説明

燃料電池発電装置用の自己着火性水素製造システム

本発明は、高濃度過酸化水素を、ガソリン、ディーゼル、DME、JP5、JP8などのようなより一般的な燃料だけでなくエタノール、メタノール、メタンのような炭化水素と組み合わせて用い、主として水素と二酸化炭素とからなる混合ガスを発生させる、制御された自己着火法を提供するものである。また、空気を酸素源として用いないので、この新規な方法では亜酸化窒素(NO)化合物が生成されず、したがって主な窒素汚染源を回避することもできる。その工程は、マイクロスケールで、制限されたシステムで実行され、その結果、供給される水素は、自身で加圧される。これにより、車両、船舶、および固定式の電力源で用いるために提案されているような、可変出力の燃料電池発電装置用に、オンデマンドの水素燃料源の使用が実現可能となる。本発明の他の実施形態では、過酸化水素は、触媒または熱によってHO蒸気およびOを発生するように反応する。この気体の流れが燃料電池のカソードに導入されると、それに応じて空気移動装置による寄生的な電力の需要が増加することなく酸素濃度が上昇する。このように酸素源としてHを用いることは、連続的にも、断続的にも可能であり、またはピーク電力需要時または高い過渡負荷がFCPにかかった場合等の特定の場合に限定することもできる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔発明の技術分野〕
本発明は、燃料電池電力システムの分野に属するものであり、特に、燃料電池用の水素を発生させ、貯蔵し、計量する方法に関するものである。
【0002】
〔発明の背景〕
燃料電池は、化学エネルギーを電気エネルギーに変換することのできる経済的に実行可能な手段となる可能性がある。例えば、プロトン交換膜型燃料電池としても知られている、高分子電解質膜(PEM)燃料電池では、電気エネルギーを発生させるために水素と酸素とを反応させる。通常酸素源は空気であり、酸化されるものは、水素、メタン、天然ガスおよびエタノールを含むあらゆる水素燃料であり得る。純粋な水素を用いる他に、燃料源には、PEM膜にとって許容できる形の水素を発生させるための、その場での精製工程が必要であり得る。このような精製は改質器によって達成される。燃料電池でのエネルギー転換は酸化により起こり、酸化には酸化されるものと酸化剤との両方の加圧が必要である。改質器は、空気供給システムに必要な高圧を生じさせるために、電力システム全体で必要とされる空気の約4分の1を消費する。
【0003】
燃料電池を利用する電力システムは、作動するために空気および/または他の気体の圧縮を必要とするいくつかのサブシステムから構成されている。これらのサブシステムの各々は、それぞれに異なる圧力プロファイル下で最も効率よく作動する。必要な全ての圧力を得る最も一般的な方法は、コンプレッサー、駆動モーター、モーターコントローラ、および必要に応じてエクスパンダを含む完全なガス供給システムを各サブシステムに用いることである。この方法は、電力システム全体に寄生的な電力の流出を招き、それゆえ電力システムのコスト、サイズ、および非効率性を著しく増加させることになる。
【0004】
過酸化水素(H)は、炭化水素燃料を燃焼させるための酸素源や、ロケットを推進させる蒸気および他の気体を発生させるための酸素源として数十年間用いられてきた。また、過酸化水素は1930年代にはすでに潜水艦の酸素源として用いられ成果をあげていた。比較的安全な流体として利用可能である過酸化水素は、これらの分子成分を分解し燃料電池スタックに輸送する効果的な手段が実現されれば、燃料電池電力システム用の、水素と酸素とが豊富な燃料源を代表するものとなる。したがって、改質に必要な空気圧縮システムの必要性を減らすかまたはなくすことができる、過酸化水素に基づく燃料電池用の、より簡単で低コストの水素および酸素供給システムが必要となる。また、より好ましくはかかるシステムが、上記エクスパンダのコストを削減し、エアシステムの駆動モーターの必要を減らすことが望まれる。
【0005】
従来、酸素は空気流として燃料電池スタックのカソード側に供給されてきた。全ての場合において、酸素を含む空気を上記燃料電池スタックを通して移動させるために、ファン、ブロア、またはコンプレッサーのような空気移動装置が用いられる。スタックの出力密度は、燃料電池の膜−電極接合体(MEA)における酸素および水素の濃度と直接関係がある。MEAのアノード側での水素の濃度によって発電が制限されないと仮定すると、上記空気流が加圧された場合、スタックのMEAは、膜近傍の酸素濃度に比例して、きわめて大きな電流を発生できる。したがって、燃料電池の出力を増加させるために現在用いられている方法は、空気を燃料電池スタックを通して移動させるために用いられる機械装置に供給される原動力を増加させ、それによって空気流の濃度を増加させることである。これにより燃料電池からの全出力は増加するが、空気移動装置に供給される駆動力の割合はより速い速度で増加し続けるため、システムの全体的な効率は落ちてしまう。したがって、このような機械装置による燃料電池の電気出力への寄生的な負荷の割合を低減させる方法が必要である。
【0006】
〔発明の概要〕
本発明は、過酸化水素を用いて燃料電池に水素と酸素とを供給する方法を提供する。酸素は過酸化水素の各分子の質量の94%に相当するが、空気の質量の21パーセントでしかない。それに加えて、改質器で必要とされる消費率を満たすために、空気がより大きな体積流量および圧縮を必要とする気体として供給されるのに対し、過酸化水素は液体として容易に使用できる。したがって、水と混合された過酸化水素のような酸化剤と、エタノール、メタノール、メタンなどのような炭化水素とを触媒の存在下で用いることによって、COおよびHガスが発生される。PEM燃料電池スタックでは、COは無毒であり、かつ該スタックの燃料供給側に圧力を与え、一方Hは電力の発生に望まれる気体である。また、触媒の存在下で、過酸化水素は変化し酸素と水とを生成する。このような過酸化水素の別個の反応を用いて、燃料電池電力システム(FCPS)で用いられる水素と酸素との流れを発生することができる。
【0007】
メタン、メタノール、およびエタノールのような単純な炭化水素が過酸化水素と炭化水素との自己着火性反応で用いられる場合でも、PEM燃料電池に対して有毒な一酸化炭素(CO)は多少存在し得る。ガソリンおよびディーゼルのようなより複雑な炭化水素を用いると、ほとんどの燃料電池に有毒な、硫黄および硫黄含有化合物を含む他の分子や化合物が発生する。これらの有害な分子全てに共通する特徴は、電気を発生させるためにMEAのアノード側で必要とされる水素分子よりもかなり大きいことである。これらの有害な物質に加えて、上記過酸化水素と炭化水素との自己着火性反応では、高温と高圧とが発生する。この高圧は、燃料電池電力システム(FCPS)にかかる寄生的な負荷とはならず、水素を分子ふるいに通すために使用可能である。このような方法で、上記過酸化水素と炭化水素との自己着火性反応で放出された混合燃料ガスの流れは水素ふるいを通して選択的にろ過され、一方残りの分子は弊害なく処分される。上記ふるいを通っていない一酸化炭素は、二酸化炭素へ変換させるために酸化剤で処理され得る。
