説明

燃料電池システム、圧力センサの誤差検出方法および圧力センサの補正方法

【課題】 コストを抑制しつつ、圧力センサの誤差を適切に把握することができる燃料電池システム、圧力センサの誤差検出方法および圧力センサの補正方法を提供する。
【解決手段】 燃料電池システムは、燃料電池の発電電流を検出する電流センサと、前記燃料電池に水素を含有する燃料ガスを供給する配管に配置された圧力センサと、前記圧力センサの所定時間前後の出力差分と前記発電電流とに基づいて、前記圧力センサの検出誤差を検出する検出手段と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システム、圧力センサの誤差検出方法および圧力センサの補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、一般的には水素および酸素を燃料として電気エネルギを得る装置である。この燃料電池は、環境面において優れており、また高いエネルギ効率を実現できることから、今後のエネルギ供給システムとして広く開発が進められてきている。
【0003】
このような燃料電池システムにおいては、水素タンク等の燃料ガス供給源からの燃料ガスの供給圧力を適切に制御できることが要求されている。例えば、特許文献1は、インジェクタの目標噴射量から求めた推定圧力とガス供給系における検出圧力との偏差に基づいて、インジェクタにおける目標噴射量を補正する燃料電池システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−165237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術では、圧力センサの誤差発生対策がなされていない。また、圧力センサの誤差発生対策を行おうとすると、コストが大幅に増加するおそれがある。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、コストを抑制しつつ、圧力センサの誤差を適切に把握することができる燃料電池システム、圧力センサの誤差検出方法および圧力センサの補正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る燃料電池システムは、燃料電池の発電電流を検出する電流センサと、前記燃料電池に水素を含有する燃料ガスを供給する配管に配置された圧力センサと、前記圧力センサの所定時間前後の出力差分と前記発電電流とに基づいて、前記圧力センサの検出誤差を検出する検出手段と、を備えることを特徴とする。本発明に係る燃料電池システムによれば、コストを抑制しつつ、圧力センサの誤差を適切に把握することができる。
【0008】
前記検出手段は、前記発電電流と前記出力差分との間の予め得られた相関関係に基づいて、前記圧力センサの検出誤差を検出してもよい。前記検出手段は、前記電流センサが検出する発電電流の積分値と、前記圧力センサの所定時間前後の出力差分の積分値と、に基づいて、前記圧力センサの検出誤差を検出してもよい。前記検出手段は、前記圧力センサが配置されている配管内の水素分圧が前記燃料電池の発電時よりも低い状態で、参照値を用いて前記圧力センサの誤差を検出してもよい。
【0009】
前記検出手段は、前記圧力センサが配置されている配管内が大気圧になった状態で、大気圧を参照値として用いることによって前記圧力センサの誤差を検出してもよい。前記圧力センサとして、第1圧力センサおよび第2圧力センサが設けられ、前記第1圧力センサは、前記燃料ガスが前記燃料電池に供給される配管の高圧領域に配置され、前記第2圧力センサは、前記配管の低圧領域に配置され、前記検出手段は、前記第1圧力センサが配置されている配管内の水素分圧が前記燃流電池の発電時よりも低い状態で、前記第2圧力センサの出力値を参照値として用いることによって前記第1圧力センサの誤差を検出してもよい。
【0010】
本発明に係る圧力センサの誤差検出方法は、燃料電池の発電電流と、前記燃料電池に水素を含有する燃料ガスを供給する配管に配置された圧力センサの所定時間前後の出力差分とに基づいて、前記圧力センサの検出誤差を検出することを特徴とする。本発明に係る圧力センサの誤差検出方法によれば、コストを抑制しつつ、圧力センサの誤差を適切に把握することができる。また本発明に係る圧力センサの補正方法は、上記圧力センサの誤差検出方法によって検出された圧力センサの検出誤差に基づいて圧力センサを補正することを特徴とする。この方法によれば、コストを抑制しつつ、圧力センサの誤差を適切に把握して圧力センサを補正することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る燃料電池システム、圧力センサの誤差補正方法および圧力センサの補正方法によれば、コストを抑制しつつ、圧力センサの誤差を適切に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1実施形態に係る燃料電池システムの全体構成を示すブロック図である。
