説明

燃料電池システム

【課題】燃料電池の耐久性を向上させつつ、負荷要求に追従して燃料電池を発電させる燃料電池システムを提供する。
【解決手段】燃料電池スタック10と、エアポンプ31と、第1コンバータ55と、モータ51と、要求電力に基づいて算出される単セルの目標電圧と切替電圧とに基づいてエアポンプ31及び第1コンバータ55を制御するECU80と、を備え、ECU80は、目標電圧が切替電圧以下である場合、単セルの実電圧が目標電圧に追従するように第1コンバータ55を制御する第1モードを実行し、目標電圧が切替電圧以下でない場合、単セルの実電圧が切替電圧で維持されるように第1コンバータ55を制御すると共に、エアポンプ31を制御して空気の供給量を変化することによって単セルのIV特性を変化することで、単セルの実電流を変化させ、燃料電池スタック10の出力する実際電力を要求電力に追従させる第2モードを実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料電池車等に利用される燃料電池スタックの耐久性を向上させる一方法として、酸化還元電位を回避して燃料電池スタックを発電させる技術が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−5038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1では、酸化還元電位を回避し続けるために、走行モータ等の負荷が要求する電力に対して、燃料電池スタックの出力する電力を大きくする又は小さくする必要があり、その場合、余剰電力をバッテリ(蓄電装置)に充電したり、不足分をバッテリでアシスト(補充)したりしていた。すなわち、酸化還元電位を回避し続けるために、バッテリの充電/放電の頻度が多くなっていた。このようにして、バッテリの充電/放電の頻度が多くなるので、充電/放電に伴う損失(ロス)が多くなり、車両効率(例えば燃費)が低下していた。
【0005】
そこで、本発明は、燃料電池の耐久性を向上させつつ、負荷要求に追従して燃料電池を発電させる燃料電池システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段として、本発明は、触媒を有し、前記触媒で酸素又は水素を反応させることで発電する燃料電池と、酸素及び水素の少なくとも一方を、前記燃料電池に供給するガス供給手段と、前記燃料電池に冷媒を供給する冷媒供給手段と、前記燃料電池の出力する電圧を制御する電圧制御手段と、前記燃料電池の出力する電力により駆動する負荷と、前記ガス供給手段、前記冷媒供給手段及び前記電圧制御手段を制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記電圧制御手段を制御することで前記燃料電池の実電圧を前記触媒の酸化還元の進行する酸化還元進行電圧範囲外の所定電圧に固定した状態で、前記燃料電池への前記少なくとも一方の濃度が前記負荷の要求する要求電力に追従するように前記ガス供給手段を制御しながら、前記冷媒供給手段によって冷媒を前記燃料電池に供給することを特徴とする燃料電池システムである。
【0007】
ここで、燃料電池は、そのIV特性(IV曲線、図15参照)に従って、その出力する実電流が大きくなると、その出力する実電圧が小さくなる、という特性を有している。
また、負荷の要求電力が大きくなると、燃料電池の出力する実電力を大きくするべく、実電流を大きくすることが通常であるから、実電圧が小さく実電流が大きい場合(目標電圧が切替電圧以下である場合)は、要求電力が大きい高負荷側に対応する。一方、実電圧が大きく実電流が小さい場合(目標電圧が切替電圧以下でない場合)は、要求電力が小さい低負荷側に対応する。
【0008】
このような構成によれば、制御手段が、前記電圧制御手段を制御することで燃料電池の実電圧を触媒の酸化還元の進行する酸化還元進行電圧範囲外の所定電圧に固定する。ここで、所定電圧は、触媒の酸化還元の進行する酸化還元進行電圧範囲外であるので、実電圧を所定電圧で維持することで、触媒の酸化反応及び還元反応が同時期に頻繁に繰り返されることは防止される。これにより、触媒の溶出等が抑制され、燃料電池が劣化し難くなる。その結果、燃料電池の耐久性を向上できる。
【0009】
また、制御手段が、燃料電池への前記少なくとも一方の濃度が負荷の要求する要求電力に追従するようにガス供給手段を制御する。ここで、前記少なくとも一方の濃度を変化させると、燃料電池のIV特性が変化するので、このように、前記少なくとも一方の濃度を要求電力に追従するように変化することで、燃料電池の実電流が変化し、燃料電池の出力する実電力が要求電力に追従する。
このようにして、負荷の要求電力に追従して燃料電池が過不足無く発電するので、不足電力や余剰電力が発生せず、蓄電装置を放電/充電させる必要は無く、放電/充電に伴ってロス(熱等)が生成することもない。よって、燃料電池システムの効率(エネルギ収支)は向上する。
【0010】
さらに、制御手段が、前記したように、燃料電池の実電圧を所定電圧に固定し、前記少なくとも一方の濃度を変化させながら、冷媒供給手段によって冷媒を燃料電池に供給する。これにより、燃料電池の温度を適切に保つことができる。
【0011】
また、前記燃料電池システムにおいて、前記制御手段は、前記要求電力に基づいて算出される前記燃料電池の目標電圧と、前記触媒の酸化還元の進行する酸化還元進行電圧範囲以下の切替電圧と、に基づいて、前記ガス供給手段及び前記電圧制御手段を制御し、前記目標電圧が前記切替電圧以下である場合、前記燃料電池の実電圧が目標電圧に追従するように前記電圧制御手段を制御する第1モードを実行し、前記目標電圧が前記切替電圧以下でない場合、前記燃料電池の実電圧が前記切替電圧で固定されるように前記電圧制御手段を制御すると共に、前記ガス供給手段を制御して前記少なくとも一方の濃度を変化することによって前記燃料電池のIV特性を変化することで、前記燃料電池の実電流を変化させ、前記燃料電池の出力する実電力を前記要求電力に追従させる第2モードを実行することが好ましい。
なお、切替電圧は、酸化還元進行電圧範囲以下であって、前記した所定電圧以上であることが好ましい。また、後記する実施形態では、切替電圧と所定電圧とが等しい場合を例示している。
【0012】
このような構成によれば、目標電圧が切替電圧以下である場合(高負荷側)、制御手段が、燃料電池の実電圧が目標電圧に追従するように電圧制御手段を制御する第1モードを実行する。すなわち、第1モードを実行し、ガス供給手段によって酸素及び水素の少なくとも一方を過不足無く供給しながら、電圧制御手段によって実電圧を目標電圧に追従させると、ガスの供給条件における燃料電池のIV特性に従って、燃料電池の実電流が変化することになる。例えば、実電圧を小さくすると、実電流が大きくなる。
【0013】
このようにして、実電圧を目標電圧に追従させることで、実電流も変化し、燃料電池の出力する実電力が、負荷の要求電力に追従することになる。すなわち、負荷の要求電力に追従して燃料電池が過不足無く発電するので、不足電力や余剰電力が発生せず、蓄電装置を放電/充電する必要は無く、放電/充電に伴ってロス(熱等)が生成することもない。よって、燃料電池システムの効率(エネルギ収支)は向上する。
【0014】
一方、目標電圧が切替電圧以下でない場合(低負荷側)、制御手段が第2モードを実行する。
すなわち、制御手段が、電圧制御手段を制御して、燃料電池の実電圧を切替電圧(後記する実施形態では0.8V)で固定する。ここで、切替電圧は、触媒の酸化還元の進行する酸化還元進行電圧範囲以下であるので、実電圧を切替電圧で固定(維持)することで、触媒の酸化反応及び還元反応が同時期に頻繁に繰り返されることは防止される。これにより、触媒の溶出等が抑制され、燃料電池が劣化し難くなる。その結果、燃料電池の耐久性を向上できる。
【0015】
これと共に、制御手段が、ガス供給手段を制御して前記少なくとも一方の濃度を変化することによって燃料電池のIV特性を変化することで、燃料電池の実電流を変化させ、燃料電池の出力する実電力を要求電力に追従させる。
このようにして、負荷の要求電力に追従して燃料電池が過不足無く発電するので、不足電力や余剰電力が発生せず、蓄電装置を放電/充電させる必要は無く、放電/充電に伴ってロス(熱等)が生成することもない。よって、燃料電池システムの効率(エネルギ収支)は向上する。
【0016】
