説明

燃料系統部品

【課題】
簡単な設備で製造が容易で、燃料バリア性の優れる燃料容器等の燃料系統部品を得る。
【解決手段】
2つ以上の部材を該部材の周縁部で接合して一体化させた燃料系統部品であって、該部材の少なくとも1つが、予め成形された熱可塑性ポリマー樹脂製成形部品の少なくとも一部の表面に表面処理を施した上で燃料バリア性塗料を塗装して燃料バリア層を形成させたものであることを特徴とする燃料系統部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ガソリンなどの燃料を収納する燃料容器等の燃料系統部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用に使用される燃料等のタンクとしては、強度等の観点から、鉄板等のプレス加工と溶接により製造された金属製の燃料タンクや、あるいは加工性等の観点から、合成樹脂をブロー成形した合成樹脂製の燃料タンクが用いられてきた。特に車両の軽量化やデザインの自由度を向上させるために熱可塑性ポリマー樹脂製の燃料タンクが用いられるようになってきた。
【0003】
しかしながら、このブロー成形で大型の燃料タンクを製造する場合に、加熱され流動状態にあるパリソンを成形機の上部から金型に入れるときに上部の肉厚が下部の肉厚よりも薄くなり、肉厚の均一性が図れなくなる場合があった。また、燃料タンクの形状の凹凸が大きかったり、複雑な場合は、パリソンを金型内で膨張させたときにパリソンの膨張の割合が製品の部位によって異なる場合があり、製品の肉厚にバラツキが生じる場合があった。そのため、製品の肉厚をコントロールすることが難しく、タンク強度等の性能を満足させるためには、製品の全体の肉厚を厚くせざるを得なかった。したがって燃料タンクの重量が増加していた。
また、ブロー成形においてパリソンを金型で挟んで成形するため、比較的大きなバリが発生して、材料の無駄が多く、生産性がよくなかった。
【0004】
さらに、ブロー成形においてはパリソンを金型内で膨張させるため、燃料タンク内に燃料ポンプユニット、フロート等の装置を配置することに制約があった。そのため、金型を用いて燃料タンクの上部と下部を別々に成形し、その別々に成形したものを接合して燃料タンクを製造するものがある(特許文献1参照。)。
【0005】
一方、燃料タンクは、地球環境の保護のために燃料等が透過しない燃料バリア性が必要とされている。そこで従来は、ガソリン等の燃料が透過することを防止するために、まず燃料バリア性を有するフィルムを金型にセットして、真空成形によりそのフィルムを燃料タンクの形状に成形することによりバリア層を形成する。その後、バリア層の上に、即ちバリア層が燃料タンク内側面になるように、基材層を構成する熱可塑性ポリマー樹脂を射出成形することにより燃料タンクを製造していた。しかし、基材層を構成する合成樹脂を射出成形するときにバリア層のフィルムがその合成樹脂で引伸ばされる場合があり、十分なバリア性を得ることができない恐れもあった。また、バリア層のフィルムと基材層を構成する熱可塑性ポリマー樹脂との密着性、接合性も十分ではない場合があった。さらに、接合した周縁部付近では、燃料バリア性のシートをすべての周縁部の末端まで漏れなく行き渡らせることが困難な場合があり、燃料バリア性も十分ではなかった。
【0006】
また、燃料タンクを2つに分割した分割体を成形する金型を一対設けて、それぞれの金型で分割体を射出成形により成形した後に、金型をスライドさせてその各分割体を互いに突き合わせた後に、つき合わせた面の周縁に溶融樹脂を射出して各分割体を互いに融着させる製造方法も紹介されている(特許文献2参照。)。しかしながら、この方法では、金型をスライドさせる設備等が複雑で高価なものとなる。
【0007】
さらに、2つに分割された燃料タンクを構成する部品をそれぞれの分割開口の周縁部で接合して一体とする燃料タンクの製造方法として、燃料透過性の低い熱可塑性ポリマー樹脂を射出成形もしくは射出圧縮成形で形成させる方法が紹介されている(特許文献3参照)。
【0008】
【特許文献1】特開平10−157738号公報
【特許文献2】特開2001−129851号公報
【特許文献3】特開2004−98886号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的はかかる事実を考慮して、簡単な設備で製造が容易で、燃料バリア性の優れる燃料容器等の燃料系統部品を得ることにあり、かつ軽量化された燃料容器等の燃料系統部品を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、燃料容器等の燃料系統部品を製造する際に、予め使用する部材に燃料バリア性塗料を塗装した上で使用することにより、製造が容易で、燃料バリア性に優れた燃料系統部品が得られることを見出し、本発明に到達した。