【図2】圧力センサの詳細を説明するための断面図である。
【図3】発電電流と圧力センサの出力との関係を示す図である。
【図4】発電電流の積分値と圧力センサの出力差分の積分値との関係を表す図である。
【図5】フローチャートの一例である。
【図6】フローチャートの一例である。
【図7】フローチャートの一例である。
【図8】圧力センサのオフセットを説明するための図である。
【図9】第2実施形態に係る燃料電池システムの全体構成を示すブロック図である。
【図10】フローチャートの一例である。
【図11】フローチャートの一例である。
【図12】図10および図11のフローチャートで実行されるロジックの動作概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0014】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る燃料電池システム100の全体構成を示すブロック図である。図1に示すように、燃料電池システム100は、燃料ガス供給源10、主止弁21、減圧弁22、流量調整弁23、高圧センサ31、中圧センサ32、低圧センサ33、電流センサ34、警告灯35、燃料電池スタック40、循環ポンプ51、パージ制御弁52、カソードポンプ60、制御部70などを備える。
【0015】
燃料ガス供給源10は、水素を含有する高圧の燃料ガスを供給するための装置であり、一例として高圧水素タンクである。主止弁21は、燃料ガス供給源10から燃料電池スタック40へと連通する燃料ガス供給配管の開閉を行う電磁式開閉弁であり、制御部70からの指示に従って当該開閉を行う。減圧弁22は、燃料ガス供給源10から供給される燃料ガスの圧力を低い圧力に調整するための弁であり、制御部70からの指示に従って燃料ガスの圧力を所定圧に調整する。流量調整弁23は、燃料電池スタック40の燃料ガス入口に供給される燃料ガス流量を調整する弁であり、制御部70からの指示に従って燃料ガス流量を調整する。燃料電池システム100の各弁の配置箇所によれば、燃料電池スタック40の通常発電時において、主止弁21と減圧弁22との間の燃料ガス圧力が高圧となり、減圧弁22と流量調整弁23との間の燃料ガス圧力が中圧となり、流量調整弁23と燃料電池スタック40との間の燃料ガス圧力が低圧となる。
【0016】
高圧センサ31は、主止弁21から減圧弁22までの燃料ガスの圧力を検出する圧力センサであり、検出結果を制御部70に送る。中圧センサ32は、減圧弁22から流量調整弁23までの燃料ガスの圧力を検出する圧力センサであり、検出結果を制御部70に送る。低圧センサ33は、流量調整弁23から燃料電池スタック40の燃料ガス入口に供給される燃料ガスの圧力を検出する圧力センサであり、検出結果を制御部70に送る。電流センサ34は、燃料電池スタック40の発電電流を検出する電流計であり、検出結果を制御部70に送る。警告灯35は、制御部70の指示に従って点灯する。
【0017】
燃料電池スタック40は、電解質膜がアノードとカソードとに挟持された構成を有するセルが複数積層された構成を有する。燃料電池の種類は特に限定されるものではないが、本実施形態においては、一例として固体高分子形燃料電池を用いる。燃料電池スタック40の燃料ガス出口から排出される燃料ガスは、燃料ガス循環系(循環配管)に設けられた循環ポンプ51によって燃料ガス入口に送られる。それにより、燃料ガスは燃料電池スタック40のアノードを経由するように循環する。パージ制御弁52は、燃料ガス循環系のガスをパージするための弁であり、制御部70の指示に従って燃料ガス循環系の大気に通じる配管の開閉を行う。カソードポンプ60は、酸素を含有する酸化剤ガスを燃料電池スタック40のカソードに供給するためのポンプであり、制御部70の指示に従って、酸化剤ガスの供給量を制御する。
【0018】
制御部70は、CPU(中央演算処理装置)、ROM(リードオンリメモリ)、RAM(ランダムアクセスメモリ)等から構成される。制御部70は、高圧センサ31、中圧センサ32、低圧センサ33および電流センサ34の検出結果に応じて、燃料電池システム100の各部を制御する。
【0019】
図2は、高圧センサ31、中圧センサ32および低圧センサ33の詳細を説明するための断面図である。これらの圧力センサは、金属ステム110、ハウジング120、ネジ部材130、コネクタターミナル140、コネクタケース170などから構成される。図2においては、コネクタケース170が上方に、ハウジング120が下方に位置しているが、圧力センサの使用時には、特に方向性はない。以下では、コネクタケース170側を圧力センサの上側、ハウジング120側を圧力センサの下側として説明する。
