説明

燃料電池の固体酸化物電解質、およびこの固体酸化物電解質を使用した燃料電池

【課題】本発明は、高蒸着速度の電子ビーム物理的蒸着による燃料電池用の固体酸化物電解質を提供し、さらにこの固体酸化物電解質を使用した燃料電池を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、高蒸着速度の電子ビーム物理的蒸着による燃料電池用の固体酸化物電解質であって、柱状酸化物微細構造を有している。前記酸化物電解質は、前記燃料電池のアノードとカソードとを気体密封するに十分に高密である。アノードと、カソードと、前記アノードと前記カソードとの間の酸化物電解質とからなる燃料電池であって、前記酸化物電解質は、複数の酸化物柱からなる微細構造を有する。前記酸化物柱は、前記アノードおよび前記カソードの対向面に対して直角の方向に延長している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ビーム物理的蒸着を使用した燃料電池用の固体酸化物電解質、およびこの固体酸化物電解質を使用した燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物燃料電池(SOFC)は、燃料(例えば水素ガス)が運ばれるアノードと、固体酸化物電解質と、酸素(例えば空気)が運ばれるカソードとからなる。典型的なアノードは、NiO−イットリア安定化ジルコニア(YSZ)混合物を含有する。典型的な電解質は、固体イットリア安定化ジルコニア(YSZ)を含有する。典型的なカソードは、ランタン−ストロンチウムマンガナイトの混合物(LSM)を含有する。高密(非多孔性)の酸化物電解質は、水素燃料アノードとカソードにおける空気中酸素とを密封するために必要であるが、これは電解質からの漏出により燃料電池の効率が低下するためである。
【0003】
固体酸化物電解質は、例えば米国特許第3645786号や英国特許第1252254号の明細書に記載される電子ビーム物理的蒸着法(EBPVD)といった様々な製造方法により、薄膜または薄層として製造されてきた。米国特許第3645786号明細書には、わずか約1ミクロン/分の蒸着速度につき記載されているとともに、1.5ミクロン/分を超える蒸着速度の場合は、機械的応力を有する電解質層が産出して電解質層が破壊されうることが示されている。
【0004】
英国特許第1252254号明細書は、固体電解質の付着形成時には10−1から10−2mmHgのガス雰囲気を必要としている。例えば、4×10−2mmHgのヘリウムガス雰囲気が、約1.5ミクロン/分の蒸着速度でのニッケル基板(下地)への施釉YSZ酸化物層の形成に用いられている。
【0005】
その他の電子ビーム物理的蒸着法により固体酸化物電解質を層として形成する特許には、下記の特許文献3〜8に記載されるものがある。
【0006】
米国特許第5741406号明細書には、蒸着速度が約4ミクロン/分にすぎない高密YSZ電解質の無線周波スパッタリングにつき記載されている。
【0007】
米国特許第5716720号明細書には、蒸着時に導入されたプロセスガス(例えば酸素)を使用するとともに、金属基板と断熱コーティング層との応力ミスマッチを吸収するに必要な内部気孔率(ポロシティー)を有する柱状コーティング微細構造を形成するよう制御したコーティングパラメータを使用した、柱状の酸化物断熱コーティング層を基板上に形成する電子ビーム物理的蒸着法につき記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第3645786号明細書
【特許文献2】英国特許第1252254号明細書
【特許文献3】米国特許第4937152号明細書
【特許文献4】米国特許第5932368号明細書
【特許文献5】米国特許第6007683号明細書
【特許文献6】米国特許第6673130号明細書
【特許文献7】米国特許第6677070号明細書
【特許文献8】米国特許出願第2004/0096572A1号明細書
【特許文献9】米国特許第5741406号明細書
【特許文献10】米国特許第5716720号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、燃料電池用の酸化物層においては、水素燃料アノードとカソードにおける空気中酸素とを密封し、電解質からの漏出により燃料電池の効率が低下することを防止するために、高密(非多孔性)の酸化物電解質が必要である。しかし、酸化物層の製造方法において、1.5ミクロン/分を超える蒸着速度を適用する場合は、機械的応力を有する電解質層が産出して、電解質層が破壊されることがある。