【0008】
PEM燃料電池では、電流を発生させるために水素だけでなく酸素も必要である。典型的には、酸素は燃料電池のカソードに空気流を吹き付けることによって供給されるが、残念ながら、カソードに空気を移動させるために用いられる前記機械装置は、電気出力への寄生的な負荷を意味しており、それゆえ燃料電池の電力供給の効率を低減させることになってしまう。したがって、本発明の他の実施形態では、過酸化水素は触媒または熱によってHO蒸気およびOを発生するように反応する。この発生した気体の流れが燃料電池のカソード(空気極)側に導入されると、それに応じて空気移動装置による寄生的な電力の需要が増加することなく酸素濃度が上昇する。このように酸素源としてHを用いることは連続的にも、断続的にも可能であり、またはピーク電力需要または高い過渡負荷がFCPSにかかった場合のような特定の場合に限定することもできる。
【0009】
酸素を補給することによって、燃料電池の空気移動装置による寄生的な電力の需要なく、前記燃料電池スタックのカソード側で酸素の密度を上昇させ、より重要なことには酸素濃度も上昇させることが可能となり、したがってそれに応じてエアシステムの寄生的な負荷が増加することなく上記FCPSの出力密度が即座に増加される。このことは、スタックの圧力を上昇させることなく実行可能である。たとえ、HOおよびOへの分解に使用可能なHの量に制限がある場合であっても、きわめて低いスタックのピーク圧力で上記スタックと同様の電力濃度を断続的に達成しかつ維持できるため、この方法による上記燃料電池電力システム(FCPS)には重要な利点がある。例えば、約2.5から3.0バールでの高圧法によっても、または約1.3から1.5バールの間で適度のH注入と組み合わせることによっても、同一のFCPS電気出力が得られる。2.0バールを実現することが可能なFCPS空気供給システムと1.3バールでよいものとのコストおよびシステムの複雑さの違いはきわめて大きい。空気供給システムのコストの差は、容易に15対1よりも大きくなり得る。かかるコストの差は、きわめて低価格のコンプレッサーを用いることによるだけでなく、最大圧力を低減することで上記装置に必要な電力需要を大幅に減らすことによって容易に達成される。したがって、上記空気移動装置を作動させるために用いられる前記駆動装置は、典型的には電気モーターおよびコントローラであるが、小型化可能となり、その結果、大幅なコスト削減となる。FCPSにおける圧力の低減による他の明白な利点は、上記燃料電池スタック自体にかかる構造的な負荷の低減である。言い換えれば、圧力の低減によって、アノードおよびカソードの気体流の流路を、相互間でならびに外部への漏出から密閉することに関する困難さを低減する。スタックの圧力をより低くする他の利点は、過渡負荷運転中にMEA全体にかかる圧力変化における絶対値の低下だけでなく、ピーク圧力からもMEAにかかる負担を低減することである。
【0010】
本発明の他の実施形態では、過酸化水素を用いた自己着火性反応によって発生された余剰の水素は、水素ガスを既知の他の用途で用いるために取り出すことができる。例えば、本システムで発生された水素ガスは、内燃エンジンに使用できる。上記水素は反応槽から出てふるいにかけられ、貯蔵槽に収容されるかまたは直接内燃エンジンに輸送される。上記水素供給の流れは、外気とともに通常吸入モードまたはターボモードで上記エンジンの燃焼器に注入可能である。燃焼ガスに点火すると、発生したガスが急速に膨張し、ピストンを正常に駆動させることができる。
【0011】
同様に、本発明のシステムで発生する高温および高圧のガスは、動力源として用いられるようにタービンを通して膨張され得る。別法としては、上記水素供給の流れを空気または他の酸素源と混合し、上記タービン内で燃焼して電力を発生させることもできる。これらの例では副産物であるCOは電力の発生に寄与するため、それらを取り除く必要はない。
【0012】
加圧水素は、メタン(圧縮天然ガス)に混合してハイタン(Hythane)を得るために用いることもできる。この工程は、結果的に大量のCOをもたらし、上記工程が固定されるか、または輸送可能に実行された場合、上記COは消火器に用いられるか、またはアルゴン・ガスと組み合わせて溶接用のガス遮蔽ブランケットを提供するために獲得され得る。加圧下におかれると、水素は物体を冷蔵または凍結させるために使用できる。
【0013】
坑内採掘および密閉された倉庫のような、空気を補給する手段が制限された密閉された環境で発電が必要とされる場合がある。このような場合、そして特にこのような密閉された環境にある人々の安全のために発電がさらに制限される場合に、空気以外の酸素源が燃料電池電力システム(FCPS)のために必要とされる。かかる場合にHを用いることによって、特定の環境内での酸素の枯渇が避けられ、酸化される適切な燃料の種類を考慮することによって炭素および硫黄の酸化物の生成が低減され、かつ排ガス中の窒素酸化物の生成が低減される。したがって、本発明の他の実施形態では、持続的な空気の供給がない場合に電力を発生させるために、過酸化水素は燃料電池のカソードへの唯一の酸素源として用いられる。
【0014】
〔発明の詳細な説明〕
本発明は、二酸化炭素と水素とを発生させるために適切な化学量論比で炭化水素燃料と反応させた場合の高濃度過酸化水素の自己着火反応性を利用するものである。上記燃料を、COの発生を促進する触媒を含んだ圧力槽内で反応させることによって、燃料電池に供給するために用いられる水素ガスを発生させる。
【0015】
空気の不存在下で、メタン、メタノール、またはエタノールのような単純な炭化水素とHとを反応させると、それぞれの化学反応は以下のとおりである。
【0016】
[化1] H+CH→CO+3H (反応1)
[化2] H+2CHOH→2CO+5H (反応2)
[化3] H+COH+HO→2CO+5H (反応3)
反応3に示されるように、エタノールとHとの反応に水が加えられた場合、その生成物はメタノールとHとの反応と同じである。当業者には、燃料電池に使用される所望の水素を発生させるために、若干の調節を行ってこれらの反応に他の炭化水素燃料を使用できることが容易に理解されるであろうが、エタノールは水に混和でき、かつ液体として容易に使用できるため、本発明の方法により好適な水素源である。H水溶液中のHが65%より小さい混合物では、炭化水素と混合されると、Hはまだ自己着火性である。したがって、エタノールは水中のHと混合されると、反応3に示されるように反応し、水素と二酸化炭素とを発生させる。これらの反応によって熱が発生し、結果として、反応槽の一定の容量内で圧力と温度とが上昇することになる。