【0020】
圧力センサのハウジング120は、配管に直接的に取り付けられる略円筒状の部材であり、その下方の外周には、配管への取り付けに用いられるネジ部121が形成されている。ハウジング120の内部は、上方から下方にかけて、3段階に内径が細くなる構造を有している。以下では、最も内径の大きい部分を、回路収納部122といい、2番目に内径の大きい中間部分を、ステム収納部123という。また、最も内径の小さい下方部分を、気体導入流路124という。ステム収納部123の内面には、ネジ部材130を取り付けるためのネジ山125が形成されている。ハウジング120は、例えば、耐食性と高強度を合わせもつ炭素鋼(例えばS15C等)に耐食性を上げる亜鉛メッキを施したものや、耐食性を有するXM7、SUS430、SUS304、SUS630により形成することができる。
【0021】
ネジ部材130は、金属ステム110の外周を覆う略円筒状の部材である。ネジ部材130は、例えば、炭素鋼によって形成されている。ネジ部材130の下方の外周には、前述したステム収納部123への取り付けに用いられるネジ山131が形成されている。金属ステム110は、そのフランジ部113がネジ部材130の下面とステム収納部123の底面との間に狭持されることで、ハウジング120内に固定される。こうして、金属ステム110がハウジング120内に固定されると、金属ステム110の穴部111が、ハウジング120内の気体導入流路124と連通する。
【0022】
ネジ部材130の上部は、椀状に形成されている。この椀状部分の底面には、セラミック基板150が接着されている。このセラミック基板150は、金属ステム110の上面に接着されたセンサ基板114とボンディングワイヤ151とによって電気的に接続されている。セラミック基板150には、センサ基板114から入力される信号に対して所定の信号処理を加えるためのICチップ152が実装されている。また、セラミック基板150には、ICチップ152と導通するピン153が立設されている。
【0023】
コネクタターミナル160は、金属端子162を樹脂にインサート成形して構成された部材である。このコネクタターミナル160は、ネジ部材130の椀状部分の上部に嵌め込まれる。金属端子162は、レーザ溶接等によって、セラミック基板150上に設けられたピン153に接合されている。なお、金属端子162は、図2では1本だけ示しているが、センサ基板114やセラミック基板150への電源供給に用いられる端子や、信号出力に用いられる端子、接地のために用いられる端子など、複数本が設けられている。
【0024】
コネクタケース170は、金属端子162の周囲を囲む部材である。コネクタケース170は、Oリング180を介してハウジング120の上端の開口部に挿入される。このとき、ハウジング120の上端が内側にかしめられ、コネクタケース170は、ハウジング120の上部に一体的に固定される。
【0025】
以上のように構成された圧力センサでは、ハウジング120に設けられた気体導入流路124を通じて、金属ステム110の穴部111に、燃料ガスが導入される。それにより、燃料ガスの圧力によってダイアフラム(隔壁)112が変形する。ダイアフラム112が変形すると、その上面に接着されたセンサ基板114に実装されている歪みゲージ116も変形する。それにより、歪みゲージ116からは、変形度合いに応じた電気信号が出力され、センサ基板114、セラミック基板150、および、金属端子162を通じて、電気信号が制御部70に送られる。制御部70は、圧力センサから送られてくる電気信号に応じて、燃料ガスの圧力を検出する。
【0026】
しかしながら、水素分子は、非常に小さいため、わずかの物理的空隙に対しても浸透する。この浸透速度は、水素分圧が大きいほど大きくなる。そこで、圧力センサには、水素脆化を引き起こさず、緻密な欠陥がない表面構成が容易であることが要求されている。また、検出圧力感度および応答性の観点から、圧力センサのダイアフラム112は、極力薄いことが要求されている。これらの特性を得るために、金メッキ技術を用いることが考えられるが、コストの大幅増をもたらすことになる。
【0027】
そこで、本実施形態においては、一般的な圧力センサを用いつつ、燃料電池スタック40の発電電流と、圧力センサの所定時間前後の出力差分とに基づいて、圧力センサの経時変化を検出する。それにより、コストを抑制しつつ、圧力センサの誤差を適切に把握する。以下、当該技術について説明する。
【0028】