また、前記燃料電池システムにおいて、前記切替電圧は、豊潤な反応ガスが通流し正常に発電する前記燃料電池のIV特性に基づいて設定されていることが好ましい。
【0017】
このような構成によれば、第1モード時(高負荷側)における燃料電池の出力(実電力)を良好に保持できる。また、第2モード時(低負荷側)における反応ガスの供給量の変化を最小限にできる。
【0018】
また、前記燃料電池システムにおいて、前記燃料電池の発電した電力を蓄電する蓄電手段を備えることが好ましい。
【0019】
このような構成によれば、システムにおいて応答遅れ(制御遅れ)等が発生し、燃料電池の電力が余剰/不足となったとしても、蓄電手段によって、余剰の電力を充電したり、不足する電力を補足したりできる。
【0020】
また、前記燃料電池システムにおいて、前記制御手段は、前記蓄電手段が目標蓄電量となるように、前記蓄電手段の蓄電量に基づいて前記要求電力を算出することが好ましい。
【0021】
このような構成によれば、制御手段が、蓄電手段が目標蓄電量(後記する実施形態では、SOC:50%)となるように、蓄電手段の蓄電量に基づいて要求電力を算出する。
これにより、燃料電池が、蓄電手段の目標蓄電量を考慮した実電力(実電圧、実電流)で発電することになる。したがって、蓄電手段が目標蓄電量となるように放電/充電でき、蓄電手段の蓄電量を好適に維持できる。
【0022】
また、前記燃料電池システムにおいて、前記制御手段は、前記燃料電池の実電圧を前記所定電圧に固定し、前記少なくとも一方の濃度を前記負荷の要求する要求電力に追従させている間、前記燃料電池への冷媒の供給量が前記要求電力に追従するように前記冷媒供給手段を制御することが好ましい。
【0023】
このような構成によれば、制御手段が、燃料電池の実電圧を所定電圧に固定し、前記少なくとも一方の濃度を負荷の要求電力に追従させている間、燃料電池への冷媒の供給量が要求電力に追従するように冷媒供給手段を制御する。これにより、燃料電池の温度を効率良く適切に保つことができる。
【0024】
また、前記燃料電池システムにおいて、前記燃料電池の発電が安定しているか否か判定する発電安定性判定手段を備え、前記発電安定性判定手段が前記燃料電池の発電は安定していないと判定した場合、前記制御手段は、前記少なくとも一方の濃度が増加するように前記ガス供給手段を制御することが好ましい。
【0025】
このような構成によれば、発電安定性判定手段が燃料電池の発電は安定していないと判定した場合、制御手段が、前記少なくとも一方の濃度が増加するようにガス供給手段を制御する。このように、前記少なくとも一方の濃度が増加するので、燃料電池の発電が安定し易くなる。
【0026】
また、前記燃料電池システムにおいて、前記燃料電池から排出された前記少なくとも一方のオフガスを、前記燃料電池に向かう前記少なくとも一方に合流させる合流流路を備え、前記ガス供給手段は、前記合流流路に設けられ合流するオフガスの流量を制御するオフガス流量制御手段を含み、前記発電安定性判定手段が前記燃料電池の発電は安定していないと判定した場合、前記オフガス流量制御手段はオフガスの流量を増加することが好ましい。
【0027】
なお、前記少なくとも一方が水素を含む場合、燃料電池から排出された水素オフガス(後記する実施形態ではアノードオフガス)を燃料電池に向かう水素に合流させる。また、前記少なくとも一方が酸素を含む場合、燃料電池から排出された酸素オフガス(後記する実施形態ではカソードオフガス)を燃料電池に向かう酸素に合流させる。
【0028】
このような構成によれば、発電安定性判定手段が燃料電池の発電は安定していないと判定した場合、オフガス流量制御手段がオフガスの流量を増加するので、燃料電池に向かう混合ガス(前記少なくとも一方と、一方のオフガスとの混合ガス)の体積流量が増加すると共に、前記混合ガスに前記少なくとも一方が分散することになる。これにより、前記少なくとも一方が分散し体積流量の増加した混合ガスが、燃料電池全体に供給され易くなり、燃料電池の発電安定性を回復できる。
【0029】
特に、燃料電池が、後記する実施形態のように、複数の単セルが積層されてなる燃料電池スタックであり、各単セルに酸素/水素を並列的に供給する構成である場合、このように体積流量が増加した混合ガスを供給することにより、全単セルに酸素/水素を均等に供給し易くなり、燃料電池スタックの発電が安定し易くなる。
【0030】
また、前記燃料電池システムにおいて、前記発電安定性判定手段が前記燃料電池の発電は安定していないと判定した場合、前記オフガス流量制御手段がオフガスの流量を増加した後、前記制御手段は、外部からの新規の前記少なくとも一方の濃度が増加するように前記ガス供給手段を制御することが好ましい。
【0031】
このような構成によれば、発電安定性判定手段が燃料電池の発電は安定していないと判定した場合、オフガス流量制御手段がオフガスの流量を増加した後、制御手段が外部からの新規の前記少なくとも一方の濃度が増加するようにガス供給手段を制御する。これにより、燃料電池に向かう混合ガス(前記少なくとも一方と、一方のオフガスとの混合ガス)の体積流量が増加するので、燃料電池全体に供給され易くなり、燃料電池の発電安定性を効率良く回復できる。
【0032】
また、前記燃料電池システムにおいて、前記ガス供給手段は、酸素を含む空気を供給するエアポンプを備えることが好ましい。
【0033】
このような構成によれば、エアポンプによって、酸素を含む空気を燃料電池に供給できる。
【0034】
また、前記燃料電池システムにおいて、前記ガス供給手段は、水素を供給する水素ポンプを備えることが好ましい。
【0035】
このような構成によれば、水素ポンプによって、水素を燃料電池に供給できる。
【0036】
また、前記燃料電池システムにおいて、前記負荷は、車両の駆動用のモータを含み、
前記車両に搭載されることが好ましい。
【0037】
このような構成によれば、駆動用のモータによって、車両を駆動(走行)できる。また、前記したように、燃料電池の耐久性は高く、燃料電池システムの効率は高いので、車両の耐久性及び効率も向上する。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、燃料電池の耐久性を向上させつつ、負荷要求に追従して燃料電池を発電させる燃料電池システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本実施形態に係る燃料電池システムの構成図である。
【図2】本実施形態に係る燃料電池システムの電力制御系の構成図である。
【図3】Pt(白金)のサイクリックボルタンメトリー図である。
【図4】セル電位(セル電圧)と単セルの劣化量との関係を示すグラフである。
【図5】酸素のストイキとセル電流(単セルの電流)との関係を示すグラフである。
【図6】本実施形態に係る燃料電池システムのメインフローチャートである。
【図7】図6のシステム負荷計算処理S200のサブフローチャートである。
【図8】図6のエネルギマネジメント・燃料電池スタックの発電制御処理S300のサブフローチャートである。
【図9】図6のモータトルク制御処理S400のサブフローチャートである。
【図10】現在のモータ回転数と、燃料電池車の状態(加速中/減速中)と、モータ予想消費電力との関係を示すマップである。
【図11】高圧バッテリのSOCと充放電係数との関係を示すマップである。
【図12】目標電流と目標酸素濃度との関係を示すマップである。
【図13】目標酸素濃度(目標電流)とエアポンプ(冷媒ポンプ)の回転数(回転速度)との関係を示すマップである。
【図14】目標酸素濃度(目標電流)と背圧弁の開度との関係を示すマップである。
【図15】燃料電池スタック(単セル)の電流と、単セルの電圧(セル電圧)との関係を示すマップである。
【図16】目標電流と空気流量との関係を示すマップである。
【図17】循環弁の開度と循環ガスの流量との関係を示すマップである。
【図18】本実施形態に係る燃料電池システムの一動作例を示すタイムチャートである。
【図19】変形例に係る燃料電池システムの電力制御系の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の一実施形態について、図1〜図18を参照して説明する。
【0041】
≪燃料電池システムの構成≫
図1に示す本実施形態に係る燃料電池システム1は、図示しない燃料電池車(移動体)に搭載されている。