【0017】
このような自己着火性の反応物質はマイクログラムの量で反応槽に注入され、初めはミリリットル以下の量を占めることが好ましい。これにより、上記反応によって発生する熱は、上記反応層の温度と圧力とを上昇させる。上記反応によって発生する気体は即座に用いられる必要はないため、上記反応槽の中により長時間保持することが可能であり、したがって、触媒存在下でさらにHとCOとが生成されるため、不完全な反応が低減される。加圧下で上記液体を同時に注入することによって、ノズルの設計に応じて液滴が形成されるか、気化が起こることとなる。別法としては、異なる上記液体の注入時期はシステム制御下で調節でき、上記過酸化物は炭化水素の注入前に分解させてもよい。
【0018】
を用いることによって、酸素を供給するために空気を用いるという問題を回避することができ、それにより、改質の後に必要とされる大型のガス浄化システムだけでなく、改質に必要なレベル(3.2バール程度)まで空気を加圧するコンプレッサーの必要もなくなる。これらの機械が必要でなくなると、燃料電池のエアシステムのサイズがおよそ25%小さくなり、そのサブシステム全体のコストを低減することになる。それに加えて、Hと炭化水素との反応によって生成するCOのガス流内への混入は、通常PEM燃料電池の膜に対して有害/有毒であるとは見なされていない。
【0019】
エタノールの容量およびHと水との混合物の容量はそれぞれ、同様の走行距離を達成するためには、現在の車両のほとんどに携行されている従来のガソリン・タンクの容量とほぼ等しく設定され得る。
【0020】
図1を参照すると、本発明の燃料電池電力システム(FCPS)には、3つの基本的なサブシステムに分割される自己着火性水素製造システムが含まれる。これらには、燃料供給サブシステム(10)、少なくとも1つの反応圧力容器(20)、ならびに貯蔵および輸送サブシステム(30)(以下、本明細書において貯蔵・輸送サブシステムと略記する。)が含まれる。
【0021】
図2を参照すると、上記燃料供給サブシステム(10)は、過酸化水素と水(H/HO)との混合物を供給し、それとは別に炭化水素燃料を提供している。上記H/HO混合物は、液体として注入口(70)を通してH/HOタンク(80)に供給される。上記H/HO混合物は、過酸化水素が約40〜70重量%である。上記H/HO混合物は、エタノールと反応する場合は、過酸化水素が約62〜68重量%であることが好ましい。同様に、上記炭化水素燃料も注入口(90)を通して燃料タンクに供給される。用いられる炭化水素燃料に応じて、該炭化水素燃料は液体または気体として供給される。上記炭化水素燃料は、上記H/HO混合物とともに自己着火性反応に関与するいかなる炭化水素をも含み得る。上記炭化水素燃料は、次の用途のために酸化により水素を解放する形で、水素を運搬するものであれば、いかなる化合物であってもよく、生産されたものでも、工業的に製造されたものでもよい。上記炭化水素燃料は液体であることが好ましい。当業者には、多数の炭化水素が本発明の自己着火性反応に関与し、燃料電池での使用に好適な水素ガスを発生させるであろうことが容易に理解されるであろうが、本発明での使用に好適な炭化水素燃料の例には、メタン、メタノール、エタン、エタノール、ブタン、およびブタノールまたはこれら化学物質の混合物が含まれる。上記炭化水素燃料はメタン、メタノール、またはエタノールであることが好ましいが、最も好ましいのは、液体エタノールである。
【0022】
上記H/HO混合物および炭化水素燃料は、システム制御装置(50)による制御下、ポンプ(110および120)によって、それぞれの液体または気体成分用の少なくとも1つの注入バルブ(130および140)を通して、反応圧力容器(20)に供給される。かかる酸化剤と炭化水素燃料とは、必要に応じてシャフトを用いてエアサブシステム(60)ドライブラインまたは独立したモーターから供給することもできる。上記酸化剤と炭化水素燃料とは、適当な触媒を含んだ反応圧力容器(20)に注入される。上記触媒は、上記反応物質からの二酸化炭素および水素の発生を促進させるいかなる化合物であってもよい。好適な触媒には、鉄、ニッケル、コバルト、銅、クロム、白金およびこれら触媒の混合物が含まれる。
【0023】
発生した水素は即座に反応圧力容器(20)から貯蔵・輸送サブシステム(30)へ送られる必要はないので、注入された前記液体を触媒の存在下、分子運動の力学に従って自己着火反応させることが可能となる。前記炭化水素燃料を、繰り返し微量注入した後、反応圧力容器(20)内の圧力が増加する。発生した気体は、システム制御装置(50)に記憶されているアルゴリズムにしたがって、必要に応じて貯蔵・輸送サブシステム(30)へ送られ得る。この反応槽から出力された水素は、直接、上述した特定の用途に用いることもできる。貯蔵・輸送サブシステム(30)は反応圧力容器よりも大きな容量を有し、燃料電池スタック(40)からの出力をサポートするのに十分な水素を供給するために十分なサイズであり得る。この第二の槽の存在によって、反応圧力容器内での反応物質の一時滞在時間を長くすることが可能となるため、COよりもより完全にCOを生成させることが可能となる。第一の反応圧力容器より大きな第二の圧力容器を用いる実施形態では、ガス生成物である水素と二酸化炭素とは、より大きな容器へと膨張しながら冷却される。しかしながら、温度変化が十分でない場合、所望の温度は、必要に応じて輸送ラインに設置された熱交換器(170)を用いて実現され得る。必要に応じて設置される上記熱交換器はまた、反応圧力容器(20)または反応圧力容器(20)から貯蔵・輸送サブシステム(30)への輸送ライン周辺に設置される熱交換ジャケットの形を取ってもよい。
【0024】