即ち本発明は、2つ以上の部材を該部材の周縁部で接合して一体化させた燃料系統部品であって、該部材の少なくとも1つが、予め成形された熱可塑性ポリマー樹脂製成形部品の少なくとも一部の表面に表面処理を施した上で燃料バリア性塗料を塗装して燃料バリア層を形成させたものであることを特徴とする燃料系統部品に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、燃料バリア性の高い燃料容器等の燃料系統部品を、安全かつ安価・簡便に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明において、燃料系統部品とは自動車、オートバイ、船舶、航空機、発電機および工業用、農業用機器に搭載された燃料容器、燃料を補給させるための燃料容器、さらにはこれら稼動のために用いる燃料を保管するための燃料容器、およびこれらの燃料容器に付随するホース、パイプ、チューブ、コック、ジョイント等の総称である。
燃料としてはガソリンおよびメタノール、エタノールまたはMTBEなどをブレンドしたガソリンすなわち含酸素ガソリンが代表例として挙げられるが、その他の重油、軽油、灯油なども例示される。
【0013】
本発明において、成形部品に使用される樹脂としては熱可塑性ポリマー樹脂であればいずれでも良く、2種以上の熱可塑性ポリマー樹脂を混合したものであっても差し支えない。また、該成形部品は熱可塑性ポリマー樹脂および/またはその混合物からなる単層、多層のいずれでも良い。
熱可塑性ポリマー樹脂としてはポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、ナイロン6、ナイロン6,6、ポリメタキシリレンアジパミド(N-MXD6)などのポリアミド系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物(EVOH)系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂が挙げられる。また接着性ポリオレフィン樹脂としてはポリエチレンやポリプロピレンを無水マレイン酸等で変性したポリマー樹脂等が例示できる。例えば、ポリオレフィン樹脂にエチレンービニルアルコール共重合体および/または接着性ポリオレフィン樹脂を混合した熱可塑性ポリマー樹脂や、ポリオレフィン樹脂とエチレンービニルアルコール共重合体および/または接着性ポリオレフィン樹脂による多層構造を有する熱可塑性ポリマー樹脂が使用できる。ただし、経済性、成形加工性、機械的強度などの点でポリエチレンを使用したものが好ましく、特にポリエチレン単層が好ましい。
【0014】
成形部品の成形方法はいかなる方法を選択しても構わないが、熱プレス、射出成形、真空(圧空)成形等が挙げられる。好ましくは成形部品厚みの制御が可能な熱プレスもしくは射出成形が好ましく、生産性の観点から射出成形が特に好ましい。
【0015】
本発明において、成形部品の表面に燃料バリア性塗料を塗装するに際しては、該塗料から形成される燃料バリア層と成形部品の接着性を向上させるために、予め成形部品表面に表面処理をしておくことが好ましい。表面処理方法としては、立体的形状を有する成形部品の表面処理ができればいずれでも良いが、処理の容易さ、生産性の観点からコロナ処理、フレーム処理、プラズマ処理もしくはUV処理が好ましく、またこれらを組み合わせても良い。
【0016】
本発明で使用する燃料バリア性塗料は、該塗料から得られる燃料バリア層の60℃における燃料透過係数が2 (g・mm/m・day)以下、好ましくは1 (g・mm/m・day)以下、さらに好ましくは0.5(g・mm/m・day)以下となるものである。2 (g・mm/m・day)を超えると燃料バリア層の層厚を厚くしなくては燃料が透過するため塗料の塗付量が多くなり、層厚の制御が困難になる上、経済的に問題が生じる。
また、燃料バリア層中に(1)式の骨格構造が40重量%以上含有されることが好ましい。
【0017】
【化1】

【0018】
本発明で使用する燃料バリア性塗料は、該塗料から得られる燃料バリア層の60℃における燃料透過係数が2 (g・mm/m・day)以下であればいずれでも構わないが、比較的低温で燃料バリア層を形成できるエポキシ樹脂とエポキシ樹脂硬化剤からなる塗料が好ましい。
【0019】