上述したように、本実施形態で用いる圧力センサは、ピエゾ方式を採用している。この場合、水素は、ダイアフラム112によって流出が抑制されている。実験解析結果によると、ダイアフラム112近傍の水素に起因して、圧力センサの出力が変化している。この変化は、水素圧が大きいほど顕著になる。また、この変化は、数分といった短時間で急激に収束する現象ではなく、数百時間オーダのきわめて緩慢な現象である。
【0029】
燃料電池スタック40の発電電流は、基本的に、ファラディ定数と消費水素流量とにより一義的に定まる。したがって、発電電流は、圧力センサを通過する水素の流量と等価とみなすことができる。なお、実装置においては、圧力センサのアノード極からカソード極へ隔壁膜を経由して透過する水素が存在するが、本実施形態における圧力センサの検出精度からすると、無視可能な程度である。
【0030】
ここで、流体の入口圧力と出口圧力との比が、比熱比で決定される「臨界圧力比」を境として、流体の速度は一定速度(音速)になることが知られている。具体的には、水素比熱比=1.4とした場合、臨界圧力比(出口圧/入口圧)≒0.53となる。このことは、水素出口圧を1MPaと仮定した場合、水素タンク圧≒2MPaまで出口速度が音速になることを意味している。したがって、例えば水素タンクを70MPaで充填した場合、水素タンクの燃料を消費しきるまでの大部分の間、一定速度で水素が流れることになる。したがって、高い精度で圧力センサの誤差を把握するための充分な時間を確保できる。また、連続の式から、流量=流体密度×流出面積×流体速度の関係が得られる。なお、流出面積および流体速度は一定である。流体密度は、流体圧力の関数である。したがって、前提としている条件域での一定時間内の圧力変化は、流量変化の関数として扱うことができる。以上のことから、水素消費流量と等価な発電電流FCiと、圧力センサの所定時間前後の出力差分dPhとの間には、一定の関係が存在する。この関係を予め取得しておくことによって、発電電流FCiに応じて、圧力センサの誤差を検出し、出力を補正することができる。
【0031】
例えば、発電電流FCiと初期の(正常時の)圧力センサの出力差分dPhとの間の関係を基準値として取得しておいてもよい。この場合、発電電流FCiと出力差分dPhとの関係が基準値から乖離した場合に、当該乖離度に応じて圧力センサの誤差を検出し、出力を補正することができる。圧力センサの出力差分dPhを検出する際の時間間隔は、特に限定されるものではないが、本実施形態においては1秒程度である。
【0032】
なお、燃料ガスの圧力は、発電電流FCiと無関係に変動することがある。この場合、発電電流FCiと出力差分dPhとの関係に応じて圧力センサの誤差を検出することが困難な場合が生じる。例えば、固体高分子形燃料電池においては、発電に伴って生成する水が燃料電池スタック40内の燃料ガス流路に滞留する場合がある。この滞留がある限度を超えると、燃料電池スタック40の発電が阻害されるだけではなく、燃料電池スタック40の損傷の原因となる。そこで、適宜、ある制御指標に基づいて「パージ制御」と称する排水操作が行われる。この際、燃料電池スタック40の発電電流FCiに関わらず、圧力センサに出力差分dPhが生じてしまう。また、水素タンクから供給される水素量を適正値に制御するために制御弁が設けられているが、この制御弁として、コスト上の理由からオン/オフ弁が多用される。この弁が動作する結果、発電電流FCiとは無関係に出力差分dPhが生じる原因となる。
【0033】
図3は、発電電流FCiと圧力センサの出力との関係を示す図である。図3において、横軸は経過時間を示し、縦軸は発電電流FCiおよび圧力センサの出力を示す。図3に示すように、圧力センサの出力差分dPhが発電電流FCiと無関係に変動する場合がある。このような出力差分dPhを、適当な制御則を以って採取対象から除外することも可能であるが、煩雑な制御を頻繁に実行する必要が生じる。この場合、CPU資源を大量に消費することとなる。そこで、出力差分dPhが急激には劣化方向に移行しないことに着目し、発電電流FCiの積分値および出力差分dPhの積分値を用いることによって、急激な圧力変化の影響を抑制することができる。例えば、発電電流FCiの積分値で50000A相当時間経過ごとに、発電電流FCiと圧力センサの出力差分との関係を検出することによって、圧力センサの誤差の検出精度を向上させることができる。
【0034】
図4は、発電電流FCiの積分値と出力差分dPhの積分値との関係を表す図である。図4において、横軸は発電電流FCiの積分値を示し、縦軸は圧力センサの出力差分dPhの積分値を示す。図4に示すように、発電電流FCiの積分値と出力差分dPhの積分値との間には、精度の高い一定の相関関係(線形関係)が得られる。したがって、発電電流FCiの積分値および出力差分dPhの積分値を用いることによって、圧力センサの誤差の検出精度を向上させることができる。
【0035】