燃料電池システム1は、燃料電池スタック10(燃料電池)と、セル電圧モニタ14と、燃料電池スタック10のアノードに対して水素(燃料ガス)を給排するアノード系と、燃料電池スタック10のカソードに対して酸素を含む空気(酸化剤ガス)を給排するカソード系と、燃料電池スタック10を経由するように冷媒を循環(通流)させる冷媒系と、燃料電池スタック10の出力端子(図示しない)に接続され、燃料電池スタック10の発電電力を制御する電力制御系と、これらを電子制御する制御手段であるECU80(Electronic Control Unit、電子制御装置)と、を備えている。
なお、燃料ガス、酸化剤ガスの具体的種類はこれに限定されない。
【0042】
<燃料電池スタック>
燃料電池スタック10は、複数(例えば200〜600枚)の固体高分子型の単セル(燃料電池)が積層して構成されたスタックであり、複数の単セルは直列で接続されている。単セルは、MEA(Membrane Electrode Assembly:膜電極接合体)と、これを挟む2枚の導電性を有するセパレータと、を備えている。MEAは、1価の陽イオン交換膜等からなる電解質膜(固体高分子膜)と、これを挟むアノード及びカソード(電極)とを備えている。
【0043】
アノード及びカソードは、カーボンペーパ等の導電性を有する多孔質体と、これに担持され、アノード及びカソードにおける電極反応を生じさせるための触媒(Pt、Ru等)と、を含んでいる。
【0044】
各セパレータには、各MEAの全面に水素又は空気を供給するための溝や、全単セルに水素又は空気を給排するための貫通孔が形成されており、これら溝及び貫通孔がアノード流路11(燃料ガス流路)、カソード流路12(酸化剤ガス流路)として機能している。また、このようなアノード流路11、カソード流路12は、特に単セルの全面に水素、空気を供給するべく、複数に分岐、合流等しており、その流路断面積は極小となっている。
【0045】
そして、アノード流路11を介して各アノードに水素が供給されると、式(1)の電極反応が起こり、カソード流路12を介して各カソードに空気が供給されると、式(2)の電極反応が起こり、各単セルで電位差(OCV(Open Circuit Voltage)、開回路電圧)が発生するようになっている。次いで、燃料電池スタック10と後記するモータ51等の負荷とが電気的に接続され、電流が取り出されると、燃料電池スタック10が発電するようになっている。
【0046】
2H→4H+4e …(1)
+4H+4e→2HO …(2)
【0047】
このように燃料電池スタック10が発電すると、水分(水蒸気)がカソードで生成し、カソード流路12から排出されるカソードオフガスは多湿となる。
【0048】
また、各セパレータには、各単セルを冷却するための冷媒が通流させるための溝や貫通孔が形成されており、これら溝及び貫通孔が冷媒流路13として機能している。
【0049】
ところで、このような燃料電池スタック10では、モータ51等の負荷が要求する要求電力の変動に対応して、低電位側での発電、高電位側での発電が繰り返し実行される。そうすると、アノード、カソードに含まれる触媒表面で、式(3)の酸化反応、式(4)の還元反応が、繰り返して行われてしまい、その結果、触媒の溶出やシンタリング現象(触媒の凝集)が誘発され、燃料電池スタック10の出力特性が低下する虞がある。
なお、式(3)、式(4)は、触媒が白金(Pt)である場合を例示している。
【0050】
Pt+2HO→Pt(OH)+2H+2e …(3)
Pt(OH)+2H+2e→Pt+2HO …(4)
【0051】
触媒が白金(Pt)である場合について、図3、図4を参照して、さらに説明する。
燃料電池スタック10に豊潤な水素、空気(酸素)を通流させ、燃料電池スタック10(単セル)を正常に発電させ、燃料電池スタック10が通常のIV特性に基づいて発電する場合において(図15参照)、セル電位(セル電圧、単セルの電圧)が0.8V以下の領域では、式(4)の還元反応が主に進行し、還元電流が主に通流する。
なお、豊潤な酸素とは、図5に示すように、ストイキ(酸素濃度)を上昇させても、セル電流(単セルの出力する電流)が略一定となり、飽和した状態となる通常ストイキ以上の領域における酸素を意味する。水素についても同様である。
【0052】
セル電位が0.8〜0.9Vの領域では、式(3)の酸化反応、式(4)の還元反応の両方が進行し、酸化電流、還元電流の両方が通流し易くなっている。なお、本願発明者等は、式(3)の酸化反応後、続いて、式(4)の還元反応が進行すると、つまり、白金の酸化反応及び還元反応が同時期に頻繁に繰り返され、白金が溶出してしまい、MEAの劣化が進む(図4の劣化量が大きくなる)という知見を得ている。
【0053】
セル電位が0.9V以上の領域では、式(3)の酸化反応が主に進行し、酸化電流が主に通流する。
なお、図3に実戦で示す酸化電流、還元電流は、セル電位(セル電圧)の変動の速度(燃料電池車の加速/減速)に対応して、破線で示すようにシフトするので、セル電位の変動の速度(燃料電池車の加速/減速)に対応して、取得することが好ましい。
【0054】
一方、単セル(燃料電池スタック10)は、図15に示すIV特性(IV曲線)を有しており、単セルの出力する実電流(セル電流)が大きくなるにつれて、実電圧(セル電圧)が徐々に小さくなる傾向となっている。
【0055】
したがって、モータ51等からの要求電力(目標電力)が小さくなり、セル電圧が0.8Vよりも大きくなると、式(3)の酸化反応と、式(4)の還元反応との両方が進行し、つまり、白金の酸化反応及び還元反応が同時期に頻繁に繰り返されてしまい、単セル(燃料電池スタック10)の劣化が進んでしまう虞がある。
【0056】
そこで、本実施形態では、要求電力が小さくなったとしても、セル電圧を0.8V(切替電圧、所定電圧)で固定しつつ、酸素濃度を低下(変化)させることでIV特性を変化させ、単セル(燃料電池スタック10)の出力する実電流を小さくし(図15参照)、単セル(燃料電池スタック10)の発電を、要求電力(目標電力)に追従させ、つまり、単セル(燃料電池スタック10)を過不足無く発電させ、後記する高圧バッテリ53における充電/放電の頻度を少なくし、充電/放電に伴う損失(ロス、例えば熱)を低減することを特徴としている。
【0057】
すなわち、本実施形態では、0.8Vを、「白金(触媒)の酸化還元の進行する酸化還元進行電圧範囲(0.8〜0.9V)外であって、酸化還元進行電圧範囲以下の切替電圧(所定電圧)」とした場合を例示する。ただし、切替電圧及び所定電圧が0.8Vに限定されることはない。
【0058】
<セル電圧モニタ>
図1に戻って説明を続ける。
セル電圧モニタ14(発電状態検出手段)は、燃料電池スタック10を構成する複数の単セル毎のセル電圧を検出する機器であり、モニタ本体と、モニタ本体と各単セルとを接続するワイヤハーネスと、を備えている。モニタ本体は、所定周期で全ての単セルをスキャニングし、各単セルのセル電圧を検出し、平均セル電圧及び最低セル電圧を算出するようになっている。そして、モニタ本体(セル電圧モニタ14)は、平均セル電圧及び最低セル電圧をECU80に出力するようになっている。
【0059】
<アノード系>
アノード系は、水素タンク21(燃料ガス供給手段、反応ガス供給手段)と、レギュレータ22と、エゼクタ23、常閉型のパージ弁24と、を備えている。
【0060】
水素タンク21は、配管21a、レギュレータ22、配管22a、エゼクタ23、配管23aを介して、アノード流路11の入口に接続されている。そして、水素タンク21の水素が、配管21a等を通って、アノード流路11に供給されるようになっている。なお、配管21aには、常閉型の遮断弁(図示しない)が設けられており、燃料電池スタック10の発電時、ECU80が前記遮断弁を開くようになっている。
【0061】
レギュレータ22は、その二次側(下流側)の水素の圧力を適宜に調整するものである。すなわち、レギュレータ22は、配管22bを介してパイロット圧として入力されるカソード側の空気の圧力にバランスするように、二次側の圧力(アノード側の水素の圧力)を制御するようになっている。すなわち、アノード側の水素の圧力は、カソード側の空気の圧力に連動し、後記するように、酸素濃度を変化させるべくエアポンプ31の回転数等を可変すると、アノード側の水素の圧力も可変するようになっている。
【0062】
エゼクタ23は、水素タンク21からの水素をノズルで噴射することで負圧を発生させ、この負圧によって配管23bのアノードオフガスを吸引するものである。
【0063】