前記エポキシ樹脂としては脂肪族化合物、脂環式化合物、芳香族化合物または複素環式化合物のいずれであってもよいが、高い燃料バリア性の発現を考慮した場合には芳香族部位を分子内に含むエポキシ樹脂が好ましく、(1)式の骨格構造を分子内に含むエポキシ樹脂がより好ましい。具体的にはメタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミン部位を有するエポキシ樹脂、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンから誘導されたグリシジルアミン部位を有するエポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタンから誘導されたグリシジルアミン部位を有するエポキシ樹脂、パラアミノフェノールから誘導されたグリシジルアミン部位および/またはグリシジルエーテル部位を有するエポキシ樹脂、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルエーテル部位を有するエポキシ樹脂、ビスフェノールFから誘導されたグリシジルエーテル部位を有するエポキシ樹脂、フェノールノボラックから誘導されたグリシジルエーテル部位を有するエポキシ樹脂、レゾルシノールから誘導されたグリシジルエーテル部位を有するエポキシ樹脂などが使用できるが、中でもメタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミン部位を有するエポキシ樹脂、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンから誘導されたグリシジルアミン部位を有するエポキシ樹脂、ビスフェノールFから誘導されたグリシジルエーテル部位を有するエポキシ樹脂およびレゾルシノールから誘導されたグリシジルエーテル部位を有するエポキシ樹脂が好ましい。
【0020】
更に、ビスフェノールFから誘導されたグリシジルエーテル部位を有するエポキシ樹脂やメタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミン部位を有するエポキシ樹脂を主成分として使用することがより好ましく、メタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミン部位を有するエポキシ樹脂を主成分として使用することが特に好ましい。
【0021】
また、柔軟性や耐衝撃性、耐湿熱性などの諸性能を向上させるために、上記の種々のエポキシ樹脂を適切な割合で混合して使用することもできる。
【0022】
前記エポキシ樹脂は、各種アルコール類、フェノール類およびアミン類とエピハロヒドリンの反応により得られる。例えば、メタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミン部位を有するエポキシ樹脂は、メタキシリレンジアミンにエピクロルヒドリンを付加させることで得られる。
ここで、前記グリシジルアミン部位は、キシリレンジアミン中のジアミンの4つの水素原子と置換できる、モノ−、ジ−、トリ−および/またはテトラ−グリシジルアミン部位を含む。モノ−、ジ−、トリ−および/またはテトラ−グリシジルアミン部位の各比率はメタキシリレンジアミンとエピクロルヒドリンとの反応比率を変えることで変更することができる。例えば、メタキシリレンジアミンに約4倍モルのエピクロルヒドリンを付加反応させることにより、主としてテトラグリシジルアミン部位を有するエポキシ樹脂が得られる。
【0023】
前記エポキシ樹脂は、各種アルコール類、フェノール類およびアミン類に対し過剰のエピハロヒドリンを水酸化ナトリウム等のアルカリ存在下、20〜140℃、好ましくはアルコール類、フェノール類の場合は50〜120℃、アミン類の場合は20〜70℃の温度条件で反応させ、生成するアルカリハロゲン化物を分離することにより合成される。
生成したエポキシ樹脂の数平均分子量は各種アルコール類、フェノール類およびアミン類に対するエピハロヒドリンのモル比により異なるが、約80〜4000であり、約200〜1000であることが好ましく、約200〜500であることがより好ましいい。
【0024】
前記エポキシ樹脂硬化剤は、脂肪族化合物、脂環式化合物、芳香族化合物、または複素環式化合物のいずれであってもよく、ポリアミン類、フェノール類、酸無水物、またはカルボン酸類などの一般に使用され得るエポキシ樹脂硬化剤を使用することができる。これらのエポキシ樹脂硬化剤は、燃料バリア性塗料の使用用途およびその用途における要求性能に応じて選択することが可能である。
具体的には、ポリアミン類としてはエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミンなどの脂肪族アミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミンなどの芳香環を有する脂肪族アミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミンなどの脂環式アミン、ジアミノジフェニルメタン、メタフェニレンジアミンなどの芳香族アミンが挙げられる。