現在、PEM燃料電池では上記気体の内部の運転温度がアノードでもカソードでも100℃以下である必要がある。この理由によって、FCPS開発者に認められた最高温度は80℃であることが多い。過酸化物の発熱解離反応により発生し、上記炭化水素燃料の酸化に続く上昇したガス温度は、これらの反応のエネルギーを使用して容易に処理できる。好適なサイズの反応槽の容量では、熱が伝達され周囲圧力または上昇したスタックの負極の圧力まで圧力が低下した後に、加湿された上記炭化水素燃料の流れの温度が許容される最大値と一致するように、発生気体の圧力を、ガス温度、熱交換器の温度、冷媒温度、および上記システムの既知の熱収支(サーマルマス(thermal mass))に基づいて計算した値にすることができる。上記燃料電池スタックに供給される気体の温度は、約10〜85℃であることが好ましい。システム制御装置(50)の制御下でセンサー(160)が再補給するために設定した所定の点を感知すると、上記反応圧力容器(20)からの貯蔵・輸送サブシステム槽への再補給が開始される。上述したように、貯蔵・輸送サブシステム(30)からの出力は、出力バルブ(210)と連結され、プログラム制御可能なまたは指令に対応する圧力調整器(200)の制御下にあり、圧力調整器は圧力と燃料電池スタック(40)への気体の流れを制御するはたらきをする。この流れは、連続していても、システム制御装置(50)からのパルス幅指令に応じてパルス状であってもよい。
【0025】
上記燃料供給サブシステムの機能は、上記反応圧力容器(20)で反応に供せられた場合に、自己着火性反応する燃料を供給することである。図2を参照すると、これは、少なくとも2つの別々の燃料タンク(80および100)を用いることによって実現される。個々の燃料は、反応圧力容器(20)に通じる注入バルブ(130および140)によって処理可能な圧力レベルまで供給される。燃料ポンプ(110および120)がオーバーヒートしないように上記タンクへの制御された戻り配管が含まれていることが好ましい。図2に示された上記バルブ(130および140)はオペレーティングシステムを機能的に実行できる最小の数を示している。必要に応じて、該システムは、システム設計全体の要求に応じるために必要とされるだけの数のバルブを有することもできる。好ましい実施形態においては、燃料ポンプ(110および120)は個々のモーターまたは前記エアサブシステムの駆動モーターからのシャフトエクステンションによって独立して駆動される。上記エアサブシステムのモーターはFCPSに必要であり、かつ燃料を供給するための補助的なポンプによってかかる負荷がエア・コンプレッサーの駆動に比べて比較的小さいので、この構成は、自動車にきわめて適している。本発明によって上記エアサブシステムに提供する電力が低減されたとしても、上記エアサブシステムはなお上記FCPSにかかる最大の寄生的な負荷であり得る。
【0026】
上記燃料供給サブシステムのバルブ(130および140)は、システム制御装置(50)が前記自己着火性反応物質を反応圧力容器(20)にパルス注入することを可能にする高速微量注入バルブである。これによってシステム制御装置(50)は、この容器内部の、圧力の上昇速度および温度を決定し、パルス幅変調方式を使用して各バルブ(130および140)からの輸送パルスの「作動」時間あるいは「on」の時間を制御し、それゆえ燃料輸送をきわめて厳密に計量することができる。化学量論的な必要に関連するFCPSの必要に応じて燃料反応物質間で異なる混合物を実現させるために必要とされるように、このような厳密な制御によって、各燃料反応物質間でのさまざまな供給が可能となる。
【0027】
前記H/HO混合物は、Hに反応しない物質からなるか、または少なくともかかる物質で内側が覆われているタンクに貯蔵される。PTFEがタンクまたはタンクの内側を覆う物質であることが好ましい。同様に、前記炭化水素燃料のタンクは炭化水素燃料に反応する物質でない必要がある。従来公知のこの種の炭化水素燃料のタンクに適合する被覆剤は、テフロン(登録商標)のようなプラスチックまたは亜鉛メッキ鋼等たくさんある。燃料タンク(80および100)は、所望の燃料混合物のための注入ノズルを収容していてもよい注入口(70および90)を有する。上記タンクの出力は、注入器が上記反応物質を反応圧力容器(20)に噴霧できる圧力になるまでポンプで吸い出される。上記反応物質を上記反応圧力容器(20)に噴霧注入することによって、一定時間内に解離したH分子と衝突する炭化水素分子の数が増加し、反応がより速くなる。
【0028】
図3を参照すると、上記反応圧力容器(20)は、注入された反応物質からの二酸化炭素および水素の生成を促進させるために選択された触媒を含んだ高圧力容器である。反応が自己着火性であり上記反応物質は温度も圧力も上昇するため、反応圧力容器(20)は超過気圧緩和システム(150)を備えており、それは例えばシステムが暴走した場合に内部圧力を安全に放出する。反応圧力容器(20)はまた、その内側に、システム制御装置(50)によって用いられる圧力および温度のセンサー(160)を有する。これらの圧力値および温度を前記FCPSシステムの他のサブシステムの状態と組み合わせて、上記反応物質の注入口を制御するかまたはバルブ(180)を開き、反応圧力容器(20)から前記貯蔵・輸送サブシステムまでのガス流を制御するように指令が与えられる。この貯蔵・輸送サブシステム(30)への入力は、該貯蔵・輸送サブシステムの槽内で所望の貯蔵圧力が達成されるまで続く。上記FCPSシステムのサイズによっては、反応圧力容器(20)と貯蔵・輸送サブシステム(30)との間に熱交換システム(170)が必要である。別法としては、熱交換システムが反応圧力容器自体と一体となって備えられていてもよい。
【0029】
図4を参照すると、上記貯蔵・輸送サブシステム(30)は、水素と二酸化炭素とのガスがより大きな槽へと膨張しながら冷却されるようにするために、上記反応圧力容器(20)よりも大きい貯蔵槽を含んでいる。燃料電池スタック(40)に必要な最大圧力を入力するには前記膜を通る空気圧のバランスを取るだけでよいので、その値域を越えると圧力調整器(200)が作動する値域を低くするために、貯蔵・輸送サブシステム(30)もより低い圧力で作動する。従来のほとんどの燃料電池設計では、この圧力は外気との圧力比で約2.2まで範囲内で変化する。上記貯蔵・輸送サブシステムのタンク内の圧力は、2000psiまたはそれ以上になり得るので、このタンクもまた超過気圧緩和システム(190)を備えている。同様に、このタンクは、システム制御装置(50)のために圧力と温度とを監視するためのセンサー(220)を備えている。圧力調整器(220)は、上記FCPSシステムの負荷を踏まえて、燃料電池スタックの最良の出力(電圧および電流)を得るために必要とされる圧力に応じて、システム制御装置(50)によってプログラム制御できる。
【0030】
本発明の自己着火性反応では、上記反応物質の不完全な反応によって多少の一酸化炭素が発生され、この一酸化炭素はPEM燃料電池に対して有害である。ガソリン、ディーゼル、DME、JP5、JP8のようなより複雑な炭化水素を上記反応に用いた場合、殆どの燃料電池に有害な、硫黄のような、炭化水素燃料を汚染する他の分子や化合物が存在する。こういった有害な分子は水素より大きいので、上記燃料電池スタックに到達する前にろ過して水素から取り除かれ得る。
【0031】