アノード流路11の出口は、配管23bを介して、エゼクタ23の吸気口に接続されている。そして、アノード流路11から排出されたアノードオフガスは、配管23bを通って、エゼクタ23に向かい、アノードオフガス(水素)が循環するようになっている。
なお、アノードオフガスは、アノードにおける電極反応で消費されなかった水素、及び、水蒸気を含んでいる。また、配管23bには、アノードオフガスに含まれる水分(凝縮水(液体)、水蒸気(気体))を分離・回収する気液分離器(図示しない)が設けられている。
【0064】
配管23bの途中は、配管24a、パージ弁24、配管24bを介して、後記する配管33bに設けられた希釈器(図示しない)に接続されている。パージ弁24は、燃料電池スタック10の発電が安定していないと判定された場合、ECU80によって所定開弁時間にて、開かれる設定となっている。前記希釈器は、パージ弁24からのアノードオフガス中の水素を、カソードオフガスで希釈するものである。
【0065】
<カソード系>
カソード系は、エアポンプ31(コンプレッサ、圧縮機、反応ガス供給手段)と、加湿器32と、常開型の背圧弁33(反応ガス供給手段)と、常開型の循環弁34(オフガス流量制御手段、ガス供給手段)と、流量センサ35、36と、温度センサ37と、を備えている。
【0066】
エアポンプ31の吸気口は、配管31aを介して、車外(外部)と連通している。エアポンプ31の吐出口は、配管31b、加湿器32、配管32aを介して、カソード流路12の入口に接続されている。
そして、エアポンプ31がECU80の指令に従って作動すると、エアポンプ31は、配管31aを介して車外の空気を吸気して圧縮し、この圧縮された空気が配管31b等を通ってカソード流路12に圧送されるようになっている。
【0067】
加湿器32は、水分透過性を有する複数の中空糸膜32eを備えている。そして、加湿器32は、中空糸膜32eを介して、カソード流路12に向かう空気とカソード流路12から排出された多湿のカソードオフガスとを水分交換させ、カソード流路12に向かう空気を加湿するようになっている。
【0068】
カソード流路12の出口には、配管32b、加湿器32、配管33a、背圧弁33、配管33bが接続されている。そして、カソード流路12から排出されたカソードオフガス(酸化剤オフガス)は、配管32b等を通って、車外に排出されるようになっている。
なお、配管33bには、前記した希釈器(図示しない)が設けられている。
【0069】
背圧弁33は、例えばバタフライ弁で構成され、その開度がECU80によって制御されることで、カソード流路12における空気の圧力を制御するものである。詳細には、背圧弁33の開度が小さくなると、カソード流路12における空気の圧力が上昇し、体積流量当たりにおける酸素濃度(体積濃度)が高くなる。逆に、背圧弁33の開度が大きくなると、カソード流路12における空気の圧力が下降し、体積流量当たりにおける酸素濃度(体積濃度)が低くなる。
【0070】
前記希釈器の下流側の配管33bは、配管34a、循環弁34、配管34bを介して、配管31aに接続されている。これにより、排気ガス(カソードオフガス)の一部が、循環ガスとして、配管34a、配管34bを通って、配管31aに供給され、車外からの新規空気に合流し、エアポンプ31に吸気されるようになっている。なお、循環ガスとしてのカソードオフガスは前記したように多湿であるから、このように新規空気に合流させることにより、加湿器32の小型化も可能となる。
【0071】
したがって、本実施形態において、カソードオフガスをカソードに向かう新規空気に合流させる合流流路は、配管34aと配管34bとを備えて構成されている。そして、この合流流路に循環弁34が設けられている。
【0072】
循環弁34は、例えばバタフライ弁で構成され、その開度がECU80によって制御されることで、配管31aに向かう循環ガスの流量を制御するものである。
【0073】
流量センサ35は、配管31bに取り付けられており、カソード流路12に向かう空気の流量(g/s)を検出し、ECU80に出力するようになっている。
【0074】
流量センサ36は、配管34bに取り付けられており、配管31aに向かう循環ガスの流量(g/s)を検出し、ECU80に出力するようになっている。
【0075】
温度センサ37は、配管33aに取り付けられており、カソードオフガスの温度を検出し、ECU80に出力するようになっている。ここで、前記した循環ガスの温度は、カソードオフガスの温度を略等しいので、温度センサ37の検出するカソードオフガスの温度に基づいて、循環ガスの温度が検知されることになる。
【0076】
<冷媒系>
冷媒系は、冷媒ポンプ41と、ラジエータ42(放熱器)と、を備えている。
【0077】
冷媒ポンプ41の吐出口は、配管41a、冷媒流路13、配管42a、ラジエータ42、配管42bを順に介して、冷媒ポンプ41の吸込口に接続されている。そして、ECU80の指令に従って冷媒ポンプ41が作動すると、冷媒が冷媒流路13とラジエータ42との間で循環し、燃料電池スタック10が適宜に冷却されるように構成されている。
【0078】
<電力制御系>
次に、電力制御系について、図2を参照して説明する。
電力制御系は、高電圧の電力で動作する高電圧系と、低電圧(例えば12V)の電力で動作する低電圧系と、を備えている。
【0079】
高電圧系は、モータ51(モータ・ジェネレータ)と、PDU52(Power Drive Unit: 動力駆動装置)と、高圧バッテリ53(蓄電手段)と、SOCセンサ54と、第1コンバータ55(DC/DCコンバータ、電圧制御手段)と、車両用のエアコン56(空調装置)と、第2コンバータ57(DC/DCコンバータ)と、を備えている。
【0080】
モータ51は、燃料電池車の動力源となる走行用の電動モータである。また、モータ51は、燃料電池車の減速時、ジェネレータ(発電機)として機能し、回生電力を発生するようになっている。そして、モータ51は、PDU52を介して、燃料電池スタック10の出力端子に接続されている。
【0081】
PDU52は、ECU80からの指令に従って、燃料電池スタック10及び/又は高圧バッテリ53からの直流電力を、三相交流電力に変換し、モータ51に供給するインバータである。また、PDU52は、モータ51からの回生電力を、高圧バッテリ53に供給するようになっている。
【0082】
高圧バッテリ53は、第1コンバータ55を介して、燃料電池スタック10とPDU52との間に接続されている。すなわち、燃料電池スタック10とモータ51と高圧バッテリ53の接続点から見て、第1コンバータ55は高圧バッテリ53側に配置されている。
【0083】
高圧バッテリ53は、燃料電池スタック10の余剰電力、モータ51の回生電力を充電したり、燃料電池スタック10の不足電力をアシスト(補助)したりするものである。このような高圧バッテリ53は、例えば、リチウムイオン型の単電池を複数組み合わせてなる組電池を備える。
【0084】
SOCセンサ54は、高圧バッテリ53のSOC(State of Charge、充電状態(%))を検出するセンサであり、電圧センサと電流センサとを備えている。そして、SOCセンサ54は、高圧バッテリ53のSOCをECU80に出力するようになっている。
【0085】
第1コンバータ55は、ECU80によって制御され、電圧を昇降圧可能なDC/DCコンバータである。そして、第1コンバータ55の燃料電池スタック10側の端子電圧が適宜に制御されることで、燃料電池スタック10の発電電力(実電流、実電圧)が制御されるようになっている。
【0086】
エアポンプ31、冷媒ポンプ41、エアコン56(冷媒圧縮用のコンプレッサ)、及び、第2コンバータ57は、燃料電池スタック10及び高圧バッテリ53に対して、PDU52(モータ51)と並列に接続されている。
なお、第2コンバータ57は、ECU80からの指令に従って、燃料電池スタック10、高圧バッテリ53、モータ51からの高圧の電力を、低圧(12V)の電力に変換し、低電圧系に供給するものである。
【0087】
低電圧系は、低圧バッテリ61(12Vバッテリ)と、アクセサリ62と、ECU80と、を備えている。そして、低圧バッテリ61、アクセサリ62、及び、ECU80は、第2コンバータ57に対して並列で接続されている。
【0088】
低圧バッテリ61は、アクセサリ62及びECU80の電源である。また、低圧バッテリ61のSOC(%)はSOCセンサ(図示しない)で検出され、ECU80に出力されるようになっている。さらに、低圧バッテリ61には、第2コンバータ57からの電力が適宜に充電されるようになっている。