また、これらのポリアミン類を原料とするエポキシ樹脂またはモノグリシジル化合物との反応生成物、炭素数2〜4のアルキレンオキシドとの反応生成物、エピクロロヒドリンとの反応生成物、これらのポリアミン類との反応によりアミド基部位を形成しオリゴマーを形成し得る、少なくとも1つのアシル基を有する多官能性化合物との反応生成物、これらのポリアミン類とのとの反応によりアミド基部位を形成しオリゴマーを形成し得る、少なくとも1つのアシル基を有する多官能性化合物と、一価のカルボン酸および/またはその誘導体との反応生成物などが使用できる。
【0025】
フェノール類としてはカテコール、レゾルシノール、ヒドロキノンなどの多置換基モノマー、およびレゾール型フェノール樹脂などが挙げられる。
また、酸無水物またはカルボン酸類としてはドデセニル無水コハク酸、ポリアジピン酸無水物などの脂肪族酸無水物、(メチル)テトラヒドロ無水フタル酸、(メチル)ヘキサヒドロ無水フタル酸などの脂環式酸無水物、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸などの芳香族酸無水物、およびこれらのカルボン酸などが使用できる。
【0026】
高い燃料バリア性の発現を考慮した場合には、芳香族部位を分子内に含むエポキシ樹脂硬化剤が好ましく、上記(1)式の骨格構造を分子内に含むエポキシ樹脂硬化剤がより好ましい。
具体的にはメタキシリレンジアミンまたはパラキシリレンジアミン、およびこれらを原料とするエポキシ樹脂またはモノグリシジル化合物との反応生成物、炭素数2〜4のアルキレンオキシドとの反応生成物、エピクロロヒドリンとの反応生成物、これらのポリアミン類との反応によりアミド基部位を形成しオリゴマーを形成し得る、少なくとも1つのアシル基を有する多官能性化合物との反応生成物、これらのポリアミン類との反応によりアミド基部位を形成しオリゴマーを形成し得る、少なくとも1つのアシル基を有する多官能性化合物と、一価のカルボン酸および/またはその誘導体との反応生成物などを使用することがより好ましい。
【0027】
高い燃料バリア性および成形部品との良好な接着性を考慮した場合には、エポキシ樹脂硬化剤として、下記の(A)および(B)の反応生成物、または(A)、(B)、および(C)の反応生成物を用いることが特に好ましい。
(A)メタキシリレンジアミンまたはパラキシリレンジアミン
(B)ポリアミンとの反応によりアミド基部位を形成しオリゴマーを形成し得る、少なくとも1つのアシル基を有する多官能性化合物
(C)炭素数1〜8の一価カルボン酸および/またはその誘導体
【0028】
前記(B)ポリアミンとの反応によりアミド基部位を形成しオリゴマーを形成し得る、少なくとも1つのアシル基を有する多官能性化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、アジピン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ピロメリット酸、トリメリット酸などのカルボン酸およびそれらの誘導体、例えばエステル、アミド、酸無水物、酸塩化物などが挙げられ、特にアクリル酸、メタクリル酸およびそれらの誘導体が好ましい。
【0029】
また、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸、グリコール酸、安息香酸などの炭素数1〜8の一価のカルボン酸およびそれらの誘導体、例えばエステル、アミド、酸無水物、酸塩化物などを上記多官能性化合物と併用して開始ポリアミンと反応させてもよい。反応により導入されるアミド基部位は高い凝集力を有しており、エポキシ樹脂硬化剤中に高い割合でアミド基部位が存在することにより、より高い燃料バリア性および成形部品への良好な接着強度が得られる。
【0030】
前記 (A)および(B)、または(A)、(B)、および(C)の反応モル比は、(A)に含有されるアミノ基の数に対する(B)に含有される反応性官能基の数の比、または(A)に含有されるアミノ基の数に対する(B)および(C)に含有される反応性官能基の合計数の比として、0.3〜0.97の範囲が好ましい。0.3より少ない比率では、エポキシ樹脂硬化剤中に十分な量のアミド基が生成せず、高いレベルの燃料バリア性および成形部品に対する接着性が発現しない。また、エポキシ樹脂硬化剤中に残存する揮発性分子の割合が高くなり、得られる硬化物からの臭気発生の原因となる。また、エポキシ基とアミノ基の反応により生成する水酸基の硬化反応物中における割合が高くなるため、高湿度環境下での燃料バリア性が著しく低下する要因となる。一方、0.97より高い範囲ではエポキシ樹脂と反応するアミノ基の量が少なくなり優れた耐衝撃性や耐熱性などが発現せず、また各種有機溶剤あるいは水に対する溶解性も低下する。得られる硬化物の高い燃料バリア性、高い接着性、臭気発生の抑制および高湿度環境下での高い燃料バリア性を特に考慮する場合には、ポリアミン成分に対する多官能性化合物のモル比が0.6〜0.97の範囲がより好ましい。より高いレベルの成形部品に対する接着性の発現を考慮した場合には、本発明におけるエポキシ樹脂硬化剤中に、該硬化剤の全重量を基準として、少なくとも6重量%のアミド基が含有されることが好ましい。本発明で使用するエポキシ樹脂硬化剤としては、メタキシリレンジアミンとアクリル酸、メタクリル酸および/またはそれらの誘導体との反応生成物が特に好ましい。
