説明

燃料電池用電極触媒及びその製造方法

【課題】白金を使用せず、低コストで埋蔵資源量の制約を受けることがなく、かつ、燃料電池用電極触媒として優れた性能を有する固体高分子型燃料電池カソード触媒の提供。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるブロンズ化合物(一般式(1)中、Mは遷移金属を、Aは金属を表し、Mは、取り得る最高酸化数とそれより還元された小さい酸化数とからなる少なくとも2種以上の混合原子価をとり、Aは不定比組成を持ち、y=1のとき、遷移金属Mが取り得る最高の原子価状態によりzが決まり、0.1<x<1である。尚、該金属Aが、遷移金属である場合、該金属Aは、該遷移金属Mと異なる種類の遷移金属である。)を含有することを特徴とする固体高分子型燃料電池用カソード触媒。
AxMyOz (1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池用電極触媒および固体高分子型燃料電池用電極接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は水素、エタノールなどを電気化学的に反応させて電気エネルギーを直接得る装置であり、高効率かつ低公害性な発電システムとして近年注目されている。
この燃料電池は、使用される電解質などの違いにより数種類に分類され、溶融炭酸塩型(MCFC)、リン酸型(PAFC)、固体酸化物型(SOFC)、固体高分子型(PEFC)等がある。これらの中で、PEFCは小型、軽量、簡便性などの利点から、自動車用、家庭用定置型コジェネレーションシステムや、携帯電話、ノートPCなどの電子端末機器用小型電源等、実用化に向けた検討が試されている。
【0003】
PEFCで用いる燃料源には色々なものがあり、水素やアルコールなどが挙げられ、特に比較的安価で取り扱いの容易なメタノールを燃料に用いる直接メタノール型PEFCはDMFCと呼ばれ、小型化、軽量化が容易であり注目されている。
これらのPEFCのカソード(空気極)では、以下のような酸素還元反応がおきている。
カソード(空気極):O + 4H + 4e → 2H
この反応に使用される触媒として実用化されているのは、白金(Pt)をカーボン粒子に担持させたものである。しかし、Ptはコストが高く、埋蔵資源量が少ないので、例えば燃料電池車を世界規模で普及させるだけのPt量が地球上に存在しないという致命的な問題がある。
【0004】
上記問題を解決するために、白金以外の金属、金属酸化物を触媒として適用することが検討されている。
例えば、導電性カーボン粒子上に、Nb、Ni、Sn、Ta、Ti、およびZrの中から選択された元素とSiとを含む酸化物または水酸化物からなる化合物が被着されたPt材料からなる燃料電池用触媒(特許文献1)がある。しかし、この方法では従来と変わらず白金の使用が必須であり、白金埋蔵量の制限を受けるという点で、問題の解決には至っていない。
また、酸化ルテニウム、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化マンガン、酸化コバルト、酸化ニッケルおよび酸化タングステン、あるいは窒化モリブデンから選ばれる少なくとも1種の燃料電池用触媒(特許文献2)などがある。この技術において、白金を使用しないという点では有用ではあるが、しかしながら、これらの電極触媒を使用した場合、その起電力は低く、実用上の性能を有しているとは言い難く、課題に対する解決策とはなりえていない。
【0005】
一方、ルテニウムは酸素還元活性を有するので、カソード触媒としての可能性が報告されている(非特許文献1)。さらに、ルテニウムにはメタノール酸化活性がないため(非特許文献2)、DMFCカソード触媒として使用すると、メタノールクロスオーバー時の一酸化炭素被毒の問題が発生しない利点がある。しかし、その酸素還元反応の過電圧は、白金と比較して大きく、実用上の使用の制限となっている。
また、パラジウムも酸素還元活性を有するので、カソード触媒としての可能性が報告されている(非特許文献3、特許文献3)。これらの文献では、一般に燃料電池へ使用する形態である微粒子状の触媒ではなく、金属板やスパッタ膜などを用いているため明確な比較はできなかったが、その後の本発明者等の検討により、白金よりも性能は悪く、加えてパラジウム使用量はまだまだ多く、結果、コスト面でも解決されておらず、改善の必要がある。
【0006】
ここで、コスト面及び埋蔵量面での問題を解決できる新規な触媒になり得る材料として、ブロンズ化合物が挙げられる。ブロンズ化合物とは、一般に通常の酸化物とは異なり、特異的な性質を示す物をいい、例えば、電気の良導体(金属的、半導体を含む)になったり、酸やアルカリに対して化学的に強い性質を示したりする物を言う。ブロンズ化合物は、こういった性質を持つため、以前から製造法、その構造解析、電極触媒への利用等の研究が行われているが、燃料電池用カソード触媒として活性を示した正確な報告例はなく、製造法及び活性出現共に多くの改善が必要である。
【0007】
ブロンズ化合物を触媒として利用する際には、以下の3点の特徴を備えていることが望ましい(以下3点を総称して触媒理想条件と言う)。
触媒理想条件の1つ目は、ブロンズ化合物を望ましい形状、サイズ、表面積に保つことや、ブロンズ化合物間のシンタリングを防止することや、ブロンズ化合物と担体間の電子的相互作用による触媒能力の向上などといった観点から、ブロンズ化合物と担体間の電子的相互作用を有するような担体への担持の必要性が挙げられる。
触媒理想条件の2つ目は、ブロンズ化合物の電子伝導性を向上させ、触媒能力を高めるといった観点から、ブロンズ化合物(AxMyOz)の組成において、y=1とした際に、xを0.1より大として金属Aのドープ量をリッチにすることが挙げられる。
そして、触媒理想条件の3つ目は、触媒製造工程において水素ガスのような取り扱いに危険性を伴う還元ガスを用いることなく、触媒を製造できることが挙げられる。
【0008】
従来は、ブロンズ化合物を電解還元法によって作製する場合が多く、例えば、非特許文献4では、ブロンズ化合物NaWOの製造に、酸化タングステン(VI)と無水炭酸ナトリウムとを乳鉢で摩砕混合し、電気炉内で完全に融解するまで加熱した後、両電極にタングステン棒を使用し、融液に浸漬させ両電極間に直流6Vをかけながら電解還元を行っている。このようなブロンズ化合物の製造方法は、最大でxが0.85のブロンズ化合物を製造できるため、上記記載の触媒理想条件の2つ目の条件は満足している。しかし、ブロンズ化合物NaWOは電極上に析出しそれを取り出すことによって得るので、触媒理想条件の1つ目であるブロンズ化合物と担体間の電子的相互作用を有するような担体への担持を達成するには更なる工程を必要とする。
【0009】
最近では、ソフト化学的手法によりブロンズ化合物を製造する方法も報告されている。例えば、非特許文献5では、ブロンズ化合物KWOを、タングステン金属粉末を過酸化水素水溶液で酸化し、過酸化ポリタングステン酸水溶液を一度作成した後、臭化カリウム水溶液を加え1日間析出させたものを乾燥、水素ガスによる還元焼成を施すことで、最大でxが0.33のブロンズ化合物を製造している。即ち、触媒理想条件の2つ目の条件は満足している。しかし、触媒理想条件の1つ目であるブロンズ化合物と担体間の電子的相互作用を有するような触媒の製造方法についての開示はなく、水素ガスを用いた焼成工程を行っていることから触媒理想条件の3つ目も満足していない。
【0010】