以下、発電電流FCiの積分値および出力差分dPhの積分値を用いた具体的な処理について説明する。図5は、発電電流FCiの積分値を得る際に実行されるフローチャートの一例である。図5のフローチャートは、周期的(例えば1秒ごと)に実行される。図5に示すように、制御部70は、電流センサ34から、燃料電池スタック40の発電電流FCiを受け取る(ステップS1)。次に、制御部70は、フラグFLGが「1」であるか否かを判定する(ステップS2)。フラグFLGは、圧力センサの補正制御が実行中であるか否かを識別するためのフラグである。本実施形態においては、補正制御の実行中はフラグFLG=1であり、補正制御の待機中はフラグFLG=0である。
【0036】
ステップS2において「No」と判定された場合、制御部70は、ステップS1で検出した発電電流FCiを発電電流積分値ΣFCiに足し合わせることによって得られた値を新たな発電電流積分値ΣFCiとして更新する(ステップS3)。ステップS2において「Yes」と判定された場合、制御部70は、発電電流積分値ΣFCiをゼロにリセットする(ステップS4)。ステップS3またはステップS4の実行後、図5のフローチャートは終了する。
【0037】
図6は、出力差分dPhの積分値を得る際に実行されるフローチャートの一例である。図6のフローチャートは、周期的に(例えば1秒ごと)に実行される。図6に示すように、制御部70は、高圧センサ31から、計測値Phを受け取る(ステップS11)。次に、制御部70は、計測値Phを補正し、当該補正値Ph[n]を記憶する(ステップS12)。なお、補正値Ph[n]は、計測値Phと補正係数KPhとを掛け合わせることによって得られる。補正係数KPhの算出方法については図7のフローチャートで説明する。また、「n」は、今回のフローチャート実行時のことを意味し、前回のフローチャート実行時は「n−1」で表される。
【0038】
次に、制御部70は、今回の補正値Ph[n]から前回の補正値Ph[n−1]を差し引くことによって、高圧センサ31の出力差分dPhを算出する(ステップS13)。次に、制御部70は、フラグFLGが「1」であるか否かを判定する(ステップS14)。ステップS14において「No」と判定された場合、制御部70は、ステップS13で算出した出力差分dPhを出力差分dPhの積分値ΣdPhに足し合わせることによって得られた値を新たな積分値ΣdPhとして更新する(ステップS15)。ステップS14において「Yes」と判定された場合、制御部70は、積分値ΣdPhをゼロにリセットする(ステップS26)。ステップS15またはステップS16の実行後、図6のフローチャートは終了する。
【0039】
図7は、積分値ΣFCiおよび積分値ΣdPhを用いて補正係数KPhを算出する際に実行されるフローチャートの一例である。図7のフローチャートは、周期的に(例えば1分ごと)に実行される。図7に示すように、制御部70は、積分値ΣFCiが判定値ΣFCi_ref以上であるか否かを判定する(ステップS21)。判定値ΣFCi_refは、補正制御の実行の可否を判定するための値であり、例えば50000程度である。
【0040】
ステップS21で「Yes」と判定された場合、制御部70は、フラグFLGに「1」を代入する(ステップS22)。次に、制御部70は、積分値ΣdPhの絶対値が判定値ΣdPh_ref以上であるか否かを判定する(ステップS23)。判定値ΣdPh_refは、補正要否の可否を判定するための値であり、例えば予め取得しておいた基準値に対する3%増に対応する値である。次に、制御部70は、積分値ΣdPhが判定値ΣdPh_ref以上であるか否かを判定する(ステップS24)。
【0041】
ステップS24において「Yes」と判定された場合、制御部70は、補正係数KPhから補正幅dKPhを差し引くことによって得られる値を補正係数KPhとして更新する(ステップS25)。ステップS24において「No」と判定された場合、制御部70は、補正係数KPhに補正幅dKPhを足し合わせることによって得られる値を補正係数KPhとして更新する(ステップS26)。なお、補正幅dKPhは、補正係数KPhを徐々に増減させるための値であり、例えば、0.2%×(ΣdPh_ref/1.03)である。
【0042】
ステップS25の実行後またはステップS26の実行後、制御部70は、補正係数KPhの絶対値が異常判定値KPh_ref以下であるか否かを判定する(ステップS27)。異常判定値KPh_refは、補正係数の大幅な増減を抑制するために設定された判定値であり、例えば20%程度に対応する値である。ステップS27において「Yes」と判定された場合、制御部70は、フラグFLGに「0」を代入する(ステップS28)。ステップS27において「No」と判定された場合、制御部70は、警告灯35に点灯を指示する(ステップS29)。ステップS28の実行後またはステップS29の実行後、フローチャートの実行が終了する。なお、ステップS21またはステップS23において「No」と判定された場合、他のステップが実行されることなくフローチャートの実行が終了する。