アクセサリ62は、例えば、ヘッドライト、室内灯である。
【0089】
図1に戻って説明を続ける。
IG71は、燃料電池システム1(燃料電池車)の起動スイッチであり、運転席周りに配置されている。そして、IG71は、そのON/OFF信号をECU80に出力するようになっている。
【0090】
アクセル72は、運転者が燃料電池車を加速させるために踏み込むペダルであり、運転席の足元に配置されている。そして、アクセル72は、アクセル開度(踏み込み量)をECU80に出力するようになっている。
【0091】
<ECU>
ECU80は、燃料電池システム1を電子制御する制御装置であり、CPU、ROM、RAM、各種インタフェイス、電子回路などを含んで構成されており、その内部に記憶されたプログラムに従って、各種機能を発揮し、エアポンプ31、背圧弁33、循環弁34等の各種機器を制御するようになっている。
【0092】
<ECU−モード切替・運転機能>
ECU80は、燃料電池システム1を、単セルの目標電圧と切替電圧(0.8V)とに基づいて、第1モードと第2モードとの間で切り替え、運転させる機能を備えている。
【0093】
第1モードは、単セルの目標電圧が切替電圧以下である場合、単セルの実電圧を目標電圧に追従させるモードである。
第2モードは、単セルの目標電圧が切替電圧以下でない場合、単セルの実電圧を切替電圧で維持しつつ、空気の供給量(酸素濃度)を変化することによって単セルのIV特性を変化することで、単セルの実電流を変化させ、単セルの出力する実電力を要求電力に追従させるモードである。
【0094】
<ECU−発電安定性判定機能>
ECU80(発電安定性判定手段)は、燃料電池スタック10の発電が安定しているか否か判定する発電安定性判定機能を備えている。
具体的には、ECU80は、セル電圧モニタ14から入力される最低セル電圧が、平均セル電圧から所定電圧を減算した電圧よりも低い場合(最低セル電圧<「平均セル電圧−所定電圧」)、燃料電池スタック10の発電は不安定であると判定するように構成されている。なお、前記所定電圧は、事前試験等により適宜に設定される。
【0095】
≪燃料電池システムの動作≫
次に、燃料電池システム1の動作について、図6〜図17を参照して説明する。
【0096】
<基本動作>
図6を参照して、燃料電池システム1の基本動作を説明する。
ステップS101において、ECU80は、IG71がONされたか否か判定する。
IG71はONされたと判定した場合(S101・Yes)、ECU80の処理は、ステップS102に進む。一方、IG71はONされていないと判定した場合(S101・No)、ECU80はステップS101の判定を繰り返す。
【0097】
ステップS102において、ECU80は、燃料電池スタック10の発電開始処理を実行する。
具体的には、ECU80は、配管21aに設けられた遮断弁(図示しない)を開いてアノード流路11に水素を供給し、エアポンプ31を作動させてカソード流路12に空気を供給する。また、ECU80は、冷媒ポンプ41を作動させ、冷媒を循環させる。
【0098】
ステップS200において、ECU80は、システムの負荷全体(モータ51、アクセサリ62)が要求するシステム負荷(システム予想消費電力)を算出するシステム負荷算出処理を実行する。具体的な内容は、後で説明する。
【0099】
ステップS300において、ECU80は、燃料電池システム1全体のエネルギマネジメント処理と、燃料電池スタック10の発電制御処理と、を実行する。具体的な内容は、後で説明する。
【0100】
ステップS400において、ECU80は、モータ51のトルクを制御するモータトルク制御処理を実行する。具体的な内容は、後で説明する。
【0101】
ステップS103において、ECU80は、IG71がOFFされたか否か判定する。
IG71はOFFされたと判定した場合(S103・Yes)、ECU80の処理はステップS104に進む。一方、IG71はOFFされていないと判定した場合(S103・No)、ECU80の処理はステップS200に進む。
【0102】
ステップS104において、ECU80は、燃料電池スタック10の発電停止処理を実行する。
具体的には、ECU80は、配管21aに設けられた遮断弁(図示しない)を閉じて水素を遮断し、エアポンプ31及び冷媒ポンプ41を停止し、燃料電池スタック10の発電を停止する。
【0103】
その後、ECU80の処理はステップS101に進む。
【0104】
<システム負荷計算処理>
次に、図7を参照して、システム負荷計算処理S200を説明する。
【0105】
ステップS201において、ECU80は、現在のアクセル72の開度(アクセル開度)を読み込む。
【0106】
ステップS202において、ECU80は、この後におけるモータ51の予想消費電力を、現在のモータ51の回転数(rpm、回転速度)と、燃料電池車の加速/減速の程度と、図10のマップとに基づいて算出する。図10のマップは、事前試験やシミュレーション等によって求められ、ECU80に予め記憶されている。加速/減速の程度は、アクセル開度(又はその変化量)や、車速センサ(図示しない)の検出する燃料電池車の車速の変化、等に基づいて算出される。現在のモータ51の回転数は、モータ51の出力軸に取り付けられた回転数センサ(図示しない)等によって検出される。
【0107】
なお、図10において、モータ予想消費電力が「プラス」である場合、モータ51が電力を消費すると予想されることを示し、モータ予想消費電力が「マイナス」である場合、モータ51が回生電力を発生すると予想されることを示している。
【0108】
図10に示すように、燃料電池車が加速中である場合、現在のモータ51の回転数が大きくなるにつれて、また、加速の程度が大きくなるにつれて、モータ予想消費電力がプラス側に大きくなる関係となっている。
一方、燃料電池車が減速中である場合、現在のモータ51の回転数が大きくなるにつれて、また、減速の程度が大きくなるにつれて、モータ予想消費電力がマイナス側に大きくなる関係(回生電力が大きくなる関係)となっている。
【0109】
ステップS203において、ECU80は、この後における補機の予想消費電力を算出する。
ここで、補機は、高電圧系の補機(エアポンプ31、冷媒ポンプ41、エアコン56)と、低電圧系の補機(低圧バッテリ61、アクセサリ62)と、に分けられるので(図2参照)、補機の予想消費電力は、高電圧系の補機の予想消費電力と、低電圧系の補機の予想消費電力と、を加算することで得られる(式(5)参照)。
【0110】
補機予想消費電力=高圧系補機の予想消費電力+低圧系補機の予想消費電力 …(5)
【0111】
エアポンプ31の予想消費電力は、ここでは、前回のステップS306(図8参照)で消費した電力を採用する。
冷媒ポンプ41の予想消費電力は、ここでは、前回のステップS306(図8参照)で消費した電力を採用する。
エアコン56の予想消費電力は、エアコン56を操作する操作パネル(図示しない)からの情報(風量:大・中・小、等)に基づいて算出される。
【0112】
低圧バッテリ61の予想消費電力は、低圧バッテリ61に取り付けられた前記SOCセンサ(図示しない)からの現在のSOCに基づいて算出され、例えば、現在のSOCが目標SOCよりも小さい場合、低圧バッテリ61の予想消費電力は、充電側に対応するプラス側に算出される。
アクセサリ62の予想消費電力は、アクセサリ62の作動状態(ヘッドライトのON/OFF等)に基づいて算出される。
【0113】
ステップS204において、ECU80は、この後における燃料電池システム1全体の予想消費電力(システム予想消費電力、要求電力)を算出する。システム予想消費電力は、ステップS202で算出したモータ予想消費電力と、ステップS203で算出した補機予想消費電力と、を加算することで得られる(式(6)参照)。
【0114】
システム予想消費電力=モータ予想消費電力+補機予想消費電力 …(6)
【0115】
その後、ECU80の処理は、エンドを通って、図6のステップS300に進む。
【0116】
<エネルギマネジメント処理・燃料電池スタックの発電制御処理S300>
次に、図8を参照して、エネルギマネジメント処理・燃料電池スタック10の発電制御処理S300を説明する。
なお、初期状態において、循環弁34の開度は略0°(全閉状態)であり、循環ガスの流量(g/s)は略0である。
【0117】