特許文献4は、タングステンを有するブロンズ化合物の原料となる2種の金属塩の混合溶液の乾固物を水素ガスによる還元焼成を施すことによりタングステンを有するブロンズ化合物の製造方法を開示している。そして、上記混合溶液を担体としての板状、棒状、織布、多孔質材料上に塗布した後に同様な作業を施すことにより触媒理想条件の1つ目であるブロンズ化合物と担体間の電子的相互作用を有するような触媒(タングステンを有するブロンズ被覆複合体)の製造方法を開示している。具体的には、上記ブロンズ化合物を黒鉛繊維布である織布担体へ担持した形態を開示している。特許文献4は、ブロンズ化合物KWOにおいて、最大でxが0.27の組成物を製造しており、触媒理想条件の2つ目の条件も満足している。しかしながら、焼成時に還元ガスとして水素ガスを使っており、触媒理想条件の3つ目を満足していない。
【0011】
一方、非特許文献6、7は、特許文献4と近似な方法でタングステンブロンズ化合物を製造方法を開示するが、水素ガスを使わずアルゴンガスのみの雰囲気下でリチウム及びナトリウム−タングステンブロンズ化合物の製造方法で、得られるブロンズ化合物は、AxWO(A=Li,Na)において、x<0.1であり、このような、x<0.1といった、xが少ない値ではブロンズ化合物の伝導性が低いため、触媒に用いるには適さず、触媒理想条件の2つ目の条件を満足するものではない。しかも、アルゴンガスのみ用いる製造方法では、担体への担持を実施しないため、触媒理想条件の1つ目も満足しない。
【0012】
【特許文献1】特開平9−167620号公報
【特許文献2】特開2005−63677号公報
【特許文献3】特開2005−135752号公報
【特許文献4】特開平8−73223号公報
【非特許文献1】Electrochimi Acta, 31(9), 1125(1986)
【非特許文献2】J.Electrochem.Soc., 147(12), 4421(2000)
【非特許文献3】15th World Hydrogen Energy Conference 要旨集 P09−12(2004年)
【非特許文献4】新実験化学講座8.無機化合物の合成(1).317−318(丸善株式会社出版)
【非特許文献5】Solid.State.Ionics.59.1993,211−216
【非特許文献6】第34回セラミックス基礎科学討論会 1D−18(1995年)
【非特許文献7】日本産業技術振興協会技術資料 No.262,167−168(1996年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記した従来技術に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、白金を使用せず、低コストで埋蔵資源量の制約を受けることがなく、かつ、燃料電池用触媒として優れた性能を有する固体高分子型燃料電池カソード触媒を提供することを目的とする。又、上記触媒を、簡便で低コストかつ水素ガスを使わずに安全な雰囲気下で、製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、ブロンズ化合物を燃料電池用カソード触媒に用いることで、低コストで埋蔵資源量の制約を受けることがなく、かつ、優れた性能を有することを見出し、本発明をなすに至った。具体的には、酸素還元反応の過電圧を減少させその反応電流値を増大させるものである。又、その製造方法に関しては、ブロンズ化合物を形成する原料物質の調整と、導電性担体である炭素粒子を添加する工程手順及びその効果に着目した。その結果、ブロンズ化合物を形成する原料物質である遷移金属Mと金属Aが溶解した均一溶液中に、炭素粒子を予め分散させた状態を作り、次いで溶媒を除去、焼成することにより高導電性のブロンズ化合物が炭素粒子に担持した触媒を、水素ガスを使用せずに製造できることを見出し本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、下記の固体高分子型燃料電池用電極触媒及びその製造方法、そして燃料電池を提供するものである。
1、下記一般式(1)で表されるブロンズ化合物(一般式(1)中、Mは遷移金属を、Aは金属を表し、Mは、取り得る最高酸化数とそれより還元された小さい酸化数とからなる少なくとも2種以上の混合原子価をとり、Aは不定比組成を持ち、y=1のとき、遷移金属Mが取り得る最高の原子価状態によりzが決まり、0.1<x<1である。尚、該金属Aが、遷移金属である場合、該金属Aは、該遷移金属Mと異なる種類の遷移金属である。)を含有することを特徴とする固体高分子型燃料電池用カソード触媒。
AxMyOz (1)
【0016】
2、該遷移金属Mが、W、Co、Ru、Pd、Mo、Fe、Mn、Niから選択されるいずれか一種以上の金属であることを特徴とする上記1に記載の固体高分子型燃料電池用カソード触媒。
3、該金属Aがアルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類金属から選択されるいずれか一種以上の金属であることを特徴とする上記1又は2に記載の固体高分子型燃料電池用カソード触媒。
4、上記1〜3のいずれかに記載の触媒が、炭素粒子上に担持されてなることを特徴とする固体高分子型燃料電池用カソード触媒担持体。
5、遷移金属Mのイオン、遷移金属Mの酸化物のイオン、遷移金属Mの窒化物のイオン、遷移金属Mの硫化物のイオンの何れかから選択されるイオンと、金属Aのイオンと、炭素粒子とを極性溶媒に分散混合して得られた分散混合物から該極性溶媒を除去して得られた残留物を、引き続き、不活性ガス、一酸化炭素及び空気から選択される少なくとも1種以上の雰囲気下で焼成することを特徴とする上記4に記載の固体高分子型燃料電池用カソード触媒担持体の製造方法。
【0017】
6、該炭素粒子が、予め空気雰囲気下で焼成されていることを特徴とする上記5に記載の触媒担持体の製造方法。
7、該分散混合物中の、遷移金属Mの酸化物のイオンが、遷移金属Mの酸化物のアンモニウム塩から得られることを特徴とする上記5又は6に記載の触媒担持体の製造方法。
8、該分散混合物中の金属Aのイオンが、金属Aの塩素塩及び/又は硝酸塩から得られることを特徴とする上記5〜7のいずれかに記載の触媒担持体の製造方法。
9、焼成温度が、400℃以上であることを特徴とする上記5〜8のいずれかに記載の触媒担持体の製造方法。
10、上記5〜9のいずれかに記載の製造方法で得られた触媒担持体を、更にPt、Pd、Ru、Rh、Ir及びOsから選択される少なくとも1種以上の金属の金属イオン及び/又は金属錯体イオンを含有する極性溶媒からなる溶液に分散し、引き続き該溶媒を除去して得られた残留物を焼成することにより製造されることを特徴とする触媒担持体の製造方法。
11、アノードとカソードと固体高分子膜から構成される接合体において、該カソード極に上記1〜4のいずれかに記載の触媒または、触媒担持体を有することを特徴とする固体高分子型燃料電池用電極接合体。
【発明の効果】
【0018】
本発明の固体高分子型燃料電池用電極触媒によれば、多種に渡る安価な遷移金属をメインに用いるため、白金を使用せず、その埋蔵資源量の制約を受けることがない。さらに、従来の白金以外の金属触媒の欠点であった酸素還元反応の過電圧を減少させることで、燃料電池用カソード触媒として優れた性能を有する。従って本発明によれば、優れた発電特性を有する固体高分子型燃料電池用電極接合体を提供することができる。
また、本発明の製造方法によれば、簡便で低コストかつ水素ガスを使わずに安全な雰囲気下で上記固体高分子型燃料電池用カソード触媒を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の触媒とその製造方法について具体的に説明する。