固体酸化物のような燃料電池もあり、かかる燃料電池ではCOが前記膜に対して有害ではない。本発明の上記工程は、HとCOが多少のCOとともに実行可能な燃料となるような燃料電池の使用にきわめてふさわしいものである。前記生成物の流れの中にCOが存在することは、計画された燃料とHとの反応が不完全でありそれゆえ水素への変換効率が低いことを意味するが、COで汚染されていない燃料電池に対して完全なまたはきわめて高いレベルの水素への変換が起こっていたということはできない。COのCOへの完全な変換は必ずしも必要ではないので、最高の効率のためには完全な変換が好ましいとしても、相当な出費が避けられる。
【0032】
用いられる燃料電池に対してCOが有害である場合、Hの炭化水素燃料との自己着火性反応の反応生成物の要素として生ずる高圧と高温とは有利に使用できる。該高圧はFCPSにかかる寄生負荷ではなく、水素を分子ふるいに通すために使用できる。したがって、本発明の他の実施形態では、本発明の自己着火性反応から発生した水素の流れから他の分子や化合物を取り除くために分子ふるいが用いられる。
【0033】
図7に示すように、水素ふるい(340)の使用は、上述したシステム内で、該ふるいを反応圧力容器(20)からのガス流に挿入することによって実現される。上記システムは必要に応じて、水素を上記ふるいに通す工程を促進するために、上記ふるいの低圧側に水素ポンプを備えることもできる。好適な水素ふるいとしては、高密度セラミックプロトン伝導膜、ミクロ多孔性を有するセラミック膜等を含む従来公知のものを挙げることができる。自己着火性反応物質がどのような量であっても最大量の水素を輸送するために、上記工程はバッチ・モードで行われ得る。バッチ・モードが用いられると、(水素ガスの次の1回分が製造されるときに)FCPSの要求を満たす十分な燃料を確実に供給するために、水素用のより大きな貯蔵槽が必要となる。しかしながら、水素ふるいの膜を通る圧力が数倍のバールから約0.5バール未満にまで格段に低下するので、バッチ・モードは、上記水素ポンプによって、前記FCPSにかかる寄生的な電力需要を最小化する。圧力低下が大きいほど、燃料の1回分が速く製造できる。水素燃料ポンプは、FCPS負荷サイクルの大多数において、上記ふるいを通る圧力の変化が通常低い状態で作動するよう構成され得るので、寄生的な消費電力が最小化される。別法としては、高荷重の状態下では、上記水素ポンプは、上記ふるいを通る圧力の変化を大幅に増加させ、上記FCPSへの十分な水素の流れを確実にするためのバッチ・モードの製造時間を短縮できる。この工程によって、第二の水素貯蔵槽のサイズが最小化され、そのことが重要である用途もあり得る。
【0034】
この実施形態では、水素ふるい(340)から貯蔵槽または直接燃料電池スタックへ向かう水素ガスの流れは、システム制御装置(50)の制御下で流量調節弁(180)を通して測定される。上記水素ふるいを通らないガス流は、システム制御装置(50)の制御下、水蒸気の凝縮および/または処分のために、排出または収集槽(360)(以下、本明細書において、排出・収集槽と略記する。)に送られる。凝縮された水は、上記FCPSに必要とされる、上記燃料電池スタックへ流れる気体の加湿に使用可能にするために、収集されかつ再処理され得る。この加湿工程で用いるために収集された水を再処理するために、ろ過、逆浸透または類似した手段を使用できる。この水の流れはシステム制御装置(50)の制御下でプロセス制御弁(350)を通して測定され得る。
【0035】
COはCOに敏感なMEAへの上記分子ふるいを通らないので、該分子ふるいを用いることによって、COからCOへのきわめて高い転換率を有する必要がほとんどなくなる。そのような高い転換率では、迅速な応答機能を有する小型かつ安価な電力システムを欲する自動車メーカーの希望に反する構成が必要になりかねない。また、純粋な水素ガス流には、過渡負荷が高い状態に対応する能力に加えて、上記FCPSの出力密度を改善する多くの利点がある。上記燃料の流れの中にあるのは水素だけなので、上記MEAのアノード側近傍では水素濃度がきわめて高くなる。それに加えて、上記燃料の流れの中には大きな分子、不活性ガスなどがないので圧力低下はかなり少なく、したがって、上記FCPSに高い電気負荷がかかっている間に新たな燃料を輸送して上記MEA全域に燃料を補給する際に必要なエネルギーが低減される。このように上記MEAのアノード側近傍では水素濃度が高いので、高圧のシステムと同レベルの電気を生産するために上記燃料電池スタックに必要とされる最大運転圧力は低減される。特に、圧力を上昇させずに上記MEAのカソード側近傍でO濃度を上昇させるために追加して酸素を供給できる場合、最大スタック圧力をさらに低減し、それによって上記アノードおよびカソードのガス流が漏れないように密閉するという厳しい要求を実現しやすくするだけでなく、該スタックの構造設計上の必要条件を低減させる。
【0036】
上記システム制御装置(50)は、燃料電池電力システム(FCPS)全体の操作上の必要条件に関して、前記水素製造システムの最も高度な機能性を供給する点で重要な役割を果たす。上記制御装置にプログラミングされた数学アルゴリズムおよび参照データテーブルによって、上記水素製造システムは上記工程の各段階で、上記FCPSの水素要求により一致するように主要なガス種を調節できる。例えば、上記反応物質を独立して微量注入できるので、酸化触媒床内に、酸化剤と炭化水素燃料とが化学量論的でない可変の比率で存在可能となる。このように、過酸化水素の微量注入率を上昇させることによって酸素レベルが増加するので、起動時または上記水素製造システム内の接触ガス浄化床が必要な最低運転温度に達していない他のときに、拡大されたCOからCOへの転換が可能となる。一酸化炭素探知センサーが(160)および/または(161)で該検出装置または上記水素製造システムのどこかに設置されると、システム制御装置(50)は、追加された過剰な酸素によるCOからCOへの転換を促進させるために、酸化剤注入器(130)の注入率を積極的に調節できる。さらに、反応圧力容器以外に代替的な酸化剤注入位置が用いられてもよく、酸化剤注入位置が前記貯蔵槽(30)またはそれと機能的に等価なものに設置されることが好ましい。この注入もまた上記システム制御装置(50)によって制御され得る。
【0037】