ステップS301において、ECU80は、燃料電池スタック10が出力するべき目標電力(要求電力)を算出する。目標電力は、ステップS204で算出したシステム予想消費電力と、高圧バッテリ53の充放電係数とを乗算することで得られる(式(7)参照)。
【0118】
目標電力=システム予想消費電力×充放電係数 …(7)
【0119】
高圧バッテリ53の充放電係数は、SOCセンサ54から入力される現在のSOCと、図11のマップとに基づいて算出される。図11のマップは、事前試験等に求められ、ECU80に予め記憶されている。また、ここでは、高圧バッテリ53の目標SOC(目標蓄電量)を50(%)とした場合を例示するが、これに限定されることはない。
【0120】
図11に示すように、SOCが50(%)よりも小さい領域では、燃料電池スタック10の発電が余剰し、その余剰電力が高圧バッテリ53に充電されるように、充放電係数が「1」よりも大きくなる傾向となっている。
一方、SOCが50(%)よりも大きい領域では、燃料電池スタック10の発電が不足し、その不足電力を補うように高圧バッテリ53が放電するように、充放電係数が「1」よりも小さくなる傾向となっている。
【0121】
ステップS302において、ECU80は、ステップS301で算出した目標電力が、所定電力以下であるか否か判定する。
所定電力は、「触媒が劣化しないと判断されるセル電圧(0.8V、切替電圧、所定電圧)」と、「燃料電池スタック10を構成する単セル数」と、「燃料電池スタック10の通常のIV特性(IV曲線、図15参照)においてセル電圧を0.8Vとした場合における電流値」とを乗算することで与えられる固定値である(式(8)参照)。
【0122】
所定電力=0.8V(切替電圧、所定電圧)×単セル数×通常IVの電流値 …(8)
【0123】
目標電力は所定電力以下であると判定した場合(S302・Yes)、ECU80の処理はステップS303に進む。一方、目標電力は所定電力以下でないと判定した場合(S302・No)、ECU80の処理はステップS350に進む。
【0124】
なお、本実施形態では、目標電力は所定電力以下であると判定される場合が(低負荷側)、単セルの目標電圧が切替電圧(0.8V)以下でない場合、に相当し、その後、前記した第2モードが実行されることになる。
一方、目標電力は所定電力以下でないと判定される場合が、単セルの目標電圧が切替電圧(0.8V)以下である場合、に相当し、その後、前記した第1モードが実行されることになる。
【0125】
<第2モード>
ステップS303において、ECU80は、燃料電池スタック10全体の目標電圧(スタック目標電圧)を所定値とする。所定値は、「触媒が劣化しないと判断されるセル電圧(0.8V)」と、「燃料電池スタック10を構成する単セル数」とを積算することで得られる(式(9)参照)。
【0126】
所定値=0.8V(切替電圧、所定電圧)×単セル数 …(9)
【0127】
そして、ECU80は、燃料電池スタック10全体の目標電圧が前記所定値で固定(維持)されるように、第1コンバータ55を制御する。具体的には、第1コンバータ55の燃料電池スタック10側の電圧を前記所定値とする。
これにより、単セルの実電圧は、触媒が劣化しないと判断されるセル電圧(0.8V)以下となるので、触媒の酸化反応及び還元反応が同時期に頻繁に繰り返されることは防止され(図3参照)、触媒が劣化(溶出)し難くなる(図4参照)。
【0128】
ステップS304において、ECU80は、ステップS301で算出した目標電力となる目標電流を算出する。目標電流は、ステップS301で算出した目標電力を、ステップS303のスタック目標電圧(所定値)で除算することにより得られる(式(10)参照)。これにより、目標電流が目標電力に追従することになる。
ここで、燃料電池スタック10は、複数の単セルが直列に接続されることで構成されているから、前記目標電流は、燃料電池スタック10全体を通流する電流(スタック電流)と、各単セルを通流する電流(セル電流)と、等しくなる。
【0129】
目標電流=目標電力/所定値 …(10)
【0130】
ステップS305において、ECU80は、ステップS304で算出した目標電流と、図12のマップとに基づいて、カソード流路12を通流する空気の目標酸素濃度(単位体積流量当たりの酸素濃度)を算出する。
なお、図12のマップは、事前試験等により求められ、ECU80に予め記憶されている。また、図12に示すように、目標電流が小さくなるにつれて、目標酸素濃度が低くなる関係となっている。これにより、目標酸素濃度が、目標電流(目標電力)に追従することなる。
【0131】
ステップS306において、ECU80は、ステップS305で算出した目標酸素濃度(目標電流)と、図13、図14のマップとに基づいて、エアポンプ31の目標回転数と、冷媒ポンプ41の目標回転数と、背圧弁33の目標開度とをそれぞれ算出する。
なお、図13、図14のマップは、事前試験等により求められ、ECU80に予め記憶されている。また、目標酸素濃度が低くなるにつれて、エアポンプ31及び冷媒ポンプ41の目標回転数は低くなる関係となっており、背圧弁33の目標開度は大きくなる関係となっている。
【0132】
そして、ECU80は、このようにして算出した目標回転数となるようにエアポンプ31及び冷媒ポンプ41を制御し、目標開度となるように背圧弁33を制御する。これにより、燃料電池スタック10への冷媒の供給量は目標酸素濃度(目標電流、目標電力)に追従することになる。
【0133】
そうすると、図15に示すように、単セルにおいて、セル電圧が0.8Vに固定されたままで、目標酸素濃度に対応して、セル電流(燃料電池スタック10の電流)が可変し、燃料電池スタック10の出力する実電力が、ステップS301の目標電力になる。
すなわち、燃料電池スタック10の電圧は所定値で固定されているものの、燃料電池スタック10の実電流が可変され、燃料電池スタック10の実電力が目標電力に追従することになる。
【0134】
なお、このように制御した後、流量センサ35を介してカソード流路12を通流する空気の流量(g/s)を検出し、圧力センサ(図示しない)を介してカソード流路12を通流する空気の圧力を検出し、検出された流量及び圧力に基づいて、エアポンプ31の回転数、冷媒ポンプ41の回転数及び背圧弁33の開度を、フィードバック制御することが好ましい。
【0135】
ステップS307において、ECU80は、燃料電池スタック10の発電が安定しているか否か判定する。
【0136】
燃料電池スタック10の発電は安定していると判定した場合(S307・Yes)、ECU80の処理はエンドを通って、図6のステップS400に進む。一方、燃料電池スタック10の発電は安定していない(不安定である)と判定した場合(S307・No)、ECU80の処理は、ステップS308に進む。
【0137】
ステップS308において、ECU80は、流量センサ36を介して循環ガスの流量(g/s)を監視しながら、循環弁34の開度を大きくし、循環ガスの流量を一段階増加する(図16参照)。
なお、各段階における循環ガスの増加量は適宜に設定され、図16では、循環弁34を全開とした場合、循環ガスの流量が4段階目の増加となり、最大流量となる場合を例示している。
【0138】
そうすると、エアポンプ31に吸気される吸気ガスにおいて、循環ガスの割合が増加する。すなわち、前記吸気ガスについて、新規空気(車外から吸気される空気)と、循環ガスとの割合において、循環ガスの割合が増加するように変化する。ここで、循環ガス(カソードオフガス)の酸素濃度は、新規空気の酸素濃度に対して低いので、循環弁34の流量の制御前後において、エアポンプ31の回転数、背圧弁33の開度が同一である場合、カソード流路12を通流するガスの酸素濃度が低下することになる。
【0139】
そこで、ステップS308における循環ガスの流量の制御前後において、ステップS305で算出した目標酸素濃度で維持されるように、循環ガスの流量の増加に連動して、エアポンプ31の回転数の増加、及び/又は、背圧弁33の開度の減少、を実行することが好ましい。
すなわち、例えば、循環ガスの流量を増加した場合、エアポンプ31の回転数を増加させ、新規空気の流量を増加することが好ましい。そして、このようにすれば、カソード流路12に向かうガス(新規空気と循環ガスとの混合ガス)全体の流量が増加するので、全単セルへの酸素の分配能力が向上し、燃料電池スタック10の発電性能が回復し易くなる。
【0140】