先ず、本発明の触媒についての詳細を説明する。
本発明の触媒は、下記一般式(1)で表されるブロンズ化合物(一般式(1)中、Mは遷移金属を、Aは金属を表し、Mは、取り得る最高酸化数とそれより還元された小さい酸化数とからなる少なくとも2種以上の混合原子価をとり、Aは不定比組成を持ち、y=1のとき、遷移金属Mが取り得る最高の原子価状態によりzが決まり、0.1<x<1である。 尚、該金属Aが、遷移金属である場合、該金属Aは、該遷移金属Mと異なる種類の遷移金属である。)を含有することを特徴とする。
AxMyOz (1)
【0020】
本発明における遷移金属Mは、遷移金属から選択される金属であれば特に制限はないが、埋蔵資源量の制約を受けることがない点、低コストである点、これら金属が酸素還元の活性サイトと考えられるため、酸性下における酸素還元の理論電位値と金属のレドックス準位値とが近いものが好ましい点、更には、ブロンズ化合物を用いた際の燃料電池用電極触媒としての耐久性を考慮すると、W、Co、Ru、Pd、Mo、Fe、Mn、Niが好ましく、高い触媒活性の発現といった観点から、より好ましくは、W、Co、Ru、Pdである。また、遷移金属Mは1種類の金属から構成されていても良いし、2種類以上の金属の混合状態から構成されていても構わない。
【0021】
一方、本発明における金属Aは、金属であれば構わず、金属Aが遷移金属である場合には、上記遷移金属Mに用いられた遷移金属以外の種類の遷移金属であれば構わない。中でも、安定で耐性のあるブロンズ化合物を形成できるといった観点と、金属酸化物へのドープのしやすさ、イオン化エンタルピーの大きさといった観点から、好ましくは後周期遷移金属、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属であり、より好ましくはアルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属であり、更に好ましくはアルカリ金属、アルカリ土類金属である。また、金属Aは1種類の金属から構成されても良いし、2種類以上の金属の混合状態から構成されていても構わない。
【0022】
本発明の触媒を構成するブロンズ化合物(AxMyOz)の組成は、式中、Mは、取り得る最高酸化数とそれより還元された小さい酸化数とからなる少なくとも2種以上の混合原子価をとり、Aは不定比組成を持ち、但し、y=1のとき、遷移金属Mが取り得る最高の原子価状態によりzが決まり、0.1<x<1である。尚、不定比組成とは、固定されたy、zに対して、ブロンズ化合物が単相を維持し得るxの範囲を示す。
【0023】
上記ブロンズ化合物がカソード触媒として高い能力を持つには、高分子型燃料電池に使用される高分子電解質は強酸性であるので、耐酸性をもつことは当然に必要であるが、より高い電気の良導体となることが必要である。そこで、ブロンズ化合物の遷移金属Mの酸化数と、金属Aの量であるxが重要になってくる。遷移金属Mは、O原子と酸化物を形成し、その際、遷移金属Mの酸化数は、取り得る最高の原子価状態を取りながら、O原子の数であるzが決まる。この酸化物に、金属Aがxだけドープされることによって、金属Aから、遷移金属MとO原子からなる骨格で形成される混成軌道内に電子が注入され、高い電子伝導性を発現することができる。その際、遷移金属Mの酸化数は、電子の注入により還元され、一部は最高酸化数より還元された小さい酸化数を取るものが混在する。以上により、遷移金属Mの酸化数と、金属Aの量であるxが重要になってきて、より高い電子伝導性を発現するには、金属Aが上記指定の範囲内でできるだけ多くドープされることで、遷移金属Mは最高酸化数より還元された小さい酸化数が混在することは必須で、その混在量はできるだけ多い方が好ましい。
【0024】
よって、y=1の場合、その時の金属Aの量であるxは、0.1<x<1であり、更に高い伝導性を持たせるといった観点から、好ましくは0.25<x<1であり、更に好ましくは、0.40<x<1である。
また、遷移金属Mの酸化数は、上記記載により、取り得る最高酸化数とそれより還元された小さい酸化数とからなる少なくとも2種以上の混合原子価であることが必要で、かつ還元された小さい酸化数の混在量はできるだけ多い方が好ましく、全酸化数に対する、還元された小さい酸化数の割合は、好ましくは20%以上が良く、更に好ましくは50%である。上限に関しては、還元された酸化数のみになってしまうと、ブロンズ化合物自身の安定性が保てなくなることから、少しでも取り得る最高酸化数を混在させることは必要で、よって99%以下である。又、最高酸化数より還元された小さい酸化数は、1種でも良いし、2種以上でも構わない。
【0025】
本発明により得られた触媒のx、y、zの値をはじめとする組成、構造決定は、粉末X線回折法(XRD)、蛍光X線分析法(XRF)、X線光電子分光分析法(XPS)、誘導結合高周波プラズマ発光分光分析法(ICP発光法)等を用いて決定することができる。
本発明のブロンズ化合物の形態は、いかなる形態であっても構わないが、ブロンズ化合物を触媒として有効に働かせるといった観点から、粒子状であれば更に好ましい。又、粒子サイズは、同様な理由から高比表面積となり得るものが良いといった観点から、平均粒子径の上限値は、好ましくは1μm以下、より好ましくは100nm以下、更に好ましくは10nm以下である。平均粒子径の下限値は特に制限されるものではないが、物理的安定性の見地から1nm程度以上とすれば良い。ここで述べている平均粒子径とは、触媒担体を除いた実質的な触媒有効成分を透過型顕微鏡(TEM)により観察し、任意に選んだ100個の粒子径の算術平均値である。
【0026】
本発明におけるカソード触媒は、本発明のブロンズ化合物の触媒としての性能を阻害しない限り、それ以外の物質を混在させてもよい。例えば、金属、合金、ペロブスカイト型、パイロクロア型などの金属酸化物、金属窒化物、金属硫化物、配位高分子型錯体、大環状金属錯体などが挙げられる。その混在割合は、ブロンズ化合物の触媒としての性能が十分に発現できるためには、好ましくは、本発明のブロンズ化合物が、全触媒の70質量%以上が良く、更に好ましくは、全触媒の90質量%以上が良い。又、白金を含んだ化合物を混在させても構わないが、本発明の目的から外れないように、混在させる量はできるだけ少量とする。
【0027】
本発明の触媒は、導電性担体に担持させることによりその触媒活性を向上させることができるので好ましい。導電性担体としては、例えば炭素を用いることができ、その形状は特に限定されるものではなく、例えば、粒子状、繊維状、布状、シート状などの形状で用いることができる。特に、粒子状であると高表面積となり、多くの触媒を担持できるのでより好ましい。
【0028】
固体高分子型燃料電池用電極触媒として、必須な3要素は、次の3点である。(1)電子伝導性をもつこと、(2)高分子型燃料電池に使用される高分子電解質は強酸性であるので、耐酸性をもつこと、(3)酸素還元活性をもつこと、である。一般に、白金以外の多くの触媒は、上記記載の(2)の条件を達成できておらず、強酸条件に耐えることができず、溶出など問題を引き起こしている。しかし、本発明の触媒は、ブロンズ化合物に特徴的である遷移金属MとO原子からなる骨格により、強い耐酸性を持つことが可能であり、固体高分子型燃料電池用触媒として優れている。
【0029】
更に、本発明の触媒は、(1)の条件に関しても、先述したように、優れた性能を持ち合わせており、金属Aが組成内にドープされることにより、金属Aから、中心金属MとO原子からなる骨格で形成される混成軌道内に電子が注入され、高い電子伝導性を発現することができる。