【0010】
本発明は、このような課題を解決し、高蒸着速度の電子ビーム物理的蒸着による燃料電池用の固体酸化物電解質を提供することを目的とし、さらにこの固体酸化物電解質を使用した燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の例示態様によると、柱状酸化物微細構造を有する酸化燃料電池電解質が提供される。
本発明の更に別の例示態様によると、アノードと、カソードと、このアノードとカソードとの間の酸化物電解質とを含有する燃料電池であって、この酸化物電解質は複数の酸化物柱からなる微細構造を有する燃料電池が提供される。この酸化物柱は、アノードおよびカソードの対向面に対して直角の方向に延伸している。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、燃料電池用の酸化物層を速い蒸着速度で高密(非多孔性)に製造することができ、機械的応力を有する電解質層の産出を回避して、電解質層が破壊されることを防止することができる。
このため、本発明は、高蒸着速度の電子ビーム物理的蒸着による燃料電池用の固体酸化物電解質を提供することができ、さらにこの固体酸化物電解質を使用した燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例を実施するための電子ビーム物理的蒸着装置の概略図である。
【図2】本発明の実施例による燃料電池の写真であり、燃料電池の横断方向の断面を撮影した顕微鏡写真である。
【図3】本発明の実施例による酸化物電解質の上面を撮影した顕微鏡写真である。
【図4】図3の酸化物電解質の横断方向断面を撮影した顕微鏡写真である。
【図5A】600℃、650℃、700℃、750℃、800℃における本発明による燃料電池試験片の端子電圧のグラフである。
【図5B】600℃、650℃、700℃、750℃、800℃における本発明による燃料電池試験片の出力密度のグラフである。
【図6A】本発明による燃料電池試験片(「EB−PVD」と示される)の端子電圧のグラフであり、コロイド状酸化物の燃料電池(「コロイド状」と示される)および米国特許第5741406号明細書に報告された燃料電池(「’406」と示される)による類似データと比較されている。
【図6B】本発明による燃料電池試験片(「EB−PVD」と示される)の出力密度のグラフであり、コロイド状酸化物の燃料電池(「コロイド状」と示される)および米国特許第5741406号明細書に報告された燃料電池(「’406」と示される)による類似データと比較されている。
【図7】銅炉床および液体セラミックのプールを示す図であって、酸化物電解質を形成するため基板を液体セラミックのプール上方に配置した部品マニピュレータも示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の利点、特徴、および実施例は、以下の明細書により明らかになる。
本発明は、蒸着速度約10ミクロン/分の電子ビーム物理的蒸着による燃料電池用の固体酸化物電解質を提供するものである。本発明は、米国特許第5716720号の装置を使用した一実施態様によって実施することができる。その特許の教示は、参照によって本明細書に記載したものとする。ただし、その他の電子ビーム物理的蒸着装置も使用できるため、本発明は、前記装置を使用した実施に限定されるものではない。
【0015】
本発明の実施態様によると、酸化物層が付着形成されることになる基板を1100℃以上まで予備加熱し、酸素、アルゴン、ヘリウム、窒素等のプロセスガスが存しない約10−3mmHg以下に排気されたコーティングチャンバ内で、好ましくは電子ビームで酸化物供給源の上面を走査することで酸化物供給源の表面を照射してチャンバ内に酸化物を蒸発させ、このチャンバ内に予熱した基板を配置して予熱基板に酸化物を付着させることに関するものである。このプロセスガスは、コーティング装置外部からコーティング装置の作業容量に意図的に導入される気体を意味する。コーティング時にコーティングチャンバ内に存する唯一のガスは、基板マニピュレータ、加熱要素、基板支持器具、コーティング装置内側表面、放射放熱器、インゴットの溶解セラミック、およびコーティングされる基板から脱気されたものである。この脱気により、コーティング時にチャンバ内の圧力が約10−3mmHg以下になる。
【0016】