上記水素製造システムの主要な構成部材(反応圧力容器(20)、熱交換器(170)、水素ふるい(340)、および上記貯蔵槽(30))の相対的なサイズは、用途およびその用途のデューティサイクルによってきわめて明確に規定される。各工程時における相対的な温度および相対的な応力は、システム制御装置(50)が上記FCPSの特定の一過性の燃料供給要求を満たすために利用できる独立変数として使用できる。例えば、反応圧力容器の最大圧力範囲は約1000psi〜5000psiであることが好ましい。なお、最大圧力は上記範囲内に限定されるものではなく、上記範囲より低い圧力や高い圧力であってもよい。5000psiの圧力は、上記FCPSのパッケージ容量を最小化する必要、上記FCPSが大きな圧力低下を伴う高密度な触媒床を有する必要、または生成ガスを大きな圧力低下を伴う水素ふるいに通す必要を反映している。上記反応圧力容器(20)の最大圧力が低いと、その体積が増加する傾向がある。この関係の主要な要因は、上記FCPSのデューティサイクルを満たすために十分な反応物質を処理する必要が継続的に存在することである。反応圧力容器(20)の容量の増加(ならびにそれに付随する熱収支(サーマルマス)および追加される触媒のコスト)を避けるためになされる、それに代わるトレードオフは、貯蔵される水素の容量を増加させることまたは製造された水素の供給流路の貯蔵圧力を増加させることである。例えば、圧力調整弁(200)の上流の水素の供給流路の最大圧力は、約500psi〜1500psiであり得る。
【0038】
より直径の大きなガス供給管を選択することによって、全体の貯蔵容量は簡単に増加することができる。また、水素ふるい(340)(存在すれば)および熱交換器(170)(存在すれば)の容量を、反応圧力容器(20)から分離させる手段が備えられていれば、上記貯蔵槽の機能を確保することは可能であるため、上記貯蔵槽(30)は取り除くことも可能である。上記貯蔵槽(30)が担っていた貯蔵機能は、その容量によって実現される。
【0039】
気体の温度コントロールは、上記システム制御装置(50)によって実行される他の機能である。発生された水素を供給する流れがPEM型燃料電池で用いられる場合、上記PEM型燃料電池に入力する最大ガス温度は約10〜85℃でなければならない。上記システム制御装置は、注入率、圧力および温度を監視し、この温度範囲におけるPEM FCPSによる、水素ガスおよび加湿された水素供給の流れの要求に基づいて、反応圧力容器(20)の内側の熱交換システムと外側の熱交換器(170)との両方の熱変換率を、それらの熱交換システムが備えられている場合には、積極的に制御し調節する。システム制御装置(50)は、活発な熱交換機能と誘発的な圧力低下による熱損失との両方を用いて必要な温度および湿度の範囲内で正確な量の気体流を供給するために、気体および水蒸気の性質の限度内で、上記工程の各段階の最大/最小圧力を独立して変化させることができる。圧力調整バルブを通して誘発的に圧力を低下させるたび毎に凝縮物を収集し取り除く手段が備えられている。この種のシステムは従来から知られており、市販されている。システム制御装置(50)は、暑さまたは寒さ、湿気や乾燥を含む、特定のFCPSが使用される周囲の大気の状況に合わせて装置を補正することができる。
【0040】
本発明の他の実施形態では、過酸化水素を用いて上記燃料電池のカソード側に酸素を供給し、上記燃料電池スタックのカソード側の酸素濃度をより高くして、空気移動装置からの寄生的な電力要求を増加させることなく上記FCPSの出力密度を即座に増加できるようにする。かかる酸素源は、連続的に用いてもよいし、ピーク電力需要時または高い過渡負荷がFCPSにかかった場合に間欠的に使用してもよい。
【0041】
上述したように、分子中での酸素の重量比がきわめて高いので、Hは優れた酸素源である。酸素の含有割合が高く、比較的容易に輸送でき、かつ安全であるため、Hを用いることは好ましい選択である。この反応物質のさらなる利点は、Hの分解が発熱反応であり、システム制御装置の判断から燃料電池MEAに酸素流を補給して実際に酸素濃度を上昇させるまでの応答時間をきわめて短くすることが可能となる。吸熱反応により得られる他の酸素源では、自動車用または高い過渡発電への応用で必要とされる過渡応答時間を達成することは困難である。たとえ貯蔵という手段を用いても、吸熱反応により得られる化合物は、車両や発電装置にかかる別の寄生的な電力負荷となり得る。特に自動車への応用では、寄生的な負荷によって電力システムのサイズ、コスト、および作動上の複雑さが増し、その結果そのような寄生的な装置の選択および統合がきわめて大きな障害となる。したがって、過酸化水素を酸素源として用いることによってこのような問題は解決され、吸熱反応による製造システムにおけるような負担なしに、上記燃料電池スタックのカソードの酸素濃度を上昇させることが可能となる。
【0042】
図5を参照すると、過酸化水素と炭化水素燃料の自己着火性反応から水素を発生させるために用いられる上記システムと一体化し得るシステムを通して、酸素が上記燃料電池スタック(40)のカソーードに供給されている。過酸化水素と水との混合物は、ポンプ(230)によって注入バルブ(240)を通してH/HOタンク(80)から反応圧力容器(250)へ供給される。上述した反応圧力容器と同様に、反応圧力容器(250)は、反応装置の内容物の温度と圧力とを監視するセンサー(280)だけでなく、触媒および一体化された熱交換システムを含んでいる。前記反応槽内の温度と圧力とは、炭化水素燃料の微量注入率を通して制御できる。PEM燃料電池では、アノードおよびカソードにおける注入ガスが100℃以下である必要がある。このような理由によって、FCPS開発者に認められた最高温度は80〜85℃であることが多い。過酸化物の上記発熱分解反応から発生した上昇したガス温度は、この分解のエネルギーを使用して容易に処理できる。好適なサイズの反応槽の容量では、熱が伝達され周囲圧力または上昇したスタックの負極の圧力まで圧力が低下した後に、加湿された上記炭化水素燃料の流れの温度が許容される最大値と一致するように、発生気体の圧力を、ガス温度、熱交換器の温度、冷媒温度、および上記システムの既知の熱収支(サーマルマス)に基づいて計算した値にすることができる。分解反応の触媒は、以下の反応において過酸化水素からの酸素および水の生成を増加させるどのような化合物であってもよい。
【0043】
[化4] 2H→O+2HO (反応4)
有用な触媒の例には、白金混合酸化物、バナジウム・コバルト酸化物、ニッケル、白金、シルバーパック、ジルコニア上に支持されたロジウム、セリアとジルコニアとの混合物、鉄、クロム、およびこれらの触媒の混合物が含まれる。上記センサー(280)が、上記反応圧力容器(250)の内部の温度が高すぎることを示した場合、その温度は一体化された熱交換器によって低下される。前記反応生成物の温度もまた、上記反応圧力容器(250)外側に必要に応じて設けられた第2の熱交換器(260)を用いて低下され得る。
【0044】