又、本発明の触媒は、当然のことながら、(3)の条件に関しても、十分に高い性能を持ち合わせており、酸素還元反応の過電圧を減少させることができる。
加えて、遷移金属Mの使用量は、金属触媒や合金触媒に加えて、圧倒的に少ないのは、組成式から見て明らかであり、コスト面でも優れる。また、大環状金属錯体触媒のように、高価な材料は用いておらず、安価な金属を用いれば、いっそうコスト面でも優れる。
上記記載のように、本発明の触媒は、固体高分子型燃料電池用電極触媒として優れていることが分かる。
【0030】
以下、導電性担体であるカーボン粒子に本発明の触媒を担持させた状態の触媒担持体の製造方法に関して説明する。
先ず、各々の原材料について説明する。
本発明の触媒担持体は、遷移金属Mのイオン、遷移金属Mの酸化物のイオン、遷移金属Mの窒化物のイオン、遷移金属Mの硫化物のイオンの複数のタイプのイオン形態の何れかから選択されるイオンと、金属Aのイオンと、導電性担体としての炭素粒子とを少なくとも含有する極性溶媒からなる分散混合物から該極性溶媒を除去して得られた残留物を、引き続き、不活性ガス、一酸化炭素及び空気から選択される少なくとも1種以上の雰囲気下で焼成することによって製造されることを特徴とし、得られた触媒担持体は、遷移金属を含有する酸化物AxMyOzが炭素粒子上に担持された状態であり、酸化物AxMyOz中、Mは取り得る最高酸化数とそれより還元された小さい酸化数とからなる少なくとも2種以上の混合原子価をとり、Aは不定比組成を持ち、y=1のとき、遷移金属Mが取り得る最高の原子価状態によりzが決まり、0.1<x<1である。尚、本発明では、金属Aが、遷移金属である場合、遷移金属Mと異なる種類の遷移金属である場合も含む。
【0031】
本発明では、遷移金属Mがとる上記の複数タイプのイオン形態は、水素、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等の遷移金属Mのアルカリ金属塩、遷移金属Mのアルカリ土類金属塩、或いは、遷移金属Mのアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、モノメチルアンモニウム塩、ジメチルアンモニウム塩、トリメチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、トリフェニルアンモニウム塩等の遷移金属Mの有機アンモニウム塩、又、遷移金属Mのテトラフェニルフォスフォニウム塩、テトラエチルフォスフォニウム塩、テトラメチルフォスフォニウム塩等の遷移金属Mの有機フォスフォニウム塩、更には、遷移金属Mの酸化物、窒化物、硫化物として上記のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、有機アンモニウム塩、有機フォスフォニウム塩を形成した態様のものを分散混合物の原料として用いることで形成できる。
【0032】
特に焼成後、ブロンズ化合物を形成しやすいといった観点から、好ましくは遷移金属Mの酸化物の有機アンモニウム塩、有機フォスフォニウム塩が好ましく、中でも、遷移金属Mの酸化物の有機アンモニウム塩が好ましい。
金属Aがとるイオン形態は、フッ素塩、塩素塩、臭素塩、ヨウ素塩等からなる金属Aのハロゲン化物塩、金属Aの硝酸塩、金属Aの硫酸塩、金属Aのシュウ酸塩、金属Aの炭酸塩等の態様のものを分散混合物の原料として用いることで形成できる。特に焼成後、ブロンズ化合物の構造を形成しやすいといった観点から、金属Aの塩素塩、臭素塩からなる塩と、金属Aの硝酸塩が好ましい。
【0033】
尚、本発明の製造方法で製造されるブロンズ化合物(AxMyOz)において、遷移金属Mに対して金属Aに該遷移金属Mとは異なる種類の遷移金属を用いる場合には、分散混合物中の金属A、遷移金属Mの各々がとるイオン形態は、金属Aのイオンに対して、遷移金属Mの酸化物のイオンの組合せとすることでブロンズ化合物の組成を制御することが、より容易となる。
本発明に用いられる分散混合物は上記の遷移金属M、金属Aを供給する原料が分散混合物を構成する溶媒に均一に溶解していることを特徴とする。用いられる溶媒は、極性溶媒を主成分とするものであれば構わず、具体的には、水、アルコール系、アセトン等が好ましい。尚、用いる溶媒は単一系であっても混合系であっても構わない。
【0034】
次に本発明に用いられる分散混合物を構成する炭素粒子について説明する。
該炭素粒子は、導電性担体として用いられる限り特に限定はないが、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラック、グラファイト、活性炭等が挙げられる。粒子サイズは、上限は、好ましくは1μm以下、より好ましくは100nm以下であり、下限は、好ましくは10nm以上、より好ましくは30nm以上である。そして、炭素粒子の比表面積は、好ましくは20m/g〜1400m/g、より好ましくは400m/g〜1000m/g、最も好ましくは600m/g〜900m/gである。特に本発明の触媒を燃料電池用電極の触媒に用いる場合は、カーボンブラックが、電池性能が向上するといった観点から好ましく、中でもケッチェンブラック(登録商標、ケッチェン・ブラック・インターナショナル株式会社製)を用いるのが好ましい。
尚、本発明では、上記の炭素粒子以外にも、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノフォーン(ヘリンクボーン型やプレートレット型等)等を用いることができる。
【0035】
本発明では、炭素粒子を無処理のまま用いても目的の触媒を製造することは可能であるが、予め空気中雰囲気下で焼成処理したものを用いると、金属Aがより多く含まれた遷移金属からなるブロンズ化合物を形成させることができるので好ましい。この理由は明らかではないが、空気雰囲気下で焼成処理することにより、炭素粒子の表面に予め多くの一酸化炭素分子が存在した状態を形成でき、この一酸化炭素分子が、後に記載する焼成工程において還元効果を促進させるからであると推察される。炭素粒子の前処理焼成の温度は、炭素が酸化しすぎることにより二酸化炭素ガスとなり焼失しない程度の温度であれば構わず、具体的には、100℃以上550℃以下であり、より好ましくは200℃以上450℃以下である。前処理焼成の時間は、上記と同様な理由により1時間程度が好ましい。
【0036】
本発明では、先ず、上記の遷移金属Mを供給する原料、金属Aを供給する原料、炭素粒子、極性溶媒から分散混合物を製造するので、以下に、分散混合物の製造条件について説明する。
遷移金属Mを供給する原料と金属Aを供給する原料を極性溶媒に溶解させる方法については特に限定されないが、例えば、遷移金属Mを供給する原料と金属Aを供給する原料とを同時に極性溶媒に溶解させ溶液を作製してもよいし、遷移金属Mを供給する原料の溶液と金属Aを供給する原料の溶液とを予め別々に作製しておき、これらを混合してもよい。
本発明では、溶液は均一系になることが重要であり、不溶物が出る場合は、酸やアルカリを添加してpHを調整し、均一系溶液にする事が好ましい。その際用いる酸は、例えば塩酸、硫酸、硝酸等、アルカリはヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
【0037】
上記のようにして得られた遷移金属Mと金属Aを含有する均一溶液に引き続き導電性担体としての炭素粒子を加え分散すれば分散混合物を得ることができるが、遷移金属Mを供給する原料と、金属Aを供給する原料と、炭素粒子とを極性溶媒に同時に添加・分散して分散混合物を製造しても構わない。