本発明の実施態様は、米国特許第5716720号明細書に記載の電子ビーム物理的蒸着装置を使用して実施することができる。この特許は、引用によって本明細書に記載したものとする。図1および図7に示される装置において、蒸着されることになる酸化物の供給源は、インゴットIの形態で提供されており、これは水冷却された銅インゴット炉床の上向通路2aに送られ、電子ビームガンからの電子ビームがインゴットIの上面に向けられそこを走査して、インゴットを加熱してその上面に液体セラミックのプールPを生じさせ、この液体セラミックプールから酸化物質を蒸発させる。図7に示すように、インゴットは、その下に位置するその他のインゴット(一つが図示されている)により支持されており、この下方インゴットは、制御可能な供給ラム(インゴット押出部)4により支持されている。
【0017】
インゴットの上面は、コーティングチャンバ6に連絡した熱反射のエンクロージャE内で露出している(図1)。エンクロージャEは、電子ビームが通過してインゴットに照射するための開口部と、米国特許第6319559号明細書に記載のような可動温度制御蓋(図示せず)とを有している。この特許は、参照により本明細書に記載したものとする。蒸発した酸化物質は、予備加熱した基板S(図7)で凝縮する。この基板Sは、コーティングチャンバのエンクロージャE内で静止する部品マニピュレータ20の各保持器具10に配置されるが、コーティングされる基板Sの表面がほぼインゴットI(酸化物供給源)の上面の上方に位置してそれと対面するように配置される。必要ならばコーティングされる基板Sの数に応じて、酸化物のインゴット供給源をさらに追加して使用することもできる。部品マニピュレータ20は、図7の矢印の方向に移動可能であり、これにより、装填ロック(図示せず)において部品マニピュレータ20の保持器具10に基板Sを装填し、インゴットIの上方に基板Sを配置し、そして基板Sに酸化物電解質が形成されてから基板Sを除去することが可能となる。実験室での試験においては、金属タブ30により、基板Sを各保持器具10上に保持した。この金属タブ30は、保持器具10に120度の離間角度で溶接されており、基板SがプールPに対面する場合に基板Sと重畳することで基板Sを保持器具10に保持するものである。ただし、本発明を実施するにあたっては、実験室の状況や製造状況に応じて、その他の基板取付手段を用いることもできる。基板Sは、後に説明するよう約1100℃以上まで予備加熱チャンバで予熱される。この基板の予熱温度は、宇宙船部品に使用するため耐熱性を改善した内側柱状気孔を有する断熱コーティングを形成する米国特許第5716720号明細書に記載の予熱温度よりも高温である。
【0018】
例えば、基板Sは、部品マニピュレータ20に取り付けた各保持器具10に配置される。この部品マニピュレータ20は、最初は装填チャンバ(図示せず)に位置している。この装填チャンバのアクセスドアが閉鎖し、装填チャンバは約1×10−2mmHgまで排気される。装填チャンバは、ゲートバルブを介して予備加熱チャンバに連絡している。
【0019】
ゲートバルブが開口して、部品マニピュレータ20が予備加熱ステーションまたは予備加熱チャンバの位置へ移動可能となる。予備加熱チャンバおよびコーティングチャンバ6は、まずゲートバルブが開口する前に、1×10−4mmHgまで排気される。
【0020】
部品マニピュレータ20が予備加熱チャンバに移動する前において、予備加熱チャンバの熱源は、ヒータが約1100℃まで作動するに先立ち、約530℃のアイドル温度にある。それから、部品マニピュレータ20に乗せられた基板Sに対し、予備加熱チャンバ内の抵抗グラファイト型ヒータによって、約1100℃以上まで予備加熱が行われる。ヒータの急速ランプを使用して、約8分(ヒータ上昇の設定に応じて異なる)で基板Sを所定の予熱温度にすることもできる。それから、基板Sは、基板Sおよび保持器具10の温度が均一になる時間にわたって、予熱温度に保持される。予備加熱チャンバおよびコーティングチャンバ6は、1×10−4トル(torr)まで排気されるが、部品マニピュレータ、保持器具、ヒータ要素、コーティングチャンバ内側表面、溶解セラミックインゴット、および基板からの脱気により、圧力が約10−3mmHg以下まで上昇する。予備加熱チャンバおよびコーティングチャンバ内に存する唯一のガスは、基板マニピュレータ、加熱要素、基板支持器具、コーティング装置内側表面、放射放熱器、インゴットの溶解セラミック、およびコーティングされる基板から脱気されたものである。すなわち、コーティング時に予備加熱チャンバおよびコーティングチャンバ内の圧力が約10−3mmHg以下になるのは、この脱気が原因である。予備加熱チャンバおよびコーティングチャンバには、宇宙船部品の断熱コーティングを形成するための米国特許第5716720号の実施にあたってコーティングチャンバに意図的に導入された酸素等のプロセスガスが、何ら存していないことが重要である。このプロセスガスは、コーティング装置外部からコーティング装置の作業容量に意図的に導入される気体を意味する。