【0043】
図5〜図7のフローチャートによれば、発電電流FCiの積分値および圧力センサの出力差分dPhに基づいて、圧力センサの誤差を検出し、出力を補正することができる。なお、図5〜図7のフローチャートでは、高圧センサ31を対象にしたが、他の圧力センサにも適用することができる。
【0044】
本実施形態によれば、発電電流FCiおよび圧力センサの出力差分dPhに基づいて、圧力センサの誤差を検出することができる。本実施形態は、一般的な圧力センサに適用することができるため、水素対策がなされた高額な圧力センサを用いなくてもよい。それにより、コストを抑制することができる。
【0045】
なお、圧力センサの出力には、オフセットが生じるおそれがある。図8は、圧力センサのオフセットを説明するための図である。図8においては、積分値を用いている。図8に示すように、発電電流FCiと圧力センサの出力差分dPhとの間に、一定の相関関係が維持されながらも、オフセットが生じることがある。このオフセットは、発電電流FCiと出力差分dPhとの関係を得るだけでは、検出困難である。
【0046】
そこで、燃料ガス供給源10から燃料電池スタック40に燃料ガスが供給される通常発電時よりも低い水素分圧(例えば1.5atmよりも低い圧力)の条件下において、大気圧を参照することによって、各圧力センサの出力を補正してもよい。例えば、主止弁21を「閉」にし、減圧弁22、流量調整弁23およびパージ制御弁52を「開」にすると、系の容積で決まる所定時間後に、主止弁21よりも下流側の燃料ガス流路がパージされる。この場合、高圧センサ31、中圧センサ32および低圧センサ33の検出圧力は、大気圧となるはずである。そこで、高圧センサ31、中圧センサ32および低圧センサ33の検出圧力が大気圧からずれている場合には、当該ずれ量がオフセットであると検出することができる。このずれ量を相殺するように各圧力センサの出力を補正することによって、オフセットを補正することができる。
【0047】
ただし、大気圧は、燃料電池スタック40の設置場所の温度、日々の天候などに左右されるため、必ずしも適正にオフセットを補正できない場合が生じ得る。そこで、水素の影響が抑制された低圧センサ33の出力を参照することによって、高圧センサ31および中圧センサ32の出力を補正してもよい。
【0048】
(第2実施形態)
第1実施形態においては、オフセットを補正する例について述べたが、燃料ガス流路のパージの際にのみオフセットを補正した場合、補正機会が限定されることになる。この場合、充分な補正ができない可能性もある。そこで、本実施形態においては、燃料ガス流路のパージ以外の場合においてもオフセットを補正できる構成について説明する。具体的には、本実施形態においては、高圧センサ31が計測対象とする流路の燃料ガス圧力を、中圧センサ32または低圧センサ33を用いて適宜計測することによって、高圧センサ313の出力を補正する。
【0049】
図9は、第2実施形態に係る燃料電池システム100aの全体構成を示すブロック図である。図9に示すように、燃料電池システム100aが図1の燃料電池システム100と異なる点は、減圧弁22と並列に切替弁24が設けられ、高圧センサ31が切替弁24に接続されている点である。
【0050】
切替弁24は、経路切替弁であり、主止弁21と減圧弁22との間の配管と高圧センサ31とを接続する第1経路と、減圧弁22と中圧センサ32との間の配管と高圧センサ31とを接続する第2経路と、を切り替える。第1経路が開通すると、高圧センサ31は、主止弁21と減圧弁22との間の燃料ガスの圧力を検出する。第2経路が開通すると、高圧センサ31は、減圧弁22によって減圧された燃料ガスの圧力を検出する。すなわち、第2経路が開通すると、高圧センサ31は、中圧センサ32と同じ圧力を検出することになる。この構成においては、高圧センサ31が計測対象とする流路の燃料ガス圧力を、中圧センサ32を用いて計測することによって、高圧センサ31の出力のオフセットを補正することができる。
【0051】
以下、中圧センサ32の出力を用いた高圧センサ31のオフセット補正の具体的な処理について説明する。図10は、オフセット補正を実行するか否かを判定する際に実行されるフローチャートの一例である。図10のフローチャートは、周期的(例えば1分ごと)に実行される。図10に示すように、制御部70は、フラグFLG_ofsが「1」であるか否かを判定する(ステップS31)。フラグFLG_ofsは、オフセット補正の実行を許可するか否かを識別するためのフラグである。本実施形態においては、オフセット補正の実行が許可される場合にはフラグFLG_ofs=1であり、オフセット補正の実行が禁止される場合にはフラグFLG_ofs=0である。