分散混合物を作成するための分散方法は限定されないが、より微分散をさせることを目的として、ペイントシェーカー、ボールミル、ホモジナイザー等の混合攪拌機、超音波ホモジナイザー等を使用できる。好ましくは超音波ホモジナイザーによる分散であり、その際には、10分以上行うことが好ましい。また、遷移金属Mを供給する原料、金属Aを供給する原料を予め乳鉢等によって十分に粉砕し溶解しやすくしておくことも有効な手段である。
【0038】
以上のようにして得られる分散混合物には、遷移金属Mのイオン、遷移金属Mの酸化物のイオン、遷移金属Mの窒化物のイオン、遷移金属Mの硫化物のイオンの何れかから選択されるイオンと、金属Aのイオン及び導電性担体である炭素粒子以外にも、ブロンズ化合物が製造できる限りは他の物質が含まれてよい。
【0039】
他の物質として、例えば以下のものが挙げられる。溶液のpHを調整するために加える塩酸、硫酸、硝酸等の酸や、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ、その他に分散体の分散度合いや粘度を調整するための有機物バインダー、金属過酸化物(例えば、過酸化チタン、過酸化スズ、過酸化ニオブ等)や金属アルコキシド等の無機物バインダー、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、セルロースおよびその変性体等の高分子化合物、ノニオン系、アニオン系、カチオン系やシリコーン系等の各種界面活性剤類、キレート補助剤類である。尚、遷移金属Mを供給する原料でMの対イオンをなしている各種イオン、金属Aを供給する原料でAの対イオンをなしている各種イオンは当然に分散混合物に含まれていても構わない。
【0040】
以上のようにして、分散混合物を製造することができるが、分散混合物を構成する原料の組成比について以下に説明する。
遷移金属Mを供給する原料と金属Aを供給する原料の仕込み質量比率は、目的とするブロンズ化合物のxとyの割合によって適宜決められる。予め、予備実験をし目処を立て、本発明の範囲内で、目的とするxとyになるような遷移金属Mを供給する原料と金属Aを供給する原料の仕込み質量比率を設定できる。詳細は、後述する実施例の炭素粒子に担持した触媒担持体作製にて添加量を示してあるが、不要な副生成物ができるだけ混在しないようなブロンズ化合物が形成できる範囲からして、好ましくは、(金属A/遷移金属M(モル比率))が0.1〜2.0、より好ましくは0.25〜1.5、最も好ましくは0.5〜1.25である。
【0041】
一方、炭素粒子は、後述するように、本発明の製造方法によって、焼成時に炭素粒子表面に形成される一酸化炭素がブロンズ化合物を形成するためのマイルドな還元剤になるので、ある程度の炭素粒子量が必要である。したがって、(ブロンズ化合物+炭素粒子)に対する炭素粒子量の割合が、好ましくは10〜90質量%、より好ましくは30〜80質量%である。
(遷移金属Mを供給する原料+金属Aを供給する原料+炭素粒子(これら合計を、固形分、とする))と溶媒の仕込み質量比率は、固形分が均一に溶解・分散できる割合であれば制限はないが、好ましくは、(固形分/溶媒)は1〜5質量%である。
【0042】
以上のようにして得られた分散混合物は、引き続き、溶媒を除去し、次いで残留物を不活性ガス、一酸化炭素及び空気から選択される少なくとも1種の雰囲気下で焼成をすることによって、高導電性のブロンズ化合物が炭素粒子上に担持した本発明の触媒とすることができる。そして、上記焼成工程を経ることで、ブロンズ化合物と担体(炭素粒子)間の電子的相互作用を有する触媒担持体を製造することが可能となる。
分散混合物から溶媒を除去する方法には限定はないが、ブロンズ化合物となる前駆体成分と担体としての炭素粒子が均一に付着した状態で固体化できるように、できるだけ短時間で溶媒を除去することが好ましい。例えば、ロータリーエバポレーターによる真空下で除去する方法、ホットプレート上へ噴霧して除去する方法等が挙げられる。除去の際の温度は、100℃以下、より好ましくは60℃以下である事が副反応が生じにくいので好ましい。
【0043】
溶媒を除去した後の残留物の焼成は、不活性ガス、一酸化炭素及び空気から選択される少なくとも1種の雰囲気下で行う。ガスの選択、割合等は、原料選択、原料と炭素粒子の割合、製造するブロンズ化合物の組成により適宜調整する。例えば、遷移金属Mを供給する原料が遷移金属Mの酸化物の場合や、ブロンズ化合物中の金属Aの割合を多くする場合は、より還元雰囲気下にするために一酸化炭素ガスを混在させることが好ましい。一方、炭素粒子の割合が原料に対して多い場合は、焼成時に炭素粒子から形成される一酸化炭素の還元力効果があるので、不活性ガスを主にする。
【0044】
焼成温度は制限されないが、下限は、先に述べた、分散体内の遷移金属を供給する原料と金属Aを供給する原料の焼成時に焼失するイオン対や、適宜混在した添加物で焼失させたいもの等が、焼失できるような温度以上にすることが望まれ、好ましくは400℃以上、より好ましくは600℃以上、最も好ましくは700℃以上である。上限の温度は、あまり高温にすると、形成されたブロンズ化合物のシンタリングにより粒子サイズが大きくなり、そのため比表面積が小さくなる恐れがあるため、好ましくは900℃以下、より好ましくは800℃以下である。
【0045】
焼成時間にも制限はないが、ブロンズ化合物の形成率の向上のため、好ましくは30分以上、3時間以下である。
製造条件によっては必要のない副生成物が混在する触媒担持体が製造される場合がある。その際には、得られた触媒を酸やアルカリで洗浄し、副生成物を溶解させることにより除去できる。酸やアルカリは、ブロンズ化合物が安定に存在できるものであれば制限はないが、例えば、シュウ酸水溶液等が好適である。
以上の製造方法により本発明の触媒担持体を製造することができる。
【0046】
このように、本発明の製造方法で得られる触媒担持体を構成するブロンズ化合物中の金属A含有量が高く得られるのは、本発明において、遷移金属Mを供給する原料と、金属Aを供給する原料とが溶解した均一溶液中に、予め炭素粒子を分散させたことが有効に働いていると推察される。つまり、焼成工程において遷移金属Mが酸化物を形成する際に、炭素粒子上に発生すると思われる一酸化炭素がマイルドな還元剤になり、最も安定な酸化物になるような遷移金属Mの酸化数から少し少ない酸化数をとることができ、そこへ金属Aをドープすることができるためと推察できる。そのため本発明では、焼成雰囲気下で、還元剤である水素ガスを用いる必要はなく、安全面からも有用である。
【0047】
上記記載のように、本発明は、焼成工程において炭素粒子上に発生すると思われる一酸化炭素がマイルドな還元剤になり、目的のブロンズ化合物を製造できるため、用いる炭素粒子の比表面積量が重要である。そこで、先記した本発明に用い得る炭素の比表面積を遷移金属Mのモルあたりの比表面積に換算したところ、目的のブロンズ化合物になるためには、下限は、好ましくは遷移金属M1mol当りに対して2×10以上、更に好ましくは遷移金属M1mol当りに対して3×10以上である。また、あまり炭素粒子の全比表面積が大きすぎると、炭素粒子径を極端に小さくせざるを得なくなり、それでは導電性に支障がでる恐れがあるため、上限は、好ましくは遷移金属M1mol当りに対して2×10以下、更に好ましくは遷移金属M1mol当りに対して1×10以下である。
【0048】