【0021】
基板Sが部品マニピュレータ20によってコーティングチャンバ6へ移動するまでの間、電子ビームガンからの電子ビームは、エンクロージャEの銅炉床2周囲に配置された例えばグラファイトやイットリア安定化ジルコニアのナゲットのような非消耗対象物(図示せず)を(例えば80kWの)ビーム出力で走査し、非消耗対象物を加熱し(溶解しない)、順にエンクロージャEおよびコーティングチャンバを放射加熱する。非消耗対象物(ナゲット)は、通常は銅炉床の上部に近づくようチャンバ壁12の銅炉床の周囲に配置されている。そのためには、非消耗対象物の走査の代わりに、抵抗器および/または放射放熱器のような補助加熱装置をコーティングチャンバ6および/またはエンクロージャEに設けることもできる。このようにして、コーティング時に基板Sが配置されるコーティングチャンバ6のエンクロージャEのコーティング領域は、例えば約1040℃を越えるまで加熱される。このコーティング領域は、通常はインゴットI上方を中心にした領域である(図7)。
【0022】
予熱した基板SがエンクロージャEの開口部からコーティング領域に部品マニピュレータ20によって運ばれる直前(例えば2秒前)に、電子ビームが適切な出力レベルで照射され、インゴットI(例示の実施例においてはイットリア安定化ジルコニアのインゴット)の上面(直径6.35cm)を走査し、インゴットの上部を熔解して液体セラミックのプールPを生じさせるとともにこのプールPから酸化物質を蒸発させる。液体セラミックのプールPの両側は、水冷却された銅炉床2に収容され、またその底部は、下方の未溶解のセラミックインゴットに収容されている。イットリア安定化ジルコニアインゴットの場合、80〜90kWの電子ビーム出力レベルを用いることができる。ただし、電子ビームの出力およびビーム走査パターンは、通常は、許容可能な溶解、供給速度、および蒸着温度を犠牲にする条件で選択される。例えば、インゴットIは、強力な走査パターンをそれに対して使用した場合は70kWで溶解できるが、温度は最も高密な微細構造を産出するに十分な高温にはならない。走査電子ビームを使用する場合、電子ビームの走査パターンおよび出力レベルを調整することで、蒸発速度の制御が可能となる。インゴットは、通常は、毎時3〜4インチ(7.62〜10.16cm)の速度で供給されるが、インゴット供給速度は、酸化物電解質層の蒸着時間に応じてどのような時間(あるいは速度0)でもよい。
【0023】
ひとたび基板Sが要望の温度まで予備加熱されるとともにプールPからの蒸発が安定すると、部品マニピュレータ20によってプールP上方のコーティングチャンバ6のエンクロージャEの中央領域であるコーティング領域に基板Sが移動する。基板Sは、上記パラメータを使用して達成できる少なくとも毎分10ミクロンの酸化物層の形成速度で要望の酸化物電解質層の厚さに形成されるに必要な時間にわたり、コーティング領域に静止させる。
【0024】
本発明は、図1の装置を変更して、酸化物電解質層でコーティングされる複合基板のマガジンにより、基板装填能力をさらに高めることも想定している。より大型の予備加熱チャンバを設け、複数の基板マガジンを同時に予熱し、また多重電子ビームガンを使用してコーティングチャンバに配置した複合インゴットから酸化物質を溶解および蒸発させ、コーティングチャンバの生産性を高めることもできる。基板マガジンは、装填ステーションからインラインコーティング装置を介して、インライン予備加熱ステーション、インラインコーティングステーション、インライン冷却ステーション、およびインライン除荷ステーションへと移動される。このようなインライン装置により、基板がコーティング装置の一端へ投入されるとともにその他端から取り出されるというように、近接連続した基板がコーティング装置を流れるようになる。
【0025】
また、本発明は、酸化物電解質のみに限定されるものではない。あらゆる酸化物、例えば以下に記載のLSMを蒸着させて高密コーティングを提供することもできる。
以下の実施例は、実例として示すものであって、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0026】