【0031】
成形部品表面への塗装は、ロール塗装やスプレー塗装、エアナイフ塗装、浸漬塗装、はけ塗り、もしくはインモールドコーティングなどの一般的に使用される塗装形式のいずれも使用され得る。中でも、浸漬塗装、スプレー塗装、はけ塗り、およびインモールドコーティングから選ばれる1種以上の塗装形式が好ましい。
成形部品に塗装する場合には、燃料バリア層となるエポキシ樹脂硬化物を得るのに十分なエポキシ樹脂組成物の濃度および温度で実施されるが、これは開始材料および塗装方法の選択により変化し得る。すなわち、エポキシ樹脂組成物の濃度は選択した材料の種類およびモル比、塗装方法などにより、溶剤を用いない場合から、ある種の適切な有機溶剤および/または水を用いて約5重量%程度の組成物濃度に希釈する場合までの様々な状態をとり得る。適切な有機溶剤としては、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、メチルエチルケトンなどの非水溶性系溶剤、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-プロポキシエタノール、2-ブトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、1-プロポキシ-2-プロパノールなどのグリコールエーテル類、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノールなどのアルコール類、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドンなどの非プロトン性極性溶剤などが挙げられる。これらは単独で使用しても2種以上の混合溶剤として使用することも可能である。
【0032】
本発明においては、前記塗装を実施した後に、エアナイフ法やロール絞り法により塗付量の調整、外観の均一化、層厚の均一化を行うことも可能である。
【0033】
燃料バリア性塗料を成形部品表面に塗装する場合には、成形部品表面との湿潤を助けるために該塗料の中に、シリコンあるいはアクリル系化合物といった湿潤剤を添加しても良い。適切な湿潤剤としては、ビックケミー社から入手しうるBYK331、BYK333、BYK348、BYK381などがある。これらを添加する場合には、燃料バリア性塗料の固形分量を基準として0.01重量%〜2.0重量%の範囲が好ましい。
【0034】
また、本発明における燃料バリア層の燃料バリア性、耐衝撃性、耐熱性などの諸性能を向上させるために、燃料バリア性塗料の中にシリカ、アルミナ、マイカ、タルク、アルミニウムフレーク、ガラスフレークなどの無機フィラーを添加しても良い。高い燃料バリア性を考慮した場合には、このような無機フィラーが平板状であることが好ましい。これらを添加する場合には、燃料バリア性塗料の固形分重量を基準として0.01重量%〜10.0重量%の範囲が好ましい。
【0035】
さらに、本発明で使用される燃料バリア性塗料の成形部品表面に対する接着性を向上させるために、燃料バリア性塗料の中にシランカップリング剤、チタンカップリング剤などのカップリング剤を添加しても良い。これらを添加する場合には、燃料バリア性塗料の全重量を基準として0.01重量%〜5.0重量%の範囲が好ましい。
【0036】
さらに、本発明で使用される燃料バリア性塗料には必要に応じ、硬化性を増大させるための例えばN-エチルモルホリン、ジブチル錫ジラウレート、ナフテン酸コバルト、塩化第一錫などの硬化促進触媒、ベンジルアルコールなどの有機溶剤、リン酸亜鉛、リン酸鉄、モリブデン酸カルシウム、酸化バナジウム、水分散シリカ、ヒュームドシリカなどの防錆添加剤、フタロシアニン系有機顔料、縮合多環系有機顔料などの有機顔料、酸化チタン、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ、カーボンブラックなどの無機顔料等の各成分を必要割合量添加しても良い。
【0037】
本発明における燃料バリア性塗料から得られる燃料バリア層の厚みは1〜500μm程度、好ましくは3〜300μm、さらに好ましくは5〜200μmが実用的である。1μm未満であると燃料バリア層の欠陥が生じやすく、500μmを越えるとその層厚の制御が困難になる。
【0038】
本発明で燃料バリア性塗料を成形部品表面上に塗装をした後、燃料バリア層を形成させるための硬化温度は150℃以下、好ましくは100℃以下、さらに好ましくは80℃以下である。150℃以上であると成形部品が熱により変形してしまうため、好ましくない。