本発明の触媒担持体は、本発明のブロンズ化合物の触媒としての性能を阻害しない限り、それ以外の物質を混在させてもよい。その混在割合は、先述したような割合にする必要があり、特に、白金を含んだ化合物は、混在させても構わないが、本発明の目的から外れないように、混在させる量はできるだけ少量とする。
上記混在させる手法に関しては、特に制限はない。例えば、後から物理的に単純混合させても良いし、上記記載の製造方法により、ブロンズ化合物が主生成物として、それ以外の物質が副生成物として同時に製造される場合でも構わない。
特に、本発明の製造方法により得られる触媒担持体に、更に、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム及びオスミウムから選ばれた少なくとも1種の貴金属を混在させる場合には、例えば、以下に述べる製造方法が挙げられる。
【0049】
上記の触媒担持体は、炭素粒子にブロンズ化合物を含有する材料を担持させた触媒担持体を、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム及びオスミウムから選択される少なくとも1種以上の貴金属の貴金属イオン及び/又は貴金属錯体イオンを含有する溶液に分散し、次いで溶媒を除去し、得られた残留物を焼成することにより製造できる。
上記記載の貴金属を供給する原料は、溶媒に溶解するものであれば制限はなく、例えば、硝酸塩、塩化塩、硫酸塩、炭酸塩、酢酸塩等が挙げられる。溶媒は単一溶媒でも混合溶媒でも良く、溶媒の種類も限定はないが、原料に塩を用いる場合は、水、アルコール系、アセトン等の極性溶媒が好ましい。
【0050】
上記の分散工程は、先に述べた、炭素粒子にブロンズ化合物を含有する材料を担持させた触媒担持体の製造方法の分散混合物の分散方法と同様に行えば構わない。
また、上記工程において、必要があれば分散前又は分散後に、還元剤や沈殿剤を添加することで、金属イオン、金属錯体イオンの還元による金属化を促進させても良い。還元剤としては、例えば、ヒドラジン、ホルマリン、水酸化ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム等が挙げられ、沈殿剤としては、例えば、硝酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩酸等が挙げられるが、その選択には用いる貴金属によって適宜選択される。
上記の貴金属を有する分散体から溶媒を除去し、残留物を焼成する工程も、先に述べた、炭素粒子にブロンズ化合物を含有する材料を担持させた触媒担持体の製造方法における溶媒の除去法や、焼成工程と同様に行えば構わない。
【0051】
次に、本発明の触媒を、固体高分子型燃料電池として用いる方法について説明する。
燃料電池の形状などについては、電解質膜として固体高分子型電解質を使用すれば特に限定されるものではなく、任意形状の電解質膜上にアノード、カソードを密着させた電極接合体として用いることができる。
本発明の燃料電池としては、本発明の触媒をカソード電極に有する必要があるが、その構造は従来公知のものと同様でよく、又、アノード電極および固体高分子型電解質も、従来公知のものと同様でよい。例えば、アノード電極に使用する触媒は、白金、白金−ルテニウム合金などを使用することができ、固体高分子型電解質は、アシプレックス、ナフィオンなどの商標名で市販されているものを使用することができる。
【0052】
本発明の触媒を用いて電極を形成するには、本発明の触媒又は触媒担持体にバインダーを添加して固体高分子型電解質のカソード側に触媒層を形成し、アノード側にも同様に公知の触媒をバインダーに添加して触媒層とすれば良い。必要に応じて、拡散層、集電体をホットプレスなどにより一体化して、電極接合体とする。
【実施例】
【0053】
次に本発明を実施例及び比較例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例及び比較例において用いる測定法は以下のとおりである。
粉末X線回折法(XRD)は、RINT−2500(理学電機(株)製)を用い、測定条件は、線源がCu Kα線、走査軸が2θ/θ、ステップ間隔が0.02°、スキャンスピードが4.0°/min、加速電圧が40kV、加速電流が200mAで行い、測定の際に使用したスリットは、発散スリットが1°、散乱スリットが1°、受光スリットが0.15mmであり、検出器の前にグラファイトモノクロメーターを装着した。
【0054】
蛍光X線分析法(XRF)は、測定試料を5mmΦのAl−ringを用いて錠剤成型をして測定に供し、XRF全元素定性及び半定量分析を行い、XRF分析の分析径は3mmΦとし、ZSX−100e(理学電機(株)製)を使用した。
X線光電子分光分析法(XPS)は、ESCALAB250(サーモエレクトロン社製)を用い励起源はmono.AlKαで、約2mmΦの皿型資料台を用いて測定する。
電気化学試験は、ポテンシオガルバノスタット:Solartron1255WB又は1280Z(英国ソーラトロン社製)を用いて行った。測定条件等の詳細は実施例及び比較例内に記載する。
【0055】
以下、実施例1〜28において、本発明における炭素微粒子上に担持された触媒の製造方法を具体的に説明する。又、比較例1と比較して、本発明における炭素微粒子上に担持された触媒の製造方法が優れていることを明確に示す。
尚、ブロンズ化合物の骨格同定にはXRDによる測定結果をJCPDSカードにより検索することで行い、金属A及び遷移金属Mの各元素の組成比は、XRFによる測定結果からモル比を算出することで行った。更に、XPSにより遷移金属Mの酸化数を測定し、その結果から、O原子のモル比を算出し、以上により、ブロンズ化合物の全同定を行った。
【0056】
[実施例1〜9]
炭素微粒子上に担持された触媒担持体(NaWO/C)の製造・その1(表1参照)
表1の添加組成に基づき、メタタングステン酸アンモニウムn水和物((NH1239・nHO)(アルドリッチ社製)と硝酸ナトリウム(NaNO)(和光純薬工業(株)製)を溶媒である精製水に溶解するまで攪拌し、均一溶液とした。そこへ炭素微粒子であるケッチェンブラック(登録商標)EC(ケッチェン・ブラック・インターナショナル株式会社製、表面積800m/g、一次粒径39.5nm)を加え、約10分間超音波ホモジナイザー分散を行った後、数時間〜一晩程度静置した。
【0057】
エバポレーターを用い、約50℃で加熱しながら溶媒である精製水を除去した後、窒素気流下、750℃で2時間の焼成を施した。更に不純物として生成したNaWOや、未反応物等を除去するために、フラスコ中にて10質量%のシュウ酸水溶液中に入れ、80℃で加熱しながらフラスコをロータリーさせることで洗浄し、吸引ろ過より取り出し、精製水で洗浄し、デシケーター中にて乾燥させた。
表1に示すように、製造されたものは、xが0.209〜0.643の範囲であるNaWO(ブロンズ化合物)が炭素微粒子上に担持したものであった。NaWO骨格同定はXRDにより行い、xの値はXRFの測定結果からNa/Wモル比を算出することにより求めた。
【0058】
【表1】

【0059】
[実施例10〜13]
炭素微粒子上に担持された触媒担持体(NaWO/C)の製造・その2(表2参照)
実施例1〜9で用いた炭素微粒子であるケッチェンブラック(登録商標)EC(ケッチェン・ブラック・インターナショナル株式会社製、表面積800m/g、一次粒径39.5nm)を、予め空気中雰囲気下、400℃にて1時間焼成する(実施例10、11が相当)、或いは、400℃にて5.5時間焼成する(実施例12、13が相当)以外は実施例1〜9に記載したと同様の、超音波ホモジナイザー分散、精製水の除去、焼成、洗浄、乾燥を経て炭素微粒子上にブロンズ化合物(NaWO)が担持したものを製造した。得られたブロンズ化合物の組成を表2に記した。