上記のコーティング装置は、NiO−YSZ混合物をスクリーン印刷および焼結して製造されたディスクからなる複合アノード基板(図7)上に、酸化物電解質層を蒸着するために用いられた。このアノードディスクのサイズは、直径0.5インチ(1.24cm)、厚さ0.030インチ(0.0762cm)であって、ディスク状の試験片となる。酸化物電解質層は、7重量%のイットリアで安定化させたジルコニア(7YSZ)からなるものであった。アノード基板は、装填チャンバの部品マニピュレータ20に取り付けたそれぞれの保持器具10に配置された。アノード基板は、エンクロージャ内のコーティング位置(下向き)でインゴットのプールP側に露出された(図7)。部品マニピュレータ20は、このコーティング位置に向かった。装填ロックアクセスドアが閉じられた。インゴットI上方で基板が保持されるコーティング位置でのコーティング時にアノード基板が静止保持されるように、部品マニピュレータ20の動作プログラムは、アノード基板がコーティングチャンバのエンクロージャのコーティング位置に移動したとき0RPMになるよう設定された。酸化物電解質が必要な基板の表面は、インゴットIに向けられている。
【0027】
装填チャンバとコーティングチャンバとの間のゲートバルブが開口し、部品マニピュレータ20が予備加熱チャンバの予備加熱ステーションに移動した。予備加熱チャンバおよびコーティングチャンバは、約1×10−4mmHg未満まで排気された。530℃でアイドル作動する予熱ヒータは、約8分で目標温度に到達するよう設定された。予熱ヒータによって、さらに6分間にわたり目標温度が維持された。これらの上昇率、設定目標温度、および維持時間は、装填量に適合するよう変更して、製造を効率化できる。予備加熱チャンバおよびコーティングチャンバは、約1×10−4トル(mmHg)に排気されるが、部品マニピュレータ、保持器具、ヒータ要素、高熱のインゴット、および基板の脱気により、その中の圧力は、約10−3mmHg以下に上昇した。この脱気は、コーティング時に予備加熱チャンバおよびコーティングチャンバ内の圧力が約10−3mmHg以下になる唯一の原因であった。予備加熱チャンバおよびコーティングチャンバには、宇宙船部品の断熱コーティングを形成するための米国特許第5716720号の実施にあたってコーティングチャンバに意図的に導入された酸素等のプロセスガスが、何ら存していなかった。
【0028】
基板が部品マニピュレータによってコーティングチャンバのエンクロージャへ移動するまでの間、電子ビームガンからの電子ビームは、コーティングチャンバのエンクロージャ内の非消耗対象物(例えば7YSZのナゲット)を(例えば85〜95kWの)ビーム出力にて長方形ラスタパターンで走査し、この非消耗対象物を加熱し、順にコーティングチャンバを放射加熱し、中央のコーティング作業領域の温度を約1035℃以上にした。予備加熱完了の約2分前、前記出力レベルで走査する電子ビームは、7YSZインゴットIの上面に向け直し、7YSZ物質の液体プールがYSZインゴットIの上面に生じるよう走査パターンを変更した。水冷却された銅炉床および未溶解のインゴットがその液体を収容しており、ここから7YSZ物質が蒸発した。インゴットは、電子ビームを受けつつ毎時3〜4インチ(7.62〜10.16cm)で上方に送られた。
【0029】
基板が要望の温度まで予熱されるとともにコーティングチャンバのエンクロージャEにおけるインゴットIからの蒸発が安定すると、部品マニピュレータ20によって、コーティングチャンバ6のエンクロージャEの中央領域であるコーティング領域に基板Sが移動した。基板は、要望の厚さの酸化物電解質層が蒸着される時間にわたって、インゴットIの約35cm上方のコーティング領域内で静止状態を維持した。例えば、厚さ10〜20ミクロン(15ミクロンの対象物)の7YSZ電解質層が約80秒でアノード基板に蒸着された。既に述べたように、コーティングチャンバ6には、酸素等のプロセスガスが除去されている。
【0030】
要望の厚さの酸化物電解質がアノード基板に付着形成されると、部品マニピュレータ20は装填チャンバに移動し、ゲートバルブが閉鎖して基板が装填チャンバで冷却された。アルゴンが装填チャンバに導入され、熱くなった基板および部品マニピュレータの冷却を促進した。基板Sが十分に冷却されると(例えば260℃未満)、装填チャンバは大気圧にされ、装填チャンバが開口した。部品マニピュレータ20から保持器具10が除去され、保持器具10からコーティングされた基板が除去された。
【0031】
図3は、上記パラメータを使用して形成された代表的な7YSZ電解質の上面の2500倍の顕微鏡写真である。図4は、図3の酸化物電解質の横方向断面図を撮影した2500倍の顕微鏡写真である。これらの図面は、7YSZ物質の比較的大型で高密パックの柱からなる酸化物電解質層の微細構造を示している。この柱の先端は、「屋根(roof−top)」の形状を有している。この酸化物柱は、アノードおよびカソードの対向両面に対して直角方向に延伸している。形成された7YSZ電解質層は、ジルコニアの正方プライム相からなる。サファイア試料(アノード基板とともにコーティングチャンバに存する)の裏面を検査すると、「黒い」鏡のような反射率が示された。同様の基板を宇宙船の断熱コーティング条件でコーティングした場合、裏面は濁った白色である。