【0039】
本発明で燃料バリア性塗料を成形部品表面上に塗装した後、空気中に浮遊する埃や塵が燃料バリア層を汚さない程度まで燃料バリア層を硬化させるための硬化時間は1時間以内、好ましくは20分以内、さらに好ましくは10分以内である。硬化時間が1時間を超えると生産性が低下し、好ましくない。
【0040】
本発明で燃料バリア性塗料を成形部品表面上に塗装をした後、燃料バリア層を形成させるための硬化に際して使用される加熱装置はドライヤー、高周波誘導加熱、遠赤外線加熱、ガス加熱による方法など従来公知の方法の中から適宜選択して用いることができる。
【0041】
燃料バリア層の表面に更に保護層を形成してもよい。保護層は、燃料バリア層が保護できるものであればどのような保護層でも良く、また保護層形成方法もどのような方法で形成されても良い。また保護層は1層以上であれば良く、保護層形成方法は多種の方法を組み合わせても良い。
【0042】
保護層は、塗装により保護層を形成するのであれば、エポキシ樹脂塗料、ウレタン樹脂塗料、ポリエステル樹脂塗料、アクリル樹脂塗料などにより形成された塗膜による保護層が例示できる。
またフィルムやシートなどにより保護層を形成するのであれば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直線状低密度ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、ナイロン6、ナイロン6,6、メタキシレンアジパミド(N-MXD6)などのポリアミド系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物(EVOH)系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂のフィルムやシート、カートンなどの紙類、アルミや銅などの金属箔による保護層が例示できる。
【0043】
本発明の燃料系統部品は、2つ以上の部材を該部材の周縁部で接合して一体化させたものである。該部材の少なくとも1つは、前記成形部品の少なくとも一部の表面に前記燃料バリア性塗料が塗装されてなる燃料バリア層を形成させたものである。ここで、接合した際に燃料系統部品の内面(燃料に接する面)となる、成形部品の表面に燃料バリア層を形成させることが好ましい。また、燃料バリア性の観点から、燃料系統部品の内面の広い面積が燃料バリア層で覆われるように、燃料バリア性塗料を成形部品に塗装しておくことが好ましい。また、部材としては、金属製のもの等を併用してもよい。
【0044】
燃料系統部品を製造するにあたり、各部材の周縁部を接合する方法としては、燃料などが漏洩することのないような接合方法であればいずれの方法でもよいが、例えば周縁部を熱融着させる、溶融樹脂で接合する、ネジ等で締め付ける、接着剤を使用するといった方法を示すことができ、これらの1種以上を組み合わせて接合しても差し支えない。またその接合部は互いに咬み合う凹凸状になっていても良く、その形状に制限はない。また、必要に応じて、接合後の燃料系統部品の内面や外面に、前記燃料バリア性塗料を塗装して燃料バリア層を形成させてもよい。
【実施例】
【0045】
以下に本発明の実施例を紹介するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0046】
<実施例1>
熱融着接合用のフランジを設けた1つの開口部(90×100mm)を有するポリエチレン製角タンク(90×100×140mm)にUV表面処理機(春日電機(株)PL16-110)を使用して30秒表面処理を施し、ポリエチレン製タンク表面の濡れ張力を45mN/mとした。このタンク内表面に、エポキシ樹脂としてメタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミン部位を有するエポキシ樹脂(三菱ガス化学(株)製;TETRAD-X)と、エポキシ樹脂硬化剤としてメタキシリレンジアミン1molに対しアクリル酸メチル0.93molを反応させた反応物を使用し、これらを当量配合したものからなる燃料バリア性塗料を塗装し、1時間/60℃で硬化させて厚さ約10μmの燃料バリア層を形成させた(60℃における燃料透過係数0.1 g・mm/m・day)。このポリエチレン製タンク表面と燃料バリア層の接着性の評価を碁盤目試験(JIS K 5600-5-6)により行なった。結果を表1に示す。
一方、同様にして燃料バリア層が形成されたポリエチレン製タンクを2個作製し、一方のタンクに燃料(FuelC(ASTM D 471) 90(vol%)+エタノール 10(vol%))を150g入れ、他方のタンクと開口部同士を突き合わせて接合して密閉した後、60℃における燃料揮散量を測定し、燃料バリア性を評価した。結果を表1に示す。
