑成形が可能となる。従って、潤滑剤(F)を表面処理剤に含有させる。
【0044】
潤滑剤(F)は、水系表面処理液中で分散可能なものを使用する。適当な潤滑剤の例としては、ポリオレフィン系ワックス、エステル系ワックス、炭化水素系ワックス等の水系エマルション型のワックスである。潤滑剤(F)の量は、3〜10部の範囲とし、好ましくは5〜8部の範囲である。
【0045】
以上のいずれの成分についても、1種または2種以上の材料を使用することができ、2種以上を使用した場合は、合計量が上記成分比の範囲内となるようにすればよい。
また、(A)〜(F)の上記成分比の値は、どれかの成分を基準にしているわけでも、合計を100質量部にしているわけでもない。これらの成分の比が、上記成分比の範囲内で表現できればよい。
【0046】
本発明で用いる水系表面処理剤のpHは2.0〜5.0の範囲であることが好ましい。それにより、亜鉛−ニッケル合金めっき鋼板のめっき表面が表面処理剤によりエッチングされるため、形成される皮膜のめっき表面への密着性を高めることができる。
【0047】
水系表面処理剤は、皮膜の性能に著しい悪影響を及ぼさない限り、上記以外の成分をさらに含有していてもよい。そのような成分の例としては、他の水系樹脂、シランカップリング剤、界面活性剤、pH調整剤(酸もしくは塩基)、消泡剤、などが考えられる。また、特に皮膜を片面のみに形成する場合に、皮膜形成面の識別を容易にするために、表面処理剤に着色成分を含有させて、皮膜を着色してもよい。
【0048】
本発明の水系表面処理剤を、亜鉛−ニッケル合金めっき鋼板の片面または両面に塗布し、次いで乾燥させて、該表面に皮膜を形成する。この皮膜は、皮膜形成成分である2種類の樹脂と金属化合物とを含有する複合皮膜を形成する。塗布方法は特に限定されず、付着量を制御できる任意の塗布方法を採用することができる。例えば、処理剤をロールに転写させて塗布するロールコート法、シャワーリンガー等によって流し掛けた後でロールで絞るか、エアーナイフで液切りをする方法、処理剤に浸漬する浸漬塗布法、処理剤をスプレーするスプレー法等が一般に用いられる。
【0049】
乾燥は、鋼板最高到達温度が50〜250℃となる温度で行うことが好ましい。乾燥のための加熱手段は特に制限されず、加熱炉を使用しても、熱風加熱により加熱してもよい。加熱時間は、加熱温度や処理剤の付着量に依存し、乾燥皮膜が得られるように選択すればよい。
【0050】
こうして、基材の亜鉛−ニッケル合金めっき鋼板の少なくとも片面に、クロムフリーの耐食性に優れた皮膜が形成される。この皮膜を内面に有する燃料容器は、耐ガソリン性と耐アルカリ性に優れ、アルカリ脱脂した後も劣化ガソリン環境で優れた耐食性を示す。一方、燃料容器の外面側に要求される、溶接性、はんだ付け性、ろう付け性、接着性等の性能は、皮膜がない方が通常は良好である。しかし、外面側にも耐食性が必要な場合、本発明による皮膜が、内面側と外面側の両面に形成されていてもよい。本発明による皮膜は、外面側に要求される溶接性、はんだ付け(ろう付け)性、接着性も良好であり、皮膜があっても、これらの性能が著しく損なわれることはない。
【0051】
皮膜の好ましい付着量(片面あたり)は、500〜2000mg/m2の範囲であり、より好ましくは800〜1500mg/m2の範囲である。付着量が少ないと、耐食性 (耐アルカリ性、耐ガソリン性)が劣る傾向にある。多すぎると、コストアップになるほか、溶接性、ろう付け性、はんだ付け性、接着性が劣化する傾向にある。
【0052】
本発明に係る表面処理めっき鋼板の内外の表面に防錆油を塗布したり、成形加工時に潤滑油を塗布することは、必ずしも必要ではないが、保管時の防錆や成形時の潤滑性の点からは望ましい。
【実施例】
【0053】
本発明の表面処理めっき鋼板に関する作用効果を実施例で具体的に例証する。実施例は本発明の例示のために記載するものであり、本発明を何ら限定するものではない。

(実施例1)
表面処理剤
本発明例および比較例に用いる水系表面処理剤の成分構成を表1に示す。表1において、表面処理剤14〜19は、成分(A)〜(E)のいずれかを含有しない、比較用の表面処理剤であり、表面処理剤20および21は、ウレタン樹脂(A)の成分比が本発明の範囲外となる比較用の表面処理剤である。各水系表面処理剤は、固形分濃度が10%となるように調製した。
【0054】
使用した(A)〜(F)の各成分は次の通りである。
カチオン性ウレタン樹脂(A)
A1:カチオン性ポリウレタン樹脂(旭電化製アデカボンタイターHUX−670)、
A2:カチオン性ポリウレタン樹脂(第一工業製薬製スーパーフレックス600)。
【0055】
カチオン性フェノール樹脂(B)
B1:n=5、Y1=−CH2N(CH3)2、Y2=H、Z置換度=0.5、
B2:n=10、Y1=−CH2N(CH3)(C24OH)、Y2=H、Z置換度=1.0。
【0056】
リン酸(C)
C1:オルトリン酸、
C2:次亜リン酸。
【0057】
チタン化合物(D)
D1:硫酸チタン、
D2:チタンフッ化水素酸、
D3:チタンラクテート、
D4:チタンアセチルアセトネート。
【0058】
バナジウム化合物(E)
E1:五酸化バナジウム、
E2:オキシ硫酸バナジウム、
E3:バナジルオキシアセチルアセトネート、
E4:メタバナジン酸アンモニウム。
【0059】
潤滑剤(F)
F1:ポリエチレンワックス(粒径1μm、分子量3000)、
F2:ポリプロピレンワックス(粒径1μm、分子量2000)。
【0060】
【表1】