【0060】
表2に示すように、製造されたものは、xが0.717〜0.900の範囲であるNaWO(ブロンズ化合物)が炭素微粒子上に担持した触媒であった。NaWO骨格同定はXRDにより行い、xの値はXRFの測定結果からNa/Wモル比を算出して求めた。ここで、遷移金属Mを供給する原料と金属Aを供給する原料の仕込み比率が同じもので比較をする。実施例8に対して、炭素微粒子に前処理を施した実施例10と12はNaドープ量が増えている。実施例5に対して、炭素微粒子に前処理を施した実施例11と13もNaドープ量が増えている。
【0061】
【表2】

【0062】
[実施例14〜17]
炭素微粒子上に担持された触媒担持体(KWO/C)の製造(表3参照)
実施例1〜9で用いた硝酸ナトリウム(NaNO)のかわりに、硝酸カリウム(KNO)(和光純薬工業(株)製)を用いる以外は、実施例1〜9と同様に、超音波ホモジナイザー分散、精製水の除去、焼成、洗浄、乾燥を経て製造した。得られたブロンズ化合物の組成を表3に記した。
表3に示すように、製造されたものは、xが0.127〜0.192の範囲であるKWO(ブロンズ化合物)が炭素微粒子上に担持したものであった。KWO骨格同定はXRDにより行い、xの値はXRFの測定結果からK/Wモル比を算出することにより求めた。
【0063】
【表3】

【0064】
[実施例18〜21]
炭素微粒子上に担持された触媒担持体(CsWO/C)の製造(表4参照)
実施例1〜9で用いた硝酸ナトリウム(NaNO)のかわりに、硝酸セシウム(CsNO)(和光純薬工業(株)製)を用いる以外は、実施例1〜9と同様に、超音波ホモジナイザー分散、精製水の除去、焼成、洗浄、乾燥を経て製造した。得られたブロンズ化合物の組成を表4に記した。
表4に示すように、製造されたものは、xが0.158〜0.373の範囲であるCsWO(ブロンズ化合物)が炭素微粒子上に担持したものであった。CsWO骨格同定はXRDにより行い、xの値はXRFの測定結果からCs/Wモル比を算出することにより求めた。
【0065】
【表4】

【0066】
[実施例22〜25]
炭素微粒子上に担持された触媒担持体([(Na,Sr)(W,Co)]/C)の製造(表5、表6参照)
実施例1〜9で用いたメタタングステン酸アンモニウムn水和物((NH1239・nHO)(アルドリッチ社製)と硝酸ナトリウム(NaNO)(和光純薬工業(株)製)に加え、硝酸コバルト・水和物(Co(NO・6HO)(和光純薬工業(株)製)、硝酸ストロンチウム(Sr(NO)(和光純薬工業(株)製)を更に原料として加え、合計4種の原料を用いること以外は、実施例1〜9と同様に、超音波ホモジナイザー分散、精製水の除去、焼成、洗浄、乾燥を経て製造した。原料の添加量を表5に記し、得られたブロンズ化合物の組成を表6に記した。
【0067】
表6に示すように、製造されたものは、(Na,Sr)(W,Co)(ブロンズ化合物)が炭素微粒子上に担持したものであった。(Na,Sr)(W,Co)骨格同定はXRDにより行い、各元素の組成値と、触媒の炭素微粒子上への担持量及び遷移金属Mの質量%はXRF及びXPSの測定結果から算出することにより求めた。
【0068】
【表5】

【0069】
【表6】

【0070】
[実施例26〜27]
炭素微粒子上に担持された触媒担持体([(Na,Sr)(W,Ru)]/C)の製造(表7、表8参照)
実施例1〜9で用いたメタタングステン酸アンモニウムn水和物((NH1239・nHO)(アルドリッチ社製)と硝酸ナトリウム(NaNO)(和光純薬工業(株)製)に加え、3.952質量%硝酸ルテニウム溶液(田中貴金属工業(株)製)、硝酸ストロンチウム(Sr(NO)(和光純薬工業(株)製)を更に原料として加え、合計4種の原料を用いること以外は、実施例1〜9と同様に、超音波ホモジナイザー分散、精製水の除去、焼成、洗浄、乾燥を経て製造した。原料の添加量を表7に記し、得られたブロンズ化合物の組成を表8に記した。
【0071】
表8に示すように、製造されたものは、(Na,Sr)(W,Ru)(ブロンズ化合物)が炭素微粒子上に担持したものであった。(Na,Sr)(W,Ru)骨格同定はXRDにより行い、各元素の組成値と、触媒の炭素微粒子上への担持量及び遷移金属Mの質量%はXRF及びXPSの測定結果から算出することにより求めた。
【0072】
【表7】

【0073】
【表8】

【0074】
[実施例28]
炭素微粒子上に担持された触媒担持体([(Na,Sr)(W,Pd)+Pd]/C)の製造(表9,表10参照)
実施例1〜9で用いたメタタングステン酸アンモニウムn水和物((NH1239・nHO)(アルドリッチ社製)と硝酸ナトリウム(NaNO)(和光純薬工業(株)製)に加え、硝酸パラジウム・水和物(Pd(NO・nHO)(アルドリッチ社製)、硝酸ストロンチウム(Sr(NO)(和光純薬工業(株)製)を更に原料として加え、合計4種の原料を用いること以外は、実施例1〜9と同様に、超音波ホモジナイザー分散、精製水の除去、焼成、洗浄、乾燥を経て製造した。原料の添加量を表9に記し、得られたブロンズ化合物の組成を表10に記した。
【0075】
表10に示すように、製造されたものは、(Na,Sr)(W,Pd)(ブロンズ化合物)とPd金属が炭素微粒子上に担持したものであった。(Na,Sr)(W,Pd)及びPd金属の骨格同定はXRDにより行い、各元素の組成値と、触媒の炭素微粒子上への担持量及び遷移金属Mの質量%はXRF及びXPSの測定結果から算出することにより求めた。ちなみに、(Na,Sr)(W,Pd)とPd金属の重量比は、1:0.0583であった。
【0076】
【表9】

【0077】
【表10】

【0078】
[比較例1]
実施例2において、同様な工程の中で、炭素微粒子であるケッチェンブラック(登録商標)EC(ケッチェン・ブラック・インターナショナル株式会社製、表面積800m/g、一次粒径39.5nm)を加えないで行った。XRDにより、ブロンズ化合物は確認できず、数種の複相からなる混合物であることが確認された。
次に、実施例29〜30において、本発明における触媒の酸素還元活性を示し、比較例2〜3と比較することで、本発明の触媒が、固体高分子型燃料電池用カソード触媒として優れていることを明確に示す。
【0079】
[実施例29]
実施例27によって得られたW−Ru−ブロンズ/C触媒担持体の電気化学特性を下記の方法によって評価した。まず、触媒担持体の粉末10mgに50質量%エタノール水溶液を加え10gに調整し、超音波を印加して分散させ、0.1%触媒懸濁液を得た。この触媒懸濁液を15μl採取し、鏡面研磨したグラッシーカーボン電極(直径6mm)上に滴下し、乾燥機において80℃で乾燥させた。次に導電性樹脂溶液(アシプレックス、旭化成ケミカルズ登録商標、含有量0.15%エタノール溶液)を15μl滴下し、窒素雰囲気中、120℃で2時間乾燥することで固定化し、W−Ru−ブロンズ/C試験電極を作成した。
【0080】
次に、得られたW−Ru−ブロンズ/C試験電極について、以下の方法により0.5M硫酸水溶液中で3電極式の電気化学セルを用いて、25℃にて電気化学試験をおこなった。以下、電位は、0.5M硫酸中水素電極に対する水素電極(RHE)に対する電位で示す。まず、硫酸水溶液中に窒素ガスを30分バブリングさせることにより溶存酸素を除き、電位走査(電位走査範囲:0.05〜0.8V、走査速度100mV/s)を50回行なって試験電極表面を洗浄した。つぎに電位を1.0Vで60秒保持後、1.0Vから0.05Vまで電位を0.05V間隔に変化させて電流値を測定した(電位ごとのホールド時間は60秒間とし、電流値は20秒以降40秒間の平均値とする)。(電位走査範囲0.05〜1.0V、走査速度50mV/s)。つぎに、酸素ガスを30分バブリングさせることで、セル内の雰囲気を酸素飽和とした後、同様の電位走査により酸素還元電流値を測定した。(電位走査範囲0.05〜1.0V、走査速度50mV/s)