【0047】
<実施例2>
プラズマ表面処理装置(春日電機(株)製PS-601S)を使用して10m/minの移動速度で表面処理を施し、ポリエチレン製タンク表面の濡れ張力を76mN/mとした以外は実施例1と同様の方法でタンクを作製し、接着性および燃料バリア性の評価を行なった。結果を表1に示す。
【0048】
<実施例3>
フレーム表面処理装置(Arcogas社製)を使用して50m/minの移動速度で表面処理を施し、ポリエチレン製タンク表面の濡れ張力を50mN/mとした以外は実施例1と同様の方法でタンクを作製し、接着性および燃料バリア性の評価を行なった。結果を表1に示す。
【0049】
<実施例4>
燃料バリア性塗料の硬化条件を10分/100℃とした以外は実施例1と同様の方法でタンクを作製し、接着性および燃料バリア性の評価を行なった。結果を表1に示す。
【0050】
<実施例5>
エポキシ樹脂として、メタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミン部位を有するエポキシ樹脂(三菱ガス化学(株)製;TETRAD-X)の代わりに、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルエーテル部位を有するエポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製;エピコート828)を使用して燃料バリア層を形成させた(60℃における燃料透過係数1.2 g・mm/m・day)。それ以外は、実施例1と同様の方法でタンクを作製し、接着性および燃料バリア性の評価を行なった。結果を表1に示す。
【0051】
<比較例1>
表面処理をしないポリエチレン製タンク(濡れ張力27mN/m)を使用した以外は実施例1と同様の方法でタンクを作製し、接着性および燃料バリア性の評価を行なった。結果を表1に示す。
【0052】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つ以上の部材を該部材の周縁部で接合して一体化させた燃料系統部品であって、該部材の少なくとも1つが、予め成形された熱可塑性ポリマー樹脂製成形部品の少なくとも一部の表面に表面処理を施した上で燃料バリア性塗料を塗装して燃料バリア層を形成させたものであることを特徴とする燃料系統部品。
【請求項2】
前記燃料バリア層の60℃における燃料透過係数が2 (g・mm/m・day)以下である請求項1記載の燃料系統部品。
【請求項3】
前記燃料バリア層中に(1)式の骨格構造が40重量%以上含有されることを特徴とする請求項1または2記載の燃料系統部品。
【化1】

【請求項4】
前記燃料バリア性塗料が、エポキシ樹脂とエポキシ樹脂硬化剤からなるエポキシ樹脂組成物である請求項1〜3のいずれかに記載の燃料系統部品。
【請求項5】
前記エポキシ樹脂の主成分がメタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミン部位を有するエポキシ樹脂である請求項4記載の燃料系統部品。
【請求項6】
前記エポキシ樹脂硬化剤が、メタキシリレンジアミンとアクリル酸、メタクリル酸および/またはそれらの誘導体との反応生成物である請求項4または5記載の燃料系統部品。
【請求項7】
前記燃料バリア層が、燃料系統部品の内面となる、前記成形部品の表面に形成されている、請求項1〜6のいずれかに記載の燃料系統部品。
【請求項8】
前記成形部品が、熱プレス、射出成形、および真空(圧空)成形から選ばれる1種以上の成形方法で得られたものである請求項1〜7のいずれかに記載の燃料系統部品。
【請求項9】
前記熱可塑性ポリマー樹脂が、ポリエチレンである請求項1〜8のいずれかに記載の燃料系統部品。
【請求項10】
前記表面処理方法がコロナ処理、フレーム処理、プラズマ処理、およびUV処理から選ばれる1種以上の処理方法である請求項1〜9のいずれかに記載の燃料系統部品。
【請求項11】
前記燃料バリア性塗料の塗装方法が浸漬塗装、スプレー塗装、はけ塗り、およびインモールドコーティングから選ばれる1種以上である請求項1〜10のいずれかに記載の燃料系統部品。
【請求項12】
前記燃料バリア性塗料の硬化温度が150℃以下で、かつ硬化時間が1時間以内である請求項1〜11のいずれかに記載の燃料系統部品。
【請求項13】
前記燃料バリア層の表面に1種以上の保護層を形成した請求項1〜12のいずれかに記載の燃料系統部品。

【公開番号】特開2006−63196(P2006−63196A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−247871(P2004−247871)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】