このようにして、目標酸素濃度を維持しつつ、循環ガスを新規空気に合流させるので、カソード流路12を通流するガスの体積流量(L/s)が増加する。これにより、目標酸素濃度が維持されつつ体積流量の増加したガスが、燃料電池スタック10内で複雑に形成されたカソード流路12全体に行き渡り易くなる。したがって、各単セルに前記ガスが同様に供給され易くなり、燃料電池スタック10の発電の不安定が解消され易くなる。また、MEAの表面やカソード流路12を囲む壁面に付着する水滴(凝縮水等)も除去され易くなる。
【0141】
ステップS309において、ECU80は、流量センサ36を介して検出される循環ガスの流量が上限値以上であるか否か判定する。判定基準となる上限値は、循環弁34の開度が全開となる値に設定される。
この場合において、循環弁34の開度が同一であっても、エアポンプ31の回転数が増加すると、流量センサ36で検出される循環ガスの流量が増加するので、前記上限値は、エアポンプ31の回転数に関連付けて、つまり、エアポンプ31の回転数が大きくなると、前記上限値が大きくなるように設定されることが好ましい。
【0142】
循環ガスの流量は上限値以上であると判定した場合(S309・Yes)、ECU80の処理は、ステップS310に進む。一方、循環ガスの流量は上限値以上でないと判定した場合(S309・No)、ECU80の処理は、ステップS307に進む。
【0143】
ここで、ステップS308、S309では、流量センサ36が直接検出する循環ガスの流量に基づいて、処理を実行したが、循環弁34の開度に基づいて、処理を実行してもよい。すなわち、ステップS308において、循環弁34の開度を開方向に一段階(例えば30°)にて増加する構成とし、ステップS309において、循環弁34が全開である場合(S309・Yes)、ステップS310に進む構成としてもよい。
【0144】
また、この場合において、循環弁34の開度と、循環ガスの温度と、図17のマップとに基づいて、循環ガスの流量(g/s)を算出することもできる。図17に示すように、循環ガスの温度が高くなるにつれて、その密度が小さくなるので、流量(g/s)が小さくなる関係となっている。
【0145】
図8に戻って説明を続ける。
ステップS310において、ECU80は、ステップS307と同様に、燃料電池スタック10の発電が安定しているか否か判定する。
燃料電池スタック10の発電は安定していると判定した場合(S310・Yes)、ECU80の処理は、エンドを通って、図6のステップS400に進む。一方、燃料電池スタック10の発電は安定していないと判定した場合(S310・No)、ECU80の処理はステップS311に進む。
【0146】
ステップS311において、ECU80は、ステップS305で算出した目標酸素濃度を一段階増加させ、この一段階増加後の目標酸素濃度となるように、エアポンプ31の回転数の増加、及び/又は、背圧弁33の開度の減少、を実行する。目標酸素濃度の一段階の増加の程度は、事前試験等により適宜に設定される。
【0147】
ステップS312において、ECU80は、現在の目標酸素濃度(S311で増加後の目標酸素濃度)が通常のIV特性における目標酸素濃度以下であるか否か判定する。通常のIV特性における目標酸素濃度とは、過不足なく豊潤な水素及び空気(酸素)を供給され通常に発電する燃料電池スタック10のIV特性(IV曲線)において、セル電圧を0.8Vとした場合における目標電流に対応した酸素濃度である(図15参照)。
【0148】
現在の目標酸素濃度は通常のIV特性における目標酸素濃度以下であると判定した場合(S312・Yes)、ECU80の処理はステップS310に進む。一方、現在の目標酸素濃度は通常のIV特性における目標酸素濃度以下でないと判定した場合(S312・No)、ECU80の処理はステップS313に進む。
【0149】
ステップS313において、ECU80は、燃料電池システム1を停止する。すなわち、ECU80は、燃料電池スタック10への水素及び空気の供給を停止し、燃料電池スタック10の発電を停止する。そして、ECU80は、警告ランプ(報知手段)を点灯(作動)させ、運転者に燃料電池スタック10が異常であることを報知することが好ましい。また、ECU80は、高圧バッテリ53からモータ51(PDU52)に電力供給し、燃料電池車の走行は継続させることが好ましい。
【0150】
<通常制御>
次に、ステップS302の判定結果がNoの場合に進むステップS350について説明する。
ステップS350において、ECU80は、燃料電池システム1を通常に制御し、通常のIV特性に従って燃料電池スタック10を通常に発電させる。すなわち、燃料電池スタック10に過不足ない豊潤な水素及び空気(酸素)を供給しつつ、ステップS301で算出した目標電力が出力されるように、燃料電池スタック10の実電流、実電圧を可変させる(図15参照)。
【0151】
その後、ECU80の処理は、エンドを通って、図6のステップS400に進む。
【0152】
<モータトルク制御>
次に、図9を参照して、モータトルク制御処理S400を説明する。
【0153】
ステップS401において、ECU80は、電源供給限界出力(W)を算出する。電力供給限界出力は、現在の燃料電池スタック10の出力(実電力)と高圧バッテリ53の限界出力とを加算したものから、補機消費電力を減算することで得られる(式(11)参照)。
【0154】
電源供給限界出力=FCスタック出力+高圧バッテリ限界出力+補機消費電力 …(11)
【0155】
高圧バッテリ53の限界出力は、その仕様(定格等)に基づいて定められる固定値である。補機消費電力は、ここでは、ステップS203で算出したものを採用する。
【0156】
ステップS402において、ECU80は、モータ51のトルク制限値を算出する。トルク制限値は、ステップS401で算出した電源供給限界出力を、燃料電池車の現在の車速で除算することで得られる(式(12)参照)。なお、燃料電池車の車速は、図示しない車速センサを介して検出される。
【0157】
トルク制限値=電源供給限界出力/車速 …(12)
【0158】
ステップS403において、ECU80は、モータ51の最終目標トルクを算出する。
具体的には、ECU80は、アクセル開度等に基づいて、マップ検索により、モータ51の目標トルクを算出し、この目標トルクに対して、ステップS402で算出したトルク制限値で制限し、最終目標トルクを算出する。
そして、ECU80は、この最終目標トルクがモータ51生成するように、PDU52を制御する。
【0159】
その後、ECU80の処理は、エンドを通って、図6のステップS103に進む。
【0160】
≪燃料電池システムの効果≫
このような燃料電池システム1によれば、次の効果を得る。
目標電力が所定電力以下でない場合(S302・No)、つまり、単セルの目標電圧が切替電圧(0.8V)以下である場合、燃料電池システム1が第1モードで運転し、燃料電池スタック10の実電力が目標電力に追従するので(S350)、燃料電池スタック10の発電が余剰/不足を抑制することができる。よって、高圧バッテリ53における充電/放電の頻度が少なくなり、ロスが少なくなる。
【0161】
一方、目標電力が所定電力以下である場合(S302・Yes)、つまり、単セルの目標電圧が切替電圧(0.8V)以上である場合、燃料電池スタック10の実電圧を所定値に固定するので(S303)、つまり、単セルの実電圧を切替電圧(0.8V)に固定するので、触媒の溶出等が抑制され、燃料電池スタック10が劣化し難くなり、その耐久性を向上できる。
また、エアポンプ31等を制御して酸素濃度を可変し、燃料電池スタック10のIV特性を変化させて、燃料電池スタック10の実電流を可変するので(S304、S305、S306)、燃料電池スタック10の実電力を目標電力に追従できる。これにより、高圧バッテリ53における充電/放電の頻度が少なくなり、ロスが少なくなる。
【0162】
目標電力を高圧バッテリ53の目標SOC(50%)に基づいて算出するので(S301)、高圧バッテリ53における充電/放電の頻度を少なくしつつ、高圧バッテリ53のSOCを好適に維持できる。
【0163】
燃料電池スタック10の発電が不安定である場合(S307・No)、循環ガスを増加させるので(S308)、燃料電池スタック10の発電が安定し易くなる。
【0164】
≪燃料電池システムの一動作例≫
次に、燃料電池システム1の一動作例について、図18を参照して説明する。