上記センサー(280)は、前記システム制御装置(50)の制御下にあり、該システム制御装置は、該センサー(280)からの圧力値および温度を前記FCPSシステムの他のサブシステムの状態と結合させて、流量調節弁(270)を通る燃料電池スタック(40)への酸素と水蒸気との流れを制御できる。
【0045】
反応4で生成された酸素および水蒸気は、吸気マニフォールド(300)、コンプレッサー(310)、および排出マニフォールド(320)を備えたコンプレッサーによって凝縮器(290)を通して取り出される。余分な水蒸気は、凝縮され、凝縮器(290)に保存される。凝縮された水は、必要に応じて前記FCPS内の他の機能、主にアノードおよびカソードでのガス供給流の加湿に使用できる。上記酸素は、圧縮され燃料電池スタック(40)に送られる前に、上記コンプレッサーの吸気マニフォールド(300)内で空気と混合される。
【0046】
本発明の他の実施形態では、反応4で生成された酸素は、空気流を用いずに、燃料電池のカソードへの唯一の酸素源として用いられる。上記燃料電池のカソードに供給する酸素を発生させる際に用いられる過酸化水素と水との(H/HO)混合物は、水素発生に用いられるのと同じ由来のものである。図6を参照すると、酸素は、上述した過酸化水素と炭化水素燃料の自己着火性反応から水素を発生させるために用いられる上記システムと一体化し得るシステムを通して、酸素が上記燃料電池スタック(40)のカソードに供給されている。この実施形態では、上記過酸化水素と水との混合物はH/HOタンク(80)から、図5に関して上述したシステムと同じ方法でそれが反応して酸素と水蒸気とを発生させる反応圧力容器(250)へと送られる。しかしながらこの実施形態では、少なくとも水蒸気の一部が凝縮され凝縮器(290)に保存された後では、加湿された酸素ガス流は、空気と混合されずに直接燃料電池スタック(40)に供給される。
【0047】
本発明に関する前述の記載は、説明と描写とを目的としてなされたものであり、本発明をここに記載された形態に限定することを企図したものではない。したがって、上記の教示および関連する技術または知識に相応する変更および修正は、本発明の範囲内である。また、上記実施形態は、本発明を実施するための最良の形態を説明し、他の当業者が本発明をこのような実施形態で、または他の実施形態で、かつ本発明の特定の用途または使用において必要とされる様々な修正を加えて利用可能とすることを企図したものである。添付された請求の範囲は、従来技術で認められている範囲内で代替的な実施形態を含むものであると解釈されたい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】図1は、水素源として自己着火性水素製造システムを内蔵している燃料電池電力システムのブロック図である。
【図2】図2は、上記燃料電池電力システムの接続部分を示す、燃料供給サブシステムの拡大図である。
【図3】図3は、本発明の燃料電池電力システムでの使用に好適な反応圧力容器の概略図である。
【図4】図4は、本発明の貯蔵および輸送サブシステムを示す図である。
【図5】図5は、補足的な酸素源としての過酸化水素の使用を組み入れた燃料電池電力システムアセンブリを示す図である。
【図6】図6は、過酸化水素を唯一の酸素源として用いる燃料電池電力システムアセンブリを示す図である。
【図7】図7は、過酸化水素から発生された水素が上記燃料電池に到達する前に水素ふるいを通過する燃料電池電力システムを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を燃料電池に供給する方法であって、
a.過酸化水素と水との混合物を炭化水素と反応させて二酸化炭素と水素とを発生させる工程と、
b.上記水素を燃料電池に供給する供給工程と、
を含む方法。
【請求項2】
上記過酸化水素と水との混合物は、当該混合物中、過酸化水素が40〜70重量%である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記過酸化水素と水との混合物は、当該混合物中、過酸化水素が62〜68重量%である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
上記炭化水素が、メタン、メタノール、エタノール、ガソリン、ディーゼル、DME、JP5、およびJP8からなる群より選択された、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
上記炭化水素が液体エタノールである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記燃料電池がPEM燃料電池である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記供給工程が、燃料電池に水素を断続的に 輸送するために前記水素を貯蔵槽に貯蔵する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
システム制御装置が水素の上記燃料電池への可変の輸送速度を制御する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
上記供給工程が、上記水素を水素ふるいに通し、該水素から水素以外の化合物を取り除く工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
上記水素ふるいが、高密度セラミックプロトン伝導膜とミクロ多孔性を有するセラミック膜とからなる群より選択された膜を備えている、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
過酸化水素と水との混合物を含む少なくとも1つの酸化剤タンクと、
上記少なくとも1つの酸化剤タンクによって供給される少なくとも1つの反応槽と、
少なくとも部分的には上記少なくとも1つの反応槽によって供給される燃料電池スタックと、
上記少なくとも1つの酸化剤タンクから上記少なくとも1つの反応槽への酸化剤の流れと、上記少なくとも1つの反応槽から上記燃料電池スタックへのガスの流れとを制御する、上記システム制御装置と、
を含む、燃料電池電力システム。
【請求項12】
上記過酸化水素と水との混合物は、当該混合物中、過酸化水素が40〜70重量%である、請求項11に記載の燃料電池電力システム。
【請求項13】
上記過酸化水素と水との混合物は、当該混合物中、過酸化水素が62〜68重量%である、請求項11に記載の燃料電池電力システム。
【請求項14】
炭化水素燃料を含む燃料タンクを備えた、請求項11に記載の燃料電池電力システム。
【請求項15】
上記炭化水素燃料および前記酸化剤が微量注入によって前記少なくとも1つの反応槽に輸送される、請求項14に記載の燃料電池電力システム。
【請求項16】