【0032】
図2は、本発明の別の実施例により製造された燃料電池試験片の顕微鏡写真である。この顕微鏡写真は、燃料電池実験片の横方向断面図を撮影したものであり、スクリーン印刷法により7YSZ電解質層上に形成したランタン−ストロンチウムマンガナイト(LSM)のカソード層を示している。7YSZ電解質層は、上記のようにNiO−YSZアノード上に形成されており、その厚さは約75ミクロンである。顕微鏡写真は、燃料電池層を破壊して撮影された。
【0033】
図2は、電子ビーム物理的蒸着の7YSZ電解質層とアノード層との界面が一体化していることを示しており、電解質層とアノード層とが一体結合する証拠となる。アノード層、電解質層、およびカソード層を破壊した後でも、隙間や分離は存しない。7YSZ電解質層は、ガス(水素)密封するにつき十分に高密のようである。7YSZ電解質層とカソード層との間の界面は、破壊後も分離しない。カソード層を施すと、この界面の破壊後の一体性を改善することができる。
【0034】
燃料電池の試験片は、図4と同様にして製造されたものであるが、厚さが約18ミクロンの7YSZ固体酸化物電解質である。図5Aおよび図5Bは、それぞれ、600℃、650℃、700℃、750℃、800℃における本発明による燃料電池試験片の端子電圧および出力密度のグラフである。図5Bに示されるように、最高出力は、800℃で約0.70W/cmである。
【0035】
図6Aおよび図6Bは、本発明による燃料電池試験片(「EB−PVD」と示される)の端子電圧対出力密度のグラフであり、コロイド状酸化物の燃料電池(「コロイド状」と示される)および米国特許第5741406号に報告された燃料電池(「’406」と示される)による類似データと比較されている。
【0036】
燃料電池の試験片は、本発明の上記の実施例により製造されたものであり、’406特許の燃料電池試験片よりも性能が良好で、コロイド状固体酸化物燃料電池の性能より劣るものであるが、依然として成功していると考えられる。燃料電池試験片の性能は、酸化物電解質の厚さを10ミクロンまで縮小するとともに酸化物電解質の密度を増加して水素漏出を減少させたことにより達成されたのであろう。基板の予熱、より高温でのコーティング、および酸化物電解質の蒸着を遅らせることも、その目的を促進することになりうる。
【0037】
本発明は、上記の特定の実施態様や構造に限定されるものではなく、請求項に記載の本発明の範囲および精神から逸脱せずに様々な変更および改良をなしうることは理解されよう。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、酸化物電解質のみに限定されるものではなく、他の酸化物を蒸着により高密コーティングして製造する方法に適用することができる。
【符号の説明】
【0039】
2 銅床炉
2a 上向通路
4 供給ラム
6 コーティングチャンバ
10 保持器具
12 チャンバ壁
20 部品マニピュレータ
30 金属タブ
E エンクロージャ
I インゴット
P プール
S 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱状酸化物微細構造を有する燃料電池の酸化物電解質。
【請求項2】
前記燃料電池のアノードとカソードとを気体密封するに十分に高密な請求項1に記載の酸化物電解質。
【請求項3】
アノードと、カソードと、前記アノードと前記カソードとの間の酸化物電解質とからなる燃料電池であって、前記酸化物電解質は、複数の酸化物柱からなる微細構造を有することを特徴とする燃料電池。
【請求項4】
前記酸化物柱は、前記アノードおよび前記カソードの対向面に対して直角の方向に延長していることを特徴とする請求項3に記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−8686(P2013−8686A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−182234(P2012−182234)
【出願日】平成24年8月21日(2012.8.21)
【分割の表示】特願2008−505420(P2008−505420)の分割
【原出願日】平成18年4月3日(2006.4.3)
【出願人】(507328210)ホーメット コーポレーション (9)
【Fターム(参考)】