【0052】
ステップS31において「Yes」と判定された場合、制御部70は、オフセット補正の判定圧力の基本値Pref_baseからヒステリシスhisを差し引くことによって得られる値をオフセット補正の判定圧力Prefに設定する(ステップS32)。基本値Pref_baseは、中圧センサ32の計測可能最大圧力近傍の値であり、一例として8MPaである。ヒステリシスhisは、フラグFLG_ofsのチャタリングを防止するためのヒステリシスであり、一例として1MPaである。ステップS31において「No」と判定された場合、制御部70は、基本値Pref_baseを判定圧力Prefに設定する(ステップS33)。
【0053】
ステップS32の実行後またはステップS33の実行後、制御部70は、移動平均値Ph_sが判定圧力Pref未満であるか否かを判定する(ステップS34)。移動平均値Ph_sは、高圧センサ31の出力に基づく圧力の移動平均値であり、例えば、Ph_s=(15/16)×Ph_s+(1/16)×Ph_s_nで表される。なお、Ph_s_nは、高圧センサ31の最新の検出圧力値である。
【0054】
ステップS34において「Yes」と判定された場合、制御部70は、フラグFLG_ofsに「1」を代入する(ステップS35)。ステップS34において「No」と判定された場合、制御部70は、フラグFLG_ofsに「0」を代入する(ステップS36)。ステップS35の実行後またはステップS36の実行後、フローチャートの実行が終了する。
【0055】
図11は、オフセット補正が許可されてオフセット補正がなされる際に実行されるフローチャートの一例である。図11のフローチャートは、周期的(例えば1秒ごと)に実行される。図11に示すように、制御部70は、フラグFLG_ofsが「1」であるか否かを判定する(ステップS41)。ステップS41において「Yes」と判定された場合、制御部70は、計測経路を切り替える(ステップS42)。具体的には、制御部70は、切替弁24の開通経路が第1経路から第2経路に切り替わるように、切替弁24を制御する。
【0056】
次に、制御部70は、移動平均値Ph_sから移動平均値Pl_sを差し引いた値が判定圧力差Pofs_ref以上であるか否かを判定する(ステップS43)。移動平均値Pl_sは、基準センサ出力に基づく圧力の移動平均値である。本実施形態においては、基準センサとして中圧センサ32を用いることができる。また、移動平均値Pl_sは、一例として、(15/16)×Pl_s+(1/16)×Pl_s_nとして表すことができる。Pl_s_nは、中圧センサ32の最新の検出圧力値である。また、判定圧力差Pofs_refは、補正要否を判定するための圧力差であり、一例として0.2MPaである。すなわち、判定圧力差Pofs_refは、高圧センサ31の検出圧力値と中圧センサ32の検出圧力値との間に所定の差が生じていることを確認するためのしきい値である。
【0057】
ステップS43において「Yes」と判定された場合、制御部70は、補正値Pofsを下記式(1)に従って算出する(ステップS44)。
Pofs=Pofs+(Ph_s−Pl_s)/k (1)
ここで、補正値Pofsは、高圧センサ31の出力を補正した値である。「k」は、補正ゲインであり、センサ重畳ノイズなどに起因する誤補正防止のために設定されている。「k」は、一例として100である。ステップS44の実行後、またはステップS43において「No」と判定された後、制御部70は、計測経路を元に戻す(ステップS45)。具体的には、制御部70は、切替弁24の開通経路が第2経路から第1経路に切り替わるように、切替弁24を制御する。その後、フローチャートの実行が終了する。
【0058】
図12は、図10および図11のフローチャートで実行されるロジックの動作概念図である。図12において、横軸は経過時間を示し、上側のグラフの縦軸は圧力を示し、下側のグラフの縦軸は補正値を示す。上側のグラフにおいては、高圧センサ31の検出圧力値、中圧センサ32の検出圧力値、および判定圧力Prefが描かれている。下側のグラフにおいては、瞬時補正値および最終補正値が描かれている。瞬時補正値とは、上記式(1)の(Ph_s−Pl_s)/kである。最終補正値とは、瞬時補正値を積分して得られる(上記式(1)によって得られる)補正値Pofsのことである。
【0059】
図12に示すように、中圧センサ32の計測可能最大圧力を超えない所定の範囲において、オフセット補正が許可される(ステップS34およびステップS35が対応する)。オフセット補正が許可されると、高圧センサ31の検出圧力値と中圧センサ32の検出圧力値との差が所定値を超えた場合に、瞬時補正値が得られ、超えていない場合には瞬時補正値はゼロとなる(ステップS43およびステップS44が対応する)。高圧センサ31の検出圧力値と中圧センサ32の検出圧力値との差が所定値を超えた場合には、瞬時補正値が積分され、最終補正値が得られる(ステップS44が対応する)。