【0081】
電極上のルテニウム1gあたりの酸素還元電流値と窒素雰囲気での電流値の差が5A/gを超える電位を酸素還元開始電位とした際、W−Ru−ブロンズ/C触媒担持体の酸素還元開始電位は、0.591Vであった。
【0082】
[実施例30]
実施例28によって得られた(W−Pd−ブロンズ+Pd)/C触媒担持体の電気化学特性を、実施例29と同様に行った。電極上のパラジウム1gあたりの酸素還元電流値と窒素雰囲気での電流値の差が5A/gを超える電位を酸素還元開始電位とした際、W−Pd−ブロンズ/C触媒担持体の酸素還元開始電位は、0.862Vであった。
【0083】
[比較例2]
実施例29の比較として、Ru金属のみからなるRu/C触媒担持体を作製した。導電性担体としてケッチェンブラックEC(ケッチェン・ブラック・インターナショナル(株)登録商標)1.5g、塩化ルテニウム3水和物(和光純薬工業(株)製)0.97gに精製水60mlを加え、10分間超音波分散を行った後、数時間〜一晩程度静置した。エバポレーターを用い、約50℃で加熱しながら、溶媒を除去し、触媒前駆体を得、その後、10%H2/Ar、100ml/minの気流中で150℃、2時間保持後、300℃、2時間処理し還元処理を施した。還元処理後、触媒を水50mlに分散させ、数時間放置後、ろ過、精製水で洗浄、デシケーター中で乾燥させ、Ru/C担持体(Ru含有量20wt%)を得た。同定は、XRDより行った。
【0084】
次に、Ru/C触媒担持体の電気化学特性を、実施例29と同様に行った。電極上のルテニウム1gあたりの酸素還元電流値と窒素雰囲気での電流値の差が5A/gを超える電位を酸素還元開始電位とした際、Ru/C触媒担持体の酸素還元開始電位は、0.405Vであった。
【0085】
[比較例3]
実施例30の比較として、Pd金属のみからなるPd/C触媒担持体を作製した。導電性担体としてケッチェンブラックEC(ケッチェン・ブラック・インターナショナル(株)登録商標)0.5g、硝酸パラジウム(和光純薬工業(株)製)0.27gに精製水30mlを加え、10分間超音波分散を行った後、数時間〜一晩程度静置した。エバポレーターを用い、約50℃で加熱しながら、溶媒を除去し、触媒前駆体を得、その後、10%H2/Ar、100ml/minの気流中で150℃、2時間保持後、300℃、2時間処理し還元処理を施した。還元処理後、触媒を水50mlに分散させ、数時間放置後、ろ過、精製水で洗浄、デシケーター中で乾燥させ、Pd/C担持体(Pd含有量20wt%)を得た。同定は、XRDより行った。
【0086】
次に、Pd/C触媒担持体の電気化学特性を、実施例29と同様に行った。電極上のパラジウム1gあたりの酸素還元電流値と窒素雰囲気での電流値の差が5A/gを超える電位を酸素還元開始電位とした際、Pd/C触媒担持体の酸素還元開始電位は、0.796Vであった。
以上、実施例29〜30及び比較例2〜3をまとめると表11のようになり、本発明の触媒が固体高分子型燃料電池用カソード触媒として優れていることは明確である。
【0087】
【表11】

【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の固体高分子型燃料電池用電極触媒は、白金を使用することなく、低コストの金属を用いて白金と同等の酸素還元反応における過電圧の低減を達成し、更に、製造工程上、水素ガスを使わずに安全な雰囲気下で製造できることから、固体高分子型燃料電池用カソード触媒の分野で有用なものと成り得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるブロンズ化合物(一般式(1)中、Mは遷移金属を、Aは金属を表し、Mは、取り得る最高酸化数とそれより還元された小さい酸化数とからなる少なくとも2種以上の混合原子価をとり、Aは不定比組成を持ち、y=1のとき、遷移金属Mが取り得る最高の原子価状態によりzが決まり、0.1<x<1である。尚、該金属Aが、遷移金属である場合、該金属Aは、該遷移金属Mと異なる種類の遷移金属である。)を含有することを特徴とする固体高分子型燃料電池用カソード触媒。
AxMyOz (1)
【請求項2】
該遷移金属Mが、W、Co、Ru、Pd、Mo、Fe、Mn、Niから選択されるいずれか一種以上の金属であることを特徴とする請求項1に記載の固体高分子型燃料電池用カソード触媒。
【請求項3】
該金属Aがアルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類金属から選択されるいずれか一種以上の金属であることを特徴とする請求項1又は2に記載の固体高分子型燃料電池用カソード触媒。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の触媒が、炭素粒子上に担持されてなることを特徴とする固体高分子型燃料電池用カソード触媒担持体。
【請求項5】
遷移金属Mのイオン、遷移金属Mの酸化物のイオン、遷移金属Mの窒化物のイオン、遷移金属Mの硫化物のイオンの何れかから選択されるイオンと、金属Aのイオンと、炭素粒子とを極性溶媒に分散混合して得られた分散混合物から該極性溶媒を除去して得られた残留物を、引き続き、不活性ガス、一酸化炭素及び空気から選択される少なくとも1種以上の雰囲気下で焼成することを特徴とする請求項4に記載の固体高分子型燃料電池用カソード触媒担持体の製造方法。
【請求項6】
該炭素粒子が、予め空気雰囲気下で焼成されていることを特徴とする請求項5に記載の触媒担持体の製造方法。
【請求項7】
該分散混合物中の、遷移金属Mの酸化物のイオンが、遷移金属Mの酸化物のアンモニウム塩から得られることを特徴とする請求項5又は6に記載の触媒担持体の製造方法。
【請求項8】
該分散混合物中の金属Aのイオンが、金属Aの塩素塩及び/又は硝酸塩から得られることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の触媒担持体の製造方法。
【請求項9】
焼成温度が、400℃以上であることを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載の触媒担持体の製造方法。
【請求項10】
請求項5〜9のいずれかに記載の製造方法で得られた触媒担持体を、更にPt、Pd、Ru、Rh、Ir及びOsから選択される少なくとも1種以上の金属の金属イオン及び/又は金属錯体イオンを含有する極性溶媒からなる溶液に分散し、引き続き該溶媒を除去して得られた残留物を焼成することにより製造されることを特徴とする触媒担持体の製造方法。
【請求項11】
アノードとカソードと固体高分子膜から構成される接合体において、該カソード極に請求項1〜4のいずれかに記載の触媒または、触媒担持体を有することを特徴とする固体高分子型燃料電池用電極接合体。

【公開番号】特開2007−5284(P2007−5284A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−41338(P2006−41338)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】