【0061】
供試材
0.8mm厚の電気Zn−13%Ni合金めっき鋼板(両面めっき、めっき付着量:片面当たり30g/m)を250mm×310mmに切断したものを基材めっき鋼板として用いた。このめっき鋼板の両面に、ロールコーターを用いて、表1に示した水系表面処理剤を表2に示すような皮膜付着量(片面当たりの付着量)となるように塗布し、表2に示す最高到達板温となるようにドライヤーで乾燥して、供試用の表面処理めっき鋼板を得た。
【0062】
得られた表面処理めっき鋼板の諸性能を下記試験方法により評価した。試験結果も表2にまとめて示す。
耐ガソリン性
後述する絞り条件で、表面処理した側が内面となるようにカップ絞り成形を行い、得られたカップに3000ppm濃度のギ酸水溶液10ccをガソリン20ccに加えた模擬劣化ガソリンを入れて密閉し、50℃に保持した。評価は、300日後の腐食生成物(液のにごり)状況で以下の通り判断した(○までが合格)。
【0063】
◎:ほとんど変化なし;
○:上から見て10〜40%程度のにごり発生;
△:上から見て40〜70%程度のにごり発生(底面の観察がかなり困難);
×:ほぼ液全体に赤錆が浮遊している(底面、側面の観察がかなり困難)またはカット部、その他から内面樹脂の剥離、ふくれが認められる。
【0064】
(絞り条件)
ブランク 100mm径、
パンチ 50mm径−5R、
ダイス 52.5径−5R、
絞り高さ 25mm、
潤滑油使用、絞り成形後にアルカリ脱脂。
【0065】
耐食性1
裏面及び端面をポリエステルテープでマスキングし、塩水噴霧試験(JIS−Z−2371)を施し、240時間経過後の白錆面積率で判定した(○までが合格)。
【0066】
◎ :白錆面積率5%未満;
○ :白錆面積率5%以上、10%未満;
○△:白錆面積率10%以上、25%未満;
△ :白錆面積率25%以上、50%未満;
× :白錆面積率50%以上。
【0067】
耐食性2
万能引張り試験機にて140%に引き伸ばした後、裏面及び端面をポリエステルテープでマスキングし、塩水噴霧試験(JIS−Z−2371)を施した。240時間まで途中経過の赤錆発生を確認し判定した(○までが合格)。
【0068】
◎:240時間まで赤錆発生なし;
○:120時間まで赤錆発生なし、240時間では僅かに赤錆発生あり;
△:120時間で僅かに赤錆発生あり;
×:120時間で赤錆発生多い。
【0069】
耐アルカリ性
裏面及び端面をポリエステルテープでマスキングし、日本パーカライジング社製アルカリ脱脂剤CL−N364S(20g/L)に60℃で120秒間浸漬し、水道水で水洗した。続いて、塩水噴霧試験(JIS−Z−2371)を施した。240時間経過後の白錆面積率で判定した(○までが合格)。
【0070】
◎ :白錆面積率5%未満;
○ :白錆面積率5%以上、10%未満;
○△:白錆面積率10%以上、25%未満;
△ :白錆面積率25%以上、50%未満;
× :白錆面積率50%以上。
【0071】
接着性
25mm×200mmのサイズに切断した2枚のサンプルに接着剤(#2403アサヒゴム製)をバーコータにて塗布し、0.18mmのスペーサーをサンプルの200mm側の両端に挟み、接着剤の厚さが180μmになるよう調整した。30分間静置後、180℃で30分間加熱して接着剤を硬化させ、さらに24時間自然冷却した。得られた接着試験片を前記万能引張り試験により、200mm/分の速度でTピール剥離試験を実施した。そのときの剥離強度および剥離外観により判定した(○までが合格)。なお、剥離強度の単位はkgf/25mmである。
【0072】
◎;接着剤層の凝集破壊面積率100%、剥離強度17以上;
○;接着剤層の凝集破壊面積率100%、剥離強度16以上、7未満;
△;接着剤層の凝集破壊率50%以上、100%未満、剥離強度13以上、6未満;
×;接着剤層の凝集破壊率50%未満、剥離強度13未満。
【0073】
後塗装性
サンプルの表面を前記条件でアルカリ脱脂した後、片面に外面塗料として日本ペイント製オーデラック9200TSブラックを約20μm厚に塗布した。その後、40℃の温水中に10日浸漬してから、直ちに塗装面にクロスカットをいれ、さらにエリクセンで7mm張り出し、張り出し部のテープ剥離状況を調査した(○までが合格)。
【0074】
○:剥離なし;
△:微小ブリスター部で剥離;
×:大きく剥離。
【0075】
はんだ付け/ろう付け性
はんだおよびろう材として、それぞれタルチン製Sn−Ag系合金および黄銅を用いてはんだ付け性およびろう付け性を調査した。フラックスは、それぞれタルチン製L305(塩素系)およびホウ酸であった。評価は、サンプル外面にはんだまたはろう材0.5gとフラックス0.5ccを乗せ、Sn−Ag系合金はんだは350℃、黄銅ろう材の場合は800℃に加熱して、2分後の濡れ広がり面積で評価した(○までが合格)。
【0076】
○:はんだ及びろうの濡れ面積が両方とも100mm2以上;
×:はんだ及びろうの少なくとも一方の濡れ面積が100mm2未満か、濡れない。
抵抗溶接性
2枚のサンプルを重ねた後、加圧300kgf、通電12サイクル、電流8kAの条件でスポット溶接を行い、1サイクル目の電極間抵抗を測定して、次のように判定した(○までが合格)。
【0077】
◎:電極間抵抗が300μΩ以下;
○:電極間抵抗が300μΩ以上、もしくは軽度のチリ発生;
△:かなり大きなチリ発生;
×:通電しない(溶接不能)。
【0078】
成形性
サンプルを耐ガソリン性の絞り成形加工と同じ条件で絞り成形した後、絞り外面の側壁の粘着テープによる剥離状況を目視で判定した(○までが合格)。
【0079】
◎:剥離なし;
○:テープでややキラキラ感あり;
△:テープで明らかに剥離が認められる;
×:ほぼ全面にわたって剥離が認められる。
【0080】
【表2】