【0060】
本実施形態によれば、中圧センサ32の検出圧力値を用いて高圧センサ31のオフセットを補正することができる。また、高圧センサ31のオフセット補正の機会がパージ制御実行時に限定されないため、オフセット補正の機会が増大する。なお、燃料電池システム100aにおいては、切替弁24の作動により、一瞬、高圧側(燃料ガス供給源10側)の圧力が減圧側に作用し、減圧制御性が損なわれるが、高圧センサ31および中圧センサ32の重複する計測範囲の関係上、双方の圧力差が小さい領域でのみの補正となる。したがって、制御上の支障は無視することができる。
【0061】
図10および図11のフローチャートにおいては、中圧センサ32の出力値を用いて高圧センサ31のオフセットを補正したが、それに限られない。例えば、低圧センサ33の出力値を用いて高圧センサ31のオフセットを補正してもよく、または、低圧センサ33の出力値を用いて中圧センサ32のオフセットを補正してもよい。
【符号の説明】
【0062】
10 燃料ガス供給源
21 主止弁
22 減圧弁
23 流量調整弁
24 切替弁
31 高圧センサ
32 中圧センサ
33 低圧センサ
34 電流センサ
35 警告灯
40 燃料電池スタック
51 循環ポンプ
52 パージ制御弁
60 カソードポンプ
70 制御部
100 燃料電池システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池の発電電流を検出する電流センサと、
前記燃料電池に水素を含有する燃料ガスを供給する配管に配置された圧力センサと、
前記圧力センサの所定時間前後の出力差分と前記発電電流とに基づいて、前記圧力センサの検出誤差を検出する検出手段と、を備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記検出手段は、前記発電電流と前記出力差分との間の予め得られた相関関係に基づいて、前記圧力センサの検出誤差を検出することを特徴とする請求項1記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記検出手段は、前記電流センサが検出する発電電流の積分値と、前記圧力センサの所定時間前後の出力差分の積分値と、に基づいて、前記圧力センサの検出誤差を検出することを特徴とする請求項1または2記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記検出手段は、前記圧力センサが配置されている配管内の水素分圧が前記燃料電池の発電時よりも低い状態で、参照値を用いて前記圧力センサの誤差を検出することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記検出手段は、前記圧力センサが配置されている配管内が大気圧になった状態で、大気圧を参照値として用いることによって前記圧力センサの誤差を検出することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記圧力センサとして、第1圧力センサおよび第2圧力センサが設けられ、
前記第1圧力センサは、前記燃料ガスが前記燃料電池に供給される配管の高圧領域に配置され、前記第2圧力センサは、前記配管の低圧領域に配置され、
前記検出手段は、前記第1圧力センサが配置されている配管内の水素分圧が前記燃流電池の発電時よりも低い状態で、前記第2圧力センサの出力値を参照値として用いることによって前記第1圧力センサの誤差を検出することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項7】
燃料電池の発電電流と、前記燃料電池に水素を含有する燃料ガスを供給する配管に配置された圧力センサの所定時間前後の出力差分とに基づいて、前記圧力センサの検出誤差を検出することを特徴とする圧力センサの誤差検出方法。
【請求項8】
請求項7記載の圧力センサの誤差検出方法によって検出された圧力センサの検出誤差に基づいて前記圧力センサを補正することを特徴とする圧力センサの補正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−93141(P2013−93141A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233301(P2011−233301)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】