図18に示すように、システム消費電力(目標電力)が所定電力以下であり(S302・Yes)、燃料電池システム1が第1モードで運転する場合、燃料電池スタック10(単セル)の実電圧が一定であるものの(S303)、システム消費電力に燃料電池スタック電流(実電流)が追従し、燃料電池スタック10の実電力がシステム消費電力に追従している。また、エアポンプ31及び冷媒ポンプ41の消費電力もシステム消費電力に追従している。
【0165】
さらに、システム消費電力が増加すると、高圧バッテリ53が放電して、そのSOCが減少している。一方、システム消費電力が減少すると、高圧バッテリ53が充電し、そのSOCが増加している。
【0166】
≪変形例≫
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されず、例えば、次のように変更できる。
【0167】
前記した実施形態では、図2に示すように、燃料電池スタック10とモータ51と高圧バッテリ53との接続点から見て、第1コンバータ55が高圧バッテリ53側に配置された構成を例示したが、その他に例えば、図19の構成でもよい。
すなわち、図19(a)に示すように、前記接続点から見て、第1コンバータ55が燃料電池スタック10側に配置された構成でもよい。
また、図19(b)に示すように、燃料電池スタック10側、高圧バッテリ53側にそれぞれに、第1コンバータ55が配置された構成でもよい。
また、図19(c)に示すように、燃料電池スタック10と高圧バッテリ53とが直列で接続され、第1コンバータ55が高圧バッテリ53とモータ51との間に配置された構成でもよい。
【0168】
前記した実施形態では、酸素を含む空気を供給するエアポンプ31を備える構成を例示したが、これに代えて又は加えて、水素を供給する水素ポンプを備える構成としてもよい。
【0169】
前記した実施形態では、カソードオフガスを新規空気に合流させる合流流路(配管34a、34b)と、循環弁34とを備える構成を例示したが、これに代えて又は加えて、アノード側も同様に構成してもよい。例えば、配管23bに循環弁(オフガス流量制御手段、ガス供給手段)を設け、この循環弁により、新規水素に合流するアノードオフガスの流量を制御してもよい。
【0170】
前記した実施形態では、所定電圧が酸化還元進行電圧範囲(0.8〜0.9V)以下の0.8Vである構成を例示したが、所定電圧は、酸化還元進行電圧範囲外であればよく、具体的には、酸化還元進行電圧範囲(0.8〜0.9V)以上、つまり、0.9V以上である構成でもよい。
【0171】
前記した実施形態では、燃料電池システム1が燃料電池車に搭載された場合を例示したが、その他の移動体、例えば、自動二輪車、列車、船舶に搭載された構成でもよい。また、家庭用の据え置き型の燃料電池システムや、給湯システムに組み込まれた燃料電池システムに、本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0172】
1 燃料電池システム
10 燃料電池スタック(燃料電池)
14 セル電圧モニタ
21 水素タンク(燃料ガス供給手段)
31 エアポンプ(酸化剤ガス供給手段)
34 循環弁(オフガス流量制御手段、ガス供給手段)
34a、34b 配管(合流流路)
51 モータ(負荷)
53 高圧バッテリ(蓄電手段)
55 第1コンバータ
80 ECU(制御手段、発電安定性判定手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒を有し、前記触媒で酸素又は水素を反応させることで発電する燃料電池と、
酸素及び水素の少なくとも一方を、前記燃料電池に供給するガス供給手段と、
前記燃料電池に冷媒を供給する冷媒供給手段と、
前記燃料電池の出力する電圧を制御する電圧制御手段と、
前記燃料電池の出力する電力により駆動する負荷と、
前記ガス供給手段、前記冷媒供給手段及び前記電圧制御手段を制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記電圧制御手段を制御することで前記燃料電池の実電圧を前記触媒の酸化還元の進行する酸化還元進行電圧範囲外の所定電圧に固定した状態で、前記燃料電池への前記少なくとも一方の濃度が前記負荷の要求する要求電力に追従するように前記ガス供給手段を制御しながら、前記冷媒供給手段によって冷媒を前記燃料電池に供給する
ことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記制御手段は、
前記要求電力に基づいて算出される前記燃料電池の目標電圧と、前記触媒の酸化還元の進行する酸化還元進行電圧範囲以下の切替電圧と、に基づいて、前記ガス供給手段及び前記電圧制御手段を制御し、
前記目標電圧が前記切替電圧以下である場合、前記燃料電池の実電圧が目標電圧に追従するように前記電圧制御手段を制御する第1モードを実行し、
前記目標電圧が前記切替電圧以下でない場合、前記燃料電池の実電圧が前記切替電圧で固定されるように前記電圧制御手段を制御すると共に、前記ガス供給手段を制御して前記少なくとも一方の濃度を変化することによって前記燃料電池のIV特性を変化することで、前記燃料電池の実電流を変化させ、前記燃料電池の出力する実電力を前記要求電力に追従させる第2モードを実行する
ことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記切替電圧は、豊潤な反応ガスが通流し正常に発電する前記燃料電池のIV特性に基づいて設定されている
ことを特徴とする請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記燃料電池の発電した電力を蓄電する蓄電手段を備える
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記制御手段は、前記蓄電手段が目標蓄電量となるように、前記蓄電手段の蓄電量に基づいて前記要求電力を算出する
ことを特徴とする請求項4に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記制御手段は、前記燃料電池の実電圧を前記所定電圧に固定し、前記少なくとも一方の濃度を前記負荷の要求する要求電力に追従させている間、前記燃料電池への冷媒の供給量が前記要求電力に追従するように前記冷媒供給手段を制御する
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記燃料電池の発電が安定しているか否か判定する発電安定性判定手段を備え、
前記発電安定性判定手段が前記燃料電池の発電は安定していないと判定した場合、前記制御手段は、前記少なくとも一方の濃度が増加するように前記ガス供給手段を制御する
ことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項8】
前記燃料電池から排出された前記少なくとも一方のオフガスを、前記燃料電池に向かう前記少なくとも一方に合流させる合流流路を備え、
前記ガス供給手段は、前記合流流路に設けられ合流するオフガスの流量を制御するオフガス流量制御手段を含み、
前記発電安定性判定手段が前記燃料電池の発電は安定していないと判定した場合、前記オフガス流量制御手段はオフガスの流量を増加する
ことを特徴とする請求項7に記載の燃料電池システム。
【請求項9】
前記発電安定性判定手段が前記燃料電池の発電は安定していないと判定した場合、
前記オフガス流量制御手段がオフガスの流量を増加した後、
前記制御手段は、外部からの新規の前記少なくとも一方の濃度が増加するように前記ガス供給手段を制御する
ことを特徴とする請求項8に記載の燃料電池システム。
【請求項10】
前記ガス供給手段は、酸素を含む空気を供給するエアポンプを備える
ことを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項11】
前記ガス供給手段は、水素を供給する水素ポンプを備える
ことを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項12】
前記負荷は、車両の駆動用のモータを含み、
前記車両に搭載される
ことを特徴とする請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−185971(P2012−185971A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−47470(P2011−47470)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】