上記炭化水素燃料が、メタン、メタノール、エタノール、ガソリン、ディーゼル、DME、JP5、およびJP8からなる群より選択された、請求項14に記載の燃料電池電力システム。
【請求項17】
上記炭化水素燃料が液体エタノールである、請求項14に記載の燃料電池電力システム。
【請求項18】
上記酸化剤が、前記システム制御装置の制御下で、前記酸化剤タンクから上記反応槽へ、少なくとも1つのバルブを通してポンプで供給される、請求項11に記載の燃料電池電力システム。
【請求項19】
上記少なくとも1つの反応槽が、過酸化水素と炭化水素との混合物からの二酸化炭素および水素の発生を促進させる少なくとも1つの触媒を含む、請求項11に記載の燃料電池電力システム。
【請求項20】
上記少なくとも1つの触媒が、鉄、ニッケル、コバルト、銅、クロム、白金およびこれらの混合物からなる群より選択された、請求項19に記載の燃料電池電力システム。
【請求項21】
上記少なくとも1つの反応槽の内部における気体の圧力が、上記システム制御装置によって、2000psi〜5000psiに保たれる、請求項11に記載の燃料電池電力システム。
【請求項22】
さらに少なくとも1つの貯蔵槽を備え、上記反応槽の内部のガスが、上記システム制御装置の制御下で前記少なくとも1つの貯蔵槽を経由して前記燃料電池スタックへ流れる、請求項11に記載の燃料電池電力システム。
【請求項23】
上記少なくとも1つの貯蔵槽が上記反応槽より大きな容量を有する、請求項22に記載の燃料電池電力システム。
【請求項24】
上記少なくとも1つの反応槽の内部における上記ガスの温度が、該ガスが上記燃料電池スタックへ流れる前に熱交換器によって低下される、請求項22に記載の燃料電池電力システム。
【請求項25】
上記燃料電池スタックへ流れる上記ガスの温度が、上記システム制御装置によって10℃〜85℃に保たれる、請求項24に記載の燃料電池電力システム。
【請求項26】
上記システム制御装置の制御下で、上記少なくとも1つの貯蔵槽から上記燃料電池スタックへ少なくとも1つの圧力調整器およびバルブを通して上記ガスが流れる、請求項22に記載の燃料電池電力システム。
【請求項27】
分子ふるいを備え、上記少なくとも1つの反応槽からのガスが、上記燃料電池スタックへ流れる前に上記分子ふるいへと流れ、該分子ふるいが上記燃料電池スタックへの水素以外の分子の流れを防ぐ、請求項11に記載の燃料電池電力システム。
【請求項28】
上記少なくとも1つの反応槽の内部における気体の圧力を用いて水素を上記分子ふるいに通させる、請求項27に記載の燃料電池電力システム。
【請求項29】
上記システム制御装置の制御下で、ポンプによって水素が上記分子ふるいに通される、請求項27に記載の燃料電池電力システム。
【請求項30】
上記少なくとも1つの反応槽からのガス中の水素以外の分子が収集槽の中で凝縮される、請求項27に記載の燃料電池電力システム。
【請求項31】
上記少なくとも1つの反応槽からのガスから水分子が収集され、かつ、上記システム制御装置の制御下で前記燃料電池スタックへ流れる該ガスに加えられ該ガスを加湿する、請求項30に記載の燃料電池電力システム。
【請求項32】
上記少なくとも1つの反応槽が、過酸化水素からの酸素および水の発生を促進させる少なくとも1つの触媒を含む、請求項11に記載の燃料電池電力システム。
【請求項33】
上記少なくとも1つの触媒が、白金混合酸化物、バナジウム・コバルト酸化物、ニッケル、シルバーパック、白金、ジルコニア上に支持されたロジウム、セリアとジルコニアとの混合物、鉄、ニッケル、クロム、およびこれらの混合物からなる群より選択された、請求項32に記載の燃料電池電力システム。
【請求項34】
上記反応槽の中の酸素が、前記燃料電池電力システム制御装置の制御下で流量調節弁を通して上記燃料電池スタックのカソードへ流れる、請求項32に記載の燃料電池電力システム。
【請求項35】
上記反応槽の中の水が、上記燃料電池スタックと接触する前に凝縮器によって少なくとも部分的には取り除かれている、請求項32に記載の燃料電池電力システム。
【請求項36】
上記反応槽からの酸素が、前記燃料電池スタックへ流れる前に空気と混合される、請求項32に記載の燃料電池電力システム。
【請求項37】
上記反応槽からの酸素が、上記システム制御装置に制御された量の空気と混合される、請求項36に記載の燃料電池電力システム。
【請求項38】
上記システム制御装置が、酸化剤の上記反応槽への微量注入率、該反応槽の内部におけるガスの圧力、該反応槽から貯蔵槽へのガスの流速、上記燃料電池スタックへ流れるガスの温度、該燃料電池スタックへ流れるガスの流速、およびこれらのシステム・パラメータの組み合わせからなる群より選択されたシステム・パラメータを制御する、請求項32に記載の燃料電池電力システム。
【請求項39】
上記少なくとも1つの反応槽の中の酸素が、上記燃料電池スタックに輸送される唯一の酸素源である、請求項32に記載の燃料電池電力システム。
【請求項40】
過酸化水素と水との混合物を含む酸化剤タンクと、
炭化水素燃料を含む燃料タンクと、
過酸化水素および炭化水素からの二酸化炭素および水素の発生を促進させる触媒を含み、上記酸化剤タンクおよび上記燃料タンクによって供給される第一反応槽と、
過酸化水素からの酸素および水の発生を促進させる触媒を含み、上記第一の酸化剤タンクによって供給される第二反応槽と、
少なくとも部分的には上記第一反応槽および上記第二反応槽によって供給される燃料電池スタックと、
上記第一反応槽から上記燃料電池スタックへの水素の流れおよび上記第二反応槽から該燃料電池スタックへの酸素の流れを制御するシステム制御装置と、
を備えた、燃料電池電力システム。
【請求項41】
上記第一反応槽の中の水素ガスが上記燃料電池スタックに入る前に分子ふるいを通り、水素以外の分子が上記燃料電池スタックに流れることを上記分子ふるいが防ぐ、請求項40に記載の燃料電池電力システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−501998(P2007−501998A)
【公表日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−522561(P2006−522561)
【出願日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【国際出願番号】PCT/US2004/021359
【国際公開番号】WO2005/015658
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(506043620)シービーエイチ2 テクノロジーズ,インコーポレイテッド. (1)
【Fターム(参考)】