【0081】
表2に示すように、本発明に従った水系表面処理剤を用いて皮膜を形成した実施例1〜17では、絞り成形後にアルカリ脱脂した容器に劣化ガソリンを模したガソリンを入れて試験した場合の耐ガソリン性に優れ、アルカリ脱脂を受けても、劣化ガソリンに耐える十分な耐ガソリン性を示す。
【0082】
また、アルカリ脱脂後の耐食性(耐アルカリ性)も脱脂前の耐食性(耐食性1)と同様に良好であり、加工後の耐食性(耐食性2)も良好であった。
これに対し、比較例1〜5は成分(A)〜(E)のいずれかを含有しないもの、また、比較例7、8は、成分(A)と(B)の比率が本発明の範囲外のものであり、いずれも耐ガソリン性その他の性能が著しく劣った。ワックス(F)を含有しない比較例6は、成形性がやや劣った。


(実施例2)
素地鋼板として、実施例1のZn−13%Ni合金めっき鋼板と、電気亜鉛めっき鋼板とを用い、これに実施例1と同様の条件で表面処理剤(表1の処理剤1)を塗布し、供試用の表面処理めっき鋼板を得た。
得られた表面処理めっき鋼板の諸性能を実施例1と同様の試験方法により評価した。試験結果を表3に示す。
【0083】
【表3】

【0084】
表3に示されるように、素地鋼板が亜鉛−ニッケル合金めっき鋼板である場合、電気亜鉛めっき鋼板である場合と比較して、性能が格段に良好であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛−ニッケル合金めっき鋼板の少なくとも片面に、カチオン性ウレタン樹脂(A)と、下記一般式(1)で示される反復単位を有する平均重合度2〜50の重合体分子からなるカチオン性フェノール樹脂(B)と、リン酸(C)と、チタン化合物(D)と、バナジウム化合物(E)と、潤滑剤(F)とを成分として含有する水系表面処理剤の塗布と乾燥により形成された皮膜を有する表面処理めっき鋼板であって、前記処理剤中の成分比が、(A)40〜55質量部、(B)15〜25質量部、(C)P換算として3〜10質量部、(D)Ti換算として0.5〜3質量部、(E)V換算として0.5〜3質量部、(F)3〜10質量部であることを特徴とする表面処理めっき鋼板。
【化1】

式中、Y1およびY2は、それぞれ独立して、水素原子または下記式(2)もしくは式(3)で表されるZ基を意味し
【化2】

式(2)および式(3)中のR1、R2、R3、R4およびR5は、それぞれ独立して、水素原子、C1〜C10アルキル基またはC1〜C10ヒドロキシアルキル基を表し、前記重合体分子中のベンゼン環当たりの前記Z基の平均置換数は0.2〜1.0である。
【請求項2】
前記皮膜の付着量が500〜2000mg/m2の範囲内である、請求項1または2に記載の表面処理めっき鋼板。
【請求項3】
請求項1〜3のいずれかに記載の表面処理めっき鋼板から製造された、前記皮膜を少なくとも内面に有する燃料容器。


【公開番号】特開2006−291246(P2006−291246A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−110105(P2005−110105)
【出願日】平成17年4月6日(2005.4.6)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】